説明

歩行解析装置

【課題】
使用者の歩行状況を解析することにより、転倒を誘発する下肢の衰えを検出することができる歩行解析装置を提供する。
【解決手段】
使用者の腰部に装着される加速度計10の前後加速度検出部12により、使用者の腰部における前後加速度が検出される。ROM26には、予め求められた腰部の前後加速度度と背屈力の強さとの相関関係が記憶されている。加速度計10により検出された前後加速度と、ROM26に記憶されている加速度と背屈力との関係とから、CPU24により使用者の背屈力の強さが判別される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の歩行運動を検出して、その歩行運動を解析する歩行解析装置に関する。特に、使用者の歩行運動を把握して、使用者の運動評価を行うための歩行解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ある調査によると、高齢者の要介護要因の第3位には、歩行時の転倒による骨折が挙げられている。また、高齢者になればなるほど、転倒による骨折が原因で介護が必要になっている。ここで、介護要因のうちでも、転倒による骨折は、足腰の弱りを早期に知見することで予防が比較的可能であるため、歩行状態を解析し足腰の弱りを知見することができる歩行解析装置の開発が行われている。
【0003】
例えば、従来の歩行解析装置には、下記特許文献1に開示されているように、身体の一部に装着した加速度センサにより歩行時の加速度を検出して、その検出した加速度の出力信号が、特定の条件に合うものであれば、異常歩行であると判定する歩行観察装置がある。具体的には、加速度センサからの出力信号を微分して、加速度のピークを検出し、そのピーク値が所定の閾値を超えた場合に異常歩行(例えば、「つまづき」など)と判定している。これによれば、この異常歩行の発生頻度や発生進度等から足腰の弱りを知見することができ、高齢者に対して的確な処方を施すことができるとしている。
【0004】
また、下記特許文献2においては、使用者の腰部に加速度センサを装着して、該加速度センサにより検出される左右水平軸周りの角加速度から、使用者の歩行状態が摺り足歩行状態であるかどうかを判別することができる歩行解析装置が開示されている。具体的には、センサからの角加速度出力信号を周波数解析し、歩行周波数の2倍の周波数に現れるピークレベルの値によって、摺り足歩行かどうかを判別している。これは、通常の歩行では、「踏み出し」動作と「後ろへの蹴り上げ」動作にともない、腰部左右水平軸周りに同レベルの回転が生じるため、角加速度出力信号を周波数解析した歩行周波数特性は、歩行周波数(一歩分)の2倍の周波数(半歩分)に大きなピークを示すが、摺り足歩行をすると、「後ろへの蹴り上げ」動作が弱くなるため、歩行周波数の2倍の周波数のピークレベルが低下してしまうことを利用している。
【特許文献1】特開平10−165395号公報
【特許文献2】特開2000−006608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている技術によれば、加速度のピークを検出し、そのピークをつまづきと判別するまではよいが、そのつまづきが足腰の弱りに起因するものかどうかは検出することができない。つまり、つまづきが多発していることで足腰が弱っていることを推測することはできるが、足腰の弱り以外の原因、例えば上肢の原因でつまづきが多発していることも考えられる。また、特許文献1のように、単につまづきの頻度を検出するだけでは、下肢のどの部分が弱ってきているのかを的確に把握することはできない。したがって、転倒予防のために高齢者に的確な処方をするといっても、足腰のどの部分を鍛えればよいのかを明確にすることができない。さらに、「つまづき」が即「転倒」に発展することもあり得るため、つまづき自体を検出する本技術は、転倒を予防するという観点からは不十分である。
【0006】
また、特許文献2の技術においては、腰の回転は下肢だけではなく上肢の動きにも左右されるため、歩行周波数の2倍の周波数のピークレベルが相対的に低くなっているとしても、それが下肢の衰弱に直接関係があるとは言い難い。また、引用文献1と同様に、摺り足歩行を検出することで、下肢全体の衰えを検知することはできるが、下肢のどの部分が衰えているのかを明確にすることはできない。また、摺り足歩行が転倒の要因となるとは必ずしも言えないため、転倒を予防する観点から見れば、転倒予防に貢献できるものではないといえる。
