説明

歯ぎしりの予防剤または治療剤

本発明は、プロトンポンプ阻害剤、ヒスタミンH2受容体拮抗剤またはアシッドポンプ拮抗剤から選ばれる少なくとも1種を有効成分とする歯ぎしりおよび歯ぎしりに関連する疾患の予防剤または治療剤を提供する。プロトンポンプ阻害剤としてはラベプラゾール、オメプラゾール、エソメプラゾール、ランソプラゾール、パントプラゾールもしくはテナトプラゾールまたはそれらの塩あるいはそれらの水和物が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、歯ぎしりの予防剤または治療剤に係り、より詳細には、胃酸の食道内逆流を抑制する作用を有する薬剤を有効成分とする、歯ぎしりおよび歯ぎしりに関連する疾患の予防剤または治療剤に関する。
【背景技術】
歯ぎしりは、睡眠時における異常機能運動、口腔悪習癖あるいは睡眠時随伴症であると考えられており、歯の咬耗や破折、咀嚼筋の不快感や痛み、顎関節症を引き起こす等、健康上大きな悪影響を及ぼすことが知られている。
歯ぎしりの発現に関しては、以前は咬合が関与していると考えられていたが、近年、咬合は歯ぎしりの発現にほとんど関与しないことが知られるようになった(たとえば、非特許文献1参照)。
一方、歯ぎしりの治療に関してはこれまでのところ、上下の歯が接触しないようにボクシングのマウスピースのようなものを入れるスプリント(ナイトガード)療法、無意識に行われている運動を意識的に抑えるように訓練する自己暗示療法、バイオフィードバック療法、薬物療法などの対症療法が行われているにすぎないのが現状であった。このうち、スプリント療法ではその効果に疑問があり、さらに多額の費用がかかるという問題点がある。また、薬物療法ではジアゼパム等の抗不安薬、三環系抗うつ薬、筋弛緩薬のほか、L−dopaが歯ぎしりの予防剤または治療剤として有効であるとの報告はある(たとえば、非特許文献2参照)。しかしながら、いずれの手法も根本的な治療方法とはなっていない。したがって、歯ぎしりの効果的かつ根本的な治療方法が切望されている。
【非特許文献1】Lavigne GJ,Manzini C.Bruxism.In:Kryger MH,Roth T,and Dement W,eds.Principles and practice of sleep medicine.Philadelphia:WB Saunders,2000:773−85.
【非特許文献2】Lobbezoo F,Lavigne GJ,Tanguay R,and Montplaisir JY.Mov Disord 12:73−78,1997.
【発明の開示】
本発明の目的は、歯ぎしりおよび歯ぎしりに関連する疾患の効果的かつ根本的な予防剤または治療剤を提供することにある。
本発明者らは、睡眠時における胃酸の食道内逆流が歯ぎしりを引き起こすことに着目し、胃酸の食道内逆流を防ぐことができれば歯ぎしりの予防または治療が可能となるのではないかと推論した。そこで、本発明者らは、上記事情に鑑み、歯ぎしりの予防または治療に関して鋭意研究を重ねた結果、プロトンポンプ阻害剤に代表される胃酸分泌抑制剤が、歯ぎしりおよび歯ぎしりに関連する疾患の予防または治療において有用であることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
<1>胃酸分泌抑制剤を有効成分とする歯ぎしりの予防剤または治療剤:
<2>プロトンポンプ阻害剤、ヒスタミンH受容体拮抗剤またはアシッドポンプ拮抗剤から選ばれる少なくとも1種を有効成分とする歯ぎしりの予防剤または治療剤:
<3>プロトンポンプ阻害剤およびヒスタミンH受容体拮抗剤を有効成分とする歯ぎしりの予防剤または治療剤:
<4>プロトンポンプ阻害剤を有効成分とする歯ぎしりの予防剤または治療剤:
<5>プロトンポンプ阻害剤がラベプラゾール、オメプラゾール、エソメプラゾール、ランソプラゾール、パントプラゾールもしくはテナトプラゾールまたはそれらの塩あるいはそれらの水和物である<2>〜<4>いずれか1記載の予防剤または治療剤:
<6>プロトンポンプ阻害剤がラベプラゾールまたはその塩である<2>〜<4>いずれか1記載の予防剤または治療剤:
