説明

歯科インプラント及びその製造方法

本発明は、上面にマクロ多孔質表面を設けた新規のインプラント、及び、骨等の硬組織及び/又は軟組織に少なくとも部分的に挿入するための、構造化された、特に多孔質の表面を有する金属及び/又はセラミックインプラントを製造する方法を開示する。このインプラントは、少なくとも部分的に、冷間等方圧加圧、鋳造及び/又は射出成形(CIM、MIM)を用いてグリーン体に、その後の焼結によってインプラントに製造され、特に、焼結後、表面処理を必要としなくとも、マクロ多孔質表面が存在するように、焼結前に表面が改質及び/又は調製されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨への少なくとも部分的な挿入のための多孔質表面を有する、オステオインテグレーション特性を改善するインプラント、特に歯科インプラントに関する。この場合インプラントはセラミックであるが、金属でもよい。さらに、本発明は、そのようなインプラントの製造方法及びそのようなインプラントの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の硬組織及び/又は軟組織の傷ついた又は損傷した部分は、自己硬組織及び/又は軟組織を用いて復元することが一番である。このことは様々な理由で必ずしも可能ではないため、多くの場合、人工材料が一時的な(生分解性の、又は後で手術的に取り除くことが可能な)又は永久的な代替材料として用いられる。
【0003】
硬組織及び/又は軟組織にしっかりと固着されたインプラントは、事故、使用(use)、欠損又は疾病により損なわれた、又はそうでなければ変性した、特に咀嚼器官の各部をも含めた筋骨格系各部の一時的な又は永久的な代替品又は支持材として機能する。プラスチックの代替品として、又は機械的な補強のために体内に導入される、人工の化学的に安定した材料を、通常インプラントと呼ぶ(例えば、非特許文献1を参照)。体内における補助及び代替機能は、機械的特性及びインプラントの形状に基づいて引き継がれる。例えば、人工股関節及び人工膝関節、脊椎インプラント及び歯科インプラントは、長年臨床的にうまく使用されてきた。
【0004】
インプラントの固着、及び、インプラント表面/隣接組織の間の界面におけるインプラントの適合性にとって、インプラント表面は非常に重要である。使用される基材とはほとんど無関係に、滑らかな表面をもつインプラントは骨に不十分にしか固着されず(質の悪いオステオインテグレーション)、構造化された表面をもつインプラントは、周囲の硬組織又は軟組織との良好な機械的結合、及びもし表面が対応する形状の場合には良好な生物学的結合にもなることを、測定は示している(例えば、非特許文献2を参照)。
【0005】
インプラントにとって重要で主要な特徴である十分な内方成長に必要な時間は、オステオインテグレーション時間、又は歯科分野ではオッセオインテグレーション時間と呼ばれる。従って、骨質がインプラント表面と十分な力で永続的に結合するまで、つまり骨質がインプラント表面に実質的に一体化されるまでに経過する時間と記載される。
【0006】
表面処理及び表面構造化のために様々な方法が使用されており、例えば、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献2、非特許文献6及びこれらの中で引用された参考文献等を参照できる。
【0007】
最近では、インプラントは、各種材料、例えばチタン、ニオブ、ジルコニウム、タンタル、例えばチタン合金、インプラントスチール(implant steel)等の合金、CoCr合金、各種ポリマー、及び、例えば酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン等をベースとする各種セラミックスから製造される。
【0008】
機械的な処理方法に加え、例えば、鋳造と焼結を組み合わせてインプラントを製造することもできる。これらの方法は、例えば特許文献1から、金属に対してはMIM(金属粉末射出成形)として、セラミックスに対してはCIM(セラミック射出成形)として公知である。
【0009】
歯科インプラントの製造には、特許文献2に記載されているように、両方法を連結することもできる。さらに、例えば特許文献2に記載のように、MIM又はCIMにより製造されたインプラントの機械的処理との組み合わせも可能であり、焼結後に、ブラスト処理又は化学的表面改質(例えば酸エッチング)により、表面の後処理を施すことができる。
【0010】
多くのインプラント、特に歯科インプラントには、十分に低い弾性係数と比較的高い安定性を有することから、主にチタン及びその合金が使用される。しかしながら、測定によると、滑らかな表面構造を有するチタンインプラントは、骨に十分に固着されるとは言えず、粗面を有するインプラントの方は、引張り及び捩り強さに関して、骨とインプラントの結合が著しく改善されるのが分かった。
【0011】
従って、特許文献3では、第1の段階で、サンドブラストにより金属インプラントの表面にマクロ粗さ(macro−roughness)を与え、その後、酸浴槽での処理によりミクロ粗さ(micro−roughness)をその上に重ねることが提案されている。それにより、インプラント表面を、サンドブラストで粗面化し、その後、エッチング剤、例えばフッ化水素酸又は塩酸と硫酸の混合物を用いて処理することができる。この表面の構造化により、硬組織と金属の間の安全な結合が達成される。
【0012】
歯科インプラントの領域においては、特に目に見える前部口腔領域では、審美的な理由からチタンは適さない。何故なら、チタンは、硬組織周囲及び目に見える軟組織周囲と光学的に異なるからである。従って、これらの不都合を示さない別の材料を使用することが望ましい。酸化ジルコニウム、酸化チタン、又は酸化アルミニウムあるいはこれらの混合物のようなセラミック材料を用いると、特に、成形体を熱間等方圧的に加圧する、又は熱間等方圧的に後圧縮(post−compacted)する場合、極めて高い安定性を示す材料が得られる。例えば、ZrOを約92.1〜93.5重量%、Yを4.5〜5.525重量%、及びHfOを3.8〜2.2重量%有する、特定のイットリウム安定化酸化ジルコニウムセラミックが、特許文献4から公知である。他の一般的なセラミックスについては、特許文献4の導入部で検討されている。
【0013】
セラミックス、例えば、酸化ジルコニウムセラミック、酸化チタンセラミック、又は酸化アルミニウムセラミックを、硬組織又は軟組織中に固着されるインプラント製造用の材料として使用するには、セラミックの十分な機械的安定性のために、測定可能な気孔率なしに製造することが必要であり、これは通常同時に滑らかで極めて硬い表面をもたらすため、経費の無駄となる。
【0014】
滑らかなセラミック表面には、周囲の硬組織との直接的で、十分機械的に安定な結合を期待できない。従って、酸化ジルコニウム、酸化チタン、又は酸化アルミニウム、又はこれらの混合物等の純粋なセラミックスのインプラントは、硬組織との直接接触部では、今のところほとんど使用されていない。硬組織での固着には、例えば人工股関節又は口腔インプラント学においては、金属インプラント材料との構造的結合が使用されている。
【0015】
