説明

歩行者保護装置に対してトリガ信号を生成するための方法および装置

本発明は、歩行者保護装置に対してトリガ信号(AS)を生成する方法と、関連の装置とに関する。ここでは、センサデータを検出および評価する。本発明では、オブジェクトとの衝突が識別された後、トリガ検査と該センサデータの妥当性検査とを実施し、該トリガ検査では、該センサデータによって歩行者を識別するために、特徴抽出(110)および/またはオフセット識別(120)を行い、該オフセット識別(120)で該オブジェクトの衝突箇所を求め、該トリガ検査で歩行者との衝突を識別し、かつ該センサデータの妥当性検査が肯定的である場合、該トリガ信号(AS)を歩行者保護装置に対して生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者保護装置に対してトリガ信号を生成するための、独立請求項である請求項1の上位概念に記載の方法、または関連の装置に関する。ここでは、トリガ信号を生成するためにセンサデータを検出して評価する。
【0002】
従来技術
歩行者と車両との衝突時に歩行者の負傷を低減するためのEU法の導入の告示により、新たな車両は、衝突時に歩行者の負傷がEU法で要求されている限界内に抑えられるように構成しなければならなくなっている。
【0003】
歩行者の負傷を低減するための第1のストラテジーは、バンパおよび車両の設計の変化によって、歩行者に対する衝撃吸収ゾーンを提供することにより、パッシブな手段によって負傷の危険性を低減することを目指す。
【0004】
第2のストラテジーは、適切なセンサ系によって歩行者の衝突を識別し、その次に歩行者保護装置をアクティブに駆動制御し、かつ/または、エンジンフードを持ち上げることによって必要な衝撃吸収ゾーンを提供する試みである。前記歩行者保護装置は、たとえばAピラーに設けられた外部エアバッグである。このようなアクティブな手段では、加速度センサ、圧力センサ、ノッキングセンサ、圧電センサから光学的センサ等まで実に異なる種々のセンサ原理が使用される。
【0005】
本発明の利点
それに対して、独立請求項である請求項1の特徴を有する、歩行者保護装置に対するトリガ信号の本発明による生成方法では、オブジェクトとの衝突が識別された後、トリガ検査と該センサデータの妥当性検査とを実施し、該トリガ検査では、該センサデータによって歩行者を識別するために、特徴抽出および/またはオフセット識別を行い、該オフセット識別で該オブジェクトの衝突箇所を求め、該トリガ検査で歩行者との衝突を識別し、かつ該センサデータの妥当性検査が肯定的である場合、該トリガ信号を歩行者保護装置に対して生成する。このような生成方法の利点は、特徴抽出および/またはオフセット識別と、トリガ信号を生成するための付加的な妥当性検査とによって、歩行者保護装置の確実かつよりロバストな駆動制御が可能になることである。このことにより、歩行者の最適な保護が保証されると同時に、歩行者保護装置の不所望のトリガによって、たとえば別のオブジェクトとの衝突時に発生するコストの低減が保証される。
【0006】
本発明の方法では有利には、使用可能なセンサ信号に基づいて、オブジェクトとの衝突が識別された後に現時点の状況で、歩行者保護装置のトリガないしはアクティベートが必要であるか否かを判定する。
【0007】
独立請求項である請求項9の特徴を有する、歩行者保護装置に対するトリガ信号の本発明の生成装置は、歩行者保護装置に対するトリガ信号の本発明の生成方法を実施するのに必要な手段を有する。
【0008】
従属請求項に記載された構成および発展形態によって、請求項1に記載された歩行者保護装置に対するトリガ信号の生成方法と、請求項9に記載された関連の装置とを有利に改善することができる。
【0009】
特に有利なのはトリガ検査時に、衝突が識別された時点からの時間を測定するカウンタ状態を考慮することである。このことにより、判定を下すべき時点を決定することができる。
【0010】
さらに有利には、抽出された特徴がトリガ関連の領域内にあることによって、歩行者との衝突を識別する。このトリガ関連の領域の上限および/または下限は、オフセット識別および/またはカウンタ状態および/または車両固有速度および/または相対速度によって決定される。これはたとえば、レーダセンサおよび/または超音波センサおよび/またはカメラ等を含む周辺センサ系によって検出される。可能な実施形態ではたとえば、抽出された特徴が特定の時点で、かつ/または所定の時間にわたってトリガ関連の領域内にあるか否かを検査する。特徴抽出では、減速度および/または加速度の1次積分および/または2次積分および/または異なる時間の窓積分および/または絶対値積分および/または最大値および/または最小値を計算して、関連の特徴として決定することができる。
【0011】
