歯間ブラシ
【課題】ワイヤの耐久性のさらなる向上が図れる歯間ブラシを提供する。
【解決手段】捻り合わせたワイヤ14の間にフィラメント12が挟持された植毛部11を備えるブラシ体10と、該ブラシ体10の前記ワイヤ14部分が取り付けられたハンドル体20とを備える歯間ブラシ1において、前記ワイヤ14に、前記植毛部11と前記ハンドル体20との間に位置させて遊嵌体50が装着され、前記遊嵌体50は、その内部に形成した貫通孔52に前記ワイヤ14を遊嵌させて、該ワイヤ14の延在方向に移動可能とされていることよりなる。
【解決手段】捻り合わせたワイヤ14の間にフィラメント12が挟持された植毛部11を備えるブラシ体10と、該ブラシ体10の前記ワイヤ14部分が取り付けられたハンドル体20とを備える歯間ブラシ1において、前記ワイヤ14に、前記植毛部11と前記ハンドル体20との間に位置させて遊嵌体50が装着され、前記遊嵌体50は、その内部に形成した貫通孔52に前記ワイヤ14を遊嵌させて、該ワイヤ14の延在方向に移動可能とされていることよりなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯間ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
歯間ブラシは、主として歯ブラシでは清掃が困難な歯牙と歯牙の間の隙間(隣接歯間)を清掃するための補助清掃用具として使用されるものである。このような歯間ブラシによる清掃においては、ブラシ体を狭い隣接歯間に挿入し往復動することで、隣接歯間に堆積した歯垢等をフィラメントで絡み取りつつ除去する。
歯間ブラシは隣接歯間の形状等に応じ、SSSS(4S)、SSS(3S)、SS(2S)、S、M、L等、あるいは1〜6の記号や数字を使った数種類のサイズが用意されており、適宜、隣接歯間の形状や空隙量に合わせて使用者が選択できる。
【0003】
図13に、一般的な歯間ブラシ900の構成を示す。歯間ブラシ900は、ブラシ体10と、ブラシ体10の基端が挿入され固定されるハンドル体20とを備えるものである。ブラシ体10は、螺旋状に捻り合わされたワイヤ14及びワイヤ14に挟持されたフィラメント12で構成され、ハンドル体20は、把持部22、把持部22から長さ方向に突出したヘッド部24及びヘッド部24から長さ方向に突出したノズル部26で構成されている。
このような歯間ブラシ900においては、フィラメント12が設けられた植毛部11とノズル26との間にワイヤ14が露出した露出部15が形成されるのが通常である。
【0004】
上記構成の歯間ブラシ900では、ワイヤ14として、0.23〜0.35mm程度の細い金属が用いられ、特に細いワイヤ14を使用する4Sや3Sサイズの歯間ブラシ900においては、隣接歯間への挿入時にワイヤ14が曲がりやすい。ワイヤ14が曲がると、使用者はワイヤ14を伸ばして繰り返し使用することになる。加えて、隣接歯間の清掃時においても、露出部15でワイヤ14の曲げ・伸ばしが繰り返される。この曲げ・伸ばしの回数が増えることにより、ワイヤ14の埋め込み部分(ノズル26の先端部)に応力が集中し、ワイヤ14が切れやすくなるという問題がある。
【0005】
こうした問題に対し、ワイヤの基端部側を熱可塑性樹脂で覆うことにより、略筒状の保護体を形成し、その一部が露出した状態で保護体をハンドル体に埋設した歯間ブラシが提案されている(例えば、特許文献1)。
また、フィラメント下端とグリップとの間に弾性チューブ体を介在させた歯間ブラシが提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4008284号公報
【特許文献2】特開2002−253344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の歯間ブラシでは、ブラシ体が、ワイヤと保護体との境界を基点として揺動し、ワイヤと保護体との境界で破断しやすいという問題があった。また、特許文献2の歯間ブラシにおいても、ブラシ体が、ワイヤと弾性チューブ体との境界を基点として揺動するため、ワイヤと弾性チューブ体との境界で破断しやすいという問題があった。このように、従来の技術では、ワイヤとワイヤへの応力を緩和する部材との境界で破断しやすいという問題が残されており、ワイヤの耐久性のさらなる改善が求められていた。
そこで、本発明は、ワイヤの耐久性のさらなる向上が図れる歯間ブラシを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の歯間ブラシは、捻り合わせたワイヤの間にフィラメントが挟持された植毛部を備えるブラシ体と、該ブラシ体の前記ワイヤ部分が取り付けられたハンドル体とを備える歯間ブラシにおいて、前記ワイヤに、前記植毛部と前記ハンドル体との間に位置させて遊嵌体が装着され、前記遊嵌体は、その内部に形成した貫通孔に前記ワイヤを遊嵌させて、該ワイヤの延在方向に移動可能とされていることを特徴とする。
前記貫通孔は、その開口部側が前記遊嵌体の内方から外方に向かうに従い、漸次その径が大きくなる傾斜面とされていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の歯間ブラシによれば、ワイヤに、植毛部とハンドル体との間に位置させて遊嵌体が装着され、遊嵌体は、その内部に形成した貫通孔にワイヤを遊嵌させて、該ワイヤの延在方向に移動可能とされているため、ワイヤにかかる応力を分散し、ワイヤの耐久性を向上できる。
本発明の歯間ブラシによれば、遊嵌体の貫通孔は、その開口部側が遊嵌体の内方から外方に向かうに従い、漸次その径が大きくなる傾斜面とされているため、ワイヤにかかる応力が緩和され、ワイヤのさらなる耐久性向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態にかかる歯間ブラシの拡大図である。
【図2】本発明の歯間ブラシの使用態様を説明する模式図である。
【図3】本発明の歯間ブラシの使用態様を説明する模式図である。
【図4】本発明の歯間ブラシの特徴を説明する拡大図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかる歯間ブラシの拡大図である。