<7>プロトンポンプ阻害剤がラベプラゾールのナトリウム塩である<2>〜<4>いずれか1記載の予防剤または治療剤:
<7−1>プロトンポンプ阻害剤がオメプラゾールまたはその塩である<2>〜<4>いずれか1記載の予防剤または治療剤:
<7−2>プロトンポンプ阻害剤がエソメプラゾールまたはその塩である<2>〜<4>いずれか1記載の予防剤または治療剤:
<7−3>プロトンポンプ阻害剤がランソプラゾールである<2>〜<4>いずれか1記載の予防剤または治療剤:
<7−4>プロトンポンプ阻害剤がパントプラゾールまたはその塩である<2>〜<4>いずれか1記載の予防剤または治療剤:
<8>ヒスタミンH受容体拮抗剤がシメチジン、ラニチジン、ファモチジン、ロキサチジン、ニザチジンもしくはラフチジンまたはそれらの塩である<2>または<3>記載の予防剤または治療剤:
<9>胃酸分泌抑制剤を有効成分とする歯ぎしりに関連する疾患の予防剤または治療剤:
<10>プロトンポンプ阻害剤、ヒスタミンH受容体拮抗剤またはアシッドポンプ拮抗剤から選ばれる少なくとも1種を有効成分とする歯ぎしりに関連する疾患の予防剤または治療剤:
<11>プロトンポンプ阻害剤およびヒスタミンH受容体拮抗剤を有効成分とする歯ぎしりに関連する疾患の予防剤または治療剤:
<12>プロトンポンプ阻害剤を有効成分とする歯ぎしりに関連する疾患の予防剤または治療剤:
<13>プロトンポンプ阻害剤がラベプラゾール、オメプラゾール、エソメプラゾール、ランソプラゾール、パントプラゾールもしくはテナトプラゾールまたはそれらの塩あるいはそれらの水和物である<10>〜<12>いずれか1記載の予防剤または治療剤:
<14>プロトンポンプ阻害剤がラベプラゾールまたはその塩である<10>〜<12>いずれか1記載の予防剤または治療剤:
<15>プロトンポンプ阻害剤がラベプラゾールのナトリウム塩である<10>〜<12>いずれか1記載の予防剤または治療剤:
<15−1>プロトンポンプ阻害剤がオメプラゾールまたはその塩である<10>〜<12>いずれか1記載の予防剤または治療剤:
<15−2>プロトンポンプ阻害剤がエソメプラゾールまたはその塩である<10>〜<12>いずれか1記載の予防剤または治療剤:
<15−3>プロトンポンプ阻害剤がランソプラゾールである<10>〜<12>いずれか1記載の予防剤または治療剤:
<15−4>プロトンポンプ阻害剤がパントプラゾールまたはその塩である<10>〜<12>いずれか1記載の予防剤または治療剤:
<16>ヒスタミンH受容体拮抗剤がシメチジン、ラニチジン、ファモチジン、ロキサチジン、ニザチジンもしくはラフチジンまたはそれらの塩である<10>または<11>いずれか1記載の予防剤または治療剤:
<17>前記歯ぎしりに関連する疾患が顎関節症、歯の知覚過敏症、咬合性外傷、歯の咬耗、歯の楔状欠損、歯肉退縮、歯の破折、歯の動揺、歯根吸収、歯槽骨吸収、咬筋肥大、咀嚼筋痛、歯冠修復物の破折、歯冠修復物の脱落または頭痛である<9>〜<16>いずれか1記載の予防剤または治療剤および
<18>前記歯ぎしりに関連する疾患が顎関節症である<9>〜<16>いずれか1記載の予防剤または治療剤:
を提供する。
また、本発明は
<19>胃酸分泌抑制剤を有効量投与する、歯ぎしりの予防方法または治療方法:
<20>胃酸分泌抑制剤を有効量投与する、歯ぎしりに関連する疾患の予防方法または治療方法:
<21>胃酸分泌抑制剤を有効量投与する、顎関節症の予防方法または治療方法:
<22>歯ぎしりの予防剤または治療剤の製造のための、胃酸分泌抑制剤の使用および
<23>歯ぎしりに関連する疾患の予防剤または治療剤の製造のための、胃酸分泌抑制剤の使用および
<24>顎関節症の予防剤または治療剤の製造のための、胃酸分泌抑制剤の使用:
を提供する。
【図面の簡単な説明】
図1は、歯ぎしり患者における睡眠中(40分間)の(A)食道のpHの変化および(B)側頭筋活動を示した図である。
図2(A)は、歯ぎしり患者における、(左)プラセボ投与後、(右)プロトンポンプ阻害剤投与後それぞれの場合の、睡眠中(4時間)の側頭筋活動を示した図である。
