歯ブラシ
【課題】刷毛を歯間部や歯頸部等の狭い間隙部分に到達させ易く、且つ使用時の接触感がソフトな歯ブラシを提供する。
【解決手段】植毛台1に複数の毛束が植設された歯ブラシにおいて、少なくとも一部の毛束が、植設面から起立した中心毛束aと、該中心毛束aを囲むように植設され離反した位置から中心毛束上部に接触する位置まで傾斜して延びる複数の周囲毛束bとにより複合毛束群を構成しており、中心毛束aの先端が、周囲毛束bの先端より突出していることを特徴とする歯ブラシ。
【解決手段】植毛台1に複数の毛束が植設された歯ブラシにおいて、少なくとも一部の毛束が、植設面から起立した中心毛束aと、該中心毛束aを囲むように植設され離反した位置から中心毛束上部に接触する位置まで傾斜して延びる複数の周囲毛束bとにより複合毛束群を構成しており、中心毛束aの先端が、周囲毛束bの先端より突出していることを特徴とする歯ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯ブラシに関し、より詳しくは、植毛台に植設された毛束の配置により口腔内の清掃性を高めた歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
ブラッシングによる歯の清掃を効果的に行なうには、刷毛を歯間部や歯頸部等の狭い間隙部分に到達させてプラークを掻き出すこと、及びそのときに歯肉等を傷つけないことが重要である。したがって、そのようなブラッシングを可能にすることを目的として、毛束の種々の配置形態が提案されている。
【0003】
一般的な歯ブラシにおける毛束の配置は、ハンドルの植毛台における植設面にほぼ垂直に複数の毛束を植設したものである。この配置形態は、毛先部を歯面に均一に接触するさせやすいので、口腔内での接触感がソフトである反面、歯間部や歯頸部等の狭い隙間部分に毛束を到達させるのが困難である。かといって、毛束を構成する刷毛の剛性を高くすると、隙間部分への進入は或る程度可能となるが、刷毛の硬さが口腔内での接触感を悪化させ、場合によっては歯肉等を傷つけるという難点があった。
【0004】
これに対処すべく、複数の毛束を上端で相互に接触させるように傾斜させた配置形態が提案されている。例えば、特許文献1に記載された歯ブラシでは、隣り合う長方形の植毛穴を植毛面に対して互いに内側に傾斜させることにより、植設された毛束を先端で接触させて毛腰を強くし、歯間の清掃性の向上を図っている。また、特許文献2に記載された歯ブラシは、隣り合う三つの毛束を中心部に向かって傾斜させ毛先を寄せ合わせて三角錐状山形に形成した配置形態を有し、これにより、毛腰を強くし歯間部への進入の容易化を図っている。
【0005】
しかしながら、このような毛束の傾斜配置を伴った歯ブラシは、傾斜した複数の毛束が毛先を寄せ合うことにより、全体として毛腰が強くなる結果、隙間部分への進入が或る程度容易となるが、複数の毛束が寄り合った毛先の集合体は、その径が大きくなり、隙間部分への進入性が十分とは言えない。また、毛腰の強さは、口腔内への接触感を固くし、良好な使用感が得られなかった。
【0006】
これに対し、特許文献3に記載された歯ブラシでは、2つの毛束を傾斜させて毛先を寄せ合わせ、その毛先の集合体を、先端が先細となるように山切りカットしている。これにより、歯間進入性と使用時の接触感の双方を向上させることが意図されている。しかしながら、この毛束配置では、毛先先端の山切りカットの稜線が単一の方向に延び、毛束が異方性を持つことになるので、限られたブラッシング方向にしか先細の先端が作用せず、隙間部分への十分な進入性が得られない。また、毛先先端が山型にカットされるので、毛先部分の毛量が少なく、隙間部分(特に歯頸部)の清掃性が十分に得られない。
【特許文献1】特開2000−201739号公報
【特許文献2】特開平8−164025号公報
【特許文献3】特開2004−129683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、刷毛を歯間部や歯頸部等の狭い間隙部分に到達させてプラークを掻き出すことができ、接触感がソフトで歯肉等を傷つけ難い歯ブラシを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記目的を達成するため、植毛台に複数の毛束が植設された歯ブラシにおいて、少なくとも一部の毛束が、植設面から起立した中心毛束と、該中心毛束を囲むように植設され離反した位置から中心毛束上部に接触する位置まで傾斜して延びる複数の周囲毛束とにより、複合毛束群を構成しており、前記中心毛束の先端が、前記周囲毛束の先端より突出していることを特徴とする歯ブラシを提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る歯ブラシは、植毛台に植設された複数の毛束の内、少なくとも一部の毛束が、植設面から起立した中心毛束と、該中心毛束を囲むように植設され離反した位置から中心毛束上部に接触する位置まで傾斜して延びる複数の周囲毛束とにより複合毛束群を構成しており、前記中心毛束の先端が、前記周囲毛束の先端より突出している。したがって、使用時には、突出した中心毛束が隙間部分に進入し易く、且つ、進入の際に受ける反力に対しては、周囲毛束が中心毛束を回りから支持するので、倒伏が防止され確実な進入が可能となる。また、中心毛束を囲む周囲毛束は、中心毛束に対して離反した位置から中心毛束上部に接触する位置まで傾斜して延びているので、植設面から該接触位置までは、中心毛束と周囲毛束との間に空隙が形成されている。したがって、中心毛束に対して、毛束に沿う方向に作用する力が強すぎる場合は、中心毛束又はこれを構成するフィラメントが、周囲毛束との間の空隙内で撓むことができる。その結果、口腔内で毛束が強く押し付けられた場合は、中心毛束が撓んでその先端を周囲毛束の先端側へ後退させることとなり、鋭い接触感が緩和される。これにより、隙間部分への毛束の良好な進入を可能にしながら、口腔内でのソフトな接触感が得られる。また、このような中心毛束の撓みによる後退時にも、周囲毛束の先端により各毛束の傾斜方向に応じた歯間部や歯頸部等の清掃効果が得られる。さらに、周囲毛束は、中心毛束上部に接触する位置まで傾斜していることにより、中心毛束との間及び周囲毛束相互間で支持作用をなす。その結果、ブラッシング時の倒伏が防止され、高い耐久性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。図面中の同一又は同種の部分については、同じ番号を付して説明を省略することがある。