説明

歯科材料用の抗菌性添加物としてのガラス組成物

【課題】本発明は、歯の修復材用の抗菌性添加物、及びその用途に関する。本発明の課題は、従来技術の欠点を克服すること、及び、特に抗菌性、殺菌性、炎症抑制性及び創傷治癒性を有する歯科材料用添加剤を提供することである。
【解決手段】本発明は、抗菌作用及び/又は殺菌作用を持つガラス組成物もしくはガラスセラミック、またそれらを含有する、インプラント材を除く歯の修復材に関する。前記歯の修復材としては、特に歯の充填剤が望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯の修復材用の抗菌性添加物、例えば歯科用ガラス材に用いられる抗菌性添加物及び歯の修復材用の抗菌性材料、すなわち抗菌性の歯科用ガラス材に関する。前記歯の修復材には、特にガラスイオノマーセメント、コンポジットあるいはコンポマーなどの歯の充填材が含まれる。また、歯の修復材においては、そのほかに、特に歯科用セラミック構造体としてのコート材又は外装材、及び歯科用ガラス材への添加物の使用も含まれる。歯科用ガラス材は、例えば特許文献1に開示されているが、その開示内容は本出願でも全面的に援用されている。
【0002】
前記抗菌性添加物は、抗菌性及び/又は殺菌性を有するガラス組成物又はガラスセラミックである。
【0003】
ガラス組成物は、特に粉末、繊維、フレーク又は球体として添加される。
【0004】
この種の抗菌性添加剤は、特に歯の充填材に使用される。
【背景技術】
【0005】
歯の充填材は、非特許文献1によると、ガラスイオノマーセメント、コンポジット及びコンポマーの3種類に分類されているが、しかしこれらに限定される訳ではない。該分野で同様に使用することのできるその他の歯科用充填材も専門家の間では知られている。
【0006】
上記文献は本出願の開示内容にも全面的に援用されている。
【0007】
歯の充填材としてのコンポジットとは、前記非特許文献1によれば、それぞれ単独では持たない特性を、例えば混合物となることで、それらの相互作用により前記特性が発現する、異なる2種の材料の合一物である。従来技術から公知のコンポジットとしては樹脂マトリックス及び様々な無機性充填材が挙げられる。
【0008】
コンポジットとしての樹脂マトリックスは様々なモノマーの混合物からなっており、充填材の種類と混合成分の量比により、異なる特性が現れる。
【0009】
樹脂マトリックスは、主としてアクリル酸モノマーPMMA(メタクリル酸ポリメチル)、TEGDMA(ジメタクリル酸トリエチレングリコール)及びビス−GMA(ビスフェノールメタクリル酸グリシジル・コンポジット)からなる。この種の樹脂系は光硬化性であることが多い。前記樹脂マトリックスのその他構成成分としては、しばしば促進剤、遅延剤、安定剤、開始剤が用いられる。そのほか、化学的に硬化可能な系も知られている。
【0010】
コンポジットのフィラーとしては、主としてガラス、(ガラス)セラミック、石英、ゾル/ゲル可変材及びエアロジルが使用される。
【0011】
前記フィラーは、複合物すなわちコンポジットの物理・化学的特性を調整するためにマトリックス内に存在する。前記フィラーは特に重合収縮を改良し、例えば、弾性率、耐屈曲性、硬度及び耐磨耗性などの機械的特性を改良する。
【0012】
前記材料の硬化は、様々な成分の混合で誘起される化学反応、光又は熱によって行われる。光による場合、例えばUVランプ、ハロゲンランプ、プラズマランプ又はLED(発光ダイオード)ランプ、特にブルー領域の波長を放出するLED光の影響により、添加物の作用で反応性ラジカルが生成される。このラジカルは、例えば連鎖反応を惹き起こすが、その場合マトリックス材のモノマー、例えばビス−GMAが遊離中間生成物を経てますます鎖長の長い鎖状分子へと重合し、それによって合成樹脂が硬化する。したがって、この過程は「ラジカル重合」を意味している。ラジカル重合では中間生成物は、例えば別のモノマー分子の炭素二重結合に付加する。それによって再びラジカルが生成し、連鎖反応が起きる。
【0013】
そのほか、コンポジットのフィラーは目視で識別できないのが好ましいが、それには硬化された樹脂と充填材の屈折率ができる限り一致していることが必要となる。また、フィラーの粒子サイズもできる限り小さいほうが、充填物すなわちコンポジット全体の研磨性が改善され有利である。それに適した粒子サイズは100μm以下、好ましくは50μm以下、特に好ましくは10μm以下である。一方、粒子サイズが2nm、より一般的には5nm、特別広く考えた場合には10nmを下回ると、コンポジットの機械的特性は弱くなり過ぎ、不十分となる。
【0014】
前記充填材において、粒子サイズの異なる粉末、例えば平均粒径がnmオーダーである粉末と平均粒径がμmオーダーである粉末との混合物、を使用することも可能である。そのような混合物の場合、コンポジットの研磨性及び機械的特性を高めることができる。
【0015】
当該技術レベルにおける前記コンポジットでは、重合収縮は僅かしか生じない。重合収縮が大き過ぎると、歯壁と充填物との間に大きな応力が発生することが考えられ、その重合収縮が過度に大きい場合、極端な例では歯壁を破壊することさえある。また充填物と歯壁間の接着性が悪い場合、及び/又は歯の充填材が収縮し過ぎた場合、縁に亀裂が生じることがあり、その結果二次カリエスの発症に到ることもある。なお、現在市販されている材料の収縮率は約1.5から2%程度である。
【0016】
特に前歯領域に適用されるコンポジットは、周囲の健康な歯本体と区別ができない程の色と半透明性を有している。つまり、前記材料は本質的に健康な歯本体の色に近く、その半透明性は実質的に天然の歯と同じである。
【0017】
機械的特性に関しては、咀嚼過程で充填物が過度に磨滅されることがなく、更に相対する歯に傷がつかない程度の機械的破壊特性であれば適用可能である。
【0018】
前記コンポジットの熱膨張に関しては、可能な限り歯本体の熱膨張に近ければ適用可能である。
【0019】
前記コンポジットは、化学的安定性の点では、塩基性の物質による浸食に対し十分な安定性を有するように形成されている。
【0020】
その上、前記コンポジットはレントゲン非透過性なので、レントゲン像において前記充填物は健康な歯や場合によっては二次カリエスの発症部分と識別することができる。
【0021】
レオロジーに関しては、前記樹脂は有利なことにチキソトロピー(揺変性)である。すなわち加圧条件下では粘度が低下し、その後粘度が再び上昇する。樹脂はカートリッジから窩洞へ充填せねばならず、他方硬化前にはできる限り形態安定でなければならないので、この特性は有利である。
【0022】
ガラスイオノマーセメントの概念はISO7484に定義付けされており、その開示内容は本出願でも全面的に援用されている。
【0023】
ガラスイオノマーセメントとしては、例えば水性ポリ(カルボン酸)セメント組成物が知られており、従来より歯の治療に使用されている。ガラスイオノマーセメントは、アクリル酸のホモ重合体又は共重合体を典型とする遊離カルボン酸基を持つポリマー及び、例えばカルシウムアルミニウムフルオロケイ酸塩ガラスのようなイオン遊離ガラスを含んでなる。
【0024】
ガラスイオノマーセメントは、水溶液中での酸/塩基反応を通じて調製される。ガラスは水の存在下で、例えばアルミニウムイオン及びカルシウムイオンなどの多価金属イオンを遊離する。これらはポリマーの架橋結合に用いられる。それにより、こわばったゼラチン状の構造が得られる。同時に、ガラス中の材料が水と反応してケイ酸を生成する。ゲルを生成するこの反応の結果として、歯科用途への適用に適したセメントが調製される。
