説明

歯科用接着性組成物

【課題】 歯質の脱灰や象牙質への浸透促進機能を有する、酸性基含有重合性単量体と水を主成分として含む歯科用接着性組成物において、その接着強度をさらに向上させること。
【解決手段】 (A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体、(B)多孔質有機フィラー、好適には、平均粒子径1〜50μm、平均細孔径1〜100nm、比表面積30〜500m/gの性状を有する、架橋ポリメチルメタクリレート等の有機フィラー、(C)水、および(D)重合開始剤を含有してなることを特徴とする歯科用接着性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科医療分野等における歯の修復に際し、歯牙修復材料と歯質とを優れた強度で接着できる歯科用接着性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
齲蝕等により損傷を受けた歯の修復には、主にコンポジットレジンと呼ばれる歯牙修復材料が用いられる。このコンポジットレジンは歯の空洞に充填後重合硬化して使用されるのが一般的である。しかし、この材料自体歯質への接着性を持たない為、歯科用接着材が併用される。歯の硬組織はエナメル質と象牙質から成り、臨床的には双方への接着が要求される。
【0003】
従来、接着性の向上を目的として、接着材の塗布に先立ち歯の表面を前処理する方法が用いられてきた。このような前処理材としては、歯の表面を脱灰する酸水溶液が一般的であり、リン酸、クエン酸、マレイン酸等の酸水溶液が用いられてきた。エナメル質の場合、処理面との接着機構は、酸水溶液の脱灰による粗造な表面へ、接着材が浸透して硬化するというマクロな機械的嵌合であるのに対し、象牙質の場合には、脱灰後に歯質表面に露出するスポンジ状のコラーゲン繊維の微細な空隙に、接着材が浸透して硬化するミクロな機械的嵌合であると言われている。但し、コラーゲン繊維への浸透はエナメル質表面ほど容易ではなく、酸水溶液による処理後に更にプライマーと呼ばれる浸透促進材が一般的に用いられる。
【0004】
即ち、この方法ではエナメル質と象牙質の双方に対して良好な接着強度を得るためには、歯科用接着材を塗布する前に2段階の前処理が必要であり、併せて3ステップシステムになることから操作が煩雑であった。このため操作の軽減を目的として、象牙質に対する親和性及び歯質脱灰性を向上させる作用を有する、リン酸基、カルボン酸基等の酸性基含有重合性単量体と、歯質脱灰に必用な水を主成分とする、セルフエッチングプライマーが開発され、1段階の前処理で脱灰機能と象牙質への浸透促進機能の両方を発揮できるものとして提案されている。そして、該プライマーと、歯質への高い接着性を有する接着材を組み合わせた2ステップシステムが実用されるに至っている(特許文献1、2参照)。
【0005】
さらに、近年では、上記セルフエッチングプライマーの組成に、歯科用接着材に使用される重合性単量体を配合させることにより、前記した酸水溶液の脱灰機能、象牙質への浸透促進機能に加えて、歯質への接着性にも優れたものとしたものが開発されており、前処理不要の1ステップシステムを可能にする接着材として注目されている(特許文献3、4参照)。
【0006】
これら2ステップシステムの前処理材および1ステップシステムの接着材には、いずれも歯質を脱灰するために、酸性基含有重合性単量体が用いられている。しかしながら、このような酸性基含有重合性単量体は、一般的に機械的強度が低く、また耐水性も悪いため、水分を多く含む口腔内という過酷な条件下で優れた接着強度を発現するには必ずしも十分とは言えなかった。
【0007】
また、シリカに代表される多孔質の無機フィラーを使用することによって重合性組成物の強度を向上できることが古くから知られている(例えば特許文献5)。しかしながら、多孔質無機フィラーを使用したのでは、重合性単量体との親和性が悪く強度の向上効果は小さく、そのため上記重合性単量体が酸性基含有の系において、この多孔質無機フィラーを配合させても、多量に配合させなければ満足できるだけの強度は得られなかった。この強度不足は、無機フィラーの表面をシランカップリング剤により表面処理することにより、かなり改善できるが、それでも十分ではないことが多かった。他方で、重合性組成物に配合させるフィラーとしては、ポリメチルメタクリレート樹脂粒子等の有機フィラーも知られているが(例えば特許文献6)、これは前記シリカのように多孔質構造ではないのが普通であり、この場合、フィラーの細孔内への重合性単量体の滲入がなく、やはり十分な接着強度は得られなかった。
【0008】
なお、歯科用硬化性組成物として、フィラーからなる粉材と重合性単量体からなる液材とに分割された包装形態のものにおいて、該粉材に配合させるフィラーに多孔質有機フィラー(重合開始剤の担持目的)を用いているものが公知である(例えば特許文献7)。しかし、この粉/液タイプの硬化性組成物は、使用直前にこれら両材を短時間の手練りで混合してペースト化して使用するものであるから、前記液材には上記粉材との親和性の良さが強く求められる。したがって、液剤に、この性状を低下させる水を配合するような態様は全く意図されておらず、歯質の脱灰は、別にセルフエッチングプライマーを用意して処理されている。