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る歯ブラシの植毛部を拡大して示しており、(i)は平面図、(ii)は正面図である。この歯ブラシは、ハンドルの植毛台1に多数の毛束が植設されている。これらの毛束中、図1(i)にa1〜a8で示したものが中心毛束であり、各中心毛束を中心とした一点鎖線で示す円上に位置するのが周囲毛束である。図では、各毛束を植毛台の上面(植設面)に沿って切断した断面で示している。中心毛束a1を囲む周囲毛束は、b11,b12,b13で示されており、中心毛束a2を囲む周囲毛束は、b21,b22,b23で示している。中心毛束a3,a4についても同様にbを先頭に有する符号で周囲毛束を示している。なお、中心毛束a5〜a8については、周囲毛束の符号を省略している。毛束c1〜c5は、通常の毛束である。図1(ii)にも、中心毛束a1〜a4、それらの周囲毛束b11〜b43、及び毛束c1,c2が示されている。
【0012】
なお、本実施形態及び以下の実施形態において、中心毛束、周囲毛束、通常の毛束は、平面図において各々黒、白、ハッチング付きの円で示す。また、複数のものを個別に区別しないときは、中心毛束a、周囲毛束b、通常の毛束cと称する。
【0013】
この実施形態における代表例として、中心毛束a2とその周囲毛束を取り上げて説明する。中心毛束a2は、植毛面に対して垂直方向に起立し、その回りを周囲毛束b21,b22,b23が3方から囲んでいる。周囲毛束b21,b22,b23は、中心毛束a2に対し、植設面において離反した位置から中心毛束上部に接触する位置まで傾斜して延びており、中心毛束a2と共に、複合毛束群を構成している。そして、中心毛束a2は、先端が周囲毛束b21,b22,b23の先端より上方へ突出している。
【0014】
周囲毛束による中心毛束の支持を、等方的に且つ均一に行なうためには、植設面における中心毛束から各周囲毛束までの距離を等しくし、周囲毛束を等間隔に位置させるのが望ましい。しかしながら、植設面上に多数の毛束を配置する都合上、これらの距離や間隔は必ずしも等しくする必要はない。但し、植設面において中心毛束の中心を通る任意の直線に対して、その両側にいずれかの周囲毛束の中心が位置するように、周囲毛束を配置するのが望ましい。これにより、周囲毛束による中心毛束の支持の偏りを制限し、該支持による効果を確実にすることができる。
【0015】
中心毛束は、植設面からの高さを5〜15mmとするのが、使いやすさ及び清掃性の点から望ましい。そして、中心毛束が周囲毛束の先端より突出する量は、0.5〜5mmとするのが望ましい。これにより、突出した中心毛束が隙間部分に進入し易く、且つ、進入の際に受ける反力に対しては、周囲毛束が中心毛束を回りから支持するので、倒伏が防止され確実な進入が可能となるという効果が得られる。突出量がこの下限より小さいと、歯間等の隙間部分への進入性が十分に得られない。また、突出量が、この上限を超えると、周囲毛束による中心毛束の支持が不安定になり、やはり歯間等の隙間部分への進入性が十分に得られず、また、中心毛束が損耗し易くなり耐久性が低下する。
【0016】
植設面における周囲毛束の植毛穴と中心毛束の植毛穴との縁部間の離反距離は、0.5〜5mmとするのが望ましい。このように、周囲毛束が、中心毛束に対して離反した位置から中心毛束上部に接触する位置まで傾斜して延びていることにより、中心毛束と周囲毛束との間に空隙が形成され、中心毛束又はこれを構成するフィラメントが、この空隙内で撓むことができる。その結果、口腔内で毛束が強く押し付けられた場合は、中心毛束が撓んで鋭い接触感が緩和され、隙間部分への毛束の良好な進入を可能にしながら、口腔内でのソフトな接触感が得られる。さらに、周囲毛束は、この傾斜により、中心毛束との間及び周囲毛束相互間で支持作用をなす結果、ブラッシング時の倒伏が防止され、高い耐久性が得られる。離反距離が上記下限より小さいと、中心毛束と周囲毛束との間に空隙が小さくなり、中心毛束の撓みのフレキシビリティが低下しソフトな感触を得難くなると共に、中心毛束の支持力が不十分となり、歯間等の隙間部分への進入性が十分に得られない。一方、離反距離が、この上限を超えると、植毛台上に設ける毛束の密度が低くなり、十分な清掃性が得られず、また、周囲毛束から中心毛束までの距離が長くなりすぎ、適切な支持作用が得られなくなる。
【0017】
この実施形態のように、複数の中心毛束aは、植毛台上での軸方向の並びをジグザグ状に配置されるのが望ましい。これにより、隣り合う中心毛束aの周囲毛束bを、相互に干渉することなく接近して配置することができ、毛束の配置密度を高くすることができる。例えば、隣り合う中心毛束a2とa3について見れば、各々の周囲毛束b21,b22とb31,b33とは、相互に干渉することなく接近して配置されている。
【0018】
各毛束は、通常の歯ブラシに使用される種々のフィラメントを束ねて構成することができ、フィラメントの材質は、ナイロン、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)等、特に制限なく用いることができる。また、フィラメントの材形は、円形断面、角形や星形などの異形断面、芯鞘型等の複合繊維等、種々採用することができる。或いは、中心毛束及び周囲毛束における少なくとも1つの毛束を、エラストマー等の軟質材のモノフィラメントとすることもできる。
【0019】
毛束を植毛台に植設するには、フィラメントを折り曲げてその間に平線を挟み、これらを植毛台に設けられた植設穴に緊く挿入するというようにして行なうことができる。或いは、多数の貫通孔を穿設した支持板に毛束を通し、その各基端部を溶融して径を大きくし、この基端部を成形型のキャビティ内に置き、樹脂を流し込んで成形する溶融法によって行なうこともできる(例えば、特開2003−102552に記載の方法)。
【0020】
この実施形態に係る歯ブラシによると、使用時には、複合毛束群における突出した中心毛束aが隙間部分に進入し易く、進入の際に受ける反力に対しては、周囲毛束bが中心毛束aを回りから支持するので、倒伏が防止され確実な進入が可能となる。また、中心毛束aと周囲毛束bとの間には、植設面から該接触位置までの範囲に、空隙s(図1(ii))が形成されている。したがって、中心毛束aに対して、毛束に沿う方向に作用する力が強すぎる場合は、中心毛束又はこれを構成するフィラメントが、周囲毛束bとの間の空隙内で撓むことができ、鋭い接触感が緩和される。これらにより、隙間部分への毛束の良好な進入性、及び口腔内でのソフトな接触感が得られる。さらに、周囲毛束bは、その傾斜により、中心毛束aとの間及び周囲毛束b相互間で支持作用をなす結果、ブラッシング時の倒伏が防止され、高い耐久性が得られる。なお、口腔内での歯ブラシの操作性を良くするために、植毛台の厚さは、3.8mm以下とするのが望ましい。
