説明

母乳におけるTh2アジュバント活性の評価方法、及び母乳がTh2アジュバント活性に起因する疾患を発症させる危険性の評価方法

【課題】 母乳のTh細胞に対するアジュバント活性を評価するための簡便な方法を提供すること
【解決手段】 母乳のTh細胞に対するアジュバント活性を、母乳刺激による樹状細胞の分化誘導活性を指標に、簡便に評価できることを見出した

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹状細胞の分化誘導活性を利用して、母乳が有するTh2アジュバント活性を評価する方法、及び該評価に基づいて、母乳がTh2アジュバント活性に起因する疾患を発症させる危険性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境要因と免疫応答のインターフェイスとして、樹状細胞(Dendritic cells:DC)が重要な役割を演じていることが明らかとなりつつある。樹状細胞とは、造血幹細胞起源の単球から分化した細胞で、マクロファージやB細胞と共に、主要な抗原提示細胞(antigen-presenting cells:APC)として知られている。樹状細胞は、ナイーブT細胞に抗原を提示して該ナイーブT細胞の一次応答を誘導できる、唯一のプロフェッショナル抗原提示細胞(professional APC)として機能しており、特にヘルパーT細胞(Th細胞)への分化誘導には、樹状細胞による抗原提示が必須とされている。樹状細胞による抗原提示は、食作用により取り込まれたタンパク質抗原がペプチドへと断片化され、該ペプチド(抗原ペプチド)がMHCクラスI分子やMHCクラスII分子と結合し、該樹状細胞表面に輸送されることにより行われる。
【0003】
一方、上記のような抗原提示に関与するタンパク質抗原とは異なり、抗原非特異的に樹状細胞の抗原提示機能を増加させ、免疫応答を増強するタンパク質抗原以外の活性物質も知られている。このような物質をアジュバントと呼ぶ。アジュバントは、未熟樹状細胞(immature DC:iDC)表面上の特定のToll-like receptor(TLR)と結合する。そのシグナルが細胞内に伝達されることにより当該未熟樹状細胞は活性化され、成熟樹状細胞(mature DC:mDC)へと分化する(例えば、非特許文献1参照)。成熟樹状細胞にはいくつかのタイプが知られており、それぞれがナイーブCD4T細胞に対して異なる分化誘導活性を有している。一般に、Th1(T helper 1)細胞を誘導する成熟樹状細胞をDC1、Th2(T helper 2)細胞を誘導する成熟樹状細胞をDC2、Th17(T helper 17)細胞を誘導する成熟樹状細胞をDC17、Tr(T regulatory)細胞を誘導する成熟樹状細胞をDCrと呼ぶ。そして、未熟樹状細胞をDC1に分化させる活性を有するアジュバントをTh1アジュバント、DC2に分化させる活性を有するアジュバントをTh2アジュバント、DC17に分化させる活性を有するアジュバントをTh17アジュバント、DCrに分化させる活性を有するアジュバントをTrアジュバントと言う。
【0004】
Th1アジュバントとしては、主として細菌によって産生されるコレラ毒(choleratoxin:CT)等が、Th2アジュバントとしては、住血吸虫由来のリン脂質であるフォスファチジルセリン(Phosphatidylserine)等が、Th17アジュバントとしては、カードラン(curdlan)等が、Trアジュバントとしては、リソ・フォスファチジルセリン(Lysophosphatidylserine)等が知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
Th細胞の機能の平衡状態が崩れること(Thインバランス)によって多くの免疫疾患が生じることが知られており、例えば、Th1細胞の過剰活性化によって生じる疾患としては、関節リウマチやインスリン依存性糖尿病などの自己免疫疾患が、Th2細胞の過剰活性化によって生じる疾患としては、アトピー性皮膚炎や喘息などのアレルギー性疾患が知られている。従って、アジュバントが、ナイーブCD4T細胞をいずれのTh細胞に分化誘導する活性を有するかは、免疫応答反応において、さらには免疫疾患の治療においても重要となってくる。
【0006】
我々の生活を取り巻く環境物質や化学物質等の特定物質の中には、アジュバントとしての免疫応答修飾活性を有するものが多数存在する。実際、それらの特定物質のうちいくつかに関しては、アトピー性皮膚炎、花粉症、気管支喘息等のアレルギー疾患の原因因子であることが知られており、現在でも人間の健康的な生活を脅かしている。従って、特定物質が有するアジュバント活性を評価すること、特に、いずれのTh細胞に対するアジュバント活性を有するかを評価することは、特定物質の人体に与える影響を予測する上でも重要であり、また特定物質を含む工業製品等の安全性や、特定物質を含む薬剤等の有効性を確認する上でも極めて重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2006/054415号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】TakedaK, Akira S. Toll receptors and pathogen resistance. Cell Microbiol2003;5:143-153.
