説明

歯牙の状態検出方法およびその装置

【課題】歯牙外部からう蝕部表面のpH等の溶液物性値を正確に測定する歯牙の状態検出方法およびその装置の提供。
【解決手段】測定電極2側のスポンジ状部材15Aを歯牙20のう窩部21に挿入し接触させ、比較電極4側のスポンジ状部材15Bを前記歯牙20の健全部22に当接させ、う窩部21の表面部のう蝕部21aはもとより、う窩部21の底部から凹んだ細孔の奥部などの狭い領域のう蝕部21bにも非緩衝液を積極的に供給するとともに、健全部22の表面にも非緩衝液を積極的に供給し、う蝕部21a,21bの表面および健全部22の表面が湿潤された状態となり、スポンジ状部材15Aに接触する測定電極2およびスポンジ状部材15Bに接触する比較電極4によってpHが測定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯牙のう窩部にまで至ったう蝕の進行度合い(虫歯の進行状態)および/またはう蝕部の再石灰化の進行度合い(治癒の進行状態)などを検出する歯牙の状態検出方法およびそれに用いる歯牙の状態検出装置に関し、詳しくは、歯牙のう蝕部と健全部または歯ぐき等の口腔内部位に、イオン感応部を有する測定電極と比較電極を接触させて両部のpHやカルシウムイオン、リン酸イオン、炭酸イオン、酸化還元電位(ORP)などの溶液物性値を測定することにより、う蝕や再石灰化の進行度合いを検出する歯牙の状態検出方法およびそれに用いる歯牙の状態検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕の進行度合い(虫歯の進行状態)および/または再石灰化の進行度合い(治癒の進行状態)などの歯牙の状態を検出する一般的な方法には、大別して、抜去歯もしくはその抜去歯をう窩中央部で歯軸方向に平行にスライスした半切り歯といったサンプルを準備し、このサンプルに測定電極を接触させてpH等の溶液物性値を測定するサンプル方式による歯牙の状態検出方法と、う蝕部に可視光線を照射してう蝕部を透視してう蝕を検出する透視法や、う蝕部位にレーザー光線を照射してこの部位の脱灰程度を検出するレーザー法、脱灰部位の白度を検出する光散乱法、脱灰部位からの反射光を定量して脱灰程度を評価する光反射法などの光照射方式による歯牙の状態検出方法とが知られている。
【0003】
しかし、前者のサンプル方式による歯牙の状態検出方法は、抜歯が必要不可欠で、う蝕部位のみを削るなどして健全部をできるだけ残すといった適切な治療が望まれる初期う蝕の段階での検出方法としては全く実用性に欠ける。一方、後者の光照射方式による歯牙の状態検出方法は、抜歯の必要がなく、口腔内で直接的に歯牙の状態を検出し診断することが可能であるものの、歯牙の色の個体差や歯牙の変色による影響を受けるなどして、歯牙の状態を客観的かつ定量的に検出するまでには至っていない。また、この光照射方式による歯牙の状態検出方法では、その実用化に際して、高価で大掛かりな機器類が必要で設備コストの上昇は避けられないとともに、歯科のチェアサイドで手軽に診断できるといった簡便性にも欠けるという問題がある。
【0004】
上記一般的なサンプル方式および光照射方式による歯牙の状態検出方法による実用面での問題を解消するものとして、従来、円筒状で先端部がテーパ状に末窄まりに形成されているセンサボディの先端部に、例えば直径1mm程度のシリコンボールの球面状表面に水素イオン等に感応するイオン感応部を備えたISFETからなる測定電極を設ける一方、センサボディの内部に設けた筒体の外表面に内極を形成するとともに、筒体とセンサボディとの間に内容液を収容するとともに、測定電極とセンサボディとの間に液絡部を形成してなる比較電極を設けた複合電極タイプのpH等のイオン濃度測定装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、例えばセルロース系スポンジ等の柔軟性吸水シートを歯牙のう蝕面とこれに対向する歯牙との間に噛み合わせ補助具を介して挟み込んだうえ、上下の歯牙を強く噛み合わせることにより吸水シートを咬合面に密着させて、う蝕の病巣に含まれる水分をそれの毛細管現象を利用して吸収させ、その吸収された水分の有無、程度により、歯牙がう蝕に罹患しているか否かを検出する、あるいは、吸水シートに呈色用試薬を含有させておくことにより、吸水される水分が微量な場合であっても、視覚的に判別可能な呈色反応により吸収された水分の有無の確認が困難な小さなう蝕(初期う蝕)をも確実に検出するう蝕の検出方法も提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2003−344352号公報
