説明

母乳中の総IgA濃度および/または抗原特異的IgA抗体価を増加させる医薬および栄養組成物

【課題】 母乳中の総IgA濃度および/または抗原特異的IgA抗体価を増加させることで、消化管における感染防御効果を増強し、あるいは新生児のアレルギー発症を予防することを可能とする、安全性に優れ日常的に汎用できる医薬および栄養組成物を提供する
【解決手段】 下記一般式(I)で表されるフラクトオリゴ糖を有効成分とするIgA産生増強剤である。:Glucosyl(1→2)(fructosyl)nβ(2→1)fructose (I)(式中、nは、1〜3である。)。当該IgA産生増強剤は、妊産婦・授乳婦用栄養組成物として、例えば妊産婦・授乳婦用粉乳、妊産婦・授乳婦用食品等に配合して利用できる他、周産期動物用飼料への利用が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性に優れ日常的に汎用でき且つ母乳中の総IgA濃度および/または抗原特異的IgA抗体価を増加させる医薬および栄養組成物を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
ヒトおよび哺乳類の乳汁、すなわち母乳には分泌型IgAが含まれている。分泌型IgAは血清中のIgAとは異なり、J鎖を含んだ二量体(dimeric IgA)と多量体免疫グロブリンレセプター(pIgR:polymeric immunoglobulin receptor)の細胞外ドメイン(secretory component:SC)が結合した形で存在している。IgAには可変部と呼ばれる抗原結合部位が存在し、細菌、ウイルスなどの微生物や食物タンパクをはじめとする様々な外来抗原に結合し、それらが腸管の粘膜面から生体内へ侵入するのを防いでいる。出産後母体外に出た新生児の免疫機構は未成熟であり不十分であるために、感染症に対するリスクが非常に高い。そのため、母乳中のIgAは新生児の腸管において生体防御に重要な役割を担っている。
【0003】
例えば、母乳中IgAの抗体価の評価結果から、母乳中にはTetanus bacillus、Hemophilus pertussis、Diprococcus pneumoniae、Corynebacterium diphtheriae、enteropathogenic E. coli、Salmonella、Shigella、staphylolysin、streptolysin、Polio viruses 1,−2,−3、Coxsackie B1,−B5,−B9、ECHO viruses 6,−9、Influenza virusesなど多くの細菌やウイルスなどに対する抗原特異的なIgAが含まれている(非特許文献1)。母乳中のIgAが感染防御に働くことは疫学調査によっても確認されており、例えば母乳中のHelicobacter pylori特異的IgAがHelicobacter pylori感染を予防することが示唆されている(非特許文献2)。また、母乳中の牛乳タンパク質特異的IgAが牛乳アレルギーの発症を予防する可能性も示唆されている(非特許文献3)。さらに、母乳中IgAにはVibrio choleraeのenterotoxinに対する特異的IgAが含まれており、抗毒素作用を発揮する可能性も示唆されている(非特許文献1)。
【0004】
したがって、母乳中の抗原特異的IgA抗体価を増加することができれば、母乳を摂取する新生児の消化管における感染防御効果を増強し、あるいは新生児のアレルギー発症を予防できると考えられる。
【0005】
母乳中の抗原特異的IgA抗体価を増加させる方法としては、ブタにおいて細菌やウイルスに対するワクチンを経口、または乳腺に直接投与する方法が検討されている。しかし、ヒトにおいては未だ実用化の段階には無く、安全性の面からも課題が残されている(非特許文献4)。そこで、ヒト母乳中のIgAを増加させる、より安全な方法として食品成分を用いる方法が考案されているが、これらの効果は母乳中の総IgA量を増加させる例に限られており、細菌やウイルスなどに対する抗原特異的なIgA抗体価を増加させた例は見あたらない。すなわち、これまでに妊娠ブタにカゼインフォスフォペプチド分離物(CPP−I)を投与することで、ブタ乳中の総IgA濃度が1.5倍に増加すること(非特許文献5)、および妊婦への魚油の投与が母乳中の総IgA濃度を増加させる可能性(非特許文献6)が示されているに過ぎない。
【非特許文献1】母乳哺育、p324〜p336、(1983)、加藤英夫ら編、メディアサイエンス社
【非特許文献2】Lancet、vol 342、p121、(1993)、JE Thomasら
【非特許文献3】J Allergy Clin Immunol、vol 77、p341〜p347、(1986)、Machtinger S and Moss R
【非特許文献4】Adv Exp Med Biol、vol 480、p279−286、(2000)、H Salmon
