説明

正極負極絶縁用セパレータ

【課題】従来のセルロースを含有する正極負極絶縁用セパレータと同様に電解液の含浸性、イオン移動性に優れながら、機械的強度及び耐酸化還元性をも有する正極負極絶縁用セパレータを提供すること。
【解決手段】セルロースを含有する多孔性シートにラテックスを含浸させた正極負極絶縁用セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子部品の正極負極絶縁用セパレータに関し、特に電解液中に電極が浸されてなる電子部品の正極負極絶縁用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタ、非水系電池及び電解コンデンサのような電子部品においては、電解液を保持するとともに、一対の正極と負極とを絶縁するために、多孔性シートでなるセパレータが使用されている。
【0003】
例えば、非特許文献1第34〜37頁には、セパレータで2区画に仕切られた槽、槽に満たされた有機電解液、及びそれぞれの区画に浸漬された2つの炭素質電極を有する電気二重層キャパシタが記載されている。有機電解液は有機溶媒中に溶質を溶解した溶液である。溶質としてはテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(EtNBF)等が記載されており、溶媒としてはプロピレンカーボネートが記載されている。炭素質電極としては活性炭が使用されている。活性炭とは、無数の微細な孔を有するために非常に大きな比表面積を有する無定形炭素をいう。本明細書では約1000m/g以上の比表面積を有する無定形炭素を活性炭と呼ぶ。正極負極絶縁用セパレータの材料としてはセルロースやガラス繊維などの不織布が記載されている。
【0004】
特許文献1および2には、電気二重層キャパシタに用いる分極性電極として、非多孔性炭素質材料が記載されている。この炭素質材料は黒鉛類似の微結晶炭素を有し、比表面積は活性炭と比較して小さい。非多孔性炭素質材料は、電圧を印加すると、黒鉛類似の微結晶炭素の層間に電解質イオンが溶媒を伴いながら挿入されて、電気二重層を形成すると考えられている。正極負極絶縁用セパレータの材料としてはガラス繊維や和紙が記載されている。
【0005】
特許文献3には、有機電解液中に非多孔性炭素質電極を浸してなる電気二重層キャパシタが記載されている。有機電解液はイオン伝導性を示す必要があり、溶質はカチオンとアニオンとが結合した塩である。カチオンとしては低級脂肪族4級アンモニウム、低級脂肪族4級ホスホニウム及びイミダゾリウム等が記載されている。アニオンとしては4フッ化ホウ酸及び6フッ化リン酸等が記載されている。有機電解液の溶媒は極性非プロトン性有機溶媒である。具体的にはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン及びスルホラン等が記載されている。
【0006】
特許文献4には、電気二重層キャパシタに用いる分極性電極として、黒鉛を含んでなる炭素質材料が記載されている。この炭素質材料では、充電の途中から電解液中のイオンの吸着によって時定数に基づく電圧変化曲線よりも電圧の変化率が小さくなり、イオンの吸着および脱着による充放電が行なわれる。正極負極絶縁用セパレータの材料としてはセルロースを原料とする多孔性シートが記載されている。
【0007】
特許文献5には、セルロースを原料とする多孔性シートを電気二重層キャパシタの正極負極絶縁用セパレータに使用することが記載されている。セルロースを原料とする多孔性シートは電解液の含浸性、イオン移動性に優れ、電気二重層キャパシタの内部抵抗を低く維持することができる。しかしながら、セルロースは酸化還元反応の影響を受けて変質し易く、セルロースを含有するセパレータは耐久性に劣る。電気二重層キャパシタの使用環境が高温になるとこの傾向は顕著になる。つまり、経時的に電圧の低下やショートなどが生じ易くなる。
【0008】
特に、非多孔性炭素質材料や黒鉛系炭素質材料を使用する炭素質電極は充放電時に体積変化を示すものがあり、また定格電圧も高い。そのため、従来のセルロースを原料とする正極負極絶縁用セパレータでは、機械的強度及び化学的安定性が不十分である。
【特許文献1】特開平11−317333号公報
