説明

殺菌・防虫剤組成物

【課題】 ヒノキチオールの本来の殺菌・防虫効果を有効に発揮させながら、広範囲かつ簡易に殺菌・防虫効果をもたらし、さらにはヒノキチオールとの接触により金属が着色する問題を改善した殺菌・防虫剤組成物を提供すること。
【解決手段】 耐圧容器内で、ヒノキチオール(β−ツヤプリシン)と、溶剤と、液化二酸化炭素とを配合してなることを特徴とする殺菌・防虫剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒノキチオールを含有し、簡易に施用できかつ広範囲の殺菌・防虫効果を有する殺菌・防虫剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒノキチオールは、天然に存在する殺菌・防虫剤としては非常に効力が高い化合物であることが知られている。一方、殺菌剤や殺虫剤などを耐圧容器内で液化二酸化炭素に溶解した殺菌・防虫剤組成物を用いた噴霧剤はすでに存在するが、ヒノキチオールを液化二酸化炭素に溶解しただけでは、ヒノキチオールが常温で固体であるため、噴霧されたヒノキチオールは固体微粒子になるだけで、ヒノキチオールが本来有する優れた殺菌・防虫効果を発揮させることはできない。また、ヒノキチオールは金属との反応により、金属表面を着色する性質があり、金属が存在する噴霧雰囲気に使用することは困難であった。このような事情からヒノキチオールを有効成分とする噴霧用殺菌・防虫剤組成物の実用化は難しかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、本発明の目的は、ヒノキチオールの本来の殺菌・防虫効果を有効に発揮させながら、広範囲かつ簡易に殺菌・防虫効果をもたらし、さらにはヒノキチオールとの接触により金属が着色する問題を改善した殺菌・防虫剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、耐圧容器内で、ヒノキチオール(β−ツヤプリシン)と、溶剤と、液化二酸化炭素とを配合してなることを特徴とする殺菌・防虫剤組成物を提供する。
【0005】
上記本発明の殺菌・防虫剤組成物においては、前記溶剤が、精油を主成分とする溶剤であること;さらに着色防止剤を配合してなること;および着色防止剤がアミン類または脂肪酸アルカノールアミド類であることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ヒノキチオールと、溶剤と、液化二酸化炭素を耐圧容器内で配合し、該配合物を収納している耐圧容器を噴霧装置とし、内容物を噴射するだけという簡便な方法で、引火などの危険性も低く、広範囲の殺菌・防虫効果を発揮する殺菌・防虫剤組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明において用いられるヒノキチオールは、天然物より抽出または蒸留されるものもしくは合成によって得られるいずれのものでもよく、本発明の組成物中で通常0.1〜20質量%を占める量で使用することが好ましい。0.5〜15質量%がより好ましい。
【0008】
本発明において使用する溶剤とは、ヒノキチオールを溶解し、本発明の組成物が雰囲気中に噴霧された場合、ヒノキチオールを溶液状態に維持する作用を有するものである。そのために本発明で使用する溶剤は、ヒノキチオールを溶解しかつ低揮発性の溶剤であることが必要である。このような条件を備えている限り、いずれの溶剤も使用できる。しかしながら、安全性、環境衛生性などを考慮すると、精油を溶剤の主成分とすることが好ましい。
【0009】
精油は、植物から水蒸気蒸留法、圧搾法、抽出法などにより得られるものであり、例えば、ウイキョウ、オレンジ、カモミール、カユプテ、クスノキ、サイプレス、シトロネラグラス、スギ、ゼラニウム、チョウジ、ニアウリ、ハッカ、ヒノキ、ヒバ、フクロソウ、フトモモ、マツ、ミカン、モミ、ユーカリ、レッドシダー、レモングラス、白檀などが挙げられる。
【0010】
また、本発明においては上記精油を構成しているテルペノイド、フェニルプロパノイドを代表とする化合物も溶剤として使用することができる。このような化合物としては、例えば、acetyleugenol、anethol、anisaldehyde、atlantone、azulene、bisabolol、cadinene、camphor、cedrol、cineol、citral、citronellal、cuminal、cymene、cyneol、dipentene、eugenol、fenchone、geraniol、limonene、linalool、linalyl acetate、menthol、methyl iso-eugenol、nerolidol、phellandrene、pinene、pinenesafrole、santalol、terpinene、terpineol、terpinyl acetateなどが挙げられる。さらに、上記化合物の酸化、水素添加、エステル化により得られる化合物も使用することができる。このような化合物としては、例えば、dihydroterpineol、dihydroterpinyl acetate、isobornyl thiocyanoacetate、pinane、mentadiene、pmenthane等が挙げられる。
