説明

歯科用硬化性材料キット

【課題】 本発明は、光重合開始剤が、α−ジケトン化合物と脂肪族アミン化合物を用いた光重合型の硬化性材料において、セルフエッチングプライマー能を有する前処理材の処理面に適用しても、迅速且つ高強度に硬化するものを開発することを目的とする。
【解決手段】 (A)(I)酸性基含有重合性単量体、及び(II)水を含んでなる前処理材
(B)(I)酸性基非含有重合性単量体、(II)金属イオン含有ガラスフィラー、(III)i)α−ジケトン化合物及びii)脂肪族アミン化合物が少なくとも組合わされてなる光重合開始剤、特に、上記i)及びii)成分に加えて、さらに、iii)芳香族アミン化合物、及びiv)置換基としてトリハロメチル基を有するs−トリアジン化合物及び/又はアリールヨードニウム塩を含んでなる光重合開始剤、並びに(IV)無機充填剤を含んでなる硬化性材料からなる歯科用硬化性材料キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前処理材と硬化性材料とからなる歯科用硬化性材料キット、詳しくはセルフエッチングプライマー能を有する前処理材と、歯列矯正部材用接着材や歯牙の充填修復材等の硬化性材料とからなる歯科用硬化性材料キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、その簡便性から、歯列矯正部材用接着材(この接着材を以下、単に「矯正用接着材」とも称する)は、光硬化性のものが用いられるようになっている。これら光硬化性の矯正用接着材は、歯面上にて歯列矯正部材(この歯列矯正部材を以下、単に「矯正部材」とも称する)の装着位置を決めた後、任意のタイミングで光硬化させて接着することができ、操作性に優れる。その接着方法としては一般に、矯正用接着材を歯質に塗布する前に、以下のような前処理を順番に施すことが行われている。すなわち、1)硬い歯質をエッチング処理するための前処理材の塗布、2)プライマーと呼ばれる、歯質の中への浸透促進剤としての作用を有する前処理材の塗布である。
【0003】
このうち前者のエッチング処理用の前処理材としては、歯の表面を脱灰する酸水溶液を用いるのが一般的であり、リン酸、クエン酸、マレイン酸等の水溶液が用いられてきた。一方、プライマーとしては、酸水溶液の脱灰による粗造化したエナメル質表面に接着材が浸透して硬化する必要があると言われているいため、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)等の両親媒性モノマー、或いはこれと有機溶媒などを主成分とする重合性単量体組成物が用いられている。
【0004】
しかしながら、上記エッチング処理とプライマー処理の二段階の前処理は、操作が煩雑であるため、その軽減を目的として、酸水溶液の脱灰機能とプライマーの浸透促進機能とを併せ持つ前処理材が既に提案されている。すなわち、重合性単量体成分の少なくとも一部として、歯質に対する親和性及び歯質脱灰性を向上させる作用を有するリン酸基、カルボン酸基等の酸性基を有するものを含有させ、さらに、歯質脱灰に必要な水も配合させた、セルフエッチングプライマー能を有する前処理材が、歯列矯正部材接着用として開発されている。(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
また、こうしたセルフエッチングプライマー能を有する前処理材は、齲蝕等により損傷を受けた歯の修復に使用される、光硬化型コンポジットレジンに対しても、広く適用されている(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)。
【0006】
ところで、こうしたセルフエッチングプライマー能を有する前処理材を施した歯牙と接着させる、矯正用接着材や光硬化型コンポジットレジンの基本組成は、重合性単量体及び光重合開始剤、さらに、十分な機械的強度を付与するために多量の無機充填材が配合された組成になっている。そして、該機械的強度を高度に保持するために、上記重合性単量体としては、前記セルフエッチングプライマー能を有する前処理材に使用されているような酸性基を有するものは使用が控えられているのが普通である(これら酸性基を有する重合性単量体は、一般に硬化体の機械的強度が弱いものが多く、しかも該酸性基による樹脂骨格の分解が進む虞もある理由による)。
【0007】
また、前記光重合開始剤としては、歯科用光照射器の可視光波長領域で活性化でき、組成物中の樹脂を速やかに硬化することができることから、α−ジケトン化合物が汎用されており、これはラジカルの生成を促進する作用を有するアミン化合物と組合わされて使用されることが多い。特に、アミン化合物として、脂肪族アミン化合物と芳香族アミン化合物とを併用し、これにさらに、置換基としてトリハロメチル基を有するs−トリアジン化合物を加えて使用した場合には、硬化速度が大幅に向上し、光照射時間を短縮することが可能になり有用である(特許文献4参照)。よって、係る組成の光重合開始剤を用いれば、例えば、多数の歯に対して処理を施さなくてはならない、矯正部材の接着操作において、スピーディーに操作でき患者の負担を大幅に軽減することが達成できる。
【0008】
【特許文献1】特開2002−226314号公報
【特許文献2】特開平6−9327号公報
【特許文献3】特開平6−24928号公報
【特許文献4】特開2005−89729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、こうした矯正用接着材や光硬化型コンポジットレジンの硬化性材料において、光重合性開始剤として、上記α−ジケトン化合物と共に、アミン化合物として脂肪族アミン化合物を用いた場合、該硬化性材料を、前記セルフエッチングプライマー能を有する前処理材(すなわち、酸性基含有重合性単量体及び水を含んでなる前処理材)の歯質に対する処理面に適用すると、十分な重合活性が発現しないことが発覚した。この原因は、上記光重合性開始剤の成分として配合された脂肪族アミン化合物が、前記前処理材の処理面に塗布し酸性基含有重合性単量体と接触させると、アミン化合物の中でも格別に塩を形成して失活し易いものであることによると推察される。
【0010】
そして、特に、この脂肪族アミン化合物と芳香族アミン化合物とを併用した光重合性開始剤として、さらに、前記した置換基としてトリハロメチル基を有するs−トリアジン化合物を組合せたものを用いた場合には、該組成の触媒系が本来有する迅速な硬化速度はほとんど発現せず、前記歯列矯正部材用接着材等に該重合性開始剤を適用した際の有意義さが、全く満足できない程度にしか得られないものであった。
【0011】
こうした背景にあって本発明は、光重合開始剤が、α−ジケトン化合物と脂肪族アミン化合物を用いた光重合型の硬化性材料において、セルフエッチングプライマー能を有する前処理材の処理面に適用しても、迅速且つ高強度に硬化するものを開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題に鑑み、本発明者らは鋭意検討を続けてきた。その結果、前記光重合開始剤を用いた硬化性材料において、金属イオン含有ガラスフィラーを配合させれば、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、(A)(I)酸性基含有重合性単量体、及び(II)水を含んでなる前処理材
(B)(I)酸性基非含有重合性単量体、(II)金属イオン含有ガラスフィラー、(III)i)α − ジケトン化合物及びii)脂肪族アミン化合物が少なくとも組合わされてなる光重合開始剤、並びに(IV)無機充填剤を含んでなる硬化性材料
からなる歯科用硬化性材料キットである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の歯科用硬化性材料キットは、まず、(A)前処理材において歯質の脱灰機能や該歯質への浸透促進機能が発揮される。従って、その上に塗布される(B)硬化性材料の硬化体は、該歯質に対する接着性が向上する。
【0015】
そして、該(B)硬化性材料は、上記セルフエッチングプライマー能を有する前処理材の処理面に適用されるにも関わらず、光重合性開始剤の成分として配合されている脂肪族アミン化合物の失活が抑制され、α−ジケトン化合物の重合活性が良好に向上する。特に、上記α−ジケトン化合物と脂肪族アミン化合物と共に、置換基としてトリハロメチル基を有するs−トリアジン化合物、或いはアリールヨードニウム塩を組合せて用いた場合には、その硬化速度は極めて迅速なものになり、その接着強度も極めて高度なものになる。
【0016】
したがって、上記硬化性材料が、矯正部材用接着材である場合には、治療時間の大幅な短縮化が達成され患者の負担は軽減され、しかも、個々の歯牙に接着された歯列矯正部材は矯正用ワイヤーにより高い緊縛力がかかっても極めて脱落し難い高強度に接着したものになる。また、硬化性材料が、光硬化型コンポジットレジン等の歯牙修復材料の場合においても、迅速な操作と、信頼性の高い修復を実現でき、極めて有意義である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の最大の特徴は、キットを構成する、(I)酸性基非含有重合性単量体、(III)i)α−ジケトン化合物及びii)脂肪族アミン化合物が少なくとも組合わされてなる光重合開始剤、及び(IV)無機充填剤を含んでなる(B)硬化性材料において、さらに、(II)金属イオン含有ガラスフィラーを配合させた点にある。この構成により、上記硬化性材料は、(A)(I)酸性基含有重合性単量体、及び(II)水を含んでなる前処理材の歯質に対する処理面に適用しても、脂肪族アミン化合物の失活が抑制され、α−ジケトン化合物と該脂肪族アミン化合物による高度な重合活性が発現するものになる。その理由は必ずしも正確には明らかではないが、硬化性材料を上記前処理材の処理面に塗布した際に、処理面に存在する酸性基含有重合性単量体及び水の作用により、金属イオン含有ガラスフィラーから金属イオンが溶出し、これが該酸性基含有重合性単量体の酸性基と塩を形成してその酸性度を弱め、これにより脂肪族アミン化合物の失活が抑えられるからではないかと推察される。
