説明

毒性物質検出方法及び毒性物質検出装置

【課題】 試料水中に含まれる毒性物質、および分解されて毒性物質を生ずる物質を高感度で検出できる毒性物質検出方法及び毒性物質検出装置を提供する
【解決手段】 試料水に分解処理をする工程と、微生物の呼吸活性により有害物質を検出するバイオセンサにより、前記分解処理をした試料中水の毒性物質を検出する工程とを含む毒性物質検出方法及び試料水に紫外線を照射する紫外線照射装置11と、フローセルと、前記フローセルの流路に設置された固定化微生物膜と、前記固定化微生物膜と接触させた溶存酸素電極とを備えてなるバイオセンサ6とを備えてなる毒性物質検出装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川および湖沼などの環境水や上下水道の各処理プロセスの処理水などを対象として、水中の毒性物質をモニタリングすることを目的としたバイオセンサを応用した水中の毒性物質検出方法及び毒性物質検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境中には多種多様な人為的に合成された化学物質に加え、非意図的な生成物であるトリハロメタンなどの消毒副生成物やダイオキシン類などの燃焼副生成物、あるいは環境中での変化体など数多くの化学物質が存在している。浄水の原水や上下水処理プロセスの処理水、廃棄物処分場の浸出水などの、これらの化学物質に汚染された水を、オゾンや生物、活性炭などによって処理を進めていく過程において、各処理プロセスで水中の毒性物質が除去されているか監視することが重要となってきている。このような処理プロセス中の毒性物質は、その評価結果を処理プロセスにフィードバックする必要があり、迅速かつ簡便に毒性物質を検出することが強く要望されている。
【0003】
このような試料水中の毒性物質を検出する方法として水槽に魚を飼育し、その挙動を人間が観察して水質の異常を判定する有害物質検出方法がとられてきた。しかし、この方法では魚の行動や健康状態から毒性物質を検出するため、判定基準が曖昧であり定量化しにくいことや、毒性物質に対する応答性が遅いという問題点があった。
【0004】
この問題点に対し、毒性物質に対して弱い微生物を利用し、その呼吸活性を指標とした微生物センサが開発された(特許文献1、特許文献2を参照)。その原理は、微生物の呼吸活性が毒性物質存在下において低下することを検出することによるものである。すなわち、微生物を固定化した固定化微生物膜と溶存酸素電極とを組み合わせたバイオセンサを用い、試料水を曝露したときに変化する微生物の呼吸活性を溶存酸素電極で検知し、そのセンサ出力から試料水中の毒性物質を検出する装置であった。
【0005】
一般的に微生物は魚に比べ毒性物質に対する感受性が高い。このため、微生物センサは魚による毒性物質検出方法よりも、高感度で短時間に試料水中の毒性物質を検出できるという特長がある。
【0006】
【特許文献1】特開平5−10921号公報
【特許文献2】特開2002−243698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、このような微生物センサに用いられる微生物はすべての毒性物質に対して呼吸活性が低下するのではなく、微生物の種類によって呼吸活性が低下する毒性物質、およびその濃度は異なる。
【0008】
例えば、特許文献1に開示された硝化細菌を用いた微生物センサでは、遊離型シアンに対しては、シアン濃度で0.05mg/L程度で微生物の呼吸活性の低下が認められ、毒性物質の混入として検出することができる。しかし、同じシアン化合物であるフェロシアン化カリウム(KFe(CN))に対しては、シアン濃度で0.1g/Lの濃度でも呼吸活性の低下が認められない。
【0009】
シアン化合物には、シアン化ナトリウムやシアン化カリウムのように水中で容易にシアンイオン、シアン化水素を生成する遊離型シアンと、フェリシアン化カリウム(KFe(CN))やフェロシアン化カリウム(KFe(CN))、テトラシアノニッケル酸カリウム(KNi(CN))などの金属シアノ錯体を形成する錯型シアンがある。それぞれ、めっき工業、金属精錬、写真工業、金属熱処理、シアン化合物製造業、都市ガス製造工業などに用いられるため、通常、排水中には遊離型シアンおよび金属シアノ錯体が含まれている。
【0010】
硝化細菌を用いた微生物センサ(硝化菌バイオセンサ)を用いてこのような排水の毒性を検出する場合、遊離型シアンは検出できるが金属シアノ錯体については検出可能濃度が高く、検出できない場合があった。しかし、金属シアノ錯体は日光や熱により分解し、遊離型シアンが生成することが知られている。このため排出されたばかりの排水中の金属シアノ錯体による毒性は弱くても、流下していくうちに日光や熱により分解され、遊離型シアンが生成し、排水中の毒性が強くなっていくことが考えられる。