【0007】
本発明は、以上のような現状を鑑みてなされたものであり、使用者の歩行状況を解析することにより、転倒を誘発する下肢の衰えを検出することができる歩行解析装置を提供することを課題とする。特に、「つまづき」を誘発する下肢の衰えを検出することができる歩行解析装置を提供することを課題とする。さらに、下肢の衰えを検出することで、転倒の予防に貢献できる歩行解析装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは、転倒の主要因が「つまづき」であること、及び「つまづき」はつま先を持ち上げる能力の低下、つまり「背屈力」の低下が原因であることに着目した。背屈力が低下すると、1歩行動作のうちの遊脚期(足を前方に振り出している期間)につま先が垂れるため、地面とつま先との間隔を十分に確保することができない。そのため、つまづきやすく転倒しやすい。そこで、本発明者らは、この背屈力の強さを判別することができれば、背屈力の低下を知見することができ、ひいては転倒を誘発する下肢の衰えを検出することができることに思い当たった。そして、鋭意検討した結果、歩行時の腰部の加速度と背屈力の強さとの間に相関関係があることを見出し、本発明の歩行解析装置の完成に至ったのである。
【0009】
本発明の歩行解析装置は、歩行時における腰部の加速度を検出し、該加速度に対応する信号を出力する加速度検出装置と、歩行時における腰部の加速度と人体の背屈力の強さとの関係である加速度−背屈力関係が記憶されている記憶装置と、前記加速度検出装置から出力される信号又はその処理データと、前記記憶装置に記憶されている前記加速度−背屈力関係とから使用者の背屈力の強さを判別する演算装置と、を有することを特徴とする。
【0010】
さらに、前記加速度検出装置は、歩行時の腰部の前後方向における加速度である前後加速度を検出し、該前後加速度に対応する信号を出力する前後加速度検出部を有するものであり、前記加速度−背屈力関係は、前記前後加速度と人体の背屈力の強さとの関係であって、前記演算装置は、前記前後加速度検出部から出力される信号又はその処理データと、該加速度−背屈力関係とから使用者の背屈力の強さを判別するものとしてもよい。
【0011】
さらに、前後加速度と背屈力の強さとの関係から背屈力の強さを判別する場合、前記加速度−背屈力関係は、1周期の歩行動作のうち特定歩行動作における前後加速度と人体の背屈力の強さとの関係であるとすることができる。
【0012】
さらに、前記特定歩行動作は、一方の足で蹴り出す蹴り出し動作から他方の足のみで立脚する立脚中期までの動作であるとすることができる。
【0013】
さらに、特定歩行動作中における前後加速度と背屈力の強さとの関係から背屈力の強さを判別する場合、1周期の歩行動作のうち前記特定歩行動作が行われるタイミングを判定する歩行動作判定手段をさらに有し、前記前後加速度検出部から出力される信号又はその処理データのうち前記特定歩行動作が行われるタイミングにおける信号又はその処理データと、前記加速度−背屈力関係とから使用者の背屈力の強さを判別するものであるとすることができる。この場合、前記歩行動作判定手段は、前記前後加速度検出部から出力される信号又はその処理データから、前記特定歩行動作が行われるタイミングを判定するものを含む。
【0014】
さらに、前記歩行動作判定手段を有する場合、前記加速度検出装置は、歩行時の腰部の上下方向における加速度である上下加速度を検出し、該上下加速度に対応する信号を出力する上下加速度検出部と、歩行時の腰部の左右方向における加速度である左右加速度を検出し、該左右加速度に対応する信号を出力する左右加速度検出部とのうち少なくとも一方をさらに有するものであり、前記歩行動作判定手段は、前記上下加速度検出部から出力される信号又はその処理データと、前記左右加速度検出部から出力される信号又はその処理データとのうちの少なくとも一方と、前記前後加速度検出部から出力される信号又はその処理データとから選択される少なくともいずれかの信号又はその処理データから、使用者の歩行動作が前記特定歩行動作であることを判定するものとすることができる。
【0015】
さらに、前記背屈力の強さは、前記特定歩行動作中における足首の背屈角の変化の割合により表されるようにすることができる。なお、人体の背屈角とは足首の関節から脛に向かう方向と、足首の関節からつま先に向かう方向との成す角をいうものとする。
【発明の効果】