図2(B)は、歯ぎしり患者(n=8)における、プラセボ投与後およびプロトンポンプ阻害剤投与後それぞれの場合の、1時間あたりのブラキシズムエピソードの(左)頻度(****P〈0.0001)および(右)持続時間(***P〈0.001)を示す図である。
図3は、歯ぎしり患者(n=9)における、(1)プラセボ投与後、(2)PPI(プロトンポンプ阻害剤)投与後、(3)H2RA(ヒスタミンH受容体拮抗剤)投与後ならびに(4)PPI(プロトンポンプ阻害剤)およびH2RA(ヒスタミンH受容体拮抗剤)の併用投与後それぞれの場合の、1時間あたりのブラキシズムエピソードの頻度を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、本願明細書において記載する記号、用語等の意義、本発明の実施の形態等を示して、本発明を詳細に説明する。
本明細書において使用する「予防剤または治療剤」とは、単独の薬剤を含む剤、又は複数の薬剤を含む剤をいう。なお、複数の薬剤を含む剤とは、単独の薬剤を同時に製剤化して得られる剤、単独の薬剤を別々に製剤化して得られる複数の薬剤を、同時または予防もしくは治療に有効な一定時間の間隔をおいて投与するための剤をいう。
本明細書において使用する「胃酸分泌抑制剤」とは、胃酸の分泌を抑制する薬剤をいう。胃酸分泌抑制剤の具体例としては、以下のものに限定されるわけではないが、プロトンポンプ阻害剤、ヒスタミンH受容体拮抗剤、アシッドポンプ拮抗剤、抗コリン剤、コリンエステラーゼ阻害剤、ガストリン拮抗剤、制酸剤、ロートエキス等の漢方または生薬抽出物等が挙げられる。
本明細書において使用する「プロトンポンプ阻害剤」とは、プロトンポンプ(H,K−ATPase)のSH基を修飾して酵素活性を阻害し、酸分泌を抑制する薬剤をいう。プロトンポンプ阻害剤は、通常、ベンズイミダゾール骨格またはイミダゾピリジン骨格を有する化合物をいう。プロトンポンプ阻害剤の具体例としては、以下のものに限定されるわけではないが、下記式で表されるラベプラゾール(I)、オメプラゾール(II)、エソメプラゾール(III)、ランソプラゾール(IV)、パントプラゾール(V)もしくはテナトプラゾール(VI)またはそれらの塩あるいはそれらの水和物等を挙げることができる。これらうち、好ましいプロトンポンプ阻害剤としては、ラベプラゾール(I)またはそのナトリウム塩、オメプラゾール(II)またはそのナトリウム塩、エメソプラゾール(III)またはそのマグネシウム塩、ランソプラゾール(IV)、パントプラゾール(V)またはそのナトリウム塩等を挙げることができ、より好ましくはラベプラゾール(I)のナトリウム塩である。

なお、ラベプラゾールは米国特許第5045552号明細書に記載の方法に、オメプラゾールは米国特許第4255431号明細書に記載の方法に、エソメプラゾールは米国特許第5948789号明細書に記載の方法に、ランソプラゾールは米国特許第4628098号明細書に記載の方法に、パントプラゾールは米国特許第4758579号明細書に記載の方法に、テナトプラゾールは米国特許第4808596号明細書に記載の方法に、それぞれ従って製造することができる。
本明細書において使用する「ヒスタミンH受容体拮抗剤」とは、胃粘膜壁細胞のヒスタミンH受容体を選択的に遮断して、胃酸分泌を抑制する薬剤をいう。ヒスタミンH受容体拮抗剤の具体例としては、以下のものに限定されるわけではないが、シメチジン、ラニチジン、ファモチジン、ロキサチジン、ニザチジンもしくはラフチジンまたはそれらの塩等を挙げることができる。通常、ラニチジンは塩酸ラニチジンとして、またロキサチジンは塩酸ロキサチジンアセテートとして用いられる。
本明細書において使用する「アシッドポンプ拮抗剤」とは、プロトンポンプを可逆的に阻害することにより、酸分泌を抑制する薬剤をいう。アシッドポンプ拮抗剤の具体例としては、以下のものに限定されないが、米国特許第6,063,782号明細書に記載の化合物等を挙げることができる。
本明細書において使用する「塩」としては、例えば、無機酸との塩、有機酸との塩、無機塩基との塩、有機塩基との塩、酸性または塩基性アミノ酸との塩などが挙げられ、中でも薬理学的に許容される塩が好ましい。
