説明

殺虫剤

【課題】天然殺虫性成分を用いながら薬剤効力が強く、速効性に優れ、環境汚染の恐れのない衛生害虫、農業害虫及び不快害虫などの有害害虫の防除に有効な殺虫剤を得る。
【解決手段】有効成分として天然食塩、食酢及びまたはウイキョウ抽出物を含み、節足動物用には食塩0.7〜7g、食酢(15%酢酸含有)1.4〜14g、ウイキョウ抽出物0.03〜0.3gを水に溶かして100mlに調整した成分割合を有し、アオムシ用には食塩0.7〜7g、食酢(15%酢酸含有)1.4〜14gを水に溶かして100mlに調整した成分割合を有するのが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機リン剤、カーバメート剤及び重金属類などを含まない天然由来の殺虫成分を複種類組合せたものを有効成分とし、特に衛生害虫、農業害虫及び不快害虫などの有害害虫の防除に有効な殺虫剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば、ヤスデ、ムカデ、エダヒゲムシ、コムカデ等の節足動物およびアオムシなどの衛生害虫、農業害虫および不快害虫などに対しそれらの被害を避けるために使用されている殺虫剤をはじめ防除薬剤は、ほとんどが化学合成された物質で構成され、有機リン剤、カーバメート剤、重金属類およびネオニコチノイド化合物などを含む場合が多い。しかし、DDT、BHCに代表されるように、人体を含め広範な生物に対する毒性と環境中の長期の残留が問題となり、使用が禁止されるものが多く見られる。さらに、環境問題に対する意識が向上し、重要視されてきている現状では、有機リン剤、カーバメート剤および重金属などを含有しないで、出来るだけ環境にやさしく環境を汚染しない殺虫剤や防除薬剤の使用が求められている。
そのため、従来上記成分を含まない害虫防除剤として、界面活性剤(石鹸等)と灰汁(あく)、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウム等との混合物、あるいはハマスゲのメタノール粗抽出物(α一チペロン、シペロタンドン、ロタンドン)を有効成分とするものが用いられている。
しかしこれらの害虫防除剤は、薬剤効力が弱く、速効性がなく死滅させるのに長時問が必要である。さらに、反復して長期的に散布されると河川などに溶脱し、環境汚染することが懸念される等の問題点がある。
【0003】
そのため、薬効が害虫等、特定の生物に特異的に高く、脊椎動物に対する毒性を示さず、自然環境中に反復して長期的に使用しても安全で、生態系に長期的に残存する恐れのない殺虫剤の開発が強く望まれている。そのような薬剤として、自然界に存在する化合物を有効成分とする薬剤が望まれ、天然由来の殺虫性成分の利用が近年急速に開発されるようになってきた。
【0004】
現在までに実用化された天然殺虫性成分としては、例えばクロロニコチニル系殺虫剤、ピラゾール、ピロール又はフェニルイミダゾール基を有する殺虫剤(特許文献1参照)、カラン−3、4−ジオールを保持するシート(特許文献2参照)、ジメチルエーテル可溶のブチラール樹脂、ポリメタクリレート、ポリスチレンを組合せた捕獲用組成物(特許文献3参照)、4−ヒドロキシ−6−メチル−3−(4−メチルペンタノイル)−2−ピロンの忌避剤化合物(特許文献4参照)、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシプロピルセルロースのゲル化物で不快害虫の忌避するエアゾール組成物(特許文献5参照)、ニテンピラム等のネオニコチノイド系化合物防除剤(特許文献6参照)等が知られている。
【特許文献1】特表平10−513169号公報
【特許文献2】特開平11−171705号公報
【特許文献3】特開平11−187801号公報
【特許文献4】特開2002−145704号公報
【特許文献5】特開2002−167301号公報
【特許文献6】特開2002−360145号公報
【非特許文献1】岡田稔監修:新訂原色 牧野和漢薬草大図鑑 北隆館、東京、P.361,2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来知られている天然由来の殺虫性成分は、それ自体では薬剤効力が弱く、速効性がなく死滅させるのに長時問が必要であるという欠点がある。また各天然殺虫性成分は、それぞれ長所及び短所の相異なる殺虫性を示し、相異なる作用機作を有する物質の組合せには未解決な部分が多いため、単一成分のみを有効成分とするのが実情であり、その結果、速効性が得られず天然由来の有効成分のみの殺虫剤の普及が阻害されている要因になっている。
そこで本発明は、天然殺虫性成分を用いながら薬剤効力が強く、速効性に優れ、環境汚染の恐れのない殺虫剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく天然由来の種々の殺虫性成分について研究した結果、天然由来の物質が示す殺虫特性の違いを殺虫性物質の化学構造および/または作用機作の違いにより解明し、それぞれの長所および短所の相異なる殺虫性を示す殺虫性成分を、その相性をうまく利用して、複数組合せて有効成分とすることにより、単一の殺虫性成分のみを有効成分とする従来の殺虫剤では得られなかった優れた殺虫性能を示すことを見出し、本発明に至ったものである
【0007】
即ち、本発明の殺虫剤は、有効成分として天然由来の食塩、酒類に含まれるアルコールの酢酸醗酵によって得られる酢酸およびウイキョウ抽出物を組合せることを特徴とするものである。これら3種の化合物を含むことが望ましい。ウイキョウ抽出物は、ウイキョウの全抽出物、即ち種子、茎又は葉部の何れか又はこれらの混合物の抽出物でも良い。
本発明の殺虫剤に係る天然由来の有効成分の化学構造による分類としては、海水や岩塩から得られるNaCl、酒類の酢酸醗酵により得られるCH3COOHおよびウイキョウ抽出物から得られるアネトール(リグナン)などを含むことを特徴とする。