【0011】
遊離型シアンは特に、下水処理プロセスでの生物分解に関与する硝化細菌に対してダメージを与え、大量の遊離型シアンが流入してくると適切に下水処理できなくなる恐れがある。そのため、工場排水中の遊離型シアンだけでなく、毒性の低い金属シアノ錯体についても低濃度で検出できることが望まれる。
【0012】
本発明は、上述の問題点を鑑み、試料水中に含まれる毒性物質を高感度で検出できる毒性物質検出方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、一実施の形態によれば、毒性物質検出方法であって、試料水に分解処理をする工程と、微生物の呼吸活性により有害物質を検出するバイオセンサにより、前記分解処理をした試料水中の毒性物質を検出する工程とを含む方法が提供される。
ここで、試料水に分解処理をする工程とは、試料水に特定のエネルギーを照射することにより、あるいは試料水に物理的もしくは化学的な処理をすることにより、試料水中にこれらの処理により分解されて毒性が強くなる物質が含まれている場合に、かかる物質を分解する処理をすることをいう。また、毒性物質、有害物質は明細書において同じ意味で用いられ、バイオセンサーを構成する微生物に対して毒性を持ち、または有害であり、微生物の呼吸活性を低下させる物質をいう。
【0014】
本発明は、別の実施の形態によれば、毒性物質検出方法であって、試料水の一部を分解処理をする工程と、微生物の呼吸活性により有害物質を検出するバイオセンサにより、前記分解処理をした試料水中の第一の毒性物質を検出する工程と、前記試料水の他部を、分解処理をすることなくバイオセンサで計測する工程と、微生物の呼吸活性により有害物質を検出するバイオセンサにより、前記分解処理をしていない試料水中の第二の毒性物質を検出する工程と、前記第一の毒性物質を検出した結果と、前記第二の毒性物質を検出した結果とを比較する工程とを含む方法が提供される。
ここで、試料水の一部、試料水の他部とは、同一の源の試料水から分岐した、または同一の源の試料水からそれぞれ分取した、組成が同一とみなしうる試料水をいう。試料水の一部を分解処理をする工程とは、試料水の一部に特定のエネルギーを照射することにより、あるいは試料水の一部に物理的もしくは化学的な処理をすることにより、試料水中にこれらの処理により分解されて毒性が強くなる物質が含まれている場合に、かかる物質を分解する処理をすることをいう。
【0015】
本発明は、別の側面によると、毒性物質検出装置であって、試料水に分解処理をする分解処理装置と、分解処理をした前記試料水を流すフローセルと、前記フローセルに設置する固定化微生物膜と、溶存酸素電極とを備えてなるバイオセンサとを備えてなる装置が提供される。
【0016】
本発明は、また別の側面によると、毒性物質検出システムであって、試料水に分解処理をする分解処理装置と、分解処理をした前記試料水を流すフローセルと、前記フローセルに設置する固定化微生物膜と、溶存酸素電極とを備えてなる、試料水中の毒性を微生物の呼吸活性で測定する第一のバイオセンサとを備えてなる、第一の毒性物質検出装置と、分解処理をしない試料水を流すフローセルと、前記フローセルに設置する固定化微生物膜と、溶存酸素電極とを備えてなる、試料水中の毒性を微生物の呼吸活性で測定する第二のバイオセンサを備えてなる、第二の毒性物質検出装置とを含んでなるシステムが提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の毒性物質検出方法及び毒性物質検出装置によれば、試料水中に含まれる毒性物質を高感度で検出することができる、より実用性の高いバイオセンサ応用水質計を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明を、実施の形態によりさらに詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0019】
本発明は、第一実施形態によれば、毒性物質検出方法である。毒性物質検出方法は、試料水に分解処理をする工程と、微生物の呼吸活性により有害物質を検出するバイオセンサにより、前記分解処理をした試料中水の毒性物質を検出する工程とを含む。第一実施形態においては、試料水の分解処理をする工程として、特に試料水に紫外線を照射する工程を採用する場合の形態について説明する。
【0020】
