説明

正常な腎機能又は腎機能障害を持つ心不全患者を治療するための塩酸バンコマイシンを有効成分とするグリコペプチド系抗生物質製剤

【課題】腎機能障害の程度に応じて算出された投与量や投与間隔の予測値と実測値との間に生じたずれを補正し、適切な治療を可能にする、塩酸バンコマイシンを有効成分とするグリコペプチド系抗生物質製剤を提供する。
【解決手段】クレアチニンクリアランスCcrが50(mL/分)以上であって、体重X(kg)の正常な腎機能又は腎機能障害を持つ心不全患者に対し、特定の数式から算出された投与量Y1(mg/kg)を初回に投与し、次いで特定の数式から算出された投与量Y2(mg/kg)を、特定の数式から算出された投与間隔Z(時間)で投与する、前記正常な腎機能又は腎機能障害を持つ心不全患者を治療するための、塩酸バンコマイシンを有効成分とするグリコペプチド系抗生物質製剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正常な腎機能又は腎機能障害を持つ心不全患者を治療するための、塩酸バンコマイシンを有効成分とするグリコペプチド系抗生物質製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
塩酸バンコマイシンとはグリコペブチド系抗生物質であり、細菌の細胞壁合成阻害作用により殺菌的に作用するので、多剤耐性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MethIcIllIn−ResIstant Staphylococcus Aureus、以下「MRSA」という。)やペニシリン耐性肺炎球菌(PenIcIllIn−ResIstant Streptococcus PneumonIae、以下「PRSP」という。)等に対して有効な薬剤であることが知られており、これらの細菌による感染性適応症の治療に汎用されている。
【0003】
塩酸バンコマイシンには、内服用の塩酸バンコマイシン散と点滴静注用の塩酸バンコマイシン注とがあり、これらの用法や用量は、企業の添付文書や過去の原著論文等を参考に設定されている。塩酸バンコマイシンは腎排泄型薬剤であり、有効血中濃度域と中毒域が近いので、特に腎機能障害患者への投与は、腎機能障害の程度に応じた投与量や投与間隔の調節が必要である。血清クレアチニンからコッククロフト・ゴールト(Cockcroft−Gault)式(例えば、非特許文献1参照)を用いて算出されるクレアチニンクリアランスは、通常、腎機能評価の指標として用いられ、投与量を修正するための目安となっているが(例えば、非特許文献2参照)、腎機能障害の程度によっては、異なる薬物動態パラメータから投与量や投与間隔の調節が必要とされている(例えば、非特許文献3,4参照)。
【非特許文献1】Cockcroft DW et al., Nephron, 16, 31(1976)
【非特許文献2】MoellerIng R et al., Ann.Intern.Med., 94, 343(1981)
【非特許文献3】竹中皇 ほか, Chemotherapy, 41, 1079(1993)
【非特許文献4】Matzke GR et al., AntImIcrob, Agents Chemother, 25(4), 433(1984)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、腎機能障害の程度に応じて算出された投与量や投与間隔の予測値と、実測値との間に大幅なずれが生じる場合があり、これが原因で適切な治療がなされないという問題が生じていた。
【0005】
従って、本発明の目的は、腎機能障害の程度に応じて算出された投与量や投与間隔の予測値と実測値との間に生じたずれを補正し、適切な治療を可能にする、塩酸バンコマイシンを有効成分とするグリコペプチド系抗生物質製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は、斯かる従来技術の問題点に鑑み、上記の予測値と実測値との間に生じたずれの原因について鋭意研究を重ねた結果、当該原因が心機能障害であることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
(1)すなわち、本発明は、クレアチニンクリアランスCcrが50(mL/分)以上であって、体重X(kg)の正常な腎機能又は腎機能障害を持つ心不全患者に対し、数式(I)
【数1】