【0021】
図2〜図6は、複合毛束群の種々の例を示している。各図において、中心毛束はa、周囲毛束はb、植毛台は1で示している。図2の例では、1つの中心毛束aを4つの周囲毛束bにより支持している。この例では、最も植毛台先端側に位置する複合毛束群は、植毛台の形状に合わせて、1つの中心毛束aを4つの周囲毛束bにより支持している。図3及び図4の例では、1つの中心毛束aを、各々6つ及び8つの周囲毛束bで支持している。これらの例では、中心毛束aと周囲毛束bとは同じ径とされているが、図5及び図6の例では、異なる径となっている。
【0022】
すなわち、図5の例では、径の小さい1つの中心毛束aを径の大きい3つの周囲毛束bで支持している。また、図6の例では、径の大きい1つの中心毛束aを径の小さい3つの周囲毛束bで支持している。図6の例のように、中心毛束aの径を大きくすることによって、周囲毛束bより毛束の剛性を高く(毛腰を強く)することができる。したがって、歯間等の隙間部分への進入性が高く、且つしっかりとした充実した接触感が得られる。一方、図5の例のように、中心毛束aの径を小さくすることによって、周囲毛束bより毛束の剛性を低く(毛腰を弱く)することができ、口腔内での接触感がよりソフトとなる。
【0023】
これらの毛束を構成するフィラメントとしては、通常の歯ブラシに使用される種々の材質のものを、単一で又は混合して用いることができる。したがって、図5,図6のように毛束の径を異ならせる他、毛束を構成するフィラメントの材質、径等を異ならせることにより、毛束の剛性を調整することも可能である。
【0024】
周囲毛束bの各々は、図1(ii)の右側の毛束に示すように、中心毛束aに接する側の側面と先端面とのなす角θが鋭角となるように、該先端面が傾斜しているのが望ましい。これにより、中心毛束aの支持を確保しながらその周囲が開放されるので、隙間部分への進入性がより向上する。このためには、前記各θは15〜75度とするのが望ましく、この例では45度となっている。上記下限を下回ると、周囲毛束の先端部が薄くなり中心毛束の支持が不十分になる。また、上記上限を超えると、中心毛束の周囲が十分に開放されず隙間部分への良好な進入性が得難くなる。
【0025】
なお、周囲毛束の先端部は、上記の傾斜面とする他、半球状等の丸形、軸線に垂直な平面形等、種々の形態とすることができ、上記の傾斜面とは逆に、図7に示すように、周囲毛束は、中心毛束aから遠い側の側面と先端面とのなす角θ’が鋭角となるように、該先端が傾斜面となったものとすることもできる。この場合は、複合毛束群が歯に強く押し付けられた際に、周囲毛束先端の傾斜面と歯面との接触により、その傾斜面に垂直に作用する分力にしたがって、周囲毛束先端が中心毛束の上部から離反し、これに伴って中心毛束は隙間部分の奥まで進入することができるという利点が得られる。このためには、前記各θ’は15〜75度とするのが望ましく、この例では45度となっている。上記下限を下回ると、周囲毛束の先端部が薄くなり中心毛束の支持が不十分になる。また、上記上限を超えると、歯への押し付け時に中心毛束からの離反が十分に行なわれない。また、この傾斜面により、周囲毛束における中心毛束から遠い側に鋭角のエッジ部が形成されるので、該エッジ部による清掃効果が得られ、中心毛束により歯の隙間部分から掻き出されたプラークの除去効果を高めることもできる。
【0026】
図1に示した複合毛束群を上方から見た状態で示すと、図8(i)のようになる。すなわち、周囲毛束bは、植設面への植設位置Dbから中心毛束への接触位置Ubまで、中心毛束aを中心として放射方向(図に一点鎖線で示す)に延びている。この他、複合毛束群の構成形態としては、図8(ii)に示すように、周囲毛束bは、植設位置Dbと中心毛束aとの各中心を結ぶ直線(図に一点鎖線で示す)に対してずれた方向に延びて接触位置Ubに達するようにすることもできる。後者の場合は、周囲毛束bがスパイラル状に延びた状態となり、中心毛束aに対する支持力が前者より少し弱まり、中心毛束への接触感がよりソフトになる。
【0027】
本発明は、上記実施形態に限定されるものでなく、種々の変形が可能である。例えば、図9に示すように、1つの複合毛束群の中で、周囲毛束の高さを変えることもできる。図9(i)は、中心毛束aを中心として放射方向に延びる周囲毛束が、図中のb1,b2,b3の順で低くなっている例を示している。図9(ii)は、中心毛束aの周りにスパイラル状に延びた周囲毛束が、図中のb1’,b2’,b3’の順で低くなっている例を示している。図9(i),(ii)共、仮想円で囲んだ1つの複合毛束群について、各々の中央に平面図を示し、その周りに配置された図は、配置方向から中央の毛束を見た状態を植毛台1の一部と共に示している。このように、周囲毛束の高さを変えた場合は、高く延びる周囲毛束ほど、中心毛束の支持及び倒伏防止作用が強くなる。したがって、植毛台における外周寄りの部分の周囲毛束をより高くすることによって、外側への毛束の倒伏をより効果的に抑制し、繰り返し使用による刷毛の広がりを防止することができ、高い耐久性が得られる。或いは、植毛形態に応じて、複合毛束群毎に周囲毛束の高さ配置を調整することにより、使用時に倒伏し易い毛束に対する効果的な倒伏防止効果を得ることができる。また、高さの異なる周囲毛束の配置を植毛台全体に亘って均等的にすることにより、様々なブラッシング方向に対して倒伏防止作用を得ることもできる。
【0028】
