説明

正極板及びその製造方法

【課題】固形分率が高い正極用ペーストを用いて正極合材層の密着性が高く且つ品質が向上した正極板を提供すること。
【解決手段】正極板1は、正極芯材10の表面に正極活物質と炭素系導電材とを含む正極合材層20が形成されているものである。正極合材層20は、炭素系導電材を分散させる分散剤として高分子ポリマー型分散剤と顔料誘導体型分散剤とを含む正極用ペーストが、正極芯材10の表面に塗布されて乾燥したものである。この正極板1によれば、分散剤として高分子ポリマー型分散剤を用いているため、正極合材層20と正極芯材10との密着性が向上する。また、分散剤として顔料誘導体型分散剤を用いているため、正極用ペーストの粘度を大きく下げることができる。言い換えると、溶媒の量を増やして正極用ペーストの粘度を低下させる必要がなく、正極用ペーストの固形分率を上げることができる。この結果、正極板1の品質が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極芯材の表面に正極合材層が形成されている正極板、及びその製造方法に関し、特に、導電材を分散させる分散剤を含む正極用ペーストが塗布されて乾燥することで正極合材層が形成されている正極板、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池は、携帯電話やパーソナルコンピュータ等の電子機器、ハイブリッド自動車や電気自動車等の車両等、多岐にわたる分野で利用されている。この二次電池には、例えばリチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池では、エネルギー密度が高く、メモリ効果がない。従って、各種の機器に搭載する上で好適である。
【0003】
このリチウムイオン二次電池は、主に正極板、負極板、これら正極板と負極板とを絶縁するためのセパレータ、非水電解液等を備えている。ここで、正極板は、正極芯材の表面に正極合材層が形成されたものであり、正極合材層は、正極活物質と導電材と結着材等を含む正極用ペーストが正極芯材の表面に塗布されて乾燥することで、形成されている。この正極板の製造方法として、例えば下記特許文献1に記載されたものがある。
【0004】
下記特許文献1に記載された正極板の製造方法では、先ず、導電材を分散させる分散剤として高分子ポリマー型分散剤であるポリビニルピロリドンを用いて、カーボンブラック(導電材)を溶媒中に分散させて、カーボンブラック含有分散液を作成している。そして、このカーボンブラック含有分散液に正極活物質と結着材とを混練して正極用ペーストを作成し、この正極用ペーストを正極芯材の表面に塗布して乾燥させるようになっている。
【0005】
この製造方法では、分散剤(ポリビニルピロリドン)によって、カーボンブラックが凝集することを防止できる。そして、高分子ポリマー型分散剤であるポリビニルピロリドンは、接着剤の主成分として使われていること等から分かるように、密着性を向上させるものである。このため、正極用ペースト、つまり正極用ペーストが乾燥して形成された正極合材層と正極芯材との密着性を向上させることができる。この結果、正極合材層が正極芯材から剥離することを防止でき、剥離に基づく電池容量の低下やIV抵抗の増加といった電池の品質低下を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−281096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、正極用ペーストにおいては、固形分率(ペースト全体に対する固形分の割合)が高いことが望まれている。これは以下の理由に基づく。固形分率が低い場合、正極用ペーストの溶媒の量が多くなり、正極用ペーストを乾燥させる乾燥炉の長さが大きくなる。この結果、設備投資の費用が大きくなるという問題がある。また、溶媒の量が多い場合、溶媒が乾燥する過程で結着材(PVDF等)が浮き上がる現象(マイグレーション)が生じ、結着材が塗膜の表面付近に偏析し易くなる。この結果、正極合材層の品質が低下するという問題がある。こうして、固形分率を上げる、即ち溶媒の量を減らすことで、設備投資の費用を小さくできるとともに、正極用ペーストの乾燥をマイルドにできて正極板(正極合材層)の品質を向上させることができる。
【0008】
上記した正極用ペーストの要望に対して、上記特許文献1に記載された正極板の製造方法では以下の問題点がある。即ち、分散剤としてポリビニルピロリドン(高分子ポリマー型分散剤)を用いる場合、正極用ペーストの粘度の低下が小さい。このため、正極用ペーストの塗工性に支障がない程度にまで粘度を低下させるには、溶媒の量を増やして、固形分率を下げる必要があった。こうして、分散剤としてポリビニルピロリドンを用いた場合、固形分率を上げることができず、結果として設備投資の費用を小さくできず、且つ正極板(正極合材層)の品質が低下するおそれがあった。