無機酸との塩の好ましい例としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等との塩が挙げられ、有機酸との塩の好ましい例としては、例えば酢酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ステアリン酸、安息香酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等との塩が挙げられる。
無機塩基との塩の好ましい例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。有機塩基との塩の好ましい例としては、例えばジエチルアミン、ジエタノールアミン、メグルミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。
本明細書において使用する「歯ぎしりに関連する疾患」とは、歯ぎしりに起因する疾患をいう。歯ぎしりに関連する疾患の具体例としては、以下のものに限定されるわけではないが、顎関節症、歯の知覚過敏症、咬合性外傷、歯の咬耗、歯の楔状欠損、歯肉退縮、歯の破折、歯の動揺、歯根吸収、歯槽骨吸収、咬筋肥大、咀嚼筋痛、歯冠修復物の破折、歯冠修復物の脱落、頭痛等が挙げられる。これらのうち、好ましい疾患としては、顎関節症を挙げることができる。
本明細書において使用する「顎関節症」とは、顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節雑音、開口障害または顎運動異常を主要症候とする慢性疾患群を意味し、その病態には咀嚼筋障害、関節包・靭帯障害、関節円板障害、変形性関節症等が含まれる。
プロトンポンプ阻害剤を、歯ぎしりおよび歯ぎしりに関連する疾患の予防剤または治療剤として患者に投与する際の投与経路、投与量は、患者の症状、潰瘍・胃炎の種類・程度、年齢、心・肝・腎機能などにより異なり限定されない。
通常、プロトンポンプ阻害剤は、成人に1日あたり0.01〜100mgを経口投与する。
例えば、ラベプラゾールの成人1日用量は、ラベプラゾールのナトリウム塩として好ましくは0.1〜10mgである。オメプラゾールの成人1日用量は、好ましくは0.1〜20mgである。エソメプラゾールの成人1日用量は、エソメプラゾールのマグネシウム塩として好ましくは0.1〜20mgである。ランソプラゾールの成人1日用量は、好ましくは0.1〜30mgである。パントプラゾールの成人1日用量は、パントプラゾールのナトリウム塩として好ましくは0.1〜40mgである。
ヒスタミンH受容体拮抗剤を、歯ぎしりおよび歯ぎしりに関連する疾患の予防剤または治療剤として患者に投与する際の投与経路、投与量、投与回数は、患者の症状、潰瘍・胃炎の種類・程度、年齢、心・肝・腎機能などにより異なり限定されない。
通常、ヒスタミンH受容体拮抗剤は、成人に1日あたり1〜800mgを経口投与する。
例えば、シメチジンの成人1日用量は、好ましくは1〜800mg、より好ましくは50〜400mgである。ラニチジンの成人1日用量は、塩酸ラニチジンとして好ましくは5〜300mg、より好ましくは30〜150mgである。ファモチジンの成人1日用量は、好ましくは1〜40mg、より好ましくは5〜20mgである。ロキサチジンの成人1日用量は、塩酸ロキサチジンアセテートとして好ましくは5〜150mg、より好ましくは25〜75mgである。ニザチジンの成人1日用量は、好ましくは30〜300mg、より好ましくは50〜150mgである。ラフチジンの成人1日用量は、好ましくは0.5〜20mg、より好ましくは2.5〜10mgである。
投与剤形としては、例えば散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤などが挙げられる。製剤化の際は、通常の製剤担体を用いて常法により製造することもできるが、プロトンポンプ阻害剤は特に安定性が悪いため、特開平1−290628号公報および特開平2−22225号公報に記載された方法により安定な製剤とすることができる。
