説明

歯科用充填修復材

【課題】 歯科用充填修復材に要求される極めて高い審美性と低収縮率を維持しながら、口腔内での充填操作が容易なペースト性状を有する歯科用充填修復材を提供すること。
【解決手段】 (A)重合性単量体100質量部、(B)平均粒子径0.03〜0.6μmの無機フィラー80〜1000質量部、(C)界面活性剤、好適にはノニオン系界面活性剤またはアニオン系界面活性剤0.1〜10質量部、及び(D)重合開始剤0.01〜10質量部を含んでなる歯科用充填修復材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科用充填修復材に関する。更に詳しくは、充填材の含有量が多いときにも良好な操作性を示す歯科用充填修復材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンポジットレジンと呼ばれる歯科用充填修復材は、近年のMI(minimal intervention)の概念の普及に伴い、歯科の修復治療においてますます広く利用されるようになって来た。こうした歯科用充填修復材料は、一般に重合性単量体(モノマー)、フィラー、及び重合触媒を主成分とした重合性組成物からなるペーストとして構成されている。
【0003】
歯科用充填修復材に用いられるフィラーは、当初はガラスを粉砕した平均粒子径が数10μm程度の無機フィラーを用いていた。しかしながら、このような粒子径の大きい無機フィラーを用いると充填修復材の表面を研磨しても艶が出にくく、周囲の天然歯に比較して艶がないように見えるため、審美的に好ましくなかった。さらに、表面が経時的に荒れ、舌触りにも違和感を覚えることがあった。
【0004】
この問題を解決するため、平均粒子径が1μm以下の、シリカジルコニア、シリカチタニア等の微細な無機フィラーを歯科用充填修復材に用いることが提案された(例えば、特許文献1〜5)。この方法により、充填修復材はかなり良好な審美生を有するものとすることができたが、一方で、このような微粒子はペーストへの充填性が悪く、多量に均一に含有させることが困難で、該充填修復材の機械的強度を低下させていた。
【0005】
また、近年、歯科用充填修復材は、歯牙修復において、その利用範囲が広げられており、それに応じて更なる高性能化が求められるようになっている。具体的には、大きな窩洞の修復にも従来のアマルガムやセラミックスに代わって、こうした充填修復材が用いられるようになってきている。しかしてこの用途に使用する場合、充填修復材には、重合硬化させるときの重合収縮率を、従来の歯科用充填修復材よりもさらに小さくすることが要求される。そして、これを達成するには、上記無機フィラーの充填率を、より高くすることが求められる。
【0006】
しかし、前記したように審美性の良い、平均粒子径の小さい無機フィラーを多量に均一に含有させることは困難であり、しかも、このような要求から、該無機フィラーを多めに充填していくと、下記に説明するような充填修復材の操作性に大きな影響が及んでいた。
【0007】
ここで、歯科用充填修復材(以下、コンポジットレジンとも呼ぶ)の操作性について述べておく。コンポジットレジンはその操作性からペーストタイプとフロアブルタイプに大別することができる。ペーストタイプのコンポジットレジンは、練和紙等の上に必要量だけ取り出し、金属製の充填器を用いてコンポジットレジンを修復部の窩洞に充填し、形態を整えた後に光照射して重合硬化せしめて使用される。一方、フロアブルタイプは充填チップと呼ばれる先端の細いチップをコンポジットレジンのシリンジに装着し、充填チップ先端から直接窩洞に充填して使用される。いずれの場合においても操作性は非常に重要であり、ペーストタイプの場合、ペーストが硬すぎると充填や付形操作中にペーストがひび割れてしまい、滑沢な面が得られなかったり、裂孔に食物残渣が残るなどして二次う蝕の原因となりうる。また、ペーストのベタ付きが大きいと、窩洞内に充填器を用いてペーストを盛り付ける際、充填器に付着して思い通りに盛り付けが出来ない。また、フロアブルタイプの場合、シリンジから押し出しにくいと手が震えて狙った場所にペーストを吐出できない、また、ペーストの糸引きが大きいと窩洞の周辺部にペーストが付着して接着不良の原因になるなど、充填操作を行ううえで非常に神経を使う必要がある。
【0008】
さらに、ペーストタイプおよびフロアブルタイプいずれの場合においても充填率が高すぎるとペーストの粘度が増し、窩壁との密着性が低下して辺縁漏洩を起こしやすく、着色、褐線の発現による審美性の低下や二次う蝕の原因ともなり得る。
【0009】
以上から、歯科用充填修復材には、審美性の改善から、平均粒子径のできるだけ小さい無機フイラーを配合させることが求められるが、その場合、多量に含有させることが困難で、十分な機械的強度が得られず、また、充填できても、上記操作性が低下し、更なる改良が必要であった。
【0010】
ペースト状物質の流動性や操作性を改良するためには、一般的に界面活性剤を用いることは公知である。例えば、特許文献6には酸性基含有ビニルモノマー、イオン溶出性フィラー、重合開始剤を含有してなる硬化性組成物に対してノニオン系界面活性剤を含む組成物が開示されている。しかしながら、上記イオン溶出性フィラーとしては、粒子径が50μm以下の大きい粒子が示され、実施例でも平均粒子径が1.0〜1.1μmのフィラーが具体例として使用されている。しかして、このような大きい粒子径のものを配合しても、得られる歯科用充填修復材において審美生を満足させることは困難であり、また、こうした大きなフィラーを用いる技術から、前記した微細な無機フィラーを用いた時に初めて生じる充填性や操作性の問題点やその解決策を予測することはできない。
【0011】
また、特許文献7にも、界面活性剤、ラジカル重合性単量体、および硬化促進剤を含有する硬化性組成物が開示されており、この組成物にフィラーを含有させても良いことが開示されている。しかしながら、このようにフィラーを含有させる場合においての、使用するフィラーの粒子径については全く記載されていない。また、この硬化性組成物において、上記界面活性剤の配合目的は、生体硬組織の表面に対する濡れ性の改善であり、歯科用充填修復材として用いた場合の審美生の改善は全く意図されていない。したがって、やはり、この硬化性組成物においても、前記した微細な無機フィラーを用いた時に生じる充填性や操作性の問題点やその解決策を予測することはできない。
【0012】
【特許文献1】特開昭58−110414号公報
【特許文献2】特開昭58−151321号公報
【特許文献3】特開昭58−156526号公報
【特許文献4】特開昭58−156524号公報
