説明

歪矯正方法及び歪矯正装置

【課題】縦曲がりを矯正することができる歪矯正方法を提供する。
【解決手段】搬送路に置かれた補剛パネル100に対し、搬送路を境にして上方から補剛パネル100に作用する加圧ローラ1と、搬送路を境にして他方の面側から搬送路上に置かれる補剛パネル100に作用し、加圧ローラ1を挟んで配置される一対の受けローラ2,3と、を用い、補剛パネル100に3点曲げによる荷重を付与することで溶接歪を低減する。本発明によると、残留応力が生じている溶接による高温域HAを選択的に降伏させて塑性変形を生じさせることができるので、縦曲がりを容易に矯正できることを確認した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接により鋼板にリブなどの補剛部材を溶接した後に生ずる歪を矯正する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば箱桁橋梁を製作する際に、パネル本体に補剛材(リブ材)を溶接により取付けると、溶接に伴う熱収縮によりパネル本体の幅方向及び長手方向に溶接歪が発生することから、溶接の後で歪矯正を実施している。
通常、この歪矯正は、補剛材が溶接された面の裏側をバーナによる火炎で加熱して、加熱部を収縮させて熱収縮のバランスを取ることで行なわれる。しかし、バーナ加熱による歪矯正は、熟練を要する作業で、また所要時間も長く、生産性が悪い。
一方、特許文献1に開示されるように、油圧プレスを用い、溶接により歪が生じている向きと逆向きの荷重・変位を強制的に加えることで、歪矯正する方法もある。これは、特許文献1の図1に示されるように、溶接部の裏側に受圧ローラを配し、表側(上側)から加圧して3点曲げを作用させて歪矯正するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2735087号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、これまで知られている歪矯正装置は、幅方向に生じた歪(以下、「角変形」という)を矯正することを主眼においているものであり、長手方向に歪矯正を行う機能は設けられていない。したがって、長手方向の歪(以下、「縦曲がり」という)の矯正は、人手によりバーナで加熱する作業に頼っているが実情で、作業効率が極めて悪いと言う問題があった。特に、例えば10mにも及ぶパネルの縦曲がりを矯正するのは熟練した技能を有していても容易ではない。
本発明は、このような課題に基づいてなされたもので、縦曲がりを矯正することができる歪矯正方法及び歪矯正装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
縦曲がりは、例えばリブをパネル本体に溶接することで生じる長手方向の収縮が中立軸を境にパネル本体の側に収縮することで生じる曲げモーメントに起因する。本発明者はこの縦曲がりの発生原理に着目した。つまり、溶接による加熱の影響を受けた領域(高温域)には、溶接による熱影響を受けていない周囲から拘束されるために、引張りの残留応力が局部的に生じている。そこで本発明者等が検討したところ、長手方向に3点曲げによる荷重を付与すれば、残留応力が生じている部分を選択的に降伏させて塑性変形を生じさせることができるので、縦曲がりを容易に矯正できることを確認した。
一方で、縦曲がりを矯正する際にバーナによる加熱をどの程度与えればよいかは、これまで作業員の技能に頼っていた。このことは、闇雲に長手方向に3点曲げを行っても、縦曲がりを適切に矯正することが困難であることを示している。そこで本発明者は、溶接がなされる部材(以下、矯正対象物)の解析モデルを作成し、この解析モデルに対して溶接を行うのと同等の加熱を溶接がなされる部分に与えることで、実際に溶接を行うことで生じる縦曲がりを再現した。そして、この再現された縦曲がりを用いることで、生じている縦曲がりを矯正するのに必要な条件を特定できることを知見した。
【0006】
本発明は、溶接方向に沿って歪が生じている矯正対象物の歪を矯正する方法に関する。