常法により経口用固形製剤を調製する場合は、主薬に賦形剤、さらに必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤などを加えた後、常法により散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等とする。
賦形剤としては、例えば乳糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビット、結晶セルロース、二酸化ケイ素等が、結合剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、エチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等が、崩壊剤としては、例えば澱粉、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、カルボキシメチルセルロース・カルシウム等が、滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカ等が、着色剤としては医薬品に添加することが許可されているものが用いられる。これらの錠剤、顆粒剤には糖衣、その他必要により適宜コーティングすることはもちろん差し支えない。
また、本発明に係る歯ぎしりおよび歯ぎしりに関連する疾患の予防剤または治療剤の投与形態として、プロトンポンプ阻害剤およびヒスタミンH受容体拮抗剤を組み合わせて患者に投与することもできる。
プロトンポンプ阻害剤およびヒスタミンH受容体拮抗剤を組み合わせた場合の投与形態は、特に限定されず、投与時にプロトンポンプ阻害剤およびヒスタミンH受容体拮抗剤が組み合わされていればよい。このような投与形態としては、例えば、1)プロトンポンプ阻害剤とヒスタミンH受容体拮抗剤とを同時に製剤化して得られる製剤の投与、2)プロトンポンプ阻害剤とヒスタミンH受容体拮抗剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同時投与、3)プロトンポンプ阻害剤とヒスタミンH受容体拮抗剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の、歯ぎしりおよび歯ぎしりに関連する疾患の予防または治療に有効な一定期間の間隔をおいての投与(例えば、プロトンポンプ阻害剤、ヒスタミンH受容体拮抗剤の順序での投与、あるいはその逆の順序での投与)などが挙げられる。
プロトンポンプ阻害剤およびヒスタミンH受容体拮抗剤を組み合わせた場合の各薬剤の投与量比率は、患者の年齢、体重、性別、症状の程度、投与形態、疾患の具体的な種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、プロトンポンプ阻害剤とヒスタミンH受容体拮抗剤の投与量比率は、重量比で通常10:1〜1:400、好ましくは2:1〜1:200の範囲内であればよい。
【実施例】
以下に、本発明の有利な効果を示すため、実施例、試験例を示すが、これらは例示的なものであって、本発明はいかなる場合にも、以下の具体例に制限されるものではない。当業者は、以下に示す実施例に記載の条件を適宜変更して本発明を実施することができ、かかる変更は本願特許請求の範囲に包含される。
(試験例1)
歯ぎしり患者における、睡眠中の食道のpHの変化および側頭筋活動の測定
方法
被験者にpH電極のついたカテーテルを、食道下部括約筋の上部より5cm上の食道内に設置して睡眠中のpHを記録し、片側の側頭筋前部の皮膚にディスポーザブルタイプの電極(双極)を貼付して睡眠中の筋活動量を就寝後2.5時間目から40分間記録した。同時にビデオ画像や音声を記録し、睡眠中の歯ぎしりであることを確認した。その結果を図1に示す。なお、図中において、安定状態にある食道内のpHが急激に減少した場合を「低下した食道内pHエピソード」と定義した。
結果
図1に示す結果より、「低下した食道内pHエピソード」に該当する期間において、高頻度でリズミカルな側頭筋活動を伴う顎運動(ブラキシズムエピソード)が認められた。
(試験例2)
歯ぎしり患者における、プラセボ(偽薬)およびプロトンポンプ阻害剤服用時の唾眠中の側頭筋活動の測定
方法
