説明

歯牙用漂白剤組成物

【課題】高い安全性と漂白性能を併せ持ち、汎用性の面からも有用な歯牙用漂白剤組成物を提供すること。
【解決手段】水溶液中で過酸化水素を供給する化合物および漂白活性化剤としてのマンガン基配位錯体および/またはその前駆体を含有する歯牙用漂白剤組成物。使用するマンガン基配位錯体およびその前駆体が特徴的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯牙用漂白剤組成物に関する。さらに詳しくは、安全性と漂白性能が共に高い歯牙用漂白剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、口腔内の審美性に関する意識の向上により、変色歯や着色歯の審美性改善を求める患者が増大している。従来、これらの審美性改善のためには、歯質を一定量削除し、歯冠補綴やラミネートベニア等のテクニックを用いて人工物で置き換える治療が主に行われてきた。
しかしながら、これらの治療法では、審美的な理由のみで多くの歯質を削除することになり、歯牙は再生できない組織でもあることから、近年の歯科治療のトレンドであるミニマルインターベンション(最小限の侵襲)という概念とも相容れない。
【0003】
その様な状況の中で、全く歯牙を削除しない審美性回復手段として、歯牙漂白法が多く用いられるようになってきた。歯牙漂白法としては、無髄歯に対して、髄腔内に過硼酸ナトリウムと高濃度(30−35%)の過酸化水素水の混合物を封入して漂白するウォーキングブリーチ法、有髄歯に対して高濃度(30−35%)の過酸化水素水を用いて歯科医院内で漂白するオフィスブリーチ法、比較的低濃度(10−22%)の過酸化尿素を用いて患者自身が自宅で漂白するホームブリーチ法などがある。
しかしながら、ウォーキングブリーチ法やオフィスブリーチ法では、劇薬である高濃度の過酸化水素水を口腔内で使用することから、安全性の点が懸念される。また、ホームブリーチ法では、比較的低濃度の過酸化尿素を口腔内の水分により徐々に分解して過酸化水素を発生させることにより漂白するが、実際に歯面に作用する過酸化水素濃度は低く、漂白効果を発揮するまでの処理時間が長く、漂白効果も低いという問題点がある。
一方、過酸化水素をはじめとした過酸素漂白剤組成物を用いた漂白法は、衣類の洗浄剤の技術分野においても周知の方法であり、現在の洗剤および洗浄剤に含まれる主成分の一つである。その主要な機能としては、紡績繊維または固体表面から、お茶、紅茶、コーヒーまたは、赤ワインなどの頑固な汚れを取り除くことである。この除去作用は、付着している色素の酸化分解作用により達成されるものであり、これと同時に、付着している微生物が死滅し悪臭物質も分解される(特許文献1参照)。
しかし、衣類を洗濯するための水溶液中で過酸化水素を放出する過酸化化合物は、漂白力が劣り短時間の漂白処置では十分な漂白効果を得ることができず、特に低温に於いて十分な漂白効果を得るためには長時間の処置を要するという欠点を有している。
衣類の洗剤の分野では、低温で使用できる漂白剤にするために、過酸化物を活性化する種々の提案がなされている。一つの提案は、溶液中で過ホウ酸ナトリウム、過炭酸ナトリウムのような過酸化物と反応させることにより、低温における漂白活性が高い有機パーオキシ酸を形成する、いわゆる有機漂白活性化剤であり、これを用いた布類の漂白活性化剤に関する組成物が提案されている(特許文献2参照)。
歯についても、コーヒーや紅茶等の飲食物に含まれる色素が沈着し、または煙草のヤニ等が沈着することにより変色していると考えられている。現在考えられているウォーキングブリーチ法やオフィスブリーチ法が、処理時間が長く、時として、光照射が必要であり、漂白作用が低いのは、高濃度の過酸化水素あるいは尿素でも、効率的に活性種が生成していないためであると推定される。
過酸化水素から効率よく活性種を生成させる別の方法として、二酸化チタンを使用した方法が提案されているが(特許文献3参照)、過酸化水素の光活性化をするための光源が必要不可欠であり、使用における汎用性の高い方法とは言い難い。
過酸化物から効率よく活性種を生成させる別の方法として、遷移金属化合物を使用する例が開示されている(特許文献4参照)。しかしながら、このような遷移金属化合物は、人体に対して有害である場合が多く、人の歯に塗布して使用する歯牙用漂白剤として、安全性の面から好ましくない。
