説明

歯科用小筆

【課題】 筆の毛先や毛束に光重合型樹脂組成物が付着したまま放置されても、毛先や毛束に残存した光重合型樹脂組成物が重合し難い歯科用小筆であって、クロロホルムやアセトン等やそれらを主成分とする市販の有機溶剤系の筆クリーナーを利用して毛先や毛束内で硬化した樹脂を溶解して除去する必要が殆どない優れた歯科用小筆を提供する。
【解決手段】 毛部が黄色に着色され、毛先や毛束に残存した光重合型樹脂組成物が重合し難いことを特徴とする歯科用小筆とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科で使用される光重合型樹脂組成物を使用する際に用いられる歯科用小筆に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、歯科治療において、義歯床用レジンやコンポジットレジン等の歯科用重合性樹脂組成物は操作性、審美性、強度に優れる事から、広く使用されるに至っている。特に、可視光によって重合する光重合型樹脂組成物は、生体に対して安全に光重合型樹脂組成物を重合することができる上、任意のタイミングで硬化させることが可能な操作性や硬化物の強度が高い等が評価され歯科治療分野で最も広く使用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
光重合型樹脂組成物は、重合可能な単量体と光重合開始剤を含み、光を照射すると光重合開始剤が光を吸収して活性化し、ラジカル分子や水素イオン等の物質が生成され単量体の重合反応が開始される。歯科で用いられる光重合型樹脂組成物に含まれる光重合開始剤としてはカンファーキノン等の光波長域が400nm〜520nmまでの可視光に感応する物質が主に用いられている。
【0004】
歯科で用いられる光重合型樹脂組成物としては、硬質レジンのオペーク材等ペースト状のものや、エアーバリヤー材や表面滑沢材等液状から成るものがあり、これらを歯科用補綴物の適用箇所に塗布する際には筆が用いられることがある(例えば、非特許文献1参照。)。このとき、使用後の筆から光重合型樹脂組成物を単に布等で拭き取っただけでは筆の毛部内部には光重合型樹脂組成物が残存したままなので、そのまま環境光下に放置してしまうと光重合型樹脂組成物が硬化して毛先や毛束が固着してしまい、次に筆を使用する際に非常に扱い難くなってしまうという問題があった。更に筆への残存量が多かったり長時間放置して重合が進んでしまうと筆から除去することは非常に困難であった。
【0005】
そこで、クロロホルムやアセトン等やそれらを主成分とする市販の有機溶剤系の筆クリーナーを利用して毛先や毛束内で硬化した樹脂を溶解して除去する方法が行われている。しかし、強力な有機溶剤は環境や人体に悪いばかりでなく、これらを用いると毛束を筆の柄に固定している接着剤をも溶解されてしまい筆の柄から毛束が脱落し再使用できなくなるという虞もあった。
【0006】
【特許文献1】特開昭48−49875号公報
【非特許文献1】坪田明史、他4名,「『アイサイト』を応用した前装補綴装置」,日本歯科評論 別冊2003,p.95-98
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、筆の毛先や毛束に光重合型樹脂組成物が付着したまま放置されても、毛先や毛束に残存した光重合型樹脂組成物が重合し難い歯科用小筆であって、有機溶媒を用いる必要が殆どない優れた歯科用小筆を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討した結果、筆の毛部に、光重合開始剤であるカンファーキノン等の励起光波長域である400nm〜520nmの光を吸収してしまう効果を与えると前記課題を解決できることを見いだし本発明を完成した。
【0009】
即ち本発明は、毛部が黄色に着色され、毛先や毛束に残存した光重合型樹脂組成物が重合し難いことを特徴とする歯科用小筆である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る歯科用小筆は、毛先が黄色いため、歯科で用いられる光重合型樹脂組成物に含まれる光重合開始剤であるカンファーキノン等の励起光波長域である400nm〜520nmの光が吸収されるので毛先や毛束に残存した光重合型樹脂組成物が硬化し難く、筆の毛先や毛束に光重合型樹脂組成物が付着したまま長時間放置されても、毛先や毛束の光重合型樹脂組成物が重合して固着してしまうことが起こり難い。そのため次回の使用時にも通常の使用感を維持することができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る歯科用小筆の毛部の材質及び形状は、歯科で通常用いられるものであれば特に限定されず使用することができる。例えば毛材としては各種獣毛、またはナイロン 、ポリブチレンテレフタレート,ポリプロピレン等の化学合成繊維を用いることができる。また、本発明においては毛部の材質が光不透過性であると毛束の内部に光が入り難いのでより高い効果を望める。また、励起光波長域である波長400nm〜520nmの光を吸収する効果があるので毛部の材質が透明であっても十分にその効果を得ることができる。
【0012】
本発明に於いて毛部を着色する黄色は、光重合開始剤であるカンファーキノン等の励起光波長域である波長400nm〜520nmの光を吸収する効果を筆の毛部に与えるために選択された色であり、波長400nm〜520nmの所謂青色に対する補色関係にある色である。従って、波長400nm〜520nmの光を吸収する効果を有している黄色であれば詳細は特に限定はされない。
【0013】
本発明に係る歯科用小筆の毛部を黄色に着色する手段としては、黄色い顔料を練りこんだ化学合成毛を用いる方法や黄色い染料で染める方法等が自由に利用できる。このとき、光重合型樹脂組成物と反応して変色や脱色が生じないこと、及び、光重合型樹脂組成物そのものの物性に影響を与えないことは必要である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛部が黄色に着色され、毛先や毛束に残存した光重合型樹脂組成物が重合し難いことを特徴とする歯科用小筆。

【公開番号】特開2006−55544(P2006−55544A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243132(P2004−243132)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)