説明

残留塩素計

【課題】本発明は、残留塩素計が汚れやすい試料水が流れる場所に取り付けられた場合でも、自動的に定流量弁内部を洗浄でき、かつその洗浄方法に応じた信号処理方法により、メンテナンスの容易な、汚れに強い残留塩素計を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、試料水の残留塩素を計測する残留塩素計において、計測電極の上流に定流量弁を設け、所定の周期で該定流量弁を開閉する制御部を備える。さらに、定流量弁を開閉する所定の周期に同期して計測電極で残留塩素を計測する。また、定流量弁が開いた後の試料水の流量が安定した時点で計測電極で残留塩素を計測する。また、定流量弁が閉じる以前に前記計測電極で残留塩素を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水場から配水される飲料水の残留塩素濃度を測定するための残留塩素計に係わり、特に浄水場外の配水末端で使用される飲料水の水質モニタとしての用途での残留塩素計に関する。
【背景技術】
【0002】
浄水場から配水される飲料水の残留塩素濃度を測定するための残留塩素計は、従来浄水場で使用されている原理のものが多く使われていたが、最近、特に浄水場外の配水末端で使用される水質モニタ用途としての残留塩素計が増えるにつれ、より小形でメンテナンスの少ない原理のものが要求されるようになってきた。
【0003】
従来の残留塩素計は、金電極の電極面を洗浄するためのビーズと回転電極を用い、金電極を埋め込んだ棒状センサをモータにより回転させ、これをビーズの中に差し入れることにより金電極を洗浄するタイプのものや、回転電極をやめ、電極を振動モータにより振動させる機構を備え、これをビーズの中に入れて洗浄するタイプのものもある。
【0004】
しかし、いずれもモータ等の可動部品を必要とし、定期的なメンテナンスや部品交換が必要となる欠点があった。一方で、機械的エネルギーを用いず、水流エネルギーを用いて金電極を洗浄するものもあり、こうした方法でメンテナンスの省力化を行う考え方の残留塩素計も現れている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ここで、水流を使ってビーズを吹き上げ、この噴流により金電極を洗浄する残留塩素計を考える。残留塩素の起電力は残留塩素濃度に比例した拡散電流として表され、一般に回転電極の場合、(1)式で表される。
【0006】
拡散電流Id=K・n・F・ω1/3・D2/3・C・・・・・・・・・(1)
ここで、n:測定物質の原子価、F:ファラディ−定数、C:濃度
ω:電極の回転数、D:測定物質の拡散定数
(1)式に示すように回転電極の場合、ω1/3が含まれているため、回転数が安定でないと拡散電流が不安定になってしまうことがわかる。振動モータを用いる場合は回転数の変わりに振動数νがこれに相当し、水流エネルギーを用いる場合は流量Vが相当する。
【0007】
従って、金電極洗浄の手段として回転数、振動数、流量のいずれを用いる場合でも、これらのパラメータが安定でなければ残留塩素計の出力としては安定しないことがわかる。
【0008】
この内容を本発明の残留塩素計に当てはめてみると、水流エネルギーを用いこれによりビーズを回転させていることから、試料水の流量Vが安定である必要がある。具体的には、流量Vから求められる洗浄部分の噴流射出流速vによる運動エネルギーmv/2が安定であればよい。
【0009】
このために本発明では定流量弁を用い、流量Vから求められる洗浄部分の噴流射出流速vによる運動エネルギーmv/2が安定であるように制御している。
【0010】
ここで、この残留塩素計がどのような場所で用いられるかを考えてみると、冒頭に述べたように、浄水場外の配水末端で使用される水質モニタ用途としての残留塩素計が増えてきている。
【0011】
その中で、浄水場外に敷設されている水道配管の状況を見ると、敷設年度が古い場合が多く、配管内が汚れている場合が多いことが予想される。従って、定流量弁を使う場合でも、これらの汚れに対する対策を考慮しなくてはならない。
【0012】
定流量弁に対する汚れ影響としては、定流量性の低下が考えられ、この汚れを放置していると残留塩素計の性能低下につながることは上述の拡散電流式(1)式から明らかである。
【0013】