【0025】
ただし、ガラスイオノマーセメントは脆くて弾力性に欠け、機械的特性が不十分なため、その使用は著しく制限される。ガラスイオノマーセメントの機械的特性を改良する方法として、例えばマトリックスを改質することが知られている。すなわち、不飽和の炭素/炭素結合をポリアルカノアートの基本骨格へ付加させるか、(ジ)メタクリレートモノマーを組成内に組み込む、あるいはそれら両方を行う、という方法である。不飽和の炭素/炭素結合は(化学的方法又は光線による)ラジカル重合を通じてマトリックスの共有架橋結合を可能にする。共有架橋結合されたマトリックスは固化したセメントの機械的特性を顕著に改善させる。このセメントは歯髄に良く適合する。しかしながら、生体適合性に関しては問題が発生する。それは、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のような樹脂成分が遊離するという不都合が生じうるからである。これらの化合物は、構造的にはむしろ樹脂修飾ガラス/ポリアルカノアートセメントと言うほうが適切なのであろうが、樹脂修飾ガラスイオノマーセメント(esin−odified lass onomer ements、RMGICs)として知られている。これらRMGICsは水性ベースで、その主要な結合機構は酸/塩基反応であって、反応時にはポリアルカノアートが有するカルボキシル基を通じて歯の硬質組織と結合する能力を保持している。そのフッ化物の遊離はGICsに類似している。
【0026】
以上のほか、例えば特許文献2に記載されている、「コンポマー」及び「合成樹脂補強型ガラスイオノマーセメント」の名称で知られているような重合可能なセメントが公知である。
【0027】
前記合成樹脂補強型ガラスイオノマーセメント/コンポマーとは、コンポジット材料(綴りの音節「Komp」部分)の長所とガラスイオノマー(綴りの音節「omer」部分)の長所を互いに組み合わせた素材である。前記素材は2つのカルボキシル基を持つジメチルメタクリレートモノマー及び実質的にイオン放出性のガラスであるフィラーを含んでいる。カルボキシル基と基本骨格における炭素原子数との比率は1:8である。前記素材の組成は無水であり、イオン遊離性ガラスはマトリックスとの結合性を確保するために部分的にシラン化されている。コンポマーと言われるこの素材は、ラジカル重合を通じて結合するが、歯の硬質組織には結合することができないので、フッ化物の遊離はガラスイオノマーセメントよりもかなり低レベルである。
【0028】
前記素材の弾性曲げ剛性、屈曲性、耐圧性、耐破壊性及び硬度は低レベルである。コンポマーは顎整形用の接着剤、アマルガム結合系として、及び獣医の分野で使用することができる。なお、前記素材は酸/塩基反応を通じて結合するのではなく、また歯の硬質組織に結合することもなく、ガラスイオノマーセメントとは全く別な素材であるため、本来これに分類すべきでないと思われる。
【0029】
コンポマーは、その他「ハイブリッド・ガラスイオノマー」、「光硬化性GICs」又は「樹脂修飾されたガラスイオノマー」、すなわち、まさしく実際に「樹脂修飾型ガラスイオノマー」としばしば言われるが、不適切である。また「重合酸修飾型コンポジット樹脂」という概念でも認識されている。
【0030】
あらゆる種類の歯科充填材、特にガラスイオノマー、コンポジット及びコンポマーに当てはまることであるが、これらには、フィラー又は添加材として不活性又は反応性の歯科用ガラスのほかに、レオロジーの調整に用いる別なフィラーとしてエアロジル又は高熱性ケイ酸を含ませることができる。エアロジルは粉砕されたガラス粉末とは異なり、球形でその粒子サイズは約50から300nmである。
【0031】
別なフィラーとして、歯色調整用の顔料及びレントゲン非透過性を得るための物質を含ませることもできる。そのような物質として、例えばBaSO、ZrO、YbFがある。
【0032】
また、例えばケイ酸ジルコニウムのようにレントゲン非透過性のゾル/ゲル材も前記のフィラーとして適用することができる。
【0033】
そのほか、天然歯の蛍光特性に合わせるため、有機蛍光色素を使用することもできる。
【0034】
ただし、歯の治療の分野で用いられる公知の材料、特にガラスイオノマーセメント、コンポジット及びコンポマーの欠点は、抗菌作用を持たないこと、またそれが原因で発症する歯の疾患、例えば二次カリエス、歯根炎症又は歯周症に対して十分な保護作用を示さないことである。
【0035】
なお、ガラス、特にそれにより製造されたガラス粉末の抗菌性、炎症抑制性及び創傷治癒性作用は、その開示内容を本出願でも全面的に援用している特許文献3ないし5から公知である。
【0036】
特許文献3及び5には、炎症抑制及び創傷治癒効果のあるケイ酸塩ガラス粉末が開示されている。
【0037】
特許文献4には、ガラス組成中に10ppmを越えるヨードを含ませた抗菌性、炎症抑制性のガラス及びガラス粉末が開示されている。また、本出願でもそれらの開示内容を全面的に援用している特許文献6及び7からは、Ag、Zn、Cuを含まないアルカリ/アルカリ土類系ガラスの歯科材料としての使用も公知である。
【特許文献1】ドイツ特許第4323143号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0219058号明細書
【特許文献3】国際公開第03/018496号明細書
【特許文献4】国際公開第03/018498号明細書
【特許文献5】国際公開第03/018499号明細書
【特許文献6】国際公開第02/072038号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第1365727号明細書
【特許文献8】国際公開第93/17653号明細書
【非特許文献1】「ジョルナル ド ラソシアシオン デンテール カナディエンヌ」(Journal de l’Association dentaire canadienne)(1999年10月発行、第65巻、第9号、500〜504ページ)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0038】
本発明の課題は、従来技術の欠点を克服すること、及び特に抗菌性、殺菌性、炎症抑制性及び創傷治癒性を有する歯科材料用添加剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0039】
本発明の課題は、添付した特許請求の範囲における独立請求項の記載内容によって解決される。また、その有利な発展形態は、従属請求項に記載のとおりである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
特に好ましい実施形態では、以下で「抗菌性歯科用ガラス粉末」と称する抗菌性添加物がそれ自体ガラスイオノマーとして機能する。すなわち、それらは抗菌性作用以外にもモノマーの重合開始剤としての機能をも有している。あるいはガラスイオノマーセメントへの硬化反応に必要なイオン、例えばCa2+、Al3+イオンを提供する。例えば、Ca2+、Al3+イオンをセメント合成樹脂、例えばポリカルボン酸と共に処理すれば硬化が行われる。したがって、本発明においては反応性の抗菌性歯科用ガラス粉末ということになる。
【0041】
