説明

正孔阻止材料及び有機電界発光素子

【課題】高い発光効率を維持しながら、連続駆動時に輝度低下の少ない、長寿命な正孔阻止材料を提供し得る、正孔阻止能が高く、電気的酸化還元耐久性、特に電気的還元耐久性に優れた正孔阻止材料と、この正孔阻止材料を用いた、高発光効率で連続駆動時の輝度低下の少ない、長寿命な有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】分子量が400以上の正孔阻止材料であって、サイクリックボルタンメトリー測定によって得られる第一還元波の還元電流値(Ipc)と酸化電流値(Ipa)の比(Ipa/Ipc)が0.1以上である正孔阻止材料。基板1上に、陽極2及び陰極8に挟持された発光層5を有し、発光層5の陰極側界面に接して正孔阻止層6が設けられている有機電界発光素子。この正孔阻止層6は、本発明の正孔阻止材料を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は正孔阻止材料及び有機電界発光素子に関するものであり、詳しくは、発光効率が高く、連続駆動時の輝度低下の少ない有機電界発光素子を提供し得る正孔阻止材料と、この正孔阻止材料を正孔阻止層に用いた有機電界発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、薄膜型の電界発光(EL)素子としては、無機材料を使用したものに代わり、有機薄膜を用いた有機電界発光素子の開発が行われるようになっている。また、有機電界発光素子の発光効率を上げる試みとして、蛍光(一重項励起子による発光)ではなく燐光(三重項励起子による発光)を用いることが検討されている。燐光を用いると、蛍光を用いた素子と比べて、効率が3倍程度向上すると考えられており、燐光分子としてユーロピウム錯体、白金錯体等を使用することが報告されている。しかしながら、従来の燐光分子を用いた有機電界発光素子は、高効率発光ではあるが、駆動安定性の点において実用には不十分であり、高効率な表示素子の実現は困難な状況であった。
【0003】
これまでに報告されている有機電界発光素子では、基本的には正孔輸送層と電子輸送層の組み合わせにより発光を得ている。即ち、陽極から注入された正孔は正孔輸送層を移動し、陰極から注入されて電子輸送層を移動してくる電子と、両層の界面近傍で再結合をし、正孔輸送層及び/又は電子輸送層を励起させて発光させるのがその原理であり、更に、正孔輸送層と電子輸送層の間に発光層を設けることにより、発光効率を向上させている素子が一般的である。
【0004】
更に、発光層中での励起子生成を促進させ、発光の高効率化・発光色の高純度化を目的に、発光層の陰極側界面に接して正孔阻止層を設ける場合がある。例えば、正孔注入/輸送層にトリアリールアミン系化合物を、電子注入/輸送層にアルミニウム錯体を用いた素子などは、正孔の移動度が電子の移動度を上回る傾向にあり、正孔が発光に寄与せず陰極側へ通り抜けてしまうという問題があったが、この問題を解決するために、発光層の陰極側界面に正孔阻止層を設けることが好ましいと考えられている。
【0005】
特に、発光層の酸化電位が大きい場合、通常用いられる8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの電子輸送層を有する、発光層への正孔の封じ込めが困難である青色発光素子や燐光発光素子では、正孔阻止層の必要性が高い。
【0006】
特許文献1には、発光層のイオン化ポテンシャルよりも大きなイオン化ポテンシャルを有する正孔阻止層を設けた有機電界発光素子が記載されている。該文献では、正孔阻止層に使用される正孔阻止材料として、トリス(5,7−ジクロル−8−ヒドロキシキノリノ)アルミニウムの使用が提案されている。また、特許文献2では、正孔阻止材料として、シラシクロペンタジエンの使用が提案されている。しかし、これらはいずれも、駆動安定性が十分ではなかった。この駆動時の安定性が不十分である要因としては、正孔阻止材料のガラス転移温度(Tg)が低い事に由来する熱劣化や、電子や正孔の注入によって起きる正孔阻止材料の電気化学的変性などが指摘されている。
【0007】
一方で、有機電界発光素子の長寿命化が検討されており、このための、正孔阻止材料の改善も検討されている。非特許文献1では、燐光素子の寿命を改善することを目的として、Balq(アルミニウム(III)ビス(2−メチル−8−キノリネート)4−フェニルフェノレート)やSAlq(アルミニウム(III)ビス(2−メチル−8−キノリネート)トリフェニルシラノレート)などの、アルミニウム錯体系正孔阻止材料が盛んに用いられ、一定の長寿命化に成功している。しかしながら、上記化合物では、正孔阻止能が十分でないために、素子の発光効率が不十分であったり、正孔の一部が正孔阻止層を通過して電子輸送層へ抜けてしまうことによって、電子輸送材料の酸化劣化が起こったりするという問題があった。
【0008】
また、燐光素子の寿命を改善することを目的とした別の手法として、特許文献3には、NPD(N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス−α−ナフチルベンジジン)とAlq3(8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体)を混合したホスト材料と、これにPtOEP(2,3,7,8,12,12,17,18−オクタエチル−21H,23H−ポルフィンプラチナ(II)、又は、BTPIr(bis(2−(2’−ベンゾ[4,5−a]チエニルピリジネート−N,C3’)イリジウム(III)−アセチルアセトネート)を燐光ドーパントとすることが記載されている。しかし、これらは、赤色のドーパント材料にしか適用できず、フルカラー表示に必要な緑色燐光素子や青色燐光素子の長寿命化は実現できていなかった。
【0009】
上述の理由から、高発光効率で、かつ正孔阻止能の高い有機電界発光素子が求められていた。特に、正孔阻止材料自体が、電気的酸化還元耐久性、特に電気的還元耐久性を有していることが求められていた。
【特許文献1】特開平2-195683号公報
【特許文献2】特開平9-87616号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0074935号明細書
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.,81巻,162頁,2002年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高い発光効率を維持しながら、連続駆動時に輝度低下の少ない、長寿命な正孔阻止材料を提供し得る、正孔阻止能が高く、電気的酸化還元耐久性、特に電気的還元耐久性に優れた正孔阻止材料と、この正孔阻止材料を用いた、高発光効率で連続駆動時の輝度低下の少ない、長寿命な有機電界発光素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意検討した結果、分子量が400以上の正孔阻止材料であって、サイクリックボルタンメトリー測定によって得られる第一還元波の還元電流値(Ipc)と酸化電流値(Ipa)の比(Ipa/Ipc)が0.1以上である正孔阻止材料を用いることにより、有機電界発光素子において、高効率発光を維持した上で、連続駆動時に輝度低下が少なく、かつ長寿命化を図ることができることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
即ち、これまで一般的な知見として、正孔阻止材料のような電子輸送性の材料は、電気化学的に安定、特に還元に対して安定なものが好ましいとされてきた。しかしながら、このような材料を、具体的に特定することは非常に困難であった。そこで、本発明者らは、この電気化学的に安定な材料を特定するため、様々な測定や材料の設計を試みたところ、Ipa/Ipc比が有用ではないかとの結論に到達した。従来の正孔阻止材料は、特に高いガラス転移温度を得られる分子量が400以上の材料については、通常Ipa/Ipc比が0.1より小さいものが使用されていた。ところが、本発明者らは敢えて、それに代えてIpa/Ipc比が0.1以上の正孔阻止材料を正孔阻止層に使用してみたところ、素子の電気的還元耐久性が飛躍的に向上し、長寿命化されることがわかった。即ち、Ipa/Ipc比が0.1を境にして、それ以上のものは、正孔阻止材料として電気化学的に安定というだけでなく、有機電界発光素子に用いると、高い発光効率を維持しながら、連続駆動時に輝度低下の少ない、長寿命な素子を提供できることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
従って、本発明の第一の要旨は、分子量が400以上の正孔阻止材料であって、サイクリックボルタンメトリー測定によって得られる第一還元波の還元電流値(Ipc)と酸化電流値(Ipa)の比(Ipa/Ipc)が0.1以上であることを特徴とする正孔阻止材料、に存する。
【0014】
また、本発明の第二の要旨は、基板上に、陽極及び陰極に挟持された発光層を有し、該発光層の陰極側界面に接して正孔阻止層が設けられている有機電界発光素子において、該正孔阻止層が、上記本発明の正孔阻止材料を含有することを特徴とする有機電界発光素子、に存する。
【0015】
この有機電界発光素子において、正孔阻止材料の、サイクリックボルタンメトリー測定において得られる第一酸化電位が、発光層に用いられる発光物質の第一酸化電位よりも大きいことが好ましい。また、正孔阻止層と陰極との間に、電子輸送層が設けられていることが好ましく、この場合において、発光層に用いられる発光層材料、正孔阻止材料及び電子輸送層に用いられる電子輸送材料の還元電位が、以下の関係を満たすことが好ましい。
(電子輸送材料の還元電位)≧(正孔阻止材料の還元電位)≧(発光層材料の還元電位)
【発明の効果】
【0016】
本発明の正孔阻止材料によれば、高効率でかつ連続駆動時の輝度低下の少ない長寿命な有機電界発光素子が実現可能となる。
【0017】
従って、本発明による有機電界発光素子はフラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)、車載表示素子、携帯電話表示や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯への応用が考えられ、その技術的価値は大きいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定はされない。
【0019】
[正孔阻止材料]
まず、本発明の正孔阻止材料について説明する。
本発明の正孔阻止材料は、分子量が400以上の正孔阻止材料であって、サイクリックボルタンメトリー測定によって得られる第一還元波の還元電流値(Ipc)と酸化電流値(Ipa)の比(Ipa/Ipc)が0.1以上であるものであり、通常、基板上に、陽極及び陰極に挟持された発光層を有する有機電界発光素子において、発光層の陰極側界面に接して設けられる層(通常、正孔阻止層)の材料として使用される。
【0020】
ここで、サイクリックボルタンメトリー測定は、「電気化学測定マニュアル基礎編」(電気化学会編 丸善 P.13〜44)に記載の方法で実施されるもの(或いはそれと同等の測定法であってもよい)であって、具体的には、三電極系の測定系を用い、例えば、支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウム0.1Mのアセトニトリル溶液、過塩素酸テトラブチルアンモニウム0.1Mのジクロロメタン溶液、過塩素酸テトラブチルアンモニウム0.1Mのジメチルホルムアミド溶液、又は、過塩素酸テトラブチルアンモニウム0.1Mのアセトニトリル溶液と過塩素酸テトラブチルアンモニウム0.1Mのテトラヒドロフラン溶液の混合溶媒を用い、作用電極としてBAS製GCE、対電極としてPt線、参照電極としてAg線を用いて測定される。
【0021】
また、サイクリックボルタンメトリー測定に使用する機器は、特定されるものではなく、例えば、BAS社製「エレクトロケミカルアナライザー650A」が使用できるが、これと同等のものであればその他のものも使用することができる。
【0022】
測定条件としては、掃引速度は10V/sec以下で測定することが好ましく、例えば100mV/sec程度で測定できる。また、電極表面への試料以外の酸化還元物質の付着などを可能な限り防ぐために必要以上に掃引領域を大きくしないことが望ましい。試料の濃度は通常0.5〜5mMが好ましく、例えば1mMの試料濃度で測定できる。
【0023】
なお、支持電解質、溶媒、作用電極、対極、参照電極、等は、測定対象物に合わせて適宜変更可能であり、参照電極には、Ag/Ag電極やAg/AgCl電極等を使用してもよい。
【0024】
本発明で規定する、還元電流値(Ipc)と酸化電流値(Ipa)とは、「電気化学」(渡辺正他共著、井上靖夫他編、丸善P.90〜93)に記載のものを意味するものである。
【0025】
正孔阻止材料は、電子の輸送を担うため、電子に対する安定性が求められる。つまりは、還元安定性が求められることとなる。本発明の正孔阻止材料は、第一還元波の還元電流値(Ipc)と酸化電流値(Ipa)の比(Ipa/Ipc)は、0.1以上であり、好ましくは0.2以上、最も好ましくは0.3以上である。この下限を下回ると、電気的還元安定性が著しく劣るため、好ましくない。Ipa/Ipcは、1に近ければ近いほど電気的還元安定性がよいと推測される。
【0026】
なお、本発明では、第一酸化電位及び第一還元電位は、内部標準にフェロセン/フェロセニウム(Fc/Fc)を用い、+0.41V vs.SCEとして電位を決定した。
【0027】
求められた酸化還元電位より規定される酸化還元電位の差(エネルギーギャップ)は、
3.5V以上のものが好ましい。
【0028】
本発明の正孔阻止材料の分子量は、通常4000以下、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下であり、また通常400以上、より好ましくは500以上である。分子量が上記上限を超えると、昇華性が著しく低下して有機電界発光素子を制作する際に蒸着法を用いる場合において支障を来したり、或いは有機溶媒などへの溶解性の低下や、合成工程で生じる不純物成分の増加に伴って、材料の高純度化(即ち劣化原因物質の除去)が困難になる場合がある。また、分子量が上記下限を下回ると、ガラス転移温度及び、融点、気化温度などが低下するため、耐熱性が著しく損なわれたり、アモルファス性の低下により結晶性が向上し、膜安定性が低下する場合があるため好ましくない。
【0029】
該正孔阻止材料のガラス転移温度(Tg)は70℃以上が好ましく、より好ましくは100℃以上である。ガラス転移温度がこの下限を下回ると耐熱性が著しく損なわれ、有機電界発光素子に適用した際の駆動寿命にも悪影響を及ぼす。
【0030】
有機電界発光素子の正孔阻止層に用いられる正孔阻止材料には、陰極側から移動してきた電荷(この場合、電子)を効率よく発光層中に移動できることが求められる。その為、正孔阻止層は、それぞれ隣接する発光層及び電子輸送層とのエネルギー障壁が少ないことが好ましい。更には、電荷に対する移動度(この場合は電子移動度)が高いと、陰極側から移動してきた電荷を効率よく発光層中に取り込むことができ、素子の駆動電圧を下げることが可能となるため、好ましい。
【0031】
加えて、本発明の正孔阻止材料は、励起三重項準位が2.2eV以上であることが好ましい。励起三重項準位は、発光色、並びに発光効率と相関があり、特に青色等の短波長で燐光を示すドーパント材料を効率よく発光させるためには、より高い励起三重項準位が必要となる。正孔阻止材料の励起三重項準位は、好ましくは2.2eV以上であり、より好ましくは2.4eV以上、特に好ましくは2.6eV以上である。また、好ましくは3.4eV以下であり、より好ましくは3.2eV以下である。
【0032】
なお、燐光は励起三重項状態から基底状態への遷移によって生じる発光であり、励起三重項準位(T1)は実験的に物質の燐光スペクトルを測定することにより求められる。励起三重項準位は5〜10K程度に冷却して測定した燐光スペクトルのλT1を用いて以下の関係式から求めることができる。
T1[eV]=1240/λT1[nm]
通常は、得られた燐光スペクトルの最もエネルギーの高い(波長の短い)ピーク波長(λT1[nm])から算出される。
【0033】
本発明の正孔阻止材料としては、分子量が400以上でIpa/Ipcが0.1以上のものであればよく、具体的には、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン、キノキサリン化合物、フェナントロリン誘導体、含ホウ素化合物、含ピリジン環化合物などから選ばれるものを、有機電界発光素子の正孔阻止材料として使用すればよい。中でも、ピリジン環を有する化合物は高い電気的還元安定性を示し、更には励起三重項順位(T1)が高くより好ましい。
【0034】
ピリジン環を有する化合物のうち、下記一般式(I)で示される化合物が更に好ましい。
【化1】

