歯車対の設計装置、歯車対の設計プログラム、歯車対の設計方法、及び歯車対
【課題】実用に耐え得る良好な歯車対を歩留まり良く効率的に加工するための設計情報を容易に設定することができる歯車対の設計装置を提供する。
【解決手段】演算部6は、各歯面修正量の値の組み合わせからなる歯面修正量群Gを複数パターン設定し、基本諸元に各歯面修正量を付与した諸元を用いて歯面加工を行った際に加工誤差範囲内で製造され得る複数パターンの歯車対を歯面修正量群G毎にシミュレーションし各歯車対における各歯面の歯面誤差分布情報をそれぞれ演算する。歯面修正量群G毎に設定加工範囲内でシミュレーションされた全歯車対に対し、複数の噛み合い条件での各伝達誤差量Eを対応する各歯面誤差分布情報に基づいてそれぞれ演算し、最良の歯面修正量群を抽出する。その際、トルクTqに応じて発生する組付誤差量Dを噛み合いモデルでの各ギヤの変位量に基づき所定トルク毎に演算し、この組付誤差量Dを噛み合い条件として用いる。
【解決手段】演算部6は、各歯面修正量の値の組み合わせからなる歯面修正量群Gを複数パターン設定し、基本諸元に各歯面修正量を付与した諸元を用いて歯面加工を行った際に加工誤差範囲内で製造され得る複数パターンの歯車対を歯面修正量群G毎にシミュレーションし各歯車対における各歯面の歯面誤差分布情報をそれぞれ演算する。歯面修正量群G毎に設定加工範囲内でシミュレーションされた全歯車対に対し、複数の噛み合い条件での各伝達誤差量Eを対応する各歯面誤差分布情報に基づいてそれぞれ演算し、最良の歯面修正量群を抽出する。その際、トルクTqに応じて発生する組付誤差量Dを噛み合いモデルでの各ギヤの変位量に基づき所定トルク毎に演算し、この組付誤差量Dを噛み合い条件として用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパーギヤやヘリカルギヤ等からなる歯車対の基準歯面に対して歯面修正量を設定する歯車対の設計装置、歯車対の設計プログラム、歯車対の設計方法、及び歯車対に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、歯車対の歯当り分布の良否やギヤノイズのレベル等の性能は、歯面形状のミクロン単位の違いによっても大きく左右される。従って、歯車対の設計においては、所望の歯車対の基本形状等を規定するための基本諸元が設定された後、この基本諸元に基づいて一義的に定まる各歯車の基準歯面を3次元的に修正するための各種歯面修正量がミクロン単位で設定される。そして、基準歯面に対して各種歯面修正量等が付与されることにより、歯車対の加工に供する最終的な設計歯面修正量が設定される。
【0003】
この種の歯車対を設計するための技術として、例えば、特許文献1には、歯車対の各基本諸元に対する各歯面修正量をそれぞれ変化させた値の組み合わせからなる歯面修正量群を複数パターン設定し、基本諸元に各歯面修正量を付与した諸元を用いて歯面加工を行った際に加工誤差範囲内で製造され得る複数パターンの歯車対を歯面修正量群毎にシミュレーションして各歯車対における各歯面の歯面誤差分布情報を演算する技術が開示されている。さらに、特許文献1には、歯面修正量群毎に設定加工誤差範囲内でシミュレーションされた全ての歯車対に対して、予め設定された複数パターンの噛み合い条件での各伝達誤差量を対応する各歯面誤差分布情報に基づいてそれぞれ演算し、各伝達誤差量のうちの設定割合以上が閾値内となる歯面修正量群の中から最終的な歯面修正量群を抽出する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2008−123117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような歯車対の設計において、実用に耐え得る良好な歯車対を設計するためには、実際に歯車対に付与するトルク等の噛み合い条件を十分に考慮することが重要となる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、実用に耐え得る良好な歯車対を歩留まり良く加工するための設計情報を容易に設定することができる歯車対の設計装置、歯車対の設計プログラム、歯車対の設計方法、及び歯車対を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、互いに噛み合う駆動歯車及び被動歯車の基本諸元により設定される各基準歯面に対して複数項目の歯面修正量を付与することで歯車対の加工に供する最終的な設計歯面修正量を設定する歯車対の設計装置であって、上記各歯面修正量をそれぞれ変化させた値の組み合わせからなる歯面修正量群を複数パターン設定する歯面修正量群設定手段と、上記基準歯面に上記各歯面修正量を付与して歯面加工を行った際に設定加工誤差範囲内で製造され得る複数パターンの歯車対を上記歯面修正量群毎にシミュレーションし、当該各歯車対における駆動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報と被動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報とをそれぞれ演算する歯面誤差情報演算手段と、歯車対に付与したトルクに応じて発生する動的な組付誤差量を上記駆動歯車及び上記被動歯車の変位量に基づいて所定トルク毎に演算する組付誤差量演算手段と、上記歯面修正量群毎に上記設定加工誤差範囲内でシミュレーションされた全ての上記歯車対について、上記組付誤差量をパラメータとして含む複数パターンの噛み合い条件で上記駆動歯車と上記被動歯車とを噛み合わせたときの各伝達誤差量を、対応する上記各歯面誤差分布情報に基づいてそれぞれ演算する伝達誤差量演算手段と、演算した各伝達誤差量が設定条件を満たす上記歯面修正量群が存在する場合に、当該歯面修正量群の中から最良の歯面修正量群を抽出する歯面修正量群抽出手段と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、互いに噛み合う駆動歯車及び被動歯車の基本諸元により設定される各基準歯面に対して複数項目の歯面修正量を付与することで歯車対の加工に供する最終的な設計歯面修正量を設定する歯車対の設計プログラムであって、上記各歯面修正量をそれぞれ変化させた値の組み合わせからなる歯面修正量群を複数パターン設定する歯面修正量群設定ステップと、上記基準歯面に上記各歯面修正量を付与して歯面加工を行った際に設定加工誤差範囲内で製造され得る複数パターンの歯車対を上記歯面修正量群毎にシミュレーションし、当該各歯車対における駆動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報と被動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報とをそれぞれ演算する歯面誤差情報演算ステップと、歯車対に付与したトルクに応じて発生する動的な組付誤差量を上記駆動歯車及び上記被動歯車の変位量に基づいて所定トルク毎に演算する組付誤差量演算ステップと、上記歯面修正量群毎に上記設定加工誤差範囲内でシミュレーションされた全ての上記歯車対について、上記組付誤差量をパラメータとして含む複数パターンの噛み合い条件で上記駆動歯車と上記被動歯車とを噛み合わせたときの各伝達誤差量を、対応する上記各歯面誤差分布情報に基づいてそれぞれ演算する伝達誤差量演算ステップと、演算した各伝達誤差量が設定条件を満たす上記歯面修正量群が存在する場合に、当該歯面修正量群の中から最良の歯面修正量群を抽出する歯面修正量群抽出ステップと、を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、互いに噛み合う駆動歯車及び被動歯車の基本諸元により設定される各基準歯面に対して複数項目の歯面修正量を付与することで歯車対の加工に供する最終的な設計歯面修正量を設定する歯車対の設計方法であって、上記各歯面修正量をそれぞれ変化させた値の組み合わせからなる歯面修正量群を複数パターン設定する歯面修正量群設定工程と、上記基準歯面に上記各歯面修正量を付与して歯面加工を行った際に設定加工誤差範囲内で製造され得る複数パターンの歯車対を上記歯面修正量群毎にシミュレーションし、当該各歯車対における駆動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報と被動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報とをそれぞれ演算する歯面誤差情報演算ステップと、歯車対に付与したトルクに応じて発生する動的な組付誤差量を上記駆動歯車及び上記被動歯車の変位量に基づいて所定トルク毎に演算する組付誤差量演算工程と、上記歯面修正量群毎に上記設定加工誤差範囲内でシミュレーションされた全ての上記歯車対について、上記組付誤差量をパラメータとして含む複数パターンの噛み合い条件で上記駆動歯車と上記被動歯車とを噛み合わせたときの各伝達誤差量を、対応する上記各歯面誤差分布情報に基づいてそれぞれ演算する伝達誤差量演算工程と、演算した各伝達誤差量が設定条件を満たす上記歯面修正量群が存在する場合に、当該歯面修正量群の中から最良の歯面修正量群を抽出する歯面修正量群抽出工程と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の歯車対は、上記歯車対の設計装置で抽出した最良の歯面修正量群に基づいて駆動歯車及び被動歯車の歯面加工を行ったことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、実用に耐え得る良好な歯車対を歩留まり良く効率的に加工するための設計情報を容易に設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一形態に係わり、図1は歯車対の設計装置の概略構成図、図2は歯車対の設計装置を実現するためのコンピュータの一例を示す概略図、図3は歯車対の設計歯面修正量設定ルーチンを示すフローチャート、図4は歯面誤差演算サブルーチンを示すフローチャート、図5は伝達誤差量演算サブルーチンを示すフローチャート、図6は歯面上に設定された修正量入力点を示す説明図、図7は歯先修正量及び歯元修正量の説明図、図8(a)はクラウニング修正量の説明図,図8(b)は歯筋タオレ修正量の説明図、図9はバイアス修正量の説明図、図10は駆動歯車の歯幅が被動歯車の歯幅よりも大きい場合の歯面誤差データの抽出領域を示す説明図、図11は駆動歯車の歯幅が被動歯車の歯幅よりも小さい場合の歯面誤差データの抽出領域を示す説明図、図12は等高線表示された相対歯面誤差分布の一例を示す説明図、図13は相対歯面誤差分布から導き出される無負荷状態での伝達誤差量の説明図、図14は伝達誤差量の目標値の一例を示すマップ、図15は図14のI−I線に沿って伝達誤差量の目標値及び閾値を示すマップ、図16は図14のII−II線に沿って伝達誤差量の目標値及び閾値を示すマップ、図17は歯車対の概略構成図、図18は公差範囲入力画面の一例を示す説明図、図19は食違誤差と平行誤差の説明図、図20は各計測点における駆動歯車軸トルクと変位との関係の一例を示す説明図、図21は動的なデフレクションの一例を示す説明図、図22は実機上における歯車対の動的なデフレクションの一例を示す説明図、図23は実機上における所定負荷状態での歯車対のモーションカーブの一例を示す説明図、図24は伝達誤差変位の噛み合い次数成分(振幅値)の一例を示す説明図、図25は伝達誤差頻度マップの一例を示す説明図、図26は伝達誤差トルク特性の一例を示す説明図、図27は目標値以下の伝達誤差の発生頻度を示す頻度マップの一例を示す説明図である。
【0012】
図1に示す歯車対の設計装置1は、例えば、互いに噛み合う駆動歯車101と被動歯車102がそれぞれはすば歯車(ヘリカルギヤ)で構成される歯車対100(図17参照)の設計を行う。具体的には、設計装置1は、駆動歯車101及び被動歯車102の基本諸元により規定される各基準歯面に対して複数項目の歯面修正量をシミュレーション上で付与することにより歯車対100の加工に供する最終的な設計歯面修正量を設定する。
【0013】
ここで、基本諸元は、例えば、駆動歯車101及び被動歯車102の歯数z、歯直角モジュールmn、歯丈係数Ks、頂隙係数Ck、圧力角αn、歯幅b、及び、ねじれ角β0等を有する。そして、例えば、歯車対100がはすば歯車対である場合には、基本諸元に基づいて、駆動歯車101及び被動歯車102の各歯面のマクロ形状を示す基準歯面であるインボリュート歯面がそれぞれ一義的に定められる。
【0014】
また、駆動歯車101及び被動歯車102のドライブ側及びコースト側の各歯面(各基準歯面)には、設計歯面修正量として、例えば、歯先修正量T、歯元修正量R、クラウニング修正量C、歯筋タオレ修正量L、及び、左右バイアス修正量Bl,Br等(図7乃至図9参照)をそれぞれ加味した値が個別に設定される。そして、歯面加工時に、各設計歯面修正量に基づく歯面修正が行われることにより、各歯面は基準歯面に対して三次元的に加工される。このような各歯面に対する歯面修正は、例えば、シェービング、ホーニング、或いは、歯研(歯面研削)等の各種仕上げ工法を適宜選択的に用いて行うことが可能である。ここで、仕上げ工法として歯研が選択される場合、当該歯研に対応する設計歯面修正量としては、例えば、歯先修正量T及び歯元修正量Rに代えて、歯形丸み量FFA及び圧力角誤差量FAが設定される。なお、以下の説明においては、仕上げ工法として歯研を採用する場合の個別的な説明については適宜省略するが、特に説明する場合を除き、歯研を対象とする解析等については、歯先修正量T及び歯元修正量Rを歯形丸み量FFA及び圧力角誤差量FAで読み替え、さらに、歯先修正量T及び歯元修正量Rに対応するパラメータ(例えば、後述する歯面修正量、公差範囲等)を歯形丸み量FFA及び圧力角誤差量FAに対応する同等の各パラメータで適宜読み替えるものとする。
【0015】
なお、以下の説明では、必要に応じて、駆動歯車101のドライブ側歯面に設定される歯面修正量等に添字”Dv1”を付し、コースト側歯面に設定される歯面修正量等に添字”Dv2”を付す。また、被動歯車102のドライブ側歯面に設定される歯面修正量等に添字”Dn1”を付し、コースト側歯面に設定される歯面修正量等に添字”Dn2”を付す。
【0016】
設計装置1は、基本諸元を含む各種情報を入力するための入力部5と、入力部5からの入力情報に基づいて歯車対の設計歯面修正量を演算する演算部6と、演算部6で実行される設計歯面修正量設定ルーチン等のプログラムを格納するとともに入力部5からの入力情報や演算部6での演算結果等を適宜記憶する記憶部7と、演算部6での演算結果等を出力する出力部8とを有して構成されている。
【0017】
なお、設計装置1は、例えば図2に示すコンピュータシステム10で実現される。このコンピュータシステム10は、例えば、コンピュータ本体11に、キーボード12と、ディスプレイ装置13と、プリンタ14とが接続ケーブル15を介して接続されて要部が構成されている。そして、このコンピュータシステム10において、例えば、コンピュータ本体11に配設された各種ドライブ装置やCPU,ROM,RAM等が演算部6として機能する。また、コンピュータ本体11に内蔵されたハードディスク等が記憶部7として機能するとともに、ディスプレイ装置13やプリンタ14等が出力部8として機能する。
【0018】
ここで、設計装置1には、歯車対の用途や歯車対に要求される性能等に応じてオペレータが設定した各種情報が入力部5を通じて入力される。本実施形態において、具体的には、例えば、歯車対の設計歯面修正量の他、各基準歯面に対して付与する各歯面修正量T,R,C,L,Bl,Brの許容範囲(許容歯面修正量)T(r),R(r),C(r),L(r),Bl(r),Br(r)が入力される。また、設計装置1には、歯面加工時に各項目の歯面修正量T,R,C,L,Bl,Brを用いて歯面修正を行う際にそれぞれ想定される仕上げ工法毎の加工誤差量Te,Re,Ce,Le,Ble,Breの各公差範囲Te(r),Re(r),Ce(r),Le(r),Ble(r),Bre(r)が任意に設定される。なお、上述の各公差範囲の設定に際し、設計装置1は、例えば、図18に示す入力画面を、ディスプレイ装置13等の出力部8に表示することが可能となっている。この場合、図示のように、仕上げ工法が歯研である場合には、歯先修正量T及び歯元修正量Rの公差範囲Te(r),Re(r)代わるパラメータとして、歯形丸みFFA及び圧力角誤差FAの公差範囲FFAe(r),FAe(r)が入力可能となっている。また、本実施形態において、この入力画面上には、仕上げ工法毎に入力される項目毎の公差範囲を互いに関連付けて(具体的には、重ね合わせて)イメージ表示することが可能となっている。そして、このような表示機能を有することにより、オペレータは各仕上げ工法に対して設定した公差範囲を視覚的に確認することが可能となっている。
【0019】
また、設計装置1には、実機に歯車対100を組み付ける際に想定される組付誤差Mis(噛み合い条件)の範囲Mis(r)が入力される。この組付誤差Misとは、例えば、歯車対100を実機に組み付けた際に、主としてベアリングのガタ等に起因して発生する静的な組付誤差であり、本実施形態において、具体的には、静的な組付誤差Misとして、歯車軸の食違方向の組付誤差(食違誤差:Deviation error)Misdeviと、歯車軸の平行方向の組付誤差(平行誤差:Inclination error)Misinclとを設定することが可能となっている。これに伴い、設計装置1には、食違誤差:Deviation error)Misdeviの範囲Misdevi(r)と、平行方向の組付誤差(平行誤差:Inclination error)Misinclの範囲Misincl(r)とが入力可能となっている。また、設計装置1には、実機で歯車対100を使用する際の入力トルクTq(噛み合い条件)の実用範囲(実用トルク範囲)Tq(r)が入力されるとともに、後述する伝達誤差量Eに対する評価マップ等が入力される。そして、これら入力部5等を通じて入力された各種入力情報は、記憶部7に格納される。
【0020】
