説明

歩行補助装置

【課題】膝関節に加えるトルクの反転タイミングをユーザの歩行動作に適応させ、ユーザに違和感を与えることなく歩行動作を補助する歩行補助装置を提供する。
【解決手段】歩行補助装置は、ユーザの脚に沿って装着され、ユーザの膝関節にトルクを加える脚装具と、膝関節角が目標角軌道に追従するように脚装具を制御するコントローラを備える。コントローラは、一方の足が離床してから接地脚の足に対する相対的な遊脚膝位置が予め定められた位置に到達するまでは膝を曲げる方向に漸増する第1目標角軌道に追従するように遊脚の脚装具を制御し、遊脚の膝位置が前記予め定められた位置に到達してから遊脚着床までは膝を伸ばす方向に漸増する第2目標角軌道に追従するように遊脚の脚装具を制御する。この歩行補助装置は、遊脚膝関節が決められた位置に到達したときに膝関節に加えるトルクを反転するので、ユーザに違和感を与えることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザの膝関節にトルクを加えて歩行動作を補助する歩行補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザの脚に装着し、脚の関節にトルクを加えることによってユーザの歩行動作を補助する歩行補助装置が研究されている。例えば、特許文献1に、そのような歩行補助装置の一例が開示されている。特許文献1の歩行補助装置は、一方の脚を自由に動かすことができないユーザの歩行を補助する。なお、本明細書では、ユーザが自由に動かすことできない脚を患脚(affected leg)と称し、自由に動かすことのできる脚を健常脚(sound leg)と称する。
【0003】
特許文献1の歩行補助装置は、健常脚の動作を検出する脚センサを備えており、患脚の動きが健脚の動きに応じるように患脚の関節にトルクを加える。
【0004】
【特許文献1】特開2006−314670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歩行動作とは、左右の脚の周期的な動きである。例えば、歩行動作に合わせてユーザの膝関節にトルクを加える歩行補助装置は、膝関節角が周期的な目標角軌道に追従するようにトルクを加えればよい。予め定められた目標角軌道に沿って膝が動くように補助することによって、ユーザは円滑に歩行することができる。
【0006】
しかしながら、ユーザの脚の動きを目標角軌道に強制的に追従させると、ユーザに違和感を与えることが判明した。違和感の一つは、遊脚の膝関節に加えるトルクの向きが反転するタイミングがユーザの歩行感覚と一致していないことに起因する。
【0007】
歩行の際、遊脚の膝は、足の離床時から徐々に屈曲し、その位置が接地脚の足よりも前方に出たタイミングで伸展し始める。即ち、遊脚の膝関節角は、まず、膝を曲げる方向に漸増し、接地脚の足よりも前方に出たタイミング以降は膝を伸ばす方向に漸増する。膝関節角の目標角軌道が屈曲から伸展に変化するタイミングがトルクの反転タイミングに相当する。
【0008】
トルクが反転するタイミングはもうひとつある。前述したように、遊脚期間の後半に、膝関節角は膝を伸ばす方向に漸増する。そして、足が着床した後に膝関節は、膝を曲げる方向に変化する。すなわち、着床タイミングがもう一つのトルク反転タイミングに相当する。
【0009】
例えば、ユーザが膝を伸ばし続けているときに歩行補助装置が膝を曲げる方向にトルクを反転する、或いはユーザが膝を曲げ始めているにも関わらずに歩行補助装置が膝を伸ばす方向にトルクを加え続けると、ユーザに違和感を与えてしまう。このように、膝関節角の目標角軌道を予め決定してしまうと、目標角軌道におけるトルク反転タイミングがユーザの歩行動作と一致しないときにユーザが違和感を受ける。本発明は、上記課題に鑑みて創作された。