本発明は、溶接方向に沿う搬送路に置かれた矯正対象物に対し、第1加圧部材と第2加圧部材を用い、矯正対象物に3点曲げによる荷重を付与することで歪を低減する。
本発明において、第1加圧部材は、搬送路を境にして一方の面側から搬送路上に置かれる矯正対象物に作用する。
第2加圧部材は、搬送路を境にして他方の面側から搬送路上に置かれる矯正対象物に作用する。また、第2加圧部材は、溶接方向に沿って第1加圧部材を挟んで配置される一対の部材である。
【0007】
本発明において矯正対象物に対する荷重は、溶接方向に沿って間欠的に付与してもよいし、溶接方向に沿って連続的に付与してもよい。歪の性状に応じて、いずれか一方を選択し、又は双方を組み合わせて付与することもできる。
【0008】
本発明の矯正方法において、矯正の条件を設定する際には、以下の手順を採用することが好ましい。ステップ1:矯正対象物について作成された解析モデルに溶接歪を与える。
ステップ2:溶接歪が与えられた解析モデルに、第1加圧部材と第2加圧部材を用いたものとして3点曲げを作用させて、第1加圧部材及び第2加圧部材の一方又は双方の移動量と解析モデルに加えられる荷重の関係を解析により求める。
ステップ3:第1加圧部材及び第2加圧部材の一方又は双方の移動量と解析モデルに加えられる荷重の関係に基づいて、第1加圧部材と第2加圧部材を用いたものとして解析モデルに変形を生じさせる。
ステップ4:解析モデルに生じさせた変形に基づいて、矯正の条件を設定する。
【0009】
また本発明において、矯正が施された矯正対象物に、未だ歪が残留することがある。この在留した歪が許容範囲以内の場合はよいが、許容範囲を超えている場合には、次の矯正対象物に対する3点曲げによる荷重の条件を、変更することが必要になる。このような事情に基づいて本発明では、矯正が施された矯正対象物の歪の状態を把握し、この歪の状態に基づいて、矯正の条件を再設定することが好ましい。
【0010】
本発明は、歪矯正方法を実行する以下の歪矯正装置を提供する。
この歪矯正装置は、溶接方向に沿う搬送路に置かれた矯正対象物に対し、第1加圧部材と第2加圧部材を用い、矯正対象物に3点曲げによる荷重を与えることで歪を低減する。
第1加圧部材は、搬送路を境にして一方の面側から搬送路上に置かれる矯正対象物に作用する。
第2加圧部材は、搬送路を境にして他方の面側から搬送路上に置かれる矯正対象物に作用する。また、第2加圧部材は、溶接方向に沿って第1加圧部材を挟んで配置される一対の部材である。
なお、本発明の歪矯正装置は、本発明の歪矯正方法において適用できる上述した好ましい形態を伴うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、残留応力が生じている部分を選択的に塑性変形させることで、縦曲がりを容易に矯正できる。また、本発明によれば、縦曲がりを矯正する条件を適切に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態(第1実施形態)における矯正装置の側面図である。
【図2】本実施形態における矯正装置の正面図である。
【図3】本実施形態における矯正装置を用いてパネルの縦曲がりを矯正する手順を示す図である。
【図4】本実施形態における矯正装置を用いてパネルの縦曲がりを矯正する様子を示し、上段は任意の2箇所で矯正動作をする例を示し、下段は連続的に矯正動作をする例を示す。
【図5】本実施形態における矯正装置に適用される昇降装置を示す図である。
【図6】本実施形態における解析モデルの一例を示す図である。
【図7】本実施形態における解析モデルに3点曲げ解析を行った結果を示すグラフである。
【図8】本実施形態における解析モデルの変形の変遷を示すグラフである。
【図9】角変形の矯正機構を備えた本実施形態(第2実施形態)における矯正装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に示す実施形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
[第1実施形態]
