説明

歯科用光硬化性材料

【課題】
照射器による短時間の光照射で硬化し、かつ、高い破断エネルギー(靭性)を有する歯科用光硬化性材料を開発する。
【解決手段】
(A)メチルメタクリレート等の単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体を70wt%以上含むラジカル重合性単量体、
(B)ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル等の非架橋性の(メタ)アクリレート系重合体、並びに
(C)C1)α−ジケトン化合物、C2)アミン化合物、及びC3)ジアリールヨードニウム塩系化合物からなる光重合開始剤
を含むことを特徴とする歯科用光硬化性材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科用接着剤や歯科用充填修復材料に好適な歯科用光硬化性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療の分野では、歯科用接着剤、歯科用充填修復材料、義歯床用材料等として、種々の硬化性材料が使用されている。これらの材料は、基本的にモノマー(ラジカル重合性単量体)成分、フィラー(充填材)成分、及び重合開始剤からなっており、フィラー成分として非架橋性樹脂フィラーを用いたものは無機フィラーや架橋性樹脂フィラーを用いたものと比較し硬化体の靭性が高い特徴がある。このような非架橋性樹脂フィラーを用いた材料は、例えば、齲蝕や事故等により損傷を受けた歯牙と、この歯牙を修復するための材料である補綴物(例えばコンポジットレジン、金属、セラミックス等の歯冠修復材料)の接着や、歯列矯正を目的として歯牙と矯正用ブラケットの接着、歯周病等で動揺した歯牙を隣接歯に接着・固定する方法(動揺歯固定法)に用いることができる歯科用接着性レジンセメントや、義歯床の修理や、暫間的なクラウンの作成に用いられる常温重合レジンなど、幅広く用いられている。
【0003】
上記のような用途の歯科材料には、種々の外力に耐えるだけの、高い靭性(壊れにくさ)が必要である。そのため、モノマー成分として、二次元的に重合し高い靭性を有する、重合性官能基を分子中に1つだけ持つメチルメタクリレート(以下、メチルメタクリレートを「MMA」と略することがある)等の液状の単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体が使用されるのが一般的である。さらに、メチルメタクリレート等の液状の単量体は、粘性が低いことにより重合が進行し難いことが知られているため、単量体に溶解し増粘化させる非架橋性のポリメチルメタクリレート(以下、ポリメチルメタクリレートを「PMMA」と略することがある)等の(メタ)アクリレート系重合性単量体の単独重合体又は共重合体を配合させるのが好適である。
【0004】
上記の単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体、非架橋性の(メタ)アクリレート系重合体を含む歯科材料は、一般に、ラジカル重合性単量体を主成分とする液材と、非架橋性の(メタ)アクリレート系重合体を主成分とする粉材とに分割し、化学重合型重合開始剤を両材に分けて含有させた包装形態とするのが一般的である。この場合、使用時に上記液材と粉材とを混合すれば、混合物中で硬化反応が開始、進行し硬化する(粉/液型とも呼ばれる)。なお、化学重合型開始剤とは、2種以上の化合物が接触することによりラジカルが発生するタイプの開始剤である。そのため、組成物が硬化するまでの時間(硬化時間)を術者がコントロールすることは困難である(特許文献1、2参照)。
【0005】
しかし、例えば、矯正用ブラケットの接着では、多数の歯牙にブラケットを接着しなければならないが、上記のような化学重合型硬化性材料の場合には硬化するまで待つ必要があるため、一人の患者にかかる治療時間(チェアタイム)が長くなる。そのため、歯牙のブラケット装着位置にブラケットを装着し隣接歯のブラケットに対する微調整を行う間は硬化せず、ブラケットを固定する際には適宜硬化できるような、術者が任意のタイミングで組成物を硬化させることができる光重合型の歯科材料が臨床において要望されている。このような光重合型硬化性材料についての検討は行われているが、その硬化性はいまだ臨床上満足できるものではない(非特許文献1、特許文献3〜5参照)。
【0006】
一般的な光重合型の歯科材料に用いられる光重合開始剤については、種々の検討が行われており、光を吸収し、それ自身が分解して重合活性種を生成する化合物や、さらに適当な増感剤を組み合わせた系が広く検討され、使用されている。前者の例としては、アシルフォスフィンオキサイド化合物やα―ジケトン化合物が知られており、後者の例としてはα−ジケトン化合物と第3級アミン化合物との組合せがよく知られ、さらにアリールヨードニウム塩、トリハロメチル基で置換されたs−トリアジン化合物等の光酸発生剤を組み合わせた系や、色素/アリールボレート化合物/光酸発生剤を組み合わせた系などが提案されている。(特許文献6〜9)しかしながら、これらの提案では、ラジカル重合性単量体として、一分子中に複数の重合性官能基を含む多官能ラジカル重合性単量体を主に用いるものであり、靭性が高い硬化性材料は得られていない。他方で、前記単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体の場合、前述したように粘性が低く重合が進行し難いため、PMMAなどの(メタ)アクリレート系重合体を添加し増粘化させたとしても、これらの光重合開始剤の多くでは、硬化時間が長く、かつ、硬度が不十分であるため、臨床で使用できる材料は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献1】歯科材料・器械 Vol.6 No.6 p877−887(1987)
【特許文献1】特開平9−67222号公報
【特許文献2】特開平11−71220号公報
【特許文献3】特開2000−53727号公報
【特許文献4】特開平8−169806号公報
【特許文献5】特開2002−161013号公報
【特許文献6】特開2005−213231号公報
【特許文献7】特開2005−89729号公報
【特許文献8】特開2000−16910号公報