例えば、特許文献5には、インプラントにより支えられる人工歯冠根(crown stub)の歯科着色構造のための、予め加工された、酸化ジルコニウムからなる完全セラミックインプラント構造が記載されている。この場合、実際のインプラントは、表面構造化された金属チタンからなり、見える部分の審美性を、酸化ジルコニウムセラミックが示している。
【0016】
特許文献6には、酸化ジルコニウム又は酸化ジルコニウム/アルミニウム混合物で構成される、一体型基部からなる歯科インプラントが記載されている。表面処理に関する説明はなく、このようなインプラント構造が十分なオッセオインテグレーションを示すかどうかは疑わしい。
【0017】
特許文献7は、酸化ジルコニウムをベースにした一体型のインプラントを記載している。オステオインテグレーションの改良のためには、対応するインプラント部分に、例えばヒドロキシアパタイトのコーティングを設けなければならないだろう。
【0018】
特許文献8には、酸化ジルコニウムをベースとしたセラミックインプラントの記載がある。固着部分の外側表面は、少なくとも部分的に、浸食法により粗面化するか、ミクロ構造化するか、又はコーティングを設ける。この場合、サンドブラスト等のブラスト処理の後、化学的方法特にエッチング法を考慮しており、事前の機械的処理に対する後処理として、部分的に補足利用できる。特に好ましくは、まず、Alでのサンドブラスト等によるブラスト処理し、その後、リン酸、硫酸、塩酸、又はこれらの混合物を用いて、エッチング処理を施す。さらに、処理したインプラントは、適当な流体、例えば脱イオン水又はNaCl溶液内で保管できる。これにより、歯科インプラントの挿入前に、空気の成分により、表面が完全に又は部分的にその活性を失うことが避けられる。こうして、オステオインテグレーションが支援される。
【0019】
この場合の問題点は、このような複合処理では、酸化ジルコニウムセラミックが非常に硬いゆえ、粗さの深さが小さいままに留まること、及び、このセラミックは、リン酸、硫酸、塩酸、又はこれらの混合物での処理に関し、化学的に極めて安定であるということである。
【0020】
特許文献9には、ミクロ構造化とマクロ構造化を含む、2つの部分からなるセラミックインプラントと、インプラント表面の又はインプラントの選択された表面の、化学的又は生化学的/薬学的改質を開示している。この表面構造又は表面改質を達成するための方法については、具体的に記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】US2004/0038180
【特許文献2】EP1570804A1
【特許文献3】EP0388576A1
【特許文献4】US6,165,925
【特許文献5】DE19530981A1
【特許文献6】WO2004/096075A1
【特許文献7】FR2721196A1
【特許文献8】WO03/045268A1
【特許文献9】DE102005013200
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Roche Lexikon Medizin, Urban & Fischer(出版); 第5版2003年
【非特許文献2】医薬におけるチタン:材料科学、表面化学、工学、生物学的反応と医学的応用シリーズ:エンジリアニング材料、Brunette,D.M.; Tengvall,P.; Textor,M.; Thomsen,P.(編)
【非特許文献3】金属及びプラスチック仕上げの手引書(Maroney,Marion L.;1991)
【非特許文献4】半導体電着ハンドブック(応用物理、5)(Pandey,R.K.,ら;1996)
【非特許文献5】表面仕上げシステム:金属及び非金属仕上げハンドブック・ガイド(Rudzki,George J.;1984)
【非特許文献6】表面及び界面工学のための材料及び方法(NATO Asi Series.Series E、応用科学、115、Pauleau,Ives(編);1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
従って、本発明の目的の1つは、特に、先行技術の不都合を回避し、硬組織及び軟組織に素早く及び持続的に固着でき、それによって良好なオステオインテグレーション又はオッセオインテグレーションを示すインプラントを提供することである。従って、具体的には、骨等の硬組織及び/又は軟組織に少なくとも部分的に挿入するための、構造化された、特に多孔質表面を有する、改良された金属及び/又はセラミックインプラントを提供することである。さらに、その適切な製造方法を提供することである。
【0024】
好ましくは、歯科インプラントに関する。従って、製造方法は、特に歯科インプラントの製造方法であることが好ましい。
【0025】
しかしながら、同様に、歯科インプラント分野以外のインプラントに関する。従って、あるいは、製造方法は、歯科インプラント分野以外のインプラントの製造方法である。
【課題を解決するための手段】
【0026】
従って、特に、骨等の硬組織及び/又は軟組織に少なくとも部分的に挿入するための、構造化された、特に多孔質の表面を有する、金属及び/又はセラミックインプラントの製造方法に関し、該インプラントは、少なくとも領域的に(area−wise)、冷間等方圧加圧、鋳造及び/又は射出成形(CIM、MIM)によりグリーン体に、その後の焼結によってインプラントに製造される。ここで、本発明の方法は、焼結前に、表面を変え及び/又は調製し、焼結後、付加的な後処理をしなくとも、マクロ多孔質表面が存在することを特徴とする。しかしながら、このことは、適当又は必要である限りにおいて、付加的な後処理の可能性を排除するわけではなく、例えば、ミクロ多孔性を作るために、化学的な後処理をその後付け加えることは適当である。
【0027】
ここで、マクロ多孔質表面とは、トポグラフィー(トポロジー構造化)及び/又は2μmより大きい、好ましくは5μmより大きい、最も好ましくは20μmを超える平均サイズを有する孔が存在すると理解される。
【0028】
鋳造と焼結の組み合わせによる、又はMIM又はCIM、又は両方法の組み合わせによるインプラント製造の際に、インプラントの表面に適切な粗さ又は気孔率を達成する可能性については、このような歯科インプラントの製造方法の中では今のところ知られておらず、先行技術においては、焼結後の工程で表面の改質が行われる方法しか見つけられない。
【0029】
2つの方法CIMとMIMに関しては、例示的目的のために、WO97/38811及びUS5,482,671が参照でき、その内容をこの2つの方法に関する本発明の開示に明確に包含する。
【0030】
基本的に、このような製造方法では、通常、まず、出発材料、例えば混合物である粉末が供給されて始まる。その後、冷間等方圧加圧、鋳造、及び/又は射出成形が行われ、実際のセラミック又は実際の安定した金属複合材が形成される焼結工程が続く。従って、製造に際し、まず、人工的に製造された原材料から、いわゆるグリーン体(green parts or green bodies)が形成される。これらのグリーン体は通常、セラミック又は金属粉末の混合物に加え、湿った有機バインダも含む。まず、グリーン体を乾燥させ、その後、通常は、特に、高温で揮発性の、気化又は燃焼するバインダの全成分を、セラミックのグリーン体から取り除かなければならない。乾燥及び燃焼又は脱バインダ/コーキングの後、グリーン体の構造は接着力によりまとまっているだけで、さらなる工程段階では特に慎重な取り扱いが求められる。最後に、セラミックの焼成又は焼結が起こり、この段階でセラミック体は安定性を得る。
【0031】
第1の好ましい実施形態によると、本発明の方法は、冷間等方圧加圧、鋳造及び/又は射出成形後、最終焼結の前に、グリーン体の表面のブラスト処理によりグリーン体が改質されることを特徴とする。
【0032】
さらなる好ましい実施形態によると、本発明の方法は、研磨及び/又は表面緻密化ブラスト剤を、ブラスト処理用のブラスト剤として使用することを特徴とする。特に好ましくは、鋼球等の金属ブラスト剤、Al、ZrO、SiO、Ca−リン酸塩、TiO、NaO、CaO、MgO等のセラミックブラスト剤、様々な粒径及び砕片サイズ(splitter size)のナッツ殻又は米等の有機又は天然ブラスト剤、又は前記ブラスト剤の混合物が使用される。あるいは、又は付け加えて、ブラスト処理用のブラスト剤は、氷球又は氷粒子、ステアリン酸塩、ワックス、パラフィン等の有機ブラスト剤、又は、好ましくはカルバミド、メラミン樹脂、ビウレット、メラミン、炭酸アンモニウム及び重炭酸アンモニウム、又はこれらの混合物であってもよい。
【0033】
好ましくは、最終焼結の前に、最高600℃又は最高300℃までの温度で、残留物無しに取り除くことのできるブラスト剤が使用され、この除去は、好ましくは、酸化又は還元又は不活性雰囲気、特にO、N、NH、Ar下で又は真空中で行われる。この点で好ましいブラスト剤は、重炭酸アンモニウムであり、これは、65℃で既に素地の表面から昇華され、表面中に所望の構造を残す。
【0034】
通常、ブラスト剤の粒径は、0.01〜0.25mmの範囲であり、好ましくは10〜200μmの範囲、特に好ましくは50〜110μmの範囲である。好ましくは、0.2〜7バールの範囲、好ましくは0.2〜5バール、特に好ましくは0.8バールの範囲のブラスト処理圧が選択される。通常、ブラスト処理は、15〜65秒、好ましくは35〜55秒、特に好ましくは50秒の範囲の時間で行われる。この場合、ノズルからインプラントまでの距離は、25〜80mmの範囲、特に25〜60mm、特に好ましくは、30mmの範囲で選択されると有利であることが示されている。一般的に、ノズルの口径は0.8〜1.2mm、好ましくは0.8〜1.0mmの範囲であると有利である。フラットノズル、つまり、その出口の断面が円形でなく、細長い(縁の丸い又は丸くない矩形、楕円形、ほぼ楕円形)ノズルの使用が特に好ましい。この場合、ノズル開口部の幅は、好ましくは、高さより少なくとも0.2倍大きく、可能な幅は、1.2〜1.4mm、可能な高さは0.6〜1.0、好ましくは0.8mmの範囲である。
【0035】
さらなる好ましい実施形態によると、異なる粒径の2つのブラスト剤の混合物が、ブラスト剤として使用される。それにより、特に、製造される粗さが確実にほぼ二峰性分布となり、言い換えれば、微細構造と粗い構造が生じる。ここで、異なるブラスト剤とは、平均粒径に関して異なるという意味であって、ブラスト剤の材料に関して必ずしも異なる必要はない。例えば、ブラスト剤として、粒径の粗い分布を有する第1の成分と、同じ材料の、細かい平均粒径を有する第2の成分との混合物を使用することができる(1つの単一材料の明確な二峰性分布)。
【0036】
しかしながら、異なる平均粒径に加えて、例えば、有機の粗いブラスト剤と無機の微細ブラスト剤等の異なる材料が好ましい。
【0037】
好ましくは、混合物中の異なるブラスト剤の平均粒径の差は、5〜10倍の範囲である。
【0038】
従って、例えば、混合物中に、平均粒径が0.1〜0.2mmの範囲、好ましくは0.2〜0.8mmの範囲にある第1のブラスト剤があってよい。好ましくは、例えば果物の種(例えば桃の種及び/又は杏の種)である有機ブラスト剤が使用される。
【0039】
さらに、平均粒径が0.01〜0.1mmの範囲、好ましくは0.03〜0.9mmの範囲にある、第2のブラスト剤が、混合物中にあってよく、好ましくは、特に酸化アルミニウム(Al)をベースとする無機ブラスト剤である。
【0040】
一般的に、第2のブラスト剤に対する第1のブラスト剤の割合は、5:1〜1:5の範囲、好ましくは3:1〜1:1の範囲である。
【0041】
さらに、特に好ましくは、ブラスト処理は少なくとも2つの段階において行われ、1つの段階では、前述の混合物が使用され、次の段階では、好ましくは無機ブラスト剤である、粒径のより小さいブラスト剤だけが使用され、好ましくはこの第2の段階が少なくとも5〜10倍低い圧力で実施される。
【0042】
好ましくは、混合物を使用する段階では、2〜7バール、好ましくは3〜5バールの範囲のブラスト処理圧が使用される。さらに、この段階では、処理時間が15〜65秒の範囲、好ましくは25〜45秒の範囲である。さらに、ノズルからインプラントまでの距離は、25〜80mmの範囲が可能である。さらに、ノズルの口径は、1.2〜2.0mmの範囲が可能である。
【0043】
好ましくは、場合により存在する第2の段階では、0.2〜0.8バールの範囲、好ましくは0.2〜0.4バールの範囲のブラスト処理圧が使用できる。さらに、処理時間は、10〜35秒の範囲、好ましくは15〜25秒の範囲とできる。さらに、ノズルからインプラントまでの距離は、30〜50mmの範囲が可能である。さらに、ノズルの口径は0.8〜1.2mmの範囲が可能である。
【0044】
既に述べたように、多孔質表面は少なくとも領域的に、焼結後の侵食性の化学的又は物理的処理を用いて、さらに改質することができる。
【0045】
例えば、これに関しては、例えば濃硫酸、及び/又は塩酸、及び/又は他の強酸を用いて、昇温(例えば100℃〜300℃)で1分を超える時間、酸処理を施すのが好ましい。
【0046】
しかしながら、これに関しては、この後処理は、少なくとも領域的に行われる溶融塩改質を含み、好ましくは、溶融塩によりインプラントの表面をエッチングすることによって構造化し、特に好ましくは、溶融塩でのエッチング時には、実質的に材料の侵食だけが起こる。
【0047】
特に、無機ブラスト剤の使用に関しては、混合物中の微細なブラスト剤として使用する場合は特に、溶融塩での後処理により、インプラント上に残っているいかなるブラスト剤も確実に取り除かれる。言い換えれば、粗いブラスト剤は焼結時に既に取り除かれているが、この処理により、通常、グリーン体の焼結後も表面に残ってしまう微細なブラスト剤も、ほぼ残留物を残さずに取り除くことができる。
【0048】
溶融塩は、アルカリ及び/又はアルカリ土類の硝酸塩、水酸化物又はハロゲン、又はこれらの塩の混合物の溶融塩であってよい。好ましくは、溶融塩は、少なくとも1つの水酸化物、特に、少なくとも1つのアルカリ/アルカリ土類水酸化物を有する溶融塩であるか、又は溶融塩は、もっぱら、1以上の水酸化物、特に1以上のアルカリ及び/又はアルカリ土類水酸化物からなる溶融塩である。
【0049】
この場合、溶融塩は、水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウム、及び/又は水酸化リチウムの溶融塩であってよい。
【0050】
溶融塩は、少なくとも1つの塩化物を有する、特に少なくとも1つのアルカリ及び/又はアルカリ土類塩化物を有する溶融塩であってもよく、又は溶融塩は、もっぱら、1以上の塩化物、特に1以上のアルカリ及び/又はアルカリ土類塩化物からなる溶融塩であってもよい。
【0051】
好ましくは、表面改質用の溶融塩は、好ましくは2:1〜0.5:1、好ましくは1.5:1〜0.75:1、特に好ましくは1:1又は7:5の割合の、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの2成分溶融塩、又は塩化カリウムと塩化リチウムの2成分溶融塩であり、この工程は、好ましくは100〜600℃の範囲、特に150〜250℃の範囲の温度で実施される。
【0052】
溶融塩でのこの処理においては、表面を、少なくとも領域的に、10分〜300時間、好ましくは少なくとも2時間、好ましくは10〜100時間、特に25〜35時間、溶融塩にさらすことができる。
【0053】
しかしながら、好ましくは、インプラントはセラミックからなり、また既に述べたように金属ベースであってもよいし、又はこれら2つの材料の組み合わせを含んでいてもよい。
【0054】
特に好ましくは、該インプラントは、場合により付加的に酸化イットリウム及び酸化ハフニウムが加えられた酸化ジルコニウムを含むインプラントであり、及び/又は、場合により付加的に二酸化ケイ素、酸化鉄(III)及び/又は酸化ナトリウムを含む酸化アルミニウムを含むインプラントであり、及び/又は、場合により付加的に二酸化ケイ素、酸化鉄(III)及び/又は酸化ナトリウムを含む窒化ケイ素を含むインプラントであり、及び/又は、酸化チタンを含むインプラントであり、及び/又は、前記物質の混合物から形成されるインプラントである。
【0055】
あるいは、又はさらに、本発明の方法は、出発材料をグリーン体にするプレス、鋳造又は射出成形の前に、冷間等方圧加圧、鋳造、及び/又は射出成形型の表面を改質することによって、冷間等方圧加圧、鋳造、及び/又は射出成形の間に、ブラスト剤によりグリーン体の表面が変えられる、及び/又は調製されるように行うことができる。また、出発材料に充填材料を加えることにより、冷間等方圧加圧、鋳造及び/又は射出成形の間に、グリーン体は、少なくともその表面を、焼結前に変えられる及び/又は調製されることも可能である。充填剤を用いての型表面の改質は、充填剤を型の表面に付着させることにより行うことができる。型表面へのブラスト剤又は充填材料の一時的な結合は、バインダ、例えばPVA等の有機バインダ、又はワックスを用いて行うことができる。
【0056】
どちらの場合でも、これらの処理は、冷間等方圧加圧、鋳造又は射出成形型の表面の構造が、グリーン体の表面で再現されるように、又は、その後取り除かれる充填材料が表面を調製するように行われる。
【0057】
好ましくは、充填材料は、特に好ましくは、第1の段階で充填材料とともに出発材料が型に供給され(好ましくは型の中のインプラントの将来の(future)表面領域に配置されるように)、その後第2の段階で充填材料なしに出発材料が供給されることによって、表面領域だけに選択的に配置される。いずれにせよ、充填材料が全質量中にあることにより多孔性を全体に設ける、インプラント製造分野ではない他の分野でしか知られていない方法(例えばDE10224671C1参照)とは異なり、このような充填剤を中心部に入れずにインプラントを形成することが好ましい。なぜなら、そうでなければ、中心部での十分な安定性が得られないからである。
【0058】
好ましくは、充填材料は、高融点有機又は無機化合物、低融点金属、特に好ましくは、カルバミド(CH(HN−CO−NH)、ビウレット(C)、メラミン(C)、メラミン樹脂、炭酸アンモニウム((NH)COO)又は重炭酸アンモニウム(NHHCO)又はこれらの混合物である。充填剤として可能な材料に関しては、DE10224671C1の開示を参照し、この点に関し本開示に明確に包含される。
【0059】
さらに、本発明は、上記方法により製造可能な又は製造されたインプラントに関する。
【0060】
さらに、本発明は、歯科インプラント、特に歯冠根、ネジ付き部分、ネジ及び/又はピンとしての、該インプラントの使用に関する。
【0061】
本発明のさらなる好ましい実施形態は、従属項に記載される。
【0062】
本課題は、要約すれば、構造化された又は多孔質の表面が、CIM又はMIM工程の間に、少なくとも領域的に、グリーン体、即ち鋳造又は射出形成後で最終焼結前の中間生成物が表面改質されるか、又は表面改質により生じることによって解決される。本課題は、特定に処理された、および特定の処理によって特定の性質を有するインプラント表面によって解決され、この処理は、インプラント表面全体にわたっても、インプラント表面の一部の構成部分でも実施することができる。
【0063】
本発明の範囲においては、主に、セラミック材料をベースとするインプラントに関する。しかしながら、同様に、以下の方法を用いて、金属ベースのインプラントを構造化することも可能である。従って、CIM又はMIM工程の間に、少なくとも領域的に、いわゆるグリーン体、即ち、冷間等方圧加圧、鋳造又は射出形成後で最終焼結前の中間生成物が表面改質されるか、又は表面改質により生じる、構造化された又は多孔質の表面を有する金属インプラントを提供することもできる。さらに、表面構造の最適化は、熱処理(脱バインダ、焼結、HIP)により可能である。従って、以下すべての実施形態は、対応して、例えばチタン、亜鉛、ニオブ、タンタル、又は対応する合金をベースとしたインプラント等の、金属材料にも同様に使用することができた。
【0064】
従って、本発明の核心は、驚くべきことに、特にセラミックベースのグリーン体(泥漿(slip))、及び金属ベースのグリーン体(泥漿)を、それらがその後優れたオステオインテグレーション又はオッセオインテグレーションを示すように、異なるブラスト剤を使用して焼結前に表面改質できるとわかったことにある。このように改質された表面のオステオインテグレーション又はオッセオインテグレーションは、酸改質した表面、及び/又は、特に、単にサンドブラストによりマクロ粗さを設けた機械的に製造したセラミックスの表面、又は、CIMにより製造し、最終焼結後にサンドブラストによりマクロ粗さを設けたセラミックスの表面の対応する有用性より良好であることがわかる。
【0065】
従って、いわゆるグリーン体は、最終焼結前、又は好ましくは表面の脱バインダ前の熱処理の前に、各種ブラスト剤でブラスト処理することにより構造化される。例えばこれは、規定のブラスト工程により行うことができる。さらに、鋳造又は射出成形の前に、鋳造又は射出成形型にブラスト剤を塗布したり、又は、鋳造又は射出成形の前に鋳造又は射出成形型をブラスト剤で処理したりすることも可能である。適切なブラスト剤は、所望する表面粗さ又は気孔率に応じて、公知の研磨又は表面緻密化剤又は天然ブラスト剤のすべてである。この場合、本発明により製造された表面は、使用したブラスト剤の成分を部分的に一体化して含んでもよい。有利にも、本発明によると、最終焼結の前に残留物なく取り除くことができるさらなるブラスト剤を使用することができる。このような適切なブラスト剤は、例えば、いわゆる有機ブラスト剤である。これらのブラスト剤は、最終焼結の前、又は好ましくは脱バインダ前の熱処理の前に、最高600℃又は最高300℃までの温度で、残留物なしに取り除くことができる。この場合、酸化又は還元又は不活性雰囲気中でこの処理を行うことが有利である。重炭酸アンモニウムは特に有利であり、65℃で既にグリーン体の表面から昇華し、表面に所望の構造を残す。ブラスト剤の大きさ又は粒径により、表面の構造化の大きさが決まる。標準的な粒径は10〜200μm、好ましくは50〜110μmの範囲である。これらのブラスト剤は、純粋に(purely)表面構造化効果をもたらす(それにより、本発明により製造された表面にはブラスト剤の残留物がない)。この場合、結果として生じるトポロジー的構造は、対応する条件設定で対応する材料を選択する場合、マクロ粗さ、言い換えると1μm〜50μm、好ましくは1μm〜10μmの大きさを持つ粗さに対応する。