ここで、伝達誤差量Eに対する評価マップとしては、例えば、図14乃至図16に示すように、食違方向の組付誤差Misdevi(食違誤差:Deviation error)及び入力トルクTq(Input Torque)と、伝達誤差量E(Transmission Error)の良否を判定するための閾値及び目標値との関係を示す3次元マップが入力される。なお、図14乃至図16の評価マップは、平行誤差Misinclを所定の固定値に設定して食違誤差Misdeviを変化させたときのドライブ側の噛み合いを評価するためのものであり、設計装置1には、その他、各種パターンについての評価マップを適宜入力することが可能である。例えば、食違誤差Misdeviを固定値に設定して平行誤差Misinclを変化させたときのドライブ側の噛み合いを評価するための評価マップや、コースト側の噛み合いを評価するための各評価マップ等(図示せず)についても入力することが可能である。
【0021】
そして、演算部6は、例えば、記憶部7に格納された設計歯面修正量設定ルーチンのプログラムを実行し、上記各入力情報に基づく各種演算を行うことにより、歯面修正量群設定手段、歯面誤差情報演算手段、伝達誤差量演算手段、歯面修正量群抽出手段、及び、組付誤差量演算手段としての各機能を実現する。
【0022】
すなわち、演算部6は、記憶部7に格納された上述の各種入力情報を読み出し、歯車対の設計情報(設計条件)として設定する。そして、演算部6は、例えば、各歯面修正量T,R,C,L,Bl,Brを各許容修正量T(r),R(r),C(r),L(r),Bl(r),Br(r)の範囲内においてそれぞれ個別に変化させたとき値の組み合わせからなる複数パターンの歯面修正量群G(G1,G2、・・・、Gn)を設定する。そして、演算部6は、基本諸元に各歯面修正量T,R,C,L,Bl,Brを付与して歯面加工を行った際に各加工誤差範囲Te(r),Re(r),Ce(r),Le(r),Ble(r),Bre(r)内で製造され得る複数パターンの歯車対を歯面修正量群G毎にシミュレーションし、各歯車対における駆動歯車の基準歯面に対する歯面誤差の分布情報と被動歯車の基準歯面に対する歯面誤差の分布情報とをそれぞれ演算する。さらに、演算部6は、各加工誤差範囲Te(r),Re(r),Ce(r),Le(r),Ble(r),Bre(r)の範囲内でそれぞれ歯面修正量群G毎にシミュレーションされた全ての歯車対に対し、駆動歯車と被動歯車とを予め設定された複数パターンの噛み合い条件(組付誤差Mis,トルクTq)でそれぞれ噛み合わせたときの歯面間の各伝達誤差量Eを、対応する各歯面誤差分布情報に基づいてそれぞれ演算する。この場合において、演算部6は、例えば、実機上で歯車対を噛み合わせて所定トルクTqを付与したときに発生するデフレクションDを、シミュレーション等を用いて演算する。このデフレクションDとは歯車対に所定トルクTqを付与したときの各歯車軸の撓み等に起因する動的な組付誤差であり、具体的には、演算部6は、デフレクションDとして、食違誤差Ddevi及び平行誤差Dinclを、実用トルク範囲Tq(r)内で可変設定したトルク条件(トルクTq)毎にそれぞれ演算する。そして、演算部6は、トルク条件毎に演算した各デフレクションDを用いて各伝達誤差量Eを求める。
【0023】
そして、演算部6は、伝達誤差量Eに対する評価マップを参照して、演算した各伝達誤差量Eのうちの設定割合以上が設定閾値内となる歯面修正量群Gの中から最終的な歯面修正量群Gを抽出する。その際、演算部6は、歯面修正量群Gに対応して演算される各伝達誤差量Eのうちの設定要件を満たす伝達誤差量E(例えば、全ての加工誤差量がゼロのときの各伝達誤差量E)を、予め設定された目標値に基づいて評価することで抽出対象とする歯面誤差修正量群Gを絞り込み、絞り込んだ歯面誤差修正量群Gの中から最良の歯面修正量群Gを適宜抽出する。
【0024】
演算部6は、これらの演算を仕上げ工程毎にそれぞれ行うようになっており、これにより、最適な仕上げ工程を選定するとともに、当該選定した仕上げ工法における最良の歯面修正量群Gに基づいて設定される設計歯面修正量を最終的な設計歯面修正量として選定する。
【0025】
次に、演算部6で実行される歯車対の設計処理について、図3に示す設計歯面修正量設定ルーチンのフローチャートに従って詳細に説明する。
ここで、以下の説明においては、はすば歯車対の設計を例に説明する。このはすば歯車対の設計に際し、入力部5を通じたオペレータによる入力によって、記憶部7には、例えば、各歯先修正量Tに対して許容される修正量範囲T(r)として2〜10μmが、各歯元修正量Rに対して許容される修正量範囲R(r)として2〜10μmが、各クラウニング修正量Cに対して許容される修正量範囲C(r)として4〜14μmが、各歯筋タオレ修正量Lに対して許容される修正量範囲L(r)として2〜12μmが、各バイアス修正量Bl,Brに対して許容される修正量範囲Bl(r),Br(r)として0〜15μmが、それぞれ設定されている。また、例えば、図18に示すように、仕上げ工法がシェービングである場合において、歯先修正に対して想定される加工誤差範囲Te(r)として−7〜4μmが、歯元修正に対して想定される加工誤差範囲Re(r)として−4〜6μmが、クラウニング修正に対して想定される加工誤差範囲Ce(r)として−3〜3μmが、歯筋タオレ修正に対して想定される加工誤差範囲Le(r)として−5〜5μmが、バイアス修正に対して想定される加工誤差範囲Ble(r),Bre(r)として−8〜8μmが、それぞれ設定されている。また、仕上げ工法がホーニングである場合において、歯先修正に対して想定される加工誤差範囲Te(r)として−5〜2μmが、歯元修正に対して想定される加工誤差範囲Re(r)として−2〜4μmが、クラウニング修正に対して想定される加工誤差範囲Ce(r)として−2〜2μmが、歯筋タオレ修正に対して想定される加工誤差範囲Le(r)として−4〜4μmが、バイアス修正に対して想定される加工誤差範囲Ble(r),Bre(r)として−7〜7μmが、それぞれ設定されている。また、仕上げ工法が歯研である場合において、歯形丸み修正に対して想定される加工誤差範囲FFAe(r)として−1.5〜1.5μmが、圧力角誤差修正に対して想定される加工誤差範囲FAe(r)として−2〜2μmが、クラウニング修正に対して想定される加工誤差範囲Ce(r)として−1〜1μmが、歯筋タオレ修正に対して想定される加工誤差範囲Le(r)として−3〜3μmが、バイアス修正に対して想定される加工誤差範囲Ble(r),Bre(r)として−5〜5μmが、それぞれ設定されている。さらに、静的な組付誤差Misの範囲、及び入力トルクTqの実用範囲として、食違誤差Misdeviの範囲Misdevi(r)=−0.03〜0.17(deg)、Tq(r)=0〜20(kgfm)がそれぞれ設定されている。なお、以下の説明においては、説明を簡略化するため、静的な平行誤差Misinclを所定の固定値(例えば、Misincl=0)とした場合の一例について説明する。
【0026】
このルーチンがスタートすると、演算部6は、先ず、ステップS101において、オペレータによって設定された各種入力情報を読み込む。すなわち、演算部6は、歯車対の基本諸元、許容修正量範囲T(r),R(r),C(r),L(r),Bl(r),Br(r)、仕上げ工程毎の公差範囲Te(r),Re(r),Ce(r),Le(r),Ble(r),Bre(r)、組付誤差範囲Mis(r)、実用トルク範囲Tq(r)、伝達誤差評価マップ等の各種情報を記憶部7から読み込む。
【0027】
続くステップS102において、演算部6は、シェービング、ホーニング、或いは、歯研の中から、未だ選択されていない仕上げ工法の何れか1つを選択する。
【0028】
続くステップS103において、演算部6は、各許容修正量T(r),R(r),C(r),L(r),Bl(r),Br(r)に基づいて複数パターンの歯面修正量群Gを設定する。具体的には、演算部6は、歯面修正量群Gとして、例えば、各許容修正量T(r),R(r),C(r),L(r),Bl(r),Br(r)の範囲内で各歯面に対する各項目の歯面修正量TDv1,RDv1,CDv1,LDv1,BlDv1,BrDv1,TDv2,RDv2,CDv2,LDv2,BlDv2,BrDv2,TDn1,RDn1,CDn1,LDn1,BlDn1,BrDn1,TDn2,RDn2,CDn2,LDn2,BlDn2,BrDn2をそれぞれ個別に1μmずつ変化させたときの値の全ての組み合わせを設定する。
【0029】
すなわち、演算部6は、歯面修正量群として、例えば、
G1=(TDv1=2,RDv1=2,CDv1=4,LDv1=2,BlDv1=0,BrDv1=0,TDv2=2,RDv2=2,CDv2=4,LDv2=2,BlDv2=0,BrDv2=0,TDn1=2,RDn1=2,CDn1=4,LDn1=2,BlDn1=0,BrDn1=0,TDn2=2,RDn2=2,CDn2=4,LDn2=2,BlDn2=0,BrDn2=0)、
G2=(TDv1=3,RDv1=2,CDv1=4,LDv1=2,BlDv1=0,BrDv1=0,TDv2=2,RDv2=2,CDv2=4,LDv2=2,BlDv2=0,BrDv2=0,TDn1=2,RDn1=2,CDn1=4,LDn1=2,BlDn1=0,BrDn1=0,TDn2=2,RDn2=2,CDn2=4,LDn2=2,BlDn2=0,BrDn2=0)、
G3=(TDv1=4,RDv1=2,CDv1=4,LDv1=2,BlDv1=0,BrDv1=0,TDv2=2,RDv2=2,CDv2=4,LDv2=2,BlDv2=0,BrDv2=0,TDn1=2,RDn1=2,CDn1=4,LDn1=2,BlDn1=0,BrDn1=0,TDn2=2,RDn2=2,CDn2=4,LDn2=2,BlDn2=0,BrDn2=0)、・・・、
Gn−1=(TDv1=10,RDv1=10,CDv1=14,LDv1=12,BlDv1=15,BrDv1=15,TDv2=10,RDv2=10,CDv2=14,LDv2=12,BlDv2=15,BrDv2=15,TDn1=10,RDn1=10,CDn1=14,LDn1=12,BlDn1=15,BrDn1=15,TDn2=10,RDn2=10,CDn2=14,LDn2=12,BlDn2=15,BrDn2=14)、
Gn=(TDv1=10,RDv1=10,CDv1=14,LDv1=12,BlDv1=15,BrDv1=15,TDv2=10,RDv2=10,CDv2=14,LDv2=12,BlDv2=15,BrDv2=15,TDn1=10,RDn1=10,CDn1=14,LDn1=12,BlDn1=15,BrDn1=15,TDn2=10,RDn2=10,CDn2=14,LDn2=12,BlDn2=15,BrDn2=15)
を設定する。
【0030】
続くステップS104において、演算部6は、ステップS103で設定した歯面修正量群G1〜Gnの中から何れか1つの歯面修正量群Gを選択する。
【0031】
そして、ステップS105に進むと、演算部6は、例えば、図4に示す歯面誤差演算サブルーチンのプログラムを実行し、選択した歯面修正量群Gに基づいて各加工誤差範囲Te(r),Re(r),Ce(r),Le(r),Ble(r),Bre(r)内で加工され得る各歯車対について、駆動歯車及び被動歯車のドライブ側及びコースト側それぞれの歯面誤差分布情報を演算する。
【0032】
すなわち、このサブルーチンがスタートすると、ステップS201において、演算部6は、現在選択中の仕上げ工法に対応する各加工誤差範囲Te(r),Re(r),Ce(r),Le(r),Ble(r),Bre(r)に基づいて複数パターンの加工誤差量群Geを設定する。具体的には、演算部6は、加工誤差量群Geとして、例えば、各加工誤差範囲Te(r),Re(r),Ce(r),Le(r),Ble(r),Bre(r)内で各歯面に対する各項目の加工誤差量TeDv1,ReDv1,CeDv1,LeDv1,BleDv1,BreDv1,TeDv2,ReDv2,CeDv2,LeDv2,BleDv2,BreDv2,TeDn1,ReDn1,CeDn1,LeDn1,BleDn1,BreDn1,TeDn2,ReDn2,CeDn2,LeDn2,BleDn2,BreDn2をそれぞれ個別に1μmずつ変化させたときの値の全ての組み合わせを設定する。
【0033】
すなわち、演算部6は、例えば、仕上げ工法がシェービングである場合の加工誤差量群Geとして、例えば、
Ge1=(TeDv1=−7,ReDv1=−4,CeDv1=−3,LeDv1=−5,BleDv1=−8,BreDv1=−8,TeDv2=−7,ReDv2=−4,CeDv2=−3,LeDv2=−5,BleDv2=−8,BreDv2=−8,TeDn1=−7,ReDn1=−4,CeDn1=−3,LeDn1=−5,BleDn1=−8,BreDn1=−8,TeDn2=−7,ReDn2=−4,CeDn2=−3,LeDn2=−5,BleDn2=−8,BreDn2=−8)、
Ge2=(TeDv1=−6,ReDv1=−4,CeDv1=−3,LeDv1=−5,BleDv1=−8,BreDv1=−8,TeDv2=−7,ReDv2=−4,CeDv2=−3,LeDv2=−5,BleDv2=−8,BreDv2=−8,TeDn1=−7,ReDn1=−4,CeDn1=−3,LeDn1=−5,BleDn1=−8,BreDn1=−8,TeDn2=−7,ReDn2=−4,CeDn2=−3,LeDn2=−5,BleDn2=−8,BreDn2=−8)、
Ge3=(TeDv1=−5,ReDv1=−4,CeDv1=−3,LeDv1=−5,BleDv1=−8,BreDv1=−8,TeDv2=−7,ReDv2=−4,CeDv2=−3,LeDv2=−5,BleDv2=−8,BreDv2=−8,TeDn1=−7,ReDn1=−4,CeDn1=−3,LeDn1=−5,BleDn1=−8,BreDn1=−8,TeDn2=−7,ReDn2=−4,CeDn2=−3,LeDn2=−5,BleDn2=−8,BreDn2=−8)、・・・、
Gem−1=(TeDv1=4,ReDv1=6,CeDv1=3,LeDv1=5,BleDv1=8,BreDv1=8,TeDv2=4,ReDv2=6,CeDv2=3,LeDv2=5,BleDv2=8,BreDv2=8,TeDn1=4,ReDn1=6,CeDn1=3,LeDn1=5,BleDn1=8,BreDn1=8,TeDn2=4,ReDn2=6,CeDn2=3,LeDn2=5,BleDn2=8,BreDn2=7)、
Gem=(TeDv1=4,ReDv1=6,CeDv1=3,LeDv1=5,BleDv1=8,BreDv1=8,TeDv2=4,ReDv2=6,CeDv2=3,LeDv2=5,BleDv2=8,BreDv2=8,TeDn1=4,ReDn1=6,CeDn1=3,LeDn1=5,BleDn1=8,BreDn1=8,TeDn2=4,ReDn2=6,CeDn2=3,LeDn2=5,BleDn2=8,BreDn2=8)
を設定する。
【0034】
続くステップS202において、演算部6は、ステップS201で設定した加工誤差量群Ge1〜Gemの中から何れか1つの加工誤差量群Geを選択する。
【0035】
そして、ステップS203において、演算部6は、現在選択されている歯面修正量群Gと加工誤差量群Geとに基づいて製造される(シミュレーションされる)歯車対の各歯面(駆動歯車及び被動歯車のドライブ側及びコースト側の各歯面)の歯面誤差分布情報として、それぞれ3行×3列の歯面誤差分布情報を算出する。すなわち、図6に示すように、演算部6は、各基準歯面上における有効歯面の中心(P(1,1))と、有効歯面の四隅(P(0,0)、P(0,2)、P(2,0)、P(2,2))と、有効歯面を囲む各辺の中心(P(0,1)、P(1,0)、P(1,2)、P(2,1))に対し、それぞれ該当する各歯面修正量及び各加工誤差量を付与することで、各基準歯面に対する3行×3列の歯面誤差分布情報を算出する。
【0036】
具体的には、駆動歯車が右ネジレの場合、歯筋タオレ量は強ネジレ方向を正、バイアス修正量はバイアスインを正とすると、駆動歯車のドライブ側歯面における各点の歯面修正量は、
PDv1(0,0)=TDv1+CDv1+LDv1/2−BlDv1/2+TeDv1+CeDv1+LeDv1/2−BleDv1/2
PDv1(0,1)=TDv1+TeDv1
PDv1(0,2)=TDv1+CDv1−LDv1/2+BrDv1/2+TeDv1+CeDv1−LeDv1/2+BreDv1/2
PDv1(1,0)=CDv1+LDv1/2+CeDv1+LeDv1/2
PDv1(1,1)=0
PDv1(1,2)=CDv1−LDv1/2+CeDv1−LeDv1/2
PDv1(2,0)=RDv1+CDv1+LDv1/2+BlDv1/2+ReDv1+CeDv1+LeDv1/2+BleDv1/2
PDv1(2,1)=RDv1+ReDv1
PDv1(2,2)=RDv1+CDv1−LDv1/2−BreDv1/2+ReDv1+CeDv1−LeDv1/2−BreDv1/2
となる。
【0037】
また、駆動歯車のコースト側歯面における各点の歯面修正量は、
PDv2(0,0)=TDv2+CDv2+LDv2/2−BlDv2/2+TeDv2+CeDv2+LeDv2/2−BleDv2/2
PDv2(0,1)=TDv2+TeDv2
PDv2(0,2)=TDv2+CDv2−LDv2/2+BrDv2/2+TeDv2+CeDv2−LeDv2/2+BreDv2/2
PDv2(1,0)=CDv2+LDv2/2+CeDv2+LeDv2/2
PDv2(1,1)=0
PDv2(1,2)=CDv2−LDv2/2+CeDv2−LeDv2/2
PDv2(2,0)=RDv2+CDv2+LDv2/2+BlDv2/2+ReDv2+CeDv2+LeDv2/2+BleDv2/2
PDv2(2,1)=RDv2+ReDv2
PDv2(2,2)=RDv2+CDv2−LDv2/2−BreDv2/2+ReDv2+CeDv2−LeDv2/2−BreDv2/2
となる。
【0038】
また、被動歯車のドライブ側歯面における各点の歯面修正量は、
PDn1(0,0)=TDn1+CDn1−LDn1/2+BlDn1/2+TeDn1+CeDn1−LeDn1/2+BleDn1/2
PDn1(0,1)=TDn1+TeDn1
PDn1(0,2)=TDn1+CDn1+LDn1/2−BrDn1/2+TeDn1+CeDn1+LeDn1/2−BreDn1/2