被験者に対して、二重盲検法によりプラセボおよびプロトンポンプ阻害剤(ラベプラゾール・ナトリウム塩(10mg;商品名:パリエット(登録商標):エーザイ株式会社製)を服用させ、試験例1の方法に従い、睡眠中の片側の側頭筋前部の筋活動量を就寝後1時間目から5時間目までの4時間記録した。同時にビデオ画像や音声を記録し、睡眠中の歯ぎしりであることを確認した。その結果を図2(A)に示す。
結果
図2(A)に示す結果より、プロトンポンプ阻害剤を服用すると、プラセボ服用時と比較してリズミカルな側頭筋活動を伴う顎運動(ブラキシズムエピソード)の頻度が大きく減少することが判明した。
また、歯ぎしり患者群(n=8)における、プラセボ投与後およびプロトンポンプ阻害剤投与後それぞれの場合の、1時間あたりのブラキシズムエピソードの頻度および持続時間を図2(B)に示す。なお、有意差検定にはpaired t testを用い、P〈0.05を統計学的に有意差ありとした。
図2(B)より、プロトンポンプ阻害剤を服用すると、有意にブラキシズムエピソードの頻度および持続時間が減少することが明らかとなった。
(試験例3)
歯ぎしり患者における、(1)プラセボ(偽薬)服用時、(2)プロトンポンプ阻害剤服用時、(3)ヒスタミンH受容体拮抗剤服用時ならびに(4)プロトンポンプ阻害剤およびヒスタミンH受容体拮抗剤の併用服用時の、睡眠中のリズミカルな側頭筋活動を伴う顎運動(ブラキシズムエピソード)の頻度の測定
方法
被験者に対して、二重盲検法により、それぞれ(1)プラセボ、(2)プロトンポンプ阻害剤(ラベプラゾール・ナトリウム塩(10mg;商品名:パリエット(登録商標):エーザイ株式会社製)、(3)ヒスタミンH受容体拮抗剤(ファモチジン(10mg;商品名:ガスター(登録商標):山之内製薬株式会社製)ならびに(4)プロトンポンプ阻害剤(ラベプラゾール・ナトリウム塩(10mg))およびヒスタミンH受容体拮抗剤(ファモチジン(10mg))両剤を服用((4)は2剤を同時に服用)させ、試験例1の方法に従い、睡眠中の片側の側頭筋前部の筋活動量を就寝後1時間目から5時間目までの4時間記録した。同時にビデオ画像や音声を記録し、睡眠中の歯ぎしりであることを確認した。
結果
歯ぎしり患者群(n=9)における、(1)プラセボ投与後、(2)プロトンポンプ阻害剤投与後、(3)ヒスタミンH受容体拮抗剤投与後ならびに(4)プロトンポンプ阻害剤およびヒスタミンH受容体拮抗剤の併用投与後それぞれの場合の、1時間あたりのブラキシズムエピソードの頻度を図3に示す。なお、有意差検定にはpaired t testを用い、P〈0.05を統計学的に有意差ありとした。
プロトンポンプ阻害剤およびヒスタミンH受容体拮抗剤の併用投与群が最もブラキシズムエピソードの頻度を減少させ、以下、プロトンポンプ阻害剤投与群、ヒスタミンH受容体拮抗剤投与群の順にブラキシズムエピソードの頻度を減少させた。
また、プロトンポンプ阻害剤およびヒスタミンH受容体拮抗剤の併用投与群ならびにプロトンポンプ阻害剤投与群は、プラセボ投与群に比較して、有意にブラキシズムエピソードの頻度を減少させた。
【産業上の利用可能性】
本発明に係る、プロトンポンプ阻害剤に代表される胃酸分泌抑制剤は、歯ぎしりを誘発する原因となる胃酸の食道内逆流を抑制する作用を有し、歯ぎしりおよび歯ぎしりに関連する疾患の効果的かつ根本的な予防または治療において極めて有用である。
さらに、本発明により、歯ぎしりおよび歯ぎしりに関連する疾患の治療にかかる費用(特にスプリント療法にかかる費用)の大幅な削減にもつながる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
胃酸分泌抑制剤を有効成分とする歯ぎしりの予防剤または治療剤。
【請求項2】
プロトンポンプ阻害剤、ヒスタミンH受容体拮抗剤またはアシッドポンプ拮抗剤から選ばれる少なくとも1種を有効成分とする歯ぎしりの予防剤または治療剤。
【請求項3】
プロトンポンプ阻害剤およびヒスタミンH受容体拮抗剤を有効成分とする歯ぎしりの予防剤または治療剤。
【請求項4】
プロトンポンプ阻害剤を有効成分とする歯ぎしりの予防剤または治療剤。
【請求項5】