オブジェクトとの衝突はたとえば、有利には加速度および/または減速度を表すセンサ信号が所定の閾値を上回ることによって識別される。この所定の閾値は、たとえばノイズ閾値である。択一的に、より複雑な衝突識別方法を使用することもできる。
【0012】
有利には、妥当性検査のためにエアバッグ制御装置の中央の加速度センサを評価する。
【0013】
センサデータを生成するのに有利なのは、バンパ内に配置されアップフロントセンサとしても使用される少なくとも2つのセンサを使用することである。
【0014】
特に有利な実施形態では、評価制御ユニットはエアバッグ制御装置内に組み込まれる。というのもここでは、CANバスシステムからの信号を容易に使用することができ、また、中央の加速度センサからの加速度情報も容易に使用できるからである。
【0015】
図面
図面に本発明の実施例が示されており、この実施例を下記で詳細に説明する。
【0016】
図面
図1 本発明による装置のブロック回路図である。
図2 20km/hで車両前部の中央に衝突する異なるオブジェクトにおける特徴の概略的な経過プロフィールを示す。
【0017】
実施例の説明
図1から見てとれるように、ここに図示された実施例である、歩行者保護装置に対するトリガ信号ASの生成装置は2つの加速度センサ10,20を有する。これらの加速度センサ10,20は有利にはバンパに組み込まれている。というのもこのセンサ取り付け位置では、歩行者衝突と、悪路区間での走行または縁石およびポットホールを越えたのとを特に確実に区別できるからである。しかし本発明による方法は、たとえばノッキングセンサ等の別のセンサとともに使用することができる。また、本装置を2つより多くのセンサに拡張することもできる。
【0018】
さらに図1から見てとれるように、評価制御ユニット300は時間制御部30、トリガユニット100、妥当性検査ユニット200および出力ユニット400を有する。トリガ検査を実施するためのトリガユニットの重要なブロックは、最大値抽出手段110、オフセット識別手段120および判定論理回路140である。付加的に判定論理回路140は、CANバスシステム130から供給される信号を評価する。このような信号は、たとえば車両固有速度である。トリガユニット100には時間制御部30が前置接続されている。これは、通常の走行状態であるか否か、または、オブジェクトとの衝突によってのみ引き起こされるような大きな減速度および/または加速度が存在するか否かに関して、センサデータを検査する。こうするためには、最も簡単な形態では、センサ10,20の加速度および/または減速度と閾値いわゆるノイズ閾値とを比較する。センサ10,20によって、悪路区間、縁石の乗り上げまたはポットホール走行等に起因する程度でないほど大きい加速度または減速度が検出されると、時間制御部30によってトリガユニット100がアクティベートされる。さらに、時間制御部はこの時点でカウンタ31を開始する。このカウンタ31はトリガユニット100において、該トリガユニット100のアクティベート後に所定の時点で判定を下すのに使用される。さらに、このカウンタ31によってリセット動作が制御される。このリセット動作は、識別された現時点の衝突で歩行者保護手段のトリガが必要でない場合に、トリガユニット100および該トリガユニットの構成要素を初期状態に戻すのに使用される。上記のようにセンサ10,20のノイズ閾値を超える他に択一的に、より複雑なトリガ基準を使用することもできる。たとえば、両センサ10,20の値から成る和と所定の閾値とを比較するか、または、センサ10,20の値から成る窓積分と所定の閾値とを比較する。
【0019】
時間制御部30によるトリガユニット100のアクティベート後、特徴抽出手段110は種々の特徴の抽出を、たとえば減速度および/または加速度の1次積分および/または2次積分および/または異なる時間による窓積分および/または絶対値積分および/または最大値および/または最小値の計算によって行い、その結果を判定論理回路140へ供給する。時間制御部30によってリセット信号が初期化されると、前記種々の特徴の値および積分値がゼロにリセットされる。
【0020】
特徴抽出と同時に、オフセット識別手段120によって、左側のセンサ10および右側のセンサ20の信号比較により、識別された衝突が車両前部の中央で発生したか、または車両前部の中央からずれて発生したかが検出される。オフセットが存在するか否かの判定は、減速ピークの振幅の評価によって行うか、または個々のセンサ10,20の加速度の1次積分または2次積分または個々のセンサ10,20の加速度の絶対値の1次積分等の量に基づいて行うことができる。オフセットが存在するか否かの情報と、存在する場合にはどの位置にオフセットが存在するかの情報とが、判定論理回路140に供給される。
【0021】