他の実施形態においては、抗菌性ガラス自体はイオノマー特性を持たず、抗菌作用を提供する添加材として機能する。それは、例えばコンポジットに使用されるような不活性の抗菌性歯科用ガラス粉末である。抗菌性の歯科用ガラス粉末が単に添加材として、つまり不活性な抗菌性歯科用ガラス粉末として使用される場合には、モノマーの重合は、例えばUVなどの光あるいは熱によって行わせることができる。
【0042】
改良された他の実施形態においては、不活性又は反応性の抗菌性歯科用ガラス粉末は、重合後に生成されるガラスイオノマーセメント、コンポジット又はコンポマーの収縮が少なくなるように、あるいはレントゲン非透過性が達成されるように調製される。また前記抗菌性の歯科用ガラス粉末は、歯の琺瑯質の再ミネラル化を促進するように調製することも可能である。
【0043】
当然ながら、他の歯科用ガラス、例えば従来の歯科用ガラスと本発明に基づく抗菌性歯科用ガラス粉末との混合物も使用可能である。
【0044】
本発明の好ましい実施形態の1つとしては、抗菌性歯科用ガラス粉末の熱膨張係数CTEは非常に小さく、3×10−6/Kから8×10−6/Kの間である。
【0045】
抗菌性歯科用ガラス粉末の屈折率は、マトリックスの屈折率にできる限り近づけるように選定するのが好ましい。なお、ガラス粉末自体は全体として殆ど着色性イオンを含んでいない。
【0046】
更に改良された他の実施形態においては、抗菌性歯科用ガラス粉末の表面はシラン化されているため、フィラー粒子と樹脂マトリックスとの間での化学結合が可能である。それによって更に充填材又はそれを含む組成物の機械的特性及びレオロジー特性が改善される。
【0047】
また、前記抗菌性歯科用ガラス粉末が良好な化学的及び加水分解安定性、更には高いレントゲン非透過性(RO)を有していれば特に好ましい。
【0048】
高いレントゲン非透過性は、Sr又はBaなど特に重金属の添加によって得られる。
【0049】
美観及び研磨適性を改善するためには、前記抗菌性歯科用ガラス粉末の粒子サイズd50は、0.4から5μmと微小であるのが好ましい。
【0050】
特に長期間に亘って抗菌作用を示す実施形態が好ましい。
【0051】
前記で用いられる素材としては、高い抗菌、殺菌作用を示し、反面、例えば亜鉛又は銀などの抗菌性イオンを全くあるいは極く微量しか遊離しないものが特に好ましい。
【0052】
本発明における抗菌性ガラスは、特に歯の治療における歯のコーティング材、充填材又は外装材に使用される。
【0053】
本発明において記載された素材は、顎に埋め込まれるインプラント材とは異なり、特に歯の内部又は表面に使用される。
【0054】
ガラスイオノマーセメントへの特別な適用例においては、前記セメントは0.01から99.5重量%の範囲で抗菌性ガラス添加物又は抗菌性ガラスセラミックを含んでいる。前記ガラスイオノマーセメント中の抗菌性ガラス添加物又は抗菌性ガラスセラミック添加物の含有量は、好ましくは0.1から80重量%、特に好ましくは1から20重量%である。
【0055】
本発明に基づく抗菌性のガラスは、歯科用充填材として使用される公知のガラス粉末と混合することもできる。
【0056】
前記抗菌性ガラス粉末の粒子サイズは、例えばd50値において0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは1μm以上である。
【0057】
また、前記抗菌性ガラス粉末の粒子サイズは、例えばd50値において200μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは20μm以下である。最も好ましい粒子サイズの分布は0.1μm以上10μm以下であるが、より良好な研磨適性の点からは、特に0.1から1.5μmである。
【0058】
好ましい実施例においては、前記ガラスは、例えばAg、Zn、Cuなどの抗菌性元素又はイオンを含有する。抗菌性イオンのガラスマトリックス内での遊離率は非常に小さいため健康上の問題はなく、にもかかわらず十分な抗菌作用が得られる。
【0059】
例えば、抗菌性イオンである銀の遊離に関しては、本発明に係るガラスにおいて、例えば水中での銀の遊離率が1000mg/l以下、好ましくは500mg/l以下、より好ましくは100mg/l以下であれば、抗菌性にとって十分な遊離となり、しかも健康上の問題も生じない。なお、この値が50mg/l以下であれば特に好ましく、20mg/l未満であれば更に好ましい。最も好ましい実施形態においては、この値は10mg/l未満である。
【0060】
更に、抗菌性ガラスを本発明に基づきコンポジット材に組み込んだ場合、例えば水又は口内唾液などの液体と接触したときの銀の遊離量が、水中で自由移動できるガラスの場合よりも少なくなる。本発明に係るコンポジット、ガラスイオノマーセメント又はコンポマーから水への、例えば銀の遊離率は10mg/l以下であり、より好ましい場合では1mg/l以下、特に好ましい場合では0.1mg/l以下である。
【0061】
十分な抗菌作用を発揮させるためには、例えばAgの遊離率は0.0001mg/l以上、より好ましくは0.001mg/l以上、特に好ましくは0.01mg/l以上である。ベースとなるガラスには、化学的安定性が高すぎないリン酸塩系、ホウ酸塩系及びケイ酸塩系のガラスが適用可能である。
【0062】
前記のガラスは屈折率が適しているため、望ましい。
【0063】
抗菌作用及び殺菌作用を保持させるため、ガラスイオノマー中の例えばAg、Zn、Cuなどイオンの含有量は、0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは0.5重量%以上である。なお、前記ガラス組成中のZn含量は、特許文献8との境界線として、30モル%以下であるのが好ましい。
【0064】
本発明において「抗菌性歯科用ガラス粉末」と称している抗菌性ガラス粉末、並びにガラスイオノマー及び/又は歯科用ガラスフィラー、からなる本発明に係る混合物が好ましい実施形態となるためには、前記抗菌性ガラス粉末:ガラスイオノマー及び/又は歯科用ガラスフィラーの比は0.0001以上、より好ましくは0.001以上、特に好ましくは0.01以上である。
【0065】
前記抗菌性ガラス粉末の含量が低過ぎる場合、すなわち前記抗菌性ガラス粉末:ガラスイオノマー及び/又は歯科用ガラスフィラーの比が0.0001未満であれば、前記混合物は十分な抗菌作用及び殺菌作用を発揮することができない。
【0066】
前記抗菌性ガラス粉末:ガラスイオノマー及び/又は歯科用ガラスフィラーの比は、好ましくは200以下、より好ましくは100以下、特に好ましくは10以下である。
【0067】
前記抗菌性ガラス粉末とガラスイオノマー及び/又は歯科用ガラスフィラーとからなる混合物の前記比が200を越えれば、ガラスイオノマーによるモノマー重合において、常識的に十分な反応開始効果が得られない。
【0068】
特別な実施形態によると、前記抗菌性粉末は水分、例えば口内の唾液などと接触した場合に、ガラスマトリックスとのイオン交換により塩基性のpH値、すなわちpH7以上の値を示す。これは、カリエス菌によって生成され、歯、特に歯の琺瑯質を腐蝕するおそれのある酸に対する中和作用を発揮する。この反応は、特に歯科材料と歯との間の空隙における前記腐蝕反応を防止する。
【0069】