(一般式(I)中、R1〜R3は、各々独立に、任意の置換基を表す。ピリジン環の3位、5位は、置換されていてもよい。mは、1〜8の整数である。
1は、mが1の時、ピリジン環の置換基或いは水素原子であり、mが2以上の時、m価の連結基である。Q1は、ピリジン環の2〜6位のいずれか1つと直接結合する。但し、Q1が、ピリジン環の2,4,6位のいずれかに結合する場合は、その結合位置にあるR1〜R3のいずれかがQ1となる。
mが2以上の時、化合物中に複数個含まれるR1〜R3は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、mが2以上の時、ピリジン環がQ1と結合する位置は、それぞれ同一の位置であっても異なっていてもよい。)
【0035】
前記一般式(I)で表される化合物の取りうるmの値は、1〜8の整数であるが、分子内にピリジン環を2つ以上有している場合に優れた耐久性を発揮可能であり、これによって優れた電子輸送性と広い酸化還元電位差を発現する。他方、ピリジン環が多すぎると化合物としての塩基性が強くなりすぎ、正孔阻止層に含まれる場合、長時間の電界印加により配位子交換を生じる危険性がある。そうした観点から、Q1と結合したピリジン環の数を表すmは2以上が好ましく、6以下が好ましく、4以下が更に好ましく、3以下が最も好ましい。
【0036】
上記一般式(I)で表される化合物の分子量は、前述の正孔阻止層の分子量と同様な理由から、通常4000以下、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下であり、また通常400以上、より好ましくは500以上である。
また、前記一般式(I)で表される化合物の好ましい総炭素数は、通常300以下、好ましくは200以下、より好ましくは100以下であり、また通常15以上、好ましくは20以上、より好ましくは30以上である。
【0037】
一般式(I)において、ピリジン環の数を表すmが2以上であるとき、連結基Q1は、ピリジン環同士を繋ぐ直接結合、又は好ましくはジアリールアミン骨格を持たない任意の連結基を適用可能である。
【0038】
一般式(I)において、連結基Q1としては、好ましくは、
直接結合、
置換基を有していてもよいアルケン基(アルケン由来の基)、
置換基を有していてもよいアルキン基(アルキン由来の基)、
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基(例えばベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテンなど由来のm価の基が含まれる)
又は、置換基を有していてもよい芳香族複素環基(例えばフラン環、チオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環など由来のm価の基が含まれる)、
或いは、これらが2つ以上連結してなる基、
などが挙げられる。
【0039】
化合物の電気的酸化還元耐久性の観点からは、一般式(I)で表される化合物は、1分子中に含まれる2以上のピリジン環が、連結基Q1を介して互いに共役関係にある化合物であることが好ましい。このような化合物とするためには、ピリジン環間が、直接結合、
【化2】

