説明

歯付きベルト用カバークロス及び歯付きベルト

【課題】 高温の環境にて使用されても耐久性の高い歯付きベルトを得るためのカバークロス、および該カバークロスを用いた歯付きベルトを提供する。
【解決手段】 ベルト長手方向に補強用芯線が埋設され、ベルト長手方向に所定のピッチで複数の歯部が配置された歯付きベルトにおいて、該歯部の表面に被覆されており、かつ以下1)、2)を共に満足することを特徴とする歯付きベルト用カバークロス。
1)カバークロスの耐熱老化性が90%以上であること、
2)カバークロスを構成する繊維がジカルボン酸成分の60モル%以上が芳香族ジカルボン酸であるジカルボン酸と、ジアミン成分の60モル%以上が炭素数6〜12の脂肪族アルキレンジアミンであるジアミンとからなる半芳香族ポリアミド繊維であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝動面が繊維材料によって被覆されたエラストマー製の歯付きベルトに用いられるカバークロス、および該カバークロスを用いた歯付きベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
歯付きベルトは、芯線を埋設したベルト本体に、ベルトの長手方向に沿って多数の歯部を設け、歯部表面および歯底部を織物又は編物からなるカバークロスで被覆することによって作製されている。ベルト本体はウレタン樹脂、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、水素化二トリルゴムなどのエラストマーやゴムで成型されている。カバークロスとしては、ベルト本体の長手方向に沿って配置される緯糸に捲縮加工(仮撚り加工)された伸縮性のナイロン糸を、ベルト本体の幅方向に配置される経糸にはナイロン糸の非捲縮糸を用いて製織された織物が一般的に用いられている。このように伸縮性のある捲縮糸をベルトの長手方向に沿って配置することにより、ベルトの長手方向に凹凸を形成している歯部表面及び歯底部は、ベルト成型時にカバークロスによって容易に被覆される。カバークロスの織物組織は通常平織り、綾織、朱子織等が用いられるが、中でも2/2綾織、朱子織が、布目がベルト成型(加硫)時に容易に変形し、歯部をうまくカバーするので、好適に用いられている。
上述のように、カバークロスはベルトの長手方向に織物の緯糸方向が一致した形で用いられ、伸縮性の捲縮糸は織物の緯糸方向に用いられるのが一般的であるが、織物の経糸方向がベルトの長手方向となる使い方を採用する場合は伸縮性のある捲縮糸は経糸として使用される。勿論カバークロスの性能によっては緯糸・経糸共に伸縮性の捲縮糸を用いることができる。
【0003】
歯付きベルトは自動車の燃料ポンプの駆動、自動車用エンジンのカム駆動等に用いられるが、近年自動車の居住性向上のためにエンジンルームが狭くなり、エンジンルームの温度が従来よりも高温になってきている。このため、歯付きベルトは高熱と高い負荷の下で長時間稼動することが要求される。歯付きベルトの耐久性(寿命)は歯を構成するゴムの熱劣化による破損(歯欠け)が主体であり、これを防ぐためにはゴムの耐熱老化性向上は勿論重要であるが、それだけでは不十分であり、歯を保護し、ベルト回転による歯の破損を防止する役目のカバークロスにもより高い耐久性(特に耐熱老化性)が求められている。
【0004】
歯付きベルトの破損(歯欠け)は、ベルトの歯が伝動プーリーの歯部と噛み合う時に受ける力を歯ゴム及びカバークロスにより受け止めるが、カバークロスの熱老化が進行すると、カバークロス自体が非常に脆くなって歯ゴムを保護することができなくなり、歯ゴムの破損が進行する。
その対策として、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維等、いわゆる耐熱高機能繊維を応用することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。これらの高機能繊維は耐熱性は非常に良好なるものの、伸びが少なく高機能繊維のみでは歯付きベルト用カバークロスのベルト長手方向に用いることができなかった。そのため伸度の大きいポリウレタン繊維や仮撚り加工したナイロン糸を芯糸にしてその外側に高機能繊維を巻き付けた撚り糸を作製し、撚り糸として構造的に伸度を持たせる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、これらの方法では外側に巻き付ける高機能繊維の長さに限界があり、高伸度化はするものの不十分であった。そのため高機能繊維フィラメント自体を捲縮糸とする方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。しかし高機能繊維フィラメント糸を捲縮糸とするには、高温かつ長時間のヒートセット工程と解撚工程が必要であり、加工工程の複雑さから工業的に実施されるまでには至らなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2003−166595号公報