【特許文献2】特開2002−25867
【特許文献3】特開2000−77273
【特許文献4】特開2005−294780
【特許文献5】特開平10−256088号公報
【非特許文献1】岡村廸夫「電気二重層キャパシタと蓄電システム」第2版、日刊工業新聞社、2001年、第34〜37頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、従来のセルロースを含有する正極負極絶縁用セパレータと同様に電解液の含浸性、イオン移動性に優れながら、機械的強度及び耐酸化還元性をも有する正極負極絶縁用セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、セルロースを含有する多孔性シートにラテックスを含浸させた正極負極絶縁用セパレータを提供するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の正極負極絶縁用セパレータは電解液の含浸性、イオン移動性に優れながら、機械的強度及び耐酸化還元性にも優れる。そのため、例えば、電気二重層キャパシタに使用した場合、低い内部抵抗と高い耐久性、特に高温環境下における高い耐久性が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
セルロースを含有する多孔性シートは電子部品の正極負極絶縁用セパレータとして従来使用されてきたものあればよい。例えば、セルロース繊維を主成分とするフェルト状又は網目状シート等、具体的には、和紙のような紙や混抄紙等を挙げることができる。
【0013】
これらのうち特に好ましいものは、セルロースを原料として湿紙を製造し、この湿紙に存在する空隙構造を保持したまま乾燥させた紙質材である。この紙質材はイオンが通る経路としての微細な貫通孔を維持するために多孔質であって、かつ、高い気密度を有している。例えば、厚さが100μm以下の紙で、1000秒/100ccの気密度を示すようなものが好ましい。
【0014】
紙質材の厚さは20〜100μmの範囲が好ましい。20μm未満では機械的強度が低下して取扱が難しく、内部短絡の危険があり、100μmを超えると小型化ができず、厚くなる分電気抵抗も上昇するためである。なお、コイン型の電気二重層キャパシタではセパレータにある程度の厚さがないとプレス成型時にショートする確率が高くなるため、コイン型の電気二重層キャパシタでは100μm迄の厚さが要求されている。
【0015】
密度について特に制限はないが、実用的には密度0.3〜0.6g/cm3が好ましい。0.3g/cm3未満では引張強度が極端に低下し、実用性に欠ける。また、空隙構造が保持されているために、実質的に密度0.6g/cm3を超えることはない。なお、実用上セパレータの厚さが制限される場合にはキャレンダー加工を行うことによって厚さを薄くし、密度を0.6〜0.8g/cm3にしてもよい。
【0016】
セルロースを含有する多孔性シートに含浸させるラテックスは、ポリマーが水性媒体中に分散している安定なコロイド分散系である。このラテックスは、好ましくは酸変性ラテックスを含んでいる。理由は明確ではないが、酸変性ラテックスはセルロースの水酸基と相互作用してシートの構造を補強し、同時に、水酸基を封止して耐酸化還元性を向上すると考えられる。好ましいラテックスは、更に、pHが4〜10のものである。
【0017】
酸変性ラテックスは、NBR、SBR、アクリルゴム、フッ素ゴム及びIIRからなる群から選択されるゴムを成分とするものであってよい。具体的には、酸変性ラテックスは酸性モノマーを用いて重合されたポリマーを含んでいてよい。
【0018】
かかるラテックスの原料となる酸性モノマーは、モノマー1gを水に溶解或いは水と混合したときに、20℃でそのpHが7より小さい値を示すものであればよいが、エチレン性不飽和カルボン酸系モノマーが好ましい例である。特にエチレン性不飽和カルボン酸系モノマーとエチレン系不飽和カルボン酸エステル系モノマーと必要に応じてこれらと共重合可能なモノマーとを用いるのが好ましい。
【0019】