PDn1(1,0)=CDn1−LDn1/2+CeDn1−LeDn1/2
PDn1(1,1)=0
PDn1(1,2)=CDn1+LDn1/2+CeDn1+LeDn1/2
PDn1(2,0)=RDn1+CDn1−LDn1/2−BlDn1/2+ReDn1+CeDn1−LeDn1/2−BleDn1/2
PDn1(2,1)=RDn1+ReDn1
PDn1(2,2)=RDn1+CDn1+LDn1/2+BrDn1/2+ReDn1+CeDn1+LeDn1/2+BreDn1/2
となる。
【0039】
また、被動歯車のコースト側歯面における各点の歯面修正量は、
PDn2(0,0)=TDn2+CDn2−LDn2/2+BlDn2/2+TeDn2+CeDn2−LeDn2/2+BleDn2/2
PDn2(0,1)=TDn2+TeDn2
PDn2(0,2)=TDn2+CDn2+LDn2/2−BrDn2/2+TeDn2+CeDn2+LeDn2/2−BreDn2/2
PDn2(1,0)=CDn2−LDn2/2+CeDn2−LeDn2/2
PDn2(1,1)=0
PDn2(1,2)=CDn2+LDn2/2+CeDn2+LeDn2/2
PDn2(2,0)=RDn2+CDn2−LDn2/2−BlDn2/2+ReDn2+CeDn2−LeDn2/2−BleDn2/2
PDn2(2,1)=RDn2+ReDn2
PDn2(2,2)=RDn2+CDn2+LDn2/2+BrDn2/2+ReDn2+CeDn2+LeDn2/2+BreDn2/2
となる。
【0040】
なお、仕上げ工法が歯研である場合、上述の各点の歯面修正量の計算式中において、TDv1に対して(FFADv1+FADv1/2)が、TeDv1に対して(FFAeDv1+FAeDv1/2)が、RDv1に対して(FFADv1−FADv1/2)が、ReDv1に対して(FFAeDv1−FAeDv1/2)が、TDv2に対して(FFADv2+FADv2/2)が、TeDv2に対して(FFAeDv2+FAeDv2/2)が、RDv2に対して(FFADv2−FADv2/2)が、ReDv2に対して(FFAeDv2−FAeDv2/2)が、それぞれ代入される。また、駆動歯車が左ネジレの場合、上述の各点において、歯筋タオレ修正量、及び、バイアス修正量に係る加減算は逆となる。
【0041】
続くステップS204において、演算部6は、例えば多点スプライン補間法を用いてステップS203で算出された各歯面における歯面誤差分布情報の補間計算を行い、各歯筋方向のサンプル間隔が例えば0.1mmとなる3行×oDv1列、3行×oDv2列、3行×oDn1列、3行×oDn2列の各歯面誤差分布情報を演算する。
【0042】
すなわち、演算部6は、例えば、(1)式に示すように、歯面誤差の各データ列を用いて、歯筋方向をx軸とするスプライン近似式を列毎にそれぞれ求め、この近似式から補間データを算出することで所望サンプル間隔のデータ群を取得する。
【数1】
【0043】
ここで、(1)式において、前段の関数は近似式全体の傾向を表す項であり、同項のAk-1〜A0は、データ列の中から所定に抽出したk個の歯面誤差データに基づいてそれぞれ設定される係数である。また、(1)式において、後段の関数は隣り合うデータ間を滑らかに連結するための項であり、同項のCiは、互いに隣り合うデータ対に基づいてそれぞれ設定される係数である。
【0044】
ステップS204からステップS205に進むと、全ての加工誤差量群Geに対応する歯車対の各歯面誤差分布情報を演算したか否かを調べる。その結果、演算部6は、全ての加工誤差量群Geに対応する歯車対の各歯面誤差分布情報が演算されていないと判定した場合には、ステップS202に戻る。一方、全ての加工誤差量群Geに対応する歯車対の各歯面誤差分布情報が演算されたと判定した場合には、サブルーチンを抜ける。
【0045】
メインルーチンにおいて、ステップS104からステップS105に進むと、演算部6は、例えば、図5に示す伝達誤差量演算サブルーチンのプログラムを実行し、選択した歯面修正量群Gに基づいて加工され得る各歯車対を複数パターンの噛み合い条件で噛み合わせたときの各伝達誤差量Eをそれぞれ演算する。
【0046】
このサブルーチンにおいて、演算部6は、先ず、ステップS301〜306の処理により、歯車対(例えば、基本諸元に基づいて得られる歯車対)に対して実用トルク範囲Tq(r)内の各トルクTqを付与したときの各デフレクションDを演算する。すなわち、サブルーチンがスタートすると、演算部6は、ステップS301において、歯車対100に対して付与するトルクTqの初期値として、例えば、実用トルク範囲Tq(r)内におけるトルクの最小値(例えば、Tq=0(kgfm))を設定する。
【0047】
続くステップS302において、演算部6は、シミュレーション上において、歯車対にトルクTqを付与したときの噛み合いモデルを演算する。
【0048】
そして、ステップS303に進むと、演算部6は、ステップ302で演算した噛み合いモデル上において、駆動ギヤ及び被動ギヤの各変位量(すなわち、駆動ギヤ及び被動ギヤの無負荷状態からの各タオレ量)を計測する。ここで、演算部6は、駆動ギヤの一側面において、駆動ギヤ軸を中心とする同一円上の対象位置4点での各変位量を計測すると共に、被動ギヤの一側面において、被動ギヤ軸を中心とする同一円上の対象位置4点での各変位量を計測する。
【0049】
より具体的には、例えば、図19に示すように、シミュレーション上の歯車対において、演算部6は、駆動ギヤ(Drive)の一側面上の被動ギヤ(Driven)との噛み合い位置の直近傍に、第1計測点M1Dvを設定するとともに、駆動ギヤの回転軸を基準とする第1計測点M1Dvの2回対称位置(すなわち、第1計測点M1Dvを180°回転移動させた位置)に第2計測点M2Dvを設定する。さらに、駆動ギヤの回転軸を基準とする第1,第2計測点M1Dv,M2Dvの各4回対称位置(すなわち、第1,第2計測点M1Dv,M2Dvをそれぞれ90°回転移動させた位置)に第3,第4計測点M3Dv,M4Dvをそれぞれ設定する。そして、演算部6は、設定した各計測点M1Dv〜M4Dvにおける駆動ギヤの各変位量を計測する(すなわち、シミュレーション上において演算する)。また、演算部6は、被動ギヤの一側面上の駆動ギヤとの噛み合い位置の直近傍に、第2計測点M2Dnを設定するとともに、被動ギヤの回転軸を基準とする第2計測点M2Dnの2回対称位置に第1計測点M1Dnを設定する。さらに、駆動ギヤの回転軸を基準とする第1,第2計測点M1Dn,M2Dnの各4回対称位置に第3,第4計測点M3Dn,M4Dnをそれぞれ設定する。そして、演算部6は、設定した各計測点M1Dn〜M4Dnにおける被動ギヤの各変位量を計測する(すなわち、シミュレーション上において演算する)。
【0050】
ステップS304に進むと、演算部6は、例えば、現在のトルクTqを所定トルクΔTq(例えば、ΔTq=1.2(kgfm))増量側に更新する(Tq←Tq+ΔTq)。
【0051】
続くステップS305において、演算部6は、例えば、更新したトルクTqが実用トルク範囲Tq(r)外の値であるか否かを調べることにより、実用トルク範囲Tq(r)内でトルクTqを所定トルクΔTq変化させた毎の駆動ギヤ及び被動ギヤの各変位量の計測が終了したか否かを調べる。
【0052】
そして、ステップS305において、更新したトルクTqが未だ実用トルク範囲Tq(r)以内の値であり、未だ所定トルクΔTq毎の駆動ギヤ及び被動ギヤの各変位量の計測が終了していないと判定すると、演算部6は、ステップS302に戻る。
【0053】
一方、ステップS305において、更新したトルクTqが実用トルク範囲Tq(r)外の値であり、所定トルクΔTq毎の駆動ギヤ及び被動ギヤの各変位量の計測が終了したと判定すると、演算部6は、ステップS306に進み、計測した各変位量に基づき、トルクTq毎に歯車対に発生する動的なデフレクションDを演算する。
【0054】
すなわち、演算部6は、上述のステップS301〜S305の処理により、例えば、図20に示すように、各計測点M1Dv〜M4Dv及びM1Dn〜M4DnにおけるトルクTqと変位量との関係を所得する。そして、ステップS306において、演算部6は、これら取得したトルクTq毎の各変位量情報と、駆動ギヤ及び被動ギヤの有効噛み合い半径等に基づき、例えば、トルクTqに対する歯車対の動的なデフレクションとして、例えば、図19,21に示すように、動的な食違誤差Ddevi(Tq)及び平行誤差Dincl(Tq)を演算する。なお、図21中等に示すDdevi(Tq)及びDincl(Tq)は、食違誤差Ddevi及び平行誤差DinclをトルクTqの関数として表記したものである。
【0055】
ここで、より詳細なデフレクションDの演算を実現するため、演算部6は、例えば、上述のステップS302において、例えば、トランスミッション等に搭載された歯車対の噛み合いモデルを生成することも可能である。また、実用トルク範囲Tq(r)についても、正値側(すなわち、ドライブ側)のみならず、負値側(すなわち、コースト側)にも拡張することが可能である。なお、これらの条件下において、上述のステップS301〜306の処理を行ったときの歯車対の動的な食違誤差Ddevi(Tq)及び平行誤差Dincl(Tq)の演算結果を、例えば、図22に示す。
【0056】
ステップS306からステップS307に進むと、演算部6は、静的な食違誤差範囲Misdevi(r)と実用トルク範囲Tq(r)(すなわち、動的な食違誤差Ddevi(Tq)及び平行誤差Dincl(Tq))に基づいて複数パターンの噛み合い条件群Gcを設定する。具体的には、演算部6は、噛み合い条件群Gcとして、例えば、静的な平行誤差Misinclを固定値(Misincl=0)とし、静的な食違誤差Misdeviを誤差範囲Misdevi(r)内で0.02degずつ変化させた値と、入力トルクTqを実用トルク範囲Tq(r)内で1.2kgfmずつ変化させた値との全ての組み合わせを設定する。
【0057】
すなわち、演算部6は、噛み合い条件群として、例えば、
Gc1=(Misdevi=−0.03,Misincl=0,Ddevi(Tq=0),Dincl(Tq=0))、
Gc2=(Misdevi=−0.01,Misincl=0,Ddevi(Tq=0),Dincl(Tq=0))、
Gc3=(Misdevi=0.01,Misincl=0,Ddevi(Tq=0),Dincl(Tq=0))、・・・、
Gcl−1=(Misdevi=0.17,Misincl=0,Ddevi(Tq=58.8),Dincl(Tq=18.8))、
Gcl=(Misdevi=0.17,Misincl=0,Ddevi(Tq=60),Dincl(Tq=20))
を設定する。
【0058】
ステップS307からステップS308に進むと、演算部6は、ステップS105で演算した各歯車対(現在の歯面修正量群Gに基づいて設定加工誤差範囲内で製造され得る各歯車対)の中から何れか1つの歯車対を選択し、続くステップS309において、ステップ307で設定した噛み合い条件群の中から何れか1つの噛み合い条件群Gcを選択する。
【0059】
そして、ステップS310に進むと、演算部6は、ステップS308で選択した歯車対をステップS309で選択した噛み合い条件群Gcを用いて噛み合わせたときの歯面間の相対歯面誤差分布情報を算出する。
【0060】
この相対歯面誤差分布情報の演算において、演算部6は、先ず、駆動歯車と被動歯車の各ドライブ側歯面の有効噛み合い領域を算出し、駆動歯面の歯面誤差分布情報(3行×oDv1列の分布情報)及び被動歯車の歯面誤差分布情報(3行×oDn1列の分布情報)の中から、有効噛み合い領域内に存在する歯面誤差分布情報(3行×p列の分布情報)をそれぞれ抽出する。
【0061】
ここで、駆動歯面及び被動歯面の有効噛み合い領域は、具体的には、歯車諸元である各歯面の歯幅及び両歯面間の歯幅ズレ量(駆動歯面の中心と被動歯面の中心との歯幅方向のズレ量)ΔBに基づいて算出される。この場合、図10(a)及び(b)から明らかなように、駆動歯面Dvの歯幅が被動歯面Dnの歯幅よりも大きい場合であって、且つ、駆動歯面Dvと被動歯面Dnとが完全に重なる場合には、抽出される各歯面の歯幅方向のデータ数は、p=oDn1となる。また、図10(c)及び(d)から明らかなように、駆動歯面Dvの歯幅が被動歯面Dnの歯幅よりも大きい場合であって、且つ、駆動歯面Dvと被動歯面Dnとが完全に重ならない場合には、抽出される各歯面の歯幅方向のデータ数は、p<oDn1となる。また、図11(a)及び(b)から明らかなように、駆動歯面Dvの歯幅が被動歯面Dnの歯幅よりも小さい場合であって、且つ、駆動歯面Dvと被動歯面Dnとが完全に重なる場合には、抽出される各歯面の歯幅方向のデータ数は、p=oDv1となる。また、図11(c)及び図6(d)から明らかなように、駆動歯面Dvの歯幅が被動歯面Dnの歯幅よりも小さい場合であって、且つ、駆動歯面Dvと被動歯面Dnとが完全に重ならない場合には、抽出される各歯面の歯幅方向のデータ数は、p<oDv1となる。なお、図10及び図11は、噛み合い時に重畳される駆動歯面Dvと被動歯面Dnとを上下に並べて表示したものである。
【0062】
次に、演算部6は、抽出された各歯面誤差分布情報(3行×p列の分布情報)に基づいて、駆動歯面と被動歯面との噛み合い時の相対的な歯面誤差である相対歯面誤差の分布情報を生成する。ここで、相対歯面誤差分布情報は、例えば、駆動歯面を基準として算出される。
【0063】
具体的に説明すると、3行×p列の各歯面誤差分布情報において、駆動歯面側のi行j列目の歯面誤差データをDriveData(i,j)、被動歯面側のi行j列目の歯面誤差データをDrivenData(i,j)とすると、各相対歯面誤差データ(HukaSoutaiData(i,j))は、例えば(2)式に示す計算式を用いて算出される。
HukaSoutaiData(i,j)=DriveData(i,j)+DrivenData(7-1-i,j)+EASSY …(2)
ここで、(2)式において、EASSYは静的な食違誤差Misdevi及び平行誤差MisinclとトルクTq(すなわち、動的な食違誤差Ddevi(Tq)及び平行誤差Dincl(Tq))から算出される歯筋タオレ量であり、例えば、以下の(3)式を用いて算出される。
EASSY=(Ddevi(Tq)+Misdevi+(Dincl(Tq)+Misincl)
×tanαbs)×B …(3)
ここで、(3)式中のBは、噛み合い歯幅(図10,11参照)である。また、(3)式中のαbsは、圧力角αnをギヤ中心間距離、歯数、及び、モジュール等で補正して求まる正面噛み合い圧力角である。
【0064】
なお、ステップS310では、コースト側歯面についても、駆動歯車の歯面誤差分布情報(3行×oDv2列の分布情報)及び被動歯車の歯面誤差分布情報(3行×oDn2列の分布情報)を用いて同様の処理が行われる。
【0065】
そして、ステップS310からステップS311に進むと、演算部6は、各相対歯面誤差分布情報に対し、上述の多点スプライン補間法を用いて行補間及び列補間を行い、より詳細な相対歯面誤差分布情報(例えば、241行×241列の分布情報)を生成する。
【0066】
ここで、演算部6は、例えば、図12に示すように、生成した相対歯面誤差の分布情報を、出力部8(例えば、モニタ13)を通じて等高線状に可視化表示することも可能である。なお、図12中において、破線は、駆動歯面と被動歯面との接触経路を示す。また、図12中において、一点鎖線は、ある瞬間での駆動歯面と被動歯面との接触線を示し、この接触線は、歯面間の噛み合いの進行に伴って接触経路上を平行移動する。
【0067】
ステップS311からステップS312に進むと、演算部6は、ステップS311で生成した相対歯面誤差分布情報に基づいて、歯車対の伝達誤差量Eを演算する。
【0068】
この伝達誤差量Eの演算として、演算部6は、例えば、ステップS311で生成した相対歯面誤差分布情報に基づいて、歯車対の噛み合いタイミング(回転角)と各歯の等価歯形誤差との関係を求める(図13参照)。ここで、無負荷状態の場合、等価歯形誤差としては、相対歯面誤差分布情報において、各噛み合いタイミングで各接触線上に分布する相対歯面誤差の最大値が用いられる。そして、演算部6は、例えば、被動歯車の回転角の1ピッチNにおける、複数本の同時接触線についての等価歯形誤差の最大値と最小値の差dを伝達誤差量Eとして求める。なお、相対歯面誤差分布情報に基づく伝達誤差量Eの演算については、上述のものに限定されないことは勿論である。
【0069】
ステップS312からステップS313に進むと、演算部6は、現在選択されている歯車対に対し、ステップS308で設定された全噛み合い条件群Gcについての各伝達誤差量Eが演算されたか否かを調べる。その結果、演算部6は、全ての噛み合い条件群Gcについての伝達誤差量Eが演算されていないと判定した場合には、ステップS309に戻る。
【0070】
一方、ステップS313において、全ての噛み合い条件群Gcについての伝達誤差量Eが演算されていると判定した場合、演算部6は、ステップS314に進み、全ての歯車対についての各伝達誤差量Eが演算されたか否かを調べる。その結果、演算部6は、全ての歯車対についての伝達誤差量Eが演算されていないと判定した場合には、ステップS308に戻る。一方、全ての歯車対についての伝達誤差量Eが演算されていると判定した場合、演算部6は、サブルーチンを抜ける。
【0071】
メインルーチンにおいて、ステップS106からステップS107に進むと、演算部6は、ステップS103で設定した全ての歯面修正量群Gに対して、各加工誤差及び各噛み合い条件に基づく各伝達誤差量Eの演算を行ったか否かを調べる。その結果、演算部6は、全ての歯面修正量群Gに対して各伝達誤差量Eの演算を行っていないと判定すると、ステップS104に戻る。
【0072】
なお、ステップS107からステップS104に戻り、新たに選択した歯面修正量群Gに基づいて上述のステップS105及びステップS106の処理を行う際に、歯面誤差分布情報等が以前のものと重複する場合には、当該歯面誤差分布情報に基づく各演算を適宜省略することが可能である。すなわち、歯面誤差分布情報は、各種歯面修正量と各種加工誤差とに基づいて演算されるため、歯面修正量群Gが異なる場合でも、同一の歯面誤差分布情報等が得られる場合がある。特に、本実施形態では、各種歯面修正量及び各種加工誤差を同じ値ずつ変化させているため、多くの歯面誤差分布情報等が重複する。そこで、このような場合に重複する演算を省略することにより、各種演算を大幅に簡略化することができる。