本発明は、違和感を与えることなく、ユーザの膝関節の動きを補助する歩行補助装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書が開示するひとつの技術は、遊脚期間の途中で膝が屈曲から伸展に変化するタイミングと歩行補助装置が加えるトルクの反転タイミングのずれを低減する歩行補助装置に具現化することができる。ここで、「屈曲」とは、膝を曲げる方向に膝関節が回転することを意味する。また、「伸展」とは、曲がった膝を真っ直ぐに伸ばす方向に膝関節が回転することを意味する。その歩行補助装置は、ユーザの脚に沿って装着され、ユーザの膝関節にトルクを加える脚装具と、膝関節角が目標角軌道に追従するように脚装具を制御するコントローラを備える。この歩行補助装置は、離床してから着床するまでの遊脚膝関節の目標角軌道を2つに分割する。第1目標角軌道は、膝を曲げる方向に漸増する目標角の軌道を定める。第2目標角軌道は、膝を伸ばす方向に漸増する目標角の軌道を定める。なお、本明細書における「漸増する目標角」には、時間の経過とともに増加し、一定の目標角に収束する軌道を含む。従って、第1目標角軌道の一例は、膝を曲げる方向に一方的に変化し、所定の第1角度に近づく軌道である。また第2目標角軌道の一例は、膝を伸ばす方向に一方的に変化し、所定の第2角度に近づく軌道である。
【0011】
本発明の歩行補助装置のコントローラは、一方の足が離床してから接地脚の足に対する相対的な遊脚膝位置が予め定められた位置に到達するまでは第1目標角軌道に追従するように遊脚の脚装具を制御し、遊脚膝位置が予め定められた位置に到達してから遊脚着床までは第2目標角軌道に追従するように遊脚の脚装具を制御する。ここで、目標角軌道とは、目標角の時系列データである。また、本明細書における「足」という用語は、足首よりも先の部位を意味し、「脚」と区別して用いる。従って、「足の位置」とは、足に予め定められた点の位置を意味する。「足に予め定められた点」は、足先でもよいし、踵でもよい。また、本明細書では、遊脚膝位置が予め定められた位置に到達したタイミングを到達タイミングと称する場合がある。
【0012】
遊脚の膝が屈曲から伸展に変化するタイミングは、概ね、遊脚の膝位置が接地脚の足より前方の位置へ移動したタイミングであることが知られている。従ってコントローラは、遊脚の膝位置が接地脚の足より前方へ移動したタイミングで第1目標軌道から第2目標軌道へ切り替えることが好ましい。
【0013】
上記の歩行補助装置は、予め定められた目標角軌道に基づいて遊脚の膝関節にトルクを加えるものでありながら、トルク反転のタイミングを、遊脚の膝が屈曲から伸展に変化するタイミングに調整する。この歩行補助装置は、遊脚膝関節の目標角軌道を2つに分割するとともに、2つの軌道の切り替えタイミングを、ユーザが膝を屈曲から伸展に変化させるタイミングに相当する膝位置に設定することによって、トルク反転タイミングのずれを低減する。
【0014】
ユーザの足位置は、脚装具に備えられたセンサで検出すればよい。例えば、脚装具は、ユーザの股関節角と膝関節角を検出する脚センサを備える。股関節角と膝関節角から足と膝の相対的位置関係は、幾何学的に求まることが知られている。
【0015】
第1目標角軌道と第2目標角軌道は夫々、予め定められていてよいし、歩行中にコントローラがリアルタイムに生成してもよい。後者の場合、コントローラは、一歩前の脚の動作に基づいて第1目標角軌道を生成するとよい。第2目標角軌道は、上記到達タイミングにおける膝実測角を始点とし、着床時の膝目標角を終点とする滑らかな軌道を、到達タイミングを検知した時点で生成するとよい。そのような手法で第1目標角軌道と第2目標角軌道を生成する歩行補助装置は、ユーザの歩行動作の変化によく適応する。
【0016】
