説明

正極活物質及びそれを用いた二次電池

【課題】、LiFePOよりも高い放電電位と高い容量密度を有する正極活物質を提供する。また、それを用いた二次電池を提供する。
【解決手段】本発明の正極活物質は、化学式が(LiNa(3−x)Fe(式中、nは0以上1以下の数であり、xは0以上3以下の数であり、Feの一部はMg,Ni,Cu,Co,Mn,Al,Cr,Ga,V及びInの一種又は二種以上で置換されていてもよい)で表されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池やナトリウムイオン電池に用いることのできる正極活物質及びそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高い電圧及び高いエネルギー密度という特徴を有しており、ラップトップのパソコンや携帯電話などポータブルの電子機器に多く使われている。そして、さらには次世代の電気自動車やハイブリッド車用の二次電池としての実用化が進められている。
一方、ナトリウムイオン電池もリチウムイオン電池と同様、高い電圧及び高いエネルギー密度という特徴を有しているとともに、資源量が豊富で価格の安いナトリウム塩をリチウム塩の代わりに使用することから、リチウムイオン電池の代替品として提案されている。
【0003】
これらの二次電池用の正極活物質としては、高い電圧及び高い容量密度を実現できるとともに、資源的にも豊富であって大量に供給が可能であって安価であるということが望ましい。こうした要求に応えたリチウムイオン電池用正極活物質としてLiFePOが開発されている(特許文献1)。このLiFePOは、同じリン酸塩系正極活物質であるLiNiPOやLiCoPOと異なり、資源的に豊富なFeを用いているため、大量かつ安価に供給することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−171827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、LiFePOをリチウムイオン電池用正極活物質として用いた場合であっても、放電電位は3.4V(vs Li/Li+)程度であり、理論容量密度は約170mAh/g程度であった。このため、さらに高い放電電位と容量密度とを有するFe系の正極活物質が求められていた。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、LiFePOよりも高い放電電位と高い容量密度を有するFe系の正極活物質を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の正極活物質は、化学式が(LiNa(3−x)Fe(式中、nは0以上1以下の数であり、xは0以上3以下の数であり、Feの一部はMg,Ni,Cu,Co,Mn,Al,Cr,Ga,V及びInの一種又は二種以上で置換されていてもよい)で表されることを特徴とする。
【0008】
本発明者らの試験結果によれば、上記本発明の正極活物質は、4V(vs Li/Li+)程度という、高い放電電位を有する。また、理論容量密度は、理論的に最高の充電状態と考えられるFeの状態(すなわちn=0の状態)から、理論的に最高の放電状態と考えられるLiNa(3−x)Feの状態(すなわちn=1の状態)までで、リチウムイオンベースとして190mAh/gという高い値を示す。このため、電圧と電気容量密度を加味した理論容量密度は、700Wh/kg(=3.7V×190mAh/g)であり、高い容量密度が期待できる。この値は、LiFePOの理論容量密度である570Wh/kg(=3.4V×170mAh/g)の約1.23倍である。しかも、出入りするアルカリ金属として、リチウムイオン以外にナトリウムイオンも可能であるため、リチウムイオン電池の正極活物質としてだけでなく、ナトリウムイオン電池の正極活物質としても、用いることができる。
【0009】
前記化学式中、FeはMg,Ni,Cu,Co,Mn,Al,Cr,Ga,V及びInの一種又は二種以上で置換されていてもよい。また、Feは他の元素で置換されていなくてもよい。Feの替わりに置換されるMg,Ni,Cu,Co,Mn,Al,Cr,Ga,V及びInの一種又は二種以上の元素が少ないほど、資源的に豊富なFeを多く用いることとなり、特に大量かつ安価に供給することが可能となる。
【0010】
本発明の正極活物質は、次のようにして製造することができる。
すなわち、本発明の正極活物質の製造方法は、NaFeを含む正極を、リチウム塩を含有する非水系電解液中で電解することを特徴とする。