【0073】
一方、ステップS107において、全ての歯面修正量群Gに対して各伝達誤差量Eの演算を行ったと判定すると、演算部6は、ステップS108に進み、全ての仕上げ工法に対して上述のステップS103乃至ステップS107による伝達誤差量Eの演算を行ったか否かを調べる。
【0074】
そして、ステップS108において、未だ全ての仕上げ工法に対して伝達誤差量Eの演算を行っていないと判定すると、演算部6は、ステップS102に戻る。一方、ステップS108において、全ての仕上げ工法に対して伝達誤差量Eの演算を行ったと判定した場合、演算部6は、ステップS109に進む。
【0075】
ステップS108からステップS109に進むと、演算部6は、シェービング、ホーニング、或いは、歯研の中から何れか1つの仕上げ工法を選択し、続くステップS110において、伝達誤差量Eの目標値マップ(図14乃至図16参照)を参照し、例えば、現在選択中の仕上げ工法における加工誤差を考慮しないときの各伝達誤差量Eの全てが目標値内に分布する歯面修正量群Gが存在するか否かを調べる。すなわち、演算部6は、ステップS110において、現在選択中の仕上げ工法について、歯面修正量群G毎に演算された各伝達誤差量Eの中から、各加工誤差がゼロ(すなわち、TeDv1=ReDv1=CeDv1=LeDv1=BleDv1=BreDv1=TeDv2=ReDv2=CeDv2=LeDv2=BleDv2=BreDv2=TeDn1=ReDn1=CeDn1=LeDn1=BleDn1=BreDn1=TeDn2=ReDn2=CeDn2=LeDn2=BleDn2=BreDn2=0)である歯車対を各噛み合い条件で噛み合わせたときの各伝達誤差量を抽出する(以下、抽出された各伝達誤差量を特にE0と表記する)。そして、抽出した伝達誤差量E0の全てが目標値内に分布する歯面修正量群Gが存在するか否かを調べる。
【0076】
その結果、ステップS110において、伝達誤差量E0の全てが目標値内に分布する歯面修正量群Gが存在しないと判定した場合、演算部6は、ステップS114に進む。一方、ステップS110において、伝達誤差量E0の全てが目標値内に分布する歯面修正量群Gが存在すると判定すると、演算部6は、ステップS111に進む。
【0077】
ステップS110からステップS111に進むと、演算部6は、現在選択中の仕上げ工法において、伝達誤差量E0の全てが目標値内に分布する歯面修正量群Gの中から、最良の歯面修正量群Gを抽出する。なお、最良の歯面修正量群Gの抽出は、例えば、各歯面修正量群Gに対応する各伝達誤差量E0の最悪値(最大値)同士を比較することによって行うことが可能である。その他、例えば、各歯面修正量群Gに対応する各伝達誤差量E0の平均値同士を比較することによって、最良の歯面誤差修正量Gを抽出してもよい。
【0078】
そして、ステップS112に進むと、演算部6は、伝達誤差量Eの閾値マップ(図15,図16参照)を参照し、ステップS111で抽出した歯面修正量群Gに対応する全ての伝達誤差量Eのうちの設定割合以上(例えば、99.7%以上)が閾値内に分布しているか否かを調べる。
【0079】
その結果、ステップS111で抽出した歯面修正量群Gに対応する全ての伝達誤差量Eのうちの設定割合以上が閾値内に分布していないと判定すると、演算部6は、ステップS110に戻り、抽出した歯面修正量群Gを除く各歯面修正量群に基づいて同様の処理を繰り返す。
【0080】
一方、ステップS111で抽出した歯面修正量群Gに対応する全ての伝達誤差量Eのうちの設定割合以上が閾値内に分布していると判定すると、演算部6は、ステップS113に進み、現在抽出中の歯面修正量群Gに基づいて歯車対の設計歯面修正量を設定した後、ステップS114に進む。
【0081】
ステップS110或いはステップS113からステップS114に進むと、演算部6は、上述のステップS109の処理により全ての仕上げ工法の選択が終了したか否かを調べる。そして、ステップS114において、全ての仕上げ工法の選択が終了していないと判定すると、演算部6は、ステップS109に戻る。
【0082】
一方、ステップS114において、全ての仕上げ工法の選択が終了したと判定すると、演算部6は、ステップS115に進み、シェービング、ホーニング、或いは、歯研の中から最良の仕上げ工法及び設計歯面修正量を決定した後、ルーチンを抜ける。この場合において、演算部6は、例えば、上述のステップS113において有効な設計歯面修正量が設定された仕上げ工法の中から、シェービング、ホーニング、歯研の優先順位で仕上げ工法を選択する。すなわち、例えば、全ての仕上げ工法について有効な設計歯面修正量が設定されている場合、演算部6は、最も安価且つ容易に歯面加工を行うことが可能なシェービングを最終的な仕上げ工法として選択し、当該シェービングに対応する設計歯面修正量を最終的な設計歯面修正量として決定する。また、例えば、シェービングについて有効な設計歯面修正量が設定されておらず、ホーニング及び歯研について有効な設計歯面修正量が設定されている場合、演算部6は、歯研よりも安価且つ容易に歯面加工を行うことが可能なホー二ングを最終的な仕上げ工法として選択し、当該ホー二ングに対応する設計歯面修正量を最終的な設計歯面修正量として決定する。一方、例えば、シェービング及びホー二ングについて有効な設計歯面修正量が設定されておらず、歯研にのみ有効な設計歯面修正量が設定されている場合、演算部6は、歯研を最終的な仕上げ工法として選択し、当該歯研に対応する設計歯面修正量を最終的な設計歯面修正量として決定する。
【0083】
ここで、設計装置1は、最終的な仕上げ工法及び設計歯面修正量等の情報の他に、上述の各種演算結果等に基づいて他の各種情報を生成し、ディスプレイ装置13等の出力部8を通じて表示することも可能である。すなわち、設計装置1は、例えば、図23に示すように、所定トルク条件におけるモーションカーブ(伝達誤差変位波形)を表示することが可能である。また、例えば、図24に示すように、モーションカーブをFFT(高速フーリエ変換)処理し、次数毎の振幅を表示することも可能である。また、例えば、図25に示すように、所定伝達誤差範囲毎の発生頻度を示す伝達誤差頻度マップを所定のトルク範囲毎に表示することも可能である。また、例えば、図26に示すように、伝達誤差の発生頻度が設定頻度(例えば、99.7%)以上となる伝達誤差範囲のトルク特性を示す伝達誤差トルク特性を狙い歯面の目標値とともに表示することも可能である。また、例えば、図27に示すように、目標値(例えば、0.45μm)以下の伝達誤差の発生頻度を示す頻度マップを所定トルク域毎或いは所定トルク毎に表示することも可能である。
【0084】
このような実施形態によれば、各歯面修正量TDv1,RDv1,CDv1,LDv1,BlDv1,BrDv1,TDv2,RDv2,CDv2,LDv2,BlDv2,BrDv2,TDn1,RDn1,CDn1,LDn1,BlDn1,BrDn1,TDn2,RDn2,CDn2,LDn2,BlDn2,BrDn2をそれぞれ変化させた値の組み合わせからなる歯面修正量群Gを複数パターン設定し、基準歯面に各歯面修正量を付与して歯面加工を行った際に加工誤差範囲内で製造され得る複数パターンの歯車対を歯面修正量群G毎にシミュレーションして各歯車対における各歯面の歯面誤差分布情報をそれぞれ演算し、歯面修正量群G毎に設定加工誤差範囲内でシミュレーションされた全ての歯車対に対して駆動歯車と被動歯車とを予め設定された複数の噛み合い条件でそれぞれ噛み合わせたときの各伝達誤差量Eを対応する各歯面誤差分布情報に基づいてそれぞれ演算し、各伝達誤差量Eのうちの設定割合以上が閾値内となる歯面修正量群Gの中から最良の歯面修正量群Gを抽出することにより、実用に耐え得る良好な歯車対を歩留まりよく加工するために好適な歯面修正量群Gを、オペレータの経験に依存することなく容易に設定することができる。そして、このような演算を仕上げ工法毎に設定した各加工誤差範囲を用いて行うことで各仕上げ工法についての最良の歯面修正量群Gを求め、最良の歯面修正量群Gが設定された仕上げ工法の中から予め設定された優先順位に従って最終的な仕上げ工法を選定することにより、オペレータの経験等に依存することなく、実用に耐え得る良好な歯車対を歩留まり良く効率的に加工するために設計情報を容易に設定することができる。
【0085】
その際、駆動歯車及び被動歯車のドライブ側及びコースト側の各基準歯面上における有効歯面の中心と有効歯面の四隅と有効歯面を囲む各辺の中心に対してそれぞれ該当する各歯面修正量を付与すると共に各加工誤差量を付与して3行×3列の歯面誤差分布情報を生成し、当該歯面誤差分布情報を補間することにより、簡単な演算によって有効歯面全域に亘る歯面誤差分布情報を演算することができる。
【0086】
また、設計歯面修正量を設定するための最終的な歯面修正量群Gの抽出に際し、歯面修正量群Gに対応する各伝達誤差量Eのうちの設定要件を満たす伝達誤差量Eを、目標値に基づいて評価することで抽出対象とする歯面誤差修正量群Gを絞り込み、絞り込んだ歯面誤差修正量群Gの中から最終的な歯面修正量群Gを抽出することにより、好適な歯面修正量群Gの抽出を実現することができる。すなわち、歯面修正量群Gに基づいて加工され得る各歯車対のうち、実際に加工される可能性が特に高い歯車対(例えば、各項目の加工誤差がゼロの歯車対)の各伝達誤差量Eを、閾値よりも条件の厳しい目標値に基づいて評価し、この評価結果に基づいて抽出対象とする歯面誤差修正量群Gを絞り込むことにより、好適な歯面修正量群Gの抽出を実現することができる。
【0087】
また、歯車対に付与したトルクTqに応じて発生する動的な組付誤差量D(食違誤差Ddevi及び平行誤差Dincl)を、シミュレーション上の噛み合いモデルにおける駆動ギヤ及び被動ギヤの各変位量(すなわち、駆動ギヤ及び被動ギヤの無負荷状態からの各タオレ量)に基づいて所定トルク毎に演算し、これら動的な組付誤差を伝達誤差解析時の噛み合い条件として用いることにより、最良の歯面修正量群Gの抽出等を精度良く実現することができる。すなわち、組付誤差Dは、一般に、実機上においては、トルクTqに対して非線形に変化するものであるが、このような組付誤差Dを駆動ギヤ及び被動ギヤの変位量に基づいて高精度に求めることにより好適な解析等を実現することができる。
【0088】
なお、歯面修正量として設定される項目は、上述のものに限定されないことは勿論である。
【0089】
また、上述の実施形態においては、各伝達誤差量Eに基づいて歯面修正量群Gを抽出する際に目標値と閾値を併用する一例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、閾値のみに基づいて歯面修正量群Gを抽出してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】歯車対の設計装置の概略構成図
【図2】歯車対の設計装置を実現するためのコンピュータの一例を示す概略図
【図3】歯車対の設計歯面修正量設定ルーチンを示すフローチャート
【図4】歯面誤差演算サブルーチンを示すフローチャート
【図5】伝達誤差量演算サブルーチンを示すフローチャート
【図6】歯面上に設定された修正量入力点を示す説明図
【図7】歯先修正量及び歯元修正量の説明図
【図8】(a)はクラウニング修正量の説明図,(b)は歯筋タオレ修正量の説明図
【図9】バイアス修正量の説明図
【図10】駆動歯車の歯幅が被動歯車の歯幅よりも大きい場合の歯面誤差データの抽出領域を示す説明図
【図11】駆動歯車の歯幅が被動歯車の歯幅よりも小さい場合の歯面誤差データの抽出領域を示す説明図
【図12】等高線表示された相対歯面誤差分布の一例を示す説明図
【図13】相対歯面誤差分布から導き出される無負荷状態での伝達誤差量の説明図
【図14】伝達誤差量の目標値の一例を示すマップ
【図15】図14のI−I線に沿って伝達誤差量の目標値及び閾値を示すマップ
【図16】図14のII−II線に沿って伝達誤差量の目標値及び閾値を示すマップ
【図17】歯車対の概略構成図
【図18】公差範囲入力画面の一例を示す説明図
【図19】食違誤差と平行誤差の説明図
【図20】各計測点における駆動歯車軸トルクと変位との関係の一例を示す説明図
【図21】動的なデフレクションの一例を示す説明図
【図22】実機上における歯車対の動的なデフレクションの一例を示す説明図
【図23】実機上における所定負荷状態での歯車対のモーションカーブの一例を示す説明図
【図24】伝達誤差変位の噛み合い次数成分(振幅値)の一例を示す説明図
【図25】伝達誤差頻度マップの一例を示す説明図
【図26】伝達誤差トルク特性の一例を示す説明図
【図27】目標値以下の伝達誤差の発生頻度を示す頻度マップの一例を示す説明図
【符号の説明】
【0091】
1 … 設計装置
5 … 入力部
6 … 演算部(歯面修正量群設定手段、歯面誤差情報演算手段、伝達誤差量演算手段、歯面修正量群抽出手段、組付誤差量演算手段)
7 … 記憶部
8 … 出力部
100 … 歯車対
101 … 駆動歯車(駆動ギヤ)
102 … 被動歯車(被動ギヤ)
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパーギヤやヘリカルギヤ等からなる歯車対の基準歯面に対して歯面修正量を設定する歯車対の設計装置、歯車対の設計プログラム、歯車対の設計方法、及び歯車対に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、歯車対の歯当り分布の良否やギヤノイズのレベル等の性能は、歯面形状のミクロン単位の違いによっても大きく左右される。従って、歯車対の設計においては、所望の歯車対の基本形状等を規定するための基本諸元が設定された後、この基本諸元に基づいて一義的に定まる各歯車の基準歯面を3次元的に修正するための各種歯面修正量がミクロン単位で設定される。そして、基準歯面に対して各種歯面修正量等が付与されることにより、歯車対の加工に供する最終的な設計歯面修正量が設定される。
【0003】
この種の歯車対を設計するための技術として、例えば、特許文献1には、歯車対の各基本諸元に対する各歯面修正量をそれぞれ変化させた値の組み合わせからなる歯面修正量群を複数パターン設定し、基本諸元に各歯面修正量を付与した諸元を用いて歯面加工を行った際に加工誤差範囲内で製造され得る複数パターンの歯車対を歯面修正量群毎にシミュレーションして各歯車対における各歯面の歯面誤差分布情報を演算する技術が開示されている。さらに、特許文献1には、歯面修正量群毎に設定加工誤差範囲内でシミュレーションされた全ての歯車対に対して、予め設定された複数パターンの噛み合い条件での各伝達誤差量を対応する各歯面誤差分布情報に基づいてそれぞれ演算し、各伝達誤差量のうちの設定割合以上が閾値内となる歯面修正量群の中から最終的な歯面修正量群を抽出する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2008−123117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような歯車対の設計において、実用に耐え得る良好な歯車対を設計するためには、実際に歯車対に付与するトルク等の噛み合い条件を十分に考慮することが重要となる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、実用に耐え得る良好な歯車対を歩留まり良く加工するための設計情報を容易に設定することができる歯車対の設計装置、歯車対の設計プログラム、歯車対の設計方法、及び歯車対を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、互いに噛み合う駆動歯車及び被動歯車の基本諸元により設定される各基準歯面に対して複数項目の歯面修正量を付与することで歯車対の加工に供する最終的な設計歯面修正量を設定する歯車対の設計装置であって、上記各歯面修正量をそれぞれ変化させた値の組み合わせからなる歯面修正量群を複数パターン設定する歯面修正量群設定手段と、上記基準歯面に上記各歯面修正量を付与して歯面加工を行った際に設定加工誤差範囲内で製造され得る複数パターンの歯車対を上記歯面修正量群毎にシミュレーションし、当該各歯車対における駆動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報と被動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報とをそれぞれ演算する歯面誤差情報演算手段と、歯車対に付与したトルクに応じて発生する動的な組付誤差量を上記駆動歯車及び上記被動歯車の変位量に基づいて所定トルク毎に演算する組付誤差量演算手段と、上記歯面修正量群毎に上記設定加工誤差範囲内でシミュレーションされた全ての上記歯車対について、上記組付誤差量をパラメータとして含む複数パターンの噛み合い条件で上記駆動歯車と上記被動歯車とを噛み合わせたときの各伝達誤差量を、対応する上記各歯面誤差分布情報に基づいてそれぞれ演算する伝達誤差量演算手段と、演算した各伝達誤差量が設定条件を満たす上記歯面修正量群が存在する場合に、当該歯面修正量群の中から最良の歯面修正量群を抽出する歯面修正量群抽出手段と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、互いに噛み合う駆動歯車及び被動歯車の基本諸元により設定される各基準歯面に対して複数項目の歯面修正量を付与することで歯車対の加工に供する最終的な設計歯面修正量を設定する歯車対の設計プログラムであって、上記各歯面修正量をそれぞれ変化させた値の組み合わせからなる歯面修正量群を複数パターン設定する歯面修正量群設定ステップと、上記基準歯面に上記各歯面修正量を付与して歯面加工を行った際に設定加工誤差範囲内で製造され得る複数パターンの歯車対を上記歯面修正量群毎にシミュレーションし、当該各歯車対における駆動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