【0004】
別の例として、特定の有機過酸化合物とイミニウム塩からなる組成物を使用する歯牙漂白方法(特許文献5参照)が開示されている。しかしながら、この漂白システムでは、その構成上、イミニウム塩に加えて有機過酸化合物の添加が必須であり、製剤化や使用時の取扱いが煩雑にならざるを得ない。
マンガン錯体を用いた漂白に関しては、例えば、歯科用途向け漂白剤組成物への使用に関する一般的な記載がある(特許文献6および特許文献7参照)が、具体的な効果や特徴について特に、漂白剤中の過酸化水素の濃度については、なんら記載がない。
一方、低濃度の過酸化水素溶液を用いて行う従来の歯の漂白方法は特許文献3に開示され、知られている。この方法は、濃度3%程度の過酸化水素溶液或いはそのペーストと、光触媒としての二酸化チタン粉末と練り合わせた混合物を用いるものであり、この混合物を歯牙の表面に塗布し、塗布部分に光を照射して漂白を行うものである。この方法では、光照射に基づいた光エネルギーによって、二酸化チタンが触媒作用を出すため、過酸化水素の分解が促進されて活性酸素が発生し、活性酸素の酸化力によって歯牙表面の漂白を行うことができる。
【特許文献1】特開平6−269676
【特許文献2】特開昭60−237042号公報
【特許文献3】特開平11−092351号公報
【特許文献4】米国特許第5648064号明細書
【特許文献5】米国特許第6165448号明細書
【特許文献6】特表2000−501773
【特許文献7】特表2001−509538
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、前述した従来技術の問題点を解消し、高い安全性と漂白性能を併せ持ち、汎用性の面からも有用な歯牙用漂白剤組成物を提供することである。
本発明のさらに他の課題および利点は以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、歯牙漂白に関し上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、
特定の組成物が高い安全性と漂白性能を有することを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は
水溶液中で過酸化水素を供給する化合物および漂白活性化剤としての下記式(I)で表わされるマンガン基配位錯体および/またはその前駆体を含有することを特徴とする歯牙用漂白剤組成物である。
[LMn ・・・ (I)
【0007】
(式中、MnはIV一酸化状態にあるマンガンであり、n及びmはそれぞれ2−8の何れかの整数であり、Xは配位または架橋種であり、pは0−32の何れかの整数であり、Yは対イオンであって、その種類は正、ゼロまたは負であり得る錯体の電荷zに依存し、qはz/[Yの電荷]であり、LはN,P,O及びSから選択されるヘテロ原子を複数含有する有機分子であるリガンドであって、ヘテロ原子/及びまたは炭素原子の一部もしくは全部を介してMn(IV))−中心に配位しており、後者は反強磁的に結合しており、複数あるX同士は、構造が同一であっても、異なってもよく、それは、L同士、Y同士についても同様である)
【発明の効果】
【0008】
本発明の歯牙用漂白剤は、光照射を必ずしも必要とせず、低濃度過酸化物にて短時間で歯牙を漂白することができる。
【発明の実施の形態】
【0009】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0010】
すなわち本発明の歯牙用漂白剤組成物は、、
マンガン基配位錯体と過酸化物とを混合して調製することができ、歯牙表面に塗布することにより歯牙を漂白する組成物である。
本発明において使用するマンガン基配位錯体としては、複数のマンガン原子と複数のリガンドとから成り、マンガン中心が酸化状態IVであり、Mn(IV)中心が反強磁性的に結合されたマンガン(IV)ベースの配位錯体である。反強磁性結合の程度は一般に、交換結合パラメータとして表される。このパラメータは反強磁性相互作用にはマイナスに影響する(遷移金属イオンの反強磁性結合は、例えばR.S.Dragoによって、「Physical Methods in Chemistry」,1977,Chapter 11,pp.427以後に記載されており、酸化状態(IV)のマンガンについては、K.Weighardt他によって、「The Journal of the American Chemical Society」,1988,Vol.110,pp.7398〜7411に記載されている)。
