説明

歯科適用のためのガラス

【課題】釉薬が、歯科修復物上に生成され得、かつ焼成時に高い寸法安定性を有する材料を提供すること。
【解決手段】本明細書に記載の成分を含む歯科適用のためのガラスであって、(a)MeIIOは、Ca、Mg、SrおよびZnの酸化物の群から選択される、少なくとも1つの二価の酸化物を表し、そして(b)さらなる酸化物は、B、Zr、CeおよびYの酸化物の群から選択される、少なくとも1つの酸化物を表す、ガラスにより、本発明の目的が達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成時に低い熱膨張係数および高い安定性を有し、歯科修復物のための釉薬材料として非常に適する歯科適用のためのガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科において、金属担持修復物に加えて、全セラミック修復物がますます使用されている。金属またはセラミック製の骨格は、通常、数層のコーティングおよび前装材料(veneering material)とともに提供され、美的に特に魅力のある修復物を達成する。
【0003】
セラミック骨格の加工において、層化(layering)技術を使用するか、または染色技術を使用するかに関わらず、別々の釉薬焼成が高温で行われるプロセスが現在確立されている。光学的に魅力的な光沢を達成することに加えて、このプロセスによって得られる釉薬はまた、表面の可能性のある起伏(unevennesses)を均一にし、それによって歯垢の形成を低減する役割を有する。しかしながら、この釉薬の適用は、今までのところ、さらなる作業工程だけではなく、加工された歯科修復物に対するさらなる熱応力も意味する。
【0004】
歯科修復物のための骨格材料として適切な、非常に多くの異なるガラスセラミックが現在の技術水準から公知である。近年、ヒートプレス(heat−pressing)技術(例えば、Ivoclar Vivadent AG,Schaan,Liechtenstein製のIPS Empress(登録商標))は、このような骨格の調製のために、機械加工によりCAD/CAMシステムに組み入れられている。特に、Sirona製のCEREC(登録商標)システムは、世界規模で多くのユーザーに使用されている。
【0005】
さらに、ガラスセラミックは、現在の技術水準から公知であり、これは、簡単な機械的加工のための最初の結晶化段階において存在し、歯科修復物の骨格の力学的性質を改善するために、この加工後に、さらなる結晶化(セラミック化(ceramization)とも呼ばれる)に供される。このような骨格材料の例は、マイカガラスセラミックまたはケイ酸リチウムガラスセラミックであり、これらは、メタケイ酸塩相(phase)の状態で機械加工され、そしてさらなるセラミック化によって二ケイ酸リチウム相を形成し、したがって明らかにより大きな強度を得る。このようなガラスセラミックは、特許文献1に詳細に記載される。
【0006】
さらなる材料として、近年、種々の等級の安定化ZrOセラミックが、歯科実験室および歯科実施において用途を見出されている。各々の場合において焼結の程度(すなわち、部分的にか、または完全に稠密に焼結された材料)に依存して、種々の機械および加工システムが市場において確立されている。
【0007】
天然の歯に相当する美的外観を達成するために、このようなセラミックまたはその他の金属骨格は、数層のガラスセラミックまたはガラスと張り合わされ、最後に釉薬によって封入される。
【0008】
しかしながら、2〜3の層をさらに適用することにより、天然の歯の外観に似せる必要がない、一連の出発材料が存在する。とりわけ、名称Trilux(登録商標)のもとでVitaにより販売されるものなどのCAD/CAM加工用多色ブランクがここで言及されるべきである。このような出発材料における関心は、まもなく強力に増大すると想定される。なぜなら、これによって、歯科修復物の調製において、大幅な量の時間が節約されるからである。
【0009】
出発材料から調製された修復物が直接見えない場合、適切に着色された出発材料を加工することもまた可能である。ここで、側方の歯の領域におけるインレーまたはアンレーは、特に言及されるべきである。これらの修復物は、釉薬のみを使用して、歯科加工を仕上げることを可能にする。
【0010】
しかしながら、より簡便な作業性(workability)のために、もっとも高い強度が未だに達成されていない状態で、CAD/CAMによって加工される材料が、ますます使用されていることもまた示されている。ミリングまたは研磨の後で、さらなる結晶化が熱処理によって誘発され、それにより、機械的な特性が改善される。通例の前装材料および層化材料もまた使用される場合、公知の前装材料および層化材料が焼成時に必要とされる安定性を欠くので、別個の焼成が、所望の釉薬に必要とされる。しかしながら、これらの通例の材料はまた、焼成に使用される高温において、必要とされる寸法安定性を欠く。このことは、これらの材料が流れ出す点で顕在化する。
【特許文献1】独国特許発明第103 36 913号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の項目を提供する。
(項目1)
以下:
【0012】
【表4】

