説明

正極活物質及び非水電解質電池

【課題】正極活物質中に残留している合成原料の許容範囲を規定して、良好な電池特性を実現する。
【解決手段】一般式LiFePO(ただし、0<x≦1である。)で表される化合物を主体とし、LiPO/LiFePOで表されるLiPOと一般式LiFePOで表される化合物とのモル比が、0<LiPO/LiFePO≦3.33×10−2なる範囲とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムを可逆的にドープ及び脱ドープ可能な正極活物質およびこの正極活物質を含有する非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の電子機器の飛躍的進歩とともに、長時間便利に、かつ経済的に使用できる電源として、繰り返して充放電が可能な二次電池の研究が進められている。代表的な二次電池としては、鉛蓄電池やアルカリ蓄電池、非水電解質二次電池等が知られている。
【0003】
上述したような二次電池の中でも特に、非水電解質二次電池であるリチウムイオン二次電池は、高出力、高エネルギー密度などの利点を有している。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、少なくともリチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な活物質を有する正極および負極と、非水電解質とから構成されており、その充電反応は、正極においてリチウムイオンが電解液中にデインターカレーションし、負極では負極活物質中にリチウムイオンがインターカレーションすることによって進行する。逆に、放電する場合には、上記の逆反応が進行し、正極においては、リチウムイオンがインターカレーションする。すなわち、正極からのリチウムイオンが負極活物質に出入りする反応を繰り返すことによって充放電を繰り返すことができる。
【0005】
現在、リチウムイオン二次電池の正極活物質としては、高エネルギー密度であり、電池電圧が高いこと等から、LiCoO、LiNiO、LiMn等が用いられている。
【0006】
しかし、これらの正極活物質は、クラーク数の低い金属元素をその組成中に有しているため、コストが高くつく他、安定供給が難しいという問題がある。また、これらの正極活物質は、毒性も比較的高く、環境に与える影響も大きいことから、これらに代わる新規正極活物質が求められている。
【0007】
これに対し、オリビン構造を有し、一般式LiFePO(ただし、0<x≦1である。)で表される化合物をリチウムイオン二次電池の正極活物質として用いることが提案されている。例えばLiFePOは、体積密度が3.6g/cmと大きく、3.4Vの高電位を発生し、理論容量も170mAh/gと大きい。また、LiFePOは、初期状態で、電気化学的に脱ドープ可能なLiを、Fe原子1個当たりに1個含んでいるので、リチウムイオン電池の正極活物質として有望な材料である。しかもLiFePOは、資源的に豊富で安価な材料である鉄をその組成中に有しているため、上述のLiCoO、LiNiO、LiMn等と比較して低コストであり、また、毒性も低いため環境に与える影響も小さい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平09−171827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、オリビン構造を有し、一般式LiFePOで表される化合物を主体とする正極活物質の製造方法として、合成原料としてリン酸リチウム(LiPO)と、リン酸第一鉄(Fe(PO又はその水和物(Fe(PO・nHO(ただし、nは水和数である。))とを混合し、所定の温度で焼成する方法が提案されている。
【0010】
上記焼成時におけるLiFePOの合成反応は、下記化1に示す反応式で表される。なお、下記化に示す反応式においては、LiPOと、Fe(POとを反応させた場合を示す。
【0011】
【化1】

【0012】
上記化1に示す反応式から明らかなように、LiPOとFe(POとは、LiとFeとの元素比率が1:1なる比率で反応する。合成原料の配合比を、Li/Feで表されるLiとFeとの元素モル比率であらわすとき、Li/Fe=1/1とすれば、合成原料は全て合成反応に利用される。