【非特許文献2】vander Kleij D, Latz E, Brouwers JF, Kruize YC, Schmitz M, Kurt-Jones EA, EspevikT, de Jong EC, Kapsenberg ML, Golenbock DT, Tielens AG, Yazdanbakhsh M. A novelhost-parasite lipid cross-talk. J Biol Chem. 2002;277(50):48122-48129.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、母乳のTh細胞に対するアジュバント活性を簡便に評価する方法を提供することにある。さらなる本発明の目的は、このような方法を確立することにより、母乳がアトピー性皮膚炎などの疾患を発症させる危険性を、簡便に評価する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、母乳のTh細胞に対するアジュバント活性を、母乳刺激による樹状細胞の分化誘導活性を指標に、簡便に評価できることを見出した。特に、母乳で刺激して得た成熟樹状細胞内のcAMP濃度は、母乳のTh2アジュバント活性を評価するための有効な指標となった。また、本発明者らは、この方法で評価した、母乳におけるTh2アジュバント活性が、アトピー性皮膚炎に罹患した子供を持つ母親の、出産直後の母乳において有意に高い値を示すことを見出した。従って、母乳中のTh2アジュバント活性に基づいて、乳児におけるアトピー性皮膚炎などの疾患の発症危険性を評価し、これら疾患の予防を行うことが可能である。
【0011】
即ち、本発明は、樹状細胞の分化誘導活性を利用した、母乳が有するTh2アジュバント活性の評価方法、及び該評価に基づく、アトピー性皮膚炎などTh2アジュバント活性に起因する疾患の発症危険性の評価方法に関し、より詳しくは、
(1) 未熟樹状細胞を母乳で刺激し、該刺激により前記未熟樹状細胞から分化誘導された成熟樹状細胞を解析することにより、前記母乳が有するTh2アジュバント活性を評価することを特徴とする、母乳のTh2アジュバント活性の評価方法、
(2) 成熟樹状細胞の解析が、前記成熟樹状細胞の細胞内cAMP濃度を測定することにより行われる、(1)に記載の評価方法、
(3) 未熟樹状細胞がヒト単球系細胞株THP−1細胞由来である、(1)に記載の評価方法、
(4) 母乳が出産直後のものである、(1)に記載の評価方法、
(5) 母乳におけるTh2アジュバント活性を、(1)から(4)のいずれかに記載の方法により評価することを含む、前記母乳がTh2アジュバント活性に起因する疾患を発症させる危険性の評価方法、及び
(6) Th2アジュバント活性に起因する疾患がアトピー性皮膚炎である、(5)に記載の評価方法、を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、母乳におけるTh2アジュバント活性を簡便に評価することが可能となった。これにより、将来乳児がアトピー性皮膚炎を発症する危険性の高い母乳を、特に、出産直後の母乳を検体として、簡便に検査し、同定することが可能となった。本発明は、アトピー性皮膚炎などTh2アジュバント活性に起因する疾患の発症予防に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】PMA処理したTHP−1細胞を、母乳で刺激し、該細胞内のcAMP濃度をELISAにて定量し、Mann−WhitneyのU検定にて解析した結果を示すグラフである。「AD(+)」は、生後6カ月目にアトピー性皮膚炎を発症した群の母乳を示し、「AD(−)」は、生後6カ月目にアトピー性皮膚炎を発症しなかった群の母乳を示す。母乳は、いずれの群においても、生後4日目のものを用いた。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(Th2アジュバント活性評価方法)
本発明のTh2アジュバント活性評価方法は、未熟樹状細胞を母乳で刺激し、該刺激により未熟樹状細胞から分化誘導された成熟樹状細胞を解析することによって、前記母乳が有するTh2アジュバント活性を評価することを含み、必要に応じて適宜選択したその他の工程等を含む。
<未熟樹状細胞の分化誘導>
本発明に用いる未熟樹状細胞は、培養細胞、単球、あるいは幹細胞を未熟樹状細胞に分化誘導することにより調製することができる。
A.培養細胞を未熟樹状細胞に分化誘導する方法
本発明者らは、KG−1細胞を用いてTh細胞に対するアジュバント活性を評価する方法を開発したが(特許文献1)、本発明における、母乳のTh2アジュバント活性の評価においては、特に、ヒト単球系細胞株THP−1細胞(以下、単に「THP−1細胞」という)を用いることが好ましい。
【0015】
THP−1細胞を未熟樹状細胞に分化誘導する方法としては、例えば、THP−1細胞をフォルボールエステル等の分化誘導成分を添加した培地で培養する方法が挙げられる。
【0016】
THP−1細胞を未熟樹状細胞に分化誘導する培地としては、例えば、IMDM、DMEM、RPMI−1640等の培地にFCS等の血清を10〜20%程度含む通常細胞培養液に50ng/mL程度のフォルボール12−ミリスチン酸13−酢酸(以下、「PMA」とする)を添加したものを用いることができる。培地をTHP−1未熟樹状細胞分化誘導液として、THP−1細胞を、37℃、5%CO濃度下で2日間程度で培養し、THP−1細胞を未熟樹状細胞へと分化させることができる。
