説明

歩行型草刈機

【課題】前進と後進を切り替えることができ、その切り替えによりカッターを走行方向前側が下がるよう傾斜させる歩行型草刈機において、カッターの傾斜角度を一定に維持できる歩行型草刈機を提供する。
【解決手段】歩行型草刈機は、走行方向を前進と後進で切り替えることができるものであって、車体フレーム(1)と、走行車輪(3,4)と、車体フレーム(1)に軸支部(200,200a)を介し軸周りに揺動自在に取り付けられており原動機(210)と水平回転式のカッター(7)を備えている駆動部ユニット(2)と、原動機(210)の動力を走行車輪(3,4)に伝える動力伝達系(5)と、走行方向を前進と後進で切り替える走行方向切替手段(60,25)と、走行方向の切り替えにより駆動部ユニット(2)を揺動させてカッター(7)を走行方向前側が下がるように所要角度で傾斜させ、その角度を維持する傾斜切替手段(25,251,26,27,27a)を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行型草刈機に関するものである。更に詳しくは、前進と後進を切り替えることができ、その切り替えに伴って、カッターをその回転軌道の走行方向前側が下がるよう傾斜姿勢をとるようにした歩行型草刈機において、カッターの傾斜角度を安定させることができるものに関する。
【背景技術】
【0002】
歩行型草刈機には、走行方向を前進、後進で切り替えることができ、作業地の地形等に合わせて、より効率的な草刈作業ができるようにしたものがある。このような歩行型草刈機は、前進、後進の各場合において同じ条件で草刈作業ができるように、カッターが水平方向(実質的に地面と平行な方向)に回転する構造を採用していた。しかし、この構造では、進行方向においてカッターの前部側で刈られた草の刈り残り部分がカッターの後部側に再度触れることになり、カッターの回転に対する負荷が大きくなる問題があった。この問題を解消するものとして、例えば特許文献1に開示された歩行型草刈機がある。
【0003】
特許文献1記載の歩行型草刈機は、走行機体<1>に、刈刃<10>を上下軸心<P2>周りに回動自在に、且つ左右軸心<P1>周りに揺動可能に支持すると共に、走行機体<1>を前進させると刈刃<10>の前側が下方に揺動した前下がり傾斜姿勢に姿勢変更され、走行機体<1>を後進させると刈刃<10>の後側が下方に揺動した後下がり傾斜姿勢に姿勢変更される傾斜姿勢変更機構を備えており、走行機体<1>を前進及び後進させての刈取作業を可能に構成しながら、刈刃<10>を回転させる動力を節約することができる歩行型草刈機を簡素な構造で実現するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−38987
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の歩行型草刈機には、次のような課題があった。
すなわち、この歩行型草刈機においては、走行機体<1>を前進させることで刈刃<10>を前下がり傾斜姿勢とし、走行機体<1>を後進させることで刈刃<10>を後下がり傾斜姿勢にするために、駆動軸<7a>の回転力を利用し、伝動ケース<7>に作用する駆動軸<7a>の回転による慣性力が伝動ケース<7>の自重による軸心<P1>周りの力より大きくなるようにして、伝動ケース<7>と一体に揺動する刈刃<10>が前記傾斜姿勢となるようにしている。
【0006】
このため、例えば歩行型草刈機が、上り斜面と下り斜面が連続するうねった斜面を走行する場合等、駆動軸<7a>の回転力が変動すると、特に刈高調節のため刈高さ調節機構<90>の長穴である調節穴<91B,91C>を使用する場合、刈刃<10>の傾斜角度も大きく変化して刈高が不安定になりやすく、結果的に草を刈り取った跡がいわゆる虎刈りのようにムラになるおそれがあった。
【0007】
(本発明の目的)
本発明の目的は、前進と後進を切り替えることができ、その切り替えに伴って、カッターをその回転軌道の進行方向側が下がるよう傾斜姿勢をとるようにした歩行型草刈機において、草刈り作業時にカッターの傾斜角度を一定に維持できる構造として刈高を安定させることにより、例えば上り斜面と下り斜面が連続するうねった斜面を走行して作業を行う場合でも、草を刈り取った跡がムラになることを防止できる歩行型草刈機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