【0013】
しかし、上記化1に示す反応式の理論量を超えた合成原料は合成反応に利用されないので、正極活物質中に不純物として残留してしまう。正極活物質中における合成原料の残留量があまりに多いと、この正極活物質を用いた非水電解質電池では、電池特性が劣化するという問題がある。
【0014】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、LiFePOの合成反応に利用されず、正極活物質中に残留している合成原料の許容範囲を規定して、良好な電池特性を実現する正極活物質および非水電解質電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の目的を達成するために、本発明に係る正極活物質は、一般式LiFePO(ただし、0<x≦1である。)で表される化合物を主体とし、LiPO/LiFePOで表されるLiPOと一般式LiFePOで表される化合物とのモル比が、0<LiPO/LiFePO≦3.33×10−2なる範囲である。
【0016】
また、上述の目的を達成するために、本発明に係る非水電解質電池は、正極活物質を含有する正極と、負極活物質を含有する負極と、非水電解質とを備える非水電解質電池において、正極活物質は、一般式LiFePO(ただし、0<x≦1である。)で表される化合物を主体とし、LiPO/LiFePOで表されるLiPOと上記一般式LiFePOで表される化合物とのモル比が、0<LiPO/LiFePO≦3.33×10−2なる範囲である。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、高容量である非水電解質電池を実現できる。また、この正極活物質を用いてなる非水電解質電池は、高容量であり電池特性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を適用した非水電解質電池の一構成例を示す縦断面図である。
【図2】サンプル1〜サンプル6の正極活物質のX線回折パターン図である。
【図3】サンプル7〜サンプル12の正極活物質のX線回折パターン図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
本発明を適用して製造される非水電解液電池1は、図1に示すように、負極2と、負極2を収容する負極缶3と、正極4と、正極4を収容する正極缶5と、正極4と負極2との間に配されたセパレータ6と、絶縁ガスケット7とを備え、負極缶3及び正極缶5内に非水電解液が充填されてなる。
【0021】
負極2は、負極活物質となる例えば金属リチウム箔からなる。また、負極活物質として、リチウムをドープ、脱ドープ可能な材料を用いる場合には、負極2は、負極集電体上に、上記負極活物質を含有する負極活物質層が形成されてなる。負極集電体としては、例えばニッケル箔等が用いられる。
【0022】
リチウムをドープ、脱ドープ可能な負極活物質としては、金属リチウム、リチウム合金、リチウムがドープされた導電性高分子、炭素材料や金属酸化物などの層状化合物を用いることができる。
【0023】
負極活物質層に含有される結合剤としては、この種の非水電解液電池において負極活物質層の結合剤として通常用いられている公知の樹脂材料等を用いることができる。
【0024】
負極缶3は、負極2を収容するものであり、また、非水電解液電池1の外部負極となる。
【0025】
正極4は、例えばアルミニウム箔等からなる正極集電体上に、リチウムを電気化学的に放出することが可能であり、且つ吸蔵することも可逆的に可能である正極活物質を含有する正極活物質層が形成されてなる。
【0026】
正極活物質としては、オリビン構造を有し、一般式LiFePO(式中、0<x≦1.0である。)で表される化合物を用いる。
【0027】
正極活物質としてLiFePOを合成する際、その合成原料としては、LiPOと、Fe(PO又はその水和物であるFe(PO・nHO(ただし、nは水和数である。)とを用いる。
【0028】
このLiFePOは、詳細な製造方法は後述するが、合成原料が混合されたのち、焼成されることで合成される。焼成時におけるLiFePOの合成反応は、下記化2に示す反応式で表される。なお、下記化2に示す反応式においては、LiPOと、Fe(POとを反応させた場合を示す。