B.単球を未熟樹状細胞に分化誘導する方法
(I)単球の調製方法
未熟樹状細胞の分化誘導において用いる単球としては、末梢血、臍帯血、骨髄液、及びその他の組織から調製される単球が挙げられる。単球を調製する方法の一例を、以下に説明する。
【0017】
(i)末梢血からの単球の調製方法
末梢血からの単球の調製方法としては、健常個体から末梢血をヘパリン採取し、末梢血からFicoll−Paque等を用いた密度勾配遠心法により単核球層を回収し、末梢血単核球(Peripheral Blood Mononuclear Cells:以下、「PBMCs」とする)を分離し、次いで、PBMCsからCD14細胞を分離する方法が挙げられる。
【0018】
CD14細胞を分離する方法としては、特に制限はなく、公知の方法から適宜選択することができ、例えば、文献(Kalinski P,Hilkens CM,Snijders A,Snijdewint FG, and Kapsenberg ML. IL-12-deficient dendritic cells, generated in the presence of prostaglandin E2, promote type 2 cytokine production in maturing human naive T helper cells. J Immunol 1997 159: 28-35.)に記載された方法を利用することができる。また、市販のCD14細胞分離キット等を用い、抗体標識されたCD14細胞を分離してもよい。CD14細胞分離キットとしては、例えば、MACS Microbeads(Miltenyi Biotec GmbH,Bergisch Gladbach, Germany)が挙げられる。
【0019】
(ii)臍帯血からの単球の調製方法
臍帯血からの単球の調製方法としては、健常個体の正常分娩後に摘出した胎盤にヘパリンを添加した上で、胎盤から臍帯血を採取し、この臍帯血から単核球を分離し、単核球からCD14細胞を分離する方法が挙げられる。臍帯血から単核球を分離し、単核球からCD14細胞を分離する方法としては、例えば、特開2002−69001号公報に記載の方法や前記(i)と同様の方法を利用することができる。
【0020】
(iii)骨髄液からの単球の調製方法
骨髄液からの単球の調製方法としては、健常個体より骨髄液を採取し、骨髄液から単核球を分離し、単核球からCD14細胞を分離する方法が挙げられる。骨髄液から単核球を分離し、単核球からCD14細胞を分離する方法としては、例えば、前記(i)と同様の方法を利用することができる。
【0021】
(iv)組織からの単球の調製方法
単球の調製に用いる組織としては、特に制限はなく、例えば、脾臓、リンパ節、扁桃、及び肝臓などが挙げられる。組織からの単球の調製法としては、健常個体より特定臓器又は特定器官の組織の一部を採取し、組織を無菌的に組織破砕器(tissue grinder)などの適当な器具を用いて単一細胞化した後、破砕液中の細胞破壊物片(debris)を濾過除去し、遠心分離によって主として単一細胞からなる細胞群を得て、細胞群から単核球を分離し、単核球よりCD14細胞を分離する方法が挙げられる。細胞群から単核球を分離し、単核球よりCD14細胞を分離する方法としては、例えば、前記(i)と同様の方法を利用することができる。
(II)調製した単球を未熟樹状細胞に分化誘導する方法
単球を未熟樹状細胞に分化誘導する方法としては、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(以下、「GM−CSF」とする)及びIL−4を介した刺激により、単球を未熟樹状細胞に分化誘導する方法が挙げられ、例えば、特許公報(米国特許第6,479,286号明細書)及び文献(Sallusto F and Lanzavecchia A. Efficient presentation of soluble antigen by cultured human dendritic cells is maintained by
granulocyte/macrophage colony-stimulating factor plus interleukin 4 and downregulated by tumor necrosis factor alpha. J Exp Med. 1994;179:1109-1118)に記載した方法を利用することができる。
【0022】
単球を未熟樹状細胞に分化誘導する際に用いられる培地としては、通常細胞培養液にGM−CSF及びIL−4を添加したもの(以下、「成熟樹状細胞分化誘導液」という)が好ましい。通常細胞培養液としては、例えば、イスコフ培地(以下、「IMDM」とする)、ダルベッコ改変イーグル培地(以下、「DMEM」とする)、RPMI−1640培地等の培地に、牛胎児血清(fetal calf serum:FCS、Fetal bovine serum:FBS)等の10%血清を添加したものが挙げられる。通常細胞培養液に添加するGM−CSF及びIL−4の添加量としては、50〜100ng/mLが好ましく、それぞれ同濃度で添加されることがより好ましい。
【0023】
単球は、成熟樹状細胞分化誘導液を用い、37℃、5%CO濃度の条件下で5〜7日間培養することにより、未熟樹状細胞へと分化させることができる。
【0024】
