説明

歯科印象用フィルム

【課題】高価な歯科印象材料を節約することができる歯科印象用フィルムを提供する。
【解決手段】本発明に係るミラクルフィット13は、アルジネートが浸透する浸透面と、固体に貼り付ける貼り付け面とを有し、浸透面は、硬化したアルジネートとの間で接着能を有する層を積層する又は接着能を有する突起物を取り付け、貼り付け面には、元の有床義歯31に貼り付くことのできるように、粘着材が塗られている。そして、元の有床義歯31にミラクルフィット13を貼り付ければ、元の有床義歯31をトレー(印象材料の支持体)に見立てて、これにシリコーン16を盛り込むことができる。これにより、高価な歯科用印象材料の使用量を最小限に抑制することができるのである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材質の異なる2種の歯科用印象材料を重ね合わせる連合印象に用いる歯科印象用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、歯冠修復物を作製する場合、弾性印象材による印象採得する方法が一般的に行われている。通常の印象材料としては、アルギン酸塩の可溶性塩を主成分とする印象材(アルジネート印象材:例えば、特許文献1参照)、シリコーンゴムを主成分とする精密印象材(シリコーン印象材)などが知られている。
【0003】
これらの印象材の主な特徴を比較すると、シリコーン印象材を用いた場合は、アルジネート印象材を用いた場合よりも精密な印象採得が可能であるといえるが、シリコーン印象材はアルジネート印象材よりも価格が数倍以上するため、経済性の面を考慮するとシリコーン印象材を多量に使用することは難しい。したがって、シリコーン印象材の使用量をできる限り少なくすればコストダウンを図ることができる。
【特許文献1】特開2008−222672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
精密な印象採取が可能なシリコーン印象材は、高価である。したがって、シリコーン印象材の使用量を抑えられれば、歯科印象に必要なコストは削減される。とはいえ、使用する歯科印象材の量を単純に減らすだけでは、精密な印象採取ができない。硬化したシリコーン印象材は、弾性体であり、シリコーン印象材がその形状を保持するには、シリコーン印象材を肉厚なものとしなければならない。つまり、歯科印象に必要なコストを削減しようと思えば、高価なシリコーン印象材を患者の歯や歯茎の形状転写に使い、安価なアルジネート印象材をシリコーン印象材の形状を保持する目的で使用する必要がある。
【0005】
そこで、本発明は、高価な歯科印象材料を節約することができる歯科印象用フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る歯科印象用フィルムは、歯科用印象材料を固体に接合させる歯科印象用フィルムにおいて、前記歯科印象用フィルムは、歯科印象材料が浸透する浸透面と、固体に貼り付ける貼り付け面とを有し、前記浸透面は、硬化した歯科用印象材料との間で接着能を有する層を積層する又は接着能を有する突起物を取り付け、前記貼り付け面には、固体に貼り付くことのできるように、粘着材が塗られており、歯科用印象材料と固体とを接合可能とすることを特徴とする。
【0007】
本発明の構成によれば、高価な歯科用印象材料を節約しつつ、患者の歯茎および歯牙を忠実に転写することができる。すなわち、患者の歯茎を転写するに当たって、固体(患者の有床義歯)を利用する。有床義歯の形状は、患者に合わせて作製されているものであるから、ほとんど患者の歯茎の形状に倣っている。この有床義歯をトレー(印象材料の支持体)に見立てて、これに高価な歯科用印象材料を盛り込めば、高価な歯科用印象材料の使用量を最小限に抑制することができるのである。
【0008】
また、前記歯科用印象材料が、シリコーン印象材とアルジネート印象材の組み合わせからなることを特徴とする。
【0009】
また、前記歯科印象用フィルムが、ポリエチレンフィルムの両面にシリコーン印象材及びアルジネート印象材との間で接着能を有するポリエチレンとポリエステルからなるフィルムを熱接着により積層したことを特徴とする。
