説明

歯磨組成物

【課題】 パラオキシ安息香酸エステルは防腐剤として広く使用されているが、粘膜に対して刺激があり、一部にはアレルギーを発症する人もいる。本発明の目的は、歯磨組成物の防腐剤として使用されているパラオキシ安息香酸エステルに代わり、粘膜への刺激が少ない防腐剤を使用し、口腔内の粘膜への刺激の少ない歯磨組成物を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、今まで防腐剤として使用されてきたパラオキシ安息香酸エステルに代わって、特定の構造を持つジオール化合物を使用することにより、防腐剤としての効果を維持したまま、口腔内の粘膜に対する刺激を抑える歯磨組成物を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内への刺激性が少ない防腐剤を使用した歯磨組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯磨き剤は虫歯予防や歯周病予防等のために使用されるが、製品保存性の観点から防腐剤が配合されている。防腐剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル(パラベン)類等が使用されており、こうした防腐剤の中でも、毒性の低いパラベン類の使用が一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
例えば、パラオキシ安息香酸ブチルの急性経口毒性は、一部のデータでは950mg/kgと、比較的毒性の低い物質であるとされており、食品添加物にも指定されている。しかし、パラベン類に代表される防腐剤は、わずかであるがタンパク質に対して刺激性があるという問題がある。これらはわずかな刺激であるため、皮膚や頭皮に付着しても問題がないとされ、様々な化粧品等に防腐剤として使用されているのが現状である。
【0004】
しかし歯磨組成物は、他の化粧品と比較して特殊なものである。それは、使用箇所である口の中が、刺激に対して非常に弱い粘膜であるということと、一日に数回使用するという使用頻度の多さにある。つまり歯磨組成物は、粘膜という弱い部分に一日に何度も付着し、更にその付着が毎日繰り返される。皮膚や頭皮に問題のないパラベン類も、口腔内等の敏感な粘膜に繰り返し付着すると、口の中が荒れたり、口内炎等を発症したりする場合がある。更に一部の人には、アレルギーを発症する例も知られており、パラベンを敬遠する消費者もいる。
【0005】
【特許文献1】特開平6−279247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明が解決しようとする課題は、粘膜への刺激の少ない歯磨組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者等鋭意検討し、粘膜への刺激の少ない防腐剤を見出し、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記一般式(1)
R−CH(OH)−CH2(OH) (1)
(Rは炭素数4〜20のアルキル基を表す。)で表される化合物を配合することを特徴とする歯磨組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果は、口腔内の粘膜への刺激の少ない歯磨組成物を提供したことにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の歯磨組成物は、上記一般式(1)で表されるジオール化合物を含有するものである。一般式(1)のRは、炭素数4〜20のアルキル基を表し、例えば、ブチル、イソブチル、2級ブチル、ターシャリブチル、ペンチル、イソペンチル、2級ペンチル、ネオペンチル、ターシャリペンチル、ヘキシル、2級ヘキシル、ヘプチル、2級ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、2級オクチル、ノニル、2級ノニル、デシル、2級デシル、ウンデシル、2級ウンデシル、ドデシル、2級ドデシル、トリデシル、イソトリデシル、2級トリデシル、テトラデシル、2級テトラデシル、ヘキサデシル、2級ヘキサデシル、ステアリル、エイコシル等が挙げられる。
【0011】
これらのアルキル基の中でも、炭素数4〜15が好ましく、炭素数6〜10がより好ましく、炭素数6〜8が更に好ましく、炭素数6が最も好ましく、更に最も本発明に適しているのはオクタンジオールである。炭素数が4より小さいと、防腐剤としての効果がなく、炭素数が20を超えると、分散させるのが困難になったり、製品に混合した後分離しやすくなったりする。
【0012】