【0009】
【特許文献1】特開平6−9327号公報、
【特許文献2】特開平6−24928号公報
【特許文献3】特開平10−236912号公報
【特許文献4】特開平10−245525号公報
【特許文献5】特開2005−179283号公報
【特許文献6】特開2002−161013号公報
【特許文献7】特開2004−203773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上の背景にあって、本発明は、前記した歯質の脱灰や象牙質への浸透促進機能も1ステップシステムで実施できる、酸性基含有重合性単量体と水を主成分として含む歯科用接着性組成物において、その接着強度をさらに向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体、水、および重合開始剤からなる接着性組成物において、多孔質有機フィラーを配合することによって、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体、(B)多孔質有機フィラー、(C)水、および(D)重合開始剤を含有してなることを特徴とする歯科用接着性組成物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の歯科用接着性組成物は、重合性単量体成分に酸性基含有重合性単量体を含む従来の歯科用接着性組成物に比較して、エナメル質や象牙質などの歯質に対しより優れた接着性を示し、歯牙修復材料の接着材として使用した際には、酸水溶液やセルフエッチングプライマーにより前処理を行わなくても、高い接着強度が得られる。このように優れた接着性が発現する理由は、この接着性組成物は、上記重合性単量体成分に硬化体の機械的強度が低い酸性基含有重合性単量体を含んでいるものの、フィラー成分として、有機フィラーを含んでいるため、これが該重合性単量体成分が硬化して得られるマトリックスの有機樹脂と親和性の良い状態で分散し、しかも、このものは多孔質であるため、硬化前において細孔内には該重合性単量体が密に滲入しており、これが係る細孔内で重合してアンカー効果が発揮される等によるためと推察される。すなわち、このような多孔質有機フィラーを用いることによる接着強度の向上効果と、酸性基含有重合性単量体と水を配合させることによる歯質の脱灰作用や象牙質への浸透促進機能が相乗的に作用する結果、上記したような優れた接着強度が発現するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の歯科用接着性組成物において、(A)重合性単量体成分は酸性基含有重合性単量体を含んでなる。この(A)重合性単量体成分は、該酸性基含有重合性単量体のみからなっていてもよいが、歯質に対して、より優れた接着強度を得る為に、硬化体の強度及び接着性組成物の歯質に対する浸透性を調節する観点から酸性基を有しない重合性単量体を更に含むのが好適である。特に、エナメル質及び象牙質の両方に対する接着強度の観点から(A)成分である全重合性単量体中の酸性基含有重合性単量体の含有割合は、5〜50質量%、特に10〜30質量%であるのが好適である。酸性基含有重合性単量体の配合量が少ないと、エナメル質に対する接着力が低下する傾向があり、逆に多いと象牙質に対する接着力が低下する傾向がある。
【0015】
ここで、酸性基含有重合性単量体としては、1分子中に少なくとも1つの重合性不飽和基と少なくとも1つの酸性基を有する重合性単量体であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。ここで、重合性不飽和基とは、(メタ)アクリロイル基及び(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、(メタ)アクリロイルチオ基等の(メタ)アクリロイル基の誘導体基;ビニル基:アリル基;スチリル基等が例示される。
【0016】
また、本発明において酸性基とは、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)}、カルボキシル基{−C(=O)OH}、スルホ基(−SOH)等の遊離の酸基のみならず、当該酸性基の2つが脱水縮合した酸無水物構造(例えば、−C(=O)−O−C(=O)−)、あるいは酸性基のOHがハロゲンに置換された酸ハロゲン化物基(例えば、−C(=O)Cl)等など、該基を有する重合性単量体の水溶液又は水懸濁液が酸性を示す基を示す。
【0017】