【0029】
【化2】

【0030】
上記化2に示す反応式から明らかなように、LiPOとFe(POとは、LiとFeとの元素比率が1:1なる比率で反応する。しかし、上記化2に示す反応式の理論量を超えた合成原料は合成反応に利用されないので、正極活物質中に不純物として残留する。正極活物質中における合成原料の残留量があまりに多い場合、非水電解液電池1の電池特性は劣化する。
【0031】
そこで、本発明では、この正極活物質は、LiPO/LiFePOで表されるLiPOと一般式LiFePOで表される化合物とのモル比が、LiPO/LiFePO6.67×10−2なる範囲であるものとする。
【0032】
LiPOとFe(POとから合成される正極活物質は、LiFePOを主体とするが、合成反応に利用されないLiPOが残留していることがある。ところが、LiPOは電池特性に悪影響を及ぼすものである。したがって、正極活物質におけるLiPO/LiFePOを上記のように適正な範囲とすることにより、高容量であり、電池特性が良好である非水電解液電池1を実現できる。
【0033】
正極活物質層に含有される結合剤としては、この種の非水電解液電池において正極活物質層の結合剤として通常用いられている公知の樹脂材料等を用いることができる。
【0034】
正極缶5は、正極4を収容するものであり、また、非水電解液電池1の外部正極となる。
【0035】
セパレータ6は、正極4と、負極2とを離間させるものであり、この種の非水電解液電池のセパレータとして通常用いられている公知の材料を用いることができ、例えばポリプロピレンなどの高分子フィルムが用いられる。また、リチウムイオン伝導度とエネルギー密度との関係から、セパレータの厚みはできるだけ薄いことが必要である。具体的には、セパレータの厚みは例えば50μm以下が適当である。
【0036】
絶縁ガスケット7は、負極缶3に組み込まれ一体化されている。この絶縁ガスケット7は、負極缶3及び正極缶5内に充填された非水電解液の漏出を防止するためのものである。
【0037】
非水電解液としては、非プロトン性非水溶媒に電解質を溶解させた溶液が用いられる。
【0038】
非水溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチルラクトン、スルホラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、3−メチル−1,3−ジオキソラン、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等を使用することができる。特に、電圧安定性の点からは、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート類を使用することが好ましい。また、このような非水溶媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0039】
また、非水溶媒に溶解させる電解質としては、例えば、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO等のリチウム塩を使用することができる。これらのリチウム塩の中でも特に、LiPF、LiBFを使用することが好ましい。
【0040】
なお、本発明を適用した非水電解質電池として、非水電解液を用いた非水電解液電池1を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、非水電解質として、固体電解質を用いた場合にも適用可能である。ここで、固体電解質としては、リチウムイオン導電性を有する材料であれば無機固体電解質、ゲル状電解質等の高分子固体電解質の何れも用いることができる。ここで、無機固体電解質としては、窒化リチウム、ヨウ化リチウム等が挙げられる。また、高分子固体電解質は、電解質塩とそれを溶解する高分子化合物からなり、その高分子化合物は、ポリ(エチレンオキサイド)や、同架橋体などのエーテル系高分子、ポリ(メタクリレート)エステル系高分子、アクリレート系高分子等を単独、又は分子中に共重合、又は混合して用いることができる。この場合、例えばゲル状電解質のマトリックスとしては、非水電解液を吸収してゲル化するものであれば種々の高分子材料を用いることができる。このような高分子材料としては、例えば、ポリ(ビニリデンフルオロライド)や、ポリ(ビニリデンフルオロライド−CO−ヘキサフルオロプロピレン)等のフッ素系高分子、ポリ(エチレンオキサイド)や、同架橋体などのエーテル系高分子、またポリ(アクリロニトリル)などを用いることができる。そして、これらの中でも特に、酸化還元安定性の観点からフッ素系高分子を用いることが好ましい。