これらのジオール化合物は、好ましくは歯磨組成物の中に0.1〜2質量%配合することができるが、より好ましくは0.1〜1質量%、更に好ましくは0.1〜0.7質量%、最も好ましくは0.1〜0.5質量%である。0.1質量%未満では、防腐剤としての効果が表れない場合があり、2質量%を超えると、配合に見合う効果が表れない場合や、配合できずに分離してしまう場合がある。
【0013】
一般式(1)で表されるジオール化合物の製造方法としては、既知の方法を用いることができる。例えば、末端に二重結合を持つオレフィンを、過酸化水素等の酸化剤で酸化すると、エポキシ化合物を得ることができる。このエポキシ化合物を加水分解することにより、一般式(1)で表される、ジオール化合物を得ることができる。
【0014】
本発明の歯磨組成物は、通常練歯磨組成物に配合される研磨剤、粘結剤、粘稠剤、界面活性剤、pH調整剤、甘味剤、香料、殺菌剤、酵素、着色剤、各種有効成分等を配合でき、これら成分と水とを混合し、常法により調製することができる。なお、これら任意成分は、本発明の効果を妨げない範囲で常用量用いることができる。
【0015】
研磨剤としては、例えば、ケイ酸塩(シリカゲル、沈降性シリカ、火成性シリカ、アルミノシリケート、ジルコノシリケート等)、第2リン酸カルシウム2水和物、第2リン酸カルシウム無水和物、ピロリン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、二酸化チタン、結晶性ジルコニウムシリケート、ポリメチルメタアクリレート、不溶性メタリン酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、第3リン酸マグネシウム、ゼオライト、ベントナイト、ケイ酸ジルコニウム、第3リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、フルオロアパタイト、カルシウム欠損アパタイト、第4リン酸カルシウム、第8リン酸カルシウム、合成樹脂系研磨剤等の1種又は2種以上を配合することができる。これらの配合量は、10〜90質量%が好ましく、15〜60質量%がより好ましい。
【0016】
粘結剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム(エーテル化度1〜2程度のもの)、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム、ゼラチン、グアガム、アラビアガム、アビセル、ポリビニルアルコール、カーボポール、モンモリオナイト、カオリン、ベントナイト等の無機粘結剤等の1種又は2種以上を配合することができる。これらの配合量は、0.1〜5質量%が好ましく、0.3〜3質量%がより好ましい。
【0017】
粘稠剤としては、例えば、ソルビット、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等の1種又は2種以上を配合することができる。これらの配合量は、5〜75質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましい。
【0018】
界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤のラウリル硫酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、N−ミリストイルザルコシン酸ナトリウム等のN−アシルザルコシン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、水素添加ココナッツ脂肪酸モノグリセリドモノ硫酸ナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、N−パルミトイルグルタミン酸ナトリウム等のN−アシルグルタミン酸塩、N−メチル−N−アシルタウリンナトリウム,N−メチル−N−アシルアラニンナトリウム、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等を配合することができる。また、ノニオン界面活性剤や両性界面活性剤も配合でき、ノニオン界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステル、マルチトール脂肪酸エステル、ラクチトール脂肪酸エステル等の糖アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート,ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリン酸モノ又はジエタノールアミド、ミリスチン酸モノ又はジエタノールアミド等の脂肪酸ジエタノールアミド、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン脂肪酸エステル等が用いられる。両性界面活性剤としては、N−ラウリルジアミノエチルグリシン、N−ミリスチルジアミノエチルグリシン等のN−アルキルジアミノエチルグリシン、N−アルキル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン、2−アルキル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリンベタインナトリウム等の1種又は2種以上を配合することができる。これらの配合量は、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜3質量%がより好ましい。
