説明

正極活物質及びこの正極活物質を用いた非水電解質二次電池

【課題】安全性の向上を図りつつ、放電容量を飛躍的に増大させることができる正極活物質及びこの正極活物質を用いた非水電解質二次電池を提供することを目的としている。
【解決手段】組成式LiMn1−xNiSiO(0<x≦0.25)で表されるリチウム遷移金属化合物が含まれていることを特徴とする。また、正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池において、上記正極活物質には、組成式LiMn1−xNiSiO(0<x≦0.25)で表されるリチウム遷移金属化合物が含まれていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性の向上を図りつつ放電容量を飛躍的に向上させることができる正極活物質、及びこの正極活物質を用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の小型・軽量化が急速に進展しており、その駆動電源としての電池にはさらなる高容量化が要求されている。充放電に伴い、リチウムイオンが正、負極間を移動することにより充放電を行う非水電解質二次電池は、高いエネルギー密度を有し、高容量であるので、上記のような移動情報端末の駆動電源として広く利用されている。
【0003】
ここで、上記移動情報端末は、動画再生機能、ゲーム機能といった機能の充実に伴って、更に消費電力が高まる傾向にあり、その駆動電源である非水電解質二次電池には長時間再生や出力改善等を目的として、更なる高容量化や高性能化が強く望まれるところである。加えて、非水電解質二次電池は上記用途のみならず、電動工具やアシスト自転車、更にはHEV等の用途への展開も期待されおり、このような新用途に対応するためにも更なる高容量化や高性能化が強く望まれるところである。
【0004】
ここで、上記非水電解質二次電池の高容量化を図るためは、正極の高容量化が必須であり、正極材料として、組成式LiMSiO(M=遷移金属)で表される非水電解質二次電池用正極材料が提案されている。この正極材料は単位式あたり2つのリチウムを有しており、充放電の際に挿入脱離可能なリチウムは単位式あたり2であることから、理論容量は300mAh/gを超える。また、当該正極材料は高温においても酸素を放出することがなく、熱安定性に優れる。
【0005】
上記LiMSiOを正極活物質に用いることで安全性の高い、高容量の電池が作製可能となることから注目されているが、LiMSiOは導電性が低い。このため、上記の如く理論上は高容量化を図ることが可能となるが、実際は、正極活物質の利用率が不十分となって、所望の放電容量が得られないという課題があった。
【0006】
ここで、上記LiMSiOの例として、オルトシリケート構造に基づき、以下の一般式を有するリチウム挿+入型の電極材料が提案されている(下記特許文献1参照)。
Lim−(d+t+q+r)[SiO]1−(p+s+g+v+a+b)[SO[PO[GeO[VO[AlO[BO
【0007】
上記式中、MはMn2+又はFe2+及びその混合物を意味し、DはNi2+等であることから、上記一般式には、LiMn1−xNiSiOで表される化合物が含まれているといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−266882公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に実施例として具体的に記載された化合物は、LiMnSiO、LiFeSiO、Li1.9Mn0.8Ti0.1SiO、Li1.7Mn0.7Fe0.3Si0.70.3のみである。しかも、これらをそれぞれ合成したことが記載されているだけであって、このように組成を相違させることによって、どのような特性においてどのような差異が生じるかについての記載は全くない。加えて、LiMnSiOの一部をNiで置換することやその置換量についてもなんら記載されていない。したがって、上記特許文献1に記載された発明では、正極活物質の導電性を向上させることができず、正極活物質の利用率が不十分となって、所望の放電容量を得ることができない。
【0010】
そこで本発明は、LiMnSiOの一部をNiで置換することや、その置換量について詳細に検討することにより、安全性の向上を図りつつ放電容量を飛躍的に増大させることができる正極活物質及びこの正極活物質を用いた非水電解質二次電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明は、組成式LiMn1−xNiSiO(0<x≦0.25)で表されるリチウム遷移金属化合物が含まれていることを特徴とする。
