説明

歯科用組成物及び多環式芳香族構成要素を有する開始剤系

本発明は、フリーラジカル重合性の酸性樹脂、及び多環式芳香族の構成要素を含む光開始剤系を含む、重合性組成物を特徴とする。その光開始剤系は更に、可視光増感剤、ヨードニウム塩、及び3級アミンを含有してよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、硬化重合性モノマーに対する光開始剤系に関する。より詳細には、本発明は、フリーラジカル重合性の酸性構成要素と、可視光線への暴露により活性化される多環式芳香族の構成要素を含む光開始剤とを含有する重合性歯科用組成物に関する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
本出願は2005年12月29日出願の米国公開特許出願シリアル番号60/754952に優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
歯科用修復剤は、通常化学硬化できるか又は光硬化できる(メタ)アクリレートベースのフリーラジカル重合性樹脂の使用を伴う。化学硬化には、代表的には、過酸化物酸化剤とアミン還元剤とを一緒にしたレドックス系が関与し、レドックス系は重合を開始するフリーラジカルを生成する。光硬化には、代表的には、光に対する暴露によりフリーラジカルを生成する光開始剤系が関与する。
【0004】
歯科用修復剤の組成物に導入されてきた特定の光開始剤系には、可視光(400〜1000nm)を介してフリーラジカルを生成する系が含まれる。光開始剤系は、またカチオン硬化歯科用組成物、例えば、カチオン開環重合の硬化メカニズムを経由するエポキシベースの樹脂、と併用して使用されてきている。例えば、ヨードニウム塩、可視光線吸収剤、及び電子供与体を含む三要素系光開始剤系が、フリーラジカル硬化の(メタ)アクリレート樹脂とカチオン硬化エポキシ樹脂との両者の硬化に利用されてきた。加えて、多環式芳香族の電子供与体としてのカチオン硬化エポキシ樹脂システムでの使用もまた記述されている。これらのシステムにおいては、古いシステム上で改善を示すけれども、時には特定の条件下で緩慢な或いは不完全な硬化が現れる場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、従来の組成物システムよりも優れた硬化性能を有し、一方で更に充分な接着強度を発現する重合性歯科組成物(例えば、歯科用接着剤)に対してニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は新しい重合性組成物、例えば歯科用接着剤システムにおいて充分な硬化性能及び接着性能に対するニーズを満たす組成物を目的とする。1つの実施形態では、その組成物には、(a)重合性の酸性構成要素、及び(b)多環式芳香族の構成要素を含む光開始剤系が含まれる。酸性構成要素は、典型的にはリン酸化(メタ)アクリレート系のようなフリーラジカル重合性の構成要素である。多環式芳香族の構成要素は、例えば、アントラセン誘導体、ビフェニレン、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0007】
幾つかの実施形態では、アントラセン誘導体は非置換のアントラセン、又はアルキル、アリール(例えば、フェニル)、アリールオキシ、若しくはそれらの組み合わせを含む有機基によって置換されたアントラセンである。アルキル置換アントラセンは、例えば、2,6−ジ−t−ブチルアントラセン、9−メチルアントラセン、又は9,10−ジメチルアントラセンであってもよい。アルコキシ置換アントラセンは、例えば、2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン(EDMOA)、9,10−ジエトキシアントラセン、1,4−ジメトキシアントラセン、又は9,10−ジメトキシアントラセンであってよい。他の実施形態では、ビフェニレン誘導体は非置換ビフェニレンである。
【0008】
特定の実施形態では、光開始剤系は多環式芳香族の構成要素及び3級アミンを含み、ここで3級アミンは、例えばエチル−4−ジメチルアミノベンゾエート(EDMAB)であってもよい。光開始剤系は、可視光線増感剤、例えばカンファキノンを更に含んでよい。代表的には、光重合性組成物はヨードニウム塩、例えば、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロリン酸塩をさらに含んでもよい。
【0009】
光開始剤系中で多環式芳香族の構成要素を用いることによって、本発明は必要とする硬化性能及び接着強度性能を達成できる。代表的な光開始剤系は、EDMOA、EDMAB、カンファキノンのような可視光線増感剤、及び好ましくはヨードニウム塩を含む。一般に、EDMOA及びEDMABの2重の供与体系は、多環式芳香族の構成要素又は3級アミンのどちらかだけを含有する光開始剤系と比較して、強化された硬化及び接着強度を示す。これは、多環式芳香族の構成要素が3級アミンと一緒に相乗的に作用することを示唆する。
【0010】
本発明の幾つかの実施形態では、歯科用接着剤組成物は以前の歯科用接着剤と比較して改善された硬化速度及び結合強度を有するであろう。増加した硬化速度により、患者が歯科病院で費やす必要がある時間を削減できるであろう。
【0011】
「多環式芳香族の構成要素」によって、2個以上の縮合芳香族環を有する多環式有機化合物を表し、それにはそれらのアルキル−、アルコキシ−、アリール−、及びアリールオキシ−の置換誘導体が含まれる。「縮合した」によって、2つの芳香族環が側面を共有して又は側面を対向させて複数の炭素−炭素結合によって直接的に接合していることを表す。
【0012】
「重合性の酸性構成要素」又は「フリーラジカル重合性の酸性構成要素」によって、光開始剤及び/又はレドックス開始剤系から生成されたフリーラジカルの存在下でフリーラジカル重合できる(即ち、硬化又はハードニングできる)酸性モノマー類を表す。
【0013】
本明細書において端点による数値範囲の列挙には、その範囲内に包含される全ての数を含むことが意図される(例えば、1〜5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、及び5を含む)。
【0014】
本明細書では、別段の指定がない限り、不定冠詞は、「少なくとも1つの」又は「1つ以上の」を意味する。加えて、単数形「a」、「an」及び「the」は、その内容について別段のはっきりした指示がない限り、複数の指示対象を包含する。従って、例えば「化合物」("a compound")を含有する組成物の言及は、2つ以上の化合物の混合物を包含する。本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用されるとき、用語「又は」は、その内容について別段のはっきりした指示がない限り、一般的に「及び/又は」を包含する意味で用いられる。
【0015】
特に指示がない限り、本明細書及び本特許請求の範囲で使用される構成要素量、性質の測定値、例えばコントラスト比などを表す全ての数字は、全ての場合において「約」という語句によって修飾されるものとして理解されるべきである。従って、特に指示がない限り、先の明細書及び添付した特許請求の範囲に記述されている数値パラメータは、当業者により本発明の技術を利用して獲得しようとされる所望の性質に応じて変化し得る近似値である。最低限でも、特許請求の範囲への同等物の原則の適用を限定する試みとしてではなく、少なくとも各数値的パラメータは、報告された有効数字の数を考慮して、通常の四捨五入の適用によって解釈されなければならない。本発明の広範囲で示す数値的範囲及びパラメータは、近似値であるが、具体例に記載の数値は可能な限り正確に報告する。しかしながら、いずれの数値もそれらの各試験測定値において見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を本来含有する。
【0016】
上記の要約は、本発明の各実施形態、又は全ての実施を記載することを意図するものではない。本発明の他の実施形態、特徴、及び利点は、以下の発明を実施するための最良の形態及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、フリーラジカル重合性の酸性構成要素と、多環式芳香族の構成要素を含有する光開始剤系とを含む重合性組成物を提供する。加えて、その光開始剤系は、ヨードニウム塩と、可視光吸収剤と、例えば3級アミンのアミン電子供与体とを含有してよい。本発明の組成物は、典型的には、歯科用組成物、例えば、歯科用接着剤であり、それにはアントラセン誘導体、ビフェニレン誘導体、又はそれらの組み合わせが多環式芳香族化合物として包含される。
【0018】
幾つかの実施形態では、本発明はアミン電子供与体、多環式芳香族の構成要素、任意のヨードニウム塩、及び任意の可視光吸収剤を含む光開始剤系を提供する。かかる開始剤を重合性歯科用組成物、例えば、歯科用接着剤に含めることができ、それらにはフリーラジカル重合性の構成要素、例えば酸性構成要素が含まれる。光開始剤系の一部としての多環式芳香族の構成要素とアミン電子供与体との組み合わせは、改善された硬化速度及び/又は増加した接着強度を提供できる。
【0019】
有利なことに、本発明の光重合性組成物は、「可視光」領域に渡って感応性があり、かなりの熱をかけることなしに重合できる。用語「可視光」は本出願中では、約400〜1000nmの波長を有する光をさすために用いられる。組成物の光重合は、組成物をこのスペクトル領域にある波長を有する化学放射線源に曝すことによって行われる。
【0020】
重合性構成要素
本発明の方法における歯科用材料及び歯科用接着剤に使用できる好適な重合性組成物には、エチレン性不飽和化合物類(フリーラジカル的に活性な不飽和基、例えば、アクリレート類及びメタクリレート類を含有する)及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0021】
1つの実施形態では、重合性構成要素は例えばリン酸化(メタ)アクリレートのようなリン酸化モノマーを含む。
【0022】
酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物
本明細書で使用する時、酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物とは、エチレン性不飽和並びに酸及び/又は酸前駆体官能性を有するモノマー、オリゴマー、及びポリマーが包含されることを意味する。酸前駆体官能基としては、例えば、無水物、酸ハロゲン化物、及びピロリン酸塩が挙げられる。