本実施形態において測定対象とすることができる試料水には、工場排水、生活排水、そのほかあらゆる水が含まれ、特定の組成を有するものには限定されない。本実施形態にかかる方法によれば、そのままで毒性を有する物質に加えて、紫外線、オゾンなどの照射により、酸もしくはアルカリによる処理により、または超音波処理により、分解されてより毒性の高い化学物質を生ずる物質をも検出することができる。そのような物質の例としては金属シアノ錯体が挙げられる。他にも、そのままで毒性を有する物質として知られている2,5−ジクロロアニリン、クロロホルム、O−クロロフェノール、四塩化炭素、および紫外線により分解されてこれらの毒性物質を生ずる物質も検出することができる。
【0021】
試料水は、本実施形態にかかる方法に供する前に、各種の前処理をしてもよい。前処理としては、例えば、試料水をろ過して異物を除去することが挙げられる。また、前処理の別の例としては、排水を特定の割合で濃縮することが挙げられる。具体的には、バイオセンサの検出限界以下の濃度を検出したい場合には、試料水を濃縮することができる。さらに、前処理の別の例としては、試料水のpHを、バイオセンサに固定した微生物に最適なpHに調整したり、試料水の温度を調整したりすることも挙げられる。試料水のpHの調整は、試料水に紫外線を照射した後に、所定のpHの緩衝液と試料水を混合することによっても実施できる。
【0022】
試料水に紫外線を照射する工程では、試料水に対して、紫外線を照射する。紫外線の照射強度および照射時間は、試料水中の物質を有害物質に分解するための必要なエネルギー、または排水が通常、排水されてから流下するまでに受ける紫外線量や熱量に相当するエネルギーから決定することができる。紫外線照射量は、1440mW・sec/cm程度が必要である。このように紫外線を試料水に照射することで、通常の条件下では毒性を持たない化学物質が、バイオセンサに対して毒性の強い化学物質に分解することがある。本工程においては、かかる物質が含まれる場合に、通常の条件下では毒性を持たない化学物質を、バイオセンサに対して毒性の強い化学物質に分解して、バイオセンサの毒性物質への感度を高めることができる。試料水にそのような特性を有する化学物質が含まれていない場合は、紫外線を照射することによっても、何ら試料水中の物質の変化は生じない。なお、本実施形態では、試料水の分解処理をする工程として、試料水に紫外線を照射する工程を採用した場合について説明するが、試料水の分解処理をする工程は、他に、酸またはアルカリによる処理と中和処理の組み合わせによる分解処理工程、超音波処理による分解処理工程、オゾン処理による分解処理工程などを用いることもできる。
【0023】
バイオセンサにより毒性物質を検出する工程では、バイオセンサにおいて、前記紫外線を照射した試料水のうち、固定化微生物膜を通過した試料水中の溶存酸素濃度を溶存酸素電極により測定する。溶存酸素濃度を測定する前に、試料水の溶存酸素が飽和された状態になるように調整する。溶存酸素が飽和された状態は、試料水にエアを送ることなどにより達成することができる。また、溶存酸素濃度を測定する前に、試料水中に微生物の呼吸基質が所定量の含まれた状態にしておく。微生物の呼吸基質は、硝化細菌の場合には、アンモニア態窒素であり、その量は、アンモニア態窒素濃度で12〜14mg/Lとすることが好ましい。また、測定する試料水の温度が、5〜32℃となるように調整することが好ましい。微生物の活性を最適に保つためである。
【0024】
本実施形態において、毒性物質を検出するために用いることができるバイオセンサの構成は、後に詳述するが、微生物の呼吸活性の変化を溶存酸素電極により検出するものであればよい。毒性物質を検出するために用いるバイオセンサは、微生物を固定化した固定化微生物膜と、溶存酸素電極を設置したフローセルに、試料水を、2〜2.2mL/sの一定速度で送液することにより、固定化微生物膜を通過した試料水の溶存酸素濃度を測定することが好ましい。
【0025】
次に、測定した溶存酸素濃度に基づいて、毒性物質の存在を検出する。このために、毒性物質が含まれておらず微生物の呼吸活性が阻害されない場合の溶存酸素濃度、及び微生物の呼吸活性がない場合の溶存酸素濃度を予め測定しておく。そして、これらの値と、固定化微生物膜を通過した試料水についての測定値とを比較することにより、毒性物質の検出結果を得る。試料水中に、毒性物質が存在すると、毒性物質が存在しないときと比較して、微生物の呼吸活性が低下する。その結果、酸素消費率が下がり、溶存酸素電極で測定される固定化微生物膜を通過した試料水中の溶存酸素濃度は、毒性物質が存在しないときと比較して低下する。例えば、溶存酸素濃度の比較から、酸素消費率(%)を算出し、以下の式にしたがって、酸素消費率(%)から、呼吸阻害率(%)を得て、毒性物質検出の指標とすることができる。
[呼吸阻害率(%)] = [100(%)] − [酸素消費率(%)]