本明細書が開示する他のひとつの技術は、着床タイミングで膝が屈曲から伸展に変化するタイミングと歩行補助装置が加えるトルクの反転タイミングのずれを低減する歩行補助装置に具現化することができる。その歩行補助装置は、ユーザの脚に沿って装着され、ユーザの膝関節にトルクを加える脚装具と、膝関節角が目標角軌道に追従するように脚装具を制御するコントローラを備える。コントローラは、予測された予定着床タイミングで膝目標角の回転方向が反転する膝関節の目標角軌道と、遊脚期間中の予め定められた判断タイミングにおける遊脚股関節の予想角速度を記憶している。このコントローラは、判断タイミングにおける遊脚股関節の実測角速度に対する予想角速度の比率で判断タイミングから予定着床タイミングまでの目標角軌道を時間軸に沿って伸縮する。ここで、「時間軸に沿って伸縮する」とは、遊脚股関節の実測角速度に対する予想角速度の比率が「値A」の場合、判断タイミングから予定着床タイミングまでの目標角軌道を時間軸方向に「値A」倍に引き伸ばすことを意味する。また、判断タイミングは、遊脚の膝位置が接地脚の足より前方へ移動するタイミングであるとよい。
【0017】
前述したように通常の方向動作において、遊脚の膝関節角は着床タイミングで回転方向が反転する。従って、目標角軌道は、予定着床タイミングで膝目標角の回転方向が反転する。目標角軌道における予定着床タイミングと実際の着床タイミングがずれることがユーザに違和感を与える。ここで、着床タイミングは、歩行速度で定まる。そして歩行速度は遊脚股関節のピッチ軸回りの角速度が支配的である。上記の歩行補助装置は、遊脚期間中の股関節のピッチ軸回りの実測角速度がその直後の着床タイミングを推定するのに好適であることを着目する。上記の歩行補助装置は、遊脚股関節の実測角速度が予想角速度よりも速い場合、予定着床タイミングが速まるように目標角軌道を修正する。遊脚股関節の実測角速度が予想角速度よりも遅い場合、予定着床タイミングが遅くなるように目標角軌道を修正する。そのように着床直前に目標角軌道を修正することにとって、上記の歩行補助装置は、目標角軌道における予定着床タイミングを実際の着床タイミングに近づけ、実際の着床タイミングと、加えるトルクの反転タイミングのずれを低減する。
【0018】
脚装具は、例えば、大腿に装着される上部リンクと下腿に装着される下部リンクがユーザの膝に相当する位置で揺動可能に連結されている構造であり、その連結部に下部リンクを揺動させるアクチュエータを備えていればよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の歩行補助装置は、膝関節に加えるトルクの反転タイミングをユーザの歩行動作に適応させ、ユーザの膝関節の動きを補助する際に違和感を与えることがない。
【実施例1】
【0020】
図面を参照して第1実施例の歩行補助装置を説明する。図1に、歩行補助装置10の概要図を示す。図1(A)は正面図を示し、図1(B)は側面図を示す。本実施例では、ユーザは左膝関節を自由に動かすことができないとする。歩行補助装置10は、ユーザの左膝関節に適切なトルクを加えてユーザの歩行動作を補助する。
【0021】
歩行補助装置10は、ユーザの右脚に沿って装着される右脚装具12Rと左脚に沿って装着される左脚装具12Lを有する。脚装具12R、12Lは、支持リンク30によって連結されている。
【0022】
左脚装具12Lを詳しく説明する。左脚装具12Lは、ユーザの大腿部から下腿部に沿って左脚の外側に装着される。左脚装具12Lは、上部リンク14L、下部リンク16L、及び足底リンク18Lを有する多リンク機構である。上部リンク14Lの上端が腰ジョイント20aLを介して支持リンク30に連結されている。下部リンク16Lは、膝の外側に位置する膝ジョイント20bLによって、上部リンク14Lに連結されている。足底リンク18Lは、ユーザの踝の外側に位置する足首ジョイント20cLによって、下部リンク16Lに揺動可能に連結されている。上部リンク14Lは、ベルトでユーザの大腿部に固定される。下部リンク16Lは、ベルトでユーザの下腿部に固定される。足底リンク18Lは、ベルトでユーザの足底に固定される。足底リンク18Lを固定するベルトは、図示を省略している。支持リンク30は、ユーザの体幹(腰)に固定される。
【0023】