(1)本発明は、
走行方向を前進と後進で切り替えることができる歩行型草刈機であって、
車体フレームと、
走行車輪と、
走行方向を前進と後進で切り替える走行方向切替手段と、
原動機と水平回転式のカッターを備え、前記走行方向切替手段の切り替えによって揺動して前記カッターの走行方向前側が下がり、その角度が維持される駆動部ユニットと、
前記原動機の動力を前記走行車輪に伝える動力伝達系と、
を備えている、歩行型草刈機である。
【0009】
(2)本発明は、
走行方向を前進と後進で切り替えることができる歩行型草刈機であって、
車体フレームと、
走行車輪と、
前記車体フレームに軸線方向が左右方向で水平方向の軸支部を介し軸周りに揺動自在に取り付けられており原動機と水平回転式のカッターを備えている駆動部ユニットと、
前記原動機の動力を前記走行車輪に伝える動力伝達系と、
走行方向を前進と後進で切り替える走行方向切替手段と、
該走行方向切替手段の切り替えに伴い前記駆動部ユニットを揺動させて前記カッターを走行方向前側が下がるように所要角度で傾斜させ、その角度を維持する傾斜切替手段と、
を備えている、歩行型草刈機である。
【0010】
(3)本発明は、
走行方向を前進と後進で切り替えることができる歩行型草刈機であって、
車体フレームと、
走行車輪と、
前記車体フレームに軸線方向が左右方向で水平方向の軸支部を介し軸周りに揺動自在に取り付けられており原動機と水平回転式のカッターを備えている駆動部ユニットと、
前記原動機の動力を前記走行車輪に伝える動力伝達系と、
走行方向を前進と後進で切り替える走行方向切替手段と、
該走行方向切替手段の切り替えに伴い前記駆動部ユニットを揺動させて前記カッターを走行方向前側が下がるように所要角度で傾斜させる傾斜切替手段と、
を備えており、
前記走行方向切替手段は、前記駆動部ユニットに軸部を介し駆動部ユニットの揺動方向へ回動自在に設けられた切替レバーを備え、
前記傾斜切替手段は、前記切替レバーの回動側に切替方向に相対して配され切替レバーを切替方向に進退動させる切替操作手段を備え、
前記切替レバーの回動先部側と前記車体フレームの間には、間隔設定具が架設されており、該間隔設定具は、間隔設定具の切替レバーへの取付箇所と前記車体フレームへの取付箇所との間隔を常時所要の間隔に設定するようにしてあり、
前記走行方向切替手段が中立状態であるときに、前記駆動部ユニットが水平又は前記車体フレームに対し平行になるようにしてあり、
前記切替操作手段で前記切替レバーを切替方向へ回動させ、切替レバーの軸部と前記間隔設定具の前記車体フレームへの取付箇所との間隔を変えることにより駆動部ユニットを軸支部の軸周りに揺動させてカッターを傾斜させる、
歩行型草刈機である。
【0011】
(4)本発明は、
切替操作手段が前進側へ切り替える前進操作アウターケーブルと後進側へ切り替える後進操作アウターケーブルであり、該前進操作アウターケーブル及び後進操作アウターケーブルのインナーワイヤの先端が切替レバーの回動先部側に接続されている、
前記(3)の歩行型草刈機である。
【0012】
(5)本発明は、
間隔設定具が、常態での長さから伸張する方向及び収縮する方向に所要の強さの弾性を有している、
前記(3)又は(4)の歩行型草刈機である。
【0013】
(6)本発明は、
駆動部ユニットの高さを調節することによりカッターの刈高を調節する刈高調節手段を備えている、
前記(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)の歩行型草刈機である。
【0014】
(作用)
本発明に係る歩行型草刈機の作用を説明する。なお、ここでは、説明で使用する各構成要件に、後述する実施の形態において各部に付与した符号を対応させて付与するが、この符号は、特許請求の範囲の各請求項に記載した符号と同様に、あくまで内容の理解を容易にするためであって、各構成要件の意味を上記各部に限定するものではない。
【0015】
歩行型草刈機は、走行方向切替手段(60,25)が中立状態(停止状態)では、駆動部ユニット(2)が水平又は車体フレーム(1)に対し平行になっており、したがってカッター(7)も水平状態となっている。そして、切替操作手段(27,27a)で切替レバー(25)を回動させて前進側へ切り替えると、切替レバー(25)の回動先部側(251)が間隔設定具(26)に対し間隔設定具(26)の長さを伸張させる方向又は収縮させる方向に力を作用させる。