【0010】
また、前記歯科印象用フィルムが、シリコーン印象材との間で接着能を有するフィルムのアルジネート印象材と接着させる側の表面にアルジネート印象材が入り込み硬化した際に強固に絡み合って離れないループ状突起物を取り付けたことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本件発明にかかる歯科印象用フィルムの一形態について、図面を参酌しながら説明する。
【0012】
本発明の「材質の異なる2種の歯科用印象材料」については、シリコーン印象材とアルジネート印象材の組み合わせに限定されるものではなく、本発明の趣旨に合致する歯科用印象材料の組み合わせを選択することができ、例えば、ラバー印象材、寒天印象材等を採用してもよい。
【実施例1】
【0013】
本発明は、粘着性を有する歯科印象用フィルムに係るものである。したがって、まずは、本発明に係る歯科印象用フィルムの構成について説明する。図1は、本発明にかかる歯科印象用フィルムの一例を示す説明図である。
【0014】
<本発明に係る歯科印象フィルムの第1の形態>
本実施例の歯科印象用フィルムは、ポリエチレンフィルム10とポリエチレン・ポリエステルフィルム20とから構成される。図1に示すように、ポリエチレンフィルム10の両面には、シリコーン印象材及びアルジネート印象材との間で接着能を有するポリエチレン・ポリエステルフィルム20が熱接着によりそれぞれ積層され、3層からなる積層体が形成されている。
【0015】
ここで、歯科印象用フィルムの積層体を構成する表面の材質は、上記に限定されるものではなく、シリコーン印象材及びアルジネート印象材との間でそれぞれ接着能を有し、且つ硬化した際に分離し難い構造及び厚さのものを採用することができる。
【0016】
歯科印象用フィルムの積層体において、分離し難い構造とは、例えば、シリコーン印象材、およびアルジネート印象材がしみ込むことができる空隙を有する構造であり、繊維が絡まり合った構造である。また、分離し難い厚さとは、例えば、ポリエチレン・ポリエステルフィルム20一層あたり、0.1mm〜0.4mm程度が望ましく、更に望ましくは、0.15mm〜0.25mm程度が好適である。最も望ましくは、0.2mmの厚さが採用できる。なお、ポリエチレンフィルム10の厚さは、10μmのオーダであるので、実施例1に係る歯科印象用フィルムの厚さは、ポリエチレン・ポリエステルフィルム20の厚さによって略決定される。
【0017】
<本発明に係る歯科印象フィルムの第2の形態>
図2は、本件発明にかかる歯科印象用フィルムの第2の形態を示す説明図である。
【0018】
本実施例の歯科印象用フィルムは、接着フィルム50とループ状突起物60から構成される。図2に示すように、シリコーン印象材との間で接着能を有する接着フィルム50のアルジネート印象材と接着させる側の表面には、アルジネート印象材が入り込み硬化した際に強固に絡み合って離れない多数のループ状突起物60が取り付けられている。このループ状突起物60が取り付けられた接着フィルム50の一面を取り付け面と呼び、接着フィルム50の他面を未処理面と呼ぶことにする。
【0019】
ここで、歯科印象用フィルムの接着フィルム50を構成する材質は、シリコーン印象材との間で接着能を有し、且つ硬化した際に分離し難い材質及び厚さのものを採用する。
【0020】
<本発明に係る歯科印象フィルムの第3の形態>
図3は、本件発明にかかる歯科印象用フィルムの第3の形態を示す説明図である。
【0021】
本実施例の歯科印象用フィルムは、シリコーン印象材フィルム70とループ状突起物80から構成される。図3に示すように、シリコーン印象材フィルム70のアルジネート印象材と接着させる側の表面には、アルジネート印象材が入り込み硬化した際に強固に絡み合って離れない多数のループ状突起物80が取り付けられている。このループ状突起物60が取り付けられたシリコーン印象材フィルム70の一面を取り付け面と呼び、シリコーン印象材フィルム70の他面を未処理面と呼ぶことにする。