【0011】
マンガン基配位錯体は、式(I):
[LMn (I)
〔式中、MnはIV−酸化状態のマンガンを示し、n及びmは個別に2〜8のいづれかの整数を示し、Xは配位種または架橋種であって、例えばHO、OH、O2−、O2−、HO、SH、S2−、>SO、NR、R−COO、NRでRがHまたは置換もしくは未置換のアルキルもしくはアリール、Cl、N、SCN、N3−など、または、その組み合わせを示し、pは0〜32、好ましくは3〜6のいづれかの整数を示し、Yは錯体の電荷zに基づく性質の対イオンを示し、zは錯体の電荷を示す正または負の整数であり、zが正のとき、Yはアニオン、例えばCl、Br、I、NO、ClO、NCS、PF、RSO、RSO、CFSO、BPh、OAcなどであり、zが負のとき、Yは普通のカチオン、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属または(アルキル)アンモニウムなどのカチオンを示し、qはz/〔Yの電荷〕を示し、Lは、複数のヘテロ原子(例えばN、P、O及びSなど)を含み、そのヘテロ原子及び/または炭素原子の全部またはいくつかを介して、1つまたは反強磁性結合した複数のMn(IV)中心に配位された有機分子から成るリガンドであり、複数あるX同士は、構造が同一であってもよいし、異なるものであってもよく、それは、L同士、Y同士についても同様である〕
で示される。反強磁性結合|J|の程度は、好ましくは200cm−1より大きく、より好ましくは400cm−1より大きい。前述のごとく本発明は、前記に定義された活性マンガン(IV)ベースの配位錯体及びその前駆体に係る。前記のマンガン基配位錯体の前駆体は、容易に前記マンガン基配位錯体に変異し得る成分であり、例えば、水溶液中乃至は唾液中等の環境下、過酸化水素を供給し得る化合物やその他の成分、場合によっては歯牙乃至は口腔中の成分と接触、反応することにより、常温常圧条件にて、本発明を実施するのに差し支えない程度の短時間にて、前記式Iのマンガン基配位錯体に変換され得るいかなるマンガンを含む化合物でもよい。前駆体分子は必ずしも酸化状態IVのマンガンを含有しなくてもよく、またマンガン中心が必ずしも反強磁性結合していなくてもよい。好ましいマンガン基配位錯体は、m=2、n=2及びp=3でマンガン(IV)中心が反強磁性結合したマンガン錯体である。
これらは式(I’):
【0012】
【化1】

【0013】
〔式中、Xの各々は個別に式(I)中で配位イオンとして記載された架橋種のいずれかを示し、L、Y、q及びzは前記と同義である〕
を有する2核(dinuclear)マンガン(IV)−錯体化合物である。適当な架橋種または配位イオンは通常はドナー原子を有し好ましくは小さい分子である。
【0014】
より好ましいマンガン基配位錯体は、式(I’’):
[LMnIV(μ−O)MnIVL] (I’’)
〔式中、L、Y、q及びzは前記と同義である〕で示されるX=02−の2核マンガン(IV)−錯体である。
【0015】
リガンドL:Lは複数のヘテロ原子(例えばN、P、O及びSなど)を有し、そのヘテロ原子及び/または炭素原子の全部またはいくつかを介してMn(IV)中心に配位する有機分子である。好ましいリガンドL類は、3つのヘテロ原子を介して、反強磁性結合したマンガン(IV)中心に配位する多座リガンド、好ましくは、3つの窒素原子を介してマンガン(IV)中心の各1つに配位する多座リガンドである。窒素原子は第三アミン基、第二アミン基もしくは第一アミン基の一部でもよく、またはピリジン、ピラゾールなどの芳香環系の一部でもよく、またはその組み合わせでもよい。しかしながら、3つの窒素原子を介してMn(IV)中心の1つに配位するリガンドが必ずしも、[LMnIV(μ−O)MnIVL]錯体を形成するとは限らない。ある種のリガンドは2個以外のマンガン(IV)中心を含む錯体を形成する。特定の空間充填特性を有するリガンドだけが、有効な2核Mn(IV)−錯体類を形成する。これは、より好ましいマンガン基配位錯体[LMnIV(μ−O)MnIVL]の定義において、リガンドLの空間充填特性も重要であることを意味する。