説明

殺虫剤組成物

【課題】殺虫成分を含んでいなくとも殺虫効力が高く、安定性に優れた殺虫剤組成物を提供する。
【解決手段】第4級アンモニウム塩型のカチオン界面活性剤(A)と、25℃で液状の炭化水素(B)と、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、エタノールおよびN−メチル−2−ピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒(C)とを含有し、実質的に水を含まない殺虫剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺虫剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、家庭用殺虫剤分野において、ゴキブリ等の衛生害虫を駆除するための殺虫剤に用いられる有効成分(殺虫成分)の多くはピレスロイド系化合物である。殺虫成分として用いられているピレスロイド系化合物は、天然のピレトリン及びその誘導体であり、昆虫に対し微量で高い効果を発揮し、その作用機序としては、昆虫の神経軸索において刺激伝達物質あるいは伝達機構を阻害することが知られている。
また、殺虫剤には、殺虫成分の効力、安定性、安全性等の向上を目的として、各種化合物を配合することが提案されている。たとえば特許文献1では、フラッシングアウト増強剤として、N−アルキルピロリドン等の複素単環化合物が、ピレスロイド系殺虫剤と併用されている。また、特許文献2〜3では、殺虫成分とともに、非イオン系界面活性剤、炭化水素、水等が配合されている。
【0003】
近年、殺虫剤残留毒性などに対する関心が高まり、低毒性や選択毒性に優れたより安全な殺虫剤の開発が望まれている。
このような要望に対し、殺虫成分を含まない殺虫剤が提案されている。たとえば特許文献4では、炭化水素溶剤、界面活性剤および水をそれぞれ特定量配合したミクロエマルション殺虫剤が提案されている。また、特許文献5では、水もしくは水を含む溶媒に溶解または可溶化しうる界面活性剤、植物精油、エタノール、還元澱粉糖化物から選ばれた少なくとも1種以上を有効成分とするコバエ類防除用組成物が提案されている。
【特許文献1】特開2003−327502号公報
【特許文献2】特開2005−068127号公報
【特許文献3】特開2005−298420号公報
【特許文献4】特表2001−506654号公報
【特許文献5】特開2008−019226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、殺虫成分を含まない従来の殺虫剤は、効力が充分とはいえず、また、保管時に白濁や沈降が生じる等、製剤としての安定性にも問題がある。そのため、実用的には、より殺虫効力が高く、安定性に優れた殺虫剤組成物が求められる。
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、殺虫成分を含んでいなくとも殺虫効力が高く、安定性に優れた殺虫剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤と、特定の炭化水素と、特定の溶媒との組み合わせにより高い殺虫効力が発揮され、殺虫成分を用いなくても安全に害虫駆除ができること、また、水溶性の高い第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤が、水を実質的に含まない非水系内に安定に配合できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明の殺虫剤組成物は、第4級アンモニウム塩型のカチオン界面活性剤(A)(以下、(A)成分という。)と、25℃で液状の炭化水素(B)(以下、(B)成分という。)と、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、エタノールおよびN−メチル−2−ピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒(C)(以下、(C)成分という。)を含有し、実質的に水を含まないものである。
本発明の殺虫剤組成物は、殺虫成分を含まないことが好ましい。
また、本発明の殺虫剤組成物は、さらに、脂肪酸アルキルエステル、多価アルコール脂肪酸エステル、多塩基酸エステルおよびヒドロキシ酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種のエステル(D)(以下、(D)成分という。)を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ピレスロイド系化合物等の殺虫成分を含んでいなくとも殺虫効力が高く、安定性に優れた殺虫剤組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
[(A)成分]
(A)成分は、第4級アンモニウム塩型のカチオン界面活性剤である。
(A)成分としては、カチオンとして、炭素数8〜22の長鎖アルキル基または炭素数8〜22の長鎖アルケニル基を少なくとも1つ有する第4級アンモニウムイオンを有する第4級アンモニウム塩が挙げられる。
前記長鎖アルキル基または前記長鎖アルケニル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