酸性基含有重合性単量体を具体的に例示すると、(メタ)アクリル酸、N−(メタ)アクリロイルグリシン、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンマレート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、O−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−O−アミノ安息香酸、p−ビニル安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸等の分子内に1つのカルボキシル基を有す重合性単量体、およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物;11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカン−1,1−ジカルボン酸、12−(メタ)アクリロイルオキシドデカン−1,1−ジカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン−1,1−ジカルボン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−メタクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル サクシネート、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテート、N,O−ジ(メタ)アクリロイルチロシン、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテート アンハイドライド、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、4−アクリロイルオキシブチルトリメリテート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸無水物、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−2,3,6−トリカルボン酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル−1,8−ナフタル酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,8−トリカルボン酸無水物等の分子内に複数のカルボキシル基あるいはその酸無水物基を有す重合性単量体、およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物(ただしこれらはカルボキシル基を有す化合物である場合);2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ジハイドロジェンフォスフェート、ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル) ハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル フェニル ハイドロジェンフォスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル ジハイドロジェンフォスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル ジハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル 2−ブロモエチル ハイドロジェンフォスフェート等の分子内にホスフィニコオキシ基又はホスホノオキシ基を有す重合性単量体(重合性酸性リン酸エステルとも称す)、およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物;ビニルホスホン酸、p−ビニルベンゼンホスホン酸等の分子内にホスホノ基を有す重合性単量体;2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルスルホン酸等の分子内にスルホ基を有す重合性単量体が例示される。またこれら以外にも、特開昭54−11149号公報、特開昭58−140046号公報、特開昭59−15468号公報、特開昭58−173175号公報、特開昭61−293951号公報、特開平7−179401号公報、特開平8−208760号公報、特開平8−319209号公報、特開平10−236912号公報、特開平10−245525号公報等に開示されている歯科用接着材の成分として記載されている酸性モノマーも好適に使用できる。
【0018】
これら酸性基含有重合性単量体は単独で用いても、複数の種類のものを併用しても良い。
【0019】
上記酸性基含有重合性単量体のなかでも、歯質に対する接着性が優れている点で、重合性酸性リン酸エステルが特に好ましい。また光照射時の重合性が良好な点で、重合性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基の誘導体基であることが好ましい。
【0020】
一方、(A)重合成単量体成分において、上記酸性基含有重合性単量体以外の重合性単量体(以下、「他の重合成単量体」とも略する)を使用する場合、該他の重合成単量体としては、酸性基を有さず、重合可能な不飽和基を有するものであれば、公知のラジカル重合性単量体が何ら制限なく使用される。一般的には硬化速度や硬化体の機械的物性の観点から、(メタ)アクリレート系の重合性単量体が好適に用いられる。
【0021】
