説明

歯車形削り盤

【課題】軸形状のワークの軸方向における一部分の外周面を歯車形削り盤で切削して係合歯を形成する場合に、比較的遅い切削速度で繰り返し上下移動するシェーパ刃であっても、平滑で精度のよい所望の被切削面を得ることができるようにする。
【解決手段】歯車形削り盤は、軸形状のワーク22の軸心4を縦向きにした状態で、ワーク22の軸方向における一部分22aの外周面にその周方向で複数の係合歯5を形成可能とする。歯車形削り盤1は、繰り返し上下移動I,Jし、下移動J時にワーク22の一部分22aの外周面を切削して係合歯5を形成するシェーパ刃36と、切削時のシェーパ刃36の逃げ面36aと被切削面22bとの間の切削用間隙46に向かってこの切削用間隙46の上方からオイルミスト47を噴射して供給する潤滑油供給装置48とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸形状のワークの外周面にギヤ歯や鎖車歯など複数の係合歯を形成する歯車形削り盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸形状のワークの外周面に複数の係合歯を形成する装置として、従来、下記特許文献1に示されるホブ盤がある。この公報のものによれば、ホブ盤により形成される軸体はエンジンのクランク軸である。
【0003】
上記クランク軸は、軸体本体と、この軸体本体の周方向に沿ってこの軸体本体の外周面に形成される複数のギヤ歯とを備えている。また、上記軸体本体は、軸心上に列設される一対のクランク主軸と、これらクランク主軸の各基部に一体的に固着される一対のクランクウェブと、これら両クランクウェブに架設されるクランクピンとを備えている。上記ギヤ歯は上記クランクウェブの外周面に形成されている。
【0004】
上記ホブ盤は、上記クランク軸を形成するための軸形状のワークをその軸心が縦向きとなるようチャックにより支持する回転テーブルと、水平軸心回りに高速回転するホブ刃とを備えている。このホブ刃は、高速回転しながら繰り返し上下移動する。そして、このホブ刃は上移動時、に上記クランクウェブに対応するワークの部分の外周面を切削して上記ギヤ歯を形成する。
【0005】
上記ホブ盤はドライタイプのもので、そのホブ刃による切削時には潤滑油は用いられていない。そして、この潤滑油に代え、上記ホブ刃の逃げ面と、上記ワークの被切削面との間の切削用間隙に向けて、噴射ノズルにより圧縮空気が噴射されるようになっている。
【特許文献1】特開2006−272530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来の技術によれば、次のような問題点がある。
【0007】
即ち、上記クランク軸のクランク主軸の基部に、上記ギヤ歯を設けたい場合がある。この場合、このギヤ歯は、クランク軸の軸方向で上記クランクウェブに隣接しており、かつ、ギヤ歯よりも上記クランクウェブの方が径方向の外方に大きく突出している。このため、上記ギヤ歯をホブ刃で形成しようとすると、このホブ刃に上記クランクウェブが干渉して、上記ギヤ歯の形成が容易にはし難いおそれがある。
【0008】
そこで、上記ホブ盤に代えて歯車形削り盤を使用し、繰り返し上下移動されるシェーパ刃により、上記したクランクウェブとの干渉を回避しつつ上記ギヤ歯を形成することが考えられる。しかし、シェーパ刃は上記のように上下移動するものであるため、回転動作するホブ刃に比べ、通常、切削速度は遅い。このため、上記従来の技術のように、切削に潤滑油を用いないようにすると、平滑で精度のよい所望の被切削面は得られないおそれがある。
【0009】
また、上記切削に、従来の歯車形削り盤のようにクーラントを大量に用いることも考えられる。しかし、クーラントはもともと潤滑性が悪いため、やはり、精度のよい所望の切削面は得難いおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、軸形状のワークの軸方向における一部分の外周面を歯車形削り盤で切削して係合歯を形成する場合に、比較的遅い切削速度で繰り返し上下移動するシェーパ刃であっても、平滑で精度のよい所望の被切削面を得ることができるようにすることである。
【0011】
請求項1の発明は、軸形状のワーク22の軸心4を縦向きにした状態で、このワーク22の軸方向における一部分22aの外周面にその周方向で複数の係合歯5を形成する歯車形削り盤であって、