【特許文献9】特開平9−3109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は、単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体、非架橋性の(メタ)アクリレート系重合体を用いることにより、靭性の高い材料で、かつハロゲンランプ、キセノンランプ、レーザーダイオード等の照射器による光照射により短時間で速やかに重合が完結する光重合開始剤を含有する光硬化性材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った。その結果、前記単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体、非架橋性の(メタ)アクリレート系重合体、及び光重合開始剤からなる光重合型硬化性材料において、該光重合開始剤として、特に、α―ジケトン化合物、アミン化合物、及びジアリールヨードニウム塩系化合物の組合せからなる系を用いることで、靭性の高い材料で、かつハロゲンランプやキセノンランプ、あるいはレーザーダイオードを備えた照射器等による光照射により短時間で速やかに硬化する光硬化性材料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明によれば、
(A)単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体を70wt%以上含むラジカル重合性単量体、
(B)非架橋性の(メタ)アクリレート系重合体、並びに
(C)C1)α−ジケトン化合物、C2)アミン化合物、及びC3)ジアリールヨードニウム塩系化合物からなる光重合開始剤
を含むことを特徴とする歯科用光硬化性材料が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光硬化性材料は、単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体、非架橋性の(メタ)アクリレート系重合体、並びに光重合開始剤を含み、光重合開始剤として、α−ジケトン、アミン化合物、及びジアリールヨードニウム塩系化合物を含むことで、光照射器の光照射により短時間で速やかに重合が完結することができる。また、靭性の高い材料であるため、外力の加わる部位の治療(動揺歯の固定等)などに好適に使用できる。さらに、光照射により硬化するため、多歯にわたる治療(矯正用ブラケットの接着等)などに好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の歯科用光硬化性材料は、(A)特定組成のラジカル重合性単量体成分、(B)非架橋性の(メタ)アクリレート系重合体成分、並びに(C)特定組成の光重合開始剤成分が各配合されてなる。以下、これらの各成分について説明する。
【0013】
〔(A)ラジカル重合性単量体〕
本発明の歯科用光硬化性材料において、(A)ラジカル重合性単量体成分は、靭性の高い材料を得るため、その70wt%以上、より好ましくは75wt%以上が単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体により占められている。ここで、単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体は、一分子中に(メタ)アクロイルオキシ基を一つ含有する(メタ)アクリレート重合性単量体のことを言う。
【0014】
このような単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、歯科用光硬化性材料の成分として公知のものが何ら制限なく使用することができる。具体的に例示すると、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロキシエチルプロピオネート、2−メタクリロキシエチルアセトアセテート等の非水溶性の単官能(メタ)アクリレート系単量体類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水溶性の単官能(メタ)アクリレート系単量体類等が挙げられる。
【0015】
また、本発明の光硬化性材料を歯科用接着剤として使用する場合等には、該単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、酸性基を含有するものが好適に使用される。このような単官能の酸性基含有(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、2―(メタ)アクロイルオキシエチルハイドロジェンマレエート、2―(メタ)アクロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2―(メタ)アクロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、11―(メタ)アクロイルオキシエチル―1,1―ウンデカンジカルボン酸、4―(メタ)アクロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、N―(メタ)アクロイルグリシン、N―(メタ)アクロイルアスパラギン酸等のカルボン酸酸性基含有単官能重合性単量体類;2―(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、10―(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、6―(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート等のリン酸酸性基含有単官能重合性単量体類;3―スルホプロパン(メタ)アクリレート等のスルホン酸酸性基含有ラジカル重合性単量体類等が挙げられる。また、本発明において単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体は、特開平10−1409号公報、特開平10−1473号公報、特開平8−113763号公報等に記載の貴金属接着性モノマーのうち単官能の(メタ)アクリレート系重合性単量体も、光硬化性材料を、金合金や金−銀−パラジウム合金等の貴金属からなる歯科用材料に接触させる歯科用接着剤や歯科用充填修復材料として使用する場合には、好ましく使用できる。