これらの他の重合成単量体を具体的に例示すれば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、グリジジル(メタ)アクリレート、2−シアノメチル(メタ)アクリレート、ベンジルメタアクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート等のモノ(メタ)アクリレート単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2'−ビス[4−(メタ)アクリオイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシエトキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,2,4−トリメチルヘキサン、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,4,4−トリメチルヘキサン、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート系単量体;フマル酸モノメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー等のスチレン、α−メチルスチレン誘導体;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物等を挙げることができる。
【0022】
これら他の重合成単量体は単独で用いても、複数の種類のものを併用しても良く、硬化体強度及び歯質への浸透性の観点から、2,2−ビス(4−(メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパンなどの多環能(メタ)アクリレートと、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水溶性の重合性単量体とを組み合わせて使用することが好ましい。ここで言う水溶性とは、20℃での水への溶解度が20g/100ml以上であることを言う。
【0023】
次に、(B)多孔質有機フィラーについて説明する。本発明の歯科用接着性組成物において、該多孔質有機フィラー成分は、最も特徴的成分である。本発明の歯科用接着性組成物を重合硬化させると、配合された該(B)多孔質有機フィラーの効果によって、機械的強度に優れた硬い硬化体を得ることができ、これによって接着強度を大きく向上させることができる。前記しように該機械的強度の向上効果は、多孔質有機フィラーの、マトリックスである有機樹脂への親和性の良さと、その細孔内への重合性単量体の滲入によるアンカー効果によるものと推測される。ここで、この多孔質有機フィラーに代えて、シリカ等の多孔質の無機フィラーを用いても、上記有機樹脂への親和性の低さから、本発明ほどの良好な機械的強度の向上効果は得られず、同様に、有機フィラーであっても、多孔質でない汎用タイプのものでは、前記アンカー効果が発揮されずに、やはり本発明ほどの高い機械的強度は得られない。
【0024】
こうした多孔質有機フィラーとしては、表面に多数の細孔を有する有機フィラーであれば何ら制限無く使用できるが、その細孔性状は、機械的強度の向上効果の良好さから、平均細孔径1〜100nmであり、比表面積30〜500m/gのものが好ましい。なお、上記多孔質有機フィラーの平均細孔径とは、粒子が凝集してできる凝集細孔とは異なり、粒子1つ1つに存在する細孔の平均径を指す。該平均細孔径は、水銀圧入法細孔分布測定装置により粒子の細孔分布から計算して求めることができる。また、上記多孔質有機フィラーの平均細孔径は、水銀圧入法細孔分布測定装置により測定した値であり、比表面積は、BET法により粒子表面への窒素吸着量を測定して求めた値である。平均細孔径の、特に好ましい範囲は5〜50nmである。平均細孔径が1nmより小さくなると、重合性単量体の細孔内への滲入量が減少し、前記したマトリックスとのアンカー効果が低下して硬化体強度が低下する傾向にあり、他方、平均細孔径が100nmより大きくなっても、このアンカー効果は弱まり、硬化体強度が低下する傾向にある。
【0025】
比表面積の特に好ましい範囲は50〜200m/gである。比表面積が30m/gより少なくなると、重合性単量体の細孔内への滲入量が減少し、前記したマトリックスとのアンカー効果が低下して硬化体強度が低下する傾向にあり、他方、比表面積が500m/gより多くなると、有機フィラー自身の機械的強度が低下して、硬化体強度を保てなくなり易い。
【0026】
また、多孔質有機フィラーの粒子径は特には限定されないが、平均粒子径が1〜50μmの範囲であるのが好ましく、1〜20μmの範囲であることがより好ましい。なお、上記多孔質有機フィラーの平均粒子径とは、粒子の1次粒子の平均径を指し、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置により求めることができる。平均粒子径が1μmより小さくなると、接着材の粘度が高くなることによって歯質への浸透性が妨げられ、歯質との接着力が低下する傾向にある。平均粒子径が50μmより大きくなると、粒子が沈降し、効果が得難くなる。粒子形状も特に限定されず、粉砕型粒子あるいは球状粒子いずれでも良い。
【0027】