前記長鎖アルキル基または前記長鎖アルケニル基の炭素数は、殺虫効力に優れることから、22以下が好ましく、18以下がより好ましい。また、該炭素数は、殺虫剤組成物の安定性に優れることから、8以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。
前記長鎖アルキル基または長鎖アルケニル基は、その構造中に、−O−、−OH等を含んでいてもよい。
【0008】
(A)成分として、より具体的には、下記一般式(I)で表されるアンモニウム塩、下記一般式(II)で表されるジアンモニウム塩等が挙げられる。
【0009】
【化1】

[式中、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素数8〜22の長鎖アルキル基、炭素数8〜22の長鎖アルケニル基、炭素数1〜4の短鎖アルキル基またはベンジル基であり、R〜Rのうちの少なくとも1つは、炭素数8〜22の長鎖アルキル基または炭素数8〜22の長鎖アルケニル基であり;R〜R10はそれぞれ独立に、炭素数8〜22の長鎖アルキル基、炭素数8〜22の長鎖アルケニル基、炭素数1〜4の短鎖アルキル基またはベンジル基であり、R〜R10のうちの少なくとも1つは、炭素数8〜22の長鎖アルキル基または炭素数8〜22の長鎖アルケニル基であり;R11はアルキレン基であり;Xはアニオンである。]
【0010】
式中、R〜R10における長鎖アルキル基、直鎖アルケニル基としては、それぞれ、前記と同様のものが挙げられる。
短鎖アルキル基としては、メチル基が最も好ましい。
11のアルキレン基としては、炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基が好ましい。
としては、特に限定されず、たとえばCl、Br、(SO2−等の無機酸イオン;安息香酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、アクリル酸、メチル硫酸(CH−SO)、エチル硫酸(C−SO)等の有機酸イオンが挙げられる。
【0011】
式(I)中、R〜Rのうちの少なくとも1つは、前記長鎖アルキル基または前記長鎖アルケニル基である。
本発明においては、殺虫効力に優れることから、R〜Rのうちの1〜3つが前記長鎖アルキル基または前記長鎖アルケニル基であることが好ましく、1または2つが前記長鎖アルキル基または前記長鎖アルケニル基であることがより好ましく、R〜Rのうちの1つが前記長鎖アルキル基または前記長鎖アルケニル基であることがより好ましい。また、この場合、残りの3〜1つは、短鎖アルキル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
また、式(II)中、R〜R10のうちの少なくとも1つは、前記長鎖アルキル基または前記長鎖アルケニル基である。
本発明においては、殺虫効力に優れることから、R〜R10のうちの1〜2つが前記長鎖アルキル基または前記長鎖アルケニル基であることが好ましく、R〜R10のうちの1つが前記長鎖アルキル基または前記長鎖アルケニル基であることがより好ましい。また、この場合、残りの5〜4つは、短鎖アルキル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
かかるアンモニウム塩またはジアンモニウム塩の具体例として、たとえば前記長鎖アルキル基を有するものとしては、モノアルキル(C8〜22)トリメチルアンモニウム塩、ジアルキル(C8〜22)ジメチルアンモニウム塩、トリアルキル(C8〜22)モノメチルアンモニウム塩、テトラアルキル(C8〜22)アンモニウム塩、モノアルキル(C8〜22)ジメチルベンジルアンモニウム塩、ポリオキシエチレン(POE)アルキル(C8〜22)メチルアンモニウム塩、モノアルキル(C8〜22)ペンタメチルジアンモニウム塩等が挙げられる。
【0012】
(A)成分として、より具体的には、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、臭化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化オクチルジヒドロキシエチルメチルアンモニウム、塩化ヤシ油脂肪酸トリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ヤシ油脂肪酸ジメチルベンジルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ドデシルジメチルエチルベンジルアンモニウム、塩化ラウリルジメチル(エチルベンジル)アンモニウム、塩化ミリスチルジメチルベンジルアンモニウム、塩化イソステアリルラウリルジメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ジココイルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ジオレイルジメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、ジ硬化牛脂脂肪酸エチルメチルアンモニウムサルフェート、塩化ポリオキシプロピレンメチルジエチルアンモニウム、塩化ジポリオキシエチレンオレイルメチルアンモニウム、塩化ジポリオキシエチレンステアリルメチルアンモニウム、塩化オクチルジヒドロキシエチルメチルアンモニウム等が挙げられる。
これらの中でも、安定性および効力の両面を考慮すると、特に、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ジココイルジメチルアンモニウムおよび塩化ジステアリルジメチルアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