前記抗菌性ガラス粉末は、例えば特許文献7に開示されているような、特に再ミネラル化作用のあるガラス粉末と組み合わせることが可能であり、またそうすることが好ましい。それにより、一方では歯と歯科用材料間で緊密な結合が達成され、他方では、例えば前記特許文献7に記載されているような再ミネラル化作用のあるガラス粉末も僅かながら同様の抗菌作用を持っているため、抗菌作用の相乗効果が得られる。前記特許文献7には歯の永久充填材製造のためのバイオアクティブガラスの使用について記載されている。前記バイオアクティブガラスは特に、歯本体と充填材間の接着を媒介する接着剤、ガラスイオノマーセメント、ガラス/合成樹脂コンポジット、コンポジット補強型ガラスイオノマーセメント、並びに/又は、歯根、歯頚及び/若しくは歯冠の治療薬に含まれており、特にフッ化物イオンを含有する。
【0070】
ガラスイオノマーセメント、ガラス/合成樹脂コンポジット、コンポジット補強型ガラスイオノマーセメントにおける、及び/又は特許文献7に記述されているバイオアクティブガラスを含む、歯根、歯頚及び/又は歯冠の治療薬における、例えばAg、Zn又はCuイオンの遊離による抗菌作用についての記述は存在しない。前記ガラスは高いレントゲン非透過性を有しており、非常に好ましい。
【0071】
好ましい実施形態では、例えば特許文献5で開示されたガラス組成物などの抗菌性ガラス添加物は、フッ化物を遊離させる。この種の抗菌性ガラス粉末を選択することによってカリエスの形成が予防される。前記抗菌性ガラス粉末は、有利なことに再ミネラル化特性を有している。
【0072】
改良された実施形態では、前記抗菌性添加物自体がガラスイオノマーとして機能する。すなわち、それは、例えばCa2+、Al3+イオンなど、ガラスイオノマーセメントの硬化に必要なイオンを提供する。Ca2+、Al3+イオンのそのような放出は、例えば合成樹脂中のポリカルボン酸と共にセメントの硬化を惹き起こす。ガラス組成物は、再ミネラル化特性のためにCa及び/又はリン酸塩イオン及び/又はナトリウム及び/又はCa又はリンを含む化合物を遊離させることができるものが好ましく、それによって歯の再ミネラル化が促進される。
【0073】
公知のガラスイオノマーセメントにおいては、粉末/液体の系からなっていることが多い。
【0074】
前記ガラスイオノマーセメントは、前記液体成分と前記ガラスイオノマーとの下記のような結合反応によって生成する。
【0075】
通常、有機物成分は溶液として調製されており、歯科医師による使用の直前に固形物成分、特に粉末、その中でもガラス粉末、すなわちガラスイオノマーと緊密に混合され、流動性の成分混合物を生成する。前記液体は、例えばポリアクリル酸、酒石酸、蒸留水及び例えば2−ヒドロキシエチルメタクリル酸(HEMA)のような3種樹脂複合体からなっている。ガラスイオノマーや本発明に基づく、単独ではガラスイオノマー/抗菌性ガラス粉末混合物とは反応を起こさない、例えば2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ジメタクリレート又は顔料などの構成成分が、該ガラス粉末と混合されてペーストを形成しているペースト/ペースト系も常用されている。ポリアクリル酸、水、発熱性ケイ酸など、その他の構成成分は第2のペーストに混合される。その後歯科医により前記ペーストが十分混合されることによって結合反応が起き、前記ガラスイオノマーセメントが得られる。
【0076】
例えば、メタクリレート修飾型ポリカルボン酸が併用された強力な系も公知である。
【0077】
セメントの二重重合が必要な場合では、例えば樟脳キノンなどの光開始剤の使用が可能である。
【0078】
抗菌作用を持つガラス粉末と抗菌作用を持たないガラスイオノマーとの本発明に基づく混合の長所は、混合物の抗菌作用がガラス粉末単独での抗菌作用を凌駕するところにある。それは、例えばAgなど、抗菌性ガラス粉末からの抗菌作用性イオンの遊離が、ガラスイオノマーからの遊離イオンによって促進されるからである。
【0079】
更に、イオン遊離性の抗菌性粉末の添加により(例えば光又は熱によって誘起される)ラジカル重合が、すなわち、その重合度、延いては強度(例えば弾性率)、並びにセメントの重合動力学が相乗的に促進されるところにも長所がある。
【0080】
コンポジットの場合、上記の充填材が、例えばAg、Zn2+、Cu2+などの殺菌性イオンを含むガラスフィラーであれば、コンポジット全体は前記ガラスからの前記イオンの遊離によって抗菌作用を発揮することができる。コンポジット全体が抗菌作用を示すことによって、二次カリエスの発症が抑制、または少なくとも症状が顕著に緩和される。
【0081】
フィラーとして使用される前記ガラスフィラーは、それ自体抗菌活性を有しないが、前記ガラスフィラーと抗菌性ガラス粉末とからなる混合物の一部としての使用は可能である。
【0082】
ガラスイオノマーセメントの場合、前記抗菌性ガラスを添加することにより、ポリアルケノアート鎖が有するカルボキシル基で抗菌性ガラス粉末中のハイドロキシルアパタイト層のカルシウムをキレート化させ、接着剤をミネラル化された歯の硬質組織に結合させることも可能である。したがって、抗菌性ガラス粉末をガラスイオノマーセメントに添加することによって、歯の硬質物質に対し堅固な結合を形成させることが可能となる。
【0083】
そのほか、ガラスイオノマーセメントの調製に使用される反応イオンは、酸可溶性ガラスからカルシウム、アルミニウム、ナトリウム、フッ化物及びケイ酸の各イオンが遊離するのを誘発する。
【0084】
ガラスイオノマーセメントは、構造的観点から言えば、その中に非反応ガラス粒子のフィラーが存在し、カルシウム/アルミニウムが架橋結合したポリアルケノアート鎖がマトリックスを形成しているコンポジットである。マトリックスに取り囲まれたガラス粒子は前記フィラーと前記マトリックス間の結合媒体である。
【0085】
イオン結合は、ポリマー鎖の架橋及びガラスイオノマーセメントの結合の役割を果たしている。そして多数の二次的な結合が、セメントの機械的特性の調整において重要な役割を果たしている。
【0086】
ガラスイオノマーセメントは脆くて弾性率が低く、引っ張り応力の下では弱く、破壊強度が低い。また機械的特性が劣るため、歯の修復材としての使用には制限がある。
【0087】
前記ガラスイオノマーセメントの機械的特性を改良する可能性は、マトリックスの改良にある。その場合、マトリックスの補強には抗菌性ガラスが使用されるが、歯の硬質組織に堅固な結合がもたらされ、それにより従来技術のレベルと比較し進歩が達成された。
【0088】
また、コンポマーの場合には、抗菌性ガラス粉末の添加によってその収縮率が小さくなるという利点が得られる。更に、前記ガラスイオノマーの機械的特性が改良され、前記コンポジットの結合を強くする効果が得られる。
【実施例】
【0089】
以下では本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
ガラスイオノマーセメント内のガラスイオノマーへの抗菌性ガラス添加物としては、特に粉末形態の抗菌性ガラスでは、例えばホウケイ酸塩ガラスが適している。まず最初に、相分離系を得るに当たって、特別な処理のされていない、ベースとなるホウケイ酸塩ガラスの実施例について述べる。
【0090】
ガラスは、原料の熔融後、帯状に成形することによって得た。この帯状ガラスを乾燥粉砕により、粒子サイズがd50=4μmの粉末となるように再加工した。
【0091】
表1は、ガラス粉末に粉砕することができ、ガラスイオノマーセメントに使用される、本発明に係るホウケイ酸塩ガラスの組成(酸化物ベースにおける重量%)を示す。
【表1】