【特許文献2】特開平9−119483号公報
【特許文献3】特開2004−332160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、高温の環境において使用されても耐久性の高い歯付きベルトを得るためのカバークロス、及び該カバークロスを用いた歯付きベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は歯付きベルト用カバークロスに要求される特性を総合的に見直し、耐久性(耐熱老化性)、耐磨耗性、屈曲耐久性、接着性、接着耐久性、ベルト成型性等の性能を総合的に満足するカバークロスを発明すべく鋭意検討を行った結果、耐熱老化性が90%以上であり、かつ特定の半芳香族ポリアミド繊維により構成されたカバークロスを完成し、そして該カバークロスを歯付きベルトに用いることにより、高温環境の中で使用されても歯付きベルトの耐久性が大幅に改良できることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、ベルト長手方向に補強用芯線が埋設され、ベルト長手方向に所定のピッチで複数の歯部が配置された歯付きベルトにおいて、該歯部の表面に被覆されており、かつ以下1)、2)を共に満足することを特徴とする歯付きベルト用カバークロスである。
1)カバークロスの耐熱老化性が90%以上であること、
2)カバークロスを構成する繊維がジカルボン酸成分の60モル%以上が芳香族ジカルボン酸であるジカルボン酸と、ジアミン成分の60モル%以上が炭素数6〜12の脂肪族アルキレンジアミンであるジアミンとからなる半芳香族ポリアミド繊維であること。
【0009】
そして本発明は、好ましくはジカルボン酸成分の60〜100モル%がテレフタル酸であり、ジアミン成分の60〜100モル%が1,9−ノナンジアミンである上記の歯付きベルト用カバークロスであり、より好ましくはジカルボン酸成分の60〜100モル%がテレフタル酸であり、ジアミン成分の60〜100モル%が1,9−ノナンジアミン(A)及び2−メチル−1,8−オクタンジアミン(B)であり、(A)と(B)のモル比が40:60〜99:1である上記の歯付きベルト用カバークロスである。
【0010】
さらに本発明は、好ましくは少なくともベルト長手方向に使用されている繊維が仮撚り加工糸である上記の歯付きベルト用カバークロスであり、そして上記のカバークロスを用いた歯付きベルトに関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の耐熱老化性が90%以上である半芳香族ポリアミド繊維からなるカバークロスを用いた歯付きベルトは、カバークロスが歯ゴムを保護する効果が発揮されるので、高温下における耐久性が従来品に比して著しく向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のカバークロスはベルト長手方向に補強用芯線が埋設され、ベルト長手方向に所定のピッチで複数の歯部が配置された歯付きベルトの歯部の表面に被覆して用いられる。
本発明のカバークロスの耐熱老化性は90%以上であることが必要であり、好ましくは95%以上である。本発明でいう耐熱老化性とは、カバークロスの初期強力(A)と140℃の熱風乾燥機中で500時間熱老化させた後の残存強力(B)とした時に、次式により算出した値を示す。
耐熱老化性(%)=(B/A)×100
耐熱老化性は、後述するカバークロスの製造工程の各段階(例えば生機、リラックス加工反、RFL処理反、ゴム引き反など)または歯付きベルトそのものからサンプリングして測定できる。なお、耐熱劣化性はベルトの長さ方向となる織物方向について測定した値である。
カバークロスの耐熱老化性が90%未満であると、高温雰囲気中で歯付きベルトが走行している間にカバークロスの熱劣化が進行し、耐屈曲疲労性が大幅低下するため、カバークロスによる歯ゴムの保護機能が急激に低下する。
また、本発明においてベルト走行時の雰囲気温度を120℃としたにもかかわらず、カバークロスの耐熱老化性評価温度を140℃とした理由は、上述の繊維の熱劣化による繊維の耐屈曲疲労性の大幅低下のベルト寿命に対する影響の度合いを検討し、ベルト走行温度+20℃の熱劣化が適切であるとの知見が得られたためである。
【0013】