【0011】
また、本発明においては、不揮発性のモノアルコールや多価アルコールも溶剤として使用できる。多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられ、不揮発性のモノアルコールとしては、上記多価アルコールのアルキルエーテルやエステルなどが挙げられる。さらに本発明ではヒノキチオールの溶剤に対する溶解性向上の目的や、噴霧された場合に生じる液滴の粒径調整のため、例えば、エタノール、プロパノールなどの低級アルコールを混合してもよい。
【0012】
以上の如き溶剤は、本発明の組成物を雰囲気中に噴霧した際に、低臭もしくは不快臭とならないものであることが好ましく、該溶剤は本発明の組成物中において通常0.1〜50質量%の割合で含まれることが好ましい。1.5〜45質量%がより好ましい。溶剤の使用量が上記範囲よりも少ないと、雰囲気中に噴霧した場合、ヒノキチオールを溶液状態に保持することができない場合がある。また、溶剤の使用量が上記範囲を超えると溶剤が液化二酸化炭素に対して飽和して本発明の効果が充分に得られない場合がある。
【0013】
本発明で使用する液化二酸化炭素は、炭酸ガスを20℃で5MPa以上の圧力で液化したものであり、耐圧容器内に収納されている状態で入手して使用することができる。液化二酸化炭素の使用量は、本発明の組成物中において通常22〜99質量%を占める量であることが好ましい。50〜98質量%がより好ましい。液化二酸化炭素の使用量が上記範囲よりも少ないと、噴霧圧が低下したり、噴射される粒子径が大きくなって噴霧ができなくなるなどの点で好ましくない場合があり、また、液化二酸化炭素の使用量が上記範囲を超えると有効成分の含量が不足するなどの点で好ましくない場合がある。
【0014】
また、本発明においては、本発明の組成物が金属に接触した場合にも、金属表面を着色させないために、本発明の組成物に着色防止剤を配合することができる。このような着色防止剤としては、アミン類や脂肪酸アルカノールアミド類が挙げられる。アミン類としては、例えば、モノ、ジまたはトリメタノールアミン、モノ、ジまたはトリエタノールアミンなどが挙げられ、脂肪酸アルカノールアミド類としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸のいずれかの脂肪酸と、モノメタノールアミン、ジメタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンのいずれかのアルカノールアミンの結合により得られるアミドが挙げられる。
【0015】
上記着色防止剤は、本発明の組成物中においてヒノキチオール1質量部当たり約0.1〜3質量部の割合で含まれることが好ましい。着色防止剤の使用量が上記範囲よりも少ないと、ヒノキチオールによる金属表面の着色を防止する効果が不十分である場合がある。また、着色防止剤の使用量が上記範囲を超えると、着色防止剤が液化二酸化炭素へ溶解できなくなるなどの点で好ましくない場合がある。
【0016】
本発明の組成物は、上記成分を耐圧容器内で配合することによって容易に得られる。また、本発明の組成物を収納している耐圧容器に噴霧ノズルを取りつけることで、容易に噴霧装置とすることができ、該噴霧装置によってそのまま本発明の組成物を必要な雰囲気に噴霧することができる。
【実施例】
【0017】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、文中における「%」は質量基準である。
【0018】
実施例1
耐圧容器内にヒノキチオール1.5%、ヒバ油8%、エタノール10%および液化二酸化炭素80.5%となるように充填して本発明の殺菌・防虫剤組成物とした。該耐圧容器に噴霧ノズルを接合して噴霧装置とした。
直径9cmのシャーレに滅菌した寒天培地(グルコース0.1%、酵母エキス0.25%、寒天3%)を15ml注ぎ、固化させる。この培地上にシャーレ当たり数百個程度になるように大腸菌を接種し、試験シャーレとした。この試験シャーレをコンテナー(内部容積 幅2.4m、高さ2.4m、奥行き6m)入り口から1m、3m、6mの床面に設置した。シャーレの蓋を解放した試験区とシャーレの蓋を閉めたままの対照区を作成し、上記噴霧装置から殺菌・防虫剤組成物を下記表1に記載の量で噴霧した。4時間後シャーレの蓋を閉め、35℃、48時間培養し、シャーレに形成された大腸菌コロニー数を測定した。試験結果は表1に示す。対照区と比較し、試験区では著しい菌数の低下が認められた。
【0019】