【0026】
第一実施形態の別の側面によれば、毒性物質検出装置を提供する。
図1は、本実施形態による毒性物質検出装置1を示す概略図である。かかる毒性物質検出装置1は、紫外線照射装置11と、バイオセンサ6と、アンモニア態窒素を含む緩衝液(緩衝液A)9とアンモニア態窒素を含まない緩衝液(緩衝液B)10と、純水8と、試料水12と、洗浄液7と、エア13と、送液ポンプ14と、エアポンプ15、16と、流路の切り替えのための電磁弁17、18、19、20、21、22、23、24とから構成される。本実施形態においては、本発明にかかる試料水に分解処理をする分解処理装置として、紫外線照射装置を用いる形態について説明するが、本発明は特定の分解処理装置に限定することを意図するものではない。
【0027】
試料水12は、貯留槽等に貯めてあって、連続的にあるいは断続的に、後段の紫外線照射装置11及びバイオセンサ6に送液されるような構成とすることができる。あるいは、別の個所からサンプリングしてきた試料水を毒性物質検出装置1にロードするような構成としてもよい。試料水12は、紫外線照射装置11に送られるように構成される。
【0028】
紫外線照射装置11は、試料水12に紫外線を照射する装置である。紫外線照射装置11の一例としては、紫外線照射装置11は、石英など紫外線を透過する材料でできたチューブをコイル状に巻いた反応管に紫外線を照射し、試料水12が反応管を通過するまでに試料水中の化学物質が毒性物質に分解されるような構造の装置とすることもできる。さらに別の例としては、紫外線照射装置11は、水銀ランプや発光ダイオードなどの紫外線源を照射することができるように設置した貯留槽などを用いることができる。いずれの装置を用いる場合でも、試料水に、照射量で少なくとも1440mW・sec/cm程度の紫外線を照射することができるものであればよい。なお、本実施形態においては、分解処理装置の一例として紫外線照射装置11を挙げて説明しているが、本発明は分解処理装置として紫外線照射装置に限定することを意図するものではない。他の分解処理装置としては、上記紫外線と同程度に試料水中の化学物質の分解を促進する分解処理装置であれば用いることができる。具体的には、超音波処理装置、オゾン照射装置、酸もしくはアルカリを試料水に添加し、分解処理後にさらに試料水を中和する装置が挙げられるが、これらには限定されない。
【0029】
紫外線照射装置11は、電磁弁18、20、送液ポンプ15及び電磁弁21を介してバイオセンサ6に接続されている。また、紫外線照射装置11は、電磁弁18を介して純水8と接続され、紫外線照射装置11を経た試料水を純水と混合できるように構成されている。図示する接続のための電磁弁18は三方電磁弁である。ここで、図中の「NO」は、紫外線照射装置11とバイオセンサ6とを接続する電磁弁18が、通常は開いていて、バイオセンサの校正(試料水の代わりに純水を流す)あるいは配管内の洗浄といった条件下では閉じるように構成されている型の弁であることを示す。また、図中の「NC」は、純水8とバイオセンサ6とを接続する電磁弁18が、通常は閉じていてバイオセンサの校正(試料水の代わりに純水を流す)あるいは配管内の洗浄、といった条件下では開くように構成されている型の弁であることを示す。
【0030】
バイオセンサ6は、微生物の呼吸活性を溶存酸素電極により測定することができる任意のバイオセンサ6を用いることができる。本実施形態において好ましく使用されるバイオセンサ(微生物センサ)の一例を図2に示す。本実施形態において例示するバイオセンサ6は、フローセル62と、前記フローセルの流路に設置された固定化微生物膜61と、前記固定化微生物膜と接触させた溶存酸素電極63とを備えてなる。
【0031】
かかるバイオセンサ6は、硝化細菌を固定化した固定化微生物膜61をフローセル62におき、溶存酸素電極63を取付けナット64で固定し、固定化微生物膜61と密着させて構成される。また、フローセル62と固定化微生物膜61とのあいだにナイロンネット65をおく。固定化微生物膜61の形状保護のためである。フローセル62には試料水12を固定化微生物膜に送る流路66と固定化微生物膜61に接触した後の試料水12を排出する流路67とが設けられている。
【0032】
固定化微生物膜61としては、例えば、ナイロンやニトロセルロースからなる膜に、硝化細菌を固定化したものを用いることができる。硝化細菌としては、例えば、ニトロソモナスユーロピア(Nitrosomonas europaea ATCC寄託番号25978)が挙げられる。ニトロソモナスユーロピアは、pH8程度で最も良く活動し、pH5.5位まで低下しても酸化活動はあまり影響を受けないため、さまざまな試料水中の毒性物質を検出するために好ましく用いられる。そのほかにも、ニトロソモナス属(Nitrosomonas)、ニトロソコッカス属(Nitrosococcus)、ニトロソスピラ属(Nitrosospira)、ニトロソロバス属(Nitrosolobus)などの硝化細菌を用いることができる。
