説明

機能的医療スキャンに関する血液入力関数の推定方法

【課題】機能的医療スキャンによって得られる画像の分析における血液入力関数(BIF)の正確な推定。
【解決手段】陽電子放出断層撮影(PET)と磁気共鳴断層撮影(MRI)のような機能的医療スキャンによって画像を得る。適切な造影剤を投与された被験者は、MRIスキャンおよびPETスキャンが同時に実施される。前者の結果を利用して、BIFが導き出される。次に、こうして導き出されたBIFと、PETスキャン画像に基づく薬物動態学的分析が実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽電子放出断層撮影のような機能的医療撮像技術に関し、とりわけ、それによって作成された画像の処理に必要な血液入力関数(Blood Input Function;BIF)の推定方法に関する。
【0002】
陽電子放出断層撮影(Positron Emission Tomography;PET)は、人間または動物の機能過程の三次元マップを作成する放射線医療撮像技術である。
【0003】
放射性(陽電子放出)トレーサ同位元素が、被検者において不消化のフルオロデオキシグルコース(FDG、糖類似体)のような代謝的活性分子に組み込まれる。PETに用いることが可能な他の放射標識分子には、[11C]ラクロプリド、[11C]二酸化炭素、[150]標識水または酸素、[13N]アンモニアが含まれる。これらの全てが、放出陽電子と周囲物質中の電子との衝突によって生じるガンマ線を検出して、記録するスキャナまたはカメラによって画像化することが可能である。
【0004】
こうして生じた放射線は、ほぼ反対方向に進む2つの光子として放出される。従って、小さい同時計測タイミングウィンドウ(事象)内の対応する光子を検出することによって、それに沿って放射線源が存在する応答線(line of response;LOR)を推定することが可能である。多くのこうした応答線の推定(または分析)によって、被検者の空間次元にマッピングする、トレーサ分布の三次元マップを作成することが可能になる。放出される、従って、検出される個々の事象数は、放射性崩壊率、従って、被検者内における放射性トレーサの濃度に比例する。応答線から推定される放射能分布は、検出される事象数に比例し、事象数は、さらに、事象が記録される時間間隔に関連している。FDGのようなトレーサの一部は、癌細胞および筋肉のようなグルコースの代謝率が高い組織内に蓄積されることが分っている。こうした場合、事象は、トレーサが蓄積する時間が経過した後の、ある時間間隔にわたって記録され、平均崩壊率は、その時間間隔について推定される。こうした画像は、静的スキャンとして知られている。
【0005】
代替案として、ある特定の時間期間にわたって、いくつかのこうした画像を作成することが可能であるが、トレーサ分布は、さらに進展し続けて、放射性トレーサによって標識される機能活性のビデオ記録と類似した、一連の時間フレームを形成する。これらのシーケンスは、通常、動画像と呼ばれ、二次元または三次元とすることが可能である。
【0006】
時間並びに空間に対して放射性トレーサがいかに分布するかを分析することによって、被検者の機能的挙動に関して、静止画像によって得ることができる以上のさらに重要な情報が得られる。
【0007】
造影剤または放射性トレーサ取り込みに関するこれらの動画像の分析には、分子取込みおよび洗出しの細胞過程が複数の明確な区画内における拡散過程としてモデル化される薬物動態学的(PK)モデル化技術が必要になる場合が多い(例えば、「R.N.Gunn、S.R.Gunn、および、V.J.Cunningham、「Positron Emission Tomography Compartmental Models」、Journal of Cerebral Blood Flow and Metabolism、2001年、第21巻、第6号、p.635−652」参照)。
【0008】
薬物動態学的アプローチは、問題となる組織に対する薬物作用のモデル化には不可欠である。医療撮像用モダリティによって、いくつかの生体内細胞過程の視覚化が可能になるので、そのアプローチは、薬物開発技術において日常的に利用されている。
【0009】
PKモデルの解決には、時間画像データに対するモデルパラメータの当てはめが必要になる。組織中における薬剤の相対濃度の数学的解は、2つの関数、すなわち、
各区画毎の薬剤のウォッシュインおよびウォッシュアウトの特性を明らかにする、時間の減少指数関数の和と、
血管中におけるトレーサ濃度に比例した時間依存関数すなわち血液入力関数(BIF)と
の畳み込みである。
【0010】
正確で、真に定量的であるために、PKモデル化技術には、BIFのかなり正確な決定が必要になる。
【0011】
BIF推定法のいくつかのアプローチが知られているが、これらはそれぞれ付随する欠点を有している。
【0012】