本発明でいう半芳香族ポリアミド繊維とは、ジカルボン酸成分の60モル%以上が芳香族ジカルボン酸であるジカルボン酸と、ジアミン成分の60モル%以上が炭素数6〜12の脂肪族アルキレンジアミンであるジアミンとからなるポリアミド繊維であることに特徴を有する。
芳香族ジカルボン酸としては、歯付きベルトの高温時における耐久性(すなわちカバークロスの高温耐久性)の点からはテレフタル酸であることが好ましく、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、ジ安息香酸、4,4´−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4´−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4´−ジカルボン酸、4,4´−ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸を1種類または2種類以上併用して使用することができる。かかる芳香族ジカルボン酸の含有量はジカルボン酸成分の60モル%以上であることが必要であり、75モル%以上であることが好ましい。
上記芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸としてはマロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、3,3´−ジエチルコハク酸、グルタル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロへキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸を挙げることができ、これらの酸は1種類のみならず2種類以上を用いることができる。中でも歯付きベルトの高温時における耐久性の点でジカルボン酸成分が100%の芳香族ジカルボン酸であることが好ましい。さらにトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸を、繊維化が容易な範囲内で含有させることもできる。
【0014】
また、ジアミン成分の60モル%以上は炭素数が6〜12の脂肪族アルキレンジアミンで構成されていることが必要である。かかる脂肪族アルキレンジアミンとしては、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン等の脂肪族ジアミンを挙げることができる。中でも歯付きベルトの高温時における耐久性(すなわち、カバークロスの高温耐久性)の点で1,9−ノナンジアミン、あるいは1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとの併用が好ましい。
上記脂肪族アルキレンジアミン以外のジアミンとしてはエチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン等の脂肪族ジアミン;シクロへキサンジアミン、メチルシクロへキサンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジメチルジアミン、トリシクロデカンジメチルジアミン等の脂環式ジアミン;p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、キシレンジアミン、4,4´−ジアミノジフェニルメタン、4,4´−ジアミノジフェニルスルホン、4,4´−ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミン、あるいはこれらの混合物を挙げることができ、これらは1種類のみならず2種類以上を用いることができる。
【0015】
本発明の半芳香族ポリアミド繊維において、脂肪族アルキレンジアミンとして1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとを併用する場合、ジアミン成分の60〜100モル%が1,9−ノナンジアミン(A)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン(B)からなり、そのモル比は(A):(B)=40:60〜99:1、特に(A):(B)=45:55〜95:5であることが好ましい。
【0016】
本発明に用いられるポリアミドはその分子鎖における〔CONH/CH〕の比が1/2〜1/8であることが好ましく、1/3〜1/5であることがより好ましい。
【0017】
また本発明のポリアミドの極限粘度は0.6〜2.0dl/gであることが好ましく、0.6〜1.8dl/gであることがより好ましく、0.7〜1.6dl/gであることがさらに好ましい。該極限粘度の範囲内の半芳香族ポリアミドは、本発明の繊維を製造する際の溶融粘度特性が良好であり、製糸工程の安定性が良く、得られた繊維の強度が高く、該繊維からなるカバークロスを用いた歯付きベルトは高温時における耐久性が優れたものとなる。