又は、これらを組み合わせてなる部分構造で連結されている場合が好ましい。なお、上記式において、G1〜G3は各々独立に、水素原子又は任意の置換基を表すか、或いは、Q1の例として前述した芳香族炭化水素や芳香族複素環の一部を構成する。同一のQ1基中に含まれるG1〜G3は、各々、同一であっても異なっていてもよい。
【0040】
これらの中でも、ピリジン環間が
【化3】

で表される構造で結合されている場合がより好ましく、更にG1及びG2が、Q1基における芳香族炭化水素基の一部を構成する場合が、特に好ましい。
【0041】
連結基Q1として、好ましい具体例を以下のZ−1〜Z−173に示すが、何らこれらに限定されるものではない。
【0042】
【化4】

【0043】
【化5】

【0044】
【化6】

【0045】
【化7】

【0046】
【化8】

【0047】
【化9】

【0048】
【化10】

【0049】
【化11】

【0050】
【化12】

【0051】
【化13】

【0052】
中でも、酸化還元電位差を十分に広くする観点と繰返し電気酸化還元耐久性の観点から、連結基Q1としては、
Z−1(直接結合),Z−2〜69,79,82,84,89,96,103,105,108,109,111〜114,117,118,121,124,167,170
が好ましく、
Z−2,8,11〜13,15,17,19,20,22,23〜25,27〜30,34,37,44,47〜61,63〜69,89,105,109,114,124,167,170
がより好ましく、
Z−2,8,12,13,15,17,19,20,22,23,25,27〜30,34,37,44,47〜50,63,64,66,67,89,109,114,124,167
が更に好ましく、
Z−2,8,12,13,15,17,19,20,23,28〜30,34,66
が最も好ましい。
【0053】
上記具体例の連結基Q1は、(ジアリールアミン骨格、アリールオキシド骨格及びアリールスルフィド骨格を持たない)任意の置換基を有してもよく、このような置換基の例としては、次のようなものが挙げられる。
ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)
置換基を有していてもよいアルキル基(好ましくは炭素数1〜8の直鎖又は分岐のアルキル基であり、例えばメチル、エチル、n−プロピル、2−プロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアルケニル基(好ましくは炭素数1〜8のアルケニル基であり、例えばビニル、アリル、1−ブテニル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアルキニル基(好ましくは炭素数1〜8のアルキニル基であり、例えばエチニル、プロパルギル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアラルキル基(好ましくは炭素数1〜8のアラルキル基であり、例えばベンジル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアシル基(好ましくは置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアシル基であり、例えばホルミル、アセチル、ベンゾイル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基(好ましくは置換基を有してもよい炭素数2〜13のアルコキシカルボニル基であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基(好ましくは置換基を有してもよい炭素数2〜13のアリールオキシカルボニル基であり、例えばアセトキシ基などが含まれる)
カルボキシル基
【化14】

(上記式中、Raは任意の置換基であり、好ましくは置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基、アラルキル基、アリール基の何れかである。Rbは水素原子又は任意の置換基であり、好ましくは置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基、アラルキル基、アリール基の何れかである。)
【化15】

(上記式中、Rc、Rdは水素原子又は任意の置換基であり、好ましくは置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基、アラルキル基、アリール基の何れかである。)
シアノ基
置換基を有していてもよいシリル基(例えばトリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいボリル基(例えばジメシチルボリル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいホスフィノ基(例えばジフェニルホスフィノ基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基(例えばベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環などが挙げられる。)
置換基を有していてもよい芳香族複素環基(例えばフラン環、チオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などが挙げられる。)
【0054】
分子振動を制限する観点から、連結基Q1は置換基を有さないか、或いは、置換基としてメチル基、又はフェニル基を有するものであり、最も好ましくは置換基を有さないものである。
【0055】
前記一般式(I)におけるR1ないしR3は、各々独立に任意の置換基を表す。また、mが2以上の時、化合物中に複数個含まれるR1ないしR3は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。R1ないしR3に用いうる任意の基として、具体的には、次のようなものが挙げられる。
置換基を有していてもよいアルキル基(好ましくは炭素数1〜8の直鎖又は分岐のアルキル基であり、例えばメチル、エチル、n−プロピル、2−プロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアルケニル基(好ましくは炭素数2〜9のアルケニル基であり、例えばビニル、アリル、1−ブテニル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアルキニル基(好ましくは炭素数2〜9のアルキニル基であり、例えばエチニル、プロパルギル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアラルキル基(好ましくは炭素数7〜15のアラルキル基であり、例えばベンジル基などが挙げられる。)
以下のような置換基を有していてもよいアミノ基
(置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基を1つ以上有するアルキルアミノ基であり、例えばメチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノ基などが挙げられる。
置換基を有していてもよい炭素数6〜12の芳香族炭化水素基を有するアリールアミノ基であり、例えばフェニルアミノ、ジフェニルアミノ、ジトリルアミノ基などが挙げられる。
置換基を有していてもよい、5又は6員環の芳香族複素環を有するヘテロアリールアミノ基であり、例えばピリジルアミノ、チエニルアミノ、ジチエニルアミノ基などが挙げられる。
置換基を有していてもよい、炭素数2〜10のアシル基を有するアシルアミノ基であり、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノ基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアルコキシ基(好ましくは置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルコキシ基であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜12の芳香族炭化水素基を有するものであり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシ基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいヘテロアリールオキシ基(好ましくは5又は6員環の芳香族複素環基を有するものであり、例えばピリジルオキシ、チエニルオキシ基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアシル基(好ましくは置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアシル基であり、例えばホルミル、アセチル、ベンゾイル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基(好ましくは置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルコキシカルボニル基であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基(好ましくは置換基を有していてもよい炭素数7〜13のアリールオキシカルボニル基であり、例えばフェノキシカルボニル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基(好ましくは置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルキルカルボニルオキシ基であり、例えばアセトキシ基などが挙げられる。)
ハロゲン原子(特に、フッ素原子又は塩素原子)
カルボキシル基
シアノ基
水酸基
メルカプト基
置換基を有していてもよいアルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜8のアルキルチオ基であり、例えばメチルチオ基、エチルチオ基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアリールチオ基(好ましくは炭素数6〜12までのアリールチオ基であり、例えばフェニルチオ基、1−ナフチルチオ基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいスルホニル基(例えばメシル基、トシル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいシリル基(例えばトリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいボリル基(例えばジメシチルボリル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいホスフィノ基(例えばジフェニルホスフィノ基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基(例えばベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環などの、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環由来の1価の基が挙げられる。)
置換基を有していてもよい芳香族複素環基(例えばフラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環などの、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の1価の基が挙げられる。)
【0056】
これらR1〜R3の基が有しうる置換基としては、一般式(I)で表される化合物の性能を損なわない限り特に制限はないが、好ましくはアルキル基、芳香族炭化水素基、又はアルキル置換芳香族炭化水素基が挙げられ、各々の具体例としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基などの、炭素数1〜6程度のアルキル基;フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基などの、炭素数6〜18程度の芳香族炭化水素基;トリル基、メシチル基、2,6−ジメチルフェニル基などの、総炭素数7〜30程度のアルキル置換芳香族炭化水素基、などが挙げられる。
【0057】
以下に、R1〜R3が芳香族炭化水素基或いは芳香族複素環基である場合の具体例R−1〜R−55を示すが、何らこれらに限定されるものではない。
【0058】
【化16】