1つのアプローチでは、関心領域(ROI)がPET画像上の動脈の領域において引き出され、ROIにおける取込みがBIFに対して直線性を有するものと仮定される。利用可能な動脈が、撮像装置で得られる分解能に対して小さい(わずか数mmまたはボクセルにすぎない)ため、ROIの位置およびノイズに極めて影響されやすいので、その推定は不正確になる。一般に、PETの空間分解能では、このような小さいROIにおける正確なBIFの推定は不可能である。ROIが直径1cm未満の場合、RIOにおける定量化は、推定における分散または偏りによって影響されるので問題になる。さらに、動画像の時間分解能は、ノイズレベルによって危うくなり、フレームレートが短ければ短いほど、画像のノイズが増す。例えば、場合によっては、フレームの持続が5〜10秒未満であれば、画像のノイズによって、定量化も不正確になるほどである。
【0013】
より一般的なアプローチには、時間の経過につれて逐次血液試料を取り出し、放射線検出器において各試料からの測定血量を計算することが必要とされる。それは、被検者にとって、また、医師にとっても同様にリスクを伴う観血的で外傷性の方法であり、放射性血液を取り扱う必要があるため、複雑である。汚染に関連した作業員に対するリスクに加えて、必要な除染を実施する間、複雑で高価な装置が動作不能になる可能性もあるというリスクも存在する。
【0014】
動物研究(とりわけ、ネズミ)の場合、留意すべきは、BIFの推定に必要な血液量が、動物の全血液量のかなりの部分をなす可能性があり、血液採取を頻繁に行うと、過剰な血液損失によって、動物を死に至らしめる可能性があるという点である。このため、一般に、連続した研究に同じ動物を使用するのは禁じられ、実験にはさらに多くの動物が必要とされるので、連続した研究の実施コストを大幅に増大させるだけではなく、実験段取りおよび手順を根本的に変化させる要因になる。
【0015】
現在利用されているBIFの推定に対してさまざまなアプローチから生じる問題のさらなる論考のために、例えば、「M Asselin、V J Cunningham、Shigeko Amano、R N Gunn、および、C Nahmias、"Parametrically defined cerebral blood vessles as non−invasive blood input functions for brain PET studies"(Phys.Med.Biol.、2004年、第49巻、p.1033−1054)」および「R Laforest他、"Measurement of input functions in rodents:challenges and solutions"(Nuclear Medicen and Biology、2005年、第32巻、p.679−685)」を参照されたい。
【0016】
PETには、少なくとも2つの主たる利点が付随している。第1に、用いられる放射性核種(C、N、F等)が、ほぼどんな有機分子にでも、従って、潜在的に、ある特定の代謝経路に含まれるであろう多数の分子に結合する可能性がある。このため、ほぼいかなる細胞過程の画像化も可能になる。
【0017】
PETは、極めて敏感であり、有用な信号を得るのに極めて少量のトレーサしか必要としない(一般に有効な信号を得るのにnMまたはpMの濃度で十分である)。
【0018】
一方、PETには、1つの主たる欠点がある。有効なS/N比の画像を生じさせなければならない場合に、時間分解能が極めて不足している。一般に、10〜30秒間で得られるPET画像は、S/N比(SNR)の低い、ノイズの多い画像を生じる。
【0019】
これが、PETが臨床診療において動的イメージャとして日常的に利用されない主たる理由である。トレーサ取り込み後の静止画像が定常状態に達すると、ウォッシュアウト時間が短く、薬力学的特性が十分に理解されている分子放射性トレーサだけしか、PETによる日常的臨床診断において画像化されない。
【0020】
動的PETは、通常、研究手順において利用されるだけであり、BIFの正確な推定は真剣な研究対象である。
【0021】
良好なSNRおよび/または定量的情報が、PETまたは他の機能的医療スキャン技術(例えば、単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT))によって得られる場合、モダリティの有用性は、とりわけ、前臨床作業および後続の臨床領域において、大幅に増大するであろう。SPECTの場合、可能性のある造影剤には、99m−テクネチウム−MIBIまたはSESTA−MIBIが含まれる。
【0022】
磁気共鳴断層撮影(Magnetic Resonance Imaging;MRI)法は、PETの利点および欠点と相補性の利点および欠点を備えた技術である。
【0023】
それは、約5または10のSNRの2D画像をリアルタイムで得ることができる(例えば、毎秒20画像)超高速モダリティである。従って、ガドリニウム(Gd)・キレート化合物のような、Tlベースの造影剤の利用は、胸部のダイナミック造影MRI(DCE−MRI)のような臨床診療において普及して大いに効果をあげており、Gd造影剤を急速に取り込む領域は、十分な特異性を有する悪性腫瘍として識別し、みなす(取込みの遅い領域と見分ける)ことが可能である。典型的なTl(縦緩和時間)造影剤には、Gdキレート化合物が含まれるが、他の造影剤を利用することも可能である。
