説明

殺微生物剤の新規な固体形態

【課題】本発明の目的は、殺微生物剤として良好な特性を備えた3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドの、新規な結晶変態を提供することである。
【解決手段】本発明は、3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドの結晶変態および水和物などの新規な固体形態、これらの新規な固体形態を含む組成物、および栽培された植物における病害の蔓延の防除のためのそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドの新規な固体形態、例えば結晶変態および水和物、これらの新規な固体形態を含む組成物、および栽培された植物における病害の蔓延の防除のためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のアミドは貴重な殺菌剤であり、また例えば、国際公開第04/35589号および国際公開第06/37632号中に記載されている。
【0003】
3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドは、式(I)の構造を有しており、そしてここではまた「式(I)の化合物」とも称される。
【0004】
【化1】

【0005】
式(I)の化合物は、2対の式、syn1/syn2およびanti1/anti2のエナンチオマーでそれぞれ示される、4つの立体異性体で存在することができる。
【0006】
【化2】

【0007】
本発明では、「ラセミsyn型−3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミド」または「ラセミsyn型の式(I)の化合物」は、式syn1および式syn2の化合物のラセミ混合物を意味している。
【0008】
本発明では、「ラセミanti型−3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミド」または「ラセミanti型の式(I)の化合物」は、式anti1および式anti2の化合物のラセミ混合物を意味している。
【0009】
ラセミsyn型の式(I)の化合物の新規な多形体(「変態C」)
110℃〜112℃の単一の融点(ジアステレオマー純度が90%)を有するラセミsyn型の式(I)の化合物の結晶物質が、国際公開第04/35589号(特許文献1)に記載されている。この結晶物質は、ここでは「ラセミsyn型の式(I)の化合物の結晶変態A」と称される。ラセミsyn型の式(I)の化合物の第二の結晶形態は、国際特許出願第PCT/EP2006/00898号明細書中に開示されており、ここでは「ラセミsyn型の式(I)の化合物の結晶変態B」と称される。
【0010】
syn型およびanti型の式(I)の化合物の、syn型とanti型の比率が35:65の混合物である無定形物質が、国際公開第04/35589号(特許文献1)に開示されている。
【0011】
化合物の種々の結晶変態は、極めて異なる物理特性を示す可能性があり、これらの化合物の技術的な準備や処理の間に予見不可能な問題をもたらす可能性がある。結晶変態の特徴はしばしば、分離能(ろ過)、攪拌性(結晶形)、表面活性(発泡)、乾燥速度、溶解性、品質、製剤能力、貯蔵安定性および生物有効性、例えば薬剤活性および農薬活性化合物、に極めて重要な影響を有している。例えば、生成物の粉砕(grinding)および製剤特性(例えば、粒状化、粉砕(milling)、混合、溶解)は、それぞれの変態によって完全に異なっている。想定した製剤方法に応じて、それぞれの生成品の異なる物理特性が重要であるので、それぞれの製剤方法に応じて最適に適合する結晶形態を見出すことは特に有利である。更に、1つの変態は、特定の熱力学条件の下で、突然に他の望ましくない変態に転換する可能性があり、そのことは、例えば製剤された農薬物質の貯蔵安定性を減少させる結果となる可能性がある。化合物の多形の状態の数は予測不可能である。最も安定な多形状態は形成される可能性はない、何故ならば溶液からの新たな結晶の形成速度は極めて遅いであろうからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第04/35589号
【特許文献2】国際公開第06/37632号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、活性成分の製剤に関して、および固体物質としての、もしくは農芸化学において通常用いられる製剤、例えば濃縮懸濁液(SC)中でのその貯蔵安定性に関して、良好な特性を備えたラセミsyn型の式(i)の化合物の、新規な結晶変態を具体的に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ラセミsyn型の式(I)の化合物の結晶変態C(「変態C」)に関し、この結晶変態は、d間隔および相対強度に関して表されるX線粉末回折パターンによって特徴づけられ、このX線粉末回折パターンは、以下の特徴的な線を含んでいる:13.74Å(強)、7.95Å(弱)、6.94Å(中間)、6.04Å(弱)、4.43Å(中間)および3.72Å(強)。このX線粉末回折パターンは、ブルカー(Bruker)−AXS D8アドバンストパウダーエックス線回折計(Advanced Powder X-ray diffractiometer)を用いて、CuKα1を線源として得られている。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、植物における病害の防除のために有効な、3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドの新規な固体形態、それを含む組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1はX線パターンを示している。
【図2】図2はラマンスペクトルを示している。
【図3】図3は実施例P1で調製したラセミsyn型の式(I)の化合物の結晶変態CのDSCプロットを示している。
【図4】図4はX線パターンを示している。
【図5】図5はラマンスペクトルを示している。
【図6】図6は実施例P2で調製したラセミanti型の式(I)の化合物の結晶変態IのDSCプロットを示している。
【図7】図7はX線パターンを示している。
【図8】図8はラマンスペクトルを示している。
【図9】図9は実施例P3で調製したラセミanti型の式(I)の化合物の形態Aの一水和物のDSCプロットを示している。
【図10a】図10aはX線パターンを示している。
【図11】図11は実施例P4で調製した変態Cのラセミsyn型の式(I)の化合物および形態Aのラセミanti型の式(I)の化合物の一水和物の混合物(syn型/anti型比が84:16)のDSCプロットを示している。
【図10b】図10bは下記のX線パターンを重ねたものである:(A)実施例P4中で調製された混合物、(B)実施例P1中で調製された純粋な変態Cのラセミsyn型の式(I)の化合物(図10bの線Bは図1と同じである)、および(C)実施例P3中で調製された形態Aのラセミanti型の式(I)の化合物の純粋な一水和物(図10bの線Cは図7と同じである)。
【図12a】図12aはX線パターンを示している。
【図13】図13は実施例P5で調製した変態Cのラセミsyn型の式(I)の化合物および形態Aのラセミanti型の式(I)の化合物の一水和物の混合物(syn型/anti型比が88:12)のDSCプロットを示している。
【図12b】図12bは下記のX線パターンを重ねたものである:(A)実施例P5中で調製された混合物、(B)実施例P1中で調製された純粋な変態Cのラセミsyn型の式(I)の化合物(図12bの線Bは図1と同じである)、および(C)実施例P3中で調製された形態Aのラセミanti型の式(I)の化合物の純粋な一水和物(図12bの線Cは図7と同じである)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ラセミsyn型の式(I)の化合物の変態Cは、熱力学的安定性、物理的パラメータ、例えばIRおよびラマンスペクトルの吸収パターンについて、X線構造解析および農薬製剤で通常用いられる水もしくは他の液体担体中でのそれらの安定性において、変態AおよびBとは異なっている。
【0018】
