説明

止水装置及び止水方法

【課題】 従来、シールド掘進機引出孔の内周面に発泡ウレタンを吹き付けて引出孔側発泡ウレタン層を形成するため、シールド掘進機引出孔の内周面に結露があると、発泡ウレタンの吹き付けによる引出孔側発泡ウレタン層を形成できない等の問題があった。
【解決手段】 本発明による、立坑1に到達したシールド掘進機2を立坑1内に引き出す際の止水装置は、シールド掘進機2の外周径D2より内周径D1の小さい筒状体3により形成され、当該筒状体3は、立坑1のシールド掘進機到達側の側壁5に形成されたシールド掘進機引出孔6の内周面7に取付けられるとともに、シールド掘進機2がシールド掘進機引出孔6に到達して立坑1内へ引き出されるまでの間に、内周面23がシールド掘進機2の外周面22に密着して止水性能を維持する材料により形成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、立坑に到達したシールド掘進機を立坑内に引き出す際にシールド掘進機と立坑の引出孔との間から流出する地下水を止水するための止水装置及び止水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、立坑のシールド掘進機到達側の側壁に形成されたシールド掘進機引出孔の内周面に発泡ウレタンを吹き付けて発泡ウレタン層を形成し、さらに、シールド掘進機の外周に設けた発泡ウレタン充填枠内に発泡ウレタンを充填して発泡ウレタン層を形成し、立坑に到達したシールド掘進機を立坑内に引き出す際に、シールド掘進機の外周に形成されたシールド掘進機側発泡ウレタン層とシールド掘進機引出孔の内周面に吹き付けで形成された引出孔側発泡ウレタン層とを密着させて止水を行うことが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−88473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1では、シールド掘進機引出孔の内周面に発泡ウレタンを吹き付けて引出孔側発泡ウレタン層を形成するため、シールド掘進機引出孔の内周面に結露があると、発泡ウレタンの吹き付けによる引出孔側発泡ウレタン層を形成できなかった。また、吹付けは現場で行うために、吹付けにより形成する引出孔側発泡ウレタン層の厚さを均等にすることが困難であり、このため、シールド掘進機側発泡ウレタン層との密着性を確保できず、止水を十分に行えない場合もあった。また、特許文献1では、シールド掘進機側にも発泡ウレタン層を形成しなければならないため、シールド掘進機引出孔にシールド掘進機の前面を1度は露出しなければならない。シールド掘進機引出孔にシールド掘進機の前面を露出させるには、到達立坑土留壁の背面に大規模な地盤改良を行う必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明による、立坑に到達したシールド掘進機を立坑内に引き出す際の止水装置は、シールド掘進機の外周径より内周径の小さい筒状体により形成され、当該筒状体は、立坑のシールド掘進機到達側の側壁に形成されたシールド掘進機引出孔の内周面に取付けられるとともに、シールド掘進機がシールド掘進機引出孔に到達して立坑内へ引き出されるまでの間に、内周面がシールド掘進機の外周面に密着して止水性能を維持する材料により形成されたことを特徴とする。また、筒状体の内周面がシールド掘進機引出孔の地山側から立坑側にかけて内径を徐々に小さくする傾斜面に形成されたことや、筒状体が複数の分割要素の組み合わせにより形成されたことや、筒状体の異なる2つ以上の箇所の硬さを異ならせたことや、筒状体がゴム発泡材料により形成されたことも特徴とする。
本発明による、上述した筒状体を用いてシールド掘進機を立坑内に引き出す際の止水方法は、立坑のシールド掘進機到達側の側壁の横に土留壁を形成しておいてから当該側壁にシールド掘進機引出孔を形成し、このシールド掘進機引出孔の内周面に筒状体を取付け、土留壁の地山側に到達したシールド掘進機で土留壁を削ってシールド掘進機の先端側の外周を筒状体の内面に密着させて止水を維持しながらシールド掘進機を推進させて立坑内にシールド掘進機を引き出したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、シールド掘進機引出孔の内周面に結露があってもシールド掘進機引出孔の内周面に筒状体を取付けることができるので、シールド掘進機を立坑内に引き出す際の止水を確実に行える。また、正確で均等な厚さの筒状体をシールド掘進機引出孔の内周面に設置して固定できて、シールド掘進機の外周面との筒状体の内周面との密着性を確保でき、止水性能を向上できる。内周面がシールド掘進機引出孔の地山側から立坑側にかけて内径を徐々に小さくした傾斜面に形成された筒状体を用いることで、シールド掘進機がシールド掘進機引出孔内に進むに従って筒状体の内周面とシールド掘進機の外周面との密着性が高まり、さらに、止水性能を向上できる。