【非特許文献5】Milchwissenschaft、vol 57、p486−489、(2002)、H Kitamuraら
【非特許文献6】Clin Exp Allergy、vol 34、p1237−1242、(2004)、JA Dunstanら
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の様に、母乳中の総IgA濃度および/または抗原特異的IgA抗体価を増加させる安全性の高い方法は未だ実用化段階には無い。一方、近年、新生児に対する母乳哺育の有効性が明らかになるに連れ、世界的に母乳哺育が推進されており、母乳中の感染防御成分の濃度を高める方法を開発することは、母乳を授乳する新生児の健康維持に貢献する上でも意義深い。
【0007】
従って、本発明は、母乳中の総IgA濃度および/または抗原特異的IgA抗体価を増加させることで、母乳を授乳する新生児の消化管における感染防御効果を増強し、あるいは新生児のアレルギー発症を予防することを可能とする、安全性に優れ日常的に汎用できる医薬および栄養組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題について鋭意検討したところ、本発明者等は特定種類のフラクトオリゴ糖を有効成分として含むIgA産生増強剤を周産期のマウスに投与することで、授乳期間の2/3以上の期間において乳中の総IgA濃度および抗原特異的IgA抗体価が増加することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、ある特定種類のフラクトオリゴ糖を主成分とする医薬および栄養組成物を提供することで、上記課題を解決することが可能となった。
【0010】
本発明のある態様としては、下記一般式(I)で表されるフラクトオリゴ糖を有効成分とするIgA産生増強剤である:
Glucosyl(1→2)(fructosyl)nβ(2→1)fructose (I)(式中、nは、1〜3である。)。
【0011】
上記のフラクトオリゴ糖としては、Glucosyl(1→2)fructosylβ(2→1)fructose(1−ケストース)、Glucosyl(1→2)(fructosyl)2β(2→1)fructose(ニストース)およびGlucosyl(1→2)(fructosyl)3β(2→1)fructose(1F−β−フラクトフラノシルニストース)から選択される少なくとも1種以上を含んでなる混合物であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の別の態様としては、上記一般式(I)で表されるフラクトオリゴ糖を有効成分とするIgA産生増強剤の有効量を含有せしめた妊産婦・授乳婦用栄養組成物である。
【0013】
上記の態様においては、有効成分のフラクトオリゴ糖量が固形物重量に対して0.1〜70重量%であることが好ましい。また、有効成分のフラクトオリゴ糖量が0.1〜30g/日であることが好ましい。
【0014】
本発明によるIgA産生増強剤は、妊産婦・授乳婦用栄養組成物として、例えば妊産婦・授乳婦用粉乳、妊産婦・授乳婦用食品等に配合して利用できる他、周産期動物用飼料への利用が可能である。
【発明の効果】
【0015】
上記した本発明の構成によるIgA産生増強剤は、使用法が簡便であり且つ高い効果を示し、母乳中の総IgA濃度および/または抗原特異的IgA抗体価を増加させることができる。すなわち、特定種類のフラクトオリゴ糖を含有する増強剤を摂取させることで、母乳中の総IgA濃度および/または抗原特異的IgA抗体価を増加させ、その結果、授乳する新生児の消化管における感染防御効果を増強し、あるいは新生児のアレルギー発症を予防することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態には限定されない。
【0017】
本発明で用いるフラクトオリゴ糖は、フラクトースが2分子以上連結した構造をもつオリゴ糖で、一般式(I)で表される。
Glucosyl(1→2)(fructosyl)nβ(2→1)fructose(I)(式中、nは、1〜3である。)
【0018】
一般式(I)において、n=1のフラクトオリゴ糖として1−ケストース(GF2)、n=2のフラクトオリゴ糖としてニストース(GF3)、そしてn=3のフラクトオリゴ糖として1F−β−フラクトフラノシルニストース(GF4)があげられる。本発明の有効成分であるフラクトオリゴ糖は、GF2、GF3、およびGF4から選択される少なくとも1種以上を含む混合物であることが好ましく、GF2を含むことがより好ましい。
【0019】
本発明で用いるフラクトオリゴ糖の混合物の構成比(重量)としては、本発明はこれには限定されないが、グルコースおよびショ糖が0〜5%、GF2が29〜41%、GF3が44〜56%、GF4が6〜14%であることが好ましい。
【0020】