【0018】
なお、歯質に塗布された前記(A)前処理材は、通常、エアーブローされて、含有されている水の粗方が除去されるのが一般的であるが、それでも若干量は残存し、これに口腔中に存在する唾液等の水分も加わるため、該前処理材の処理面には、本発明の前記組成の硬化性材料を塗布した際に、金属イオン含有ガラスフィラーから、上記脂肪族アミン化合物の失活を抑制するに必要な金属イオンを溶出させるに十分な量の水分は存在しているのが普通である。
【0019】
上記歯科用硬化性材料キットを構成する(B)硬化性材料において、前記特徴的成分である(II)金属イオン含有ガラスフィラーは、金属イオンを含有したガラス粒子であり、酸水溶液と接触した際にそのガラス骨格の一部が崩壊して、該金属イオンが溶出する作用を備えたものである。また、金属イオンの溶出後は、網様構造を有する多孔性粒子となり、硬化性材料の強度を向上させる作用を有する。このガラスフィラーに含有されている金属イオンは、ナトリウム、カリウム等の一価の金属イオンでも本発明の効果は十分に認められるが、次の理由から多価金属イオンであるのが好ましい。すなわち、多価金属イオンは、塩形成による酸性度低下の効果を効率良く発揮させる観点の他、硬化体の歯質への接着強度を一層顕著に高める効果を有する。詳述すれば、溶出される金属イオンが多価のものであれば、酸性基含有重合性単量体の重合体において、複数の酸性基と該多価金属イオンが塩を形成するようになるため3次元的にイオン架橋が生じ、これにより、前処理材と硬化性材料の塗布界面の接着力が大きく向上するようになる。
【0020】
こうした多価金属イオンとしては、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、亜鉛、ランタノイド等の金属イオンが挙げられ、これらのうち、酸性基含有重合性単量体と塩を形成する際の効率の良さという観点から、アルミニウム等の3価のイオンは少なくとも一部として含有させるのがより好ましい。こうした多価金属イオンの含有量が、全金属イオンに対して70モル%以上であるのが望ましく、80モル%以上であるのが特に望ましい。
【0021】
金属イオン含有ガラスフィラーは、上記の条件を満たすものであれば特に限定されない
が、金属イオンが、該金属イオンと同時に溶出可能なカウンターアニオンとの塩として含まれている場合、溶出−解離した該カウンターアニオンの多くは(後述するフッ素イオンは除く)前処理材と硬化性材料との塗布界面上で接着強度に悪影響を与える恐れがあるため、本発明では、多価金属イオンのカウンターアニオンが同時に溶出しないものを用いるのが好ましい。無論、この意味で、硬化性材料に含有させる金属イオン溶出源は、水溶性の金属塩等でなく、上記金属イオン含有ガラスフィラーを用いているものである。
【0022】
上記金属イオン含有ガラスフィラーとして、本発明では、鎖状、層状、網様構造の骨格を有するガラス類において、その骨格の隙間に金属イオンを含有したものが好適に使用される。好ましい例を挙げると、金属イオンを含有させるための、鎖状、層状、網様構造の骨格を有するガラス類としては、酸化物ガラス、フッ化物ガラス等を挙げることができる。酸化物ガラスからなるものとしてはアルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス等からなるものが挙げられ、フッ化物ガラスからなるものとしてはフッ化ジルコニウムガラス等からなるものを挙げることができる。上記金属イオン含有ガラスフィラーの中でも、硬化体強度の向上の点でアルミノシリケートガラスからなるものがより好適に使用され、さらに歯質を強化するフッ化物イオンを接着後に徐々に放出する、所謂フッ素徐放性を有するフルオロアルミノシリケートガラスからなるものが最も好適に用いられる。
【0023】
金属イオン含有ガラスフィラーにおける金属イオンの溶出特性は各元素の配合比で制御することができる。例えば、アルミニウム、カルシウム等の多価金属イオンの含有率を多くすればこれらの溶出量は一般に多くなるし、また、ナトリウムやリンの含有率を変えることにより、これら金属イオンの溶出量を変えることもできるので、金属イオンの溶出特性を比較的容易に制御することができる。
【0024】
金属イオン含有ガラスフィラー成分として好適に使用できる上記のフルオロアルミノシリケートガラスは、歯科用セメント、例えば、グラスアイオノマーセメント用として使用される公知のものが使用できる。一般に知られているフルオロアルミノシリケートガラスの組成は、イオン質量パーセントで、珪素、10〜33;アルミニウム、4〜30;アルカリ土類金属、5〜36;アルカリ金属、0〜10;リン、0.2〜16;フッ素、2〜40及び残量酸素のものが好適に使用される。より好ましい組成範囲を例示すると、珪素、15〜25;アルミニウム、7〜20;アルカリ土類金属、8〜28;アルカリ金属、0〜10;リン、0.5〜8;フッ素、4〜40及び残量酸素である。カルシウムの一部又は全部をマグネシウム、ストロンチウム、バリウムで置き換えたものも好ましい。また上記アルカリ金属はナトリウムが最も一般的であるが、その一部または全部をリチウム、カリウム等で置き換えたものも好適である。更に必要に応じて、上記アルミニウムの一部をチタン、イットリウム、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、ランタン等で置き換えることも可能である。
【0025】
本発明において、上記金属イオン含有ガラスフィラーの形状は特に限定されず、通常の粉砕により得られるような粉砕形粒子、あるいは球状粒子でもよく、必要に応じて板状、繊維状等の粒子を混ぜることもできる。
【0026】
また、該金属イオン含有ガラスフィラーは、硬化性材料の製造を容易にするという観点から、平均粒子径が0.01μm〜30μmのものが好ましく、より好ましくは0.05μm〜20μm、さらに0.1μm〜10μmの範囲のものが最も好ましい。更に、フィラー0.1gを温度23°C、10重量%マレイン酸水溶液10ml中に浸漬した時における、3分後に溶出した金属イオンの量が、0.5〜100meq/g−フィラーであることが好ましい。より好ましくは、1.0〜30meq/g−フィラーである。この時の金属イオン量は、ICP(誘導結合型プラズマ)発光分光分析で測定することができる。なお、上記の条件下における3分後の金属イオンの溶出量を、以下、「3分間溶出イオン量」ともいう。なお、こうした金属イオン含有ガラスフィラーは、前記条件の浸漬を24時間行った後に溶出した金属イオンの量が、5.0〜500meq/g−フィラーであることが好ましい。より好ましくは、10〜100meq/g−フィラーである。この時の金属イオン量も、ICP発光分光分析で測定することができる。なお、上記の条件下における24時間後の金属イオンの溶出量を、以下、「24時間溶出イオン量」ともいう。
【0027】
溶出特性を制御する方法は、一般に知られている方法を用いることができるが、代表的な方法としては、金属イオン溶出性フィラーを酸で処理することにより、フィラー表面の金属イオンをあらかじめ除去し、溶出特性を制御する方法を挙げることができる。この方法に用いられる酸は塩酸、硝酸等の無機酸、マレイン酸、クエン酸等の有機酸など一般的に知られている酸が用いられる。酸の濃度、処理時間等は除去するイオンの量によって適宣決定すればよい。
【0028】
本発明の(B)硬化性材料中において、上記(II)金属イオン含有ガラスフィラーの配合量は、特に制限されるものではないが、該硬化性材料中の脂肪族アミン化合物が、(A)前処理材中の(I)酸性基含有重合性単量体と接触して失活するのを防ぐという観点から、(B)硬化性材料中の(I)酸性基非含有重合性単量体100質量部当り、0.5〜50質量部、特に1〜30質量部、最適には3〜25質量部であるのが好適である。金属イオン含有ガラスフィラーの配合量が0.5質量部より少ないと、酸と接触した際に必要量の金属イオンが溶出しなくなり、酸性度を低下させることが不十分となり脂肪族アミンの失活を十分に抑えられなくなり接着力が低下する。他方、この金属イオン含有ガラスフィラーの含有量が50質量部より多いと、硬化体が硬くなりすぎる傾向があり、これにより、例えば硬化性材料が矯正用接着材であれば、治療終了後においての歯面上の残存硬化物の除去が難しくなる。
【0029】
上述の説明から明らかなように、本発明において、(II)金属イオン含有ガラスフィラーを含有させた(B)硬化性材料に使用される(III)光重合開始剤は、i)α−ジケトン化合物及びii)脂肪族アミン化合物が少なくとも組合わされてなるものである。
【0030】