【0033】
上記のような構成を備えたバイオセンサ6の作動について説明する。流路66から試料水がバイオセンサ6のフローセル62に流入する。試料水は、ナイロンネット65を通過して、固定化微生物膜61上の微生物に接触する。微生物は、試料水とともに流入する呼吸基質となるアンモニア態窒素を用いて呼吸する。溶存酸素電極63は、固定化微生物膜を通過する試料水中の溶存酸素濃度を測定することにより、この呼吸による酸素量の変化を連続的に測定する。なお、本実施形態で用いるバイオセンサ6は、図示する形状、構成のもののみには限定されない。微生物の呼吸活性により有害物質を溶存酸素電極によって検出しうるものであればよい。
【0034】
バイオセンサ6は、恒温槽内に設置されていることが好ましい。微生物の活性を維持するためである。具体的には、5〜32℃に調整した恒温槽内に設置しておくことが好ましい。
【0035】
エア13は、エアポンプ16に接続され、さらにバイオセンサ6に接続されている。図示する接続のための電磁弁22は三方電磁弁である。エア13は、エアポンプ16により、通常はバイオセンサ6のフローセル62を流れる試料水に、酸素を供給する。また、エア13は、電磁弁22を介して、紫外線照射装置11を経た試料水がバイオセンサ6に至る送液ラインに接続されている。
【0036】
緩衝液A9は、硝化細菌の基質となるアンモニア態窒素を含む緩衝液である。緩衝液B10は、アンモニア態窒素を含まない緩衝液である。これらの緩衝液A9、緩衝液B10は、バッファ送液ポンプ14を介してフローセル62に接続されている。緩衝液A9、緩衝液B10をバイオセンサ6のフローセル62に流すためである。緩衝液A9と、緩衝液B10と、フローセル62との接続は、三方電磁弁17により制御されている。これは、緩衝液A9と、緩衝液B10とを選択的に切替えてフローセル62に流すためである。さらなる三方電磁弁23が、バッファ送液ポンプ14とフローセル62との間に備えられている。緩衝液A9と緩衝液B10との両方ともがフローセル62に流れないように切替えるためである。
【0037】
洗浄液7は、電磁弁19、20、送液ポンプ15、電磁弁21を介して、バイオセンサ6のフローセル62に接続されている。洗浄液7としては、酸などを用いることができる。洗浄液7は、送液のための配管を洗浄するものである。また、本実施形態による毒性物質検出装置1は、洗浄液7が、電磁弁19、20、21により制御されて、バイオセンサ6には流入しないように構成されている。バイオセンサに固定化された微生物の死滅を防ぐためである。
【0038】
次に、図1に示す毒性物質検出装置の作動について説明する。初めに、緩衝液B10、純水8、エア13をバイオセンサ6に送る。ゼロ点校正のためである。このときの、緩衝液B10、純水8、エア13の供給量比は、約1:10:1000とすることができる。バイオセンサ出力が安定したところでその出力を記憶する。緩衝液B10は硝化細菌の基質となるアンモニア態窒素を含まないため、硝化細菌の酸素消費率は0%となる。したがって、このときのセンサ出力を酸素消費率0%として記憶する。
【0039】
つぎに、緩衝液A9、純水8、エア13をバイオセンサ6に送る。バイオセンサ出力が安定したところでその出力を記憶する。緩衝液A9には硝化細菌の基質となるアンモニア態窒素が含まれるため硝化細菌の呼吸活性は上昇し、その酸素消費率は100%となる。したがって、このときのセンサ出力を酸素消費率100%として記憶する。このような記憶は、図示しない、バイオセンサに接続された記憶装置によって実施することができる。
【0040】
このようにしてバイオセンサの校正を行った後に、緩衝液A、試料水12、エア13をバイオセンサ6に送り、固定化微生物膜を通過する試料水中の溶存酸素濃度から、毒性物質の検出を連続的に行う。測定値から酸素消費率を算出するための、図示しない計算装置を備えることもできる。
【0041】
本実施形態にかかる毒性物質検出装置1は、前記のようにセンサの自動校正を1日1回程度行いながら連続的に試料水のモニタリングを行うことが好ましい。また、配管は洗浄液7によって定期的に洗浄することができる。このとき、電磁弁21、電磁弁24によりバイパスを形成し、洗浄液を排出する。バイオセンサ6に洗浄液が流れ込み硝化細菌が死滅することを防ぐためである。センサの自動校正や配管の洗浄は、図示しない制御装置により、各電磁弁を制御することにより実施することができる。