エチレン性不飽和カルボン酸系モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和モノカルボン酸系モノマー;マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸などの不飽和ジカルボン酸系モノマー;などが挙げられる。これらの中でもアクリル酸、メタクリル酸などの不飽和モノカルボン酸や、マレイン酸、イタコン酸などの炭素数5以下の不飽和ジカルボン酸が好ましい。
【0020】
このような酸性モノマーと共重合可能なモノマーとしては、エチレン性不飽和カルボン酸エステル系モノマー、スチレン系モノマー、ニトリル基含有モノマー、アクリルアミド系モノマー、メタクリルアミド系モノマー、グリシジル基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、共役ジエン系モノマーなどが挙げられる。上記酸性モノマーと共重合可能なモノマーの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ラウリルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル2−エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ラウリルなどのメタクリル酸エステル;クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、クロトン酸プロピル、クロトン酸ブチル、クロトン酸イソブチル、クロトン酸n−アミル、クロトン酸イソアミル、クロトン酸n−ヘキシル、クロトン2−エチルヘキシル、クロトン酸ヒドロキシプロピルなどのクロトン酸エステル;メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどのアミノ基含有メタクリル酸系モノマー;メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートなどのアルコキシ基含有メタクリル酸系モノマー;マレイン酸モノオクチル、マレイン酸モノブチル、イタコン酸モノオクチルなど不飽和ジカルボン酸モノエステルなどのエチレン系不飽和カルボン酸エステル系モノマー(これらのエチレン性不飽和カルボン酸エステル系モノマーの中でも好ましくは(メタ)アクリル酸アルキルであり、アルキル部分の炭素数は1〜12、好ましくは1〜8のものである)。また、更にスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、クロロスチレンなどのスチレン系モノマー;アクリロニトリル、メタアクリロニトリルなどのニトリル基含有モノマー;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミドなどのアクリルアミド系モノマー;メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミドなどのメタクリルアミド系モノマー;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテルなどのグリシジル基含有モノマー;スチレンスルホン酸ナトリウム、アクリルアミドメイルプロパンスルホン酸などのスルホン酸基含有モノマー;1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、ピペリレンなどの共役ジエン系モノマー;などを挙げることができる。
【0021】
ラテックス製造に際して、酸性モノマーと酸性モノマーと共重合可能なモノマーとの使用割合はモノマー総使用量に対して重量比で0.1:99.9〜50:50、好ましくは1:99〜40:60である。特に好ましいラテックスは、エチレン性不飽和カルボン酸エステル系モノマーとエチレン性不飽和カルボン酸系モノマーを用いたものであり、この2成分だけで好ましいラテックスを製造することもできるが、さらに前述したエチレン性不飽和カルボン酸系モノマーと共重合可能なモノマーであってエチレン性不飽和カルボン酸エステル系モノマー以外のモノマーを併用することができる。
【0022】
ラテックス中のポリマーは、酸性モノマーに加えて、NBR、SBR、アクリルゴム、フッ素ゴム及びIIRのようなゴムを成分とすることが好ましい。例えばアクリロニトリル−1,3−ブタジエン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−1,3−ブタジエン−イタコン酸−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−1,3−ブタジエン−メタクリル酸メチル−フマル酸共重合体、スチレン−1,3−ブタジエン−イタコン酸−メタクリル酸メチル−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリル酸n−ブチル−イタコン酸−メタクリル酸メチル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル−アクリル酸メチル−アクリル酸−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートなどの、エチレン系不飽和カルボン酸エステル系モノマー及びエチレン性不飽和カルボン酸系モノマーの共重合体や、エチレン系不飽和カルボン酸エステル系モノマー及びエチレン性不飽和カルボン酸系モノマーとエチレン系不飽和カルボン酸若しくはそのエステル以外のモノマーとの共重合体などが好ましい例として挙げられる。
【0023】
さらに、ポリマー粒子の結着性や結着持続性を高めるために、これらのポリマーを架橋剤を用い架橋してもよい。架橋剤を使用する場合、その使用量は反応条件やポリマーの種類などによって異なるが、通常、ポリマーに対して30重量%以下である。
【0024】
本発明で用いられるラテックスは、常法、たとえば「実験化学講座」第28巻(発行元:丸善(株)、日本化学会編)に記載された方法、即ち、攪拌機及び加熱装置付きの密閉容器に水、分散剤、モノマー、架橋剤等の添加剤、及び開始剤を所定の組成になるように加え、攪拌して該組成物を水に分散あるいは乳化させ、攪拌しながら温度を上昇させる等の方法で重合を開始させる方法によってラテックスを得ることが出来る。或いは、上記組成物を乳化させた後に密閉容器に入れ同様に反応を開始させる方法によってラテックスを得ることができる。
【0025】
ポリマー粒子の形状については特に制限はないが、その粒子径は、通常0.005〜1000μm、好ましくは0.01〜100μm、特に好ましくは0.05〜20μmである。粒子径が大きすぎると電池用バインダーとして使用する場合に、電極活物質と接触しにくくなり、電極の内部抵抗が増加する。小さすぎると必要なバインダーの量が多くなりすぎ、活物質の表面を被覆してしまう。なお、ここでいう粒子径は、透過型電子顕微鏡写真でラテックス状態のポリマー粒子100個の粒子の最長径を測定し、その平均値として算出された値である。
【0026】
本発明で用いるラテックスは、上述したとおりモノマーとしてエチレン性不飽和カルボン酸モノマーなどの酸性モノマーを用いて得られるものであるため、重合後のラテックスのpHはpH4以下となる場合がほとんどである。そこでラテックスを中和する必要がある。pHの調整は、pH4未満およびpH10よりも高い場合は電子部品の性能に悪影響を与えるため、pH4.0〜10.0、好ましくはpH6.0〜9.0である。
【0027】
酸変性ラテックスは市販されているものを用いてもよい。好ましい市販品の例には、日本ゼオン社製「BM−400B」、JSR社製「XSBR−0696」、日本エイアンドエル社製「NA20」、「NA105S」などが挙げられる。
【0028】
ラテックスのセルロースを含有する多孔性シートへの含浸は、通常の含浸方法が採用できる。含浸液を固形分濃度5〜20重量%に調製して浸漬及び絞り操作によって含浸させる、いわゆるディップスクィーズ(Dip−squeeze)方式や固形分濃度20〜40重量%の含浸液を用いてキスロールにより含浸させるキスコート(Kiss−coat)方式等の従来公知の方式によって、多孔性シート100重量部に対してポリマー固形分が0.5〜10重量部、好ましくは1〜5重量部付着するように実施される。
【0029】
この様にして得られたものは、加熱乾燥される。乾燥は、通常の乾燥条件、例えば70℃〜100℃で3〜30分の条件で行い、その後必要に応じてプレスして、含浸シートを得る。
【0030】
得られた含浸シートは、電気二重層キャパシタ、非水系電池、電解コンデンサ、そのほかの蓄電素子などの電子部品の正極負極絶縁用セパレータとして好適に用いることができる。
【0031】
電気二重層キャパシタの構造は、例えば、特許文献1の図5及び図6、特許文献2の図6、特許文献3の図1〜図4等に示されている。一般に、このような電気二重層キャパシタは、電極部材をセパレータを介して重ね合わせることにより正極と負極とを構成した後、電解液を含浸させて組み立てることができる。
【0032】
電極部材は従来から電気二重層キャパシタに使用されてきたものを使用すればよい。例えば、活性炭粒子、非多孔性炭素質粒子、黒鉛を含んでなる炭素質粒子を用いて分極性電極を成形し、集電極と結合させて、電極部材を得ることができる。
【0033】
好ましい非多孔性炭素は、炭素原料を不活性雰囲気下500〜900℃で2〜4時間焼成し、水酸化アルカリ粉末および/またはアルカリ金属の存在下で熱処理して得られる炭素粉末である。炭素原料としては、コークスグリーンパウダー、メソフェーズカーボン、及び不融化した塩化ビニル等を使用してよい。
【0034】
石油の蒸留時に得られる石油重質油を高温熱分解処理すると、針状の構造を有する炭素質固体が得られる。生成直後のこの固体はグリーン(生の)ニードルコークスと呼ばれる。なお、充填剤等に使用する場合は、その後1000℃以上の温度でか焼されるが、か焼後のものはか焼ニードルコークスと呼ばれてグリーンニードルコークスとは区別される。本明細書では、粉体状のグリーンニードルコークスをニードルコークスグリーンパウダーと呼ぶ。
【0035】
非多孔性炭素質電極はニードルコークスグリーンパウダーを出発原料として使用することが好ましい。ニードルコークスグリーンパウダーは比較的低温の焼成でも結晶化し易く、その分非晶質部分と結晶質部分との割合をコントロールし易い。易黒鉛化性有機物は熱処理により配向性の高い構造なり、比較的低温の焼成でも結晶化し易く、その分非晶質部分と結晶質部分との割合をコントロールし易い。
【0036】
通常ニードルコークスグリーンパウダーは石油ピッチを原料として製造されるものである。しかしながら、本発明では、石炭の軟ピッチからキノリン不溶分を除去し、精製された原料を用いて炭素化した石炭系ニードルコークスグリーンパウダーを使用してもよい。石炭系ニードルコークスは、一般に真比重が高くて、熱膨張係数が低く、針状構造で軟らかい性質をもっている。特に、石油系ニードルコークスに比べて、粒度が粗く熱膨張係数が低い特徴がある。また、元素組成も異なっており、石炭系ニードルコークスは石油系ニードルコークスよりも硫黄、窒素含有量が低い。
【0037】
炭素質電極の製造にあたって、まず、ニードルコークスグリーンパウダーを準備する。原料の中心粒子径は10〜5000μm、好ましくは10〜100μmである。また、炭素質電極中の灰分は表面官能基の生成に影響し、その低減化が重要である。本発明で用いるニードルコークスグリーンパウダーは固定炭素が70〜98%、灰分が0.05〜2%。好ましくは、固定炭素が80〜95%、灰分が1%以下という特性を有しているものである。
【0038】
ニードルコークスグリーンパウダーの粉末を不活性雰囲気下、例えば窒素やアルゴンの雰囲気下で、500〜900℃、好ましくは600〜800℃、より好ましくは650〜750℃で、2〜4時間焼成する。この焼成工程において炭素組織の結晶構造が形成されると考えられている。
【0039】
焼成温度が500℃未満であると賦活処理で細孔が発達し過ぎとなり、900℃を越えると賦活が進まない。焼成時間は本質的には反応には関係が無いが、おおむね2時間未満であると反応系全体に熱が伝わらず、均一な非多孔性炭素が形成されない。また4時間を越えても意味を持たない。
【0040】
焼成した炭素粉末は、重量比で、1.8〜2.2倍、好ましくは2倍程度の水酸化アルカリと混合する。そして粉末混合物を不活性雰囲気下650〜850℃、好ましくは700℃から750℃で2〜4時間焼成する。この工程はアルカリ賦活と呼ばれ、アルカリ金属原子の蒸気が炭素組織に浸透して炭素の結晶構造を緩める効果があると考えられている。
【0041】