の成分を含む歯科適用のためのガラスであって、ここで、
(a)MeIIOは、Ca、Mg、SrおよびZnの酸化物の群から選択される、少なくとも1つの二価の酸化物を表し、そして
(b)さらなる酸化物は、B、Zr、CeおよびYの酸化物の群から選択される、少なくとも1つの酸化物を表す、
ガラス。
(項目2)
本質的に上記成分からなる、項目1に記載のガラス。
(項目3)
上記成分のうちの少なくとも1つを、以下:
【0013】
【表5】

の量で含む、項目1または2に記載のガラス。
(項目4)
2.0重量%未満のZnOを含む、項目1〜3のいずれか一項に記載のガラス。
(項目5)
0.5〜2.5重量%のZrOを含む、項目1〜4のいずれか一項に記載のガラス。
(項目6)
15.5〜19.0重量%のKO、特に、17.5〜19.0重量%のKOを含む、項目1〜5のいずれか一項に記載のガラス。
(項目7)
上記成分のうちの少なくとも1つを、以下:
【0014】
【表6】

の量で含む、項目1〜6のいずれか一項に記載のガラス。
(項目8)
900〜950℃の焼成温度、特に、910〜930℃の焼成温度を有する、項目1〜7のいずれか一項に記載のガラス。
(項目9)
100〜500℃の温度範囲において、8.0・10−6−1〜9.5・10−6−1の線熱膨張係数、そして特に、8.4・10−6−1〜9.1・10−6−1の線熱膨張係数を有する、項目1〜8のいずれか一項に記載のガラス。
(項目10)
歯科修復物のつや出し材料としての、項目1〜9のいずれか一項に記載のガラスの使用。
(項目11)
上記歯科修復物が、ブリッジ、クラウン、インレー、アンレー、前装、キャップ、またはこれらの部品である、項目10に記載の使用。
(項目12)
上記歯科修復物が、ガラス、セラミック、金属またはガラスセラミックに基づく、項目10または11に記載の使用。
(項目13)
上記ガラスセラミックが、ケイ酸リチウムガラスセラミック、マイカガラスセラミックまたはコンドロダイトガラスセラミックである、項目12に記載の使用。
(項目14)
上記ケイ酸リチウムガラスセラミックが、メタケイ酸リチウムまたは二ケイ酸リチウムガラスセラミックである、項目13に記載の使用。
(項目15)
歯科修復物上に釉薬を適用するためのプロセスであって、このプロセスにおいて、
(a)項目1〜9のいずれか一項に記載のガラスが、この歯科修復物上に適用され、そして、
(b)このガラスを提供された歯科修復物は、このガラスを、この修復物にしっかりと付着する釉薬へ変換するために、熱処理に供される、
プロセス。
(項目16)
上記熱処理が、少なくとも860℃の温度、特に、860〜960℃の温度で行われる、項目15に記載のプロセス。
(項目17)
上記歯科修復物が、ガラス、セラミック、金属またはガラスセラミックに基づく、項目15または16に記載のプロセス。
(項目18)
上記熱処理がまた、上記ガラスまたは上記ガラスセラミック内で結晶の形成をもたらす、項目17に記載のプロセス。
(項目19)
上記熱処理が、二ケイ酸リチウム結晶またはマイカ結晶の形成をもたらす、項目18に記載のプロセス。
(項目20)
上記結晶の形成が、上記歯科修復物の強度、特に、曲げ強度の増大をもたらす、項目18または19に記載のプロセス。
【0015】
(要約)
本発明は、歯科修復物のつや出し材料として使用することができる歯科適用のためのガラスに関し、このガラスは、高温であっても耐性を示し、それゆえ流れる傾向を有さない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
したがって、本発明の目的は、釉薬が、歯科修復物上に生成され得、かつ焼成時に高い寸法安定性を有する材料を提供することである。さらに、釉薬を形成するためにこの材料を加工することは、これに適切な修復物内での結晶の形成を同時にもたらす。このことにより、(a)最終的なセラミック化または結晶化の作業工程、および(b)釉薬の焼成の作業工程を一工程で実行することを可能にする。
【0017】
驚くべきことに、この目的は、請求項1〜9に記載の歯科適用のためのガラスによって達成される。
【0018】
本発明はまた、請求項10〜14に記載のガラスの使用および請求項15〜20に記載の歯科修復物に釉薬を適用するためのプロセスにも関する。
【0019】
歯科適用のための本発明に従うガラスは、以下の成分を含む点を特徴とする。
【0020】
【表7】