【0042】
本発明の第一実施形態による毒性物質検出方法及び毒性物質検出装置によれば、通常の検出操作では検出することができなかった、紫外線により分解した結果、毒性を持つようになる物質をも検出することができる。このため、従来の方法及び装置と比較して、より精度の高い毒性物質の検出が可能となる。
【0043】
本発明は、第二実施形態によれば、毒性物質検出方法であって、試料水の一部に分解処理をする工程と、微生物の呼吸活性により有害物質を検出するバイオセンサにより、前記分解処理をした試料水中の毒性物質を検出する工程と、前記毒性物質を検出する工程から第一の毒性物質検出結果を得る工程と、前記試料水の他部を、分解処理をすることなくバイオセンサに送る工程と、微生物の呼吸活性により有害物質を検出するバイオセンサにより、前記分解処理をしていない試料水中の毒性物質を検出する工程と、前記毒性物質を検出する工程から第二の毒性物質検出結果を得る工程と、前記第一の毒性物質検出結果と、前記第二の毒性物質検出結果とを比較する工程とを含む。本実施形態においても、第一実施形態と同様に、試料水の一部に分解処理をする工程として、試料水の一部に紫外線を照射する工程を採用した例について説明する。しかし、本発明にかかる、試料水の一部に分解処理をする工程は、紫外線を照射する工程に限定されない。
【0044】
本実施形態において、紫外線を照射する工程と、紫外線を照射した試料水中の毒性物質を検出する工程と、前記毒性物質を検出する工程から第一の毒性物質検出結果を得る工程とは、試料水の全部ではなく、一部を分取して対象とすること以外は、前記第一実施形態による毒性物質検出方法と同様にして行うことができる。すなわち、試料水に紫外線を照射し、紫外線を照射した試料水をバイオセンサに供し、バイオセンサにより、固定化微生物膜を通過した試料水中の溶存酸素濃度を測定し、溶存酸素濃度の測定結果に基づいて、毒性物質の検出結果を得ることができる。
【0045】
次に、好ましくは上記紫外線を照射する工程と並行して、前記試料水の他部を、紫外線を照射することなくバイオセンサに送る工程に供する。ここで、試料水の他部とは、試料水から、紫外線を照射するための試料を除いた部分のうちの少なくとも一部をいう。試料水の一部について、紫外線を照射し、第一の毒物検出結果を得るいっぽうで、試料水の他部について紫外線を照射することなくバイオセンサで計測を行い、第二の毒性物質検出結果を得ることで、同一の試料水源から得られた、同一の組成とみなしうる二つの試料を比較することができる。試料水の他部を、紫外線を照射することなくバイオセンサに送る工程では、バイオセンサに送るのに先立って、紫外線を照射しない試料水を一定時間貯留することが好ましい。紫外線を照射した試料水と、紫外線を照射しない試料水とが、同時に、それぞれのバイオセンサに供されることが好ましいためである。紫外線を照射しない試料水のバイオセンサでの測定は、第一実施形態と同様に行うことができる。このようにして、前記紫外線を照射していない試料水について、第二の毒性物質検出結果を得ることができる。
【0046】
第一の毒性物質検出結果と、第二の毒性物質検出結果とを比較する工程では、その酸素消費率等の差を比較する。差がなければ、紫外線により変化する物質が含まれていないことがわかる。紫外線を照射した試料についての第一の毒性物質検出結果の酸素消費率が、紫外線を照射していない第二の毒性物質検出結果よりも低ければ、紫外線により分解して、あるいは何らかの変化をして、毒性の強い物質に変わる物質が試料水に含まれていることがわかる。
【0047】
図3は、本発明の第二実施形態にかかる毒性物質検出システム100を示す概念図である。図3に示す毒性物質検出システム100は、試料水112と、紫外線照射装置111と、試料水貯留槽113と、送液ポンプ115、115’と、リファレンス用バイオセンサ106(第二のバイオセンサ)と、紫外線照射試料用のバイオセンサ106’(第一のバイオセンサ)とから主に構成される。かかる毒性物質検出システム100は、同一の試料水を二つに分け、一方の試料水を、紫外線を照射しない試料水としてリファンレンス用のバイオセンサ106に送液し、他方の試料水には紫外線を照射し、紫外線照射試料用のバイオセンサ106’に送液して、これらのバイオセンサ出力の比較から、毒性物質の検出を行うものである。なお、ここでも、図中に示す紫外線照射装置111にかえて、第一実施形態で説明した、他の分解処理装置を用いることができる。
【0048】