繰り返し上下移動I,Jし、下移動J時に上記ワーク22の一部分22aの外周面を切削して上記係合歯5を形成するシェーパ刃36と、上記切削時のシェーパ刃36の逃げ面36aと被切削面22bとの間の切削用間隙46に向かってこの切削用間隙46の上方からオイルミスト47を噴射して供給する潤滑油供給装置48とを備えたことを特徴とする歯車形削り盤である。
【0012】
請求項2の発明は、上記潤滑油供給装置48が、個別に圧送されてきた圧縮空気57と潤滑油60とを合流させて上記オイルミスト47を生成するオイルミスト生成器52と、このオイルミスト生成器52から延出し、その延出端62aが上記シェーパ刃36の移動軌跡66の外面と、この移動軌跡66の外面に対面する上記ワーク22の外面との間のワーク側間隙67に下方に向けて配置される供給パイプ62とを備え、上記オイルミスト生成器52で生成されたオイルミスト47が上記供給パイプ62を流動し、この供給パイプ62の延出端62aから下方に向けて噴射されて上記ワーク側間隙67を通り上記切削用間隙46に供給されるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の歯車形削り盤である。
【0013】
請求項3の発明は、上記潤滑油供給装置48が、上記オイルミスト生成器52に圧縮空気57を導入させる空気パイプ64と上記オイルミスト生成器52に潤滑油60を導入させる油パイプ65とを個別に備え、上記オイルミスト生成器52を上記ワーク側間隙67の近傍に配置したことを特徴とする請求項2に記載の歯車形削り盤である。
【0014】
請求項4の発明は、上記シェーパ刃36による切削時のワーク22の一部分22aを、その外方から覆う切削屑44飛散防止用のカバー70を設けたことを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1つに記載の歯車形削り盤である。
【0015】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0016】
本発明による効果は、次の如くである。
【0017】
請求項1の発明は、軸形状のワークの軸心を縦向きにした状態で、このワークの軸方向における一部分の外周面にその周方向で複数の係合歯を形成する歯車形削り盤であって、
繰り返し上下移動し、下移動時に上記ワークの一部分の外周面を切削して上記係合歯を形成するシェーパ刃と、上記切削時のシェーパ刃の逃げ面と被切削面との間の切削用間隙に向かってこの切削用間隙の上方からオイルミストを噴射して供給する潤滑油供給装置とを備えている。
【0018】
このため、上記切削は上下移動するシェーパ刃によるものであって、このシェーパ刃による切削速度はホブ刃に比べて遅いものであるが、上記のように、シェーパ刃の逃げ面と被切削面との間の切削用間隙にオイルミストを噴射して供給するようにしているため、上記シェーパ刃による切削部分である加工点の潤滑は、ミスト状の少量の潤滑油により効果的になされる。よって、上記のように繰り返し上下移動することにより切削速度が比較的遅いシェーパ刃により上記係合歯を形成する場合でも、シェーパ刃による被切削面を平滑かつ精度よくすることができる。
【0019】
請求項2の発明は、上記潤滑油供給装置が、個別に圧送されてきた圧縮空気と潤滑油とを合流させて上記オイルミストを生成するオイルミスト生成器と、このオイルミスト生成器から延出し、その延出端が上記シェーパ刃の移動軌跡の外面と、この移動軌跡の外面に対面する上記ワークの外面との間のワーク側間隙に下方に向けて配置される供給パイプとを備え、上記オイルミスト生成器で生成されたオイルミストが上記供給パイプを流動し、この供給パイプの延出端から下方に向けて噴射されて上記ワーク側間隙を通り上記切削用間隙に供給されるようにしている。
【0020】
つまり、上記供給パイプの延出端は、上記シェーパ刃の移動軌跡とワークとの各外面間のワーク側間隙に下方に向けて配置されるため、上記供給パイプの延出端は上記シェーパ刃の逃げ面と被切削面との間の切削用間隙に対し、より近接配置される。よって、この切削用間隙へのオイルミストの供給が無駄なく効果的になされることから、上記シェーパ刃による加工点の潤滑がより少量の潤滑油によって、より確実になされる。
【0021】
請求項3の発明は、上記潤滑油供給装置が、上記オイルミスト生成器に圧縮空気を導入させる空気パイプと上記オイルミスト生成器に潤滑油を導入させる油パイプとを個別に備えている。