変態Cは、変態Aに比べて重要な利点を有している。すなわち、例えば、DSC(示差走査熱量計)、溶解度試験および他の試験は、変態Cは驚くべきことに、変態Aよりも実質的に良好な熱力学的安定性を有していることを示している。例えば、変態Cの水溶性は、関連する温度範囲に亘って、変態Aの水溶性よりも低い。水性懸濁液中では、最も低い溶解性の多形体が最も安定である。高い溶解性の多形体は不安定であり、何故ならば、周りの水相が、より安定な多形体に比べて、過飽和となり、より不安定な多形体の溶解とより安定な多形体の結晶化をもたらすであろうからである。結果としてもたらされる粒径の変化は製剤された懸濁液の安定性の変化を招く可能性がある。
【0019】
殺菌剤にとっては、その農薬製剤が、長期間に亘って、高度な、また再現可能な安定性を確実にすることは特に重要である。これらの前提条件は、結晶変態Cの形態にあるラセミsyn型の式(I)の化合物を混合することによって、結晶変態Aとの比較におけるその高度な熱力学的安定性に因って、満足させることができる。特に、このことは、濃縮懸濁液の農薬投与形態において示される。もしも活性成分が転換過程に付されるならば、このことはまたこの製剤の安定性に容易に影響を与える可能性がある。
【0020】
新たな活性成分の開発のために基本的に興味のある農薬活性成分またはそれらの多形体形態は、高度な安定性を示すものであり、また上記の不利益を有していないものである。変態Cはそれらの前提を満足する。
【0021】
変態Cは、実施例P1に記載したように調整した(o−キシレン中の溶液からの自然分晶)。この変態はまた、実施例P1b)で説明した結晶化技術を用い、一方で他の溶媒、例えばアセトニトリル、メチルシクロヘキサン、1−ペンタノールまたは1,2−プロパンジオールを用いることによって調製することもできる。
【0022】
変態CはX線粉末回折(ブルカー(Bruker)−AXS D8アドバンストパウダーエックス線回折計(Advanced Powder X-ray diffractiometer)を用いて、CuKα1を線源として)によって分析されてきており、13.74Å(強)、7.95Å(弱)、6.94Å(中間)、6.04Å(弱)、4.43Å(中間)および3.72Å(強)の面間間隔(オングストロームで表したd値)を備えた特徴的な線をもつX線粉末パターンが得られている。(表1または図1参照)
【0023】
【表1】

【0024】
対照的に、変態AおよびBは異なる特徴的な線(21.98Å(中間)、10.81Å(弱)、8.79Å(弱)、6.51Å(弱)、4.65Å(中間)および4.20Å(中間)(変態A)、および13.42Å(強)、9.76Å(中間)、6.93Å(中間)、6.74Å(中間)、4.79Å(中間)、4.73Å(中間)および3.66Å(中間)(変態B))を備えたX線粉末パターンを有している。両方のパターンが、国際特許出願第PCT/EP2006/00898号明細書に記載されている(表7および8、および図1および2を参照)。X線粉末回折パターンは、変態Cについて上記したように得られている。
【0025】
ラマンスペクトル中では、変態Cは、変態AおよびBとは、形状において、また多くのバンドの相対強度において異なる(図2参照)。変態AおよびBのラマンスペクトルは、国際特許出願第PCT/EP2006/00898号明細書の図4および5中に描かれている。全てのラマンスペクトルの記録には、サーモエレクトロンアルメガラマンマイクロスコープ(Thermo Electron Almega Raman Microscope)装置(785nm、高解像度設定)が用いられている。
【0026】
変態Cの特徴はまた、示差走査熱量計(「DSC」)の温度記録図である(図3参照)。それは通常は130℃〜142℃の範囲の吸熱ピークを有しているが、しかしながらこれは純度による。例えば、純粋な形態の結晶変態Cは通常は141℃のピーク温度および通常は約83J/gの吸熱信号を有している。この温度記録図は、変態AおよびBの温度記録図とは特徴的に異なっている。変態Aは約112℃に吸熱ピークを、また76の吸熱信号を有しており、変態Bは約128℃にピークを、また90J/gの信号を有している(国際特許出願第PCT/EP2006/00898号明細書の図5および6参照)。全ての測定は、メトラートレド(Metler Toledo)820DSC上で、閉鎖したが密封はしていない皿の中で、加熱速度10K/分で、実施された。通常の試料の量は約5mgである。
【0027】
本発明は好ましくはラセミsyn型の式(I)の化合物の結晶変態Cに関し、この結晶変態は、d間隔および相対強度によって表されるX線粉末回折パターンによって特徴付けられ、このX線粉末回折パターンは、次の特徴的な線を含んでいる:13.74Å(強)、7.95Å(弱)、7.70Å(中間)、6.94Å(中間)、6.04Å(弱)、5.47Å(強)、5.27Å(中間)、4.88Å(弱)、4.43Å(中間)、4.04Å(強)、3.72Å(強)および3.59Å(中間)。
【0028】
本発明は好ましくはラセミsyn型の式(I)の化合物の結晶変態Cに関し、この結晶変態は図1に描いたX線粉末回折パターンを有することを特徴としている。
【0029】
本発明の1つの態様では、ラセミsyn型の式(I)の化合物の結晶変態Cは、示差走査熱量計において、130℃〜142℃の範囲にピークを持つ吸熱信号を有している。
【0030】
本発明の1つの態様では、ラセミsyn型の式(I)の化合物の結晶変態Cは、実質的に純粋な形態である。本発明によれば、「実質的に純粋」は、好ましくは結晶変態の70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは80質量%以上がラセミsyn型の式(I)の化合物の結晶変態Cを意味する。ラセミsyn型の式(I)の化合物の結晶変態Cでない物質の化学的性質は、生成方法および/または精製方法に依り、そして例えばその少なくとも1部がラセミanti型の式(I)の化合物であってもよく、それはsyn型の化合物の結晶マトリックス中に固溶体で、または個別の結晶もしくは無定形物質の形態で存在していてもよい。
【0031】
本発明の他の態様では、ラセミsyn型の式(I)の化合物の結晶変態Cは純粋な形態である。本発明によれば、「純粋な」は、ラセミsyn型の式(I)の化合物の結晶変態Cが90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上を意味する。
【0032】
ラセミanti型の式(I)の化合物の新規な多形体(「変態I」)
上記で説明したように、国際公開第04/35589号には、式(I)の化合物のanti型に富む無定形物質が開示されており、それはanti型とsyn型の比率、65:35を有している。anti型に富む結晶物質は未だ知られていない。
【0033】
式(I)の化合物の知られている唯一の結晶物質は高度にsyn型に富むものである。上記で説明したように、この物質は、ラセミsyn型の式(I)の化合物の結晶変態AもしくはBのいずれかであり、国際公開第04/35589号および国際特許出願第PCT/EP2006/00898号明細書によって知られている。両方の物質は、約75%またはそれ以上のジアステレオマーのsyn型純度を有している。これらの物質に、X線またはDSC分析を用いても、更なる結晶形態は検出されなかった。このことは、これらの物質中の全てのanti型化合物は、syn型化合物の結晶マトリックス中の固溶体、または無定形物質の形態のいずれかであることを示唆している。
【0034】
従って、anti型に富む物質については、活性成分の製剤に関して、および固体物質としての、もしくは農芸化学において通常用いられる製剤、例えば濃縮懸濁液(SC)中でのいずれかにおけるその貯蔵性に関して、良好な特性を備えた新規な結晶変態を提供する必要性がある。
【0035】
無定形物質は幾つかの欠点を有している。農薬の貯蔵に典型的な温度範囲においては、無定形物質は過冷却された過飽和の液体として挙動する。この理由のために、無定形物質は熱力学的に不安定であり、また時間とともに結晶化して行き、すなわち、無定形物質は物理化学的特性を変化させてゆく。活性成分が、例えば未製剤の工業材料としてまたは固体の製剤された物質(例えば、水分散性の顆粒製剤、WG)として貯蔵された場合には、この貯蔵安定性の欠如は、それらの活性成分の更なる処理の間に、予見不可能な問題をもたらす可能性がある。更に、無定形物質は通常は、関連する温度範囲に亘って、水へのより高い溶解性を有している。水性懸濁液(例えばSC製剤)中では、無定形物質は不安定であり、何故ならば、周りの水相はより安定な結晶形態に比べて過飽和になるであろうし、より不安定な無定形の溶解とより安定な結晶形態の結晶化をもたらすからである。結果としての粒子径の変化は、製剤された懸濁液の安定性の変化を招く可能性がある。このことは、その農薬製剤が、長期間に亘って高度で再現性のある安定性を確実にする殺菌剤において特に重要である。
