説明

残留有機溶媒を除去した水溶性高分子の製造方法

【課題】炭化が生じず、熱による水溶性高分子の解重合により、粘度が低下しない残留有機溶媒を除去した水溶性高分子の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)残留有機溶媒を含む水溶性高分子に、水を添加し、該水溶性高分子を湿潤させる工程、および(b)湿潤した水溶性高分子に電磁波を照射する工程を含む水溶性高分子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波照射による、残留有機溶媒を除去した水溶性高分子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性高分子の製造過程では、通常、アルコール類、ベンゾール、アセトンなどの有機溶媒が用いられる。製品化する最終工程にて加熱乾燥などで乾燥し、粉砕して製品とするが、充分に有機溶媒を取り除くには至らない。この残留有機溶媒量は水溶性高分子によって異なるが、通常アルコール類は数10ppm〜10000ppm超に達するものもある。
【0003】
前記水溶性高分子は、通常使用される上でとくに問題はないが、食品用途、医薬品用途、あるいは有機溶媒を嫌う特殊な使用が必要とされる場合に支障をきたす。従来、残留有機溶媒を除去した水溶性高分子の製造方法としては、加熱除去法や特許文献1のように、加熱しつつ吸引処理する方法が開示されている。しかしながら、該製造方法では、充分に残留有機溶媒を取り除くことができず、より残留有機溶媒を減少させるために加熱温度を高めると、炭化が生じたり、また、長時間加熱すると、熱による水溶性高分子の解重合が起こり、粘度が低下するため、従来の水溶性高分子の品質維持ができないという問題点があった。
【0004】
【特許文献1】特開平2003−176303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、炭化が生じず、熱による水溶性高分子の解重合により、粘度が低下しない残留有機溶媒が除去された水溶性高分子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(a)残留有機溶媒を含む水溶性高分子に、水を添加し、該水溶性高分子を湿潤させる工程、および(b)湿潤した水溶性高分子に電磁波を照射する工程を含む水溶性高分子の製造方法に関する。
【0007】
さらに、(c)加熱温度が80〜110℃で乾燥する工程を含むことが好ましい。
【0008】
工程(a)における水の配合量が、水溶性高分子に対して10〜40重量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、電磁波を照射することによって、水溶性高分子中に取り込まれている残留有機溶媒を系外に容易に移動させることができ、水溶性高分子が解重合することなく、容易に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、(a)残留有機溶媒を含む水溶性高分子に、水を添加し、該水溶性高分子を湿潤させる工程、および(b)湿潤した水溶性高分子に電磁波を照射する工程を含む水溶性高分子の製造方法に関する。
【0011】
工程(a)における水溶性高分子の湿潤は、水溶性高分子内に取り込まれている残留有機溶媒の系外移動を容易にする。水の配合量は、水溶性高分子粉末に対して、10〜40重量%が好ましく、25〜35重量%がより好ましい。水の配合量が20重量%より小さいと、水分量が少ないため、水溶性高分子を充分に湿潤させることができない傾向がある。一方、水の配合量が40重量%より大きいと、水分量が多いため、水溶性高分子はペースト状になり、以降、粉末化が難しくなり好ましくない。
【0012】
工程(b)における電磁波の照射は、残留有機溶媒の系外移動をより容易にするためのものである。電磁波の周波数は、100〜10000MHzが好ましく、2000〜5000MHzがより好ましく、3000〜4000MHzがさらに好ましい。周波数が100MHzより小さいと、エネルギー量が不充分で効果が少ない傾向がある。一方、周波数が10000MHzより大きいとエネルギー量が多いために、水溶性高分子の粘度低下が発生する傾向がある。
【0013】
電磁波の照射時間は、5〜15分が好ましく、8〜12分がより好ましい。照射時間が5分より短いと、エネルギー量が不充分で得られる効果が少ない傾向がある。一方、照射時間が15分より長いと、特に支障をきたさないが得られる効果は少ない傾向がある。
【0014】
さらに、本発明は、(c)加熱乾燥する工程を含むことが好ましい。
【0015】
工程(c)における乾燥温度は、80〜110℃が好ましく、95〜105℃がより好ましい。乾燥温度が110℃より大きいと、コゲによる炭化が生じる傾向がある。
【0016】
乾燥時間は1〜4時間が好ましく、2〜3時間がより好ましい。乾燥時間が1時間より短いと、水分と残留有機溶媒が充分に除去されない傾向がある。一方、乾燥時間が4時間より長いと、とくに支障をきたさないがエネルギーなどの無駄が生じる傾向がある。
【0017】
本発明の製造方法に用いる水溶性高分子は、天然水溶性高分子、半合成水溶性高分子であり、具体的には、天然水溶性高分子としては、グアガム、キサンタンガム、ペクチン、ローカストビーンガム、カラギーナン、半合成水溶性高分子としては、CMC、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)などがあげられる。
【0018】
本発明によって除去できる有機溶媒としては、メタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、ブチルアルコールなどのアルコ−ル類、ベンゾール、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、エーテル類などがあげられる。
【0019】
本発明により製造される水溶性高分子中の残留有機溶媒量は、10000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、0ppmがさらに好ましい。残留有機溶媒量が10000ppmより大きいと、使用品に有機溶媒がコンタミとして残り、分析評価、応用評価判断結果を狂わす傾向がある。