リガンドの空間充填特性は分子模型及び/または分子製図如き公知の方法によって知ることができる。例えば、LMn単核化合物を生じるリガンドは(空間充填特性が不十分、即ちこれらのリガンドが小さ過ぎるので)あまり適当でなく、LMnX単核化合物を生じるリガンドは(空間充填特性が過剰、即ちこれらのリガンドが大き過ぎるので)あまり適当でない。その他のあまり適当でないリガンドは、トリ−N−座リガンドであっても、4核LMnクラスターを生じるリガンドである(その理由は、空間充填特性が完全に十分でなく、クラスターが若干小さ過ぎるからである)。結局、LMnIV(μ−O)MnIVLクラスターを形成する有効な空間充填特性を有するリガンドが最も好ましい。従って、最も好ましいマンガン基配位錯体は、式(I’’)においてマンガンIV中心が反強磁性結合し、Lが3つ以上の窒素原子を含み、3つの窒素原子がMn(IV)中心の各1つに配位した2核マンガン(IV)−錯体である。
【0016】
このマンガン基配位錯体の代表は、式(I’’’):
[(L’N)MnIV(μ−O)MnIV(NL’)] (I’’’)
〔式中、L’N(及びNL’)は3つ以上の窒素原子を含むリガンドを示す〕の錯体である。Yは前記に定義したいかなる対イオンでもよいが、より好ましい対イオンYは、吸湿性に対して安定な固体を形成させるイオンである。これは、該イオンの格子充填特性がマンガンクラスターの格子充填特性と適合性であることを意味する。より好ましいマンガンクラスターと対イオンYとの組み合わせは通常、より大きい対イオン、例えばClO、PF、RSO、RSO、BPh、OOCR(Rは置換もしくは未置換のアルキル、アリールなど)の使用を意味する。適当なリガンドLのいくつかの例を最も簡単な形で示す:(i)1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン、1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロデカン、1,4,8−トリメチル−1,4,8−トリアザシクロウンデカン、1,5,9−トリメチル−1,5,9−トリアザシクロドデカン、(ii)トリス(ピリジン−2−イル)メタン、トリス(ピラゾール−1−イル)メタン、トリス(イミダゾール−2−イル)メタン、トリス(トリアゾール−1−イル)メタン、(iii)トリス(ピリジン−2−イル)ボレート、トリス(トリアゾール−1−イル)ボレート、トリス(ピラゾール−1−イル)ボレート、トリス(イミダゾール−2−イル)ホスフィン、トリス(イミダゾール−2−イル)ボレート、(iv)1,3,5−トリスアミノ−シクロヘキサン、1,1,1−トリス(メチルアミノ)エタン、(v)ビス(ピリジン−2−イル−メチル)アミン、ビス(ピラゾール−1−イル−メチル)アミン、ビス(トリアゾール−1−イル−メチル)アミン、ビス(イミダゾール−2−イル−メチル)アミン。
これらのすべてのリガンドは、アミンの窒素原子及び/またはCHの炭素原子及び/または芳香環が任意に置換されてもよい。
好ましいリガンドの例は:
【0017】
【化2】

【0018】
〔式中、RはC〜Cのアルキル基〕、または、
【0019】
【化3】

【0020】
〔式中、Rの各々は、H、置換もしくは未置換のアルキルもしくはアリールである〕である。
最も好ましいマンガン基配位錯体の例は:
【0021】
【化4】

【0022】
(Rは少なくとも水素原子を含み、炭素原子を0個以上含む置換基であり、複数あるR同士は、構造が同一であっても良いし、異なるものであっても良い。Rは好ましくは水素原子又はメチル基である。)
であり、より具体的には、R=H又はCHである、
【0023】
【化5】

【0024】
である。これらの触媒の反強磁性結合Jの値は〜−780cm−1である。
マンガン基配位錯体の前駆体の例は:
【0025】
【化6】

【0026】
である。双方の前駆体は水溶液中で過酸化水素を供給し得る化合物の存在下に変換され、以下の活性カチオン(5)を形成する:
【0027】
【化7】

【0028】
