説明

毒物依存症の治療におけるネボグラミンの使用

アヘン剤、バルビツール酸、ベンゾジアゼピン、アルコールなどの中枢神経系鎮静剤、アンフェタミンおよびコカインなどの覚醒剤およびLSD、メスカリン、大麻(マリファナ)またはフェンシクリジンなどの幻覚剤といったような薬物によって誘発される毒物依存症の治療における使用のための医薬品の製造のためのネボグラミン、(S)−4−アミノ−N(4,4−ジメチルシクロヘキシル)グルタミン酸(CR 2249)(CAS登録番号163000−63−3)、そのラセミ混合物またはその医薬的に許容しうる塩の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アヘン剤、バルビツール酸、ベンゾジアゼピン、アルコールなどの中枢神経系(CNS)鎮静剤、アンフェタミンおよびコカインなどの覚醒剤およびLSD、メスカリン、大麻(マリファナ)またはフェンシクリジンなどの幻覚剤といったような薬物によって誘発される毒物依存症の治療における使用のための、ネボグラミン、(S)−4−アミノ−N(4,4−ジメチルシクロヘキシル)グルタミン酸(CR 2249)(CAS登録番号163000−63−3)、そのラセミ混合物またはその医薬的に許容しうる塩の新規な使用に関する。
【背景技術】
【0002】
身体的であるか心理的であるかを問わず、用語「毒物依存症」は、継続された、全体として絶対的な薬物の使用を意味する。このような使用には、身体的ダメージというリスクおよび物質の消費を停止または制限することの必要性が含まれる。
【0003】
用語「心理的依存」は、快楽を見出すために薬物の自己投与を継続したいという耐え難い衝動(衝動強迫)を意味する。いくつかの薬物にとって、心理的依存は、その強迫的使用における最も重要な因子である。
【0004】
用語「身体的依存」は、耐性を伴う薬物への習慣性の状態を意味し、それは、禁断症候群によって証明される。
【0005】
最初により少ない量で得られた効果と同じ効果を得るために、薬物の用量を増やすためには耐性が必要である;禁断症候群は、薬物の摂取を停止したときに現れる痛い身体的感覚を特徴とする。薬物常習者によって通常用いられる物質は、すべて、心理的依存を誘発するが、他のもの(大部分)は、身体的依存も誘発する。
【0006】
以下のグループに区別することができる:すべて身体的依存および耐性をも引き起こすアヘン剤、ベンゾジアゼピン、バルビツール酸およびアルコールなどのCNS鎮静剤;仮にあったとしても程度の低い身体的依存を引き起こすアンフェタミンおよびコカインなどのCNS覚醒剤;LSD、メスカリン、大麻(マリファナ)およびフェンシクリジンなどの幻覚剤。
【0007】
公表された前臨床データに基づいて、化合物ネボグラミン(CR 2249)は、NMDA受容体複合体に結合したグリシン部位(ストリキニーネ非感受性)において有意な調節特性を有し[Lanzaら、Neuropharmacology 36、1057−64(1997)]、また、種々の動物モデルにおいて、記憶および学習を促進する有利な特性を有する[Garofaloら、J.Pharm.Pharmacol.48、1290−97(1996)]ことが明らかにされている。NMDA受容体複合体においてネボグラミンによって機能を働かされた促進活性は、グルタミン酸作動性機能低下の状態において治療的に用いるべきである。
【0008】
NMDA受容体複合体が、たとえば、自発運動活性、依存(自己投与の継続的増強)、耐性および毒性などのコカインに対する種々の機能的反応に関与しうることが示唆されている(Rockhold R.W.、Progress in Drug Research 50:155−92、1998)。
【0009】
近年、マウスにおいて、グリシンが、モルヒネによって誘発される運動亢進、耐性および依存を阻害することができることも実証されている(K.W.Shinら、Arch.Pharm.Res.26:1074−1078、2003)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、ネボグラミンを、毒物依存症によって引き起こされる症候群を広範に代表される、コカイン、モルヒネおよびベンゾジアゼピンなどの種々の薬物によって誘発される毒物依存症の評価のための予測とみなされうる動物実験モデルにおいて評価した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
用いた最初のモデルにおいて、ラットにおいてコカインおよびモルヒネによって誘発される運動過剰におけるネボグラミンおよびグリシンの阻害効果を評価した。
ビデオカメラで運動活性を測定し、Garofalo(J.Pharm.Pharmacol.48:1290−1297、1996)に記載されたVideotrack 512システムを用いて記録した。
生理食塩水、ネボグラミン(30 mg/kg)またはグリシン(300 mg/kg)を腹腔内経路で30分間投与した後、生理食塩水、モルヒネ(10 mg/kg 皮下)またはコカイン(20 mg/kg 皮下)を投与した。
自発運動活性を15分間記録し、ビデオカメラに接続したコンピューターによって動物が走った総距離(cm)を記録した。このようにして得られた結果を第1表に並べた。
【0012】
第1表:コカインおよびモルヒネによって誘発される運動過剰におけるネボグラミンおよびグリシンの阻害効果