【図6】本発明の一実施形態にかかる歯間ブラシの拡大図である。
【図7】本発明の一実施形態にかかる歯間ブラシの拡大図である。
【図8】本発明の一実施形態にかかる歯間ブラシの拡大図である。
【図9】本発明の一実施形態にかかる歯間ブラシの拡大図である。
【図10】本発明の一実施形態にかかる歯間ブラシの拡大図である。
【図11】本発明の一実施形態にかかる歯間ブラシの拡大図である。
【図12】実施例におけるワイヤ耐久性の測定方法を示す模式図である。
【図13】従来の歯間ブラシの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の歯間ブラシについて、以下に図面を参照して説明する。
図1に示すように、歯間ブラシ1は、ブラシ体10と、ブラシ体10の基端が挿入され固定されるハンドル体20とで概略構成されている。ブラシ体10は、折り返し部16で折り返して螺旋状に捻り合わされたワイヤ14及びワイヤ14に挟持されたフィラメント12を備え、ハンドル体20は、細長に成形された把持部22、把持部22から長さ方向に突出したヘッド部24及びヘッド部24から長さ方向に突出したノズル部26で構成されたものである。
ブラシ体10は、ワイヤ14がノズル部26の先端からハンドル体20に挿入され固定され、ブラシ体10には、フィラメント12がワイヤ14に挟持されてなる植毛部11と、ワイヤ14が露出した露出部15とが形成されている。この露出部15は、0.6〜7mm程度とされる。
【0012】
植毛部11とノズル26との間に形成された露出部15には、略球状の遊嵌体50にワイヤ14を遊嵌させ、遊嵌体50は、ワイヤ14の延在方向、即ちワイヤ14の長さ方向に移動可能に装着されている。この遊嵌体50には、ワイヤ14を挿入する貫通孔52が形成され、貫通孔52には、その開口部側に遊嵌体50の内方から外方に向かって漸次径が大きくなる傾斜面54が形成されている。
【0013】
ハンドル体20の材質は特に限定されず、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ABS等が挙げられる。
【0014】
植毛部11の大きさは、歯間ブラシ1の用途、即ち、想定する隣接歯間の形状等を勘案して決定でき、例えば、ワイヤ14の延在方向の長さが5〜15mm程度とされる。
フィラメント12の材質は特に限定されず、例えば、ナイロン、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)等が挙げられる。
【0015】
ワイヤ14の材質は、特に限定されず、例えば、オーステナイト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス、フェライト系ステンレス、Co−Co合金等が挙げられる。
ワイヤ14の太さは、歯間ブラシ1の用途等を勘案して決定でき、例えば、0.18〜0.35mmの範囲で決定される。
【0016】
遊嵌体50の材質は、特に限定されず、例えば、樹脂、金属、セラミック、薬剤の塊(錠剤)、多孔質体等が挙げられる。中でも、歯間ブラシ1の使用の際、歯牙や歯肉に接触した場合でも使用者に刺激を与えにくい弾性樹脂や、多孔質体が好ましい。弾性樹脂としては、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等のエラストマー樹脂、6ナイロン、6−6ナイロン、6−10ナイロン、6−12ナイロン等のナイロン、PE等のポリオレフィン、シリコンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、軟質発泡系樹脂等が挙げられる。また、隣接歯間の清掃中に薬剤を歯周スポット等に塗布する目的からは、遊嵌体50を錠剤、又は多孔質体に薬液を含浸したものとすることができる。
【0017】
遊嵌体50として、錠剤又は薬液を含浸した多孔質体を用いる場合には、目的(う蝕、歯周病、口臭予防、その他治療)に応じて薬剤を選択でき、例えば、フッ化ナトリウム、トリクロサン、塩化セチルピリジニウム、ラウロイルサルコシンNa、ε−アミノカプロン酸、キシリトール、各種ハーブ、メントール等、口腔内の清掃、治療に用いられる薬剤が挙げられる。
錠剤を遊嵌体50とする場合には、任意の薬剤を賦形剤等と共に打錠することで成形し、この成形物を遊嵌体50とすることができる。かかる錠剤は、1回の使用で消失するように調製されてもよいし、複数回の使用で消失するように調製されていてもよい。
このように、遊嵌体50は、その使用目的に応じて適宜選択することができる。
【0018】
遊嵌体50の大きさは、露出部15の長さに応じて決定でき、例えば、露出部15の長さの10〜90%が好ましい。具体的には、遊嵌体50の直径が好ましくは0.5〜5mm、より好ましくは0.5〜2mmとされる。0.5mm以上であればワイヤ14の耐久性を向上でき、5mm以下であれば露出部15での移動が十分となりワイヤ14の耐久性を向上できる。
【0019】
また、貫通孔52の形状は、特に限定されず、貫通孔52の軸線に直交する断面が、円形、楕円形、多角形等、いずれの形状であってもよい。
貫通孔52の開口径は、遊嵌体50が露出部15においてワイヤ14の延在方向に移動できる大きさであり、ワイヤ14の太さに応じて決定でき、例えば、貫通孔52の断面が円形であれば、その最小直径は0.3〜1mm程度とされる。
傾斜面54の傾斜の程度は、特に限定されないが、貫通孔52の軸線に直交する断面に対して、30〜60°程度とされる。
【0020】
本発明の歯間ブラシ1の製造方法は、特に限定されず、例えば、射出成形によるインサート成形によって製造できる。インサート成形では、まず、折り返し部16で折り返したワイヤ14にフィラメント12を挟み込むと共に、ワイヤ14を捻り合わせてブラシ体10を作製する。作製したブラシ体10の基端、即ち、ワイヤ14の折り返し部16の反対側の先端を遊嵌体50の貫通孔52に挿通する。次いで、ブラシ体10の基端を金型内に配置し、ハンドル体20の材料を射出して成形する。
こうして、ノズル部26、ヘッド部24及び把持部22が一体成形されたハンドル体20を備える歯間ブラシ1を得ることができる。
【0021】