【0019】
甘味剤としては、例えば、サッカリンナトリウム、アルパラテーム、ステビオサイド、ステビアエキス、パラメトキシシンナミックアルデヒド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン等が挙げられる。これらの配合量は、0.01〜10質量%が好ましく、0.05〜5質量%がより好ましい。
【0020】
殺菌剤としては、例えば、クロルヘキシジン、ベンゼトニウムクロライド、ベンザルコニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、デカリニウムクロライド等が挙げられる。これらの配合量は、0.05〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。
【0021】
香料としては、メントール、カルボン、アネトール、サリチル酸メチル、オイゲノール、イソオイゲノール、リモネン、オシメン、n−デシルアルコール、シトロネロール、α−テルピネオール、メチルアセテート、シトロネリルアセテート、シネオール、リナロール、エチルリナロール、ワニリン、チモール、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、桂皮油、ピメント油、桂葉油、シソ油、冬緑油、チョウジ油、ユーカリ油等の1種又は2種以上を常用量用いる範囲で配合することができる。
【0022】
酵素としては、例えば、デキストラナーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、アミラーゼ、プロテアーゼ、溶菌酵素、スーパーオキサイドディスムターゼ等を常用量用いる範囲で配合することができる。
【0023】
着色剤としては、例えば、青色1号、黄色4号、緑色3号、赤色104号等を常用量用いる範囲で配合することができる。
【0024】
pH調整剤としては、クエン酸及びその塩類、リン酸及びその塩類、炭酸及びその塩類、リンゴ酸及びその塩類、酢酸及びその塩類等の有機酸及びその塩類を常用量用いる範囲で配合することができる。
【0025】
また、その他の成分としては、例えば、トリクロサン、ヒノキチオール、ビオゾール等のフェノール性化合物、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム等のアルカリ金属モノフルオロホスフェート、フッ化ナトリウム、フッ化第1錫等のフッ化物、トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシルアラントイン、ジヒドロコレスタノール、グリチルリチン酸類、グリチルレチン酸、ビサボロール、グリセロホスフェート、クロロフィル、ビタミンC、アスコルビン酸2−リン酸エステル、2−0−グルコシルアスコルビン酸等のビタミンC誘導体、塩化ナトリウム、グリシン、L−アルギニン、L−アスパラギン酸ナトリウム等を常用量用いる範囲で配合することができる。
【実施例】
【0026】
以下本発明を実施例により、具体的に説明する。尚、以下の実施例等において%及びppmは特に記載が無い限り質量基準である。
<抗菌性試験(最小発育濃度)>
予め10レベルに調整した菌液を、0.27mlマイクロプレートに入れ、各種濃度に調整した防腐剤を0.03ml添加してよく撹拌する。この混合溶液を37℃で24時間培養し、培養終了後、マイクロプレートの濁度を測定し、被験菌の生育を阻止した防腐剤の濃度を最小発育濃度(MIC)とし、試験1、試験2、及び比較試験1のそれぞれについて各種菌類にて試験した。使用した菌類及び試験サンプルは以下の通りである。
(細菌類)
Bacillus subtilis IFO3134 (枯草菌)
Escherichia coli ATCC14948 (大腸菌)
Pseudomonas aeruginosa IFO13736 (緑膿菌)
Staphylococcus aureus IFO13276 (黄色ブドウ球菌)
(真菌類)
Candida albicans (カンジタ菌)
Zygosaccharomyces rouxii (耐塩性酵母)
Aspergillus niger (クロコウジカビ)
(試験サンプル)
1,2−オクタンジオール(一般式(1)のRが炭素数6)