ここで、i)α−ジケトン化合物は、光重合における増感剤として公知のものが制限なく使用され、具体的には、カンファーキノン、ジアセチルカンファーキノン等のカンファーキノン類; アセチルベンゾイル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9 , 1 0 − フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等を挙げることができる。これらのα−ジケトン化合物は、重合に用いる光の波長や強度、光照射の時間、あるいは組み合わせる他の成分の種類や量によって適宜選択して使用すればよく、単独または2種以上を混合して使用することもできる。これらのなかでも、歯科用に用いることを考慮すると、可視光域に極大吸収波長を有していることが好ましく、一般的にはカンファーキノン類が好適に使用され、特にカンファーキノンが好ましい。
【0031】
(B)硬化性材料に使用する(III)光重合開始剤中において、上記i)α−ジケトン化合物の配合量は、特に制限されるものではなく組み合わせる他の成分や、光重合すべき重合性単量体の種類によって適宜選定すればよいが、通常は、(I)酸性基非含有重合性単量体100質量部に対して、0.01〜10質量部、特に0 .03〜5質量部、最適には0.07〜1質量部の範囲の量を確保できるような量で光重合開始剤中に存在させるのがよい。一般に、α−ジケトン化合物の量が多いほど活性光による硬化時間が短くなり、他方、少ないほど環境光安定性に優れる。
【0032】
他方、ii)脂肪族アミン化合物は、ラジカル生成の促進剤として使用される公知のものが制限なく使用される。第1級アミン、第2級アミン及び第3級アミンの何れをも使用することができるが、第1級及び第2級アミンは、揮発性が高く、臭気の発生等の問題があるため、特に歯科用としては、このような問題のない第3級アミンが好適に使用される。
【0033】
さらに、保存安定性をより向上させるために、第3級アミンの中でも、3つの飽和脂肪族基が窒素原子に結合している第3級アミノ基を有し、かつ、該飽和脂肪族基のうちの少なくとも2つは電子吸引性基を置換基として有している化合物が好適である。第3級アミンは、第1級アミンや第2級アミンよりも高い重合活性を示す傾向があるが、上記のような特定の第3級アミノ基(脂肪族第3級アミノ基)を有する化合物(脂肪族第3級アミン)を用いることで、より高い重合活性を得ることでき、さらに優れた保存安定性も得ることができる。
【0034】
上記の脂肪族第3級アミノ基における電子吸引性基は、該基が結合している飽和脂肪族基の炭素原子から電子を引きつけるような誘起効果を持つ基であり、公知の如何なる電子吸引性基でも良いが、化学的な安定性を考慮すると、水酸基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;エテニル基(ビニル基)、1−プロペニル基、エチニル基等の不飽和脂肪族基;フッ素原子;アルコキシル基;カルボニル基;カルボニルオキシ基;シアノ基;が好ましい。これらのなかでも、特に化合物の安定性に優れ、また合成が容易であり、かつ重合性単量体への溶解性に優れる点で、アリール基、不飽和脂肪族基又は水酸基であることが好ましく、水酸基が特に好ましい。
【0035】
このような電子吸引性基が結合する飽和脂肪族基も特に制限されるものではなく、直鎖状、分枝状、環状のいずれでも良いが、合成や入手の容易さの点で、直鎖状又は分枝状の炭素数1〜6の飽和脂肪族基、特にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の直鎖状又は分枝状の炭素数1〜6、より好適には炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましい。また、上記電子吸引性基が置換(結合)する位置や数も特に制限されるものではないが、アミノ基の窒素原子に近い炭素原子に結合しているほど、保存安定性をより向上させる傾向があり、例えば、窒素原子と結合している炭素原子(飽和脂肪族基の1位)又はその隣の炭素原子上(同2位)に電子吸引性基が結合していることが好ましい。
【0036】
このような電子吸引性基を置換基として有している飽和脂肪族基を具体的に例示すると、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシブチル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基等の水酸基(電子吸引性基)を有するもの;アリル基(エテニルメチル基)、2−プロピニル基(エチニルメチル基)、2−ブテニル基等の不飽和脂肪族基(電子吸引性基)を有するもの;ベンジル基等のアリール基(電子吸引性基)を有するもの等が挙げられる。
【0037】
即ち、本発明において、脂肪族アミン化合物として好適に使用される脂肪族第3級アミンは、3つの飽和脂肪族基が窒素原子に結合している第3級アミノ基を有するものであるが、このような第3級アミノ基は、大きくわけて、次の(α)〜(γ)の3つのタイプに分類される。
【0038】
(α)窒素原子に結合している3つの飽和脂肪族基が何れも上記電子吸引性基を置換基として有していないものこのようなタイプ(α)の第3級アミノ基を有する第3級アミンとしては、トリエチルアミン、トリブチルアミン等が挙げられる。
【0039】
(β)窒素原子に結合している3つの飽和脂肪族基のうち、1つが上記電子吸引性基を置換基として有しているもの(2つが上記電子吸引性基を置換基として有していないもの)
このようなタイプ(β)の第3級アミノ基を有する第3級アミンとしては、例えば、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジメチルアミノプロパノール、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0040】
(γ)窒素原子に結合している3つの飽和脂肪族基のうち、2つ以上が上記電子吸引性基を置換基として有しているもの
このようなタイプ(γ)の第3級アミノ基を有する第3級アミンとしては、例えば、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−プロピルジエタノールアミン、N−エチルジアリルアミン、N−エチルジベンジルアミン等の電子吸引性基置換飽和脂肪族基数が2 つのもの、及びトリエタノールアミン、トリ( イソプロパノール) アミン、トリ( 2 − ヒドロキシブチル) アミン、トリアリルアミン、トリベンジルアミン等の電子吸引性基置換飽和脂肪族基数が3であるものが挙げられる。
【0041】
既に述べた通り、本発明においては、タイプ(γ)の第3級アミノ基を有する第3級アミンがもっとも好適に使用される。これにより、後述する実施例に示されているように、電子吸引性基置換飽和脂肪族基数が0のタイプ(α)の第3級アミノ基又は電子吸引性基置換飽和脂肪族基数が1つのタイプ(β)の第3級アミノ基を有する第3級アミンを用いた場合に比して、保存安定性をさらに大きく向上させることができる。
【0042】
(B)硬化性材料に使用する(III)光重合開始剤中において、上記ii)脂肪族アミン化合物の配合量は、特に制限されるものではなく組み合わせるα−ジケトン化合物やその他の成分によって適宜選定すればよいが、通常は、(I)酸性基非含有重合性単量体100質量部当り、0.01〜10質量部であり、より好ましくは0.03〜5質量部、最適には0.1〜0.8質量部の範囲である。
【0043】
本発明において、(III)光重合開始剤は、上記i)α−ジケトン化合物及びii)脂肪族アミン化合物が組合されていれば、優れた重合活性を有するものであるが、環境光に対する安定性を維持しつつ、照射光に対する反応活性が大きく向上する観点からは、さらに、iii)芳香族アミン化合物、及びiv)置換基としてトリハロメチル基を有するs−トリアジン化合物を含んだものとして使用するのが好ましい。すなわち、上記組成とすることにより得られる光重合開始剤は、環境光程度の弱い光(360から500nmにおいて1mW/cm2未満)に対しては高い安定性を有し、しかもハロゲンランプやキセノンランプ等の照射器による強い光照射により、著しく短時間で重合が完結し、良好な硬化体物性を得られるものにすることができる。また、これと同様の有利な効果は、上記組成において、iv)置換基としてトリハロメチル基を有するs−トリアジン化合物に代えて、アリールヨードニウム塩を用いても良好に発揮される。
【0044】
なお、こうした効果を発現させるためには、アミン化合物は、芳香族アミン化合物と共に、前記脂肪族アミン化合物を併用することが必要であり、この両化合物を併用することにより、どちらか一方のみを用いた場合に比して、遥かに良好な重合活性が発現し、環境光に対する安定性を犠牲にすることなく、より短時間で硬化するものにできる。
【0045】
ここで、上記iii)芳香族アミン化合物としては、アミノ基の窒素原子に結合している有機基のうちの少なくとも一つが芳香族基であるアミン化合物であればよく、公知のものが特に制限なく使用できるが、より重合活性が高く、また揮発性が低いため臭気が少なく、さらには入手が容易な点で、窒素原子に一つの芳香族基と、2つの脂肪族基が結合した芳香族第3級アミノ基を有するアミン化合物(芳香族第3級アミン)であることが好ましい。代表的な芳香族第3級アミンとしては、下記一般式で表されるものが挙げられる。
【0046】
【化1】