【0059】
【化17】

【0060】
【化18】

(上記各式中、L1〜L3は各々独立に、置換基を有していてもよい、アルキル基、芳香族炭化水素基、又はアルキル置換芳香族炭化水素基を表す。L4及びL5は各々独立に、置換基を有していてもよい、水素原子、アルキル基、芳香族炭化水素基、又はアルキル置換芳香族炭化水素基を表す。
1〜L5のアルキル基、芳香族炭化水素基、又はアルキル置換芳香族炭化水素基として、具体的には、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基などの、炭素数1〜6程度のアルキル基;フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基などの、炭素数6〜18程度の芳香族炭化水素基;トリル基、メシチル基、2,6−ジメチルフェニル基などの、総炭素数7〜30程度のアルキル置換芳香族炭化水素基、などが挙げられる。
なお、上記構造はいずれも、L1〜L5の他にも置換基を有していてもよいが、自身が結合しているピリジン環上の電子状態に強く影響を及ぼしてしまうと、酸化還元電位差が狭くなってしまうおそれがあるため、置換基としては、電子供与性・電子吸引性が共に小さく、かつ、分子内共役長の広がりをもたらしにくい基を選択することが好ましい。このような置換基の具体例としても、やはりアルキル基、芳香族炭化水素基、アルキル置換芳香族炭化水素基等が挙げられる。
なお、1分子中に上記構造を2個以上有する化合物の場合、1分子中に含まれる2個以上のL1〜L5は、同一であっても異なっていてもよい。)
【0061】
1〜R3の前記例示構造のうち、広い酸化還元電位差を与える観点から、R−1〜6、10〜13、33、34、38、45、48が好ましく、R−1〜6、48がより好ましく、R−1〜3、48が最も好ましい。
【0062】
1〜R3は、例えば、本発明の正孔阻止材料を有機電界発光素子の正孔阻止層に適用する場合、昇華性及び耐熱性向上の観点から、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基(中でも炭素数6〜12程度の芳香族炭化水素基)が好ましく、大きな酸化電位を持たせる観点からは、水素原子又はフェニル基が特に好ましい。
【0063】
前記一般式(I)において、ピリジン環の3位、5位は、R1〜R3に用い得る任意の基として具体的に挙げた、いずれの基で置換されていてもよいが、電気的酸化還元耐久性を向上させる観点及び耐熱性を向上させる観点から、この置換基としては芳香族炭化水素基或いは芳香族複素環基であることが好ましい。
【0064】
以下に、前記一般式(I)で表される化合物として好ましい具体的な例を示すが、本発明の正孔阻止材料はこれらに何ら限定されるものではない。
【0065】
【化19】

【0066】
【化20】

【0067】
【化21】

【0068】
【化22】

【0069】
【化23】

【0070】
【化24】

【0071】
【化25】

【0072】
【化26】

【0073】
【化27】

【0074】
【化28】

【0075】
【化29】

【0076】
【化30】

【0077】
【化31】

【0078】
【化32】

【0079】
【化33】

【0080】
【化34】

【0081】
【化35】

【0082】
【化36】

【0083】
【化37】

【0084】
【化38】

【0085】
【化39】

【0086】
【化40】

【0087】
【化41】

【0088】
【化42】

【0089】
【化43】

【0090】
【化44】

【0091】
【化45】

【0092】
【化46】

【0093】
【化47】

【0094】
【化48】

【0095】
【化49】

【0096】
【化50】

【0097】
【化51】

【0098】
【化52】

【0099】
【化53】

【0100】
【化54】

【0101】
[有機電界発光素子]
次に、このような本発明の正孔阻止材料を用いる本発明の有機電界発光素子について説明する。
【0102】
本発明の有機電界発光素子は、基板上に、陽極及び陰極に挟持された発光層を有し、この発光層の陰極側界面に接して正孔阻止層が設けられる有機電界発光素子において、正孔阻止層が、本発明の正孔阻止材料を含有することを特徴とするものである。
【0103】
本発明の正孔阻止材料を、このように有機電界発光素子の正孔阻止層の正孔阻止材料として用いる場合、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0104】
本発明の正孔阻止材料は、特に、正孔阻止層の正孔阻止材料の、サイクリックボルタンメトリー測定において得られる第一酸化電位が、発光層中の発光物質の第一酸化電位よりも大きいことが好ましく、発光層中に発光物質が複数種含まれる場合には、中でも一番大きい第一酸化電位を有する発光物質よりも、正孔阻止材料の第一酸化電位が大きくなることが最も好ましい。また、正孔阻止層中に複数の正孔阻止材料が含まれる場合、正孔阻止材料のうち、一番小さい第一酸化電位のものが、発光層中の発光物質の第一酸化電位よりも大きいことが好ましい。ここで、本発明における発光物質とは、発光層において発光を示す化合物のことを意味する。ドーパント材料とホスト材料を含んでいる発光層の場合には、通常、ドーパント材料を発光物質という。
【0105】
正孔阻止層中の正孔阻止材料の、サイクリックボルタンメトリー測定において得られる第一酸化電位は、発光層の発光物質の第一酸化電位より0.1V以上大きいことが好ましい。発光層がホスト材料とドーパント材料を含んでいる場合には、ドーパント材料の第一酸化電位より正孔阻止材料の第一酸化電位が0.1V以上大きいことが好ましく、ホスト材料の酸化電位より正孔阻止材料の第一酸化電位が0.1V以上大きいことが、より好ましい。
【0106】
これらの正孔阻止材料は、発光層と隣接する正孔阻止層に用いられるため、正孔阻止材料と発光物質の酸化電位が上記関係を満たすと、陽極側から運ばれてきた正孔を発光層内に閉じ込める効果がより大きくなり、陽極側から運ばれてきた正孔をより一層発光に寄与させることが可能となり、高い発光効率が達成できる。
【0107】
以下に、本発明の有機電界発光素子の構造の一例について、図面を参照しながら説明するが、本発明の有機電界発光素子の構造は以下の図示のものに限定されるものではない。
図1〜3は本発明の有機電界発光素子の構造例を模式的に示す断面図であり、1は基板、2は陽極、3は陽極バッファ層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は陰極を各々表す。
【0108】
(基板)
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシートなどが用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの透明な合成樹脂の板又はフイルムが好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0109】
(陽極)
基板1上には陽極2が設けられる。陽極2は正孔輸送層4への正孔注入の役割を果たすものである。陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などにより構成される。陽極2は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより形成されることが多い。また、銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末などで陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液中に分散させて、基板1上に塗布することにより形成することもできる。更に、導電性高分子で陽極2を形成する場合には、電解重合により基板1上に直接重合薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0110】
陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすること
も可能である。
【0111】
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましい。この場合、陽極の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陽極2の厚みは任意であり、所望により金属で形成して基板1を兼ねてもよい。
【0112】
(正孔輸送層)
図1に示す構成の素子において、陽極2の上には正孔輸送層4が設けられる。正孔輸送層の材料に要求される条件としては、陽極2からの正孔注入効率が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが必要である。そのためには、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、しかも正孔移動度が大きく、更に安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが要求される。また、発光層5に接するために発光層5からの発光を消光したり、発光層5との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させないことが求められる。上記の一般的要求以外に、車載表示用の応用を考えた場合、素子には更に耐熱性が要求される。従って、ガラス転移温度として85℃以上の値を有する材料が望ましい。
【0113】
このような正孔輸送材料としては、発光層5のホスト材料に用いられる正孔輸送性材料と同様に、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4''−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J. Lumin., 72−74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem. Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth. Metals, 91巻、209頁、1997年)、4,4'−N,N'−ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール誘導体等が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で用いてもよいし、必要に応じて複数種混合して用いてもよい。
【0114】
上記の化合物以外に、正孔輸送層4の材料として、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7−53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym. Adv. Tech., 7巻、33頁、1996年)等の高分子材料が挙げられる。
【0115】
正孔輸送層4は、スプレー法、印刷法、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法などの通常の塗布法や、インクジェット法、スクリーン印刷法など各種印刷法等の湿式成膜法や、真空蒸着法などの乾式成膜法で形成することができる。
【0116】
塗布法の場合は、正孔輸送材料の1種又は2種以上に、必要により正孔のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤などの添加剤を添加し、適当な溶剤に溶解して塗布溶液を調製し、スピンコート法などの方法により陽極2上に塗布し、乾燥して正孔輸送層4を形成する。バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。バインダー樹脂は添加量が多いと正孔移動度を低下させるので、少ない方が望ましく、通常、正孔輸送層中の含有量で50重量%以下が好ましい。
【0117】
真空蒸着法の場合には、正孔輸送材料を真空容器内に設置されたルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度にまで排気した後、ルツボを加熱して、正孔輸送材料を蒸発させ、ルツボと向かい合って置かれた、陽極2が形成された基板1上に正孔輸送層4を形成させる。
【0118】
正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。この様に薄い膜を一様に形成するためには、一般に真空蒸着法がよく用いられる。
【0119】
(発光層)
図1に示す素子において、正孔輸送層4の上には発光層5が設けられる。発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から注入されて正孔輸送層4を移動する正孔と、陰極から注入されて正孔阻止層6を移動する電子との再結合により励起されて強い発光を示す発光物質により形成される。通常、発光層5には、前述の如く、発光物質であるドーパント材料とホスト材料が含まれる。尚、本発明では、ドーパント材料やホスト材料等、発光層に含まれる材料を発光層材料という。
【0120】
発光層5に用いられる発光物質としては、安定な薄膜形状を有し、固体状態で高い発光(蛍光又は燐光)量子収率を示し、正孔及び/又は電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。更に電気化学的かつ化学的に安定であり、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくい化合物であることが要求される。
【0121】
更に、本発明においては、前述の如く、正孔阻止層の正孔阻止材料の第一酸化電位よりも第一酸化電位が小さい発光物質、とりわけ
(正孔阻止材料の酸化電位)−(発光物質の酸化電位)≧0.1V
(正孔阻止材料の還元電位)≧(発光物質の還元電位)
を満たす発光物質を用いることが好ましい。
【0122】
このような条件を満たし、蛍光を発する発光層を形成する材料としては、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体(特開平6−322362号公報)、ビススチリルベンゼン誘導体(特開平1−245087号公報、同2−222484号公報)、ビススチリルアリーレン誘導体(特開平2−247278号公報)、(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾールの金属錯体(特開平8−315983号公報)、シロール誘導体、等が挙げられる。これらの発光層材料は、通常は真空蒸着法により正孔輸送層上に積層される。また、前述の正孔輸送層材料のうち、発光性を有する芳香族アミン系化合物も発光層材料として用いることができる。
【0123】
素子の発光効率を向上させるとともに発光色を変える目的で、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体をホスト材料として、クマリン等のレーザー用蛍光色素をドープすること(J.Appl.Phys.,65巻,3610頁, 1989年)等が行われている。このドーピング手法は、発光層5にも適用でき、ドープ用材料としては、クマリン以外にも各種の蛍光色素が使用できる。青色発光を与える蛍光色素としては、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン及びそれらの誘導体等が挙げられる。緑色蛍光色素としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体等が挙げられる。黄色蛍光色素としては、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。赤色蛍光色素としては、DCM系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0124】
上記のドープ用蛍光色素以外にも、ホスト材料に応じて、レーザー研究,8巻,694頁,803頁,958頁(1980年);同9巻,85頁(1981年)、に列挙されている蛍光色素などが発光層用のドープ材料として使用することができる。
【0125】
ホスト材料に対して上記蛍光色素がドープされる量は、10-3重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましい。また10重量%以下が好ましく、3重量%以下がより好ましい。この下限値を下回ると素子の発光効率向上に寄与できない場合があり、上限値を越えると濃度消光が起き、発光効率の低下に至る可能性がある。
【0126】
本発明において、発光層に使用されるドーパント材料として、好ましくは、周期表7ないし11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体が挙げられる。該金属錯体のT1(励起三重項準位)はホスト材料として使用する電荷輸送性化合物のT1より高いことが発光効率の観点から好ましい。更にドーパント材料において発光が起こることから、酸化還元などの化学的安定成も要求される。
【0127】
周期表7ないし11族から選ばれる金属を含む燐光性有機金属錯体における、該金属として好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、及び金が挙げられる。これらの有機金属錯体として、好ましくは下記一般式(II)又は一般式(VI)で表される化合物が挙げられる。
MLn-jL’j (II)
(式中、Mは金属、nは該金属の価数を表す。L及びL’は二座配位子を表す。jは0又は1又は2を表す。)
【0128】
【化55】