【0022】
<歯科印象用フィルムの製造方法>
以下、本発明に係る歯科印象用フィルムの製造方法について説明する。
【0023】
本発明に係る歯科印象用フィルムの製造方法は、樹脂製フィルムの両面にそれぞれ樹脂製不織布を重ね合わせて3層に形成し、最下層に位置する前記樹脂製不織布の下側にバージンパルプを重ねて敷いた後、それらをロールに巻きつけて全体をロール状に形成し、次いで加熱手段により所定温度で加熱して前記樹脂製フィルムの両面に前記樹脂製不織布を熱接着させる歯科印象用フィルムの製造方法である。
【0024】
なお、本発明に係る歯科印象用フィルムの製造方法は以下の実施例に限定されるものではなく、各構成要件の具体的内容については本発明の趣旨に合致する範囲内で適宜変更することができる。
【0025】
(製造工程1)
先ず、樹脂製フィルムの両面にそれぞれ樹脂製不織布を重ね合わせて3層に形成する。ここで、樹脂製フィルムとしてポリエチレンフィルム、樹脂製不織布としてポリエチレン・ポリエステルの2重構造繊維を採用することが好ましい。
【0026】
樹脂製不織布は、2種類の糸を混合して形成される。混合させる第1糸は、7.8dtの繊度を有し、第2糸は、3.3dtの繊度を有する。歯科印象用フィルムとしては、第1糸を70%〜50%とし、第2糸を30%〜50%として両者を混合したものを樹脂製不織布の原料とすることが望ましい。なお、繊度を示すdtは、デシ・テックスの意である。
【0027】
ポリエチレンフィルムは、例えば日本紙パック株式会社製のポリエチレンフィルム(商品名「抗菌ワンラップ(登録商標)220m」、耐熱温度110℃)を採用する。また、ポリエチレン・ポリエステルの2重構造繊維は、例えばシンワ株式会社製の不織布(品番「MF−1」)を採用する。この素材は、ヒートシールが容易で接着強度が強力であるという特長を有している。
【0028】
樹脂製フィルムと樹脂製不織布の大きさについては、樹脂製不織布の幅を樹脂製フィルムの幅よりも寸法を短く設定しておく。これにより、両者を重ね合わせた際に樹脂製不織布が樹脂製フィルムの内側に完全に収まり印象材の接着不良を防止することができる。
【0029】
(製造工程2)
次に、最下層に位置する樹脂製不織布の下側にバージンパルプを重ねて敷いた後、それらをロールに巻きつけて全体をロール状に形成する。
【0030】
このようにバージンパルプを重ねて敷くことにより、樹脂製不織布の表面を保護するのと同時に樹脂製不織布に不純物が付着するのを防止すると共に樹脂製不織布同士が接着するのを防止することができる。また、ロールに巻きつけて全体をロール状に形成することにより、樹脂製フィルムと樹脂製不織布との間に不均一な圧力がかかるのを防止することができるので、樹脂製フィルムの両面に樹脂製不織布をそれが有する不織布の立体的な繊維構造を壊すことなく熱接着することが可能になる。
【0031】
また、全体をロール状にした際、紐や止め具などを用いてその状態を保持できるようにしておく。バージンパルプの大きさについては、バージンパルプの幅を樹脂製フィルムの幅よりも寸法を長く設定しておく。また、樹脂製フィルムと樹脂製不織布とバージンパルプについてそれぞれ長尺製品を採用する場合は、ロール状にした後に適当な長さに切断しておく。
【0032】
(製造工程3)
最後に、加熱手段により所定温度で加熱して前記樹脂製フィルムの両面に前記樹脂製不織布を熱接着させる。加熱手段による加熱温度については、樹脂製フィルムの耐熱温度以上で118〜135℃の範囲内に設定することが好ましい。具体的には、ポリエチレンフィルムとして日本紙パック株式会社製のポリエチレンフィルム(商品名「抗菌ワンラップ(登録商標)220m」、耐熱温度110℃)を採用し、ポリエチレン・ポリエステルの2重構造繊維としてシンワ株式会社製の不織布(品番「MF−1」)を採用した場合、加熱温度を118〜121℃に設定して5分間程度加熱するのが適切である。
【0033】