【0011】
本発明者らの試験結果によれば、上記本発明の正極活物質は、NaFeよりも高い充電状態を化学的に合成するのは困難である。このため、まず、化学的に安定であり、中間の充電状態にある(すなわち、本発明の正極活物質におけるn=2/3の状態にある)NaFeを含む正極を調製しておく。そして、この正極をリチウム塩及び/又はナトリウム塩を含有する非水系電解液で電解することによって、リチウムイオンやナトリウムイオンをNaFeに挿入したり(このためには放電工程を行う)、NaFeからリチウムイオンやナトリウムイオンを放出させたり(このためには充電工程を行う)して、本発明の正極活物質を容易に製造することができる。また、この製造方法によれば、NaFeよりも高い充電状態の正極活物質を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1の正極活物質(NaFe)のXRD回折チャートである。
【図2】実施例1の正極活物質(NaFe)で作製した正極について、リチウムイオンを含む電解液中で充放電特性を測定したグラフである。
【図3】実施例1の正極活物質(NaFe)で作製した正極について、ナトリウムイオンを含む電解液中で充放電特性を測定したグラフである。
【図4】実施形態のリチウムイオン電池の電池容器を構成する正極缶と負極キャップの断面図である。
【図5】実施形態のリチウムイオン電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体的にした実施例1及び実施例2について詳細に説明する。
【0014】
(実施例1)
実施例1の正極活物質はNaFeであり、以下のようにして調製した。
すなわち、NaFeFとPt担持グラッシーカーボン(導電助剤)とを70:25の重量比でボールミルによって24時間混合し、アルゴン中で500℃で1時間の熱処理を行った。こうして得られた粉末のXRD回折パターンを図1に示す。この回折パターンから、NaFeが生成していることが確認された。
なお、NaFeの合成には、上記方法に替えて、NaFとFeFとFeFとを混合し、混合物をPt管に封するか、もしくは混合物をPt坩堝に入れて石英管に封入し、760℃で24h熱処理することによっても製造することができる。(O.Yakubovich et al. Z.anorg.allg.Chem.619(1993)1909-1919,)
【0015】
正極の作製
上述のようにして得たNaFeとPt担持グラッシーカーボンとの混合物95重量部に対して結着材としてポリフルオロエチレン(PTFE)を5重量部加えて混合した後、矩形板状の成形型に入れてホットプレスにて140℃で加圧処理して、実施例1の正極活物質であるNaFeを含有する正極を得た。
【0016】
<評 価>
(1)リチウムイオン電池としての充放電特性
上述のようにして作製したNaFeを含有する正極について、リチウムイオン電池としての充放電特性を測定した。正極、負極、電解液、セル及び測定条件は以下のとおりである。
・正極構成:NaFe:グラッシーカーボン粉:PTFE
=70:25:5(重量比)
・負 極:Li金属
・電 解 液:1.0M LiBF4/ EC:DMC:セハ゛コニトリル=25:25:50(容量比)
・セ ル:SUS316L 2032型
・充放電レイト:0.01C
・カットオフ:2.0〜4.5V(vs Li/Li+)
【0017】
充放電は図2に示すように、はじめに2.0V(vs Li/Li+)まで放電を行い(図2(1))、リチウムイオン1個分を挿入してLiNaFeとした。
次に、電流を反転させて4.5V(vs Li/Li+)まで充電を行うことにより(図2(2))、LiイオンとNaイオンとを放出させ、Na1.4Feとした。
そして、再び電流を反転させて2.0V(vs Li/Li+)まで放電を行うことにより(図2(3))、リチウムイオンを挿入してLi1.6Na1.4Feとした。
【0018】
その結果、図2(3)の放電状態において、4V(vs Li/Li+)付近にほぼプラトーな領域が認められ、LiFePOの放電電位(3.4V(vs Li/Li+)程度)よりも高い電位で放電が可能であることが分かった。このような高い放電電位はFe2+/Fe3+の電極反応では起こり得ないことから、Fe3+/Fe4+の電極反応が起こっているものと考えられる。そして、正極活物質の純度を上げることにより、更に高い放電電位が期待できることが分かった。
【0019】
(2)ナトリウムイオン電池としての充放電特性