【特許文献2】特開平11−14624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来のイオン濃度測定装置および吸水シートを使用した歯牙の状態検出方法は、いずれも、抜歯の必要がなく、口腔内で直接的にう蝕の有無や進行度合いなどを検出することが可能であって、既述したサンプル方式や光照射方式の一般的な歯牙の状態検出方法のコストおよび簡便性という実用面での問題を解消することができるものの、特許文献1で提案されている従来のイオン濃度測定装置は、測定電極面(センサ面)が硬くかつ球面状あるいは曲面状に丸みを帯びているので、う窩部、さらには、そのう窩部の底部から窪んだ細孔の奥部などの狭い領域にまでセンサ面を入り込ませることができず、また、無理やり入り込ませようとセンサボディを強く押し付けると、患者に大きな肉体的な痛みを与えることになりかねない。したがって、う窩内部の深くて狭いところのpHなどの溶液物性値を正確に測定するには不十分で、う蝕部のみ削って歯の治療終了点の指標に利用するためのう蝕の検出方法としては改善の余地が残されている。
【0008】
また、特許文献2で提案されている従来の柔軟性吸水シート使用のう蝕の検出方法では、患者に肉体的な痛みを与えることが少ない反面、う蝕を正確かつ高精度に検出するためには、患者自身による上下歯牙の強い噛み合わせによって吸水シートを口腔内の定位置に固定保持しなければならないといった具合に、所定の診断に際して、患者自身の手助けが必要であるばかりでなく、僅かでも吸水シートの位置がずれたり、噛み合わせ力が変動などすると、検出精度が低下することは避けられない。さらに、う窩部やそのう窩部底部から凹んだ細孔の奥部などの狭い領域を含めて咬合面全域にシートを一様に密着させることは困難であり、精度の高いう蝕検出結果を得ることが困難であった。
【0009】
ところで、近年は初期う蝕の段階においては歯牙の再石灰化によってう蝕を治癒できることが注目されており、この治癒を促進する物質としてキシリトールなどの非う蝕誘発甘味料の利用が促進されているが、この再石灰化による治癒の進行状態を定量的に検出する手段がなかった。したがって、前記非う蝕誘発甘味料の効果を客観的かつ定量的に実証することができなかった。
【0010】
本発明は、上述の実情を考慮に入れてなされたものであって、その目的は、患者に苦痛を与えず、また、患者の手助けを要することなく、う窩部やそのう窩部の底部から凹んだ細孔の奥部などの狭い領域を有するう蝕部であっても歯牙外部からう蝕部表面のpH等の溶液物性値を正確、高精度にかつ安定よく測定することができ、歯牙の虫歯および/または治癒の進行状態を的確に示す歯牙の状態検出方法およびその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の歯牙の状態検出方法は、歯牙の少なくともう蝕部に、柔軟性および生体適合性を有する材料からなり、緩衝能の小さい液体を吸収保持可能なスポンジ状部材を接触させて前記う蝕部内に前記緩衝能の小さい液体を供給した上で、前記スポンジ状部材にイオン感応部を有する測定電極を、また、口腔内の他の部位に比較電極を接触させて前記う蝕部の溶液物性値を測定することにより、う蝕の進行度および/または再石灰化の進行度を検出することを特徴としている(請求項1)。
【0012】
また、本発明の歯牙の状態検出方法は、歯牙の少なくともう蝕部に、柔軟性および生体適合性を有する材料からなり、緩衝能の小さい液体を吸収保持可能なスポンジ状部材を接触させて前記う蝕部内に前記緩衝能の小さい液体を供給した上で、前記スポンジ状部材にイオン感応部を有する測定電極を、また、前記歯牙の前記う蝕部以外の部位に比較電極を接触させて前記う蝕部の溶液物性値を測定することにより、う蝕の進行度および/または再石灰化の進行度を検出することを特徴としている(請求項2)。
【0013】