【0047】
式中、R及びRは、各々独立に、アルキル基であり、Rは水素、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、又はアルキルオキシカルボニル基である。
【0048】
上記アルキル基としては、炭素数1〜6のものが好ましく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基等を挙げることができる。また、このアルキル基は、当然のことながら置換基を有している置換アルキル基であってもよく、このような置換アルキル基としては、フロロメチル基、2−フロロエチル基等のハロゲン置換アルキル基;2−ヒドロキシエチル基等の水酸基置換アルキル基などを例示することができる。
【0049】
また、上記のアリール基、アルケニル基、アルコキシ基及びアルキルオキシカルボニル基の何れも置換基を有するものであってよい。アリール基としては、フェニル基、p−メトキシフェニル基、p−メチルチオフェニル基、p−クロロフェニル基、4−ビフェニリル基等の炭素数6〜12のものを挙げることができる。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、2−フェニルエテニル基等の炭素数2〜12のものを挙げることができる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜10のもの等が例示され、アルキルオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、アミルオキシカルボニル基、イソアミルオキシカルボニル基等のアルキルオキシ基部分の炭素数が1〜10のものが例示される。
【0050】
上記一般式の芳香族第3級アミンにおいて、基R及びRとしては、炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましく、特に、炭素数1〜3の非置換のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基)や、2−ヒドロキシエチル基等がより好適である。また、基Rはアルキルオキシカルボニル基であることが特に好ましい。このようなアルキルオキシカルボニル基置換芳香族基を有する芳香族アミンを前記のii)脂肪族アミン化合物と組み合わせた場合、より優れた保存安定性が得られる。
【0051】
基Rがアルキルオキシカルボニル基である芳香族基を有する第3級アミンを具体的に例示すると、p−ジメチルアミノ安息香酸メチル、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸プロピル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、p−ジエチルアミノ安息香酸エチル、p−ジエチルアミノ安息香酸プロピル等が例示される。
【0052】
また、上記一般式で示される他の芳香族アミンとしては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン等が挙げられる。
【0053】
(B)硬化性材料に使用する(III)光重合開始剤中において、上記iii)芳香族アミン化合物の配合量は、特に制限されるものではなく組み合わせる脂肪族アミン化合物やその他の成分によって適宜選定すればよいが、通常は、(I)酸性基非含有重合性単量体100質量部当り、0.01〜10質量部であり、より好ましくは0.03〜5質量部、最適には0.1〜0.8質量部の範囲である。
【0054】
上記iii)芳香族アミン化合物と共に、本発明の(III)光重合開始剤に配合させることが好ましい、iv)置換基としてトリハロメチル基を有するs−トリアジン化合物(以下、単に「トリアジン化合物」とも称す)としては、係る特定の構造を満足する公知のs−トリアジン化合物が何ら制限なく使用できる。特に好ましいトリアジン化合物を一般式で示すと下記一般式で表される。
【0055】
【化2】