【0009】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、固形分率が高い正極用ペーストを用いて正極合材層の密着性が高く且つ品質が向上した正極板、及びその正極板を製造するための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一態様における正極板は、正極芯材の表面に正極活物質と炭素系導電材とを含む正極合材層が形成されているものであって、前記正極合材層は、前記炭素系導電材を分散させる分散剤として高分子ポリマー型分散剤と顔料誘導体型分散剤とを含む正極用ペーストが、前記正極芯材の表面に塗布されて乾燥したものであることを特徴とする。
【0011】
この場合には、分散剤として高分子ポリマー型分散剤を用いることで、正極合材層と正極芯材との密着性を向上させることができる。また、分散剤として顔料誘導体型分散剤を用いることで、正極用ペーストの粘度を大きく下げることができる。言い換えると、溶媒の量を増やして正極用ペーストの粘度を低下させる必要がなく、正極用ペーストの固形分率を上げることができる。この結果、正極用ペーストを乾燥させる乾燥炉の長さを短くして、設備投資の費用を小さくすることができるとともに、溶媒が乾燥する過程で結着材が浮き上がる現象(マイグレーション)が生じ難くて、正極板(正極合材層)の品質を向上させることができる。こうして、本発明の正極板によれば、固形分率が高い正極用ペーストを用いて正極合材層の密着性が高く且つ品質が向上したものになる。
【0012】
また、本発明の上記態様における正極板において、前記高分子ポリマー型分散剤は、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールの何れかの基本樹脂骨格を有するものであることが好ましい。上記した高分子ポリマー型分散剤は、導電材を分散させる効果が比較的高いためである。また、正極用ペーストの粘度を下げつつ、正極合材層の密着性を大きく向上させることができるためである。
【0013】
また、本発明の上記態様における正極板において、前記正極用ペーストに含まれる顔料誘導体型分散剤の高分子ポリマー型分散剤に対する重量比は、3分の1以上であり且つ3以下であることが好ましい。顔料誘導体型分散剤及び高分子ポリマー型分散剤のメリットをバランス良く得ることができるためである。即ち、正極用ペーストの粘度の低下を大きくすることができるとともに、正極合材層の密着性を大きく向上させることができるためである。
【0014】
また、本発明の上記態様における正極板において、前記高分子ポリマー型分散剤の分子量は、10000以上であり且つ200000以下であることが好ましい。高分子ポリマー型分散剤を用いるメリットとデメリットとのバランスがとれ、正極用ペーストの粘度を低い値に維持しつつ、正極合材層の密着性を向上させることができるためである。
【0015】
また、本発明の上記態様における正極板において、前記炭素系導電材は、アセチレンブラック、黒鉛、ケッチェンブラックの何れかを含むものであることが好ましい。他の炭素系導電材に比べて、純度が高くて(不純物が少なくて)、導電性が高くなるためである。
【0016】
本発明の第二態様における正極板の製造方法は、正極芯材の表面に正極活物質と炭素系導電材とを含む正極合材層を形成する方法であって、導電材を分散させる分散剤として高分子ポリマー型分散剤と顔料誘導体型分散剤とを用いて、前記炭素系導電材を溶剤中に分散させて導電材分散液を作成し、この導電材分散液に前記正極活物質と結着材とを混練して正極用ペーストを作成し、この正極用ペーストを正極芯材の表面に塗布して乾燥させることで前記正極合材層を形成することを特徴とする。
【0017】
この場合には、高分子ポリマー型分散剤を含む導電材分散液を作成することで、正極合材層と正極芯材との密着性を向上させることができる。また、顔料誘導体型分散剤を含む導電材分散液を作成することで、正極用ペーストの粘度を大きく下げることができる。言い換えると、溶媒の量を増やして正極用ペーストの粘度を低下させる必要がなく、正極用ペーストの固形分率を上げることができる。この結果、正極用ペーストを乾燥させる乾燥炉の長さを短くして、設備投資の費用を小さくすることができるとともに、溶媒が乾燥する過程で結着材が浮き上がる現象(マイグレーション)が生じ難くて、正極板(正極合材層)の品質を向上させることができる。こうして、本発明の正極板の製造方法によれば、固形分率が高い正極用ペーストを用いて正極合材層の密着性が高く且つ品質が向上した正極板を製造することができる。
【0018】