【0041】
上述のように構成される非水電解液電池1の製造方法について、以下に説明する。 まず、正極活物質としてLiFePOを、以下に示す製造方法に従って製造する。
【0042】
この正極活物質を製造するには、まず、合成原料として、LiPOと、Fe(PO又はその水和物であるFe(PO・nHO(ただし、nは水和数である。)とを用い、この合成原料を混合して混合物とする混合工程を行う。
【0043】
そして、この混合工程において、合成原料の混合比を、Li/Feで表されるLiとFeとの元素モル比率で1/1.05≦Li/Fe≦1.2/1なる範囲とする。また、合成原料の混合比を、1/1.025≦Li/Fe≦1.1/1なる範囲とすることがより好ましい。
【0044】
混合された合成原料は、引き続く焼成工程で合成反応されてLiFePOとなる。しかし、合成原料のうち、反応理論量を超えているものは合成反応に利用されず、正極活物質中に残留してしまう。ところが、残留している合成原料は、電池特性に悪影響を及ぼすものである。そこで、合成原料の配合比を上記範囲と規定することにより、合成原料の残留する割合が適性範囲である正極活物質を製造することができる。したがって、この正極活物質を用いれば、高容量である非水電液電池1を実現できる。
【0045】
また、合成原料の混合は、十分に行う必要がある。合成原料を十分に混合することで、各原料が均一に混ざりあい、原料同士の接触点が増えるため、引き続く焼成工程における合成反応を速やかに進行することが可能となる。
【0046】
ついで、混合工程で得られた混合物を焼成する焼成工程を行う。
【0047】
混合物の焼成は、Ar等の不活性ガス雰囲気中、または水素、一酸化炭素等の還元ガス雰囲気で焼成することにより、オリビン構造を有するLiFePOが合成される。
【0048】
合成原料としてFe(POを用いた場合、上記化2に示す反応式からあきらかなように、副生成物が発生しない。また、Fe(PO・nHOを用いた場合、副生成物として無毒の水のみが発生する。なお、Fe(PO・nHOを用いた場合の反応式を下記化3に示す。
【0049】
【化3】

【0050】
したがって、この製造方法によれば、焼成時における安全性が著しく高い。また、上記化2および化3に示す反応式から明らかなように、副生成物の生成が少量であるので、LiFePOの収率を大幅に向上させることができる。
【0051】
混合物の焼成を行う際の焼成温度は、上記の合成方法により400℃〜900℃とすることが可能であるが、電池性能を考慮すると、500〜700℃程度とすることが好ましい。焼成温度が400℃未満であると、化学反応及び結晶化が十分に進まず、均一なLiFePOを得られない虞がある。一方、焼成温度が900℃を上回ると、結晶化が過剰に進行してLiFePOの粒子が大きくなり、十分な放電容量を得られない虞がある。
【0052】
以上のようにして得られたLiFePOを正極活物質として用いた非水電解液電池1は、例えば次のようにして製造される。
【0053】
負極2としては、まず、負極活物質と結着剤とを溶媒中に分散させてスラリーの負極合剤を調製する。次に、得られた負極合剤を集電体上に均一に塗布、乾燥して負極活物質層を形成することにより負極2が作製される。上記負極合剤の結着剤としては、公知の結着剤を用いることができるほか、上記負極合剤に公知の添加剤等を添加することができる。また、負極活物質となる金属リチウムをそのまま負極2として用いることもできる。
【0054】
正極4としては、まず、正極活物質と結着剤とを溶媒中に分散させてスラリーの正極合剤を調製する。この正極活物質としては、一般式LiFePO(ただし、0<x≦1である。)で表される化合物を主体とし、LiPO/LiFePOで表されるLiPOと一般式LiFePOで表される化合物とのモル比が、LiPO/LiFePO6.67×10−2なる範囲であるものを使用する。次に、得られた正極合剤を集電体上に均一に塗布、乾燥して正極活物質層を形成することにより正極4が作製される。上記正極合剤の結着剤としては、公知の結着剤を用いることができるほか、上記正極合剤に公知の添加剤等を添加することができる。