報と被動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報とをそれぞれ演算する歯面誤差情報演算ステップと、歯車対に付与したトルクに応じて発生する動的な組付誤差量を上記駆動歯車及び上記被動歯車の変位量に基づいて所定トルク毎に演算する組付誤差量演算ステップと、上記歯面修正量群毎に上記設定加工誤差範囲内でシミュレーションされた全ての上記歯車対について、上記組付誤差量をパラメータとして含む複数パターンの噛み合い条件で上記駆動歯車と上記被動歯車とを噛み合わせたときの各伝達誤差量を、対応する上記各歯面誤差分布情報に基づいてそれぞれ演算する伝達誤差量演算ステップと、演算した各伝達誤差量が設定条件を満たす上記歯面修正量群が存在する場合に、当該歯面修正量群の中から最良の歯面修正量群を抽出する歯面修正量群抽出ステップと、を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、互いに噛み合う駆動歯車及び被動歯車の基本諸元により設定される各基準歯面に対して複数項目の歯面修正量を付与することで歯車対の加工に供する最終的な設計歯面修正量を設定する歯車対の設計方法であって、上記各歯面修正量をそれぞれ変化させた値の組み合わせからなる歯面修正量群を複数パターン設定する歯面修正量群設定工程と、上記基準歯面に上記各歯面修正量を付与して歯面加工を行った際に設定加工誤差範囲内で製造され得る複数パターンの歯車対を上記歯面修正量群毎にシミュレーションし、当該各歯車対における駆動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報と被動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報とをそれぞれ演算する歯面誤差情報演算ステップと、歯車対に付与したトルクに応じて発生する動的な組付誤差量を上記駆動歯車及び上記被動歯車の変位量に基づいて所定トルク毎に演算する組付誤差量演算工程と、上記歯面修正量群毎に上記設定加工誤差範囲内でシミュレーションされた全ての上記歯車対について、上記組付誤差量をパラメータとして含む複数パターンの噛み合い条件で上記駆動歯車と上記被動歯車とを噛み合わせたときの各伝達誤差量を、対応する上記各歯面誤差分布情報に基づいてそれぞれ演算する伝達誤差量演算工程と、演算した各伝達誤差量が設定条件を満たす上記歯面修正量群が存在する場合に、当該歯面修正量群の中から最良の歯面修正量群を抽出する歯面修正量群抽出工程と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の歯車対は、上記歯車対の設計装置で抽出した最良の歯面修正量群に基づいて駆動歯車及び被動歯車の歯面加工を行ったことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、実用に耐え得る良好な歯車対を歩留まり良く効率的に加工するための設計情報を容易に設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一形態に係わり、図1は歯車対の設計装置の概略構成図、図2は歯車対の設計装置を実現するためのコンピュータの一例を示す概略図、図3は歯車対の設計歯面修正量設定ルーチンを示すフローチャート、図4は歯面誤差演算サブルーチンを示すフローチャート、図5は伝達誤差量演算サブルーチンを示すフローチャート、図6は歯面上に設定された修正量入力点を示す説明図、図7は歯先修正量及び歯元修正量の説明図、図8(a)はクラウニング修正量の説明図,図8(b)は歯筋タオレ修正量の説明図、図9はバイアス修正量の説明図、図10は駆動歯車の歯幅が被動歯車の歯幅よりも大きい場合の歯面誤差データの抽出領域を示す説明図、図11は駆動歯車の歯幅が被動歯車の歯幅よりも小さい場合の歯面誤差データの抽出領域を示す説明図、図12は等高線表示された相対歯面誤差分布の一例を示す説明図、図13は相対歯面誤差分布から導き出される無負荷状態での伝達誤差量の説明図、図14は伝達誤差量の目標値の一例を示すマップ、図15は図14のI−I線に沿って伝達誤差量の目標値及び閾値を示すマップ、図16は図14のII−II線に沿って伝達誤差量の目標値及び閾値を示すマップ、図17は歯車対の概略構成図、図18は公差範囲入力画面の一例を示す説明図、図19は食違誤差と平行誤差の説明図、図20は各計測点における駆動歯車軸トルクと変位との関係の一例を示す説明図、図21は動的なデフレクションの一例を示す説明図、図22は実機上における歯車対の動的なデフレクションの一例を示す説明図、図23は実機上における所定負荷状態での歯車対のモーションカーブの一例を示す説明図、図24は伝達誤差変位の噛み合い次数成分(振幅値)の一例を示す説明図、図25は伝達誤差頻度マップの一例を示す説明図、図26は伝達誤差トルク特性の一例を示す説明図、図27は目標値以下の伝達誤差の発生頻度を示す頻度マップの一例を示す説明図である。
【0012】
図1に示す歯車対の設計装置1は、例えば、互いに噛み合う駆動歯車101と被動歯車102がそれぞれはすば歯車(ヘリカルギヤ)で構成される歯車対100(図17参照)の設計を行う。具体的には、設計装置1は、駆動歯車101及び被動歯車102の基本諸元により規定される各基準歯面に対して複数項目の歯面修正量をシミュレーション上で付与することにより歯車対100の加工に供する最終的な設計歯面修正量を設定する。
【0013】
ここで、基本諸元は、例えば、駆動歯車101及び被動歯車102の歯数z、歯直角モジュールmn、歯丈係数Ks、頂隙係数Ck、圧力角αn、歯幅b、及び、ねじれ角β0等を有する。そして、例えば、歯車対100がはすば歯車対である場合には、基本諸元に基づいて、駆動歯車101及び被動歯車102の各歯面のマクロ形状を示す基準歯面であるインボリュート歯面がそれぞれ一義的に定められる。
【0014】
また、駆動歯車101及び被動歯車102のドライブ側及びコースト側の各歯面(各基準歯面)には、設計歯面修正量として、例えば、歯先修正量T、歯元修正量R、クラウニング修正量C、歯筋タオレ修正量L、及び、左右バイアス修正量Bl,Br等(図7乃至図9参照)をそれぞれ加味した値が個別に設定される。そして、歯面加工時に、各設計歯面修正量に基づく歯面修正が行われることにより、各歯面は基準歯面に対して三次元的に加工される。このような各歯面に対する歯面修正は、例えば、シェービング、ホーニング、或いは、歯研(歯面研削)等の各種仕上げ工法を適宜選択的に用いて行うことが可能である。ここで、仕上げ工法として歯研が選択される場合、当該歯研に対応する設計歯面修正量としては、例えば、歯先修正量T及び歯元修正量Rに代えて、歯形丸み量FFA及び圧力角誤差量FAが設定される。なお、以下の説明においては、仕上げ工法として歯研を採用する場合の個別的な説明については適宜省略するが、特に説明する場合を除き、歯研を対象とする解析等については、歯先修正量T及び歯元修正量Rを歯形丸み量FFA及び圧力角誤差量FAで読み替え、さらに、歯先修正量T及び歯元修正量Rに対応するパラメータ(例えば、後述する歯面修正量、公差範囲等)を歯形丸み量FFA及び圧力角誤差量FAに対応する同等の各パラメータで適宜読み替えるものとする。
【0015】
なお、以下の説明では、必要に応じて、駆動歯車101のドライブ側歯面に設定される歯面修正量等に添字”Dv1”を付し、コースト側歯面に設定される歯面修正量等に添字”Dv2”を付す。また、被動歯車102のドライブ側歯面に設定される歯面修正量等に添字”Dn1”を付し、コースト側歯面に設定される歯面修正量等に添字”Dn2”を付す。
【0016】
設計装置1は、基本諸元を含む各種情報を入力するための入力部5と、入力部5からの入力情報に基づいて歯車対の設計歯面修正量を演算する演算部6と、演算部6で実行される設計歯面修正量設定ルーチン等のプログラムを格納するとともに入力部5からの入力情報や演算部6での演算結果等を適宜記憶する記憶部7と、演算部6での演算結果等を出力する出力部8とを有して構成されている。
【0017】
なお、設計装置1は、例えば図2に示すコンピュータシステム10で実現される。このコンピュータシステム10は、例えば、コンピュータ本体11に、キーボード12と、ディスプレイ装置13と、プリンタ14とが接続ケーブル15を介して接続されて要部が構成されている。そして、このコンピュータシステム10において、例えば、コンピュータ本体11に配設された各種ドライブ装置やCPU,ROM,RAM等が演算部6として機能する。また、コンピュータ本体11に内蔵されたハードディスク等が記憶部7として機能するとともに、ディスプレイ装置13やプリンタ14等が出力部8として機能する。
【0018】
ここで、設計装置1には、歯車対の用途や歯車対に要求される性能等に応じてオペレータが設定した各種情報が入力部5を通じて入力される。本実施形態において、具体的には、例えば、歯車対の設計歯面修正量の他、各基準歯面に対して付与する各歯面修正量T,R,C,L,Bl,Brの許容範囲(許容歯面修正量)T(r),R(r),C(r),L(r),Bl(r),Br(r)が入力される。また、設計装置1には、歯面加工時に各項目の歯面修正量T,R,C,L,Bl,Brを用いて歯面修正を行う際にそれぞれ想定される仕上げ工法毎の加工誤差量Te,Re,Ce,Le,Ble,Breの各公差範囲Te(r),Re(r),Ce(r),Le(r),Ble(r),Bre(r)が任意に設定される。なお、上述の各公差範囲の設定に際し、設計装置1は、例えば、図18に示す入力画面を、ディスプレイ装置13等の出力部8に表示することが可能となっている。この場合、図示のように、仕上げ工法が歯研である場合には、歯先修正量T及び歯元修正量Rの公差範囲Te(r),Re(r)代わるパラメータとして、歯形丸みFFA及び圧力角誤差FAの公差範囲FFAe(r),FAe(r)が入力可能となっている。また、本実施形態において、この入力画面上には、仕上げ工法毎に入力される項目毎の公差範囲を互いに関連付けて(具体的には、重ね合わせて)イメージ表示することが可能となっている。そして、このような表示機能を有することにより、オペレータは各仕上げ工法に対して設定した公差範囲を視覚的に確認することが可能となっている。
【0019】
また、設計装置1には、実機に歯車対100を組み付ける際に想定される組付誤差Mis(噛み合い条件)の範囲Mis(r)が入力される。この組付誤差Misとは、例えば、歯車対100を実機に組み付けた際に、主としてベアリングのガタ等に起因して発生する静的な組付誤差であり、本実施形態において、具体的には、静的な組付誤差Misとして、歯車軸の食違方向の組付誤差(食違誤差:Deviation error)Misdeviと、歯車軸の平行方向の組付誤差(平行誤差:Inclination error)Misinclとを設定することが可能となっている。これに伴い、設計装置1には、食違誤差:Deviation error)Misdeviの範囲Misdevi(r)と、平行方向の組付誤差(平行誤差:Inclination error)Misinclの範囲Misincl(r)とが入力可能となっている。また、設計装置1には、実機で歯車対100を使用する際の入力トルクTq(噛み合い条件)の実用範囲(実用トルク範囲)Tq(r)が入力されるとともに、後述する伝達誤差量Eに対する評価マップ等が入力される。そして、これら入力部5等を通じて入力された各種入力情報は、記憶部7に格納される。
【0020】
ここで、伝達誤差量Eに対する評価マップとしては、例えば、図14乃至図16に示すように、食違方向の組付誤差Misdevi(食違誤差:Deviation error)及び入力トルクTq(Input Torque)と、伝達誤差量E(Transmission Error)の良否を判定するための閾値及び目標値との関係を示す3次元マップが入力される。なお、図14乃至図16の評価マップは、平行誤差Misinclを所定の固定値に設定して食違誤差Misdeviを変化させたときのドライブ側の噛み合いを評価するためのものであり、設計装置1には、その他、各種パターンについての評価マップを適宜入力することが可能である。例えば、食違誤差Misdeviを固定値に設定して平行誤差Misinclを変化させたときのドライブ側の噛み合いを評価するための評価マップや、コースト側の噛み合いを評価するための各評価マップ等(図示せず)についても入力することが可能である。
【0021】
そして、演算部6は、例えば、記憶部7に格納された設計歯面修正量設定ルーチンのプログラムを実行し、上記各入力情報に基づく各種演算を行うことにより、歯面修正量群設定手段、歯面誤差情報演算手段、伝達誤差量演算手段、歯面修正量群抽出手段、及び、組付誤差量演算手段としての各機能を実現する。
【0022】
すなわち、演算部6は、記憶部7に格納された上述の各種入力情報を読み出し、歯車対の設計情報(設計条件)として設定する。そして、演算部6は、例えば、各歯面修正量T,R,C,L,Bl,Brを各許容修正量T(r),R(r),C(r),L(r),Bl(r),Br(r)の範囲内においてそれぞれ個別に変化させたとき値の組み合わせからなる複数パターンの歯面修正量群G(G1,G2、・・・、Gn)を設定する。そして、演算部6は、基本諸元に各歯面修正量T,R,C,L,Bl,Brを付与して歯面加工を行った際に各加工誤差範囲Te(r),Re(r),Ce(r),Le(r),Ble(r),Bre(r)内で製造され得る複数パターンの歯車対を歯面修正量群G毎にシミュレーションし、各歯車対における駆動歯車の基準歯面に対する歯面誤差の分布情報と被動歯車の基準歯面に対する歯面誤差の分布情報とをそれぞれ演算する。さらに、演算部6は、各加工誤差範囲Te(r),Re(r),Ce(r),Le(r),Ble(r),Bre(r)の範囲内でそれぞれ歯面修正量群G毎にシミュレーションされた全ての歯車対に対し、駆動歯車と被動歯車とを予め設定された複数パターンの噛み合い条件(組付誤差Mis,トルクTq)でそれぞれ噛み合わせたときの歯面間の各伝達誤差量Eを、対応する各歯面誤差分布情報に基づいてそれぞれ演算する。この場合において、演算部6は、例えば、実機上で歯車対を噛み合わせて所定トルクTqを付与したときに発生するデフレクションDを、シミュレーション等を用いて演算する。このデフレクションDとは歯車対に所定トルクTqを付与したときの各歯車軸の撓み等に起因する動的な組付誤差であり、具体的には、演算部6は、デフレクションDとして、食違誤差Ddevi及び平行誤差Dinclを、実用トルク範囲Tq(r)内で可変設定したトルク条件(トルクTq)毎にそれぞれ演算する。そして、演算部6は、トルク条件毎に演算した各デフレクションDを用いて各伝達誤差量Eを求める。
【0023】
そして、演算部6は、伝達誤差量Eに対する評価マップを参照して、演算した各伝達誤差量Eのうちの設定割合以上が設定閾値内となる歯面修正量群Gの中から最終的な歯面修正量群Gを抽出する。その際、演算部6は、歯面修正量群Gに対応して演算される各伝達誤差量Eのうちの設定要件を満たす伝達誤差量E(例えば、全ての加工誤差量がゼロのときの各伝達誤差量E)を、予め設定された目標値に基づいて評価することで抽出対象とする歯面誤差修正量群Gを絞り込み、絞り込んだ歯面誤差修正量群Gの中から最良の歯面修正量群Gを適宜抽出する。
【0024】
演算部6は、これらの演算を仕上げ工程毎にそれぞれ行うようになっており、これにより、最適な仕上げ工程を選定するとともに、当該選定した仕上げ工法における最良の歯面修正量群Gに基づいて設定される設計歯面修正量を最終的な設計歯面修正量として選定する。
【0025】
次に、演算部6で実行される歯車対の設計処理について、図3に示す設計歯面修正量設定ルーチンのフローチャートに従って詳細に説明する。
ここで、以下の説明においては、はすば歯車対の設計を例に説明する。このはすば歯車対の設計に際し、入力部5を通じたオペレータによる入力によって、記憶部7には、例えば、各歯先修正量Tに対して許容される修正量範囲T(r)として2〜10μmが、各歯元修正量Rに対して許容される修正量範囲R(r)として2〜10μmが、各クラウニング修正量Cに対して許容される修正量範囲C(r)として4〜14μmが、各歯筋タオレ修正量Lに対して許容される修正量範囲L(r)として2〜12μmが、各バイアス修正量Bl,Brに対して許容される修正量範囲Bl(r),Br(r)として0〜15μmが、それぞれ設定されている。また、例えば、図18に示すように、仕上げ工法がシェービングである場合において、歯先修正に対して想定される加工誤差範囲Te(r)として−7〜4μmが、歯元修正に対して想定される加工誤差範囲Re(r)として−4〜6μmが、クラウニング修正に対して想定される加工誤差範囲Ce(r)として−3〜3μmが、歯筋タオレ修正に対して想定される加工誤差範囲Le(r)として−5〜5μmが、バイアス修正に対して想定される加工誤差範囲Ble(r),Bre(r)として−8〜8μmが、それぞれ設定されている。また、仕上げ工法がホーニングである場合において、歯先修正に対して想定される加工誤差範囲Te(r)として−5〜2μmが、歯元修正に対して想定される加工誤差範囲Re(r)として−2〜4μmが、クラウニング修正に対して想定される加工誤差範囲Ce(r)として−2〜2μmが、歯筋タオレ修正に対して想定される加工誤差範囲Le(r)として−4〜4μmが、バイアス修正に対して想定される加工誤差範囲Ble(r),Bre(r)として−7〜7μmが、それぞれ設定されている。また、仕上げ工法が歯研である場合において、歯形丸み修正に対して想定される加工誤差範囲FFAe(r)として−1.5〜1.5μmが、圧力角誤差修正に対して想定される加工誤差範囲FAe(r)として−2〜2μmが、クラウニング修正に対して想定される加工誤差範囲Ce(r)として−1〜1μmが、歯筋タオレ修正に対して想定される加工誤差範囲Le(r)として−3〜3μmが、バイアス修正に対して想定される加工誤差範囲Ble(r),Bre(r)として−5〜5μmが、それぞれ設定されている。さらに、静的な組付誤差Misの範囲、及び入力トルクTqの実用範囲として、食違誤差Misdeviの範囲Misdevi(r)=−0.03〜0.17(deg)、Tq(r)=0〜20(kgfm)がそれぞれ設定されている。なお、以下の説明においては、説明を簡略化するため、静的な平行誤差Misinclを所定の固定値(例えば、Misincl=0)とした場合の一例について説明する。