【0023】
酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物には、例えば、α、β−不飽和酸性化合物類であって、グリセロールリン酸モノ(メタ)アクリレート類、グリセロールリン酸ジ(メタ)アクリレート類、ヒドキシエチル(メタ)アクリレート(例えば、HEMA)ホスフェート類、ビス((メタ)アクリロキシエチル)ホスフェート、((メタ)アクリロキシプロピル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリロキシプロピル)ホスフェート、びす((メタ)アクリロキシ)プロピロキシホスフェート、(メタ)アクリロキシヘキシルホスフェート、ビス((メタ)アクリロキシヘキシル)ホスフェート、(メタ)アクリロキシオクチルホスフェート、ビス((メタ)アクリロキシオクチル)ホスフェート、(メタ)アクリロキシデシルホスフェート、ビス((メタ)アクリロキシデシル)ホスフェート、カプロラクトンメタクリレートホスフェート、クエン酸ジ−又はトリ−メタクリレート、ポリ(メタ)アクリル化オリゴマレイン酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリマレイン酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリカルボキシ−ポリホスホン酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリクロロリン酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリスルホネート、ポリ(メタ)アクリル化ポリホウ酸、等が挙げられ、硬化性樹脂系中の構成要素として使用してもよい。また、(メタ)アクリル酸類、芳香族(メタ)アクリル化酸類(aromatic (meth)acrylated acids)(例えば、メタクリル化トリメリット酸)、及びこれらの無水物類のような不飽和カルボン酸類のモノマー、オリゴマー、及びポリマーも使用することができる。本発明の特定の実施形態には、少なくとも1つのP−OHの部分を持つ酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物が含まれる。
【0024】
これらの化合物のいくつかは、例えば、イソシアナートアルキル(メタ)アクリレートとカルボン酸との反応生成物として得られる。酸官能性及びエチレン性不飽和構成要素の両方を有するこの種類のさらなる化合物は、米国特許第4,872,936号(エンゲルブレクト(Engelbrecht))及び同第5,130,347号(ミトラ(Mitra))に記載されている。エチレン性不飽和及び酸部分の両方を含有する多種多様なこうした化合物を使用することができる。任意に、こうした化合物の混合物を使用することができる。
【0025】
酸官能性を有する追加のエチレン性不飽和化合物には、例えば、2002年12月30日出願の米国特許仮出願番号60/437,106に記載のような重合性ビスホスホン酸;AA:ITA:IEM(アクリル酸:メタクリレートのペンダントを有するイタコン酸のコポリマーであって、例えば、米国特許第5,130,347号(ミトラ)の実施例11に記載のように、AA:ITAコポリマーを十分な2−イソシアネートエチルメタクリレートと反応させて、コポリマーの酸基の一部分をペンダントメタクリレート基に転化することによって作製される。);及び米国特許第4,259,075号(ヤマウチ等)、同第4,499,251号(オムラ等)、同第4,537,940号(オムラ等)、同第4,539,382号(オムラ等)、同第5,530,038号(ヤマモト等)、同第6,458,868号(オカダ等)、及び欧州特許出願番号EP712,622(トクヤマ社)並びに欧州特許第1,051,961号(クラレ社)に列挙される物、が挙げられる。
【0026】
本発明の組成物には、同様にエチレン性不飽和化合物と酸官能性との組み合わせが挙げられ、それらは、例えば、2004年8月11日出願の米国特許仮出願シリアル番号60/600658(発明の名称:複数の酸性化合物を包含する自己接着性組成物)に記載される。
【0027】
本発明の組成物は、酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物を、非充填組成物の全重量を基準として、典型的には少なくとも1重量%、より典型的には少なくとも3重量%、最も典型的には少なくとも5重量%包含する。本発明の組成物は、酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物を、非充填組成物の全重量を基準として、典型的には最大で80重量%、より典型的には最大で70重量%、最も典型的には最大で60重量%包含する。
【0028】
酸官能性なしのエチレン性不飽和化合物
本発明の組成物は、同様に酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物に加えて、1つ以上の重合性構成要素を包含してもよく、それにより硬化性組成物を形成する。追加の重合性構成要素はモノマー類、オリゴマー類、又はポリマー類であってもよい。
【0029】
特定の実施形態では、組成物は光重合性であり、即ち、組成物は光重合性構成要素及び化学放射線の照射により組成物の重合(又は硬化)を開始する光開始剤(即ち、光開始剤系)を含有する。こうした光重合性組成物は、フリーラジカル重合性であることができる。
【0030】
特定の実施形態では、組成物は化学重合性である。即ち組成物は化学重合性構成要素及び化学開始剤(即ち、開始剤系)を含有する。化学開始剤は、化学放射線を用いた照射によらないで組成物を重合、硬化、又はさもなければハードニングすることができる。かかる化学重合性組成物は時には「自己硬化」組成物と呼ばれ、ガラスアイオノマーセメント、樹脂変性ガラスアイオノマーセメント、レドックス硬化系、及びそれらの組み合わせが包含される。
【0031】
典型的には、本発明の組成物には、非充填組成物の全重量を基準にして、少なくとも5重量%、より典型的には少なくとも10重量%、最も典型的には15重量%の酸官能性を有さないエチレン不飽和性化合物が含まれる。本発明の組成物は、非充填組成物の全重量を基準として、典型的には最大で95重量%、より典型的には最大で90重量%、最も典型的には最大で80重量%の酸官能性を有さないエチレン性不飽和化合物を包含する。
【0032】
光重合性組成物
好適な光重合性組成物は、エチレン性不飽和化合物(それはフリーラジカル活性の不飽和基を含有する)を包含する光重合性構成要素(例えば、化合物)を含んでもよい。有用なエチレン系不飽和化合物の例としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性アクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性メタクリル酸エステル、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0033】
光重合性組成物は、フリーラジカル活性な官能基を有する化合物を含んでよく、その化合物には1つ以上のエチレン性不飽和基を有するモノマー類、オリゴマー類、及びポリマー類が挙げられる。好適な化合物は、少なくとも1つのエチレン性不飽和結合を含有し、付加重合を受けることが可能である。このようなラジカル重合可能な化合物としては、モノ−、ジ−又はポリ−(メタ)アクリレート類(即ち、アクリレート類及びメタクリレート類)例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、アリルアクリレート、グリセロールトリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,2,4−ブタントリオールトリメタクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ビス[1−(2−アクリロキシ)]−p−エトキシフェニルジメチルメタン、ビス[1−(3−アクリロキシ−2−ヒドロキシ)]−p−プロポキシフェニルジメチルメタン、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、及びトリスヒドロキシエチル−イソシアヌレートトリメタクリレート;(メタ)アクリルアミド(即ち、アクリルアミド及びメタクリルアミド)例えば、(メタ)アクリルアミド、メチレンビス−(メタ)アクリルアミド、並びにジアセトン(メタ)アクリルアミド;ウレタン(メタ)アクリレート類、ポリエチレングリコール類のビス−(メタ)アクリレート類(好ましくは、分子量200〜500)、米国特許第4,652,274号(ボッチャー(Boettcher)ら)に記載されているような、アクリル化されたモノマー類の共重合性混合物米国特許第4,642,126号(ザドール(Zador)ら)に記載されているような、アクリル化されたオリゴマー類、並びに米国特許第4,648,843号(ミトラ(Mitra))米国特許番号に開示されているもののような、ポリ(エチレン部が不飽和の)カルバモイルイソシアヌレート類、並びにビニル化合物例えば、スチレン、ジアリルフタレート、ジビニルサクシネート、ジビニルアジパート及びジビニルフタレートが挙げられる。他の好適なフリーラジカル重合可能な化合物としては、例えば、PCT国際公開特許WO00/38619(グーゲンベーガー(Guggenberger)ら)、PCT国際公開特許WO01/92271(ウェインマン(Weinmann)ら)、PCT国際公開特許WO01/07444(グーゲンベーガーら)、PCT国際公開特許WO00/42092(グーゲンベーガーら)に開示されているようなシロキサン官能(メタ)アクリレート、並びに、例えば、米国特許第5,076,844号(フォック(Fock)ら)、米国特許第4,356,296号(グリフィス(Griffith)ら)、EP0373384(ワゲンネクト(Wagenknecht)ら)、EP0201031(レイナーズ(Reiners)ら)、及びEP0201778(レイナーズ(Reiners)ら)に開示されているようなフルオロポリマー官能(メタ)アクリレートが挙げられる。必要であれば、2つ以上のフリーラジカル重合性化合物の混合物を使用することができる。