【0092】
表2は、特定の条件にて焼き戻し工程を経たホウケイ酸塩ガラスに関する。この焼き戻しにより、多相系、特に2相系への規定された成分分離が可能となった。ガラスは、表1のそれぞれの実施例ごとの原料を熔融し、続いてそれを帯状に成形して調製した。次に、表2に挙げた焼き戻しを表記の温度・時間で行った。表2には、表1の各ガラス組成ごとに、その焼き戻し温度、焼き戻し時間及び2相系における成分分離領域の大きさ、いわゆる成分分離サイズが記載されている。
【表2】

(ガラス組成ごとの、焼き戻し温度・時間における成分分離領域のサイズを示す。)
【0093】
表2に記載された系は2相系であり、両相の組成は異なっている。一方の相はホウ素の豊富な相で、もう一方の相はケイ素が豊富な相である。ホウ素の豊富な相は化学的安定性が低いため、より抗菌作用が高められる。なぜなら、例えば銀などの抗菌性イオンの放出がより迅速に行われるからである。
【0094】
表3から5には、表1のそれぞれの実施例(ガラス組成物)に関する抗菌作用が記載されている。抗菌作用の測定対象はいずれの場合も、それぞれのガラス組成物から調製された帯状ガラスを粉砕して得たガラス粉末である。帯状ガラスの焼き戻しは表3に挙げたガラス粉末のみ行った。
【表3】

【0095】
表3は、表1の実施例2に記載された粒子サイズ4μmのガラス組成物について、ヨーロッパ薬局方(第3版)の規定に基づく、濃度0.01重量%の水性懸濁液における前記粉末ガラスの抗菌作用を示す。粉砕前におけるガラスの焼き戻し処理は行わなかった。
【表4】

【0096】
表4は、実施例12に記載された粒子サイズ4μmのガラス組成物について、ヨーロッパ薬局方(第3版)の規定に基づく、濃度0.001重量%の水性懸濁液における前記粉末ガラスの抗菌作用を示す。ガラスは表2の実施例12cと同様、粉砕前に620℃において10時間帯状で焼き戻し処理し、2相に成分分離した分離サイズ80nmのガラスを得た。
【表5】

【0097】
表5は、表1の実施例11に記載された粒子サイズ4μmのガラス組成物について、ヨーロッパ薬局方(第3版)の規定に基づく、濃度0.01重量%の水性懸濁液における前記粉末ガラスの抗菌作用を示す。粉砕前におけるガラスの焼き戻し処理は行わなかった。
【0098】
上記の表3から5において、開始日における数値は、測定開始時点で使用した菌数を表わしている。また、値が0と記入されている場合は、もはや菌の計測が不可能という意味であり、すなわち前記ガラス粉末が有する抗菌作用を示すものである。
【0099】
抗菌性イオンの遊離について経時的に検証するため、表6ではAgイオンの前記ガラス粉末からの水溶液への遊離を解析した結果を示す。
【0100】
すなわち表6では、表1の実施例2及び表2の実施例2−cに基づき、粒子サイズ5μmとして1重量%濃度の水性懸濁液での、連続的処理における1時間、24時間、72時間及び168時間後の、Si、Na、B及びAgイオンの遊離量(mg/L)を示す。
【表6】