なお、本発明においてポリアミドの極限粘度は濃硫酸溶液中30℃で測定した値を示す。
【0018】
さらに本発明の半芳香族ポリアミドは、その分子鎖の末端基の10%以上が末端封止剤により封止されていることが好ましく、末端の40%以上、さらには末端の70%以上が封止されていることが好ましい。分子鎖の末端を封止することにより、得られる繊維からなるカバークロスの高温耐久性がより優れたものとなり、歯付きベルトの高温時における耐久性が向上する。
末端封止剤としては、ポリアミド末端のアミノ基またはカルボキシル基と反応性を有する単官能性の化合物であれば特に制限はないが、反応性および封止末端の安定性の点からはモノカルボン酸、モノアミンが好ましく、取扱性の容易さ、反応性、封止末端の安定性、価格等の点から特にモノカルボン酸が好ましい。
モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸などを挙げることができる。なお、末端の封止率はH−NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値より求めることができる。
【0019】
本発明の半芳香族ポリアミドの製造方法は特に制限されず、例えば、酸クロライドとジアミンとを原料とする溶液重合法あるいは界面重合法、ジカルボン酸またはジカルボン酸のアルキルエステルとジアミンとを原料とする溶融重合法、固相重合法等の方法により製造できる。
一例を挙げると、末端封止剤、触媒、ジアミン成分およびジカルボン酸成分を一括して反応させ、ナイロン塩を製造した後、一旦280℃以下の温度において極限粘度が0.15〜0.30dl/gのプレポリマーとし、さらに固相重合するか、あるいは溶融押出機を用いて重合を行うことにより容易に製造することができる。重合の最終段階を固相重合により行う場合、減圧下または不活性ガス流通下で行うのが好ましく、重合温度が200〜250℃の範囲であれば重合速度が大きく、生産性に優れ、着色やゲル化を有効に抑制するすることができるので好ましい。重合の最終段階を溶融押出機により行う場合、重合温度が370℃以下であるとポリアミドの分解がほとんどなく、劣化のない半芳香族ポリアミドが得られるので好ましい。
【0020】
上記方法にて重合を行う場合の重合触媒としてはリン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらの金属塩、それらのエステル類を挙げることができ、中でも次亜リン酸ナトリウムが入手のし易さ、取扱性の点で好ましい。また、必要に応じて銅化合物等の安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤等を重縮合反応時、またはその後に添加することができる。特に熱安定剤としてヒンダードフェノール等の有機系安定剤、ヨウ化銅等のハロゲン化銅化合物、ヨウ化カリウム等のハロゲン化アルカリ金属化合物を添加すると、繊維化の際の溶融滞留安定性が向上するので好ましい。
【0021】
上述のようにして得られる半芳香族ポリアミドは、マルチフィラメント用設備により、通常溶融押出機を用いて溶融紡糸されるが、その際スクリュー型押出機を使用することが好ましい。具体的には半芳香族ポリアミドの融点以上の温度で溶融し、30分以内の溶融滞留時間で口金ノズルより紡出することにより繊維化することができる。しかも、溶融温度、滞留時間は上記の範囲内であれば、紡糸時のポリアミドの熱分解を抑制することができる。口金より紡出した糸条は引取りローラー等により引き取られるが、この時必要に応じてノズル直下に加熱または保温ゾーンを設け、また吹付けチャンバー等による冷却ゾーンを設けて、糸条を適切に冷却する。紡出した糸条に油剤を付与してもよい。
【0022】
次いで延伸が施されるが、延伸はローラーヒーター、接触プレートヒーター、非接触プレートヒーター等を使用して270℃以下で行うことが好ましく、120〜230℃の範囲がより好ましい。さらに延伸倍率は2倍以上であることが好ましく、3倍以上であることがより好ましい。この時、270℃より高い温度で延伸を行うと半芳香族ポリアミドの劣化や結晶の再組織化等が起こり、繊維強度が低下する。延伸に引き続いて、必要に応じて120〜270℃の定長熱処理、緊張熱処理または弛緩熱処理を行うことができる。また上記した方法以外にも紡糸直結延伸熱処理を行うことも可能である。
【0023】
このようにして得られた延伸糸を仮撚り(ウーリー)加工を施すか、あるいは未延伸糸を製造したうえで、その後延伸、仮撚りを行うことにより伸縮性の捲縮糸を得ることができる。