ここで、加熱手段については、高圧蒸気滅菌器を使用することが好ましい。この高圧蒸気滅菌器とは、大気圧を超える圧力のもとに飽和蒸気滅菌する器具のことをいい、所定の滅菌温度及び滅菌時間を設定することにより、樹脂製フィルムの両面に樹脂製不織布を熱接着させる歯科印象用フィルムの製造に最適な加熱手段となる。また加熱手段は、これに限定されるものではない。例えば、ハンドタイプの加熱器が使用できる。この種の加熱器は、2つのアームを有しており、これらでポリエチレンフィルム、およびポリエチレン・ポリエステルをアームで挟み込みながら加熱すると、両者が熱接着されることになる。
【0034】
なお、何重にも太くロール状にしたものを加熱する場合、加熱時間を長く温度を高目に適宜加減し、加熱手段の載置面に接する下端部分にその物の自重がかかり熱圧着をおこすおそれがあるので、ロールを浮かした状態で保持できるスタンドを使用するとよい。また、フィルム内で蒸気が水滴となり接着不良を起こさないようロールを立てた状態で保持できるスタンドを使用するのが好ましい。
【0035】
<粘着性を有する歯科印象用フィルムの使用例>
次に、粘着性を有する歯科印象用フィルムを有床義歯の作製に適応した例について説明する。有床義歯とは、人工的な歯茎を伴った入れ歯、部分入れ歯のことである。このような有床義歯を作製する場合においても、本発明に係る第1の形態、第2の形態、および第3の形態に係る歯科印象用フィルムが利用できる。なお、以下の説明においては、有床義歯を作製したことのある患者を想定している。いったん有床義歯を作製しても、歯茎が痩せるなどして、新しい有床義歯を作製する必要がある場合、後述の使用例は有効である。有床義歯は、数年で作り変える必要があることからすれば、本実施例の意義は大きい。
【0036】
本使用例に係る有床義歯は、ワックストレー作製ステップS1と、粘着液塗布ステップS2と、フィルム貼り付けステップS3と、接着剤塗布ステップS4と、シリコーン塗布ステップS5と、粘膜面印象ステップS6と、歯牙面の印象を行う歯牙面印象ステップS7との各工程を実行することで作製される。これらの各ステップの詳細を順を追って説明する。
【0037】
<ワックストレー製作ステップS1>
ワックストレーの製作には、以下の(1)〜(6)の小工程を行うことでなされる。
(1)バイトワックス8(歯科用パラフィンワックス)を、形成歯及びコンタクト(歯の間の接触点)を十分カバーできる大きさにカットする〔図4(a)参照〕。
【0038】
(2)バイトワックス8の辺縁を内側に折り込みミラクルフィットを固定するための厚さと強度を確保する。この場合に、バイトワックス8を2枚重ねて使うか厚めのものを使用すると良い。図4(b)に示す様に、辺縁を内側へ折り返した方がアルジネートの保持力が強くなる。また、咬合面部(上部)のワックスに厚みを持たせた方が1次印象時のワックストレーの変形がなく気泡の混入がなくなる。
【0039】
(3)バイトワックス8をU字状に折り曲げる為に、バイトワックス8をメタルコアの石膏模型9に圧接する〔図4(c)参照〕。その後、今度は、患者の口腔内にて折り曲げられたバイトワックス8を軽く圧接して、形状の微調整を行う。この工程は、メタルコアの石膏模型に代わって、市販のプラスチック(シリコーン)製全顎歯牙模型より印象部位のバイトワックス8をU字状に折り曲げて、患者の口腔内にて圧接して作製することもできる。
【0040】
このときに、一度で患者の口腔内でワックストレーを圧接し作製しようとすると患者は痛みを訴えることが多いので、圧接は2回に分けて作製するのが望ましい。また、(3)で説明した口腔内へのパラフィンワックス(トレー)の圧接作業は、2枚に重ねたパラフィンワックスを歯科用ガストーチやバーナーで温めて軟化させて行うと患者の痛みも少なく簡単に作製できる。圧接の完了したワックストレー表面に歯牙基準点に合わせラインを歯科用インスツルメントなどでマーキングする。この歯牙基準点は、ワックストレーを患者に挿入する際の目印である。その後、水道水などでワックストレーを冷やすと、ワックスが固まり強固なワックストレーが完成する。その地域の気温や水道水の水温が異なるため、場合により冷水を使用するか、融点の高いハードタイプのパラフィンワックスを使用することができる。
【0041】