【0056】
( 式中、R及びRは、トリアジン環と共役可能な不飽和結合を有する有機基、アルキル基、またはアルコキシ基であり、Xはハロゲン原子である。)
上記一般式中、Xで表されるハロゲン原子は、塩素、臭素及びヨウ素の何れでもよいが、塩素が一般的であり、従って、トリアジン環に結合した置換基(CX)としては、トリクロロメチル基が一般的である。
【0057】
及びRは、トリアジン環と共役可能な不飽和結合を有する有機基、アルキル基及びアルコキシ基の何れでもよいが、保存安定性を高めるためには、R及びRの少なくとも一方が、トリアジン環と共役可能な不飽和結合を有する有機基であることが好ましい。他方、R及びRの少なくとも一方が、ハロゲン置換アルキル基である方がより良好な重合活性を得られやすく、共にハロゲン置換アルキル基であると特に重合活性が良好である。
【0058】
トリアジン環と共役可能な不飽和結合により結合した有機基としては、公知の如何なる有機基でもよいが、好ましくは炭素数2〜30、特に炭素数2〜14の有機基である。このような有機基を具体的に例示すると、フェニル基、メトキシフェニル基、p−メチルチオフェニル基、p−クロロフェニル基、4−ビフェニリル基、ナフチル基、4−メトキシ−1−ナフチル基等の炭素数6〜14のアリール基; ビニル基、2−フェニルエテニル基、2−(置換フェニル)エテニル基等の炭素数2〜14のアルケニル基等が例示される。なお、上記置換フェニル基の有する置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜6のアルキル基; メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基等の炭素数1〜6のアルキルチオ基;フェニル基;ハロゲン原子等が例示される。
【0059】
また、R及びRにおいて、アルキル基及びアルコキシ基は、置換基を有するものであってもよく、このようなアルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基等の非置換のアルキル基; トリクロロメチル基、トリブロモメチル基、α,α,β−トリクロロエチル基等のハロゲン置換アルキル基等が挙げられる。さらに、アルコキシ基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の非置換のアルコキシ基;2−{N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ}エトキシ基、2−{N−ヒドロキシエチル−N−エチルアミノ}エトキシ基、2−{ N−ヒドロキシエチル−N−メチルアミノ}エトキシ基、2−{N,N−ジアリルアミノ}エトキシ基等のアミノ基により置換されたアルコキシ基等が例示される。
【0060】
上記のような一般式で表されるトリハロメチル基置換s−トリアジン化合物を具体的に例示すると、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4 ,6−ビス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メチルチオフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2,4−ジクロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−ブロモフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−n−プロピル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(α,α,β−トリクロロエチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−スチリル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(p−メトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(o−メトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(p−ブトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4−ジメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(1−ナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−ビフェニリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s −トリアジン、2−[2−{N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N−ヒドロキシエチル−N−エチルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N−ヒドロキシエチル−N−メチルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N,N−ジアリルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等が例示される。
【0061】
上記で例示したトリアジン化合物の中で特に好ましいものは、重合活性の点で、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジンであり、また保存安定性の点で、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、及び2−(4−ビフェニリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンである。これらトリアジン化合物は1 種又は2 種以上を混合して用いても構わない。
【0062】
他方、こうしたトリアジン化合物と同様な効果が発揮され、該トリアジン化合物に代替して使用可能なiv)アリールヨードニウム塩は、公知の該化合物が何ら制限なく使用される。本発明で好適に使用できるアリールヨードニウム塩を具体的に例示すると、ジフェニルヨードニウム、ビス(p−クロロフェニル)ヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p−メトキシフェニル)ヨードニウム、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、p−イソプロピルフェニル−p−メチルフェニルヨードニウム、ビス(m−ニトロフェニル)ヨードニウム、p−tert−ブチルフェニルフェニルヨードニウム、p−メトキシフェニルフェニルヨードニウム、p−オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム、p−フェノキシフェニルフェニルヨードニウム等のカチオンと、クロリド、ブロミド、ベンゼンスルホナート、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート等のアニオンからなる塩が挙げられる。
【0063】
これらアリールヨードニウム塩の中でも、ラジカル重合性単量体に対する溶解性の点から、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス( ペンタフルオロフェニル)ガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート塩が好ましく、さらに保存安定性の観点から、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス( ペンタフルオロフェニル)ガレート、ヘキサフルオロアンチモネート塩が特に好適である。これらアリールヨードニウム塩は1種又は2種以上を混合して用いても構わない。
【0064】
(B)硬化性材料に使用する(III)光重合開始剤中において、iv)前記s−トリアジン化合物及び/又はアリールヨードニウム塩の配合量は、特に制限されるものではなく組み合わせる各アミン化合物やその他の成分によって適宜選定すればよいが、通常は、(I)酸性基非含有重合性単量体100質量部当り、0.01〜10質量部が好ましく、より好ましくは0.03〜5質量部、最適には0.1〜0.8質量部の範囲である。
【0065】
その他、本発明において(III)光重合開始剤には、ラジカル発生を目的として使用される、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド等のアシルフォスフィンオキシド誘導体等の公知の光重合開始剤や、クマリン色素等のα−ジケトン化合物以外の公知の増感剤、前記アミン化合物以外のラジカル生成の促進剤等を適宜に使用しても良い。また、必要に応じて、公知のケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリールパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネートに分類される有機過酸化物等の公知の化学重合開始剤を適宜に使用しても良い。
【0066】
本発明の(B)硬化性材料中において、上記(III)光重合開始剤の配合量は、特に制限されるものではないが、硬化性材料の強度向上の観点から、(B)硬化性材料中において前記i)〜iv)成分、さらにその他の光重合開始剤成分の総量として(I)酸性基非含有重合性単量体100質量部当り、0.02〜20質量部、特に0.04〜15質量部、最適には0.5〜3質量部の範囲であるのが好適である。この光重合開始剤の配合量が0.02質量部より少ないと、重合活性が低下し硬化体強度が低くなり接着力が低下する傾向があり、逆に20質量部より多いと重合出来ない化合物の存在量が多くなることで硬化体強度が低下し接着力が低下する傾向がある。
【0067】
本発明において、(B)硬化性材料に使用する(I)重合性単量体は、酸性基を有さないものである。すなわち、酸性基含有重合性単量体は、一般に硬化体の機械的強度が弱いものが多く、しかも該酸性基により樹脂骨格の分解が進む虞もあるため、矯正用接着材や充填修復材の重合性単量体の主成分としては上記酸性基非含有のものが好ましい。また、酸性基含有重合性単量体を使用した場合、硬化性材料の保存中に、該酸性基により、前記(III)光重合開始剤中のii)脂肪族アミン化合物が失活したり、或いは(II)金属イオン含有ガラスフィラーから金属イオンが溶出して塩が形成される等して、本発明の効果が発揮されなくなる。
【0068】
上記酸性基非含有重合性単量体は、酸性基(スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸残基等)を有さない(メタ)アクリレート系の重合性単量体が、硬化速度や硬化体の機械的物性、耐水性、耐着色性、保存安定性等の観点から好適に用いられ、特に、複数の重合性官能基を有する、多官能の(メタ)アクリレート系重合性単量体が好ましい。当該多官能性の(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、公知のものが特に制限なく使用できる。一般に好適に使用されるものを例示すれば、下記(1)〜(3)に示されるものが挙げられる。
(1)二官能重合性単量体
(1−1) 芳香族化合物系のもの
2,2−ビス[4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル) プロパン;上記の各種メタクリレートに対応するアクリレート;及びOH基含有ビニルモノマーと、芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等。
【0069】
(上記OH基含有ビニルモノマーとしては、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレート、あるいはこれらメタクリレートに対応するアクリレートを例示できる。また、上記のジイソシアネートとしては、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを例示できる。)
(1−2)脂肪族化合物系のもの
1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;及びOH基含有ビニルモノマーと、脂肪族ジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等。
(上記のOH基含有ビニルモノマーとしては、先に例示したものと同様のものを挙げることができ、脂肪族ジイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)等を挙げることができる。)
(2)三官能重合性単量体
トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート等のメタクリレート;及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等。
【0070】
(3)四官能重合性単量体
ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート; 及びジイソシアネート化合物とグリシドールジメタクリレートとの付加体から得られるジアダクト等;
(上記のジイソシアネート化合物としては、ジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス( 4 − シクロヘキシルイソシアネート)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート等を挙げることができる。
【0071】
上述した多官能の(メタ)アクリレート系単量体は、必要に応じて複数の種類のものを併用しても良い。
【0072】
さらに、必要に応じて、単官能の(メタ)アクリレート系単量体や、上記の多官能の(メタ)アクリレート系単量体以外の重合性単量体を用いても良い。尚、単官能の(メタ)アクリレート系単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0073】
本発明の(B)硬化性材料中において、上記(I)酸性基非含有重合性単量体の配合量は、特に制限されるものではないが、硬化性材料を高強度に硬化させる観点から、硬化性材料中において10〜85質量%、特に15〜80質量%であるのが一般的である。酸性基非含有重合性単量体の配合量が10質量%より少ないと、硬化性材料ペースト自体の性状が硬すぎて操作性が悪くなる傾向があり、逆に85質量%より多いと硬化後の硬化体上に未重合成分が多く残存し、接着強度が低下する傾向がある。
【0074】
本発明において、(B)硬化性材料に使用する(IV)無機充填剤は、前記(II)金属イオン含有ガラスフィラー以外の無機充填剤であって歯科用の硬化材料に使用されている公知のものが制限なく使用できる。具体的に例示すると、非晶質シリカ、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、シリカ−チタニア−ジルコニア、石英、アルミナ等の球形状粒子あるいは不定形状粒子を挙げることができる。本発明の光重合性組成物を歯科歯冠材料用や歯科充填修復材料用として用いる場合には、シリカ系粒子であるのが好ましい。シリカ系粒子としては、シリカとジルコニア、シリカとチタニア、またはシリカと酸化バリウムとを主な構成成分とする複合酸化物の球形状の無機粒子が、X線造影性を有し、より耐摩耗性、表面滑沢性に優れた複合組成物の硬化体が得られることから、特に好適に用いられる。
【0075】
当該無機充填剤の粒径は特に制限されないが、好ましくは平均粒径が30μm以下、より好ましくは0.001〜20μm、もっとも好ましくは0.01〜15μmである。
【0076】
これらの無機充填剤は、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で疎水化することで酸性基非含有重合性単量体とのなじみを良くし、機械的強度や耐水性を向上させることができる。疎水化の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンなどが好適に用いられる。
【0077】
本発明の(B)硬化性材料中において、上記(IV)無機充填剤の配合量は、特に制限されるものではないが、硬化性材料の強度向上の観点から、硬化性材料中の(I)酸性基非含有重合性単量体100質量部当り、25〜850質量部、特に110〜600質量部、最適には130〜350質量部であるのが好適である。無機充填剤の配合量が25質量部より少ないと、硬化体の強度が著しく低下し接着強度が低下する傾向があり、逆に850質量部より多いと硬化性材料ペースト自体の性状が硬すぎて操作性が悪くなる傾向がある。
【0078】
さらに、本発明の(B)硬化性材料には、その性能を低下させない範囲で、紫外線吸収剤、染料、蛍光剤、帯電防止剤、顔料、香料等の各種添加剤を必要に応じて選択して使用することもできる。
【0079】
次に、本発明の歯科用硬化性材料キットを構成する(A)前処理材について説明する。この前処理剤は、(I)酸性基含有重合性単量体及び(II)水を含んでいることにより、歯質の脱灰作用と浸透作用を有する。ここで、酸性基含有重合性単量体は、1分子中に少なくとも1つの酸性基と少なくとも1つの重合性不飽和基を持つ化合物であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。酸性基含有重合性単量体の分子中に存在する酸性基としては次に示すようなものを挙げることができる。
【0080】
【化3】

