説明

歩行型作業機

【課題】 本発明の課題は、車輪駆動チェンに係合爪を係合させるだけの簡単な構成で確実に走行車輪を制動することができ、部品点数を低減し安価に実施できる駐車ブレーキ装置を具現する。
【解決手段】走行車輪(2)を有する車体(1)の後部から後方に向けて歩行用操作ハンドル(7)を設け、車体(1)に設けたエンジン(E)の回転動力を走行ミッションケース(8)及びチェンケース(9)を介して走行車輪(2)に伝達する構成とした歩行型作業機において、チェンケース(9)内部の車輪駆動チェン(13)に係合して該車輪駆動チェン(13)の回転を停止させる係合爪(16)と、この係合爪(16)を車輪駆動チェン(13)に対する係合状態と離脱状態とに切り替える切替作動機構(17,18)とからなる駐車ブレーキ装置(15)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダ等の歩行型作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バインダのような歩行型作業機においても、傾斜地などでの駐車時に、車体の自重によって車体が傾斜下がり側に動いてしまうことを防止するために、駐車ブレーキを設けることが要望されている。
【0003】
このような歩行型作業機の駐車ブレーキとして、走行車輪の回転を制動する駐車ブレーキを、ミッションケースの側方位置で、該ミッションケースから突出してチェンケースに走行動力を伝達する走行出力軸に設けた構成のものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11−127669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記ミッションケースから突出する走行出力軸は、駐車ブレーキ装置を設けるために、チェンケースを貫通してミッションケースとは反対側の外側方まで長く延出させたものであり、このように特別に延出させた走行出力軸の延出部に駐車ブレーキ装置を設けるものであるため、構成が簡単なものとはならず、しかも、ブレーキ装置がチェンケースの外側に大きく突出し、ブレーキカバー、ブレーキドラム、ブレーキカム、ブレーキアーム等の多くの部品点数を要し、安価には実施し難い問題がある。また、摩擦式の駐車ブレーキであるために、この駐車ブレーキを完全に解除しないまま走行すると、この駐車ブレーキの早期の摩耗や破損を来たして耐久性が低下する問題がある。また、この駐車ブレーキが充分に掛かっていない半ブレーキ状態のまま傾斜地に放置すると、機体の自重によって知らずのうちに機体が動いてしまう欠点がある。
【0005】
本発明は、簡単な構成で安価に実施でき、且つ作動の確実な駐車ブレーキ装置を具現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するために、次の如き技術手段を講じた。
すなわち、請求項1記載の発明は、走行車輪(2)を有する車体(1)の後部から後方に向けて歩行用操作ハンドル(7)を設け、車体(1)に設けたエンジン(E)の回転動力を走行ミッションケース(8)及びチェンケース(9)を介して走行車輪(2)に伝達する構成とした歩行型作業機において、前記チェンケース(9)内部の車輪駆動チェン(13)に係合して該車輪駆動チェン(13)の回転を停止させる係合爪(16)と、この係合爪(16)を車輪駆動チェン(13)に対する係合状態と離脱状態とに切り替える切替作動機構(17,18)とからなる駐車ブレーキ装置(15)を設けたことを特徴とする歩行型作業機とする。
【0007】
走行車輪2の回転を制動する駐車ブレーキ装置15は、チェンケース9内の車輪駆動チェン13に係合してこの回転を停止させる係合爪16の構成によるものであるため、簡単な構成でもって確実に停止させることができる。また、係合爪16はチェンケース9内に設けることができるため、従来のように制動装置をチェンケース外に大きく露出させることがなく、簡潔でコンパクトに構成になり、しかも、部品点数も少なく、安価に実施可能となる。
【0008】
請求項2記載の発明は、駐車ブレーキレバー(20)を歩行用操作ハンドル(7)の下方に配置し、該駐車ブレーキレバー(20)を歩行用操作ハンドル(7)の握り部(7a)側へ向けて後方へ引き操作することによって係合爪(16)が車輪駆動チェン(13)に係合し、駐車ブレーキレバー(20)を前方へ押し操作することによって係合爪(16)が車輪駆動チェン(13)から離脱するように前記駐車ブレーキレバー(20)と切替作動機構(17,18)とを連繋させたことを特徴とする請求項1記載の歩行型作業機とする。
【0009】