ユーザが左脚装具12Lを装着すると、腰ジョイント20aL、膝ジョイント20bL、及び、足首ジョイント20cLは夫々、ユーザの股関節のピッチ軸、膝関節のピッチ軸、及び、足首関節のピッチ軸と同軸に位置する。即ち、左脚装具12Lは、ユーザの左脚の動きに応じて揺動することができる。各ジョイントには、リンク間の角度を検出するためのエンコーダ21が取り付けられている。以下では、リンク間の角度をジョイントの角度と言い換える。また、ジョイントに取り付けられているエンコーダ群21を脚センサ21と総称する。また、各足底リンク18R、18Lには、歩行面との接地を検知する接地センサ(不図示)が取り付けられている。
【0024】
膝ジョイント20bLには、モータ32(アクチュエータ)が取り付けられている。モータ32は、ユーザの膝関節の外側に位置する。モータ32は、上部リンク14Lに対して下部リンク16Lを回転させることができる。即ちモータ32は、ユーザの左膝関節にトルクを加えることができる。
【0025】
右脚装具12Rは、モータ32を除いて、左脚装具12Lと同じ構造を有している。
【0026】
コントローラ40は、脚センサ21(エンコーダ21)、及び接地センサ(不図示)の出力に基づいて、モータ32を制御する。コントローラ40が実行する制御フローチャートを図2に示す。図2のフローチャートのステップS2は、左脚が接地している間に実行され、ステップS4からS18は、左脚が遊脚期間に実行される。なお接地している脚の制御は説明を省略する。また、足の離床タイミングと着床タイミングは足底リンクに取り付けられた接地センサによって検知される。
【0027】
コントローラ40は、左脚が接地している間に、次の左脚遊脚期間前半の目標角軌道(第1目標角軌道)を生成する(S2)。第1目標角軌道は、脚センサによって計測された右脚の動きをコピーしたものである。図3と図4を用いて第1目標角軌道を説明する。
【0028】
図3は、本実施例における目標角Aの定義を説明する図である。膝関節の目標角Aは、左上部リンク14Lと左下部リンク16Lのなす角度に相当する。別言すれば、膝目標角Aは、左膝ジョイント20bLの角度である。目標角A=180[deg]が、膝を真直ぐに伸ばした状態に対応する。目標角Aが小さくなるほど膝が曲がることを意味する。
【0029】
図4は、第1目標角軌道を模式的に示したグラフである。図4の横軸は時間を示しており、縦軸は膝関節の目標角Aを示している。破線のグラフ52は、1周期前の右膝関節角の軌道を示している。破線のグラフ52をまず説明する。破線のグラフ52を説明する場合は、図4の縦軸は右膝関節の実測角に相当する。T0は、右足の離床タイミングに相当する。T2は、右足の着床タイミングに相当する。右足が着床するとき、右膝実測角=180[deg]となり、右膝が最も伸びる。T0からT2までの期間が、右脚が浮いている期間(遊脚期間)に相当する。T1は、右膝が最も屈曲したタイミングに相当する。通常の歩行動作では、このタイミングT1で、右膝が左足よりも前に移動する。T3は左脚の離床タイミングに相当し、T4は左脚の着床タイミングに相当する。T5は右脚の離床タイミングに相当する。すなわち、T0からT5までのパターンが周期的に続く。なお、図4のタイミングT2(右脚着床タイミング)より右側は参考までに示したものであり、図2のステップS2が実行されるのは、タイミングT2からT3の間である。ステップS2が実行されるとき、コントローラ40はタイミングT0からT2までの右膝関節角の軌道を取得している。タイミングT0からT1までの期間を遊脚前半の期間と称する。
【0030】
コントローラ40は、取得した右膝関節角の軌道の一部をそのまま左膝関節角の目標軌道として用いる。コントローラ40は、タイミングT0(離床タイミング)からT1(遊脚の膝が接地脚の足の横を通過するタイミング)までの実測した右膝関節角軌道を、左膝関節角の目標角軌道として使う。
【0031】