本実施形態の矯正装置10は、溶接により補剛パネル100(矯正対象物)に生じた歪(溶接歪)を矯正する。補剛パネル100は、図1、図2に示すように、パネル本体101の一方の面(表面とする)にリブ102が、その長手方向(図1の矢印x方向,溶接方向)に沿って溶接されることで接合される。複数のリブ102は、パネル本体101の幅方向(図2の矢印y方向)に間隔を開けてパネル本体101に接合されている。
以上のように溶接が施された補剛パネル100には、図1、図2に示すように、曲線αで示すようにリブ102が接合された表面が凸になる縦曲がりと、曲線βで示すようにリブ102が接合された表面が凹になる角変形と、が溶接歪として生じる。本実施形態は、この縦曲がりを矯正することを主眼においている。
【0014】
[矯正装置10の基本構成]
矯正装置10は、図1、図2に示すように、加圧ローラ1と、2つの受けローラ2,3と、を備えている。加圧ローラ1は、搬送路上に置かれる補剛パネル100の上方から、隣接するリブ102の間に位置して補剛パネル100に荷重を与える。一方、受けローラ2,3は、補剛パネル100の下方から、溶接方向に沿って加圧ローラ1を挟んで配置される。
加圧ローラ1と受けローラ2,3の間に補剛パネル100を配置し、加圧ローラ1と受けローラ2,3により荷重を付与することで、補剛パネル100の溶接歪を矯正する。
加圧ローラ1は、フレーム20に支持される支持コラム21の下端に、受けローラ2,3の回転に合せて自由に回転可能に取付けられている。支持コラム21は、幅方向に移動可能にフレーム20に支持されている。加圧ローラ1は、支持コラム21の先端部に設けられる昇降装置25により、昇降が可能である。
受けローラ2,3は、各々、掘り下げられた床面に立設された支持コラム22,23,24の上端に回転可能に取付けられている。支持コラム22,23は受けローラ2,3を幅方向の両端で支持し、また、支持コラム24は受けローラ2,3を幅方向の中央で支持する。支持コラム22,23,24は、床面に対して固定されていてもよいし、長手方向に移動可能とされていてもよい。受けローラ2,3は、支持コラム22,23,24の先端部に各々設けられる昇降装置26,27,28により、昇降が可能である。
なお、ここでは、加圧ローラ1と受けローラ2,3の両者が昇降可能にされているが、加圧ローラ1と受けローラ2,3の一方が昇降可能であれば、溶接歪矯正のために補剛パネル100に荷重を付与する、という目的は達成される。また、昇降装置25(26,27,28)の具体例については、後述する。
【0015】
矯正装置10は、加圧ローラ1、受けローラ2,3の昇降、支持コラム21(22,23)の位置を制御する制御部50を備えている。制御部50は、後述するように、矯正装置10による矯正条件を設定する機能を備えている。
【0016】
[矯正手順]
さて、補剛パネル100を矯正装置10で矯正するには、図3(a)に示すように、矯正装置10の入口IN側に補剛パネル100を配置した後に、出口OUTに向けた搬送路に沿って挿入する。このとき、加圧ローラ1と受けローラ2,3の鉛直方向の間隔は、後述する手法に基づいて、補剛パネル100の溶接歪を矯正できるように設定される。矯正装置10に挿入された補剛パネル100は、図3(b)に示すように、加圧ローラ1及び受けローラ2,3により3点曲げされることにより、荷重が与えられ矯正される。補剛パネル100は、図3(c)に示すように、矯正装置10の出口OUTを通過すると、矯正の作業が終了する。
通常、補剛パネル100に許容される歪には規定があり、例えば橋梁に用いられる補剛パネルでは、10mあたりで±3mmである。矯正作業はこの許容値内に溶接歪を低減させる必要がある。
【0017】
図3で示した補剛パネル100を矯正する手順には、図4に示すように、少なくとも2つの形態が存在する。なお、図4は、補剛パネル100を線分で示している。