図10の(a)〜(j)は、植毛台における植毛穴の形状及び配置の例を示す平面図である。中心毛束、周囲毛束、通常の毛束ための植毛穴は、図において各々黒、白、ハッチング付きの図形(矩形、三角形、円、星形)で示し、1つの複合毛束群を構成する植毛穴を仮想円で示している。図では、1つの中心毛束に対して周囲毛束の数が3,5,6となる複合毛束群のための植毛穴を示しているが、この他の数の植毛穴及び中心毛束を設けることも可能である。特に、周囲毛束の数を3とする場合は、図10の(a),(b),(c),(d),(e),(h),(i)に示すように、植毛穴を植毛台の長手方向に延びる4列と幅方向に延びる複数列による格子状に配置し、植毛台幅方向において中央寄りに位置する2つの中央穴と、外縁寄りに位置する2つの外寄り穴とで中心毛束用穴を構成し、これら中央穴及び外寄り穴を植毛台長手方向に交互に配置すれば、格子状配置の他の植毛穴を周囲毛束用穴とすることにより、1つの中心毛束に3つの周囲毛束を配した構成を整然とした植毛穴の配置で実現することができる。 また、中心毛束aの先端部は、図11及び図12に示すように、種々の形状とすることも可能である。なお、図11の(a)〜(f)及び図12の(g)〜(j)の各々は、上側に正面図、下側に平面図を示す。図11の(a),(b)のように端面に丸みを持たせることにより、口腔内での接触時の違和感をやわらげることができる。図11の(c),(d),(e)のように、先端部の中央を細くしたり、(f)のように、先端部の対向する2つの側部を細くすることにより、隙間部分への進入性をさらに高めることができる。また、図12の(g),(h)のように、先細の頂点を偏心して位置にさせてもよい。図12の(i)のように、軸線方向に延びる多数の細片を先端部に形成することにより細部への進入性を特に向上させることができる。或いは、図12の(j)のように、先端部の径を大きくすることにより、接触感を和らげることができるので、歯肉が過敏な場合に好適である。
【0029】
次に、本発明の実施例に基づいた試験について説明する。本発明の実施例及び従来タイプの比較例として、表1に示す仕様の歯ブラシを使用して試験を行なった。
【0030】
【表1】
(1) 試験1
顎模型を使用し、上顎の第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯に粉末状の疑似プラークを塗布し、以下の条件でブラッシングを行なった。
【0031】
ブラッシング圧:250g
ストローク:10mm
スピード:120rpm
ブラッシング時間:10秒/歯
歯ブラシの当て方:植毛台を歯面に平行にして毛先を当てる
疑似プラークの除去率は、以下のようにして求めた。
【0032】
第一大臼歯の表側の歯面全体を歯面部とし、その歯面部を縦の区分け線で10等分し、区分けされた両端部を歯間部とし、歯面部及び歯間部での疑似プラークの除去面積を画像解析で算出する。
【0033】
歯間部の除去率(%)=(歯間部の面積−歯間部の付き残り面積)/歯間部の面積×100
歯面部の除去率(%)=(歯面部の面積−歯面部の付き残り面積)/歯面部の面積×100
得られた結果をグラフにし、図13に示す。このグラフから明らかなように、実施例1及び2では、比較例1〜3に対し、歯面部及び歯間部の双方で除去率が高く、特に、歯間部においてその差が顕著である。すなわち、この試験結果は、本発明が、歯間部の清掃性が特に優れていることが示されている。
(2) 試験2
12人のモニターが、実施例1〜3及び比較例1〜3の各歯ブラシを順次使用し、歯茎への接触感についての評価をした。評価は、「ソフトな感触がする」を3点、「ソフトな感触がしない」を1点、「どちらとも言えない」を2点とし、12人の平均値を算出した。その結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
(3) 試験3
12人のモニターが、実施例1〜3及び比較例1〜3の各歯ブラシを順次使用し、歯間部へ毛束又はフィラメントが進入している使用実感の有無についての評価をした。評価は、「実感がある」を3点、「実感がない」を1点、「どちらとも言えない」を2点とし、12人の平均値を算出した。その結果を表3に示す。
【0035】
【表3】
試験2及び3は、本発明の実施例が、歯茎への接触感及び歯間部への進入実感の双方において、比較例より優れていることを示している。これにより、本発明が、口腔内での接触感と隙間部分への進入性との双方において優れていることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態に係る歯ブラシの植毛部を拡大して示しており、(i)は平面図、(ii)は正面図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る歯ブラシの植毛部を拡大して示しており、(i)は平面図、(ii)は正面図である。
【図3】本発明のさらに他の実施形態に係る歯ブラシの植毛部を拡大して示しており、(i)は平面図、(ii)は正面図である。
【図4】本発明のさらに他の実施形態に係る歯ブラシの植毛部を拡大して示しており、(i)は平面図、(ii)は正面図である。
【図5】本発明のさらに他の実施形態に係る歯ブラシの植毛部を拡大して示しており、(i)は平面図、(ii)は正面図である。
【図6】本発明のさらに他の実施形態に係る歯ブラシの植毛部を拡大して示しており、(i)は平面図、(ii)は正面図である。
【図7】本発明のさらに他の実施形態を示すもので、歯ブラシの植毛部の一部を拡大して示す正面図である。
【図8】図1に示した歯ブラシにおける複合毛束群及び他の実施形態における複合毛束群を拡大して示す平面図である。
【図9】本発明のさらに他の実施形態に係る歯ブラシにおける複合毛束群を拡大して示す平面図である。
【図10】本発明に係る歯ブラシに適用可能な植毛穴の形状及び配置の例を示す平面図である。
【図11】本発明の歯ブラシにおける中心毛束に適用し得る種々の先端形状を拡大して示す図である。
【図12】本発明の歯ブラシにおける中心毛束に適用し得る種々の先端形状を拡大して示す図である。
【図13】本発明の実施例及び比較例による試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0037】
1:植毛台
a,a1〜a8:中心毛束
b,b11〜b43:周囲毛束
s:空隙
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯ブラシに関し、より詳しくは、植毛台に植設された毛束の配置により口腔内の清掃性を高めた歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
ブラッシングによる歯の清掃を効果的に行なうには、刷毛を歯間部や歯頸部等の狭い間隙部分に到達させてプラークを掻き出すこと、及びそのときに歯肉等を傷つけないことが重要である。したがって、そのようなブラッシングを可能にすることを目的として、毛束の種々の配置形態が提案されている。
【0003】
一般的な歯ブラシにおける毛束の配置は、ハンドルの植毛台における植設面にほぼ垂直に複数の毛束を植設したものである。この配置形態は、毛先部を歯面に均一に接触するさせやすいので、口腔内での接触感がソフトである反面、歯間部や歯頸部等の狭い隙間部分に毛束を到達させるのが困難である。かといって、毛束を構成する刷毛の剛性を高くすると、隙間部分への進入は或る程度可能となるが、刷毛の硬さが口腔内での接触感を悪化させ、場合によっては歯肉等を傷つけるという難点があった。