GM−CSFは、ヒト、またはヒト以外の生物種の組換えタンパク質、あるいはそれらの生体から精製したものであってもよいが、ヒト由来の単球を分化させる場合、ヒト由来のGM−CSFを使用することが好ましい。同様に、他の各生物種の単球に関しては、それと同一の生物種由来のものを使用することが好ましい。
【0025】
IL−4は、ヒト、またはヒト以外の生物種の組換えタンパク質、あるいはそれらの生体から精製したものであってもよい。ヒト由来の単球を分化させる場合、ヒト由来のIL−4を使用することが好ましい。同様に、他の各生物種の単球に関しては、それと同一の生物種由来のものを使用することが好ましい。
C.幹細胞を未熟樹状細胞に分化誘導する方法
幹細胞を未熟樹状細胞に分化誘導する方法としては、例えば、ES細胞を、M−CSF産生能の欠損したフィーダー細胞、またはそれと同程度の機能を有するフィーダー培地と共に通常細胞培養液中で5日程度培養し、GM−CSF等のサイトカインを培養液中に添加してさらに5日間程度培養した後、培養液中の処理済ES細胞を回収し、さらに5〜14日間程度培養する方法が挙げられる。M−CSF産生能の欠損したフィーダー細胞としては、例えば、マウスOP90を用いることができる。
<成熟樹状細胞の分化誘導>
分化誘導により得られた未熟樹状細胞に、母乳を加えて培養することにより、母乳の刺激で未熟樹状細胞を成熟樹状細胞に分化誘導させることができる。
【0026】
未熟樹状細胞を刺激する母乳としては特に制限はないが、後述するアトピー性皮膚炎などTh2アジュバント活性に起因する疾患の発症危険性評価の検体として利用する場合には、出産直後のものであることが好ましい。ここで「出産直後」とは、出産後2週間以内、好ましくは1週間以内(例えば、4日以内)を意味する。
【0027】
未熟樹状細胞を成熟樹状細胞に分化誘導させる培養には、未熟樹状細胞の分化誘導おいて用いた通常細胞培養液を用いることができる。通常細胞培養液に、母乳と未熟樹状細胞とを混合した成熟樹状細胞分化誘導液中で、37℃、5%CO濃度下で30分から3時間程度培養する。このとき、通常細胞培養液と未熟樹状細胞のみからなり、母乳を加えない培養液(以下、「成熟樹状細胞分化対照液」という)を同時に調製し、成熟樹状細胞分化誘導液と同条件で培養してもよい。培養に用いる未熟樹状細胞の細胞数は、通常細胞培養液300μLに対して、1×10個程度が好ましい。
<成熟樹状細胞の解析>
分化誘導により得られた成熟樹状細胞の解析においては、特に、成熟樹状細胞の分化の質が解析される。ここで「成熟樹状細胞の分化の質」とは、成熟樹状細胞分化誘導液中に含まれる成熟樹状細胞のサブセットの比率を意味し、具体的には、DC1、DC2、DC17、及びDCrの比率を意味する。例えば、DC2の特性がみられる成熟樹状細胞の比率が高い場合、用いた母乳が、Th2アジュバント活性を有すると評価される。このTh2アジュバント活性の強さは、成熟樹状細胞のサブセットの比率の偏りの程度(Th2への傾きの強さ)又は成熟樹状細胞のMLR誘導活性の強さ(MLR誘導によるTh細胞の増殖応答の強さ)の測定により評価することができる。本発明における「Th2アジュバント活性の評価」は、Th2アジュバント活性の有無の評価及び該活性の強さ(程度)の評価の双方を含む意である。
【0028】
成熟樹状細胞の分化の質を解析する実施形態としては、例えば、成熟樹状細胞の細胞内cAMP濃度の測定、成熟樹状細胞の表面抗原の測定、成熟樹状細胞が産生する液性因子の測定、及び成熟樹状細胞のナイーブCD4T細胞に対する分化誘導活性の評価などが挙げられる。成熟樹状細胞の表面抗原の測定においては、例えば、Notchリガンド発現プロファイル(特に、デルタ1/デルタ4遺伝子の発現量比)を測定することが好ましい。また、ナイーブCD4T細胞に対する分化誘導活性の評価は、例えば、成熟樹状細胞によって分化誘導されたTh細胞のタイプの判定や、成熟樹状細胞により分化誘導されたTh細胞のMLR(Mixed Lymphocyte Reaction)誘導による増殖応答の強さの測定、により行うことができる。
【0029】
以下、成熟樹状細胞の分化の質を解析する各実施形態を説明する。
〔cAMP濃度の測定〕
分化誘導により得られた成熟樹状細胞の細胞内cAMP濃度を測定し、その結果に基づいて成熟樹状細胞の分化の質を判定することにより、母乳のTh2アジュバント活性を評価することができる。
【0030】
細胞内cAMP濃度の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、cAMP感受性蛍光色素を用い、該蛍光色素の蛍光強度を測定する方法が挙げられる。この測定には、CatchPointTM Cyclic-AMP Fluorescent Assay Kit(Molecular Devices社製)等の市販のキットを使用してもよい。
【0031】
本態様においては、成熟樹状細胞分化誘導液由来の樹状細胞と成熟樹状細胞分化対照液由来の樹状細胞の各々の細胞内cAMP濃度を測定し、それらの濃度の差異(変化)に基づいて、母乳のTh2アジュバント活性を評価することができる。例えば、成熟樹状細胞分化誘導液中の樹状細胞内のcAMP濃度が、成熟樹状細胞分化対照液中(無刺激)の成熟樹状内のcAMP濃度よりも高いとき(好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上、さらに好ましくは5倍以上であるとき)、成熟樹状細胞の分化の質(サブセット)はDC2であると判定され、母乳がTh2アジュバント活性を有すると評価することができる。
〔表面抗原の測定〕