【0016】
本発明において、上記の単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体は単独で用いてもよく、また2種類以上を併用してもよい。後述する(B)非架橋性の(メタ)アクリレート系重合体の溶解性が高いことから、上記(A)単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体としてはメチルメタクリレートやエチルメタクリレート等の低級アルキル(メタ)アクリレート系重合性単量体を含むことが好ましく、メチルメタクリレートが最も好ましい。
【0017】
また、より高強度な硬化体が望まれる場合等には、30wt%未満、より好ましくは25wt%未満であれば、(メタ)アクロイルオキシ基を2つ以上含有する多官能(メタ)アクリレート系重合性単量体を組み合わせて使用することもできる。このような多官能(メタ)アクリレート系重合性単量体を具体的に例示すると、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1.6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等の脂肪族系多官能(メタ)アクリレート系単量体類;2,2−ビス((メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシフェニル)]プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン等の芳香族系多官能(メタ)アクリレート系単量体類等が挙げられる。
【0018】
また、前記単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体の場合と同様に、光硬化性材料を歯科用接着剤として使用する場合等には、多官能(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、酸性基を含有するものが好適に使用される。斯様な多官能の酸性基含有(メタ)アクリレート系重合性単量としては、2―(メタ)アクロイルオキシエチル―3‘―メタクロイルオキシ―2’―(3,4―ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネートのカルボン酸酸性基含有多官能重合性単量体類;ビス((メタ)アクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンフォスフェート等のリン酸酸性基含有多官能重合性単量体類等が挙げられる。
【0019】
この他、(A)ラジカル重合性単量体としては、30wt%未満の範囲において、(メタ)アクリレート系重合性単量体以外の単官能及び/又は多官能重合性単量体を配合させても良い。具体的には、ビニルホスホン酸、スチレンスルホン酸、2―(メタ)アクリルアミド―2―メチルプロパンスルホン酸、N,N‘−メチレン−ビス(アクリルアミド)等が挙げられる。
【0020】
〔(B)非架橋性の(メタ)アクリレート系重合体〕
本発明の歯科用光硬化性材料において、(A)ラジカル重合性単量体に溶解して増粘化し、重合性を高めるため、かつ、靭性の高い材料を得るため、(B)非架橋性の(メタ)アクリレート系重合体が使用される。こうした非架橋性(メタ)アクリレート系重合体としては、公知のものが特に制限なく使用でき、前述した(A)(メタ)アクリレート系重合性単量体に対する溶解性が高いものが好ましい。
【0021】
具体的には、アルキル(メタ)アクリレート系単量体の重合体が挙げられ、該アルキル(メタ)アクリレート系単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のアルキル基の炭素数1〜4のものが好ましく、特に、炭素数1または2のものが好ましい。
【0022】
これらの非架橋性(メタ)アクリレート系重合体は、必ずしも(メタ)アクリレート系重合性単量体の単独重合体である必要はなく、(メタ)アクリレート系単量体の異なる2種以上の共重合体であっても良い。さらには、本発明の効果に悪影響を与えない範囲(モノマー基準で通常10モル%以下)であれば他の共重合可能なモノマーとの共重合体であってもよい。共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、パラ−メチルスチレン等のスチレン類モノマー等が挙げられる。
【0023】
本発明において、最も好適に使用される非架橋性(メタ)アクリレート系重合体としては、(A)(メタ)アクリレート系重合性単量体との溶解性が特に高いことから、非架橋性(メタ)アクリレート系重合体としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチルである。
【0024】
上記の非架橋性(メタ)アクリレート系重合体は、1種又は2種以上の混合物として用いることができる。その平均分子量は特に限定されないが、一般的には平均重量分子量が5000〜100万、より好適には10万〜30万のものが好ましい。
【0025】
前記非架橋性の(メタ)アクリレート系重合体の形状は特に限定されず、通常の粉砕により得られるような不定形粒子であってよく、又、球状若しく略球状の粒子であってもよい。その粒子径は特に限定されないが、一般的には粒径0.005〜200ミクロンのものが好ましい。
【0026】
本発明の歯科用光硬化性材料における(B)成分の配合量は、(A)成分であるラジカル重合性単量体100質量部に対して、55〜300質量部、さらに70〜180質量部、特に80〜150質量部とするのが好適である。
【0027】
〔(C)光重合開始剤〕
本発明の歯科用光硬化性材料では、(C)成分である光重合開始剤として、C1)α−ジケトン化合物、C2)アミン化合物、及びC3)ジアリールヨードニウム塩系化合物が組み合わされたものを使用する。この各成分からなる光重合開始剤は、ラジカル生成速度が速く、高活性であるため、本発明の光硬化性材料では、前記(A)ラジカル重合性単量体として単官能のものを主成分とするにも関わらず、短い光照射時間で十分な硬化性を得ることができる。光重合開始剤として、この系以外のもの、例えば、C3)ジアリールヨードニウム塩系化合物に代えて、同じ光酸発生剤であってもトリハロメチル基で置換されたs−トリアジン化合物等を用いた場合には、重合活性が低く、長い光照射時間を必要とするようになり好ましくない。