【0036】
本発明は、ラセミanti型の式(I)の化合物の結晶変態I(「変態I」)に関し、この結晶変態はd間隔および相対強度によって表されるX線粉末回折パターンによって特徴付けられ、このX線粉末回折パターンは次の特徴的な線を含んでいる:16.19Å(極めて強)、11.77Å(強)、9.47Å(中間)、5.49Å(極めて強)、5.16Å(中間)、4.61Å(強)および4.22Å(強)。このX線粉末回折パターンは、ブルカー(Bruker)−AXS D8アドバンストパウダーエックス線回折計(Advanced Powder X-ray diffractiometer)を用いて、CuKα1を線源として得られている。
【0037】
変態Iは、知られている無定形であるanti型に富む物質の物理的状態とは異なる。変態Iは、知られている無定形のanti型に富む物質に比べて、上記の重大な利点を有している。
【0038】
新たな活性成分の開発のために基本的に興味のある農薬活性成分またはそれらの多形体形態は、高度な安定性を示すものであり、また上記の不利益を有していないものである。ラセミanti型の式(I)の化合物の変態Iはそれらの前提を満足する。
【0039】
ラセミanti型の式(I)の化合物の変態Iは、実施例P2に記載したように調整した(ヘキサン中の溶液からの自然分晶)。この変態はまた、実施例P1b)に説明した結晶化技術を用い、一方で他の溶媒、例えばエタノール、イソプロパノール、2−メチルペンタン、アセトン、1−ペンタノール、エチルアセテート、2−メチル−2−ブタノール、メチルシクロヘキサンおよびo−キシレンを用いることによって調製することもできる。
【0040】
変態IはX線粉末回折(ラセミsyn型の式(I)の化合物の変態Cについて上記したように)によって分析されており、16.19Å(極めて強)、11.77Å(強)、9.47Å(中間)、5.49Å(極めて強)、5.16Å(中間)、4.61Å(強)および4.22Å(強)の面間間隔(オングストロームで表したd値)を備えた特徴的な線をもつパターンが得られている。(表2または図4参照)
【0041】
【表2】

【0042】
変態Iのラマンスペクトルはまた、特徴的なバンドを示している(図5参照)。このスペクトルは、ラセミsyn型の式(I)の化合物の変態Cについて上記したのと同様に記録された。
【0043】
変態Iの特徴はまた、DSCの温度記録図である(図6参照)。純粋な形態の結晶変態Iは通常は140℃に吸熱ピーク、および通常は約92.3J/gの吸熱信号を有している。この測定は、ラセミsyn型の式(I)の化合物の変態Cについて上記したのと同様に実施した。
【0044】
本発明は好ましくはラセミanti型の式(I)の化合物の結晶変態Iに関し、この結晶変態は、d間隔および相対強度によって表されるX線粉末回折パターンによって特徴付けられ、このX線粉末回折パターンは、次の特徴的な線を含んでいる:16.19Å(極めて強)、13.67Å(弱)、11.77Å(強)、9.47Å(中間)、6.84Å(弱)、5.49Å(極めて強)、5.16Å(中間)、4.61Å(強)、4.22Å(強)、3.95Å(強)、3.80Å(中間)、および3.59Å(弱)。
【0045】
本発明は好ましくはラセミanti型の式(I)の化合物の結晶変態Iに関し、この結晶変態は図4に描いたX線粉末回折パターンを有することを特徴としている。
【0046】
本発明の1つの態様では、ラセミanti型の式(I)の化合物の結晶変態Iは、実質的に純粋な形態である。本発明によれば、「実質的に純粋」は、ラセミanti型の式(I)の化合物の結晶変態Iが好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上を意味する。ラセミanti型の式(I)の化合物の結晶変態Iでない物質の化学的性質は、生成方法および/または精製方法に依り、そして例えばその少なくとも1部がラセミsyn型の式(I)の化合物であってもよく、それはanti型の化合物の結晶マトリックス中に固溶体で、または個別の結晶もしくは無定形物質の形態で存在していてもよい。
【0047】
本発明の他の態様では、ラセミanti型の式(I)の化合物の結晶変態Iは純粋な形態である。本発明によれば、「純粋な」は、ラセミanti型の式(I)の化合物の結晶変態Iが90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上を意味する。
【0048】
ラセミanti型の式(I)の化合物の新規な一水和物(「形態Aの一水和物」)
本発明は更にラセミanti型の式(I)の化合物の形態Aの一水和物に関し、この形態は、d間隔および相対強度によって表されるX線粉末回折パターンによって特徴付けられ、このX線粉末回折パターンは、次の特徴的な線を含んでいる:6.39Å(弱)、6.08Å(弱)、5.33Å(強)、4.07Å(弱)、3.84Å(中間)および3.47Å(弱)。このX線粉末回折パターンは、ブルカー(Bruker)−AXS D8アドバンストパウダーエックス線回折計(Advanced Powder X-ray diffractiometer)を用いて、CuKα1を線源として得られてきている。
【0049】
ラセミanti型の式(I)の化合物の形態Aの一水和物は、その物理的状態が全ての知られているanti型化合物とは異なっており、知られているanti型化合物はanti型に富むが無定形であるか、または上記のようにsyn型化合物の結晶マトリックス中の固溶体中に少量だけ存在しているかのいずれかである。形態Aの一水和物は、ラセミanti型の式(I)の化合物の変態Iとは、水分含有量、熱力学的安定性、物理的パラメータ、例えばIRおよびラマンスペクトルの吸収パターンについて、X線構造解析において、および農薬製剤で通常用いられる水もしくは他の液体担体中でのそれらの安定性において、異なっている。
【0050】
ラセミanti型の式(I)の化合物の形態Aの一水和物は、知られている無定形のanti型に富む物質に比べて、または変態Iに比べてさえも、貯蔵安定性について著しい利点を有している。無定形物質と比べて、この形態Aの一水和物は、その結晶状態のために、変態Iについて上記で説明したのと同じ利点を有している。この利点は水性懸濁液(例えばSC製剤で)で、また高湿度条件下の固体の形態での貯蔵において特に明らかであり、何故ならば形態Aの一水和物は、無定形物質または変態Iと比べてこれらの環境下でよりはるかに安定であるからである。
【0051】
新たな活性成分の開発のために基本的に興味のある農薬活性成分またはそれらの多形体形態は、高度な安定性を示すものであり、また上記の不利益を有していないものである。形態Aの一水和物はそれらの前提を満足する。
【0052】
ラセミanti型の式(I)の化合物の形態Aの一水和物は、実施例P3に記載したように調製した。
【0053】
形態Aの一水和物はX線粉末回折(ラセミsyn型の式(I)の化合物の変態Cについて上記したように)によって分析されており、6.39Å(弱)、6.08Å(弱)、5.33Å(強)、4.07Å(弱)、3.84Å(中間)および3.47Å(弱)の面間間隔(オングストロームで表したd値)を備えた特徴的な線をもつパターンが得られている。(表3または図7参照)
【0054】
【表3】

【0055】
対照的に、変態Iは異なる特徴的な線、16.19Å(極めて強)、11.77Å(強)、9.47Å(中間)、5.49Å(極めて強)、5.16Å(中間)、4.61Å(強)および4.22Å(強)(表2および図4参照)を備えたX線粉末パターンを有している。
【0056】
ラマンスペクトル中では、形態Aの一水和物は、変態Iとは、形状において、また多くのバンドの相対強度において異なる(図5と比較して図8参照)。上記したように、このスペクトルは、ラセミsyn型の式(I)の化合物の変態Cについて記載したように記録した。
【0057】
形態Aの一水和物の特徴はまた、DSCの温度記録図であり(図9参照)、これは通常は純度および実験条件に応じて50℃〜130℃に広幅の吸熱ピークを有している。このような広幅の信号は、変態Iの信号とは特徴的に異なっており、ともに純粋な形態である変態Iの信号は通常は約140℃の狭幅のピークを有している(図6参照)。上記したように、両方の測定は、ラセミsyn型の式(I)の化合物の変態Cについて記載したのと同様に実施した。