判定論理回路140は時間制御部30の情報と、特徴抽出手段110の情報と、オフセット識別手段120の情報と、オプションとして、CANバスシステム130によって供給される車両固有速度の情報とに基づいて、仮のトリガ判定を下す。こうするためにはまず、トリガユニット100のアクティベート以降に経過した時間を測定するカウンタ31を考慮する。カウンタ状態が所定の値に達するかまたは上回った場合、判定論理回路140は、発生した衝突が、保護手段をアクティベートできる対歩行者衝突であるか否かの判定を下す。前記所定の値は、たとえばパラメータによって厳密に定義されたものである。こうするためには、保護手段をアクティベートしなければならない対歩行者衝突と、保護手段をアクティベートすべきでない比較的弱い衝突とを区別しなければならない。このような衝突は、たとえば石、電柱等との衝突である。それと同時に、歩行者との衝突と、たとえば鉄塔または別の車両との衝突等の比較的強い衝突とを区別しなければならない。こうするためには、たとえば減速度の1次積分等である抽出された種々の特徴を、判定の時点で下限および上限と比較する。ここで、図2を参照されたい。ここでは種々の特徴の上限および下限は、車両固有速度と識別された衝突場所とに依存することができる。適切な限界はたとえば、いわゆるルックアップテーブルとの比較によって求めることができる。このようなルックアップテーブルには、上限および/または下限の特定の値が割り当てられた、可変のパラメータの種々の値が格納されている。判定時点では、種々の特徴と所定の上限および下限とを比較し、それぞれの特徴がトリガ関連の領域内にある場合、すなわち上限と下限との間にある場合、相応のフラグをセットする。各特徴ごとに、このようなフラグを生成することができる。このような生成されたフラグは、判定論理回路140において論理演算によって、最も簡単なケースではAND論理結合によって結合されることにより、仮のトリガ判定を表す出力信号が出力される。
【0022】
抽出された特徴を所定の時点で比較する他に択一的に、幾つかの特徴またはすべての特徴を比較的長い時間にわたって、時間に依存する上限および下限と比較する手法を適用することができる。
【0023】
図2は、所与の速度で、たとえば20km/hで車両前部の中央に当たる3つの異なるオブジェクトの特徴特性曲線を示している。点線の特徴特性曲線GOは、たとえば鉄柱等である大きなオブジェクトを表し、実線の特徴特性曲線Fは歩行者を表し、破線の特性曲線KOは小さいオブジェクトを表す。挿入されている上限および下限は、たとえば境界条件である車両固有速度および車両の衝突箇所から得られる。図2から見て取れるように、判定時点では特性曲線Fのみが上限内かつ下限内にあるので、トリガユニット100はこのケースのみを鑑みれば、仮の肯定的なトリガ判定を下し、すなわち、仮の肯定的なトリガ判定を表すフラグがセットされ、妥当性検査も肯定的な結果を供給した場合に歩行者保護装置がアクティベートされる。特性曲線GOは上限より上にあり、特性曲線KOは下限より下にあるので、トリガユニットは両ケースに対して否定的なトリガ判定を下し、すなわちトリガフラグはセットされず、歩行者保護装置は妥当性検査に関係なくアクティベートされない。
【0024】
トリガユニット100に並行して、妥当性検査ユニット200が動作する。この妥当性検査ユニット200では個々のセンサ信号が、センサ10,20で得られた信号が妥当であるか否かに関して評価される。妥当性検査ユニットは、第1のセンサ信号10の妥当性を検査する手段210と、第2のセンサ20の妥当性を検査する手段220とを有する。たとえばANDゲートとして構成される判定ユニット230では、両センサ10,20の信号が妥当である場合に、肯定的な妥当性検査結果が求められる。付加的または択一的に、妥当性検査に中央の加速度センサの加速度信号が使用される。この加速度センサは、たとえばエアバッグ制御装置内に配置される。検査によって、オブジェクトとの衝突が妥当であるという結果が得られた場合、妥当性フラグがセットされる。すなわち、妥当性検査は肯定的な結果を供給する。
【0025】
妥当性フラグは、仮のトリガ判定を表すフラグとともに出力ユニット400へ出力され、出力ユニット400はトリガフラグと妥当性フラグとを、たとえばAND論理結合によって結合して、妥当なトリガ判定信号ASを生成する。このトリガ判定信号ASは、歩行者保護手段の駆動制御に使用される。
【0026】
ここに図示されていない実施形態では、本発明による方法はエアバッグ制御装置で具現化される。というのもここでは、CAN信号と中央の加速度センサからの加速度情報とを簡単に使用できるからである。しかし、専用の制御装置で実現することも考えられる。
【0027】
ここに記載された方法は、複数の加速度センサに簡単に拡張することができ、原則的に、たとえばノッキングセンサ等の別のセンサにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による装置のブロック回路図である。