ここで、
(a)MeIIOは、Ca、Mg、SrおよびZnの酸化物の群から選択される、少なくとも1つの二価の酸化物を表し、そして
(b)さらなる酸化物は、B、Zr、CeおよびYの酸化物の群から選択される、少なくとも1つの酸化物を表す。
【0021】
上記ガラスが本質的に上記成分からなることが好ましい。
【0022】
上記ガラスが、上記成分のうちの少なくとも1つを以下の量で含むことがさらに好ましい。
【0023】
【表8】

上記ガラスが2.0重量%未満のZnOを含むことが有利であることもまた実証されている。
【0024】
さらに、ガラスは、0.5〜2.5重量%のZrOを含むことが好ましい。
【0025】
さらに好ましい実施形態において、上記ガラスは、15.5〜19.0重量%のKO、特に、17.5〜19.0重量%のKOを含む。
【0026】
上記成分のうちの少なくとも1つを以下の量で含むガラスが特に好ましい。
【0027】
【表9】

驚くべきことに、本発明に従うガラスは、適切な歯科修復物の同時の結晶形成に使用される高温において寸法的に安定であることが示されている。したがって、適切な骨格材料の最終的なセラミック化は、1つの工程で、釉薬の望ましい適用と同時に生じ得る。このことは、ユーザーに多大な利点を示す。
【0028】
本発明に従うガラスの使用は、修復物の部品上で特に有利である。この修復物の部品は、ほんの部分的に強化された状態で研磨またはミリングされており、その後、力学的性質を改善するために、さらなる熱処理に供される。特に、上記ガラスの使用は、メタケイ酸リチウムガラスセラミック製の修復物の部品上の釉薬として適しており、このメタケイ酸リチウムガラスセラミックは、熱処理の結果として二ケイ酸リチウム結晶を形成する。
【0029】
さらに、本発明に従うガラスは、好ましくは、900〜950℃の焼成温度、特に、910〜930℃の焼成温度を有する。この焼成温度は、実施例に示される様式で決定される。
【0030】
さらに、本発明に従うガラスは、骨格材料と反応せず、かつ熱処理後に、骨格材料に美的な高い光沢を提供する。これはまた、非常に良好な化学的な安定性を保持する。このことは、口腔内で種々の流体と絶え間なく接触する材料にとって重要な特性である。
【0031】
ガラスまたはガラスセラミックに基づく修復物のための釉薬材料として使用する場合、本発明に従うガラスの熱膨張係数は、このガラス内に存在する成分の型および量を変動させることによって適切に適合させることができる。100〜500℃の範囲の温度で、8.0・10−6−1〜9.5・10−6−1の線熱膨張係数(linear coefficient of thermal expansion)、特に、8.4・10−6−1〜9.1・10−6−1の線熱膨張係数を有するガラスが好ましい。
【0032】
本発明に従うガラスは、現在の技術水準から公知のプロセスにしたがって、約1200℃〜約1600℃の温度で、適切な出発材料(例えば、酸化物、水酸化物および炭酸塩)から、ガラス溶融物を形成することにより、調製することができる。
【0033】
その後、このガラス溶融物は、通常、水に注がれ、形成されたガラス顆粒は、最大100μm、好ましくは最大50μmの粒子サイズに縮小される。
【0034】
本発明に従うガラスは、特に、歯科修復物のつや出し材料として使用され、本発明はまたこの用途に関する。
【0035】
上記の歯科修復物は、特に、ブリッジ、クラウン、インレー、アンレー、前装もしくはキャップ、またはそれらの部品である。
【0036】
上記の歯科修復物は、好ましくは、ガラス、セラミック、金属またはガラスセラミックに基づき、特に、ガラスセラミックに基づく。
【0037】