試料水112は、その後段で分岐し、一方は紫外線照射装置111に接続され、他方は貯留槽130に接続される。同一の試料水が、リファレンス用バイオセンサ106と、紫外線照射試料用のバイオセンサ106’とのそれぞれに送液されるようにするためである。紫外線照射装置111は、第一実施形態において詳述した紫外線照射装置と同様のものとすることができる。また、第一実施形態において詳述したように、紫外線照射装置以外の、分解処理装置を用いることもできる。貯留槽130は、紫外線を照射しない試料水を一時的に保持して、紫外線を照射した試料水と同じタイミングで後段のバイオセンサ106に送るためのものである。貯留槽130としては、上述の紫外線照射装置から、紫外線照射光源を外したものを使用することができる。したがって、必ずしも槽である必要はなく、紫外線照射装置に関して前述したようなチューブをコイル状に巻いた反応管から紫外線照射光源を外したものであってもよい。また、第一実施形態で詳述した紫外線照射装置以外の分解処理装置を用いる場合も、貯留槽は、分解処理装置から、オゾン照射源、超音波発生源、酸もしくはアルカリ及び中和剤添加手段を外したものであってもよい。
【0049】
紫外線照射装置111は、送液ポンプ115’を介して、紫外線照射試料用のバイオセンサ106’に接続されている。いっぽう、貯留槽130も、送液ポンプ115を介して、リファレンス用バイオセンサ106に接続されている。紫外線照射試料用のバイオセンサ106’、リファレンス用バイオセンサ106は、同一の仕様を有する。そして、それぞれ、上記第一実施形態において詳述したバイオセンサと同様のものとすることができる。
【0050】
本実施形態による毒性物質検出システム100は、図示はしていないが、第一実施形態と同様に、洗浄液、純水、緩衝液A、緩衝液B、エア、これらを所定個所に送達するポンプ、及び接続のための弁を備えることができる。
【0051】
毒性物質検出システム100は、このような構成とすることで、同一の試料水から分岐した試料をリファレンス用のバイオセンサ106と、紫外線照射試料用バイオセンサ106’とに同時に曝露することができる。
【0052】
上記毒性物質検出システムにより測定を行った結果、両方のバイオセンサ106、106’ともにセンサ出力に差異がなく、正常値であれば、試料水112中に毒性物質は存在しないと判定できる。リファレンス用のバイオセンサのセンサ106の出力が正常で、紫外線照射試料用のバイオセンサ106’の出力が低下した場合には、試料水112中に存在し、分解によって毒性物質が生成するような毒性物質が混入していると判定できる。一方、リファレンス用のバイオセンサのセンサ106出力が異常で、紫外線照射試料用のバイオセンサ106’のセンサ出力が正常の場合には、試料水中に紫外線によって毒性がなくなる物質に分解できる毒性物質が混入していると判定することが可能となる。このような、比較、判定は、図示しない計算装置または記憶装置、あるいはそれらの両方によって実施することもできる。
【0053】
本発明の第二実施形態による毒性物質検出方法及び毒性物質検出システム100によれば、同一試料を、紫外線を照射する流路と紫外線を照射しない流路に分岐させ、それぞれを独立したバイオセンサに送液する構造とし、紫外線を照射しない試料を曝露したバイオセンサの出力をリファレンスとして、紫外線を照射した試料を曝露したバイオセンサの出力と比較し毒性物質を検出するためより正確に毒性物質を検出できることが可能となる。特には、試料水中に含まれる、紫外線の照射によって変化する毒性物質、紫外線の照射によって変化しない毒性物質の双方の検出およびこれらの比較が可能となる。
【0054】
以下、本発明の実施例を説明する。もっとも、以下の記載は、本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の技術的範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0055】
本発明に係る毒性物質検出方法により、試料水中の化学物質を測定した。試料には、金属シアノ錯体である、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム(フェリシアン化カリウム、KFe(CN))、ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム(フェロシアン化カリウム、KFe(CN))、テトラシアノニッケル酸カリウム(KNi(CN))(いずれも和光純薬製)を用いた。
【0056】
それぞれの金属シアノ錯体を表1に示すようなシアン濃度で調整し、バイオセンサに送液して酸素消費率を測定した。また、同じ濃度の金属シアノ錯体に簡易型UVライト(トプコン社製)により約400μW/cmの紫外線強度で1時間紫外線を照射した後、バイオセンサに送液して酸素消費率を測定した。そして、紫外線を照射した試料と、紫外線を照射していない試料との酸素消費率との比較を行った。試料の毒性が強ければバイオセンサの酸素消費率(%)は低下し、呼吸阻害率(%)は上昇する。