【特許文献5】特開昭58−152804号公報
【特許文献6】特開平5−255035号公報
【特許文献7】特開平7−316391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明が解決しようとする課題は、歯科用充填修復材に要求される極めて高い審美性と低収縮率を維持しながら、口腔内での充填操作が容易なペースト性状を有する歯科用充填修復材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。そして、平均粒子径が小さい無機フィラーを多量に含有する歯科用充填修復材においても、特定量の界面活性剤を含有させると、該無機フィラーは均一に充填され、機械的強度やペーストの操作性等に優れるものになることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
即ち、本発明は、(A)重合性単量体100質量部、(B)平均粒子径0.03〜0.6μmの無機フィラー80〜1000質量部、(C)界面活性剤0.1〜10質量部、及び(D)重合開始剤0.01〜10質量部を含んでなる歯科用充填修復材である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の歯科用充填修復材は、硬化体表面の艶が得やすくその持続性にも優れており、重合硬化時の収縮率が小さく、さらに口腔内でのペーストの充填操作がしやすいペースト性状を併せ持つものである。このことによって、非常に広範囲な修復症例に対応可能な歯科用充填修復材料となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の歯科用修復材料に配合させる第一の成分は(A)重合性単量体である。重合性単量体としては、公知の重合性単量体が制限なく用いられるが、ラジカル重合性単量体とカチオン重合性単量体が好適に用いられる。
【0018】
ラジカル重合性単量体としては、酸性基(スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸残基等)を有さない(メタ)アクリレート系の重合性単量体が、硬化速度や硬化体の機械的物性、耐水性、耐着色性等の観点から好適に用いられ、特に、複数の重合性官能基を有する、多官能の(メタ)アクリレート系重合性単量体が好ましい。当該多官能性の(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、公知のものが特に制限なく使用できる。一般に好適に使用されるものを例示すれば、下記(I)〜(III)に示されるものが挙げられる。
【0019】
(I)二官能重合性単量体
(i)芳香族化合物系のもの
2,2−ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル]プロパン(以下、bis−GMAと略記する)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(以下、D−2.6Eと略記する)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等。
【0020】
(ii)脂肪族化合物系のもの
エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(以下、3Gと略記する)、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物との付加体から得られるジアダクト;1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エチル等。
【0021】
(II)三官能重合性単量体
トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート等のメタクリレート及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等。
(III)四官能重合性単量体
ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物とグリシドールジメタクリレートとの付加体から得られるジアダクト等。
【0022】
これら多官能の(メタ)アクリレート系重合性単量体は、必要に応じて複数の種類のものを併用しても良い。
【0023】
さらに、必要に応じて、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリレート、及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等の単官能の(メタ)アクリレート系単量体や、上記(メタ)アクリレート系単量体以外の重合性単量体を用いても良い。歯科用修復材料としての良好な硬化体物性(機械的強度、非溶出性など)を得るためには、これら多官能の(メタ)アクリレート系単量体以外の単量体の配合量は、全ラジカル重合性単量体中に30質量%以下、好ましくは10質量%以下より好ましくは5質量%以下とするのがよい。
【0024】
一方、上記重合性単量体がカチオン重合性単量体のときは、ブレンステッド酸、或いはルイス酸により重合しうる公知の単量体がなんら制限なく用いられる。
【0025】
代表的なカチオン重合性単量体を例示すれば、ビニルエーテル化合物、エポキシ、オキセタン、テトラヒドロフラン、オキセパン等の環状エーテル化合物、ビシクロオルトエステル、スピロオルトエステル等の双環状オルトエステル化合物、スピロオルトカーボネート、環状カーボネート、1,3,5−トリオキサン、1,3−ジオキソラン、オキセパン、1,3−ジオキセパン、4−メチル−1,3−ジオキセパン、1,3,6−トリオキサシクロオクタン等の環状アセタール化合物、2,6−ジオキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,7−ジオキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン、6,8−ジオキサビシクロ[3.2.1]オクタン等の双環状アセタール化合物が挙げられるが、特に歯科用途を考慮した場合、入手が容易でかつ体積収縮が小さく、重合反応がはやい点において、とりわけオキセタン化合物およびエポキシ化合物が好適に使用される。
【0026】