分化誘導により得られた成熟樹状細胞の細胞表面に発現した表面抗原を測定し、その結果に基づいて成熟樹状細胞の分化の質を判定することにより、母乳のTh2アジュバント活性を評価することができる。本態様においては、培養後の成熟樹状細胞分化誘導液中及び成熟樹状細胞分化対照液中に含まれる成熟細胞の表面抗原をそれぞれ測定し、比較してもよい。ここで「表面抗原の測定」とは、表面抗原の検出、同定、及び定量の少なくともいずれかを行うことをいう。
【0032】
測定される表面抗原としては、成熟樹状細胞が種々のサブセットで特異的に発現する表面抗原、及び種々のサブセットによって発現比率が異なる表面抗原であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。測定される表面抗原としては、前記Nocthリガンド(Jagged、Delta(デルタ))の他、例えば、CD80、CD83、CD86、HLA−DR、OX40L等が挙げられる。
【0033】
表面抗原の測定方法としては、例えば、成熟樹状細胞分化誘導液由来の樹状細胞と、成熟樹状細胞分化対照液由来の樹状細胞のそれぞれに対して、表面抗原を特異的に認識する蛍光抗体によって抗体染色をする方法が挙げられる。蛍光抗体としては、FITC(fluorescein isothiocyanate)やPE(Phycoerythrin)等で標識された市販の適当な表面抗原抗体を使用してもよい。
【0034】
抗体染色した各樹状細胞における細胞表面上の表面抗原の発現量は、フロー・サイトメトリー(flow cytometry:以下FCMという)を利用して測定することができる。FCM解析法は、FACS(Becton Dickinson社製)等の市販の機器を用いて行ってもよい。
【0035】
また、表面抗原の測定においては、成熟樹状細胞中の表面抗原遺伝子(mRNA)の発現を検出し、該表面抗原遺伝子の発現量を測定する方法を利用することもできる。表面抗原遺伝子の発現量を測定する方法としては、特に制限はなく、公知の方法から適宜選択することができ、例えば、RT−PCR法、リアルタイムRT−PCR法、蛍光物質及び放射性同位元素等を標識とした定量的RT−PCR法、cDNAマイクロアレイを用いる方法、Northern blot法が挙げられる。なお、RT−PCR法により増幅された表面抗原遺伝子を定量する方法としては、例えば、内部標準となる遺伝子量に対する相対値として評価する方法、検量線を設定することによって絶対的定量を行う方法が挙げられる。
【0036】
以下、好ましい態様であるNotchリガンドの発現プロファイルの解析について、より詳細に説明する。
【0037】
表面抗原の解析が、成熟樹状細胞のNotchリガンド発現プロファイルの解析の場合、特に、Notchリガンドとして、デルタ1遺伝子及びデルタ4遺伝子の発現量を定量し、両遺伝子の発現量比を求めることが好ましい。求めた発現量比に基づき、成熟樹状細胞の分化の質(サブセット)を判定し、前記母乳のTh2アジュバント活性を評価することができる。ここで「デルタ1遺伝子及びデルタ4遺伝子の発現」とは、これら遺伝子の転写レベルにおける発現及び翻訳レベルにおける発現の双方を含む意である。
【0038】
転写レベルで発現量を定量する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、RT−PCR法、リアルタイムRT−PCR法、蛍光物質及び放射性同位元素等を標識とした定量的RT−PCR法、cDNAマイクロアレイを用いる方法、Northern blot法が挙げられる。なお、増幅された遺伝子を定量する場合、例えば、内部標準となる遺伝子量に対する相対値として、あるいは検量線を設定することによる絶対値として、評価することができる。
【0039】
翻訳レベルで発現量を定量する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、Western blotting法が挙げられる。
【0040】
定量の結果、成熟樹状細胞分化誘導液中の樹状細胞の(デルタ1遺伝子発現量)/(デルタ4遺伝子発現量)の値が、成熟樹状細胞分化対照液中の前記成熟樹状細胞よりも大きいとき、あるいは(デルタ1遺伝子発現量)/(デルタ4遺伝子発現量)の値が10以上であるとき、成熟樹状細胞の分化の質(サブセット)はDC2であると判定され、母乳がTh2アジュバント活性を有すると評価することができる。
〔液性因子の測定〕
分化誘導された成熟樹状細胞によって産生される液性因子を測定し、その結果に基づいて成熟樹状細胞の分化の質を判定することにより、母乳のTh2アジュバント活性を評価することができる。本態様においては、培養後の成熟樹状細胞分化誘導液及び成熟樹状細胞分化対照液中に含まれる液性因子をそれぞれ測定し、比較してもよい。ここで「液性因子の測定」とは、液性因子の検出、同定、及び定量の少なくともいずれかを行うことをいう。
【0041】
液性因子の測定対象としては、成熟樹状細胞分化誘導液及び成熟樹状細胞分化対照液をそのまま使用してもよく、遠心分離、又は濾過することにより成熟樹状細胞分化誘導液及び成熟樹状細胞分化対照液から成熟樹状細胞や不溶物を除いた溶液を使用してもよく、さらには成熟樹状細胞自体であってもよい。
【0042】