【0024】
MRI画像では、解剖学的構造もはっきりと認識できるので、動脈組織の識別もいっそう容易になる。十分な解剖学的細部を示す高空間分解能と高時間分解能が相俟って、血流中におけるGd分子の比類なき追跡能力が得られるが、これを利用して、BIFを計算することが可能になる。例えば「Fritz−Hansen T、Rostrup E、Larsson HB、Sondergaad L、Ring P、Henriksen O、"Measurement of the arterial concentration of Gd−DTPA using MRI:a step toward quantitative perfusion imaging"(Magn Reson Med.、1996年8月、第36巻、第2号、p.225−31)」を参照されたい。
【0025】
一方、感度はPETに比べて低く、有効な信号を得るには、mMまたはマイクロMまでの造影剤濃度が必要になる。
【0026】
また、Gdキレート化合物を含むTl造影剤は、細胞を透過しない大分子である。DCE―MRIを利用して画像化することができる代謝経路は、造影剤の細胞内位置または細胞膜受容体結合を伴うものに制限される。これにより、大部分の代謝過程は細胞内で生じるので、病気の評価および薬物送達の探究用ツールとしてのMRIにかなりの制限が加えられることになる。
【0027】
本発明によれば、1組の機能的医療スキャン(functional medical scan)画像の処理方法は付属の請求項1に記載のステップを含んでいる。
【0028】
磁気共鳴断層撮影(MRI)スキャンから得られたデータのほかに、先行モデル(prior model;事前モデルとも呼ばれている)、または、機能的医療スキャン中に得られたデ−タを利用して、血液入力関数(BIF)を計算することが可能である。
【0029】
機能的医療スキャン画像は、例えば、単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)スキャン画像または陽電子放出断層撮影(PET)スキャン画像とすることが可能である。
【0030】
MRI造影剤と機能的医療スキャン造影剤とは、通常、混合物として注入される。
【0031】
次に、制限のない例証として、次の図を参照して、本発明を説明する。
図1は、被検者へのトレーサの注入後の、組織内の放射性トレーサの濃度に関する動態学的濃度曲線の概略図を示す。
図2は、被検者へのトレーサの注入後の、血漿中における放射性トレーサの濃度に関する動態学的濃度曲線の概略図を示す。
【0032】
図1および図2には、陽電子放出断層撮影(PET)のような機能的医療スキャン技術から得られたデータに薬物動態学的モデル化技術を適用するために、被検者において特性を解明しなければならない関数が例示されている。図1に例示のような実関数を導き出すために必要なデータは、一般に、可変長のスキャン間隔にわたって得られる一連のPET画像の領域分析からもたらされる。図2に例示のような実関数の場合、データは、一般に、時間経過につれて取り出され十分に計算された血液試料中における血漿放射能濃度によって得られる。
【0033】
図2に例示のBIFの形状、とりわけ、比較的鋭く高いピークAから明らかなように、データ収集方法は、関数を正確に規定するために比較的高い時間分解能を有することが必要とされる。
【0034】
本発明の1つの実施形態によれば、MRIおよびPETを利用して、生物対象が同時に画像化される。用いられる造影剤は、Gdキレート化合物(または任意の他のTl造影剤)とPET放射性核種とを組み合わせたものである。こうした組み合わせは、Tl造影剤と放射性核種との個別注入、または、それら2つからなる混合物の単一注入として投与することが可能である。
【0035】
代替案として、2つのモダリティのそれぞれに必要な官能基は、単一分子に取り込むことが可能である。
【0036】
MRI画像は、生物対象の動脈または血液プール(心室)が識別しやすい領域において収集され、高速画像化ができることによって、血液入力関数(BIF)の正確な推定が可能になる。高濃度のGdキレート化合物を利用して、良好な信号を得ることが可能である。
【0037】
PET画像は、所望の受容体に結合する他の造影剤を用いて得られる。組織内への緩慢な取込み過程の画像化はPETで十分である。
【0038】
次に、薬物動態学的(PK)モデル化技術と、MRIデータから得られたBIFの信頼できる推定値とを利用して、PET信号を分析することが可能である。
【0039】
代替案として、MRIデータと、以前の研究、予備知識、または、母集団の標準から導き出すことができるBIFの先行モデルとの組み合わせから、BIFを計算することが可能である。機能的医療スキャンからのデータも、MRIデータと組み合わせて、BIFを計算することが可能である。