【0004】
これに対処すべく、複数の毛束を上端で相互に接触させるように傾斜させた配置形態が提案されている。例えば、特許文献1に記載された歯ブラシでは、隣り合う長方形の植毛穴を植毛面に対して互いに内側に傾斜させることにより、植設された毛束を先端で接触させて毛腰を強くし、歯間の清掃性の向上を図っている。また、特許文献2に記載された歯ブラシは、隣り合う三つの毛束を中心部に向かって傾斜させ毛先を寄せ合わせて三角錐状山形に形成した配置形態を有し、これにより、毛腰を強くし歯間部への進入の容易化を図っている。
【0005】
しかしながら、このような毛束の傾斜配置を伴った歯ブラシは、傾斜した複数の毛束が毛先を寄せ合うことにより、全体として毛腰が強くなる結果、隙間部分への進入が或る程度容易となるが、複数の毛束が寄り合った毛先の集合体は、その径が大きくなり、隙間部分への進入性が十分とは言えない。また、毛腰の強さは、口腔内への接触感を固くし、良好な使用感が得られなかった。
【0006】
これに対し、特許文献3に記載された歯ブラシでは、2つの毛束を傾斜させて毛先を寄せ合わせ、その毛先の集合体を、先端が先細となるように山切りカットしている。これにより、歯間進入性と使用時の接触感の双方を向上させることが意図されている。しかしながら、この毛束配置では、毛先先端の山切りカットの稜線が単一の方向に延び、毛束が異方性を持つことになるので、限られたブラッシング方向にしか先細の先端が作用せず、隙間部分への十分な進入性が得られない。また、毛先先端が山型にカットされるので、毛先部分の毛量が少なく、隙間部分(特に歯頸部)の清掃性が十分に得られない。
【特許文献1】特開2000−201739号公報
【特許文献2】特開平8−164025号公報
【特許文献3】特開2004−129683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、刷毛を歯間部や歯頸部等の狭い間隙部分に到達させてプラークを掻き出すことができ、接触感がソフトで歯肉等を傷つけ難い歯ブラシを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記目的を達成するため、植毛台に複数の毛束が植設された歯ブラシにおいて、少なくとも一部の毛束が、植設面から起立した中心毛束と、該中心毛束を囲むように植設され離反した位置から中心毛束上部に接触する位置まで傾斜して延びる複数の周囲毛束とにより、複合毛束群を構成しており、前記中心毛束の先端が、前記周囲毛束の先端より突出していることを特徴とする歯ブラシを提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る歯ブラシは、植毛台に植設された複数の毛束の内、少なくとも一部の毛束が、植設面から起立した中心毛束と、該中心毛束を囲むように植設され離反した位置から中心毛束上部に接触する位置まで傾斜して延びる複数の周囲毛束とにより複合毛束群を構成しており、前記中心毛束の先端が、前記周囲毛束の先端より突出している。したがって、使用時には、突出した中心毛束が隙間部分に進入し易く、且つ、進入の際に受ける反力に対しては、周囲毛束が中心毛束を回りから支持するので、倒伏が防止され確実な進入が可能となる。また、中心毛束を囲む周囲毛束は、中心毛束に対して離反した位置から中心毛束上部に接触する位置まで傾斜して延びているので、植設面から該接触位置までは、中心毛束と周囲毛束との間に空隙が形成されている。したがって、中心毛束に対して、毛束に沿う方向に作用する力が強すぎる場合は、中心毛束又はこれを構成するフィラメントが、周囲毛束との間の空隙内で撓むことができる。その結果、口腔内で毛束が強く押し付けられた場合は、中心毛束が撓んでその先端を周囲毛束の先端側へ後退させることとなり、鋭い接触感が緩和される。これにより、隙間部分への毛束の良好な進入を可能にしながら、口腔内でのソフトな接触感が得られる。また、このような中心毛束の撓みによる後退時にも、周囲毛束の先端により各毛束の傾斜方向に応じた歯間部や歯頸部等の清掃効果が得られる。さらに、周囲毛束は、中心毛束上部に接触する位置まで傾斜していることにより、中心毛束との間及び周囲毛束相互間で支持作用をなす。その結果、ブラッシング時の倒伏が防止され、高い耐久性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。図面中の同一又は同種の部分については、同じ番号を付して説明を省略することがある。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る歯ブラシの植毛部を拡大して示しており、(i)は平面図、(ii)は正面図である。この歯ブラシは、ハンドルの植毛台1に多数の毛束が植設されている。これらの毛束中、図1(i)にa1〜a8で示したものが中心毛束であり、各中心毛束を中心とした一点鎖線で示す円上に位置するのが周囲毛束である。図では、各毛束を植毛台の上面(植設面)に沿って切断した断面で示している。中心毛束a1を囲む周囲毛束は、b11,b12,b13で示されており、中心毛束a2を囲む周囲毛束は、b21,b22,b23で示している。中心毛束a3,a4についても同様にbを先頭に有する符号で周囲毛束を示している。なお、中心毛束a5〜a8については、周囲毛束の符号を省略している。毛束c1〜c5は、通常の毛束である。図1(ii)にも、中心毛束a1〜a4、それらの周囲毛束b11〜b43、及び毛束c1,c2が示されている。
【0012】
なお、本実施形態及び以下の実施形態において、中心毛束、周囲毛束、通常の毛束は、平面図において各々黒、白、ハッチング付きの円で示す。また、複数のものを個別に区別しないときは、中心毛束a、周囲毛束b、通常の毛束cと称する。
【0013】
この実施形態における代表例として、中心毛束a2とその周囲毛束を取り上げて説明する。中心毛束a2は、植毛面に対して垂直方向に起立し、その回りを周囲毛束b21,b22,b23が3方から囲んでいる。周囲毛束b21,b22,b23は、中心毛束a2に対し、植設面において離反した位置から中心毛束上部に接触する位置まで傾斜して延びており、中心毛束a2と共に、複合毛束群を構成している。そして、中心毛束a2は、先端が周囲毛束b21,b22,b23の先端より上方へ突出している。
【0014】