上述のようにして作製したNaFeを含有する正極について、ナトリウムイオン電池としての充放電特性を測定した。正極、負極、電解液、セル及び測定条件は以下のとおりである。
・正極構成:NaFe:グラッシーカーボン粉:PTFE
=70:25:5(重量比)
・負 極:Na金属
・電 解 液:1.0M NaPF6/ EC:DMC=50:50(容量比)
・セ ル:SUS316L 2032型
・充放電レイト:0.01C
・カットオフ:2.2〜4.2V(vs Na/Na+)
【0020】
電解は図3に示すように、はじめ放電を2.2V(vs Na/ Na +)まで行い(図3(1))Na2。2Feとした後、電流を反転させて4.2V(vs Na/ Na +)まで充電を行った。そして、再び電流を反転させて2.2V(vs Na/ Na +)まで放電を行った(図3(3))。
【0021】
その結果、最後の放電工程(図3(3))において、充電された容量は70mAh/g程度となった。このとき、放電電位はおよそ3.7V(vs Na/ Na +)から始まり、プラトーな領域が2段階で現れたことから、2段階の電極反応が示唆された。3.7V(vs Na/ Na +)の放電電位は(vs Li/Li+)換算では4Vに相当し、このような高い放電電位はFe2+/Fe3+の電極反応では起こり得ず、Fe3+/Fe4+の電極反応が起こっているものと考えられる。
【0022】
また、放充電曲線の対称性(図3(2)と(3)の対称性)から、実質的な容量は70mAh/g程度と見積もられた。そして、この値からNaイオンの脱離は0.8程度であり、実質充電後の正極活物質の組成はNa1。4Feと推定された。そして、図3(3)の放電工程では70mAh/g程度であったことから、2.2V(vs Na/ Na +)までの放電でNa2.2Feとなっていることが推定された。
【0023】
この発明はリチウムイオン電池やナトリウムイオン電池に適用される。
ここに、リチウムイオン電池及びナトリウムイオン電池は電解液、正極、負極、セパレータ及びケースを備えてなる。
【0024】
(リチウムイオン電池用の電解液)
リチウムイオン電池用の電解液はLi塩(電解質)と有機溶媒とを含んでいる。
Li塩には、Liイオン電池用の一般的なLi塩を用いることができる。例えば、LiPF6(六フッ化リン酸リチウム)、LiBF(四フッ化ホウ酸リチウム)、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、LiTFS(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)、LiBETI(リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド)、LiBOB(lithium bis(oxalato)borate)又はこれらの2種以上を用いることができる。
【0025】
有機溶媒もLiイオン電池に用いられる一般的なものを採用できる。かかる有機溶媒としては環状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル及び鎖状炭酸エステルの中から選ばれる1種、又は2種以上が好ましい。更に好ましくは、環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルとを併用する。具体的には、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを併用することが特に好ましい。両者の配合割合は特に限定されない。環状カルボン酸エステルとしてはγ−ブチロラクトンを用いることができる。
更にはニトリル化合物を有機溶媒として用いることができる。ここで、ニトリル化合物としては、鎖式飽和炭化水素化合物の両末端にニトリル基が結合した鎖式飽和炭化水素ジニトリル化合物、鎖式エーテル化合物の末端の少なくとも一つにニトリル基が結合した鎖式エーテルニトリル化合物及びシアノ酢酸エステルのうち少なくとも一つのニトリル化合物を挙げることができる。
【0026】
鎖式飽和炭化水素化合物の両末端にニトリル基が結合した鎖式飽和炭化水素ジニトリル化合物としては、例えば、スクシノニトリルNC(CHCN、グルタロニトリルNC(CHCN、アジポニトリルNC(CHCN、セバコニトリルNC(CHCN、ドデカンジニトリルNC(CH10CNなどのような直鎖状のジニトリル化合物の他、2−メチルグルタロニトリルNCCH(CH)CHCHCN等のように分枝を有していても良い。これらの鎖式飽和炭化水素ジニトリル化合物は、炭素数は特に限定されないが20以下であることが好ましい。更に好ましくは7〜12である。