複数の分割要素の組み合わせにより形成された筒状体を用いることで、シールド掘進機引出孔の内周面への取付け作業や、運搬を容易とできる。筒状体の異なる2つ以上の箇所の硬さを異ならせるようにすれば、シールド掘進機の外周面に突出する装置などの破損を少なくできる。筒状体をゴム発泡材料により形成したことで、筒状体の硬度を調整でき、また、コストを削減できる。また、筒状体を用いた本発明の止水方法によれば、シールド掘進機で土留壁を削ってシールド掘進機を立坑に引き出す際、筒状体により止水を確実にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1は本形態による止水装置の断面図を示し、図2〜図5はシールド掘進機を立坑内に引き出す工程を示す。
【0007】
図1に示すように、本形態による、立坑1に到達したシールド掘進機2を立坑1内に引き出す際の止水装置は、予め工場などでゴム発泡材料により内周径D1がシールド掘進機2の外周径D2より小さい寸法に形成された円形状の筒状体3を用い、この筒状体3の外周面4が、シールド掘進機2の到達側である立坑1の到達側側壁5に形成されたシールド掘進機引出孔6の内周面7に固定されて構成されたものである。筒状体3の内周径D1はシールド掘進機2の外周径D2より例えば10cm程度小さい寸法に形成される。また、筒状体3の外周径はシールド掘進機引出孔6の内周径より例えば数mm〜数十mm程度大きい寸法に形成される。そして、筒状体3は、シールド掘進機引出孔6の内周面7に外周面4が密着状態に嵌合されて接着剤などで固定された状態に取付けられる。
【0008】
以下、上述した止水装置を用いたシールド掘進機2の止水方法を説明する。
図2に示すように、まず、立坑1を築造するために立坑1の築造に先行して土留壁12を施工した後に、土留壁12の横に立坑1を築造する。立坑1を築造する際には立坑1の到達側側壁5に、地山11を掘削するシールド掘進機2が到達するためのシールド掘進機引出孔6を設けておく。シールド掘進機引出孔6の内周径はシールド掘進機2の外周径D2より例えば10cm程度大きい寸法に形成される。シールド掘進機2が土留壁12に到達する前に土留壁12を撤去するため、土留壁12の地山11側地盤を薬液注入、凍結等で地盤改良する。地盤改良土13が形成された後に、図3に示すように、立坑1内から図外の掘削機でシールド掘進機引出孔6の前面の土留壁12を掘削し(「鏡切」などという)、シールド掘進機2の到達口17を形成する。その後、シールド掘進機引出孔6の内周面7に筒状体3の外周面4を固定して取付ける。さらに、シールド掘進機引出孔6の立坑1側の開口を止水鉄板18で塞ぐ。このような処置を完了後、シールド掘進機2の前面19に設けられた面板20を回転させて地山11を掘削しながらシールド掘進機2を立坑1の方向へ前進させ、シールド掘進機2の後方にはセグメント10を継いでいって地下鉄などのトンネルを構築する。図4に示すように、シールド掘進機2の前面19がシールド掘進機引出孔6まで到達したら面板20の回転を止め、シールド掘進機引出孔6の内周面7に取付けられた筒状体3の端面21にシールド掘進機2の前面19を密着させる。そして、図5に示すように、シールド掘進機2を図外のジャッキ等で立坑1の方向へ前進させる。この際、シールド掘進機2の外周面22が筒状体3の内周面23に密着しながら前進するので、止水性能が維持される。止水性能が維持されていることを、例えば止水鉄板18に設けられている図外の排水バルブからの水量で確認して、止水性能が維持されていれば、止水鉄板18を撤去する。そして、シールド掘進機2を立坑1内に引出す。立坑1内に引き出されたシールド掘進機2を、立坑1から引き上げて地上に出し、次の現場で転用することも可能となる。
【0009】
本形態によれば、予め工場などでゴム発泡材料により形成された筒状体3をシールド掘進機引出孔6内に取付けるので、シールド掘進機引出孔6の内周面7に結露があってもシールド掘進機引出孔6の内周面7に筒状体3を取付けることができる。つまり、現場の自然現象に影響されずに、シールド掘進機引出孔6の内周面7に筒状体3を確実に取付けることができるので、立坑1に到達したシールド掘進機2を立坑1内に引き出す際の止水を確実に行える。また、筒状体3の厚みにより、正確で均等な厚さのゴム発泡層を確保できるので、シールド掘進機2の外周面22との密着性を確保でき、止水性能を向上できる。すなわち、正確で均等な厚さを筒状体3をシールド掘進機引出孔6の内周面7に設置して固定することで、シールド掘進機2の外周面22との筒状体3の内周面23との密着性を確保でき、止水性能を向上できる。
【0010】
尚、筒状体3は、シールド掘進機2の外周面22に密着して止水性能を維持する材料であれば、例えば、ウレタン発泡樹脂などの材料で形成しても良いが、本形態のようにゴム発泡材料を用いることで、筒状体3の硬度を調整でき、また、ウレタン発泡樹脂材料に比べてコストを削減できる。
【0011】
他の例1.