から算出された投与量Y1(mg/回)を初回に投与し、次いで数式(II)
【数2】

から算出された投与量Y2(mg/回)を、数式(III)
【数3】

から算出された投与間隔Z(時間)で投与することを特徴とする、前記正常な腎機能又は腎機能障害を持つ心不全患者を治療するための、塩酸バンコマイシンを有効成分とするグリコペプチド系抗生物質製剤である。
【0008】
(2)また、本発明は、クレアチニンクリアランスが50mL/分以上70mL/分未満の腎機能障害を持つ心不全患者に対し、初回投与量として20.0mg/kg〜41.7mg/kg投与し、次いで維持投与量として1回あたり14.3mg/kg〜29.8mg/kgを、21.5時間〜28.0時間の間隔で投与することを特徴とする、前記腎機能障害を持つ心不全患者を治療するための、塩酸バンコマイシンを有効成分とするグリコペプチド系抗生物質製剤である。
【0009】
(3)また、本発明は、前記初回投与量は25.4mg/kg〜36.3mg/kgであり、前記維持投与量は18.2mg/kg〜25.9mg/kgであることを特徴とする、(2)に記載のグリコペプチド系抗生物質製剤である。
【0010】
(4)また、本発明は、クレアチニンクリアランスが70mL/分以上の正常な腎機能を持つ心不全患者に対し、初回投与量として20.0mg/kg〜41.7mg/kg投与し、次いで維持投与量として1回あたり14.3mg/kg〜29.8mg/kgを、21.5時間以下の間隔で投与することを特徴とする、前記正常な腎機能を持つ心不全患者を治療するための、塩酸バンコマイシンを有効成分とするグリコペプチド系抗生物質製剤である。
【0011】
(5)また、本発明は、前記初回投与量は25.4mg/kg〜36.3mg/kgであり、前記維持投与量は18.2mg/kg〜25.9mg/kgであることを特徴とする、(4)に記載のグリコペプチド系抗生物質製剤である。
【0012】
(6)また、本発明は、注射剤であることを特徴とする、(1)〜(5)の何れか1項に記載のグリコペプチド系抗生物質製剤である。
【0013】
(7)本発明は、また、前記注射剤は、静脈内注射剤、点滴静脈内注射剤であることを特徴とする、(6)に記載のグリコペプチド系抗生物質製剤である。
【0014】
(8)また、本発明は、塩酸バンコマイシンに感性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌又はペニシリン耐性肺炎球菌に起因する感染症の治療剤であることを特徴とする、(1)〜(7)の何れか1項に記載のグリコペプチド系抗生物質製剤である。
【0015】
(9)また、本発明は、前記塩酸バンコマイシンに感性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に起因する感染症は、敗血症、感染性心内膜炎、外傷、熱傷及び手術創の表在性二次感染、骨髄炎、肺炎、肺膿瘍、膿胸、腹膜炎並びに化膿性髄膜炎からなる群より選択されるうちの少なくとも1つであることを特徴とする、(8)に記載のグリコペプチド系抗生物質製剤である。
【0016】
(10)さらに、本発明は、前記塩酸バンコマイシンに感性のペニシリン耐性肺炎球菌に起因する感染症は、敗血症、肺炎又は化膿性髄膜炎のうちの少なくとも1つであることを特徴とする、(8)に記載のグリコペプチド系抗生物質製剤である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、正常な腎機能又は腎機能障害を持つ心不全患者に対し、クレアチニンクリアランスに応じて適切な投与量及び投与間隔を算出することができる。従って、正常な腎機能又は腎機能障害を持つ心不全患者に対し、適切な治療を可能にするグリコペプチド系抗生物質製剤を製造することができ、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌及びペニシリン耐性肺炎球菌に起因する感染症の治療剤として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、表1に示す患者群を例に挙げて説明する。なお、本実施形態においては、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【表1】