さらに、本発明の歯牙の状態検出方法は、歯牙のう蝕部における溶液物性値を測定し、歯牙の再石灰化の進行度合いを検出することを特徴としている(請求項4)。この場合、前記溶液物性値の測定は何らかの治療の前後に行って、治療の前後における溶液物性値の変化を用いて、その間における歯牙のう蝕の進行度合いや再石灰化の進行度合いを歯牙の状態として検出することが望ましい。また、う蝕部における溶液物性値は、柔軟性を有する材料からなり、緩衝能の小さい液体を含ませたスポンジ状部材を当接して前記う蝕部内に前記緩衝能の小さい液体を供給した上で、前記スポンジ状部材にイオン感応部を有する測定電極を、また、口腔内の他の部位に比較電極を接触させて測定することができる。さらに、前記溶液物性値は、一般的に水素イオン濃度である(すなわちpHを測定する)ことが望ましい。
【0014】
そして、上記歯牙の状態検出を実施するための具体的手段として、本発明の歯牙の状態検出装置は、第1操作体の先端部に付設されたイオン感応部を有する測定電極と第2操作体に保持された比較電極とを備え、これら両電極のうち、少なくとも測定電極側には、柔軟性および生体適合性を有する材料からなり、緩衝能の小さい液体を吸収保持可能で、かつ、歯牙のう蝕部に接触させることにより前記う蝕部内に前記緩衝能の小さい液体を供給することが可能なスポンジ状部材が付設されており、このスポンジ状部材に測定電極を、また、口腔内の他の部位に比較電極を接触させて前記う蝕部の溶液物性値を測定することにより、う蝕の進行度および/または再石灰化の進行度を検出するように構成されていることを特徴としている(請求項5)。
【0015】
また、本発明の歯牙の状態検出装置は、歯牙のう蝕部における溶液物性値を測定するイオン感応部を有する測定電極と、口腔内の他の部位に接触させて前記う蝕部の溶液物性値を測定する基準となる比較電極とを有し、歯牙の再石灰化の進行度合いを検出するように構成されていることを特徴としている(請求項9)。この場合、前記測定電極は、歯牙のう蝕部に当接することによりう蝕部内に緩衝能の小さい液体を供給することが可能なスポンジ状部材に接触させてなり、前記比較電極は口腔内の他の部位に接触させてなることが望ましい。また、前記イオン感応部は水素イオンのイオン濃度(すなわちpH)を測定するものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
上記構成よりなる歯牙の状態検出方法および装置によれば、イオン交換水など緩衝能の小さい液体(以下、非緩衝液という)を吸収保持させたスポンジ状部材をう蝕部に接触させることにより、比較的に歯牙の表面に近い部分にあるう蝕部はもとより、う蝕が進行して形成されたう窩部の底部から凹んだ細孔の奥部などの狭い領域にあるう蝕部にも非緩衝液を積極的に供給してこの領域を湿潤状態にすることができる。したがって、抜歯や高価で大掛かりな機器類を全く要することなく、低コストで歯牙の状態を検出することができる。
【0017】
そして、前記歯牙の状態検出方法および装置によれば、口腔内に差し入れた測定電極を歯牙外部からう蝕部に接触したスポンジ状部材に接触させるとともに、比較電極を口腔内の歯ぐき等の他の部位に接触させるといった操作簡便性に優れたものでありながら、溶液中であることを必要条件とするpHなどう蝕部位の溶液物性値を初期う蝕の段階であっても容易確実に測定することができる。その結果、う蝕の進行度合い(虫歯の進行状態)や再石灰化(治療)の進行度合いなどの歯牙の状態を歯科チェアサイドにおいてリアルタイムに検出することができ、歯の治療に際して、う蝕部のみを削って健全部をできるだけ残すという適切な歯の治療の指標に有効に利用することができる。
【0018】
そして、上記歯牙の状態検出方法および装置においては、柔軟性および生体適合性を有する材料からなるスポンジ状部材を用い、これに測定電極を接触させて位置固定することができるので、患者に肉体的な苦痛を与えることがないとともに、上下歯牙の強い噛み合わせなど患者自身による手助けも不要であるので、pHなど所定の溶液物性値を患者への負担のない状態で容易にしかも正確かつ安定して測定することができ、精度の高い測定を行うことができる。
【0019】
特に、請求項2に記載のように、歯牙のう蝕部に接触したスポンジ状部材に測定電極を、また、前記歯牙の前記う蝕部以外の部位、例えば健全部に比較電極を接触させて所定の測定を行う場合は、インピーダンスが低減され、その分だけノイズが小さくなるために、測定の安定性が高められ、検出精度が一層高められる。