【0101】
表6に記載されているように、本出願で言う連続処理において、例えば実施例2cのガラスについては、72時間の連続的な流水供給後になお0.36mg/lの銀が遊離される。
【0102】
処理の当初では、成分分離されたガラスは成分分離されていないガラスより明らかに多くのホウ素、ナトリウム及び、特に銀イオンを遊離するのが認められる。すなわちホウ素含有相における低い化学的安定性によって、抗菌作用が高められる。
【0103】
ホウ素含有相は2相系の高反応相であり、非常に迅速に銀イオンを遊離する。つまり、非常に強力な短期的抗菌作用を有している。一方ケイ酸塩含有相は、より高いその化学的安定性により、銀の緩慢な遊離及びガラスの長期的抗菌作用を司っている。
【0104】
歯科用材料への抗菌性添加物であって、また異なるガラス組成を持つものとして、リン酸亜鉛ガラスを使用することができる。それらのガラスについて表8及び9に示す。
【表8】

本発明に基づくガラス組成物の成分組成(合成値)[重量%]を示す。
【0105】
以下の表9には表8の実施例20についての抗菌作用を示す。
【表9】

【0106】
すなわちヨーロッパ薬局方(第3版)の規定に基づく、濃度0.001重量%の水溶液における粉末の抗菌作用を示す。実施例25において、粒子サイズは4μmである。実施例25における1%水溶液のpH値は約5.0である。
【0107】
以下の表10には、表8の実施例26についての抗菌作用が示されている。測定対象は、実施例26で示された、水性懸濁液状の粒子サイズd50=4μmを持つ0.001重量%のガラス粉末である。
【表10】

【0108】
すなわちヨーロッパ薬局方(第3版)の規定に基づく、濃度0.001重量%の水性懸濁液における粉末の抗菌作用を示す。表8の実施例26において、粒子サイズは4μmである。
【0109】
表11は、表8の実施例26についての抗菌作用を示している。測定対象は、実施例26で示された、水性懸濁液状の粒子サイズd50=4μmを持つ0.01重量%のガラス粉末である。
【表11】

【0110】
すなわちヨーロッパ薬局方(第3版)の規定に基づく、濃度0.01重量%の水性懸濁液における粉末の抗菌作用を示す。表8の実施例26において、粒子サイズは4μmである。
【0111】
また特に好ましいガラス組成を持つ別の態様として、スルフォリン酸塩ガラスを歯科用材料への添加物として使用することもできる。そのようなガラスにつき、表13から15に示す。
【表13】

本発明に基づくガラス組成物の成分組成(合成値)[重量%]を示す。
【表14】

ヨーロッパ薬局方(第3版)の規定に基づく、濃度0.001重量%の水性懸濁液におけるガラス粉末の粉末抗菌作用を示す。
【0112】
以下の表15は、実施例38に記載された濃度0.1重量%の水性懸濁液におけるガラス粉末の抗菌作用を示す。
【表15】

【0113】
また、ケイ酸塩ガラスをベースとして歯科材料用の添加物を得ることもできる。そのようなガラスの例を表16に示す。
【表16】

本発明に基づくガラス組成物の成分組成(合成値)[重量%]を示す。
【0114】
以下の表17には、実施例12、12c、15、19、25、26、33及び36(表8に記載)における、濃度1重量%の水性懸濁液における、粒子サイズ5μmの場合の処理後1時間及び24時間における、Agイオンの遊離量(mg/l)を示す。
【表17】

【0115】
表17と表8の組み合わせから明らかなように、前記遊離率はガラス組成、セラミック化度及び銀濃度によって調整することができる。
【0116】
以下の表18は、例えば表19に記載されるようなガラスイオノマーに使用可能な、歯科用ガラスフィラーの別の成分組成を示す(単位:重量%)。表18の歯科用ガラスフィラーは、実施例70の場合を除きいずれも抗菌作用を示している。表18にはその他、熱線膨張(CTE)、屈折率nD、転移温度Tg、歯科用フィラーにとって重要な試料厚2mmにおける放射線非透過性、銀(Ag)イオン遊離量及び初期OD(光学密度)が示されている。
【表18】

歯科用ガラスフィラーの成分組成を示す。
【0117】
以下に、本発明に係るガラスイオノマーセメントの構成成分組成例を記載する。なお、表示の数値は、組成全体に対する重量%である。
− 50重量%:50重量%のポリアクリル酸
− 47.5重量%:(47.5重量%のポリアクリル酸+5重量%の酒石酸)
− 45重量%:(45重量%のポリアクリル酸+5重量%の酒石酸+5重量%のCHOH)
− 75重量%:15重量%のポリアクリル酸+10重量%の酒石酸)
− 64.3重量%:(25.7重量%のポリアクリル酸+10重量%の酒石酸)
(抗菌性ガラス粉末を含むガラスイオノマー又は抗菌作用を持つガラスイオノマーの含有比率(重量%):液体成分の含有比率(重量%))
【0118】
上記組成の場合、本明細書で挙げた抗菌性ガラス粉末はすべて使用することができる。また抗菌性ガラス粉末と従来型ガラス粉末との混合も可能である。従来型ガラスイオノマーとの混合における抗菌性ガラス粉末の割合は、好ましくは0.5から25重量%、より好ましくは5から15重量%とする。更に別の態様として、ガラスイオノマー自体を抗菌性ガラス粉末とすることも可能である。
【0119】
以下の表19には、表18に記載された非抗菌性の歯科用ガラスフィラーである実施例70と、表1、2、8、13及び18に表示された濃度の抗菌性歯科用ガラスフィラーとを含むメタクリレートモノマー(いわゆるビス−GMA)をガラスイオノマーセメントに混合した実施例が示されている。
【表19】