こうした性状を有する多孔質有機フィラーの材質は、有機樹脂からなる限り特に限定されるものではないが、重合性単量体とのなじみの観点から、架橋ポリメチルメタクリレート、架橋ポリエチルメタクリレート、架橋ポリメチルアクリレート等の架橋ポリアルキル(メタ)アクリレート;ポリスチレン;ポリ塩化ビニル等が好的に使用できる。また、このような有機樹脂からなる多孔質有機フィラーとしては、特開2002−256005号公報、特開2002−265529号公報等に記載のものが使用できる。さらに、このような多孔質有機フィラーは一般に市販されており、例えば「テクノポリマーMBP−8」(積水化成品工業(株))として入手できる。なお、これらの多孔質有機フィラーは、必要に応じ、材質、平均粒径、平均細孔径等の異なる複数種を併用しても構わない。
【0028】
本発明の接着性組成物において、上記多孔質有機フィラーの配合量は、特に限定されるものではなく適宜設定すれば良い。一般に、硬化性組成物において、その硬化体の機械的強度を向上させるため、重合性単量体成分に対するフィラー(例えば、シリカ等の無機フィラー)の配合量を多くしていくと、組成物の粘度が上昇し、その操作性が低下する。特に、配合するフィラーが高比表面積のものであればこの問題は顕著になり、硬化性組成物の用途が、本発明が対照とするような歯科用接着性組成物であれば、その使用時に、窩洞の隅々まで塗布し難くなり、安定的な接着を損なうことになる。また、このように粘度が上昇し過度に粘稠になると、エナメル質および象牙質に対する浸透性が低下し、これらの歯質、特に象牙質への接着強度が逆に低下するようになる。これに対して、本発明で使用する多孔質有機フィラーは、前述の通り機械的強度の向上効果が大きいため、たとえ上記好適範囲として説明したような比表面積が大きいものであったとしても、その使用量を低く抑えることができ、上記粘度の上昇は最低限に抑制でき操作性、さらに歯質への接着強度の良好さを保持できる。係る操作性の良好さと接着強度の高さの両立を勘案すると、多孔質有機フィラーの配合量は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体100質量部に対して、1〜50質量部であることが好ましく、5〜20質量部であるのがより好ましい。
【0029】
本発明の接着性組成物に使用する(C)水は、(A)重合性単量体成分に含有される酸性基含有重合性単量体と共に歯質脱灰作用を持たせる為に必須である。該(C)水は、保存安定性、生体適合性および接着性に有害な不純物を実質的に含まないことが好ましく、例としては脱イオン水、蒸留水等が挙げられる。
【0030】
本発明の接着材における(C)水の配合量は、特に限定されるものではなく適宜設定すれば良いが、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体成分100質量部に対して、1〜30質量部であることが好ましく、より好ましくは5〜15質量部である。
【0031】
本発明の接着材に使用する(D)重合開始剤としては、特に限定されるものではなく、化学重合開始剤も良好に使用可能であるが、加熱したり、レドックス系における、包装を2材以上に分割し、これらを使用直前に混合する煩雑さを必要としない等の操作性の面から光重合開始剤を使用することが好ましい。
【0032】
こうした光重合開始剤としては、ジアセチル、アセチルベンゾイル、ベンジル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、4,4’−ジメトキシベンジル、4,4’−オキシベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等のα−ジケトン類、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、2,4−ジエトキシチオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン誘導体、ベンゾフェノン、p,p’−ジメチルアミノベンゾフェノン、p,p’−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド誘導体、さらには、アリールボレート化合物/色素/光酸発生剤からなる系が挙げられる。これらの中でも特に好ましいのは、α−ジケトン系の光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系の光重合開始剤、及びアリールボレート化合物/色素/光酸発生剤を組み合わせた系からなる光重合開始剤である。
【0033】
上記α−ジケトンとしてはカンファーキノン、ベンジルが好ましく、また、アシルホスフォンオキサイドとしては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドが好ましい。なお、これらα−ジケトン及びアシルホスフォンオキサイドは単独でも光重合活性を示すが、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ラウリル、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のアミン化合物と併用することがより高い活性を得られて好ましい。