【0027】
鎖式エーテル化合物の末端の少なくとも一つにニトリル基が結合した鎖式エーテルニトリル化合物としては、オキシジプロピオニトリルNCCHCH−O−CHCHCNや、3−メトキシプロピオニトリルCH−O−CHCHCN等が挙げられる。これらの鎖式エーテルニトリル化合物は、炭素数は特に限定されないが、20以下であることが好ましい。
シアノ酢酸エステルとしてはシアノ酢酸メチル、シアノ酢酸エチル、シアノ酢酸プロピル、シアノ酢酸ブチル等が挙げられる。これらのシアノ酢酸エステルは、炭素数は特に限定されないが、20以下であることが好ましい。
【0028】
これらニトリル化合物は電解液において電位窓を特に正方向に広げる作用を奏する。
電位窓を広げる作用の観点からジニトリル化合物が好ましい。中でも、セバコニトリルの採用が更に好ましい。
ただし、ニトリル化合物は粘度が高いので、上述の鎖状炭酸エステル、環状炭酸エステル及び/又は環状カルボン酸エステルと併用することが好ましい。更に好ましくはニトリル化合物と鎖状炭酸エステル及び環状炭酸エステルとを併用する。鎖状炭酸エステルとしてはジメチルカーボネートを採用することができ、環状炭酸エステルとしてはエチレンカーボネートを採用することができる。
この場合、有機溶媒全体に占めるニトリル化合物の配合割合は1〜90容量%とすることが好ましい。更に好ましくは5〜70容量%であり、更に更に好ましくは、10〜50容量%である。
【0029】
Li塩の濃度は0.01mol/L以上であって、飽和状態よりも低い濃度とする。Li塩の濃度が0.01mol/L未満であると、Liイオンによるイオン伝導が小さくなり、電解液の電気抵抗が高くなるので好ましくない。他方、飽和状態を超えると、温度等の環境変化によって溶解しているLi塩が析出するので好ましくない。
【0030】
(ナトリウムイオン電池用の電解液)
一方、ナトリウムイオン電池用の電解液はNa塩(電解質)と有機溶媒とを含んでいる。
Na塩には、従来からNaイオン電池用のNa塩として知られているものを用いることができる。例えば、例えば、NaClO、NaPF、NaBF、NaCFSO、NaN(CFSO、NaN(FSO、NaN(CSO、NaC(CFSO等が挙げられる。溶媒及び溶質の混合比は特に限定されず、目的に応じて適宜設定される。
また、各種添加剤(例えば、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、エチレンサルファイト)を0.1〜3%程度入れることも好ましい。これにより、負極側で耐食性皮膜がで形成され、耐食性が向上する。
【0031】
有機溶媒もNaイオン電池に用いられる一般的なものを採用できる。かかる有機溶媒とし環状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル及び鎖状炭酸エステルの中から選ばれる1種、又は2種以上が好ましい。更に好ましくは、環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルとを併用する。具体的には、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを併用することが特に好ましい。両者の配合割合は特に限定されない。環状カルボン酸エステルとしはγ−ブチロラクトンやプロピレンカーボネートを用いることができる。
鎖状カーボネートは、ジメチルカーボネートのほかに、ジエチルカーボネートやエチルメチルカーボネートを使用することができる。
【0032】
また、ナトリウムイオン電池の電解液の溶媒は、前述したリチウムイオン電池用のニトリルを含有する電解液の溶媒を用いることもできる。
【0033】
(正極用集電体)
正極用集電体とは正極活物質を担持する導電性の基体である。
正極の集電体の成形材料は、充電時において安定であることが要求される。特に、酸化還元電位の高いオリビン型結晶構造を有するリン酸塩系及びオリビンフッ化物系の正極活物質を用いるときには、耐食性に優れた素材を使用することが好ましい。
例えば、電解質としてLiPF、LiBFを使用する場合、オーステナイト系ステンレス、Ni、Al、Ti等を用いることができるが、使用する正極活物質の動作電位を考慮し、適宜選択することが好ましい。例えば、電解質としてLiPFを用いる場合は、Li/Li+電極に対して6Vでも使用することができるが、電解質としてLiBFを用いる場合、SUS304はLi/Li+電極に対し5.8V以下で充放電可能な場合のみ用いることができる。また、電解質としてLiTFSIを使用する場合、正極集電体表面に耐食性皮膜を形成させるべく、LiPFを共存させることが好ましい。LiBETI及びLiTFSもLiTFSIの場合と同様である。