【0016】
例えば、切替レバー(25)の回動先部側(251)が間隔設定具(26)の長さを伸張させる方向に力を作用させると、その反作用で切替レバー(25)の軸部(駆動部ユニット(2)に対する取付箇所)(250)は、中立位置から間隔設定具(26)の車体フレーム(1)への取付箇所に近付く方向へ移動し、切替レバー(25)の軸部(250)と間隔設定具(26)の車体フレーム(1)への取付箇所の間隔が狭くなる。
【0017】
また、逆に切替レバー(25)の回動先部側(251)が間隔設定具(26)の長さを収縮させる方向に力を作用させると、その反作用で切替レバー(25)の軸部(250)は、中立位置から間隔設定具(26)の車体フレーム(1)への取付箇所と離れる方向へ移動し、切替レバー(25)の軸部(250)と間隔設定具(26)の車体フレーム(1)への取付箇所の間隔が広くなる。
【0018】
このように、切替レバー(25)の軸部(250)、すなわち駆動部ユニット(2)における軸部(250)が設けられている箇所と、間隔設定具(26)の車体フレーム(1)への取付箇所との間隔を変えることにより、駆動部ユニット(2)を軸支部(200,200a)の軸周りに揺動させることができる。したがって、走行方向切替手段(60,25)の切り替えに伴い駆動部ユニット(2)の揺動する方向を適宜設定することにより、駆動部ユニット(2)に設けられているカッター(7)を走行方向前側が下がるように所要角度で傾斜させることができる。
しかも、切替レバー(25)の軸部(250)を中心とした回動幅は、前進側と後進側で一定幅で決まっているので、草刈作業時において、カッター(7)の傾斜角度は実質的に変動せず、刈高が安定する。
【0019】
切替操作手段が前進側へ切り替える前進操作アウターケーブル(27)と後進側へ切り替える後進操作アウターケーブル(27a)であり、該前進操作アウターケーブル(27)及び後進操作アウターケーブル(27a)のインナーワイヤ(271,271a)の先端が切替レバー(25)の回動先部側(251)に接続されているものは、駆動部ユニット(2)又はカッター(7)に対し、切替レバー(25)の軸部(250)と間隔設定具(26)の車体フレーム(1)への取付箇所の間隔が狭くなる方向へ外力や衝撃力が作用した場合においては、一方側のインナーワイヤ(271又は271a)が撓み変形することで、この外力や衝撃力を吸収又は逃がすことができる。
【0020】
間隔設定具(26)が、常態での長さから伸張する方向及び収縮する方向に所要の強さの弾性を有しているものは、駆動部ユニット(2)又はカッター(7)に対し、切替レバー(25)の軸部(250)と間隔設定具(26)の車体フレーム(1)への取付箇所の間隔が狭くなる方向又は広くなる方向へ外力や衝撃力が作用するどちらの場合においても、間隔設定具(26)が伸張方向又は収縮方向へ弾性変形することで、この外力や衝撃力を吸収又は逃がすことができる。
【0021】
駆動部ユニット(2)の高さを調節することによりカッター(7)の刈高を調節する刈高調節手段(23,230,11)を備えているものは、刈高を調節する際には、刈高調節手段(23,230,11)により傾斜時において角度が変動しない駆動部ユニット(2)の高さを調節するだけなので、設定が可能な各刈高において、それぞれ刈高を安定させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、走行方向を前進と後進で切り替えることができ、その切り替えに伴って、カッターをその回転軌道の進行方向側が下がるよう傾斜姿勢をとるようにした歩行型草刈機において、草刈り作業時にカッターの傾斜角度を一定に維持できるようにして刈高を安定させることができる。したがって、歩行型草刈機を使用し、例えば上り斜面と下り斜面が連続するうねった斜面を走行して作業を行う場合でも、草を刈り取った跡がムラになることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る歩行型草刈機の一実施の形態を示す斜視説明図。
【図2】歩行型草刈機の側面視説明図。
【図3】歩行型草刈機の背面視説明図。
【図4】歩行型草刈機の操作ハンドルを進行方向と直角に設定した状態の平面視説明図。
【図5】ミッション部を有するエンジンマウント部の車体フレームに対する取付構造を示す分解斜視説明図。