【0028】
C1)α−ジケトン化合物
本発明の光重合開始剤において、C1)成分のα−ジケトン化合物としては、公知の化合物が何ら制限なく使用できる。その具体例としては、カンファーキノン、カンファーキノンカルボン酸、カンファーキノンスルホン酸等のカンファーキノン類;ジアセチル、アセチルベンゾイル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等を挙げることができる。
【0029】
使用するα−ジケトン化合物は、重合に用いる光の波長や強度、光照射の時間、あるいは組み合わせる他の成分の種類や量によって適宜選択して使用すればよく、単独または2種以上を混合して使用することもできる。これらのなかでも、歯科用に用いることを考慮すると、可視光域に極大吸収波長を有していることが好ましく、一般的にはカンファーキノン類が好適に使用され、特にカンファーキノンが好ましい。
【0030】
本発明の歯科用光硬化性材料におけるC1)成分の配合量は、(A)成分であるラジカル重合性単量体100質量部に対して、0.01〜10質量部、より好ましくは、0.03〜5質量部である。
【0031】
C2)アミン化合物
本発明の光重合開始剤において、C2)成分のアミン化合物としては、公知の化合物が何ら制限なく使用できる。当該アミン化合物は、第1級アミン、第2級アミン化合物では揮発性が高く、臭気等の問題があるため、歯科用として用いた場合には一般に第3級アミン化合物が用いられる。第3級アミン化合物は、一般に第1級又は第2級アミン化合物よりも重合活性が高い傾向があり、窒素原子に3つの飽和脂肪族基がついた第3級脂肪族アミン化合物や、窒素原子に結合した有機基のうちの少なくとも一つが芳香族基である第3級芳香族アミン化合物に分けられる。また、第3級芳香族アミン化合物としては、より重合活性が高く、入手が容易であるという点で、第3級窒素原子に一つの芳香族基と、2つの脂肪族基が結合したアミン化合物であることが好ましい。
【0032】
上記第3級脂肪族アミン化合物を具体的に例示すると、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−プロピルジエタノールアミン、N−エチルジアリルアミン、N−エチルジベンジルアミン、トリエタノールアミン、トリ(イソプロパノール)アミン、トリ(2−ヒドロキシブチル)アミン、トリアリルアミン、トリベンジルアミン等が挙げられる。
【0033】
代表的な第3級芳香族アミン化合物としては下記一般式(1)で表されるものが挙げられる。
【0034】
【化1】

【0035】
(式中、R及びRは各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基であり、Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していても良いアルキルオキシカルボニル基である。)
上記置換基を有していてもよいアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基等の非置換のアルキル基;クロロメチル基、2−クロロエチル基等のハロゲンにより置換されたアルキル基;2−ヒドロキシエチル基等の水酸基により置換されたアルキル基等の炭素数1〜6のものが挙げられる。置換基を有していてもよいアリール基としては、フェニル基、p−メトキシフェニル、p−メチルチオフェニル基、p−クロロフェニル基、4−ビフェニリル基等の炭素数6〜12のものが例示され、置換基を有していてもよいアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、2−フェニルエテニル基等の炭素数2〜12のものが、置換基を有していてもよいアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜10のもの等が例示され、置換基を有していても良いアルキルオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、アミルオキシカルボニル基、イソアミルオキシカルボニル基等のアルキルオキシ基部分の炭素数が1〜10のものが例示される。
【0036】
上記R及びRとしては、炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜3の非置換のアルキル基がより好ましい。このようなアルキル基を再度具体的に例示すると、メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−ヒドロキシエチル基等が挙げられる。
【0037】
また、Rとしては、その結合位置がパラ位であることがより好ましく、さらには、アルキルオキシカルボニル基であることが好ましい。
【0038】
このようなRがパラ位に結合したアルキルオキシカルボニル基である芳香族アミン化合物を具体的に例示すると、p−ジメチルアミノ安息香酸メチル、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸プロピル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、p−ジエチルアミノ安息香酸エチル、p−ジエチルアミノ安息香酸プロピル等が例示される。
【0039】
また、一般式(1)で示される他の芳香族アミン化合物を具体的に例示すると、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン等が挙げられる。
【0040】
これらC2)成分のアミン化合物は、単独で使用することができるが、第3級脂肪族アミン化合物と第3級芳香族アミン化合物とを組み合わせて使用するのが好ましい。脂肪族アミン化合物及び芳香族アミン化合物としては、それぞれ、先に例示した化合物を1種単独或いは2種以上の組み合わせで使用することができるが、両者の質量比、脂肪族アミン化合物:芳香族アミン化合物が3:97〜97:3、好ましくは25:75〜90:10、特に40:60〜80:20の範囲となるように、両者を併用することが最も好適である。
【0041】