【0016】
上記のような本発明の歩行解析装置によれば、歩行時における腰部の加速度と人体の背屈力の強さとの関係(加速度−背屈力関係)が、予め記憶装置に記憶されているので、加速度検出装置により歩行時の腰部の加速度を検出すれば、該腰部の加速度に対応する信号と前記加速度−背屈力関係とから、演算装置により使用者の背屈力の強さを判別することができる。背屈力の強さを判別することができるので、転倒の主要因である「つまづき」を誘発する下肢の衰えを検出することができる。そのため、転倒の予防に貢献することができる。さらに、歩行動作中におけるつまづき自体を実際に検出することなく下肢の衰えを検出することができるため、つまづき自体を検出する従来の技術に比べて、より早期に下肢の衰えの兆候を知見することができる。すなわち、つまづきが転倒の要因である以上、つまづき自体を検出していたのでは、実際問題として転倒を予防しているとはいえないが、本発明の歩行解析装置によれば、要は「つまづきやすさ」を判別しているのであり、転倒予防につながる対策をより効果的に行うことができる。
【0017】
なお、本発明の歩行解析装置においては、背屈力の強さを特定の識別記号に変換する手段を備え、その識別記号を表示する表示部を設けるようにしてもよい。識別記号としては、背屈力を示す数値、背屈力の程度を段階的に示すもの(大中小、レベルなど)、一定水準の背屈力をクリアしているかどうかを示すもの(合あるいは否、セーフあるいはアウトなど)、あるいはこれらの組み合わせを例示することができる。また、判別された背屈力の強さが基準以下であるかどうかを判定する手段を備え、基準以下であれば、転倒予防につながる対策を教示する手段を備えるようにしてもよい。
【0018】
さらに、本発明の歩行解析装置によれば、背屈力の低下という具体的な下肢の衰えを検出することができるため、背屈力の強さに関係のある筋力(例えば、前脛骨筋など)が衰えていることを具体的に知見することができる。そのため、転倒予防につながる対策を使用者に教示するに際しても、下肢全体に係るような運動ではなく、背屈力に直接関係する筋肉を増加させるための運動を、より具体的に使用者に教示することができる。したがって、転倒を予防するのにより効果的である。
【0019】
また、理学療法士等の専門家への相談や、モーションキャプチャ等による歩行解析により背屈力の低下を把握することは可能ではあるが、これらの方法では、専門家への相談が面倒であったり、大掛かりな設備を必要としたりする。本発明では、腰部の加速度を検出するだけでよいので、例えば、腰部に装着し歩行するだけでよく、簡易に背屈力の低下を検出することができる。
【0020】
背屈力の強さと腰部の加速度との間に相関関係があるのは、以下の理由によるものと考えられる。つまり、背屈は、脛の筋肉(前脛骨筋)により行うとともに、後方への蹴り出し力によって生まれた加速力も利用している。蹴り出し力が弱い場合、背屈力が低下し、つま先が垂れやすくなる。この蹴り出しという動作は、背屈動作の補助という働きとともに、歩行の推進力を生み出す働きをも有することは自明である。そのため、歩行の推進力に関係する腰部の加速度と背屈力の強さとの間には相関関係があると考えられ、腰部の加速度を検出すれば、背屈力の強さを導出することが可能である。
【0021】
また、蹴り出し動作によれば、腰部の加速度は主に前後方向に向かうことになるので、腰部の前後加速度と背屈力の強さとの間には、より一層の相関関係がある。そのため、腰部の前後加速度と背屈力の強さとの関係を予め加速度−背屈力関係として求めておき、前後加速度検出部により腰部の前後加速度を検出し、該前後加速度に対応する信号又はその処理データを解析することで、前記加速度−背屈力関係から使用者の背屈力の強さをより精度よく判別することができる。
【0022】
上記のように、前後方向における腰部の加速度を検出することで背屈力の強さを判別する場合、前後方向における腰部の加速度は、一周期の歩行動作のうちでも変動することが考えられる。そして、一周期の歩行動作のうちでも、背屈力の強さを判別するのに特に適した動作中の前後加速度がある。そのため、その特定歩行動作中における前後加速度と背屈力の強さとの関係を予め求めておき、その特定歩行動作中における腰部の前後加速度を検出するのがよい。より精度よく背屈力の強さを判別することができる。
【0023】