【0058】
本発明は好ましくはラセミanti型の式(I)の化合物の形態Aの一水和物に関し、この形態は、d間隔および相対強度によって表されるX線粉末回折パターンによって特徴付けられ、このX線粉末回折パターンは、次の特徴的な線を含んでいる:6.81Å(弱)、6.39Å(弱)、6.08Å(弱)、5.50Å(弱)、5.33Å(強)、4.90Å(弱)、4.43Å(中間)、4.25Å(弱)、4.07Å(弱)、3.96Å(中間)、3.84Å(中間)、3.61Å(弱)、および3.47Å(弱)。
【0059】
本発明は好ましくはラセミanti型の式(I)の化合物の形態Aの一水和物に関し、この形態は図7に描いたX線粉末回折パターンを有することを特徴としている。
【0060】
本発明の1つの態様では、ラセミanti型の式(I)の化合物の形態Aの一水和物は、示差走査熱量計の温度記録図中に、50℃〜130℃の範囲の吸熱信号を有している。
【0061】
本発明の1つの態様では、ラセミanti型の式(I)の化合物の形態Aの一水和物は、実質的に純粋な形態である。本発明によれば、「実質的に純粋」は、好ましくはラセミanti型の式(I)の化合物の形態Aの一水和物が好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上を意味する。ラセミanti型の式(I)の化合物の形態Aの一水和物でない物質の化学的性質は、生成方法および/または精製方法に依り、そして例えばその少なくとも1部がラセミsyn型の式(I)の化合物であってもよく、それはanti型の化合物の結晶マトリックス中に固溶体で、または個別の結晶もしくは無定形物質の形態で存在していてもよい。
【0062】
本発明の他の態様では、ラセミanti型の式(I)の化合物の形態Aの一水和物は純粋な形態である。本発明によれば、「純粋な」は、ラセミanti型の式(I)の化合物の形態Aの一水和物が90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上を意味する。
【0063】
新規な固体形態のラセミsyn型およびanti型の式(I)の化合物の組成物
高純度、例えばラセミsyn型の式(I)の化合物が98質量%以上の純度、を有するラセミsyn型またはanti型の式(I)の化合物の大規模生産は、莫大な費用を伴う。syn型およびanti型の化合物の両方が殺菌性の活性を有しているので、費用と性能を考慮して、両方の化合物を含む混合生成品を生成することが望ましい可能性がある。このような混合生成品は通常はsyn型またはanti型の化合物のいずれかに富んでいる。高度にsyn型に富む混合生成品の例は、80:20〜95:5の範囲のsyn型とanti型の比率を有している。高度にsyn型に富む混合物生成品の他の例は、80:20〜85:15の範囲のsyn型とanti型の比率を有している。
【0064】
本発明の他の目的は、固体形態のラセミsyn型の式(I)の化合物および固体形態のラセミanti型の式(I)の化合物を含み、高度にsyn型に富む組成物を提供することであり、この組成物は組成物の製剤に関して、およびその固体物質としての、もしくは農芸化学において用いられる通常の製剤、例えば濃縮懸濁液(SC)中での貯蔵性に関して良好な性能を有している。
【0065】
従って、本発明は更に、固体形態のラセミsyn型の式(I)の化合物および固体形態のラセミanti型の式(I)の化合物を含む組成物に関しており、ラセミsyn型とラセミanti型の式(I)の化合物の比率は、80:20〜95:5、好ましくは80:20〜90:10、より好ましくは80:20〜85:15の範囲、更に好ましくは約85:15であり、ラセミsyn型の式(I)の化合物は上記のような結晶変態Cであり、またラセミanti型の式(I)の化合物の少なくとも一部は、上記のような形態Aの一水和物である。
【0066】
このような組成物の例(syn型/anti型の比率=84:16)を、実施例P4中に記載したように、異なる中間体の多形体を経由して調製し、これをメタノール/水(9:1)中に溶解し、そして再結晶した(図10および11も参照)。
【0067】
実施例P4b)中で説明した方法を、syn型/anti型比が88:12{実施例P4a)中で説明した方法によって調製し、純度が94.6%である}の式(I)の化合物の結晶物質から出発して繰り返した。同様にこの出発物質から、結晶変態Cのラセミsyn型の式(I)の化合物および形態Aの一水和物であるラセミanti型の式(I)の化合物を含む組成物もまた得ることができる。
【0068】
更なる組成物(syn型/anti型比が88:12)が、実施例P5中に記載したように、異なる多形体を経由して調製され、これはアセトン/水(質量比で3:7)中に懸濁され、そして再結晶した(図12および13も参照)。
【0069】
従って、本発明は更に、固体形態のラセミsyn型3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドおよび固体形態のラセミanti型3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドを含む組成物の調製方法に関し、syn型アミドとanti型アミドの比率は80:20〜95:5、好ましくは80:20〜90:10の範囲にあり、syn型アミドは上記のような結晶変態Cであり、またanti型アミドの少なくとも一部は上記のように形態Aの一水和物であり、この方法は、
(a)syn型アミドおよびanti型アミドの溶液または懸濁液を調製すること(syn型アミドとanti型アミドの比率は、溶媒もしくは懸濁剤中で、80:20〜95:5の範囲、好ましくは80:20〜90:10の範囲にある)、
(b)以下の形態の種結晶を加えることによって溶媒または懸濁剤から所望の組成物を結晶化させること:
(b1)上記のような結晶変態Cのsyn型アミド、もしくは、
(b2)上記のような結晶変態Cのsyn型アミドおよび上記のようなanti型アミドの形態Aの一水和物の混合物、および
(c)所望の組成物を分離すること、を含んでいる。
【0070】
本発明によれば、用語「式(I)の化合物の新規な固体形態」は、ラセミsyn型の式(I)の化合物の変態C、ラセミanti型の式(I)の化合物の変態I,ラセミanti型の式(I)の化合物の形態Aの一水和物またはそれらの固体形態のいずれかの混合物を指している。
【0071】
式(I)の化合物の新規な固体形態の全ては、有用な植物に病害を発生させる微生物、特に植物病原菌に対して用いることができる。それらは特に、次の分類に属する植物病原記に対して有効である:子嚢菌類(例えば、ベンツリア(Venturia)、ポドスファエラ(Podosphaera)、エリシフェ(Erysiphe)、モニリニア(Monilinia)、マイコスファレラ(Mycosphaerella)、ウンシヌラ(Uncinula))、担子菌類(Basidiomycetes)(例えば、ヘミレイア(Hemileia)属、リゾクトニア(Rhizoctonia)、ファコプソラ(Phakopsora)、プクシニア(Puccinia)、ウスチラゴ(Ustilago)、チレチア(Tilletia);(不完全菌類(Deuteromycetes)としても知られている)不完全真菌(Fungi imperfecti)(例えば、ボトリチス(Botrytis)、ヘルミントスポリウム(Helminthosporium)、リンコスポリウム(Rhynchosporium)、フサリウム(Fusarium)、セプトリア(Septoria)、セルコスポラ(Cercospora)、アルテルナリア(Alternaria)、ピリキュラリア(Pyricularia)及びシュードセルコスポレラ(Pseudocercosporella));卵菌類(例えば、フィトフトラ(Phytophthora)、ペロノスポラ(Peronospora)、シュードペロノスポラ(Pseudoperonospora)、アルブゴ(Albugo)、ブレミア(Bremia)、ピシウム(Pythium)、シュードスクレロスポラ(Pseudosclerospora)、プラスモパラ(Plasmopara))。
【0072】
本発明によれば、「有用な植物」は通常は以下の種を含んでいる:仁果類、核果類、ブドウ類、イチゴ類、トマト類、ジャガイモ類、コショウ類、レタス、テンサイ類、落花生類、小麦、ライ麦、大麦、ライ小麦、エンバク、米、トウモロコシ、綿花、大豆、アブラナ、豆穀類(pulse crops)、ヒマワリ、コーヒー、茶、サトウキビ、バナナ、野菜類、例えばキュウリ類、豆類(beans)およびウリ類(cucurbits)、タバコ、園芸およびブドウ栽培の果実および観賞植物、草地および芝生。