【0026】
このルーチンがスタートすると、演算部6は、先ず、ステップS101において、オペレータによって設定された各種入力情報を読み込む。すなわち、演算部6は、歯車対の基本諸元、許容修正量範囲T(r),R(r),C(r),L(r),Bl(r),Br(r)、仕上げ工程毎の公差範囲Te(r),Re(r),Ce(r),Le(r),Ble(r),Bre(r)、組付誤差範囲Mis(r)、実用トルク範囲Tq(r)、伝達誤差評価マップ等の各種情報を記憶部7から読み込む。
【0027】
続くステップS102において、演算部6は、シェービング、ホーニング、或いは、歯研の中から、未だ選択されていない仕上げ工法の何れか1つを選択する。
【0028】
続くステップS103において、演算部6は、各許容修正量T(r),R(r),C(r),L(r),Bl(r),Br(r)に基づいて複数パターンの歯面修正量群Gを設定する。具体的には、演算部6は、歯面修正量群Gとして、例えば、各許容修正量T(r),R(r),C(r),L(r),Bl(r),Br(r)の範囲内で各歯面に対する各項目の歯面修正量TDv1,RDv1,CDv1,LDv1,BlDv1,BrDv1,TDv2,RDv2,CDv2,LDv2,BlDv2,BrDv2,TDn1,RDn1,CDn1,LDn1,BlDn1,BrDn1,TDn2,RDn2,CDn2,LDn2,BlDn2,BrDn2をそれぞれ個別に1μmずつ変化させたときの値の全ての組み合わせを設定する。
【0029】
すなわち、演算部6は、歯面修正量群として、例えば、
G1=(TDv1=2,RDv1=2,CDv1=4,LDv1=2,BlDv1=0,BrDv1=0,TDv2=2,RDv2=2,CDv2=4,LDv2=2,BlDv2=0,BrDv2=0,TDn1=2,RDn1=2,CDn1=4,LDn1=2,BlDn1=0,BrDn1=0,TDn2=2,RDn2=2,CDn2=4,LDn2=2,BlDn2=0,BrDn2=0)、
G2=(TDv1=3,RDv1=2,CDv1=4,LDv1=2,BlDv1=0,BrDv1=0,TDv2=2,RDv2=2,CDv2=4,LDv2=2,BlDv2=0,BrDv2=0,TDn1=2,RDn1=2,CDn1=4,LDn1=2,BlDn1=0,BrDn1=0,TDn2=2,RDn2=2,CDn2=4,LDn2=2,BlDn2=0,BrDn2=0)、
G3=(TDv1=4,RDv1=2,CDv1=4,LDv1=2,BlDv1=0,BrDv1=0,TDv2=2,RDv2=2,CDv2=4,LDv2=2,BlDv2=0,BrDv2=0,TDn1=2,RDn1=2,CDn1=4,LDn1=2,BlDn1=0,BrDn1=0,TDn2=2,RDn2=2,CDn2=4,LDn2=2,BlDn2=0,BrDn2=0)、・・・、
Gn−1=(TDv1=10,RDv1=10,CDv1=14,LDv1=12,BlDv1=15,BrDv1=15,TDv2=10,RDv2=10,CDv2=14,LDv2=12,BlDv2=15,BrDv2=15,TDn1=10,RDn1=10,CDn1=14,LDn1=12,BlDn1=15,BrDn1=15,TDn2=10,RDn2=10,CDn2=14,LDn2=12,BlDn2=15,BrDn2=14)、
Gn=(TDv1=10,RDv1=10,CDv1=14,LDv1=12,BlDv1=15,BrDv1=15,TDv2=10,RDv2=10,CDv2=14,LDv2=12,BlDv2=15,BrDv2=15,TDn1=10,RDn1=10,CDn1=14,LDn1=12,BlDn1=15,BrDn1=15,TDn2=10,RDn2=10,CDn2=14,LDn2=12,BlDn2=15,BrDn2=15)
を設定する。
【0030】
続くステップS104において、演算部6は、ステップS103で設定した歯面修正量群G1〜Gnの中から何れか1つの歯面修正量群Gを選択する。
【0031】
そして、ステップS105に進むと、演算部6は、例えば、図4に示す歯面誤差演算サブルーチンのプログラムを実行し、選択した歯面修正量群Gに基づいて各加工誤差範囲Te(r),Re(r),Ce(r),Le(r),Ble(r),Bre(r)内で加工され得る各歯車対について、駆動歯車及び被動歯車のドライブ側及びコースト側それぞれの歯面誤差分布情報を演算する。
【0032】
すなわち、このサブルーチンがスタートすると、ステップS201において、演算部6は、現在選択中の仕上げ工法に対応する各加工誤差範囲Te(r),Re(r),Ce(r),Le(r),Ble(r),Bre(r)に基づいて複数パターンの加工誤差量群Geを設定する。具体的には、演算部6は、加工誤差量群Geとして、例えば、各加工誤差範囲Te(r),Re(r),Ce(r),Le(r),Ble(r),Bre(r)内で各歯面に対する各項目の加工誤差量TeDv1,ReDv1,CeDv1,LeDv1,BleDv1,BreDv1,TeDv2,ReDv2,CeDv2,LeDv2,BleDv2,BreDv2,TeDn1,ReDn1,CeDn1,LeDn1,BleDn1,BreDn1,TeDn2,ReDn2,CeDn2,LeDn2,BleDn2,BreDn2をそれぞれ個別に1μmずつ変化させたときの値の全ての組み合わせを設定する。
【0033】
すなわち、演算部6は、例えば、仕上げ工法がシェービングである場合の加工誤差量群Geとして、例えば、
Ge1=(TeDv1=−7,ReDv1=−4,CeDv1=−3,LeDv1=−5,BleDv1=−8,BreDv1=−8,TeDv2=−7,ReDv2=−4,CeDv2=−3,LeDv2=−5,BleDv2=−8,BreDv2=−8,TeDn1=−7,ReDn1=−4,CeDn1=−3,LeDn1=−5,BleDn1=−8,BreDn1=−8,TeDn2=−7,ReDn2=−4,CeDn2=−3,LeDn2=−5,BleDn2=−8,BreDn2=−8)、
Ge2=(TeDv1=−6,ReDv1=−4,CeDv1=−3,LeDv1=−5,BleDv1=−8,BreDv1=−8,TeDv2=−7,ReDv2=−4,CeDv2=−3,LeDv2=−5,BleDv2=−8,BreDv2=−8,TeDn1=−7,ReDn1=−4,CeDn1=−3,LeDn1=−5,BleDn1=−8,BreDn1=−8,TeDn2=−7,ReDn2=−4,CeDn2=−3,LeDn2=−5,BleDn2=−8,BreDn2=−8)、
Ge3=(TeDv1=−5,ReDv1=−4,CeDv1=−3,LeDv1=−5,BleDv1=−8,BreDv1=−8,TeDv2=−7,ReDv2=−4,CeDv2=−3,LeDv2=−5,BleDv2=−8,BreDv2=−8,TeDn1=−7,ReDn1=−4,CeDn1=−3,LeDn1=−5,BleDn1=−8,BreDn1=−8,TeDn2=−7,ReDn2=−4,CeDn2=−3,LeDn2=−5,BleDn2=−8,BreDn2=−8)、・・・、
Gem−1=(TeDv1=4,ReDv1=6,CeDv1=3,LeDv1=5,BleDv1=8,BreDv1=8,TeDv2=4,ReDv2=6,CeDv2=3,LeDv2=5,BleDv2=8,BreDv2=8,TeDn1=4,ReDn1=6,CeDn1=3,LeDn1=5,BleDn1=8,BreDn1=8,TeDn2=4,ReDn2=6,CeDn2=3,LeDn2=5,BleDn2=8,BreDn2=7)、
Gem=(TeDv1=4,ReDv1=6,CeDv1=3,LeDv1=5,BleDv1=8,BreDv1=8,TeDv2=4,ReDv2=6,CeDv2=3,LeDv2=5,BleDv2=8,BreDv2=8,TeDn1=4,ReDn1=6,CeDn1=3,LeDn1=5,BleDn1=8,BreDn1=8,TeDn2=4,ReDn2=6,CeDn2=3,LeDn2=5,BleDn2=8,BreDn2=8)
を設定する。
【0034】
続くステップS202において、演算部6は、ステップS201で設定した加工誤差量群Ge1〜Gemの中から何れか1つの加工誤差量群Geを選択する。
【0035】
そして、ステップS203において、演算部6は、現在選択されている歯面修正量群Gと加工誤差量群Geとに基づいて製造される(シミュレーションされる)歯車対の各歯面(駆動歯車及び被動歯車のドライブ側及びコースト側の各歯面)の歯面誤差分布情報として、それぞれ3行×3列の歯面誤差分布情報を算出する。すなわち、図6に示すように、演算部6は、各基準歯面上における有効歯面の中心(P(1,1))と、有効歯面の四隅(P(0,0)、P(0,2)、P(2,0)、P(2,2))と、有効歯面を囲む各辺の中心(P(0,1)、P(1,0)、P(1,2)、P(2,1))に対し、それぞれ該当する各歯面修正量及び各加工誤差量を付与することで、各基準歯面に対する3行×3列の歯面誤差分布情報を算出する。
【0036】
具体的には、駆動歯車が右ネジレの場合、歯筋タオレ量は強ネジレ方向を正、バイアス修正量はバイアスインを正とすると、駆動歯車のドライブ側歯面における各点の歯面修正量は、
PDv1(0,0)=TDv1+CDv1+LDv1/2−BlDv1/2+TeDv1+CeDv1+LeDv1/2−BleDv1/2
PDv1(0,1)=TDv1+TeDv1
PDv1(0,2)=TDv1+CDv1−LDv1/2+BrDv1/2+TeDv1+CeDv1−LeDv1/2+BreDv1/2
PDv1(1,0)=CDv1+LDv1/2+CeDv1+LeDv1/2
PDv1(1,1)=0
PDv1(1,2)=CDv1−LDv1/2+CeDv1−LeDv1/2
PDv1(2,0)=RDv1+CDv1+LDv1/2+BlDv1/2+ReDv1+CeDv1+LeDv1/2+BleDv1/2
PDv1(2,1)=RDv1+ReDv1
PDv1(2,2)=RDv1+CDv1−LDv1/2−BreDv1/2+ReDv1+CeDv1−LeDv1/2−BreDv1/2
となる。
【0037】
また、駆動歯車のコースト側歯面における各点の歯面修正量は、
PDv2(0,0)=TDv2+CDv2+LDv2/2−BlDv2/2+TeDv2+CeDv2+LeDv2/2−BleDv2/2
PDv2(0,1)=TDv2+TeDv2
PDv2(0,2)=TDv2+CDv2−LDv2/2+BrDv2/2+TeDv2+CeDv2−LeDv2/2+BreDv2/2
PDv2(1,0)=CDv2+LDv2/2+CeDv2+LeDv2/2
PDv2(1,1)=0
PDv2(1,2)=CDv2−LDv2/2+CeDv2−LeDv2/2
PDv2(2,0)=RDv2+CDv2+LDv2/2+BlDv2/2+ReDv2+CeDv2+LeDv2/2+BleDv2/2
PDv2(2,1)=RDv2+ReDv2
PDv2(2,2)=RDv2+CDv2−LDv2/2−BreDv2/2+ReDv2+CeDv2−LeDv2/2−BreDv2/2
となる。
【0038】
また、被動歯車のドライブ側歯面における各点の歯面修正量は、
PDn1(0,0)=TDn1+CDn1−LDn1/2+BlDn1/2+TeDn1+CeDn1−LeDn1/2+BleDn1/2
PDn1(0,1)=TDn1+TeDn1
PDn1(0,2)=TDn1+CDn1+LDn1/2−BrDn1/2+TeDn1+CeDn1+LeDn1/2−BreDn1/2
PDn1(1,0)=CDn1−LDn1/2+CeDn1−LeDn1/2
PDn1(1,1)=0
PDn1(1,2)=CDn1+LDn1/2+CeDn1+LeDn1/2
PDn1(2,0)=RDn1+CDn1−LDn1/2−BlDn1/2+ReDn1+CeDn1−LeDn1/2−BleDn1/2
PDn1(2,1)=RDn1+ReDn1
PDn1(2,2)=RDn1+CDn1+LDn1/2+BrDn1/2+ReDn1+CeDn1+LeDn1/2+BreDn1/2
となる。
【0039】
また、被動歯車のコースト側歯面における各点の歯面修正量は、
PDn2(0,0)=TDn2+CDn2−LDn2/2+BlDn2/2+TeDn2+CeDn2−LeDn2/2+BleDn2/2
PDn2(0,1)=TDn2+TeDn2
PDn2(0,2)=TDn2+CDn2+LDn2/2−BrDn2/2+TeDn2+CeDn2+LeDn2/2−BreDn2/2
PDn2(1,0)=CDn2−LDn2/2+CeDn2−LeDn2/2
PDn2(1,1)=0
PDn2(1,2)=CDn2+LDn2/2+CeDn2+LeDn2/2
PDn2(2,0)=RDn2+CDn2−LDn2/2−BlDn2/2+ReDn2+CeDn2−LeDn2/2−BleDn2/2
PDn2(2,1)=RDn2+ReDn2
PDn2(2,2)=RDn2+CDn2+LDn2/2+BrDn2/2+ReDn2+CeDn2+LeDn2/2+BreDn2/2
となる。
【0040】
なお、仕上げ工法が歯研である場合、上述の各点の歯面修正量の計算式中において、TDv1に対して(FFADv1+FADv1/2)が、TeDv1に対して(FFAeDv1+FAeDv1/2)が、RDv1に対して(FFADv1−FADv1/2)が、ReDv1に対して(FFAeDv1−FAeDv1/2)が、TDv2に対して(FFADv2+FADv2/2)が、TeDv2に対して(FFAeDv2+FAeDv2/2)が、RDv2に対して(FFADv2−FADv2/2)が、ReDv2に対して(FFAeDv2−FAeDv2/2)が、それぞれ代入される。また、駆動歯車が左ネジレの場合、上述の各点において、歯筋タオレ修正量、及び、バイアス修正量に係る加減算は逆となる。
【0041】
続くステップS204において、演算部6は、例えば多点スプライン補間法を用いてステップS203で算出された各歯面における歯面誤差分布情報の補間計算を行い、各歯筋方向のサンプル間隔が例えば0.1mmとなる3行×oDv1列、3行×oDv2列、3行×oDn1列、3行×oDn2列の各歯面誤差分布情報を演算する。
【0042】
すなわち、演算部6は、例えば、(1)式に示すように、歯面誤差の各データ列を用いて、歯筋方向をx軸とするスプライン近似式を列毎にそれぞれ求め、この近似式から補間データを算出することで所望サンプル間隔のデータ群を取得する。
【数1】
【0043】
ここで、(1)式において、前段の関数は近似式全体の傾向を表す項であり、同項のAk-1〜A0は、データ列の中から所定に抽出したk個の歯面誤差データに基づいてそれぞれ設定される係数である。また、(1)式において、後段の関数は隣り合うデータ間を滑らかに連結するための項であり、同項のCiは、互いに隣り合うデータ対に基づいてそれぞれ設定される係数である。
【0044】
ステップS204からステップS205に進むと、全ての加工誤差量群Geに対応する歯車対の各歯面誤差分布情報を演算したか否かを調べる。その結果、演算部6は、全ての加工誤差量群Geに対応する歯車対の各歯面誤差分布情報が演算されていないと判定した場合には、ステップS202に戻る。一方、全ての加工誤差量群Geに対応する歯車対の各歯面誤差分布情報が演算されたと判定した場合には、サブルーチンを抜ける。
【0045】
メインルーチンにおいて、ステップS104からステップS105に進むと、演算部6は、例えば、図5に示す伝達誤差量演算サブルーチンのプログラムを実行し、選択した歯面修正量群Gに基づいて加工され得る各歯車対を複数パターンの噛み合い条件で噛み合わせたときの各伝達誤差量Eをそれぞれ演算する。
【0046】
このサブルーチンにおいて、演算部6は、先ず、ステップS301〜306の処理により、歯車対(例えば、基本諸元に基づいて得られる歯車対)に対して実用トルク範囲Tq(r)内の各トルクTqを付与したときの各デフレクションDを演算する。すなわち、サブルーチンがスタートすると、演算部6は、ステップS301において、歯車対100に対して付与するトルクTqの初期値として、例えば、実用トルク範囲Tq(r)内におけるトルクの最小値(例えば、Tq=0(kgfm))を設定する。
【0047】
続くステップS302において、演算部6は、シミュレーション上において、歯車対にトルクTqを付与したときの噛み合いモデルを演算する。
【0048】
そして、ステップS303に進むと、演算部6は、ステップ302で演算した噛み合いモデル上において、駆動ギヤ及び被動ギヤの各変位量(すなわち、駆動ギヤ及び被動ギヤの無負荷状態からの各タオレ量)を計測する。ここで、演算部6は、駆動ギヤの一側面において、駆動ギヤ軸を中心とする同一円上の対象位置4点での各変位量を計測すると共に、被動ギヤの一側面において、被動ギヤ軸を中心とする同一円上の対象位置4点での各変位量を計測する。
【0049】
より具体的には、例えば、図19に示すように、シミュレーション上の歯車対において、演算部6は、駆動ギヤ(Drive)の一側面上の被動ギヤ(Driven)との噛み合い位置の直近傍に、第1計測点M1Dvを設定するとともに、駆動ギヤの回転軸を基準とする第1計測点M1Dvの2回対称位置(すなわち、第1計測点M1Dvを180°回転移動させた位置)に第2計測点M2Dvを設定する。さらに、駆動ギヤの回転軸を基準とする第1,第2計測点M1Dv,M2Dvの各4回対称位置(すなわち、第1,第2計測点M1Dv,M2Dvをそれぞれ90°回転移動させた位置)に第3,第4計測点M3Dv,M4Dvをそれぞれ設定する。そして、演算部6は、設定した各計測点M1Dv〜M4Dvにおける駆動ギヤの各変位量を計測する(すなわち、シミュレーション上において演算する)。また、演算部6は、被動ギヤの一側面上の駆動ギヤとの噛み合い位置の直近傍に、第2計測点M2Dnを設定するとともに、被動ギヤの回転軸を基準とする第2計測点M2Dnの2回対称位置に第1計測点M1Dnを設定する。さらに、駆動ギヤの回転軸を基準とする第1,第2計測点M1Dn,M2Dnの各4回対称位置に第3,第4計測点M3Dn,M4Dnをそれぞれ設定する。そして、演算部6は、設定した各計測点M1Dn〜M4Dnにおける被動ギヤの各変位量を計測する(すなわち、シミュレーション上において演算する)。