本発明の歯科用光硬化性材料におけるC2)成分の配合量は、(A)成分である重合性単量体100質量部当り、0.01〜10質量部であり、特に0.02〜5質量部であることが好ましい。
【0042】
C3)ジアリールヨードニウム塩系化合物
本発明のC3)成分であるジアリールヨードニウム塩系化合物は、光照射によってブレンステッド酸あるいはルイス酸を生成する光酸発生剤として機能する化合物であり、公知の化合物が何ら制限なく用いられる。
【0043】
代表的なジアリールヨードニウム塩系化合物を一般式で示すと、下記一般式(2)で表される。
【0044】
【化2】

【0045】
(但し、R、R、R、及びRは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はニトロ基であり、Mはアニオンである。)で示されるものが挙げられる。
【0046】
ここで、R、R、R、及びRのハロゲン原子としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などが挙げられる。また、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜20のものが好ましい。また、アリール基としては、フェニル基、p−メチルフェニル基、p−クロロフェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜14のものが好ましい。また、アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、2−フェニルエテニル基、2−(置換フェニル)エテニル基等の炭素数2〜14のものが好ましい。また、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、の炭素数1〜6のものが好ましい。さらに、アリールオキシ基としては、フェノキシ、p−メトキシフェニル、p−オクチルオキシフェニル等の炭素数6〜14のものが好ましい。
【0047】
上記ジアリールヨードニウム塩を具体的に例示すると、ジフェニルヨードニウム、ビス(p−クロロフェニル)ヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、p−イソプロピルフェニル−p−メチルフェニルヨードニウム、ビス(m−ニトロフェニル)ヨードニウム、p−tert−ブチルフェニルフェニルヨードニウム、p−メトキシフェニルフェニルヨードニウム、ビス(p−メトキシフェニル)ヨードニウム、p−オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム等のカチオンと、クロリド、ブロミド、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート等のアニオンからなるジアリールヨードニウム塩を挙げることができる。
【0048】
これらジアリールヨードニウム塩の中でも、ラジカル重合性単量体に対する溶解性の点から、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート塩が好ましく、さらに保存安定性の観点から、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロアンチモネート塩が特に好適である。
【0049】
本発明の歯科用光硬化性材料におけるC3)成分の配合量は、成分(A)の重合性単量体100質量部当り、0.005〜10質量部であるのが好ましく、最も好ましくは0.03〜5質量部である。
【0050】
本発明の歯科用光硬化性材料において、上記C1)〜C3)成分からなるC)光重合開始剤の全体の添加量は、(A)(メタ)アクリレート系重合性単量体が重合するのに十分な量であればよく、一般には、(A)成分の100質量部に対して、0.03〜30質量部の範囲であるのが好ましく、特に0.08〜15質量部が好適である。また、(C)光重合開始剤において、C1)α−ジケトン化合物、C2)アミン化合物、及びC3)ジアリールヨードニウム塩系化合物の配合比は、C1)α−ジケトン化合物100質量部当り、10〜1000質量部のC2)アミン化合物、5〜1000質量部のC3)ジアリールヨードニウム塩系化合物が好ましく、特に50〜500質量部のC2)アミン化合物、30〜500質量部のC3)ジアリールヨードニウム塩系化合物が好適である。
【0051】
本発明の歯科用光硬化性材料は、(A)(メタ)アクリレート系重合性単量体とこれに溶解する(B)非架橋性の(メタ)アクリレート系重合体を用いており、その包装形態は、保存安定性の問題から、(A)(メタ)アクリレート系重合性単量体を含む液材と、(B)非架橋のPMMAを含む粉材とに分包するのが好適である。その際、(C)光重合開始剤の各成分は、それぞれ液材と粉材のいずれかに配合すれば良いが、反応性を考慮すれば、あらかじめ全成分を液材に溶解させておくのが好ましい。尚、場合によっては、保存安定性を考慮し、(C)光重合開始剤の全成分、または一部の成分は、上記液材および粉材とは別に分包することも可能である。
【0052】
斯様に包装形態が粉/液型である場合において、液材と粉材の混合比は、特に制限されるものではないが、混合物において、本発明の光硬化性材料を構成する前記各成分が、前記それぞれの好適な配合量の範囲内に維持されるように実施するのが好ましい。通常は、液材:粉材比を1:0.1〜1:10の範囲、さらに1:0.5〜1:4の範囲、より好適には1:0.75〜1:2の範囲で行うのが良好である。
【0053】
本発明の歯科用光硬化性材料は、前述した(C)光重合開始剤の他に、公知の化学重合開始剤を併用することができ、光重合と化学重合のどちらによっても重合を開始させることのできるデュアルキュアタイプとすることも可能である。
【0054】
代表的な化学重合開始剤としては、有機過酸化物及びアミン類の組み合わせ、有機過酸化物類、アミン類及びスルフィン酸塩類の組み合わせ、酸性化合物及びアリールボレート類の組み合わせ、バルビツール酸類、第二銅イオン及びハロゲン化合物の組み合わせ等の化学重合開始剤等が挙げられる。
【0055】