【0020】
さらに、上記歯牙の状態検出方法および装置において、請求項3および請求項6に記載したように、比較電極を接触させる口腔内部位にも、う窩部に挿入させるスポンジ状部材と同様に、柔軟性および生体適合性を有する材料からなり、非緩衝液を吸収保持可能なスポンジ状部材を押し当てることにより、その口腔内部位の表面にも液体を積極的に供給し湿潤状態にすることができる。したがって、両部位における測定対象溶液を同一にして測定および検出精度が一層高められるとともに、歯牙の象牙質を傷付けたり、比較電極の変形や、破損などが防止され、その耐久性が向上される。
【0021】
請求項4および9に記載の歯牙の状態検出方法および装置によれば、う蝕部における溶液物性値を用いて歯牙の再石灰化の進行度を定量化することができるので、この再石灰化の進行度合いを客観的かつ的確に評価することができる。したがって、再石灰化を促進できるとする種々の薬剤や食材の効果を定量評価することができる。なお、前記溶液物性値の測定は何らかの治療の前後に行い、その溶液物性値の変化を用いて、その間における歯牙のう蝕の進行度合いや再石灰化の進行度合いを歯牙の状態として検出することにより、個体差による誤差を抑えて、より正確な評価を行うことができる。さらに、前記測定対象となる溶液物性値が水素イオン濃度(すなわちpH)であることにより、再石灰化の進行度合いを適正に評価することができる。
【0022】
また、上記う蝕の進行度検出装置において、請求項7に記載したように、先端部に測定電極が付設された第1操作体と比較電極が保持された第2操作体とを、それら第1,第2操作体の基端部に形成されたヒンジ部を中心にして相互に開閉操作可能なピンセット状に一体連結した構成とすることにより、ピンセットを扱う場合とほぼ同様な簡単な操作を行うのみで測定電極および比較電極の両者で歯牙を挟み込む形態にしてスポンジ状部材および両電極を口腔内の所定位置に確実に固定することができ、これによって、高精度な測定をより一層容易かつ安定に行うことができる。
【0023】
さらに、上記う蝕の進行度検出装置において、請求項8に記載したように、測定電極を、第1操作体の先端部にISFETチップを埋設して平面的に形成する一方、比較電極を、先端部に液絡部を有する第2操作体内に内部液を収容するとともに内極を形成して平面的に形成することによって、装置全体を可及的に小型コンパクト化することができ、微小歯牙であっても、高精度なう蝕進行度検出を容易かつ確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
図1〜図3は、本発明の第1実施例を示す。まず、図1は、本発明に係る歯牙の状態検出方法を実施するための歯牙の状態検出装置(以下、単に状態検出装置という)Aの第1実施例の全体構成を示す側面図である。この状態検出装置Aは、生体適合性のある素材、例えばガラスやプラスチックなどから長尺中実棒状体に形成された第1操作体1の先端部内面側にISFETチップ2Aが埋設されたpH値(溶液物性値の一例)測定用の測定電極2と、前記第1操作体1と同様に生体適合性のある、例えばガラスやプラスチックなどから長尺筒状に形成された第2操作体3に保持された比較電極4と、前記第1,第2操作体1,3をそれらの基端部に形成されたヒンジ部5およびばね6を介して相互に開閉操作可能なピンセット状に一体連結して保持する装置本体部7とから主として構成される。
【0025】
前記装置本体部7は、例えばABS樹脂等の生体適合性を有する材料から形成されており、この装置本体部7には、pH値を算出する演算手段としてのマイクロコンピュータ等の演算処理部(CPU)8と、このCPU8による演算結果であるpH値および/または歯牙の状態の評価値を表示する表示部(ディスプレイ)9が設けられている。
【0026】
前記pH測定用の測定電極2は、第2操作体3に対向する側が例えばフラットに形成された第1操作体1の内側部に形成され、そのISFET(周知であるため、図示は省略する)のゲート部にSiO2 膜、Si3 4 膜、Ta2 5 膜、Al2 3 膜等のいずれかよりなるH+ に感応する水素イオン感応部2aを有し、第1操作体1内に挿設された信号線10を介して装置本体部7のCPU8に接続されている。
【0027】