これらの錯体はいずれも、予め形成されているかまたは漂白工程中にその場で形成されたかにかかわりなく、より低い温度で多くの種類の汚れに対するペルオキシ化合物の漂白活性化を従来公知のマンガンベース及びコバルトベースのいかなる触媒よりもはるかに有効に行なう触媒である。更に、これらの触媒は、加水分解及び酸化に逆らう高い安定性を有する。触媒活性が[LMnコア錯体だけによって決定され、Yの存在は触媒活性に対してほとんど影響がないことに注目されたい。本発明に記載されたいくつかの錯体はこれまでにも、例えば天然マンガン−タンパク質複合体のモデルとして化学的及び実験的な探求のために調製されたが、その実用化が考慮されたことはない(K.Wieghardt他, Journal of American Chemical Society,1988,110,pp.7398及び該文献で引用された参考文献、並びに、K.Wieghardt他,Journal of the Chemical Society−Chemical Communications,1988,p.1145)。
【0029】
Mn基配位錯体の有効量は、マンガン含量換算で、該組成物に対して、好ましくは、0.00001〜0.1重量%である。前記数値範囲の下限値を下回ると漂白効果が低くなり、好ましくない。
また、Mn基配位錯体の有効量は、マンガン含量換算で、好ましくは0.00001〜0.1重量%にて、より好ましくは0.0002〜0.01重量%にて、歯牙漂白に用いられるものである。
【0030】
光照射を必ずしも必要としないが、光照射を行ってもかまわない。
また、水溶液中で過酸化水素を供給し得る化合物としては、例えば過酸化水素、過ほう酸塩、過炭酸塩、過硫酸塩、過リン酸塩、過酸化カルシウム、過酸化マグネシウム及び過酸化尿素、ケイ酸ナトリウム等の過酸化水素付加物が挙げられる。その中では過酸化水素、過酸化尿素、過ホウ酸ナトリウムが好ましく、更には、過酸化水素、過酸化尿素が特に好ましい。
水溶液中で過酸化水素を供給し得る化合物が供給可能な過酸化水素の量は、該組成物に対して、好ましくは、0.5〜10重量%、より好ましくは2〜5重量%である。前記数値範囲の下限値を下回ると漂白効果が低くなり、上限値を上回ると生体への為害性が懸念されるため、好ましくない。
又、水溶液中で過酸化水素を供給し得る化合物が供給する過酸化水素の量を、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%にして歯牙漂白に用いられる。前記数値範囲の下限値を下回ると漂白効果が低くなり、上限値を上回ると生体への為害性が懸念されるため、好ましくない。
【0031】
なお、前記の水溶液中で過酸化水素を供給し得る化合物が供給可能な過酸化水素の量乃至は供給する過酸化水素の量とは、閉鎖系において所定濃度の前記過酸化水素を供給する化合物が理論的に供給し得る過酸化水素によって達成される過酸化水素濃度である。
本発明の組成物は、その他に、必要に応じて、無機増粘剤として、例えばサポナイト、モンモリロナイト、スチブンサイト、ヘラトライト、スメクナイト、ネクタイト及びセピオライトからなる群から選ばれる少なくとも1種の無機粘土鉱物を含有することもできる。
【0032】
また、過酸化物の活性や漂白効果をより高めるためのpH調整剤、歯面への塗布性を高めるための増粘剤、塗布範囲を明確にするための着色剤、上記化合物の保存安定性を向上させるための安定剤等を含有することができる。
上記の組成物には、すべての成分が速やかに混和できるように水混和性溶媒を添加することができる。その溶剤としては、具体的には、エチルアルコール、アセトン、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。その中ではエチルアルコール、アセトン、グリセリンが好ましく、さらには、エチルアルコールが特に好ましい。
また、該マンガン基配位錯体および/またはその前駆体は、それ以外の成分の少なくとも1種とは隔離して保存されており、使用の際に混合して用いられることも好ましい。本発明の組成物において、水溶液中で過酸化水素を供給し得る化合物と漂白活性化剤であるMn錯体を、溶液状態にて共存させて長期間保存すると、反応が進んで、用いる際には既に失活する恐れがあるので、水溶液中で過酸化水素を供給する化合物を含有する本発明の組成物とは、別途、隔離してMn錯体を保存することが好ましい。
【実施例】
【0033】
以下に本発明について実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されない。