当該オキセタン化合物を具体的に例示すれば、トリメチレンオキサイド、3−メチル−3−オキセタニルメタノール、3−エチル−3−オキセタニルメタノール、3−エチル−3−フェノキシメチルオキセタン、3,3−ジエチルオキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシルオキシ)オキセタン等の1つのオキセタン環を有すもの、1,4−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチルオキシ)ベンゼン、4,4′−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチルオキシ)ビフェニール、4,4′−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチルオキシメチル)ビフェニール、エチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)ジフェノエート、トリメチロールプロパントリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等、あるいは下記に示す化合物
【0027】
【化1】

【0028】
等のオキセタン環を2つ以上有す化合物が挙げられる。
【0029】
特に得られる硬化体の物性の点から、単量体1分子中にオキセタン環を2つ以上有するものが好適に使用される。
【0030】
また、エポキシ化合物もまた、カチオン重合可能な化合物であれば特に限定されることはなく公知のものが使用できる。当該エポキシ化合物を具体的に例示すると、1,2−エポキシプロパン、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、2,3−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシオクタデカン、ブタジエンモノオキサイド、2−メチル−2−ビニルオキシラン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−7−オクテン、1,2−エポキシ−9−デセン、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、グリシドール、2−メチルグリシドール、メチルグリジジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、グリシジルプロピルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、シクロオクテンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、シクロオクテンオキサイド、シクロドデカンエポキシド、エキソ−2,3−エポキシノルボルネン、4−ビニル−1−シクロヘキセン−1,2−エポキシド、リモネンオキサイド、スチレンオキサイド、(2,3−エポキシプロピル)ベンゼン、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、グリシジル2−メチルフェニルエーテル、4−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、4−クロロフェニルグリシジルエーテル、グリシジル4−メトキシフェニルエーテル等のエポキシ官能基を一つ有するもの、また、1,3−ブタジエンジオキサイド、1,2,7,8−ジエポキシオクタン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3−プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,5−ペンタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンメタノールジグリシジルエーテル、ジグリシジルグルタレート、ジグリシジルアジペート、ジグリシジルピメレート、ジグリシジルスベレート、ジグリシジルアゼレート、ジグリシジルセバケート、2,2−ビス[4−グリシジルオキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−グリシジルオキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン、4−ビニル−1−シクロヘキセンジエポキシド、リモネンジエポキシド、1,2,5,6−ジエポキシシクロオクタン、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシラート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)グルタレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)ピメレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)スベレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)ゼレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)セバケート、1,4−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルオキシメチル)ベンゼン、1,4−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルオキシメチル)ビフェニル、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロパン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)スルホン、メチルビス[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]フェニルシラン、ジメチルビス[(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メチル]シラン、メチル[(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メチル][2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]シラン、1,4−フェニレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、1,2−エチレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]シラン、1,3−ビス[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、2,5−ビシクロ[2.2.1]ヘプチレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、1,6−へキシレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン等のエポキシ官能基を二つ有する化合物、或いはグリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサグリシジルエーテル、更に