【0066】
このマクロ構造化された表面は、例えば、CH01339/06等に記載の溶融塩中での処理を用いて、さらにミクロ構造化できる。
【0067】
例えばアパタイトのような付加的なコーティングは必要でなく、好ましくは存在もしない。
【0068】
セラミックは各種タイプであってよく、これらは、先行技術より公知である。例えば、場合により付加的に酸化イットリウム及び/又は酸化ハフニウムを含む、酸化チタン又は酸化ジルコニウムを含むセラミックを使用できる。この点においては、例えばUS6,165,925を参照でき、その開示は、酸化ジルコニウムをベースとする該セラミックスの組成物及び製造に関し、本明細書の開示により明確に包含される。
【0069】
あるいは、場合により付加的に二酸化ケイ素、酸化鉄(III)、及び/又は酸化ナトリウムを加えた、酸化アルミニウムを含むセラミックスを使用することができる。さらに、場合により付加的に二酸化ケイ素、酸化鉄(III)、及び/又は酸化ナトリウムを加えた、窒化ケイ素を含むセラミックを使用することができる。また、前記材料をベースとする混合物又は多層系をベースとするセラミックスも可能である。
【0070】
好ましい実施形態によると、本発明のインプラントは、歯科インプラントであり、移植状態で骨及び/又は軟組織にさらされる表面が、記載の方法を用いて、少なくとも領域的にマクロ構造化され、このマクロ構造には、場合により、例えば溶融塩又は酸改質されたミクロ構造が施されている(underlaid)。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】射出成形後、焼結前に有機ブラスト剤でブラスト処理した後のセラミックインプラントの表面トポグラフィーを、異なる解像度で示した図である。
【図2】射出成形後、焼結前に有機ブラスト剤でブラスト処理した後のセラミックインプラントの表面トポグラフィーを、異なる解像度で示した図である。
【図3】射出成形後、焼結前に有機ブラスト剤でブラスト処理した後のセラミックインプラントの表面トポグラフィーを、異なる解像度で示した図である。
【図4】射出成形後、焼結前に無機ブラスト剤でブラスト処理した後のセラミックインプラントの表面トポグラフィーを、異なる解像度で示した図である。
【図5】射出成形後、焼結前に無機ブラスト剤でブラスト処理した後のセラミックインプラントの表面トポグラフィーを、異なる解像度で示した図である。
【図6】射出成形後、焼結前に無機ブラスト剤でブラスト処理した後のセラミックインプラントの表面トポグラフィーを、異なる解像度で示した図である。
【図7】エッチング前の実施例3の表面写真を、異なる解像度で示した図である。
【図8】エッチング後の実施例3の表面写真を、異なる解像度で示した図である。
【図9】エッチング前の実施例4の表面写真を、異なる解像度で示した図である。
【図10】エッチング後の実施例4の表面写真を、異なる解像度で示した図である。
【図11】ブラスト処理後の、グリーン体の表面写真を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0072】
以下、本発明を、図を参照して、実施形態によりさらに説明する。
本発明は、特にセラミック材料及び金属材料から製造されるインプラントの表面を構造化する可能性を記載する。表面改質の目的は、硬組織内でのインプラントの優れた固着、硬組織とインプラント表面の間の優れた接合、軟組織とインプラント表面の間の優れた接合、及び、インプラント表面と硬組織及び/又は軟組織の間の界面でのインプラント表面の優れた相互作用である。
【0073】
インプラント用の酸化ジルコニウム、酸化チタン、及び/又は酸化アルミニウム、及び/又は混合セラミックスの製造は、CIM又はMIMを用いた方法も同様に、基本的に先行技術から公知であり、さらに論じる必要はない。本明細書においては、上記文献の開示を参照する。
【0074】
好ましくは、本発明は、硬組織及び/又は軟組織に固着され、事故、使用、欠損、又は疾病により損傷を受けた又は変性した、咀嚼器官、特にその対応する美的側面をも有する歯科領域を含めた筋骨格系各部の、一時的又は永久的な代替品又は支持材として機能するインプラントに関する。従って、例えば、人工股関節及び人工膝関節、脊椎インプラント及び歯科インプラントが、多年にわたり臨床的に使用されてきた。改良されたオステオインテグレーション特性又はオッセオインテグレーション特性の問題は、インプラントの(セラミック)表面の対応する表面構造又は表面処理による本発明によって解決され、該処理は、インプラント表面全体にわたって実施することも、インプラント表面の一部領域で実施することもできる。このような表面の構造化により、好ましくは酸化ジルコニウム、酸化チタン、又は酸化アルミニウム、又はこれらの混合物等の、本来なら(otherwise)生物学的に不活性なセラミックスを、硬組織及び/又は軟組織に一体化することができる。
【0075】
例えば歯科インプラントの、骨での構造的で機能的な固着は、通常、マクロ粗さ、及び/又は、場合により付加的なミクロ粗さを付与することにより達成される。マクロ粗さは、例えば、先行技術による機械的ブラスト工程によって得ることができ、その後、例えば、プラズマ技術による付加的な工程で、又は表面の化学的又は溶融塩エッチングによる減法的工程でミクロ粗さを得ることができる。骨でのインプラントの固着の程度は、機械的測定により決定できる。多数の試験が、骨でのインプラントの十分な固着は、インプラントの表面状態、特に表面の粗さに大きく依存することを示した。
【0076】
本発明は、セラミックス、好ましくは酸化チタン、酸化ジルコニウム、又は酸化アルミニウム、又はこれらの混合物から製造されるインプラントの優れたオステオインテグレーションのために、好ましくは有効表面拡大のための特定の新規に開発された粗さについて記載する。本発明によるこの生物学的に有効な表面は、例えばエッチング又は同等の、付加的な機械的後処理、又は、前化学的処理と共に、又は前記方法の組み合わせと共に、CIM又はMIM工程の間の、鋳造又は射出成形後、最終焼結前に、グリーン体をブラスト処理することにより製造することができる。
【0077】
本発明による表面は、例えば、対応する表面構造化がもたらされるまで、各種ブラスト剤でブラスト処理することにより、最終焼結前にグリーン体の表面を処理することによって製造できる。これは例えば、規定のブラスト工程により行うことができる。
【0078】
さらに、鋳造又は射出成形の前に、等方圧加圧又は鋳造又は射出成形型にブラスト剤を塗布したり、又はそれをブラスト剤で処理したりすることができる。
【0079】