シールド掘進機2を立坑1内に引き出す際の止水方法の他の例を説明する。上記では、土留壁12の地山11側に地盤改良土13を形成したが、上述した筒状体3を用いれば、地盤改良土13を形成する必要がなくなる。すなわち、図1;図6に示すように、ゴム発泡材料やウレタン発泡材料などシールド掘進機2の外周面22に密着して止水性能を維持する材料により、シールド掘進機2の外周径D2より内周径D1の小さい寸法に形成された筒状体3をシールド掘進機引出孔6の内周面7に取付けておく。その後、図7に示すように、シールド掘進機2の面板20を回転させながらシールド掘進機2を推進させて面板20で土留壁12を削って(はつって)行き、シールド掘進機引出孔6の内周面7に取付けられた筒状体3の端面21にシールド掘進機2の前面19を密着させる。その後、上記と同様にシールド掘進機2を図外のジャッキ等で立坑1の方向へ前進させる。この方法によれば、シールド掘進機2で土留壁12を削ってシールド掘進機2を立坑1に引き出す際、筒状体3により止水を確実にできる。また、地盤改良土13の形成を不要とできるので、経済性を向上できる。
【0012】
他の例2.
図8に示すような断面形状の筒状体3A、すなわち、内周面がシールド掘進機引出孔6の地山11側から立坑1側にかけて内径を徐々に小さくした傾斜面30に形成された筒状体3Aを用いれば、シールド掘進機2がシールド掘進機引出孔6内に進むに従ってシールド掘進機2の外周面22との密着性を高めていくことができ、さらに、止水性能を向上できる。
【0013】
他の例3.
図9に示すように複数の分割要素31;31・・・の組み合わせにより形成された筒状体3Bを用いても良い。このようにすれば、シールド掘進機引出孔6の内周面7への取付け作業や、運搬を容易とできる。さらに、分割要素31毎に硬度(やわらかさ)を異ならせることもできる。例えば、シールド掘進機2の外周面22には装置が突出している箇所があるが、このような突出箇所と密着する部分には、硬度を低く(やわらかく)形成した分割要素31を設けるようにすれば、突出箇所の破損などを少なくできる。つまり、1つ以上の分割要素31の硬度を異ならせて、筒状体3Bの異なる2つ以上の箇所の硬さを異ならせた。このようにすれば、シールド掘進機2の外周面22の形態に応じて円筒状体の硬度を選定できるようになり、シールド掘進機2の外周面22に突出する装置などの破損を少なくできる。また、硬度の異なる分割要素31を別々に製作できるので、硬度の異なる分割要素31の製作が容易となる。
【0014】
他の例4.
一体の筒状体3の異なる2つ以上の箇所の硬さを異ならせるようにしても良い。例えば、シールド掘進機2の外周面22には装置が突出している箇所と密着する部分の硬度を低く(やわらかく)形成した筒状体3を用いることで、シールド掘進機2の外周面22に突出する装置などの破損を少なくできる。
【産業上の利用可能性】
【0015】
地下鉄トンネル施工等において、シールド掘進機2を転用するための作業をスムーズとし、地下鉄トンネル施工などの工事の経済性や後期短縮化に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態による止水装置の断面図。
【図2】同止水装置を用いた止水方法を示す図。
【図3】同止水装置を用いた止水方法を示す図。
【図4】同止水装置を用いた止水方法を示す図。
【図5】同止水装置を用いた止水方法を示す図。
【図6】同止水装置を用いた本発明の他の例1による止水方法を示す図。
【図7】同止水装置を用いた本発明の他の例1による止水方法を示す図。
【図8】本発明の他の例2による止水装置の断面図。
【図9】本発明の他の例3による止水装置の断面図。
【符号の説明】
【0017】
1 立坑、2 シールド掘進機、3;3A;3B 筒状体、
4 円筒状体の外周面、5 立坑の到達側側壁、6 シールド掘進機引出孔、
7 シールド掘進機引出孔の内周面、11 地山、
22 シールド掘進機の外周面、23 円筒状体の内周面、30 傾斜面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立坑に到達したシールド掘進機を立坑内に引き出す際の止水装置であって、シールド掘進機の外周径より内周径の小さい筒状体により形成され、当該筒状体は、立坑のシールド掘進機到達側の側壁に形成されたシールド掘進機引出孔の内周面に取付けられるとともに、シールド掘進機がシールド掘進機引出孔に到達して立坑内へ引き出されるまでの間に、内周面がシールド掘進機の外周面に密着して止水性能を維持する材料により形成されたことを特徴とする止水装置。
【請求項2】
筒状体の内周面がシールド掘進機引出孔の地山側から立坑側にかけて内径を徐々に小さくした傾斜面に形成されたことを特徴とする請求項1記載の止水装置。
【請求項3】
筒状体が複数の分割要素の組み合わせにより形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の止水装置。
【請求項4】
筒状体の異なる2つ以上の箇所の硬さを異ならせたことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の止水装置。
【請求項5】
筒状体がゴム発泡材料により形成されたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の止水装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の筒状体を用いてシールド掘進機を立坑内に引き出す際の止水方法であって、立坑のシールド掘進機到達側の側壁の横に土留壁を形成しておいてから当該側壁にシールド掘進機引出孔を形成し、このシールド掘進機引出孔の内周面に筒状体を取付け、土留壁の地山側に到達したシールド掘進機で土留壁を削ってシールド掘進機の先端側の外周を筒状体の内面に密着させて止水を維持しながらシールド掘進機を推進させて立坑内にシールド掘進機を引き出したことを特徴とする止水方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−83542(P2006−83542A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−267169(P2004−267169)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】