【0031】
【化2】

【0032】
等のエポキシ官能基を三つ以上有するものが挙げられる。これらエポキシ化合物は、複数種のものを併用しても良い。
【0033】
特に得られる硬化体の物性の点から、1分子中にエポキシ官能基を2つ以上有するものが好適に使用される。
【0034】
これらのカチオン重合性単量体は単独、または二種類以上を組み合わせて用いることができる。とりわけ、1分子平均a個のオキセタン官能基を有するオキセタン化合物をAモルと、1分子平均b個のエポキシ官能基を有するエポキシ化合物をBモルとを混合して用いた場合、(a×A):(b×B)が90:10〜45:55の範囲になるように調製したものが、硬化速度が速く、水分による重合阻害を受けにくい点で好適である。
【0035】
本発明の歯科用修復材に配合させる第二の成分は、(B)無機フィラーであり、該無機フィラーの平均粒子径は0.03〜0.6μmである。無機フィラーの平均粒子径がこの範囲の小ささであることによって、歯科用充填修復材に要求される高い審美生を満足することが可能である。また、一方で、このように無機フィラー成分が微細であることにより、充填性が低下し、多めに配合した際のペーストの操作性の低下の現象も発生し易くなるが、本発明では後述するように(C)界面活性剤を配合することにより、これらの問題が良好に改善される。
【0036】
該無機フィラーとしては、公知のものが特に制限なく使用できる。一般に好適に使用されるものを例示すれば、非晶質シリカ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア−ジルコニア、シリカ−カルシア、シリカ−マグネシア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、石英等を挙げることができる。さらに、これら無機フィラーを高温で焼成する際に緻密な無機フィラーを得やすくする等の目的で、少量の周期律表第I族の金属酸化物を該無機フィラー中に存在させた粒子を用いることもできる。歯科用としては、シリカとジルコニアとを主な構成成分とする無機フィラーが、重合性単量体との屈折率の調整しやすさ、およびX線造影性を有することから、特に好適に用いられる。
【0037】
上記無機フィラーの平均粒子径は0.03〜0.6μmである。使用する無機フィラー全体として、その平均粒子径が上記範囲内にあれば良く、無機粒子の粒度分布は上記範囲よりも広くても良いが、その粒子の少なくともその60%、より好ましくは80%は上記0.03〜0.6μmの粒子径の範囲内にあるのが好ましい。ここで、平均粒子径が小さいほうが硬化体の研磨時に光沢は得やすくなるが、充填率が上がり難く、ペーストの操作性も低下する。一方、平均粒子径が大きくなると充填率は上げやすくなるが研磨時の光沢は得られにくくなる。このため、上記無機フィラーの平均粒子径は、両者のバランスを取った0.03μm〜0.6μmの範囲が好ましく、0.04μm〜0.5μmの範囲が特に好ましい。
【0038】
無機フィラーを高密度に充填するためには、例えば特開平8−12305号公報に記載されているように、粒径の大きな無機フィラーと粒径の小さな無機フィラーを組み合わせて用いることが好ましく、本発明でも、配合させる無機フイラーの全体の平均粒子径が上記0.03〜0.6μmの範囲内になるように、粒径の異なる2種を組合せて使用するのが好ましい。特に好適には、平均粒子径が0.2〜0.8μm、より好ましくは0.3〜0.6μmの大粒径無機フィラーと、使用する該大粒径無機フィラーの平均粒子径に対して1/3〜1/7の平均粒子径を有する小粒径無機フィラーを、無機フィラー全体として、その平均粒子径が上記0.03μm〜0.6μmの範囲内になる配合比で組合せて使用するのが好ましい。
【0039】
なお、本発明における充填材の平均粒子径は、レーザー回折−散乱法によって測定したメジアン径である。
【0040】
本発明において、上記無機フィラーの形状は特に制限されるものではなく、粉砕により得た不定形のものでも良いが、充填修復材の審美性や、充填性をより向上させる観点からは球形であるのが好ましい。ここで、球形とは、必ずしも真球である必要はなく、略球状であっても良い。一般には、走査型電子顕微鏡で無機フィラーの写真をとり、その単位視野内に観察される粒子を無作為に100個選択し、各々について粒子の最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で徐した平均均斉度が0.6以上、より好ましくは0.8以上のものであれば充分使用できる。
【0041】
上記無機フィラーは、(A)重合性単量体とのなじみをよくし機械的強度や耐水性を向上させるために、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理されていることが望ましい。表面処理の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、3−エチル−3−[3−(トリエトキシシリル)プロポキシメチル]オキセタン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が好適に用いられる。上記シランカップリング剤は、重合性単量体に合わせて、適時選択すればよく、1種類あるいは2種類以上を合わせて用いることができる。
【0042】
上記無機フィラーの配合量は、重合性単量体100質量部に対して80〜1000質量部である。充填材が80質量部未満のときは硬化体の機械的強度が充分ではなく、重合収縮率も大きくなる。また1000質量部を超えると、均一に充填することが困難になり、操作性の低下も免れない。こうした性状をより優れたものにする観点からは、無機フィラーの前記配合量は、100〜900質量部であるのが好ましい。
【0043】
充填材の使用量は前記したコンポジットレジンの操作性、即ちペーストタイプかフロアブルタイプかによって適宜決定すればよいが、何れのタイプにおいても、重合収縮率を小さくする観点からは充填材の使用量はできるだけ高いことが望まれる。フロアブルタイプとしては100〜400質量部であることが好ましく、ペーストタイプとしては150〜900質量部であることが好ましい。