該化学重合開始剤に使用される各化合物として好適なものを以下に例示すると、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、過酸化ジt−ブチル、過酸化ジクミル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイル等の有機化酸化物類;ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸カリウム、m−ニトロベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−フルオロベンゼンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩類;(チオ)バルビツル酸誘導体としては、5−ブチル(チオ)バルビツル酸、1,3,5−トリメチル(チオ)バルビツル酸、1−ベンジル−5−フェニル(チオ)バルビツル酸、1−シクロヘキシル−5−メチル(チオ)バルビツル酸、1−シクロヘキシル−5−ブチル(チオ)バルビツル酸等のバルビツール酸類;ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルセチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムブロマイド等のハロゲン化合物類が挙げられる。また、アミン類としては、前記光重合開始剤で例示された(C2)アミン化合物が同様に使用できる。これら化学重合開始剤は、単独で又は2種以上を配合して使用することができる。
【0056】
上記の液材および粉材においては、歯科用光硬化性材料の操作性や硬化体強度の調節等のために、(B)非架橋性の(メタ)アクリレート系重合体以外にも、無機フィラーや架橋性フィラーを、その靭性等の物性に悪影響を及ぼさない範囲で添加することができる。上記フィラーとしては、一般に用いられ無機フィラーや架橋性フィラーが何ら制限なく用いられる。
【0057】
本発明で使用できる無機フィラーを具体的に例示すると、石英、シリカ、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−マグネシア、シリカ−カルシア、シリカ−バリウムオキサイド、シリカ−ストロンチウムオキサイド、シリカ−チタニア−ナトリウムオキサイド、シリカ−チタニア−カリウムオキサイド、シリカ−ジルコニア−ナトリウムオキサイド、シリカ−ジルコニア−カリウムオキサイド、チタニア、ジルコニア、アルミナ等が挙げられる。
【0058】
また、酸性溶液下で陽イオンを溶出するイオン溶出性フィラーも好適に用いられる。該イオン溶出性フィラーを具体的に例示すると、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム等の水酸化物、酸化亜鉛、ケイ酸塩ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等が挙げられる。
【0059】
これら無機フィラーは、前記重合性単量体とのなじみをよくするために、その表面をPMMA、ポリエチルメタクリレート等のメタクリレート系重合体等のポリマーやシランカップリング剤等で被覆することが好ましい。
【0060】
架橋性フィラーとしては、架橋型ポリメチルメタクリレート等の架橋性フィラーを使用できる。
【0061】
また、無機酸化物とポリマーの複合体を粉砕したような無機有機複合フィラーも使用可能である。
【0062】
これらフィラーの形状は特に限定されず、通常の粉砕により得られる様な粉砕型粒子、あるいは球状粒子でもよい。
【0063】
これらフィラーの粒子径は、特に限定されるものではないが、補綴物の良好な適合性を得るための被膜厚さの点で50μm以下のものが好適に、より好ましくは30μm以下のものが使用される。
【0064】
本発明の歯科用光硬化性材料には、保存安定性や環境光安定性を向上させるため、必要に応じてハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジターシャリイブチルフェノール等の重合禁止剤を少量添加することが好ましい。また、粘度を調節する目的で有機溶媒やポリマー等の各種増粘剤等を添加することもできる。当該有機溶媒としては、生体に対する為害作用の少ないものが望ましく、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロパンジオール、アセトン等が好適に使用される。これら有機溶媒や増粘剤は、必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。さらに、必要に応じて顔料等の着色剤を適量配合することもできる。
【0065】
本発明の歯科用硬化性材料は、単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体と非架橋性の(メタ)アクリレート系重合体を用いることにより高い靭性を有するため、種々の外力に対する耐久性が求められる材料として使用することが好ましい。また、光重合型硬化性材料であるため、長い操作余裕時間と短い硬化時間が求められる材料として使用することが好ましい。このような材料として、一回の治療で多歯にわたる接着を行う矯正用ブラケットの接着や動揺した歯牙と隣接歯の接着を行う動揺歯固定など、歯牙とその他材料、あるいは歯牙同士を接着する歯科用接着剤、暫間的なクラウンの作成など口腔内での硬化を行うことが多く短い硬化時間が好ましい歯科用修復材等が挙げられる。
【0066】
本発明の歯科用硬化性材料を用いた歯科用接着剤における重合性単量体成分は、より優れた接着強度や、接着耐久性を得るために、少なくとも1種の酸性基含有(メタ)アクリレート系重合性単量体を含むのが好適である。ここで、酸性基含有(メタ)アクリレート系重合性単量体は、1分子中に少なくとも1つの酸性基と1つの(メタ)アクロイルオキシ基とを有する化合物であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。また、該酸性基としては、カルボキシル基、スルホ基、ホスホン基、リン酸モノエステル基あるいはリン酸ジエステル基等を挙げることができる。その中でも、歯質に対する接着性が高い酸性基として、カルボキシル基、リン酸モノエステル基あるいはリン酸ジエステル基がより好ましい。このような酸性基含有(メタ)アクリレート系重合性単量体の具体例は、既に前述の(A)ラジカル重合性単量体で示したとおりである。
【0067】