【0022】
このため、上記空気パイプと油パイプとを2重管構造とすることに比べ、上記潤滑油供給装置の構成を簡単にできる。
【0023】
また、上記オイルミスト生成器を上記ワーク側間隙の近傍に配置している。
【0024】
このため、上記供給パイプをより短くできるため、この供給パイプ内を流動するオイルミストから潤滑油が分離して上記供給パイプの内面に付着する、ということが防止される。よって、上記オイルミストは、より確実にミスト状態のまま、上記切削用間隙に供給されることから、上記シェーパ刃による加工点の潤滑が更に少量の潤滑油によって、更に効果的になされる。
【0025】
請求項4の発明は、上記シェーパ刃による切削時のワークの一部分を、その外方から覆う切削屑飛散防止用のカバーを設けている。
【0026】
このため、上記シェーパ刃の切削により生じる切削屑が大きく飛散することは、上記カバーによって更に確実に防止される。よって、上記係合歯の形成作業が切削屑の飛散によって阻害される、ということはより確実に防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の歯車形削り盤に関し、軸形状のワークの軸方向における一部分の外周面を歯車形削り盤で切削して係合歯を形成する場合に、比較的遅い切削速度で繰り返し上下移動するシェーパ刃であっても、平滑で精度のよい所望の被切削面を得ることができるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための最良の形態は、次の如くである。
【0028】
軸形状のワークの軸心を縦向きにした状態で、このワークの軸方向における一部分の外周面にその周方向で複数の係合歯を形成する歯車形削り盤である。この歯車形削り盤は、繰り返し上下移動し、下移動時に上記ワークの一部分の外周面を切削して上記係合歯を形成するシェーパ刃と、上記切削時のシェーパ刃の逃げ面と被切削面との間の切削用間隙に向かってこの切削用間隙の上方からオイルミストを噴射して供給する潤滑油供給装置とを備えている。
【実施例】
【0029】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0030】
図1〜4において、符号1は、歯車形削り盤である。この歯車形削り盤1により形成される軸体2は単気筒エンジンのクランク軸である。なお、説明の便宜上、矢印Frを前方とし、下記する左右方向とは、上記前方に向かっての方向をいうものとする。
【0031】
上記軸体2は、軸体本体3と、この軸体本体3の軸心4回りの周方向に沿ってこの軸体本体3の外周面に形成される複数の係合歯5とを備えている。また、上記軸体本体3は、上記軸心4上に列設される一対のクランク主軸7,7と、これらクランク主軸7,7の各基部に一体的に固着される一対のクランクウェブ8,8と、これら両クランクウェブ8,8に架設されるクランクピン9とを備えている。上記係合歯5は、歯車の歯とされ、上記軸体2の軸方向で、上記各クランクウェブ8に隣接する各クランク主軸7の基部の外周面にそれぞれ形成されている。
【0032】
上記歯車形削り盤1は、水平に延びる固定側部材であるベッド12と、鉛直方向に延びる軸心13回りの一方向に向かって回転駆動A可能となるよう上記ベッド12に支持される回転テーブル14と、上記軸心13上で上記回転テーブル14上に支持され、この回転テーブル14と共に回転駆動A可能とされるコレットチャック15と、上記回転テーブル14の後方近傍で、上記ベッド12上に立設されるコラム17と、このコラム17から前方に向かって突設され、このコラム17に上下移動B,C可能に支持されるセンタサポート18と、上記軸心13上で、この18の突出端部に支持されるセンタ19と、上記センタサポート18の下方に位置し、上記コラム17から前方に向かって突設され、このコラム17に上下移動D,E可能に支持されるワークグリッパー20とを備えている。上記センタサポート18とワークグリッパー20とは、それぞれ上記コラム17の上下方向の任意位置で、このコラム17に固定可能とされている。
【0033】
上記軸体2を形成するための軸形状のワーク22は、その軸心4が縦向き(鉛直)となる姿勢とされる。そして、上記回転テーブル14の軸心13上で、上記ワーク22における下側のクランク主軸7が上記チャック15に着脱可能に固着される。また、上記ワーク22の上端部が上記センタ19により支持される。上記ワークグリッパー20は、上記軸体本体3のクランクピン9を把持可能とする。図2の状態では、上記ワークグリッパー20は、上記軸体本体3のクランクピン9から離脱させられている。
【0034】
上記歯車形削り盤1は、上記回転テーブル14の前方近傍で、上記ベッド12上に立設されると共に前後移動F,G可能となるようこのベッド12に支持される他のコラム24と、この他のコラム24の上部から後方に向かって突出するようこの他のコラム24に支持されるカッタヘッド25とを備えている。このカッタヘッド25は、上、下部ヘッド26,27を備えている。上記上部ヘッド26の後面28は、下部ヘッド27の後面29よりも後方に位置している。また、上記両後面28,29の一方から他方への遷移面30は後上方に向かって延びる傾斜面とされている。
【0035】
上記カッタヘッド25の内部には、このカッタヘッド25に対し前後移動可能とされる可動台33と、軸心34が鉛直方向に延びる支軸35とが設けられる。この支軸35は、その軸方向移動が可能とされ、かつ、上記軸心34回りに回転可能となるよう上記可動台33に支持されている。上記支軸35の下端部は、上記カッタヘッド25の下面から下方に突出している。上記軸心34上で、上記支軸35の下端部に全体として円錐台形状で傘歯車形状のシェーパ刃36が支持されている。上記下部ヘッド27の後面29は、上記シェーパ刃36の後端よりもわずかに前方に位置している。
【0036】
上記支軸35には、その軸心34上に位置するウォームホイール38が取り付けられている。このウォームホイール38と、このウォームホイール38に噛合するウォームギヤ39とを介し上記支軸35は不図示の駆動装置に連動連結されている。そして、上記支軸35は、この支軸35に支持されたシェーパ刃36を伴い、一方向に向かって回転駆動H可能とされている。この場合、支軸35の回転駆動Hの速度を所望の低速にする上で、上記ウォームホイール38の径寸法が大きくされている。このため、上記ウォームホイール38は、上記下部ヘッド27よりも水平方向での内部空間の大きい上記上部ヘッド26の内部に設けられている。
【0037】
上記支軸35は、この支軸35に支持されたシェーパ刃36を伴い、駆動装置41により繰り返し上下移動I,Jさせられる。また、上記可動台33は、上記支軸35およびこの支軸35に支持されたシェーパ刃36を伴い他の駆動装置42により繰り返し前後移動K,Lさせられる。
【0038】
上記回転テーブル14およびチャック15の回転駆動Aと、上記シェーパ刃36の回転駆動Hとは互いに同期するよう連動する。また、上記支軸35の上下移動I,Jと、上記可動台33の前後移動K,Lとは互いに同期するよう連動する。上記ワーク22における軸方向の一部分22aは、上記上下係合歯5,5のうち、上側の係合歯5に対応しており、上記チャック15やシェーパ刃36の各駆動により、上記ワーク22の一部分22aの外周面が切削加工されて、上記上側の係合歯5が形成される。
【0039】
具体的には、まず、図1中一点鎖線で示すように、上記シェーパ刃36は上記上側の係合歯5に対応するワーク22の一部分22aの上方位置に位置させられる。この状態から、上記支軸35と共にシェーパ刃36が下移動Jする。そして、図1,2中実線で示すように、シェーパ刃36の切刃が上記ワーク22の一部分22aの下方位置に位置させられる。そして、上記したシェーパ刃36の下移動J時に、上記ワーク22の一部分22aの外周面が切削加工される。この際、切削屑44が上記ワーク22の一部分22aの下方に落下する。
【0040】
次に、上記可動台33と共にシェーパ刃36が前移動Kしてこのシェーパ刃36が上記ワーク22の部分から前方に少し離れる。次に、上記支軸35と共にシェーパ刃36が上移動Iする。次に、上記可動台33と共にシェーパ刃36が後移動Lして、このシェーパ刃36は、元の位置である上記ワーク22の一部分22aの上方位置(図1中一点鎖線)に達する。
【0041】
以下、上記したシェーパ刃36の各移動I〜Lが繰り返され、かつ、この間、上記回転テーブル14およびチャック15に伴いワーク22が回転駆動Aすると共に、支軸35と共にシェーパ刃36が回転駆動Hすることにより、徐々に上記係合歯5が形成される。
【0042】
上記シェーパ刃36の下移動Jにより上記ワーク22の一部分22aが切削される時、シェーパ刃36の逃げ面(刃先の上面側の傾斜面)36aと、上記ワーク22の一部分22aの被切削面22bとの間の切削用間隙46に向かって、この切削用間隙46の上方からオイルミスト47を噴射して供給する潤滑油供給装置48が設けられている。
【0043】
上記潤滑油供給装置48は、上記下部ヘッド27の後面29の下端部に締結具50により取り付けられるブラケット51と、このブラケット51に支持され、上記オイルミスト47を生成する複数(前後一対)のオイルミスト生成器52,52とを備えている。これら各オイルミスト生成器52は上記切削用間隙46の近傍に配置されている。上記各オイルミスト生成器52には左右の水平方向に貫通する空気通路53が形成され、また、この空気通路53の長手方向の中途部に下流端が連通する油通路54が形成されている。上記空気通路53の中途部と上記油通路54の下流端とは、これら両通路53,54の合流点55とされている。
【0044】
上記潤滑油供給装置48は、上記空気通路53の一端部にソレノイド式開閉弁56を介し約0.5MPaの圧縮空気57を供給可能とする空気圧縮機58と、上記油通路54の上流端に油タンク59内の潤滑油60を約0.8〜1MPaで供給可能とする油ポンプ61と、上記空気通路53の他端部を上記切削用間隙46側に連通させるよう上記オイルミスト生成器52から延出する供給パイプ62とを備えている。
【0045】
上記潤滑油供給装置48は、上記空気圧縮機58から圧送される圧縮空気57を上記オイルミスト生成器52の空気通路53に導入させる空気パイプ64と、上記油ポンプ61から圧送される潤滑油60を上記油通路54に導入させる油パイプ65とを備えている。これら空気パイプ64と油パイプ65とは個別に設けられている。このため、上記圧縮空気57と潤滑油60とは個別に圧送されて上記オイルミスト生成器52に流入させられる。このオイルミスト生成器52は、上記ワーク側間隙67の近傍に配置されている。上記供給パイプ62の延出端62aは、上記シェーパ刃36の移動軌跡66のうちの上部側(図1中一点鎖線)の外面と、この移動軌跡66の上部側の外面に対面する上記ワーク22の外面との間のワーク側間隙67に下方に向けて配置されている。
【0046】
上記空気圧縮機58から空気通路53を圧送されてきた圧縮空気57と、上記油ポンプ61から油通路54を流動してきた潤滑油60とは、上記合流点55で互いに衝撃的に合流する。これにより、この合流点55においてオイルミスト47が生成される。このオイルミスト47は、上記オイルミスト生成器52から上記供給パイプ62を流動して、その延出端62aから下方に向けて噴射される。この噴射されたオイルミスト47は、上記ワーク側間隙67を通し上記切削用間隙46に供給され、上記シェーパ刃36による上記ワーク22の一部分22aの切削部分である加工点の潤滑がなされる。
【0047】
前記したように、供給パイプ62は複数(2本)設けられている。これら各供給パイプ62の延出端62aは、上記シェーパ刃36の軸心34を中心とした周方向の複数箇所(2箇所)の加工点に向けて配置されている。そして、上記各延出端62aから上記各加工点に向けてオイルミスト47が同時に噴射される。
【0048】
図2,3において、上記シェーパ刃36による切削時のワーク22の一部分22aを、その外方である後方かつ左右各外側方から覆う切削屑44の飛散防止用のカバー70が設けられている。このカバー70は、板金製もしくは樹脂製で、互いに個別に設けられる上下カバー71,72を備えている。上記上カバー71は前記センタサポート18に支持され、このセンタサポート18と共に上下移動B,Cされる。また、上記下カバー72は前記ワークグリッパー20に支持され、このワークグリッパー20と共に上下移動D,Eされる。
【0049】
上記上下カバー71,72は、歯車形削り盤1の平面視で、それぞれ前方に向かって開くコの字形状とされている。具体的には、上記上下カバー71,72は、それぞれ鉛直方向かつ左右に延びる主カバー板74と、この主カバー板74の左右各端部から前方に向かって延びる一対の側部カバー板75,75とを備えている。上記上カバー71の下部に対し、上記下カバー72の上部が外嵌し、これら上カバー71の下部と下カバー72の上部とは水平方向で重なっている。
【0050】
上記上カバー71の主カバー板74の上部は、上記上部ヘッド26の後面28に近接配置されている。上記上カバー71の各側部カバー板75の前端縁は上記下部ヘッド27の後面29に近接配置されている。また、上記上カバー71の上記各側部カバー板75の上端縁は前記遷移面30に近接配置されている。