1つ目の形態は、補剛パネル100の長手方向の特定の箇所で荷重を付与する。例えば、図4の上段に示す例では、長手方向に間隔を開けて配置される地点A、Bの2箇所で順次加圧ローラ1を降下させることで補剛パネル100に荷重を付与する。地点A,Bを選択する際に、例えば、補剛パネル100の長手方向に対して、受けローラ2,3間の寸法の1/2のピッチとすることができる。この形態は、加圧ローラ1が地点Aに対応する位置まで補剛パネル100が送られたならば、補剛パネル100の送りを停止して、加圧ローラ1により荷重を付与する。所定の荷重を地点Aに対して付与したならば、補剛パネル100を送り、加圧ローラ1が地点Bに対応する位置まで到達したならば、補剛パネル100の送りを停止して、加圧ローラ1により荷重を付与する。つまり、一つ目の形態は、補剛パネル100を間欠的に送り、補剛パネル100の送りが停止しているときに、荷重を付与する。この形態によると、矯正後の補剛パネル100は、荷重が付与された箇所が下向きに凸となり、波状に矯正されるが、振幅を所望する値以下に抑えることで、矯正の目的を達成できる。なお、この形態では、補剛パネル100を送っているときには、加圧ローラ1を上昇させることにより、補剛パネル100に対しての荷重の付与を停止する。また、荷重を付与する箇所は2箇所に限るものではなく、3箇所以上の任意の地点で荷重を付与することができる。
【0018】
2つ目の形態は、補剛パネル100を連続的に送りながら加圧ローラ1で荷重を付与する。この形態によると、補剛パネル100に連続的に荷重が付与されるので、図4の下段に示すように、矯正された補剛パネル100は平坦に近づく。この矯正の過程において、補剛パネル100通過位置に応じて、加圧ローラ1による荷重の程度を変動させることもできる。1つ目の形態に2つ目の形態を組み合わせることもできる。
【0019】
以上の矯正の作業は、隣接するリブ102とリブ102の間ごとに行うことが望まれる。具体的には、1つのリブ102とリブ102の間の矯正作業が終了したならば、加圧ローラ1を隣のリブ102とリブ102の間に移動させてから、次の矯正作業を溶接方向に沿って行う。この場合、補剛パネル100を入口IN側に移動させてもよいし、出口OUT側から補剛パネル100を矯正装置10に挿入することもできる。
【0020】
また、図3(b),(c)に示すように、出口OUT側に補剛パネル100の矯正の状態を検知する例えばレーザ変位計LDを設けることができる。レーザ変位計LDによる検知結果を制御部50が取得して矯正の過不足を判断し、矯正不足と判断すると、制御部50は加圧ローラ1及び受けローラ2,3の一方又は双方の昇降量を調整する。
矯正の状態を検知する手段は、レーザ変位計LDに限るものではなく、他の公知の変位計を用いることができる。また、矯正の過不足を判断するには、補剛パネル100の両端に対応する位置の検知結果を結ぶ直線と、長手方向中央部に対応する位置の検知結果との差分を求め、これを矯正の許容範囲と比較することが一例として掲げられる。
【0021】
[昇降装置26]
次に、昇降装置26の具体的な構成例を、図5を参照しながら説明する。なお、昇降装置25,27,28も同様の構成を採用することができる。
昇降装置26は、加圧ローラ1で補剛パネル100に荷重を付与しても、受けローラ2がその位置を維持できるようにされている。
昇降装置26は、支持コラム22の側面に固定された一対の油圧シリンダ31,32を備えている。油圧シリンダ31,32の各々のロッド33,34には、可動台35が固定されている。可動台35は、油圧シリンダ31,32の動作に伴い、昇降される。可動台35の上には、受けローラ2を回転可能に支持する軸受36が固定されている。
支持コラム22の上端には、固定台37が設けられている。固定台37と可動台35の間には間隙が設けられており、この間隙には一対の高さ調整片38,39が配置される。高さ調整片38,39は、縦断面が台形状の部材であり、互いに斜面同士で接触して鉛直方向に重ねられている。
【0022】
高さ調整片38は固定台37に対して摺動可能に配置されている。固定台37には油圧シリンダ41が固定さており、この油圧シリンダ41のロッド43は高さ調整片38に固定されている。したがって、油圧シリンダ41を作動させることにより、高さ調整片38は固定台37に沿って水平方向に動くことができる。