【0055】
非水電解液は、電解質塩を非水溶媒中に溶解することにより調製される。
【0056】
そして、負極2を負極缶3に収容し、正極4を正極缶5に収容し、負極2と正極4との間に、ポリプロピレン製多孔質膜等からなるセパレータ6を配する。負極缶3及び正極缶5内に非水電解液を注入し、絶縁ガスケット7を介して負極缶3と正極缶5とをかしめて固定することにより、コイン型の非水電解液電池1が完成する。
【0057】
なお、上述したような本実施の形態に係る非水電解液電池1は、円筒型、角型、コイン型、ボタン型等、その形状については特に限定されることはなく、また、薄型、大型等の種々の大きさにすることができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を具体的な実験結果に基づいて説明する。
【0059】
<サンプル1>
〔正極活物質の調製〕
まず、合成原料としてLiPOとFe(PO・8HOと用い、この合成原料をLi/Fe=1.000/1.075として混合し、さらに非晶質系炭素材料であるアセチレンブラック粉末を焼成物全体の10重量%となるように添加して混合物とした。次に、混合物及び直径10mmのアルミナ製ボールを、質量比で混合物:アルミナ製ボール=1:2として直径100mmのアルミナ製ポットに投入し、遊星型ボールミルを用いてこの混合物にミリングを施した。なお、遊星型ボールミルとして、実験用遊星回転ポットミル「LA−PO」(伊藤製作所製)を使用し、下記に示す条件としてミリングを施した。
【0060】
遊星型ボールミルミリング条件
公転半径 :200mm
公転回転数:250rpm
自転回転数:250rpm
運転時間 :15時間
次に、上記においてミリングを施した混合物をセラミック製のるつぼに投入し、窒素雰囲気中の電気炉にて600℃の温度で5時間焼成することにより、LiFePOを主体とする正極活物質を得た。
【0061】
〔非水電解液電池の作製〕
上述のように調製した正極活物質:95重量部と、フッ素樹脂粉末であるポリ(ビニリデンフルオロライド):5重量部とを混合した後、加圧成形して直径15.5mm、厚み0.1mmのペレット状の正極とした。
【0062】
ついで、リチウム金属箔を正極と略同形に打ち抜くことにより負極とした。
【0063】
ついで、プロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとの等容量混合溶媒に、LiPFを1mol/lの濃度で溶解させることにより非水電解液を調製した。
【0064】
以上のようにして得られた正極を正極缶に収容し、負極を負極缶に収容し、正極と負極との間にセパレータを配した。そして、正極缶及び負極缶内に非水電解液を注入し、正極缶と負極缶とをかしめて固定することにより、直径20.0mm、厚み1.6mmの2016型のコイン型テストセルを作製した。
【0065】
<サンプル2>
合成原料を混合する際に、Li/Fe=1.000/1.050として正極活物質を調製したこと以外はサンプル1と同様にしてテストセルを作製した。
【0066】
<サンプル3>
合成原料を混合する際に、Li/Fe=1.000/1.025として正極活物質を調製したこと以外はサンプル1と同様にしてテストセルを作製した。
【0067】
<サンプル4>
合成原料を混合する際に、Li/Fe=1.000/1.000として正極活物質を調製したこと以外はサンプル1と同様にしてテストセルを作製した。
【0068】
<サンプル5>
合成原料を混合する際に、Li/Fe=1.025/1.000として正極活物質を調製したこと以外はサンプル1と同様にしてテストセルを作製した。
【0069】
<サンプル6>
合成原料を混合する際に、Li/Fe=1.050/1.000として正極活物質を調製したこと以外はサンプル1と同様にしてテストセルを作製した。
【0070】
<サンプル7>
合成原料を混合する際に、Li/Fe=1.075/1.000として正極活物質を調製したこと以外はサンプル1と同様にしてテストセルを作製した。
【0071】
<サンプル8>