次に、歯間ブラシ1の使用態様について、図2〜4を用いて説明する。図2は、歯間ブラシ1を隣接歯間に挿入した状態を折り返し部16側から見た模式図であり、図2中、符号60は歯牙を示し(図3において同じ)、符号62は隣接歯間を示す。図3は、隣接歯間に挿入された歯間ブラシ1を側方からみた模式図であり、図4は、歯間ブラシ1での清掃中における、遊嵌体50及びワイヤ14の動きを説明する正面図である。
【0022】
図2〜3に示すように、隣接歯間62の清掃は、歯間ブラシ1の植毛部11を隣接歯間62に挿入し、歯間ブラシ1を矢印X(図3)の方向、即ち、ワイヤ14の延在方向に往復動することにより、隣接歯間62を清掃する。この際、植毛部11のフィラメント12が、隣接歯間62内や歯牙60の側面に付着している歯垢等を絡め取る。また、植毛部11が隣接歯間62に深く挿入されると、遊嵌体50が歯牙60に当接してノズル26側に動く。この際、ノズル26の先端が歯肉等に接触することを防止できる。
また、歯間ブラシ1の操作中には、ワイヤ14が露出部15、特に遊嵌体50における植毛部11側の貫通孔52近傍で曲がって動作し、ワイヤに応力がかかる。この際、歯間ブラシ1を操作する角度や操作する振動により、遊嵌体50がノズル26と植毛部11との間で移動するため、この遊嵌体50の動きに応じて、ワイヤ14の屈曲位置が逐次変動する。
【0023】
この動作につき、図4を用いて説明する。図4において、符号10aは遊嵌体50aに従って屈曲したブラシ体を示し、符号10bは遊嵌体50bに従って屈曲したブラシ体を示す。遊嵌体は、歯間ブラシ1の使用中に、遊嵌体50aから遊嵌体50bへ、又は遊嵌体50bから遊嵌体50aへと矢印Yのように移動する。遊嵌体50aがノズル26の近傍に位置すると、貫通孔52aにおける植毛部11a側の開口部を基点にワイヤ14aが屈曲してブラシ体10aが屈曲し、遊嵌体50bが植毛部11b側に位置すると、ワイヤ14bの屈曲位置が貫通孔52bにおける植毛部11b側の開口部に変動しブラシ体10bが屈曲する。このように、歯間ブラシ1の使用中に遊嵌体50がその位置を変動することで、ワイヤ14の屈曲位置も逐次変動し、ワイヤ14への応力が露出部15の範囲で分散される。
【0024】
従来の歯間ブラシは、ブラシ体とノズル部との接合点に応力が集中する構造となっていた。このため、ブラシ体とノズル部との接合点において、ワイヤが切れやすいという問題があった。
本発明の歯間ブラシは、その使用中に遊嵌体がワイヤの延在方向に移動しワイヤの屈曲位置が逐次変動するため、ワイヤにかかる応力が分散される。この結果、ワイヤの耐久性が向上し、歯間ブラシの使用期間が延長される。
また、遊嵌体の貫通孔には、遊嵌体の内方から外方に向かうに従い漸次径が大きくなる傾斜面が形成されているため、ワイヤが屈曲する際に、遊嵌体との接触点において応力が緩和される。この結果、ワイヤの耐久性がさらに向上する。
【0025】
加えて、ワイヤが剥き出しとなっている露出部が歯牙に接触すると、ワイヤと口腔内との間に唾液等を電解質溶液としてガルバーニ電流が流れ、使用者に違和感を与えることがある。
本発明では、遊嵌体を装着した分だけ、露出部でワイヤが剥き出しとなる部分が少なくなる。従って、遊嵌体を金属以外の材質(樹脂、セラミック、錠剤等)とすることで、ワイヤが歯牙、特に金属冠等の歯科修復物と近づく確率が低くなり、ガルバーニ電流の発生を防止できる。
【0026】
一般に、市販の歯間ブラシはその大きさ、仕様毎にハンドル体が色分けされている。そこで、遊嵌体の色を複数色のバリエーションとすることで、同じ仕様の歯間ブラシであっても複数人で使い分けることができる。
【0027】
本発明の歯間ブラシは、上述の実施形態に限定されるものではない。
例えば、図5(a)に示す歯間ブラシ100のような、植毛部11側とノズル26側とで貫通孔の開口径が異なる遊嵌体を採用してもよい。
歯間ブラシ100における遊嵌体150は、内部に貫通孔152が形成され、この貫通孔152は、ノズル26側の開口部156の開口径が、植毛部11側の開口部154の開口径よりも大きいものとされている。そして、開口部156の開口径は、ノズル26が挿入可能な大きさとされ、遊嵌体150がノズル26側に移動した際に開口部156にノズル26が挿入した状態となる(図5(b))。
このように、ノズル26側の開口部156をノズル26が挿入可能な大きさとすることで、露出部15における遊嵌体150の可動距離が長くなる。歯間ブラシ100の使用中は、ワイヤ14が開口部154を基点として揺動する。
遊嵌体150の可動距離が長くなると、露出部15におけるワイヤ14の屈曲位置が広範囲となり、さらに応力が分散されてワイヤ14の耐久性をより向上できる。
【0028】
上述の実施形態では、遊嵌体の貫通孔は、ノズル側及び植毛部側のいずれの開口部にも、内方から外方に向かうに従い漸次その径が大きくなる傾斜面が形成されているが、図6に示す遊嵌体250のように、貫通孔252のいずれの開口部にも傾斜面が形成されていなくてもよいし、図7の遊嵌体350のように、貫通孔352の植毛部11側の開口部にのみ傾斜面354が形成されていてもよい。ワイヤ14への応力を緩和する観点から、少なくとも貫通孔の植毛部側の開口部には傾斜面が形成されていることが好ましい。
【0029】
上述の実施形態では、遊嵌体が略球状とされているが、本発明における遊嵌体の形状はこれに限定されず、例えば、遊嵌体は、図8に示すように、単一径の貫通孔452が形成された略円筒状の遊嵌体450であってもよい。
また、例えば、遊嵌体は、図9に示すように、貫通孔552が形成された略円筒状の遊嵌体550であってもよい。この遊嵌体550は、貫通孔552に、植毛部11側及びノズル26側の開口部に内方から外方に向かうに従い漸次その径が大きくなる傾斜面554が形成されているものである。
【0030】
あるいは、遊嵌体は、図10示すように、貫通孔652が形成された蛇腹状の遊嵌体650であってもよい。蛇腹状の遊嵌体650には、その径が小さくされたくびれ部654が形成されているため、ブラシ体10が揺動した際に、該くびれ部654が屈曲し、ワイヤ14にかかる応力を緩和できる。なお、蛇腹状の遊嵌体650の材質としては、その形状的な特性を生かすために、エラストマー樹脂等の弾性を有する材質を用いることが好ましい。
【0031】