歯付きベルトの長手方向に用いられるカバークロス用伸縮性の捲縮糸の構成は、合撚糸または交撚糸(カバードヤーン等)とすれば、伸縮性が高くなり好ましい。
例えば半芳香族ポリアミドをウーリー加工した仮撚り糸、該仮撚り糸とポリウレタンなどの弾性繊維との合撚糸または交撚糸がカバークロス用伸縮性の捲縮糸として使用できる。
【0024】
伸縮性の捲縮糸は一般にはカバークロス用織物の緯糸として製織され、経糸には延伸糸が用いられるが、結果として伸縮性の捲縮糸がベルトの長手方向に配置されるのであれば、前述のように経糸と緯糸が逆になってもよい。また伸縮性の捲縮糸はカバークロスの一方向のみに使用するのではなく、両方向に使用することもできる。
【0025】
本発明のカバークロスを構成する繊維の形態は、紡績糸、フィラメント糸のいずれも使用可能であるが、マルチフィラメントであることが好ましい。マルチフィラメントを構成する単繊維の太さは特に限定はないが1〜10dtexであることが好ましく、2〜8dtexであることがより好ましい。
【0026】
上述のようにして得られた織物は、熱水処理によるリラックス加工と乾燥を行って仮撚加工糸を収縮させて高い伸度を得る。さらに定法によりRFLディップ加工、必要に応じてゴム引き加工を行い、処理済みカバークロスとし、裁断・縫製して歯付きベルト製造に用いられる。
【0027】
以下実施例によって、本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。なお本発明において高温耐久性は以下の測定方法により測定されたものを意味する。
【0028】
[高温耐久性]
歯付きベルトを歯数20の原動プーリーと歯数40の従動プーリーと歯付きベルト背面からのアイドリープーリーを備えた走行試験機にセットし、120℃の熱風中で原動プーリーを6000rpmで回転させる。耐久性は歯部に亀裂が入るまでの時間により表す。
【0029】
[実施例1]
(1)テレフタル酸19.7モル、1,9−ノナンジアミン17.0モル、2−メチル−1,8−オクタンジアミン3.0モル、安息香酸0.6モル、次亜リン酸ナトリウム一水和物0.06モルおよび蒸留水2.2リットルを内容積20リットルのオートクレーブに入れ、窒素置換した。その後100℃で30分間攪拌し、2時間かけて内部温度を210℃に昇温した。この時、オートクレーブは22kgf/cm(2.2MPa)まで昇圧した。そのまま1時間反応を続けた後、230℃に昇温し、その後2時間温度を230℃に保ち、水蒸気を除々に抜いて圧力を22kgf/cm(2.2MPa)に保ちながら反応させた。次に30分かけて圧力を10kgf/cm(0.98MPa)まで下げ、さらに1時間反応させてプレポリマーを得た。これを100℃、減圧下で12時間乾燥し、2mm以下の大きさまで粉砕した。これを230℃、0.1mmHg(13.3Pa)下にて10時間固相重合することにより30℃の濃硫酸中の極限粘度が1.3dl/gの半芳香族ポリアミドを得た。
(2)このポリアミドを押出機を用いて温度330℃で溶融押出しし、0.15mmφ×72ホールの丸孔ノズルから吐出し、600m/min.で巻き取った。ついで130℃のホットローラー、220℃ホットプレートを用いて4.0倍の熱延伸、5%の収縮を含む熱固定を行い220dtex/72fのマルチフィラメントヤーンを得た。得られたヤーンの性能を表1に示す。
(3)このマルチフィラメントヤーンをフリクションタイプ高速仮撚り機(Saurer Barmag社製)にて速度500m/minにて仮撚り加工を施した。その後、160t/m(S方向)の撚りをかけ、伸縮性撚り糸を得、緯糸とした。一方、上記の220dtex/72fのマルチフィラメント自体に160t/m(S方向)の撚りをかけて経糸とした。これらの経糸・緯糸を用いてレピア織機にて2/2綾織物を製織し、該織物を100℃の液流染色機にてリラックス加工を行い、さらに170℃の熱風乾燥機(株式会社ヒラノテクシード製「シュリンクサーファー」)にて乾燥した。次いでラテックスとしてH−NBRを用いたRFLによるディッピング加工を行い、RFL処理済の歯付きベルト用カバークロスを得た。なお、RFLの付着率は繊維絶乾重量に対して12.0%であった。そして該カバークロスの耐熱老化性を測定した。カバークロスの性能、耐熱老化性の結果を表1に示す。
(4)さらに歯付きベルトと同一のゴム配合物を用いたゴム糊をゴム引きした。該カバークロスの伸縮性撚り糸を用いた方向がベルト長さ方向になるようにして、常法にしたがい織物の裁断と縫い合わせを行い、外周面が歯型を形成する円筒状金型に織物をかぶせ、その上に芯線のガラスコードを巻き付けた。さらにH−NBRゴム配合物で外周を覆い、次いで圧入法にて加硫し、できた成型品を取り出して所定幅に切断して歯付きベルトを製造した。この歯付きベルトは周長が902mm、幅19mm、ベルト歯数125Tであった。このベルトの高温耐久性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0030】