【図6】中立状態の切替部の状態及びそれによる車体フレームに対する駆動部ユニットの動きを示し、(a)は平面視説明図、(b)は(a)における切替部である要部の拡大説明図、(c)は側面視説明図。
【図7】前進状態の切替部の状態及びそれによる車体フレームに対する駆動部ユニットの動きを示し、(a)は平面視説明図、(b)は(a)における切替部である要部の拡大説明図、(c)は側面視説明図。
【図8】後進状態の切替部の状態及びそれによる車体フレームに対する駆動部ユニットの動きを示し、(a)は平面視説明図、(b)は(a)における切替部である要部の拡大説明図、(c)は側面視説明図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
〔実施の形態〕
本発明を図面に示した実施の形態に基づき詳細に説明する。
図1乃至図8を参照する。
歩行型草刈機Aは、走行方向を前進と後進で切り替えることができ、その切り替えに伴って、後述するカッター7をその進行方向側が下がるように、具体的にはカッター7の回転軌道の進行方向側が下がるように傾斜姿勢をとるようにしたものである。
【0025】
歩行型草刈機Aは、車体フレーム1と、車体フレーム1に軸線方向が左右方向(走行方向に対し直角方向)かつ水平方向である後述する軸体200、200aを介して揺動自在に取り付けられた駆動部ユニット2と、車体フレーム1に設けられている駆動輪である前輪3、3及び後輪4、4と、駆動部ユニット2の動力を前輪3、3及び後輪4、4に伝える動力伝達系5と、車体フレーム1の後部側に設けられている操作ハンドル6を備えている。また、駆動部ユニット2の下側には、水平回転式のカッター7が設けられている。
【0026】
以下、前記各部について、その構造を詳細に説明する。
車体フレーム1は、図5に示すようにほぼ長方形の枠状に形成されている。車体フレーム1の前部及び後部には、ほぼコ字状で先部側が上がり傾斜したガード体101、102が形成されている。また、車体フレーム1の前後端部には、カッター7とやや距離をおいてそれぞれカッター7と遠い側が下がるように傾斜した前部カバー12と後部カバー13が取り付けられている。
【0027】
車体フレーム1の両側の側枠103、104の前後端部には、前輪3、3と後輪4、4が取り付けられている。前輪3、3と後輪4、4は、それぞれ同じ車軸(符号省略)に設けられている。これにより、左右の前輪3、3は一体となって回転し、同じく左右の後輪4、4も一体となって回転する。前輪3、3と後輪4、4は、後述する出力軸220及び前記各車軸に設けられたスプロケットや各スプロケットに掛けられたチェーン等からなる動力伝達系5によって駆動される。
【0028】
車体フレーム1には、前記したように駆動部ユニット2が後述する軸体200、200aを介して揺動自在に取り付けられている。駆動部ユニット2の取付構造については後で説明する。
駆動部ユニット2は、揺動基体20(図5参照)を有している。揺動基体20の上部前側には、エンジンマウント21が設けられており、下部側には、ミッション部22が設けられている。エンジンマウント21には、原動機であるエンジン210が取り付けられている。駆動部ユニット2の下側には、前記カッター7の左右両側を覆う側部カバー28、28aが取り付けられている(図4等参照)。
【0029】
ミッション部22は、ケース内にミッション(何れも符号省略)を収めた構造であり、前輪3、3及び後輪4、4を駆動する出力軸220(図5乃至図8参照)を有している。また、ミッション部22は、下側に鉛直方向に設けられたカッター軸221(図5参照)を有している。カッター軸221には、前記したように、水平回転式のカッター7が固定されている。
【0030】
前記出力軸220は、揺動基体20の前後方向(草刈機の走行方向)中間部の左右方向の一方側(図5で右側)に、軸線方向が左右水平方向となるように設けられている。出力軸220には、前記動力伝達系5を構成するスプロケット(図示省略)が取り付けられている。動力伝達系5は、このスプロケットと前輪3、3及び後輪4、4の車軸に設けられたスプロケット(図示省略)に掛けられたチェーン(図示省略)により前輪3、3及び後輪4、4を駆動するようになっている。また、出力軸220の回転方向を変えることにより、草刈機の走行方向を前進と後進で切り替えることができる。
【0031】