また、遊嵌体は、図11に示すように、貫通孔752が形成され、両端面から中央に向かうに従って、漸次その径が大きくなる形状の遊嵌体750であってもよい。
このように、遊嵌体の形状は特に限定されないが、ワイヤ耐久性の向上、歯肉や歯牙との接触時の違和感抑制の観点からは、球状、楕円球状、円筒状、蛇腹状が好ましい。
【0032】
上述の実施形態では、1の遊嵌体がワイヤに装着されているが、本発明はこれに限定されず、遊嵌体は2以上であってもよい。遊嵌体を2以上とすることで、遊嵌体同士の間でもワイヤが屈曲するため、ワイヤへの応力をさらに分散できる。
【0033】
上述の実施形態では、ハンドル体にヘッド部及びノズル部が設けられているが、本発明はこれに限定されず、ハンドル体には、ヘッド部及び/又はノズル部が設けられていなくてもよい。ただし、ワイヤとハンドル体の接合点に生じる応力を緩和する観点から、ハンドル体には、ヘッド部又はノズル部が設けられていることが好ましい。
【0034】
上述の実施形態では、ブラシ体がハンドル体の長さ方向に延在する歯間ブラシを例にして説明したが、本発明はブラシ体を備える歯間ブラシであればその形状は限定されない。本発明は、例えば、ハンドル体の長さ方向と交差する方向にブラシ体が接続された歯間ブラシにも適用できる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
図7に示す歯間ブラシと同様の歯間ブラシを、下記仕様にて作製した。遊嵌体における貫通孔の植毛部側の開口部にのみ、内方から外方に向かうに従い、漸次その径が大きくなる傾斜面を形成した。作製した歯間ブラシについて、ワイヤ耐久性と使用感を評価し、その結果を表1に示す。
サイズ:SSS
ワイヤ:φ0.23mm、ステンレス製
フィラメント:2mil(φ0.05mm)、ナイロン製
露出部の長さ:1.5mm
植毛部の長さ:10mm
遊嵌体:露出部に1つ装着、φ1.2mmの球状、シリコンゴム製、貫通孔の最小径;φ0.3mm、貫通孔の最大径(開口部の径);φ0.45mm、貫通孔の軸線に直交する面に対する開口部傾斜面の角度;45°
【0037】
(実施例2)
図1に示す歯間ブラシ1と同様の歯間ブラシを、下記仕様にて作製した。遊嵌体における2つの開口部には、内方から外方に向かうに従い、漸次その径が大きくなる傾斜面を形成した。作製した歯間ブラシについて、ワイヤ耐久性と使用感を評価し、その結果を表1に示す。
サイズ:SSS
ワイヤ:φ0.23mm、ステンレス製
フィラメント:2mil(φ0.05mm)、ナイロン製
露出部の長さ:1.5mm
植毛部の長さ:10mm
遊嵌体:露出部に1つ装着、φ1.2mmの球状、シリコンゴム製、貫通孔の最小径;φ0.3mm、貫通孔の最大径(開口部の径);φ0.45mm、貫通孔の軸線に直交する面に対する開口部傾斜面の角度;45°)
【0038】
(比較例1)
図13に示す歯間ブラシ900と同様の歯間ブラシ、即ち遊嵌体を備えない歯間ブラシを下記仕様にて作製した。作製した歯間ブラシについて、ワイヤ耐久性と使用感を評価し、その結果を表1に示す。
サイズ:SSS
ワイヤ:φ0.23mm、ステンレス製
フィラメント:2mil(φ0.05mm)、ナイロン製
露出部の長さ:1.5mm
植毛部の長さ:10mm
【0039】
(評価方法)
<ワイヤ耐久性>
図12に示すように、ブラシ体10のワイヤ14を反転軸810に設けられたチャック820に固定し、ブラシ体10の折り返し部16に細糸811を介して質量100gの錘812を垂下し、反転軸810を左右に90°、30回/分の速度で繰り返し反転させて、ワイヤ14が破断するまでの回数を測定した。
【0040】
<使用感>
5名のパネラが各例の歯間ブラシを使用し、「違和感」、「痛み」、「制御」の3項目について、下記基準により評価した。
【0041】
≪違和感≫
ブラシ体を隣接歯間に挿入し、ノズルの先端又は遊嵌体が歯肉や歯牙に接触した際の違和感を評価した。
○:違和感がない。
△:違和感が小さい。
×:違和感が大きい。
【0042】
≪痛み≫
ブラシ体を隣接歯間に挿入し、ノズルの先端又は遊嵌体が歯肉や歯牙に接触した際の痛みを評価した。
○:痛みを感じない。
△:やや痛みを感じる。
×:痛みを感じる。
【0043】
≪制御≫
隣接歯間の清掃において、歯間ブラシのノズルが歯肉又は歯牙に接触しないように、歯間ブラシの操作を制御できるか否かを評価した。
○:ノズル先端を歯肉又は歯牙に衝突させることなく操作できる。
△:ノズル先端を歯肉又は歯牙に衝突させることなく操作するのが困難である。
×:ノズル先端を歯肉又は歯牙に衝突させてしまう。
【0044】
【表1】
【0045】
表1の結果の通り、本発明を適用した実施例1〜2は、ワイヤ耐久性が120回以上であった。特に貫通孔の両側に傾斜面を形成した遊嵌体を用いた実施例2は、ワイヤ耐久性が135回であった。加えて、実施例1〜2は、使用感の全ての評価項目が「○」であった。即ち、遊嵌体を備えることで、ノズルを歯肉や歯牙に衝突させることなく、歯間ブラシを操作できた。
一方、遊嵌体を備えない比較例1は、ワイヤ耐久性が100回であり、実施例1〜2に比べて、その耐久性が大きく劣るものであった。加えて、遊嵌体を備えていないため、ノズル先端が歯肉や歯牙に直接衝突し、違和感や痛みを感じるものであった。
【符号の説明】
【0046】
1、100、200、300、400、500、600、700、900 歯間ブラシ
10、10a、10b ブラシ体
11、11a、11b 植毛部
12 フィラメント
14、14a、14b ワイヤ
20 ハンドル体
50、50a、50b、150、250、350、450、550、650、750 遊嵌体
52、52a、52b、152、252、352、452、552、652、752 貫通孔
54、354、554 傾斜面
154、156 開口部
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯間ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
歯間ブラシは、主として歯ブラシでは清掃が困難な歯牙と歯牙の間の隙間(隣接歯間)を清掃するための補助清掃用具として使用されるものである。このような歯間ブラシによる清掃においては、ブラシ体を狭い隣接歯間に挿入し往復動することで、隣接歯間に堆積した歯垢等をフィラメントで絡み取りつつ除去する。