(式中、M7は金属、Tは炭素又は窒素を表す。Tが窒素の場合はR14、R15は無く、Tが炭素の場合はR14、R15は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。
12、R13は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、互いに連結して環を形成しても良い。)
【0129】
一般式(II)中の二座配位子L及びL’はそれぞれ以下の部分構造を有する配位子を示す。
【0130】
【化56】

(環A1及び環A1’は各々独立に、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、置換基を有していてもよい。環A2及び環A2’は含窒素芳香族複素環基を表し、置換基を有していてもよい。R’、R’’及びR’’’はそれぞれハロゲン原子;アルキル基;アルケニル基;アルコキシカルボニル基;メトキシ基;アルコキシ基;アリールオキシ基;ジアルキルアミノ基;ジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アシル基;ハロアルキル基又はシアノ基を表す。)
【0131】
一般式(II)で表される化合物として、更に好ましくは下記一般式(Va)、(Vb)(Vc)で表される化合物が挙げられる。
【0132】
【化57】

(式中、M4は金属、nは該金属の価数を表す。環A1は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、環A2は置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0133】
【化58】

(式中、M5は金属、nは該金属の価数を表す。環A1は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、環A2は置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0134】
【化59】

(式中、M6は金属、nは該金属の価数を表し、jは0又は1又は2を表す。環A1及び環A1’は各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、環A2及び環A2’は各々独立に、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0135】
一般式(Va)、(Vb)、(Vc)で表される化合物の環A1及び環A1’として、好ましくは、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、チエニル基、フリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、又はカルバゾリル基が挙げられる。
【0136】
環A2及び環A2’として、好ましくは、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、又はフェナントリジル基が挙げられる。
【0137】
一般式(Va)、(Vb)及び(Vc)で表される化合物が有していてもよい置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基等の炭素数2〜6のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基等が挙げられ、これらは互いに連結して環を形成しても良い。
【0138】
なお、環A1が有する置換基と環A2が有する置換基が結合、又は環A1’が有する置換基と環A2’が有する置換基が結合して、一つの縮合環を形成してもよく、このような縮合環としては7,8−ベンゾキノリン基等が挙げられる。
【0139】
環A1、環A1’、環A2及び環A2’の置換基として、より好ましくはアルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、ジアリールアミノ基、又はカルバゾリル基が挙げられる。
【0140】
式(Va)、(Vb)におけるM4ないしM5として好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金又は金が挙げられる。式(VI)におけるM7として好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金又は金が挙げられ、特に好ましくは、白金、パラジウム等の2価の金属が挙げられる。
【0141】
前記一般式(II)、(Va)、(Vb)及び(Vc)で示される有機金属錯体の具体例を以下に示すが、下記の化合物に限定されるわけではない。
【0142】
【化60】

【0143】
【化61】

【0144】
前記一般式(II)、(Va)、(Vb)及び(Vc)で表される有機金属錯体の中でも、特に配位子L及び/又はL’として2−アリールピリジン系配位子(2−アリールピリジン、これに任意の置換基が結合したもの、又はこれに任意の気が縮合してなるもの)を有する化合物が好ましい。
【0145】
前記一般式(VI)で表わされる有機金属錯体の具体例を以下に示すが、下記の化合物に限定されるわけではない。
【0146】
【化62】