[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-OAc)(Me−TACN)2](ClOの合成
溶媒を使用前に、脱ガス処理した。すなわち、まず、溶媒を減圧脱気し、次いでアルゴンガスにて置換する操作を3回繰り返した。
アルゴン雰囲気下室温で、500mg(2.90mmol)の1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナンと9mlのエタノールを50mlの丸底フラスコ内に入れ攪拌し、0.75g(3.23mmol)のMnIIIOAc・2eqを加え、濁った暗褐色の溶液を得た。0.50g(6.00mmol)のNaOAc・3eqと10mlの水を加えた。次に、70%HClO1.0mlを加え、褐色粉末が沈殿した。この反応混合物を室温で数時間静置し、ガラスフィルタで沈殿物をろ過し、エタノール/水(60/40)で洗浄し、減圧乾燥機で乾燥し目的化合物を得た。IR:1573,1423,1079,1004および991cm−1
【0034】
○漂白性能評価方法
ヒト歯表面の色調を高速分光光度計(村上色彩技術研究所製 CMS-35FS/C)を用いてLab値を測定し、調整した漂白剤組成物で一定時間漂白処理することによる漂白の進行に伴うΔEの変化で漂白性能を評価した。
【0035】
実施例1
《歯牙の漂白試験》
3%過酸化水素水1gに[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-OAc)(Me−TACN)2](ClO0.0005g、KHSO・KSO・2KHSO(デュポン社製オキソン、以下、オキソンという)0.05g、炭酸水素ナトリウム0.0005g、炭酸ナトリウム0.0005gおよび二酸化珪素(日本アエロジル(株)製380S、以下、380Sという) 0.09gを混合し、混ぜて均一なペーストとした後、歯牙に均一に塗布した。
一回の漂白時間を20分間とし、一回毎に新たな上記漂白剤組成物を塗布し、その塗布を3回繰り返した。その結果、明るさΔLが7.4、色差ΔEが11.7に改善し、漂白された。
【0036】
実施例2
3%過酸化水素水1gに[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-OAc)(Me−TACN)2](ClO0.00005g、オキソン0.05g、炭酸水素ナトリウム0.0005g、炭酸ナトリウム0.0005gおよび380S 0.09gを混合し、混ぜて均一なペーストとした後、歯牙に均一に塗布した。
一回の漂白時間を20分間とし、一回毎に新たな上記漂白剤組成物を塗布し、その塗布を3回繰り返した。その結果、明るさΔLが4.6、色差ΔEが9.7に改善し、漂白された。
【0037】
実施例3
10%過酸化水素水1gに[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-OAc)(Me−TACN)2](ClO0.00005g、オキソン0.05g、炭酸水素ナトリウム0.0005g、炭酸ナトリウム0.0005gおよび380S 0.09gを混合し、混ぜて均一なペーストとした後、歯牙に均一に塗布した。
一回の漂白時間を20分間とし、一回毎に新たな上記漂白剤組成物を塗布し、その塗布を3回繰り返した。その結果、明るさΔLが7.0、色差ΔEが10.5に改善し、漂白された。
【0038】
実施例4
3%過酸化水素水1gに[MnIIIMnIVμ-O)(μ-OAc)(Me−TACN)2](ClO0.00005g、オキソン0.05g、炭酸水素ナトリウム0.0005g、炭酸ナトリウム0.0005gおよび380S 0.09gを混合し、混ぜて均一なペーストとした後、歯牙に均一に塗布した。
一回の漂白時間を1分間とし、一回毎に新たな上記漂白剤組成物を塗布し、その塗布を3回繰り返した。その結果、明るさΔLが3.5、色差ΔEが5.5に改善し、漂白された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液中で過酸化水素を供給し得る化合物と下記式(I)で表わされるマンガン基配位錯体および/またはその前駆体を含有することを特徴とする歯牙用漂白剤組成物。
[LMn ・・・(I)