揺動基体20は、左右両側に出力軸220と中心軸線が同軸である軸体200、200aを有している。軸体200、200aは、それぞれ高さ調節アーム23、23aの先端側に軸周方向に回動自在に取り付けられている。高さ調節アーム23、23aの基端側(後述するようにL字形状の高さ調節アーム23については折れ曲がり角部)は、車体フレーム1の左右側に固定されている支持具10、10a(図5参照)に軸部231を介し上下方向へ回動自在に軸支されている。
【0032】
なお、前記一方側(図5で右側)の高さ調節アーム23は、ほぼL字形状に形成されている。高さ調節アーム23の上部へ折曲した端部側には、高さ調節レバー230が取り付けられている。高さ調節レバー230は、車体フレーム1に固定されている刈高操作盤11に嵌装され、刈高操作盤11に段階的に設けられた高さ設定部110、111、112(図6乃至図8の(a)参照)に選択的に係合できるようになっている。また、一方の軸体200a側には、常態では揺動基体20を水平(車体フレーム1に対し平行)に維持する弦巻コイルバネである姿勢制御バネ201(図5参照)が設けられている。
【0033】
揺動基体20の一方側(図5で右側)の軸体200の上方側には、揺動制御台具24が固定されている。揺動制御台具24の前後方向両側には、チューブ固定部240、241が形成されている。後部側のチューブ固定部240には、後方側から導入された前進操作アウターケーブル27のアウターチューブ270の先端が固定されている。また、前部側のチューブ固定部240aには、前方側から導入された後進操作アウターケーブル27aのアウターチューブ270aの先端が固定されている。前進操作アウターケーブル27と後進操作アウターケーブル27aは切替操作手段を構成する。
【0034】
前進操作アウターケーブル27と後進操作アウターケーブル27aは、後述する操作ハンドル6の切替操作レバー60につながっている。草刈機の走行方向を前進と後進で切り替える切替操作レバー60は、操作ハンドル6に固定されている走行方向操作盤61に嵌装され、走行方向操作盤61に設けられた中立設定部610、前進設定部611、後進設定部612(図3参照)に選択的に係合できるようになっている。切替操作レバー60は、後述する切替レバー25と共に走行方向切替手段を構成する。
【0035】
一方、揺動制御台具24近傍の揺動基体20の上面には、前記出力軸220の回転方向を切り替えて歩行型草刈機Aの走行方向を前進と後進で切り替える切替レバー25が設けられている。なお、切替レバー25の動きに連動した切替構造については、公知構造を採用しているので、説明を省略する。切替レバー25は、基端側が切替軸250に固定されており、水平方向に所要の角度範囲(切替位置まで)で回動できるようになっている。切替レバー25の先端側には、取付軸251が立設固定されている。
【0036】
取付軸251には、前記揺動制御台具24のチューブ固定部240、241にアウターチューブ270、270a先端をそれぞれ固定した前進操作アウターケーブル27と後進操作アウターケーブル27aのインナーワイヤ271、271aの先端がそれぞれ固定されている。各インナーワイヤ271、271aは、緩みのない状態で接続されている。
【0037】
さらに、取付軸251には、間隔設定具である間隔設定バネ26の一端側が固定されている。間隔設定バネバネ26の他端側は、車体フレーム1に固定されている。間隔設定バネ26は、切替レバー25の取付軸251への取付箇所と車体フレーム1への取付箇所(後述するP1)との間隔を常時所要の間隔に設定するものである。前記切替レバー25、取付軸251、間隔設定バネ26、前進操作アウターケーブル27及び後進操作アウターケーブル27aは、傾斜切替手段を構成し、駆動部ユニット2を揺動させてカッター7を走行方向前側が下がるように所要角度で傾斜させたときに、その角度が変わらないようにする。
【0038】
なお、本実施の形態では、間隔設定バネ26として、力が作用しない常態での長さから伸張する方向及び収縮する方向に所要の強さの弾性を有している捻りコイルバネを使用している。本実施の形態では、間隔設定具として捻りコイルバネを使用したが、その代替として、伸張する方向及び収縮する方向に力が作用しても長さが変化しない棒体等の剛性体を採用することもできる。
【0039】