【0044】
本発明の歯科用修復材に配合させる第三の成分は、(C)界面活性剤である。一般的に界面活性剤は二相間のヌレ性を改良するもので、本発明の場合は(A)重合性単量体と(B)充填材の馴染みをよくし、ペースト性状を改良するものである。従来、歯科材料において界面活性剤は、歯質との接着性や硬化体の強度、着色性を改良するために用いられてきたが、本発明では歯科用修復材の充填性を向上させ、さらに操作性を改良するために使用される。
【0045】
上記界面活性剤としては、公知のものが何ら制限なく使用できる。具体的には、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤のいずれもが使用できるが、本発明の効果を良好に発揮させる観点からは、好ましくはノニオン系界面活性剤およびアニオン系界面活性剤である。
【0046】
本発明で好適に使用されるノニオン系界面活性剤としては公知のものが特に制限なく使用できるが、HLB(親水親油バランス)が3以上、好適には6〜18のものを使用するのが好ましい。こうしたノニオン系界面活性剤には親水基としてポリオキシエチレン基を有するものが挙げられ、具体的に例示すれば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸ポリオキシエチレンラウリルエステルなどの脂肪酸ポリオキシエチレンエステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリルエステルなどのポリオキシエチレンソルビタンエステル類などが挙げられる。
【0047】
本発明で好適に使用されるアニオン系界面活性剤としては公知のものが特に制限なく使用できるが、HLBが20以上、好適には30〜50のものを使用するのが好ましい。このようなアニオン系界面活性剤を具体的に例示すれば、デシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩、ヘキサンスルホン酸ナトリウム、デシルスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸塩、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、デカン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムなどの脂肪族カルボン酸塩、ラウリルアルコールとエチレンオキサイドの付加物を硫酸化したラウリルエーテル硫酸エステルナトリウムなどのアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸ナトリウムなどのスルホコハク酸ジエステル、高級アルコールエチレンオキサイド付加物のリン酸エステル塩などを挙げることができる。
【0048】
また、本発明で使用されるカチオン系界面活性剤としては公知のものが特に制限なく使用できるが、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルピリジニウムブロミドなどの第4級アンモニウム塩を挙げることができる。
【0049】
上記界面活性剤の配合量は、重合性単量体100質量部に対して0.1〜10質量部である。配合量が少ないとペースト性状改良の効果が充分ではなく、また配合量が多いと硬化体の物性に影響を及ぼす。こうした性状をより優れたものにする観点からは、界面活性剤の前記配合量は、好ましくは0.2〜7質量部であり、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0050】
本発明の歯科用充填修復材に配合させる第四の成分は、(D)重合開始剤である。当該重合開始剤としては用いる重合性単量体を重合、硬化させることができるものであれば何ら制限なく使用可能であり、公知の重合開始剤が使用できる。歯科分野で用いられる重合開始剤としては、ラジカル重合性単量体を重合硬化させるためのラジカル重合開始剤として、化学重合開始剤(常温レドックス開始剤)、光重合開始剤、熱重合開始剤等があるが、口腔内で硬化させることを考慮すると、化学重合開始剤及び/又は光重合開始剤が好ましい。また、カチオン重合性単量体を重合硬化させるためのカチオン重合開始剤としては、光照射によりルイス酸或いはブレンステッド酸を生じる、所謂、光酸発生剤を採用することが好ましい。
【0051】
光重合開始剤としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール類、ベンゾフェノン、アントラキノン、チオキサントン等のジアリールケトン類、ジアセチル、ベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナントラキノン等のα−ジケトン類、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドなどのビスアシルホスフィンオキサイド類等が使用できる。
【0052】
なお、光ラジカル重合開始剤には、しばしば還元性の化合物が添加されるが、その例としては、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、N−メチルジエタノールアミン、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどの第3級アミン類、2−メルカプトベンゾオキサゾール、1−デカンチオール、チオサルチル酸、チオ安息香酸などの含イオウ化合物、N−フェニルアラニンなどを挙げることができる。
【0053】
熱重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物を挙げることができる。
【0054】
また、化学重合開始剤としては、上記の過酸化物と還元剤として例示された第3級アミン類の組み合わせが挙げられる。
【0055】
また、上記光酸発生剤としては、ジアゾニウム塩系化合物、鉄−アレーン錯体塩系化合物、ジアリールヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、ピリジニウム塩系化合物、スルホン酸エステル化合物、およびハロメチル置換−S−トリアジン有導体等が挙げられる。
【0056】