成熟樹状細胞分化誘導液及び成熟樹状細胞分化対照液中に含まれる液性因子の測定方法としては、目的の液性因子を特異的に定量可能である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、ELISA法による定量、SDS−PAGEによる分画後、Western blotting法により検出して定量する方法、Bio-Plex(BIO-RAD社製)を用いる方法が挙げられる。また、液性因子の測定においては、成熟樹状細胞中の液性因子mRNA量の発現量を、RT−PCR等により測定してもよい。
【0043】
測定される液性因子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、成熟樹状細胞が種々のサブセットで特異的に産生する液性因子、種々のサブセットによって産生能が異なる液性因子であることが好ましい。このような液性因子としては、例えば、DC1が産生するIL−12p70、IL−23、DC2が産生するIL−12p40、IL−18、MDC、TARC、CCL1、CCL2、DCrが産生するTGF−β、並びにDC2及びDCrが産生するIL−10が挙げられる。
【0044】
既知の成熟樹状細胞サブセットと前記液性因子産生能との関係に基づいて、液性因子の測定結果から成熟樹状細胞の分化の質(サブセット)を判定し、判定した成熟樹状細胞の分化の質から母乳のTh2アジュバント活性を評価することができる。
〔Th細胞のタイプの判定〕
成熟樹状細胞の解析は、成熟樹状細胞の作用によってナイーブCD4T細胞から分化誘導されたTh細胞のタイプを判定することにより行うことができる。Th細胞のタイプは、Th細胞の培養上清におけるサイトカイン(ケモカインを含む。以下、同様)の測定や、Th細胞におけるケモカインレセプターの発現の測定により、判定することができる。
【0045】
ナイーブCD4T細胞の調製には、PBMCsを用いることができる。PBMCsは、ヒト由来のものが好ましいが、ヒト以外の哺乳動物由来のものであってもよい。例えば、ブタ由来であるゼノPBMCsであってもよい。これらのPBMCsは、末梢血液から分離されたものであってもよい。
【0046】
ナイーブCD4T細胞の調製で用いるヒト由来のPBMCsは、HLA−DRタイピングによってアロ(同種異型)PBMCsであることを事前に確認したものであってもよい。HLA−DRタイピングは、HLA−DRB1に関して行うことが好ましい。また、HLA−DRタイピングには、市販のHLA−DR遺伝子型タイピング試薬を用いることができる。
【0047】
ナイーブCD4T細胞の調製において、PBMCsからナイーブCD4T細胞を分離するために、ネガティブ選択法を用いてもよい。ネガティブ選択法においては、まず、PBMCsより抗体非標識CD4T細胞を分離する。MACS Microbeads(Miltenyi Biotec GmbH,Bergisch Gladbach, Germany)の抗CD8、抗CD14、抗CD16、抗CD19、抗CD36、抗CD123、抗TCRγ/δ、抗CD235a等の抗体マイクロビーズカクテルからなる市販のCD4T細胞分離キットを用いて、CD4T細胞を分離してもよい。続いて、分離した抗体非標識CD4T細胞よりCD45ROT細胞を分離する。CD45ROT細胞は、MACS Microbeads(Miltenyi Biotec GmbH,Bergisch Gladbach, Germany)のCD45ROT細胞分離キットを用いてCD45ROT細胞を除去することによって分離してもよい。この方法により、最終的に得られた抗体非標識CD4CD45ROT細胞を、ナイーブCD4T細胞として用いることができる。CD4CD45ROT細胞は、文献(Kalinski P, Schuitemaker JH, Hilkens CM and Kapsenberg ML. Prostaglandin E2 induces the final maturation of IL-12-deficient CD1a+CD83+ dendritic cells: the levels of IL-12 are determined during the final dendritic cell maturation and are resistant to further modulation. J Immunol. 1998;161:2804-2809)に記載の方法により分離することもできる。
【0048】
Th細胞の分化誘導は、分化誘導された樹状細胞とナイーブCD4T細胞との共培養によって、ナイーブCD4T細胞に対して、混合リンパ球培養反応(MLR)を誘導させると共に、分化圧を加えることにより行うことができる。
【0049】
樹状細胞とナイーブCD4T細胞との共培養は、一般的な培養細胞培養条件下で行うことができる。例えば、IMDM、DMEM、RPMI−1640培地などの市販の適当な培地に、10%FCSまたはFBSを添加した通常培養液を用いて、37℃、5%CO濃度下で培養してもよい。成熟樹状細胞とナイーブCD4T細胞との共培養の期間は、6〜8日間程度が好ましい。具体的には、非特許文献2に記載の方法により共培養することができる。
【0050】
分化誘導されたTh細胞に、シグナル1(CD3、及びカルシウムイオノフォア等を介した刺激)及びシグナル2(CD28、及びフォルボルエステルアセテート等を介した刺激)を惹起させることにより、Th細胞にサイトカインを産生させることができる。
【0051】