上述の如く、LiMnSiOは導電性が低く、十分な放電容量が得られないという課題があった。そこで、上記構成の如く、LiMnSiOにおけるMnの一部をNiで置換すれば、バルクの導電性が向上するので、正極活物質の利用率が向上する。したがって、単位重量あたりの放電容量が飛躍的に増加する。尚、xの値を0.25以下に規制するのは、xの値が0.25を超えると、単位重量あたりの放電容量が低下するからである。この理由としては、ニッケル置換量が過多になると、電気化学的に不活性なニッケル化合物の量が多くなることに起因するものと考えられる。
【0012】
上記xの値が0.05≦x≦0.2であることが望ましい。
このような範囲に規制すれば、バルクの導電性を十分に向上させつつ、ニッケル置換量が過多となるのを抑制できるため、単位重量あたりの放電容量が一層増加する。
【0013】
また、上記目的を達成するために本発明は、正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池において、上記正極活物質には、組成式LiMn1−xNiSiO(0<x≦0.25)で表されるリチウム遷移金属化合物が含まれていることを特徴とする。また、上記xの値が0.05≦x≦0.2であることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安全性の向上を図りつつ放電容量を飛躍的に増大させることができるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】LiMn1−xNiSiOにおけるxの値と初期放電容量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明に係る非水電解質二次電池を、以下に説明する。尚、この発明における非水電解質二次電池は、下記の形態に示したものに限定されず、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0017】
組成式LiMn0.9Ni0.1SiOで示される正極活物質を、下記に示すゾルゲル法により合成した。
先ず、ヒュームドシリカ0.0375モルに純水375mlを加えて、超音波処理を1時間行った後、これにクエン酸0.0125モルとエチレングリコール0.0375モルとを加えた〔以下、この溶液を溶液aと称する〕。
【0018】
これと並行して、以下に示す3つの溶液を作製した。
(1)100mlの純水中に酢酸リチウムを0.075モル溶解させた溶液〔以下、この溶液を溶液bと称する〕。
(2)90mlの純水中に酢酸マンガンを0.03375モル溶解させた溶液〔以下、この溶液を溶液cと称する〕。
(3)10mlの純水中に酢酸ニッケルを0.00375モル溶解させた溶液〔以下、この溶液を溶液dと称する〕。
【0019】
次に、上記溶液aに溶液b、溶液c、及び溶液dを加え、スターラーで1時間攪拌した。次いで、この撹拌溶液を一晩放置した後、60℃のホットプレートで24時間乾燥した。この後、アルゴンと水素との混合ガス(Ar:H=98:2)をフローしながら、700℃で1時間焼成することにより、正極活物質を作製した。
【0020】
次に、上記正極活物質を正極全体の85質量%、導電剤としてアセチレンブラックを正極全体の10質量%となるように混合した後、これに結着剤としてのポリアクリロニトリル(PAN)を正極全体の5質量%となるように加え、更にNMPを適量加えて混合することにより正極活物質スラリーを調製した。次いで、この正極活物質スラリーを、ドクターブレード法を用いて、粗面化されたアルミニウム箔から成る正極集電体の両面に塗布した後、ホットプレートを用いて80℃で乾燥させた。しかる後、ローラーを用いて圧延を行って、正極を作製した。
【0021】
最後に、不活性雰囲気下において、作用極に上記正極を使用する一方、対極となる負極と参照極とにそれぞれリチウム金属を用い、試験セル容器内に非水電解液を注液することにより、試験セルを作製した。尚、上記非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とが体積比で3:7の割合で混合された混合溶媒に、リチウム塩としてのLiPF(六フッ化リン酸リチウム)を1モル/リットルの割合で添加したものを用いた。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
上記発明を実施するための形態と同様にして試験セルを作製した。
このようにして作製した試験セルを、以下、本発明セルA1と称する。
【0023】
(実施例2)
溶液cとして、80mlの純水中に酢酸マンガンを0.03モル溶解させた溶液を用い、且つ、溶液dとして、20mlの純水中に酢酸ニッケルを0.0075モル溶解させた溶液を用いて、組成式LiMn0.8Ni0.2SiOで示される正極活物質を作製した以外は、上記実施例1と同様にして試験セルを作製した。
このようにして作製した試験セルを、以下、本発明セルA2と称する。