このワックストレーの長さについて説明する。ワックストレーの長さとしては、後述の2次印象時のトレーをカバーする程度が望ましいが、最低限、残存歯21の全てを覆うよりも長いワックストレーが必要である。すなわち、少なくとも、残存歯21に隣接するレジン歯(有床義歯に再現された歯)の一部を覆う程度の大きさが必要である。
【0042】
(4)図5(a)に示すように、患者の残存歯21における強いアンダーカット及び歯間乳頭部の歯肉退縮部の鼓形空隙を歯科寒天印象材12にてリリーフする(埋める)。そして、後述の印象材を硬化後、撤去する際ミラクルフィットに強い負荷がかかる部分を寒天印象材にてリリーフする(埋める)。要するにシリコーン印象材が、鼓形空隙の奥にまで浸透して、シリコーンを離型する際にシリコーンを変形させるような応力が生じるのを防止するとともに、シリコーンのちぎれが起こらないようにする。
【0043】
(5)ワックストレー15の内面にミラクルフィット13を適合させ辺縁部に3〜5mmほど余らせてはさみ等で切り合わせる。このときに、ワックストレーの近遠心(側辺部)にはミラクルフィット13ははみ出さない方が良い。1次印象時にトレーよりはみだした咬合面部のシリコーンが薄くなると、薄くなったシリコーンが2次印象時、または、後述の石膏型の形成時に浮き上がりその部分の精度が損なわれるので、シリコーンが硬化するまでに薄くはみ出したシリコーンを取り除く。但し、はみ出した部分のシリコーンが厚ければそんなに精度を損なうことはない。
【0044】
(6)エバンス彫刻刀14にてワックス辺縁にミラクルフィット13の上から頬舌側(頬口蓋側)数ヶ所に突き込みミラクルフィット13をワックストレー15に固定する。〔図5(b)参照〕。
【0045】
<粘着液塗布ステップS2>
まず、歯科印象用フィルムに対して粘着液を塗布する。以下の説明において、第1の形態に係る歯科印象フィルム(ミラクルフィット13)を上述のワックストレー15とは別の箇所に用いる例を示すが、第2の形態、第3の形態についても同様である。図1に示すポリエチレン・ポリエステルフィルム20の一面に粘着液を塗布する。すると、粘着液が塗布された一面は、粘着性を有するようになる。この面を貼り付け面と呼ぶことにする。第1の形態における歯科印象用フィルムについては、両面が同一の素材で構成されるので、粘着液を塗布する面は特に限定されない。ただし、第2の形態の歯科印象用フィルムを使用する場合は、接着フィルム50の未処理面に、第3の形態の歯科印象用フィルムを使用する場合は、シリコーン印象材フィルム70の未処理面に粘着液を塗布することになる。
【0046】
<フィルム貼り付けステップS3>
そして、図6(a)に示すように、元の有床義歯31の臼歯の頭頂部などの咬合面を除く歯牙と床の部分に上述の粘着性を有するミラクルフィット13を次々と貼り付ける。このとき、床の全てにミラクルフィット13が貼り付けられるわけではなく、床における患者の歯茎の接触部と、その周縁部は除外される。こうして、後述のアルジネート26に対する有床義歯の接着が良好となる。これに加えてアルジネート26に対する有床義歯の分離も良好となる。ミラクルフィット13の露出面は、アルジネート26が浸透する浸透面となっている。元の有床義歯は、本発明の固体の一例である。
【0047】
なお、元の有床義歯の形状が患者の歯茎の形状と大きくかけ離れている場合は、有床義歯における歯茎の当接面に粘膜調整剤を施し、元の有床義歯の内面の形状をある程度患者の歯茎の形状に合わせる措置を行うことが望ましい。
【0048】
<接着剤塗布ステップS4,およびシリコーン塗布ステップS5>
次に、元の有床義歯31における歯茎の当接部32、およびその周辺部にアクリル系接着剤を塗布する。接着剤の塗布が完了した後、その上からシリコーン16を塗布する。こうして、U字形の凹みとなっている歯茎の当接部32は、図6(b)に示すように、シリコーン16で埋め戻される。
【0049】
<粘膜面印象ステップS6>
この時点で、元の有床義歯31を患者の口腔内に嵌める。すると、図7に示すように、患者の歯茎とシリコーン16とが当接し、やがてシリコーンは固化する。こうして、元の有床義歯31の内側には、患者の歯茎の型が印象されていることになる。なお、図7中の符号21は、患者の残存歯を意味している。