また、高さ調整片39は可動台35に対して摺動可能に配置されている。可動台35には油圧シリンダ42が固定さており、この油圧シリンダ42のロッド44は高さ調整片39に固定されている。したがって、油圧シリンダ42を作動させることにより、高さ調整片39は可動台35に沿って水平方向に動くことができる。
【0023】
さて、昇降装置26により受けローラ2を昇降させるには、次のようにする。
例えば、受けローラ2を下降させるには、油圧シリンダ41,42のロッド43,44を伸張することで、高さ調整片38,39を水平方向に離れる向きに動かす。高さ調整片38,39は互いに斜面同士が摺動しながら移動し、高さ調整片38,39を重ね合わせた高さが低くなる(図5(b))。こうして、可動台35が降下することで、受けローラ2を下降させることができる。この下降に同期して油圧シリンダ31,32はロッド33,34を短縮させる。
受けローラ2を上昇させるには、以上と逆の動作を油圧シリンダ41,42、油圧シリンダ31,32にさせればよく、そうすることで、図5(c)に示すように、可動台35を上昇させることができる。昇降装置26は、受けローラ2からの荷重を高さ調整片38,39により受けることができる。したがって、この荷重を仮に油圧シリンダ31,32で受ける場合には、ロッド33,34が微量ではあるが沈んで受けローラ2の位置が降下するのに対して、受けローラ2の支持位置を維持できる。したがって、昇降装置26を用いることで、補剛パネル100を矯正する精度を向上できる。
【0024】
[矯正条件設定手順]
次に、補剛パネル100に生じている溶接歪を矯正する際に、加圧ローラ1と受けローラ2,3により補剛パネル100に付与する荷重(矯正条件)を設定する手順を説明する。この手順は、制御部50で行われる。
この手順は、以下に示す1〜4のステップから構成される。
ステップ1:解析モデルの作成
ステップ2:3点曲げ解析
ステップ3:塑性曲げ解析
ステップ4:矯正条件設定
【0025】
ステップ1:解析モデルの作成
解析モデルは、有限要素法(Finite Element Method, FEM)に基づいて作成する。FEM解析は当業者間でよく知られた解析手法であるの、その具体的な内容の説明は省略するが、作成された解析モデル100Mを図6に示す。解析モデル100Mは、本体モデル101Mとリブモデル102Mからなるものであり、矯正対象物である補剛パネル100と構成が同じに作成される。
この解析モデル100Mに、高温域HA(拡大図にハッチングを施している)とそれ以外の常温域LAに温度差を与え、溶接を再現する。温度差は、例えば500℃である。高温域HAは、溶接による加熱されて高温に晒される領域に対応し、常温域LAは高温に晒されない領域に対応する。このように温度差を与えることで、解析モデル100Mに溶接歪を再現させる。
高温域HAは、溶接時には膨張するが常温域LAに取り囲まれる側方には膨張が拘束されるので、常温域LAを避けて膨張する。このとき、高温域HAは、常温域LAを避けて膨張がなされた分だけ、常温域LAに取り囲まれる領域は体積が減少する。したがって、溶接後に冷却されると、常温域LAに取り囲まれる高温域HAには引張り応力が残留する。本発明は、この残留応力を利用して、補剛パネル100の矯正を行うところに特徴がある。
なお、生じる溶接歪を変更させるには、高温域HAを設定する範囲、温度差を変更すればよい。
【0026】
ステップ2:3点曲げ解析
溶接歪が再現された解析モデル100Mに対し、解析モデル100Mの全長(長手方向)の例えば1/3〜1/10の支持ピッチで、加圧ローラ1、受けローラ2,3による3点曲げに相当する3点曲げを設定する。この想定された3点曲げにおいて加圧ローラ1を下降させ、この加圧ローラ1の下降量(ローラ移動量)と補剛パネル100に加わる荷重の関係を求める3点曲げ解析を行なう。
3点曲げ解析を行った結果の一例を図7に示す。