Th細胞としては、MLR誘導により増殖させたTh細胞を用いることができる。サイトカイン産生刺激は、Th細胞においてシグナル1及びシグナル2の少なくともいずれかを惹起させる刺激であればよい。例えば、抗CD3モノクローナル抗体(以下anti−CD3mAbとする)と抗CD28モノクローナル抗体(以下anti−CD28mAbとする)を用いて、それぞれシグナル1とシグナル2を惹起させてもよい。Th細胞に、通常培養液に両シグナルを惹起させるための物質を加えた培養液(これを「サイトカイン産生培養液」という)及び当該物質を加えない以外はサイトカイン産生培養液と同一組成の培養液(これを「サイトカイン産生対照液」という)をそれぞれ別個に加え、適当な条件下で(例えば、37℃、5%CO濃度下で16時間)培養し、(A)産生されたサイトカイン、あるいは(B)Th細胞において発現するケモカインレセプター、を測定することで、Th細胞の分化の質を判定することができる。
(A)サイトカイン測定
Th1細胞が産生するサイトカインとしては、例えば、IFN−γ、TNF−βが挙げられ、Th2細胞が産生するサイトカインとしては、例えば、IL−4、IL−5、IL−6、IL−10、IL−13が挙げられ、Th17細胞が産生するサイトカインとしては、例えば、IL−17、CXCL13が挙げられ、Tr細胞が産生するサイトカインとしては、例えば、IL−10、TGF−βが挙げられる。
【0052】
測定されるサイトカインとしては、IL−4、IL−5、IL−6、IL−10、IL−13、IL−17、CXCL13、IFN−γ、TNF−α、TNF−β、TGF−β、及びGM−CSFの少なくともいずれかが好ましいが、これらに限定されるものではなく、分化したTh細胞が産生する他のサイトカインであってもよい。
【0053】
サイトカインの測定には、サイトカイン産生培養液及びサイトカイン産生対照液中をそのまま使用してもよいし、サイトカイン産生培養液及びサイトカイン産生対照液の遠心分離や濾過によって得られる上清を使用してもよい。
【0054】
サイトカインの測定は、各サイトカインを特異的に認識する抗体を利用したELISA法によって行ってもよい。または、SDS−PAGEによる分離後、それぞれの因子を特異的に認識する抗体を利用したWestern blotting法によって検出し定量することもできる。Bio-Plex(BIO-RAD社)もしくはそれと類似の分析システムを有する製品によって定量してもよい。
【0055】
Th細胞の分化の質は、サイトカイン産生培養液中(また、場合によってはサイトカイン産生対照液中)における各々のサイトカイン(Th1細胞、Th2細胞、Th17細胞、Tr細胞等によって産生されるサイトカイン)の測定結果を比較し、各々のサイトカイン量の差異(変化)を解析することによって判定することができる。また、各々のサイトカインの量比から判定することもできる。Th2アジュバント活性は、例えば、Th1細胞が産生するサイトカイン量とTh2細胞が産生するサイトカインケモカインレセプター量との比(例えば、IL−5/IFN−γ)に基づいて、評価することができる。
(B)ケモカインレセプター測定
Th1細胞が発現するケモカインレセプターとしては、例えば、CXCR3、CCR5が挙げられ、Th2細胞が発現するケモカインレセプターとしては、例えば、CCR4、CRTH2、CCR8が挙げられ、Th17細胞が発現するケモカインレセプターとしては、例えば、CCR6が挙げられる。
【0056】
測定されるケモカインレセプターとしては、CXCR3、CCR5、CCR4、CRTH2、CCR8、CCR6の少なくともいずれかが好ましいが、これらに限定されるものではなく、分化したTh細胞が発現する他の1種以上のケモカインレセプターであってもよい。
【0057】
ケモカインレセプターの測定方法としては、例えば、前記した表面抗原の測定方法と同様の方法を利用することができる。
【0058】
Th2アジュバント活性は、例えば、Th1細胞が発現するケモカインレセプターとTh2細胞が発現するケモカインレセプターとの発現量比から、評価することができる。
〔Th細胞のMLR誘導による増殖応答の強さの測定〕
成熟樹状細胞の解析は、成熟樹状細胞により分化誘導されたTh細胞のMLR誘導による増殖応答の強さを測定することにより行うことができる。Th細胞のMLR誘導による増殖応答の強さから、成熟樹状細胞のMLR誘導活性の強さを評価することができる。本態様において用いるナイーブCD4T細胞の調製は、前記した通りであり、Th細胞の分化誘導は、以下に説明する以外の操作は、前記した通りである。
【0059】
Th細胞の分化誘導のために、樹状細胞とナイーブCD4T細胞の共培養を行う際には、対照試料として、樹状細胞を含まないこと以外は共培養を行う試料と同一である試料を対照試料として同時に調製し、同一条件下で培養してもよい(ここで、共培養を行う試料とその対照試料をそれぞれ「MLR誘導試料」と「MLR誘導対照試料」と称する)。
【0060】
MLR誘導によるTh細胞の増殖応答を評価するために、細胞に放射性同位体と取り込ませた後、シンチレーション・カウンターで測定する手法を利用することができる。この場合は、MLR誘導試料とMLR誘導対照試料を、適当な条件(例えば、37℃、5%CO濃度下で5〜6日間)で培養した後、培養液にトリチウム−チミジン(以下、「3H−チミジン」とする)を添加する。続いて、3H−チミジンをナイーブCD4T細胞、あるいはTh細胞に取り込ませるために、それまでと同一の条件でさらに培養する。添加後の培養期間は、4時間から1日程度が好ましい。続いて、それぞれの試料中の細胞を遠心によって回収し、細胞内に取り込まれた3H−チミジン以外の3H−チミジンを除くため、バッファー等で十分に洗浄する。洗浄後の各試料中の細胞における3H−チミジンの取り込みは、例えば、適当なシンチレータを試料に加え、液体シンチレーション・カウンターを用いて測定することができる。