符号50が示す実線のグラフが、コントローラ40が生成した第1目標角軌道を示す。コントローラ40は、遊脚前半の期間の右膝関節の実測角の軌道をそのまま左膝関節の目標角軌道として採用する。さらにコントローラ40は、タイミングT1以後は、目標角を一定値に維持するように軌道を時間軸に沿って延長する。得られる第1目標角軌道は、左足の離床タイミングから膝を曲げる方向に第1所定角に漸増する軌道を示す。この実施例の場合、第1所定角は120[deg]である。
【0032】
図2に戻って制御フローチャートの説明を続ける。左足の離床タイミングからステップS4がスタートする。コントローラ40は、脚センサ21のデータを取得する(S4)。コントローラ40は、左足の離床タイミングからの時間に応じて、生成した第1目標角軌道上の目標角に左膝関節角が追従するようにモータ32を制御する(S6)。コントローラ40は、両脚の股関節角と膝関節角から、右足を基準とする左膝位置を算出する。関節角から足や膝の位置への変換は、ロボットの技術分野では良く知られているので説明は省略する。コントローラ40は、左膝が右足より距離閾値以上前方に移動したか否かを確認する(S10)。なお、距離閾値はゼロでよい。すなわち、左足が離床してから左膝の位置が右足より前方へ移動するまでは、コントローラ40は第1目標角軌道に基づいて左膝関節角の追従制御を継続する(S10:NO)。すなわち、コントローラ40は、左足が離床してから右足(接地脚の足)に対する相対的な膝位置が右足よりも予め定められた距離閾値の前方に到達するまでは、膝を曲げる方向に漸増する第1目標角軌道に追従するようにモータを制御する。前述したように、距離閾値はゼロでよい。従って本実施例の場合、コントローラ40は、左足が離床してから左膝位置が右足(接地脚の足)よりも前方に移動するまでは、膝を曲げる方向に漸増する第1目標角軌道に追従するようにモータを制御する。
【0033】
左膝の位置が右足より前方へ移動したとき(S10:YES)、コントローラ40は次のステップS12を実行する。以下、左膝の位置が右足より前方へ移動したタイミングを到達タイミングTxと称する。通常の歩行動作においては、この到達タイミングが、遊脚膝関節が最も屈曲するタイミングに相当する。ステップS12において、コントローラ40は、遊脚期間後半の目標角軌道(第2目標角軌道)を生成する。図5を参照して第2目標角軌道を説明する。図5の破線のグラフ52と実線のグラフ50は、図4のグラフと同じである。図5には、到達タイミングTxも示してある。図5は、左膝の到達タイミング(膝が最も屈曲するタイミング)Txが、1周期前の右膝の到達タイミングよりも早まっていることを例示している。
【0034】
コントローラ40は、到達タイミングTxを検知すると、その到達タイミングにおける目標角P1を始点とし、着床予定タイミングにおける目標角P2まで膝を伸ばす方向に漸増する軌道54を新たに生成する。この新たな軌道54が、第2目標角軌道に相当する。その後、コントローラ40は、センサデータを取得し(S14)、左膝関節角が第2目標角軌道に追従するようにモータを制御する(S16)。第2目標軌道に基づくモータ制御は左足が接地するまで継続される(S18:NO)。即ち、コントローラ40は、遊脚の膝位置が右足よりも前に移動してから遊脚着床までは膝を伸ばす方向に漸増する第2目標角軌道に追従するようにモータを制御する。左足の接地を検知すると、コントローラ40は、接地脚用の制御モードに切り換わる(S18:YES、Y20)。着床後の制御の説明は省略する。
【0035】
図5に示すように、目標角軌道は、到達タイミングTxで極値となる。即ち、歩行補助装置10は、離床から到達タイミングTxまでは膝関節を曲げる方向のトルクを膝関節に加え、到達タイミングでトルクの方向を反転し、遊脚着床まで膝関節を伸ばす方向のトルクを膝関節に加える。
【0036】