本発明に用いるフラクトオリゴ糖は化学合成品でもよく、または、ショ糖を原料とし転移酵素(Aureobacidium、Aspergillusなどのカビのβ−fructo−furanosidase)を用いて大量生産され、市販されているものを用いることも出来る。例えば、メイオリゴ(登録商標)(明治製菓、日本)、ACILIGHT(登録商標)(Beghin Meiji−France)、NUTRAFLORA(登録商標)(GTC Nutrition Company−U.S.A)等があげられる。
【0021】
一般式(I)で表されるフラクトオリゴ糖を有効成分とするIgA産生増強剤は、フラクトオリゴ糖それ自身(液状または粉末状)で、また、他の活性物質と共に、あるいは他の薬理学的な活性物質と共に用いることができる。形態は、例えば、錠剤、被覆錠、カプセル剤、顆粒剤、散剤、溶液、シロップ剤、乳液または分散性粉末による経口投与を挙げることができる。これらの各種製剤は、常法に従って主薬である本発明のIgA産生増強剤に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。
【0022】
本発明によるIgA産生増強剤の摂取量としては、妊産婦または授乳婦の年齢、身体状態等に依存して変化するが、通常、フラクトオリゴ糖として20〜300mg/kg体重、好ましくは20〜100mg/kg体重であることが好ましい。
【0023】
一般式(I)で表されるフラクトオリゴ糖を含有するIgA産生増強剤は、妊産婦・授乳婦用栄養組成物として、例えば妊産婦・授乳婦用粉乳、妊産婦・授乳婦用食品等に配合して利用できる他、周産期動物用飼料への利用が可能である。また本発明の薬剤を含有する特定保健用食品等の特別用途食品や栄養機能食品として直接摂取することにより母乳中の総IgA濃度および/または抗原特異的IgA抗体価の増強効果を簡便に得ることができる。
【0024】
一般式(I)で表されるフラクトオリゴ糖を含有するIgA産生増強剤は、妊産婦・授乳婦用食品組成物中に、有効成分のフラクトオリゴ糖量が固形物重量に対して0.1〜70重量%含むように調整することが好ましい。
【0025】
栄養組成物として使用する場合には、具体的には、各種飲食品(牛乳、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、妊産婦・授乳婦用粉乳等食品、栄養食品等)に本発明の薬剤を添加し、これを摂取してもよい。本有効成分をそのまま使用したり、他の食品ないし食品成分と混合したりするなど、通常の栄養組成物における常法にしたがって使用できる。また、その性状についても、通常用いられる飲食品の状態、例えば、固体状(粉末、顆粒状その他)、ペースト状、液状ないし懸濁状のいずれでもよい。
【0026】
その他の成分についても特に限定されないが、本発明の薬剤を含有する栄養組成物には、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等を主成分として使用することができる。タンパク質としては、例えば全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、α―カゼイン、β―カゼイン、κ−カゼイン、β―ラクトグロブリン、α―ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、これら加水分解物;バター、乳性ミネラル、クリーム、ホエイ、非タンパク態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖等の各種乳由来成分などが挙げられる。糖質としては、糖類、加工澱粉(テキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維などが挙げられる。脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられ、ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用することができ、合成品及び/又はこれらを多く含む食品を用いてもよい。
【0027】
フラクトオリゴ糖を有効成分とするIgA産生増強剤の栄養組成物中に含ませるべき有効量は、成人で有効成分のフラクトオリゴ糖量として0.1〜30g/日、好ましくは0.5〜11g/日である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
〈材料および方法〉
実験動物は、雌BALB/cマウス(SLC社)を用いた。マウスはSLC社にて繁殖および飼育した。本発明のフラクトオリゴ糖を有効成分とするIgA産生増強剤としては、メイオリゴP(登録商標、明治製菓株式会社製、1−ケストース、ニストース、1F−β−フルクトフラノシルニストースの混合物、純度95%以上)またはメイオリゴCR(1−ケストース、純度97%以上)を用いた。
【0029】