合成原料を混合する際に、Li/Fe=1.100/1.000として正極活物質を調製したこと以外はサンプル1と同様にしてテストセルを作製した。
【0072】
<サンプル9>
合成原料を混合する際に、Li/Fe=1.125/1.000として正極活物質を調製したこと以外はサンプル1と同様にしてテストセルを作製した。
【0073】
<サンプル10>
合成原料を混合する際に、Li/Fe=1.150/1.000として正極活物質を調製したこと以外はサンプル1と同様にしてテストセルを作製した。
【0074】
<サンプル11>
合成原料を混合する際に、Li/Fe=1.175/1.000として正極活物質を調製したこと以外はサンプル1と同様にしてテストセルを作製した。
【0075】
<サンプル12>
合成原料を混合する際に、Li/Fe=1.200/1.000として正極活物質を調製したこと以外はサンプル1と同様にしてテストセルを作製した。
【0076】
<サンプル13>
合成原料を混合する際に、Li/Fe=1.225/1.000として正極活物質を調製したこと以外はサンプル1と同様にしてテストセルを作製した。
【0077】
以上のようにして作製したサンプル1〜サンプル13の正極活物質に対して、Rietveld法に基づきX線回折測定を行った。なお、X線回折測定には、X線回折装置:RINT2000(理学社製)を使用して、回折角10.0°≦2θ≦90.0°の範囲をスキャンスピードを0.02°/secとして正極活物質のX線回折パターンを測定した。また、測定の際には、ターゲットが銅である管球(CuKα線)およびモノクロメーターを使用した。
【0078】
そして、回折角22.6°近傍にあらわれるLiFePOのメインピークおよび回折角23.1°近傍にあらわれるLiPOのメインピークのピーク積分強度を求め、LiPOのメインピーク積分強度とLiFePOのメインピーク積分強度との比(以下、単にピーク積分強度比と称する。)を求めた。
【0079】
回折角20°≦2θ≦25°の範囲におけるサンプル1〜サンプル6のX線回折パターンを図2に、回折角20°≦2θ≦25°の範囲におけるサンプル7〜サンプル12のX線回折パターンを図3に示す。なお、図2および図3において、各X線回折パターンに付している数字は、各サンプルの番号と一致する。また、図3に示すように、aは回折角23.1°近傍にあらわれるLiPOのメインピークを示し、bは回折角22.6°近傍にあらわれるLiFePOのメインピークを示す。
【0080】
図2および図3から、Li/Feが1を超えるほど、すなわちLiPOの配合比が理論量をこえるほど、LiPOのメインピークが増加していることがわかる。したがって、LiPOの配合比が理論量を超えるほど、正極活物質中に残留しているLiPOも増加することが確認できる。
【0081】
以上のようにして測定したピーク積分強度比を表1に示す。なお、合成原料の配合比が1/1.05≦Li/Fe≦1/1の範囲では、配合されたLiPOは全て合成反応に利用されているため、LiPOのメインピークは測定されていない。一方、合成反応に利用される理論量以上に添加したLiPOは、生成物であるLiFePOと共に正極活物質中に残留していると考えられる。そこで、正極活物質中に残留しているLiPOの理論量と、合成反応により生成されたLiFePOの理論量とのモル比を、LiPO/LiFePO(理論値)として表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
表1より、実測により得たピーク積分強度比は、LiPO/LiFePO(理論値)とほぼ一致していることがわかる。つまり、ピーク積分強度比は、実際の正極活物質中におけるLiPO/LiFePOと比例しているといえる。
【0084】
なお、実測により得たピーク積分強度比は、LiPO/LiFePO(理論値)よりも小さい値としてあらわれている。これは、合成反応に利用される理論量以上に添加したLiPOの全てが、そのまま正極活物質中に残留しているわけでなく、一部は他の化合物として残留しているためであると考えられる。
【0085】
また、以上のようにして作製されたサンプル1〜サンプル13のテストセルについて、以下のようにして充放電試験を行い、初期放電容量を測定して電池特性を評価した。
【0086】
<充放電試験>