周囲毛束による中心毛束の支持を、等方的に且つ均一に行なうためには、植設面における中心毛束から各周囲毛束までの距離を等しくし、周囲毛束を等間隔に位置させるのが望ましい。しかしながら、植設面上に多数の毛束を配置する都合上、これらの距離や間隔は必ずしも等しくする必要はない。但し、植設面において中心毛束の中心を通る任意の直線に対して、その両側にいずれかの周囲毛束の中心が位置するように、周囲毛束を配置するのが望ましい。これにより、周囲毛束による中心毛束の支持の偏りを制限し、該支持による効果を確実にすることができる。
【0015】
中心毛束は、植設面からの高さを5〜15mmとするのが、使いやすさ及び清掃性の点から望ましい。そして、中心毛束が周囲毛束の先端より突出する量は、0.5〜5mmとするのが望ましい。これにより、突出した中心毛束が隙間部分に進入し易く、且つ、進入の際に受ける反力に対しては、周囲毛束が中心毛束を回りから支持するので、倒伏が防止され確実な進入が可能となるという効果が得られる。突出量がこの下限より小さいと、歯間等の隙間部分への進入性が十分に得られない。また、突出量が、この上限を超えると、周囲毛束による中心毛束の支持が不安定になり、やはり歯間等の隙間部分への進入性が十分に得られず、また、中心毛束が損耗し易くなり耐久性が低下する。
【0016】
植設面における周囲毛束の植毛穴と中心毛束の植毛穴との縁部間の離反距離は、0.5〜5mmとするのが望ましい。このように、周囲毛束が、中心毛束に対して離反した位置から中心毛束上部に接触する位置まで傾斜して延びていることにより、中心毛束と周囲毛束との間に空隙が形成され、中心毛束又はこれを構成するフィラメントが、この空隙内で撓むことができる。その結果、口腔内で毛束が強く押し付けられた場合は、中心毛束が撓んで鋭い接触感が緩和され、隙間部分への毛束の良好な進入を可能にしながら、口腔内でのソフトな接触感が得られる。さらに、周囲毛束は、この傾斜により、中心毛束との間及び周囲毛束相互間で支持作用をなす結果、ブラッシング時の倒伏が防止され、高い耐久性が得られる。離反距離が上記下限より小さいと、中心毛束と周囲毛束との間に空隙が小さくなり、中心毛束の撓みのフレキシビリティが低下しソフトな感触を得難くなると共に、中心毛束の支持力が不十分となり、歯間等の隙間部分への進入性が十分に得られない。一方、離反距離が、この上限を超えると、植毛台上に設ける毛束の密度が低くなり、十分な清掃性が得られず、また、周囲毛束から中心毛束までの距離が長くなりすぎ、適切な支持作用が得られなくなる。
【0017】
この実施形態のように、複数の中心毛束aは、植毛台上での軸方向の並びをジグザグ状に配置されるのが望ましい。これにより、隣り合う中心毛束aの周囲毛束bを、相互に干渉することなく接近して配置することができ、毛束の配置密度を高くすることができる。例えば、隣り合う中心毛束a2とa3について見れば、各々の周囲毛束b21,b22とb31,b33とは、相互に干渉することなく接近して配置されている。
【0018】
各毛束は、通常の歯ブラシに使用される種々のフィラメントを束ねて構成することができ、フィラメントの材質は、ナイロン、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)等、特に制限なく用いることができる。また、フィラメントの材形は、円形断面、角形や星形などの異形断面、芯鞘型等の複合繊維等、種々採用することができる。或いは、中心毛束及び周囲毛束における少なくとも1つの毛束を、エラストマー等の軟質材のモノフィラメントとすることもできる。
【0019】
毛束を植毛台に植設するには、フィラメントを折り曲げてその間に平線を挟み、これらを植毛台に設けられた植設穴に緊く挿入するというようにして行なうことができる。或いは、多数の貫通孔を穿設した支持板に毛束を通し、その各基端部を溶融して径を大きくし、この基端部を成形型のキャビティ内に置き、樹脂を流し込んで成形する溶融法によって行なうこともできる(例えば、特開2003−102552に記載の方法)。
【0020】
この実施形態に係る歯ブラシによると、使用時には、複合毛束群における突出した中心毛束aが隙間部分に進入し易く、進入の際に受ける反力に対しては、周囲毛束bが中心毛束aを回りから支持するので、倒伏が防止され確実な進入が可能となる。また、中心毛束aと周囲毛束bとの間には、植設面から該接触位置までの範囲に、空隙s(図1(ii))が形成されている。したがって、中心毛束aに対して、毛束に沿う方向に作用する力が強すぎる場合は、中心毛束又はこれを構成するフィラメントが、周囲毛束bとの間の空隙内で撓むことができ、鋭い接触感が緩和される。これらにより、隙間部分への毛束の良好な進入性、及び口腔内でのソフトな接触感が得られる。さらに、周囲毛束bは、その傾斜により、中心毛束aとの間及び周囲毛束b相互間で支持作用をなす結果、ブラッシング時の倒伏が防止され、高い耐久性が得られる。なお、口腔内での歯ブラシの操作性を良くするために、植毛台の厚さは、3.8mm以下とするのが望ましい。
【0021】
図2〜図6は、複合毛束群の種々の例を示している。各図において、中心毛束はa、周囲毛束はb、植毛台は1で示している。図2の例では、1つの中心毛束aを4つの周囲毛束bにより支持している。この例では、最も植毛台先端側に位置する複合毛束群は、植毛台の形状に合わせて、1つの中心毛束aを4つの周囲毛束bにより支持している。図3及び図4の例では、1つの中心毛束aを、各々6つ及び8つの周囲毛束bで支持している。これらの例では、中心毛束aと周囲毛束bとは同じ径とされているが、図5及び図6の例では、異なる径となっている。
【0022】
すなわち、図5の例では、径の小さい1つの中心毛束aを径の大きい3つの周囲毛束bで支持している。また、図6の例では、径の大きい1つの中心毛束aを径の小さい3つの周囲毛束bで支持している。図6の例のように、中心毛束aの径を大きくすることによって、周囲毛束bより毛束の剛性を高く(毛腰を強く)することができる。したがって、歯間等の隙間部分への進入性が高く、且つしっかりとした充実した接触感が得られる。一方、図5の例のように、中心毛束aの径を小さくすることによって、周囲毛束bより毛束の剛性を低く(毛腰を弱く)することができ、口腔内での接触感がよりソフトとなる。
【0023】
これらの毛束を構成するフィラメントとしては、通常の歯ブラシに使用される種々の材質のものを、単一で又は混合して用いることができる。したがって、図5,図6のように毛束の径を異ならせる他、毛束を構成するフィラメントの材質、径等を異ならせることにより、毛束の剛性を調整することも可能である。
【0024】