このように歯科用接着剤として使用する場合において(A)ラジカル重合性単量体に含有させる酸性基含有(メタ)アクリレート系重合性単量体は、3〜50wt%、特に5〜30wt%であるのが好適である(酸性基含有(メタ)アクリレート系重合性単量体として、単官能のものだけでなく、多官能のものも使用されている場合は、これらの合計量としての含有量)。
【0068】
他方、本発明の歯科用硬化性材料を歯科用修復材として用いる場合、靭性を保ちつつ硬化体強度が高い材料とするため、(A)ラジカル重合性単量体として多官能ラジカル重合性単量体を含有することが好ましい。多官能ラジカル重合性単量体の具体例は、既に(A)ラジカル重合性単量体で示したとおりである。このように歯科用修復材として用いる場合には、義歯床の修復などにおいて、色調を合わせるために顔料を添加させるのも好適な態様である。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例で用いた化合物の略称を以下に示す。
(1)略称・略号
(A)(メタ)アクリレート系重合性単量体
〔単官能〕
・MMA:メチルメタクリレート
・HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
・MAC10:11−メタクリロイルオキシ−1、1−ウンデカンジカルボン酸
・4−MET:4−メタクリロキシエチルトリメリット
〔多官能〕
・UDMA:1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,2,4−トリメチルヘキサンと1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,4,4−トリメチルヘキサンの混合物
・bis−GMA:2,2−ビス[4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
・D2.6E;2,2−ビス[(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン]
(B)非架橋性(メタ)アクリレート系重合体
・PMMA:ポリメチルメタクリレート(重量平均分子量25万、平均粒径30μm)
・PEMA:ポリエチルメタクリレート(重量平均分子量25万、平均粒径30μm)
(C)光重合開始剤
C1)α―ジケトン化合物
・CQ:カンファーキノン
C2)アミン化合物
・MDEOA:メチルジエタノールアミン
・TEOA:トリエタノールアミン
・DMBE:p−ジメチルアミノ安息香酸エチル
・DEPT:ジエチルアミノ−p−トルイジン
C3)ジアリールヨードニウム塩系化合物
・DPI:ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート
・IPDPI:p−イソプロピルフェニル−p−メチルフェニルヨードニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート
C4)その他の光重合開始剤成分
・TCT:2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン
・BSNa:ベンゼンスルフィン酸ナトリウム
・PhBTEOA:テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩
・CM:3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン
(D)添加剤成分
・HQME:ハイドロキノンモノメチルエーテル
・BHT:2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール
また、用いた光照射器を次に示す。
【0070】
TP:トクヤマデンタル社製トクソーパワーライト、光出力密度700mW/cm、照射面における光強度640〜650mW/cm、光源はハロゲンランプ、照射口径8mm。
【0071】
また、歯科用光硬化性材料の調製方法、硬化速度の評価方法、及び靭性の評価方法は以下の方法を用いた。
【0072】
(1)歯科用光硬化性材料の調整方法
(メタ)アクリレート系重合性単量体に対し所定量の光重合開始剤、0.15質量部のHQME、及び0.02質量部のBHTを加えたものを液材とし、非架橋性(メタ)アクリレート系重合体を粉材とし、液材:粉材比を1:1.3で混和皿に計りとり、30秒間練和して調整した。
【0073】
(2)硬化時間の評価方法
6mmφ×1.0mmの孔を有するポリテトラフルオロエチレン製のモールドにペーストを充填してポリプロピレンフィルムで圧接し、歯科用光照射器(TP)をポリプロピレンフィルムに密着して10秒間隔で光照射し、それぞれの照射時間で硬化体の硬さを手で触って、十分硬化して割るために力を要するときの光照射時間を硬化速度として評価した。
【0074】
(3)靭性の評価方法
35mm×1mm×1mm高のポリテトラフルオロエチレン製モールドにセメントペーストを流し込み、歯科用光照射器(αライト、モリタ製)で5分間光照射し、十分に硬化させた。得られた硬化体を水中浸漬し、37℃にて、24時間放置した。得られた硬化体のバリを取る等形状を整え、オートグラフ(島津製作所製)を使用し3点曲げ試験を行い、硬化体が破断または屈服するまでの破断エネルギー値(mJ)を調べた。該破断エネルギー値を靭性の指標とした。
【0075】
(4)エナメル質、象牙質接着強度の測定
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、注水下、#800のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、この平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定して模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞内に、1.7gのPM、0.5gのUDMA、0.1gのPhBTEOA、0.2gのPTSNa、4.2gのアセトン、及び3.3gの水から調整した歯科用プライマーを歯面に塗布し、30秒間放置した後圧縮空気を約5秒間吹き付けた。その後、実施例または比較例の歯科用光硬化性材料の粉材と液材を混合し、この混合物を模擬窩洞内に充填した後、その上から直径8mmφ、厚さ2mmの硬質レジンの硬化体(トクヤマデンタル社製パールエステ)を圧接し硬質レジンの上から歯科用光照射器(TP)で60秒間光照射し硬化させた。さらに、直径8mmφのステンレス製のアタッチメントを、合成瞬間接着剤(東亞合成株式会社製「アロンアルファ」(登録商標))を滴下した接着面に押しつけて接着し接着試験片を作製した。