【0034】
また、アリールボレート化合物/色素/光酸発生剤系の光重合開始剤については特開平9−3109号公報等に記されているものが好適に用いられるが、より具体的には、テトラフェニルホウ素ナトリウム塩等のアリールボレート化合物を、色素として3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3,3’−カルボニルビス(4−シアノ−7−ジエチルアミノクマリン等のクマリン系の色素を、光酸発生剤として、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等のハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体、またはジフェニルヨードニウム塩化合物を用いたものが特に好適に使用できる。
【0035】
該光重合開始剤はそれぞれ単独で配合するのみならず、必要に応じて複数の種類を組み合わせて配合することもできる。これらの配合量は本発明の効果を阻害しない範囲内における有効量であれば特に限定されず、調整する硬化性組成物の用途や目的に応じ適宜決定すれば良い。一般には、重合性単量体100質量部に対して0.01〜30質量部の範囲内、より好ましくは、0.1〜20質量部の範囲内である。詳細には、例えば、α−ジケトン又はアシルホスフィンオキサイドの場合には、(A)重合性単量体100質量部に対して0.01〜20質量部、より好ましくは0.1〜10質量部であり、さらに必要に応じてアミン化合物を0.01〜10質量部加えれば良い。また、アリールボレート化合物/色素/光酸発生剤系の場合、(A)重合性単量体100質量部に対して、アリールボレート化合物が0.01〜15質量部、色素が0.001〜5質量部、光酸発生剤が0.01〜10質量部とすれば良い。
【0036】
なお、本発明において、重合開始剤として化学重合開始剤を使用する場合、これは2種以上の化合物の組み合わせてラジカルを発生させるレドックス系のものが好適に使用できる。代表的なレドックス系化学重合開始剤としては、有機過酸化物とアミン類からなる系、有機過酸化物とアミン類と有機スルフィン酸類からなる系、有機過酸化物とアミン類とアリールボレート類からなる系、アリールボレート類と酸性化合物からなる系、バルビツール酸誘導体と銅化合物とハロゲン化合物からなる系等が挙げられる。これらの化学重合開始剤の配合量も、本発明の効果を阻害しない範囲で有効量(一般的には、光重合開始剤の場合と同様に、重合性単量体100質量部に対して0.01〜30質量部、より好ましくは、0.1〜20質量部)であれば限定されるものではなく、調整する硬化性組成物の用途や目的に応じ適宜決定すれば良い。
【0037】
本発明の接着性組成物には、上記(A)〜(D)成分が配合されていればその効果を発現するが、本発明の効果を大きく損なわない範囲で、必要に応じて歯科用接着性組成物の配合成分として公知の他の成分、例えば、水溶性有機溶媒、紫外線吸収剤、重合禁止剤、重合抑制剤、染料、顔料、無機充填剤などが配合されていてもよい。
【0038】
水溶性有機溶媒としては、水溶性を示すものであれば公知の有機溶媒が何等制限なく使用できる。ここで言う水溶性とは、前記説明と同じであり、20℃での水への溶解度が20g/100ml以上であることを言う。このような水溶性有機溶媒として具体的に例示すると、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。これら有機溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。生体に対する為害性を考慮すると、エタノール、プロパノール又はアセトンが好ましい。
【0039】
本発明の接着性組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、重合性単量体を配合した公知の硬化性組成物の製造方法に従えば良い。一般的には、赤色光などの不活性光下に、配合される全成分を秤取り、均一溶液になるまでよく混合すればよい。
【0040】
本発明の接着性組成物の使用方法もまた、特に制限されるものではなく、通常は、歯科用接着材として常法に従って使用すればよい。例えば、齲蝕部を取り除くなどした被着体となる歯質に本発明の接着材を塗布、5〜60秒程度放置後に圧縮空気などを軽く吹きつけて、ついで歯科用照射器を用いて可視光を照射し重合、硬化させればよい。
【0041】
その他、本発明の接着性組成物は、上記歯科用接着材の用途の他にも、その歯質への優れた接着性に関する効果を生かして、歯科用前処理材、シーラント材や審美用コーティング材等の歯面を処理する用途において好適に使用可能である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、実施例および比較例で使用した化合物とその略称を(1)に、接着材の歯面に対する塗布性の評価方法を(2)に、硬化体の曲げ強度測定方法を(3)に、エナメル質、象牙質接着強度測定方法を(4)に示す。
(1)略称及び構造
(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体