この例では、加圧ローラ1の下降量(図7のローラ移動量)が6mmを超えるあたりから荷重の上昇が頭打ちになっており、30tの荷重が付与されることで、塑性変形(曲げ)が始まっていることが伺える。この塑性曲げは、高温域HAの塑性曲げを反映している。つまり、前述したように高温域HAには引張り応力が残留している。したがって、溶接歪を矯正する向きに解析モデル100Mに3点曲げを施せば、残留している引張り応力にさらに引張りが加わることで、高温域HAは常温域LAよりも早期に、換言すると高温域HAは選択的に塑性曲げが生じる。したがって、本発明によると、縦曲がりを容易に矯正できることになる。
【0027】
ステップ3:塑性曲げ解析
ステップ2で得られたローラ移動量(加圧ローラ1の下降量)と荷重の関係が把握できたならば、加圧ローラ1と受けローラ2,3の位置と解析モデル100Mの変形挙動の関係を求める。その一例を図8に示す。
図8には、溶接後に生じた溶接歪による変形形態、加圧ローラ1と受けローラ2,3により3点曲げをして荷重を付与したときの変形形態、及び荷重を解除した除荷後の変形形態を示している。除荷後の変形は、荷重を付与しているときの変形からスプリングバックが差し引かれたものである。そして、除荷後の変形形態は、溶接歪の矯正の結果として許容できる変形量である。
【0028】
ステップ4:矯正条件設定
以上のようにして、矯正として許容される除荷後の変形形態を解析により求めたならば、この解析結果に基づいて、矯正の条件を設定する。図8の例では、加圧ローラ1と受けローラ2(3)との間隔が約1400mmとした場合に、加える加重の条件としては約30tが設定される。また、受けローラ2の上昇量(=加圧ローラ1の下降量)としては、10mm程度が設定される。なお、この加圧ローラ1の下降量は、矯正前に加圧ローラ1が補剛パネル100に接触した位置を基準にする。
以上のように、制御部50で条件が設定されたならば、制御部50は加圧ローラ1及び受けローラ2,3を当該条件に従うように動作させる。
【0029】
[第2実施形態]
第2実施形態による矯正装置110は、第1実施形態に加えて角変形を矯正する機能を備えることで、溶接によって生じた縦曲がりと角変形の矯正を同時に行なうことができる。
矯正装置110は、図9に示すように、一対の加圧ローラ4,5を備える。加圧ローラ4,5は、補剛パネル100のリブ102を境に対象の位置に配置され、リブ102の幅方向の両側でパネル本体101に荷重を付与することができる。加圧ローラ4,5は、対で昇降し、また、幅方向に移動することができる。そうすることで、角変形をも矯正する。
【0030】
矯正装置110により、縦曲がりに加えて角変形を矯正するには、第1実施形態で示した縦曲がりを矯正する条件に角変形を矯正するための条件を追加すればよい。そうすることで、補剛パネル100の生産性が格段に向上することが期待できる。角変形を矯正するための条件の追加は、以下の手順によればよい。なお、縦曲がり矯正の条件(荷重、移動量)は、第1実施形態により特定されているものとし、この荷重を加えることを前提として角変形を矯正する条件を求めることになる。
【0031】
角変形を矯正する条件の中で、荷重Pは決まっているので、加圧ローラ4,5の作用点を求める。この作用点は、リブ102の幅方向の中央からの距離xで特定される。この作用点に荷重Pを加えることでパネル本体101に付与される曲げモーメントMは以下の式(1)により与えられる。
M=P×X … (1)
また、溶接部に塑性変形を与えるために必要な曲げ応力σは、以下の式(2)に示す通り、パネル本体101を構成する鋼材のσ(降伏応力)から溶接により生じた残留応力σを引いた値でよい。
σ=σ−σ (2)
なお、加圧部を梁と考えて、加圧ローラ4,5による加圧幅を略ローラ径の1/10とする。
そうすれば、以下の式(3)の関係により、加圧ローラ4,5の作用点(距離x)が求められる。この距離xにしたがって、加圧ローラ4,5の位置を制御すれば、溶接によって生じた角変形矯正と縦曲がり矯正を同時に行なうことができる。この場合、2つの加圧ローラ4,5を備えているので、縦曲がりの矯正を第1実施形態の倍の効率で行うことができる。
σ=M/Z …(3) σ:曲げ応力 M:曲げモーメント Z:断面係数
【0032】