【0081】
また、酸性基含有重合性単量体の分子中に存在する重合性不飽和基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニル基、アリル基、エチニル基、スチリル基のようなものを挙げることができる。
【0082】
本発明で用いられる酸性基含有重合性単量体として好適に使用できる化合物を例示すれば、下記式に示す化合物の他、ビニル基に直接ホスホン酸基が結合したビニルホスホン酸類や、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸等を挙げることができる。
【0083】
【化4】

【0084】
【化5】

【0085】
【化6】

【0086】
【化7】

【0087】
但し上記化合物中、Rは水素原子またはメチル基を表す。これらの化合物は単独で又は二種以上を混合して用いることができるが、その中でも基−O−P(=O)(OH)、基(−O−)P(=O)OH等のリン酸系の基を含有している重合性単量体の上記組み合わせで使用することが最も好ましい。このような系では、歯質の脱灰作用(主に酸性度の強いリン酸系の基を有する為と思われる)が高いばかりでなく、歯質との本質的な結合力も高く、特に高い接着強度が得られる。
【0088】
また、酸性基含有重合性単量体は重合性不飽和基としてアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基を有する化合物であるのが、硬化速度の点から好ましい。
【0089】
本発明の(A)前処理材中において、上記(I)酸性基含有重合性単量体の配合量は、後述する他の成分との関係で適宜決定すればよいが、一般に、酸性基含有重合性単量体の配合量が少ないと、脱灰性が下がることによりエナメル質に対する接着強度が低下する傾向にあり、逆に多いと浸透性が下がることにより象牙質に対する接着強度が低下する傾向がある。こうした有効量の酸性基含有重合性単量体が配合されている状態において、本発明のキットを構成する(A)前処理材は、23゜Cにおいて測定した前処理材組成物のpHが0.01〜3.2の範囲、より好適には0.1〜2.8、最適には1.0〜2.2の範囲であるのが一般的である。
【0090】
なお、(A)前処理材中において、重合性単量体成分は上記酸性基含有重合性単量体のみからなっていてもよいが、歯質に対して、より優れた接着強度及び接着耐久性を得るために、また接着界面の強度及び前処理材の歯質に対する浸透性を調節する観点から、酸性基を含有しない重合性単量体を更に含むのが好適である。こうした酸性基非含有重合性単量体としては、前記(B)硬化性材料の(I)成分として説明したものと同じものが使用できる。酸性基非含有重合性単量体として疎水性の高い重合性単量体を用いた場合には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の両親媒性の単量体を使用し、本発明の前処理材の必須成分である水の分離を防ぎ、均一な組成とした方が接着強度の点で好ましい。
【0091】
(A)前処理材中において、該酸性基非含有重合性単量体の配合量としては、前記(I)酸性基含有重合性単量体との合計からなる全重合性単量体成分中において、60質量%以内とするのが好適であるが、エナメル質及び象牙質の両方に対する接着強度の強さの観点から、5〜60質量%、特に15〜45質量%とするのが好ましい。
【0092】
本発明の(A)前処理材において、前記(I)酸性基含有重合性単量体と共に含有させる(II)水は、歯質の脱灰及び上記酸性基含有重合性単量体の浸透性向上のため、さらには金属イオン含有ガラスフィラーと酸性基含有重合性単量体の酸性基との反応促進のために必要である。この水は、貯蔵安定性及び医療用成分に有害な不純物を実質的に含まない蒸留水や脱イオン水が好適に使用される。
【0093】
本発明の(A)前処理材中において、上記(II)水の配合量は、特に制限されるものではないが、歯質の脱灰や酸性基含有重合性単量体の浸透性向上の観点から、前記(I)酸性基含有重合性単量体を含む全重合性単量体成分100質量部に対して1〜50質量部の範囲、より好ましくは5〜40質量部、最適には10〜30質量部であるのが好適である。水の配合量が少ないと、歯質脱灰性が低下し接着力が低下する傾向にあり、逆に多いと前処理材界面の強度が低下し接着性が低下する傾向がある。
【0094】
本発明において、上記(A)前処理材には、その歯質の脱灰性を発揮できるだけの酸性度が維持できている範囲で、少量の金属イオン含有ガラスフィラーを配合させても良い。特に、該金属イオン含有ガラスフィラーに含有される金属イオンが多価金属イオンである場合には、前処理材における酸性基含有重合性単量体の重合体において、複数の酸性基と該多価金属イオンが塩を形成するようになるため3次元的にイオン架橋が生じ、その機械的強度が向上する。こうした金属イオン含有ガラスフィラーとしては、前記(B)硬化性材料の(II)成分として説明したものと同じものが使用できる。その配合量としては、前処理材として機能するための前記有効なpH範囲(pH0.01〜3.2)の範囲の酸性度が維持できる量に留めるのが好ましい。
【0095】
ところで、上記の如くに前処理材中に多価金属イオン含有ガラスフィラーを配合させた場合、これら全組成を一液に混合すると、該前処理材の保存期間中に前記3次元的のイオン架橋が過剰に発達してゲル化し易くなる。これを改善するには、多価金属イオン含有ガラスフィラーから溶出される多価金属イオン量と水の量を特定範囲に調整し、そして、さらに特定量の揮発性の水溶性有機溶媒を配合させるのが有効である。具体的には、本出願人が先に特許出願(国際出願番号PCT/JP2007/061148号)した下記組成のものにするのが好ましい。
すなわち、(A)酸性基含有重合性単量体を5質量%以上含む重合性単量体成分;
(B)多価金属イオン溶出性フィラー;
(C)揮発性有機溶媒;
(D)水;
を含有し、
前記多価金属イオン溶出性フィラー(B)は、該フィラーから溶出する多価金属イオン量が、前記重合性単量体成分(A)1g当り1.0〜7.0meqとなるような量で配合され、前記揮発性有機溶媒(C)は、前記重合性単量体成分(A)100質量部当り30〜170質量部の範囲で且つ下記式(1):
α≧20・X …(1)
〔式中、αは、前記揮発性有機溶媒(C)の前記重合性単量体成分(A)100質量部当りの配合量であり、Xは、前記多価金属イオン溶出性フィラー(B)から溶出する多価金属イオン量であって、前記重合性単量体成分(A)1g当りの量(meq)を示す数である〕
で表される条件を満足するような量で配合され、
前記水(D)は、前記重合性単量体成分(A)100質量部当り3〜30質量部の量で配合されている組成の前処理材である。
【0096】
この前処理材では、上記多価金属イオン含有ガラスフィラーから溶出される多価金属イオン量と、水及び揮発性有機溶媒による希釈硬化により、保存中もゲル化が生じ難い状態にあり、他方、歯面に塗布時にはエアーブローにより該水及び揮発性有機溶媒を気散させることにより濃縮して、前記酸性基と該多価金属イオンによる3次元的なイオン架橋を良好に発達させることができ、硬化体に高強度を与えるものになり好ましい。
【0097】
本発明において、上記説明した(A)前処理材には、さらに、硬化後の前処理材層の強度を向上させる目的で少量の無機充填剤を配合することが可能である。こうした無機充填剤も、前記(B)硬化性材料の(IV)成分として説明したものと同じものが使用できる。その配合量としては、(I)酸性基含有重合性単量体を含む全重合性単量体成分100質量部に対して2〜20質量部の範囲、より好ましくは5〜15質量部である。2質量部未満では強度向上効果が十分に得られず、20質量部を超えると粘度が上昇し、歯質への浸透性が阻害され歯質接着強度の向上効果が十分に得られなくなる虞がある。
【0098】
さらに、本発明において(A)前処理材には、その硬化性を向上させて接着強度を向上させる観点から、光重合開始剤を配合させても良い。こうした光重合開始剤も、前記(B)硬化性材料の(III)成分として説明したものと同じものが使用できる。但し、ii)脂肪族アミン化合物については、(I)酸性基含有重合性単量体と共存させると失活するため、この前処理材においては使用することができない。該光重合開始剤の配合量としては、(I)酸性基含有重合性単量体を含む全重合性単量体成分100質量部に対して0.01〜15質量部の範囲、より好ましくは0.03〜10質量部、最適には0.5〜5質量部である。
【0099】
この他、(A)前処理材には、その性能を低下させない範囲で、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の高分子化合物などの有機増粘材を添加することが可能である。また、紫外線吸収剤、染料、蛍光剤、帯電防止剤、顔料、香料等の各種添加剤を必要に応じて選択して使用することもできる。
【0100】
本発明の歯科用硬化性材料キットにおいて、(A)前処理材と(B)硬化性材料とは、いずれも前記説明した各成分を一包装に混合して用いるのが、使用時の操作の簡便性から好ましい。この場合、(A)前処理材については、(II)金属イオン含有ガラスフィラーとして多価金属イオン含有ガラスフィラーを用いると、前記説明したように保存中にゲル化が生じ易くなるため、該多価金属イオン含有ガラスフィラーから溶出される多価金属イオン量を特定量に調整し、併せて水及び揮発性有機溶媒も特定量配合して希釈し、このゲル化が生じ難い態様にするのが好ましい。無論、このような(A)前処理材において多価金属イオン含有ガラスフィラーを用いた態様や、或いは該(A)前処理材や(B)硬化性材料において、光重合開始剤として、複数の成分からなり、これらを一剤に混合して保存すると安定性が十分でないものを用いる態様の場合には、こうした保存中の反応が生じないように、成分をいくつかに分けて包装・保存し、使用時にそれら部材を混合して用いる態様としても良い。こうした各包装を製造するための、それぞれの配合成分の混合は定法に従えば良く、一般的には、赤色光などの不活性光下に、配合される全成分を秤取り、均一溶液になるまでよく混合すればよい。