また、定期的に流量を調整することで汚れに対応することも考えられるが、定流量弁の内部まで汚れが堆積するような場合も考えられ、単なる流量調整だけでは汚れに対して対応できないという問題があった。
【0014】
また配水の需要家に近い末端に配備された残留塩素計については、メンテナンス周期を出来るだけ長くしたいという要望もあり、汚れの付きやすい試料水を測定する場合には、要望されるメンテナンス周期とかけ離れた頻繁なメンテナンスが必要になる、という問題があった。
【0015】
【特許文献1】特開2007−10485号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、残留塩素計が汚れやすい試料水が流れる場所に取り付けられた場合でも、自動的に定流量弁内部を洗浄でき、かつその洗浄方法に応じた信号処理方法により、メンテナンスの容易な、汚れに強い残留塩素計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決するために、試料水の残留塩素を計測する残留塩素計において、計測電極の上流に定流量弁を設け、所定の周期で該定流量弁を開閉する制御部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、残留塩素計が汚れやすい試料水が流れる場所に取り付けられた場合でも、自動的に定流量弁内部を洗浄でき、かつその洗浄方法に応じた信号処理方法により、メンテナンスの容易な、汚れに強い残留塩素計を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を用いて本発明の一実施例を説明する。
【0020】
定流量弁は、流量停止状態から流量を流し始めたとき、定流量弁が一定流量に制御されるまでにわずかなタイムラグが生じ、このタイムラグの間に、設定された定流量を上回る過大流量が流れるという特性を有する。
【0021】
本発明の一実施態様において、定流量弁を所定の周期で断続させて、この過大流量を周期的に流し、定流量弁内部や残留塩素計を構成する流路部に停止状態から過大流量が流れるまでの水流エネルギーによる衝撃を与えることにより、溜まった汚れを水流エネルギーにより排出し、常に定流量弁、流路内が清浄な状態で測定できる。
【0022】
また、過大流量時の拡散電流値は定流量時の拡散電流に比べ誤差を多く含むため、定流量弁の開閉の周期に同期させるようにして残留塩素を計測する必要がある。このとき、信号処理制御部が通水開始後一定期間(安定流量に達するまでのタイムラグの間)信号を取り込まず、試料水流量が定流量弁により安定化した後に信号処理を開始するようにしたことにより、安定な計測を実現できる。また、汚れの程度により、流量の断続周期を任意に設定できるようにする。
【0023】
図1は、本発明による残留塩素計の概略構成を示す縦断面図である。残留塩素計16は、被測定流体である試料水2が流れる部分と、信号処理制御部14の2つから構成されている。
【0024】
試料水入口1から供給される試料水2は、配管3、減圧弁4、電磁弁5を介して定流量弁6に導かれ、配管3を介して残留塩素電極7に至る。ここで、残留塩素電極7は、試料水導入部8、ビーズ9、噴出部10、金電極11、銀−塩化銀電極12、試料水排出部13を備える。
【0025】
電磁弁5、金電極11、銀−塩化銀電極12は、信号処理制御部14からそれぞれ制御される。電磁弁5は信号処理制御部14からの開閉制御、金電極11は信号処理制御部14への拡散電流信号供給と信号処理、銀−塩化銀電極12へは信号処理制御部14からの駆動電圧供給を受け、最終的に出力15を得る。
【0026】
図2は、定流量弁6の流量安定化特性図であり、流量の時間変化を表している。この図に示すように、定流量弁6は、流量停止時から安定流量に至るまでに、定常時の約1.6倍のオーバーシュート特性を持つ。オーバーシュート時の過大流量は、試料水入口1から残留塩素電極7の試料水排出部13に至るまでの流路全体を流れるため、流路全体には一気に過大流量が流れ、衝撃が発生する。この衝撃により、流路に付着している汚れ等が剥離し、洗浄されるという効果を得ることができる。
【0027】
図3は、残留塩素計の試料水排出部13における流量特性図であり、洗浄サイクルである断続洗浄の周期を10分に1回とし、5日毎に流量を測定した場合と、連続通水で5日毎に流量を測定した場合の流量の変化を示している。
【0028】