上記殺虫剤の有効成分の含有量は、節足動物用には前記食塩0.7〜7g、前記食酢(15%酢酸含有)1.4〜14g、前記ウイキョウ抽出物0.03〜0.3gを水に溶かして100mlに調整した成分割合を有するものであることが望ましい。また、アオムシ用には前記食塩0.7〜7g、前記食酢(15%酢酸含有)1.4〜14gを水に溶かして100mlに調整した成分割合を有するものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の殺虫剤は、自然界由来の殺虫性有効成分を利用し、その作用機作の異なるものを複合配合することにより、その相乗効果によって市販の殺虫剤よりも即効性を有し、従来の天然由来の殺虫性成分には期待できない即効性を有する殺虫剤を得ることが出来た。しかも、全て自然界由来の殺虫性成分であるので、繰返し使用しても環境を汚染する恐れも小さく、安全性の高い殺虫剤とすることが出来たものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明による殺虫剤についてさらに詳細に説明する。
本発明による殺虫剤の有効成分とする3種類の天然由来の物質は次の特性を有する。
【0010】
これまでの研究結果、以下のことが明らかになった。
本発明の有効成分である海水や岩塩から得られる食塩は、食物に加えて美味しく食べる調味料として用いるばかりでなく、すべての生物に必修な化合物である。その防腐性能により食品などの長期保存に用いられる。また、適度の濃度により殺虫性を有することもわかっている。
食酢は、食塩と同様に食物の調味料および生物に必修な化合物である。また、食酢は、強力な殺菌力を有し、防腐・防菌作用があるばかりでなく、適度の濃度により殺虫性を有することもわかっている。
ウイキョウは、ウイキョウ属、セリ科で野菜として食用および食品の香辛料に用いられている。漢方では健胃、駆風、去痰作用があるとしている。薬用成分として精油にアネトール、ピネン、ジテルペン、リモネンエストラゴール、アニスアルデヒド、脂肪油のプロトセリニン酸、アトサン、ペクチン、ビタミンA、アスコルビン酸などを含んでいる(非特許文献1参照)。ウイキョウ抽出物は、ウイキョウ(種子又は葉部)を約1ヶ月間室内乾燥させ、ミキサー等で細かく潰して5倍量の99%アルコールを入れ、室内で約2ヶ月間保存してアルコール抽出し、アルコールを留去することにより得た。
【0011】
上記各種の殺虫性成分をすべて選択することが好ましいが、食塩と食酢のみの組合せでも、それらの単独の場合と比較して相乗効果が認められる。この際、選択する殺虫性成分の量は、殺虫特性に対応して変える。たとえば、害虫の種類/または幼虫か成虫などによってその混合比などを変えるが、ヤスデ、ムカデ、エダヒゲムシ、コムカデ等の節足動物には、一般的に食塩0.7〜7g、食酢(15%酢酸含有)1.4〜14g、ウイキョウ抽出物0.03〜0.3gを水に溶かして100mlに調整することが望ましい。このような成分割合で節足動物用の殺虫剤原液を得る。
一方、アオムシの場合も節足動物と同様に、有効成分が食塩0.7〜7g、食酢(15%酢酸含有)1.4〜14g、ウイキョウ抽出物0.03〜0.3gを水に溶かして100mlに調整することが望ましい。このような成分割合で、アオムシ用殺虫剤原液を得る。しかし、アオムシが食害している野菜に対しての影響を少なくするためには、前記成分割合の殺虫剤を20〜50倍に希釈して散布回数2〜3回に分けて使用した方がよい。一般的には、幼虫は薬剤吸収性がよいので低い濃度でもよい。しかし成虫は若干高い薬剤濃度がよく、濃度は対象昆虫によって適宜変えればよい。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の殺虫剤の実施例を示す。
(実施例1)
殺虫剤の成分構成:食塩、食酢
食塩7g、食酢(15%酢酸含有)14gを水に溶かして100mlに調整した。
(実施例2)
食塩と食酢(15%酢酸含有)の成分割合7g:7gを水に溶かして100mlに調整した。
(実施例3)
食塩と食酢(15%酢酸含有)の成分割合14g:14gを水に溶かして100mlに調整した。
(実施例4)
食塩と食酢(15%酢酸含有)の成分割合7g:28gを水に溶かして100mlに調整した。
(実施例5)
殺虫剤の成分構成:食塩、食酢、ウイキョウ抽出物
食塩7g、食酢(15%酢酸含有)14g、ウイキョウ抽出物0.3gを水に溶かして100mlに調整した。
(実施例6)
殺虫剤の成分構成:食塩、食酢
食塩0.7g、食酢(15%酢酸含有)1.4gを水に溶かして100mlに調整した。
(実施例7)
殺虫剤の成分構成:食塩、食酢、ウイキョウ抽出物
食塩0.7g、食酢(15%酢酸含有)1.4g、ウイキョウ抽出物0.3gを水に溶かして100mlに調整した。
【0013】
また、比較例として、市販品の殺虫剤(ヤスデノン:商標)ほか、以下の組成のように本発明の薬効成分を1つのみを含むものを調整した。
(比較例1)
殺虫剤の成分構成:食塩7gを水に溶かして100mlに調整した。
(比較例2)
殺虫剤の成分構成:食酢 (15%酢酸含有)14gを水に溶かして100mlに調整した。
(比較例3)
市販のヤスデン(商品名)
(比較例4)
ウイキョウ抽出物0.3gを水に溶かして100mlに調整した。
(比較例5)
市販のサンケイハクサップ(水和剤)(商品名)
【0014】
生物試験結果
それぞれの実施例及び比較例について、ヤスデの幼虫およびヤスデの成虫について殺虫試験を行なった。試験は、以下に示すようにこれらの薬剤の適量を幼虫や成虫に噴霧し害虫の活動停止時間および全滅時間を計測した。その結果を表1〜表3に示す。
【0015】
(ヤスデの幼虫)
ヤスデの幼虫5頭に調整した各殺虫剤2mlおよびヤスデノン(フェニトロチオン・カルバリル粉剤)を散布し、活動停止時問(分)と死亡時問(分)を観察した。なお試験は1つの殺虫剤について5回繰り返しその平均時間を採用した。
【表1】