これらの中でも、ジアリールヨードニウム塩系化合物及びスルホニウム塩系化合物が、重合活性が特に高い点で優れている。ジアリールヨードニウム塩系化合物としての具体例を例示すれば、ジアリールヨードニウム塩系化合物の具体例を例示すれば、ジフェニルヨードニウム、ビス(p−クロロフェニル)ヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、p−イソプロピルフェニル−p−メチルフェニルヨードニウム、ビス(m−ニトロフェニル)ヨードニウム、p−tert−ブチルフェニルフェニルヨードニウム、p−メトキシフェニルフェニルヨードニウム、ビス(p−メトキシフェニル)ヨードニウム、p−オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム、p−フェノキシフェニルフェニルヨードニウム等のカチオンと、クロリド、ブロミド、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート等のアニオンからなるジアリールヨードニウム塩系化合物が挙げられる。
【0057】
また、スルホニウム塩系化合物としては、ジメチルフェナシルスルホニウム、ジメチルベンジルスルホニウム、ジメチル−4−ヒドロキシフェニルスルホニウム、ジメチル−4−ヒドロキシナフチルスルホニウム、ジメチル−4,7−ジヒドロキシナフチルスルホニウム、ジメチル−4,8−ジヒドロキシナフチルスルホニウム、トリフェニルスルホニウム、p−トリルジフェニルスルホニウム、p−tert−ブチルフェニルジフェニルスルホニウム、ジフェニル−4−フェニルチオフェニルスルホニウム等のカチオンと、クロリド、ブロミド、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート等のアニオンとからなるスルホニウム塩系化合物が挙げられる。
【0058】
上記のような光酸発生剤は通常、近紫外〜可視域には吸収の無い化合物が多く、重合反応を励起するためには、特殊な光源が必要となる場合が多い。そのため、近紫外〜可視域に吸収をもつ化合物を増感剤として、上記光酸発生剤に加えてさらに配合することが好ましい。
【0059】
このような増感剤として用いられる化合物は、例えばアクリジン系色素、ベンゾフラビン系色素、アントラセン、ペリレン等の縮合多環式芳香族化合物、フェノチアジン等が挙げられる。
【0060】
これら増感剤のなかでも、重合活性が良好な点で、縮合多環式芳香族化合物が好ましく、さらに、少なくとも1つの水素原子を有する飽和炭素原子が縮合多環式芳香族環と結合した構造を持つ縮合多環式芳香族化合物が好適である。
【0061】
このような少なくとも1つの水素原子を有する飽和炭素原子が縮合多環式芳香族環と結合した構造を持つ縮合多環式芳香族化合物を具体的に例示すると、1−メチルナフタレン、1−エチルナフタレン、1,4−ジメチルナフタレン、アセナフテン、1,2,3,4−テトラヒドロフェナントレン、1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン、ベンゾ[f]フタラン、ベンゾ[g]クロマン、ベンゾ[g]イソクロマン、N−メチルベンゾ[f]インドリン、N−メチルベンゾ[f]イソインドリン、フェナレン、4,5−ジメチルフェナントレン、1,8−ジメチルフェナントレン、アセフェナントレン、1−メチルアントラセン、9−メチルアントラセン、9−エチルアントラセン、9−シクロヘキシルアントラセン、9,10−ジメチルアントラセン、9,10−ジエチルアントラセン、9,10−ジシクロヘキシルアントラセン、9−メトキシメチルアントラセン、9−(1−メトキシエチル)アントラセン、9−ヘキシルオキシメチルアントラセン、9,10−ジメトキシメチルアントラセン、9−ジメトキシメチルアントラセン、9−フェニルメチルアントラセン、9−(1−ナフチル)メチルアントラセン、9−ヒドロキシメチルアントラセン、9−(1−ヒドロキシエチル)アントラセン、9,10−ジヒドロキシメチルアントラン、9−アセトキシメチルアントラセン、9−(1−アセトキシエチル)アントラセン、9,10−ジアセトキシメチルアントラセン、9−ベンゾイルオキシメチルアントラセン、9,10−ジベンゾイルオキシメチルアントラセン、9−エチルチオメチルアントラセン、9−(1−エチルチオエチル)アントラセン、9,10−ビス(エチルチオメチル)アントラセン、9−メルカプトメチルアントラセン、9−(1−メルカプトエチル)アントラセン、9,10−ビス(メルカプトメチル)アントラセン、9−エチルチオメチル−10−メチルアントラセン、9−メチル−10−フェニルアントラセン、9−メチル−10−ビニルアントラセン、9−アリルアントラセン、9,10−ジアリルアントラセン、9−クロロメチルアントラセン、9−ブロモメチルアントラセン、9−ヨードメチルアントラセン、9−(1−クロロエチル)アントラセン、9−(1−ブロモエチル)アントラセン、9−(1−ヨードエチル)アントラセン、9,10−ジクロロメチルアントラセン、9,10−ジブロモメチルアントラセン、9,10−ジヨードメチルアントラセン、9−クロロ−10−メチルアントラセン、9−クロロ−10−エチルアントラセン,9−ブロモ−10−メチルアントラセン、9−ブロモ−10−エチルアントラセン、9−ヨード−10−メチルアントラセン、9−ヨード−10−エチルアントラセン、9−メチル−10−ジメチルアミノアントラセン、アセアンスレン、7,12−ジメチルベンズ(A)アントラセン、7,12−ジメトキシメチルベンズ(a)アントラセン、5,12−ジメチルナフタセン、コラントレン、3−メチルコラントレン、7−メチルベンゾ(A)ピレン、3,4,9,10−テトラメチルペリレン、3,4,9,10−テトラキス(ヒドロキシメチル)ペリレン、ビオランスレン、イソビオランスレン、5,12−ジメチルナフタセン、6,13−ジメチルペンタセン、8,13−ジメチルペンタフェン、5,16−ジメチルヘキサセン、9,14−ジメチルヘキサフェン等が挙げられる。
【0062】
また上記以外の縮合多環式芳香族化合物としては、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ナフタセン、ベンズ[a]アントラセン、ピレン、ペリレン等が挙げられる。
【0063】
また、前記の光重合開始剤の活性をより高めるため、上記の光酸発生剤を組み合わせて、光ラジカル重合性開始剤として用いることも可能である。この場合、光重合開始剤としてはカンファーキノン等のα−ジケトン類が好ましく、4−ジメチルアミノ安息香酸等の還元剤を併用することが好ましい。
【0064】