【0076】
上記接着試験片を作製した直後(10分後)に、引っ張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード1mm/minにて歯牙との接着強度を測定した。
【0077】
実施例1〜14
表1に示す(メタ)アクリレート系重合性単量体、光重合開始剤を暗所下で、撹拌混合して液材を調整した。上記液材と表1に示す非架橋性の(メタ)アクリレート系重合体からなる粉材を1:1.3の重量比で混和皿に計りとり、30秒間混和してペースト化し硬化させた。上記ペーストの硬化時間と破断エネルギーを評価した。結果を表1に示した。
【0078】
比較例1〜13
実施例1〜14と同様に、表2に示す各組成からなる液材と粉材を調整し、ペースト化した際の硬化時間と破断エネルギーを評価した。結果を表2に示した。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
表1および表2に示した実施例1〜14の結果から理解されるように本発明の歯科用硬化性材料の場合には短い(60秒以下の)硬化時間と十分に高い(40mJ以上の)破断エネルギーが得られ、硬化時間と靭性を両立可能であった。
【0082】
これに対し、比較例1〜5のように、光酸発生剤としてジアリールヨードニウム塩を含まない組成や、スルフィン酸塩類、またはアリールボレート類を含む組成においては、十分に高い靭性を持つが硬化時間が長く(60秒以上)なった。特に、ラジカル重合性単量体が多官能のもので構成される系では、光重合開始剤の光酸発生剤成分として、ジアリールヨードニウム塩を用いても(比較例9)、同じ光酸発生剤である2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジンを用いても(比較例8)、その硬化時間は共に10秒で同等であったのに対して、ラジカル重合性単量体が単官能の系では、該光酸発生剤成分として、上記ジアリールヨードニウム塩ではなく、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジンを用いると、前者で40秒が達成できた硬化時間(実施例2)が80秒に大幅低下する結果になり(比較例3)、斯様に単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体と光重合開始剤の光酸発生剤成分としてジアリールヨードニウム塩系化合物とを組合せて使用した際の硬化時間短縮に関する特異な効果が確認できた。
【0083】
また、比較例6〜13のように、(メタ)アクリレート系重合性単量体として多官能のものを多く添加すると、硬化時間を短くすることはできるが、破断エネルギーが小さく(30mJ以下)靭性が低い材料となった。
【0084】
このように、比較例の光重合開始剤を使用した場合、(メタ)アクリレート系重合性単量体が多官能のものでは、硬化時間は短いが靭性が低い材料になり、他方、(メタ)アクリレート系重合性単量体として単官能のものを用いると靭性は高くなるが硬化時間が長時間化し、硬化時間と靭性の両立が難しかった。
【0085】
実施例15〜19
表3に示す(メタ)アクリレート系重合性単量体、光重合開始剤を暗所下で、撹拌混合して液材を調整した。上記液材と非架橋性(メタ)アクリレート系重合体重合体を1:1.3の重量比で混和皿に計りとり、30秒間混和してペースト化し歯科用接着材を得た。各歯科用接着材について、エナメル質および象牙質への接着強度を評価した。結果を表3に示した。
【0086】
比較例14〜18
実施例15〜19と同様に、表3に示す各組成からなる液材と粉材を用いて歯科用接着材を調整し、エナメル質および象牙質への接着強度を評価した。結果を表3に示した。
【0087】
【表3】

【0088】
表3に示した実施例15〜19の結果から理解されるように、本発明の歯科用光硬化性材料からなる歯科用接着剤の場合には、エナメル質、象牙質ともに非常に高い(20MPa以上の)接着強度が得られた。
【0089】
これに対し、比較例14〜18の光酸発生剤としてジアリールヨードニウム塩系化合物を含まない組成やスルフィン酸塩類、またはアリールボレート類を含む組成の場合には、低い(12MPa未満の)接着強度であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体を70wt%以上含むラジカル重合性単量体、
(B)非架橋性の(メタ)アクリレート系重合体、並びに
(C)C1)α−ジケトン化合物、C2)アミン化合物、及びC3)ジアリールヨードニウム塩系化合物からなる光重合開始剤
を含むことを特徴とする歯科用光硬化性材料。
【請求項2】
(A)ラジカル重合性単量体100質量部に対して、(B)非架橋性の(メタ)アクリレート系重合体55乃至300質量部、(C)C1)α−ジケトン化合物0.01乃至10質量部、C2)アミン化合物0.01乃至10質量部、及びC3)ジアリールヨードニウム塩系化合物0.005乃至10質量部を含むことを特徴とする請求項1記載の歯科用光硬化性材料。
【請求項3】
(A)ラジカル重合性単量体と(C)光重合開始剤とを含んでなる液材と、(B)非架橋性の(メタ)アクリレート系重合体を含む粉材とに分割して保存され、使用時に両材を混合して用いる包装形態である請求項1または請求項2に記載の歯科用光硬化性材料。
【請求項4】
歯科用接着剤である請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯科用光硬化性材料。
【請求項5】
歯科用充填修復材料である請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯科用光硬化性材料。

【公開番号】特開2010−208964(P2010−208964A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54726(P2009−54726)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】