【0019】
まず、表1に示す患者群に対し、(A)身体検査、(B)エックス線、心エコー若しくは放射性核種心室造影による肺うっ血、末梢の浮腫、左心室拡張若しくは機能不全症状が伴う徴候的な運動不耐又は呼吸不全の経歴調査を行い、検査(A)及び調査(B)の結果を用いて心不全の有無によって患者群の分別を行った。これにより、表1に示すとおり、正常な腎機能又は腎機能障害を持つ患者を、心不全患者76名(うち、男性57名、女性19名)と、非心不全患者40名(うち、男性32名、女性8名)とに分別できた。
【0020】
次に、表1の心不全患者群に対し、表2に示す薬物動態パラメータの算出を行った。なお、表2中の各薬物動態パラメータ値として、表1の心不全患者群の平均値を記載した。
【表2】

【0021】
まず、所定量の塩酸バンコマイシンを点滴静注で所定時間投与し、その後、既知の方法で対象患者から必要量の採血を行い、投与後1時間経過後の血中濃度である最高血中濃度(Cmax、μg/mL、以下「ピーク値」という。)及び最低血中濃度(CmIn、μg/mL、以下「トラフ値」という。)を測定した。
【0022】
次に、これらの血中濃度を用いて1−コンパートメントモデル解析を行った。ここで、コンパートメントモデル解析とは、生体の各臓器をまとめて1つの箱と考えて解析する方法であり、生体全体を1つの箱にまとめて解析できる場合を、1−コンパートメントモデルという。本実施例においては、単位時間あたりの血中薬物濃度Cp(μg/mL)を、式(IV)によって表し、初期投与量(mg/kg)をx0、生体内薬物分布の程度を表す仮想上の容積である見かけの分布容積(Vc,L/kg)をVd、単位時間あたりの薬物消失の程度を表す比例定数である消失速度定数をkで示した。
【数4】

【0023】
本実施形態においては、上記のピーク値及びトラフ値を用いた線形回帰から、回帰係(式(IV)の傾き)求め、消失速度定数を算出し、次いで式(V)を用いて各患者の消失半減期(t1/2,時間)を算出した。
【数5】

【0024】
次に、上記の初期投与量、ピーク値及びトラフ値を用い、式(VI)から見かけの分布容積を算出した。
【数6】

【0025】
さらに、上記の消失速度定数及び見かけの分布容積を用い、式(VII)からバンコマイシンクリアランス(Cv,L/時間/kg)を算出した。
【数7】

【0026】
次に、表1の心不全患者群に対し、既知の方法によって血清クレアチニン濃度S(mg/dL)を測定し、さらに、体重X(kg)を測定し、これらの実測値と心不全群の年齢A(歳)とを用いて、クレアチニンクリアランスCcr(mL/分)を算出した。ここで、クレアチニンクリアランスとは、クレアチニンを尿中に排出する効率であり、腎機能の指標として用いられているものである。一般的には、蓄尿せずにクレアチニンクリアランスを推定可能な、式(VIII)で示されるコッククロフト・ゴールト(Cockcroft−Gault)式より算出する。
【数8】