1,2−デカンジオール(一般式(1)のRが炭素数8)
パラオキシ安息香酸メチルエステル(メチルパラベン)
試験1
1,2−オクタンジオールの最小発育阻止濃度
枯草菌 2560ppm
大腸菌 1280ppm
緑膿菌 2560ppm
黄色ブドウ球菌 2560ppm
カンジタ菌 2000ppm
耐塩性酵母 2000ppm
クロコウジカビ 1000ppm
試験2
1,2−デカンジオールの最小発育阻止濃度
枯草菌 2560ppm
大腸菌 2560ppm
緑膿菌 2560ppm
黄色ブドウ球菌 2560ppm
カンジタ菌 2000ppm
耐塩性酵母 2000ppm
クロコウジカビ 2000ppm
比較試験1
パラオキシ安息香酸メチルエステル(メチルパラベン)の最小発育阻止濃度
枯草菌 2560ppm
大腸菌 1280ppm
緑膿菌 2560ppm
黄色ブドウ球菌 2560ppm
カンジタ菌 2000ppm
耐塩性酵母 2000ppm
クロコウジカビ 1000ppm
本発明に使用するジオール化合物は、比較品のメチルパラベンと、同等の抗菌作用を示した。
<刺激性試験>
皮膚に対する刺激性を評価するために、宮澤らの方法(日本化粧品技術者会誌18(2)、96−105(1984))に準じ、以下の方法にてタンパク変性試験を行った。すなわち、硫酸ナトリウム0.15mol/L及びpH7緩衝液としてリン酸ナトリウム0.05mol/Lを含む水溶液に、更に卵白アルブミン(和光純薬社製)を0.025質量%溶解させた溶液10mLに、試験サンプルを1mg混合した。この溶液の調製直後及び25℃で48時間放置後について、下記条件による液体クロマトグラフィーを用いて卵白アルブミン量を定量することによりタンパク変性率を求め、結果を試験3〜5、及び比較試験2〜4に示した。なお試験条件は以下の通りである。
(条件)
カラム:東ソー社製、商品名G−3000
検出器:UV検出器、検出波長220nm
溶離液:硫酸ナトリウム0.15mol/L及びリン酸ナトリウム0.05mol/Lを
含む水溶液
タンパク変性率(%)=100×(A−B)/A
A;調製直後の卵白アルブミン量
B;48時間放置後の卵白アルブミン量
試験3
1,2−オクタンジオール(一般式(1)のRが炭素数6)
タンパク変性率 6.2%
試験4
1,2−デカンジオール(一般式(1)のRが炭素数8)
タンパク変性率 7.3%
試験5
1,2−ドデカンジオール(一般式(1)のRが炭素数10)
タンパク変性率 8.5%
比較試験2
パラオキシ安息香酸メチルエステル(メチルパラベン)
タンパク変性率 21.2%
比較試験3
パラオキシ安息香酸ブチルエステル(ブチルパラベン)
タンパク変性率 24.3%
比較試験4
安息香酸ナトリウム
タンパク変性率 45.5%
本発明に使用するジオール化合物は、比較品よりタンパクを変性しないことがわかる。これより本発明品は、口腔内の粘膜に対して刺激が少なくなるといえる。
<実施例1〜3>
下記の配合で歯磨組成物を作り、10人のパネラーに実際に歯を磨いてもらい、刺激の有無について評価した。
(配合)
炭酸カルシウム 35質量%
ソルビット液(70%) 25質量%
プロピレングリコール 3質量%
グリセリン 5質量%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 2質量%
サッカリンナトリウム 0.1質量%
防腐剤 0.2質量%(種類については実施例1〜3参照)
水 バランス
実施例1
防腐剤:1,2−オクタンジオール(一般式(1)のRが炭素数6)
実施例2
防腐剤:1,2−デカンジオール(一般式(1)のRが炭素数8)
実施例3
防腐剤:1,2−ドデカンジオール(一般式(1)のRが炭素数10)
(結果)
実施例1〜3の歯磨組成物を、それぞれ5人のパネラーに継続して1週間使用してもらったところ、全員が刺激を感じなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
R−CH(OH)−CH2(OH) (1)
(Rは炭素数4〜20のアルキル基を表す。)で表される化合物を配合することを特徴とする歯磨組成物。
【請求項2】
一般式(1)で表される化合物がオクタンジオールであることを特徴とする、請求項1に記載の歯磨組成物。
【請求項3】
防腐剤として一般式(1)で表される化合物が0.1〜2質量%添加された、請求項1又は2に記載の歯磨組成物。

【公開番号】特開2006−104144(P2006−104144A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−294493(P2004−294493)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(000000387)旭電化工業株式会社 (987)
【Fターム(参考)】