歯間ブラシは隣接歯間の形状等に応じ、SSSS(4S)、SSS(3S)、SS(2S)、S、M、L等、あるいは1〜6の記号や数字を使った数種類のサイズが用意されており、適宜、隣接歯間の形状や空隙量に合わせて使用者が選択できる。
【0003】
図13に、一般的な歯間ブラシ900の構成を示す。歯間ブラシ900は、ブラシ体10と、ブラシ体10の基端が挿入され固定されるハンドル体20とを備えるものである。ブラシ体10は、螺旋状に捻り合わされたワイヤ14及びワイヤ14に挟持されたフィラメント12で構成され、ハンドル体20は、把持部22、把持部22から長さ方向に突出したヘッド部24及びヘッド部24から長さ方向に突出したノズル部26で構成されている。
このような歯間ブラシ900においては、フィラメント12が設けられた植毛部11とノズル26との間にワイヤ14が露出した露出部15が形成されるのが通常である。
【0004】
上記構成の歯間ブラシ900では、ワイヤ14として、0.23〜0.35mm程度の細い金属が用いられ、特に細いワイヤ14を使用する4Sや3Sサイズの歯間ブラシ900においては、隣接歯間への挿入時にワイヤ14が曲がりやすい。ワイヤ14が曲がると、使用者はワイヤ14を伸ばして繰り返し使用することになる。加えて、隣接歯間の清掃時においても、露出部15でワイヤ14の曲げ・伸ばしが繰り返される。この曲げ・伸ばしの回数が増えることにより、ワイヤ14の埋め込み部分(ノズル26の先端部)に応力が集中し、ワイヤ14が切れやすくなるという問題がある。
【0005】
こうした問題に対し、ワイヤの基端部側を熱可塑性樹脂で覆うことにより、略筒状の保護体を形成し、その一部が露出した状態で保護体をハンドル体に埋設した歯間ブラシが提案されている(例えば、特許文献1)。
また、フィラメント下端とグリップとの間に弾性チューブ体を介在させた歯間ブラシが提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4008284号公報
【特許文献2】特開2002−253344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の歯間ブラシでは、ブラシ体が、ワイヤと保護体との境界を基点として揺動し、ワイヤと保護体との境界で破断しやすいという問題があった。また、特許文献2の歯間ブラシにおいても、ブラシ体が、ワイヤと弾性チューブ体との境界を基点として揺動するため、ワイヤと弾性チューブ体との境界で破断しやすいという問題があった。このように、従来の技術では、ワイヤとワイヤへの応力を緩和する部材との境界で破断しやすいという問題が残されており、ワイヤの耐久性のさらなる改善が求められていた。
そこで、本発明は、ワイヤの耐久性のさらなる向上が図れる歯間ブラシを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の歯間ブラシは、捻り合わせたワイヤの間にフィラメントが挟持された植毛部を備えるブラシ体と、該ブラシ体の前記ワイヤ部分が取り付けられたハンドル体とを備える歯間ブラシにおいて、前記ワイヤに、前記植毛部と前記ハンドル体との間に位置させて遊嵌体が装着され、前記遊嵌体は、その内部に形成した貫通孔に前記ワイヤを遊嵌させて、該ワイヤの延在方向に移動可能とされていることを特徴とする。
前記貫通孔は、その開口部側が前記遊嵌体の内方から外方に向かうに従い、漸次その径が大きくなる傾斜面とされていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の歯間ブラシによれば、ワイヤに、植毛部とハンドル体との間に位置させて遊嵌体が装着され、遊嵌体は、その内部に形成した貫通孔にワイヤを遊嵌させて、該ワイヤの延在方向に移動可能とされているため、ワイヤにかかる応力を分散し、ワイヤの耐久性を向上できる。
本発明の歯間ブラシによれば、遊嵌体の貫通孔は、その開口部側が遊嵌体の内方から外方に向かうに従い、漸次その径が大きくなる傾斜面とされているため、ワイヤにかかる応力が緩和され、ワイヤのさらなる耐久性向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態にかかる歯間ブラシの拡大図である。
【図2】本発明の歯間ブラシの使用態様を説明する模式図である。
【図3】本発明の歯間ブラシの使用態様を説明する模式図である。
【図4】本発明の歯間ブラシの特徴を説明する拡大図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかる歯間ブラシの拡大図である。
【図6】本発明の一実施形態にかかる歯間ブラシの拡大図である。
【図7】本発明の一実施形態にかかる歯間ブラシの拡大図である。
【図8】本発明の一実施形態にかかる歯間ブラシの拡大図である。
【図9】本発明の一実施形態にかかる歯間ブラシの拡大図である。
【図10】本発明の一実施形態にかかる歯間ブラシの拡大図である。
【図11】本発明の一実施形態にかかる歯間ブラシの拡大図である。
【図12】実施例におけるワイヤ耐久性の測定方法を示す模式図である。
【図13】従来の歯間ブラシの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の歯間ブラシについて、以下に図面を参照して説明する。
図1に示すように、歯間ブラシ1は、ブラシ体10と、ブラシ体10の基端が挿入され固定されるハンドル体20とで概略構成されている。ブラシ体10は、折り返し部16で折り返して螺旋状に捻り合わされたワイヤ14及びワイヤ14に挟持されたフィラメント12を備え、ハンドル体20は、細長に成形された把持部22、把持部22から長さ方向に突出したヘッド部24及びヘッド部24から長さ方向に突出したノズル部26で構成されたものである。
ブラシ体10は、ワイヤ14がノズル部26の先端からハンドル体20に挿入され固定され、ブラシ体10には、フィラメント12がワイヤ14に挟持されてなる植毛部11と、ワイヤ14が露出した露出部15とが形成されている。この露出部15は、0.6〜7mm程度とされる。
【0012】