また、本発明の上記態様における正極板の製造方法において、前記高分子ポリマー型分散剤は、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールの何れかの基本樹脂骨格を有するものであることが好ましい。上記した高分子ポリマー型分散剤は、導電材を分散させる効果が比較的高いためである。また、正極用ペーストの粘度を下げつつ、正極合材層の密着性を大きく向上させることができるためである。
【0019】
また、本発明の上記態様における正極板の製造方法において、前記正極用ペーストに含まれる顔料誘導体型分散剤の高分子ポリマー型分散剤に対する重量比は、3分の1以上であり且つ3以下であることが好ましい。顔料誘導体型分散剤及び高分子ポリマー型分散剤のメリットをバランス良く得ることができるためである。即ち、正極用ペーストの粘度の低下を大きくすることができるとともに、正極合材層の密着性を大きく向上させることができるためである。
【0020】
また、本発明の上記態様における正極板の製造方法において、前記高分子ポリマー型分散剤の分子量は、10000以上であり且つ200000以下であることが好ましい。高分子ポリマー型分散剤を用いるメリットとデメリットとのバランスがとれ、正極用ペーストの粘度を比較的低い値に維持しつつ、正極合材層の密着性を向上させることができるためである。
【0021】
また、本発明の上記態様における正極板の製造方法において、前記炭素系導電材は、アセチレンブラック、黒鉛、ケッチェンブラックの何れかを含むものであることが好ましい。他の炭素系導電材に比べて、純度が高くて(不純物が少なくて)、導電性が高くなるためである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、固形分率が高い正極用ペーストを用いて正極合材層の密着性が高く且つ品質が維持された正極板、及びその正極板を製造するための製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態に係る正極板の概略的な構成を示した斜視図である。
【図2】実施例1〜11及び比較例1,2の正極板について評価結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る正極板及びその製造方法について、図面を参照しながら以下に説明する。図1は、本実施形態に係る正極板1の概略的な構成を示した斜視図である。この正極板1は、リチウムイオン二次電池の構成部材であり、図示しない負極板とセパレータとによってリチウムイオン二次電池の電極体を構成するものである。
【0025】
正極板1は、図1に示すように、帯状のアルミ箔である正極芯材10とこの正極芯材10の両面に形成された正極合材層20とを有している。正極合材層20は、正極芯材10の表面に塗布された正極用ペーストが乾燥して形成された層である。正極用ペーストは、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質の他に、導電材、結着材、増粘材、分散剤等を溶媒に含むものである。
【0026】
正極活物質として、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn24)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、LiNi1/3Co1/3Mn1/32等のリチウム複合酸化物等が用いられる。導電材として、カーボン粉末やカーボンファイバー等の炭素系導電材が用いられる。例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、グラファイト粉末等の黒鉛である。
【0027】
結着材は、電解液に不溶性(又は難溶性)であって、正極用ペーストに用いる溶媒に分散するポリマーであると良い。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂、酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)、アラビアゴム等のゴムを用いることができる。又は、これらの組み合わせを用いても良い。但し、結着材は、必ずしも上記のポリマーに限定されるものではない。
【0028】
増粘材として、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)等のセルロースを用いることができる。但し、増粘材は、必ずしも上記したセルロースに限定されるものではない。溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられる。その他に、ジメチルホルムアミド、水を用いても良い。また、その他のアルコールや低級ケトンを用いても良い。
【0029】
ところで、本実施形態の正極用ペースト(正極合材層20)は、上記した炭素系導電材が凝集することを防止するために、炭素系導電材を分散させる分散剤を含むものである。そして、特に分散剤は、高分子ポリマー型分散剤と顔料誘導体型分散剤との複合物である点に特徴がある。高分子ポリマー型分散剤と顔料誘導体型分散剤とを用いる理由については、後述する。