また、歩行において蹴り出し動作により発生する推進力は、一方の足で蹴り出す蹴り出し動作から他方の足のみで立脚する立脚中期までの間における腰部の前後加速度に最も現れる。そのため、この歩行動作中の腰部の前後加速度と背屈力の強さとの間には、より一層の相関関係がある。したがって、この歩行動作中の腰部の前後加速度と背屈力の強さとの関係を予め求めておき、該歩行動作中の腰部の前後加速度を検出することで背屈力を判別するのがよい。より一層精度よく背屈力の強さを判別することができる。
【0024】
さらに、上記特定歩行動作中の腰部の前後加速度から背屈力を判別する場合、特定歩行動作が行われるタイミングを判定する歩行動作判定手段を有することで、前後加速度検出部から出力される信号又はその処理データのうち、特定歩行動作に係る部分のみを抽出することができる。そして、その抽出された部分の信号又はその処理データを用いて背屈力の強さを判別しているので、より精度よく背屈力の強さを判別することができる。
【0025】
さらに、腰部の上下加速度及び左右加速度をそれぞれ検出する上下加速度検出部及び左右加速度検出部の少なくとも一方を前後加速度検出部に加えて有するようにし、これら検出部から出力される前後加速度、上下加速度及び左右加速度の少なくともいずれかから出力される信号又はその処理データを、歩行動作判定手段により解析することにより、一周期の歩行動作のうちの前記特定歩行動作(例えば、蹴り出しから立脚中期までの間の動作)のタイミングや期間を判定することができる。使用者の歩行動作を腰部の前後加速度、上下加速度及び左右加速度を検出することで判定しているので、より精度よく歩行動作を判定することができる。また、歩行動作に基づき出力される加速度に対応する信号を用いて特定歩行動作を判定しているので、使用者によって歩行速度や歩幅等が違った場合でも、使用者の特定歩行動作のタイミングを知見することができる。そのため、より精度の良い背屈力の強さの判別を行うことができる。
【0026】
また、背屈力の強さとしては、特定歩行動作中における足首の背屈角の変化の割合を指標とすることができる。つまり、図3に示すように、一方の足(以下右足として説明する)に関して、該右足の背屈角は、歩行動作のうち右足と左足との両方が地面に接する両脚支持期において最小となる。具体的には、左足の底全体が地面に接する左足底接地における歩行動作の期間において最小となるのが通常である。さらに具体的には、左足の底全体が地面に接する左足底接地においては、左足踵側からつま先側に順次体重が移動していくが、この前方への体重移動の中間時点から、つま先が地面から離れるつま先離地までのある時点(O時点)において最小となる。また、右足の背屈角は、歩行動作のうち、図3に示す右つま先離地動作の直後の時点において最大となるのが通常である。具体的には、右足で蹴り出し動作をして、該右足が地面から離間した後、右足を前方に振り出す動作の前後の時点(A時点)において最大となるのが通常である。そして、図6に示すように、蹴り出し動作の後において、背屈力が低下している場合(60代被験者)は、つま先が垂れて背屈角が大きいままであり、一方、背屈力が十分に維持されている場合は(20代被験者)、背屈して再び背屈角が小さくなる。したがって、背屈力が強い場合は、O時点における背屈角(以下αとする)とA時点における背屈角(以下βとする)との差(β−α)に対する、A地点における背屈角(β)と、蹴り出し後から右踵接地(図3参照)までにいたる期間における背屈角(以下、γとする)との差(β−γ)の比は、相対的に大きくなる。つまり、背屈力が強い場合は、(β−γ)/(β−α)であらわされる値は大きなものとなる。一方、背屈力が低下している場合は、β−αに対する、β−γの比は、相対的に小さなものとなり、(β−γ)/(β−α)であらわされる値は小さなものとなる。つまり、(β−γ)/(β−α)・・・(式1)の大小により背屈力の強さを評価することができる。したがって、加速度−背屈力関係は、腰部の加速度と式1にて表される背屈力の強さとの関係を予め求めることで得ることができる。具体的には、複数の被験者に対して、歩行時における腰部の加速度(特に蹴り出し動作から立脚中期までの間における前後加速度)と歩行時における背屈角とを測定して、得られる背屈角から式1で規定される