上述のように、所望する表面の粗さ又は気孔率に応じて、異なる粒径の、金属ブラスト剤、セラミックブラスト剤、又は天然ブラスト剤等の公知の研磨又は表面緻密化ブラスト剤のすべてが適している。この場合、本発明により製造された表面は、使用するブラスト剤の成分を、部分的に一体化して含んでよいことも分かる。有利にも、最終焼結の前に残留物なしに取り除くことのできる、さらなるブラスト剤を使用できる。このような適切なブラスト剤は、例えば、氷(球又は粒子)、有機ブラスト剤、又は特にカルバミド、メラミン樹脂、ビウレット、メラミン、炭酸アンモニウム及び重炭酸アンモニウムである。これらのブラスト剤は、最終焼結の前に、又は、好ましくは脱バインダの前の熱処理の前に、最高600℃までの温度で、残留物なしに取り除かれる。この場合、この処理を、酸化又は還元又は不活性雰囲気中で行うことが有利である。ブラスト剤の大きさにより表面構造化の大きさが決まる。従って、2つの異なる大きさを有する、2つの異なるブラスト剤の混合物は、微細構造及び粗い構造の、2つの異なる構造−大きさ−部分を有する「バイモーダル」な構造化をもたらす。
【0080】
シリーズ1
実施例1
長さ10mm、直径4mmの円筒状歯科インプラントの形をしたグリーン体を、イットリウム安定化酸化ジルコニウムパウダーから射出成形した。射出成形後、焼結前に、表面を、粒径100〜150μmの桃及び杏の種の混合物を用いて、0.8バールの圧力で50秒間ブラスト処理した。出来上がった表面を、走査電子顕微鏡で観察した。ブラスト処理により生まれた表面トポグラフィーを、解像度を変えて、図1,2,3に示す。その結果作り出されたマクロ粗さは、焼結後のインプラントの良好なオッセオインテグレーションにつながる。
【0081】
実施例2
長さ10mm、直径4mmの円筒状歯科インプラントの形をしたグリーン体を、イットリウム安定化酸化ジルコニウムパウダーから射出成形した。射出成形後、焼結前に、表面を、粒径約250μmの酸化アルミニウムを用いて、0.8バールの圧力で50秒間ブラスト処理した。出来上がった表面を、走査電子顕微鏡で観察した。ブラスト処理により生まれた表面トポグラフィーを、解像度を変えて、図4,5,6に示す。その結果作り出されたマクロ粗さは、焼結後のインプラントの良好なオッセオインテグレーションにつながる。
【0082】
シリーズ2
実施例の第2シリーズでは、グリーン体を、粒径の異なる2つの異なる材料を含むブラスト剤を用いて、焼結前に処理した。この場合、一般的には、以下の工程管理とパラメータ設定が好ましい。
好ましいパラメータ:
粒径0.3〜0.6mmの有機材料(対応して磨りつぶした桃の種及び/又は杏の種)を2/3体積、及び、Al−220メッシュ(粒径約0.07mm)を1/3体積有する第1の通路。両成分は混合物として存在し、同時にブラスト処理される。
圧力: 3バール〜5バール
暴露−ブラスト時間: 25秒〜45秒
距離、ノズル〜インプラント: 25mm〜80mm
ノズルの口径: 1.2mm〜2.0mm
Alメッシュ220を有する第2の通路、これにより、有機剤のより粗い残留物を取り除くことができる。
圧力: 0.2バール〜0.4バール
暴露−ブラスト時間: 15秒〜25秒
距離、ノズル〜インプラント: 30mm〜50mm
ノズルの内径: 0.8mm〜1.0mm
第2の通路に対し、特に好ましくは、
圧力: 0.2バール
暴露−ブラスト時間: 20秒
距離、ノズル〜インプラント: 30mm
ノズルの口径: 1.0mm
【0083】
一般的に、以下のパラメータを選択できる:
粒径0.3〜0.6mmの有機材料(対応して磨りつぶした桃の種及び/又は杏の種)を2/3体積、及び、Al−220メッシュを1/3体積有する第1の通路。
圧力: 2バール〜7バール
暴露−ブラスト時間: 15秒〜65秒
距離、ノズル〜インプラント: 25mm〜80mm
ノズルの口径: 1.2mm〜2.0mm
Alメッシュ220を有する第2の通路。
圧力: 0.2バール〜0.8バール
暴露−ブラスト時間: 10秒〜35秒
距離、ノズル〜インプラント: 30mm〜50mm
ノズルの口径: 0.8mm〜1.2mm
【0084】
実施例3
長さ10mm、直径4mmの円筒状歯科インプラントの形をしたグリーン体を、イットリウム安定化酸化ジルコニウムパウダーから射出成形した。射出成形後、焼結前に、表面を、粒径0.3〜0.6mmの桃及び杏の種2/3体積(有機剤)、及び、Al−220メッシュ1/3体積の混合物を用いて、3.0バールの圧力で45秒間ブラスト処理した。
【0085】
その後、Alメッシュ220を有する第2のブラスト通路で、0.8バールの圧力で50秒間処理し、より粗い有機剤の残留物を取り除くことができる。
【0086】
出来上がった表面を、走査電子顕微鏡で観察した。ブラスト処理により生まれた表面トポグラフィーを、解像度を変えて、図7(a〜c)に示す。それにより作り出されたマクロ粗さは、焼結後のインプラントの良好なオッセオインテグレーションにつながる。
【0087】
ネジ付ベースで測定した、エッチング前の状態の、このように作り出されたインプラント表面の粗さ測定の値は、以下の値である。
測定値(μm)
Sa Sq St Sk Rt Rq Ra
1.05 1.25 6.42 3.38 8.67 1.41 1.10
【0088】
測定パラメータ(以下の測定全てにおいて使用):
カットオフ=110μmのガウスフィルタ;
約770μm×770μmの測定フィールド、対物レンズL20X、ステッチング処理(Stitchen)1×1;
共焦点顕微鏡3次元測定法、装置:白色光顕微鏡μ−surf
【0089】
その後、このように製造したインプラントに、50%KOHと50%LiOH(重量パーセント)からなる溶融塩中で、200℃にて30時間エッチング処理を施した。それにより、表面構造は、図8(a〜b)から分かるように、著しく変化した。
【0090】
ネジ付ベースで測定した、エッチング後の状態のインプラント表面の粗さ測定の値は、以下の値である。
測定値(μm)(エッチング後)
Sa Sq St Sk Rt Rq Ra
1.12 1.41 7.57 7.87 16.81 3.91 1.23
【0091】
実施例4
長さ10mm、直径4mmの円筒状歯科インプラントの形をしたグリーン体を、イットリウム安定化酸化ジルコニウムパウダーから射出成形した。射出成形後、焼結前に、表面を、粒径0.3〜0.6mmの桃及び杏の種2/3体積(有機剤)、及び、Al−220メッシュ1/3体積の混合物を用いて、3.0バールの圧力で25秒間ブラスト処理した。
【0092】
その後、Alメッシュ220を有する第2のブラスト通路で、0.2バールの圧力で20秒間処理し、より粗い有機剤の残留物を取り除くことができる。
【0093】
出来上がった表面を、走査電子顕微鏡で観察した。ブラスト処理により生まれた表面トポグラフィーを、解像度を変えて、図9(a〜b)に示す。それにより作り出されたマクロ粗さは、焼結後のインプラントの良好なオッセオインテグレーションにつながる。
【0094】
ネジ付ベースで測定した、エッチング前の状態のインプラント表面の粗さ測定の値は、以下の値である。
測定値(μm)(エッチング前)
Sa Sq St Sk Rt Rq Ra
1.07 1.31 6.42 3.53 6.93 1.43 1.03
【0095】
その後、このように製造したインプラントに、50%KOHと50%LiOH(重量パーセント)からなる溶融塩中で、200℃にて30時間エッチング処理を施した。それにより、表面構造は、図10(a〜b)からわかるように、著しく変化した。
【0096】