各テストセルに対して定電流充電を行い、電池電圧が4.2Vになった時点で、定電流充電から定電圧充電に切り替えて、電圧を4.2Vに保ったまま充電を行った。そして、電流が0.01mA/cm以下になった時点で充電を終了させた。その後、放電を行い、電池電圧が2.0Vまで低下した時点で放電を終了させ、初期放電容量を測定した。なお、充電時、放電時ともに常温(25℃)で行い、このときの電流密度は0.1mA/cmとした。なお、初期放電容量密度は、LiFePOの重量当たりの初回放電容量を表している。
【0087】
そして、初期容量が140mAh/g未満であるものを実用不可なものと評価し、初期容量が140mAh/g以上であるものを実用可能なものと評価し、初期容量が150mAh/g以上であるものを最良のものとして評価した。以上の測定結果および評価を表2に示す。なお、表2では、実用不可:×、実用可能:○、最良:◎と表現した。
【0088】
【表2】

【0089】
表2より、上記合成原料を混合する際に、1/1.05≦Li/Fe≦1.2/1なる範囲として正極活物質を調製したサンプル2〜サンプル11の非水電解液電池は、初期放電容量が140mAh/g以上であり、実用可能であることがわかる。特に、合成原料を混合する際に、1/1.025≦Li/Fe≦1.1/1なる範囲として正極活物質を調製したサンプル3〜サンプル8の非水電解液電池は、初期放電容量が150mAh/g以上であり、実用可能であることがわかる。
【0090】
これに対して、合成原料を混合する際に、1/1.05>Li/Feなる範囲として正極活物質を調製したサンプル1の非水電解液電池は、初期容量が低く、実用的でないことがわかる。また、合成原料を混合する際に、1.2/1<Li/Feなる範囲として正極活物質を調製したサンプル13の非水電解液電池も、初期容量が低く、実用的でないことがわかる。
【0091】
したがって、上記合成原料を混合する際に、1/1.05≦Li/Fe≦1.2/1なる範囲として正極活物質を調製することにより、正極活物質中に残留する合成原料を適性範囲とでき、高容量で、電池特性に優れた非水電解液電池を得ることができることがわかる。
【0092】
また、表1と表2とを比較すると、合成原料の配合比がLi/Fe≦1.2/1であり、合成された正極活物質におけるLiPO/LiFePOが6.67×10ッ2以下であるサンプル5〜サンプル13の非水電解液電池は、初期容量が高く、電池特性に優れることがわかる。一方、合成原料の配合比が1.2/1<Li/Feであり、LiPO/LiFePOが6.67×10−2を超えるサンプル13の非水電解液電池は、放電容量が低く、実用的でないことがわかる。
【0093】
したがって、LiPO/LiFePOが6.67×10−2以下である正極活物質を用いることにより、高容量で、電池特性に優れた非水電解液電池を得ることができることがわかる。
【0094】
次に、ポリマー電池を作製し、特性を評価した。
【0095】
<サンプル14>
まず、ゲル状電解質を以下に示すようにして作製した。まず、ヘキサフルオロプロピレンが6.9重量%の割合で共重合されたポリフッ化ビニリデンと、非水電解液と、ジメチルカーボネートとを混合し、撹拌、溶解させ、ゾル状の電解質溶液を調製した。次いで、ゾル状の電解質溶液に、ビニレンカーボネート(VC)を0.5重量%の割合で添加してゲル状電解質溶液とした。なお、非水電解液として、エチレンカーボネート(EC)と、プロピレンカーボネート(PC)とを体積比で6:4の割合で混合した混合溶媒にLiPFを0.85mol/kgの割合で溶解させたものを使用した。
【0096】
次いで、正極を以下に示すようにして作製した。まず、サンプル4で作製した正極活物質:95重量部と、バインダーとしてフッ素樹脂粉末であるポリ(ビニリデンフルオロライド)5重量部とを混合した後、N−メチルピロリドンを加えてスラリー状にしたものを準備した。次に、このスラリーを厚み20μmのアルミ箔に塗布、加熱乾燥後、加圧工程を経て正極塗布箔を作製した。次に、この正極塗布箔の片面にゲル状電解質溶液を塗布後、乾燥して溶剤を除去した後、セルの径に準じて直径15mmの円形に打ち抜き、正極電極とした。
【0097】