水酸化アルカリの量が1.0倍未満であると十分に賦活が進まず、初回充電時に容量が発現しない。2.5倍を越えると賦活が進行しすぎて、表面積が増大する傾向になり、通常の活性炭と同様の表面状態となるために、耐電圧を取りにくくなる。水酸化アルカリはKOH、CsOH、RbOH等を用いてよいが、賦活効果に優れ、安価であることから、KOHが好ましい。
【0042】
また、焼成温度が650℃未満であるとKOHが炭素内部に十分に浸透せず、炭素層間を緩める効果が薄れるため、初回充電の容量増大が発現しにくい。焼成温度が850℃を越えるとKOHによる賦活以外に、機材炭素の結晶化という相反する作用が並行するためにコントロールが難しくなる。十分に材料が加温されれば、時間は本質的に関係ないが、焼成時間が2時間未満であると、材料に熱が十分にまわらず、部分的に賦活されない部位が出現する。4時間を越えて焼成しても意味がない。
【0043】
次いで、得られた粉末混合物を洗浄して水酸化アルカリを除去する。洗浄は、例えば上記アルカリ処理後の炭素から粒子を回収し、ステンレス製のカラムに充填し、120℃〜150℃、10〜100kgf、好ましくは10〜50kgfの加圧水蒸気をカラムに導入し、排水のpHが〜7となるまで加圧水蒸気を導入し続けることにより行うことができる(通常6〜10時間)。アルカリ除去工程の終了後、アルゴンや窒素のような不活性ガスをカラムに流し、乾燥して目的の炭素粉末を得る。
【0044】
以上の工程を経て得られた炭素粉末は、比表面積が300m2/g以下のものであり、各種電解質イオン、溶媒、CO2ガスなどを取り込める程度の細孔が少ない、いわゆる「非多孔性炭素」に分類される。なお、比表面積は、吸着剤としてCO2を用いたBET法により決定することができる。
【0045】
電解液は、電解質を溶質として用いて有機溶媒に溶解して得られる、いわゆる有機電解液を使用することができる。電解質としては、特許文献3に記載されているような当業者に通常使用されるものが使用できる。具体的には、トリエチルメチルアンモニウム(TEMA)、テトラエチルアンモニウム(TEA)及びテトラブチルアンモニウム(TBA)のような低級脂肪族4級アンモニウム、テトラエチルホスホニウム(TEP)のような低級脂肪族4級ホスホニウム、又は1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(EMI)のようなイミダゾリウム誘導体と4フッ化ホウ酸又は6フッ化リン酸との塩等がある。
【0046】
中でも好ましい電解質はピロリジニウム化合物及びその誘導体の塩である。好ましいピロリジニウム化合物塩は、式
【0047】
【化1】

【0048】
[式中、Rはそれぞれ独立してアルキル基、又は一緒に連結したアルキレン基であり、X-は対アニオンである。]
で示す構造を有する。ピロリジニウム化合物塩は公知であり、当業者に知られた方法で合成されたものであればよい。
【0049】
ピロリジニウム化合物塩のアンモニウム成分につき好ましいものは、上記式中、Rがそれぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基、又は一緒に連結した炭素数3〜8のアルキレン基であるものである。より好ましいものは、Rが、一緒に連結した炭素数4のアルキレン基であるもの(スピロビピロリジニウム)又は炭素数5のアルキレン基であるもの(ピペリジン−1−スピロ−1’−ピロリジニウム)である。かかる化合物を使用すると、分解電圧が電位窓が広く、溶媒に多量に溶解するという利点が得られるからである。但し、アルキレン基は置換基を有していてよい。
【0050】
対アニオンXは従来から有機電解液の電解質イオンとして使用されているものであればよい。例えば、4フッ化ホウ酸アニオン、フッ化ホウ酸アニオン、フッ化リン酸アニオン、6フッ化リン酸アニオン、過塩素酸アニオン、ボロジサリチル酸アニオン、ボロジシュウ酸アニオン、が挙げられる。好ましい対アニオンは4フッ化ホウ酸アニオン及び6フッ化リン酸アニオンである。
【0051】