前記比較電極4には、第2操作体3の先端部に内方へ向けて開口する液絡部11が形成されている。そして、第2操作体3の内部には、例えば3.33MKCl水溶液等の内部液12が収容されているとともに、銀―塩化銀よりなる内極13が設けられ、第1操作体1と対抗する面がフラットに形成されている。また、内極13は、信号線14を介して装置本体部7のCPU8に接続されている。
【0028】
上述した基本構成を有する状態検出装置Aにおいて、前記測定電極2のイオン感応部2aに対応する位置および比較電極4の液絡部11に対応する位置には、それぞれ、柔軟性および生体適合性を有する材料、例えば海綿体、脱脂綿、セルロース系スポンジ等から直径1mm程度の球状に形成されてなり、非緩衝液を吸収保持可能なスポンジ状部材15A,15Bが着脱自在に取り付けられている。
【0029】
前記スポンジ状部材15A,15Bを着脱自在に取り付ける手法としては、図2(a)に示すように、両面接着方式の接着剤16を用いる手段や、同図(b)に示すように、電極2(または4)側から針状の突起部17を突出させておき、これにスポンジ状部材15A(または15B)を挿抜自在に保持する手段や、同図(c)に示すように、電極2(または4)側にマジックハンド式の保持具18を設けておき、これにスポンジ状部材15A(または15B)を着脱自在に保持する手段などがある。
【0030】
上記構成の状態検出装置Aの動作について、図3をも参照しながら説明する。前記状態検出装置Aを用いるに際しては、スポンジ状部材15A,15Bには非緩衝液を予めしみ込ませておく。このような状態において、オペレータ(例えば歯科医)が、装置本体部7を把持して第1操作体1および第2操作体3を患者(被検者)の口腔内に挿入した上、図3に示すように、測定電極2側のスポンジ状部材15Aを歯牙20のう窩部21(例えばう蝕が進行して凹穴が形成された部分)に挿入してこれに接触させるとともに、比較電極4側のスポンジ状部材15Bを前記歯牙20の健全部22に当接させる。これにより、う窩部21の表面部のう蝕部21aはもとより、う窩部21の底部から凹んだ細孔の奥部などの狭い領域のう蝕部21bにも非緩衝液が積極的に供給されるとともに、健全部22の表面にも非緩衝液が積極的に供給される。
【0031】
上述の状態下においては、う蝕部21a,21bの表面および健全部22の表面のそれぞれに非緩衝液が供給されるので、前記各表面が湿潤された状態となり、スポンジ状部材15Aに接触する測定電極2およびスポンジ状部材15Bに接触する比較電極4によってpHが測定される。このときの各電極2,4からの出力信号は、信号線10,14を経てCPU8に入力され、ここで所定の演算が行われてう蝕部21a,21bのpH値やう蝕の進行度などの評価値が演算結果として表示部9に表示される。オペレータは、この表示されたpH値やう蝕の進行度を読み取ることによって、う蝕部位の進行度合いを歯科チェアサイドにいながらリアルタイムに把握することができる。したがって、歯の治療に際して、例えば、う蝕部位のみを削って健全部をできるだけ残すという適切な歯の治療の指標に有効に活用することができる。
【0032】
また、この実施例に係る状態検出装置Aにおいては、測定電極2を付設した第1操作体1と比較電極4を保持した第2操作体3とが、それらの基端部に形成されたヒンジ部5を中心にして相互に開閉操作可能なピンセット状に一体連結されるように構成されているので、ピンセットを扱う場合とほぼ同様な簡単な操作を行うのみで、図3に示すように、測定電極2および比較電極4の両者で歯牙20を挟み込んでスポンジ状部材15A,15Bおよび両電極2,4を口腔内の所定位置に確実に接触させた状態で保持することができる。したがって、上記状態検出装置Aによれば高精度な測定を容易かつ安定に行うことができる。
【0033】
そして、上記状態検出装置Aにおいては、スポンジ状部材15A,15Bは測定電極2,比較電極4のそれぞれの適宜の箇所に着脱自在に取り付けられているので、新しいものと交換することができ、1人の患者から他の患者に代わるときなどには新しいスポンジ状部材15A,15Bに取り替えて所望の測定を行うことができる。
【0034】
さらに、上記状態検出装置Aにおいては、測定電極2が第1操作体1の先端部にISFETチップ2Aを埋設して全体的に平面的に形成されている一方、比較電極4においても先端部に液絡部11を有する第2操作体3内に内部液12を収容するとともに、内極13を形成して全体的に平面的に形成されているので、状態検出装置A全体が可及的に小型コンパクト化され、微小歯牙であっても、う蝕の進行度の検出を高精度にしかも容易かつ確実に行うことができる。