【0050】
なお、元の有床義歯31を患者の口腔内に嵌めた後、シリコーン16の操作時間内に、患者に対して、舌運動や、顎運動を行わせる。そして、シリコーン16の保持時間に入れば、シリコーンが固化する前に患者に対して上下顎を咬み合わせた状態で、静止させる。この様にすることで、患者の歯茎の動的印象(機能印象とも言う)を採得することができ、より使用に適した有床義歯が提供できる。
【0051】
<歯牙面印象ステップS7>
次に、シリコーン、およびアルジネートを用いて、歯牙面を印象する工程に入る。まず、術者と助手がシリコーンの練和を同時に開始する。このときのシリコーンは、インジェクションタイプとケースに応じライトボディ又はノーマルボディタイプを用意する(各々のシリコーンの操作時間、口腔内保持時間を合わせるため、メーカーの推奨する組み合わせの印象材を使用し、印象するレジン歯の歯数やそのケースに合わせてフロー(流動性)、操作時間、口腔内保持時間の適切な印象材を選択しておく)。
【0052】
そして、術者が練和したインジェクションタイプのシリコーンは、シリンジに入れられて、シリンジからシリコーンを印象マージン部(細密部分)に向けて注入する。その後、その残りのインジェクションシリコーンを残存歯21及び他の咬合面部に盛る(専用シリンジが便利である)。
【0053】
次に、助手がライトボディ又はノーマルボディタイプのシリコーン16を練和し、図8に示すように、上述の(3)で作製したワックストレーのミラクルフィット13内面に塗り広げる。
【0054】
この後、図9に示すように、残存歯21の全てを覆うように、ワックストレー15が患者の口腔内にはめ込まれる。すなわち、図9においては、ワックストレー15を残存歯21に被せる工程までを図示している。なお、ワックストレー15には、切欠きが設けられているように見えるが、これは、ワックストレー15の内部を説明するためのものであり、実際は、この様な切欠きは存在しない。このワックストレー15の長さは、有床義歯31に再現されたレジン歯に挟まれた残存歯21の全てを覆う程度に設定される。したがって、ワックストレー15は、有床義歯に隣接する残存歯21の端からはみ出す構成となっている。
【0055】
そして、そのシリコーン16の硬化特性に合わせてアルジネート26をメーカー指定の標準粉液比で練和し既に試適を済ませた金属トレー19に盛り付ける〔図10(a)参照〕。ワックストレー圧接時より時間を計り、そのシリコーン16の口腔内保持時間経過時点にアルジネートの盛りつけが完了するように練和時間を調整する。
【0056】
口腔内のシリコーン16が硬化したのを確認し、ワックストレー15のみを口腔内から撤去し〔図10(b)参照〕、ミラクルフィット13を露出させる。金属トレーへの盛りつけの完了したアルジネート26を少し指でとり硬化したシリコーン表面のミラクルフィット13に指でアルジネート26を擦り込む。この時点で、口腔内の断面は、図11の如くとなっている。
【0057】
続いて、金属トレー19を上から挿入して、患者の歯牙に圧接する。図12においては、アルジネート26が盛られた金属トレー19を患者の歯牙に圧接する工程までを図示している。なお、金属トレー19には、アルジネート26が露出した切欠きが設けられているように見えるが、これは、金属トレー19の内部を説明するためのものであり、実際は、この様な切欠きは存在しない。この時点で、口腔内の断面は、図13の如くとなっている。
【0058】
そして、金属トレー19に盛られた固化アルジネート26は、元の有床義歯31を埋没させた状態で、患者の口腔内から抜き出される。固化アルジネート26の印象面には、元の有床義歯31における当接部32の表面を覆うシリコーン16と、ミラクルフィット13の表面を覆うシリコーン16とが露出している。当接部32の表面を覆うシリコーン16には、患者の歯茎の型が正確に転写され、ミラクルフィット13の表面を覆うシリコーン16には、患者の残存歯21の型が正確に転写されている。これを基に、新しい有床義歯を作成することができる。この作成方法は、既存の石膏を用いた方法が利用できる。