断続洗浄の場合は流量は100ml毎分で安定しているが、連続通水の場合は、20日目を過ぎてから次第に流量が低下してきており、90日目には70ml毎分まで低下している。これは、日を追うごとに流路に汚れ等が付着してきているためである。このように、断続洗浄は、流路の汚れ等の防止に効果があることがわかる。
【0029】
図4は、定流量弁6の開閉のサイクルと残留塩素計の電極による計測のサイクルの関係を表すタイムチャートである。残留塩素計は、前述の(1)式に示すように、流量V((1)式のωに相当)が変動すると拡散電流に変動が発生し、大きな誤差を含んだ出力が出るおそれがある。
【0030】
従って、信号処理制御部14は、流量が安定した時点で拡散電流のサンプリングを行う。信号処理制御部14が、通水開始後一定期間(安定流量に達するまでのタイムラグの間)信号を取り込まず、試料水流量が定流量弁により安定化した後に信号処理を開始するようにして、安定な計測を実現できる。
【0031】
図4に示すように、通水停止と開始のサイクルを組み合わせることにより、デューティーを50%に設定すれば、試料水量が連続通水の2分の1にすることができ、試料水の節約にもつながる。こうした信号処理を行うことにより、常に定流量弁内部、流路内部の自動洗浄を行いつつ、安定な計測を行う事が出来る。
【0032】
以上のように、本発明の実施態様によれば、残留塩素計が汚れやすい試料水が流れる場所に取り付けられた場合でも、自動的に定流量弁内部を洗浄でき、かつその洗浄方法に応じた信号処理方法により、メンテナンスの容易な、汚れに強い残留塩素計を提供できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】残留塩素計の概略構成を示す縦断面図。
【図2】定流量弁6の流量安定化特性図。
【図3】残留塩素計の試料水排出部13における流量特性図。
【図4】定流量弁6の開閉のサイクルと残留塩素計の電極による計測のサイクルの関係を表すタイムチャート。
【符号の説明】
【0034】
2…試料水、6…定流量弁、7…残留塩素電極、13…試料水排出部、14…信号処理制御部、16…残留塩素計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料水の残留塩素を計測する残留塩素計において、
計測電極の上流に定流量弁を設け、所定の周期で該定流量弁を開閉する制御部を備えたことを特徴とする残留塩素計。
【請求項2】
請求項1記載の残留塩素計において、
前記定流量弁を開閉する所定の周期に同期して前記計測電極で残留塩素を計測することを特徴とする残留塩素計。
【請求項3】
請求項1記載の残留塩素計において、
前記定流量弁が開いた後の前記試料水の流量が安定した時点で前記計測電極で残留塩素を計測することを特徴とする残留塩素計。
【請求項4】
請求項3記載の残留塩素計において、
前記定流量弁が閉じる以前に前記計測電極で残留塩素を計測することを特徴とする残留塩素計。
【請求項5】
試料水の残留塩素を計測する残留塩素計において、
前記試料水の流量を一定に保つ定流量弁に供給する試料水を断続させながら通水することを特徴とする残留塩素計。
【請求項6】
請求項5記載の残留塩素計において、
前記試料水の断続時間を設定する信号処理制御部を備えたことを特徴とする残留塩素計。
【請求項7】
請求項6記載の残留塩素計において、
前記信号処理制御部で行われる残留塩素計測電極からの信号処理は、前記試料水の通水開始後一定期間後であって、前記試料水の流量が安定化した後に開始されることを特徴とする残留塩素計。
【請求項8】
残留塩素電極と、前記残留塩素電極の上流側に設けた定流量弁と、前記定流量弁の上流側に設けた電磁弁と、前記電磁弁ないし前記残留塩素電極等の信号処理や制御を行なう信号処理制御部を備え、前記信号処理制御部は前記電磁弁を所定の周期で開閉させる制御機能を有することを特徴とする残留塩素計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−85749(P2009−85749A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255283(P2007−255283)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000233549)株式会社日立ハイテクコントロールシステムズ (130)