また、Al等の導電金属材料へ導電性DLC(ダイヤモンドライクカーボン)を周知の方法で被覆したものを集電体として用いることもできる。電解質がLiBFやLiPFなど、容易にフッ化物皮膜を形成するようなリチウム塩の場合は、アルミニウム上へ厚いフッ化皮膜が形成し、耐食性は向上するものの、電子伝導性が低下し、ひいてはオーミック過電圧増加に伴う、高出力化が阻害されることとなる。Al等の導電金属材料へ導電性DLCを被覆すれば、フッ化物皮膜は導電性DLCの欠陥部分の極わずかな面積でのみ発生するだけである。このため、高電圧化しても電子伝導性の低下は無視できる程度となり、懸念されている高電圧化による出力低下は防ぐことが可能となる。
ここで、導電性ダイヤモンドライクカーボンとは、ダイヤモンド結合(炭素同士のSP混成軌道結合)とグラファイト結合(炭素同士のSP混成軌道結合)の両方の結合が混在しているアモルファス構造をとるカーボンのうち、導電性が1000Ωcm以下のものをいう。ただし、アモルファス構造以外に、部分的にグラファイト構造からなる結晶構造(すなわちSP混成軌道結合からなる六方晶系結晶構造)からなる相を有し、これにより導電性が発揮されるものも含まれる。グラファイトとダイヤモンドの中間の性質を有するダイヤモンドライクカーボンは、成膜時にダイヤモンドライクカーボンを構成する炭素原子のSP混成軌道結合とSP混成軌道結合の比率を調整することで、導電性を調節することができる。
勿論、上記耐食性導電性金属材料を導電性DLCやグラッシーカーボン膜やPt膜やAu膜で被覆した材料を用いてもよい。
また、集電体の形状及び構造は、正極活物質や電池の構造に応じて、任意に設計可能である。
【0034】
(負極)
負極は負極活物質と集電体とを備える。
(負極活物質)
リチウムイオン電池用の負極活物質は「正極よりも低い電位で結晶構造内にリチウムが挿入/離脱され、それに伴って酸化/還元が行われる物質」である。
リチウムイオン電池用の負極活物質としては、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛、ハードカーボン等の種々の炭素材料やチタン酸リチウム(LiTi12)、HTi1225、HTi13、Feなどが挙げられる。また、これらを適宜混合した複合体も挙げることができる。さらには、Si微粒子やSi薄膜、これらのSiがSi−Ni、Si−Cu、Si−Nb、Si−Zn、Si−Sn等のSi系合金となった微粒子や薄膜が挙げられる。さらには、SiO酸化物、Si−SiO複合体、Si−SiO−カーボンなどの複合体等を挙げることができる。
【0035】
一方、ナトリウムイオン電池用の負極活物質は「正極よりも低い電位で結晶構造内にナトリウムが挿入/離脱され、それに伴って酸化/還元が行われる物質」である。
ナトリウムイオン電池用の負極活物質としては、LiTi12などを用いることができる。
【0036】
(負極用集電体)
負極用の集電体は汎用的な導電性金属材料、Cu、Al、Ni、Ti、オーステナイト系ステンレス等で形成することができる。
ただし、使用する負極活物質の動作電位に応じて、適宜選択する必要がある。負極活物質としてカーボン系やSi系を使用する場合において、電解質としてLiBFを使用した場合は、Cu以外のAl、Ni、Ti、オーステナイト系ステンレス等からなる集電体を使用することができる。負極活物質としてチタン酸リチウムやFe系の化合物を用いた場合は、Cuを含む上記材料の全てが適用可能である。一方、電解質としてLiPF使用時はAl、Ni及びTiが好ましく、オーステナイト系ステンレス及びCuは好ましくない。また、電解質としてLiTFSIや、LiBETI、やLiTFSを使用する場合、Ni、Ti、Al、Cu、オーステナイト系ステンレスの何れも使用することができる。
【0037】
(正極用電子伝導部材)
正極活物質には導電性の小さいものがある。従って、正極活物質と集電体との間に導電性の電子伝導部材を介在させて、両者の間に十分な電子伝導パスを確保することが好ましい。