駐車ブレーキレバー20を後方に引き操作すると切替作動機構17,18によって係合爪16が車輪駆動チェン13に係合して駐車ブレーキが掛かり、駐車ブレーキレバー20を前方へ押し操作すると駐車ブレーキが解除される。このように、駐車ブレーキレバー20を後方に引き操作した時には、この駐車ブレーキレバー20が歩行用操作ハンドル7の握り部7aの下方近くで、オペレータの歩行運転に邪魔になる程度の位置まで引き操作される。一方、歩行運転時には、駐車ブレーキレバー20が邪魔にならない位置まで前方に押し込まれて駐車ブレーキを解除してから運転することができ、駐車ブレーキの解除忘れが少なくなる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によると、車輪駆動チェン13に係合爪16を係合させるだけの簡単な構成でもって走行車輪2を確実に制動することができ、しかも、係合爪16はチェンケース9内に収納することができるため、従来のように駐車ブレーキ装置をチェンケース9の外側に大きく露出させる必要がなく、簡潔でコンパクトな駐車ブレーキ装置を具現し得て安価に提供することができる。また、摩擦式のブレーキを利用する場合に比較して、半ブレーキ状態が起こりにくいために、走行車輪2の制動状態と非制動状態とがはっきりし、半ブレーキ状態のまま発進して駐車ブレーキ装置を破損したりしにくく、耐久性を向上させることができる。また、半ブレーキ状態のまま傾斜地に放置して車体が動いてしまうような問題を少なくし、安全性を高めることができる。
【0011】
また、請求項2の本発明によれば、請求項1記載の発明の効果を奏するものでありながら、駐車ブレーキレバー20を後方に引き操作する時には、駐車ブレーキレバー20がオペレータの歩行運転に邪魔になる位置まで引き操作されることになるので、これがオペレータの動作を阻害し、発進操作を行なわないように注意を促すことができ、歩行運転時には、駐車ブレーキレバー20を邪魔にならない前方に押し込んで駐車ブレーキを解除してから発進操作することができ、駐車ブレーキの解除忘れを未然に防止することができて各部の破損を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて具体的に説明する。
図1は、歩行型作業機の一例として圃場の立毛穀稈を刈り取りながら結束するバインダを示し、そして、このバインダBは、車体1の前後方向中間部位に左右一対の走行車輪(ゴム製のタイヤ)2,2を備え、走行車輪2,2の前方には立毛穀稈の刈取及び結束及び放出を行う刈取結束部3が設けられ、また、走行車輪2の後方には、走行クラッチレバー4、サイドクラッチレバー5、刈取クラッチレバー6等の操作具を備えた歩行用操作ハンドル7が車体1から後方に向けて突設されている。車体1の後部にはエンジンEが搭載されている。エンジンEからの回転動力は、走行ミッションケース8及びチェンケース9を介して走行車輪2に動力伝達するよう連動構成している。チェンケース9は、走行ミッションケース8から突出する走行出力軸10に一体的に嵌着される駆動スプロケット11と、走行車輪2の左右の車軸2a,2a間にわたって遊嵌した中間軸2bに固着される従動スプロケット12と、両スプロケット11,12間に券回される車輪駆動チェン13を内装する構成としている。前記中間軸2bと左右の車軸2a,2aとの間には、ボールクラッチ2c,2cを設け、該ボールクラッチ2c,2cを左右のサイドクラッチレバー5,5の操作によって遮断操作できるように構成する。
【0013】
走行車輪2の回転を制動するための駐車ブレーキ装置15は、車輪駆動チェン13に係合して該車輪駆動チェンの回転をロックする係合爪16と、この係合爪16を車輪駆動チェン13に対して係合させる制動状態と車輪駆動チェン13から離脱させる制動解除状態とに切り替える切替作動機構17,18等からなり、操作ハンドル7の下方に設けた駐車ブレーキレバー20に操作連動機構を介して連動連結している。
【0014】
前記係合爪16は、チェンケース9内に内装軸架してあり、チェンケース9の左右側壁に回動自在に架設した回動軸17に一体回動可能に固着し、該回動軸17の外端に固着した係合爪作動アーム18を戻しスプリング19を介して揺動操作することにより、係合爪16が車輪駆動チェン13に係合してこの車輪駆動チェン13の回転をロックする制動状態と、車輪駆動チェン13から離脱してロックを解除する制動解除状態とに切り替えできるように構成している。
【0015】
駐車ブレーキレバー20は、基端部をスタンド30の支軸31回りに揺動可能な揺動操作アーム21に連結してあり、揺動操作アーム21は引張スプリング22を介して前記係合爪作動アーム18に連結している。そして、駐車ブレーキ装置15をブレーキ作動状態に切り替える場合には、ブレーキレバー20を後方側に引き操作するが、このブレーキレバー20の握り操作部分が操作ハンドル7の握り部7aの下方位置近くに達するまで引き操作すると、揺動操作アーム21、引張スプリング22等による操作連動機構及び回動軸17、係合爪作動アーム18、戻しスプリング19等の切替作動機構を介して係合爪16が車輪駆動チェン13に係合してロック状態に切り替えることができ、また、駐車ブレーキ装置15をブレーキ解除状態に切り替える場合には、ブレーキレバー20を前方側に押し戻し操作することによって係合爪16を駆動チェン13から離脱させて、制動解除状態に切り替えできる構成としている。
【0016】