【0024】
(比較例1)
溶液dを用いず、且つ、溶液cとして、100mlの純水中に酢酸マンガンを0.0375モル溶解させた溶液を用いて、組成式LiMnSiOで示される正極活物質を作製した以外は、上記実施例1と同様にして試験セルを作製した。
このようにして作製した試験セルを、以下、比較セルZ1と称する。
【0025】
(比較例2)
溶液cとして、70mlの純水中に酢酸マンガンを0.02625モル溶解させた溶液を用い、且つ、溶液dとして、30mlの純水中に酢酸ニッケルを0.01125モル溶解させた溶液を用いて、組成式LiMn0.7Ni0.3SiOで示される正極活物質を作製した以外は、上記実施例1と同様にして試験セルを作製した。
このようにして作製した試験セルを、以下、比較セルZ2と称する。
【0026】
(比較例3)
溶液cとして、50mlの純水中に酢酸マンガンを0.01875モル溶解させた溶液を用い、且つ、溶液dとして、50mlの純水中に酢酸ニッケルを0.01875モル溶解させた溶液を用いて、組成式LiMn0.5Ni0.5SiOで示される正極活物質を作製した以外は、上記実施例1と同様にして試験セルを作製した。
このようにして作製した試験セルを、以下、比較セルZ3と称する。
【0027】
尚、理解の容易のために、上記本発明セルA1、A2及び、比較セルZ1〜Z3における正極活物質の組成、溶液c、及び溶液dの内容につき、下記表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
(実験)
上記本発明セルA1、A2及び、比較セルZ1〜Z3を、下記条件で充放電し、初期放電容量(1サイクル目の放電容量)を調べたので、その結果を表2に示す。
【0030】
〔充放電条件〕
・充電条件
3.0mA/gの電流密度で、正極の電位が4.5V(vs.Li/Li)になるまで定電流充電するという条件
・放電条件
3.0mA/gの電流密度で、正極の電位が2.0V(vs.Li/Li)になるまで定電流放電するという条件
【0031】
【表2】

【0032】
表2から明らかなように、組成式LiMnSiOで表される正極活物質(マンガンがニッケルに置換されていない正極活物質)を用いた比較セルZ1に比べて、組成式LiMn0.9Ni0.1SiO、組成式LiMn0.8Ni0.3SiOで表される正極活物質(マンガンの一部がニッケルに置換された正極活物質)を用いた本発明セルA1、A2は初期放電容量が大きくなっていることが認められる。ただし、組成式LiMn0.7Ni0.3SiO、組成式LiMn0.5Ni0.5SiOで表される正極活物質(マンガンの一部がニッケルに置換された正極活物質であるが、置換量が過多の正極活物質)を用いた比較セルZ2、Z3は、上記比較セルZ1に比べて、初期放電容量が小さくなっていることが認められる。
【0033】
これは、マンガンの一部をニッケルで置換することにより、バルクの導電性が向上して、正極活物質利用率が向上するため、単位重量あたりの初期放電容量が増加するが、ニッケル置換量が過多になると、電気化学的に不活性なニッケル化合物の量が多くなって、単位重量あたりの初期放電容量が低下するものと考えられる。
したがって、組成式LiMn1−xNiSiOで表されるリチウム遷移金属化合物のxの値は、0<x≦0.25であることが必須となり、特に、0.05≦x≦0.2であることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、例えば携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の駆動電源等に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式LiMn1−xNiSiO(0<x≦0.25)で表されるリチウム遷移金属化合物が含まれていることを特徴とする正極活物質。
【請求項2】
上記xの値が0.05≦x≦0.2である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池において、
上記正極活物質には、組成式LiMn1−xNiSiO(0<x≦0.25)で表されるリチウム遷移金属化合物が含まれていることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項4】
上記xの値が0.05≦x≦0.2である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−243349(P2011−243349A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112987(P2010−112987)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】