プロトンポンプ阻害剤がラベプラゾール、オメプラゾール、エソメプラゾール、ランソプラゾール、パントプラゾールもしくはテナトプラゾールまたはそれらの塩あるいはそれらの水和物である請求項2〜4いずれか1項記載の予防剤または治療剤。
【請求項6】
プロトンポンプ阻害剤がラベプラゾールまたはその塩である請求項2〜4いずれか1項記載の予防剤または治療剤。
【請求項7】
プロトンポンプ阻害剤がラベプラゾールのナトリウム塩である請求項2〜4いずれか1項記載の予防剤または治療剤。
【請求項8】
ヒスタミンH受容体拮抗剤がシメチジン、ラニチジン、ファモチジン、ロキサチジン、ニザチジンもしくはラフチジンまたはそれらの塩である請求項2または3記載の予防剤または治療剤。
【請求項9】
胃酸分泌抑制剤を有効成分とする歯ぎしりに関連する疾患の予防剤または治療剤。
【請求項10】
プロトンポンプ阻害剤、ヒスタミンH受容体拮抗剤またはアシッドポンプ拮抗剤から選ばれる少なくとも1種を有効成分とする歯ぎしりに関連する疾患の予防剤または治療剤。
【請求項11】
プロトンポンプ阻害剤およびヒスタミンH受容体拮抗剤を有効成分とする歯ぎしりに関連する疾患の予防剤または治療剤。
【請求項12】
プロトンポンプ阻害剤を有効成分とする歯ぎしりに関連する疾患の予防剤または治療剤。
【請求項13】
プロトンポンプ阻害剤がラベプラゾール、オメプラゾール、エソメプラゾール、ランソプラゾール、パントプラゾールもしくはテナトプラゾールまたはそれらの塩あるいはそれらの水和物である請求項10〜12いずれか1項記載の予防剤または治療剤。
【請求項14】
プロトンポンプ阻害剤がラベプラゾールまたはその塩である請求項10〜12いずれか1項記載の予防剤または治療剤。
【請求項15】
プロトンポンプ阻害剤がラベプラゾールのナトリウム塩である請求項10〜12いずれか1項記載の予防剤または治療剤。
【請求項16】
ヒスタミンH受容体拮抗剤がシメチジン、ラニチジン、ファモチジン、ロキサチジン、ニザチジンもしくはラフチジンまたはそれらの塩である請求項10または11記載の予防剤または治療剤。
【請求項17】
前記歯ぎしりに関連する疾患が顎関節症、歯の知覚過敏症、咬合性外傷、歯の咬耗、歯の楔状欠損、歯肉退縮、歯の破折、歯の動揺、歯根吸収、歯槽骨吸収、咬筋肥大、咀嚼筋痛、歯冠修復物の破折、歯冠修復物の脱落または頭痛である請求項9〜16いずれか1項記載の予防剤または治療剤。
【請求項18】
前記歯ぎしりに関連する疾患が顎関節症である請求項9〜16いずれか1項記載の予防剤または治療剤。
【請求項19】
胃酸分泌抑制剤を有効量投与する、歯ぎしりの予防方法または治療方法。
【請求項20】
胃酸分泌抑制剤を有効量投与する、歯ぎしりに関連する疾患の予防方法または治療方法。
【請求項21】
胃酸分泌抑制剤を有効量投与する、顎関節症の予防方法または治療方法。
【請求項22】
歯ぎしりの予防剤または治療剤の製造のための、胃酸分泌抑制剤の使用。
【請求項23】
歯ぎしりに関連する疾患の予防剤または治療剤の製造のための、胃酸分泌抑制剤の使用。
【請求項24】
顎関節症の予防剤または治療剤の製造のための、胃酸分泌抑制剤の使用。

【国際公開番号】WO2004/080487
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【発行日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503460(P2005−503460)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000939
【国際出願日】平成16年1月30日(2004.1.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2003年11月27日国際・米国歯科研究学会において「胃酸分泌抑制剤がリズミカルな咀嚼筋活動に及ぼす影響」の要約がウェブサイトにおいて公開
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【出願人】(502311284)
【出願人】(502311309)
【Fターム(参考)】