【0147】
このような燐光性ドーパント材料の分子量は、通常4000以下、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下であり、また通常200以上、好ましくは300以上、より好ましくは400以上である。分子量がこの上限値を超えると、昇華性が著しく低下して電界発光素子を制作する際に蒸着法を用いる場合において支障を来したり、或いは有機溶媒などへの溶解性の低下や、合成工程で生じる不純物成分の増加に伴って、材料の高純度化(即ち劣化原因物質の除去)が困難になる場合があり、また分子量が上記下限値を下回ると、ガラス転移温度及び、融点、気化温度などが低下するため、耐熱性が著しく損なわれるおそれがある。
【0148】
これらのドーパント材料を2種類以上使用する場合は、前述の如く、正孔阻止層中の正孔阻止材料の酸化電位が、複数種のドーパント材料の中で一番大きな酸化電位を有するものよりも大きいことが好ましい。
【0149】
このような有機金属錯体をドーパント材料として用いた、燐光発光を示す発光層に使用されるホスト材料としては、蛍光発光を示す発光層に使用されるホスト材料として前述した材料の他に、4,4´−N,N´−ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール誘導体(WO 00/70655号公報)、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(USP 6,303,238号公報)、2,2´,2´´−(1,3,5−ベンゼントリル)トリス[1−フェニル−1H−ベンズイミダゾール](Appl.Phys.Lett.,78巻,1622頁,2001年)、ポリビニルカルバゾール(特開2001−257076号公報)等が挙げられる。尚、本発明の正孔阻止材料をホスト材料として使用することもできる。
【0150】
発光層中にドーパント材料として含有される有機金属錯体の量は、0.1重量%以上が好ましく、また30重量%以下が好ましい。この下限値を下回ると素子の発光効率向上に寄与できない場合があり、上限値を上回ると有機金属錯体同士が2量体を形成する等の理由で濃度消光が起き、発光効率の低下に至る可能性がある。
【0151】
燐光発光を示す発光層におけるドーパント材料の量は、従来の蛍光(1重項)を用いた素子において、発光層に含有される蛍光性色素の量より、若干多い方が好ましい傾向がある。また、燐光性ドーパント材料と共に蛍光色素が発光層中に含有される場合、該蛍光色素の量は、0.05重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましい。また10重量%以下が好ましく、3重量%以下がより好ましい。
【0152】
発光層5の膜厚は、通常3nm以上、好ましくは5nm以上であり、また通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0153】
発光層5も正孔輸送層4と同様の方法で形成することができる。
【0154】
ドーパント材料としての上述の蛍光色素及び/又は燐光色素(燐光性ドーパント材料)を発光層のホスト材料にドープする方法を以下に説明する。
【0155】
塗布の場合は、前記発光層ホスト材料と、ドーパント材料、更に必要により、電子のトラップや発光の消光剤とならないバインダー樹脂や、レベリング剤等の塗布性改良剤などの添加剤を添加し溶解した塗布溶液を調製し、スピンコート法などの方法により正孔輸送層4上に塗布し、乾燥して発光層5を形成する。バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。バインダー樹脂は添加量が多いと正孔/電子移動度を低下させるので、少ない方が望ましく、発光層中の含有量で50重量%以下が好ましい。
【0156】
真空蒸着法の場合には、前記ホスト材料を真空容器内に設置されたルツボに入れ、ドーパント材料を別のルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度にまで排気した後、各々のルツボを同時に加熱して蒸発させ、ルツボと向かい合って置かれた基板上に層を形成する。また、他の方法として、上記の材料を予め所定比で混合したものを同一のルツボを用いて蒸発させてもよい。
【0157】
上記各ドーパント材料が発光層5中にドープされる場合、発光層の膜厚方向において均一にドープされるが、膜厚方向において濃度分布があっても構わない。例えば、正孔輸送層4との界面近傍にのみドープしたり、逆に、正孔阻止層6界面近傍にドープしてもよい。
【0158】
発光層5も正孔輸送層4と同様の方法で形成することができるが、通常は真空蒸着法が用いられる。
なお発光層5は、本発明の性能を損なわない範囲で上記以外の成分を含んでいてもよい。
【0159】
(正孔阻止層)
図1に示す素子において、正孔阻止層6は発光層5の上に、発光層5の陰極側の界面に接するように積層される。
【0160】
正孔阻止層6は、正孔輸送層4から移動してくる正孔を陰極8に到達するのを阻止する役割と、陰極8から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成されることが好ましい。本発明において、正孔阻止層6を構成する正孔阻止材料は、上記分子量及びIpa/Ipcの値を満たし、かつ、電子移動度が高く正孔移動度が低いことが必要とされる。正孔阻止層6は正孔と電子を発光層5内に閉じこめて、発光効率を向上させる機能を有する。
【0161】
特に、正孔阻止材料としての前記一般式(I)で表されるピリジン環を有する化合物はその励起三重項準位(T1)が高いため、励起子を発光層5に閉じ込める効果が高く、発光効率の観点から正孔阻止材料としてより好ましい。前記一般式(I)で表される化合物は正孔阻止層中に、1種を単独で用いてもよいし、複数種併用してもよい。正孔阻止層6には、更に、本発明に係る正孔阻止材料の性能を損なわない範囲で、他の公知の正孔阻止機能を有する化合物を併用してもよい。
【0162】
本発明で用いられる正孔阻止層6のイオン化ポテンシャルは発光層5のイオン化ポテンシャルより0.1eV以上大きいことが好ましい。発光層5がホスト材料とドーパント材料を含んでいる場合、正孔阻止材料はこのドーパント材料のイオン化ポテンシャルより0.1eV以上大きいことが好ましく、ホスト材料のイオン化ポテンシャルより0.1eV以上大きいことが、より好ましい。
【0163】
イオン化ポテンシャルは物質のHOMO(最高被占分子軌道)レベルにある電子を真空準位に放出するのに必要なエネルギーで定義される。イオン化ポテンシャルは光電子分光法で直接定義されるか、電気化学的に測定した酸化電位を基準電極に対して補正しても求められる。後者の方法の場合、例えば飽和甘コウ電極(SCE)を基準電極として用いたとき、
イオン化ポテンシャル=酸化電位(vs.SCE)+4.3eV
で定義される。(“Molecular Semiconductors”,Springer−Verlag,1985年、98頁)。
【0164】
更に、正孔阻止層6を構成する正孔阻止材料の電子親和力(EA)は、発光層の電子親和力(発光層中のホスト材料のうち電子輸送性化合物の電子親和力)と比較して同等以上であることが好ましい。電子親和力もイオン化ポテンシャルと同様に真空準位を基準として、真空準位にある電子が物質のLUMO(最低空分子軌道)レベルに落ちて安定化するエネルギーで定義される。電子親和力は、上述のイオン化ポテンシャルから光学的バンドギャップを差し引いて求められるか、電気化学的な還元電位から下記の式で同様に求められる。
電子親和力=還元電位(vs.SCE)+4.3eV
【0165】
正孔阻止層6は、正孔輸送層4と同様にして塗布法或いは真空蒸着法により発光層5上に積層することにより形成されるが、通常は、真空蒸着法が用いられる。
【0166】
正孔阻止層6の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常3
00nm以下、好ましくは100nm以下である。この様に薄い膜を一様に形成するためには、一般に真空蒸着法がよく用いられる。
【0167】
(陰極)
陰極8は、正孔阻止層6を介して発光層5に電子を注入する役割を果たす。陰極8として用いられる材料は、前記陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0168】
陰極8の膜厚は通常、陽極2と同様である。
低仕事関数金属から成る陰極8を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することは素子の安定性を増す。この目的のために、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。
【0169】
更に、陰極8と発光層5又は後述の電子輸送層7との界面にLiF、MgF、LiO等の極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Appl. Phys. Lett.,70巻,152頁,1997年;特開平10−74586号公報;IEEE Trans. Electron. Devices,44巻,1245頁,1997年)。
【0170】
(電子輸送層)
素子の発光効率を更に向上させることを目的として、図2及び図3に示すように、正孔阻止層6と陰極8の間に電子輸送層7が設けられることが好ましい。電子輸送層7は、電界を与えられた電極間において陰極8から注入された電子を効率よく正孔阻止層6の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0171】
このような条件を満たす材料としては、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体な
どの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−又は5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第 5,645,948号)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0172】
また、上述のような電子輸送材料に、アルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特願2000−285656号、特願2000−285657号などに記載)ことにより、電子輸送性が向上するため好ましい。
【0173】
このような電子輸送層7を形成する場合、正孔阻止層6の電子親和力は電子輸送層7の電子親和力と比較して同等以下であることが好ましい。
【0174】
また、発光層5中の発光層材料、正孔阻止層6の正孔阻止材料及び電子輸送層に用いられる電子輸送材料の還元電位は、下記関係を満たすことが、発光領域を調整し、駆動電圧を下げるという観点から好ましい。
(電子輸送材料の還元電位)≧(正孔阻止材料の還元電位)≧(発光層材料の還元電位)
ここで、電子輸送材料、正孔阻止材料或いは発光層材料が、それぞれ複数用いられている場合には、最も小さい還元電位のものを比較に使用する。
【0175】
なお、本発明の正孔阻止材料をこの電子輸送層7に使用しても良い。その場合、本発明の正孔阻止材料のみを使用して電子輸送層7を形成しても良いし、前述した各種公知の材料と併用しても良い。
【0176】
電子輸送層7に本発明の正孔阻止材料を使用した場合、前述の正孔阻止層6にも本発明の正孔阻止材料を使用しても良いし、また電子輸送層7のみに本発明の正孔阻止材料を使用し、正孔阻止層6には、それ以外の、公知の正孔阻止材料を使用しても良い。
【0177】
電子輸送層6の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0178】
電子輸送層7は、正孔輸送層4と同様にして塗布法或いは真空蒸着法により正孔阻止層6上に積層することにより形成されるが、通常は、真空蒸着法が用いられる。
【0179】
(陽極バッファ層)
正孔注入の効率を更に向上させ、かつ、有機層全体の陽極2への付着力を改善させる目的で、図3に示すように、正孔輸送層4と陽極2との間に陽極バッファ層3を挿入することも行われている。陽極バッファ層3を挿入することで、初期の素子の駆動電圧が下がると同時に、素子を定電流で連続駆動した時の電圧上昇も抑制される効果がある。
【0180】
陽極バッファ層3に用いられる材料に要求される条件としては、陽極2とのコンタクトがよく均一な薄膜が形成でき、熱的に安定であることが挙げられ、融点及びガラス転移温度が高く、融点としては300℃以上、ガラス転移温度としては100℃以上であることが好ましい。更に、イオン化ポテンシャルが低く陽極2からの正孔注入が容易なこと、正孔移動度が大きいことが挙げられる。
【0181】
この目的のために、陽極バッファ層3の材料として、これまでにポルフィリン誘導体やフタロシアニン化合物(特開昭63-295695号公報)、ヒドラゾン化合物、アルコキシ置換の芳香族ジアミン誘導体、p-(9-アントリル)-N,N'-ジ-p-トリルアニリン、ポリチエニレンビニレンやポリ-p-フェニレンビニレン、ポリアニリン(Appl.Phys.Lett.,64巻、1245頁,1994年)、ポリチオフェン(OpticalMaterials,9巻、125頁、1998年)、スターバスト型芳香族トリアミン(特開平4-308688号公報)等の有機化合物や、スパッタ・カーボン膜(Synth.Met.,91巻、73頁、1997年)や、バナジウム酸化物、ルテニウム酸化物、モリブデン酸化物等の金属酸化物(J.Phys.D,29巻、2750頁、1996年)が報告されている。
【0182】
また、正孔注入・輸送性の低分子有機化合物と電子受容性化合物を含有する層(特開平11−251067号公報、特開2000−159221号公報等に記載)や、芳香族アミノ基等を含有する非共役系高分子化合物に、必要に応じて電子受容性化合物をドープしてなる層(特開平11−135262号公報、特開平11−283750号公報、特開2
000−36390号公報、特開2000−150168号公報、特開平2001−223084号公報、及びWO97/33193号公報など)、又はポリチオフェン等の導電性ポリマーを含む層(特開平10−92584号公報)なども挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0183】
上記陽極バッファ層3の材料としては、低分子・高分子いずれの化合物を用いることも可能である。
【0184】
低分子化合物のうち、よく使用されるものとしては、ポルフィン化合物又はフタロシアニン化合物が挙げられる。これらの化合物は中心金属を有していても良いし、無金属のものでも良い。これらの化合物の好ましい例としては、以下の化合物が挙げられる。
ポルフィン、
5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィン、
5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィンコバルト(II)、
5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィン銅(II)、
5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィン亜鉛(II)、
5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィンバナジウム(IV)オキシド、
5,10,15,20-テトラ(4-ピリジル)-21H,23H-ポルフィン、
29H,31H-フタロシアニン、
銅(II)フタロシアニン、
亜鉛(II)フタロシアニン、
チタンフタロシアニンオキシド、
マグネシウムフタロシアニン、
鉛フタロシアニン、
銅(II)4,4'4'',4'''-テトラアザ-29H,31H-フタロシアニン
【0185】
陽極バッファ層3も、正孔輸送層4と同様にして薄膜形成可能であるが、無機物の場合には、更に、スパッタ法や電子ビーム蒸着法、プラズマCVD法が用いられる。
【0186】
以上の様にして形成される陽極バッファ層3の膜厚は、低分子化合物を用いて形成される場合、下限は通常3nm、好ましくは10nm程度であり、上限は通常100nm、好ましくは50nm程度である。
【0187】
陽極バッファ層3の材料として、高分子化合物を用いる場合は、例えば、前記高分子化合物や電子受容性化合物、更に必要により正孔のトラップとならない、バインダー樹脂やレベリング剤等の塗布性改良剤などの添加剤を添加し溶解した塗布溶液を調製し、スプレー法、印刷法、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法などの通常のコーティング法や、インクジェット法等により陽極2上に塗布し、乾燥することにより陽極バッファ層3を薄膜形成することができる。バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。バインダー樹脂は該層中の含有量が多いと正孔移動度を低下させる虞があるので、少ない方が望ましく、陽極バッファ層3中の含有量で50重量%以下が好ましい。
【0188】
また、フィルム、支持基板、ロール等の媒体に、前述の薄膜形成方法によって予め薄膜を形成しておき、媒体上の薄膜を、陽極2上に熱転写又は圧力転写することにより、薄膜形成することもできる。
【0189】
以上のようにして、高分子化合物を用いて形成される陽極バッファ層3の膜厚の下限は通常5nm、好ましくは10nm程度であり、上限は通常1000nm、好ましくは500nm程度である。
【0190】
(層構成)
本発明の有機電界発光素子は、図1とは逆の構造、即ち、基板1上に陰極8、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、陽極2の順に積層することも可能であり、既述したように少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板の間に本発明の有機電界発光素子を設けることも可能である。同様に、図2又は図3に示した前記各層構成とは逆の順に積層することも可能である。また、図1〜3のいずれの層構成においても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述以外の任意の層を有していてもよく、また上記複数の層の機能を併有する層を設けることにより、層構成を簡略化する等、適宜変形を加えることが可能である。
【0191】
或いはまた、トップエミッション構造や陰極・陽極共に透明電極を用いて透過型とすること、更には、図1に示す層構成を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その際には段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合はその2層)の代わりに、例えばV等を電荷発生層(CGL)として用いると段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0192】
本発明は、有機電界発光素子が、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。
【実施例】
【0193】
次に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0194】
<実施例1>
正孔阻止材料として、以下の化合物1を1×10−3mol/l、支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウム0.1mol/lをアセトニトリルに完全に溶解した。
【0195】
【化63】