上述の電解質を溶質として用いて有機溶媒に溶解することにより、電気二重層キャパシタ用有機電解液が得られる。有機電解液中の電解質の濃度は0.8から3.5モル%、好ましくは1.0から2.5モル%に調節される。電解質の濃度が0.8モル%未満であると、含有されるイオンの数が不足し、十分な容量が出ない。また、2.5モル%を越えても、容量に寄与しないので意味が無い。電解質は単独で用いてよく、複数種類を混合してもよい。従来から有機電解液に使用されている電解質を併用してもよい。
【0052】
有機溶媒は従来から有機系の電気二重層キャパシタに使用されてきたものを使用してよい。例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ−ブチロラクトン(GBL)及びスルホラン(SL)等は電解質の溶解能に優れ、安全性も高いため好ましい。また、これらを主溶媒とし、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)の少なくとも1種を副溶媒としたものも有用である。電気二重層キャパシタの低温特性が改善されるためである。また、有機溶媒としてアセトニトリル(AC)を使用すると電解液の導電率が高まるため特性上好ましいが、用途が限定される場合がある。
【0053】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、実施例中「部」又は「%」で表される量は特にことわりなき限り重量基準である。
【実施例】
【0054】
実施例1
水酸化カリウムペレットをあらかじめミルにて粉砕し、粉末状とした。日本製鋼製の石炭系ニードルコークスグリーンパウダー(NCGP)をアルミナ製の坩堝にて、これをマッフル炉にて窒素を循環させながら、表1に示される温度にて3時間焼成し自然冷却した。次に、概焼成品を重量比あたり1.5倍の水酸化カリウム粉末と混合した。これをそれぞれニッケル製の坩堝に入れ同じくニッケル製の蓋をかぶせて外気を遮断した。これをマッフル炉にて窒素を循環させながら、750℃にて保持時間4時間賦活した。本焼成品を取り出し、純水にて軽く洗浄した後、超音波をかけて洗浄した。時間は1分である。次にブフナーロートを用いて水分を分離した。同様の洗浄操作を繰り返し、洗浄処理水のペーハーが7付近になるまで行った。これを真空乾燥機にて200℃にて10時間乾燥を行った。
【0055】
得られたカーボンを、ボールミル(藤原製作所製AV−1)を用い、10mmΦのアルミナボールにて1時間粉砕した。これをコールターカウンターにて粒度を測定したところ、いずれも中心粒子径10ミクロン程度の粉状となった。得られた粉状のカーボンの比表面積をBET法によって測定したところ80m/gであった。また、細孔径0.8nm以下の細孔容積が0.04ml/gであった。
【0056】
粉状のカーボン(CB)をアセチレンブラック(AB)およびポリテトラフルオロエチレン粉(PTFE)の混合比 10:1:1となるように混合し、乳鉢にて練った。10分程度で、PTFEが遠伸され、フレーク状となった。これをプレスマシンにてプレスし、200ミクロン厚のカーボンシートを得た。このカーボシートを20mmΦのディスクに打ち抜き、正電極及び負電極を得た。
【0057】
セパレータ用紙(NKK(ニッポン高度紙工業)社製「TF4035」)、ラテックス(日本ゼオン社製「BM−400B」)を準備した。このラテックスは水性媒体中にカルボン酸変性アクリロニトリル−ブタジエンゴム粒子が分散したものであり、pHは6.5である。
【0058】
セパレータ用紙を20mmΦのディスクに打ち抜いた。イオン交換水を用いてラテックスの固形分濃度を5%に調整し、その浴に打ち抜いたセパレータ用紙を浸漬した。セパレータ用紙を引き上げて90℃にて5分間乾燥し、プレスして、セパレータを得た。
【0059】
得られた電極及びセパレータを用いて、図1に示すような、3電極セルを組み立てた。参照電極は#1711活性炭を上記と同様の方法にてシート化したものを用いた。これらセルを真空中220℃で24時間乾燥し冷却した。スピロビピロリジニウムテトラフルオロボレート(SBPBF4)を2.0モル%となるようにプロピレンカーボネートに溶解させて電解液を調製した。そして、得られた電解液をセルに注入して電気二重層キャパシタを作製した。
【0060】