なお、上記実施形態では、U字形状のリブ102をパネル本体101に溶接した補剛パネル100について説明したが、本発明の対象はこの形態に限るものではなく、横断面が偏平なリブ、あるいはL字状のリブなど、を溶接することで縦曲がりが生ずる様々な溶接物を矯正の対象にすることができる。
また、上記実施形態では一つの加圧ローラ1を用いたが、局部的な荷重の付与を避けるために、加圧ローラ1の長手方向の前後に小径のローラを設ける、という選択を行うことができる。
さらに、以上の実施形態では、矯正装置10に付帯する制御部50で矯正の条件を設定するとともに、制御部50が加圧ローラ1及び受けローラ2,3を動作させるが、矯正装置10とは個別に設けられる演算処理装置で矯正の条件を設定することもできる。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
10,110…矯正装置
1,4,5…加圧ローラ 2,3…受けローラ、
20…フレーム 21,22,23,24…支持コラム 25,26,27,28…昇降装置
100…補剛パネル 101…パネル本体 102…リブ
100M…解析モデル 101M…本体モデル 102M…リブモデル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接方向に沿って歪が生じている矯正対象物の前記歪を矯正する方法であって、
前記溶接方向に沿う搬送路に置かれた前記矯正対象物に対し、
前記搬送路を境にして一方の面側から前記搬送路上に置かれる前記矯正対象物に作用する第1加圧部材と、
前記搬送路を境にして他方の面側から前記搬送路上に置かれる前記矯正対象物に作用し、前記溶接方向に沿って前記第1加圧部材を挟んで配置される一対の第2加圧部材と、
を用い、前記矯正対象物に3点曲げによる荷重を付与することで前記歪を低減する、
ことを特徴とする歪矯正方法。
【請求項2】
前記矯正対象物に対する前記荷重は、
前記溶接方向に沿って間欠的に与えられる、
請求項1に記載の歪矯正方法。
【請求項3】
前記矯正対象物に対する前記荷重は、
前記溶接方向に沿って連続的に与えられる、
請求項1に記載の歪矯正方法。
【請求項4】
前記矯正対象物について作成された解析モデルに溶接歪を与え、
前記溶接歪が与えられた前記解析モデルに、前記第1加圧部材と前記第2加圧部材を用いたものとして3点曲げを作用させて、前記第1加圧部材及び前記第2加圧部材の一方又は双方の移動量と前記解析モデルに加えられる荷重の関係を解析により求め、
前記第1加圧部材及び前記第2加圧部材の一方又は双方の前記移動量と前記解析モデルに加えられる前記荷重の関係に基づいて、前記第1加圧部材と前記第2加圧部材を用いたものとして前記解析モデルに変形を生じさせ、
前記解析モデルに生じさせた前記変形に基づいて、前記矯正の条件が設定される、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の歪矯正方法。
【請求項5】
前記矯正が施された前記矯正対象物の歪の状況に基づいて、
前記矯正の条件を再設定する、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の歪矯正方法。
【請求項6】
溶接線が形成される溶接方向に沿って歪が生じている矯正対象物の前記歪を矯正する装置であって、
前記溶接方向に沿う搬送路に置かれた前記矯正対象物に対し、
前記搬送路を境にして一方の面側から前記搬送路上に置かれる前記矯正対象物に作用する第1加圧部材と、
前記搬送路を境にして他方の面側から前記搬送路上に置かれる前記矯正対象物に作用し、前記溶接方向に沿って前記第1加圧部材を挟んで配置される一対の第2加圧部材と、
を備え、
前記第1加圧部材と前記第2加圧部材を用いて前記矯正対象物に3点曲げによる荷重を与えることで前記歪を低減する、
ことを特徴とする歪矯正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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