【0073】
用語「有用な植物」はまた、(1)除草剤、例えばブロモキシニル、または慣用の方法である品種改良もしくは遺伝子工学の結果としての除草剤の分類、に耐性を与えられている植物、(2)組み換え型DNA技術を用いることによって転換され、1つまたはそれ以上の選択的に作用する毒素を合成することが可能となった植物、例えば、毒素を生み出す細菌で知られている、特にバチルス属のもの、(3)組み換え型DNA技術を用いることによって転換され、選択的な作用を有する抗病原性物質、例えばいわゆる病原性関連タンパク質、を合成することが可能となった植物、並びに(4)1つまたはそれ以上の「生産物特質」(改善された生産物品質を与える特質)もまた含んでいる可能性のある植物(その特質は植物/種子の脂肪酸組成物を変えるもの、例えばオレイン酸および/またはステアリン酸の水準を変更するか、または工業製品、例えば医薬(抗体を含む)および工業用酵素(例えば、フィターゼ、キシラナーゼ、グルカナーゼ)をも与える特質である)、を含むと理解される。
【0074】
式(I)の化合物の新規な固体形態の全てはまた、植物および/または動物由来の天然物質、それらの加工された形態または技工物を、菌類の攻撃から保護するのに効果的である。
【0075】
式(I)の化合物の新規な固体形態の施用される量は、種々の因子、例えば処理の対象、例えば植物、土壌もしくは種子、処理の種類、例えば噴霧、粉の振り掛けもしくは種子粉衣、処理の目的、例えば予防かもしくは治療か、防除しようとする菌の種類または施用時間、によって決まる。
【0076】
式(I)の化合物の新規な固体形態はまた、更なる殺菌剤(fungicide)、殺菌剤(bactericide)、除草剤、殺虫剤、殺線虫剤、軟体動物駆除剤またはこれらの活性成分の幾つかの混合物と共に用いることができる。
【0077】
式(I)の化合物の新規な固体形態は、いずれの慣用の形態、例えば濃縮懸濁液(SC)、濃縮エマルジョン(EC)または種子の処理用の流動性のある濃縮液(FS)ででも用いることができる。式(I)の化合物の新規な固体形態を用いる場合には、それらは有用な植物に、その場所に、またはそれらの繁殖材料に施用され、通常は上記のように組成物(慣用の形態)として施用される。本発明の1つの態様では、式(I)の化合物の新規な固体形態は、濃縮懸濁液の形態で使用される。
【0078】
式(I)の化合物の新規な固体形態は、菌類に、有用な植物に、その場所に、またはそれらの繁殖材料に施用することができる。それらは有用な植物もしくはその繁殖材料の菌類による感染の前または後に施用することができる。ここで用いられる用語、有用な植物の「場所」は、有用な植物が生長している場所を包含することを意図しており、そこに有用な植物の植物繁殖材料が植え付けられるか、またはそこで有用な植物の植物繁殖材料が土壌中に配置される。このような場所の例は田畑であり、そこで作物が生長する。用語「植物繁殖材料」は、植物の生成力のある部分を示すと理解され、例えば種子を示し、それは植物の増殖のために用いることができ、また成長力のある材料、例えば挿し木もしくは塊茎、例えばジャガイモを示し、「植物繁殖材料」は好ましくは種子を示している。
【0079】
式(I)の化合物の新規な固体形態は、有用な植物の以下のような植物の病害を防除するのに有用である。果実および野菜におけるアルテルナリア種、豆穀類におけるアスコキタ種(Ascochyta species)、イチゴ、トマト、ヒマワリ、豆穀類、野菜およびブドウにおけるハイイロカビ(Botrytis cinerea)(灰色カビ)、例えばブドウの灰色カビ、落花生におけるセルコスポラ・アラキジコラ(Cercospora arachidicola)、穀類におけるコクリオボルス・サチブス(Cochliobolus sativus)、豆穀類におけるコレトトリクム種(Colletotrichum species)、穀類におけるエリシフェ種(Erysiphe species)、例えば小麦のうどんこ病(Erysiphe graminis)および大麦のうどんこ病(Erysiphe graminis)、ウリ科植物におけるエリシフェ・シコラセアルム(Erysiphe cichoracearum)とスファエロテカ・フリギネア(Sphaerotheca fuliginea)、穀類とトウモロコシにおけるフサリウム種(Fusarium species)、穀類と芝生におけるガウマンノミセス グラミニス(Gaumannomyces graminis)、トウモロコシ、コメおよびジャガイモにおけるヘルミントスポリウム種(Helminthosporium species)、コーヒーにおけるヘミレイア・バストトリックシ(Hemileia vastatrix)、小麦とライムギにおけるミクロドキウム種(Microdochium species)、バナナにおけるマイコスファエレラ・フィジエンシス菌(Mycosphaerella fijiensis)、大豆におけるファコプソラ種(Phakopsora species)、穀類、広葉の作物及び多年生の作物におけるプクシニア種(Puccinia species)、例えば小麦の赤さび病、小麦の黄さび病および大麦の赤さび病、穀類におけるシュードセルコスポレラ種(Pseudocercosporella species)、例えば小麦の眼紋病(Pseudocercosporella herpotrichoides)、バラにおけるフラグミジウム・ムクロナツム(Phragmidium mucronatum)、果実におけるポドスファエラ種(Podoshpaera species)、大麦におけるピレノホラ種(Pyrenophora species)、例えば大麦の網斑病、コメにおけるピリクラリア・オリザエ(Pyricularia oryzae)、大麦におけるラムラリアコロシグニ(Ramularia collo-cygni)、綿花、大豆、穀類、トウモロコシ、ジャガイモ、コメ、および芝生におけるリゾクトニア種(Rhizoctonia species)、例えばジャガイモ、米、芝生および綿花の紋枯病(Rhizoctonia solani)、オオムギにおけるリンコスポリウム・セカリス(Rhyncosporium secalis)、ライ麦におけるリンコスポリウム・セカリス(Rhyncosporium secalis)、芝生、レタス、野菜及びナタネにおけるスクレロチニア種(Sclerotinia species)、例えばアブラナの菌核病(Sclerotinia sclerotiorum)および芝生のダラースポット病(Sclerotinia homeocarpa)、穀類、大豆および野菜におけるセプトリア種(Septoria species)、例えば小麦の葉枯病(Septoria tritici)、小麦のふ枯病(Septoria nodorum)および大豆の褐紋病(Septoria glycines)、トウモロコシにおけるスファセロテカ・レイリアナ(Sphacelotheca reilliana)、穀類におけるチレチア種(Tilletia species)、ワイン用ブドウにおけるウンシヌラ・ネクトール(Uncinula necator)、グイナルジア・ビドウェリ(Guignardia bidwellii)およびフォモプシス・ビチコラ(Phomopsis viticola)、ライ麦におけるウロシチス・オキュルタ(Urocystis occulta)、豆類におけるウロミセス種(Uromyces species)、穀類及びトウモロコシにおけるウスチラゴ種(Ustilago species)、果実におけるベンチュリア種(Venturia species)、例えばリンゴの黒星病菌(Venturia inequalis)、果実におけるモニリニア種(Monilinia species)、および/または柑橘類及びリンゴにおけるペニシリウム種(Penicillium species)である。
【0080】
有用な植物に施用する場合には、式(I)の化合物の新規な固体の形態は、5〜2000g a.i./ha、好ましくは10〜1000g a.i./ha、例えば50、75、100もしくは200g a.i./haの割合で用いられ、組成物の形態で施用される場合には、散布量は通常はヘクタール当たりに組成物の合計で20〜4000gである。種子の処理に用いる場合には、種子のkg当たり0.001〜50gの変態C、好ましくは種子のkg当たり0.01〜10gで通常は十分である。