酸性基含有重合性単量体
PM;2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物
MDP;10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
MAC−10;11,11−ジカルボキシウンデシルメタクリレート
他の重合性単量体
D−2.6E;2,2−ビス(4−(メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン
3G;トリエチレングリコールジメタクリレート
HEMA;2−ヒドロキシエチルメタクリレート
MMA;メチルメタクリレート
(B)多孔質有機フィラー
MB1;球状多孔質架橋ポリメチルメタクリレート:平均粒径8μm(レーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置により測定)、平均細孔径20nm(水銀圧入法細孔分布測定装置により測定した値)、比表面積85m/g(BET法により粒子表面への窒素吸着量を測定して求めた値)
MB2;球状多孔質架橋ポリメチルメタクリレート:平均粒径16μm、平均細孔径40nm、比表面積62m/g
SB1;球状多孔質架橋ポリスチレン:平均粒径2μm、平均細孔径10nm、比表面積160m/g
(B)多孔質有機フィラー
MBP;球状多孔質架橋ポリメチルメタクリレート:平均粒径(レーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置により測定)8μm、平均細孔径(水銀圧入法細孔分布測定装置により測定した値)20nm、比表面積(BET法により粒子表面への窒素吸着量を測定して求めた値)85m/g
SBP;球状多孔質架橋ポリスチレン:平均粒径8μm、平均細孔径20nm、比表面積85m/g
非多孔質有機フィラー
PMMA;球状ポリメチルメタクリレート:平均粒径8μm
PEMA;球状ポリエチルメタクリレート:平均粒径8μm
P(MMA−EMA);球状メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体:平均粒径30μm
無機フィラー
F1;非晶質シリカ:平均粒径0.02μm、比表面積130m/g メチルトリクロロシラン処理
F2;球状シリカ−ジルコニア:平均粒径4μm、比表面積120m/g γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン疎水化処理物と、球状シリカ−チタニア:平均粒径4μm、比表面積110m/g γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン疎水化処理物の質量比70:30の混合物
F3;粉砕石英:平均粒径6μm、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン処理疎水化物と、F1の質量比70:30の混合物
(D)光重合開始剤
CQ;カンファーキノン
DMBE;N,N−ジメチルp−安息香酸エチル
TPO;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
(2)接着材の歯面に対する塗布性の評価方法
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、往水下、#600のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質および象牙質平面を削り出し、塗布面とし、該塗布面が垂直になるように直立させた。次に、本発明の接着材を適量、混和皿に測り取り、スポンジを用いて塗布面全体に塗布した。この時の接着材の塗布性を以下に示す評価基準により評価を行なった。
〇:塗布面全体に接着材を容易に塗布する事ができ、光沢のあるフィルム様の接着層が目視で確認できる。
×:粘度が高く液状では無い為、塗布面全体に接着材を塗布する事が困難。所々に液塊ができ、凸凹した接着層が形成される。
(3)硬化体の曲げ強度測定方法
ポリテトラフルオロエチレン製型枠に本発明の接着材を充填し、ポリプロピレンで圧接した状態で、一方の面から30秒×3回、全体に光が当たるように場所を変えてトクソーパワーライトにてポリプロピレンに密着させて光照射を行なった。ついで、反対の面からも同様にポリプロピレンに密着させて30秒×3回光照射して硬化体を得た。該硬化体を37℃水中下24時間浸漬した後、#800の耐水研磨紙にて、硬化体を2×2×25mmの角柱状に整え、この試料片を試験機(島津製作所製、オートグラフAG5000D)に装着し、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分で3点曲げ強度を測定した。
(4)エナメル質、象牙質接着強度測定方法