【0030】
高分子ポリマー型分散剤として、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、ポリエチルアクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリプロピルアクリレート、ポリプロピルメタクリレート、ポリイソプロピルアクリレート、ポリイソプロピルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリヘキシルアクリレート、ポリヘキシルメタクリレート、ポリエチルヘキシルアクリレート、ポリエチルヘキシルメタクリレート、ポリラウリルアクリレート、ポリラウリルメタクリレートが用いられる。但し、高分子ポリマー型分散剤は、必ずしも上記したものに限定されるものではない。
【0031】
顔料誘導体型分散剤として、オキサジン顔料誘導体、モノアゾ顔料誘導体、ジアゾ顔料誘導体、アゾメチン顔料誘導体、ジケトピロロピロール顔料誘導体、アントラキノン顔料誘導体、ペリノン顔料誘導体、ペリレン顔料誘導体、キナクリドン顔料誘導体、インジゴイド顔料誘導体、ジオキサジン顔料誘導体、キサンテン顔料誘導体、イソインドリノン顔料誘導体、キノフタロン顔料誘導体、イソインドリン顔料誘導体、アントロン顔料誘導体、フタロシアニン顔料誘導体が用いられる。但し、顔料誘導体型分散剤は、必ずしも上記したものに限定されるものではない。この顔料誘導体型分散剤は、ポリマーではない低分子の分散剤である。なお、顔料誘導体(シナジスト)とは、顔料の分散性を高める効果を有するものであり、顔料と結晶構造が似ていて、特異的な官能基を有するものである。
【0032】
ここで、分散剤として高分子ポリマー型分散剤のみを用いた場合について説明する。高分子ポリマー型分散剤は、アルミ箔である正極芯材10との相性が良い。このため、正極用ペースト、つまり正極用ペーストが乾燥して形成された正極合材層20と正極芯材10との密着性が向上するというメリットがある。
【0033】
しかし、正極用ペーストが高分子ポリマー型分散剤を含む場合、正極用ペーストの粘度が低下し難い。このため、正極用ペーストの塗工性に支障がない程度にまで粘度を低下させるには、溶媒の量を増やして、正極用ペーストの固形分率(ペースト全体に対する固形分の割合)を下げる必要がある。この結果、正極用ペーストを乾燥させる乾燥炉の長さが大きくなり、設備投資の費用が大きくなるというデメリットがある。また、固形分率が低いことによって、溶媒が乾燥する過程で結着材が浮き上がる現象(マイグレーション)が生じ、結着材が正極合材層20の表面に偏析し易くなる。この結果、正極板1(正極合材層20)の品質が低下するというデメリットがある。
【0034】
次に、分散剤として顔料誘導体型分散剤のみを用いた場合について説明する。顔料誘導体型分散剤は、導電材の周りに吸着し、且つ溶媒との相性が良い。このため、顔料誘導体型分散剤が吸着した導電材は溶媒に対して滑り易くなり、導電材同士がロックするような絡み合いが防止される。これにより、正極用ペーストの粘度を大きく低下させることができる。言い換えると、溶媒の量を増やして粘度を低下させる必要がないため、正極用ペーストの固形分率を上げることができる。この結果、乾燥炉の長さを短くして設備投資の費用を小さくすることができるというメリットがある。また、正極用ペーストの乾燥がマイルドになり、マイグレーションが生じ難く、正極板1(正極合材層20)の品質が向上するというメリットがある。
【0035】
しかし、正極用ペーストが顔料誘導体型分散剤を含む場合、顔料誘導体型分散剤が結着材による密着力を阻害する。このため、正極用ペースト、つまり正極用ペーストが乾燥して形成された正極合材層20と正極芯材10との密着性が低下するというデメリットがある。なお、正極合材層20と正極芯材10との密着性が低い場合、正極合材層20が剥離するおそれがあり、電池容量の低下やIV抵抗の増加といった電池の品質低下の原因となるため好ましくない。
【0036】
そこで、本実施形態のように、分散剤として高分子ポリマー型分散剤と顔料誘導体型分散剤とを用いた場合、高分子ポリマー型分散剤のメリットが顔料誘導体型分散剤のデメリットを打ち消すことができ、顔料誘導体型分散剤のメリットが高分子ポリマー型のデメリットを打ち消すことができる。即ち、高分子ポリマー型分散剤によって、正極合材層20と正極芯材10との密着性を向上させることができる。また、顔料誘導体型分散剤によって、溶媒の量を増やして正極用ペーストの粘度を低下させる必要がなく、正極用ペーストの固形分率を上げることができる。この結果、上述したように、乾燥炉の長さを短くして設備投資の費用を小さくすることができるとともに、正極板1(正極合材層20)の品質を向上させることができる。こうして、本実施形態の正極板1は、固形分率が高い正極用ペーストを用いて正極合材層20の密着性が高く且つ品質が向上したものになる。