ネジ付ベースで測定した、エッチング後の状態のインプラント表面の粗さ測定の値は、以下の値である。
測定値(μm)(エッチング後)
Sa Sq St Sk Rt Rq Ra
1.95 1.53 17.39 4.17 41.11 4.58 1.80
【0097】
図11に、焼結前のグリーン体を示すが、どのようにブラスト剤の有機及び無機残留物が表面にまだ存在しているかを見ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨等の硬組織及び/又は軟組織への少なくとも部分的な挿入のための、構造化された、特に多孔質の表面を有する金属及び/又はセラミックインプラントの製造方法であって、前記インプラントが、少なくとも領域的に(area−wise)、冷間等方圧加圧、鋳造及び/又は射出成形(CIM、MIM)によりグリーン体に、その後の焼結によってインプラントに製造される方法において、
焼結前に、前記表面が、焼結後マクロ多孔質の及び/又はマクロ構造化された表面が存在するように変えられ及び/又は調製されることを特徴とする方法。
【請求項2】
焼結後、前記グリーン体は、付加的な後処理をしなくとも、マクロ多孔質の及び/又はマクロ構造化された表面を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グリーン体は、前記冷間等方圧加圧、鋳造及び/又は射出成形の後、最終焼結の前に、グリーン体の表面のブラスト処理により改質されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ブラスト処理用のブラスト剤は、研磨及び/又は表面緻密化ブラスト剤であり、特に好ましくは、鋼球等の金属ブラスト剤、Al、ZrO、SiO、Ca−リン酸塩、TiO、NaO、CaO、MgO等のセラミックブラスト剤、様々な粒径及び破片サイズ(splitter size)のナッツ殻又は米等の有機又は天然ブラスト剤、又は前記ブラスト剤の混合物であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ブラスト処理用のブラスト剤は、氷球、氷粒子、ステアリン酸塩、ワックス、パラフィン等の有機ブラスト剤、又は、好ましくはカルバミド、メラミン樹脂、ビウレット、メラミン、炭酸アンモニウム及び重炭酸アンモニウム、又はこれらの混合物であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記ブラスト剤は、前記最終焼結の前に、最高600℃までの温度で、残留物無しに取り除くことができ、この除去が、好ましくは、酸化又は還元又は不活性雰囲気、特に好ましくはO、N、NH、Ar、これらの混合物下で、又は真空中で行われることを特徴とする、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記重炭酸アンモニウムは、65℃で既にグリーン体の表面から昇華され、表面中に所望の構造を残すことを特徴とする、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記ブラスト剤の粒径は、0.01〜0.25mm、及び/又は0.01〜0.2mmの範囲にあることを特徴とする、請求項4〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ブラスト処理圧は、0.2〜7バールの範囲、好ましくは0.2〜5バール、特に好ましくは0.8バールの範囲にあり、及び/又は前記ブラスト処理は、15〜65秒、好ましくは35〜55秒、特に好ましくは50秒の範囲の時間で行われ、好ましくは、ノズルの口径が0.8〜1.2mmの範囲、好ましくは0.8〜1.0mmの範囲では、ノズルからインプラントまでの距離が、25〜80mmの範囲、特に25〜60mm、特に好ましくは、30mmの範囲で選択されることを特徴とする、請求項3〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
異なる粒径の2つの異なるブラスト剤の混合物が、ブラスト剤として使用され、前記異なるブラスト剤の平均粒径の差が、好ましくは5〜10倍の範囲にあることを特徴とする、請求項3〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記混合物中に、0.1〜0.2mmの範囲、好ましくは0.2〜0.8mmの範囲の平均粒径を有する第1のブラスト剤が存在し、好ましくは、特に果物の種である有機ブラスト剤であり、及び、前記混合物中に、0.01〜0.1mmの範囲、好ましくは0.03〜0.9mmの範囲の平均粒径を有する第2のブラスト剤が存在し、好ましくは、特に酸化アルミニウム(Al)をベースとする無機ブラスト剤であり、好ましくは、前記第2のブラスト剤に対する前記第1のブラスト剤の割合が、5:1〜1:5の範囲、好ましくは3:1〜1:1の範囲にあることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ブラスト処理は2段階で行われ、第1の段階では、前記混合物が使用され、第2の段階では、好ましくは無機ブラスト剤である、粒径の小さいブラスト剤だけが使用され、好ましくは前記第2の段階は少なくとも5〜10倍低いブラスト処理圧で実施されることを特徴とする、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記混合物を使用する段階では、2〜7バール、好ましくは3〜5バールの範囲の圧力が使用され、及び/又は前記処理時間が15〜65秒の範囲、好ましくは25〜45秒の範囲であり、及び/又は前記ノズルからインプラントまでの距離が25〜80mmの範囲であり、及び/又は前記ノズルの口径が1.2〜2.0mmの範囲であって、
場合により存在する第2の段階では、圧力が0.2〜0.8バールの範囲、好ましくは0.2〜0.4バールの範囲にあり、及び/又は前記処理時間が10〜35秒の範囲、好ましくは15〜25秒の範囲であり、及び/又は前記ノズルからインプラントまでの距離が30〜50mmの範囲であり、及び/又は前記ノズルの口径は0.8〜1.2mmの範囲であることを特徴とする、請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記焼結後、前記多孔質表面が少なくとも領域的に、侵食性の化学的又は物理的処理を用いてさらに改質されることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記後処理は少なくとも領域的に実施される溶融塩改質を含み、前記インプラントの表面を溶融塩によりエッチングすることによって構造化し、特にエッチング時には、実質的に材料の侵食だけが起こることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記溶融塩は、アルカリ及び/又はアルカリ土類の硝酸塩、水酸化物又はハロゲン、又はこれらの塩の混合物の溶融塩であることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記溶融塩は、少なくとも1つの水酸化物、特に少なくとも1つのアルカリ/アルカリ土類水酸化物を有する溶融塩であり、又は前記溶融塩は、もっぱら、1以上の水酸化物、特に1以上のアルカリ及び/又はアルカリ土類水酸化物からなる溶融塩であることを特徴とする、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記溶融塩は、水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウム、及び/又は水酸化リチウムの溶融塩であることを特徴とする、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記溶融塩は、少なくとも1つの塩化物、特に少なくとも1つのアルカリ及び/又はアルカリ土類塩化物を有する溶融塩であり、又は前記溶融塩は、もっぱら、1以上の塩化物、特に1以上のアルカリ及び/又はアルカリ土類塩化物からなる溶融塩であることを特徴とする、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項20】