植毛部11とノズル26との間に形成された露出部15には、略球状の遊嵌体50にワイヤ14を遊嵌させ、遊嵌体50は、ワイヤ14の延在方向、即ちワイヤ14の長さ方向に移動可能に装着されている。この遊嵌体50には、ワイヤ14を挿入する貫通孔52が形成され、貫通孔52には、その開口部側に遊嵌体50の内方から外方に向かって漸次径が大きくなる傾斜面54が形成されている。
【0013】
ハンドル体20の材質は特に限定されず、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ABS等が挙げられる。
【0014】
植毛部11の大きさは、歯間ブラシ1の用途、即ち、想定する隣接歯間の形状等を勘案して決定でき、例えば、ワイヤ14の延在方向の長さが5〜15mm程度とされる。
フィラメント12の材質は特に限定されず、例えば、ナイロン、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)等が挙げられる。
【0015】
ワイヤ14の材質は、特に限定されず、例えば、オーステナイト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス、フェライト系ステンレス、Co−Co合金等が挙げられる。
ワイヤ14の太さは、歯間ブラシ1の用途等を勘案して決定でき、例えば、0.18〜0.35mmの範囲で決定される。
【0016】
遊嵌体50の材質は、特に限定されず、例えば、樹脂、金属、セラミック、薬剤の塊(錠剤)、多孔質体等が挙げられる。中でも、歯間ブラシ1の使用の際、歯牙や歯肉に接触した場合でも使用者に刺激を与えにくい弾性樹脂や、多孔質体が好ましい。弾性樹脂としては、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等のエラストマー樹脂、6ナイロン、6−6ナイロン、6−10ナイロン、6−12ナイロン等のナイロン、PE等のポリオレフィン、シリコンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、軟質発泡系樹脂等が挙げられる。また、隣接歯間の清掃中に薬剤を歯周スポット等に塗布する目的からは、遊嵌体50を錠剤、又は多孔質体に薬液を含浸したものとすることができる。
【0017】
遊嵌体50として、錠剤又は薬液を含浸した多孔質体を用いる場合には、目的(う蝕、歯周病、口臭予防、その他治療)に応じて薬剤を選択でき、例えば、フッ化ナトリウム、トリクロサン、塩化セチルピリジニウム、ラウロイルサルコシンNa、ε−アミノカプロン酸、キシリトール、各種ハーブ、メントール等、口腔内の清掃、治療に用いられる薬剤が挙げられる。
錠剤を遊嵌体50とする場合には、任意の薬剤を賦形剤等と共に打錠することで成形し、この成形物を遊嵌体50とすることができる。かかる錠剤は、1回の使用で消失するように調製されてもよいし、複数回の使用で消失するように調製されていてもよい。
このように、遊嵌体50は、その使用目的に応じて適宜選択することができる。
【0018】
遊嵌体50の大きさは、露出部15の長さに応じて決定でき、例えば、露出部15の長さの10〜90%が好ましい。具体的には、遊嵌体50の直径が好ましくは0.5〜5mm、より好ましくは0.5〜2mmとされる。0.5mm以上であればワイヤ14の耐久性を向上でき、5mm以下であれば露出部15での移動が十分となりワイヤ14の耐久性を向上できる。
【0019】
また、貫通孔52の形状は、特に限定されず、貫通孔52の軸線に直交する断面が、円形、楕円形、多角形等、いずれの形状であってもよい。
貫通孔52の開口径は、遊嵌体50が露出部15においてワイヤ14の延在方向に移動できる大きさであり、ワイヤ14の太さに応じて決定でき、例えば、貫通孔52の断面が円形であれば、その最小直径は0.3〜1mm程度とされる。
傾斜面54の傾斜の程度は、特に限定されないが、貫通孔52の軸線に直交する断面に対して、30〜60°程度とされる。
【0020】
本発明の歯間ブラシ1の製造方法は、特に限定されず、例えば、射出成形によるインサート成形によって製造できる。インサート成形では、まず、折り返し部16で折り返したワイヤ14にフィラメント12を挟み込むと共に、ワイヤ14を捻り合わせてブラシ体10を作製する。作製したブラシ体10の基端、即ち、ワイヤ14の折り返し部16の反対側の先端を遊嵌体50の貫通孔52に挿通する。次いで、ブラシ体10の基端を金型内に配置し、ハンドル体20の材料を射出して成形する。
こうして、ノズル部26、ヘッド部24及び把持部22が一体成形されたハンドル体20を備える歯間ブラシ1を得ることができる。
【0021】
次に、歯間ブラシ1の使用態様について、図2〜4を用いて説明する。図2は、歯間ブラシ1を隣接歯間に挿入した状態を折り返し部16側から見た模式図であり、図2中、符号60は歯牙を示し(図3において同じ)、符号62は隣接歯間を示す。図3は、隣接歯間に挿入された歯間ブラシ1を側方からみた模式図であり、図4は、歯間ブラシ1での清掃中における、遊嵌体50及びワイヤ14の動きを説明する正面図である。
【0022】
図2〜3に示すように、隣接歯間62の清掃は、歯間ブラシ1の植毛部11を隣接歯間62に挿入し、歯間ブラシ1を矢印X(図3)の方向、即ち、ワイヤ14の延在方向に往復動することにより、隣接歯間62を清掃する。この際、植毛部11のフィラメント12が、隣接歯間62内や歯牙60の側面に付着している歯垢等を絡め取る。また、植毛部11が隣接歯間62に深く挿入されると、遊嵌体50が歯牙60に当接してノズル26側に動く。この際、ノズル26の先端が歯肉等に接触することを防止できる。
また、歯間ブラシ1の操作中には、ワイヤ14が露出部15、特に遊嵌体50における植毛部11側の貫通孔52近傍で曲がって動作し、ワイヤに応力がかかる。この際、歯間ブラシ1を操作する角度や操作する振動により、遊嵌体50がノズル26と植毛部11との間で移動するため、この遊嵌体50の動きに応じて、ワイヤ14の屈曲位置が逐次変動する。
【0023】