これらの(A)成分は、市販のものが利用できる。
【0013】
(A)成分としては、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の殺虫剤組成物中、(A)成分の含有量は、当該殺虫剤組成物の総質量に対し、0.1〜7質量%が好ましく、0.5〜6質量%がより好ましく、1〜5質量%がさらに好ましい。該含有量が上記範囲の下限値以上であると、殺虫効力が充分に発揮され、該範囲の上限値以下であると、製剤の安定性が良好である。
【0014】
[(B)成分]
(B)成分は、25℃で液状の炭化水素である。
(B)成分としては、石油から得た液状炭素水素類 及びその混合物、天然及び合成炭化水素類の重合物、及びその水素添加物などが挙げられる。これらには、直鎖状及び分岐状の炭素水素が含まれる。該炭化水素の炭素数は、化合物によって適宜異なるが、塗布面の清潔性及び使用性、効力を考慮すると概ね12〜28が好ましい。該炭化水素は、飽和、不飽和いずれであってもよい。
(B)成分として、具体的には、流動パラフィン、軽質流動パラフィン、低比重流動パラフィン(1)、低比重流動パラフィン(2)、流動イソパラフィン、流動ポリイソブチレン、イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、軽質イソパラフィン、重質流動イソパラフィン、水素添加ポリブテン、流動ポリイソプレン、灯油(別称:ケロシン)、スクワラン、合成スクワラン、植物性スクワラン、スクワレン、部分水素添加スクワレン、α−オレフィンオリゴマー、テトラデセン、ポリプロピレン等が挙げられる。なお、低比重流動パラフィン(1)、(2)はそれぞれ、公定書『 医薬部外品添加物規格2006 』の収載名称である。
上記の中でも、流動パラフィン、軽質流動パラフィン、流動イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、流動ポリイソプレン、灯油(別称:ケロシン)からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
これらの(B)成分は、市販のものが利用できる。
【0015】
(B)成分としては、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の殺虫剤組成物中、(B)成分の含有量は、本発明の効果に優れることから、当該殺虫剤組成物の総質量に対し、70〜99質量%が好ましく、75〜97質量%がより好ましく、80〜95質量%がさらに好ましい。
【0016】
[(C)成分]
(C)成分は、イソプロピルアルコール(別称:2−プロパノール)、n−プロピルアルコール(別称:1−プロパノール)、エタノールおよびN−メチル−2−ピロリドン(別称:N−メチルピロリドン)からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒である。これらはいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、エタノールおよびN−メチル−2−ピロリドンは、それぞれ、市販のものが利用できる。
本発明の殺虫剤組成物中、(C)成分の含有量は、当該殺虫剤組成物の総質量に対し、0.05〜10質量%が好ましく、0.3〜5質量%がより好ましく、0.7〜4質量%がさらに好ましい。該含有量が上記範囲の下限値以上であると、(A)成分の溶解性が良好で、安定性が向上する。該範囲の上限値以下であると、他の成分とのバランスが良好で、殺虫効力、安定性ともに良好である。
【0017】
[(D)成分]
(D)成分は、脂肪酸アルキルエステル、多価アルコール脂肪酸エステル、多塩基酸エステルおよびヒドロキシ酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種のエステルである。本発明において、(D)成分は必須ではないが、これを含有することにより、(A)成分の溶解性が向上し、安定性がさらに向上する。
(D)成分としては、特に限定されず、たとえば医薬品、医薬部外品、化粧品・雑貨等で通常使用されているものが使用できる。
具体的には、脂肪酸アルキルエステルとしては、炭素数8〜22の脂肪酸と1価アルコールとのエステルが挙げられる。
該脂肪酸として、具体的には、カプリル酸、イソノナン酸、テトラメチルノナン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、2−ヘキシルデカン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、テトライソステアリン酸、エチルヘキサン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、2−ヘプチルウンデカン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、2−エチルヘキサン酸、エイコセン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、リノール酸、エレオステアリン酸、リノレン酸、リシノール酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、また、これらの混合物であるヤシ油脂肪酸、硬化ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、オリーブ脂肪酸、硬化パーム油脂肪酸、牛脂脂肪酸、硬化牛脂脂肪酸等が挙げられる。該脂肪酸は、合成脂肪酸及び天然由来脂肪酸のいずれでもよい。