これら重合開始剤は単独で用いることもあるが、2種以上を混合して使用してもよい。また、その配合量は目的に応じて選択すればよいが、重合性単量体100質量部に対して通常0.01〜10質量部の割合であり、より好ましくは0.1〜5質量部の割合で使用される。
【0065】
本発明の歯科用充填修復材には、本発明の効果を損なわない範囲で、前記(B)平均粒子径0.03〜0.6μmの無機フィラーの他に、他のフィラーも配合させることができる。こうした他のフイラーとしては、有機フィラーや有機無機複合フィラーが挙げられる。該有機フィラーや有機無機複合フィラーの平均粒径は1μm〜100μm程度である。これらは粒径が大きくても有機樹脂により構成されていたり、有機無機複合フィラーにおいても含有される無機フィラーの粒径は小さく、有機樹脂のマトリックス中に含有されているため、その粒径が直接コンポジットレジンの表面光沢度に影響することはない。しかしながら、粒径があまり大きいときにはペーストがざらつき、操作性に影響を及ぼす虞がある。このため、好ましくは3〜70μmであり、より好ましくは5〜50μmである。
【0066】
特に、下記の理由等から、有機無機複合フィラーも、(B)無機フィラーと併用するのが好ましい。有機無機複合フィラーは、本発明の(B)成分である無機フィラーに比較して粒径が大きいために、これを配合することでフィラー充填率をさらに高くすることが可能である。しかも、有機無機複合フィラーの中に含まれる無機フィラーの粒径は小さいために、研磨により高い光沢が得られるなど審美姓を損なうこともない。
【0067】
有機無機複合フィラーに用いられる重合性の有機マトリックスとしては特に制限されず、公知の重合性の有機マトリックスが用いられる。好適に用いられる重合性の有機マトリックスを例示すれば、本発明の歯科用充填修復材において(A)成分として前記説明したような重合性単量体を、(C)成分として前記説明した重合開始剤を用いて硬化させた硬化体を挙げることができる。
【0068】
上記有機無機複合フィラーの配合量は、一般的には本発明の歯科用充填修復材の全体に対して70質量%以下であり、好ましくは10〜60質量%である。本発明の歯科用充填修復材に有機無機複合フィラーは好適に配合される。
【0069】
本発明の歯科用修復材料には、上記各成分のほか、重合禁止剤、紫外線吸収剤、顔料、蛍光顔料、染料を添加してもよいし、その他、歯科用コンポジットレジンの成分として公知の添加剤を、本発明の効果に影響のない範囲で配合してもよい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例で用いた化合物の略称を以下に示す。
(1)略称・略号
(A)重合性単量体
・GMA:2,2−ビス[(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン
・D2.6E:2,2−ビス(4−(メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
・UDMA:1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルオキサン
・OX:
【0071】
【化3】

【0072】
・EP:
【0073】
【化4】

【0074】
(B)無機フィラー
・F−1:平均粒子径0.4μmであり、平均均斉度が0.90である球状シリカ−ジルコニア
・F−2:平均粒子径0.07μmであり、平均均斉度が0.80である球状シリカ−ジルコニア
・F−3:平均粒子径0.08μmであり、平均均斉度が0.85である球状シリカ−チタニア
・F−4:平均粒子径0.2μmであり、平均均斉度が0.93である球状シリカ−ジルコニア
*:平均粒子径の測定は、走査型電子顕微鏡(XL−30S FEG,PHILIPS社製)を用い、無機粒子の写真を5000〜100000倍で撮影し、その写真の単位視野内に観察される一次粒子から無作為に100個を選択し、それぞれの粒子径を求め、体積平均(測定した粒子径の3乗平均の立方根)での平均粒子径を算出した。
【0075】
*:平均均斉度の測定は、上記平均粒子径の測定と同様に100個の粒子を選択し、各々について粒子の最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で徐することで平均均斉度を求めた。
(C)界面活性剤
・SA−1:ポリオキシエチレン(4)ラウリルエーテル HLB10
カッコ内の数字はオキシエチレン単位の繰り返し数
・SA−2:ヘキサデシル硫酸ナトリウム HLB38
・SA−3:デカン酸ナトリウム HLB22
(D)重合開始剤
・CQ:カンファーキノン
・DMBE:4−ジメチルアミノ安息香酸エチル
・TEA:トリエタノールアミン
・MDA:N−メチルジエタノールアミン
・TCT:2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン
・IMDPI:
【0076】
【化5】

【0077】
・DMAn:9,10−ジメチルアントラセン
(E)その他成分
a)フィラー
・F−5:平均粒子径0.2μmの球状シリカ−チタニアを75質量部、D2.6Eを10質量部、3Gを15質量部の混合物にアゾビスイソブチロニトリル0.1質量部を溶解し、加熱硬化した後粉砕した平均粒子径38μmの有機無機複合フィラー
・F−6:平均粒子径3.6μmの不定形シリカ−ジルコニア
b)重合禁止剤
・HQME:ハイドロキノンモノメチルエーテル
・BHT:2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール
また、光硬化性コンポジットレジンのペーストの硬さや流動性、重合収縮率、及び硬化体の表面光沢度の測定は以下の方法を用いた。
【0078】
(1)コンポジットレジン(ペーストタイプ)のペースト硬さ
φ8mm、深さ3mmのSUS製ナット状型にペーストを充填し、表面を平滑に均してペースト温度を23℃に保持した。サンレオメーター(株式会社サン科学製)に感圧軸としてφ5mmのプラスチック製棒を取り付け、ペースト表面から2mmの深さまで圧縮進入したときの最大荷重をペースト硬さとした。
【0079】
(2)コンポジットレジン(フロアブルタイプ)のペースト流動性
ガラスプレート上にペースト状組成物約0.1gを載せ、ガラスプレートを水平に保ったまま37℃で2分間自然に展開した。このときのペースト状組成物の長径と短径の平均値を流動性とした。
【0080】
(3)重合収縮率