【0035】
そして、上記状態検出装置Aにおいて、CPU8は、pH値をう蝕の進行度などの歯牙の状態を示す評価値に変換するための変換データを含むファームウェアを用いて、歯牙の状態を定量的な値として評価することができるが、このファームウェアは臨床データに基づいて適宜アップデートできるようにしてあることが望ましい。また、そのための有線または無線の入出力部を設けることが望ましい。
【0036】
なお、上述した第1実施例の状態検出装置Aにおいては、特にう蝕部21aにおけるう蝕の進行度を歯牙20の状態として検出するようにしているが、う蝕部のう蝕の進行度のみならず、初期う蝕によるう蝕部21aの再石灰化の進行度を歯牙の状態として検出するのにも用いることができる。すなわち、歯牙20のう蝕が初期の段階では大きなう窩部21が形成されることがなく、歯牙20の表面に幾らかの凹部を形成する程度のう蝕部21aが発生するが、この初期のう蝕部21aは再石灰化の進行によって治癒することができる。そして、この再石灰化を促進する薬品や食材が注目されるに至っている。
【0037】
前記再石灰化の進行度を検出する方法として、図1〜3に示した状態検出装置Aを用いることができる。すなわち、歯牙20の表面に露出するう蝕部21aに前記スポンジ状部材15Aを接触させることにより、このスポンジ状部材15Aに吸収保持させた液体を介して測定電極2をう蝕部21aに接触させることができ、う蝕部21aにおける溶液物性値(本例ではpH値)を測定することができる。
【0038】
前記pH値の測定は、再石灰化を促進する薬剤や食材の使用を含む治療を行う前と後にそれぞれ行うことが望ましい。例えば、治療の後に測定したpH値が治療前のpH値よりも上がっていれば、再石灰化が進行したと判断することができ、治療の後に測定したpH値が治療前のpH値よりも下がっていれば、う蝕が進行したと判断することができる。このとき、治療の前後においてそれぞれpH値を測定するので歯牙の状態の評価がpH値の個体差による影響を受けることがない。
【0039】
また、測定したpH値の上がり幅およびpH値が最適値にどの程度近づいているかに応じて、歯牙の再石灰化の進行度(歯牙の状態)の評価値を求めることが望ましい。これによって治療の効果を数値によって客観的かつ定量的に確認することができる。
【0040】
図4は本発明の第2実施例に係る状態検出装置Aの全体構成を示す側面図である。この状態検出装置Aでは、第1操作体1と第2操作体3とをピンセット状に一体連結して保持する装置本体部7側に、測定電極2および比較電極4によって得られる測定信号を無線発信する送信器23が装備されている一方、この送信器23から発信された測定信号を受信する受信器24を、CPU8Aおよびその演算結果であるpH値を表示する表示部9Aを備えたパソコン25に接続したものである。なお、図4において、図1と同一の符号が付されている部材は、図1と同一の部材であるので、それらの説明を省略する。
【0041】
この第2実施例の状態検出装置Aは、装置本体部7にICなどによって小型化が可能な送信器23のみを装備させればよいので、第1実施例のものに比べて、装置の測定部側の構成をより小型軽量化することができ、その取扱がより簡単になる。
【0042】
ところで、上記第1実施例および第2実施例ともに、先端部に測定電極2を付設した第1操作体1と比較電極4を保持した第2層操作体3とをピンセット状に一体連結した構成のものについて説明したが、本発明はこれに限定されるものでない。
【0043】
図5は本発明の第3実施例を示し、この実施例の状態検出装置Bは、第1操作体1および第2操作体3が互いに分離独立した状態で、しかもそれぞれ外観形状が例えばほぼ箸状体となるように、第1操作体1の先端部にISFETチップ2AからなるpH測定用の測定電極2を取付けるとともに、第1操作体3に、液絡部11,内部液12,内極13からなる比較電極4を形成保持させるとともに、測定電極2のイオン感応部2aに対応する位置および比較電極4の液絡部11に対応する位置にスポンジ状部材15A,15Bを着脱自在に取り付けた構成からなる。
【0044】