背屈力の強さを算出し、その背屈力の強さと腰部の加速度との関係を、例えば関数として取得することで、上記加速度−背屈力関係を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の歩行解析装置の一例を示すブロック図である。図1に示す歩行解析装置100は、歩行時における使用者の腰部の加速度を検出し、その加速度に対応する信号(以下、加速度信号とする)を出力する加速度検出装置としての加速度計10と、加速度計10からの加速度信号を受けて、使用者の背屈力の強さを判別する演算部20と、を有する。さらに、歩行時間などを計測する時間計測部30と、背屈力の強さを判別した結果等の情報や使用者の情報等を表示することができる表示部40と、背屈力の強さを判別した結果等の情報や使用者の情報等を記憶することができる記録部50とを有するものである。なお、これら加速度計10、演算部20、時間計測部30、表示部40、記録部50は一体化することができ、例えば、人体の腰部に一体的に装着することができるようになっている。例えば、万歩計のようにベルト、ズボン、スカート等に懸架できるフックを備えたものを例示することができる。
【0028】
加速度計10は、使用者の歩行時において腰部の前後加速度を検出する前後加速度検出部としてのX方向加速度検出部12と、腰部の左右加速度を検出する左右加速度検出部としてのY方向加速度検出部14と、腰部の上下加速度を検出する上下加速度検出部としてのZ方向加速度検出部16とにより構成されている。それぞれの検出部は、一体化されて加速度計10とされており、該加速度計10を使用者の腰部に装着すれば、前後加速度、左右加速度、上下加速度のすべてを検出することができるようになっている。これらそれぞれの検出部により検出されたそれぞれの方向における加速度は、それぞれの加速度に対応する電気信号(それぞれ、前後加速度信号、左右加速度信号、上下加速度信号とする)とされて、それぞれ独立に演算部20に出力されるようになっている。なお、加速度計10としは、一般的に知られている加速度センサを使用することができる。例えば、圧電素子を用いた加速度センサや、静電容量型の3軸加速度センサ等を使用することができる。3軸加速度センサの場合、上記前後加速度検出部12、左右加速度検出部14、上下加速度検出部16は、一つの検出素子とすることができる。
【0029】
演算部20は、A/D変換器22と、演算装置としてのCPU24と、記憶装置としてのROM26と、RAM28とから構成されている。A/D変換器22は、加速度計10からの信号をデジタル信号に変換するものであり、該A/D変換器22からデジタル化された加速度信号がCPU24、ROM26、RAM28にそれぞれ送信されるようになっている。デジタル化された信号(前後加速度信号、左右加速度信号及び上下加速度信号)は、RAM28に一旦記憶され、CPU24により所定の処理がされるようになっている。例えば、RAM28には、腰部の加速度信号の時間変化波形が時間計測部30からの時間情報とともに記憶されるようになっている。加速度信号の時間変化波形は、例えば歩行動作の数周期分がRAM28に記憶されるようにすることができる。
【0030】
また、ROM26には、RAM28に記憶される前後加速度信号、左右加速度信号及び上下加速度信号から、使用者が特定歩行動作を行うタイミングやその期間を判定するためのプログラムが格納されている。特定歩行動作とは、蹴り出し動作(図3に示す左足底接地とつま先離地動作の間の動作に対応する)や立脚中期や踵接地等である。このプログラムはCPU24により実行されるようになっており、該プログラムを格納するROM26とCPU24とが本実施形態における歩行動作判定手段を構成する。また、ROM26には、RAM28に記憶される加速度信号の時間変化波形から、歩行動作判定手段により特定歩行動作中であると判定された期間内における平均前後加速度を算出するプログラムが格納されている。
【0031】
また、ROM26には、予め求められる加速度−背屈力関係が記憶されている。このROM26に記憶されている加速度−背屈力関係は、本実施形態の場合、前後加速度と背屈力の強さとの関係をあらわすものである。ROM26に記憶されている加速度−背屈力関係は、例えば図2に示すようなものとされている。図2に示されているグラフ1〜3の直線で表されているのが加速度−背屈力関係である。すべての加速度−背屈力関係は、蹴り出し動作から左立脚中期(図3参照)までにおける前後加速度の平均加速度(以下、単に平均加速度とする)と、背屈力の強さとの関係を規定するものである。本実施形態において背屈力の強さは、前述した(β−γ)/(β−α)・・・(式1)で規定している。具体的には、図4に示すように、背屈角が最低となるO時点(図3の両脚支持期における左足底接地付近に対応する)の背屈角をαとして、背屈角が最大となるA時点(図3の振り出し動作前後に対応する)の背屈角をβとし、蹴り出し後の遊脚期以降(図3に示す右足遊脚期から右踵接地までの動作に略対応する)の背屈角をγとしている。背屈角γとしては、後述するB時点、C時点、D時点における背屈角γ1、γ2、γ3をそれぞれ採用することができる。図2のそれぞれのグラフにおいて縦軸が上記式1であらわされる背屈力の強さであり、横軸が前記平均加速度である。