そして、切替操作レバー60を前記操作ハンドル6に設けられている走行方向操作盤61の中立設定部610に係合させているときには、後述する切替レバー25も中立位置にあり(図6参照)、駆動部ユニット2は、水平(又は車体フレーム1に対し平行)になるように調節されている。
【0040】
また、切替操作レバー60を前進設定部611に係合させると、前進操作アウターケーブル27のインナーワイヤ271が引かれて切替レバー25は前進切替側に回動する(図7参照)。さらに、切替操作レバー60を後進設定部612に係合させると、後進操作アウターケーブル27aのインナーワイヤ271aが引かれて切替レバー25は後進切替側に回動する(図8参照)。
【0041】
操作ハンドル6は所要の長さを有し、車体フレーム1の後部側、すなわち歩行型草刈機Aの前進方向とは反対側に取り付けられている。操作ハンドル6には、作業者の手元となる側に前記切替操作レバー60及び走行方向操作盤61を含む各種操作部が設けられている。操作ハンドル6は、基端部が上下方向及び水平方向に所要の角度で回動できるように取り付けられている。
【0042】
操作ハンドル6の水平方向の角度は、歩行型草刈機Aの前進方向に対し左側90°から右側90°までの範囲で調節できるように構成されている(図4参照:ただし図4では片側の回動域のみを想像線で表している)。例えば、傾斜面での草刈作業では、危険防止のために作業者が草刈機の傾斜面上方側で操作ができるように、操作ハンドル6を進行方向と90°になるように回動させる。
【0043】
(作用)
図1乃至図8(主に図6乃至図8)を参照して、本実施の形態に係る歩行型草刈機Aの作用を説明する。
【0044】
歩行型草刈機Aは、切替操作レバー60が中立位置すなわち草刈機が停止状態では、前記したように切替レバー25が中立位置にあり、駆動部ユニット2が水平又は車体フレーム1に対し平行になっており、したがってカッター7も水平状態となっている(図6参照)。
なお、以下の説明の便宜上、このときの切替レバー25の切替軸250の位置を(P2)とし、間隔設定バネ26の車体フレームへの取付箇所を(P1)とし、(P1)と(P2)の間隔を(L0)とする。
【0045】
(前進走行の場合)
そして、エンジン210を作動させ、切替操作レバー60を前進側へ切り替えると、前進操作アウターケーブル27のインナーワイヤ271が引かれ、切替レバー25の回動先部側である取付軸251が間隔設定バネ26に対し間隔設定バネ26の長さを収縮させる方向(又は圧縮する方向)に力を作用させながらあらかじめ設定されている角度まで回動する(図7(b)参照)。
【0046】
このように、切替レバー25が間隔設定バネ26の長さを収縮させる方向に力を作用させて前記のように回動すると、その反作用で切替レバー25の切替軸250(P2)は、図6に示した中立位置から間隔設定バネ26の車体フレーム1への取付箇所(P1)と離れる方向へ移動し、切替レバー25の切替軸250(P2)と間隔設定バネ26の車体フレーム1への取付箇所(P1)の間隔(L1)が前記中立時の間隔(L0)より広くなる。
【0047】
切替レバー25や間隔設定バネ26は、前記のように揺動基体20の揺動中心である軸体200、200aより上にあるので、(P2)と(P1)の間隔(L1)が中立時の間隔(L0)より広くなることにより、揺動基体20すなわち駆動部ユニット2は、図7(c)に示すように矢印F方向(反時計回り方向)へ揺動し、カッター7は、その回転軌道の前進方向側が下がるように所要角度で傾斜する。
【0048】
なお、本実施の形態では、間隔設定バネ26が常態での長さから伸張する方向及び収縮する方向に所要の強さの弾性を有している捻りコイルバネであり、さらに前記各アウターケーブル27、27aで切替レバー25を切り替える構造である。したがって、駆動部ユニット2又はカッター7に対し、(P2)と(P1)の間隔(L1)が狭くなる方向又は広くなる方向へ外力や衝撃力が作用しても、間隔設定バネ26が伸張方向又は収縮方向へ弾性変形し、併せてアウターケーブル27、27aの何れか一方側のインナーワイヤ271又は271aが撓み変形することで、この外力や衝撃力を吸収又は逃がすことができる。
【0049】
(後進走行の場合)
また、切替操作レバー60を中立位置から後進側へ切り替えると、後進操作アウターケーブル27aのインナーワイヤ271aが引かれ、切替レバー25の回動先部側である取付軸251が間隔設定バネ26に対し間隔設定バネ26の長さを伸張させる方向(又は引っ張る方向)に力を作用させながらあらかじめ設定されている角度まで回動する(図8(b)参照)。