前記溶融塩は、2:1〜0.5:1、好ましくは1.5:1〜0.75:1の範囲、特に好ましくは1:1又は7:5の範囲の割合の、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの2成分溶融塩、又は塩化カリウムと塩化リチウムの2成分溶融塩であり、好ましくは100〜600℃の範囲、特に150〜250℃の範囲の温度が使用されることを特徴とする、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項21】
前記表面は、少なくとも領域的に10分〜300時間、好ましくは少なくとも2時間、好ましくは10〜100時間、特に25〜35時間にわたって、溶融塩にさらされることを特徴とする、請求項15〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記インプラントはセラミックスからなることを特徴とする、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記インプラントは場合により酸化イットリウム及び酸化ハフニウムが加えられた酸化ジルコニウムを含み、及び/又は、前記インプラントは場合により二酸化ケイ素、酸化鉄(III)及び/又は酸化ナトリウムが加えられた酸化アルミニウムを含み、及び/又は、前記インプラントは場合により二酸化ケイ素、酸化鉄(III)及び/又は酸化ナトリウムが加えられた窒化ケイ素を含み、及び/又は、前記インプラントは酸化チタンを含み、及び/又は、前記インプラントは前記材料の混合物から形成されることを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
出発材料をグリーン体にするプレス、鋳造又は射出成形の前に、特に充填材料の形のブラスト剤を用いて、冷間等方圧加圧、鋳造、及び/又は射出成形型の表面を改質することによって、冷間等方圧加圧、鋳造、及び/又は射出成形の間に、前記グリーン体の表面が変えられる、及び/又は調製されることを特徴とする、請求項1〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
特に好ましくは、前記グリーン体のプレス、鋳造又は射出成形後、前記充填材料が前記グリーン体の表面上又は中に埋め込まれるように、前記出発材料をグリーン体にするプレス、鋳造又は射出成形の前に、前記射出成形型の内面に充填材料を設けることを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記射出成形型の内面に、PVA又はワックス等の好ましくは有機バインダを用いて、充填材料を塗布することを特徴とする、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
前記グリーン体は、充填材料を前記出発材料に加えることにより、前記冷間等方圧加圧、鋳造及び/又は射出成形の間に、少なくともその表面を、焼結前に変えられる又は/及び調製されることを特徴とする、請求項1〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記充填材料は、表面領域にだけ選択的に配置され、特に好ましくは、第1の段階では、充填材料とともに出発材料が型に供給され、その後第2の段階では充填材料なしで出発材料が供給されることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記充填材料は、好ましくは、0.01〜0.25mm及び/又は0.01〜0.2mm、特に好ましくは0.05〜0.11mmの範囲の粒径を有する、好ましくは請求項10又は11に記載の混合物という意味での、粒状に形成された高融点有機又は無機化合物、低融点金属、特に好ましくは、カルバミド、ビウレット、メラミン、メラミン樹脂、炭酸アンモニウム又は重炭酸アンモニウム又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項24〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
請求項1〜29のいずれか1項に記載の方法により製造可能なインプラント。
【請求項31】
歯科インプラント、特に歯冠根(crown stub)、ネジ付き部分、ネジ及び/又はピンとしての、請求項30に記載された、又は請求項1〜29のいずれか1項により製造されたインプラントの使用。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a)】
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【図7b)】
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【図7c)】
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【図8a)】
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【図8b)】
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【図9a)】
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【図9b)】
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【図10a)】
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【図10b)】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−513330(P2010−513330A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541728(P2009−541728)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【国際出願番号】PCT/CH2007/000638
【国際公開番号】WO2008/077263
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(507399715)トーメン メディカル アーゲー (6)
【Fターム(参考)】