【0027】
なお、男性の血清クレアチニン濃度が0.8mg/dL未満の場合は0.8の値を、女性の血清クレアチニン濃度が0.6mg/dL未満の場合、0.6の値を、その他の場合は測定した血清クレアチニン濃度の値をそのまま使用し、また、女性の場合は、算出したクレアチニンクリアランス値を0.85倍して用いる。なお、BMI(Body Mass Index)が25以上の肥満人の場合は、BMIを22とした理想体重、すなわち、BMI22に身長(m)の二乗を乗じた値を用いて、クレアチニンクリアランス値を算出する。
【0028】
本実施例においては、表1に示す心不全群の血中濃度162点を測定し、これからクレアチニンクリアランスを算出した。なお、表2では、対象患者群を腎機能の程度、すなわちクレアチニンクリアランス値によって分類した。
【0029】
次に、算出した薬物動態パラメータを用い、表1の心不全群及び非心不全群の腎機能による、消失半減期及びバンコマイシンクリアランスの比較解析を行った。これは、クレアチニンクリアランスが腎機能の指標であることから、これと、他の薬物動態パラメータとの比較により、心不全の有無に起因して変動するか否かを判断するものである。
【0030】
本実施例においては、クレアチニンクリアランスと、消失半減期(対数値)又はバンコマイシンクリアランスとを分布させ、これらの相関関係を調べた。その相関図を図1及び図2に示した。これらにより、心不全群が非心不全群に対し、薬物消失時間が長く、バンコマイシンクリアランスが小さいことがわかった。従って、消失半減期及びバンコマイシンクリアランスは、心不全の有無に起因して変動することが示唆された。
【0031】
そこで、検証のために共分散分析により、心不全の有無と消失半減期(対数値)との解析を行い、両パラメータの関係を調べた結果を図3に示した。これにより、クレアチンクリアランス50mL/分以上の腎機能障害患者に関しては、心不全の有無が、塩酸バンコマイシン濃度の消失速度に関与する有意な因子であることがわかった。
【0032】
また、バンコマイシンクリアランスは、式(VII)に示すとおり見かけの分布容積に消失速度定数を乗じた値であり、上記と同様に検証を行ったところ、心不全の有無が、バンコマイシンクリアランスに関与する有意な因子であることがわかった。しかし、
クレアチニンクリアランスと、見かけの分布容積との解析を行い、両パラメータの関係を調べた結果を図4に示したが、これにより、見かけの分布容積は、クレアチニンクリアランスに依存しない、すなわち、塩酸バンコマイシンの投与量は、腎機能に依存しないので、一律に体重あたりで計算可能であることわかった。従って、式(VI)より、塩酸バンコマイシンの投与量は、見かけの分布容量にピーク値とトラフ値の差を乗じて算出することができることが示唆された。
【0033】
ここで、ピーク値とトラフ値の有効域は、一般的に、ピーク値は、60μg/mLを超えないように25μg/mL〜40μg/mLの範囲に、トラフ値は、20μg/mLを超えないように5μg/mL〜15μg/mLの範囲に入るよう、塩酸バンコマイシンの投与量をコントロールすることが推奨されている。よって、ピーク値の有効域の平均値(35μg/mL)に、各患者のバンコマイシンの投与量をピーク値とトラフ値の差で除した平均値を体重あたりに換算した0.881L/kgに体重X(kg)を乗じ、初回投与量Y1(mg/回)を、式(I)で表すことができることが示唆された。
【数9】

【0034】
また、トラフ値の有効域の平均値(10μg/mL)から、ピーク値の有効域の平均値(35μg/mL)まで上昇させるための投与量として、ピーク値とトラフ値の有効域の差(25μg/mL)に、初回投与量と同様の、各患者のバンコマイシンの投与量をピーク値とトラフ値の差で除した平均値を体重あたりに換算した0.881L/kgに体重X(kg)を乗じ、維持投与量Y2(mg/回)を、式(II)で表すことができた。
【数10】

【0035】
なお、クレアチニンクリアランス値と同様、BMI(Body Mass Index)が25以上の肥満人の場合は、BMIを22とした理想体重、すなわち、BMI22に身長(m)の二乗を乗じた値を用いて、上記初回投与量及び維持投与量を算出する。
【0036】
上述したとおり、維持投与量を、トラフ値の有効域の平均値から、ピーク値の有効域の平均値まで上昇させるための投与量としたことから、初回投与量と維持投与量との投与間隔は、ピーク値の有効域の平均値(35μg/mL)から、トラフ値の有効域の平均値(10μg/mL)まで低下させるのに必要な時間であることが必要であることが示唆された。
【0037】
また、上述したとおり、消失半減期は、塩酸バンコマイシン濃度の消失速度に関与する有意な因子であるので、クレアチニンクリアランスと、式(IV)の傾きと式(V)から算出した各患者の投与間隔Z(時間)との相関分析を行い、その結果を表3及び図5に示した。これらにより、累乗型が最も高い相関を示していることがわかった。従って、塩酸バンコマイシンの投与間隔は腎機能に依存することが示唆された。
【表3】