妊娠0日目(プラグ確認日)のBALB/cマウスを2群(n=6〜11)に分け、カゼイン精製飼料(AIN−93G、10Glyにてγ線滅菌済み。)、またはカゼイン精製飼料に含まれるショ糖の5%を上記フラクトオリゴ糖(メイオリゴPまたはメイオリゴCR)に置き換えた飼料(以下「実験飼料(フラクトオリゴ糖)」、または「実験飼料(ケストース)」と称す。)を自由摂取により投与した。
【0030】
出産後、母マウス1匹当たりの仔マウスの匹数を6〜8匹に合わせ、更に前記のカゼイン精製飼料、または実験飼料(フラクトオリゴ糖)を継続して投与した。飲水は水道水を自由摂取させた。出産7日目および14日目に母マウスから乳を採取した。
【0031】
乳の採取(搾乳)は以下の手順で行った。即ち、搾乳の8〜12時間前に仔を母マウスから離し貯乳させ、搾乳の15分前にオキシトシン1単位を皮下注射した。エーテル麻酔下またはイソフルラン麻酔下にて手指で乳首を刺激し、キャピラリー管で母乳を採取した得られた乳は−40℃で保存した。
【0032】
総IgA濃度の測定は以下の方法により行った。抗マウスIgA抗体(Pharmingen 556969)を0.15Mリン酸緩衝溶液(PBS)で500倍希釈し、96ウェルマイクロプレート(Nunc439454)の各ウェルに希釈した抗体を100μlずつ入れ4℃で一晩静置した。翌日各ウェルを、0.1%Tweenを含む0.01M PBSで洗浄後、1%ウシ血清アルブミン溶液でブロッキングした。マウス乳またはマウスIgA標準品(ICN社、643341)を適当な濃度に希釈(0.1%Tweenを含む0.01M PBSを使用して希釈)したものを各ウェルに100μl添加し4℃で一晩インキュベートした。翌日ウェルを洗浄後、ビオチン標識抗マウスIgA抗体(Pharmingen 556978)を1万倍希釈(0.1%Tweenを含む0.01M PBSを使用して希釈)したものを100μl添加し、2時間インキュベートした(室温)。0.1%Tweenを含む0.01M PBSで洗浄後、アルカリフォスファターゼ標識ストレプトアビジン(ZYMED 43−4322、1mg/ml)を1000倍希釈(0.1%Tweenを含む0.01M PBSを使用して希釈)したもの100μlを添加し1時間インキュベートした(室温)。0.1% Tweenを含む0.01M PBSで洗浄後、4−ニトロフェニルリン酸(東京化成工業 N0241)をジエタノールアミンバッファーで1mg/mlに溶解し、これを100μlずつウェルに添加し30分反応させた。5N NaOH25μlを添加して反応を停止させたのち、測定波長405nm、対照波長495nmで吸光度を測定した。二元配置分散分析により危険率1%または5%で有意差を判定した。マウス乳中のIgA濃度を図1〜4、表1〜4に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
菌体抗原溶液の調製は以下の方法で行った。日本SLC社のBALB/cマウスから糞便を採取し、バクテロイデス菌(Bacteroides sp. OB7178、明治乳業)を単離した。バクテロイデス菌をGAM培地(日水製薬、GAMブイヨン、code05422)で37℃、一晩嫌気培養した後、菌体を生理食塩水で3回洗浄した。洗浄した菌体を、10%中性緩衝ホルマリンで固定した後、菌体をPBSで洗浄し、660nmの吸光度(光路長1cm)が1.0になるように炭酸バッファー(pH9.6)で希釈した。
【0038】
母乳中のバクテロイデス菌特異的IgA抗体価の測定は以下の方法で行った。96ウェルマイクロプレート(Nunc439454)の各ウェルに希釈した菌体抗原溶液を100μlずつ入れ4℃で一晩静置した。0.05%Tweenを含む0.01M PBSで洗浄後、0.5%ゼラチンを含むPBSで2時間ブロッキングした。マウス乳を100倍に希釈(0.05%Tweenを含む0.01M PBSを使用して希釈)したものを各ウェルに100μl添加し4℃で一晩インキュベートした。翌日ウェルを洗浄後、ビオチン標識抗マウスIgA抗体(Pharmingen 556978)を1万倍希釈(0.05%Tweenを含む0.01M PBSを使用して希釈)したものを100μl添加し、2時間インキュベートした(室温)。0.1%Tweenを含む0.01M PBSで洗浄後、アルカリフォスファターゼ標識ストレプトアビジン(ZYMED 43−4322、1mg/ml)を1000倍希釈(0.05%Tweenを含む0.01M PBSを使用して希釈)したもの100μlを添加し1時間インキュベートした(室温)。0.05% Tweenを含む0.01M PBSで洗浄後、4−ニトロフェニルリン酸(東京化成工業 N0241)をジエタノールアミンバッファーで1mg/mlに溶解し、これを100μlずつウェルに添加し発色させた。5N NaOH25μlを添加して反応を停止させたのち、測定波長405nm、対照波長495nmで吸光度を測定した。二元配置分散分析により危険率1%または5%で有意差を判定した。マウス母乳中のバクテロイデス菌特異的IgA抗体価(抗OB7178抗体価)を図5,6、表5,6に示す。バクテロイデス菌特異的IgA抗体価=(A―B)―(C−D)とした。Aはバクテロイデス菌コーティング時の405nmの測定値、Bはバクテロイデス菌コーティング時の495nmの測定値、Cはバクテロイデス菌非コーティング時の405nmの測定値、Dはバクテロイデス菌非コーティング時の495nmの測定値である。