上記構成の状態検出装置Bにおいては、測定電極2側の第1操作体1と比較電極4側の第2操作体3とを両手を使って各別に取扱うことによって、上記第1実施例、第2実施例と同様に、う蝕の進行度合いを歯科チェアサイドにいながらリアルタイムに検出することができる。
【0045】
そして、上述した各実施例においては、比較電極4を検出対象の歯牙20の健全部22に当接させていたが、これに限らず、他の歯牙の健全部、あるいは、口腔内の歯ぐき等の他の適宜部位に当接させて所定の測定を行ってもよい。
【0046】
さらに、上述の各実施例においては、測定電極2および比較電極4の両方にスポンジ状部材15A,15Bを保持させて凹凸のある部位にも各電極2,4を接触できるようにしていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、電極2,4を接触させる部位が表面に露出している場合などにはスポンジ状部材15A,15Bを省略することができる。
【0047】
図6は、特にう蝕部21aが表面に露出している場合に用いることができる第4実施例の状態検出装置Cの構成を示す図である。図6において、図1〜5と同じ符号を付した部材は同一または同等の部材であるから、その詳細な説明を省略する。
【0048】
図6に示す第4実施例の状態検出装置Cは、初期う蝕の段階の歯牙20におけるう蝕および/または再石灰化の進行度を測定するものであり、装置本体部7に延設されて曲部30aを形成してなる棒状の接続部30と、この接続部30の先端部に取り付けられたシリコン球31とを有し、このシリコン球31の表面に測定電極2および比較電極4を形成してなるものである。また、32,33は被検者を選択するボタンおよび測定ボタンである。
【0049】
前記状態検出装置Cにおいては、被検者を選択するボタン32に備えているので、例えば歯科医が複数の患者について、その歯牙の状態をそれぞれ把握することが可能となる。特に、状態検出装置Cが再石灰化の進行度合いを検出するものである場合に、被検者毎に前回のpH(溶液物性値)を記憶することができるので、このpHの変化に応じて再石灰化の進行度合いを正確に求めることができる。なお、複数の被検者の口腔内における溶液物性値を求める場合には、前記電極2,4を形成してなるシリコン球31を患者毎に取り替えることが好ましい。
【0050】
そして、上記第4実施例のように、特に初期う蝕の段階の歯牙20におけるう蝕および/または再石灰化の進行度を測定する場合には、う蝕部21aが表面に露出しているので、測定電極2を直接的にう蝕部21aに接触させることが可能である。あるいは、測定電極2および比較電極3とう蝕部21aとの間に、それぞれ非緩衝液をしみ込ませてある薄い平板状のスポンジ状部材をとりつけてもよい。なお、図6は測定電極2をう蝕部21aに直接的に接触させる例を示す単なる一例に過ぎず、本発明は図6の構成に限定されるものではないことはいうまでもない。
【0051】
また、上記状態検出装置Cにおいては、測定を容易に行うことができるように、一つのシリコン球31の表面において、比較電極4を測定電極2から少し離れた位置に形成し、比較電極4によってう蝕部21aから少し離れた口腔内の他の部位(唾液)に接触させるようにしているが、この比較電極4を別途形成してあってもよい。このようにした場合、比較電極4を健全な歯牙や歯茎など、う蝕部21aから十分に離れた口腔内の他の部位に接触させるようにすることができる。
【0052】
なお、上述した説明では、う蝕の進行度合いを検出するにあたって、pH値を測定するものであったが、カルシウムイオン、リン酸イオン、炭酸イオン、酸化還元電位(ORP)などのいずれかの溶液物性値を測定してもよい。また、被検者自ら状態検出装置A,BまたはCを用いて測定してもよいことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1実施例に係る歯牙の状態検出装置の一例を示す側面図である。
【図2】(a)〜(c)は電極に対してスポンジ状部材を交換自在に取り付ける手段を示す要部拡大断面図である。
【図3】前記歯牙の状態検出装置の動作説明図である。
【図4】本発明の第2実施例に係る歯牙の状態検出装置の一例を示す側面図である。
【図5】本発明の第3実施例に係る歯牙の状態検出装置の一例を示す側面図である。
