説明

比誘電率・導電率測定装置

【課題】被測定物の比誘電率、導電率を正確に測定することが可能な比誘電率・導電率測定装置を提供する。
【解決手段】比誘電・導電率測定装置40は、入力電極12と出力電極14との間に電気的に短絡した短絡伝搬路16を有する第1弾性表面波素子10と、入力電極22と出力電極24との間に凸部分が電気的に分離した格子状の凹凸構造29が形成された格子状伝搬路26を有する第2弾性表面波素子20と、入力電極32と出力電極34との間に電気的に開放した開放伝搬路36を有する第3弾性表面波素子30とを備え、第1弾性表面波素子10と第2弾性表面波素子20と第3弾性表面波素子30とは互いに並列に配されている。この比誘電率測定装置40を用いることにより、被測定物46の比誘電率、導電率を正確に測定することできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体状の被測定物の比誘電率、導電率を測定する弾性表面波素子を有する比誘電率・導電率測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、弾性表面波素子は、圧電基板と、前記圧電基板上に設けられた櫛歯状電極指からなる入力電極及び出力電極を備えている。弾性表面波素子では、入力電極に電気信号が入力されると、電極指間に電界が発生し、圧電効果により弾性表面波が励振され、圧電基板上を伝搬していく。この弾性表面波のうち、伝搬方向と直交する方向に変位するすべり弾性表面波(SH-SAW:Shear horizontal Surface Acoustic Wave)を利用する弾性表面波素子を用いた各種物質の検出や物性値等の測定を行うための弾性波センサが研究されている(特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
弾性波センサでは、圧電基板上に置かれた測定対象である液体状の被測定物の領域が電気的に開放されている場合と、短絡されている場合とでは、出力電極から出力される出力信号の特性に差異があることを利用している。すなわち、圧電基板上の領域が開放されている場合の出力信号は、電気的相互作用及び力学的相互作用を受けており、圧電基板上の領域が短絡されている場合の出力信号は、力学的相互作用のみを受けている。従って、両出力信号から力学的相互作用を相殺し、電気的相互作用を抽出することにより、被測定物の誘電率や導電率を求めることができる。
【0004】
【特許文献1】特許第3481298号公報
【非特許文献1】羽藤逸文他2名、「SAW発振器一体型SAWセンサシステムの開発」、信学技報、電子情報通信学会、2003年2月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、圧電基板上の開放されている表面領域を弾性表面波が伝搬する場合には、すべり弾性表面波は、圧電基板の表面近傍を潜り込みながら伝搬するバルク波となるために挿入損失が大きくなり、被測定物の比誘電率、導電率を正確に測定できないことがあった。
【0006】
本発明は、上記の課題を考慮してなされたものであって、被測定物の比誘電率、導電率を正確に測定することが可能な比誘電率・導電率測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る比誘電率・導電率測定装置は、入力電極と出力電極との間に電気的に短絡した短絡伝搬路を有する第1弾性表面波素子と、入力電極と出力電極との間に凸部分が電気的に分離した格子状の凹凸構造が形成された格子状伝搬路を有する第2弾性表面波素子とを備え、前記短絡伝搬路及び前記格子状伝搬路に液体状の被測定物を負荷した状態において、前記各入力電極から同一の信号を入力し、前記各出力電極から出力された各出力信号の振幅比及び位相差から、前記被測定物の比誘電率又は導電率の少なくとも一方を求めることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、短絡伝搬路を有する第1弾性表面波素子と、格子状伝搬路を有する第2弾性表面波素子とを組み合わせることにより、液体状の被測定物の比誘電率、導電率を正確に測定することができる。
【0009】
また、他の本発明に係る比誘電率・導電率測定装置は、入力電極と出力電極との間に電気的に短絡した短絡伝搬路を有する第1弾性表面波素子と、入力電極と出力電極との間に凸部分が電気的に分離した格子状の凹凸構造が形成された格子状伝搬路を有する第2弾性表面波素子と、入力電極と出力電極との間に電気的に開放した開放伝搬路を有する第3弾性表面波素子とを備え、前記短絡伝搬路と前記格子状伝搬路と前記開放伝搬路に液体状の被測定物を負荷した状態において、前記第1弾性表面波素子と前記第2弾性表面波素子の前記各入力電極に同一の信号を入力し、前記第1弾性表面波素子と前記第2弾性表面波素子の前記各出力電極から出力された各出力信号の振幅比及び位相差から、又は、前記第1弾性表面波素子と前記第3弾性表面波素子の前記各入力電極に同一の信号を入力し、前記第1弾性表面波素子と前記第3弾性表面波素子の前記各出力電極から出力された各出力信号の振幅比及び位相差から、前記被測定物の比誘電率又は導電率の少なくとも一方を求めることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、短絡伝搬路を有する第1弾性表面波素子と、格子状伝搬路を有する第2弾性表面波素子と、開放伝搬路を有する第3弾性表面波素子とを組み合わせることにより、液体状の被測定物の比誘電率、導電率を正確に測定することができる。
【0011】
さらに、他の本発明に係る比誘電率・導電率測定装置は、入力電極と出力電極との間に凸部分が電気的に分離した格子状の凹凸構造が形成された格子状伝搬路を有する弾性表面波素子とを備え、前記格子状伝搬路に液体状の被測定物を負荷した状態において、前記入力電極に信号を入力し、前記出力電極から出力された出力信号の振幅及び位相から、前記被測定物の比誘電率又は導電率の少なくとも一方を求めることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、凸部分が電気的に分離した格子状の凹凸構造が形成された格子状伝搬路を有する弾性表面波素子を用いることにより液体状の被測定物の比誘電率、導電率を正確に測定することができる。
【0013】
また、前記各弾性表面波素子が形成されている圧電基板の厚さが、前記圧電基板上を伝搬する弾性表面波の波長をλとして4λ以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、短絡伝搬路を有する第1弾性表面波素子と、格子状伝搬路を有する第2弾性表面波素子とを組み合わせることにより、液体状の被測定物の比誘電率、導電率を正確に測定することができる。また、短絡伝搬路を有する第1弾性表面波素子と、格子状伝搬路を有する第2弾性表面波素子と、開放伝搬路を有する第3弾性表面波素子とを組み合わせることにより、液体状の被測定物の比誘電率、導電率を正確に測定することができる。さらに、凸部分が電気的に分離した格子状の凹凸構造が形成された格子状伝搬路を有する弾性表面波素子を用いることにより液体状の被測定物の比誘電率、導電率を正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る比誘電率・導電率測定装置40の構成の説明図である。また、図2A、図2Dは、図1のIIA−IIA端面図であって、図2Aは、被測定物を負荷する前の状態を示す図であり、図2Dは、被測定物を負荷した後の状態を示す図であり、図2B、図2Eは、図1のIIB−IIB端面図であって、図2Bは、被測定物を負荷する前の状態を示す図であり、図2Eは、被測定物を負荷した後の状態を示す図であり、図2C、図2Fは、図1のIIC−IIC端面図であって、図2Cは、被測定物を負荷する前の状態を示す図であり、図2Fは、被測定物を負荷した後の状態を示す図である。
【0016】
図1に示すように、比誘電率・導電率測定装置40は、第1弾性表面波素子10と、第2弾性表面波素子20と、第3弾性表面波素子30と、高周波の電気信号を発生する発振器48と、発振器48からの電気信号を分配する分配器50と、弾性表面波に対応した出力信号の振幅比及び位相差を測定する振幅比位相差検出器56を備える。
【0017】
第1弾性表面波素子10は、入力電極12及び出力電極14を備え、入力電極12と出力電極14との間には、短絡伝搬路16が形成される。第2弾性表面波素子20は、入力電極22及び出力電極24を備え、入力電極22と出力電極24との間には、格子状伝搬路26が形成される。第3弾性表面波素子30は、入力電極32及び出力電極34を備え、入力電極32と出力電極34との間には、開放伝搬路36が形成される。また、第1弾性表面波素子10、第2弾性表面波素子20及び第3弾性表面波素子30は、圧電基板42上に互いに並列になるように配置されている。
【0018】
入力電極12、入力電極22及び入力電極32は、発振器48から分配器50、切替器52を介して入力された電気信号によって、弾性表面波を励振させるために櫛形電極で構成される。また、出力電極14、出力電極24及び出力電極34は、入力電極12、入力電極22又は入力電極32で励振され伝搬してきた弾性表面波を受信するために櫛形電極で構成されている。
【0019】
短絡伝搬路16、格子状伝搬路26及び開放伝搬路36は、圧電基板42上に蒸着された金属膜44で形成される。短絡伝搬路16及び開放伝搬路36に形成された金属膜44は電気的に短絡され、当該金属膜44は、被測定物の比誘電率、導電率の測定精度を向上させるために、共通に接地されている。金属膜44の材料は特に限られないが、被測定物46に対して、化学的に安定している金で形成することが好ましい。
【0020】
格子状伝搬路26には、入力電極22から出力される弾性表面波の伝搬方向(X方向)に対して垂直な方向に並列に延在する凸部27が金属膜44で形成される。凸部27はX方向に等間隔に形成され、隣接する凸部27の間には圧電基板42が露出する凹部28が形成される。つまり、格子状伝搬路26には、X方向に凸部27及び凹部28から構成される凹凸構造29が形成され、隣接する凸部27同士は電気的に分離(開放)している。そして、主として、凹部28に測定の対象となる被測定物46が負荷される(図2E参照)。なお、凸部27同士の間隔は、伝搬する弾性表面波の波長λよりも短いことが好ましく、より好ましくはλ/8である。
【0021】
開放伝搬路36には、金属膜44の一部が剥離され、圧電基板42が露出するように開放領域38が形成されている。従って、圧電基板42が露出している開放領域38は電気的に開放状態となっている。なお、金属膜44が残る部分については、短絡伝搬路16と同様に電気的に短絡状態となっている。
【0022】
圧電基板42は、すべり弾性表面波を伝搬することができれば、特に限られないが、36度回転Y板X伝搬LiTaO3であることが好ましい。
【0023】
次に、比誘電率・導電率測定装置40を用いた被測定物46の比誘電率、導電率の測定について説明する。
【0024】
まず、測定の対象である被測定物46を短絡伝搬路16、格子状伝搬路26及び開放伝搬路36に負荷する。短絡伝搬路16では、被測定物46は金属膜44上に負荷され、格子状伝搬路26では、凸部27及び凹部28から構成される凹凸構造29が形成されているために、被測定物46は主として凹部28に負荷され、開放伝搬路36では開放領域38に負荷される(図2D〜図2F参照)。
【0025】
次いで、短絡伝搬路16と格子状伝搬路26を伝搬する各弾性表面波に対応する出力信号の振幅比及び位相差を測定するために切替器52を切り換えて、分配器50と入力電極22と接続するとともに、切替器54を切り換えて、出力電極24と振幅比位相差検出器56を接続する。そして、発振器48より電気信号を分配器50で分配して、入力電極12及び入力電極22へ同一信号を入力する。入力電極12では、入力された信号に基づいて弾性表面波が励振され、短絡伝搬路16上を伝搬して、出力電極14で受信される。同様に、入力電極22では、入力された信号に基づいて弾性表面波が励振され、格子状伝搬路26上を伝搬して、出力電極24で受信される。