【0039】
【表5】

【0040】
【表6】

【0041】
〈結果および考察〉
上記の方法により妊娠授乳期の母マウスにフラクトオリゴ糖混合物または1−ケストースを有効成分とする本発明によるIgA産生増強剤を投与したところ、授乳開始7日目、および14日目において乳中の総IgA濃度およびバクテロイデス菌特異的IgA抗体価が有意に増加することが確認された。グラフ及び表から分かるように、乳中の総IgA濃度およびバクテロイデス菌特異的IgA抗体価は、対照群に対して本発明のIgA産生増強剤群(即ちフラクトオリゴ糖群またはケストース群)の方がおよそ1.5〜3倍高いことが確認できた。マウスの授乳期間は出産後、約20日間であることから、妊娠授乳期のフラクトオリゴ糖混合物または1−ケストースの投与は、授乳期間の2/3以上の期間において乳中の総IgA濃度およびバクテロイデス菌特異的IgA抗体価を増加させることが明らかとなった。
バクテロイデス菌はヒト糞便中の細菌の80%以上を占める常在細菌であり、通常の状態では無害であるが、消化管粘膜が損傷を受けた場合等に、消化管穿孔、腹膜炎、卵管炎、肝膿瘍、敗血症などの原因菌となる。したがって、妊娠授乳期のフラクトオリゴ糖混合物または1−ケストースの投与は、乳中のバクテロイデス菌特異的IgA抗体価を増加させ、その結果、授乳する新生児の消化管におけるバクテロイデス菌の感染を防止することが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明による新規なIgA産生増強剤は、使用法が簡便であり且つ高い効果を示すことが分かった。すなわち、特定種類のフラクトオリゴ糖または1−ケストースを含有する増強剤を妊産婦および授乳婦が摂取することで、母乳中の総IgA濃度および/または抗原特異的IgA抗体価を増加させ、その結果、授乳する新生児の消化管における感染防御効果を増強し、あるいは新生児のアレルギー発症を予防することを可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】カゼイン精製飼料またはフラクトオリゴ糖添加実験試料を摂取した出産後BALB/cマウスの母乳中の総IgA濃度を示す図である。
【図2】カゼイン精製飼料またはフラクトオリゴ糖添加実験試料を摂取した出産後BALB/cマウスの母乳中の総IgA濃度を示す図である。
【図3】カゼイン精製飼料またはケストース添加実験試料を摂取した出産後BALB/cマウスの母乳中の総IgA濃度を示す図である。
【図4】カゼイン精製飼料またはケストース添加実験試料を摂取した出産後BALB/cマウスの母乳中の総IgA濃度を示す図である。
【図5】カゼイン精製飼料またはフラクトオリゴ糖添加実験試料を摂取した出産後BALB/cマウスの母乳中バクテロイデス菌特異的IgA抗体価を示す図である。
【図6】カゼイン精製飼料またはケストース添加実験試料を摂取した出産後BALB/cマウスの母乳中バクテロイデス菌特異的IgA抗体価を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるフラクトオリゴ糖を有効成分とするIgA産生増強剤:
Glucosyl(1→2)(fructosyl)nβ(2→1)fructose (I)(式中、nは、1〜3である。)。
【請求項2】
フラクトオリゴ糖がGlucosyl(1→2)fructosylβ(2→1)fructose(1−ケストース)、Glucosyl(1→2)(fructosyl)2β(2→1)fructose(ニストース)およびGlucosyl(1→2)(fructosyl)3β(2→1)fructose(1F−β−フラクトフラノシルニストース)から選択される少なくとも1種以上を含んでなる混合物である請求項1記載のIgA産生増強剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のIgA産生増強剤の有効量を含有せしめた妊産婦・授乳婦用栄養組成物。
【請求項4】
有効成分のフラクトオリゴ糖量が固形物重量に対して0.1〜70重量%である請求項3に記載の妊産婦・授乳婦用栄養組成物。
【請求項5】
有効成分のフラクトオリゴ糖量が0.1〜30g/日である請求項3または4に記載の妊産婦・授乳婦用栄養組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−115169(P2008−115169A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264077(P2007−264077)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】