次いで、負極を以下に示すようにして作製した。まず、黒鉛粉末にバインダーとしてフッ素樹脂粉末を10重量%混合し、N−メチルピロリドンを加えてスラリー状にしたものを準備した。次に、このスラリーを銅箔に塗布、加熱乾燥後、加圧工程を経てセルの大きさに準じて直径16.5mmの円形に打ち抜き、負極電極とした。
【0098】
以上のようにして得られた正極を正極缶に収容し、負極を負極缶に収容した。そして、正極缶と負極缶とをかしめて固定することにより、直径20mm、厚み1.6mmの2016型のコイン型リチウムポリマー電池を作製した。
【0099】
以上のようにして作製したサンプル14のポリマー電池について、以下のようにして充放電試験を行い、初期放電容量及び30サイクル後の放電容量を測定した。
【0100】
<充放電サイクル特性試験>
充放電サイクル特性は、充放電を繰り返した後の容量維持率により評価した。
【0101】
コイン型リチウムポリマー電池に対して定電流充電を行い、電池電圧が4.2Vになった時点で、定電流充電から定電圧充電に切り替えて、電圧を4.2Vに保ったまま充電を行った。そして、電流が0.01mA/cm以下になった時点で充電を終了させた。その後、放電を行い、電池電圧が2.0Vまで低下した時点で放電を終了させた。
【0102】
以上の工程を1サイクルとして、これを30サイクル行い、1サイクル目及び30サイクル目における放電容量を求めた。そして、1サイクル目の放電容量(C1)に対する、30サイクル目の放電容量(C2)の比率((C2/C1)×100)を放電容量維持率として求めた。なお、充電時、放電時ともに常温(25℃)で行い、このときの電流密度は0.1mA/cmとした。その結果を表3に示す。
【0103】
【表3】

【0104】
表3から判るように、初期放電容量密度、30サイクル後の容量維持率ともに良好な値を示している。このことから、本発明を適用した正極活物質を用いれば、非水電解質として非水電解液の代わりにゲル状電解質を用いた場合においても放電容量の向上、サイクル特性の向上という効果を得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LiFePO(ただし、0<x≦1である。)で表される化合物を主体とし、
LiPO/LiFePOで表されるLiPOと上記一般式LiFePOで表される化合物とのモル比が、0<LiPO/LiFePO≦3.33×10−2なる範囲であること
を特徴とする正極活物質。
【請求項2】
上記一般式LiFePO(ただし、0<x≦1である。)で表される化合物の合成原料は、LiPOと、Fe(PO又はその水和物であるFe(PO・nHO(ただし、nは水和数である。)とであること
を特徴とする請求項1記載の正極活物質。
【請求項3】
正極活物質を含有する正極と、負極活物質を含有する負極と、非水電解質とを備える非水電解質電池において、
上記正極活物質は、一般式LiFePO(ただし、0<x≦1である。)で表される化合物を主体とし、LiPO/LiFePOで表されるLiPOと上記一般式LiFePOで表される化合物とのモル比が、0<LiPO/LiFePO≦3.33×10−2なる範囲であること
を特徴とする非水電解質電池。
【請求項4】
上記一般式LiFePO(ただし、0<x≦1である。)で表される化合物の合成原料は、LiPOと、Fe(PO又はその水和物であるFe(PO・nHO(ただし、nは水和数である。)とであること
を特徴とする請求項3記載の非水電解質電池。
【請求項5】
上記非水電解質が、液系電解質であること
を特徴とする請求項3又は請求項4記載の非水電解質電池。
【請求項6】
上記非水電解質が、ポリマー電解質であること
を特徴とする請求項3乃至請求項5のいずれか1項記載の非水電解質電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−155021(P2011−155021A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104783(P2011−104783)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【分割の表示】特願2000−308299(P2000−308299)の分割
【原出願日】平成12年10月6日(2000.10.6)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】