ケイ酸リチウムガラスセラミック、マイカガラスセラミックまたはコンドロダイトガラスセラミックは、好ましくは、ガラスセラミックとして使用される。これらは、適切な前駆物質から調製され得、この前駆物質は、釉薬として本発明に従うガラスを適用した後で、強度において強力な増大を示し、熱処理およびそれに誘発される結晶形成の結果として、所望のガラスセラミックの形成をもたらす。
【0038】
上記のケイ酸リチウムガラスセラミックは、好ましくは、メタケイ酸リチウムガラスセラミックまたは二ケイ酸リチウムガラスセラミックである。
【0039】
前駆物質としてメタケイ酸リチウムガラスセラミックを使用する場合、熱処理は、二ケイ酸塩結晶へのメタケイ酸塩結晶の変換をもたらし、これによって、構造が大幅に強化される。
【0040】
したがって、本発明はまた、歯科修復物に釉薬を適用するためのプロセスにも関し、このプロセスにおいて、
(a)本発明に従うガラスが、歯科修復物上に適用され、かつ
(b)上記ガラスを提供された歯科修復物は、このガラスを、この修復物にしっかりと付着する釉薬へ変換するために、熱処理に供される。
【0041】
上記熱処理は、好ましくは、少なくとも860℃の温度、特に、860〜960℃の温度で実行される。
【0042】
既に述べたように、特に、ガラス、セラミック、金属またはガラスセラミックに基づく歯科修復物が使用される。
【0043】
上記の熱処理がまた、ガラスまたはガラスセラミック内に結晶の形成ももたらすことが特に好ましい。結晶の形成により、結晶の変換(例えば、二ケイ酸塩結晶へのメタケイ酸塩の変換)もまた意味される。
【0044】
本発明に従うガラスは、ケイ酸リチウムガラスセラミックへ釉薬を適用するためのプロセスにおいて使用する場合に大きな利点を提供するだけではなく、また、使用される熱処理に依存して、種々の結晶相を沈殿させる他のガラスセラミック材料において、有利な様式で使用され得る。このような他のガラスセラミック材料の例は、K.Chyung,G.H.Beall,D.G.Grossman;Fluorophlogopite Mica Glass−Ceramics;10th Int.Cong.on Glass,Kyoto,The Ceramic Soc.Japan 14(1974)33−40において示される。
【0045】
本発明に従うプロセスにおいて、好ましくは、熱処理の間に、二ケイ酸リチウム結晶またはマイカ結晶を形成することができるガラスまたはガラスセラミックが使用される。したがって、工程(a)において、好ましくは、メタケイ酸リチウムガラスセラミックまたはコンドロダイトガラスセラミックに基づく修復物が使用される。
【0046】
さらに、結晶の形成が歯科修復物の強度(特に、曲げ強度)の増大をもたらすプロセスが特に好ましい。
【0047】
本発明は、実施例を参照して、以下でさらに詳細に説明される。
【実施例】
【0048】
(実施例1〜4 本発明に従うガラスの組成および特性)
本発明に従う、全部で4つの異なるガラスを調製し、これらは、以下の表に示される化学組成を有していた。
【0049】
【表10】

これらの調製のために、各々の場合において、適切な酸化物、水酸化物および炭酸塩の混合物を、1500℃〜1550℃の温度で、1〜1.5時間の均質化時間にわたり白金/ロジウムのるつぼ中で溶融させた。このガラス溶融物を、水中で急冷し、粒子の数に関して、100μm未満の平均粒子サイズまで粉砕した。
【0050】
各々のガラスから作製された適切な試験片を使用して測定した、選択された特性を、表1からのガラスに関して、表2に示す。これらの実施例は、所望の特性を有するガラスが、所定の範囲内で、その成分およびそれらの量を変動させることによって調製されることができることを示す。
【0051】
【表11】