【0196】
サイクリックボルタンメトリーは、作用電極としてBAS製GCE、対電極としてPt線、参照電極としてAg線を用いて測定した。この測定時の掃引速度は100mV/sec、走査電位領域は−2.0V〜1.4Vであった。第一還元電位は、内部標準にフェロセン/フェロセニウム(Fc/Fc)を用い、+0.41V vs.SCEとして電位を換算した。第一酸化電位は化合物1を1×10−3mol/l、支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウム0.1mol/lをジクロロメタンに完全に溶解し、前述の第一還元電位と同様に測定し、換算した。得られた電位を飽和甘コウ電極(SCE)を基準電極として換算して求めた化合物1の酸化還元電位、第一還元波のIpa/Ipcの値を表1に示す。
【0197】
(素子の作製)
上記化合物1を用いて、図3に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
【0198】
ガラス基板1の上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nm堆積したもの(スパッター成膜品;シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0199】
陽極バッファ層3の材料として、以下に示す構造式の芳香族アミノ基を有する非共役系高分子化合物(PB−1)(重量平均分子量:29400,数平均分子量:12600)を以下に示す電子受容性化合物(A−1)と共に以下の条件でスピンコートした。
【0200】
【化64】

【0201】
【化65】

【0202】
溶媒:安息香酸エチル
塗布液濃度:2[wt%]
PB−1:A−1=10:1(モル比)
スピナ回転数:1500[rpm]
スピナ回転時間:30[秒]
乾燥条件:100℃,1時間
【0203】
上記のスピンコートにより膜厚30nmの均一な薄膜よりなる陽極バッファ層3が形成された。
【0204】
次に陽極バッファ層3を成膜した基板を真空蒸着装置内に設置した。上記装置の粗排気を油回転ポンプにより行った後、装置内の真空度が1.1×10−6Torr(約1.5×10−4Pa)以下になるまで油拡散ポンプを用いて排気した。上記装置内に配置されたセラミックルツボに入れた、下記に示すアリールアミン化合物(H−1)をルツボの周囲のタンタル線ヒーターで加熱して蒸着を行った。この時のルツボの温度は、318〜334℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度1.1×10−6Torr(約1.4×10−4Pa)、蒸着速度は0.15nm/秒で膜厚60nmの正孔輸送層4を得た。
【0205】
【化66】

【0206】
引続き、発光層5のホスト材料として下記に示すカルバゾール誘導体(E−1)(励起三重項準位2.6eV)を、発光物質(ドーパント材料)として有機イリジウム錯体(D−1)(還元電位−1.88V,酸化電位1.29V,励起三重項準位2.6eV)を別々のセラミックルツボに設置し、2元同時蒸着法により成膜を行った。
【0207】
【化67】