周囲毛束bの各々は、図1(ii)の右側の毛束に示すように、中心毛束aに接する側の側面と先端面とのなす角θが鋭角となるように、該先端面が傾斜しているのが望ましい。これにより、中心毛束aの支持を確保しながらその周囲が開放されるので、隙間部分への進入性がより向上する。このためには、前記各θは15〜75度とするのが望ましく、この例では45度となっている。上記下限を下回ると、周囲毛束の先端部が薄くなり中心毛束の支持が不十分になる。また、上記上限を超えると、中心毛束の周囲が十分に開放されず隙間部分への良好な進入性が得難くなる。
【0025】
なお、周囲毛束の先端部は、上記の傾斜面とする他、半球状等の丸形、軸線に垂直な平面形等、種々の形態とすることができ、上記の傾斜面とは逆に、図7に示すように、周囲毛束は、中心毛束aから遠い側の側面と先端面とのなす角θ’が鋭角となるように、該先端が傾斜面となったものとすることもできる。この場合は、複合毛束群が歯に強く押し付けられた際に、周囲毛束先端の傾斜面と歯面との接触により、その傾斜面に垂直に作用する分力にしたがって、周囲毛束先端が中心毛束の上部から離反し、これに伴って中心毛束は隙間部分の奥まで進入することができるという利点が得られる。このためには、前記各θ’は15〜75度とするのが望ましく、この例では45度となっている。上記下限を下回ると、周囲毛束の先端部が薄くなり中心毛束の支持が不十分になる。また、上記上限を超えると、歯への押し付け時に中心毛束からの離反が十分に行なわれない。また、この傾斜面により、周囲毛束における中心毛束から遠い側に鋭角のエッジ部が形成されるので、該エッジ部による清掃効果が得られ、中心毛束により歯の隙間部分から掻き出されたプラークの除去効果を高めることもできる。
【0026】
図1に示した複合毛束群を上方から見た状態で示すと、図8(i)のようになる。すなわち、周囲毛束bは、植設面への植設位置Dbから中心毛束への接触位置Ubまで、中心毛束aを中心として放射方向(図に一点鎖線で示す)に延びている。この他、複合毛束群の構成形態としては、図8(ii)に示すように、周囲毛束bは、植設位置Dbと中心毛束aとの各中心を結ぶ直線(図に一点鎖線で示す)に対してずれた方向に延びて接触位置Ubに達するようにすることもできる。後者の場合は、周囲毛束bがスパイラル状に延びた状態となり、中心毛束aに対する支持力が前者より少し弱まり、中心毛束への接触感がよりソフトになる。
【0027】
本発明は、上記実施形態に限定されるものでなく、種々の変形が可能である。例えば、図9に示すように、1つの複合毛束群の中で、周囲毛束の高さを変えることもできる。図9(i)は、中心毛束aを中心として放射方向に延びる周囲毛束が、図中のb1,b2,b3の順で低くなっている例を示している。図9(ii)は、中心毛束aの周りにスパイラル状に延びた周囲毛束が、図中のb1’,b2’,b3’の順で低くなっている例を示している。図9(i),(ii)共、仮想円で囲んだ1つの複合毛束群について、各々の中央に平面図を示し、その周りに配置された図は、配置方向から中央の毛束を見た状態を植毛台1の一部と共に示している。このように、周囲毛束の高さを変えた場合は、高く延びる周囲毛束ほど、中心毛束の支持及び倒伏防止作用が強くなる。したがって、植毛台における外周寄りの部分の周囲毛束をより高くすることによって、外側への毛束の倒伏をより効果的に抑制し、繰り返し使用による刷毛の広がりを防止することができ、高い耐久性が得られる。或いは、植毛形態に応じて、複合毛束群毎に周囲毛束の高さ配置を調整することにより、使用時に倒伏し易い毛束に対する効果的な倒伏防止効果を得ることができる。また、高さの異なる周囲毛束の配置を植毛台全体に亘って均等的にすることにより、様々なブラッシング方向に対して倒伏防止作用を得ることもできる。
【0028】
図10の(a)〜(j)は、植毛台における植毛穴の形状及び配置の例を示す平面図である。中心毛束、周囲毛束、通常の毛束ための植毛穴は、図において各々黒、白、ハッチング付きの図形(矩形、三角形、円、星形)で示し、1つの複合毛束群を構成する植毛穴を仮想円で示している。図では、1つの中心毛束に対して周囲毛束の数が3,5,6となる複合毛束群のための植毛穴を示しているが、この他の数の植毛穴及び中心毛束を設けることも可能である。特に、周囲毛束の数を3とする場合は、図10の(a),(b),(c),(d),(e),(h),(i)に示すように、植毛穴を植毛台の長手方向に延びる4列と幅方向に延びる複数列による格子状に配置し、植毛台幅方向において中央寄りに位置する2つの中央穴と、外縁寄りに位置する2つの外寄り穴とで中心毛束用穴を構成し、これら中央穴及び外寄り穴を植毛台長手方向に交互に配置すれば、格子状配置の他の植毛穴を周囲毛束用穴とすることにより、1つの中心毛束に3つの周囲毛束を配した構成を整然とした植毛穴の配置で実現することができる。 また、中心毛束aの先端部は、図11及び図12に示すように、種々の形状とすることも可能である。なお、図11の(a)〜(f)及び図12の(g)〜(j)の各々は、上側に正面図、下側に平面図を示す。図11の(a),(b)のように端面に丸みを持たせることにより、口腔内での接触時の違和感をやわらげることができる。図11の(c),(d),(e)のように、先端部の中央を細くしたり、(f)のように、先端部の対向する2つの側部を細くすることにより、隙間部分への進入性をさらに高めることができる。また、図12の(g),(h)のように、先細の頂点を偏心して位置にさせてもよい。図12の(i)のように、軸線方向に延びる多数の細片を先端部に形成することにより細部への進入性を特に向上させることができる。或いは、図12の(j)のように、先端部の径を大きくすることにより、接触感を和らげることができるので、歯肉が過敏な場合に好適である。
【0029】
次に、本発明の実施例に基づいた試験について説明する。本発明の実施例及び従来タイプの比較例として、表1に示す仕様の歯ブラシを使用して試験を行なった。
【0030】
【表1】
(1) 試験1
顎模型を使用し、上顎の第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯に粉末状の疑似プラークを塗布し、以下の条件でブラッシングを行なった。
【0031】
ブラッシング圧:250g
ストローク:10mm
スピード:120rpm
ブラッシング時間:10秒/歯
歯ブラシの当て方:植毛台を歯面に平行にして毛先を当てる
疑似プラークの除去率は、以下のようにして求めた。
【0032】
第一大臼歯の表側の歯面全体を歯面部とし、その歯面部を縦の区分け線で10等分し、区分けされた両端部を歯間部とし、歯面部及び歯間部での疑似プラークの除去面積を画像解析で算出する。