これらの特性を、引用された基準を使用して以下に記載される様式で測定した。
【0052】
(焼成温度の測定)
焼成温度を、DIN ISO 6872にしたがって調製したプレートリット(platelet)(直径12mmおよび高さ2mm)を使用して測定した。これらのプレートリットを、種々の温度で焼成し、次に、焼成の程度を、泡の個数、表面の光沢および縁の丸みの基準を使用して評価した。
【0053】
(膨張係数αの測定)
ISO 6872にしたがって線熱膨張係数αを測定するために、各々のガラスの粉末からロッド状の素地を調製し、60℃/分の加熱速度(heating−up rate)および表2に示される焼成温度での1分間の保持時間で、減圧炉(vacuum furnace)中で焼結し、試験片を調製した。次に、線熱膨張係数を、このようにして得られた試験片を使用して、100℃〜500℃の範囲内で測定した。
【0054】
(化学的な安定性の測定)
耐酸性は、歯科において、まさに使用されるガラスの耐薬品性の尺度である。なぜなら、これらは、口腔内で、酸物質の作用に恒久的に曝露されるからである。
【0055】
耐酸性を、ISO 6872(1995)にしたがって測定した。この目的のために、まず、試験プレートリット(直径12mmおよび厚み1mm)を、50μm未満の平均粒径を有するガラス粉末とともに焼結することによって調製した。この粉末を、各々の焼成温度で1分間保持し、試験片を調製した。次に、試験プレートリットを、80℃で16時間、4体積%の水性酢酸によって処理した。その後、生じた質量の損失を、耐酸性の尺度として試験片のプレートリットの表面について測定した。
【0056】
(ビッカース硬度の測定)
硬度は、材料の機械的な抵抗の尺度である。使用されるガラスは、そしゃく力による摩耗に曝されるので、硬度は、この特性を定量化するために当を得ている。
【0057】
ビッカース硬度を測定するために、試験片(直径20mmおよび厚み3mm)を、50μm未満の平均粒径を有するガラス粉末とともに焼結することにより調製した。この粉末を、各々の焼成温度で1分間保持し、試験片を調製した。ISO 14705(2000)にしたがい、磨いた表面上で6回行った測定からの平均値を使用することにより、ビッカース硬度を測定した。
【0058】
(実施例5:釉薬材料としての本発明に従うガラスの使用)
この実施例は、修復物の部品のための釉薬材料としての、本発明に従うガラスの使用を記載する。この修復物の部品は、ほんの部分的に強化された状態で研磨またはミリングされており、その後、力学的性質を改善するために、さらなる熱処理に供される。メタケイ酸リチウムガラスセラミックの修復物を使用した。驚くべきことに、この熱処理は、強度における明確な増大のみならず、同時に、この修復物のつや出しも一工程でもたらした。したがって、本発明に従うガラスは、簡単なつや出し材料として記載され得る。
【0059】
実施例2に従うガラス粉末(最大50μmの平均粒径を有する)を、Ivoclar Vivadent AG製のユニバーサル釉薬および染色染料と混合し、約150μmの平均の層の厚みで、CAD/CAM技術(Sirona,Bensheim,Germany製Cerec(登録商標)3)によって調製したメタケイ酸リチウムガラスセラミックモデルクラウンに適用した。次に、熱処理を、860℃の温度、60℃/分の加熱速度、および10分間の保持時間で行った。このメタケイ酸リチウムガラスセラミックが、二ケイ酸リチウムガラスセラミックに変換されると、本発明に従うガラスを含む釉薬の焼成が、同時に起こった。
【0060】
使用し、熱処理後に得られたガラスセラミックの強度(二軸の(biaxial)曲げ強度)についての研究は、以下の結果を生じた(つや出しされていない試験片を使用して行った4回の測定からの平均値):
メタケイ酸リチウムガラスセラミック:244±27MPa
二ケイ酸リチウムガラスセラミック:537±41MPa。
【0061】
さらに、つや出しされていない試験片および本発明に従うガラスによってつや出しされた二ケイ酸リチウムガラスセラミック試験片一つの光沢度(glossiness)を測定した(各々2つの試験片および4回の測定の平均値):
二ケイ酸リチウムガラスセラミック(つや出しされていない):5%
二ケイ酸リチウムガラスセラミック(つや出しされた):60%。
【0062】
光沢を、Rhopoint,Great Britain製のnovo−curve(これは、小さなサンプルでさえも光沢度を測定することを可能にする)を使用して測定した。基準ISO 2813にしたがって、測定を行った。測定原理は、60°の角度で試験片の表面に光のビームを向け、反射光の強度を装置内で測定し、参照値と比較することである。
【0063】
(実施例6)
この実施例は、マイカガラスセラミックのためのつや出し材料としての本発明に従うガラスの使用を記載する。
【0064】
このことのために、マイカ結晶を沈殿させることのできるガラスから作製されたガラスブロックを、750℃の温度で1時間焼きなました。この処理による容積結晶化(volume crystallization)によって、このガラス内にコンドロダイト結晶を沈殿させた。このガラスセラミックは、この状態でなお、ダイアモンド工具を使用して加工可能であった。モデルクラウンを、CAD/CAM技術(Sirona,Bensheim,Germany製Cerec(登録商標)3)によって、このガラスセラミックから調製した。
【0065】
実施例1に従うガラス粉末(最大50μmの平均粒径を有する)を、Ivoclar Vivadent AG製のユニバーサル釉薬および染色染料と混合し、約150μmの平均の層の厚みで、このモデルクラウンに適用した。次に、950℃の温度、60℃/分の加熱速度、および20分間の保持時間で、熱処理を行った。この熱処理によって、コンドロダイトガラスセラミックが、マイカガラスセラミックに変換されると、本発明に従うガラスを含む釉薬の焼成が、同時に起こった。
【0066】
強度(二軸曲げ強度)についての研究は、以下の結果を生じた(つや出しされていない試験片について行った4回の測定からの平均値):
コンドロダイトガラスセラミック:150±22MPa
マイカガラスセラミック:310±42MPa。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
【表1】