【0032】
また、図2のグラフ1は、蹴り出し動作直後における立脚中期背屈力の強さと前記平均加速度との関係を示すものである。ここで、立脚中期背屈力の強さとは図3に示す左立脚中期(B時点:蹴り出し動作が左足の場合は右立脚中期)における背屈力の強さであり、式1において背屈角γとして図4に示すB時点(図3の左立脚中期に対応する)の背屈角γ1を採用した場合に対応する。つまり、このグラフ1に示される加速度−背屈力関係を用いると、前記平均加速度から立脚中期背屈力の強さについて判別することができる。一方、図2のグラフ2は、蹴り出し動作から右踵接地までの動作において、背屈角が極小となる際の極小点背屈力の強さと前記平均加速度との関係を示すものである。ここで、極小点背屈力の強さは、図3に示す右足遊脚期において、背屈角が極小となる時点での背屈力の強さであり、式1において図4に示すC時点での背屈角γ2を採用した場合に相当する。つまり、この加速度−背屈力関係を用いると、検出した平均加速度から、右足遊脚期と右踵接地とにわたる動作における極小点背屈力の強さを判別することができる。また、グラフ3は、極大点背屈力の強さと前記平均加速度との関係を示すものである。ここで、極大点背屈力の強さとは、図3に示す歩行動作のうちのA時点以降、右踵接地までを含む右足遊脚期において、背屈角が再度最大となる時点(あるいは右踵接地の時点)での背屈力の強さを示すものであり、式1において背屈角γとして図4に示すD時点の背屈角γ3を採用した場合に対応する。つまり、このグラフ3に示される加速度−背屈力関係を用いると、前記平均加速度から極大点背屈力の強さについて判別することができる。
【0033】
これらの加速度−背屈力関係は、複数の被験者に対して、歩行時における腰部の加速度を測定すると同時に、図4に示すような背屈角の変化を測定して式1により規定される背屈力の強さを算出して、これら加速度と背屈力の強さとの対となる複数のデータ(図4のドットに対応する)から加速度と背屈力の強さとの関係(図4の直線に対応する)を、例えば、最小二乗法等により導出することにより得ることができる。
【0034】
図2において、極大点背屈力の強さと平均加速度との間の関係が最も明瞭であると思われる。したがって、本実施形態における加速度−背屈力関係においては、極大点背屈力の強さを蹴り出し動作後における背屈力の強さとして、代表的に取り扱うこともできる。なお、背屈力の強さとして本実施形態以外の指標(式1で表される以外の指標)を採用する場合は、背屈角が極大となるD時点以外の時点における背屈力のほうが、平均加速度との間で最も関係がある場合も想定される。その場合は、他の時点における背屈力の強さを代表的な指標として採用することができる。
【0035】
以下、図1に示す歩行解析装置100の作用・動作について説明する。まず、本実施形態の歩行解析装置100を腰部に装着して、歩行を開始すると、歩行解析装置100の加速度計10により、腰部の前後加速度、左右加速度、上下加速度が検出される。加速度計10は、検出した加速度の時間変化を電気信号の波形(加速度信号)として出力する。加速度計10から出力された加速度信号は、A/D変換器22によりデジタル化されて一旦RAM28に記憶される。図5は加速度計10で検出される加速度信号(前後加速度信号、左右加速度信号、上下加速度信号)の時間変化の一例を示すものである。時間によってそれぞれの加速度が変化しているのがわかる。図5において、前後加速度は前方に向かう側を正として、左右加速度は右に向かう側を正として、上下加速度は上方に向かう側を正として示されている。これらそれぞれの加速度の時間変化は、歩行動作の特定歩行動作に対応している。
【0036】