組成全体に対する重量%で表わした、ガラスモノマーセメントの構成成分組成を示す。
【0120】
表20には、実施例1のガラス組成を有し、粒子サイズd50=4μmのガラス粉末を、表記の濃度(重量%)でセメント内に均一に添加し、48時間に亘り観察したときの増殖結果を示す。
【0121】
初期ODとは、周辺培地の光学密度のことである。表面から周辺培地への細胞の増殖(細胞分裂)と拡散によって培地の透過性が低下する。特定波長におけるこの吸光度は表面の抗菌作用と相関関係がある。初期OD値が高ければ高いほど、表面の抗菌作用は強くなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌性及び/又は殺菌性を有するガラス組成物を含む歯の修復材(インプラント材を除く)であって、前記ガラス組成物が下記の成分組成(酸化物ベースでの重量%)、すなわち
SiO 0〜99.5重量%
0〜80重量%
SO 0〜40重量%
0〜80重量%
Al 0〜30重量%
LiO 0〜30重量%
NaO 0〜40重量%
O 0〜30重量%
CaO 0〜25重量%
MgO 0〜15重量%
SrO 0〜30重量%
BaO 0〜40重量%
ZnO 0〜<15重量%
TiO 0〜10重量%
ZrO 0〜15重量%
CeO 0〜10重量%
AgO 0〜5重量%
F 0〜70重量%
I 0〜10重量%
Fe 0〜5重量%
であり、必要に応じて微量元素及び/又は気泡除去剤を常用量含み、SiO+P+SO+B+Alの和が20重量%以上99.5重量%以下、及びZnO+AgO+CuO+GeO+TeO+Crの和が0.01重量%以上のガラス組成物である、歯の修復材。
【請求項2】
抗菌性及び/又は殺菌性を有するガラス組成物を含む歯の修復材(インプラント材を除く)であって、前記ガラス組成物が下記の成分組成(酸化物ベースでの重量%)、すなわち
SiO 0〜80重量%
0〜80重量%
SO 0〜40重量%
0〜80重量%
Al 0〜30重量%
LiO 0〜30重量%
NaO 0〜40重量%
O 0〜30重量%
CaO 0〜25重量%
MgO 0〜15重量%
SrO 0〜30重量%
BaO 0〜40重量%
ZnO 0〜<15重量%
AgO 0〜5重量%
F 0〜65重量%
I 0〜10重量%
Fe 0〜5重量%
AgO 0〜5重量%
であり、必要に応じて微量元素及び/又は気泡除去剤を常用量含み、SiO+P+SO+B+Alの和が20重量%以上80重量%以下のガラス組成物である、歯の修復材。
【請求項3】
抗菌性及び/又は殺菌性を有するガラス組成物を含む歯の修復材(インプラント材を除く)であって、前記ガラス組成物が下記の成分組成(酸化物ベースでの重量%)、すなわち
SiO 0〜99.5重量%
0〜80重量%
SO 0〜40重量%
0〜80重量%
Al 0〜30重量%
LiO 0〜30重量%
NaO 0〜40重量%
O 0〜30重量%
CaO 0〜25重量%
MgO 0〜15重量%
SrO 0〜30重量%
BaO 0〜40重量%
ZnO 0〜<15重量%
AgO 0〜5重量%
F 0〜65重量%
I 0〜10重量%
Fe 0〜5重量%
AgO 0.01〜5重量%
であり、必要に応じて微量元素及び/又は気泡除去剤を常用量含み、SiO+P+SO+B+Alの和が20重量%以上99.5重量%以下のガラス組成物である、歯の修復材。
【請求項4】
歯の充填材である、請求項1から3のいずれか一項に記載の歯の修復材。
【請求項5】
前記歯の充填材が以下のグループ、すなわち、コンポジット材、ガラスイオノマーセメント及びコンポマーよりなるグループから選択された材料である、請求項1から4のいずれか一項に記載の歯の修復材。
【請求項6】
歯科用セラミック上部冠用のコーティング材、充填材又は外装材である、請求項1から5のいずれか一項に記載の歯の修復材。
【請求項7】
前記ガラス組成物のZnO成分含有率が0.25から15重量%、好ましくは2.5から10重量%であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の歯の修復材。
【請求項8】
前記ガラス組成物のAgO成分含有率が0.01から5重量%、好ましくは0.05から2重量%、特に好ましくは0.5から2重量%であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の歯の修復材。
【請求項9】
BaO+SrOの含有率の和が10重量%以上であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の歯の修復材。
【請求項10】
歯の修復材として、特に歯の充填材として使用され、歯の充填材、特にガラスイオノマー、コンポジット、コンポマーから選択されるものとの組み合わせで使用される、抗菌性を有するイオン遊離性のガラス組成物であって、下記の成分組成(酸化物ベースの重量%)、すなわち;
>66〜80重量%
SO 0〜40重量%
0〜1重量%
Al >6.2〜10重量%
SiO 0〜10重量%
LiO 0〜25重量%
NaO >9〜20重量%
CaO 0〜25重量%
MgO 0〜15重量%
SrO 0〜15重量%
BaO 0〜15重量%
ZnO 0〜<15重量%
AgO 0〜5重量%
CuO 0〜10重量%
GeO 0〜10重量%
TeO 0〜15重量%
Cr 0〜10重量%
I 0〜10重量%
F 0〜3重量%
であり、ZnO+AgO+CuO+GeO+TeO+Cr+Iの和が0.01重量%以上である、ガラス組成物。
【請求項11】
歯の修復材として、特に歯の充填材として使用され、歯の充填材、特にガラスイオノマー、コンポジット、コンポマーから選択されるものとの組み合わせで使用される、抗菌性を有するイオン遊離性のガラス組成物であって、下記の成分組成(酸化物ベースの重量%)、すなわち;
>66〜80重量%
SO 0〜40重量%
0〜1重量%
Al 0〜3.9重量%
SiO 0〜10重量%
CaO 0〜25重量%
MgO 0〜15重量%
SrO 0〜15重量%
BaO 0〜15重量%
ZnO 1〜<15重量%
AgO 0〜5重量%
CuO 0〜10重量%
GeO 0〜10重量%
TeO 0〜15重量%
Cr0 0〜10重量%
I 0〜10重量%
F 0〜3重量%
であり、ZnO+AgO+CuO+GeO+TeO+Cr+Iの和が1重量%以上である、ガラス組成物。
【請求項12】
歯の修復材として、特に歯の充填材として使用され、歯の充填材、特にガラスイオノマー、コンポジット、コンポマーから選択されるものとの組み合わせで使用される、抗菌性を有するイオン遊離性のガラス組成物であって、下記の成分組成(酸化物ベースの重量%)、すなわち;
>45〜90重量%
0〜60重量%
SiO 0〜40重量%
Al 0〜20重量%
SO 0〜30重量%
LiO 0〜0.1重量%