【0037】
次に、この正極板1の製造方法について説明する。先ず、上記した導電材と、上記した高分子ポリマー型分散剤と顔料誘導体型分散剤との複合物と、上記した溶媒とをビーズミルのシリンダの中に送り込む。そして、ビーズミルは、上記した粉体(微粒子)をビーズと呼ばれる球体の媒体を用いて、細かく粉砕又は分散させる。この結果、導電材は、ビーズの衝突力やせん断力及び分散剤の効果によって、目的の粒子径まで分散する。こうして、導電材分散液が作成される。なお、分散とは、導電材の凝集した粒子をほぐして均一に散らばらせることを意味する。
【0038】
続いて、この導電材分散液と、上記した正極活物質と、上記した結着材とを混練機の中に送り込む。そして、導電材分散液と正極活物質と結着材とが混練機の撹拌翼によって混練・撹拌される。こうして、正極用ペーストが作成される。この正極用ペーストの固形分率、即ち正極活物質、導電材、結着材、分散剤(固形分)のペースト全体に対する重量比は、従来に比して高い値である約65%に設定される。また、正極用ペーストの粘度は、塗工性に支障が出ない程度である約3000mPa・sに設定される。
【0039】
最後に、ダイ塗工装置が、スリットから正極用ペーストを送り出し、ローラで搬送される正極芯材10の表面に正極用ペーストを塗布する。そして、正極芯材10は乾燥炉を通り、正極用ペーストが乾燥炉の熱風によって乾燥する。こうして、正極芯材10の表面に正極合材層20が形成された正極板1が製造される。
【0040】
この正極板1の製造方法によれば、上述した正極板1の作用効果と同様、正極合材層20と正極芯材10との密着性を向上させることができる。また、正極用ペーストの固形分率を上げることができ、乾燥炉の長さを短くして設備投資の費用を小さくすることができる。具体的に、従来に比べて約6000万円の設備投資額を削減できる。また、固形分率が上がる、言い換えると、溶媒の量が少なくなるため、正極用ペーストの材料費が安くなる。その結果、従来に比べて約0.5円/Whの塗工コストを削減できる。
【0041】
ここで、本実施形態の正極板1及びその製造方法において、高分子ポリマー型分散剤は、上記したもののうち、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールの何れかの基本骨格を有するものであることが好ましい。これらは、導電材を分散させる効果が比較的高いためである。また、正極用ペーストの粘度を下げつつ、正極合材層20の密着性を大きく向上させることができるためである。
【0042】
なお、例えばポリビニルブチラール(PVB)は、水酸基とアセチル基とブチラール基のランダム共重合体であり、3つのモノマーがランダムにつながっているものである。仮にこのポリビニルブチラールに別の物質を入れて、4つのモノマーでランダム共重合体を作ると、所謂ポリビニルブチラールではなくなるが、上記したポリマー型分散剤の効果を有する。よって、ポリビニルブチラールの基本骨格を有するものとは、ポリビニルブチラールの他に、ポリビニルブチラールに別の物質を入れて作成されたランダム共重合体を含む意味である。
【0043】
また、本実施形態の正極板1及びその製造方法において、炭素系導電材は、上記したもののうち、アセチレンブラック、黒鉛、ケッチェンブラックの何れかを含むものであることが好ましい。他の炭素系導電材に比べて、純度が高くて(不純物が少なくて)、導電性が高くなるためである。
【0044】
以上、本発明に係る正極板及びその製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
本実施形態では、アルミニウムで構成された正極芯材10を用いた。しかしながら、正極芯材10は、ステンレス鋼、チタン、銅等から構成されていても良い。
また、本実施形態では、ビーズミルを用いて導電材分散液を作成した。しかしながら、導電材分散液を作成する装置はビーズミルに限られるものではなく、適宜変更可能であり、高圧ジェットミルであっても良い。
また、本実施形態では、ダイ塗工装置を用いて正極芯材10の表面に正極用ペーストを塗布した。しかしながら、正極用ペーストを塗布する装置は、ダイ塗工装置に限定されるものではなく適宜変更可能であり、グラビア塗工装置やスプレー装置であっても良い。
【実施例】
【0045】
次に、実施例1〜11及び比較例1,2の正極板を上述したように製造して、粘度(mPa・s)、粒サイズ(μm)、密着性(N/m)、IV抵抗(mΩ)の評価を行った。これらの評価結果を図2に示す。実施例1の正極板は、以下に示す材料を用いて製造されている。
<実施例1の正極板>
正極芯材=アルミ箔
正極活物質=NCM三元系(LiNi1/3Co1/3Mn1/32
炭素系導電材=アセチレンブラック(デンカブラック)