【0208】
【化68】

【0209】
化合物(E−1)のルツボ温度は200〜205℃、蒸着速度は0.11nm/秒に、化合物(D−1)のルツボ温度は306〜309℃にそれぞれ制御し、膜厚30nmで化合物(D−1)が6重量%含有された発光層5を正孔輸送層4の上に積層した。蒸着時の真空度は1.0×10−6Torr(約1.3×10−4Pa)であった。
【0210】
更に、正孔阻止層6として、前述の化合物1をルツボ温度を190〜196℃として、蒸着速度0.13nm/秒で10nmの膜厚で積層した。蒸着時の真空度は0.7×10−6Torr(約0.9×10−4Pa)であった。
【0211】
このようにして形成した正孔阻止層6の上に、電子輸送層7として下記に示すアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(ET−1)(還元電位−1.87V)を同様にして蒸着した。この時のアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体のルツボ温度は250〜262℃の範囲で制御し、蒸着時の真空度は0.7×10−6Torr(約0.9×10−4Pa)、蒸着速度は0.21nm/秒で膜厚は35nmとした。
【0212】
【化69】

【0213】
ここで、電子輸送層6までの蒸着を行った素子を一度前記真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして、2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置して有機層と同様にして装置内の真空度が2.7×10−6Torr(約2.0×10−4Pa)以下になるまで排気した。陰極8として、先ず、フッ化リチウム(LiF)をモリブデンボートを用いて、蒸着速度0.01nm/秒、真空度3.0×10−6Torr(約4.0×10−4Pa)で、0.5nmの膜厚で電子輸送層7の上に成膜した。次に、アルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.48nm/秒、真空度8.5×10−6Torr(約1.1×10−3Pa)で膜厚80nmのアルミニウム層を形成して陰極8を完成させた。以上の2層型陰極8の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0214】
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光スペクトルの極大波長は471nmであり、有機イリジウム錯体(D−1)からのものと同定された。色度はCIE(X,Y)=(0.15,0.35)であった。
【0215】
また、駆動寿命として、室温で、通電開始時の発光輝度が200cd/mとなる一定電流値で直流定電流連続通電し、発光輝度が100cd/mとなったときの通電時間を調べ、結果を表1に示した。
【0216】
<実施例2>
正孔阻止材料として以下の化合物2を、1×10−3mol/l、支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウム0.1mol/lをアセトニトリルとテトラヒドロフラン混合溶媒(混合比1:1)に完全に溶解した。
【0217】
【化70】

【0218】
サイクリックボルタンメトリーは、実施例1と同様に測定し、掃引速度は10V/sec、測定時の走査電位領域は−2.3V〜0.6Vである。酸化還元電位は掃引速度100mV/secで、実施例1と同様に測定した。この化合物2の酸化還元電位、第一還元波のIpa/Ipcの値を表1に示す。
【0219】
(素子の作成)
実施例1において、化合物1の代わりに化合物2を用い、発光層5の発光物質(ドーパント材料)として有機イリジウム錯体(D−1)の代わりに下記に示す有機イリジウム錯体(D−2)(還元電位−2.30V,酸化電位0.72V,励起三重項準位2.3eV)を用いた他は、実施例1と同様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
【0220】
【化71】

【0221】
この素子の発光スペクトルの極大波長は510nmであり、有機イリジウム錯体(D−2)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.28,0.62)であった。
【0222】
また、駆動寿命として、室温で、通電開始時の発光輝度が2000cd/mとなる一定電流値で直流定電流連続通電し、発光輝度が1000cd/mとなったときの通電時間を調べ、結果を表1に示した。
【0223】
<実施例3>
正孔阻止材料として以下の化合物3を、1×10−3mol/l、支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウム0.1mol/lをジメチルホルムアミドに完全に溶解した。
【0224】
【化72】

【0225】
サイクリックボルタンメトリーは、実施例1と同様に測定し、掃引速度は100mV/sec、測定時の走査電位領域は−2.0V〜1.0Vである。酸化還元電位は掃引速度100mV/secで、実施例1と同様に測定した。この化合物3の酸化還元電位、第一還元波のIpa/Ipcの値を表1に示す。
【0226】
(素子の作成)
実施例2において、化合物2の代わりに化合物3を用いた以外は、実施例2と同様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
【0227】
この素子の発光スペクトルの極大波長は510nmであり、有機イリジウム錯体(D−2)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.28,0.62)であった。
【0228】
また、実施例2と同様にして求めた駆動寿命は表1に示す通りであった。
【0229】
<実施例4>
正孔阻止材料として以下の化合物4を、1×10−3mol/l、支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウム0.1mol/lをジメチルホルムアミドに完全に溶解した。
【0230】
【化73】

【0231】
サイクリックボルタンメトリーは、実施例1と同様に測定し、掃引速度は100mV/sec、測定時の走査電位領域は−2.0V〜1.0Vである。酸化還元電位は掃引速度100mV/secで、実施例1と同様に測定した。この化合物4の酸化還元電位、第一還元波のIpa/Ipcの値を表1に示す。
【0232】
(素子の作成)
実施例2において、化合物2の代わりに化合物4を用いた以外は、実施例2と同様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
【0233】
この素子の発光スペクトルの極大波長は512nmであり、有機イリジウム錯体(D−2)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.29,0.61)であった。
【0234】
また、実施例2と同様にして求めた駆動寿命は表1に示す通りであった。
【0235】
<比較例1>
下記の化合物(HB−1)を1×10−3mol/l、支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウム0.1mol/lをアセトニトリルに完全に溶解した。
【0236】
【化74】

【0237】
サイクリックボルタンメトリーは、実施例1と同様に測定し、掃引速度は100mV/sec、測定時の走査電位領域は−1.8V〜1.6Vである。酸化還元電位は掃引速度100mV/secで、実施例1と同様に測定した。この化合物(HB−1)の酸化還元電位、第一還元波のIpa/Ipcの値を表1に示す。
【0238】
(素子の作成)
実施例1において、化合物1の代わりにHB−1を用いた他は、実施例1と同様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
【0239】
この素子の発光スペクトルの極大波長は471nmであり、有機イリジウム錯体(D−1)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.16,0.33)であった。
【0240】
また、実施例1と同様にして求めた駆動寿命は表1に示す通りであった。
【0241】
<比較例2>
下記の化合物(HB−2)を1×10−3mol/l、支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウム0.1mol/lをアセトニトリルとテトラヒドロフラン混合溶媒(混合比1:1)に完全に溶解した。
【0242】
【化75】

【0243】
サイクリックボルタンメトリーは、実施例1と同様にして測定し、掃引速度は10V/sec、測定時の走査電位領域は−2.3V〜1.35Vである。酸化還元電位は掃引速度100mV/secで、実施例1と同様に測定した。この化合物(HB−2)の酸化還元電位、第一還元波のIpa/Ipcの値を表1に示す。
【0244】
(素子の作成)
実施例2において、化合物2の代わりに化合物(HB−2)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。この素子の発光スペクトルの極大波長は512nmであり、有機イリジウム錯体(D−2)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.30,0.62)であった。
【0245】
また、実施例2と同様にして求めた駆動寿命は表1に示す通りであった。
【0246】
【表1】

【0247】
表1より、Ipa/Ipcの値が0.1以上の正孔阻止材料を用いることにより、駆動寿命の長い有機電界発光素子が得られることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0248】
【図1】本発明の有機電界発光素子の一例を示した模式的断面図である。
【図2】本発明の有機電界発光素子の別の例を示した模式的断面図である。
【図3】本発明の有機電界発光素子の別の例を示した模式的断面図である。
【符号の説明】
【0249】
1 基板
2 陽極
3 陽極バッファ層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量が400以上の正孔阻止材料であって、サイクリックボルタンメトリー測定によって得られる第一還元波の還元電流値(Ipc)と酸化電流値(Ipa)の比(Ipa/Ipc)が0.1以上であることを特徴とする正孔阻止材料。
【請求項2】
基板上に、陽極及び陰極に挟持された発光層を有し、該発光層の陰極側界面に接して正孔阻止層が設けられている有機電界発光素子において、該正孔阻止層が、請求項1に記載の正孔阻止材料を含有することを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項3】
前記正孔阻止材料の、サイクリックボルタンメトリー測定において得られる第一酸化電位が、前記発光層に用いられる発光物質の第一酸化電位よりも大きいことを特徴とする請求項2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記正孔阻止層と陰極との間に、電子輸送層が設けられていることを特徴とする請求項2又は3に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記発光層に用いられる発光層材料、前記正孔阻止材料及び前記電子輸送層に用いられる電子輸送材料の還元電位が、以下の関係を満たすことを特徴とする請求項4に記載の有機電界発光素子。
(電子輸送材料の還元電位)≧(正孔阻止材料の還元電位)≧(発光層材料の還元電位)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−24898(P2006−24898A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−149697(P2005−149697)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】