【0050】
ステップS304に進むと、演算部6は、例えば、現在のトルクTqを所定トルクΔTq(例えば、ΔTq=1.2(kgfm))増量側に更新する(Tq←Tq+ΔTq)。
【0051】
続くステップS305において、演算部6は、例えば、更新したトルクTqが実用トルク範囲Tq(r)外の値であるか否かを調べることにより、実用トルク範囲Tq(r)内でトルクTqを所定トルクΔTq変化させた毎の駆動ギヤ及び被動ギヤの各変位量の計測が終了したか否かを調べる。
【0052】
そして、ステップS305において、更新したトルクTqが未だ実用トルク範囲Tq(r)以内の値であり、未だ所定トルクΔTq毎の駆動ギヤ及び被動ギヤの各変位量の計測が終了していないと判定すると、演算部6は、ステップS302に戻る。
【0053】
一方、ステップS305において、更新したトルクTqが実用トルク範囲Tq(r)外の値であり、所定トルクΔTq毎の駆動ギヤ及び被動ギヤの各変位量の計測が終了したと判定すると、演算部6は、ステップS306に進み、計測した各変位量に基づき、トルクTq毎に歯車対に発生する動的なデフレクションDを演算する。
【0054】
すなわち、演算部6は、上述のステップS301〜S305の処理により、例えば、図20に示すように、各計測点M1Dv〜M4Dv及びM1Dn〜M4DnにおけるトルクTqと変位量との関係を所得する。そして、ステップS306において、演算部6は、これら取得したトルクTq毎の各変位量情報と、駆動ギヤ及び被動ギヤの有効噛み合い半径等に基づき、例えば、トルクTqに対する歯車対の動的なデフレクションとして、例えば、図19,21に示すように、動的な食違誤差Ddevi(Tq)及び平行誤差Dincl(Tq)を演算する。なお、図21中等に示すDdevi(Tq)及びDincl(Tq)は、食違誤差Ddevi及び平行誤差DinclをトルクTqの関数として表記したものである。
【0055】
ここで、より詳細なデフレクションDの演算を実現するため、演算部6は、例えば、上述のステップS302において、例えば、トランスミッション等に搭載された歯車対の噛み合いモデルを生成することも可能である。また、実用トルク範囲Tq(r)についても、正値側(すなわち、ドライブ側)のみならず、負値側(すなわち、コースト側)にも拡張することが可能である。なお、これらの条件下において、上述のステップS301〜306の処理を行ったときの歯車対の動的な食違誤差Ddevi(Tq)及び平行誤差Dincl(Tq)の演算結果を、例えば、図22に示す。
【0056】
ステップS306からステップS307に進むと、演算部6は、静的な食違誤差範囲Misdevi(r)と実用トルク範囲Tq(r)(すなわち、動的な食違誤差Ddevi(Tq)及び平行誤差Dincl(Tq))に基づいて複数パターンの噛み合い条件群Gcを設定する。具体的には、演算部6は、噛み合い条件群Gcとして、例えば、静的な平行誤差Misinclを固定値(Misincl=0)とし、静的な食違誤差Misdeviを誤差範囲Misdevi(r)内で0.02degずつ変化させた値と、入力トルクTqを実用トルク範囲Tq(r)内で1.2kgfmずつ変化させた値との全ての組み合わせを設定する。
【0057】
すなわち、演算部6は、噛み合い条件群として、例えば、
Gc1=(Misdevi=−0.03,Misincl=0,Ddevi(Tq=0),Dincl(Tq=0))、
Gc2=(Misdevi=−0.01,Misincl=0,Ddevi(Tq=0),Dincl(Tq=0))、
Gc3=(Misdevi=0.01,Misincl=0,Ddevi(Tq=0),Dincl(Tq=0))、・・・、
Gcl−1=(Misdevi=0.17,Misincl=0,Ddevi(Tq=58.8),Dincl(Tq=18.8))、
Gcl=(Misdevi=0.17,Misincl=0,Ddevi(Tq=60),Dincl(Tq=20))
を設定する。
【0058】
ステップS307からステップS308に進むと、演算部6は、ステップS105で演算した各歯車対(現在の歯面修正量群Gに基づいて設定加工誤差範囲内で製造され得る各歯車対)の中から何れか1つの歯車対を選択し、続くステップS309において、ステップ307で設定した噛み合い条件群の中から何れか1つの噛み合い条件群Gcを選択する。
【0059】
そして、ステップS310に進むと、演算部6は、ステップS308で選択した歯車対をステップS309で選択した噛み合い条件群Gcを用いて噛み合わせたときの歯面間の相対歯面誤差分布情報を算出する。
【0060】
この相対歯面誤差分布情報の演算において、演算部6は、先ず、駆動歯車と被動歯車の各ドライブ側歯面の有効噛み合い領域を算出し、駆動歯面の歯面誤差分布情報(3行×oDv1列の分布情報)及び被動歯車の歯面誤差分布情報(3行×oDn1列の分布情報)の中から、有効噛み合い領域内に存在する歯面誤差分布情報(3行×p列の分布情報)をそれぞれ抽出する。
【0061】
ここで、駆動歯面及び被動歯面の有効噛み合い領域は、具体的には、歯車諸元である各歯面の歯幅及び両歯面間の歯幅ズレ量(駆動歯面の中心と被動歯面の中心との歯幅方向のズレ量)ΔBに基づいて算出される。この場合、図10(a)及び(b)から明らかなように、駆動歯面Dvの歯幅が被動歯面Dnの歯幅よりも大きい場合であって、且つ、駆動歯面Dvと被動歯面Dnとが完全に重なる場合には、抽出される各歯面の歯幅方向のデータ数は、p=oDn1となる。また、図10(c)及び(d)から明らかなように、駆動歯面Dvの歯幅が被動歯面Dnの歯幅よりも大きい場合であって、且つ、駆動歯面Dvと被動歯面Dnとが完全に重ならない場合には、抽出される各歯面の歯幅方向のデータ数は、p<oDn1となる。また、図11(a)及び(b)から明らかなように、駆動歯面Dvの歯幅が被動歯面Dnの歯幅よりも小さい場合であって、且つ、駆動歯面Dvと被動歯面Dnとが完全に重なる場合には、抽出される各歯面の歯幅方向のデータ数は、p=oDv1となる。また、図11(c)及び図6(d)から明らかなように、駆動歯面Dvの歯幅が被動歯面Dnの歯幅よりも小さい場合であって、且つ、駆動歯面Dvと被動歯面Dnとが完全に重ならない場合には、抽出される各歯面の歯幅方向のデータ数は、p<oDv1となる。なお、図10及び図11は、噛み合い時に重畳される駆動歯面Dvと被動歯面Dnとを上下に並べて表示したものである。
【0062】
次に、演算部6は、抽出された各歯面誤差分布情報(3行×p列の分布情報)に基づいて、駆動歯面と被動歯面との噛み合い時の相対的な歯面誤差である相対歯面誤差の分布情報を生成する。ここで、相対歯面誤差分布情報は、例えば、駆動歯面を基準として算出される。
【0063】
具体的に説明すると、3行×p列の各歯面誤差分布情報において、駆動歯面側のi行j列目の歯面誤差データをDriveData(i,j)、被動歯面側のi行j列目の歯面誤差データをDrivenData(i,j)とすると、各相対歯面誤差データ(HukaSoutaiData(i,j))は、例えば(2)式に示す計算式を用いて算出される。
HukaSoutaiData(i,j)=DriveData(i,j)+DrivenData(7-1-i,j)+EASSY …(2)
ここで、(2)式において、EASSYは静的な食違誤差Misdevi及び平行誤差MisinclとトルクTq(すなわち、動的な食違誤差Ddevi(Tq)及び平行誤差Dincl(Tq))から算出される歯筋タオレ量であり、例えば、以下の(3)式を用いて算出される。
EASSY=(Ddevi(Tq)+Misdevi+(Dincl(Tq)+Misincl)
×tanαbs)×B …(3)
ここで、(3)式中のBは、噛み合い歯幅(図10,11参照)である。また、(3)式中のαbsは、圧力角αnをギヤ中心間距離、歯数、及び、モジュール等で補正して求まる正面噛み合い圧力角である。
【0064】
なお、ステップS310では、コースト側歯面についても、駆動歯車の歯面誤差分布情報(3行×oDv2列の分布情報)及び被動歯車の歯面誤差分布情報(3行×oDn2列の分布情報)を用いて同様の処理が行われる。
【0065】
そして、ステップS310からステップS311に進むと、演算部6は、各相対歯面誤差分布情報に対し、上述の多点スプライン補間法を用いて行補間及び列補間を行い、より詳細な相対歯面誤差分布情報(例えば、241行×241列の分布情報)を生成する。
【0066】
ここで、演算部6は、例えば、図12に示すように、生成した相対歯面誤差の分布情報を、出力部8(例えば、モニタ13)を通じて等高線状に可視化表示することも可能である。なお、図12中において、破線は、駆動歯面と被動歯面との接触経路を示す。また、図12中において、一点鎖線は、ある瞬間での駆動歯面と被動歯面との接触線を示し、この接触線は、歯面間の噛み合いの進行に伴って接触経路上を平行移動する。
【0067】
ステップS311からステップS312に進むと、演算部6は、ステップS311で生成した相対歯面誤差分布情報に基づいて、歯車対の伝達誤差量Eを演算する。
【0068】
この伝達誤差量Eの演算として、演算部6は、例えば、ステップS311で生成した相対歯面誤差分布情報に基づいて、歯車対の噛み合いタイミング(回転角)と各歯の等価歯形誤差との関係を求める(図13参照)。ここで、無負荷状態の場合、等価歯形誤差としては、相対歯面誤差分布情報において、各噛み合いタイミングで各接触線上に分布する相対歯面誤差の最大値が用いられる。そして、演算部6は、例えば、被動歯車の回転角の1ピッチNにおける、複数本の同時接触線についての等価歯形誤差の最大値と最小値の差dを伝達誤差量Eとして求める。なお、相対歯面誤差分布情報に基づく伝達誤差量Eの演算については、上述のものに限定されないことは勿論である。
【0069】
ステップS312からステップS313に進むと、演算部6は、現在選択されている歯車対に対し、ステップS308で設定された全噛み合い条件群Gcについての各伝達誤差量Eが演算されたか否かを調べる。その結果、演算部6は、全ての噛み合い条件群Gcについての伝達誤差量Eが演算されていないと判定した場合には、ステップS309に戻る。
【0070】
一方、ステップS313において、全ての噛み合い条件群Gcについての伝達誤差量Eが演算されていると判定した場合、演算部6は、ステップS314に進み、全ての歯車対についての各伝達誤差量Eが演算されたか否かを調べる。その結果、演算部6は、全ての歯車対についての伝達誤差量Eが演算されていないと判定した場合には、ステップS308に戻る。一方、全ての歯車対についての伝達誤差量Eが演算されていると判定した場合、演算部6は、サブルーチンを抜ける。
【0071】
メインルーチンにおいて、ステップS106からステップS107に進むと、演算部6は、ステップS103で設定した全ての歯面修正量群Gに対して、各加工誤差及び各噛み合い条件に基づく各伝達誤差量Eの演算を行ったか否かを調べる。その結果、演算部6は、全ての歯面修正量群Gに対して各伝達誤差量Eの演算を行っていないと判定すると、ステップS104に戻る。
【0072】
なお、ステップS107からステップS104に戻り、新たに選択した歯面修正量群Gに基づいて上述のステップS105及びステップS106の処理を行う際に、歯面誤差分布情報等が以前のものと重複する場合には、当該歯面誤差分布情報に基づく各演算を適宜省略することが可能である。すなわち、歯面誤差分布情報は、各種歯面修正量と各種加工誤差とに基づいて演算されるため、歯面修正量群Gが異なる場合でも、同一の歯面誤差分布情報等が得られる場合がある。特に、本実施形態では、各種歯面修正量及び各種加工誤差を同じ値ずつ変化させているため、多くの歯面誤差分布情報等が重複する。そこで、このような場合に重複する演算を省略することにより、各種演算を大幅に簡略化することができる。
【0073】
一方、ステップS107において、全ての歯面修正量群Gに対して各伝達誤差量Eの演算を行ったと判定すると、演算部6は、ステップS108に進み、全ての仕上げ工法に対して上述のステップS103乃至ステップS107による伝達誤差量Eの演算を行ったか否かを調べる。
【0074】
そして、ステップS108において、未だ全ての仕上げ工法に対して伝達誤差量Eの演算を行っていないと判定すると、演算部6は、ステップS102に戻る。一方、ステップS108において、全ての仕上げ工法に対して伝達誤差量Eの演算を行ったと判定した場合、演算部6は、ステップS109に進む。
【0075】
ステップS108からステップS109に進むと、演算部6は、シェービング、ホーニング、或いは、歯研の中から何れか1つの仕上げ工法を選択し、続くステップS110において、伝達誤差量Eの目標値マップ(図14乃至図16参照)を参照し、例えば、現在選択中の仕上げ工法における加工誤差を考慮しないときの各伝達誤差量Eの全てが目標値内に分布する歯面修正量群Gが存在するか否かを調べる。すなわち、演算部6は、ステップS110において、現在選択中の仕上げ工法について、歯面修正量群G毎に演算された各伝達誤差量Eの中から、各加工誤差がゼロ(すなわち、TeDv1=ReDv1=CeDv1=LeDv1=BleDv1=BreDv1=TeDv2=ReDv2=CeDv2=LeDv2=BleDv2=BreDv2=TeDn1=ReDn1=CeDn1=LeDn1=BleDn1=BreDn1=TeDn2=ReDn2=CeDn2=LeDn2=BleDn2=BreDn2=0)である歯車対を各噛み合い条件で噛み合わせたときの各伝達誤差量を抽出する(以下、抽出された各伝達誤差量を特にE0と表記する)。そして、抽出した伝達誤差量E0の全てが目標値内に分布する歯面修正量群Gが存在するか否かを調べる。
【0076】
その結果、ステップS110において、伝達誤差量E0の全てが目標値内に分布する歯面修正量群Gが存在しないと判定した場合、演算部6は、ステップS114に進む。一方、ステップS110において、伝達誤差量E0の全てが目標値内に分布する歯面修正量群Gが存在すると判定すると、演算部6は、ステップS111に進む。
【0077】
ステップS110からステップS111に進むと、演算部6は、現在選択中の仕上げ工法において、伝達誤差量E0の全てが目標値内に分布する歯面修正量群Gの中から、最良の歯面修正量群Gを抽出する。なお、最良の歯面修正量群Gの抽出は、例えば、各歯面修正量群Gに対応する各伝達誤差量E0の最悪値(最大値)同士を比較することによって行うことが可能である。その他、例えば、各歯面修正量群Gに対応する各伝達誤差量E0の平均値同士を比較することによって、最良の歯面誤差修正量Gを抽出してもよい。
【0078】
そして、ステップS112に進むと、演算部6は、伝達誤差量Eの閾値マップ(図15,図16参照)を参照し、ステップS111で抽出した歯面修正量群Gに対応する全ての伝達誤差量Eのうちの設定割合以上(例えば、99.7%以上)が閾値内に分布しているか否かを調べる。
【0079】
その結果、ステップS111で抽出した歯面修正量群Gに対応する全ての伝達誤差量Eのうちの設定割合以上が閾値内に分布していないと判定すると、演算部6は、ステップS110に戻り、抽出した歯面修正量群Gを除く各歯面修正量群に基づいて同様の処理を繰り返す。
【0080】
一方、ステップS111で抽出した歯面修正量群Gに対応する全ての伝達誤差量Eのうちの設定割合以上が閾値内に分布していると判定すると、演算部6は、ステップS113に進み、現在抽出中の歯面修正量群Gに基づいて歯車対の設計歯面修正量を設定した後、ステップS114に進む。
【0081】
ステップS110或いはステップS113からステップS114に進むと、演算部6は、上述のステップS109の処理により全ての仕上げ工法の選択が終了したか否かを調べる。そして、ステップS114において、全ての仕上げ工法の選択が終了していないと判定すると、演算部6は、ステップS109に戻る。
【0082】
一方、ステップS114において、全ての仕上げ工法の選択が終了したと判定すると、演算部6は、ステップS115に進み、シェービング、ホーニング、或いは、歯研の中から最良の仕上げ工法及び設計歯面修正量を決定した後、ルーチンを抜ける。この場合において、演算部6は、例えば、上述のステップS113において有効な設計歯面修正量が設定された仕上げ工法の中から、シェービング、ホーニング、歯研の優先順位で仕上げ工法を選択する。すなわち、例えば、全ての仕上げ工法について有効な設計歯面修正量が設定されている場合、演算部6は、最も安価且つ容易に歯面加工を行うことが可能なシェービングを最終的な仕上げ工法として選択し、当該シェービングに対応する設計歯面修正量を最終的な設計歯面修正量として決定する。また、例えば、シェービングについて有効な設計歯面修正量が設定されておらず、ホーニング及び歯研について有効な設計歯面修正量が設定されている場合、演算部6は、歯研よりも安価且つ容易に歯面加工を行うことが可能なホー二ングを最終的な仕上げ工法として選択し、当該ホー二ングに対応する設計歯面修正量を最終的な設計歯面修正量として決定する。一方、例えば、シェービング及びホー二ングについて有効な設計歯面修正量が設定されておらず、歯研にのみ有効な設計歯面修正量が設定されている場合、演算部6は、歯研を最終的な仕上げ工法として選択し、当該歯研に対応する設計歯面修正量を最終的な設計歯面修正量として決定する。
【0083】
ここで、設計装置1は、最終的な仕上げ工法及び設計歯面修正量等の情報の他に、上述の各種演算結果等に基づいて他の各種情報を生成し、ディスプレイ装置13等の出力部8を通じて表示することも可能である。すなわち、設計装置1は、例えば、図23に示すように、所定トルク条件におけるモーションカーブ(伝達誤差変位波形)を表示することが可能である。また、例えば、図24に示すように、モーションカーブをFFT(高速フーリエ変換)処理し、次数毎の振幅を表示することも可能である。また、例えば、図25に示すように、所定伝達誤差範囲毎の発生頻度を示す伝達誤差頻度マップを所定のトルク範囲毎に表示することも可能である。また、例えば、図26に示すように、伝達誤差の発生頻度が設定頻度(例えば、99.7%)以上となる伝達誤差範囲のトルク特性を示す伝達誤差トルク特性を狙い歯面の目標値とともに表示することも可能である。また、例えば、図27に示すように、目標値(例えば、0.45μm)以下の伝達誤差の発生頻度を示す頻度マップを所定トルク域毎或いは所定トルク毎に表示することも可能である。