この動作につき、図4を用いて説明する。図4において、符号10aは遊嵌体50aに従って屈曲したブラシ体を示し、符号10bは遊嵌体50bに従って屈曲したブラシ体を示す。遊嵌体は、歯間ブラシ1の使用中に、遊嵌体50aから遊嵌体50bへ、又は遊嵌体50bから遊嵌体50aへと矢印Yのように移動する。遊嵌体50aがノズル26の近傍に位置すると、貫通孔52aにおける植毛部11a側の開口部を基点にワイヤ14aが屈曲してブラシ体10aが屈曲し、遊嵌体50bが植毛部11b側に位置すると、ワイヤ14bの屈曲位置が貫通孔52bにおける植毛部11b側の開口部に変動しブラシ体10bが屈曲する。このように、歯間ブラシ1の使用中に遊嵌体50がその位置を変動することで、ワイヤ14の屈曲位置も逐次変動し、ワイヤ14への応力が露出部15の範囲で分散される。
【0024】
従来の歯間ブラシは、ブラシ体とノズル部との接合点に応力が集中する構造となっていた。このため、ブラシ体とノズル部との接合点において、ワイヤが切れやすいという問題があった。
本発明の歯間ブラシは、その使用中に遊嵌体がワイヤの延在方向に移動しワイヤの屈曲位置が逐次変動するため、ワイヤにかかる応力が分散される。この結果、ワイヤの耐久性が向上し、歯間ブラシの使用期間が延長される。
また、遊嵌体の貫通孔には、遊嵌体の内方から外方に向かうに従い漸次径が大きくなる傾斜面が形成されているため、ワイヤが屈曲する際に、遊嵌体との接触点において応力が緩和される。この結果、ワイヤの耐久性がさらに向上する。
【0025】
加えて、ワイヤが剥き出しとなっている露出部が歯牙に接触すると、ワイヤと口腔内との間に唾液等を電解質溶液としてガルバーニ電流が流れ、使用者に違和感を与えることがある。
本発明では、遊嵌体を装着した分だけ、露出部でワイヤが剥き出しとなる部分が少なくなる。従って、遊嵌体を金属以外の材質(樹脂、セラミック、錠剤等)とすることで、ワイヤが歯牙、特に金属冠等の歯科修復物と近づく確率が低くなり、ガルバーニ電流の発生を防止できる。
【0026】
一般に、市販の歯間ブラシはその大きさ、仕様毎にハンドル体が色分けされている。そこで、遊嵌体の色を複数色のバリエーションとすることで、同じ仕様の歯間ブラシであっても複数人で使い分けることができる。
【0027】
本発明の歯間ブラシは、上述の実施形態に限定されるものではない。
例えば、図5(a)に示す歯間ブラシ100のような、植毛部11側とノズル26側とで貫通孔の開口径が異なる遊嵌体を採用してもよい。
歯間ブラシ100における遊嵌体150は、内部に貫通孔152が形成され、この貫通孔152は、ノズル26側の開口部156の開口径が、植毛部11側の開口部154の開口径よりも大きいものとされている。そして、開口部156の開口径は、ノズル26が挿入可能な大きさとされ、遊嵌体150がノズル26側に移動した際に開口部156にノズル26が挿入した状態となる(図5(b))。
このように、ノズル26側の開口部156をノズル26が挿入可能な大きさとすることで、露出部15における遊嵌体150の可動距離が長くなる。歯間ブラシ100の使用中は、ワイヤ14が開口部154を基点として揺動する。
遊嵌体150の可動距離が長くなると、露出部15におけるワイヤ14の屈曲位置が広範囲となり、さらに応力が分散されてワイヤ14の耐久性をより向上できる。
【0028】
上述の実施形態では、遊嵌体の貫通孔は、ノズル側及び植毛部側のいずれの開口部にも、内方から外方に向かうに従い漸次その径が大きくなる傾斜面が形成されているが、図6に示す遊嵌体250のように、貫通孔252のいずれの開口部にも傾斜面が形成されていなくてもよいし、図7の遊嵌体350のように、貫通孔352の植毛部11側の開口部にのみ傾斜面354が形成されていてもよい。ワイヤ14への応力を緩和する観点から、少なくとも貫通孔の植毛部側の開口部には傾斜面が形成されていることが好ましい。
【0029】
上述の実施形態では、遊嵌体が略球状とされているが、本発明における遊嵌体の形状はこれに限定されず、例えば、遊嵌体は、図8に示すように、単一径の貫通孔452が形成された略円筒状の遊嵌体450であってもよい。
また、例えば、遊嵌体は、図9に示すように、貫通孔552が形成された略円筒状の遊嵌体550であってもよい。この遊嵌体550は、貫通孔552に、植毛部11側及びノズル26側の開口部に内方から外方に向かうに従い漸次その径が大きくなる傾斜面554が形成されているものである。
【0030】
あるいは、遊嵌体は、図10示すように、貫通孔652が形成された蛇腹状の遊嵌体650であってもよい。蛇腹状の遊嵌体650には、その径が小さくされたくびれ部654が形成されているため、ブラシ体10が揺動した際に、該くびれ部654が屈曲し、ワイヤ14にかかる応力を緩和できる。なお、蛇腹状の遊嵌体650の材質としては、その形状的な特性を生かすために、エラストマー樹脂等の弾性を有する材質を用いることが好ましい。
【0031】
また、遊嵌体は、図11に示すように、貫通孔752が形成され、両端面から中央に向かうに従って、漸次その径が大きくなる形状の遊嵌体750であってもよい。
このように、遊嵌体の形状は特に限定されないが、ワイヤ耐久性の向上、歯肉や歯牙との接触時の違和感抑制の観点からは、球状、楕円球状、円筒状、蛇腹状が好ましい。
【0032】
上述の実施形態では、1の遊嵌体がワイヤに装着されているが、本発明はこれに限定されず、遊嵌体は2以上であってもよい。遊嵌体を2以上とすることで、遊嵌体同士の間でもワイヤが屈曲するため、ワイヤへの応力をさらに分散できる。
【0033】
上述の実施形態では、ハンドル体にヘッド部及びノズル部が設けられているが、本発明はこれに限定されず、ハンドル体には、ヘッド部及び/又はノズル部が設けられていなくてもよい。ただし、ワイヤとハンドル体の接合点に生じる応力を緩和する観点から、ハンドル体には、ヘッド部又はノズル部が設けられていることが好ましい。
【0034】
上述の実施形態では、ブラシ体がハンドル体の長さ方向に延在する歯間ブラシを例にして説明したが、本発明はブラシ体を備える歯間ブラシであればその形状は限定されない。本発明は、例えば、ハンドル体の長さ方向と交差する方向にブラシ体が接続された歯間ブラシにも適用できる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