1価アルコールとしては、炭素数1〜18の1価の脂肪族アルコールが好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−プロパノール、ブタノール、イソブタノール、オクタノール、ブチルオクチルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、2−エチルヘキサノール、イソノニルアルコール、デカノール、ウンデカノール、イソトリデカノール、セタノール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノール、オレイルアルコール、2−ヘキシルデシルアルコール等が挙げられる。該脂肪族アルコールは、合成アルコール及び天然由来アルコールのいずれでもよい。
【0018】
多価アルコール脂肪酸エステルとしては、炭素数8〜22の脂肪酸と多価アルコールとのエステルが挙げられる。該脂肪酸としては前記と同様のものが挙げられる。多価アルコールとしては、2価以上のアルコールが好ましく、たとえばグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
多塩基酸エステルとしては、カルボキシル基を2つ以上有する脂肪酸と1価アルコールとのエステルが挙げられる。該脂肪酸としては、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸等が挙げられる。1価アルコールとしては、前記の炭素数1〜18の1価の脂肪族アルコールが挙げられる。
ヒドロキシ酸エステルとしては、分子内にヒドロキシル基を有する炭素数3〜6のヒドロキシ酸と1価アルコールとのエステルが挙げられる。該ヒドロキシ酸としては、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、グリコール酸、リシノール酸、サリチル酸等が挙げられる。1価アルコールとしては、前記の炭素数1〜18の1価の脂肪族アルコールが挙げられる。
【0019】
(D)成分として、より具体的には、イソステアリン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソステアリル、パルミチン酸オクチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸エチルヘキシル、クエン酸トリエチルヘキシル、リノール酸エチル、リノール酸イソプロピル、セバシン酸ジブチルオクチル、ネオペンタン酸オクチルドデシル、炭酸ジアルキル、ミリスチン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、エチルへキサン酸セチル、セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジ−2−ヘプチルウンデシル、セバシン酸ジイソプロピル、リンゴ酸ジイソステアリル、乳酸オクチルドデシル、乳酸ラウリル、乳酸オレイル、オレイン酸エチル、オリーブ脂肪酸エチル、イソステアリン酸ヘキシルデシル、ミリスチン酸イソセチル、ミリスチン酸イソステアリル、ステアリン酸イソセチル、パルミチン酸エチルヘキシル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、ジカプリン酸プロピレングリコール、テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル、カプリル酸プロピレングリコール、ジカプリル酸プロピレングリコール、トリエチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、トリエチルヘキサノイン、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソトリデシル、ジ−2−エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル等が挙げられる。
これらの中でも、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、乳酸オクチルドデシルおよびカプリル酸プロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0020】
(D)成分としては、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の殺虫剤組成物中、(D)成分の含有量は、当該殺虫剤組成物の総質量に対し、1〜70質量%が好ましく、5〜65質量%がより好ましく、8〜60質量%がさらに好ましい。該含有量が上記範囲の下限値以上であると、(A)成分の溶解性が向上し、安定性がさらに向上する。該範囲の上限値以下であると、他の成分とのバランスが良好で、殺虫効力、安定性ともに良好である。また、上記範囲内であると、当該殺虫剤組成物を噴霧した際の噴霧面の清潔性が保たれる点でも好ましい。
【0021】
本発明の殺虫剤組成物は、実質的に水を含まない。
殺虫剤組成物中には、原料由来の水分の持ち込み、吸湿等により、意図せず、水分を微量含有する場合がある。たとえば前記(A)成分は一般的に少量の水を含む溶媒の溶液として市販されているため、このような市販品をそのまま使用して本発明の殺虫剤組成物を調製した場合、組成物中に微量の水が持ち込まれる。しかし、本発明の殺虫剤組成物において、水は、当該殺虫剤組成物の殺虫効力や安定性を低下させるおそれがある。