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、注水下、#600のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質および象牙質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、この平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定し、ついで厚さ0.5mm直径8mmの孔の開いたパラフィンワックスを上記円孔上に同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞内に本発明の接着剤を塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を軽く吹き付けた。次に可視光線照射器(パワーライト、トクヤマデンタル社製)にて10秒間光照射し接着材を硬化させた。更にその上に歯科用コンポジットレジン(パルフィークエステライトΣ、トクヤマデンタル社製)を充填し、可視光線照射器により30秒間光照射して、接着試験片を作製した。
【0043】
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、歯牙とコンポジットレジンの引張り接着強度を測定した。1試験当り、4本の引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を接着強度とした。
実施例1
(A)成分として40gのPM、20gのD−2.6E、10gの3G、30gのHEMA、(B)成分として30gのMBP、(C)成分として10gの水、(D)成分として0.5gのCQ、1.0gのDMBEを量り取り、混合し本発明の接着材を調製した。ついで、該接着材を用いて、歯面に対する塗布性、硬化体の曲げ強度、およびエナメル質、象牙質接着強度を測定した。接着材の組成を表1に、歯面に対する塗布性、硬化体の曲げ強度、およびエナメル質、象牙質接着強度を表3に示す。
実施例2〜12、比較例1〜12
実施例1の方法に準じ組成の異なる接着材を調整し、歯面に対する塗布性、硬化体の曲げ強度、およびエナメル質、象牙質接着強度を測定した。接着材の組成を表1及び表2に、歯面に対する塗布性、硬化体の曲げ強度、およびエナメル質、象牙質接着強度を表3および表4に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
実施例1〜12は、本発明で示される構成成分すべてを満足するように配合されたものであるが、いずれの場合においても歯面に対して良好な塗布性を有し、且つ、硬化体の曲げ強度、エナメル質および象牙質に対する接着強度においても良好な結果が得られている。
【0049】
これに対して、比較例1は、(B)成分である多孔質有機フィラーが含まれていない場合であるが、硬化体の曲げ強度が著しく低下しており、エナメル質および象牙質に対する接着強度も大きく低下している。
【0050】
比較例2〜4は、(B)成分である多孔質有機フィラーの代わりに非多孔質有機フィラーを添加した場合であるが、硬化体強度の向上効果が十分では無く、エナメル質および象牙質の接着強度も低い。
【0051】
比較例5〜6は、非多孔質有機フィラーの配合量を更に増やした場合であるが、硬化体の強度は添加量を増やす事で上昇傾向を示すが、十分とは言えず、逆に接着材の粘度が上昇し、歯面に対する塗布性が低下している。また、歯質への浸透性が低下することによって特に象牙質に対する接着強度が大きく低下している。
【0052】
また、比較例7〜9は、(B)成分である多孔質有機フィラーの代わりに無機フィラーを添加した場合であるが、硬化体強度の向上効果が十分では無く、エナメル質および象牙質への接着強度も低い。
【0053】
比較例10は、無機フィラーの配合量を更に増やした場合であるが、硬化体の曲げ強度は十分な値が得られるが、接着材の粘度が上昇してしまうことによって歯面に対する塗布性が低下している。また、歯質への浸透性が低下することによって、特に象牙質に対する接着強度が大きく低下している。
【0054】
比較例11は、(A)成分において酸性基含有重合性単量体を含んでいない場合であるが、歯質脱灰力が低下する事によって、エナメル質および象牙質に対する接着強度が大きく低下している。
【0055】
比較例12は、(C)成分である水が含まれていない場合であるが、歯質脱灰力が低下する事によって、エナメル質および象牙質に対する接着強度が大きく低下している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体、(B)多孔質有機フィラー、(C)水、および(D)重合開始剤を含有してなることを特徴とする歯科用接着性組成物。
【請求項2】
(B)多孔質有機フィラーが、平均粒子径1〜50μm、平均細孔径1〜100nm、比表面積30〜500m/gである請求項1記載の歯科用接着性組成物。
【請求項3】
(D)重合開始剤が光重合開始剤である請求項1または請求項2記載の歯科用接着性組成物。
【請求項4】
(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体100質量部に対して、(B)多孔質有機フィラーの配合量が1〜50質量部であり、(C)水の配合量が1〜30質量部であり、(D)重合開始剤の配合量が有効量である請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯科用接着性組成物。