【0034】
また重合性構成要素は、ヒドロキシル基及びフリーラジカル的に活性な官能基を単一分子内に含有してもよい。こうした物質の例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートのようなヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;グリセロールモノ−又はジ−(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパンモノ−又はジ−(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールモノ−、ジ−、及びトリ−(メタ)アクリレート;ソルビトールモノ−、ジ−、トリ−、テトラ−、又はペンタ−(メタ)アクリレート;及び2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−エタアクリロキシプロポキシ)フェニル]プロパン(ビスGMA)が挙げられる。好適なエチレン系不飽和化合物は又、多種多様な民間の供給元、例えばシグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich)(セントルイス)から入手可能である。必要であれば、エチレン性不飽和化合物の混合物を使用できる。
【0035】
好適な光重合性構成要素には、PEGDMA(分子量約400を有するポリエチレングリコールジメタクリレート)、ビスGMA、UDMA(ウレタンジメタクリレート)、GDMA(グリセロールジメタクリレート)、TEGDMA(トリエチレングリコールジメタクリレート)、米国特許第6,030,606号(ホルメス)に記載のようなビスEMA6、及びNPGDMA(ネオペンチルグリコールジメタクリレート)が挙げられる。必要であれば、重合性構成要素の様々な組み合わせが使用できる。
【0036】
フリーラジカル的に光重合するために好適な光開始剤(即ち、1つ以上の化合物を包含する光開始剤系)には、二要素系、三要素系が挙げられる。代表的な三要素系光開始剤は、米国特許第5,545,767号(パラゾット(Palazzotte)等)に記載されているように、ヨードニウム塩、光増感剤、及び電子供与体を包含する。好ましいヨードニウム塩は、ジアリールヨードニウム塩、例えば、ジフェニルヨードニウムクロライド、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロホウ酸塩、及びトリルクミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸塩である。好ましい光増感剤は、400nm〜520nm(好ましくは450nm〜500nm)の範囲内でいくらかの光を吸収するモノケトン類、ジケトン類、及びαジケトン類である。代表的な化合物には、カンファキノン、ベンジル、フリル、3,3,6,6−テトラメチルシクロヘキサンジオン、フェナントラキノン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン、及び環状αジケトンが挙げられる。好ましい電子供与体化合物としては、置換アミン、例えば、エチルジメチルアミノベンゾエートが挙げられる。カチオン的に光重合する重合性樹脂のためのその他の好適な三要素系光開始剤系は、例えば、米国公開特許出願第2003/0166737号(デデ(Dede)等)に記載される。
【0037】
フリーラジカル光重合性組成物を重合するために好適な他の光反応開始剤としては、典型的に380nm〜1200nmの機能的波長範囲を有するホスフィンオキシドの部類が挙げられる。好ましいホスフィンオキシドフリーラジカル反応開始剤は、380nm〜450nmの機能的波長範囲を有し、米国特許第4,298,738号(レッケン(Lechtken)ら)、同第4,324,744号(レッケンら)、同第4,385,109号(レッケンら)、同第4,710,523号(レッケンら)、及び同第4,737,593号(エルリッチ(Ellrich)ら)、同第6,251,963号(コーラ−(Kohler)ら);及びEP特許出願0173567A2(イング(Ying))に記載されているもののようなアシル及びビスアシルホスフィンオキシドである。
【0038】
380nmより大〜450nmの波長範囲で照射した場合にフルーラジカル開始反応ができ、商業的に入手可能なホスフィンオキシド光開始剤には、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(イルガキュア(IRGACURE)819、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)、ニューヨーク州タリタウン(Tarrytown)、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−(2,4,4−トリメチルペンチル)ホスフィンオキシド(CGI403、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ)、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(イルガキュア1700、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ)との重量比25:75の混合物、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(ダロキュア(DAROCUR)4265、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ)との重量比1:1の混合物、及びエチル2,4,6−トリメチルベンゾイルホスフィナート(ルシリン(LUCIRIN)LR8893X、BASF社、ノースカロライナ州シャーロット(Charlotte))が挙げられる。
【0039】
典型的には、ホスフィンオキシド開始剤は、重合性組成物中に、例えば組成物の総重量を基準にして、0.1重量%〜5.0重量%のような、触媒的な有効量で重合性組成物中に存在する。
【0040】
アシルホスフィンオキシドと組み合わせて、3級アミン還元剤を使用してもよい。本発明において有用な実例となる3級アミン類としては、エチル4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾエート及びN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートが挙げられる。存在する場合、アミン還元剤は、光重合可能な組成物中に、組成物の総重量を基準として0.1重量%〜5.0重量%の量で存在する。他の反応開始剤の有用な量は、当業者に周知である。
【0041】
化学重合性組成物
化学硬化性の組成物は、硬化性構成要素(例えば、エチレン性不飽和の重合性構成要素)、並びに酸化剤及び還元剤を包含するレドックス剤を含むレドックス硬化系を包含してもよい。好適な硬化性構成要素、レドックス剤、任意の酸官能性構成要素、及び本発明において有用な任意の充填剤は、米国公開特許出願2003/0166740号(ミトラ(Mitraら)等)、及び同第2003/0195273号(ミトラ等)に記載されている。
【0042】
樹脂系(例えば、エチレン性不飽和構成要素)の重合を開始することが可能なフリーラジカルを製造するために、還元剤及び酸化剤は、互いに反応するか、ないしは別の方法で協働すべきである。この種類の硬化は、暗反応、つまり、光の存在に依存せず、光が存在しなくても進行することができる反応である。還元剤及び酸化剤は、好ましくは十分に貯蔵安定性があり、望ましくない着色がなく、典型的な歯科条件下においての保存及び使用を可能にする。これらは、重合性組成物の他の構成要素に容易に溶解する(及び、硬化性組成物の他の構成要素からの分離を阻止する)ことを可能にするために、樹脂系と十分に混和性(及び好ましくは水溶性)があるべきである。
【0043】
有用な還元剤には、米国特許第5,501,727号(ワング(Wang)等)に記載のような、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体類、及び金属錯化アスコルビン酸化合物類;アミン類、特に4−t−ブチルジメチルアニリンのような3級アミン類;p−トルエンスルフィン酸塩類及びベンゼンスルフィン酸塩類のような芳香族スルフィン酸塩類;1−エチル−2−チオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、1,1−ジブチルチオ尿素や1,3−ジブチルチオ尿素のようなチオ尿素類;及びそれらの混合物が挙げられる。他の二次還元剤は、塩化コバルト(II)、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン(酸化剤の選択に依存する)、亜ジチオン酸塩類又は亜硫酸アニオン塩類、及びこれらの混合物を含んでもよい。還元剤はアミンであることが好ましい。
【0044】
また好適な酸化剤は、当業者に馴染みがあり、過硫酸、並びにナトリウム、カリウム、アンモニウム、セシウム、及びアルキルアンモニウム塩のような過硫酸塩類が挙げられるが、これらに限定されない。さらなる酸化剤としては、過酸化ベンゾイルのような過酸化物類、クミルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、及びアミルヒドロペルオキシドのようなヒドロペルオキシド類、並びに塩化コバルト(III)及び塩化第二鉄、硫酸セリウム(IV)のような遷移金属塩類、過ホウ酸及びその塩類、過マンガン酸及びその塩類、過リン酸及びその塩類、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0045】
2つ以上の酸化剤又は2つ以上の還元剤を使用することが望ましい可能性がある。また、レドックス硬化の速度を促進させるために、少量の遷移金属化合物類を添加してもよい。ある実施形態では、米国公開特許出願第2003/0195273号(ミトラ(Mitra)ら)に記載されているように、重合性組成物の安定性を増強するために、二次イオン性塩を包含することが好ましい可能性がある。
【0046】
還元剤及び酸化剤は、適当なフリーラジカル反応速度を可能にするために十分な量で存在する。これは、任意の充填剤以外の、重合性組成物の全ての含有物を組み合わせることによって、硬化した塊が得られるか否かを観察することによって評価できる。