RAM28に歩行動作の一周期分に相当する加速度信号(前後加速度、左右加速度、上下加速度)が記憶されると、CPU24とROM26により構成される歩行動作判定手段によって、該加速度信号の時間変化から特定歩行動作のタイミングや期間が判定される。具体的には、加速度信号を時間微分することにより、該加速度信号のピークを検出し、該ピーク時に特定歩行動作が開始あるいは終了すると判定することができる。例えば、図5において、前後加速度が極小となるとともに、上下加速度及び左右加速度が極大となる時点(X時点)において、図3の蹴り出し動作が行われると判定することができる。そして、蹴り出し動作後において、上下加速度及び左右加速度が極小となる時点(Z時点)を、図3の右つま先離地(蹴り出し動作が右足の場合)と判定することができる。さらに、つま先離地の動作の後、前後加速度および左右加速度は緩やかに上昇するが、上下加速度は緩やかに減少し、その後極小となる。この上下加速度の極小となる時点(Y時点)を右立脚中期(蹴り出し動作が右足の場合)と判定することができる。
【0037】
上記のように、特定歩行動作を行っている時点が把握できれば、特定歩行動作中における平均加速度をCPU24により演算する。具体的には、蹴り出し動作と判定された時点と立脚中期と判定された時点との間における前後加速度信号から、前後加速度の平均加速度を演算する。このように演算された平均加速度を、腰部の加速度として採用し、加速度−背屈力関係から背屈力の強さを判別する。具体的には、CPU24により、ROM26に記憶されている図2に示すような加速度−背屈力関係に、演算された平均加速度を当てはめて、当該平均加速度に対応する背屈力の強さを導出することができる。ここで、背屈力の強さは式1で表されるものである。さらに、背屈力の強さとして、図2に示される立脚中期背屈力の強さ、極小点背屈力の強さ、極大点背屈力の強さをそれぞれこの時点で演算しておき、RAM28に記憶させておく。あるいは、記録部50に演算結果をデータとして自動的に保存するようにしてもよい。
【0038】
さらに、判別された背屈力の強さから、使用者の現時点での歩行年齢を演算することもできる。具体的には、ROM26に、背屈力の強さと歩行年齢との関係を予め記憶させておき、演算された背屈力の強さを、前記背屈力の強さと歩行年齢との関係に当てはめることにより、歩行年齢を演算することができる。演算された歩行年齢は、RAM28に一時的に記憶される。あるいは、記録部50に歩行年齢の判別結果を自動的に保存するようにしてもよい。
【0039】
上記のように、CPU24により式1にて表される背屈力の強さが導出された場合、その結果を表示部40に表示することができる。この場合、使用者が立脚中期背屈力の強さや極小点背屈力の強さや極大点背屈力の強さなどから、表示したい項目を選択して、選択された項目の判別結果を表示することができる。あるいは、すべての判別結果を自動的に表示するようにしてもよい。
【0040】
さらに、判別された背屈力の強さに基づいた歩行年齢を表示することができる。さらに、歩行年齢に応じて、転倒予防のための運動方法を表示することにより、使用者に運動の指針を教示することができる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態の歩行解析装置100によれば、使用者の背屈力の強さを判別することができるため、転倒の主要因である「つまづき」を誘発する下肢の衰えをより簡便に検出することができる。さらに、つまづき自体を検出するのではなく、つまづきを誘発する背屈力の低下を直接検出することができるため、より早期に転倒予防にかかわる対策を講じることができる。さらに、前後加速度、左右加速度及び上下加速度の時間変化から、背屈力の強さが比較的影響する蹴り出しから立脚中期まで等の特定歩行動作を判定して、該特定歩行動作中の平均加速度を検出し、その平均加速度から背屈力の強さを判別するようにしたので、より精度よく背屈力の強さを判別することができる。また、背屈力の判別結果から歩行年齢や運動指針等を教示することができ、転倒予防に効果的である。
【0042】
以上、本実施形態の歩行解析装置についてその一例を示したが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、前述の実施形態においては、加速度計10により腰部の前後加速度、左右加速度、上下加速度のすべてを検出するようにしているが、これらのうちの一つの方向における加速度を検出すれば十分な場合もある。例えば、前後加速度のみを検出する場合でも、蹴り出し動作は判定することが可能であるので、この蹴り出し動作のみのタイミングから特定歩行動作が行われる時点を判定することも可能である。また、左右加速度及び上下加速度のうちの一方から特定歩行動作を判定するようにしてもよい。