【0061】
MLR誘導試料中の細胞とMLR誘導対照試料中の細胞のトリチウム強度を比較し、MLR誘導による増殖応答の強さ(細胞数の一次微分値)を算出することによって、母乳のTh2アジュバント活性を評価することができる。
(Th2アジュバント活性に起因する疾患を発症させる危険性の評価方法)
本発明のTh2アジュバント活性に起因する疾患を発症させる危険性の評価方法は、母乳におけるTh2アジュバント活性を、上記本発明のTh2アジュバント活性評価方法により評価することを含む。本発明において「Th2アジュバント活性に起因する疾患」とは、生体内におけるTh2細胞の過剰活性化で、Th細胞の機能の平衡状態が崩れることによって発症する疾患を言う。本発明の危険性評価方法において、危険性評価の対象となる疾患としては、Th2アジュバント活性に起因して発症するものである限り、特に制限はないが、好ましくは、アトピー性皮膚炎である。また、本発明において「疾患を発症させる危険性の評価」とは、疾患を発症させる危険性の有無の評価及び該危険性の程度の評価の双方を含む意である。
【0062】
本発明の危険性評価方法においては、母乳を上記Th2アジュバント活性評価方法により評価した結果、母乳にTh2アジュバント活性があると評価された場合、その母乳は、Th2アジュバント活性に起因する疾患を発症させる危険性があると評価される。本発明の危険性評価方法においては、Th2アジュバント活性を評価する対照として、Th2アジュバント活性に起因する疾患を発症していない乳児の母乳における当該活性の値を用いることができる。成熟樹状細胞分化誘導液中の樹状細胞内のTh2アジュバント活性が、対照値のTh2アジュバント活性よりも高いとき(好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上、さらに好ましくは5倍以上であるとき)、母乳検体にTh2アジュバント活性があると評価される。この評価に基づいて、乳児における、Th2アジュバント活性に起因する疾患の発症を予防することが可能である。
【実施例】
【0063】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1) 成熟樹状細胞内のcAMP濃度を指標とした母乳におけるTh2アジュバント活性の評価
THP-1細胞をPMA50ng/mlで2日間刺激した。PMAで処理したTHP-1細胞(DC-like line)を母乳で30分間刺激し、細胞内のcAMP濃度をELISAにて定量した。定量に用いた母乳は、生後6ヶ月の時点でアトピー性皮膚炎を発症した群(AD(+))55例及び発症しなかった群(AD(-))55例の生後4日目における母乳である。
【0065】
定量した結果をMann-WhitneyのU検定にて解析した。アトピー性皮膚炎患者が、生直後に摂取した母乳は、Th2アジュバント活性の指標の一つであるcAMP濃度が有意に高い値を示した。
【0066】
なお、「PMAで処理したTHP-1細胞+母乳」のcAMP濃度から「母乳のみ」のcAMP濃度を引いた値を、PMA処理したTHP-1細胞の細胞内に誘導されたcAMP濃度とした。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上説明したように、本発明によれば、母乳のTh2アジュバント活性を簡便に評価することが可能となる。これにより、母乳が、乳児に対して、アトピー性皮膚炎などのTh2アジュバント活性に起因する疾患を発症させる危険性の評価が可能となり、これら疾患の発症の予防に、大きく貢献するものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未熟樹状細胞を母乳で刺激し、該刺激により前記未熟樹状細胞から分化誘導された成熟樹状細胞を解析することにより、前記母乳が有するTh2アジュバント活性を評価することを特徴とする、母乳のTh2アジュバント活性の評価方法。
【請求項2】
成熟樹状細胞の解析が、前記成熟樹状細胞の細胞内cAMP濃度を測定することにより行われる、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
未熟樹状細胞がヒト単球系細胞株THP−1細胞由来である、請求項1に記載の評価方法。
【請求項4】
母乳が出産直後のものである、請求項1に記載の評価方法。
【請求項5】
母乳におけるTh2アジュバント活性を、請求項1から4のいずれかに記載の方法により評価することを含む、前記母乳がTh2アジュバント活性に起因する疾患を発症させる危険性の評価方法。
【請求項6】
Th2アジュバント活性に起因する疾患がアトピー性皮膚炎である、請求項5に記載の評価方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−252757(P2010−252757A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109586(P2009−109586)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年10月30日 社団法人日本アレルギー学会発行の「アレルギー((第58回日本アレルギー学会秋季学術大会号)Vol.57 No.9・10 2008)」に発表
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】