ここで電子伝導部材は正極活物質と集電体との間に電子伝導パスを形成できればその形態は特に限定されるものではなく、例えばアセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト粉、ダイヤモンドライクカーボン、グラッシーカーボン等の導電性粉体(導電助剤)を用いることができる。ダイヤモンドライクカーボン及びグラッシーカーボンは、カーボンブラックやグラファイトよりもはるかに広い電位窓を有しており、高電位を付与した場合の耐食性に優れているため、好適に用いることができる。また、これらの導電助剤に金属微粒子が担持されていることも好ましい。金属微粒子としては、例えばPt、Au、Ni等が挙げられる。これらは、単独で用いても良いし、これらの合金であっても良い。
電子伝導材料として、正極活物質を被覆する導電性皮膜(DLC膜等)、正極活物質を埋入させた導電性薄膜(金の薄膜等)を用いることができる。
【0038】
(負極用電子伝導部材)
正極用電子伝導部材と同様な物を用いることができる。
【0039】
(セパレータ)
セパレータは電解液中へ浸漬され、正極と負極とを分離し両者の短絡を防ぐとともに、Liイオンの通過を許容する。
かかるセパレータには、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂から成る多孔質フィルムが挙げられる。
【0040】
(ケース)
ケースは電解液に対する耐食性を有する材質で形成される。その形状は、電池の目的用途に応じて任意に設計できる。
リチウム塩が溶解している電解液を使用する場合には、オーステナイト系ステンレスからなる基材、Ti、Ni及び/又はAlからなるケースを用いることができる。但し使用する正極、負極活物質の動作電位により適宜選択しなければならない場合もある。
ケースが集電体を兼ねる場合や集電体に電気的に結合される場合は、各電極の集電体形成材料と同一若しくは同種の材料で形成される。
また、このような金属ケース以外にも、PPやPE膜などの耐食性のフィルムを内装したアルミラミネートフィルムを用いることもできる。
【0041】
<リチウムイオン電池の実施例>
本発明の正極活物質を用いたリチウムイオン電池の実施例を以下に示す。
すなわち、まず、図4に示すように、有底円筒状のSUS304製の正極缶11と、有底円筒状で扁平状のSUS304の負極キャップ12とを用意する。正極缶11と負極キャップ12とで電池容器が構成される。
【0042】
ついで、図5に示すように、正極缶11内に、SUS304製のスペーサー13、実施例1で用いた正極活物質を含むペレット14及びセパレータ15を充填する。ペレット14は、上記電池特性の測定で用いた正極と同様の方法で作製することができる。一方、負極キャップ12内に、ステンレス製の波座金16、SUS304製のスペーサー17及びリチウム負極活物質18を充填する。そして、正極缶11内にリチウムイオン電池用の電解液を入れた後、絶縁ガスケット19を介して負極キャップ12を載置してかしめて密封してリチウムイオン電池とする。
【0043】
以上のように構成されたリチウムイオン電池は、正極活物質にNaFeを用いているため、LiFePOよりも高い放電電位と高い容量密度を有する。また、資源的に豊富なFe系の正極活物質を用いているため、大量かつ安価に供給することができる。
【0044】
<ナトリウムイオン電池の実施形態>
上記リチウムイオン電池の実施例における電解液をナトリウムイオン電池用の電解液に替えれば、ナトリウムイオン電池として駆動させることができる。
【0045】
この発明は、上記発明の実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
11…電極缶
12…負極キャップ
13、17…スペーサ
14…ペレット
15…セパレータ
16…波座金
18…リチウム負極活物質
19…絶縁ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式が(LiNa(3−x)Fe(式中、nは0以上1以下の数であり、xは0以上3以下の数であり、Feの一部はMg,Ni,Cu,Co,Mn,Al,Cr,Ga,V及びInの一種又は二種以上で置換されていてもよい)で表されることを特徴とする正極活物質。
【請求項2】
請求項1に記載の正極活物質を用いたことを特徴とする二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−113954(P2011−113954A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272482(P2009−272482)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】