なお、前記引張スプリング22は、揺動操作アーム21後端のピンP1と、係合爪作動アーム18後端のピンQとの間に掛け渡し、駐車ブレーキレバー20のロッド前端(基端)は揺動操作アーム21前端のピンP2に枢着している。従って、ブレーキレバー20を後方へ引くと、揺動操作アーム21が起立回動して引張スプリング22が引かれて支点越えし、このスプリングの引張力によって係合爪作動アーム18及び係合爪16が下方回動し、係合爪16が駆動チェン13に係合してロックする制動状態となる。
【0017】
揺動操作アームと係合爪作動アームとは引張スプリングを介して連結することにより、揺動操作アームの支点越えが容易にでき、作動が確実となる。また、係合爪作動アームにも戻しスプリングを設けることにより、制動解除時の戻りを確実にすることができる。
【0018】
前記スタンド30は、支軸31回りに起伏回動する構成であり、支軸31は、チェンケース9の下部に設けた支持ブラケット32に軸受保持してあり、しかも、走行車輪2とエンジンEとの中間付近(バインダの重心より後方)に設定している。そして、スタンド収納時には、チェンケース9下方で、且つ、スタンドの足部30aがチェンケース後方でエンジンE下方に位置するよう配置構成している。 スタンド収納時は、エンジン下方にスタンドの足部が位置しているので、スタンド起立時には、操作ハンドルを持ったままでもスタンドを容易に起立させることができ、スタンドはチェンケース下方に収納するため、狭い空間内で構成することができる。
【0019】
走行クラッチレバー4は、前後方向に揺動操作可能に構成され、中立位置から前方への揺動操作でクラッチカム24の作動によりクラッチが入って機体は前進し、中立位置から後方への揺動操作でクラッチカム24を介してクラッチが入り機体は後進するようになっている。なお、前記クラッチカム24は、クラッチレバー4が前進側と後進側のいずれ側に操作されても反時計回りに回動する。走行クラッチレバーの入り切り操作を牽制する牽制部材25を走行クラッチレバー4の近くに設置すると共に軸X回りに回動可能に構成している。そして、この牽制部材25は、駐車ブレーキの係合爪16を係脱操作する係合爪作動アーム18の動きに連動して作動するように、係合爪作動アーム18と牽制部材25を連動ワイヤ27等で連動連結して、ブレーキ作動時には走行クラッチが入らないように牽制する構成としている。つまり、駐車ブレーキレバーを20をブレーキ「入」位置に操作した時には、牽制部材25が図示の仮想線の状態から実践の状態位置に回動し、牽制部材25から突設した牽制ピン26によってクラッチカム24の回動が阻止されるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】バインダの側面図
【図2】同上平面図
【図3】同上要部の平断面図
【図4】同上要部の拡大平断面図
【図5】同上要部の側面図
【図6】走行クラッチレバーと牽制部材との関連構成を示す説明用側面図
【図7】同上要部の説明用側面図
【図8】同上要部の説明用側面図
【符号の説明】
【0021】
1 車体 2 走行車輪
7 歩行用操作ハンドル 8 走行ミッションケース
9 チェンケース 13 車輪駆動チェン
15 駐車ブレーキ装置 16 係合爪
17 回動軸 18 係合爪作動アーム
20 駐車ブレーキレバー 21 揺動操作アーム
22 引張スプリング
E エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車輪(2)を有する車体(1)の後部から後方に向けて歩行用操作ハンドル(7)を設け、車体(1)に設けたエンジン(E)の回転動力を走行ミッションケース(8)及びチェンケース(9)を介して走行車輪(2)に伝達する構成とした歩行型作業機において、前記チェンケース(9)内部の車輪駆動チェン(13)に係合して該車輪駆動チェン(13)の回転を停止させる係合爪(16)と、この係合爪(16)を車輪駆動チェン(13)に対する係合状態と離脱状態とに切り替える切替作動機構(17,18)とからなる駐車ブレーキ装置(15)を設けたことを特徴とする歩行型作業機。
【請求項2】
駐車ブレーキレバー(20)を歩行用操作ハンドル(7)の下方に配置し、該駐車ブレーキレバー(20)を歩行用操作ハンドル(7)の握り部(7a)側へ向けて後方へ引き操作することによって係合爪(16)が車輪駆動チェン(13)に係合し、駐車ブレーキレバー(20)を前方へ押し操作することによって係合爪(16)が車輪駆動チェン(13)から離脱するように前記駐車ブレーキレバー(20)と切替作動機構(17,18)とを連繋させたことを特徴とする請求項1記載の歩行型作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−228711(P2008−228711A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77323(P2007−77323)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】