図7に示す歯間ブラシと同様の歯間ブラシを、下記仕様にて作製した。遊嵌体における貫通孔の植毛部側の開口部にのみ、内方から外方に向かうに従い、漸次その径が大きくなる傾斜面を形成した。作製した歯間ブラシについて、ワイヤ耐久性と使用感を評価し、その結果を表1に示す。
サイズ:SSS
ワイヤ:φ0.23mm、ステンレス製
フィラメント:2mil(φ0.05mm)、ナイロン製
露出部の長さ:1.5mm
植毛部の長さ:10mm
遊嵌体:露出部に1つ装着、φ1.2mmの球状、シリコンゴム製、貫通孔の最小径;φ0.3mm、貫通孔の最大径(開口部の径);φ0.45mm、貫通孔の軸線に直交する面に対する開口部傾斜面の角度;45°
【0037】
(実施例2)
図1に示す歯間ブラシ1と同様の歯間ブラシを、下記仕様にて作製した。遊嵌体における2つの開口部には、内方から外方に向かうに従い、漸次その径が大きくなる傾斜面を形成した。作製した歯間ブラシについて、ワイヤ耐久性と使用感を評価し、その結果を表1に示す。
サイズ:SSS
ワイヤ:φ0.23mm、ステンレス製
フィラメント:2mil(φ0.05mm)、ナイロン製
露出部の長さ:1.5mm
植毛部の長さ:10mm
遊嵌体:露出部に1つ装着、φ1.2mmの球状、シリコンゴム製、貫通孔の最小径;φ0.3mm、貫通孔の最大径(開口部の径);φ0.45mm、貫通孔の軸線に直交する面に対する開口部傾斜面の角度;45°)
【0038】
(比較例1)
図13に示す歯間ブラシ900と同様の歯間ブラシ、即ち遊嵌体を備えない歯間ブラシを下記仕様にて作製した。作製した歯間ブラシについて、ワイヤ耐久性と使用感を評価し、その結果を表1に示す。
サイズ:SSS
ワイヤ:φ0.23mm、ステンレス製
フィラメント:2mil(φ0.05mm)、ナイロン製
露出部の長さ:1.5mm
植毛部の長さ:10mm
【0039】
(評価方法)
<ワイヤ耐久性>
図12に示すように、ブラシ体10のワイヤ14を反転軸810に設けられたチャック820に固定し、ブラシ体10の折り返し部16に細糸811を介して質量100gの錘812を垂下し、反転軸810を左右に90°、30回/分の速度で繰り返し反転させて、ワイヤ14が破断するまでの回数を測定した。
【0040】
<使用感>
5名のパネラが各例の歯間ブラシを使用し、「違和感」、「痛み」、「制御」の3項目について、下記基準により評価した。
【0041】
≪違和感≫
ブラシ体を隣接歯間に挿入し、ノズルの先端又は遊嵌体が歯肉や歯牙に接触した際の違和感を評価した。
○:違和感がない。
△:違和感が小さい。
×:違和感が大きい。
【0042】
≪痛み≫
ブラシ体を隣接歯間に挿入し、ノズルの先端又は遊嵌体が歯肉や歯牙に接触した際の痛みを評価した。
○:痛みを感じない。
△:やや痛みを感じる。
×:痛みを感じる。
【0043】
≪制御≫
隣接歯間の清掃において、歯間ブラシのノズルが歯肉又は歯牙に接触しないように、歯間ブラシの操作を制御できるか否かを評価した。
○:ノズル先端を歯肉又は歯牙に衝突させることなく操作できる。
△:ノズル先端を歯肉又は歯牙に衝突させることなく操作するのが困難である。
×:ノズル先端を歯肉又は歯牙に衝突させてしまう。
【0044】
【表1】
【0045】
表1の結果の通り、本発明を適用した実施例1〜2は、ワイヤ耐久性が120回以上であった。特に貫通孔の両側に傾斜面を形成した遊嵌体を用いた実施例2は、ワイヤ耐久性が135回であった。加えて、実施例1〜2は、使用感の全ての評価項目が「○」であった。即ち、遊嵌体を備えることで、ノズルを歯肉や歯牙に衝突させることなく、歯間ブラシを操作できた。
一方、遊嵌体を備えない比較例1は、ワイヤ耐久性が100回であり、実施例1〜2に比べて、その耐久性が大きく劣るものであった。加えて、遊嵌体を備えていないため、ノズル先端が歯肉や歯牙に直接衝突し、違和感や痛みを感じるものであった。
【符号の説明】
【0046】
1、100、200、300、400、500、600、700、900 歯間ブラシ
10、10a、10b ブラシ体
11、11a、11b 植毛部
12 フィラメント
14、14a、14b ワイヤ
20 ハンドル体
50、50a、50b、150、250、350、450、550、650、750 遊嵌体
52、52a、52b、152、252、352、452、552、652、752 貫通孔
54、354、554 傾斜面
154、156 開口部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
捻り合わせたワイヤの間にフィラメントが挟持された植毛部を備えるブラシ体と、該ブラシ体の前記ワイヤ部分が取り付けられたハンドル体とを備える歯間ブラシにおいて、
前記ワイヤに、前記植毛部と前記ハンドル体との間に位置させて遊嵌体が装着され、
前記遊嵌体は、その内部に形成した貫通孔に前記ワイヤを遊嵌させて、該ワイヤの延在方向に移動可能とされていることを特徴とする歯間ブラシ。
【請求項2】
前記貫通孔は、その開口部側が前記遊嵌体の内方から外方に向かうに従い、漸次その径が大きくなる傾斜面とされていることを特徴とする、請求項1に記載の歯間ブラシ。
【請求項1】
捻り合わせたワイヤの間にフィラメントが挟持された植毛部を備えるブラシ体と、該ブラシ体の前記ワイヤ部分が取り付けられたハンドル体とを備える歯間ブラシにおいて、
前記ワイヤに、前記植毛部と前記ハンドル体との間に位置させて遊嵌体が装着され、
前記遊嵌体は、その内部に形成した貫通孔に前記ワイヤを遊嵌させて、該ワイヤの延在方向に移動可能とされていることを特徴とする歯間ブラシ。
【請求項2】
前記貫通孔は、その開口部側が前記遊嵌体の内方から外方に向かうに従い、漸次その径が大きくなる傾斜面とされていることを特徴とする、請求項1に記載の歯間ブラシ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−152284(P2011−152284A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15888(P2010−15888)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】
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