【0047】
典型的には、還元剤は、重合性組成物の総重量(水も含めて)を基準にして、少なくとも0.01重量%の量で、及びより典型的には少なくとも0.1重量%で存在する。典型的には、還元剤は、重合性組成生物の総重量(水も含めて)を基準にして、10重量%未満の量で、及びより典型的には5重量%未満で存在する。
【0048】
典型的には、酸化剤は、重合性組成物の総重量(水も含めて)を基準にして、少なくとも0.01重量%の量で、及びより好ましくは少なくとも0.10重量%で存在する。典型的には、酸化剤は、重合性組成物の総重量(水も含めて)を基準にして、10重量%未満の量で、及びより典型的には5重量%未満で存在する。
【0049】
還元剤又は酸化剤は、米国特許第5,154,762号(ミトラ(Mitra)ら)に記載されているように、マイクロカプセル化され得る。これは、一般に、重合性組成物の貯蔵安定性を増強し、必要であれば、還元剤又は酸化剤を共に包装することを許容するであろう。例えば、カプセルの材料(encapsulant)の適切な選択を通して、酸化剤及び還元剤は、酸官能性構成要素及び任意の充填剤と組み合わせて、保存安定性状態を維持することができる。同様に、非水溶性カプセル材料の適切な選択を通して、還元剤及び酸化剤は、FASガラス及び水と組み合わせられることができ、保存安定状態で維持されることができる。
【0050】
レドックス硬化系は、他の硬化系、例えば、米国特許第5,154,762号(ミトラ等)に記載のような、光重合性組成物と組み合わせることができる。
【0051】
多環式芳香族の構成要素
本発明の幾つかの実施形態では、フリーラジカル重合性の構成要素は光開始剤系と組み合わせられ、この場合その光開始剤系は多環式芳香族の構成要素とアミン電子供与体を包含する。他の実施形態では、フリーラジカル重合性の構成要素は光開始剤系と組み合わせられ、この場合開始剤系の1つの構成要素は多環式芳香族構成要素である。本発明による光開始剤系において有用な多環式芳香族構成要素のある部類は、多環式芳香族化合物(すなわち、2個以上の縮合又は結合した芳香族環を有する多環式化合物)を含み、それのアルキル−及びアリール−置換した誘導体を包含する。「縮合した」によって、2個の芳香族環が側面を共有して又は側面を対向させて複数の炭素−炭素結合によって直接的に接合していることを表す。
【0052】
有用な多環式芳香族化合物の代表的な部類には、ビフェニレン類、ナフタレン類、アントラセン類、ベンズアントラセン類、ピレン類、アズレン類、ペンタセン類、デカサイクレン類、並びに誘導体類(アセナフテン類のような)及びそれらの組み合わせが挙げられる。典型的な有用な多環式芳香族化合物には1,4−ジメトキシアントラセン、9−メチルアントラセン、9,10−メチルアントラセン、アントラセン、ビフェニレン、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0053】
より詳細には、以下に示す化学構造に適合する多環式芳香族化合物が採用されてよい。
【化1】

【化2】

【0054】
先の構造化学構造において、置換基R1〜R14は、重合反応で実質的な阻害効果を持たないいかなる基であってもよく、好ましくは、水素、又は炭化水素基から独立して選択される。その炭化水素基は、アルキル基(例えば、C110アルキル基、C210アルケニル基、又はC310シクロアルキル基)、又は芳香族基(例えば、C510芳香族基)であってもよい。その炭化水素基は、1つ以上の、ハロゲン、−CN、−OH、−SH、−COOH、−COOC110アルキル基、−(C110アルキル)01−COH基、−(C110アルキル)01−CO−C110アルキル基、−CO−C110アルキル基、並びにその他の炭化水素基によって任意に置換できる。様々なR−基の置換基が同様に共同して芳香族環又はシクロアルキル環を形成してよい。代表的なR−基の置換基は、メチル、エチル、メトキシ、及びエトキシである。
【0055】
好適な多環式芳香族電子供与体化合物には、ビフェニレン、アントラセン、9−メチルアントラセン、9−ビニルアントラセン、9−フェニルアントラセン、9,10−ジフェニルアントラセン、9,10−ジメチルアントラセン、2−エチルアントラセン、アセナフテン、ピレン、ペンタセン、デカサイクレン、アズレン、7,12−ジメチル−1,2−ベンズアントラセン、1,2−ベンズアントラセン、1,4−ジメチルナフタレン、2,3,5−トリメチルナフタレン、及びそれらの組み合わせが挙げられる。これらの化合物の全てはシグマ・アルドリッチ社、ミズーリ州セントルイスから入手できる。
【0056】
好適な多環式芳香族化合物には、アントラセン誘導体が挙げられる。より詳細には、以下に示めされた化学構造Iに適合するアントラセンベースの電子供与体化合物を採用できる。
【化3】

【0057】
上記化学構造Iでは、R1〜R10置換基は、酸性重合に実質的に阻害効果を有さないどんな置換基であってもよく、水素、アルキル基、アリール基、及び/又はアルコキシ基から独立して選択され、好ましくは、C1〜C10アルキル基及び/又はC1〜C10アルコキシ基である。典型的なR−基の置換基は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、t−ブチル、メトキシ、及びエトキシである。
【0058】
特に有用なアントラセンベースの化合物には、2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン(EDMOA)、9,10−ジメチルアントラセン、9,10−ジエトキシアントラセン、1,4−ジメトキシアントラセン、9−メチルアントラセン、2−エチルアントラセン、2−t−ブチルアントラセン、2,6−ジ−t−ブチルアントラセン、9,10−ジフェニル−2,6−ジ−t−ブチルアントラセン、及びそれらの組み合わせが挙げられる。2,6−ジ−t−ブチルアントラセン誘導体以外のこれらの化合物の全ては、シグマ・アルドリッチ社、ミズーリ州セントルイス、から入手できる。本発明に使用するためのアントラセンベースの化合物は、1つ以上の(及びより好ましくは、全てではなくとも数個の)次の特性を有してもよい:(a)それらは重合性組成物に溶解性又は部分的溶解性である;(b)それらは組成物を光重合するために使用される光の波長、典型的には、可視光増感剤が最高の吸収を示す波長において顕著な量の光を吸収しない、そのことによって、その多環式芳香族化合物は、可視光増感剤の性能に悪影響を及ぼすことがないことを意味する;(c)それらは、飽和カロメル電極(SCE)に対して測定した場合、ゼロより大だが、1,4−ジメトキシベンゼンの酸化電位よりも小である、酸化電位(Eox)を有する;(d)pKbは約8より大である;(e)それらが光重合性構成要素に対して付与する好ましくない色つきは高々ほんの僅かしかない;(f)それらが引き起こす重合禁止はほんの僅かしかない。特別の組成物に対してアントラセンベースの化合物の選択に影響を与える可能性のあるその他の因子には、選択された、重合性構成要素、ヨードニウム塩、及び可視光増感剤、並びに重合性組成物の保存安定性が挙げられる。
【0059】
本発明での使用に好適のアントラセンベースの化合物のEoxは、飽和カロメル電極(SCE)を用いて測定した場合、ゼロより大で、且つ1,4−ジメトキシベンゼンより小さいか又は等しいEoxを有するが、アントラセンベースの化合物は約1.35ボルト未満であるEoxを有することがより好適であり、さらに、Eoxが約0.5〜約1.34ボルト(対SCE)の間にあることがもっと好適である。Eox値は実験的に得られるが、定評のある参照出典、例えばN.L.ワインバーグ(Weinburg)監修、有機電解合成の技術パートII、化学の技術、5巻(1975年)、及びC.K.マン(Mann)及びK.K.バーンズ(Barnes)非水系における電気化学反応(1970年)から得ることができる。
【0060】
有利なことに、アントラセンベースの化合物は重合性樹脂の重合速度(ゲルタイムで測定して)を、電子供与体化合物が無い組成物と比較して促進できる。光重合性組成物の多くの用途に対して、米国公開特許出願第2003/0166737号(デデ等)に報告されたようなゲルタイム実験手順によって確定した場合で、ゲルタイムは60分未満が好ましく、より好ましくは10分未満であり、最も好ましくは2分未満である。
【0061】
加えて、本明細書に記載のように、光開始剤系はヨードニウム塩、例えば、ジアリールヨードニウム塩を含有してもよい。ヨードニウム塩は組成物中に溶解性であるべきで、且つ保存性があるのが好ましい。保存性があることは、可視光増感剤及び電子供与体の構成要素の存在下で組成物中に溶解した場合、自発的に重合が起こらないことを意味する。従って、具体的なヨードニウム塩の選択は、特定な樹脂、可視光増感剤、及び選択された電子供与体にある程度左右される。
【0062】
上記のように、光開始剤系における別の構成要素は可視光増感剤であってもよい。可視光増感剤は、光重合性組成物中に部分的又は完全に溶解性であるべきであり、重合プロセスを実質的に阻害する官能性が存在しない、及び約400nm〜約1000nmの間の波長範囲のどこかで光を吸収することができるものでなければならない。好適な可視光増感剤は、1つ以上のカルボニル官能基を含有する。特別に好適な光増感剤はカンファキノンである。
【0063】
上記のように、光開始剤系は、同様にアミン電子供与体、典型的には、本明細書に記載のように3級アミンを含有してもよい。特別に好適な3級アミンは、エチル−4−ジメチルアミノベンゾエートである。
【0064】
光開始剤系中の個々の構成要素は、光重合性において有効な量(即ち、重合性構成要素の光重合を開始することができることができる光開始剤系をもたらすに有効な量、又はより好ましくは、重合速度を加速することができる光開始剤系をもたらすに有効な量)で供給される。好ましくは、可視光増感剤は総合した光重合性組成物を基準にして約0.05重量%〜5.0重量%で存在し、さらに好ましくは約0.10重量%〜2.0重量%である。ヨードニウム塩は、総合した組成物を基準にして、好ましくは約0.05重量%〜10.0重量%で存在し、より好ましくは約0.20重量%〜5.0重量%であり、最も好ましくは約0.40重量%〜3.0重量%である。アミン電子供与体は、総合組成物を基準にして、好ましくは約0.01重量%〜5.0重量%で存在し、より好ましくは約0.05重量%〜2.0重量%であり、最も好ましくは約0.05重量%〜1.0重量%である。