【0040】
動脈信号は身体の任意の部分で有効に得ることができるので、PETおよびMRIスキャンの視野(FOV)が重なり合う必要はない。従って、PET装置およびMRI装置が互いに近接配置された個別装置を形成する構成も可能である。
【0041】
しかしながら、PET−MRI統合システムを利用して(Ladebeck他、ISRMR、2005年を参照されたい)、PETスキャンおよびMRIスキャンを同じ視野に対して実施することが可能である。この装置の重要な利点はデータの同時収集が可能である点にあり、連続注入によって、血液中のトレーサ分布を再現することはほとんど可能ではないので、この要素は不可欠である。
【0042】
従って、2つのモダリティによるスキャン結果を組み合わせることができる(例えば、ブリージングのための調整が必要になる場合でさえ)共通の解剖学的枠組みが確立される。MRIとPETを統合することによって、それぞれからの動的情報を組み合わせることができる共通の空間時間的枠組みが確立される。
【0043】
こうした統合システムは、単一注入によるPET造影剤およびMRI造影剤の投与にも適している。
【0044】
MR造影剤と放射性核種が等量である必要はないので、標準的なPET用量から十分な信号を得ることが可能である。MR造影剤が、ただ単に、血液プールおよび透過性を追跡するために利用されるならば、一般的なGdキレート化合物を利用することが可能である。MR造影剤がより特異であることが必要である場合、適切なPET放射性核種も結合するナノチューブにGdを蓄積することが可能である。単一ナノチューブ上に数万までのGdを蓄積させ、それによって、MRIの感度を高めることが可能である。
【0045】
BIFは、例えば、動脈スピン標識法のような、注入可能な造影剤に対する代替法を利用して、あるいは、機能的MRI(fMRI)に用いられる血行力学的応答から得ることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】組織内の放射性トレーサの濃度に関する動態学的濃度曲線の概略図
【図2】血漿中の放射性トレーサの濃度に関する動態学的濃度曲線の概略図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1組の定量的機能的医療スキャン画像の処理方法において、
適切な機能的医療スキャン用造影剤および適切な磁気共鳴断層撮影用造影剤を被検者に投与するステップと、
被検者に対して機能的医療スキャンおよび磁気共鳴断層撮影スキャンを同時に実施して、機能的医療スキャン画像と、磁気共鳴断層撮影スキャンからの対応するデータとを作成するステップと、
磁気共鳴断層撮影スキャン中に収集したデータを利用して、被検者に関する血液入力関数を計算するステップと、
こうして導き出された血液入力関数と、定量的機能的医療スキャン画像とに基づいて薬物動態学的分析を実施するステップと
が含まれていることを特徴とする機能的医療スキャン画像の処理方法。
【請求項2】
血液入力関数が、磁気共鳴断層撮影データのほかに、血液入力関数の先行モデルを利用して計算されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
血液入力関数が、磁気共鳴断層撮影データのほかに、機能的医療スキャン画像を利用して計算されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
機能的医療スキャンおよび磁気共鳴断層撮影スキャンが、被検者の重なり合う視野に対して実施されることを特徴とする請求項1乃至3の1つに記載の方法。
【請求項5】
機能的医療スキャンが陽電子放出断層撮影スキャンであることを特徴とする請求項1乃至4の1つに記載の方法。
【請求項6】
機能的医療スキャンが単光子放出コンピュータ断層撮影スキャンであることを特徴とする請求項1乃至4の1つに記載の方法。
【請求項7】
機能的医療スキャン用造影剤および磁気共鳴断層撮影用造影剤が混合物として注入されることを特徴とする請求項1乃至6の1つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−333736(P2007−333736A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−146549(P2007−146549)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(593063105)シーメンス メディカル ソリューションズ ユーエスエー インコーポレイテッド (156)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Medical Solutions USA,Inc.
【住所又は居所原語表記】51 Valley Stream Parkway,Malvern,PA 19355−1406,U.S.A.
【Fターム(参考)】