【図2】20km/hで車両前部の中央に衝突する異なるオブジェクトにおける特徴の概略的な経過プロフィールを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行者保護装置に対してトリガ信号(AS)を生成する方法であって、
センサデータを検出して評価する形式の方法において、
オブジェクトとの衝突が識別された後、トリガ検査と該センサデータの妥当性検査とを実施し、
該トリガ検査では、該センサデータによって歩行者を識別するために、特徴抽出(110)および/またはオフセット識別(120)を行い、該オフセット識別(120)で該オブジェクトの衝突箇所を求め、
該トリガ検査で歩行者との衝突を識別し、かつ該センサデータの妥当性検査が肯定的である場合、該トリガ信号(AS)を歩行者保護装置に対して生成することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記トリガ検査時に、衝突が識別された時点からの時間を測定するカウンタ状態を考慮する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
抽出された特徴(GO,F,KO)がトリガ関連の領域内にある場合、歩行者との衝突を識別し、
該トリガ関連の領域の上限および/または下限を、前記オフセット識別(120)および/またはカウンタ状態および/またはカウンタ状態および/または車両固有速度および/または相対速度によって決定する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
歩行者との衝突を、抽出された特徴(F)が所定の時点において、かつ/または所定の時間にわたってトリガ関連の領域内にあることによって識別する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記特徴抽出(110)で、減速度および/または加速度の1次積分および/または2次積分および/または異なる時間の窓積分および/または絶対値積分および/または最大値および/または最小値を計算する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
オブジェクトとの衝突を、たとえば加速度および/または減速度を表すセンサ信号が所定の閾値を超えることによって識別する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記妥当性検査を行うために、エアバッグ制御装置の中央の加速度センサを評価する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
バンパ内に配置された少なくとも2つのセンサ(10,20)が前記センサデータを生成する、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
歩行者保護装置に対してトリガ信号(AS)を生成するための装置であって、
センサデータを生成するための複数のセンサ(10,20)を有し、
請求項1から8までのいずれか1項記載の方法を実施するための装置である形式のものにおいて、
評価制御ユニット(300)が設けられており、
該評価制御ユニット(300)は、該センサ信号を評価するために、時間制御部(30)と妥当性検査ユニット(200)とトリガユニット(100)とを有し、
該時間制御部(30)は、オブジェクトとの衝突が識別された後に、トリガ検査を行うために該トリガユニット(100)をアクティベートし、
該トリガユニット(100)は、特徴抽出手段(110)および/またはオフセット識別手段(120)と、判定論理回路(130)とを有し、
該評価制御ユニット(300)は、該トリガ検査時に歩行者との衝突が識別され、かつ該妥当性検査ユニット(200)によって実施された該センサデータの妥当性検査が肯定的である場合、該歩行者保護装置に対してトリガ信号(AS)を生成するように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項10】
前記評価制御ユニット(300)はエアバッグ制御装置内に組み込まれている、請求項9記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−511495(P2008−511495A)
【公表日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−528805(P2007−528805)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【国際出願番号】PCT/EP2005/053360
【国際公開番号】WO2006/024576
【国際公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany