歯間ブラシ
【課題】歯間ブラシの把持部の樹脂として汎用性樹脂を使用して把持部を成形しても、金属ワイヤーの一部分を挿入する把持部から容易に抜け出すことがなく、また、汎用性樹脂に含有する銀系抗菌剤の含有率が小さくとも、従来の把持部が有する抗菌効果と同等又はそれ以上の効果を発揮する把持部を備えた歯間ブラシを提供する。
【解決手段】ブラシ毛5が金属ワイヤーに撚り込まれたブラシ部2、及び該撚り込まれた金属ワイヤーで形成された直線状金属ワイヤーからなる直線状ワイヤー部3と、該直線状ワイヤー部3の所定長さの末端が埋設されている熱可塑性樹脂の把持部4からなる歯間ブラシ1であって、前記把持部4の熱可塑性樹脂がポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂又はナイロン樹脂であり、該樹脂に平均粒径10〜40μmの球状ガラス粉末がガラス配合率40〜70重量%の範囲で含有されていることを特徴とする。
【解決手段】ブラシ毛5が金属ワイヤーに撚り込まれたブラシ部2、及び該撚り込まれた金属ワイヤーで形成された直線状金属ワイヤーからなる直線状ワイヤー部3と、該直線状ワイヤー部3の所定長さの末端が埋設されている熱可塑性樹脂の把持部4からなる歯間ブラシ1であって、前記把持部4の熱可塑性樹脂がポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂又はナイロン樹脂であり、該樹脂に平均粒径10〜40μmの球状ガラス粉末がガラス配合率40〜70重量%の範囲で含有されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシ毛を金属ワイヤーで撚り込んで形成されたブラシ部と、その撚り込んだ直線状の金属ワイヤーで形成されたワイヤー部と、その直線状金属ワイヤーの一部分を挿入する把持部からなる歯間ブラシに関し、詳細には、上記ワイヤー部が把持部から容易に抜け出すことがなく、また、該把持部が抗菌性に優れている歯間ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の歯間ブラシは、把持部が低密度ポリエチレン(LDPE)等の軟質ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)といった軟質な熱可塑性合成樹脂を使用しているために、ステンレス等からなる金属ワイヤーを撚り込んだ直線状金属ワイヤーをプラスチック製の把持部内に圧入して製造されるが、直線状金属ワイヤーが挿入された把持部は、単に直線状金属ワイヤーをねじっただけの状態で挿入しているため、長期間使用するにつれ、把持部と直線状金属ワイヤーとの間に隙間が生じ、ブラシ部が抜けやすくなるという問題がある。そのために、くの字状又はコの字状に曲げて所定長さを柄部材に埋設することで、該ブラシ部が柄部材から抜け出ないようにしている。この直線状の金属ワイヤーをくの字状又はコの字状に曲げる作業は、面倒で困難な作業であり、また、その作業工程が必要となり時間や経費がかかるので省略したいとの要求があり、また、同時に把持部に抗菌性を備えたいとの要求もあった。
【0003】
上記直線状の金属ワイヤーを曲げる作業が必要なく、また、該把持部が抗菌性に優れている歯間ブラシは、以下に示す特許文献1に記載の歯間ブラシの柄部材が知られている。
特許文献1には、歯間ブラシの柄部材(「把持部」に相当)を構成する熱可塑性合成樹脂が少なくとも金属接着性ポリオレフィンからなるもので、柄部材に埋設された金属ワイヤーを撚り込んだ直線状金属ワイヤーの一部が、金属接着性ポリオレフィンによって接着されることから、該直線状金属ワイヤーの一部をくの字状又はコの字状に折曲げたりするといった細かく、面倒で困難な作業をする必要がなく、折曲げ加工の工程を省略することができることが記載され、また、上記熱可塑性合成樹脂が少なくとも金属接着性ポリオレフィンからなるポリマーブレンドとしては、金属接着性ポリオレフィン、EVA(エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂)、軟質ポリオレフィンを組合せることが、金属ワイヤーとの接着性が十分であって、離型剤を使用しなくても成形が可能であり、成形加工性が良好であって、しかも柄部材に適正なたわみ性が得られることから好ましく、そして、最も好ましい配合率は、金属接着性ポリオレフィン30重量部、EVA45重量部、軟質ポリエチレン25重量部であることが記載されている。
【0004】
更に、特許文献1には、上記歯間ブラシの柄部材に関する実施例である、例えば、No.5の柄部材は、低密度ポリエチレンに抗菌性ゼオライトを0.5重量%含有し、No.6の柄部材は、低密度ポリエチレンに抗菌性ゼオライトを1.0重量%含有することが、そして、そのブラシ毛の黄色ブドウ球菌と大腸菌の抗菌性試験の生残菌数は、No.5が検出なしであること、実施例No.6も検出なしであることが記載されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4097311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の上記歯間ブラシの柄部材は、金属接着性ポリオレフィン、EVAは、汎用性樹脂でないためにその価格が高価であり、また、金属接着性ポリオレフィン30重量部、EVA45重量部、軟質ポリエチレン25重量部をブレンドしてペレットを成形するのに、その製造工程の管理に時間と経費がかかり、歯間ブラシの把持部を射出成形するのに温度、時間等の管理が難しいという問題、そして、歯間ブラシのコストが高くつくという問題がある。更に、銀系抗菌剤は重量あたりの価格が高価なこと、配合を増やすことにより着色しやすいことから、配合する割合を低減したいとの強い要求がある。
【0007】
それ故に、本発明の課題は、上記実情に鑑み鋭意研究の結果創案されたものであり、歯間ブラシの把持部の樹脂として汎用性樹脂を使用して把持部を成形しても、上記金属ワイヤーの一部分を挿入する把持部から容易に抜け出すことがなく、また、従来の把持部に含有する銀系抗菌剤の含有率と比べて、汎用性樹脂に含有する銀系抗菌剤の含有率が小さくとも、上記従来の把持部が有する抗菌効果と同等又はそれ以上の効果を発揮する把持部を備えた歯間ブラシを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意研究に努めた結果、本発明の歯間ブラシを完成したものである。
即ち、上記課題を解決するために、請求項1に係る発明の歯間ブラシは、ブラシ毛が金属ワイヤーに撚り込まれたブラシ部、及び該撚り込まれた金属ワイヤーで形成された直線状金属ワイヤーからなる直線状ワイヤー部と、該直線状ワイヤー部の所定長さの末端が埋設されている熱可塑性樹脂の把持部からなる歯間ブラシであって、前記把持部の熱可塑性樹脂がポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂又はナイロン樹脂であり、該樹脂に平均粒径10〜40μmの球状ガラス粉末がガラス配合率40〜70重量%の範囲で含有されていることを特徴とする。
同様に、請求項2に係る発明の歯間ブラシは、前記球状ガラス粉末がEガラス又はシリカガラスであることを特徴とする。
請求項3に係る発明の歯間ブラシは、歯間ブラシの把持部の形状が直線形状又は曲げた形状であることを特徴とする。
請求項4に係る発明の歯間ブラシは、ブラシ毛が金属ワイヤーに撚り込まれたブラシ部、及び該撚り込まれた金属ワイヤーで形成された直線状金属ワイヤーからなる直線状ワイヤー部と、該直線状ワイヤー部の所定長さの末端が埋設されている熱可塑性樹脂の把持部からなる歯間ブラシであって、前記把持部の熱可塑性樹脂がポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂又はナイロン樹脂であり、これらの樹脂に平均粒径10〜40μmの球状ガラス粉末がガラス配合率40〜70重量%の範囲で含有されており、銀系抗菌剤が0.05〜0.10重量%の範囲で含有されていることを特徴とする。
請求項5に係る発明の歯間ブラシは、前記把持部が球状ガラス粉末を含有しない熱可塑性樹脂に銀系抗菌剤を0.50〜1.00重量%の範囲で含有する把持部の生残菌数の対数と同等又はそれより小さい値であることを特徴とする。
請求項6に係る発明の歯間ブラシは、前記銀系抗菌剤を少なくとも0.05重量%含有する把持部が、前記球状ガラス粉末を含有しない熱可塑性樹脂の把持部に銀系抗菌剤を0.5重量%含有する把持部の生残菌数の対数より小さい値であることを特徴とする。
請求項7に係る発明の歯間ブラシは、前記銀系抗菌剤を0.1重量%含有する把持部が、前記球状ガラス粉末を含有しない熱可塑性樹脂の把持部に銀系抗菌剤を1.0重量%含有する把持部の生残菌数の対数と同等の値であることを特徴とする。
請求項8に係る発明の歯間ブラシは、前記歯間ブラシのブラシ部を覆うことができるスリーブを備えることを特徴とする。
請求項9に係る発明の歯間ブラシは、前記球状ガラス粉末がEガラス又はシリカガラスであることを特徴とする。
請求項10に係る発明の歯間ブラシは、前記銀系抗菌剤が銀ゼオライト、銀ガラス又は銀燐酸ジリコニウムであることを特徴とする。
請求項11に係る発明の歯間ブラシは、歯間ブラシの把持部の形状が直線形状又は曲げた形状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の歯間ブラシは、汎用性樹脂に球状ガラス粉末を40〜70重量%含有することで、金属接着性ポリオレフィンを用いることなく把持部から直線状金属ワイヤーが抜け出すことがない、歯間ブラシを得ることができる。
また、本発明の歯間ブラシは、樹脂に球状ガラス粉末を40〜70重量%含有することで、従来の把持部に含有する銀系抗菌剤の配合率に対して1/10の配合率でも、抗菌性に優れた歯間ブラシの把持部が得られるという格別の効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】歯間ブラシの一例を示す平面図である。
【図2】本発明の把持部の素材である熱可塑性樹脂に球状ガラス粉末及び銀ガラスを含有したペレットの成形に用いられる一つの押出機の縦断面図である。
【図3】球状ガラス粉末の平均粒径の分布を示す分布図である。
【図4】球状ガラス粉末の1000倍の電子顕微鏡写真である。
【図5】PPに球状ガラス粉末50重量%を配合して得られたペレットを、側面から垂直に切断した切断部を50倍に拡大した電子顕微鏡写真である。
【図6】ガラス配合率50重量%のPPの射出成形体の表面を正面から200倍に拡大して撮影した電子顕微鏡写真である。
【図7】ガラス配合率50重量%のPPの射出成形体の表面を45℃の角度から200倍に拡大して撮影した電子顕微鏡写真である。
【図8】ガラス配合率50重量%のPPの射出成形体の断面を200倍に拡大して撮影した電子顕微鏡写真である。
【図9】表3に示されたLDPEに配合された銀ゼオライト配合率と黄色ブドウ球菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す黄色ブドウ球菌のグラフである。
【図10】表3に示されたLDPEに配合された銀ゼオライト配合率と大腸菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す大腸菌のグラフである。
【図11】表4に示されたPPに配合された銀ゼオライト配合率と黄色ブドウ球菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す黄色ブドウ球菌のグラフである。
【図12】表4に示されたPPに配合された銀ゼオライト配合率と大腸菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す大腸菌のグラフである。
【図13】表5に示されたNyに配合された銀ガラス配合率と黄色ブドウ球菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す黄色ブドウ球菌のグラフである。
【図14】表5に示されたNyに配合された銀ガラス配合率と大腸菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す大腸菌のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の最良形態を説明する。なお、本発明は以下の実施の最良形態によって限定されるものではない。
図1は本発明の歯間ブラシの一例を示す平面図である。
歯間ブラシ1は、ブラシ毛5を金属ワイヤーで撚り込んで形成されたブラシ部2と、その撚り込んだ金属ワイヤーの直線状の金属ワイヤーで形成された直線状ワイヤー部3と、その直線状ワイヤー部3の一部分を挿入する把持部4から構成されている。
【0012】
上記把持部4は、直線状ワイヤー部3の所定長さの末端が球状ガラス粉末、又は、球状ガラス粉末と銀系抗菌剤が含有される熱可塑性樹脂に埋設されている。把持部4の円錐状の頭部4aからは、直線状ワイヤー部3を包み込んだ円筒部6が突設しており、胴部4bと尾部4cとの間には、指でつまみやすい形状の湾曲形状のつまみ部7が設けられている。胴部4bと尾部4cの外径は同一となっており、必要に応じ図示していないスリーブに嵌挿して接続することで、ブラシ部2を覆うことができる。従って、スリーブにブラシ部2の方向から挿入し、胴部4bを嵌合することで歯間ブラシ1を保管状態とすることができ、尾部4cをスリーブに嵌合させることで、スリーブから延長した状態で歯間ブラシを使用することができるものである。
【0013】
(把持部用ペレットの押出機)
次に、本発明の把持部の素材である、熱可塑性樹脂に球状ガラス粉末及び銀ガラスを含有したペレットの製造方法を説明する。熱可塑性樹脂に球状ガラス粉末だけを含有したペレットの製造方法も上記の同じ方法で製造できるので、球状ガラス粉末だけを含有したペレットの製造方法は省略する。
図2に示す2種類のホッパーを備える押出機を用いて上記ペレットを製造する。
【0014】
符号20は押出機、符号21はモーター、符号22は減速機、符号23はスクリュー、符号24はヒーター・ブロワー、符号25スクリューねじ山、符号26はブレーカープレート、符号27はノズルダイ、符号28は第1ホッパー、符号28′はペレット、符号29は第2ホッパー、符号29′は球状ガラス粉末及び銀ガラスを表している。
【0015】
前記押出機20は、供給材料である熱可塑性樹脂のペレット28′と、球状ガラス粉末及び銀ガラス29′を投入する2個のホッパーが備えられている。図2に示す押出機1のホッパーを左側から順に第1ホッパー28、第2ホッパー29と称し、第1ホッパー28には熱可塑性樹脂のペレット28′が投入され、押出機の中間部付近に設けられている第2ホッパー29には、球状ガラス粉末及び銀ガラス29′が投入される。第2ホッパー29の配置する位置は、第1ホッパー28よりスクリューバレル内に供給されたペレット28′が、スクリュー23による混練搬送に伴って溶融状態にある領域に設けてある。
【0016】
ところで、本発明者は、本願出願前に、汎用性の熱可塑性樹脂に40重量%以上の球状ガラス粉末を配合させて押出機で混練して押出し、ペレット(ガラス含有成形用ペレット)が成形できるよう鋭意研究に努めた結果、汎用性の熱可塑性樹脂に中実の球状ガラス粉末を40〜70重量%まで含有することができるガラス含有成形用ペレットを完成するに至り、PCT/JP2008/68093(特願2009−504515号)(発明の名称「ガラス含有成形用ペレット及びその製造方法」、優先権主張日:H19.10.4、(国際公開番号WO2009/044884号)を特許出願した。なお、従来、汎用性の熱可塑性樹脂に上記中実の球状ガラス粉末を35重量%までしか含有できなかった理由は、上記国際公開番号WO2009/044884号に詳細に記載されているが、一言で言えば、汎用性の熱可塑性樹脂中に35重量%以上の球状ガラス粉末を含有させて混練し押出しすると、球状ガラス粉末含有の溶融樹脂の流動性が急激に低下して押出することが困難になるためである。
【0017】
(熱可塑性樹脂)
上記国際公開番号WO2009/044884号には、球状ガラス粉末の製造方法を含む9種類の樹脂のガラス含有成形用ペレットの成形方法が詳細に記載されており、ガラス含有成形用ペレットの成形方法は本願出願前に公知ではあるが、歯間ブラシの把持部は、ポリエチレン樹脂(以下、「PE」という。)、ポリプロピレン樹脂(以下、「PP」という。)又はナイロン樹脂(以下、「Ny」という。)といった軟質な熱可塑性合成樹脂を用いることが従来から行われており、これらの樹脂は結晶性高分子としてよく知られたものである。これらの樹脂に球状ガラス粉末を配合して成型用ペレットを成形する方法を以下に説明する。
【0018】
(球状ガラス粉末)
本発明の球状ガラス粉末のガラス質は、SiO2、B2O3、P2O3の1種又は2種以上を骨格成分とする、アルカリガラス、可溶性ガラス、無アルカリガラス、シリカガラス等が挙げられる。そして、その形状を球状にするには、ガラス繊維を粉砕して球状化する方法を用いることで平均粒径の分布をシャープにすることができる。該球状ガラス粉末のアルカリ分が多いと熱可塑性樹脂の脆化を招きやすいので、無アルカリガラスであるEガラス又はシリカガラスが好ましい。
【0019】
前記球状ガラス粉末は、ガラス繊維の直径が20μmのものを材料として用いている。ガラス繊維はその直径が一定であるから、ガラス繊維の長さが前記直径20μmからばらつかないように粉砕することで、直径20μm、長さ10〜30μmの粉砕物が得られる。この粉砕物を炉の内部に設けた酸素バーナーによる2500〜3000℃の火炎に噴霧して球状化し、噴霧状の球体に炉の下部に設けた水の噴射装置より、γ−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシランを0.1重量%含む水を噴射して、噴霧状態でシラン化処理を行いバグフィルターで捕集した。この捕集したガラス粉体は球状の平均粒径が10〜40μmの球状ガラス粉末である。このように、上記ガラス繊維の直径が20μmのものを材料として用いることで、平均粒径が10〜40μmの球状ガラス粉末が得られた。得られた球状ガラス粉末は中実であった。上記噴霧状態で行うシラン化処理を行う方法を、以下、「噴霧法」という。
【0020】
上記球状化した球状ガラス粉末を前記噴霧法でシラン化処理をしたものが前記球状ガラス粉末である。換言すれば、この球状ガラス粉末はその表面がシラン化合物により全体的に覆われていることに特徴がある。
シラン化合物としては、以下の式で表されるものを挙げることができる。
R4-n−Si−(OR’)n
(式中、Rは有機基を表し、R’はメチル基、エチル基又はプロピル基を表し、nは1〜3から選ばれる整数を表す)
【0021】
かかるシラン化合物としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシ基を有するシランカップリング剤、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基を有するシランカップリング剤、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤が挙げられる。
【0022】
図3は上述した球状ガラス粉末の製造方法で得られた球状ガラス粉末の平均粒径の分布の頻度を示すグラフである。このグラフの横軸は前記球状ガラス粉末の粒径(μm)で、縦軸は分布の頻度(%)を示している。前記球状Eガラスは、粒径が25μmで最高の分布頻度を示しており、その25μmを中心に正規分布曲線上の10〜40μmの範囲に分布しており、その範囲にある粒径の頻度が高いことがわかる。
【0023】
図4は前記球状ガラス粉末の1000倍の電子顕微鏡写真である。この写真から球状ガラス粉末は、各々のその形状が球状であり中実であり、大小様々な粒径のものが存在していることが観察できる。
図3のグラフと図4の写真から、熱可塑性樹脂中の球状ガラス粉末は、その形状が真円の球形であり、大小様々な粒径のものが存在しているが、その平均粒径が10〜40μmであることが示されている。
【0024】
ところで、溶融熱可塑性樹脂中に球状ガラス粉末を投入して混練する際に、その粒径が10μm以下になると、微細粒子の割合が多くなり、比表面積の増加に伴い樹脂から球状ガラス粉末が熱量を奪い、そのために樹脂の温度が急に低下することで溶融粘度が上昇し、剪断発熱により混練時の樹脂温度が極端に上昇するため、決められた両材料の配合率を調整することが困難になる。又、熱可塑性樹脂に球状ガラス粉末を配合することで、一般的に、成形体の寸法安定性、機械強度(衝撃強度、曲げ強度等)、ソリ性、透過バリア性等の向上が図られる。
【0025】
前記粒径が40μm以上になると巨大粒子の割合が多くなり、混練時の溶融粘度の上昇は少ないが、ガラス含有組成物を一定サイズのペレットに切断する際に、カット刃の摩耗が激しくなり、大量の該ガラス含有組成物を連続して生産することが困難となり、生産上の問題が生じる。又、その粒径が40μm以上になると、特に衝撃強度が低下するので好ましくない。従って、平均粒径は10〜40μmの範囲が好適である。
【0026】
溶融状態にある上記熱可塑性樹脂中に最大で70重量%の球状ガラス粉末を配合して混練することにより、押出機の吐出口に設けたノズルダイより直径3mmの棒状に押し出して水で冷却してカッターで長さ約4mmに切断して、該熱可塑性樹脂中に球状ガラス粉末が独立して分散したガラス含有成形用ペレットが得られるが、直径及び長さはこれに限定されるものではない。
【0027】
図5は、PPに球状ガラス粉末50重量%を配合して得られたペレットを、側面から垂直に切断した切断部を50倍に拡大して撮影した電子顕微鏡写真である。
図5のペレットの切断部の写真から、該ペレットはPP中に個々の球状ガラス粉末が凝集することなく独立して分散された状態で配合されていることが観察される。
【0028】
このことから、前記球状ガラス粉末が噴霧法によりその表面がシラン化合物により全面的に被覆されることで、押出機内で混練し押し出して成形された前記ペレットは樹脂中に球状ガラス粉末が凝集することなく独立して分散された状態で配合されていることが判明した。
そして、図5の写真の中点より上下端部の位置まで円を描き、その円を均等に16分割して、16の各区画に配合されている球状ガラス粉末の数を目視して数え、その数えた結果を表1に示す。
なお、16分割線上に球状ガラス粉末がある場合には、1/2として球状ガラス粉末数の計算を行った。
【表1】
表1の測定結果から、各区画における球状ガラス粉末数は、140±1の範囲にあることから、ペレット中に球状ガラス粉末が均一に分散されていることを示している。
【0029】
以上のことから、押出機で球状ガラス粉末と熱可塑性樹脂のペレットを混練して押出されてなる本発明の把持部用のガラス含有成形用ペレットは、球状ガラス粉末が、球状の形状で中実であり、10〜40μmの平均粒径であり、その表面がシラン化合物により全面的に被覆されており、熱可塑性樹脂中に40〜70重量%の範囲のガラス配合率で独立して均一に分散されている状態で含有されているものであることが判明した。
【0030】
(スキン層)
樹脂ペレットを用いて微細な形状、形態を備える射出成形体を射出成形装置により製造する場合、射出成形金型に溶融樹脂を射出すると、キャビティを形成する金型の壁面で溶融樹脂が急激に冷却され、壁面に樹脂が固化した層(以下、「スキン層」という。)が形成されることは良く知られている。
本発明者は、上記ガラス配合率50重量%のPPの射出成形体の表面を、電子顕微鏡を用いて200倍の倍率で撮影を行った。図6はガラス配合率50重量%のPPの射出成形体の表面を正面から200倍に拡大して撮影した電子顕微鏡写真である。図7はガラス配合率50重量%のPPの射出成形体の表面を45℃の角度から200倍に拡大して撮影した電子顕微鏡写真である。この図6及び図7の写真は、射出成形体の表面が有する特徴的な形状として、大小多数の球形凸状部が分散された状態で存在することを示している。
【0031】
この大小多数の球形凸状部は球状ガラス粉末含有の溶融PPが金型面に接することで形成されたものである。上記したように樹脂100%の射出成形体であればその表面にスキン層が形成されるが、図6及び図7の球形凸状部は、写真の100μmのスケールを考えると、スキン層が形成される表面に多数の球状ガラス粉末が存在することを示しており、従って、ガラス含有樹脂成形体の表面にスキン層が形成されていないものと推測される。
【0032】
そこで、射出成形体の表面にスキン層が形成されているか否かを電子顕微鏡で撮影して、その表面構造を調べるために、上記ガラス配合率50重量%のPPの射出成形体を切断して、その切断面を電子顕微鏡で撮影した。図8は上記ガラス配合率50重量%のPPの射出成形体の断面を200倍に拡大して撮影した電子顕微鏡写真である。写真上方の黒色の部分は射出成形体を切断するために挟んだアクリル樹脂であり、白色の球形状部分が球状ガラス粉末であり、該球状ガラス粉末を含有する部分が表面を含む射出成形体である。樹脂100%の射出成形体であればその表面(0から少なくとも150μmの範囲)にスキン層が形成されるが、写真の100μmのスケールからみて、スキン層が形成される表面に多数の球状ガラス粉末が分散されていることが分かる。従って、図8の射出成形体の断面写真は、ガラス含有樹脂成形体の表面がガラス配合率50重量%であればスキン層が形成されずに、球状ガラス粉末が存在することを示している。
【0033】
(把持部用ペレットの製造方法)
以下に述べる把持部用ペレットの製造方法は、銀系抗菌剤を含有させた製造方法を説明するが、銀系抗菌剤を含有させない場合は銀系抗菌剤を除けばよい。
把持部4に用いる熱可塑性樹脂としては、LDPE、PP又はNyが使用できる。この把持部4に配合する球状ガラス粉末としては熱伝導率の大きい、平均粒径10〜40μmのEガラス又はシリカガラスを40〜70重量%の割合で含有させることが好ましく、抗菌剤を配合する場合には、銀系抗菌剤としては銀ゼオライト、銀ガラス又は銀燐酸ジルコニウムを含有させることが好ましく、上記熱可塑性樹脂の一種に少なくとも0.05重量%の銀系抗菌剤を含有することが好ましい。
樹脂ペレットを用いて射出成形機により成形される微細な形状、形態を備える射出成形体を射出成形装置により製造する場合、射出成形金型に溶融樹脂を射出すると、キャビティを形成する金型の壁面で溶融樹脂が急激に冷却され、壁面に樹脂が固化した層、いわゆるスキン層が形成されることは良く知られたことである。上記熱可塑性樹脂に球状ガラス粉末が40重量%未満では、把持部4の表面にスキン層が形成されるために、ひけ、そり等の歪みが生じ、また、抗菌効果が損なわれるので好ましくない。
【0034】
決められた配合率にしたがって供給するペレット28′の重量を計量して第1ホッパー28内に投入し、スクリュー23による混練搬送によって送られたペレット28′がヒーターにより溶融状態になる位置、即ち、第2ホッパー29が配置されている位置で、決められた配合率にしたがって供給する球状ガラス粉末及び銀系抗菌剤29′の重量を計量して第2ホッパー29内に投入する。溶融樹脂中に投入された球状ガラス粉末及び銀系抗菌剤29′が、混練されながら押出されて球状ガラス粉末及び銀系抗菌剤29′を含有した樹脂組成物が形成されて、その後に切断されて球状ガラス粉末及び銀系抗菌剤29′を含有したペレットが得られる。前記ヒーターの温度は使用される熱可塑性樹脂の融点に応じて決められる。なお、図2の押出機は、従来の押出機と比べてホッパーの構造を除いて他の構造は同じであるので、図2の押出機の構造を説明することは省略する。
【0035】
(把持部の製造方法)
球状ガラス粉末及び銀系抗菌剤が含有されたペレットを射出成形機のホッパーに投入して、ヒーター・ブロワーの前部、中部及び後部で樹脂に応じて設定された溶融温度でペレットを溶融し、ブラシ部と直線状ワイヤー部からなる歯間ブラシの部品が挿入された金型に射出して把持部を成形した。
【0036】
(直線状ワイヤー部の引抜き試験)
上記成形方法でブラシ部の把持部を成形して、引張試験機AGS−100G(島津製作所)を用いて直線状ワイヤー部と把持部との引抜き試験を行い評価した。引抜き試験の結果を表2に示す。
実施例10は、LDPE50重量%にEガラス粉末を49.9重量%、銀ガラスを0.1重量%含有した把持部と直線状ワイヤー部との引抜き試験を行ったところ、直線状ワイヤー部が抜けずに切断されてしまった。一方、Eガラス粉末を含有していない比較例10は、50N/mm2で抜けてしまった。
【表2】
【0037】
(抗菌用試験片)
射出成形機の第1ホッパーから樹脂100%のペレットを、第2ホッパーからガラス配合率40、50重量%のペレットと充填剤(比較例のガラス配合率40、50重量%の場合は除く)を投入して、該射出成形機のペレット投入部の温度230℃、スクリュー中央部温度240℃、押出部温度245℃,圧力50kg/cm2の条件の下で8×6cm、厚さ1.5mmの抗菌用試験片を成形した。
【0038】
(抗菌性試験)
抗菌性試験はJIS Z2801に基づき上記試験用板の抗菌試験を行って測定した。菌株として黄色ブドウ球菌(NBRC 12732)、大腸菌(NBRC 3301)を2.5×105個/mlを植菌して35℃で24時間培養した後に洗いだして無加工試験片の24時間後の生菌数(CFU/ml)及び実施例の24時間後の生残菌数(CFU/ml)の測定を行った。
【実施例】
【0039】
熱可塑性樹脂であるLDPEを実施例1、PPを実施例2、Nyを実施例3として、球状ガラス粉末である球状Eガラス及び銀系抗菌剤が含有された上記3種類のペレットの製造方法を最初に説明し、次に、上記3種類のペレットを用いて歯間ブラシの把持部を成形する製造方法、そして、各樹脂の抗菌効果を測定するための試験片を成形する製造方法を説明する。
(実施例1)
(LDPEのガラス含有成形用ペレット)
熱可塑性樹脂としてLDPEを用いて、噴霧法でシラン化処理した球状EガラスとLDPEの重量配合率が40:60及び50:50の2種類のガラス含有成形用ペレットを作製した。
上記した押出機の第1ホッパーよりLDPEとしてスミカセン G801(商品名:住友化学株式会社製品)の重量を計量して60重量%を投入し、230℃で溶融状態にした中に、第2ホッパーより球状Eガラスの重量を計量して溶融温度230℃と同じか、それに近似した温度に予熱した40重量%を投入して、230℃、スクリュー回転数200回/分で混練し、3mm径の棒状に押出し、水冷して長さ4mmに切断してペレット状とし実施例1の第1の水準の成形用ペレットを得た。
【0040】
以下同様に、スミカセン G801の50重量%、球状Eガラス50重量%の第2の水準の成形用ペレットを得た。なお、銀系抗菌剤である銀ゼオライトは、AJ10N(商品名:シナネンゼオミックス株式会社製品)を用いており、上記球状Eガラスと一緒に第2ホッパーより投入して成形用ペレットに配合されるが、銀ゼオライトを投入する場合には、その重量%の割合を樹脂から差し引いた割合で第1ホッパーより投入している。以下に述べる実施例2及び3も同様にして銀系抗菌剤を配合しているので、以下に述べる実施例2及び3では省略する。
【0041】
(LDPEの把持部)
LDPEの把持部の成形方法を説明する。Eガラス及び銀系抗菌剤が含有されたLDPEのペレットを射出成形機のホッパーに投入して、ヒーター・ブロワーの前部を235℃、中部を245℃、後部を220℃溶融温度で上記ペレットを溶融し、ブラシ部と直線状ワイヤー部からなる歯間ブラシの部品が挿入された40℃の金型に射出して把持部を成形した。
【0042】
(実施例2)
(PPのガラス含有成形用ペレット)
熱可塑性樹脂としてPPを用いて、噴霧法でシラン化処理した球状EガラスとPPの重量配合率が40:60及び50:50の2種類のガラス含有成形用ペレットを作製した。
上記した押出機の第1ホッパーよりPPとしてノバテック MH3(商品名:日本ポリプロ株式会社製品)の重量を計量して60重量%を投入し、220℃で溶融状態にした中に、第2ホッパーより球状Eガラスの重量を計量して溶融温度220℃と同じか、それに近似した温度に予熱した40重量%を投入して、220℃、スクリュー回転数200回/分で混練し、3mm径の棒状に押出し、水冷して長さ4mmに切断してペレット状とし、ガラス配合率40重量%の成形用ペレットを得た。
以下同様に、ノバテック MH3 50重量%、球状Eガラス50重量%のガラス配合率50重量%の2種類の成形用ペレットを得た。銀ゼオライトはAJ10N(商品名:シナネンゼオミックス株式会社製品)を用いた。
【0043】
(PPの把持部)
PPの把持部の成形方法を説明する。Eガラス及び銀系抗菌剤が含有されたPPのペレットを射出成形機のホッパーに投入して、ヒーター・ボロワーの前部を245℃、中部を250℃、後部を230℃溶融温度で上記ペレットを溶融し、ブラシ部と直線状ワイヤー部からなる歯間ブラシの部品が挿入された40℃の金型に射出して把持部を成形した。
【0044】
(実施例3)
(Nyのガラス含有成形用ペレット)
熱可塑性樹脂としてナイロン6(以下、「Ny6」という。)を用いて、噴霧法でシラン化処理した球状EガラスとNy6の重量配合率が40:60及び50:50の2種類のガラス含有成形用ペレットを作製した。
上記した押出機の第1ホッパーよりNy6としてアミラン CM1007(商品名:東レ株式会社製品)の重量を計量して60重量%を投入し、230℃で溶融状態にした中に、第2ホッパーより球状Eガラスの重量を計量して溶融温度230℃と同じか、それに近似した温度に予熱した40重量%を投入して、230℃、スクリュー回転数200回/分で混練し、3mm径の棒状に押出し、水冷して長さ4mmに切断してペレット状とし実施例3の第1の水準の成形用ペレットを得た。予熱温度は溶融温度230℃と同じであることが最も好ましく、(230℃±10%の温度)が好ましい。
以下同様に、アミラン CM1007の50重量%、球状Eガラス50重量%の第2の水準の成形用ペレットの第2の水準の成形用ペレットを得た。銀ガラスは721ST(商品名:興亜硝子株式会社製品)を用いた。
【0045】
(Ny6の把持部)
Ny6の把持部の成形方法を説明する。Eガラス及び銀系抗菌剤が含有されたNy6のペレットを射出成形機のホッパーに投入して、ヒーター・ブロワーの前部を255℃、中部を265℃、後部を245℃溶融温度で上記ペレットを溶融し、ブラシ部と直線状ワイヤー部からなる歯間ブラシの部品が挿入された50℃の金型に射出して把持部を成形した。
【0046】
(実施例1の抗菌性試験結果)
表3はLDPEの実施例1と比較例1の抗菌性試験の結果を示す表である。
表3の第1欄は実施例と比較例の種類を示し、第2欄はEガラス配合率を示し、第3欄は銀系抗菌剤の配合率を示し、第4欄及び第6欄は各種菌の抗菌性試験で測定した残生菌数の結果を示し、第4欄は黄色ブトウ球菌に対する結果を示し、第6欄は大腸菌に対する結果を示すものである。第5欄及び第7欄は上記残生菌数の結果を対数で示すものである。
【表3】
【0047】
(実施例2の抗菌性試験結果)
表4はPPの実施例2と比較例2の抗菌性試験の結果を示す表である。
【表4】
【0048】
(実施例3の抗菌性試験結果)
表5はNyの実施例3と比較例3の抗菌性試験の結果を示す表である。
【表5】
【0049】
図9は、表3に示されたLDPEに配合された銀ゼオライト配合率と黄色ブドウ球菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す黄色ブドウ球菌のグラフであり、図10は、表3に示されたLDPEに配合された銀ゼオライト配合率と大腸菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す大腸菌のグラフである。グラフの△印は比較例1を、◇印は実施例1−1を、□印は実施例1−2を示している。そして、各グラフの右側に記載の一次方程式は、3点から計算された近似の直線式であり、上から比較例1を、実施例1−1を、実施例1−2を示している。
図11は、表4に示されたPPに配合された銀ゼオライト配合率と黄色ブドウ球菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す黄色ブドウ球菌のグラフであり、図12は、表4に示されたPPに配合された銀ゼオライト配合率と大腸菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す大腸菌のグラフである。グラフの△印は比較例2を、◇印は実施例2−1を、□印は実施例2−2を示している。そして、各グラフの右側に記載の一次方程式は、3点から計算された近似の直線式であり、上から比較例2を、実施例2−1を、実施例2−2を示している。
【0050】
図13は、表5に示されたNyに配合された銀ガラス配合率と黄色ブドウ球菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す黄色ブドウ球菌のグラフであり、図14は、表5に示されたNyに配合された銀ガラス配合率と大腸菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す大腸菌のグラフである。グラフの△印は比較例3を、◇印は実施例3−1を、□印は実施例3−2を示している。そして、各グラフの右側に記載の一次方程式は、3点から計算された近似の直線式であり、上から比較例3を、実施例3−1を、実施例3−2を示している。
【0051】
図9〜図14のグラフ全体及び表3〜表5を鳥瞰して、比較例1〜3の3種類の各グラフは勾配及び接点がほぼ同一の一次方程式を示しており、その勾配が約4.7の値であるのに対して、実施例1〜3の3種類の各グラフも勾配及び接点がほぼ同一の一次方程式を示しており、その勾配が約47(比較例1〜3の10倍)の値であることが比較例1〜3と相違している。そして、熱可塑性樹脂に球状ガラス粉末を50重量%含有した実施例1−2、2−2及び3−2は、銀ガラスや銀ゼオライトの銀系抗菌剤の種類に関係なく、球状ガラス粉末を40重量%含有した実施例1−1、2−1及び3−1より、生残菌数の対数が小さい傾向を示している。また、熱可塑性樹脂に球状ガラス粉末を40又は50重量%配合し、銀系抗菌剤を0.10重量%含有した実施例1〜3の生残菌数の対数は、銀系抗菌剤を1.00重量%含有した比較例1〜3の生残菌数の対数と同じ1.0の値を示している。更に、熱可塑性樹脂に球状ガラス粉末を40又は50重量%含有し、銀系抗菌剤を0.05重量%含有した実施例1〜3の生残菌数の対数は、熱可塑性樹脂に銀系抗菌剤を0.50重量%含有した比較例1〜3の生残菌数の対数より小さい値を示している。
【0052】
以上述べた実施例1〜3の抗菌測定の結果からみて、本発明の歯間ブラシの把持部は、熱可塑性樹脂に上記球状ガラス粉末をガラス配合率40〜70重量%の範囲で含有し、銀系抗菌剤を0.05〜0.10重量%の範囲で含有することで、球状ガラス粉末を含有しない熱可塑性樹脂に銀系抗菌剤を0.50〜1.00重量%の範囲で含有する従来の把持部と同等又はそれ以上に生残菌数の対数の値が小さいことが判った。このことは、本発明の歯間ブラシの把持部が上記従来の把持部に含有した銀系抗菌剤の配合率の1/10で、生残菌数の対数の値が同等又はそれより小さい値になることから、本発明の歯間ブラシの把持部は銀系抗菌剤の配合率が小さくとも抗菌性に優れたものである。
【0053】
ところで、上述したように図8の電子顕微鏡写真は、樹脂中に球状ガラスを50重量%配合すれば、それを覆っている樹脂にスキン層の形成がないことを示しており、また、上記表3〜5には、実施例1−1、2−1及び3−1の把持部は、樹脂に球状ガラス粉末を40重量%配合し、銀系抗菌剤を0.05又は0.10重量%配合することで、抗菌性が得られることを示しているから、スキン層が形成されていないことが判った。このことは、従来の把持部は、その表面がスキン層の形成により銀系抗菌剤の銀イオンを表面へブリードアウトするのを阻止するのに対して、球状ガラス粉末の配合率40重量%、50重量%の把持部は、スキン層の形成がないのでその表面に球状ガラス粉末及び銀系抗菌剤が存在することで、銀系抗菌剤の銀イオンが表面へ侵出することができることを証明するものである。
【0054】
ところで、把持部の熱可塑性合成樹脂に銀系抗菌剤を含有する実施例を説明したが、把持部4だけでなく、歯間ブラシのスリーブの樹脂に含有することも可能である。そして、実施例として、上記把持部4が直線形状のものを説明したが、直線形状に限定する必要はなく、任意に曲げた形状のものであっても良く、本発明の歯間ブラシは把持部の形状が直線形状、曲げた形状のものを含んでいる。
【符号の説明】
【0055】
1 歯間ブラシ
2 ブラシ部
3 直線状ワイヤー部
4 把持部
5 ブラシ毛
20 押出機
28 第1ホッパー
29 第2ホッパー
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシ毛を金属ワイヤーで撚り込んで形成されたブラシ部と、その撚り込んだ直線状の金属ワイヤーで形成されたワイヤー部と、その直線状金属ワイヤーの一部分を挿入する把持部からなる歯間ブラシに関し、詳細には、上記ワイヤー部が把持部から容易に抜け出すことがなく、また、該把持部が抗菌性に優れている歯間ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の歯間ブラシは、把持部が低密度ポリエチレン(LDPE)等の軟質ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)といった軟質な熱可塑性合成樹脂を使用しているために、ステンレス等からなる金属ワイヤーを撚り込んだ直線状金属ワイヤーをプラスチック製の把持部内に圧入して製造されるが、直線状金属ワイヤーが挿入された把持部は、単に直線状金属ワイヤーをねじっただけの状態で挿入しているため、長期間使用するにつれ、把持部と直線状金属ワイヤーとの間に隙間が生じ、ブラシ部が抜けやすくなるという問題がある。そのために、くの字状又はコの字状に曲げて所定長さを柄部材に埋設することで、該ブラシ部が柄部材から抜け出ないようにしている。この直線状の金属ワイヤーをくの字状又はコの字状に曲げる作業は、面倒で困難な作業であり、また、その作業工程が必要となり時間や経費がかかるので省略したいとの要求があり、また、同時に把持部に抗菌性を備えたいとの要求もあった。
【0003】
上記直線状の金属ワイヤーを曲げる作業が必要なく、また、該把持部が抗菌性に優れている歯間ブラシは、以下に示す特許文献1に記載の歯間ブラシの柄部材が知られている。
特許文献1には、歯間ブラシの柄部材(「把持部」に相当)を構成する熱可塑性合成樹脂が少なくとも金属接着性ポリオレフィンからなるもので、柄部材に埋設された金属ワイヤーを撚り込んだ直線状金属ワイヤーの一部が、金属接着性ポリオレフィンによって接着されることから、該直線状金属ワイヤーの一部をくの字状又はコの字状に折曲げたりするといった細かく、面倒で困難な作業をする必要がなく、折曲げ加工の工程を省略することができることが記載され、また、上記熱可塑性合成樹脂が少なくとも金属接着性ポリオレフィンからなるポリマーブレンドとしては、金属接着性ポリオレフィン、EVA(エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂)、軟質ポリオレフィンを組合せることが、金属ワイヤーとの接着性が十分であって、離型剤を使用しなくても成形が可能であり、成形加工性が良好であって、しかも柄部材に適正なたわみ性が得られることから好ましく、そして、最も好ましい配合率は、金属接着性ポリオレフィン30重量部、EVA45重量部、軟質ポリエチレン25重量部であることが記載されている。
【0004】
更に、特許文献1には、上記歯間ブラシの柄部材に関する実施例である、例えば、No.5の柄部材は、低密度ポリエチレンに抗菌性ゼオライトを0.5重量%含有し、No.6の柄部材は、低密度ポリエチレンに抗菌性ゼオライトを1.0重量%含有することが、そして、そのブラシ毛の黄色ブドウ球菌と大腸菌の抗菌性試験の生残菌数は、No.5が検出なしであること、実施例No.6も検出なしであることが記載されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4097311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の上記歯間ブラシの柄部材は、金属接着性ポリオレフィン、EVAは、汎用性樹脂でないためにその価格が高価であり、また、金属接着性ポリオレフィン30重量部、EVA45重量部、軟質ポリエチレン25重量部をブレンドしてペレットを成形するのに、その製造工程の管理に時間と経費がかかり、歯間ブラシの把持部を射出成形するのに温度、時間等の管理が難しいという問題、そして、歯間ブラシのコストが高くつくという問題がある。更に、銀系抗菌剤は重量あたりの価格が高価なこと、配合を増やすことにより着色しやすいことから、配合する割合を低減したいとの強い要求がある。
【0007】
それ故に、本発明の課題は、上記実情に鑑み鋭意研究の結果創案されたものであり、歯間ブラシの把持部の樹脂として汎用性樹脂を使用して把持部を成形しても、上記金属ワイヤーの一部分を挿入する把持部から容易に抜け出すことがなく、また、従来の把持部に含有する銀系抗菌剤の含有率と比べて、汎用性樹脂に含有する銀系抗菌剤の含有率が小さくとも、上記従来の把持部が有する抗菌効果と同等又はそれ以上の効果を発揮する把持部を備えた歯間ブラシを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意研究に努めた結果、本発明の歯間ブラシを完成したものである。
即ち、上記課題を解決するために、請求項1に係る発明の歯間ブラシは、ブラシ毛が金属ワイヤーに撚り込まれたブラシ部、及び該撚り込まれた金属ワイヤーで形成された直線状金属ワイヤーからなる直線状ワイヤー部と、該直線状ワイヤー部の所定長さの末端が埋設されている熱可塑性樹脂の把持部からなる歯間ブラシであって、前記把持部の熱可塑性樹脂がポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂又はナイロン樹脂であり、該樹脂に平均粒径10〜40μmの球状ガラス粉末がガラス配合率40〜70重量%の範囲で含有されていることを特徴とする。
同様に、請求項2に係る発明の歯間ブラシは、前記球状ガラス粉末がEガラス又はシリカガラスであることを特徴とする。
請求項3に係る発明の歯間ブラシは、歯間ブラシの把持部の形状が直線形状又は曲げた形状であることを特徴とする。
請求項4に係る発明の歯間ブラシは、ブラシ毛が金属ワイヤーに撚り込まれたブラシ部、及び該撚り込まれた金属ワイヤーで形成された直線状金属ワイヤーからなる直線状ワイヤー部と、該直線状ワイヤー部の所定長さの末端が埋設されている熱可塑性樹脂の把持部からなる歯間ブラシであって、前記把持部の熱可塑性樹脂がポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂又はナイロン樹脂であり、これらの樹脂に平均粒径10〜40μmの球状ガラス粉末がガラス配合率40〜70重量%の範囲で含有されており、銀系抗菌剤が0.05〜0.10重量%の範囲で含有されていることを特徴とする。
請求項5に係る発明の歯間ブラシは、前記把持部が球状ガラス粉末を含有しない熱可塑性樹脂に銀系抗菌剤を0.50〜1.00重量%の範囲で含有する把持部の生残菌数の対数と同等又はそれより小さい値であることを特徴とする。
請求項6に係る発明の歯間ブラシは、前記銀系抗菌剤を少なくとも0.05重量%含有する把持部が、前記球状ガラス粉末を含有しない熱可塑性樹脂の把持部に銀系抗菌剤を0.5重量%含有する把持部の生残菌数の対数より小さい値であることを特徴とする。
請求項7に係る発明の歯間ブラシは、前記銀系抗菌剤を0.1重量%含有する把持部が、前記球状ガラス粉末を含有しない熱可塑性樹脂の把持部に銀系抗菌剤を1.0重量%含有する把持部の生残菌数の対数と同等の値であることを特徴とする。
請求項8に係る発明の歯間ブラシは、前記歯間ブラシのブラシ部を覆うことができるスリーブを備えることを特徴とする。
請求項9に係る発明の歯間ブラシは、前記球状ガラス粉末がEガラス又はシリカガラスであることを特徴とする。
請求項10に係る発明の歯間ブラシは、前記銀系抗菌剤が銀ゼオライト、銀ガラス又は銀燐酸ジリコニウムであることを特徴とする。
請求項11に係る発明の歯間ブラシは、歯間ブラシの把持部の形状が直線形状又は曲げた形状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の歯間ブラシは、汎用性樹脂に球状ガラス粉末を40〜70重量%含有することで、金属接着性ポリオレフィンを用いることなく把持部から直線状金属ワイヤーが抜け出すことがない、歯間ブラシを得ることができる。
また、本発明の歯間ブラシは、樹脂に球状ガラス粉末を40〜70重量%含有することで、従来の把持部に含有する銀系抗菌剤の配合率に対して1/10の配合率でも、抗菌性に優れた歯間ブラシの把持部が得られるという格別の効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】歯間ブラシの一例を示す平面図である。
【図2】本発明の把持部の素材である熱可塑性樹脂に球状ガラス粉末及び銀ガラスを含有したペレットの成形に用いられる一つの押出機の縦断面図である。
【図3】球状ガラス粉末の平均粒径の分布を示す分布図である。
【図4】球状ガラス粉末の1000倍の電子顕微鏡写真である。
【図5】PPに球状ガラス粉末50重量%を配合して得られたペレットを、側面から垂直に切断した切断部を50倍に拡大した電子顕微鏡写真である。
【図6】ガラス配合率50重量%のPPの射出成形体の表面を正面から200倍に拡大して撮影した電子顕微鏡写真である。
【図7】ガラス配合率50重量%のPPの射出成形体の表面を45℃の角度から200倍に拡大して撮影した電子顕微鏡写真である。
【図8】ガラス配合率50重量%のPPの射出成形体の断面を200倍に拡大して撮影した電子顕微鏡写真である。
【図9】表3に示されたLDPEに配合された銀ゼオライト配合率と黄色ブドウ球菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す黄色ブドウ球菌のグラフである。
【図10】表3に示されたLDPEに配合された銀ゼオライト配合率と大腸菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す大腸菌のグラフである。
【図11】表4に示されたPPに配合された銀ゼオライト配合率と黄色ブドウ球菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す黄色ブドウ球菌のグラフである。
【図12】表4に示されたPPに配合された銀ゼオライト配合率と大腸菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す大腸菌のグラフである。
【図13】表5に示されたNyに配合された銀ガラス配合率と黄色ブドウ球菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す黄色ブドウ球菌のグラフである。
【図14】表5に示されたNyに配合された銀ガラス配合率と大腸菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す大腸菌のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の最良形態を説明する。なお、本発明は以下の実施の最良形態によって限定されるものではない。
図1は本発明の歯間ブラシの一例を示す平面図である。
歯間ブラシ1は、ブラシ毛5を金属ワイヤーで撚り込んで形成されたブラシ部2と、その撚り込んだ金属ワイヤーの直線状の金属ワイヤーで形成された直線状ワイヤー部3と、その直線状ワイヤー部3の一部分を挿入する把持部4から構成されている。
【0012】
上記把持部4は、直線状ワイヤー部3の所定長さの末端が球状ガラス粉末、又は、球状ガラス粉末と銀系抗菌剤が含有される熱可塑性樹脂に埋設されている。把持部4の円錐状の頭部4aからは、直線状ワイヤー部3を包み込んだ円筒部6が突設しており、胴部4bと尾部4cとの間には、指でつまみやすい形状の湾曲形状のつまみ部7が設けられている。胴部4bと尾部4cの外径は同一となっており、必要に応じ図示していないスリーブに嵌挿して接続することで、ブラシ部2を覆うことができる。従って、スリーブにブラシ部2の方向から挿入し、胴部4bを嵌合することで歯間ブラシ1を保管状態とすることができ、尾部4cをスリーブに嵌合させることで、スリーブから延長した状態で歯間ブラシを使用することができるものである。
【0013】
(把持部用ペレットの押出機)
次に、本発明の把持部の素材である、熱可塑性樹脂に球状ガラス粉末及び銀ガラスを含有したペレットの製造方法を説明する。熱可塑性樹脂に球状ガラス粉末だけを含有したペレットの製造方法も上記の同じ方法で製造できるので、球状ガラス粉末だけを含有したペレットの製造方法は省略する。
図2に示す2種類のホッパーを備える押出機を用いて上記ペレットを製造する。
【0014】
符号20は押出機、符号21はモーター、符号22は減速機、符号23はスクリュー、符号24はヒーター・ブロワー、符号25スクリューねじ山、符号26はブレーカープレート、符号27はノズルダイ、符号28は第1ホッパー、符号28′はペレット、符号29は第2ホッパー、符号29′は球状ガラス粉末及び銀ガラスを表している。
【0015】
前記押出機20は、供給材料である熱可塑性樹脂のペレット28′と、球状ガラス粉末及び銀ガラス29′を投入する2個のホッパーが備えられている。図2に示す押出機1のホッパーを左側から順に第1ホッパー28、第2ホッパー29と称し、第1ホッパー28には熱可塑性樹脂のペレット28′が投入され、押出機の中間部付近に設けられている第2ホッパー29には、球状ガラス粉末及び銀ガラス29′が投入される。第2ホッパー29の配置する位置は、第1ホッパー28よりスクリューバレル内に供給されたペレット28′が、スクリュー23による混練搬送に伴って溶融状態にある領域に設けてある。
【0016】
ところで、本発明者は、本願出願前に、汎用性の熱可塑性樹脂に40重量%以上の球状ガラス粉末を配合させて押出機で混練して押出し、ペレット(ガラス含有成形用ペレット)が成形できるよう鋭意研究に努めた結果、汎用性の熱可塑性樹脂に中実の球状ガラス粉末を40〜70重量%まで含有することができるガラス含有成形用ペレットを完成するに至り、PCT/JP2008/68093(特願2009−504515号)(発明の名称「ガラス含有成形用ペレット及びその製造方法」、優先権主張日:H19.10.4、(国際公開番号WO2009/044884号)を特許出願した。なお、従来、汎用性の熱可塑性樹脂に上記中実の球状ガラス粉末を35重量%までしか含有できなかった理由は、上記国際公開番号WO2009/044884号に詳細に記載されているが、一言で言えば、汎用性の熱可塑性樹脂中に35重量%以上の球状ガラス粉末を含有させて混練し押出しすると、球状ガラス粉末含有の溶融樹脂の流動性が急激に低下して押出することが困難になるためである。
【0017】
(熱可塑性樹脂)
上記国際公開番号WO2009/044884号には、球状ガラス粉末の製造方法を含む9種類の樹脂のガラス含有成形用ペレットの成形方法が詳細に記載されており、ガラス含有成形用ペレットの成形方法は本願出願前に公知ではあるが、歯間ブラシの把持部は、ポリエチレン樹脂(以下、「PE」という。)、ポリプロピレン樹脂(以下、「PP」という。)又はナイロン樹脂(以下、「Ny」という。)といった軟質な熱可塑性合成樹脂を用いることが従来から行われており、これらの樹脂は結晶性高分子としてよく知られたものである。これらの樹脂に球状ガラス粉末を配合して成型用ペレットを成形する方法を以下に説明する。
【0018】
(球状ガラス粉末)
本発明の球状ガラス粉末のガラス質は、SiO2、B2O3、P2O3の1種又は2種以上を骨格成分とする、アルカリガラス、可溶性ガラス、無アルカリガラス、シリカガラス等が挙げられる。そして、その形状を球状にするには、ガラス繊維を粉砕して球状化する方法を用いることで平均粒径の分布をシャープにすることができる。該球状ガラス粉末のアルカリ分が多いと熱可塑性樹脂の脆化を招きやすいので、無アルカリガラスであるEガラス又はシリカガラスが好ましい。
【0019】
前記球状ガラス粉末は、ガラス繊維の直径が20μmのものを材料として用いている。ガラス繊維はその直径が一定であるから、ガラス繊維の長さが前記直径20μmからばらつかないように粉砕することで、直径20μm、長さ10〜30μmの粉砕物が得られる。この粉砕物を炉の内部に設けた酸素バーナーによる2500〜3000℃の火炎に噴霧して球状化し、噴霧状の球体に炉の下部に設けた水の噴射装置より、γ−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシランを0.1重量%含む水を噴射して、噴霧状態でシラン化処理を行いバグフィルターで捕集した。この捕集したガラス粉体は球状の平均粒径が10〜40μmの球状ガラス粉末である。このように、上記ガラス繊維の直径が20μmのものを材料として用いることで、平均粒径が10〜40μmの球状ガラス粉末が得られた。得られた球状ガラス粉末は中実であった。上記噴霧状態で行うシラン化処理を行う方法を、以下、「噴霧法」という。
【0020】
上記球状化した球状ガラス粉末を前記噴霧法でシラン化処理をしたものが前記球状ガラス粉末である。換言すれば、この球状ガラス粉末はその表面がシラン化合物により全体的に覆われていることに特徴がある。
シラン化合物としては、以下の式で表されるものを挙げることができる。
R4-n−Si−(OR’)n
(式中、Rは有機基を表し、R’はメチル基、エチル基又はプロピル基を表し、nは1〜3から選ばれる整数を表す)
【0021】
かかるシラン化合物としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシ基を有するシランカップリング剤、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基を有するシランカップリング剤、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤が挙げられる。
【0022】
図3は上述した球状ガラス粉末の製造方法で得られた球状ガラス粉末の平均粒径の分布の頻度を示すグラフである。このグラフの横軸は前記球状ガラス粉末の粒径(μm)で、縦軸は分布の頻度(%)を示している。前記球状Eガラスは、粒径が25μmで最高の分布頻度を示しており、その25μmを中心に正規分布曲線上の10〜40μmの範囲に分布しており、その範囲にある粒径の頻度が高いことがわかる。
【0023】
図4は前記球状ガラス粉末の1000倍の電子顕微鏡写真である。この写真から球状ガラス粉末は、各々のその形状が球状であり中実であり、大小様々な粒径のものが存在していることが観察できる。
図3のグラフと図4の写真から、熱可塑性樹脂中の球状ガラス粉末は、その形状が真円の球形であり、大小様々な粒径のものが存在しているが、その平均粒径が10〜40μmであることが示されている。
【0024】
ところで、溶融熱可塑性樹脂中に球状ガラス粉末を投入して混練する際に、その粒径が10μm以下になると、微細粒子の割合が多くなり、比表面積の増加に伴い樹脂から球状ガラス粉末が熱量を奪い、そのために樹脂の温度が急に低下することで溶融粘度が上昇し、剪断発熱により混練時の樹脂温度が極端に上昇するため、決められた両材料の配合率を調整することが困難になる。又、熱可塑性樹脂に球状ガラス粉末を配合することで、一般的に、成形体の寸法安定性、機械強度(衝撃強度、曲げ強度等)、ソリ性、透過バリア性等の向上が図られる。
【0025】
前記粒径が40μm以上になると巨大粒子の割合が多くなり、混練時の溶融粘度の上昇は少ないが、ガラス含有組成物を一定サイズのペレットに切断する際に、カット刃の摩耗が激しくなり、大量の該ガラス含有組成物を連続して生産することが困難となり、生産上の問題が生じる。又、その粒径が40μm以上になると、特に衝撃強度が低下するので好ましくない。従って、平均粒径は10〜40μmの範囲が好適である。
【0026】
溶融状態にある上記熱可塑性樹脂中に最大で70重量%の球状ガラス粉末を配合して混練することにより、押出機の吐出口に設けたノズルダイより直径3mmの棒状に押し出して水で冷却してカッターで長さ約4mmに切断して、該熱可塑性樹脂中に球状ガラス粉末が独立して分散したガラス含有成形用ペレットが得られるが、直径及び長さはこれに限定されるものではない。
【0027】
図5は、PPに球状ガラス粉末50重量%を配合して得られたペレットを、側面から垂直に切断した切断部を50倍に拡大して撮影した電子顕微鏡写真である。
図5のペレットの切断部の写真から、該ペレットはPP中に個々の球状ガラス粉末が凝集することなく独立して分散された状態で配合されていることが観察される。
【0028】
このことから、前記球状ガラス粉末が噴霧法によりその表面がシラン化合物により全面的に被覆されることで、押出機内で混練し押し出して成形された前記ペレットは樹脂中に球状ガラス粉末が凝集することなく独立して分散された状態で配合されていることが判明した。
そして、図5の写真の中点より上下端部の位置まで円を描き、その円を均等に16分割して、16の各区画に配合されている球状ガラス粉末の数を目視して数え、その数えた結果を表1に示す。
なお、16分割線上に球状ガラス粉末がある場合には、1/2として球状ガラス粉末数の計算を行った。
【表1】
表1の測定結果から、各区画における球状ガラス粉末数は、140±1の範囲にあることから、ペレット中に球状ガラス粉末が均一に分散されていることを示している。
【0029】
以上のことから、押出機で球状ガラス粉末と熱可塑性樹脂のペレットを混練して押出されてなる本発明の把持部用のガラス含有成形用ペレットは、球状ガラス粉末が、球状の形状で中実であり、10〜40μmの平均粒径であり、その表面がシラン化合物により全面的に被覆されており、熱可塑性樹脂中に40〜70重量%の範囲のガラス配合率で独立して均一に分散されている状態で含有されているものであることが判明した。
【0030】
(スキン層)
樹脂ペレットを用いて微細な形状、形態を備える射出成形体を射出成形装置により製造する場合、射出成形金型に溶融樹脂を射出すると、キャビティを形成する金型の壁面で溶融樹脂が急激に冷却され、壁面に樹脂が固化した層(以下、「スキン層」という。)が形成されることは良く知られている。
本発明者は、上記ガラス配合率50重量%のPPの射出成形体の表面を、電子顕微鏡を用いて200倍の倍率で撮影を行った。図6はガラス配合率50重量%のPPの射出成形体の表面を正面から200倍に拡大して撮影した電子顕微鏡写真である。図7はガラス配合率50重量%のPPの射出成形体の表面を45℃の角度から200倍に拡大して撮影した電子顕微鏡写真である。この図6及び図7の写真は、射出成形体の表面が有する特徴的な形状として、大小多数の球形凸状部が分散された状態で存在することを示している。
【0031】
この大小多数の球形凸状部は球状ガラス粉末含有の溶融PPが金型面に接することで形成されたものである。上記したように樹脂100%の射出成形体であればその表面にスキン層が形成されるが、図6及び図7の球形凸状部は、写真の100μmのスケールを考えると、スキン層が形成される表面に多数の球状ガラス粉末が存在することを示しており、従って、ガラス含有樹脂成形体の表面にスキン層が形成されていないものと推測される。
【0032】
そこで、射出成形体の表面にスキン層が形成されているか否かを電子顕微鏡で撮影して、その表面構造を調べるために、上記ガラス配合率50重量%のPPの射出成形体を切断して、その切断面を電子顕微鏡で撮影した。図8は上記ガラス配合率50重量%のPPの射出成形体の断面を200倍に拡大して撮影した電子顕微鏡写真である。写真上方の黒色の部分は射出成形体を切断するために挟んだアクリル樹脂であり、白色の球形状部分が球状ガラス粉末であり、該球状ガラス粉末を含有する部分が表面を含む射出成形体である。樹脂100%の射出成形体であればその表面(0から少なくとも150μmの範囲)にスキン層が形成されるが、写真の100μmのスケールからみて、スキン層が形成される表面に多数の球状ガラス粉末が分散されていることが分かる。従って、図8の射出成形体の断面写真は、ガラス含有樹脂成形体の表面がガラス配合率50重量%であればスキン層が形成されずに、球状ガラス粉末が存在することを示している。
【0033】
(把持部用ペレットの製造方法)
以下に述べる把持部用ペレットの製造方法は、銀系抗菌剤を含有させた製造方法を説明するが、銀系抗菌剤を含有させない場合は銀系抗菌剤を除けばよい。
把持部4に用いる熱可塑性樹脂としては、LDPE、PP又はNyが使用できる。この把持部4に配合する球状ガラス粉末としては熱伝導率の大きい、平均粒径10〜40μmのEガラス又はシリカガラスを40〜70重量%の割合で含有させることが好ましく、抗菌剤を配合する場合には、銀系抗菌剤としては銀ゼオライト、銀ガラス又は銀燐酸ジルコニウムを含有させることが好ましく、上記熱可塑性樹脂の一種に少なくとも0.05重量%の銀系抗菌剤を含有することが好ましい。
樹脂ペレットを用いて射出成形機により成形される微細な形状、形態を備える射出成形体を射出成形装置により製造する場合、射出成形金型に溶融樹脂を射出すると、キャビティを形成する金型の壁面で溶融樹脂が急激に冷却され、壁面に樹脂が固化した層、いわゆるスキン層が形成されることは良く知られたことである。上記熱可塑性樹脂に球状ガラス粉末が40重量%未満では、把持部4の表面にスキン層が形成されるために、ひけ、そり等の歪みが生じ、また、抗菌効果が損なわれるので好ましくない。
【0034】
決められた配合率にしたがって供給するペレット28′の重量を計量して第1ホッパー28内に投入し、スクリュー23による混練搬送によって送られたペレット28′がヒーターにより溶融状態になる位置、即ち、第2ホッパー29が配置されている位置で、決められた配合率にしたがって供給する球状ガラス粉末及び銀系抗菌剤29′の重量を計量して第2ホッパー29内に投入する。溶融樹脂中に投入された球状ガラス粉末及び銀系抗菌剤29′が、混練されながら押出されて球状ガラス粉末及び銀系抗菌剤29′を含有した樹脂組成物が形成されて、その後に切断されて球状ガラス粉末及び銀系抗菌剤29′を含有したペレットが得られる。前記ヒーターの温度は使用される熱可塑性樹脂の融点に応じて決められる。なお、図2の押出機は、従来の押出機と比べてホッパーの構造を除いて他の構造は同じであるので、図2の押出機の構造を説明することは省略する。
【0035】
(把持部の製造方法)
球状ガラス粉末及び銀系抗菌剤が含有されたペレットを射出成形機のホッパーに投入して、ヒーター・ブロワーの前部、中部及び後部で樹脂に応じて設定された溶融温度でペレットを溶融し、ブラシ部と直線状ワイヤー部からなる歯間ブラシの部品が挿入された金型に射出して把持部を成形した。
【0036】
(直線状ワイヤー部の引抜き試験)
上記成形方法でブラシ部の把持部を成形して、引張試験機AGS−100G(島津製作所)を用いて直線状ワイヤー部と把持部との引抜き試験を行い評価した。引抜き試験の結果を表2に示す。
実施例10は、LDPE50重量%にEガラス粉末を49.9重量%、銀ガラスを0.1重量%含有した把持部と直線状ワイヤー部との引抜き試験を行ったところ、直線状ワイヤー部が抜けずに切断されてしまった。一方、Eガラス粉末を含有していない比較例10は、50N/mm2で抜けてしまった。
【表2】
【0037】
(抗菌用試験片)
射出成形機の第1ホッパーから樹脂100%のペレットを、第2ホッパーからガラス配合率40、50重量%のペレットと充填剤(比較例のガラス配合率40、50重量%の場合は除く)を投入して、該射出成形機のペレット投入部の温度230℃、スクリュー中央部温度240℃、押出部温度245℃,圧力50kg/cm2の条件の下で8×6cm、厚さ1.5mmの抗菌用試験片を成形した。
【0038】
(抗菌性試験)
抗菌性試験はJIS Z2801に基づき上記試験用板の抗菌試験を行って測定した。菌株として黄色ブドウ球菌(NBRC 12732)、大腸菌(NBRC 3301)を2.5×105個/mlを植菌して35℃で24時間培養した後に洗いだして無加工試験片の24時間後の生菌数(CFU/ml)及び実施例の24時間後の生残菌数(CFU/ml)の測定を行った。
【実施例】
【0039】
熱可塑性樹脂であるLDPEを実施例1、PPを実施例2、Nyを実施例3として、球状ガラス粉末である球状Eガラス及び銀系抗菌剤が含有された上記3種類のペレットの製造方法を最初に説明し、次に、上記3種類のペレットを用いて歯間ブラシの把持部を成形する製造方法、そして、各樹脂の抗菌効果を測定するための試験片を成形する製造方法を説明する。
(実施例1)
(LDPEのガラス含有成形用ペレット)
熱可塑性樹脂としてLDPEを用いて、噴霧法でシラン化処理した球状EガラスとLDPEの重量配合率が40:60及び50:50の2種類のガラス含有成形用ペレットを作製した。
上記した押出機の第1ホッパーよりLDPEとしてスミカセン G801(商品名:住友化学株式会社製品)の重量を計量して60重量%を投入し、230℃で溶融状態にした中に、第2ホッパーより球状Eガラスの重量を計量して溶融温度230℃と同じか、それに近似した温度に予熱した40重量%を投入して、230℃、スクリュー回転数200回/分で混練し、3mm径の棒状に押出し、水冷して長さ4mmに切断してペレット状とし実施例1の第1の水準の成形用ペレットを得た。
【0040】
以下同様に、スミカセン G801の50重量%、球状Eガラス50重量%の第2の水準の成形用ペレットを得た。なお、銀系抗菌剤である銀ゼオライトは、AJ10N(商品名:シナネンゼオミックス株式会社製品)を用いており、上記球状Eガラスと一緒に第2ホッパーより投入して成形用ペレットに配合されるが、銀ゼオライトを投入する場合には、その重量%の割合を樹脂から差し引いた割合で第1ホッパーより投入している。以下に述べる実施例2及び3も同様にして銀系抗菌剤を配合しているので、以下に述べる実施例2及び3では省略する。
【0041】
(LDPEの把持部)
LDPEの把持部の成形方法を説明する。Eガラス及び銀系抗菌剤が含有されたLDPEのペレットを射出成形機のホッパーに投入して、ヒーター・ブロワーの前部を235℃、中部を245℃、後部を220℃溶融温度で上記ペレットを溶融し、ブラシ部と直線状ワイヤー部からなる歯間ブラシの部品が挿入された40℃の金型に射出して把持部を成形した。
【0042】
(実施例2)
(PPのガラス含有成形用ペレット)
熱可塑性樹脂としてPPを用いて、噴霧法でシラン化処理した球状EガラスとPPの重量配合率が40:60及び50:50の2種類のガラス含有成形用ペレットを作製した。
上記した押出機の第1ホッパーよりPPとしてノバテック MH3(商品名:日本ポリプロ株式会社製品)の重量を計量して60重量%を投入し、220℃で溶融状態にした中に、第2ホッパーより球状Eガラスの重量を計量して溶融温度220℃と同じか、それに近似した温度に予熱した40重量%を投入して、220℃、スクリュー回転数200回/分で混練し、3mm径の棒状に押出し、水冷して長さ4mmに切断してペレット状とし、ガラス配合率40重量%の成形用ペレットを得た。
以下同様に、ノバテック MH3 50重量%、球状Eガラス50重量%のガラス配合率50重量%の2種類の成形用ペレットを得た。銀ゼオライトはAJ10N(商品名:シナネンゼオミックス株式会社製品)を用いた。
【0043】
(PPの把持部)
PPの把持部の成形方法を説明する。Eガラス及び銀系抗菌剤が含有されたPPのペレットを射出成形機のホッパーに投入して、ヒーター・ボロワーの前部を245℃、中部を250℃、後部を230℃溶融温度で上記ペレットを溶融し、ブラシ部と直線状ワイヤー部からなる歯間ブラシの部品が挿入された40℃の金型に射出して把持部を成形した。
【0044】
(実施例3)
(Nyのガラス含有成形用ペレット)
熱可塑性樹脂としてナイロン6(以下、「Ny6」という。)を用いて、噴霧法でシラン化処理した球状EガラスとNy6の重量配合率が40:60及び50:50の2種類のガラス含有成形用ペレットを作製した。
上記した押出機の第1ホッパーよりNy6としてアミラン CM1007(商品名:東レ株式会社製品)の重量を計量して60重量%を投入し、230℃で溶融状態にした中に、第2ホッパーより球状Eガラスの重量を計量して溶融温度230℃と同じか、それに近似した温度に予熱した40重量%を投入して、230℃、スクリュー回転数200回/分で混練し、3mm径の棒状に押出し、水冷して長さ4mmに切断してペレット状とし実施例3の第1の水準の成形用ペレットを得た。予熱温度は溶融温度230℃と同じであることが最も好ましく、(230℃±10%の温度)が好ましい。
以下同様に、アミラン CM1007の50重量%、球状Eガラス50重量%の第2の水準の成形用ペレットの第2の水準の成形用ペレットを得た。銀ガラスは721ST(商品名:興亜硝子株式会社製品)を用いた。
【0045】
(Ny6の把持部)
Ny6の把持部の成形方法を説明する。Eガラス及び銀系抗菌剤が含有されたNy6のペレットを射出成形機のホッパーに投入して、ヒーター・ブロワーの前部を255℃、中部を265℃、後部を245℃溶融温度で上記ペレットを溶融し、ブラシ部と直線状ワイヤー部からなる歯間ブラシの部品が挿入された50℃の金型に射出して把持部を成形した。
【0046】
(実施例1の抗菌性試験結果)
表3はLDPEの実施例1と比較例1の抗菌性試験の結果を示す表である。
表3の第1欄は実施例と比較例の種類を示し、第2欄はEガラス配合率を示し、第3欄は銀系抗菌剤の配合率を示し、第4欄及び第6欄は各種菌の抗菌性試験で測定した残生菌数の結果を示し、第4欄は黄色ブトウ球菌に対する結果を示し、第6欄は大腸菌に対する結果を示すものである。第5欄及び第7欄は上記残生菌数の結果を対数で示すものである。
【表3】
【0047】
(実施例2の抗菌性試験結果)
表4はPPの実施例2と比較例2の抗菌性試験の結果を示す表である。
【表4】
【0048】
(実施例3の抗菌性試験結果)
表5はNyの実施例3と比較例3の抗菌性試験の結果を示す表である。
【表5】
【0049】
図9は、表3に示されたLDPEに配合された銀ゼオライト配合率と黄色ブドウ球菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す黄色ブドウ球菌のグラフであり、図10は、表3に示されたLDPEに配合された銀ゼオライト配合率と大腸菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す大腸菌のグラフである。グラフの△印は比較例1を、◇印は実施例1−1を、□印は実施例1−2を示している。そして、各グラフの右側に記載の一次方程式は、3点から計算された近似の直線式であり、上から比較例1を、実施例1−1を、実施例1−2を示している。
図11は、表4に示されたPPに配合された銀ゼオライト配合率と黄色ブドウ球菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す黄色ブドウ球菌のグラフであり、図12は、表4に示されたPPに配合された銀ゼオライト配合率と大腸菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す大腸菌のグラフである。グラフの△印は比較例2を、◇印は実施例2−1を、□印は実施例2−2を示している。そして、各グラフの右側に記載の一次方程式は、3点から計算された近似の直線式であり、上から比較例2を、実施例2−1を、実施例2−2を示している。
【0050】
図13は、表5に示されたNyに配合された銀ガラス配合率と黄色ブドウ球菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す黄色ブドウ球菌のグラフであり、図14は、表5に示されたNyに配合された銀ガラス配合率と大腸菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示す大腸菌のグラフである。グラフの△印は比較例3を、◇印は実施例3−1を、□印は実施例3−2を示している。そして、各グラフの右側に記載の一次方程式は、3点から計算された近似の直線式であり、上から比較例3を、実施例3−1を、実施例3−2を示している。
【0051】
図9〜図14のグラフ全体及び表3〜表5を鳥瞰して、比較例1〜3の3種類の各グラフは勾配及び接点がほぼ同一の一次方程式を示しており、その勾配が約4.7の値であるのに対して、実施例1〜3の3種類の各グラフも勾配及び接点がほぼ同一の一次方程式を示しており、その勾配が約47(比較例1〜3の10倍)の値であることが比較例1〜3と相違している。そして、熱可塑性樹脂に球状ガラス粉末を50重量%含有した実施例1−2、2−2及び3−2は、銀ガラスや銀ゼオライトの銀系抗菌剤の種類に関係なく、球状ガラス粉末を40重量%含有した実施例1−1、2−1及び3−1より、生残菌数の対数が小さい傾向を示している。また、熱可塑性樹脂に球状ガラス粉末を40又は50重量%配合し、銀系抗菌剤を0.10重量%含有した実施例1〜3の生残菌数の対数は、銀系抗菌剤を1.00重量%含有した比較例1〜3の生残菌数の対数と同じ1.0の値を示している。更に、熱可塑性樹脂に球状ガラス粉末を40又は50重量%含有し、銀系抗菌剤を0.05重量%含有した実施例1〜3の生残菌数の対数は、熱可塑性樹脂に銀系抗菌剤を0.50重量%含有した比較例1〜3の生残菌数の対数より小さい値を示している。
【0052】
以上述べた実施例1〜3の抗菌測定の結果からみて、本発明の歯間ブラシの把持部は、熱可塑性樹脂に上記球状ガラス粉末をガラス配合率40〜70重量%の範囲で含有し、銀系抗菌剤を0.05〜0.10重量%の範囲で含有することで、球状ガラス粉末を含有しない熱可塑性樹脂に銀系抗菌剤を0.50〜1.00重量%の範囲で含有する従来の把持部と同等又はそれ以上に生残菌数の対数の値が小さいことが判った。このことは、本発明の歯間ブラシの把持部が上記従来の把持部に含有した銀系抗菌剤の配合率の1/10で、生残菌数の対数の値が同等又はそれより小さい値になることから、本発明の歯間ブラシの把持部は銀系抗菌剤の配合率が小さくとも抗菌性に優れたものである。
【0053】
ところで、上述したように図8の電子顕微鏡写真は、樹脂中に球状ガラスを50重量%配合すれば、それを覆っている樹脂にスキン層の形成がないことを示しており、また、上記表3〜5には、実施例1−1、2−1及び3−1の把持部は、樹脂に球状ガラス粉末を40重量%配合し、銀系抗菌剤を0.05又は0.10重量%配合することで、抗菌性が得られることを示しているから、スキン層が形成されていないことが判った。このことは、従来の把持部は、その表面がスキン層の形成により銀系抗菌剤の銀イオンを表面へブリードアウトするのを阻止するのに対して、球状ガラス粉末の配合率40重量%、50重量%の把持部は、スキン層の形成がないのでその表面に球状ガラス粉末及び銀系抗菌剤が存在することで、銀系抗菌剤の銀イオンが表面へ侵出することができることを証明するものである。
【0054】
ところで、把持部の熱可塑性合成樹脂に銀系抗菌剤を含有する実施例を説明したが、把持部4だけでなく、歯間ブラシのスリーブの樹脂に含有することも可能である。そして、実施例として、上記把持部4が直線形状のものを説明したが、直線形状に限定する必要はなく、任意に曲げた形状のものであっても良く、本発明の歯間ブラシは把持部の形状が直線形状、曲げた形状のものを含んでいる。
【符号の説明】
【0055】
1 歯間ブラシ
2 ブラシ部
3 直線状ワイヤー部
4 把持部
5 ブラシ毛
20 押出機
28 第1ホッパー
29 第2ホッパー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシ毛が金属ワイヤーに撚り込まれたブラシ部、及び該撚り込まれた金属ワイヤーで形成された直線状金属ワイヤーからなる直線状ワイヤー部と、該直線状ワイヤー部の所定長さの末端が埋設されている熱可塑性樹脂の把持部からなる歯間ブラシであって、
前記把持部の熱可塑性樹脂がポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂又はナイロン樹脂であり、該樹脂に平均粒径10〜40μmの球状ガラス粉末がガラス配合率40〜70重量%の範囲で含有されていることを特徴とする歯間ブラシ。
【請求項2】
前記球状ガラス粉末がEガラス又はシリカガラスであることを特徴とする請求項1に記載の歯間ブラシ。
【請求項3】
歯間ブラシの把持部の形状が直線形状又は曲げた形状であることを特徴とする請求項2に記載の歯間ブラシ。
【請求項4】
ブラシ毛が金属ワイヤーに撚り込まれたブラシ部、及び該撚り込まれた金属ワイヤーで形成された直線状金属ワイヤーからなる直線状ワイヤー部と、該直線状ワイヤー部の所定長さの末端が埋設されている熱可塑性樹脂の把持部からなる歯間ブラシであって、
前記把持部の熱可塑性樹脂がポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂又はナイロン樹脂であり、これらの樹脂に平均粒径10〜40μmの球状ガラス粉末がガラス配合率40〜70重量%の範囲で含有されており、銀系抗菌剤が0.05〜0.10重量%の範囲で含有されていることを特徴とする歯間ブラシ。
【請求項5】
前記把持部の生残菌数の対数が球状ガラス粉末を含有しない熱可塑性樹脂に銀系抗菌剤を0.50〜1.00重量%の範囲で含有する把持部の生残菌数の対数と同等又はそれより小さい値であることを特徴とする請求項4に記載の歯間ブラシ。
【請求項6】
前記銀系抗菌剤を少なくとも0.05重量%含有する把持部の生残菌数の対数が、前記球状ガラス粉末を含有しない熱可塑性樹脂の把持部に銀系抗菌剤を0.5重量%含有する把持部の生残菌数の対数より小さい値であることを特徴とする請求項5に記載の歯間ブラシ。
【請求項7】
前記銀系抗菌剤を0.1重量%含有する把持部の生残菌数の対数が、前記球状ガラス粉末を含有しない熱可塑性樹脂の把持部に銀系抗菌剤を1.0重量%含有する把持部の生残菌数の対数と同等の値であることを特徴とする請求項5に記載の歯間ブラシ。
【請求項8】
前記歯間ブラシのブラシ部を覆うことができるスリーブを備えることを特徴とする請求項5に記載の歯間ブラシ。
【請求項9】
前記球状ガラス粉末がEガラス又はシリカガラスであることを特徴とする請求項5に記載の歯間ブラシ。
【請求項10】
前記銀系抗菌剤が銀ゼオライト、銀ガラス又は銀燐酸ジルコニウムであることを特徴とする請求項9に記載の抗菌ブラシ毛。
【請求項11】
歯間ブラシの把持部の形状が直線形状又は曲げた形状であることを特徴とする請求項10に記載の歯間ブラシ。
【請求項1】
ブラシ毛が金属ワイヤーに撚り込まれたブラシ部、及び該撚り込まれた金属ワイヤーで形成された直線状金属ワイヤーからなる直線状ワイヤー部と、該直線状ワイヤー部の所定長さの末端が埋設されている熱可塑性樹脂の把持部からなる歯間ブラシであって、
前記把持部の熱可塑性樹脂がポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂又はナイロン樹脂であり、該樹脂に平均粒径10〜40μmの球状ガラス粉末がガラス配合率40〜70重量%の範囲で含有されていることを特徴とする歯間ブラシ。
【請求項2】
前記球状ガラス粉末がEガラス又はシリカガラスであることを特徴とする請求項1に記載の歯間ブラシ。
【請求項3】
歯間ブラシの把持部の形状が直線形状又は曲げた形状であることを特徴とする請求項2に記載の歯間ブラシ。
【請求項4】
ブラシ毛が金属ワイヤーに撚り込まれたブラシ部、及び該撚り込まれた金属ワイヤーで形成された直線状金属ワイヤーからなる直線状ワイヤー部と、該直線状ワイヤー部の所定長さの末端が埋設されている熱可塑性樹脂の把持部からなる歯間ブラシであって、
前記把持部の熱可塑性樹脂がポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂又はナイロン樹脂であり、これらの樹脂に平均粒径10〜40μmの球状ガラス粉末がガラス配合率40〜70重量%の範囲で含有されており、銀系抗菌剤が0.05〜0.10重量%の範囲で含有されていることを特徴とする歯間ブラシ。
【請求項5】
前記把持部の生残菌数の対数が球状ガラス粉末を含有しない熱可塑性樹脂に銀系抗菌剤を0.50〜1.00重量%の範囲で含有する把持部の生残菌数の対数と同等又はそれより小さい値であることを特徴とする請求項4に記載の歯間ブラシ。
【請求項6】
前記銀系抗菌剤を少なくとも0.05重量%含有する把持部の生残菌数の対数が、前記球状ガラス粉末を含有しない熱可塑性樹脂の把持部に銀系抗菌剤を0.5重量%含有する把持部の生残菌数の対数より小さい値であることを特徴とする請求項5に記載の歯間ブラシ。
【請求項7】
前記銀系抗菌剤を0.1重量%含有する把持部の生残菌数の対数が、前記球状ガラス粉末を含有しない熱可塑性樹脂の把持部に銀系抗菌剤を1.0重量%含有する把持部の生残菌数の対数と同等の値であることを特徴とする請求項5に記載の歯間ブラシ。
【請求項8】
前記歯間ブラシのブラシ部を覆うことができるスリーブを備えることを特徴とする請求項5に記載の歯間ブラシ。
【請求項9】
前記球状ガラス粉末がEガラス又はシリカガラスであることを特徴とする請求項5に記載の歯間ブラシ。
【請求項10】
前記銀系抗菌剤が銀ゼオライト、銀ガラス又は銀燐酸ジルコニウムであることを特徴とする請求項9に記載の抗菌ブラシ毛。
【請求項11】
歯間ブラシの把持部の形状が直線形状又は曲げた形状であることを特徴とする請求項10に記載の歯間ブラシ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−130956(P2011−130956A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294432(P2009−294432)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000212005)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000212005)
【Fターム(参考)】
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