【0081】
本発明は更に、活性成分として式(I)の化合物の新規な固体の形態を、適切な担体と一緒に、殺菌性が有効な量で含む殺菌性の組成物に関する。
【0082】
本発明のこれらの組成物は、任意の通常の形態で、少なくとも式(I)の化合物の一部が固体状態で、例えばツインパック(KKもしくはKL)、濃縮懸濁液(SC)、サスポ(suspo)−乳剤(SE)、水分散性粒剤(WG)、乳化性粒剤(EG)、乳化性粉剤(EP)、油性分散液剤(OD)、混和性流動性油剤(OF)、超微量懸濁液(SU)、水和粉剤(WP)、製剤用濃縮物(TK)、分散性濃縮物(DC)、乾燥種子処理用粉剤(DS)、種子処理用流動性濃縮物(FS)、種子処理用水分散性粉剤(WS)またはいずれかの技術的に実現可能な製剤で用いることが可能であり、式(I)の化合物の少なくとも1部は固体状態にあり、農業的に許容される補助剤と組合せて用いられる。好ましくは、組成物は濃縮懸濁液(SC)の形態である。
【0083】
このような組成物は、従来の方法で、例えば、活性成分を適当な製剤不活性物質(希釈剤、溶媒、充填剤および任意に他の製剤構成成分、例えば界面活性剤、殺生物剤、凍結防止剤、展着剤、増粘剤および補助作用を提供する化合物)と混合することにより作成することができる。特に噴霧形態で施用される製剤、例えば水分散性濃縮物(例えば、SC、DC、SEなど)、水和粉剤および水和粒剤は、湿潤剤および分散剤のような界面活性剤、並びに補助作用を提供する他の化合物、例えば、ホルムアルデヒドとナフタレンスルホン酸の縮合生成物、アルキルアリールスルホンナート、リグニンスルホン酸、脂肪族アルキル硫酸エステル、並びにエトキシル化されたアルキルフェノールおよびエトキシル化された脂肪族アルコールを含有してもよい。これらの組成物はまた、更に農薬、例えば殺菌剤、殺虫剤または除草剤を含んでいてもよい。
【0084】
種子粉衣製剤は、本発明の組成物および種子粉衣製剤の形態に適した希釈剤を、水性懸濁液としてもしくは種子に対して優れた接着性を有する乾燥粉末形態で使用し、種子へそれ自身公知の方法で塗布される。このような種子分衣製剤は、当該技術分野において公知である。
【0085】
一般にこの製剤は、活性物質を0.01〜90質量%、農業的に許容できる界面活性剤を0〜20%、および固形または液体製剤用不活性物質および補助剤(単一または複数)を10〜99.99%含有し、この活性物質は少なくとも変態Cであり、また所望により他の活性物質を含んでいる。組成物の濃縮された形態は一般に、活性物質を約2〜80質量%の範囲、好ましくは約5〜70質量%の範囲で含有する。組成物の施用形態は、例えば活性物質を0.01〜20質量%、好ましくは0.01〜5質量%含有することができる。市販の製品は好ましくは濃縮物として製剤されるが、最終の使用者は通常希釈された製剤を使用するであろう。
【0086】
本発明はまた更に、植物病原体によって引き起こされる、有用な植物またはその繁殖材料の病害を防除する方法であって、当該有用な植物、その場所またはその繁殖材料に対して、式(I)の化合物の新規な固体の形態を活性成分として含む組成物を、殺菌性が有効な量で、適切な担体と共に施用することを含んでいる。
【0087】
式(I)の化合物の新規な固体の形態の調製は、例えば、以下の実施態様中に記載したように実施される。
【実施例】
【0088】
実施例P1:変態Cのsyn型の式(I)の化合物(純度>99%)の調製
a1)分別結晶による純粋なラセミsyn型の式(I)の化合物の調製
240gの結晶の3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミド(純度97.6%、syn型/anti型比が94:6、国際公開第04/35589号または国際公開第06/37632号中に記載されているように、syn型/anti型比が9:1の9−イソプロピル−5−アミノ−ベンゾノルボルネンから出発して調製された)を、560gのメタノールと、温度60℃で混合した。この混合物を65℃に加熱し、そして結晶物質が溶解されるまで攪拌した。この溶液を20分間に亘り、温度40℃まで冷却し、そして次いで2時間に亘って25℃まで冷却した。この時間の間に沈殿が形成された。この沈殿を25℃でろ過し、そして60℃で、真空下に乾燥した。113gの純粋なsyn型の3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミド(純度>99%、融点128℃、収率47%)を得た。この結晶物質を示差走査熱量計およびX線回折によって分析し、そしてsyn型の3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドの結晶変態Bとして同定し、変態AまたはCの存在は検知されなかった。
【0089】
a2)クロマトグラフィーによる純粋なラセミsyn型の式(I)の化合物の調製
syn型に富む5−アミノ−9−イソプロピル−ベンゾノルボルネン(48.83g、syn型/anti型比が9:1、国際公開第04/35589号または国際公開第06/37632号中に記載されているように調製された)をエチルアセテート−ヘキサン(1:6)中のシリカゲル(4.7kg)上でクロマトグラフに掛けた。syn型の含有量が98%超(g.l.c)である最初の溶出画分を合わせて(5.80g)、そしてヘキサンから結晶化してsyn型の含有量が99.8%(g/c)の結晶(4.40g、8.8%、融点が57〜58℃)を得た。5−アミノ−9−syn−イソプロピル−ベンゾノルボルネン(7.32g、99.8%syn型、上記に記載したように調製された)を、5−ジフルオロメチル−2−メチル−ピラゾール−4−カルボン酸(8.33g、1.3当量、国際公開第04/35589号に記載されたように調製された)、ビス−(2−オキソ−3−オキサゾリジニル)−ホスフィン酸クロリド(12.96g、1.4当量)およびトリエチルアミン(9.2g、2.5当量)と、ジクロロメタン(100mL)中で、室温にて、21時間反応させ、飽和NaHCO溶液での水性の後処理とエチルアセテート−ヘキサン(2:3)中のシリカゲル上での精製の後に、粘調なオイルを得た。ヘキサンからの結晶化で、所望の生成物(12.1g、92.6%、融点128〜130℃、99.2%(g.l.c)のsyn型)を得た。
【0090】
b)変態Cのラセミsyn型の式(i)の化合物の調製
14mgの、上記のように調製された、純度99%超を有する結晶syn型−3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドを0.4mLのo−キシレンと混合した。この混合物を結晶物質が溶解されるまで40℃に加熱し、この溶液を40℃に2時間保持した。この溶液を、10℃/時間の冷却速度で5℃まで冷却し、そして次いで5℃で10時間保持した。この時間の間に沈殿が形成された。過剰な溶媒を除去し、そして結晶を窒素ガス流によって乾燥した。syn型の3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミド(純度99%超、融点141℃)が得られた。この結晶物質を示差走査熱量計およびX線回折によって分析し、そしてsyn−3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドの結晶変態Cとして同定した。変態AまたはBの存在は検知されなかった(図1、2および3を参照)。
【0091】
実施例P2:変態Iのラセミanti型の式(I)の化合物の調製
anti型に富む5−アミノ−9−イソプロピル−ベンゾノルボルネン(42g、syn型/anti型比が3:7、国際公開第04/35589号または国際公開第06/37632号中に記載されているように調製された)をエチルアセテート−ヘキサン(1:7)中のシリカゲル上でクロマトグラフに掛けた。anti型の含有量が97%超(1.2g、g.l.c)の最後の溶出画分を合わせて、そしてエチルアセテート中のシリカゲル(250g)上で再度クロマトグラフに掛け、anti型の含有量が99.2%(g.l.c)である0.72gの結晶固体(融点が64℃)を得た。
【0092】