結着材=PVdF
溶媒=NMP
高分子ポリマー型分散剤=ポリビニルブチラール(積水化学工業製)
顔料誘導体型分散剤=オキサジン誘導体
【0046】
導電材分散液を作成する装置として、ビーズミル(アシザワファインテック株式会社製)を用いた。また、正極用ペーストを作成する装置として、高せん断ホモジナイザー(ジャパンマシナリー株式会社製)を用いた。正極用ペーストの仕様は以下の通りである。
固形分の組成比(wt%)=正極活物質:導電材:結着材:分散剤=92.8:4:3:0.2
固形分率=65%
顔料誘導体型分散剤の高分子ポリマー型分散剤に対する重量比(以下、「分散剤重量比」と呼ぶ)=0.18/0.02=9
【0047】
続いて、実施例2〜11の正極板及び比較例1,2の正極板について説明する。
<実施例2〜実施例5の正極板>
図2に示すように、分散剤重量比が異なること以外、実施例1の正極板と同様の構成である。
<実施例6〜実施例11の正極板>
図2に示すように、分散剤重量比が1であり、高分子ポリマー型分散剤の分子量(以下、「ポリマー分子量」と呼ぶ)が異なること以外、実施例1の正極板の構成と同様である。
<比較例1の正極板>
図2に示すように、分散剤として顔料誘導体型分散剤のみを用いたこと以外、実施例1の正極板の構成と同様である。
<比較例2の正極板>
図2に示すように、分散剤として高分子ポリマー型分散剤のみを用いたこと以外、実施例1の正極板の構成と同様である。
【0048】
ここで、高分子ポリマー型分散剤の分子量は、クロマトグラフィー法(GPC法)又は粘度法で測定されたものである。なお、クロマトグラフィー法は、高分子の溶液が分子の大きさによって流れる時間が異なることを利用した分子量測定方法である。また、粘度法は、高分子の溶液の粘度が平均分子量の関数であることを利用した分子量測定方法である。
【0049】
図2に示した評価項目において、正極用ペースト粘度は、レオメータを用いて測定されたものである。粘度は、正極用ペーストが塗工性に支障が出ないかを見る指標であり、固形分率が65%である場合、5000mPa・s以下であると良く、特に3500mPa・s以下であることが好ましい。正極用ペーストに含まれる粒子(導電材)の粒サイズは、グラインドメータを用いて測定されたものである。粒サイズは、凝集物が形成されることを防止する分散剤としての機能が発揮されているかを見る指標であり、65μm以下であることであることが好ましい。
【0050】
また、図2に示した評価項目において、正極合材層と正極芯材との密着性は、剥離強度測定機を用いて測定されたものである。密着性、即ち密着強度は、1.1N/m以上であると良く、特に1.5N/m以上であることが好ましい。IV抵抗は、実施例1〜11及び比較例1,2の正極板を用いて作成された電池に対して、充放電機を用いて測定されたものである。IV抵抗は、2.6mΩ以下であると良く、特に2.4mΩ以下であることが好ましい。
【0051】
図2に示した評価結果について説明する。実施例1では、分散剤重量比が大きい、即ち顔料誘導体型分散剤が多く含まれ、高分子ポリマー型分散剤がほとんど含まれていない。この場合、粘度の低下は大きいが、密着性の増加は小さい。これに対して、実施例2〜4では、分散剤重量比が3分の1以上であり且つ3以下である。この場合、粘度の低下が大きく且つ密着性の増加が大きい。一方、実施例5では、分散剤重量比が小さい、即ち顔料誘導体型分散剤がほとんど含まれておらず、高分子ポリマー型分散剤が多く含まれている。この場合、密着性の増加は大きいが、粘度の低下は小さい。従って、実施例1〜5の評価結果から、分散剤重量比が3分の1以上であり且つ3以下ある場合、顔料誘導体型分散剤及び高分子ポリマー型分散剤のメリットをバランス良く得ることができる。即ち、正極用ペーストの粘度の低下を大きくすることができるとともに、正極合材層の密着性を大きく向上させることができると言える。
【0052】
実施例6のようにポリマー分子量が8000である場合、密着性の増加が小さく、高分子ポリマー型分散剤を用いるメリットが殆ど表れていない。これに対して、実施例7〜9のようにポリマー分子量が14000〜160000である場合、密着性の増加が大きくて、高分子ポリマー型分散剤を用いるメリットが大きく表れるとともに、粘度が比較的小さくて、高分子ポリマー型分散剤を用いるデメリットが殆ど表れていない。一方、実施例10のようにポリマー分子量が2300000である場合、密着性の増加が大きいが、粘度が比較的大きくて、高分子ポリマー型分散剤を用いるデメリットが表れてくる。そして、実施例11のようにポリマー分子量が420000である場合、粘度が大きくて、高分子ポリマー型分散剤を用いるデメリットが大きく表れてくる。従って、実施例6〜11の評価結果から、ポリマー分子量が10000以上であり且つ200000以下である場合、高分子ポリマー型分散剤を用いるメリットとデメリットとのバランスがとれ、正極用ペーストの粘度を低い値に維持しつつ、正極合材層の密着性を向上させることができると言える。