【0020】
実施例2
耐圧容器内にヒノキチオール1.5%、ピネン8%、エタノール10%および液化二酸化炭素80.5%となるように充填し、本発明の殺菌・防虫剤組成物とした。該耐圧容器に噴霧ノズルを接合して噴霧装置とした。この噴霧装置を用いて、更衣室(内部容積 幅3.5m、高さ2.3m、奥行き7m)に543gの組成物を噴霧した。この時の更衣室床面の噴霧前と噴霧後18時間後の床面、および床にシャーレをかぶせ、薬剤の影響がない、各5カ所(更衣室入り口より手前右側、手前左側、中央、奥右側、奥左側の5カ所)でスタンプ培地にて生菌数(コロニー数)を測定した。試験結果を表2に示す。噴霧前と噴霧後18時間後を比較すると明らかな生菌数(コロニー数)の低下が認められた。
【0021】

【0022】
また、上記試験を行うにあたり、床面に鉄、銅、真鍮、アルミニウムおよびステンレスのテストピース(5cm×5cm)を置き、これらのテストピースの着色の程度を観察した。結果を表3に示す。
【0023】

【0024】
実施例3
耐圧容器内にヒノキチオール1.5%、ピネン8%、脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)0.5%、エタノール10%および液化二酸化炭素80%となるように充填し、本発明の殺菌・防虫剤組成物とした。該耐圧容器に噴霧ノズルを接合して噴霧装置とした。この噴霧装置を用いて実施例2に記載の試験と同様の試験を行ったところ、同様に優れた殺菌結果が得られた。また、この試験を行うにあたり、床面に鉄、銅、真鍮、アルミニウムおよびステンレスのテストピース(5cm×5cm)を置き、これらのテストピースの着色の程度を観察した。結果を表4に示す。
【0025】

【0026】
実施例4
実施例1に使用したヒバ油を同量のα−ピネンで置き換えた以外は実施例1と同様にして本発明の殺菌・防虫剤組成物と噴霧装置を作成した。この噴霧装置および実施例1の噴霧装置を用いて直径10cmのガラスシャーレに組成物を6g/m2および20g/m2の量で施用し、餌としてアルミホイル容器に入れたバナナを少量入れた。このシャーレに10匹のイエバエを放ち、組成物と虫体が接触しやすい環境で、24時間後死亡もしくはノックダウンしたイエバエを数えた。また、同時に組成物を施用しない対照区の試験も行った。試験の結果を表5に示す。施用量20g/m2の試験区では、ヒバ油またはα−ピネンを配合したいずれの組成物でも、対照区に比べ、有意な死亡もしくはノックダウンした虫数が確認できた。
【0027】

【0028】
実施例5
一辺が30cmの金網製のケージ2個を筒状の網で接合し、ケージにはポリエチレンフィルム袋をかぶせた。一方のケージの底面に本発明の殺菌・防虫剤組成物を表6に記載の量で施用したポリエチレンフィルムを敷き、接合部分にイエバエ40匹を放った。24時間後各ケージのイエバエを数え、防虫試験とした。組成物としては実施例1と実施例4の組成物を使用した。また、組成物を施用しないポリエチレンフィルムを敷いた対照区でも同様に試験を行った。試験結果を表6に示す。組成物の施用量に比例し、対照区へのイエバエの存在率が増加する傾向が認められ、防虫効果が確認できた。
【0029】

【産業上の利用可能性】
【0030】
以上の如き本発明によれば、ヒノキチオールと、溶剤と、液化二酸化炭素とを耐圧容器内で配合し、該配合物を収納している耐圧容器を噴霧装置とし、内容物を噴射するだけという簡便な方法で、引火などの危険性も低く、広範囲の殺菌・防虫効果を発揮する殺菌・防虫剤組成物が提供される。また、着色防止剤を配合することで、ヒノキチオールによる金属表面の着色の問題が解決された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐圧容器内で、ヒノキチオール(β−ツヤプリシン)と、溶剤と、液化二酸化炭素とを配合してなることを特徴とする殺菌・防虫剤組成物。
【請求項2】
溶剤が、精油を主成分とする溶剤である請求項1に記載の殺菌・防虫剤組成物。
【請求項3】
さらに着色防止剤を配合してなる請求項1に記載の殺菌・防虫剤組成物。
【請求項4】
着色防止剤が、アミン類または脂肪酸アルカノールアミド類である請求項3に記載の殺菌・防虫剤組成物。

【公開番号】特開2006−28043(P2006−28043A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205986(P2004−205986)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(593157910)株式会社タイショーテクノス (10)
【出願人】(593062245)株式会社住化技術情報センター (1)
【Fターム(参考)】