【0051】
上記シェーパ刃36の切削により上記ワーク22の一部分22aの被切削面22bから生じる切削屑44が、上記ワーク22の一部分22a側から後方、各側方、および上方に大きく飛散しようとすることは、上記カバー70および遷移面30によって防止される。
【0052】
図5は、上記他のコラム24と共にカッタヘッド25、およびシェーパ刃36を前移動Fさせた状態を示している。これによれば、上記回転テーブル14、チャック15、ワーク22(もしくは軸体2)、およびカバー70による一方の組立体と、上記他のコラム24、カッタヘッド25、シェーパ刃36、および潤滑油供給装置48による他方の組立体とが、前後で大きく離れることとなり、これら両組立体の間の空間を利用することにより、上記シェーパ刃36や潤滑油供給装置48などへの保守、点検作業が容易にできる。
【0053】
図6は、上記図5の状態から、上記チャック15がワーク22(もしくは軸体2)を離脱する一方、上記ワークグリッパー20が上記ワーク22を把持し、上記センタサポート18とワークグリッパー20とがそれぞれ上移動B,Dし、かつ、これらセンタサポート18とワークグリッパー20とが上下方向で互いに離間した状態を示している。この状態は、上記チャック15に対しワーク22(もしくは軸体2)を固着させる直前、もしくは離脱させた直後の状態を示している。
【0054】
上記構成によれば、繰り返し上下移動I,Jし、下移動J時に上記ワーク22の一部分22aの外周面を切削して上記係合歯5を形成するシェーパ刃36と、上記切削時のシェーパ刃36の逃げ面36aと被切削面22bとの間の切削用間隙46に向かってこの切削用間隙46の上方からオイルミスト47を噴射して供給する潤滑油供給装置48とを備えている。
【0055】
このため、上記切削は上下移動I,Jするシェーパ刃36によるものであって、このシェーパ刃36による切削速度はホブ刃に比べて遅いものであるが、上記のように、シェーパ刃36の逃げ面36aと被切削面22bとの間の切削用間隙46にオイルミスト47を噴射して供給するようにしているため、上記シェーパ刃36による切削部分である加工点の潤滑は、ミスト状の少量の潤滑油60により効果的になされる。よって、上記のように繰り返し上下移動I,Jすることにより切削速度が比較的遅いシェーパ刃36により上記係合歯5を形成する場合でも、シェーパ刃36による被切削面22bを平滑かつ精度よくすることができる。
【0056】
また、前記したように、潤滑油供給装置48が、個別に圧送されてきた圧縮空気57と潤滑油60とを合流させて上記オイルミスト47を生成するオイルミスト生成器52と、このオイルミスト生成器52から延出し、その延出端62aが上記シェーパ刃36の移動軌跡66の上部側の外面と、この移動軌跡66の上部側の外面に対面する上記ワーク22の外面との間のワーク側間隙67に下方に向けて配置される供給パイプ62とを備え、上記オイルミスト生成器52で生成されたオイルミスト47が上記供給パイプ62を流動し、この供給パイプ62の延出端62aから下方に向けて噴射されて上記ワーク側間隙67を通り上記切削用間隙46に供給されるようにしている。
【0057】
つまり、上記供給パイプ62の延出端62aは、上記シェーパ刃36の移動軌跡66の上部側とワーク22との各外面間のワーク側間隙67に下方に向けて配置されるため、上記供給パイプ62の延出端62aは上記シェーパ刃36の逃げ面36aと被切削面22bとの間の切削用間隙46に対し、より近接(50mm以下程度)配置される。よって、この切削用間隙46へのオイルミスト47の供給が無駄なく効果的になされることから、上記シェーパ刃36による加工点の潤滑がより少量の潤滑油60によって、より確実になされる。
【0058】
また、前記したように、潤滑油供給装置48が、上記オイルミスト生成器52に圧縮空気57を導入させる空気パイプ64と上記オイルミスト生成器52に潤滑油60を導入させる油パイプ65とを個別に備えている。
【0059】
このため、上記空気パイプ64と油パイプ65とを2重管構造とすることに比べ、上記潤滑油供給装置48の構成を簡単にできる。
【0060】
また、上記オイルミスト生成器52を上記ワーク側間隙67の近傍に配置している。
【0061】
このため、上記供給パイプ62をより短くできるため、この供給パイプ62内を流動するオイルミスト47から潤滑油60が分離して上記供給パイプ62の内面に付着する、ということが防止される。よって、上記オイルミスト47は、より確実にミスト状態のまま、上記切削用間隙46に供給されることから、上記シェーパ刃36による加工点の潤滑が更に少量の潤滑油60によって、更に効果的になされる。
【0062】
また、前記したように、シェーパ刃36による切削時のワーク22の一部分22aを、その外方から覆う切削屑44飛散防止用のカバー70を設けている。
【0063】
このため、上記シェーパ刃36の切削により生じる切削屑44が大きく飛散することは、上記カバー70によって更に確実に防止される。よって、上記係合歯5の形成作業が切削屑44の飛散によって阻害される、ということは更に確実に防止される。
【0064】
なお、以上は図示の例によるが、上記軸体2であるクランク軸は多気筒エンジンのものであってもよい。また、上記歯車形削り盤1により切削形成される係合歯5は鎖車の歯であってもよい。また、上記潤滑油供給装置48におけるオイルミスト生成器52は単一であってもよく、3つ以上の複数であってもよい。また、上記上カバー71には、両側部カバー板75,75の上端縁に架設される天井板を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図2の部分拡大部分断面図である。
【図2】歯車形削り盤の全体側面図である。
【図3】図2の部分平面断面図である。
【図4】図3の部分後面図である。
【図5】作用を示す図で、図2に相当する図である。
【図6】他の作用を示す図で、図2に相当する図である。
【符号の説明】
【0066】
1 歯車形削り盤
2 軸体
3 軸体本体
4 軸心
5 係合歯
22 ワーク
22a 一部分
22b 被切削面
24 他のコラム
25 カッタヘッド
36 シェーパ刃
36a 逃げ面
44 切削屑
46 切削用間隙
47 オイルミスト
48 潤滑油供給装置
52 オイルミスト生成器
53 空気通路
54 油通路
55 合流点
57 圧縮空気
58 空気圧縮機
60 潤滑油
61 油ポンプ
62 供給パイプ
62a 延出端
64 空気パイプ
65 油パイプ
66 移動軌跡
67 ワーク側間隙
70 カバー
71 上カバー
72 下カバー
A 回転駆動
H 回転駆動
I 上移動
J 下移動
K 前移動
L 後移動

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸形状のワークの軸心を縦向きにした状態で、このワークの軸方向における一部分の外周面にその周方向で複数の係合歯を形成する歯車形削り盤であって、
繰り返し上下移動し、下移動時に上記ワークの一部分の外周面を切削して上記係合歯を形成するシェーパ刃と、上記切削時のシェーパ刃の逃げ面と被切削面との間の切削用間隙に向かってこの切削用間隙の上方からオイルミストを噴射して供給する潤滑油供給装置とを備えたことを特徴とする歯車形削り盤。
【請求項2】
上記潤滑油供給装置が、個別に圧送されてきた圧縮空気と潤滑油とを合流させて上記オイルミストを生成するオイルミスト生成器と、このオイルミスト生成器から延出し、その延出端が上記シェーパ刃の移動軌跡の外面と、この移動軌跡の外面に対面する上記ワークの外面との間のワーク側間隙に下方に向けて配置される供給パイプとを備え、上記オイルミスト生成器で生成されたオイルミストが上記供給パイプを流動し、この供給パイプの延出端から下方に向けて噴射されて上記ワーク側間隙を通り上記切削用間隙に供給されるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の歯車形削り盤。
【請求項3】
上記潤滑油供給装置が、上記オイルミスト生成器に圧縮空気を導入させる空気パイプと上記オイルミスト生成器に潤滑油を導入させる油パイプとを個別に備え、上記オイルミスト生成器を上記ワーク側間隙の近傍に配置したことを特徴とする請求項2に記載の歯車形削り盤。
【請求項4】
上記シェーパ刃による切削時のワークの一部分を、その外方から覆う切削屑飛散防止用のカバーを設けたことを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1つに記載の歯車形削り盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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