【0057】
【表1】

【0058】
測定結果を表2に示す。ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムでは紫外線を照射しないときの呼吸阻害率が17%であるのに対し、紫外線を照射した場合は呼吸阻害率が61%と約3.6倍に呼吸阻害率が上昇した。テトラシアノニッケル酸カリウムでは、紫外線を照射しないときの呼吸阻害率が23%であるのに対し、紫外線を照射した場合は呼吸阻害率が26%に上昇した。ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムでは紫外線を照射しないときは、硝化細菌の呼吸は阻害されなかったが、紫外線を照射した場合に呼吸阻害率は43%となり、紫外線を照射することによって毒性が強く現れた。
【0059】
【表2】

【0060】
以上の結果より、金属シアノ錯体のバイオセンサに対する毒性は紫外線を照射することにより上昇することがわかった。したがって、通常ではバイオセンサで検出できない濃度でも紫外線照射によりバイオセンサにより検出可能となり、またより低濃度の金属シアノ化合物が検出可能となり、高感度で検出できた。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第一実施形態に係る毒性物質検出装置を示す概略図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る毒性物質検出装置において使用することができるバイオセンサの一例を示す概略図である。
【図3】本発明の第二実施形態に係る毒性物質検出システムを示す概略図である。
【符号の説明】
【0062】
1 毒性物質検出装置
6 バイオセンサ
61 固定化微生物膜
62 フローセル
63 溶存酸素電極
64 取付けナット
65 ナイロンネット65
66 流路66
67 流路67
7 洗浄水
8 純水
9 緩衝液A
10 緩衝液B
11 紫外線照射装置
12 試料水
13 エア
14 送液ポンプ
15 送液ポンプ
16 エアポンプ
17 電磁弁
18 電磁弁
19 電磁弁
20 電磁弁
21 電磁弁
22 電磁弁
23 電磁弁
24 電磁弁
100 毒性物質検出システム
106 バイオセンサ
106’バイオセンサ
111 紫外線照射装置
115 送液ポンプ
115’送液ポンプ
130 貯留槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料水に含まれる有害物質を分解処理をする工程と、
微生物の呼吸活性により有害物質を検出するバイオセンサにより、前記分解処理をした試料水中の毒性物質を検出する工程と
を含む毒性物質検出方法。
【請求項2】
試料水の一部を分解処理をする工程と、
微生物の呼吸活性により有害物質を検出するバイオセンサにより、前記分解処理をした試料水中の第一の毒性物質を検出する工程と、
前記試料水の他部を、分解処理をすることなくバイオセンサで計測する工程と、
微生物の呼吸活性により有害物質を検出するバイオセンサにより、前記分解処理をしていない試料水中の第二の毒性物質を検出する工程と、
前記第一の毒性物質を検出した結果と、前記第二の毒性物質を検出した結果とを比較する工程と
を含む毒性物質検出方法。
【請求項3】
試料水に分解処理をする分解処理装置と、
分解処理をした前記試料水を流すフローセルと、前記フローセルに設置する固定化微生物膜と、溶存酸素電極とを備えてなるバイオセンサと
を備えてなる毒性物質検出装置。
【請求項4】
試料水に分解処理をする分解処理装置と、
分解処理をした前記試料水を流すフローセルと、前記フローセルに設置する固定化微生物膜と、溶存酸素電極とを備えてなる、試料水中の毒性を微生物の呼吸活性で測定する第一のバイオセンサと
を備えてなる、第一の毒性物質検出装置と、
分解処理をしない試料水を流すフローセルと、前記フローセルに設置する固定化微生物膜と、溶存酸素電極とを備えてなる、試料水中の毒性を微生物の呼吸活性で測定する第二のバイオセンサを備えてなる、第二の毒性物質検出装置と
を含んでなる毒性物質検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−222667(P2009−222667A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69749(P2008−69749)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)