の成分を含む歯科適用のためのガラスであって、ここで、
(a)MeIIOは、Ca、Mg、SrおよびZnの酸化物の群から選択される、少なくとも1つの二価の酸化物を表し、そして
(b)さらなる酸化物は、B、Zr、CeおよびYの酸化物の群から選択される、少なくとも1つの酸化物を表す、
ガラス。
【請求項2】
本質的に前記成分からなる、請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
前記成分のうちの少なくとも1つを、以下:
【表2】

の量で含む、請求項1または2に記載のガラス。
【請求項4】
2.0重量%未満のZnOを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラス。
【請求項5】
0.5〜2.5重量%のZrOを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のガラス。
【請求項6】
15.5〜19.0重量%のKO、特に、17.5〜19.0重量%のKOを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のガラス。
【請求項7】
前記成分のうちの少なくとも1つを、以下:
【表3】

の量で含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載のガラス。
【請求項8】
900〜950℃の焼成温度、特に、910〜930℃の焼成温度を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載のガラス。
【請求項9】
100〜500℃の温度範囲において、8.0・10−6−1〜9.5・10−6−1の線熱膨張係数、そして特に、8.4・10−6−1〜9.1・10−6−1の線熱膨張係数を有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載のガラス。
【請求項10】
歯科修復物のつや出し材料としての、請求項1〜9のいずれか一項に記載のガラスの使用。
【請求項11】
前記歯科修復物が、ブリッジ、クラウン、インレー、アンレー、前装、キャップ、またはこれらの部品である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記歯科修復物が、ガラス、セラミック、金属またはガラスセラミックに基づく、請求項10または11に記載の使用。
【請求項13】
前記ガラスセラミックが、ケイ酸リチウムガラスセラミック、マイカガラスセラミックまたはコンドロダイトガラスセラミックである、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記ケイ酸リチウムガラスセラミックが、メタケイ酸リチウムまたは二ケイ酸リチウムガラスセラミックである、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
歯科修復物上に釉薬を適用するためのプロセスであって、該プロセスにおいて、
(a)請求項1〜9のいずれか一項に記載のガラスが、該歯科修復物上に適用され、そして、
(b)該ガラスを提供された歯科修復物は、該ガラスを、該修復物にしっかりと付着する釉薬へ変換するために、熱処理に供される、
プロセス。
【請求項16】
前記熱処理が、少なくとも860℃の温度、特に、860〜960℃の温度で行われる、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記歯科修復物が、ガラス、セラミック、金属またはガラスセラミックに基づく、請求項15または16に記載のプロセス。
【請求項18】
前記熱処理がまた、前記ガラスまたは前記ガラスセラミック内で結晶の形成をもたらす、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
前記熱処理が、二ケイ酸リチウム結晶またはマイカ結晶の形成をもたらす、請求項18に記載のプロセス。
【請求項20】
前記結晶の形成が、前記歯科修復物の強度、特に、曲げ強度の増大をもたらす、請求項18または19に記載のプロセス。

【公開番号】特開2008−88170(P2008−88170A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238150(P2007−238150)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(501151539)イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト (54)
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL−9494 Schaan Liechtenstein
【Fターム(参考)】