5−アミノ−9−anti−イソプロピル−ベンゾノルボルネン(0.72g、99.2%のanti型、上記のように調製された)を、5−ジフルオロメチル−2−メチル−ピラゾール−4−カルボン酸(0.76g、1.2当量)、ビス−(2−オキソ−3−オキサゾリジニル)−ホスフィン酸クロリド(1.0g、1.2当量)およびトリエチルアミン(0.87g、2.4当量)と、ジクロロメタン(25mL)中で、室温で3時間反応させ、飽和NaHCOによる水性の後処理およびエチルアセテート−ヘキサン(1:2)中のシリカゲル上での精製の後に、粘調なオイルを得た。ヘキサンからの結晶化で所望の生成物(1.18g、収率91.7%、融点140℃、99.4%のanti型(g.l.c))を得た。結晶物質を示差走査熱量計およびX線回折によって分析し、そしてanti型の3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドの結晶変態Iとして同定した。他の結晶形態の存在は検知されなかった(図4、5および6を参照)。
【0093】
実施例P3:ラセミanti型の式(I)の化合物の変態Aの一水和物の調製
75mgの、上記のように調製された、純度99%超を有する結晶のanti型の3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドを1mLの水/メタノール(質量比で1:4混合物)と45℃で混合し、そしてこの物質が透明な溶液に溶解されるまで超音波処理した。この溶液を45℃で10時間保持した。この時間の間に沈殿が形成された。過剰な溶媒を除去し、そして結晶を窒素ガス流によって乾燥した。anti型の3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミド(純度99%超)が得られた。この結晶物質を示差走査熱量計およびX線回折によって分析し、そしてanti型の3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドの形態Aの一水和物として同定した。他の結晶形態の存在は検知されなかった(図7、8および9を参照)。
【0094】
実施例P4:変態Cのラセミsyn型の式(i)の化合物および形態Aのラセミanti型の式(I)の化合物の一水和物の混合物(syn型/anti型比が84:16)の溶液からの結晶化による調製
a)式(I)の化合物の調製
203kgの9−イソプロピル−5−アミノーベンゾノルボルネン(syn型/anti型比が84:16、国際公開第04/35589号または国際公開第06/37632号中に記載されているように調製された、0.42kmol、46%クロロベンゼン溶液)および145kgのクロロベンゼン中の47kgのトリエチルアミン(0.46kmol、1.1当量)の溶液へ、2時間に亘って、201kgの3−ジフルオロメチル−1−メチル1H−ピラゾール−4−カルボニルクロリド(47%クロロベンゼン溶液、0.42kmol、1当量)を40℃で加え、そして15分間攪拌した。水および塩酸の添加(pH6〜7を達成する)後、有機相をクロロベンゼンで抽出した。この有機相を、クロロベンゼンを蒸留することによって濃縮した。次いでメタノール/水(質量比で3:1の混合物)から結晶化した後に、142kgの3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドが得られた(融点113℃〜114℃、純度93.8%、GCによるsyn型/anti型比が84:16、収率88.6%)。この結晶物質を示差走査熱量計およびX線回折によって分析し、そしてsyn型の3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドの結晶形態Aとして同定した。他の結晶物質の存在は検知することはできなかった。このデータに基づけば(例えば、独立した結晶のanti型物質は検知されていない)、ラセミanti型の式(I)の化合物は、ラセミsyn型の式(I)の化合物の結晶マトリックス中で固溶体の状態にあると思われる。
【0095】
b)変態Cのラセミsyn型の式(i)の化合物および形態Aのラセミanti型の式(I)の化合物の一水和物の混合物の調製
上記のP4a)に記載したように調製した2gの結晶物質を12gのメタノール/水(質量比で9:1の混合物)と混合した。この混合物を結晶物質が溶解されるまで50℃に加熱し、この溶液を40℃に2時間攪拌した。この溶液を、15℃/時間の冷却速度で10℃まで冷却した。温度が36℃に到達した時に、0.1gの結晶変態Cのラセミsyn型の式(I)の化合物(上記のP1に記載したように調製された)を加えた。この混合物を10℃に48時間保持した。この時間の間に所望の沈殿が形成された。過剰な溶媒を除去し、そして結晶を窒素ガス流によって乾燥した。結晶物質を得た。
【0096】
この結晶物質を示差走査熱量計およびX線回折によって分析し、そして変態Cのラセミsyn型の式(i)の化合物および形態Aのラセミanti型の式(I)の化合物の一水和物の混合物として同定した。更なる結晶形態の存在は検知されなかった(図10a、10bおよび11を参照)。
【0097】
この物質のX線パターン(図10bの線Aを参照)を変態CのX線パターン(図10bの線Bを参照)と比較すると、付加的なピーク/ピークショルダーによって第二の結晶物質の存在が明らかである。2−シータの13.96、16.81、21.23および23.68にある付加的なピークおよび13.08のショルダーは、形態Aの一水和物に属する特徴的なピークと結び付けることができる(図10b、線Cを参照)。対照的に、変態I(図4参照)に結び付けることができる付加的なピークは認められず、特に2−シータの5.46の強いピークはなかった。
【0098】
DSC温度記録図(図11参照)は、約132℃に鋭角のピーク(変態Cに特徴的である)を備えた溶融吸熱を示し、また50℃〜75℃の範囲に広幅の吸熱信号(これは形態Aの一水和物に特徴的である)を示した。
【0099】
実施例P5:変態Cのラセミsyn型の式(i)の化合物および形態Aのラセミanti型の式(I)の化合物の一水和物の混合物(syn型/anti型比が88:12)の懸濁液からの結晶化による調製
出発物質は、上記のように調製された変態AおよびBのラセミsyn型の式(I)の化合物の混合物である結晶物質であった{上記の実施例P4a)で説明したように、syn型とanti型の比は88:12、純度96%、またこの物質については、anti型の化合物はsyn型の化合物のマトリックス中に固溶体として存在するようである}。
【0100】
431kgの出発物質を2443kgのアセトン/水(質量比で3:7の混合物)中に懸濁させた。この懸濁液を40℃に加熱し、そして17kgのアセトン/水(質量比で3:7の混合物)中に添加された3kgの結晶変態Cのラセミsyn型の式(I)の化合物および形態Aのラセミanti型の式(I)の化合物の一水和物の混合物{syn型/anti型比が88:12、P4b)で説明した方法によって調製された}の懸濁液を種晶とした。この懸濁液を40℃で6時間攪拌した。この時間の間に所望の沈殿が形成された。この懸濁液を15℃/時間の冷却速度で25℃まで冷却した。この懸濁液を25℃で1時間保持した。この沈殿を25℃でろ過し、そして40℃で乾燥した。391kgの結晶物質を得た(syn型/anti型比が88:12、純度94%)。
【0101】
結晶物質を示差走査熱量計およびX線回折によって分析し、そして変態Cのラセミsyn型の式(I)の化合物および形態Aのラセミanti型の式(I)の化合物の一水和物の混合物として同定した。更なる結晶形態の存在は検知されなかった(図12a、12bおよび13を参照)。
【0102】
実施例P4について、この物質のX線パターン(図12bの線Aを参照)を変態CのX線パターン(図12bの線Bを参照)と比較すると、付加的なピーク/ピークショルダーによって第二の結晶物質の存在が明らかである。2−シータの13.96、16.81、21.23および23.68にある付加的なピークおよび13.08のショルダーは、形態Aの一水和物に属する特徴的なピークと結び付けることができる(図12b、線Cを参照)。対照的に、変態I(図4参照)に結び付けることができる付加的なピークは認められず、特に2−シータの5.46に強いピークはなかった。
【0103】
DSC温度記録図(図13参照)はまた、実施例P4の物質の温度記録図と極めてよく似ている。このDSC温度記録図は、約132℃に鋭角のピーク(変態Cに特徴的である)を備えた溶融吸熱を示し、また50℃〜90℃の範囲に広幅の吸熱信号(これは形態Aの一水和物に特徴的である)を示した。
【0104】
製剤例
以下の実施例は本発明を説明するものであり、「活性成分」は式(I)の化合物の新規な固体形態を意味している。
【0105】
【表4】

【0106】