【0101】
本発明の歯科用硬化性材料キットにおいて、(B)硬化性材料は、歯科治療分野における歯質への接着対象物となる硬化性材料が制限なく適用できる。その優れた接着性から、矯正用接着材に用いるのが最も好ましい。また、光硬化型コンポジットレジンにも良好に適用できる。この他、光重合開始剤を配合した歯科用セメント組成物や、歯科用マニキュア組成物にも有用である。キットの使用方法は、歯面に対して(A)前処理材を塗布し、エアーブローして水及び有機溶媒が含有されている場合はその粗方を気散除去し、次いで、該前処理材の処理面上に(B)硬化性材料を塗布や充填し、これに光照射して重合硬化させれば良い。
【実施例】
【0102】
以下本発明を具体的に説明するために、実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。尚、実施例中に示した、略称、略号、接着強度測定方法、保存安定性評価、及び金属イオン量測定方法については以下の通りである。
(1)略称及び略号
[酸性基含有重合性単量体;(A)(I)]
PM−a:2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの2:1の混合物
PM−b:2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの1:1の混合物
MAC−10:11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸
[酸性基非含有重合性単量体;(B)(I)]
D26E:2,2′−ビス(4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル)プロパン
BisGMA:2,2′−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
[金属イオン含有ガラスフィラー;(B)(II)]
MF1:以下の製造方法で得た金属イオン含有ガラスフィラー
フルオロアルミノシリケートガラス(トクソーアイオノマー、トクヤマデンタル社製)を湿式の連続型ボールミル(ニューマイミル、三井鉱山社製)を用いて平均粒径0.5μmまで粉砕し、その後粉末1gに対して、20gの5.0N塩酸でフィラー表面を40分間処理し、平均粒径0.5μmの金属イオン含有ガラスフィラーMF1を得た。
【0103】
得られた金属イオン含有ガラスフィラーMF1の0.1gを温度23℃、10重量%マレイン酸水溶液10ml中に浸漬した時の3分間後および24時間後に溶出した金属イオンの量をICP発光分光分析を用いて分析した結果、この金属イオン含有ガラスフィラーMF1の3分間溶出イオン量は3.8meq/g−フィラーであり、24時間溶出イオン量は10meq/g−フィラーであった。
MF2:以下の製造方法で得た金属イオン含有ガラスフィラー
上記MF1の製造方法において、フルオロアルミノシリケートガラスを粉砕した粉末1gに対する、20gの5.0N塩酸によるフィラー表面処理時間を20分間にする以外は同様に実施して、平均粒径:0.5μmの金属イオン含有ガラスフィラーMF2を得た。ICP発光分光分析の結果、この金属イオン含有ガラスフィラーMF2の3分間溶出イオン量は9.5meq/g−フィラーであり、24時間溶出イオン量は25meq/g−フィラーであった。
MF3:以下の製造方法で得た金属イオン含有ガラスフィラー
上記MF1の製造方法において、フルオロアルミノシリケートガラスを粉砕した粉末1gに対する、20gの5.0N塩酸によるフィラー表面処理時間を実施しない以外は同様に実施して、平均粒径:0.5μmの金属イオン含有ガラスフィラーMF3を得た。ICP発光分光分析の結果、この金属イオン含有ガラスフィラーMF3の3分間溶出イオン量は20meq/g−フィラーであり、24時間溶出イオン量は50meq/g−フィラーであった。
[光重合開始剤]
・(III)i)
CQ:カンファーキノン
・(III)ii)
MDEOA:N −メチルジエタノールアミン
EDEOA:N −エチルジエタノールアミン
・(III)iii)
DMBE:p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル
・(III)iv)
TAZ:2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−S−トリアジン
IMDPI:4−メチルフェニル−4′−イソプロピルフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート
・その他の光重合開始剤
TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド
[無機充填剤;(IV)]
F1:非晶質シリカ、粒径0.02μm、メチルトリクロロシラン処理
F2:非晶質シリカ、粒径0.01μm、ジメチルジクロロシラン処理
F3:粉砕石英、粒径6μm、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン疎水化処理物と、F1の質量比が、F3:F1=80:20の混合物
F4:不定形シリカ−ジルコニア、粒径4μm、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン疎水化処理物と、F2の質量比が、F4:F2=80:20の混合物
F5:球状シリカ−ジルコニア、粒径0.4μm、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン疎水化処理物と、球状シリカ−チタニア、粒径0.08μm、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン疎水化処理物の質量比が、70:30の混合物
[揮発性の水溶性有機溶媒]
IPA:イソプロピルアルコール
[重合禁止剤]
HQME:ハイドロキノンモノメチルエーテル
BHT:2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール
(2)剪断接着強度測定方法
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、歯頚部を切断した試験片を、常温硬化樹脂(株式会社ナノファクター製)を用いて樹脂包埋した。該試験片の唇面を歯面研磨剤(ネオ製薬株式会社製)で研磨し、水道水で洗浄後圧縮空気を吹き付けて乾燥させた。この研磨面に前処理材を塗布し、20秒放置後圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。この前処理材の塗布面に、金属製矯正用ブラケット(中切歯用、デンツプライ三金製)の接着基部(面積、10.5mm2)に硬化性材料を塗布したものを圧接し、はみ出した余剰の接着材をピンセットの先で除去した。その後、ブラケットの近心及び末端側を10秒ずつ可視
光線照射器(トクソーパワーライト)で光照射した。
【0104】
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、圧縮剪断試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード1mm/minにて剪断し、歯牙と矯正ブラケットの剪断接着強度を測定した。1試験当り、4片の剪断接着強さを上記方法で測定し、その平均値を接着強度とした。
(3)引張り接着強度測定方法
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、注水下、#600のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質および象牙質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、この平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定し、ついで厚さ0.5mm直径8mmの孔の開いたパラフィンワックスを上記円孔上に同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞内に前処理材を塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。更にその上に硬化性材料を充填し、可視光線照射器(トクソーパワーライト)により10秒間光照射して、接着試験片を作製した。
【0105】
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、歯牙と硬化性材料の引張り接着強度を測定した。1試験当り、4本の引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を接着強度とした。
〔(B)硬化性材料の調製〕
製造例1〜25、比較製造例1〜2
(I)酸性基非含有重合性単量体として6.0gのBisGMA(60質量部)及び4.0gの3G(40質量部)を用いた。(III)光重合開始剤は、i)α−ジケトン化合物として0.02gのCQ(0.2質量部)、ii)脂肪族アミン化合物として0.04gのMDEOA(0.4質量部)を用いた。これら成分と、更にその他成分として重合禁止剤である0.01gのBHT(0.1質量部)を加え、暗所にて均一になるまで撹拌した。得られた上記組成物3.5gと、(IV)無機充填剤として6.3gのF3(182.3質量部)、及び(II)金属イオン含有ガラスフィラーとして0.2gのMF2(5.7質量部)をメノウ乳鉢で混合し、真空下にて脱泡することで、無機充填剤の充填率65.0%の光硬化型の(B)硬化性材料PA1を得た。その組成を表1に示した。
【0106】
同様に、表1、表2、表3、表4及び表5に示す組成で、製造例2〜25として、硬化性材料PA2〜PA25を、比較製造例1〜2として、硬化性材料CPA1〜2を得た。なお、調製した硬化性材料は全て遮光容器で保存した。
【0107】
【表1】