組み立てた電気二重層キャパシタにパワーシステム製充放電試験装置「CDT−RD20」を接続し、電界賦活を行った後、周囲の温度を25℃に保ち、5mAにて7200秒間の定電流充電を行い、設定電圧に到達した後、5mAにての定電流放電を行った。設定電圧は4.2Vとし、3サイクル実施し3サイクル目のデータを採用した。
放電電力より容量(F/cc)を算出した。
定電流放電時のIRドロップより直流抵抗(Ω)を算出した。
【0061】
ついで、周囲の温度を70℃に上昇させ、上記条件の充放電を100サイクル行った。その後、周囲の温度を25℃に戻し、充放電を3サイクル行い容量維持率を測定し、以下の式により内部抵抗増加率(%)を算出した。表1は電気二重層キャパシタの106サイクル後の容量維持率(%)と内部抵抗増加率(%)とを示した表である。
【0062】
実施例2
日本ゼオン社製のラテックス「BM−400B」の代わりにJSR社製のラテックス「XSBR−0696」を用いること以外は実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し、試験した。試験結果を表1に示す。
【0063】
比較例1
セパレータとしてNKK(ニッポン高度紙工業)社製TF紙を用いること以外は実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し、試験した。試験結果を表1に示す。
【0064】
[表1]

容量維持率(%)=C106/C3×100
抵抗増加率(%)=(R106/R3-1)×100
C3:3サイクル目容量(25℃)、C106:106サイクル目容量(25℃)
R3:3サイクル目抵抗(25℃)、R106:106サイクル目抵抗(25℃)
【0065】
実施例の結果によれば、本発明の正極負極絶縁用セパレータを用いた電気二重層キャパシタは、紙質材をセパレータに用いたものよりも高温環境下での耐久性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例の電気二重層キャパシタの構造を示す組み立て図である。
【符号の説明】
【0067】
1、11…絶縁ワッシャ、
2…トップカバー、
3…スプリング、
4、8…集電極、
5、7…炭素質電極、
6…セパレータ、
9…ガイド、
10、13…Oリング、
12…本体、
14…押え板、
15…参照電極、
16…ボトムカバー。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースを含有する多孔性シートにラテックスを含浸させた正極負極絶縁用セパレータ。
【請求項2】
前記ラテックスが酸変性ラテックスを含んでいる請求項1記載の正極負極絶縁用セパレータ。
【請求項3】
前記酸変性ラテックスが、NBR、SBR、アクリルゴム、フッ素ゴム及びIIRからなる群から選択されるゴムを成分とするものである、請求項2記載の正極負極絶縁用セパレータ。
【請求項4】
前記酸変性ラテックスが酸性モノマーを用いて重合されたポリマーを含んでいる請求項2又は3記載の正極負極絶縁用セパレータ。
【請求項5】
前記セルロースを含有する多孔性シートが紙又は混抄紙である請求項1〜4のいずれか記載の正極負極絶縁用セパレータ。
【請求項6】
非水溶媒中に溶質を溶解させた電解液中に、炭素質正電極;請求項1〜5のいずれか記載の正極負極絶縁用セパレータ;及び炭素質負電極が浸されてなる電気二重層キャパシタ。
【請求項7】
前記炭素質正電極及び炭素質負電極の少なくとも一方が黒鉛類似の微結晶炭素を有する非多孔性炭素質電極である請求項6記載の電気二重層キャパシタ。

【図1】
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【公開番号】特開2007−180177(P2007−180177A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375327(P2005−375327)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【特許番号】特許第3889025号(P3889025)
【特許公報発行日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(393013560)株式会社パワーシステム (127)
【Fターム(参考)】