【0043】
その他、本発明の範囲内において、当業者が容易に想到することができる程度に、本実施形態の構成を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の歩行解析装置の一例を示すブロック図。
【図2】加速度−背屈力関係の一例を示す図。
【図3】歩行動作について説明する図。
【図4】背屈力の強さの規定の仕方について説明する図。
【図5】実施形態における加速度信号の時間変化波形を示す図。
【図6】背屈力が異なる場合の歩行時における背屈角度の違いを説明する図。
【符号の説明】
【0045】
10 加速度計
12 X方向加速度検出部(前後加速度検出部)
14 Y方向加速度検出部(左右加速度検出部)
16 Z方向加速度検出部(上下加速度検出部)
20 演算部(演算装置)
24 CPU(演算装置、歩行動作判定手段)
26 ROM(記憶装置、歩行動作判定手段)
100 歩行解析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行時における腰部の加速度を検出し、該加速度に対応する信号を出力する加速度検出装置と、
歩行時における腰部の加速度と人体の背屈力の強さとの関係である加速度−背屈力関係が記憶されている記憶装置と、
前記加速度検出装置から出力される信号又はその処理データと、前記記憶装置に記憶されている前記加速度−背屈力関係とから使用者の背屈力の強さを判別する演算装置と、を有することを特徴とする歩行解析装置。
【請求項2】
前記加速度検出装置は、歩行時の腰部の前後方向における加速度である前後加速度を検出し、該前後加速度に対応する信号を出力する前後加速度検出部を有するものであり、
前記加速度−背屈力関係は、前記前後加速度と人体の背屈力の強さとの関係であって、
前記演算装置は、前記前後加速度検出部から出力される信号又はその処理データと、該加速度−背屈力関係とから使用者の背屈力の強さを判別するものであることを特徴とする請求項1に記載の歩行解析装置。
【請求項3】
前記加速度−背屈力関係は、1周期の歩行動作のうち特定歩行動作における前後加速度と人体の背屈力の強さとの関係であることを特徴とする請求項2に記載の歩行解析装置。
【請求項4】
前記特定歩行動作は、一方の足で蹴り出す蹴り出し動作から他方の足のみで立脚する立脚中期までの動作であることを特徴とする請求項3に記載の歩行解析装置。
【請求項5】
1周期の歩行動作のうち前記特定歩行動作が行われるタイミングを判定する歩行動作判定手段をさらに有し、前記前後加速度検出部から出力される信号又はその処理データのうち前記特定歩行動作が行われるタイミングにおける信号又はその処理データと、前記加速度−背屈力関係とから使用者の背屈力の強さを判別するものであることを特徴とする請求項3又は4に記載の歩行解析装置。
【請求項6】
前記加速度検出装置は、歩行時の腰部の上下方向における加速度である上下加速度を検出し、該上下加速度に対応する信号を出力する上下加速度検出部と、歩行時の腰部の左右方向における加速度である左右加速度を検出し、該左右加速度に対応する信号を出力する左右加速度検出部とのうち少なくとも一方をさらに有するものであり、
前記歩行動作判定手段は、前記上下加速度検出部から出力される信号又はその処理データと、前記左右加速度検出部から出力される信号又はその処理データとのうちの少なくとも一方と、前記前後加速度検出部から出力される信号又はその処理データとから選択される少なくともいずれかの信号又はその処理データから、使用者の歩行動作が前記特定歩行動作であることを判定するものであることを特徴とする請求項5に記載の歩行解析装置。
【請求項7】
前記背屈力の強さは、前記特定歩行動作中における足首の背屈角の変化の割合として表されることを特徴とする請求項3ないし6のいずれか1項に記載の歩行解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−87735(P2006−87735A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−278024(P2004−278024)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.万歩計
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】