【0108】
【表2】

【0109】
【表3】

【0110】
【表4】

【0111】
【表5】

【0112】
〔(A)前処理材の調製〕
製造例26〜29、比較製造例3〜4
(I)酸性基含有重合性単量体として6.5g(65質量部)のPMを用い、さらに、酸性基非含有重合性単量体である3.5gのHEMA(35質量部)を用い、重合性単量体成分とした。(II)として1.5gの蒸留水(15質量部)を用いた。これら成分と、更にその他成分として、揮発性の水溶性有機溶媒である5.0gのIPA(50質量部)、及び重合禁止剤であるBHT0.002g(0.02質量部)を加え、これらを均一な溶液になるまで攪拌混合して、(A)前処理材Pr1を得た。その組成を表6に示した。なお、この前処理材Pr1の23℃におけるpHをpHメータ(IM−20Eディジタルイオン濃度計、東亜電波工業製)により測定したところ1.52であった。
【0113】
同様に、表6及び表8に示す組成で、製造例27〜29として、前処理材Pr2〜Pr4を、比較製造例3〜4として、前処理材CPr1〜2を調製した。なお、調製した製造例28〜29の前処理材Pr3〜4は夫々遮光容器で保存した。
【0114】
製造例30〜36
(I)酸性基含有重合性単量体として6.2gのPM(62質量部)を用い、さらに、酸性基非含有重合性単量体である、0.5gのBisGMA(5質量部)、0.3gの3G(3質量部)及び3.0gのHEMA(30質量部)を夫々用い、重合性単量体成分とした。(II)として2.2gの蒸留水(22質量部)を用いた。これら成分と、更にその他成分として、金属イオン含有ガラスフィラーである0.75gのMF2(7.5質量部)、無機充填材である1.2gのF1(12質量部)、揮発性の水溶性有機溶媒である10.0gのIPA(100質量部)、並びに重合禁止剤であるBHT0.002g(0.02質量部)を加え、これらを3時間以上攪拌混合して均一化して、(A)前処理材Pr5を得た。その組成を表5に示した。なお、この前処理材Pr5の23℃におけるpHをpHメータにより測定したところ1.95であった。
【0115】
同様に、表6及び表7に示す組成で、製造例31〜36として前処理材Pr6〜Pr11を得た。なお、調製した上記前処理材Pr6〜11は全て遮光容器で保存した。
【0116】
【表6】

【0117】
【表7】

【0118】
【表8】

【0119】
実施例1〜55
製造例1で得られた硬化性材料PA1及び、製造例26において得られた前処理材Pr1を用いて、剪断接着強度測定及び引張り接着強度測定を行った。その結果、剪断接着強度は10.4MPa、エナメル質に対する引張り接着強度は12.2MPa、象牙質に対する引張り接着強度は11.8MPaと、いずれも良好な値を示した。
【0120】
同様に、実施例2〜55において、表9、表10及び表11に示した硬化性材料と前処理材の組み合わせを用いて、剪断接着強度測定及び引張り接着強度測定を行った。その評価結果を表9、表10及び表11に示した。その結果、剪断接着強度測定及び引張り接着強度測定のいずれにおいても、良好な値が得られた。
【0121】
【表9】

【0122】
【表10】

【0123】
【表11】

【0124】
比較例1〜10
比較例1において、比較製造例1において得られた硬化性材料CPA1及び、製造例26で得られた前処理材Pr1を用いて、剪断接着強度測定及び引張り接着強度測定を行った。その結果、剪断接着強度は5.6MPa、エナメル質に対する引張り接着強度は5.6MPa、象牙質に対する引張り接着強度は5.3MPaを示し、いずれも十分な接着力は得られなかった。
【0125】
同様に、比較例2〜10において、表12に示した、硬化性材料と前処理材との組み合わせを用いて、剪断接着強度測定及び引張り接着強度測定を行った。その評価結果を表12に示した。その結果、剪断接着強度測定及び引張り接着強度測定のいずれにおいても、十分な接着強度は得られなかった。
【0126】
【表12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(I)酸性基含有重合性単量体、及び(II)水を含んでなる前処理材
(B)(I)酸性基非含有重合性単量体、(II)金属イオン含有ガラスフィラー、(III)i)α−ジケトン化合物及びii)脂肪族アミン化合物が少なくとも組合わされてなる光重合開始剤、並びに(IV)無機充填剤を含んでなる硬化性材料
からなる歯科用硬化性材料キット。
【請求項2】
(B)硬化性材料における、(III)i)α−ジケトン化合物及びii)脂肪族アミン化合物が少なくとも組合わされてなる光重合開始剤が、さらに、iii)芳香族アミン化合物、及びiv)置換基としてトリハロメチル基を有するs−トリアジン化合物及び/又はアリールヨードニウム塩を含んでなる請求項1記載の歯科用硬化性材料キット。
【請求項3】
(B)硬化性材料における、(III)光重合開始剤のii)脂肪族アミン化合物が、3つの飽和脂肪族基が窒素原子に結合している第3級アミノ基を有しており、かつ、該飽和脂肪族基のうちの少なくとも2つは電子吸引性基を置換基として有している化合物である請求項1または請求項2記載の歯科用硬化性材料キット。
【請求項4】
(B)硬化性材料における(II)金属イオン含有ガラスフィラーが、多価金属イオン含有ガラスフィラーである請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯科用硬化性材料キット。
【請求項5】
(B)硬化性材料が、歯列矯正部材接着材である請求項1〜4のいずれか一項に記載の歯科用硬化性材料キット。

【公開番号】特開2009−51826(P2009−51826A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196421(P2008−196421)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】