【0016】
(ヤスデの成虫)
ヤスデの成虫5頭に幼虫と同様の殺虫試験を行なった。
【表2】

【0017】
(アオムシ)
1)サンケイハクサップ(水和剤):フェンバレレート・マラソン水和剤
生物試験は、それぞれのアオムシの5頭に各薬剤を2ml散布し、活動停止時間(分)と死亡時間(分)を観察した。なお試験は1つの殺虫剤について5回繰り返しその平均時間(分)を採用した。上記ヤスデと同様の殺虫試験を行なった。
【表3】

【0018】
以上の結果から明らかなように、食塩、食酢の組合せの殺虫剤は、害虫の種類によって感応が異なり、たとえばヤスデの幼虫および成虫には、市販の殺虫剤よりも強力な効果を示し、アオムシでは市販の殺虫剤とほぼ同等の効力を示した。また、特に、食塩、食酢及びウイキョウ抽出物の組合せの殺虫剤は、食塩、食酢の組合せの殺虫剤より即効性があり、殺虫効果が高いことが確認された。いずれにしても天然由来の物質の1つよりも2つの効力が増加するが、特にそれらの3つの殺虫成分の組合せは、それぞれの薬剤が持つ薬理効果よりも大きくなり、相乗効果が創出されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、天然由来の殺虫性成分の組合せにより、従来の単独天然成分を有効成分とする殺虫剤では得られなかった相乗効果が創出され、市販の化学合成された殺虫剤以上の効力を有し、且つ衛生害虫、不快害虫のいずれにも効果があり、環境にやさしい安全性の高い殺虫剤として、産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として天然食塩、食酢を含むことを特徴とする殺虫剤。
【請求項2】
有効成分としてさらにウイキョウ抽出物を含むことを特徴とする請求項1に記載の殺虫剤。
【請求項3】
前記天然食塩が天然塩に含まれる食塩であり、前記食酢がアルコールの酢酸醗酵で得られる食酢であることを特徴とする請求項1又は2に記載の殺虫剤。
【請求項4】
前記有効成分が、節足動物用には前記天然食塩0.7〜7g、前記食酢(15%酢酸含有)1.4〜14g、前記ウイキョウ抽出物0.03〜0.3gを水に溶かして100mlに調整した成分割合を有するものであることを特徴とする請求項2又は3に記載の殺虫剤。
【請求項5】
前記有効成分が、アオムシ用には前記天然食塩0.7〜7g、前記食酢(15%酢酸含有)1.4〜14gを水に溶かして100mlに調整した成分割合を有するものであることを特徴とする請求項1又は3に記載の殺虫剤。

【公開番号】特開2007−320943(P2007−320943A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156424(P2006−156424)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(500244137)
【出願人】(504176254)
【Fターム(参考)】