歩行補助装置10は、足が離床すると同時に、膝を曲げる方向に遊脚の動きを補助する。ここで、「補助する」とは、膝関節にトルクを加えることを意味する。歩行補助装置10は、遊脚の膝位置が接地脚の足よりも前へ移動するまでは、膝を曲げる方向の補助を継続する。歩行補助装置10は、遊脚の膝位置が接地脚の足よりも前へ移動したタイミングで膝を伸ばす方向に補助を逆転する。即ち、歩行補助装置10は、遊脚の膝位置が接地脚の足よりも前へ移動したタイミングで膝を補助するためのトルクの向きを反転する。このトルク反転のタイミングは、歩行動作における遊脚膝関節の屈曲から伸展への変化のタイミングによく合致する。
【0037】
従来、足の離床から着床までの期間でひとつの目標角軌道に追従するように遊脚膝関節にトルクを加えると、ユーザが膝を屈曲から伸展に反転するタイミングと、装置が加えるトルクが反転するタイミングがずれる虞があり、そのずれがユーザに違和感を与える。例えば、図5においてタイミングT0からT2までの区間でグラフ52を目標角軌道とすると、ユーザがタイミングTxで膝を伸ばし始めようとするにも関わらず、歩行補助装置はタイミングT1までは膝を曲げる方向にトルクを加え続ける。歩行補助装置が加えるトルクがユーザの意図に沿っていないのでそのような歩行補助装置はユーザに違和感を与える。
【0038】
これに対して本実施例の歩行補助装置は、定められた目標角軌道に追従するように遊脚膝関節の動作を補助することができるとともに、トルク反転のタイミングはユーザの歩行動作からリアルタイムに決定する。そのような制御フローを備えることによって、本実施例の歩行補助装置10は、違和感を与えることなくユーザの歩行動作を補助することができる。
【0039】
第1実施例のコントローラの処理は次のとおり表現してよい。コントローラは、一方の足が離床してから接地脚の足に対する相対的な遊脚膝位置が予め定められた位置に到達するまでは膝を曲げる方向のトルクをユーザの遊脚膝関節に加え、予め定められた位置に到達したタイミングから着床までは膝を伸ばす方向のトルクを遊脚膝関節に加えるように脚装具のモータ(アクチュエータ)を制御する。「予め決められた位置に到達したタイミング」は、「遊脚膝関節が接地脚の足より前方へ移動したタイミング」であることが好ましい。
【実施例2】
【0040】
次に、第2実施例の歩行補助装置を説明する。第2実施例の歩行補助装置は、遊脚が着地するタイミングにおける補助トルクの反転タイミングと、ユーザが意図する膝関節の回転方向の反転タイミングとのずれを低減する。「補助トルク」は、歩行補助装置がユーザの膝関節に加えるトルクを意味する。第2実施例の歩行補助装置の構成は第1実施例と同じであるので説明は省略する。
【0041】
第2実施例の歩行補助装置が実行する制御のフローチャートを図6に示す。以下、本実施例の歩行補助装置のコントローラが実行する処理を説明する。コントローラは、一歩前の歩行周期における右膝の軌道をコピーして左膝関節の目標角軌道を生成する(S40)。図7に目標角軌道60のグラフを示す。目標角軌道60は、第1実施例の図4に示したグラフ52と同じである。従って、図7における符号T0〜T5は図4の符号と同じ意味ある。タイミングT2は、1周期前の歩行周期において右足が着床したタイミングであると同時に、左脚の予定着床タイミングに相当する。目標角軌道60は、タイミングT2において膝目標角の回転方向が反転する。左足がタイミングT2で着床する場合、着床とともに補助トルクの向きが反転する。そのような動作はユーザの自然な歩行動作に合致する。
【0042】
コントローラは、右膝関節角の軌道を取得するとともに、右股関節角速度の軌道も取得する。図7の下のグラフ66が、右股関節のピッチ軸回り角速度の実測軌道を示す。図7の下側のグラフは、脚を前方へ振り出す方向を角速度の正方向として規定している。即、図7において股関節の角速度が増大するほど、脚を前方へ振り出す速度が増大する。
【0043】