【0065】
多環式芳香族化合物又はその複数化合物(例えば、アントラセン誘導体又はビフェニレン)は、総合組成物を基準にして、好ましくは約0.01重量%〜5.0重量%で存在し、より好ましくは約0.05重量%〜1.0重量%であり、最も好ましくは約0.05重量%〜0.50重量%である。
【0066】
充填剤
本発明の組成物は必要に応じて1つ以上の付加的な充填剤を含有することができる。充填剤は、例えば、歯科修復組成物等において現在使用される充填剤のような、歯科用途に使用される組成物への組み込みに好適な多種多様な材料の中から1つ以上選択されてもよい。特に有用な充填材は、2005年12月29日出願の米国公開特許出願第60/754985に記載される。
【0067】
充填剤の選択は歯科用組成物の重要な特性、例えば、外観、X線不透過性並びに物理的及び機械的特性のような特性に影響を及ぼす。外観は、組成物中の含有物の量及び相対屈折率の調節によって部分的に影響され、これにより複合材の半透明性、不透明性、真珠光沢性の変更が可能になる。本発明の酸性重合性組成物は、石英(屈折率1.55)、サブミクロンシリカ(屈折率1.46)、及び5.5:1モル比のSiO:ZrOの非ガラス質微小粒子(屈折率1.54)を用いて調製できる。このような方法で、歯科用材料の外観を、必要であれば、天然歯の外観に厳密に近似させて作製できる。
【0068】
X線不透過性はX線検査による歯科用組成物の検出能力を測定するものである。X線不透過である歯科用組成物は、例えば、歯科医が歯科修復物が健全に維持されているか否かの試験を可能にするために望まれることが多いであろう。別の状況では、X線不透過ではない組成物が望まれるかもしれない。X線不透過である処方物用の好適な充填剤は、欧州特許EP−A2−0 189540、EP−B−0 238 025、及び米国特許第6,306,926B1号に記載される。
【0069】
複合材に組み入れる充填剤の量は、本明細書では「装填濃度(loading level)」を示し、歯科用材料の総重量を基準にした重量%で表記し、その量は充填剤、硬化性樹脂、並びに組成物中のその他の構成要素の種類、及び複合材の最終用途に応じて変化するであろう。
【0070】
シーラントのような、幾つかの歯科用材料に対しては、本発明の酸重合性組成物は少量の充填(例えば、約40重量%未満の装填濃度を有して)、又は非充填であることができる。歯科用材料の粘度は、その材料が咬合歯牙面の窩溝の中、並びにエナメル質の侵食領域の中に貫入できるように十分に低いことが好ましく、それにより歯科用材料の保持に役立つ。強度又は耐久性の高いことが望まれる箇所への適用(例えば、前方又は後方の修復剤、義歯、歯冠及び橋義歯セメント材、人口歯冠、人口歯及び入れ歯)では、装填濃度は約95%と同じくらい高くできる。大部分の歯科用修復材および補綴材の用途では、約60重量%〜90重量%の間の装填濃度が一般的に好まれる。
【0071】
本発明の組成物に使用される充填剤(単数及び複数の)は、微細に分割されていることが好ましい。充填材(単数及び複数の)は、一峰性(unimodial)又は多峰性(polymodial)(例えば、二峰性)の粒径分布を有することができる。充填剤(単数及び複数の)の最大粒径((粒子の最大寸法、通常は直径)は、典型的には20マイクロメータ未満、より典型的には10マイクロメータ未満、最も好ましくは5マイクロメータ未満である。典型的には、充填剤(単数及び複数の)の平均粒径は0.1マイクロメータ未満、より典型的には0.075マイクロメータ未満である。
【0072】
組成物は無機材料を含む充填材を包含してもよい。また、充填剤は、樹脂システムに不溶性の架橋した有機材料であることもでき、それは任意に無機充填剤と一緒に充填される。充填材は、いずれにしても非毒性であるべきであり、口内に使用するのに好適であるべきである。充填材は放射線不透過性又は放射線透過性であることができる。通常、充填剤は、実質的に水に不溶性である。
【0073】
好適な無機充填剤の例は、天然産出材料又は合成材料であり、それらには:石英類;ナイトライド類(例えば、シリコンナイトライド);例えば、Zr、Sr、Ce、Sb、Sn、Ba、Zn、及びAlから得られるガラス類;長石;ほうケイ酸ガラス;カオリン;タルク;チタニア;米国特許第4,695,251号(ランドクルブ(Randklev)に記載された物のような低モース硬度の充填剤;及びサブミクロンシリカ微粒子(例えば、商品名アエロジル(AEROSIL)で入手可能な物のような焼成シリカ、それにはデグサ(Degussa)社(オハイオ州アークロン)製の「OX50}、「130」、「150」、及び「200」のシリカ、及びキャボット(Cabot)社(イリノイ州タスコラ(Tuscola))製のCAB−O−SIL M5シリカが挙げられる)、が挙げられるがそれらに限定されない。好適な有機充填剤粒子の例としては、充満(filled)粉砕又は非充満(unfilled)粉砕のポリカーボネート、ポリエポキシド等が挙げられる。
【0074】
好適な酸非反応性充填剤粒子には、石英、サブミクロンシリカ、及び米国特許第4,503,169号(ランドクルブ(Randklev)に記載された種類の非ガラス質微小粒子である。また、これらの非酸反応性充填剤の混合物、並びに有機物質及び無機物質から製造された混合充填剤も意図される。シラン処理したジルコニア−シリカ(Zr−Si)充填剤は特定の実施形態で特別に有用である。
【0075】
金属充填剤も同様に組み入れてもよく、そのような微粒子金属充填剤は、IVA族、VA族、VIA族、VIIA族、VIII族、IB族、又はIIB族のもののような純金属、IIIB族のアルミニウム、インジウム、及びタリウム、及びIVB族の錫及び鉛、又はそれらの合金類から作製される。従来の歯科用アマルガム合金粉、代表的には銀、錫、銅、及び亜鉛の混合物も同様に、必要に応じて組み入れてもよい。微粒子金属充填剤は好ましくは約1ミクロン〜約100ミクロンの平均粒径を有し、より好ましくは約1ミクロン〜約50ミクロンである。これら充填剤の混合物、並びに有機及び無機の材料から作製された組み合わせ充填剤も同様に意図される。未処理の又はシラノール処理したフルオロアルミノシリケートガラス充填剤は、特に好まれる。これらのガラス充填剤は、口内環境に配置された場合、歯科作業の位置でフッ素イオンを放出するという追加の利点を有する。
【0076】
組成物は酸反応性充填剤を包含してもよい。好適な酸反応性充填剤としては、金属酸化物、ガラス、及び金属塩が挙げられる。代表的な金属酸化物としては、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、及び酸化亜鉛が挙げられる。代表的なガラスとしては、ホウ酸ガラス、リン酸ガラス、及びフルオロアルミノシリケート(「FAS」)ガラスが挙げられる。FASガラスが、特に好ましい。ガラスが硬化性組成物の構成要素と混合されるとき、硬化された歯科組成物が形成されるように、FASガラスは、典型的に十分な溶出性カチオンを含有する。また、ガラスは、典型的に十分な溶出性フッ化物イオンを含有するので、硬化された組成物は抗う食性を有するであろう。ガラスは、FASガラス製造分野において当業者に馴染みが深い技術を使用して、フッ化物、アルミナ、及び他のガラス形成構成要素を含有する溶融物から製造することができる。FASガラスは、通常十分に超微粒子状の粒子の形態であるので、他のセメント構成要素と都合よく混合され得、得られた混合物が口内に使用されるとき、よく機能するであろう。
【0077】
一般に、前記FASガラスの平均粒径(典型的には直径)は、例えば、沈殿分析器を使用して測定した場合、約12ミクロン以下、典型的には10ミクロン以下、より典型的には5ミクロン以下である。好適なFASガラスは、当業者に馴染み深く、多種多様な商業的供給源から入手可能であり、多くは、ビトレマー(VITREMER)、ビトレボンド(VITREBOND)、リライXルーティングセメント(RELY X LUTING CEMENT)、リライXルーティングプラスセメント(RELY X LUTING PLUS CEMENT)、フォトタック−フィルクイック(PHOTAC-FIL QUICK)、ケタック−モラー(KETAC-MOLAR)、及びケタック−フィルプラス(KETAC-FIL PLUS)(3M ESPEデンタル・プロダクツ(3M ESPE Dental Products)、ミネソタ州セントポール(St. Paul))、フジII LC(FUJI II LC)及びフジIX(FUJI IX)(G−Cデンタル・インダストリアル社(G-C Dental Industrial Corp.)、日本、東京)、並びにケムフィルスーペリア(CHEMFIL Superior)(デンツプライ・インターナショナル(Dentsply International)、ペンシルベニア州ヨーク(York))の商品名で市販されているもののような、現在入手可能なガラスアイオノマーセメント中に見出せる。必要であれば、充填剤の混合物を使用することができる。
【0078】
また、充填剤と樹脂との間の結合を増強するために、充填剤粒子の表面は、カップリング剤で処理されてもよい。好適なカップリング剤の使用としては、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0079】
その他の好適な充填剤は、米国特許第6,387,981号(ツアン(Zhang)等)、同第6,572,693号(ウー(Wu)等)、同第6,730,156号(ウィンディシュ(Windisch))、並びに同第6,899,948号(ツアン)、及びPCT国際公開特許WO 03/063804号(ウー等)に開示される。これらの参考文献に記載された充填剤構成要素としては、ナノサイズのシリカ粒子、ナノサイズの金属酸化物粒子、及びこれらの組み合わせが挙げられる。ナノ充填剤は、同様に米国公開特許出願第2005/0252413号(カンガス(Kangas)等)、同第2005/0252414号(クレイグ(Craig)等)、及び同第2005/0256223号(コルブ(Kolb)等)に記載される。
【0080】
充填剤を含む本発明の幾つかの実施形態に対して(例えば、歯科用接着剤組成物)、組成物は、組成物の総重量を基準にして、典型的には少なくとも1重量%、より典型的には少なくとも約2重量%、最も典型的には少なくとも5重量%の充填剤を含む。そのような実施形態に対して、本発明の組成物は組成物の総重量を基準にして、典型的には最大で40重量%、より典型的には最大で20重量%、最も典型的には最大で15重量%、の充填剤を含む。