微粉砕された活性成分を他の製剤成分と緊密に混合し、濃縮懸濁液を得たが、これは如何なる所望の比率ででも水で希釈することができる。このような希釈液を用いて、噴霧、注入もしくは浸漬によって、生きた植物および植物繁殖材料を処理し、また微生物の蔓延から保護することができる。
【0107】
【表5】

【0108】
活性成分は他の製剤成分と完全に混合し、そしてこの混合物は適切な粉砕機で完全に粉砕して、水和粉剤を与え、これを水で希釈されて所望の濃度の懸濁液を得ることができる。
【0109】
【表6】

【0110】
活性成分は他の製剤成分と完全に混合され、またこの混合物は適切な粉砕機で完全に粉砕して、種子処理用に直接用いることができる粉剤が得られる。
【0111】
【表7】

【0112】
使える状態にある粉剤が、活性成分を担体と混合すること、そしてこの混合物を適切な粉砕機で粉砕することにより得られる。このような粉剤は種子の乾燥粉衣に用いることができる。
【0113】
【表8】

【0114】
活性成分は他の製剤成分と共に混合および粉砕し、そしてこの混合物を水で湿らせる。この混合物を押出し加工し、そして次いで空気流中で乾燥させる。
【0115】
【表9】

【0116】
微粉砕された活性成分を他の製剤成分と緊密に混合し、濃縮懸濁液を与えるが、これは種子に施用するために更に水で希釈することができる。このような希釈液を用いて、噴霧、注入もしくは浸漬によって、植物繁殖材料を処理し、また微生物の蔓延から保護することができる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドの新規な固体形態、それを含む組成物は、植物における病害の防除のために有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
d間隔および相対強度によって表されるX線粉末回折パターンが、以下の特徴的な線、13.74Å(強)、7.95Å(弱)、6.94Å(中間)、6.04Å(弱)、4.43Å(中間)および3.72Å(強)を含んでいるX線粉末回折パターンであることを特徴とする、ラセミsyn型の3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドの結晶変態C。
【請求項2】
更に図1に描かれたX線粉末回折パターンを有すること特徴とする請求項1記載の結晶変態。
【請求項3】
更に示差走査熱量計の温度記録図において130℃〜142℃の範囲にピークを備えた吸熱信号を有することを特徴とする請求項1記載の結晶変態。
【請求項4】
実質的に純粋な形態である請求項1記載の結晶変態。
【請求項5】
d間隔および相対強度によって表されるX線粉末回折パターンが、以下の特徴的な線、16.19Å(極めて強)、11.77Å(強)、9.47Å(中間)、5.49Å(極めて強)、5.16Å(中間)、4.61Å(強)および4.22Å(強)を含んでいるX線粉末回折パターンであることを特徴とする、ラセミanti型の3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドの結晶変態I。
【請求項6】
更に図4に描かれたX線粉末回折パターンを有すること特徴とする請求項5記載の結晶変態。
【請求項7】
実質的に純粋な形態である請求項5記載の結晶変態。
【請求項8】
d間隔および相対強度によって表されるX線粉末回折パターンが、以下の特徴的な線、6.39Å(弱)、6.08Å(弱)、5.33Å(強)、4.07Å(弱)、3.84Å(中間)および3.47Å(弱)を含んでいるX線粉末回折パターンであることを特徴とする、ラセミanti型の3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドの形態Aの一水和物。
【請求項9】
更に図7に描かれたX線粉末回折パターンを有すること特徴とする請求項8記載の一水和物。
【請求項10】
更に示差走査熱量計の温度記録図において50℃〜130℃の範囲に吸熱信号を有することを特徴とする請求項8記載の一水和物。
【請求項11】
実質的に純粋な形態である請求項8記載の一水和物。
【請求項12】
固体形態のラセミsyn型の3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドおよび固体形態のラセミanti型の3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドを含む組成物であって、syn型アミドとanti型アミドの比率が80:20〜95:5の範囲にあり、syn型アミドが請求項1に記載の結晶変態Cであり、またanti型アミドの少なくとも1部が請求項8に記載の形態Aの一水和物である、組成物。
【請求項13】
植物病原体によって引き起こされる有用な植物またはそれらの繁殖材料の病害の防除用の組成物であって、
請求項1に記載のラセミsyn型の3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドの結晶変態C、
請求項5に記載のラセミanti型の3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドの結晶変態I
請求項8に記載のラセミanti型の3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドの形態Aの一水和物、および
請求項12に記載の組成物、から選択される少なくとも1種の固体物質を、活性成分として、適切な担体とともに殺菌性が有効な量で含む、組成物。
【請求項14】
植物病原体によって引き起こされる有用な植物またはそれらの繁殖材料の病害を防除する方法であって、有用な植物、それらの場所またはそれらの繁殖材料に、請求項13に記載の組成物を施用することを含む方法。
【請求項15】
固体形態のラセミsyn型3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドおよび固体形態のラセミanti型3−ジフルオロメチル−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(9−イソプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノ−ナフタレン−5−イル)−アミドを含む組成物の調製方法であって、syn型アミドとanti型アミドの比率は80:20〜95:5の範囲にあり、syn型アミドは請求項1に記載の結晶変態Cであり、またanti型アミドの少なくとも一部は請求項8に記載の形態Aの一水和物であり、該方法が、
(a)syn型アミドおよびanti型アミドの溶液または懸濁液を調製すること(syn型アミドとanti型アミドの比率は、溶媒もしくは懸濁剤中で、80:20〜95:5の範囲にある)、
(b)以下の形態の種結晶を加えることによって溶媒または懸濁剤から所望の組成物を結晶化させること:
(b1)請求項1に記載の結晶変態Cのsyn型アミド、もしくは、
(b2)請求項1に記載の結晶変態Cのsyn型アミドおよび請求項8に記載のanti型アミドの形態Aの一水和物の混合物、ならびに
(c)所望の組成物を分離すること、を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11】
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【図12a】
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【図12b】
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【図13】
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【公表番号】特表2010−521431(P2010−521431A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553032(P2009−553032)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【国際出願番号】PCT/EP2008/001259
【国際公開番号】WO2008/113447
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(500371307)シンジェンタ リミテッド (141)
【出願人】(500584309)シンジェンタ パーティシペーションズ アクチェンゲゼルシャフト (352)
【Fターム(参考)】