コントローラは、グラフ66を、左膝関節の目標角軌道60に対応する左股関節の予定角速度として記憶する。図7の符号w1は、予め定められたタイミングT1における遊脚股関節角速度を示している。コントローラは、ステップS40において、左膝関節の目標角軌道を生成するとともに、目標角軌道における予め定められたタイミングT1における左股関節の予定角速度w1を特定する。ここで、タイミングT1は、目標角軌道上で左膝位置が右足よりも前方へ移動するタイミングである。本実施例では、このタイミングT1を判断タイミングと言い換える。
【0044】
コントローラ40は左足の離床タイミングT0から計時を開始して判断タイミングT1が到来するまで、ユーザの左膝関節角が生成された目標角軌道60に追従するようにモータを制御する(S42、S44、S46:NO)。判断タイミングT1に到達したとき、コントローラは脚センサから左股関節の角速度を取得する(S48)。そしてコントローラは、左股関節の実測角速度に基づいて目標角軌道を修正する(S50)。修正の方法を次に説明する。
【0045】
図7に示すグラフ64が左股関節の実測角速度を示す。符号w2は、判断タイミングT1における左股関節のピッチ軸回り角速度の実測値を示す。判断タイミングT1における実測角速度w2に対する予定角速度w1の比を「w1/w2」で表す。コントローラは、タイミングT1における目標角P3から予定着床タイミングT2までの目標角軌道60を時間軸に沿って角速度比「w1/w2」で伸縮する。なおコントローラは、予定着床タイミングT2以降の目標角軌道も、同様に伸縮する。目標角P3以降のグラフ62が、伸縮後の新たな目標角軌道を示す。この伸縮によって、元の目標角軌道60のタイムスパンTs1は、タイムスパンTs2に変更される。ここで、w1/w2=Ts2/Ts1の関係が成立する。また、元の目標角軌道60における予定着床タイミングT2は、タイミングTyに変更される。
【0046】
図6に戻って制御フローの説明を続ける。コントローラは、センサデータを取得し、左膝関節角が伸縮された目標角軌道に追従するようにモータを制御する(S52、S54)。コントローラは、歩行の一周期が終了するまで伸縮された目標角軌道に基づいて制御を継続する(S56:NO)。歩行の一周期が終了すると、上記の処理が終了する(S56:YES)。コントローラは、歩行周期毎に、図6の処理を繰り返す。
【0047】
第2実施例の歩行補助装置は次の効果を奏する。即ち、判断タイミングT1における股関節のピッチ軸回りの実測角速度が予定角速度よりも大きい場合、予定着床タイミングT2が早まるように、判断タイミングT1から予定着床タイミングT2までの目標角軌道が時間軸に沿って圧縮される。逆に判断タイミングT1における股関節のピッチ軸回りの実測角速度が予定角速度よりも小さい場合、予定着床タイミングT2が遅くなるように、判断タイミングT1から予定着床タイミングT2までの目標角軌道が伸張される。予定着床タイミングにおいて目標角軌道は極値をとるので、そのタイミングで補助トルクが反転する。また、ユーザの遊脚膝関節の回転方向は、着床タイミングで伸展方向(膝を伸ばす方向から屈曲方向(膝を曲げる方向)へ反転する。
直前の股関節ピッチ軸回りの角速度に基づいて目標角軌道を時間軸に沿って伸縮することによって、伸縮後の予定着床タイミング(図7のタイミングTy)は、実際に着床するタイミングに近くなる。歩行補助装置は予定着床タイミングでトルクを反転する。本実施例の歩行補助装置は、直前の股関節ピッチ軸回りの角速度に基づいて目標角軌道を時間軸に沿って伸縮することによって、膝関節の回転方向が反転する着床タイミングと補助トルクの反転タイミングとのずれを抑制する。
【0048】
第2実施例のコントローラの処理は次のとおり表現してよい。コントローラは、遊脚の足が着床するタイミングで、着床する脚の膝に加えるトルクを、膝を伸ばす方向から膝を曲げる方向に反転するように脚装具のモータ(アクチュエータ)を制御する。
【0049】