【0081】
別の実施形態に対して(例えば、組成物が歯科用修復剤又は歯科用矯正用接着剤である)、本発明の組成物は、組成物の総重量を基準にして典型的には少なくとも40重量%、より典型的には少なくとも45重量%、最も典型的には少なくとも50重量%の充填剤を含む。そのような実施形態に対して、本発明の組成物は、組成物の総重量を基準にして、典型的には最大で90重量%、より典型的には最大で80重量%、最も典型的には最大で50重量%、の充填剤を含む。
【0082】
他の添加剤
必要に応じて、本発明の組成物は、溶媒(例えば、アルコール類(例えば、プロパノール、エタノール)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エステル類(例えば、酢酸エチル)、及び/又はその他の非水性溶媒類(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスホキシド、1−メチル−2−ピロリジノン))を含有してもよい。幾つかの実施形態では、組成物は、2005年12月29日出願の米国公開特許出願第60/754953号に記載されるように、水除去剤を含んでもよい。
【0083】
必要な場合、本発明の組成物は、指示薬、染料(光漂白可能な染料を含む)、顔料、阻害剤、促進剤、粘度調節剤、湿潤剤、酸化防止剤、酒石酸、キレート化剤、緩衝剤、安定剤、希釈剤、及び当業界に明らかであろうその他の同様な構成要素のような添加剤を含有することができる。界面活性剤、例えば、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、及びそれらの組み合わせが、必要に応じて組成物中に使用されてもよい。有用な界面活性剤には、非重合性及び重合性の界面活性剤が挙げられる。さらに、薬剤又は他の治療用物質を、任意に歯科組成物に添加することができる。例としては、歯科組成物に使用されることが多い種類の、フッ化物供給源、増白剤、抗カリエス剤(例えば、キシリトール)、ミネラル補給剤(例えば、リン酸カルシウム化合物)、酵素、息清涼剤、麻酔剤、凝固剤、酸中和剤、化学療法剤、免疫反応変性剤、チキソトロープ剤、ポリオール、抗炎症剤、抗菌剤、抗真菌剤、口腔乾燥症の治療剤、減感剤等が挙げられるが、これらに限定されない。また、上記の添加剤のいずれかの組合せを採用してもよい。いずれか一つのこうした添加剤の選択及び量は、過度の実験をせずに望ましい結果をもたらすために、当業者により選択され得る。
【0084】
歯科用組成物中の各々の含有物の量及び種類は、必要とする物理的特性及び重合前後にハンドリング性をもたらすように調節すべきである。例えば、歯科用材料の重合速度、重合安定性、流動性、圧縮強度、引っ張り強度、及び耐久性は、典型的には、重合開始剤の種類及び量、及び存在する場合は、充填剤の使用量及び粒径分布、を変更することによりある程度調節される。そのような調節は、代表的には歯科用材料を用いた以前の体験に基づいて実験的に行われる。歯科用材料が歯に適用される場合、歯は必要に応じてプライマー及び/又は接着剤を用いて当業界に既知の方法によって前処理することができる。
【0085】
組成物の調製及び使用
本発明の歯科用組成物は、従来の混合技術を使用して様々な構成要素を全て組み合わせて調製できる。典型的には、本発明の光重合性組成物は、「安全光(safe light)」の下で本発明組成物の構成要素を単純に混合させて調製される。この混合物を処置する場合、必要であれば、好適な不活性溶媒を取り入れてもよい。本発明の構成要素と目に付くほど反応しないどの溶媒でも使用してよい。好適な溶媒の例には、アセトン、ジクロロメタン、アセトニトリル、及びラクトン類が挙げられる。重合される予定の液体材料を別の重合される予定の液体又は固体の材料に対する溶媒として使用できる。無溶媒の組成物は、ヨードニウム錯塩、増感剤、及び電子供与体を重合性樹脂の中に、溶解を容易にするために温和な加熱を使用して又は使用しないで、単純に溶解することにより調製できる。
【0086】
組成物は種々の形態で供給でき、それには一部システム及び多部システム、例えば二部系である、粉末/液体システム、ペースト/液体システム、及びペースト/粉末システム、が挙げられる。また、それぞれ粉末、液体、ゲル、又はペーストの形態である多部組み合わせ(すなわち、2つ以上の部の組み合わせ)を採用する他の形態も可能である。組成物の様々な構成要素を所望するあらゆる様式での分割品に分割してもよいが、ただし、レドックス系の多部システムでは、一部分はきまって酸化剤を含有し、別の部分はきまって還元剤を含有する。しかしながら、例えば、マイクロカプセル化の使用によって、構成要素を分離したままで保持すれば、還元剤と酸化剤をシステムの同じ分割部中に組み合わせることができる。
【0087】
組成物の構成要素はキット中に包含でき、その場合、組成物の内容物はパッケージ化され、それらが必要となるまで構成要素の貯蔵を可能にする。
【0088】
組成物の構成要素は、混合し、従来の技術を使用して臨床的に適用できる。光重合性組成物の反応を開始するためには、一般に硬化光が必要である。
【0089】
本発明の組成物は、充填タイプ又は非充填タイプで、広範で様々な歯科用材料用途に特によく使用される。代表的な歯科用材料には、歯科修復剤(例えば、複合材、充填物、シール材、インレイ、オンレイ、歯冠、及びブリッジ)、歯列矯正術用器具、歯科矯正用接着剤が挙げられる。そのような歯科用材料には、審美的修復材料(例えば、前方及び後方修復剤)、補綴物、口腔硬質組織用の接着剤及びプライマー、シール材、ベニア、窩ライナー、あらゆるタイプのブラケット(例えば、金属、プラスチック及びセラミック)と用いるための歯列矯正ブラケット用の接着剤、歯冠及び橋義歯セメント材、人口歯冠、人口歯、入れ歯、等が挙げられる。これらの歯科用材料は口内で使用され、天然歯に隣接して配置される。本明細書で使用する時、成句「隣接して配置された」は、歯科用材料を天然歯と、一時的又は永久的に結合するため(例えば接着)、又は接触タッチさせるため(咬合又は基端側に)に配置することをさす。歯科用材料との関連で本明細書で使用する時、用語「組成物」は、充填剤入り歯科用材料をさす。本明細書で使用する時、用語「修復剤(restorative)」は、歯に隣接して配置した後で重合させる歯科用組成物をさす。本明細書で使用する時、用語「補綴物(prosthesis)」は、歯に隣接して配置する前に最終利用のために(例えば、歯冠、ブリッジ、ベニア、インレイ、オンレイ又同種のものとして)形状化され、重合される複合材をさす。本明細書で使用する時、用語「シール材」は、歯に隣接して配置された後で硬化される、充填が軽度に入った歯科用複合材又は非充填の歯科用材料をさす。
【0090】
本発明の開始剤系は、少なくとも1タイプの歯構造体(例えば、象牙質、エナメル質、又は骨)をエッチングする、好ましくはエッチングしプライマー処理するために用いられる非水性組成物中に使用するのに特に効果的である。これらの組成物は、オーバレイ接着剤(例えば、歯科用接着剤)と使用することができる、しかしさらに好ましくは接着剤(即ち、自己エッチング性接着剤(self-etching adhesive))として使用できる。幾つかの実施形態では、組成物は自己接着性歯科用修復剤又は歯科矯正用接着剤の形態にできる。
【0091】
本発明による自己エッチング性接着剤は、以下のどれかを含むあらゆる方法を用いて歯構造体に適用されてよい。
【0092】
第1の方法は、開業医がリンスして構造体表面に水で濡らしたままにすることであり、従って構造体治療の前に標準的な乾燥工程を省く、又は部分的に省くことである。次いで、非水性の自己エッチング性歯科用組成物(例えば、自己エッチング性接着剤、自己接着性組成物、又は歯科矯正用接着剤)を構造体表面に塗布し、従来法を用いて硬化させる。
【0093】
第2の方法(「刷毛引き(wet-brush)」技法)は、歯科用アプリケータを連続して水性希釈液(例えば、水又は水と1つ以上の接着剤)に浸漬し、次いで濡れた刷毛を非水性の自己エッチング性歯科用組成物(例えば、自己エッチング性接着剤)と混合することである。次いで、結果として得られた水性混合物を構造体表面に塗布し、従来法を用いて硬化させる。
【0094】
第3の方法は、乾いた歯構造体表面を水性希釈液(例えば、水又は水と1つ以上の接着剤の)で連続して処理し、続いて非水性の自己エッチング性歯科用組成物(例えば、自己エッチング性接着剤、自己接着性組成物、又は歯科矯正用接着剤)を塗布することである。次いで、結果として得られた処理表面を更に処理し、従来法を用いて硬化させる。
【0095】
本発明の幾つかの実施形態では、組成物(好ましくは、接着剤)に歯の構造体表面をエッチングさせるのに効果的な条件には、接着剤及び/又は接着剤/希釈液の混合物を刷毛を用いて、エッチングするのに効果的な時間(即ち少なくとも3秒間)、典型的には少なくとも5秒間、多くの場合少なくとも10秒間、及び一部の場合では少なくとも20秒間、歯の構造体表面を混合/ラビングするために振とうすること(swishing)が含まれる。
【0096】
歯の構造体表面に歯科用材料を接着させる方法は、結果として、エナメル質又は象牙質(又は好ましくはその両方)に対して少なくとも7MPa、より好ましくは少なくとも15MPa、最も好ましくは少なくとも20MPaの結合形成もたらす。
【0097】
本発明の特徴及び利点は、次の実施例により、さらに説明されるが、これにより制限されることを決して意図しない。これらの実施例において列挙されるその特定の材料及び量、並びに他の条件及び詳細は、本発明を過度に制限しないと解釈されるべきである。指示がない限り、全ての部及びパーセントは重量基準であり、全ての水は脱イオン水であり、全ての分子量は重量平均分子量である。
【実施例】
【0098】
試験方法
ノッチ型エッジのせん断接着試験方法(非カットエナメル質、カットエナメル質、又は象牙質)
所与の試験サンプルに対する非カットエナメル質との接着剤のせん断接着強度を以下の手順で評価した。カットエナメル質及び象牙質に対する手順の修正を示してある。
【0099】
試験用歯の調製。牛の切歯を地域の屠殺場から得て、歯根を切除き、歯髄を取り除いた。軟組織の無い歯を、歯の唇側面が露出するように円形アクリルディスクに埋め込んだ。使用するまで埋め込んだ歯を脱イオン水に入れて冷蔵庫に保管した。
【0100】
接着試験サンプルの調製埋め込み歯の露出された唇側面を、接着する前に歯の表面を清浄化するために歯科予防処置用ペースト(prophy paste)を用いて予防処置した。