(1):阻害%を次の式によって計算する:

(2):阻害%を次の式によって計算する:

【0013】
第1表に示すデータから、コカインとモルヒネは両方とも、自発運動活性を著しく増加させるが(それぞれ75.7%および60.6%)、ネボグラミンおよびグリシンは、動物の自発運動性に有意な変化を与えないことがわかる。
【0014】
コカインとモルヒネの両方の薬物によって増進された運動活性は、30 mg/kg のネボグラミンの腹腔内投与によってほとんど完全にアンタゴナイズされる(それぞれ88%および77.5%)。グリシンもまた、モルヒネ誘発運動過多活性を阻害するが、効果はより小さく(52.5%)、用量は10倍多い(30 mg/kgのネボグラミンに対して300 mg/kg)。
【0015】
第2の実験において、ラットにおいて誘発される感受性増加(逆耐性)を阻害するネボグラミンの能力を、モルヒネによる慢性(chronic)処置によって評価した。
ネボグラミン(30 mg/kg)または生理食塩水を腹腔内経路で30分間投与した後、生理食塩水、モルヒネ(10 mg/kg 皮下)を6日間投与した。第7日に、前記実験で記載したように、第7日(実験の最終日)のみに急性(acute)に与えられた同用量のモルヒネで処置した動物と比べて、試験を行った。このようにして得られた結果を第2表に並べた。
【0016】
第2表:ラットにおいてモルヒネでの慢性処置によって誘発される逆耐性におけるネボグラミンの阻害活性


(1):阻害%を次の式によって計算する:

【0017】
モルヒネの慢性処置は、薬物の急性効果と比べて、約50%(80.3%に対して128.6%)までラットの運動活性の増加を誘発する。ネボグラミン(30 mg/kg 腹腔内、7日間)の慢性前処置は、モルヒネの慢性処置によって誘発される逆耐性の発生をアンタゴナイズすることにほとんど完全に(70.8%)成功する。
【0018】
第3の実験において、我々は、ベンゾジアゼピン(ジアゼパム)の長期処置によって誘発される耐性とジアゼパムの慢性処置を停止することによって引き起こされる禁断発作(「離脱」)との両方におけるネボグラミンの効果を研究することを望んだ。わずかに変更を加えたShepardら、(Psychopharmacology 116:56−64、1994)に記載の手順にしたがって、高架式ゼロ迷路において実験を行った。
【0019】
閉鎖四分円の1つに入れたラットを5分間4つのすべての四分円(開放2、閉鎖2)に自由に出入りさせた。抗不安活性をもつ化合物は、開放四分円に滞在する時間パーセントの増加を生み出す。
【0020】
急性実験では、実験の30分前に皮下経路で化合物を投与したが、耐性および「離脱」実験では、1日2回、7日間皮下経路で投与し、次いで、慢性処置の終了から40時間の時点で再試験した。このようにして得られた結果を第3表に並べる。
【0021】
第3表:ラットにおけるジアゼパムでの慢性処置によって誘発される耐性および禁断発作におけるネボグラミンの効果

注:
生理的食塩水(D−W)は、ジアゼパムで7日間処置され、40時間後に生理食塩水で再試験されるグループである。
ネボグラミン(D−W)は、ジアゼパムおよびネボグラミンで7日間処置され、40時間後に生理食塩水で再試験されるグループである。
【0022】
ジアゼパム5 mg/kgの皮下投与は、有意な抗不安効果(すなわち、開放四分円に滞在する時間の増加)を生み出す:コントロールと比べて262.5%。
【0023】
7日間継続した処置は、コントロールグループと比べて262.5%から145%へと抗不安効果を減少して耐性を誘発する。ネボグラミンは、有意でない抗不安活性を示す(コントロールと比べて127%)。しかし、ジアゼパムとの共投与は、耐性を低減化しない(コントロールと比べて192.5%の効果)。さらに、ネボグラミンの共投与は、ジアゼパムでの慢性処置の停止によって誘発される禁断発作の阻害を示した[(D−W)グループで37.5% の効果であるのに対して、N−(D−W)グループで110%の効果]。
【0024】
前記のとおり、本発明の主題は、活性成分としてネボグラミンまたはそのラセミ混合物を、天然型またはその医薬的に許容しうる塩で含む医薬組成物である。
【0025】
本発明化合物を用いるための医薬製剤は、従来の技術を用いて製造することができる。製剤として、カプセル剤、錠剤、懸濁液剤、乳液剤、溶液剤などの経口使用に適した製剤;非経口使用(皮下、筋肉内および静脈内投与)のための滅菌溶液剤、または局所または経腸使用もしくはたとえば、長期間にわたって活性成分の遅い放出を可能にする遅延作用をもつ経口使用のための固体製剤などの所望の治療効果を得るのに適したその他の形態が挙げられる。医薬製剤において、医薬分野で賦形剤、結合剤、崩壊補助剤および経皮吸収を刺激することができる物質として通常用いられる物質を活性成分と一緒に用いてもよい。
【0026】
したがって、天然型またはその医薬的に許容しうる塩として、ラセミ混合物などのネボグラミン化合物を用いることができる。ネボグラミンの場合、ナトリウムまたはカリウム塩または塩酸塩が好ましい。
【0027】
薬物誘発性毒物依存症の治療のために用いられるネボグラミンの有効治療量は、治療患者の特定の状態、および患者の治療への個々の応答、年齢および体重に応じて、活性成分で1日当たり10〜600 mg、好ましくは30〜300 mgであるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アヘン剤、バルビツール酸、ベンゾジアゼピン、アルコールなどの中枢神経系鎮静剤、アンフェタミンおよびコカインなどの覚醒剤およびLSD、メスカリン、大麻(マリファナ)またはフェンシクリジンなどの幻覚剤といったような薬物によって誘発される毒物依存症の治療における使用のための医薬品の製造のためのネボグラミン、(S)−4−アミノ−N(4,4−ジメチルシクロヘキシル)グルタミン酸(CR 2249)(CAS登録番号163000−63−3)、そのラセミ混合物またはその医薬的に許容しうる塩の使用。
【請求項2】
薬物誘発性毒物依存症の治療に用いるための、活性物質として請求項1に記載の化合物の少なくとも1つを含む薬剤。
【請求項3】
薬物誘発性禁断発作の治療的処置に用いるための、請求項2に記載の薬剤。
【請求項4】
薬物誘発性依存の治療的処置に用いるための、請求項2に記載の薬剤。
【請求項5】
薬物誘発性耐性現象の治療的処置に用いるための、請求項2に記載の薬剤。
【請求項6】
ビヒクル、結合剤、香味剤、甘味料、崩壊補助剤、保存剤および湿潤剤ならびにその混合物、または経口、非経口、経皮、経粘膜または経腸吸収を促進する成分および活性物質の時間制御放出を可能にする成分から選ばれる医薬的に許容しうる不活性成分をさらに含む請求項2に記載の薬剤。

【公表番号】特表2009−510158(P2009−510158A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−534130(P2008−534130)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【国際出願番号】PCT/IB2006/053603
【国際公開番号】WO2007/039869
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(598105824)ロッタファルム・ソシエタ・ペル・アチオニ (18)
【氏名又は名称原語表記】ROTTAPHARM S.p.A.
【Fターム(参考)】