(式中、MnはIV一酸化状態にあるマンガンであり、n及びmはそれぞれ2〜8のいづれかの整数であり、Xは配位または架橋種であり、pは0−32のいづれかの整数であり、Yは対イオンであって、その種類は正、ゼロまたは負であり得る錯体の電荷zに依存し、qはz/[Yの電荷]であり、LはN,P,O及びSから選択されるヘテロ原子を複数含有する有機分子であるリガンドであって、ヘテロ原子/及びまたは炭素原子の一部もしくは全部を介してMn(IV))−中心に配位しており、後者は反強磁的に結合しており、複数あるX同士は、構造が同一であっても、異なってもよく、それは、L同士、Y同士についても同様である)
【請求項2】
マンガン基配位錯体が下記式(I’)
【化1】

(式中、XはHO、OH、O2−、O2−、HO、SH、S2−、>SO、NR、RCOO、NR(RはH、未置換乃至は任意に置換されたアルキルもしくはアリール)、Cl、N、SCN、Nまたはその混合物から選択される配位/架橋種であり、Lは3個のヘテロ原子を介してマンガン(IV)−中心のそれぞれに配位している多座リガンドである)で表わされる、請求項1に記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項3】
マンガン基配位錯体が下記式(I’’)
【化2】

ここで、Rは少なくとも水素原子を含み、炭素原子を0個以上含む置換基であり、複数あるR同士は、構造が同一であっても、異なっていてもよい。)
で表わされる請求項2に記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項4】
マンガン基配位錯体および/またはその前駆体を、マンガン含量換算で0.00001〜0.1重量%の範囲で含有する請求項1〜3のいずれかに記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項5】
マンガン基配位錯体および/またはその前駆体を、マンガン含量換算で0.0002〜0.01重量%の範囲で含有する請求項1〜3のいずれかに記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項6】
水溶液中で過酸化水素を供給し得る化合物が、過酸化水素、過ほう酸塩、過炭酸塩、過硫酸塩、過リン酸塩、過酸化カルシウム、過酸化マグネシウム及び過酸化尿素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の過酸化物である請求項1〜5のいずれかに記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項7】
水溶液中で過酸化水素を供給し得る化合物の供給可能な過酸化水素の量が、この組成物に対して0.5重量%以上である請求項1〜6のいずれかに記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項8】
水溶液中で過酸化水素を供給し得る化合物の供給可能な過酸化水素の量が、この組成物に対して2重量%以上である請求項1〜6のいずれかに記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項9】
水溶液中で過酸化水素を供給し得る化合物が供給する過酸化水素の量を0.1重量%以上にして歯牙漂白に用いられる請求項1〜8のいずれかに記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項10】
該水溶液中で過酸化水素を供給し得る化合物が供給する過酸化水素の量を1重量%以上にして歯牙漂白に用いられる請求項1〜8のいずれかに記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項11】
マンガン基配位錯体および/またはその前駆体は、この組成物を形成するそれ以外の成分の少なくとも1種と隔離して保存されており、使用の際に混合して用いられる請求項1〜10のいずれかに記載の歯牙用漂白剤組成物。

【公開番号】特開2007−112761(P2007−112761A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−307631(P2005−307631)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(592093578)サンメディカル株式会社 (61)
【Fターム(参考)】