直径3mm、高さ7mmの孔を有するSUS製割型に、直径3mm、高さ4mmのSUS製プランジャーを填入して孔の高さを3mmとした。これに光重合型歯科用コンポジットレジンを充填し、上からポリプロピレンフィルムで圧接した。フィルム面を下に向けて歯科用照射器(トクソーパワーライト、トクヤマデンタル社)の備え付けてあるガラス製台の上に載せ、更にSUS製プランジャーの上から微小な針の動きを計測できる短針を接触させた。歯科用照射器によって重合硬化させ、照射開始より1分後の収縮率[%]を、短針の上下方向の移動距離から算出した。
【0081】
(4)表面光沢度
1cm×1cm×2mmの樹脂製モールドにペーストを填入し、歯科用光照射器によって重合硬化させた。硬化体の平面を1500番の耐水研磨紙で研磨し、その後に歯科用研磨剤(ソフレックススーパーファイン、3M ESPE)を用いて注水下で60秒研磨した。光沢度計(MODEL TC−108D、東京電色社)を用いて、標準黒色板の光沢度を100としたときの研磨面の光沢度を測定した。
【0082】
実施例1
D2.6E(70質量部)、3G(20質量部)、UDMA(10質量部)からなる重合性単量体100質量部に対して、重合禁止剤としてHQMEを0.15質量部、及び光重合開始剤としてCQを0.2質量部、DMBEを0.35質量部、MDAを0.35質量部及びTCTを0.20質量部配合し、さらに界面活性剤としてSA−1を1.0質量部加えてよく攪拌して均一にした後、無機充填材F−1を200質量部配合し、均一のペースト状になるまでメノウ製乳鉢でよく混合、攪拌した。さらにこれを真空脱泡してフロアブルタイプの歯科用充填修復材のペーストを調製した。
【0083】
得られた歯科用修復材の各種物性を測定した結果を表1に示した。
実施例2〜7、比較例1〜5
実施例1において、表1に示した充填材、界面活性剤を使った以外は実施例1と同様にしてペーストを調製した。得られた歯科用充填修復材の各種物性を測定した結果を表1に示した。
【0084】
【表1】

【0085】
比較例1〜4は、各々、実施例1〜4と同じ充填修復材の組成で界面活性剤を使用しなかった場合である。ペーストの流動性に明らかな相違が観察され、いずれも実施例の方が流動性が高く、フロアブルタイプの歯科用充填修復材としての操作性に優れる結果であった。比較例5は平均粒子径の大きな不定形フィラーを用いて、界面活性剤を用いなくともペースト流動性、重合収縮率が実施例4などと同程度になる量で配合させた例であるが、このときには表面光沢度が著しく低くなることが分かった。
実施例8
D2.6E(70質量部)、3G(20質量部)、UDMA(10質量部)からなる重合性単量体100質量部に対して、重合禁止剤としてHQMEを0.15質量部、及び光重合開始剤としてCQを0.2質量部、DMBEを0.35質量部、TEAを0.35質量部及びTCTを0.20質量部配合し、さらに界面活性剤としてSA−1を1.0質量部加えてよく攪拌して均一にした後、無機充填材F−1を67質量部、F−2を28質量部、有機無機複合フィラーF−5を222質量部配合し、均一のペースト状になるまでメノウ製乳鉢でよく混合、攪拌した。さらにこれを真空脱泡してフロアブルタイプの歯科用充填修復材のペーストを調製した。
【0086】
得られた歯科用充填修復材の各種物性を測定した結果を表2に示した。
実施例9、比較例6,7
実施例8において、表2に示した充填材、界面活性剤を使った以外は実施例8と同様にしてペーストを調製した。得られた歯科用充填修復材の各種物性を測定した結果を表2に示した。
【0087】
【表2】

【0088】
比較例6は、実施例8,9と同じ組成で界面活性剤を使用しなかった例である。比較例6のペースト流動性が小さいのに対して、実施例は適度な流動性を示すものであった。
実施例10
GMA(60質量部)、3G(40質量部)からなる重合性単量体100質量部に対して、重合禁止剤としてHQMEを0.15質量部、及び光重合開始剤としてCQを0.2質量部、DMBEを0.35質量部、MDAを0.2質量部及びTCTを0.20質量部配合し、さらに界面活性剤としてSA−1を1.0質量部加えてよく攪拌して均一にした後、無機充填材F−4を196質量部、有機無機複合フィラーF−5を294質量部配合して、均一のペースト状になるまでメノウ製乳鉢でよく混合、攪拌した。さらにこれを真空脱泡してペーストタイプの歯科用充填修復材のペーストを調製した。
【0089】
得られた歯科用充填修復材の各種物性を測定した結果を表2に示した。
実施例11,12、比較例8〜10
実施例10において、表3に示した充填材、界面活性剤を使った以外は実施例10と同様にしてペーストを調製した。得られた歯科用充填修復材の各種物性を測定した結果を表3に示した。
【0090】
【表3】

【0091】
比較例8は実施例10と同じ組成で界面活性剤を用いなかった例であり、比較例9は実施例11や12と同じ組成で界面活性剤を用いなかった例である。これらの比較例は、対応する実施例に比べてペースト硬さが硬くなっているものであった。
実施例13
OX(80質量部)、EP(20質量部)からなる重合性単量体100質量部に対して、光重合開始剤としてIMDPIを1.6質量部、CQを0.6質量部、DMAn0.1質量部、重合禁止剤としてBHTを0.1質量部配合し、さらに界面活性剤としてSA−1を1.0質量部加えてよく攪拌して均一にした後、無機充填材F−4を182質量部、有機無機複合フィラーF−5を274質量部配合し、均一のペースト状になるまでメノウ製乳鉢でよく混合、攪拌した。さらにこれを真空脱泡してペーストタイプの歯科用充填修復材のペーストを調製した。
【0092】
得られた歯科用充填修復材の各種物性を測定した結果を表4に示した。
実施例14、比較例11
実施例13において、表4に示した充填材、界面活性剤を使った以外は実施例13と同様にしてペーストを調製した。得られた歯科用充填修復材の各種物性を測定した結果を表4に示した。
【0093】
【表4】

【0094】
表4には(A)重合性単量体としてカチオン重合性単量体を用いたときの結果を示したが、ラジカル重合性単量体を用いたときと同様、界面活性剤の添加効果が現れた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重合性単量体100質量部、(B)平均粒子径0.03〜0.6μmの無機フィラー80〜1000質量部、(C)界面活性剤0.1〜10質量部、及び(D)重合開始剤0.01〜10質量部を含んでなる歯科用充填修復材。
【請求項2】
(B)平均粒子径0.03〜0.6μmの無機フィラーの形状が、球状である請求項1記載の歯科用充填修復材。
【請求項3】
(C)成分が、ノニオン系界面活性剤またはアニオン系界面活性剤であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の歯科用充填修復材。