【0050】
このように、切替レバー25が間隔設定バネ26の長さを伸張させる方向に力を作用させて前記のように回動すると、その反作用で切替レバー25の切替軸250(P2)は、図6に示した中立位置から間隔設定バネ26の車体フレーム1への取付箇所(P1)に近付く方向へ移動し、切替レバー25の切替軸250(P2)と間隔設定バネ26の車体フレーム1への取付箇所(P1)の間隔(L2)が前記中立時の間隔(L0)より狭くなる。
【0051】
前記(P2)と(P1)の間隔(L2)が中立時の間隔(L0)より狭くなることにより、揺動基体20すなわち駆動部ユニット2は、図8(c)に示すように矢印B方向(時計回り方向)へ揺動し、カッター7は、その回転軌道の後進方向側が下がるように所要角度で傾斜する。なお、間隔設定バネ26の作用により、駆動部ユニット2又はカッター7に対し、(P2)と(P1)の間隔(L2)が狭くなる方向又は広くなる方向へ外力や衝撃力が作用した場合でも、この外力や衝撃力を吸収又は逃がすことができる点は前記前進走行の場合と同様である。
【0052】
このように、切替レバー25の切替軸250の位置(P2)、すなわち駆動部ユニット2における切替軸250が設けられている箇所と、間隔設定バネ26の車体フレーム1への取付箇所(P1)との間隔を(L0)から(L1)または(L2)へ適宜変えることにより、駆動部ユニット2を軸体200、200aの軸周りに揺動させることができる。これにより、草刈機の走行方向の切り替えに伴い、駆動部ユニット2に設けられているカッター7をその回転軌道の走行方向前側が下がるように所要角度で傾斜させることができる。
【0053】
しかも、切替レバー25の切替軸250を中心とした回動幅(又は回動角)は、前進側と後進側であらかじめ一定幅で決められているので、草刈作業時において、カッター7の傾斜角度は実質的に変動せず、刈高が安定する。
【0054】
草刈機の刈高を調節する場合は、高さ調節レバー230を操作して調節アーム23を回動させることで駆動部ユニット2の高さを変えるようにする。このように、前記傾斜時においても角度が変動しない駆動部ユニット2の高さを調節するだけなので、設定が可能な各刈高において、それぞれ刈高を安定させることができる。なお、刈高の調節に伴い、駆動部ユニット2に設けられた出力軸220の高さも変わるので、前記動力伝達系5はチェーンの張りを好適に制御するための公知構造の制御手段(図示省略)を備えている。
【0055】
なお、本明細書で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書に記述された特徴およびその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形が可能であるということは言うまでもない。
【符号の説明】
【0056】
A 歩行型草刈機
1 車体フレーム
101、102 ガード体
103、104 側枠
10、10a 支持具
11 刈高操作盤
110、111、112 設定部
12 前部カバー
13 後部カバー
2 駆動部ユニット
20 揺動基体
200、200a 軸体
201 姿勢制御バネ
21 エンジンマウント
210 エンジン
22 ミッション部
220 出力軸
221 カッター軸
23、23a 調節アーム
230 高さ調節レバー
231 軸部
24 揺動制御台具
240、240a チューブ固定部
25 切替レバー
250 切替軸
251 取付軸
26 間隔設定バネ
27 前進操作アウターケーブル
27a 後進操作アウターケーブル
270、270a アウターチューブ
271、271a インナーワイヤ
28、28a 側部カバー
3 前輪
4 後輪
5 動力伝達系
6 操作ハンドル
60 切替操作レバー
61 走行方向操作盤
610 中立設定部
611 前進設定部
612 後進設定部
7 カッター
P1 間隔設定バネ26の車体フレーム1への取付箇所
P2 切替レバー25の切替軸250の位置
0 中立時のP1とP2の間隔
1 前進時のP1とP2の間隔
1 後進時のP1とP2の間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行方向を前進と後進で切り替えることができる歩行型草刈機であって、