このような理由を考慮した上で、本発明における「実質的に水を含まない」とは、当該殺虫剤組成物中の水の割合が、当該殺虫剤組成物の総質量の3質量%以下であることを示す。該割合が3質量%を超えると、殺虫効力や安定性が低下するおそれがある。該割合は、当該殺虫剤組成物の総質量の1質量%以下であることが好ましく、0質量%であってもよい。
本発明の殺虫剤組成物中の水の割合は、日本薬局方記載の水分測定法(カールフィッシャー法)等により求めることができる。
【0022】
本発明の殺虫剤組成物は、任意に、殺虫成分を含んでもよく、含まなくてもよい。安全性を考慮すると、殺虫成分を含まないことが好ましい。
ここで「殺虫成分」とは、殺虫剤指針の医薬品各条に収載されている有効成分、及び医薬品、医薬部外品、雑貨で承認・配合実績のある有効成分を意味する。
殺虫成分としては、公知の殺虫成分が利用でき、たとえばピレスロイド系殺虫剤、有機リン系殺虫成分、カーバメート系殺虫成分が挙げられる。
ピレスロイド系殺虫剤としては、たとえば、メトフルトリン、dl,d−T80−アレスリン、フタルスリン、d−T80−フタルスリン、d,d−T80−プラレトリン、d,d−T98−プラレトリン、d−T80−レスメトリン、トランスフルトリン、イミプロトリン、シフェノトリン、d,d−T−シフェノトリン、エンペントリン、ペルメトリン、フェノトリン、エトフェンプロックス、ピレトリン等が挙げられる。
また、ピレスロイド系殺虫剤以外の殺虫成分として、たとえばフェニトロチオン、マラチオン等の有機リン系殺虫剤;プロポクスル、カルバリル等のカーバメート系殺虫剤;ケルセン、キノメチオネート、ヘキサチアゾクス等の殺ダニ剤、イミダクロプリド、ジノテフラン、クロチアジニン等のネオニコチノイド系殺虫剤等が挙げられる。
これらの殺虫成分は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明の殺虫剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、前記した各成分以外の他の成分を含有してもよい。
該他の成分としては、特に限定されず、従来公知の添加剤であってよく、たとえば、l−メントール、ハッカ油、植物精油などの香料類、キサンタンガム、ポリビニルピロリドンなどの高分子類、グリコール、エーテルなどの溶剤類が挙げられる。
【0024】
本発明の殺虫剤組成物は、常法によって製造することができ、通常、各成分を混合して製造される。
【0025】
本発明の殺虫剤組成物の使用方法は特に限定されないが、好ましくは、害虫に対して直接噴霧して使用される。
本発明の殺虫剤組成物の使用形態としては、エアゾール剤や、手押しポンプ、トリガー、スクイズ等の噴霧装置を用いて組成物を噴霧する散布油剤など、いずれの剤型でもよいが、動きの早い匍匐性害虫、あるいは飛翔害虫に対して適用しやすい点から、エアゾール剤が好ましい。
エアゾール剤として使用する場合、本発明の殺虫剤組成物は、エアゾール容器内に、噴射剤とともに充填される。エアゾール容器、噴射剤としては、それぞれ公知のものを利用できる。たとえば噴射剤としては、化学工業用、医薬用、香粧品用等で通常使用されるものであれば、1種単独であるいは2種以上を混合して使用することができる。具体的には、ノルマルブタン、イソブタン、プロパン等の液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル(DME)、ハロゲン化炭化水素等の液化ガス;窒素、炭酸ガス、亜酸化窒素などの圧縮ガス;等を使用することができるが、これらに限定されるものではない。
エアゾール剤における本発明の殺虫剤組成物(原液)と噴射剤との比率は、噴射特性や安全性を考慮し適宜選択できるが、通常、質量比で、原液/噴射剤=1/99〜90/10が好ましく、20/80〜80/20がより好ましく、30/70〜70/30がさらに好ましい。
【0026】
本発明の殺虫剤組成物の適用対象である「害虫」としては、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、クロゴキブリ等のゴキブリ類、アカイエカ、コガタイエカ、シナハマダラカ等の蚊成虫、ハエ成虫、ムカデ、クモ、ケムシ、アブ、ゲジ、ヤスデ、ワラジムシ、クロアリ、アカアリ、ダンゴムシ、カメムシ、シバンムシ、ユスリカ、チョウバエ、ユコバイ、ガ、チャタテムシ、ハサミムシ、ゴミムシ、カツオブシムシ、ノミ、トコジラミ(ナンキンムシ)等が挙げられる。これらの中でも、本発明の殺虫剤組成物による殺虫効果が特に高いことから、ゴキブリ類、蚊成虫が好適である。
【0027】
上記本発明の殺虫剤組成物は、殺虫効力が高く、殺虫成分自体を用いなくても、安全に害虫を駆除できる。また、安定性にも優れており、実用性にすぐれている。
本発明の殺虫剤組成物の殺虫効力が高い理由としては、定かではないが、(A)成分が、その構造中に第4級アンモニウムイオンを有することで、(B)成分、(C)成分との間で何らかの相互作用が発揮され、当該組成物が呼吸器系を含む虫体内に入り込みやすくなり、該呼吸器系を効率よく封鎖できるためではないかと推測される。
【実施例】
【0028】
以下、本発明について、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
以下の実施例1〜18および比較例1〜12の殺虫剤組成物に配合した各成分は、それぞれ、表5に示すものを使用した。また、表5には、(A)成分として使用した塩化セチルトリメチルアンモニウム(液、粉)、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ジココイルジメチルアンモニウムの製品組成(単位:質量%)を併記する。