【図6】本発明の第4実施例に係る歯牙の状態検出装置の一例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 第1操作体
2 測定電極
2A ISFETチップ
2a イオン感応部
3 第2操作体
4 比較電極
5 ヒンジ部
11 液絡部
12 内部液
13 内極
15A,15B スポンジ状部材
20 歯牙
21 う窩部
21a う蝕部
22 健全部
A,B,C 歯牙の状態検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯牙の少なくともう蝕部に、柔軟性および生体適合性を有する材料からなり、緩衝能の小さい液体を吸収保持可能なスポンジ状部材を接触させて前記う蝕部内に前記緩衝能の小さい液体を供給した上で、前記スポンジ状部材にイオン感応部を有する測定電極を、また、口腔内の他の部位に比較電極を接触させて前記う蝕部の溶液物性値を測定することにより、う蝕の進行度および/または再石灰化の進行度を検出することを特徴とする歯牙の状態検出方法。
【請求項2】
歯牙の少なくともう蝕部に、柔軟性および生体適合性を有する材料からなり、緩衝能の小さい液体を吸収保持可能なスポンジ状部材を接触させて前記う蝕部内に前記緩衝能の小さい液体を供給した上で、前記スポンジ状部材にイオン感応部を有する測定電極を、また、前記歯牙の前記う蝕部以外の部位に比較電極を接触させて前記う蝕部の溶液物性値を測定することにより、う蝕の進行度および/または再石灰化の進行度を検出することを特徴とする歯牙の状態検出方法。
【請求項3】
比較電極を接触させる部位にも、柔軟性および生体適合性を有する材料からなり、緩衝能の小さい液体を吸収保持可能なスポンジ状部材を押し当てて前記部位に前記緩衝能の小さい液体を供給した上で、前記スポンジ状部材に比較電極を接触させて所定の測定を行う請求項1または2に記載の歯牙の状態検出方法。
【請求項4】
歯牙のう蝕部における溶液物性値を測定し、歯牙の再石灰化の進行度合いを検出することを特徴とする歯牙の状態検出方法。
【請求項5】
第1操作体の先端部に付設されたイオン感応部を有する測定電極と第2操作体に保持された比較電極とを備え、これら両電極のうち、少なくとも測定電極側には、柔軟性および生体適合性を有する材料からなり、緩衝能の小さい液体を吸収保持可能で、かつ、歯牙のう蝕部に接触させることにより前記う蝕部内に前記緩衝能の小さい液体を供給することが可能なスポンジ状部材が付設されており、このスポンジ状部材に測定電極を、また、口腔内の他の部位に比較電極を接触させて前記う蝕部の溶液物性値を測定することにより、う蝕の進行度および/または再石灰化の進行度を検出するように構成されていることを特徴とする歯牙の状態検出装置。
【請求項6】
比較電極側にも、柔軟性および生体適合性を有する材料からなり、緩衝能の小さい液体を吸収保持可能で、かつ、口腔内の他の部位に押し当てることによりその表面に前記緩衝能の小さい液体を供給することが可能なスポンジ状部材が付設されている請求項5に記載の歯牙の状態検出装置。
【請求項7】
先端部に測定電極が付設された第1操作体と比較電極が保持された第2操作体とは、それら第1,第2操作体の基端部に形成されたヒンジ部を中心にして相互に開閉操作可能なピンセット状に一体連結されている請求項5または6に記載の歯牙の状態検出装置。
【請求項8】
測定電極は、第1操作体の先端部にISFETチップを埋設して平面的に形成されている一方、比較電極は、先端部に液絡部を有する第2操作体内に内部液を収容するとともに内極を形成して平面的に形成されている請求項5〜7のいずれかに記載の歯牙の状態検出装置。
【請求項9】
歯牙のう蝕部における溶液物性値を測定するイオン感応部を有する測定電極と、口腔内の他の部位に接触させて前記う蝕部の溶液物性値を測定する基準となる比較電極とを有し、歯牙の再石灰化の進行度合いを検出するように構成されていることを特徴とする歯牙の状態検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−136701(P2006−136701A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42748(P2005−42748)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】