【0101】
カットエナメル質又は象牙質での試験用には、埋め込み歯をラピダリーホイール(lapidary wheel)に装着した120グリッドのサンドペーパを用いて研削し、平らなエナメル質又は象牙質を露出させた。ラピダリーホイール上の320グリッドのサンドペーパを用いて、歯の表面を更に研削し研磨した。研削工程中は歯を水を用いて連続的にリンスした。
【0102】
接着試験サンプルを歯科用アプリケータ刷毛を用いて露出した歯の唇側面の上に塗布し、XL3000歯科用硬化ライト(3M社、ミネソタ州セントポール)を用いて10秒間光硬化させた。直径約2.38mmの孔を備えた2mm厚さのテフロン(登録商標)鋳型を埋め込み歯にクランプし、鋳型の孔が接着剤用に準備された歯表面の最も平坦な有効面積を露出するようにした。複合材料FILTEK Z250A万能修復剤(3M社)を、その孔が完全に充填されるが過剰充填にならないように充填し、製造者の指示書によって歯に接着剤で接着させた「ボタン」を形成するように光硬化させた。カットエナメル質又は象牙質に対する試験のために、2つの「ボタン」を歯に接着剤で接着させた。
【0103】
試験の前に、仕上がった試験サンプルを37℃の脱イオン水中で約24時間保存した。
【0104】
サンプルの試験鋳型を埋め込み歯から注意して取り除き、歯表面に接着したボタンを取り残した。1個ごとに試験サンプルをインストロン(Instron)(商標)4505、(インストロン(Instron)社、マサチューセッツ州カントン)のつかみ具によって把持されたホルダー中に、歯の表面を押し付けせん断力の方向に対して平行に配向させて取りつけた。半円のノッチ型エッジを有した金属製取り付け具をインストロンに取り付けし、ノッチ型エッジを、歯面と同一表面の、ボタン上に注意深く噛み合わせた。せん断力押し付けはクロスヘッド速度1mm/分で開始した。接着が破壊したときの力をキログラム(kg)で記録し、この数値を既知であるボタンの接面積を用いて、単位面積あたりの力(kg/cm2、又はMPaの単位)に変換した。エナメル質又は象牙質に対する接着力に関する各々の報告値は、2〜10の反復試験の平均を表す。
【0105】
ワイヤループのせん断接着試験方法(カットエナメル質、又は象牙質)
所与の試験サンプルに対するカットエナメル質又は象牙質との接着剤のせん断接着強度を以下の手順で評価した。
【0106】
試験用歯の調製牛の切歯を地域の屠殺場から得て、歯根を切除き、歯髄を取り除いた。軟組織の無い歯を、歯の唇側面が露出するように円形アクリルディスクに埋め込んだ。埋め込んだ歯を使用するまで脱イオン水に入れて冷蔵庫に保管した。
【0107】
接着試験サンプルの調製埋め込み歯をラピダリーホイール(lapidary wheel)に装着した120グリッドのサンドペーパを用いて研削し、平らなエナメル質又は象牙質を露出させた。ラピダリーホイール上の320グリッドのサンドペーパを用いて、歯の表面を更に研削し研磨した。研削工程中は歯を水を用いて連続的にリンスした。
【0108】
接着試験サンプルを歯科用アプリケータ刷毛を用いて調製した歯の平坦なエナメル質又は象牙質表面の上に塗布し、XL3000歯科用硬化ライト(3M社、ミネソタ州セントポール)を用いて10秒間光硬化させた。直径約4.7mmの孔を備えた2.5mm厚さのテフロン(登録商標)鋳型を埋め込み歯にクランプし、鋳型の孔が接着剤用に準備された歯表面の部分を露出するようにした。複合材料FILTEK Z250A万能修復剤(3M社)を、その孔が完全に充填されるが過剰充填にならないように充填し、製造者の指示書によって歯に接着剤で接着させた「ボタン」を形成するように光硬化させた。
【0109】
試験の前に、仕上がった試験サンプルを37℃の脱イオン水中で約24時間保存した。テフロン(登録商標)鋳型中の歯を薄いゼラチンカプセルで裏打ちし、水中に保管した時にそれを溶解させ、こうしてボタンから鋳型を取り除くことをより容易にした。
【0110】
サンプルの試験鋳型を埋め込み歯から注意深く取り除き、歯表面に接着したボタンを取り残した。1個ずつ試験サンプルをインストロン4505(インストロン社(Instron Corp)、マサチューセッツ州カントン)のつかみ具によって把持されたホルダー中に、歯の表面を引っ張りせん断力の方向に対して平行に配向させて取りつけた。歯科矯正用ワイヤ(0.75mm直径)のループを研磨した歯と水平なボタンの周囲に配置し、引っ張りせん断力は2mm/分のクロスヘッド速度で開始した。接着が破壊したときの力をキログラム(kg)で記録し、この数値を既知であるボタンの接面積を用いて、単位面積あたりの力(kg/cm2、又はMPaの単位)に変換した。エナメル質に対する接着力又は象牙質に対する接着力についての各々の報告値は、2〜10の反復試験の平均を表す。
【0111】
【表A】

【0112】
出発材料の調製
6−メタクリルオキシヘキシルホスフェート(P25からのMHP)
6−ヒドロキシヘキシルメタクリレートの合成:1,6−ヘキサンジオール(1000.00g、8.46モル、シグマ・アルドリッチ)を、機械的攪拌機及びフラスコ中に乾燥空気を吹き込む細い管を装備した、1Lの3つ口フラスコに入れた。固形のジオールを90℃に加熱し、その温度で固形の全ジオールを融解させた。連続して攪拌しながら、p−トルエンスホン酸結晶(18.95g、0.11モル)、続いてBHT(2.42g、0.011モル)及びメタクリル酸(728.4902g、8.46モル)を入れた。攪拌しながら90℃加熱を5時間続けた。その間、各々の0.5時間の反応時間毎に5〜10分間水道水アスピレータを用いて真空にした。加熱を中止し反応混合物を室温に冷却した。得られた粘稠な液体を10%炭酸ソーダ水溶液で2回(2×240mL)洗浄し、続いて水で(2×240mL)で洗浄し、最後に100mLの飽和NaCl水溶液で洗浄した。得られたオイルを無水Na2SO4を用いて乾燥し、次いで真空ろ過で分離し、1067g(67.70%)の6−ヒドロキシヘキシルメタクリレートの黄色オイルを得た。この所望の生成物は15〜18%の1,6−ビス(メタクロイルオキシヘキサン)を伴って形成された。化学的特性決定はNMR分析によった。
【0113】
6−メタクリルオキシヘキシルホスフェート合成:P410(178.66g、0.63モル)及び塩化メチレン(500mL)を、機械的攪拌機を装備した1Lフラスコ中でN2雰囲気下で混合してスラリーを形成した。フラスコを氷浴(0〜5℃)中で15分間冷却した。連続的に攪拌しながら、6−ヒドオキシヘキシルメタクリレート(962.82g、それは3.78モルのモノメタクリレートを、上記のようにそのジメタクリレート副生物とともに含有する)をフラスコに2時間に渡ってゆっくりと添加した。添加を完了後、混合物を氷浴中で1時間次いで室温で2時間攪拌した。BHT(500mg)を添加し、次いで温度を上げて、45分間還流(40〜41℃)させた。加熱を中止し、混合物を室温に冷却させた。溶媒を真空下で除去し、黄色オイルとして1085g(95.5%)の6−メタクリルオキシヘキシルホスフェートを得た。化学的特性決定はNMR分析によった。
【0114】
HEMA−P(HEMAホスフェート及びテトラHEMAピロホスフェートの混合物)
ガス導入口を有した還流コンデンサ、機械的攪拌機、及びガス出口を有した滴下ロートを装備した1Lの三口丸底フラスコに、76.7gのPOCl3及び500mLのTHFを投入した。130.5gのHEMA、101.5gのトリエチルアミン(TEA)87gのTHFの溶液を滴下漏斗に入れた。フラスコを氷−水−食塩の浴により約−5℃に冷却した。攪拌しながら、25分間に渡って溶液を滴下により添加した。その間温度は0℃と−5℃の間に維持した。温度を室温に上昇させながら、混合物を3時間攪拌した。フラスコに追加の200mLTHFを添加し攪拌を容易にした。滴下漏斗に51gのTEA及び6.8gの水を50mLのTHFに溶かした溶液を入れた。フラスコを氷−水−食塩の浴により0−5℃に冷却した後、その溶液を16分間で滴下して添加した。混合物を室温にして18時間攪拌した。混合物をろ過して沈殿した塩を取り除き、THFを真空中で取り除いた。生成物である、168gの淡いオレンジ色液体は、1H、13C及び31P NMRにより、モノ−、ジ−、及びトリ−HEMAホスフェート、並びにテトラ−HEMAピロホスフェートの混合物と化学的特性決定された。
【0115】
充填剤A
3−メタクリロイルオキシプロピルスルホン酸で表面処理したジルコニア充填剤
ジルコニアゾル(271.012g)をイソプロピルアルコール(IPA,270.333g)で5分間混合した。この混合時間中、アンバーライト(AMBERLITE)IR−120(プラス)イオン交換樹脂をエタノールでよくすすぎ、デカントしてイオン交換樹脂を清浄化した。SPMA K塩(35.595)を次いでジルコニアゾルとIPAの混合物に添加し溶解するまで5分間攪拌した。得られた混合物に対して、SPMA K−塩をフリーの酸に転化し、ジルコニアナノ粒子の表面に酸官能性メタクリレート(3−メタクエオイルオキシプロピルスルホン酸)を付着させるために、エタノールでリンスしたイオン交換樹脂を添加した。得られた混合物を室温で20分間攪拌し、次いでパイレックス(登録商標)ガラストレイに流し込み、90℃で15分間乾燥させた。得られた固形物を乳鉢と乳棒を用いて砕き、ふかふかに遊離した流動性の粉末を得た。酸処理したジルコニア粉末は充填剤Aと表し、それは通常の歯科用樹脂、例えば、TEGDMA、TEGDMA/ビスGMA、等に容易に分散する(典型的には攪拌と加熱を伴って)ことが分かった。その分散体は、充填剤を樹脂に入れた初期の分散の後の樹脂混合物に対して、追加の酸官能性(メタ)アクリレートの添加により増強できることが分かった。
【0116】
実施例1〜4及び比較例1〜6
自己エッチング性接着剤組成物
自己エッチング性接着剤組成物を表1に示した構成要素を混合して調製した。得られた組成物は実施例1〜4及び比較例(CE)1〜6に示した。
【表B】

【0117】
実施例5〜10及び比較例7〜10
自己エッチング性接着剤組成物及びゲルタイム測定
自己エッチング性接着剤組成物を表2に示した構成要素を、以下の含有物を組み合わせて作製したストック混合物Aと、表示した量で混合して調製した。
【表C】

【0118】
各含有物の量を含んで得られた組成物を表2に示し、実施例5〜10及び比較例(CE)7〜10に指定した。電子供与体のグラム量は、モル当量であるようにして決定した。
【0119】