【0029】
<実施例1〜14、比較例1〜7>
表1〜3に示す組成(単位:質量%)の殺虫剤組成物を、各成分を混合することにより調製した。表1〜3中に示す塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ジココイルジメチルアンモニウムの量はそれぞれAI(溶質であるカチオン固形分)換算量であり、これらの製品由来の(使用した市販品に含まれていた)水、イソプロピルアルコールの量は持ち込み量として別に示した。
各殺虫組成物について、以下の効力試験および安定性試験を行った。その結果を表1〜3に併記する。
[効力試験]
各殺虫組成物を容量100mLのPET製フィンガースプレー容器に充填した。これを、エアコンプレッサーを装備した自動噴射装置にセットし、1回の噴射量を0.10〜0.15gになるように調整した。
次に、氷冷麻酔したチャバネゴキブリ(雄)の背面をろ紙に貼り付け、腹面がスプレーの噴射口正面から5cmの距離になるように垂直にセットした。麻酔から覚めたチャバネゴキブリに対し、自動噴射装置で各殺虫剤組成物を1回噴射した後、チャバネゴキブリをろ紙から剥がして素早くポリプロピレン製カップに移し、30秒ごとに5分間、生存状態を観察した。各回試験(1匹試験)の生存状態は下記の各回評価基準に従って5段階で評価した。
(各回試験(1匹試験)評価基準)
5点:5分以内に致死。
4点:5分後瀕死状態。
3点:5分後ノックダウン状態(KD:虫体硬直)。
2点:這うことはできるが動きが鈍い。
1点:正常に動き回る。
【0030】
また、各殺虫剤組成物について、同試験を10回(チャバネゴキブリ10匹)繰り返し、評点の合計点を求めた。該合計点について、下記評価基準に従い評価した。これらのうち、33点以上を有効と判断した。
(各組成物(10匹合計点)評価基準)
45〜50点:極めて高い効力を示す。
39〜44点:非常に高い効力を示す。
33〜38点:高い効力を示す。
28〜32点:やや効力が低い。
28点未満:効力が低い。
【0031】
[安定性試験]
調製した各殺虫剤組成物を、スクリュキャップ付きガラス瓶(容量30mL)に充填し、25℃恒温室にて1ヶ月間静置した後、その外観を評価し、下記安定性評価基準に従い安定性を評価した。これらのうち、◎、○、△を良好と判断した。
(安定性評価基準)
◎:無色透明。
○:わずかに透明度が落ち、微濁。
△:全体にやや濁り傾向だが、振とうすると透明になる。
▲:下部が白濁し、沈降傾向。
×:明確に2層分離、析出。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
上記結果に示すように、(A)成分、(B)成分および(C)成分を含み、かつ水を実質的に含まない実施例1〜14の殺虫剤組成物は、優れた殺虫効力を有し、安定性も高かった。
一方、(A)成分または(B)成分を含まない比較例1〜2の組成物は、殺虫効力が低かった。また、(C)成分を含まない比較例3の組成物は、殺虫効力に加え、安定性も低かった。
また、(A)成分の代わりに、第4級アンモニウム塩型ではないカチオン界面活性剤を配合した比較例4の組成物や、(C)成分の代わりにトリアセチンを配合した比較例6の組成物、組成物中の水分量が5質量%の比較例7の組成物は、噴霧に際して振とうする必要があり、殺虫効力も低かった。また、安定性も悪かった。また、(B)成分の代わりに、25℃で固体状であるパラフィンワックスを配合した比較例5の組成物は、固化して製剤化できず、試験に供することができなかった。
【0036】
<実施例15〜18>
以下の手順でエアゾール剤を調製した。
まず、表4に示す組成の原液(殺虫剤組成物)を、各成分を混合することにより調製した。表4中に示す塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウムの量はそれぞれAI換算量である。
該原液と、表4に示す噴射剤とを、表4に示す(原液/噴射剤)比(質量比)でエアゾール容器に充填してエアゾール剤を得た。
【0037】
【表4】

【0038】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第4級アンモニウム塩型のカチオン界面活性剤(A)と、25℃で液状の炭化水素(B)と、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、エタノールおよびN−メチル−2−ピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒(C)とを含有し、実質的に水を含まない殺虫剤組成物。
【請求項2】
殺虫成分を含まない請求項1に記載の殺虫剤組成物。
【請求項3】
さらに、脂肪酸アルキルエステル、多価アルコール脂肪酸エステル、多塩基酸エステルおよびヒドロキシ酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種のエステル(D)を含有する請求項1または2に記載の殺虫剤組成物。

【公開番号】特開2010−64978(P2010−64978A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232327(P2008−232327)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】