第2実施例の歩行補助装置は、ユーザの脚に沿って装着され、ユーザの膝関節にトルクを加える脚装具と、コントローラを備える、コントローラは、予定着床タイミングで膝目標角の回転方向が反転する目標角軌道を記憶しているとともに、膝関節角が目標角軌道に追従するように脚装具を制御する。さらにコントローラは、遊脚期間中の予め定められた判断タイミングにおける遊脚股関節の予想角速度を記憶しており、判断タイミングにおける遊脚股関節の実測角速度に対する予想角速度の比率で判断タイミングから予定着床タイミングまでの目標角軌道を時間軸に沿って伸縮する。コントローラは、判断タイミング直後にリアルタイムで目標角軌道を伸縮する。コントローラは、伸縮した目標角軌道に膝関節角が追従するように脚装具の制御を継続する。この歩行補助装置は、実際に着床するタイミングに近いタイミングで膝関節に加えるトルクを反転するので、ユーザに違和感を与えることがない。
【0050】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】歩行補助装置の概略図である。
【図2】第1実施例の制御フローチャート図である。
【図3】膝目標角の定義を説明する図である。
【図4】第1目標角軌道を説明する図である。
【図5】第2目標角軌道を説明する図である。
【図6】第2実施例の制御フローチャート図である。
【図7】目標角軌道の修正を説明する図である。
【符号の説明】
【0052】
10:歩行補助装置
12R、12L:脚装具
14R、14L:上部リンク
16R、16L:下部リンク
18R、18L:足底リンク
20:ジョイント
21:エンコーダ
30:支持リンク
32:モータ
40:コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの膝関節にトルクを加えてユーザの歩行動作を補助する歩行補助装置であり、
ユーザの脚に沿って装着され、ユーザの膝関節にトルクを加える脚装具と、
膝関節角が目標角軌道に追従するように脚装具を制御するコントローラと、を備えており、
コントローラは、一方の足が離床してから接地脚の足に対する相対的な遊脚膝位置が予め定められた位置に到達するまでは膝を曲げる方向に漸増する第1目標角軌道に追従するように遊脚の脚装具を制御し、遊脚の膝位置が前記予め定められた位置に到達してから遊脚着床までは膝を伸ばす方向に漸増する第2目標角軌道に追従するように遊脚の脚装具を制御することを特徴とする歩行補助装置。
【請求項2】
コントローラは、遊脚の膝位置が接地脚の足より前方の位置へ移動したタイミングで第1目標軌道から第2目標軌道へ切り替えることを特徴とする請求項1に記載の歩行補助装置。
【請求項3】
コントローラは、一歩前の脚の動作に基づいて第1目標角軌道を決定することを特徴とする請求項1又は2に記載の歩行補助装置。
【請求項4】
ユーザの膝関節にトルクを加えてユーザの歩行動作を補助する歩行補助装置であり、
ユーザの脚に沿って装着され、ユーザの膝関節にトルクを加える脚装具と、
予定着床タイミングで膝目標角の回転方向が反転する目標角軌道を記憶しているとともに、膝関節角が目標角軌道に追従するように脚装具を制御するコントローラと、
を備えており、
コントローラは、遊脚期間中の予め定められた判断タイミングにおける遊脚股関節の予想角速度を記憶しており、前記判断タイミングにおける遊脚股関節の実測角速度に対する予想角速度の比率で前記判断タイミングから予定着床タイミングまでの目標角軌道を時間軸に沿って伸縮することを特徴とする歩行補助装置。
【請求項5】
前記判断タイミングは、遊脚の膝位置が接地脚の足より前方の位置へ移動するタイミングであることを特徴とする請求項4に記載の歩行補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−148638(P2010−148638A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329404(P2008−329404)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】