表2に列記した組成物のゲルタイムは、所与の混合組成物(電子供与体+ストック混合物A)が半硬質−硬質の固形物に変形するのに要する時間を推定して(最接近で5秒)測定した。最速の硬化サンプルは(実施例5〜6及び9〜10)は光硬化であり、木製スパチュラで直ちに突いてサンプルの硬化性を定性的に評価した。硬化性の減少する順番は、実施例9、実施例6、実施例10、及び実施例5であった。
【0120】
この実験の結果から、フリーラジカル重合性組成物(例えば、増感剤(CPQ)及びヨードニウム塩(DPIHFP)を包含する(メタ)アクリレート)の開始剤系に使用するために最も有効な電子供与体は、アントラセン類及びビフェニレン類の多環式芳香族部類にあると結論できる。
【表D】

【0121】
評価A
光−DSC評価
各サンプルを、モデルDSC2920熱量計(TAインスツルメンツ(TA Instruments)社、デラウェア州ニューカッスル)より入手可能)を用いた光示差走査熱量計(光−DSC)によって、モデルGG400ロングパスフィルター(エスコ(Esco)プロダクツ社、ニュージャージー州オークリッジから入手可能)を介してろ過した100W中圧水銀からの光を用いて、硬化の速度及び度合いを評価した。
【0122】
実施例1〜2及び比較例1〜5を光−DSCに受けさせて、結果を図1に与えた。図1のグラフから、実施例1〜2(EDMOAを光開始剤系の一部として含有する接着剤組成物)は、比較例1〜5(それはEDMOAを含有しない)よりも実質的に改良された硬化効率を示すことがはっきりとわかる。同様に図1から比較例の硬化速度は、組成物中のEDMABの量が増加するとともに高くなることが観察される。しかし、例えばEDMABのようなアミンの高濃度は、自己エッチング性接着剤組成物の性能の点から受け入れられないことが多い。
【0123】
評価B
硬化及び光−DSC評価
実施例3〜4及び比較例6を、8滴の接着剤組成物を歯科用混合ウエルの中に配置し、XL3000硬化ライト(3M社(3M Company)、ミネソタ州セントポール)を用いて作業台上硬化に対して評価した。以下の結果が観察された。
【0124】
実施例3−硬質固形物に硬化;実施例4−硬質固形物に硬化;及び比較例6−ごく僅か硬化し、糸を引く半固形物〜液状材料になる。このように、比較例6(それはEDMOAを含有しない)と比較して、改良された硬化を実施例3〜4(光開始剤系の一部としてEDMOAを含有する接着剤組成物)に対して観察した。
【0125】
実施例3〜4及び比較例6を光−DSCに受けさせて、結果を図2に与えた。図2のグラフから、実施例3〜4は比較例6を上回る実質的に改良された硬化効率を示すことがわかる。
【0126】
評価C
接着強度評価
接着剤試験サンプルのせん断接着強度を、本明細書に記載された、ノッチ型せん断接着試験方法(非カットエナメル質、カットエナメル質、又は象牙質)及びワイヤループせん断接着剤試験方法(カットエナメル質又は象牙質)によって実行した。初期、及び室温で一夜放置後の接着強度を測定した。結果を表3に示す。
【0127】
表3のデータは、実施例3(自己エッチング性接着剤組成物であり、それは、非酸反応性の電子供与体EDMOA及び3級アミンの両方を光開始剤系の一部として含有する)が最高の総合的接着強度性能を与えたことを示す。
【表E】

【0128】
カットエナメル質について、破壊したサンプルを除いて、ノッチ型エッジせん断試験方法を用いて調製直後の即時接着強度の追加的評価を行った。結果を表4に示す。
【0129】
表4のデータから、実施例3(EDMOA及びEDMABの両方を含有する自己エッチング性接着剤組成物)で最高の接着強度が得られることが分かる。
【表F】

【0130】
本発明の範囲及び趣旨を逸脱しない本発明の様々な変更や改変は、当業者には明らかとなるであろう。本発明は、本明細書で述べる例示的な実施形態及び実施例によって不当に限定されるものではないこと、また、こうした実施例及び実施形態は、本明細書において以下に記述する特許請求の範囲によってのみ限定されることを意図する、本発明の範囲に関する例示のためにのみ提示されることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】実施例1〜2及び比較例1〜5の光−DSC(示差走査熱量計)評価を示すグラフ。
【図2】実施例3〜4及び比較例6の光−DSC評価を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フリーラジカル重合性の酸性構成要素と、
多環式芳香族の構成要素を含む光開始剤系とを含む、重合性歯科用組成物。
【請求項2】
前記多環式芳香族の構成要素は、アントラセン誘導体、ビフェニレン誘導体、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記多環式芳香族の構成要素は、2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン(EDMOA)、1,4−ジメトキシアントラセン、9−メチルアントラセン、9,10−メチルアントラセン、アントラセン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記多環式芳香族の構成要素は、ビフェニレンを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記フリーラジカル重合性の酸性構成要素は、エチレン性不飽和の構成要素を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記エチレン性不飽和の構成要素は、りん酸化(メタ)アクリレートを含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記光開始剤系は、アミン電子供与体を更に含む、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記電子供与体は3級アミンである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記3級アミンはエチル−4−ジメチルアミノベンゾエート(EDMAB)である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
フリーラジカル重合性の非酸性構成要素を更に含む、請求項1〜9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
前記光開始剤系は、可視光吸収剤を更に含む、請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
前記光吸収剤はカンファキノン(CPQ)を含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記光開始剤系は、ヨードニウム塩を更に含む、請求項1〜12に記載の組成物。
【請求項14】
充填剤を更に含む、請求項1〜13のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
前記充填剤はナノ粒子を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
アミン電子供与体と、
多環式芳香族化合物とを含む、光開始剤系。
【請求項17】
フリーラジカル重合性の構成要素と、
請求項16に記載の前記光開始剤系とを含む、重合性歯科用組成物。
【請求項18】
前記多環式芳香族の構成要素は、アントラセン誘導体、ビフェニレン誘導体、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記多環式芳香族の構成要素は、2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン(EDMOA)、1,4−ジメトキシアントラセン、9−メチルアントラセン、9,10−メチルアントラセン、アントラセン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記多環式芳香族の構成要素はビフェニレンを含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
前記フリーラジカル重合性の構成要素はエチレン性不飽和の構成要素を含む、請求項17〜20のいずれかに記載の組成物。
【請求項22】
前記エチレン性不飽和の構成要素は酸性構成要素を含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記エチレン性不飽和の構成要素は非酸性(メタ)アクリレートを含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項24】
前記エチレン性不飽和の構成要素は、りん酸化(メタ)アクリレートを含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項25】
前記アミン電子供与体は3級アミンである、請求項17に記載の組成物。
【請求項26】
前記3級アミンは、エチル−4−ジメチルアミノベンゾエート(EDMAB)を含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記光開始剤系は可視光吸収剤を更に含む、請求項17〜26のいずれかに記載の組成物。
【請求項28】
前記可視光吸収剤はカンファキノン(CPQ)を含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項29】
前記光開始剤系はヨードニウム塩を更に含む、請求項17〜28のいずれかに記載の組成物。
【請求項30】
充填剤を更に含む、請求項17〜29のいずれかに記載の組成物。
【請求項31】
充填剤はナノ粒子を含む、請求項23に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−522271(P2009−522271A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−548675(P2008−548675)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【国際出願番号】PCT/US2006/049249
【国際公開番号】WO2007/079070
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】