【0053】
次に、比較例1,2について説明する。比較例1のように顔料誘導体型分散剤のみ用いる場合、粘度の低下は大きいが、密着性が極めて低い。一方、比較例2のように高分子ポリマー型分散剤のみを用いる場合、密着性は大きいが、粘度の値が極めて大きい。従って、顔料誘導体型分散剤及び高分子ポリマー分散剤の何れか一方を用いる場合、正極用ペーストの粘度の低下と密着性の向上との両立を図ることができないと言える。
【0054】
また、実施例1〜11、比較例1,2において、粒サイズは55〜65μmであるため、顔料誘導体型分散剤、高分子ポリマー型分散剤は、凝集物が形成されることを防止する分散剤としての機能を十分発揮していると言える。そして、実施例5を除く実施例1〜11において、IV抵抗が2.4mΩ以下であり、実施例5においてIV抵抗が2.6mΩであるため、実施例1〜11の正極板を用いた電池はその特性が十分保たれていると言える。
【符号の説明】
【0055】
1 正極板
10 正極芯材
20 正極合材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極芯材の表面に正極活物質と炭素系導電材とを含む正極合材層が形成されている正極板において、
前記正極合材層は、前記炭素系導電材を分散させる分散剤として高分子ポリマー型分散剤と顔料誘導体型分散剤とを含む正極用ペーストが、前記正極芯材の表面に塗布されて乾燥したものであることを特徴とする正極板。
【請求項2】
請求項1に記載された正極板において、
前記高分子ポリマー型分散剤は、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールの何れかの基本骨格を有するものであることを特徴とする正極板。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された正極板において、
前記正極用ペーストに含まれる顔料誘導体型分散剤の高分子ポリマー型分散剤に対する重量比は、3分の1以上であり且つ3以下であることを特徴とする正極板。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載された正極板において、
前記高分子ポリマー型分散剤の分子量は、10000以上であり且つ200000以下であることを特徴とする正極板。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載された正極板において、
前記炭素系導電材は、アセチレンブラック、黒鉛、ケッチェンブラックの何れかを含むものであることを特徴とする正極板。
【請求項6】
正極芯材の表面に正極活物質と炭素系導電材とを含む正極合材層を形成する正極板の製造方法において、
導電材を分散させる分散剤として高分子ポリマー型分散剤と顔料誘導体型分散剤とを用いて、前記炭素系導電材を溶剤中に分散させて導電材分散液を作成し、
この導電材分散液に前記正極活物質と結着材とを混練して正極用ペーストを作成し、
この正極用ペーストを正極芯材の表面に塗布して乾燥させることで前記正極合材層を形成することを特徴とする正極板の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載された正極板の製造方法において、
前記高分子ポリマー型分散剤は、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールの何れかの基本骨格を有するものであることを特徴とする正極板の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載された正極板の製造方法において、
前記正極用ペーストに含まれる顔料誘導体型分散剤の高分子ポリマー型分散剤に対する重量比は、3分の1以上であり且つ3以下であることを特徴とする正極板の製造方法。
【請求項9】
請求項6乃至請求項8の何れかに記載された正極板の製造方法において、
前記高分子ポリマー型分散剤の分子量は、10000以上であり且つ200000以下であることを特徴とする正極板の製造方法。
【請求項10】
請求項6乃至請求項9の何れかに記載された正極板の製造方法において、
前記炭素系導電材は、アセチレンブラック、黒鉛、ケッチェンブラックの何れかを含むものであることを特徴とする正極板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−89485(P2013−89485A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229701(P2011−229701)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】