NaO 0〜0.1重量%
O 0〜0.1重量%
CaO 0〜40重量%
MgO 0〜40重量%
SrO 0〜15重量%
BaO 0〜40重量%
ZnO 0〜<15重量%
AgO 0〜5重量%
CuO 0〜15重量%
Cr 0〜10重量%
I 0〜10重量%
TeO 0〜10重量%
GeO 0〜10重量%
TiO 0〜10重量%
ZrO 0〜10重量%
La 0〜10重量%
Nb 0〜5重量%
CeO 0〜5重量%
Fe 0〜5重量%
WO 0〜5重量%
Bi 0〜5重量%
MoO 0〜5重量%
であり、ZnO+AgO+CuO+GeO+TeO+Cr+Iの和が0.001重量%以上である、ガラス組成物。
【請求項13】
歯の修復材として、特に歯の充填材として使用され、歯の充填材、特にガラスイオノマー、コンポジット、コンポマーから選択されるものとの組み合わせで使用される、抗菌性を有するイオン遊離性のガラス組成物であって、下記の成分組成(酸化物ベースの重量%)、すなわち;
SiO 40〜80重量%
5〜40重量%
Al 0〜10重量%
0〜30重量%
LiO 0〜25重量%
NaO 0〜25重量%
O 0〜25重量%
CaO 0〜25重量%
MgO 0〜15重量%
SrO 0〜15重量%
BaO 0〜15重量%
ZnO 0〜<15重量%
AgO 0〜5重量%
CuO 0〜10重量%
GeO 0〜10重量%
TeO 0〜15重量%
Cr 0〜10重量%
I 0〜10重量%
F 0〜10重量%
であり、ZnO+AgO+CuO+GeO+TeO+Cr+Iの和が5から70重量%である、ガラス組成物。
【請求項14】
前記ガラス組成物のZnO成分含有率が0.25から15重量%、好ましくは2.5から10重量%であることを特徴とする、請求項10から13のいずれか一項に記載のガラス組成物。
【請求項15】
前記ガラス組成物のAgO成分含有率が0.01から5重量%、好ましくは0.05から2重量%、特に好ましくは0.5から2重量%であることを特徴とする、請求項10から14のいずれか一項に記載のガラス組成物。
【請求項16】
前記ガラス組成物がBaO及びSrOを含んでいて、BaO+SrOの含有率の和が10重量%以上であることを特徴とする、請求項10から15のいずれか一項に記載のガラス組成物。
【請求項17】
前記ガラス組成物内で少なくとも2つのガラス相が形成されることを特徴とする、請求項10から16に記載のイオン遊離性ガラス組成物。
【請求項18】
前記ガラス組成物内で少なくとも2つのガラス相が異なった組成を有することを特徴とする、請求項17に記載のイオン遊離性ガラス組成物。
【請求項19】
前記ガラス組成物がホウケイ酸塩ガラス組成物であることを特徴とする、請求項17又は18に記載のイオン遊離性ガラス組成物。
【請求項20】
歯の修復材、特に歯の充填材として使用される、歯の充填材、特にガラスイオノマー、コンポジット、コンポマーから選択されるものとの組み合わせで使用される、抗菌作用を持つイオン遊離性のガラスセラミックであって、前記ガラスセラミックの原料ガラスが下記の成分組成(酸化物ベースの重量%)、すなわち;
SiO 20〜90重量%
CaO 0〜45重量%
Na 0〜40重量%
0〜15重量%
AgO 0〜5重量%
ZnO 0〜20重量%
であり、ZnO+AgO+CuO+GeO+TeO+Cr+Iの和が0.001重量%以上である、ガラスセラミック。
【請求項21】
単相としての主結晶相が1NaO・2CaO・3SiOから構成(NaCaSi16(OH)の主結晶相であるガラスセラミックを除く)され、主結晶相がアルカリ−アルカリ土類ケイ酸塩及び/又はアルカリケイ酸塩及び/又はアルカリ土類ケイ酸塩を有することを特徴とする、請求項20に記載のイオン遊離性ガラスセラミック。
【請求項22】
Tgをガラス転移温度とすれば、温度域Tg≦T≦Tg+300℃での焼き戻しにより少なくとも2つの相が得られることを特徴とする、請求項17から19のいずれか一項に記載のイオン遊離性のガラス組成物の製造方法。
【請求項23】
ガラスセラミック用の前記原料ガラスを粉砕し、続いてそれにより得られた粉末状の原料ガラスをセラミック加工することを特徴とする、請求項20又は21に記載のイオン遊離性のガラスセラミックの製造方法。
【請求項24】
ガラスセラミック用の前記原料ガラスをセラミック加工し、続いて粉砕することを特徴とする、請求項20又は21に記載のイオン遊離性ガラスセラミックの製造方法。
【請求項25】
遊離カルボン酸基を含むポリマー、イオン遊離性ガラスイオノマー−ガラス組成物、並びに請求項10から21のいずれか一項に記載のイオン遊離性の抗菌性を有するガラス組成物又はイオン遊離性の抗菌性を有するガラスセラミックを有する、歯科用ガラスイオノマーセメント。
【請求項26】
ガラス組成物全体の1から90重量%が、
イオン遊離性のガラス組成物/ガラスセラミック組成物であって、そのイオン遊離性のガラス組成物がイオン遊離性の抗菌性を有するガラス組成物若しくはイオン遊離性のガラスセラミックスを有している、又は
イオン遊離性のガラスイオノマー組成物、並びにイオン遊離性の抗菌性のガラス組成物若しくはイオン遊離性のガラスセラミックスとの混合物
であることを特徴とする、請求項25に記載のガラスイオノマーセメント。
【請求項27】
AgO含有率が0.01重量%以上であることを特徴とする、請求項25又は26に記載のガラスイオノマーセメント。
【請求項28】
抗菌性ガラス組成物とガラスイオノマーセメント及び/又は歯科用充填材との比が0.001以上であることを特徴とする、請求項25から27のいずれか一項に記載のガラスイオノマーセメント。
【請求項29】
抗菌性ガラス組成物とガラスイオノマーセメント及び/又は歯科用充填材との比が200以下、好ましくは100以下、極めて好ましくは10以下であることを特徴とする、請求項25から28のいずれか一項に記載のガラスイオノマーセメント。
【請求項30】
基礎材、好ましくは、コンポジット、ガラスイオノマーセメント、コンポマーから選択される歯科用充填材、及び
請求項10から21のいずれか一項に記載の、イオン遊離性の抗菌性ガラス組成物又はイオン遊離性ガラスセラミック
を有する、セラミック製歯科用上部冠用のコーティング材又は外装材。

【公表番号】特表2008−500980(P2008−500980A)
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513793(P2007−513793)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【国際出願番号】PCT/EP2005/005632
【国際公開番号】WO2005/115305
【国際公開日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】