【0038】
以上、本実施形態においては、測定した対象患者の体重及び算出したクレアチニンクリアランスを用い、式(I)〜式(III)から投与量Y1、投与量Y2及び投与間隔Zを決定することができた。
【0039】
よって、本発明のグリコペプチド系抗生物質製剤の投与量は、通常、成人に対し、塩酸バンコマイシンの投与量換算で、初回投与量として20.0mg/kg〜41.7mg/kgを、好ましくは25.4mg/kg〜36.3mg/kgを投与し、次いで維持投与量として1回あたり14.3mg/kg〜29.8mg/kgを、好ましくは18.2mg/kg〜25.9mg/kgを、クレアチニンクリアランスが50mL/分以上70mL/分未満の場合は21.5時間〜28時間の、クレアチニンクリアランスが70mL/分以上の場合は21.5時間以下の間隔で非経口的に投与可能なことがわかった。
【0040】
また、今回、心不全患者と非心不全患者の違いが検定で明確化しなかったが、クレアチニンクリアランスが30mL/分以上50mL/分未満の腎機能障害を持つ心不全患者に対し、初回投与量として20.0mg/kg〜41.7mg/kg投与し、次いで維持投与量として1回あたり14.3mg/kg〜29.8mg/kgを、27.0時間〜41.0時間の間隔で、クレアチニンクリアランスが15mL/分以上30mL/分未満の腎機能障害を持つ心不全患者に対し、初回投与量として20.0mg/kg〜41.7mg/kg投与し、次いで維持投与量として1回あたり14.3mg/kg〜29.8mg/kgを、40.0時間〜68.6時間の間隔で、クレアチニンクリアランスが15mL/分未満の腎機能障害を持つ心不全患者に対し、初回投与量として20.0mg/kg〜41.7mg/kg投与し、次いで維持投与量として1回あたり14.3mg/kg〜29.8mg/kgを、68.5時間以上の間隔で、本発明のグリコペプチド系抗生物質製剤を、正常な腎機能又は腎機能障害を持つ心不全患者を治療するために投与することは差し支えない。
【0041】
なお、患者、疾患の種類、症状の程度、患者の年齢、性差、薬剤に対する感受性差等により、正確な投与量が医師の診断により決定されてもよい。
【0042】
本発明のグリコペプチド系抗生物質製剤は、非経口等により患者に投与することができる。具体的には、注射剤(点滴用注射剤も含む。)等の非固形製剤として投与することができ、注射剤等の液状製剤を製造する場合は塩酸バンコマイシンに、必要に応じてpH調整剤、懸濁化剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、抗酸化剤、保存剤等を添加し、常法により製造することができる。なお、上記非固形製剤は、必要に応じて凍結乾燥物にすることも可能であり、注射剤は静脈等内に投与することができ、その投与方法としては、静脈内注射、点滴静脈内注射等が挙げられる。pH調整剤としては、塩酸、水酸化ナトリウム、乳糖、乳酸、ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等が挙げられ、懸濁化剤としては、メチルセルロース、ポリソルベート80、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等が挙げられ、溶解補助剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等が挙げられ、安定化剤としては、亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウム、エーテル等が挙げられ、等張剤としては、塩化ナトリウム、ぶどう糖等が挙げられ、保存剤としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾール等が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のグリコペプチド系抗生物質製剤は、細菌細胞壁ペプチドグリカンの合成を阻害し、さらに細菌の細胞膜の透過性に変化を与えてRNA合成を阻害して殺菌的抗菌作用を示すので、MRSA、PRSP等に起因する感染症、具体的には、非経口投与、例えば静脈内投与の場合、MRSAに起因する感染症である、敗血症、感染性心内膜炎、外傷、熱傷及び手術創等の表在性二次感染、骨髄炎、肺炎、肺膿瘍、膿胸、腹膜炎、化膿性髄膜炎等の、PRSPに起因する感染症である、敗血症、肺炎、化膿性髄膜炎等の予防及び治療に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】クレアチニンクリアランスと消失半減期(対数値)とを分布させた相関図である。
【図2】クレアチニンクリアランスとバンコマイシンクリアランスとを分布させた相関図である。
【図3】心不全の程度と消失半減期との関係を調べるために解析した結果を示すグラフである。
【図4】クレアチニンクリアランスと見かけの分布容積との関係を調べるために解析した結果を示すグラフである。
【図5】クレアチニンクリアランスと投与間隔との関係を調べるために解析した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレアチニンクリアランスCcrが50(mL/分)以上であって、体重X(kg)の正常な腎機能又は機能障害を持つ心不全患者に対し、数式(I)
【数1】