車体フレーム(1)と、
走行車輪(3,4)と、
走行方向を前進と後進で切り替える走行方向切替手段(60,25)と、
原動機(210)と水平回転式のカッター(7)を備え、前記走行方向切替手段(60,25)の切り替えによって揺動して前記カッター(7)の走行方向前側が下がり、その角度が維持される駆動部ユニット(2)と、
前記原動機(210)の動力を前記走行車輪(3,4)に伝える動力伝達系(5)と、
を備えている、
歩行型草刈機。
【請求項2】
走行方向を前進と後進で切り替えることができる歩行型草刈機であって、
車体フレーム(1)と、
走行車輪(3,4)と、
前記車体フレーム(1)に軸線方向が左右方向で水平方向の軸支部(200,200a)を介し軸周りに揺動自在に取り付けられており原動機(210)と水平回転式のカッター(7)を備えている駆動部ユニット(2)と、
前記原動機(210)の動力を前記走行車輪(3,4)に伝える動力伝達系(5)と、
走行方向を前進と後進で切り替える走行方向切替手段(60,25)と、
該走行方向切替手段(60,25)の切り替えに伴い前記駆動部ユニット(2)を揺動させて前記カッター(7)を走行方向前側が下がるように所要角度で傾斜させ、その角度を維持する傾斜切替手段(25,251,26,27,27a)と、
を備えている、
歩行型草刈機。
【請求項3】
走行方向を前進と後進で切り替えることができる歩行型草刈機であって、
車体フレーム(1)と、
走行車輪(3,4)と、
前記車体フレーム(1)に軸線方向が左右方向で水平方向の軸支部(200,200a)を介し軸周りに揺動自在に取り付けられており原動機(210)と水平回転式のカッター(7)を備えている駆動部ユニット(2)と、
前記原動機(210)の動力を前記走行車輪(3,4)に伝える動力伝達系(5)と、
走行方向を前進と後進で切り替える走行方向切替手段(60,25)と、
該走行方向切替手段(60,25)の切り替えに伴い前記駆動部ユニット(2)を揺動させて前記カッター(7)を走行方向前側が下がるように所要角度で傾斜させる傾斜切替手段(25,251,26,27,26,27a)と、
を備えており、
前記走行方向切替手段(60,25)は、前記駆動部ユニット(2)に軸部(250)を介し駆動部ユニット(2)の揺動方向へ回動自在に設けられた切替レバー(25)を備え、
前記傾斜切替手段(25,251,26,27,27a)は、前記切替レバー(25)の回動側に切替方向に相対して配され切替レバー(25)を切替方向に進退動させる切替操作手段(27,27a)を備え、
前記切替レバー(25)の回動先部側と前記車体フレーム(1)の間には、間隔設定具(26)が架設されており、該間隔設定具(26)は、間隔設定具(26)の切替レバー(25)への取付箇所と前記車体フレーム(1)への取付箇所との間隔を常時所要の間隔に設定するようにしてあり、
前記走行方向切替手段(60,25)が中立状態であるときに、前記駆動部ユニット(2)が水平又は前記車体フレーム(1)に対し平行になるようにしてあり、
前記切替操作手段(27,27a)で前記切替レバー(25)を切替方向へ回動させ、切替レバー(25)の軸部(250)と前記間隔設定具(26)の前記車体フレーム(1)への取付箇所との間隔を変えることにより駆動部ユニット(2)を軸支部(200,200a)の軸周りに揺動させてカッター(7)を傾斜させる、
歩行型草刈機。
【請求項4】
切替操作手段が前進側へ切り替える前進操作アウターケーブル(27)と後進側へ切り替える後進操作アウターケーブル(27a)であり、該前進操作アウターケーブル(27)及び後進操作アウターケーブル(27a)のインナーワイヤ(271,271a)の先端が切替レバー(25)の回動先部側(251)に接続されている、
請求項3記載の歩行型草刈機。
【請求項5】
間隔設定具(26)が、常態での長さから伸張する方向及び収縮する方向に所要の強さの弾性を有している、
請求項3又は4記載の歩行型草刈機。
【請求項6】
駆動部ユニット(2)の高さを調節することによりカッター(7)の刈高を調節する刈高調節手段(23,230,11)を備えている、
請求項1、2、3、4又は5記載の歩行型草刈機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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