【0059】
なお、アルジネート26は、顎全体を覆うので、有床義歯のうちミラクルフィット13に覆われない部分、つまり有床義歯の咬合部もが転写されている。この様な部分には、何らシリコーン16を塗布していないので、金属トレー19を押し付けた際に、有床義歯の咬合部が直にアルジネート26に当接し、アルジネート26上に有床義歯の咬合部が転写されている。この様なアルジネート26に当接された有床義歯の咬合部は、義歯の咬合状況を再現する上で必要である。また、有床義歯には、口腔内におけるグラツキを抑制するため、残存歯21に掛るクラスプ33を備えている〔図6(a)参照〕。クラスプ33を掛ける歯のことを鉤歯と言う。この鉤歯の型はシリコーン16で採られることから、このクラスプ33を精密に作製することができる。なお、残存歯に有床義歯を掛ける装置としては、このクラスプ33に限られないが、本実施例の構成は、クラスプ33以外にも適応できる。
【0060】
以上のように本実施例の構成によれば、高価なシリコーン16を節約しつつ、患者の歯茎および歯牙を忠実に転写することができる。すなわち、患者の歯茎を転写するに当たって、患者の有床義歯を利用する。有床義歯の形状は、患者に合わせて作製されているものであるから、ほとんど患者の歯茎の形状に倣っている。この有床義歯をトレー(印象材料の支持体)に見立てて、これにシリコーン16を盛り込めば、シリコーン16の使用量を最小限に抑制することができるのである。
【0061】
また、金属トレー19を口腔内から撤去する際、有床義歯の床部を支持した状態で口腔内から取り出せば、ミラクルフィット13に余計な応力がかからず、より忠実な歯型を得ることができる。
【0062】
また、フィルム貼り付けステップS3において、元の有床義歯にミラクルフィット13が貼り付けられている。こうすることで、元の有床義歯を回収することができる。すなわち、元の有床義歯は、固化アルジネート26に埋没している。しかしながら、元の有床義歯と固化アルジネート26との介する位置にミラクルフィット13が配置されている。したがって、元の有床義歯と固化アルジネート26とは接着せず、ミラクルフィット13は、簡単に元の有床義歯から剥離させることができるので、本実施例を実施した後でも元の有床義歯を簡単に回収することができる。
【0063】
本発明は、上述の構成に限られず、下記のように変形実施することができる。
【0064】
(1)上述した実施例は、医用について適応したものであったが、本発明は、型の製作工程を有する一般の工業に適応することができる。
【0065】
(2)上述した実施例1を変形実施することができる。すなわち、ポリエチレンフィルム10に代わって、金属箔を、ポリエチレン・ポリエステルフィルム20に代わって金属網を用いることもできる。この様な構成とすることで、歯科印象用フィルムは、一定の形状維持能力を有することになる。したがって、実施例で説明したワックストレー15を必要とせず、実施例における小工程(1)〜(3)を省略することができる。なお、金属箔、および金属網は、約2mmの間隔を置いてグリッド状に電気溶接されている。なお、金属箔の両面にポリエチレン・ポリエステルフィルム20を熱接着、あるいはアクリル系接着剤で貼り付ける構成とすることができる。また、金属箔、および金属網の材質としては、アルミニウムが適応できるが、これを銅に変更することもできる。この場合、銅とポリサルファイドラバー系の印象材とが化学的に接着するため、金属箔の片面に配される金属網を省略することができる。具体的には、ポリサルファイドラバー系の印象材と、アルジネート印象材との連合印象が可能となる。もちろん、この場合においても、上述のように、金属網に代わって、ポリエチレン・ポリエステルフィルム20を採用することもできる。
【0066】
また、金属箔の片面に金属網を配した構成において、金属箔側に塗布する接着剤を選択することで、金属箔を銅以外のものとすることができる。この場合、接着剤として、印象材メーカー指定の接着剤(シリコントレー接着剤、ラバー系接着剤)などを選択する。これらの接着剤は、金属箔に対して接着能を有するのである。