から算出された投与量Y1(mg/回)を初回に投与し、次いで数式(II)
【数2】

から算出された投与量Y2(mg/回)を、数式(III)
【数3】

から算出された投与間隔Z(時間)で投与することを特徴とする、前記正常な腎機能又は腎機能障害を持つ心不全患者を治療するための、塩酸バンコマイシンを有効成分とするグリコペプチド系抗生物質製剤。
【請求項2】
クレアチニンクリアランスが50mL/分以上70mL/分未満の腎機能障害を持つ心不全患者に対し、初回投与量として20.0mg/kg〜41.7mg/kg投与し、次いで維持投与量として1回あたり14.3mg/kg〜29.8mg/kgを、21.5時間〜28.0時間の間隔で投与することを特徴とする、前記腎機能障害を持つ心不全患者を治療するための、塩酸バンコマイシンを有効成分とするグリコペプチド系抗生物質製剤。
【請求項3】
前記初回投与量は25.4mg/kg〜36.3mg/kgであり、前記維持投与量は18.2mg/kg〜25.9mg/kgであることを特徴とする、請求項2に記載のグリコペプチド系抗生物質製剤。
【請求項4】
クレアチニンクリアランスが70mL/分以上の正常な腎機能を持つ心不全患者に対し、初回投与量として20.0mg/kg〜41.7mg/kg投与し、次いで維持投与量として1回あたり14.3mg/kg〜29.8mg/kgを、21.5時間以下の間隔で投与することを特徴とする、前記正常な腎機能を持つ心不全患者を治療するための、塩酸バンコマイシンを有効成分とするグリコペプチド系抗生物質製剤。
【請求項5】
前記初回投与量は25.4mg/kg〜36.3mg/kgであり、前記維持投与量は18.2mg/kg〜25.9mg/kgであることを特徴とする、請求項4に記載のグリコペプチド系抗生物質製剤。
【請求項6】
注射剤であることを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載のグリコペプチド系抗生物質製剤。
【請求項7】
前記注射剤は、静脈内注射剤、点滴静脈内注射剤であることを特徴とする、請求項6に記載のグリコペプチド系抗生物質製剤。
【請求項8】
塩酸バンコマイシンに感性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌又はペニシリン耐性肺炎球菌に起因する感染症の治療剤であることを特徴とする、請求項1〜7の何れか1項に記載のグリコペプチド系抗生物質製剤。
【請求項9】
前記塩酸バンコマイシンに感性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に起因する感染症は、敗血症、感染性心内膜炎、外傷、熱傷及び手術創の表在性二次感染、骨髄炎、肺炎、肺膿瘍、膿胸、腹膜炎並びに化膿性髄膜炎からなる群より選択されるうちの少なくとも1つであることを特徴とする、請求項8に記載のグリコペプチド系抗生物質製剤。
【請求項10】
前記塩酸バンコマイシンに感性のペニシリン耐性肺炎球菌に起因する感染症は、敗血症、肺炎又は化膿性髄膜炎のうちの少なくとも1つであることを特徴とする、請求項8に記載のグリコペプチド系抗生物質製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−273858(P2008−273858A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117387(P2007−117387)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】