【0033】
歯間部の除去率(%)=(歯間部の面積−歯間部の付き残り面積)/歯間部の面積×100
歯面部の除去率(%)=(歯面部の面積−歯面部の付き残り面積)/歯面部の面積×100
得られた結果をグラフにし、図13に示す。このグラフから明らかなように、実施例1及び2では、比較例1〜3に対し、歯面部及び歯間部の双方で除去率が高く、特に、歯間部においてその差が顕著である。すなわち、この試験結果は、本発明が、歯間部の清掃性が特に優れていることが示されている。
(2) 試験2
12人のモニターが、実施例1〜3及び比較例1〜3の各歯ブラシを順次使用し、歯茎への接触感についての評価をした。評価は、「ソフトな感触がする」を3点、「ソフトな感触がしない」を1点、「どちらとも言えない」を2点とし、12人の平均値を算出した。その結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
(3) 試験3
12人のモニターが、実施例1〜3及び比較例1〜3の各歯ブラシを順次使用し、歯間部へ毛束又はフィラメントが進入している使用実感の有無についての評価をした。評価は、「実感がある」を3点、「実感がない」を1点、「どちらとも言えない」を2点とし、12人の平均値を算出した。その結果を表3に示す。
【0035】
【表3】
試験2及び3は、本発明の実施例が、歯茎への接触感及び歯間部への進入実感の双方において、比較例より優れていることを示している。これにより、本発明が、口腔内での接触感と隙間部分への進入性との双方において優れていることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態に係る歯ブラシの植毛部を拡大して示しており、(i)は平面図、(ii)は正面図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る歯ブラシの植毛部を拡大して示しており、(i)は平面図、(ii)は正面図である。
【図3】本発明のさらに他の実施形態に係る歯ブラシの植毛部を拡大して示しており、(i)は平面図、(ii)は正面図である。
【図4】本発明のさらに他の実施形態に係る歯ブラシの植毛部を拡大して示しており、(i)は平面図、(ii)は正面図である。
【図5】本発明のさらに他の実施形態に係る歯ブラシの植毛部を拡大して示しており、(i)は平面図、(ii)は正面図である。
【図6】本発明のさらに他の実施形態に係る歯ブラシの植毛部を拡大して示しており、(i)は平面図、(ii)は正面図である。
【図7】本発明のさらに他の実施形態を示すもので、歯ブラシの植毛部の一部を拡大して示す正面図である。
【図8】図1に示した歯ブラシにおける複合毛束群及び他の実施形態における複合毛束群を拡大して示す平面図である。
【図9】本発明のさらに他の実施形態に係る歯ブラシにおける複合毛束群を拡大して示す平面図である。
【図10】本発明に係る歯ブラシに適用可能な植毛穴の形状及び配置の例を示す平面図である。
【図11】本発明の歯ブラシにおける中心毛束に適用し得る種々の先端形状を拡大して示す図である。
【図12】本発明の歯ブラシにおける中心毛束に適用し得る種々の先端形状を拡大して示す図である。
【図13】本発明の実施例及び比較例による試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0037】
1:植毛台
a,a1〜a8:中心毛束
b,b11〜b43:周囲毛束
s:空隙
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植毛台に複数の毛束が植設された歯ブラシにおいて、少なくとも一部の毛束が、植設面から起立した中心毛束と、該中心毛束を囲むように植設され離反した位置から中心毛束上部に接触する位置まで傾斜して延びる複数の周囲毛束とにより、複合毛束群を構成しており、前記中心毛束の先端が、前記周囲毛束の先端より突出していることを特徴とする歯ブラシ。
【請求項2】
1本の前記中心毛束を囲む複数の前記周囲毛束が、前記植毛台の植設面において、前記中心毛束を中心とする1つの円の上に位置していることを特徴とする請求項1に記載の歯ブラシ。
【請求項3】
1本の前記中心毛束を囲む複数の前記周囲毛束の各々は、前記中心毛束に接する側の側面と先端面とのなす角が鋭角となるように、該先端面が傾斜していることを特徴とする請求項1又は2に記載の歯ブラシ。
【請求項4】
前記複合毛束群が、前記植毛台の長手方向及び幅方向の各々に複数配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の歯ブラシ。
【請求項1】
植毛台に複数の毛束が植設された歯ブラシにおいて、少なくとも一部の毛束が、植設面から起立した中心毛束と、該中心毛束を囲むように植設され離反した位置から中心毛束上部に接触する位置まで傾斜して延びる複数の周囲毛束とにより、複合毛束群を構成しており、前記中心毛束の先端が、前記周囲毛束の先端より突出していることを特徴とする歯ブラシ。
【請求項2】
1本の前記中心毛束を囲む複数の前記周囲毛束が、前記植毛台の植設面において、前記中心毛束を中心とする1つの円の上に位置していることを特徴とする請求項1に記載の歯ブラシ。
【請求項3】
1本の前記中心毛束を囲む複数の前記周囲毛束の各々は、前記中心毛束に接する側の側面と先端面とのなす角が鋭角となるように、該先端面が傾斜していることを特徴とする請求項1又は2に記載の歯ブラシ。
【請求項4】
前記複合毛束群が、前記植毛台の長手方向及び幅方向の各々に複数配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の歯ブラシ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−142371(P2008−142371A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334123(P2006−334123)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000106324)サンスター株式会社 (200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000106324)サンスター株式会社 (200)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]