【0084】
このような実施形態によれば、各歯面修正量TDv1,RDv1,CDv1,LDv1,BlDv1,BrDv1,TDv2,RDv2,CDv2,LDv2,BlDv2,BrDv2,TDn1,RDn1,CDn1,LDn1,BlDn1,BrDn1,TDn2,RDn2,CDn2,LDn2,BlDn2,BrDn2をそれぞれ変化させた値の組み合わせからなる歯面修正量群Gを複数パターン設定し、基準歯面に各歯面修正量を付与して歯面加工を行った際に加工誤差範囲内で製造され得る複数パターンの歯車対を歯面修正量群G毎にシミュレーションして各歯車対における各歯面の歯面誤差分布情報をそれぞれ演算し、歯面修正量群G毎に設定加工誤差範囲内でシミュレーションされた全ての歯車対に対して駆動歯車と被動歯車とを予め設定された複数の噛み合い条件でそれぞれ噛み合わせたときの各伝達誤差量Eを対応する各歯面誤差分布情報に基づいてそれぞれ演算し、各伝達誤差量Eのうちの設定割合以上が閾値内となる歯面修正量群Gの中から最良の歯面修正量群Gを抽出することにより、実用に耐え得る良好な歯車対を歩留まりよく加工するために好適な歯面修正量群Gを、オペレータの経験に依存することなく容易に設定することができる。そして、このような演算を仕上げ工法毎に設定した各加工誤差範囲を用いて行うことで各仕上げ工法についての最良の歯面修正量群Gを求め、最良の歯面修正量群Gが設定された仕上げ工法の中から予め設定された優先順位に従って最終的な仕上げ工法を選定することにより、オペレータの経験等に依存することなく、実用に耐え得る良好な歯車対を歩留まり良く効率的に加工するために設計情報を容易に設定することができる。
【0085】
その際、駆動歯車及び被動歯車のドライブ側及びコースト側の各基準歯面上における有効歯面の中心と有効歯面の四隅と有効歯面を囲む各辺の中心に対してそれぞれ該当する各歯面修正量を付与すると共に各加工誤差量を付与して3行×3列の歯面誤差分布情報を生成し、当該歯面誤差分布情報を補間することにより、簡単な演算によって有効歯面全域に亘る歯面誤差分布情報を演算することができる。
【0086】
また、設計歯面修正量を設定するための最終的な歯面修正量群Gの抽出に際し、歯面修正量群Gに対応する各伝達誤差量Eのうちの設定要件を満たす伝達誤差量Eを、目標値に基づいて評価することで抽出対象とする歯面誤差修正量群Gを絞り込み、絞り込んだ歯面誤差修正量群Gの中から最終的な歯面修正量群Gを抽出することにより、好適な歯面修正量群Gの抽出を実現することができる。すなわち、歯面修正量群Gに基づいて加工され得る各歯車対のうち、実際に加工される可能性が特に高い歯車対(例えば、各項目の加工誤差がゼロの歯車対)の各伝達誤差量Eを、閾値よりも条件の厳しい目標値に基づいて評価し、この評価結果に基づいて抽出対象とする歯面誤差修正量群Gを絞り込むことにより、好適な歯面修正量群Gの抽出を実現することができる。
【0087】
また、歯車対に付与したトルクTqに応じて発生する動的な組付誤差量D(食違誤差Ddevi及び平行誤差Dincl)を、シミュレーション上の噛み合いモデルにおける駆動ギヤ及び被動ギヤの各変位量(すなわち、駆動ギヤ及び被動ギヤの無負荷状態からの各タオレ量)に基づいて所定トルク毎に演算し、これら動的な組付誤差を伝達誤差解析時の噛み合い条件として用いることにより、最良の歯面修正量群Gの抽出等を精度良く実現することができる。すなわち、組付誤差Dは、一般に、実機上においては、トルクTqに対して非線形に変化するものであるが、このような組付誤差Dを駆動ギヤ及び被動ギヤの変位量に基づいて高精度に求めることにより好適な解析等を実現することができる。
【0088】
なお、歯面修正量として設定される項目は、上述のものに限定されないことは勿論である。
【0089】
また、上述の実施形態においては、各伝達誤差量Eに基づいて歯面修正量群Gを抽出する際に目標値と閾値を併用する一例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、閾値のみに基づいて歯面修正量群Gを抽出してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】歯車対の設計装置の概略構成図
【図2】歯車対の設計装置を実現するためのコンピュータの一例を示す概略図
【図3】歯車対の設計歯面修正量設定ルーチンを示すフローチャート
【図4】歯面誤差演算サブルーチンを示すフローチャート
【図5】伝達誤差量演算サブルーチンを示すフローチャート
【図6】歯面上に設定された修正量入力点を示す説明図
【図7】歯先修正量及び歯元修正量の説明図
【図8】(a)はクラウニング修正量の説明図,(b)は歯筋タオレ修正量の説明図
【図9】バイアス修正量の説明図
【図10】駆動歯車の歯幅が被動歯車の歯幅よりも大きい場合の歯面誤差データの抽出領域を示す説明図
【図11】駆動歯車の歯幅が被動歯車の歯幅よりも小さい場合の歯面誤差データの抽出領域を示す説明図
【図12】等高線表示された相対歯面誤差分布の一例を示す説明図
【図13】相対歯面誤差分布から導き出される無負荷状態での伝達誤差量の説明図
【図14】伝達誤差量の目標値の一例を示すマップ
【図15】図14のI−I線に沿って伝達誤差量の目標値及び閾値を示すマップ
【図16】図14のII−II線に沿って伝達誤差量の目標値及び閾値を示すマップ
【図17】歯車対の概略構成図
【図18】公差範囲入力画面の一例を示す説明図
【図19】食違誤差と平行誤差の説明図
【図20】各計測点における駆動歯車軸トルクと変位との関係の一例を示す説明図
【図21】動的なデフレクションの一例を示す説明図
【図22】実機上における歯車対の動的なデフレクションの一例を示す説明図
【図23】実機上における所定負荷状態での歯車対のモーションカーブの一例を示す説明図
【図24】伝達誤差変位の噛み合い次数成分(振幅値)の一例を示す説明図
【図25】伝達誤差頻度マップの一例を示す説明図
【図26】伝達誤差トルク特性の一例を示す説明図
【図27】目標値以下の伝達誤差の発生頻度を示す頻度マップの一例を示す説明図
【符号の説明】
【0091】
1 … 設計装置
5 … 入力部
6 … 演算部(歯面修正量群設定手段、歯面誤差情報演算手段、伝達誤差量演算手段、歯面修正量群抽出手段、組付誤差量演算手段)
7 … 記憶部
8 … 出力部
100 … 歯車対
101 … 駆動歯車(駆動ギヤ)
102 … 被動歯車(被動ギヤ)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに噛み合う駆動歯車及び被動歯車の基本諸元により設定される各基準歯面に対して複数項目の歯面修正量を付与することで歯車対の加工に供する最終的な設計歯面修正量を設定する歯車対の設計装置であって、
上記各歯面修正量をそれぞれ変化させた値の組み合わせからなる歯面修正量群を複数パターン設定する歯面修正量群設定手段と、
上記基準歯面に上記各歯面修正量を付与して歯面加工を行った際に設定加工誤差範囲内で製造され得る複数パターンの歯車対を上記歯面修正量群毎にシミュレーションし、当該各歯車対における駆動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報と被動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報とをそれぞれ演算する歯面誤差情報演算手段と、
歯車対に付与したトルクに応じて発生する動的な組付誤差量を上記駆動歯車及び上記被動歯車の変位量に基づいて所定トルク毎に演算する組付誤差量演算手段と、
上記歯面修正量群毎に上記設定加工誤差範囲内でシミュレーションされた全ての上記歯車対について、上記組付誤差量をパラメータとして含む複数パターンの噛み合い条件で上記駆動歯車と上記被動歯車とを噛み合わせたときの各伝達誤差量を、対応する上記各歯面誤差分布情報に基づいてそれぞれ演算する伝達誤差量演算手段と、
演算した各伝達誤差量が設定条件を満たす上記歯面修正量群が存在する場合に、当該歯面修正量群の中から最良の歯面修正量群を抽出する歯面修正量群抽出手段と、を備えたことを特徴とする歯車対の設計装置。
【請求項2】
上記組付誤差量演算手段は、上記歯車対にトルクを付与したときの、駆動歯車軸を中心とする同心円上の対象位置4点での上記駆動歯車の各変位量と、被動歯車軸を中心とする同心円上の対象位置4点での上記被動歯車の各変位量とに基づいて、上記各歯車軸の食違方向の組付誤差量である食違誤差量と、上記各歯車軸の平行方向の組付誤差量である平行誤差量とを演算することを特徴とする請求項1記載の歯車対の設計装置。
【請求項3】
互いに噛み合う駆動歯車及び被動歯車の基本諸元により設定される各基準歯面に対して複数項目の歯面修正量を付与することで歯車対の加工に供する最終的な設計歯面修正量を設定する歯車対の設計プログラムであって、
上記各歯面修正量をそれぞれ変化させた値の組み合わせからなる歯面修正量群を複数パターン設定する歯面修正量群設定ステップと、
上記基準歯面に上記各歯面修正量を付与して歯面加工を行った際に設定加工誤差範囲内で製造され得る複数パターンの歯車対を上記歯面修正量群毎にシミュレーションし、当該各歯車対における駆動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報と被動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報とをそれぞれ演算する歯面誤差情報演算ステップと、
歯車対に付与したトルクに応じて発生する動的な組付誤差量を上記駆動歯車及び上記被動歯車の変位量に基づいて所定トルク毎に演算する組付誤差量演算ステップと、
上記歯面修正量群毎に上記設定加工誤差範囲内でシミュレーションされた全ての上記歯車対について、上記組付誤差量をパラメータとして含む複数パターンの噛み合い条件で上記駆動歯車と上記被動歯車とを噛み合わせたときの各伝達誤差量を、対応する上記各歯面誤差分布情報に基づいてそれぞれ演算する伝達誤差量演算ステップと、
演算した各伝達誤差量が設定条件を満たす上記歯面修正量群が存在する場合に、当該歯面修正量群の中から最良の歯面修正量群を抽出する歯面修正量群抽出ステップと、を備えたことを特徴とする歯車対の設計プログラム。
【請求項4】
互いに噛み合う駆動歯車及び被動歯車の基本諸元により設定される各基準歯面に対して複数項目の歯面修正量を付与することで歯車対の加工に供する最終的な設計歯面修正量を設定する歯車対の設計方法であって、
上記各歯面修正量をそれぞれ変化させた値の組み合わせからなる歯面修正量群を複数パターン設定する歯面修正量群設定工程と、
上記基準歯面に上記各歯面修正量を付与して歯面加工を行った際に設定加工誤差範囲内で製造され得る複数パターンの歯車対を上記歯面修正量群毎にシミュレーションし、当該各歯車対における駆動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報と被動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報とをそれぞれ演算する歯面誤差情報演算ステップと、
歯車対に付与したトルクに応じて発生する動的な組付誤差量を上記駆動歯車及び上記被動歯車の変位量に基づいて所定トルク毎に演算する組付誤差量演算工程と、
上記歯面修正量群毎に上記設定加工誤差範囲内でシミュレーションされた全ての上記歯車対について、上記組付誤差量をパラメータとして含む複数パターンの噛み合い条件で上記駆動歯車と上記被動歯車とを噛み合わせたときの各伝達誤差量を、対応する上記各歯面誤差分布情報に基づいてそれぞれ演算する伝達誤差量演算工程と、
演算した各伝達誤差量が設定条件を満たす上記歯面修正量群が存在する場合に、当該歯面修正量群の中から最良の歯面修正量群を抽出する歯面修正量群抽出工程と、を備えたことを特徴とする歯車対の設計方法。
【請求項5】
請求項1記載の歯車対の設計装置で抽出した最良の歯面修正量群に基づいて駆動歯車及び被動歯車の歯面加工を行ったことを特徴とする歯車対。
【請求項1】
互いに噛み合う駆動歯車及び被動歯車の基本諸元により設定される各基準歯面に対して複数項目の歯面修正量を付与することで歯車対の加工に供する最終的な設計歯面修正量を設定する歯車対の設計装置であって、
上記各歯面修正量をそれぞれ変化させた値の組み合わせからなる歯面修正量群を複数パターン設定する歯面修正量群設定手段と、
上記基準歯面に上記各歯面修正量を付与して歯面加工を行った際に設定加工誤差範囲内で製造され得る複数パターンの歯車対を上記歯面修正量群毎にシミュレーションし、当該各歯車対における駆動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報と被動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報とをそれぞれ演算する歯面誤差情報演算手段と、
歯車対に付与したトルクに応じて発生する動的な組付誤差量を上記駆動歯車及び上記被動歯車の変位量に基づいて所定トルク毎に演算する組付誤差量演算手段と、
上記歯面修正量群毎に上記設定加工誤差範囲内でシミュレーションされた全ての上記歯車対について、上記組付誤差量をパラメータとして含む複数パターンの噛み合い条件で上記駆動歯車と上記被動歯車とを噛み合わせたときの各伝達誤差量を、対応する上記各歯面誤差分布情報に基づいてそれぞれ演算する伝達誤差量演算手段と、
演算した各伝達誤差量が設定条件を満たす上記歯面修正量群が存在する場合に、当該歯面修正量群の中から最良の歯面修正量群を抽出する歯面修正量群抽出手段と、を備えたことを特徴とする歯車対の設計装置。
【請求項2】
上記組付誤差量演算手段は、上記歯車対にトルクを付与したときの、駆動歯車軸を中心とする同心円上の対象位置4点での上記駆動歯車の各変位量と、被動歯車軸を中心とする同心円上の対象位置4点での上記被動歯車の各変位量とに基づいて、上記各歯車軸の食違方向の組付誤差量である食違誤差量と、上記各歯車軸の平行方向の組付誤差量である平行誤差量とを演算することを特徴とする請求項1記載の歯車対の設計装置。
【請求項3】
互いに噛み合う駆動歯車及び被動歯車の基本諸元により設定される各基準歯面に対して複数項目の歯面修正量を付与することで歯車対の加工に供する最終的な設計歯面修正量を設定する歯車対の設計プログラムであって、
上記各歯面修正量をそれぞれ変化させた値の組み合わせからなる歯面修正量群を複数パターン設定する歯面修正量群設定ステップと、
上記基準歯面に上記各歯面修正量を付与して歯面加工を行った際に設定加工誤差範囲内で製造され得る複数パターンの歯車対を上記歯面修正量群毎にシミュレーションし、当該各歯車対における駆動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報と被動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報とをそれぞれ演算する歯面誤差情報演算ステップと、
歯車対に付与したトルクに応じて発生する動的な組付誤差量を上記駆動歯車及び上記被動歯車の変位量に基づいて所定トルク毎に演算する組付誤差量演算ステップと、
上記歯面修正量群毎に上記設定加工誤差範囲内でシミュレーションされた全ての上記歯車対について、上記組付誤差量をパラメータとして含む複数パターンの噛み合い条件で上記駆動歯車と上記被動歯車とを噛み合わせたときの各伝達誤差量を、対応する上記各歯面誤差分布情報に基づいてそれぞれ演算する伝達誤差量演算ステップと、
演算した各伝達誤差量が設定条件を満たす上記歯面修正量群が存在する場合に、当該歯面修正量群の中から最良の歯面修正量群を抽出する歯面修正量群抽出ステップと、を備えたことを特徴とする歯車対の設計プログラム。
【請求項4】
互いに噛み合う駆動歯車及び被動歯車の基本諸元により設定される各基準歯面に対して複数項目の歯面修正量を付与することで歯車対の加工に供する最終的な設計歯面修正量を設定する歯車対の設計方法であって、
上記各歯面修正量をそれぞれ変化させた値の組み合わせからなる歯面修正量群を複数パターン設定する歯面修正量群設定工程と、
上記基準歯面に上記各歯面修正量を付与して歯面加工を行った際に設定加工誤差範囲内で製造され得る複数パターンの歯車対を上記歯面修正量群毎にシミュレーションし、当該各歯車対における駆動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報と被動歯車の上記基準歯面に対する歯面誤差分布情報とをそれぞれ演算する歯面誤差情報演算ステップと、
歯車対に付与したトルクに応じて発生する動的な組付誤差量を上記駆動歯車及び上記被動歯車の変位量に基づいて所定トルク毎に演算する組付誤差量演算工程と、
上記歯面修正量群毎に上記設定加工誤差範囲内でシミュレーションされた全ての上記歯車対について、上記組付誤差量をパラメータとして含む複数パターンの噛み合い条件で上記駆動歯車と上記被動歯車とを噛み合わせたときの各伝達誤差量を、対応する上記各歯面誤差分布情報に基づいてそれぞれ演算する伝達誤差量演算工程と、
演算した各伝達誤差量が設定条件を満たす上記歯面修正量群が存在する場合に、当該歯面修正量群の中から最良の歯面修正量群を抽出する歯面修正量群抽出工程と、を備えたことを特徴とする歯車対の設計方法。
【請求項5】
請求項1記載の歯車対の設計装置で抽出した最良の歯面修正量群に基づいて駆動歯車及び被動歯車の歯面加工を行ったことを特徴とする歯車対。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2010−165181(P2010−165181A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6964(P2009−6964)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
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