[実施例2]
(1)実施例1で作製した半芳香族ポリアミド繊維の伸縮性加工糸とポリウレタン弾性糸(旭化成株式会社製「ロイカ」)44dtexを、弾性糸を3.0倍に延伸しながら160t/m(S方向)の合撚糸とし、緯糸とした以外は実施例1と同様にして歯付きベルト用カバークロスを得た。但しリラックス加工は95℃で実施し、リラックス加工後の乾燥にはピンテンター付き熱風乾燥機を用いた。また、RFL付着率は11.7%であった。カバークロスの性能と耐熱老化性を表1に示す。
(2)該カバークロスを用いて、実施例1と同様の歯付きベルトを作製し、高温耐久性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0031】
[比較例1]
(1)ポリアミドマルチフィラメント繊維として235dtex/35f(旭化成せんい株式会社製「レオナ」)を実施例1と同様のフリクションタイプ高速仮撚り機にて、速度500m/minにて仮撚り加工を施した。その後、160t/m(S方向)の撚りをかけ、伸縮性撚り糸を得、緯糸とした。一方、上記の235dtex/35fのマルチフィラメント自体に160t/m(S方向)の撚りをかけて経糸とした。
(2)これらの経糸・緯糸を用いてレピア織機にて2/2綾織物を製織した。該織物を95℃の液流染色機でリラックス加工を行い、さらに170℃の熱風乾燥機にて乾燥した。次いで実施例1と同一組成のRFLにてディッピング加工を行い、表1に示したRFL処理済みの歯付きベルト用カバークロスを得た。なお、RFLの付着率は繊維絶乾重量に対して12.3%であった。そして該カバークロスの耐熱老化性を測定した。カバークロスの性能、耐熱老化性の結果を表1に示す。
(3)該カバークロスを用いて、実施例1と同様の歯付きベルトを作製し、高温耐久性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から明らかなように、本発明の耐熱老化性が90%以上である半芳香族ポリアミド繊維からなるカバークロスを用いた歯付きベルトは、カバークロスが歯ゴムを保護する効果が発揮され、高温下における耐久性が従来品に比べて約2倍になり、著しく耐久性が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の特定の半芳香族ポリアミド繊維で構成されたカバークロスを用いた歯付きベルトは、高温環境の中での耐久性が要求される自動車の燃料ポンプの駆動、自動車用エンジンのカム駆動等に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト長手方向に補強用芯線が埋設され、ベルト長手方向に所定のピッチで複数の歯部が配置された歯付きベルトにおいて、該歯部の表面に被覆されており、かつ以下1)、2)を共に満足することを特徴とする歯付きベルト用カバークロス。
1)カバークロスの耐熱老化性が90%以上であること、
2)カバークロスを構成する繊維がジカルボン酸成分の60モル%以上が芳香族ジカルボン酸であるジカルボン酸と、ジアミン成分の60モル%以上が炭素数6〜12の脂肪族アルキレンジアミンであるジアミンとからなる半芳香族ポリアミド繊維であること。
【請求項2】
ジカルボン酸成分の60〜100モル%がテレフタル酸であり、ジアミン成分の60〜100モル%が1,9−ノナンジアミンである請求項1記載の歯付きベルト用カバークロス。
【請求項3】
ジカルボン酸成分の60〜100モル%がテレフタル酸であり、ジアミン成分の60〜100モル%が1,9−ノナンジアミン(A)及び2−メチル−1,8−オクタンジアミン(B)であり、(A)と(B)のモル比が40:60〜99:1である請求項1または2項記載の歯付きベルト用カバークロス。
【請求項4】
少なくともベルト長手方向に使用されている繊維が仮撚り加工糸である請求項1〜3のいずれか1項記載の歯付きベルト用カバークロス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のカバークロスを用いた歯付きベルト。

【公開番号】特開2007−100269(P2007−100269A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294302(P2005−294302)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(591121513)クラレトレーディング株式会社 (30)
【Fターム(参考)】