【0067】
(3)上述した実施例におけるポリエチレンフィルム10に代わって、塩化ビニル製のフィルムを使用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上のように、本発明に係る歯科印象用フィルム及び歯科印象用フィルムの製造方法は、医用分野に適している。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本件発明にかかる歯科印象用フィルムの第1の形態を示す説明図である。
【図2】本件発明にかかる歯科印象用フィルムの第2の形態を示す説明図である。
【図3】本件発明にかかる歯科印象用フィルムの第3の形態を示す説明図である。
【図4】本件発明にかかる歯科印象用フィルムの使用例を示す説明図である。
【図5】本件発明にかかる歯科印象用フィルムの使用例を示す説明図である。
【図6】本件発明にかかる歯科印象用フィルムの使用例を示す説明図である。
【図7】本件発明にかかる歯科印象用フィルムの使用例を示す説明図である。
【図8】本件発明にかかる歯科印象用フィルムの使用例を示す説明図である。
【図9】本件発明にかかる歯科印象用フィルムの使用例を示す説明図である。
【図10】本件発明にかかる歯科印象用フィルムの使用例を示す説明図である。
【図11】本件発明にかかる歯科印象用フィルムの使用例を示す説明図である。
【図12】本件発明にかかる歯科印象用フィルムの使用例を示す説明図である。
【図13】本件発明にかかる歯科印象用フィルムの使用例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0070】
10 ポリエチレンフィルム
13 ミラクルフィット(歯科印象用フィルム)
16 シリコーン(歯科用印象材料)
20 ポリエチレン・ポリエステルフィルム
26 アルジネート(歯科用印象材料)
31 元の有床義歯(固体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用印象材料を固体に接合させる歯科印象用フィルムにおいて、前記歯科印象用フィルムは、歯科印象材料が浸透する浸透面と、固体に貼り付ける貼り付け面とを有し、前記浸透面は、硬化した歯科用印象材料との間で接着能を有する層を積層する又は接着能を有する突起物を取り付け、前記貼り付け面には、固体に貼り付くことのできるように、粘着材が塗られており、歯科用印象材料と固体とを接合可能とすることを特徴とする歯科印象用フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の歯科印象用フィルムにおいて、前記歯科用印象材料は、シリコーン印象材とアルジネート印象材の組み合わせからなることを特徴とする歯科印象用フィルム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の歯科印象用フィルムにおいて、前記歯科印象用フィルムは、ポリエチレンフィルムの両面にシリコーン印象材及びアルジネート印象材との間で接着能を有するポリエチレンとポリエステルからなるフィルムを熱接着により積層したことを特徴とする歯科印象用フィルム。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の歯科印象用フィルムにおいて、前記歯科印象用フィルムは、シリコーン印象材との間で接着能を有するフィルムのアルジネート印象材と接着させる側の表面にアルジネート印象材が入り込み硬化した際に強固に絡み合って離れないループ状突起物を取り付けたことを特徴とする歯科印象用フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−120889(P2010−120889A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297114(P2008−297114)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(507355618)
【Fターム(参考)】