【0020】
本発明において、例えば、水溶性高分子としてカルボキメチルセルロースを用いた場合、CMCは、セルロースを有機溶剤を反応溶剤としてエーテル化反応を行なったのち、メタノールまたはエタノールなどの溶剤で精製し、溶剤を脱液後、乾燥、粉砕して得られるため、得られたカルボキメチルセルロース中には反応溶剤のIPAなどや精製溶剤のメタノールやエタノールが残留する。よって本発明における残留有機溶媒を除去する方法を用いると該有機溶媒を容易に除去することができる。
【0021】
本発明における製造方法では、水溶性高分子に水を湿潤させ、電磁波を照射して振動を与えることにより、水溶性高分子の内部に存在する残留有機溶媒が系外の水へと移動する。そのため、水は水溶性高分子を湿潤させるだけの量で充分に残留有機溶媒を除去することができる。
【0022】
本発明の製造方法で得られる残留有機溶媒を除去した水溶性高分子は、飲料、食品シロップ、ゼリー菓子、粉末食品素材、麺類、かまぼこ等の練製品などの食料品、医薬品、錠剤、シップ剤、シロップ薬、軟膏などの残留有機溶媒を嫌う特殊な使用が必要とされる用途に好ましく利用できる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
実施例1〜6
(1)サンプル調製
水溶性高分子50gを家庭用ジューサーミキサーに取り、水を15g添加して最低速で5分撹拌し均一サンプルを調製した。用いた水溶性高分子を下記に示す。
【0025】
実施例1:ジェランガム(ゲルアップWA−100、三栄源F・F・I(株)製)
実施例2:ローカストビーンガム(ネオソフトL、太陽化学(株)製)
実施例3:キサンタンガム(ネオソフトXO、太陽化学(株)製)
実施例4:CMC−Na(セロゲンF−SB、第一工業製薬(株)製)
実施例5:CMC−Na(セロゲンF−AG、第一工業製薬(株)製)
実施例6:CMC−Na(セロゲンF−SA、第一工業製薬(株)製)
【0026】
電磁波照射による処理前の各物性値を以下の測定方法にしたがい測定した。測定結果を表1に示す。
【0027】
(i)水分量
試料1〜2gを秤量瓶に精秤し、105±0.2℃の乾燥機中において2時間乾燥し、乾燥したことによる減量から水分値を次式により求めた。
水分(%)=(減量(g)/試料(g))×100
【0028】
(ii)1%水溶液粘度
300mlトールビーカーに約2.5gの試料を精秤し、次式により求めた1%水溶液を得るために必要な溶解水量の水を加えてガラス棒にて分散した。
溶解水量(g)=試料(g)×(99−水分(%))
【0029】
水分は前記(ii)の水分量を利用した。前記水溶液を一昼夜放置後、マグネチックスターラーで約5分間撹拌し完全な溶液としたのち、30分間25℃恒温水槽に入れ、溶液を25℃にしたのち、ガラス棒で穏やかにかき混ぜ、BM型粘度計の適当なローターおよびガードを取り付け、回転数60rpmで3分間後の目盛りを読み取った。読み取った目盛りから1%水溶液粘度を測定した。
1%水溶液粘度(mPa・s)=読み取り目盛り×係数
【0030】
(iii)残留有機溶媒測定法
試料1gを精秤し、水を加えて1%水溶液とした。該水溶液をウルトラフィルターユニット(USY−1、アドバンティク東洋(株)製)でろ過し、ろ液5μlをガスクロマトグラフ(GC−9A、(株)島津製作所製)で分析し、別に作成した検量線より、各成分の濃度を求めた。ガスクロマトグラフの各条件を以下に示す。
【0031】
カラム 材質他 ガラス カラム内径3mm、長さ2m
充填剤 クロモソルブ101
注入口温度 200℃
カラム温度 140℃
検出器温度 140℃
検出器 FID
キャリヤーガス 窒素 流量50ml/分
【0032】
電磁波照射前の水分(%)、1%水溶液粘度(mPa・s)、残量メタノール(ppm)および残量IPA(ppm)を表1に示す。
【0033】
(2)電磁波照射
湿潤した水溶性高分子を厚さ10mm程度になるように広げ、出力500W、周波数2450MHzで10分間照射した。
【0034】
(3)乾燥
電磁波照射後、恒温乾燥機に入れ105℃で2時間放置し、その後取り出し、冷えてから試料とした。各試料を以下の測定方法を行なった。
【0035】
電磁波照射後の水分量、1%水溶液粘度および残留有機溶媒を前記の測定法(i)〜(iii)を用いて測定した。測定結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
比較例1〜6
電磁波照射を行なわなかったこと以外は、実施例1〜6と同様の水溶性高分子を用いて試料を調製、乾燥を行ない物性を測定した。測定結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
測定結果より、実施例1〜6では電磁波照射処理前後において1%水溶液粘度はほとんど変化がなく、また、残量メタノールおよび残量IPAは電磁波照射処理後、全て0ppmとなった。一方、比較例1〜6は、メタノールおよびIPAの残量は、処理前よりも少なくなったが、実施例のように完全に除去することができなかった。以上より、電磁波照射による処理は、粘度の低下が生じないことから、電磁波照射後の加熱乾燥による水溶性高分子の解重合が生じず、かつ効率よく残留有機溶媒を除去できることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)残留有機溶媒を含む水溶性高分子に、水を添加し、該水溶性高分子を湿潤させる工程、および(b)湿潤した水溶性高分子に電磁波を照射する工程を含む水溶性高分子の製造方法。
【請求項2】
さらに、(c)加熱温度が80〜110℃で乾燥する工程を含む請求項1記載の水溶性高分子の製造方法。
【請求項3】
工程(a)における水の配合量が、水溶性高分子に対して10〜40重量%である請求項1または2記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−131738(P2007−131738A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−326240(P2005−326240)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】