【0026】
出力電極14と出力電極24で受信した弾性表面波から取り出した両出力信号を振幅比位相差検出器56で比較し振幅比及び位相差を検出する。
【0027】
出力電極14からの出力信号には、力学的相互作用を示す信号成分が含まれ、出力電極24からの出力信号には、電気的相互作用及び力学的相互作用を示す信号成分が含まれている。この両出力信号から検出した差分の信号は、力学的相互作用が相殺され、電気的相互作用にのみ対応する信号であり、この信号から検出した振幅比及び位相差に基づいて、被測定物46の比誘電率、導電率を算出する。
【0028】
また、短絡伝搬路16と開放伝搬路36を伝搬する各弾性表面波に対応する出力信号の振幅比及び位相差を測定するために切替器52を切り換えて、分配器50と入力電極32と接続するとともに、切替器54を切り換えて、出力電極34と振幅比位相差検出器56を接続する。そして、発振器48より、電気信号を分配器50で分配して、入力電極12及び入力電極32へ同一信号を入力する。入力電極12では、入力された信号に基づいて弾性表面波が励振され、短絡伝搬路16上を伝搬して、出力電極14で受信される。同様に、入力電極32では、入力された信号に基づいて弾性表面波が励振され、開放伝搬路36上を伝搬して、出力電極34で受信される。
【0029】
出力電極14と出力電極34で受信した弾性表面波から取り出した両出力信号を切替器52で比較して振幅比及び位相差を検出し、この検出結果から被測定物46の比誘電率、導電率を算出する。
【0030】
被測定物46の具体的な算出は、以下に説明する摂動法による算出式によって行われる。標準液として純水を用いた場合に標準液の複素誘電率をεt、比誘電率をεr、真空の誘電率をε0、導電率をσ、発振器58から出力される信号の励振角周波数をωとすると、
εt=εrε0−jσ/ω…(1)
となる。ここで、標準液では導電率σ=0であるために、式(1)は、
εt=εrε0…(2)
となる。
【0031】
次に、測定対象である被測定物46の複素誘電率をεt’、比誘電率をεr’、導電率をσ’とすると次式の関係となる。
εt'=εr0−jσ'/ω…(3)
【0032】
伝搬速度の速度変化量ΔV/V、減衰変化量Δα/kは、式(4)、式(5)で表される。
ΔV/V=−Ks2/2・[(σ'/ω)2+ε0r'−εr)(εr0+εpT)]/[(σ'/ω)2+(εr0+εpT)2]…(4)
Δα/k=Ks2/2・[(σ'/ω)(εrε0+εpT)]/[(σ'/ω)2+(εr0+εpT)2]…(5)
【0033】
ここで、Vは、伝搬路を伝搬する弾性表面波の伝搬速度、ΔVは、標準液に対する被測定物46における弾性表面波の伝搬速度の変化量、αは、弾性表面波の伝搬減衰、Δαは、標準液に対する被測定物46における弾性表面波の伝搬減衰の変化量、kは波数で、k=2π/λであり、εpTは、実効誘電率である。
【0034】
また、伝搬速度の速度変化量ΔV/V、減衰変化量Δα/kと、振幅比Δamp、位相差Δφとの関係は、伝搬路長の差をLとすると、次式で表される。
ΔV/V=Δφ/kL…(6)
Δα/k=ln(Δamp)/kL…(7)
【0035】
振幅比位相差検出器56で検出した出力信号の位相差Δφを式(6)に、振幅比Δampを式(7)に代入して、速度変化量ΔV/V、減衰変化量Δα/kを求め、さらに求めた速度変化量ΔV/Vを式(4)に、減衰変化量Δα/kを式(5)に代入して、式(4)、(5)の連立方程式から測定対象である被測定物46の比誘電率εr’、導電率σ’を求めることができる。なお、被測定物46に対する振幅比位相差検出器56で検出した出力信号の位相差Δφ、振幅比Δampは、予め被測定物46と同様に標準液について検出した位相差、振幅比に対する変化量として規定化したうえで代入している。
【0036】
次に、比誘電率・導電率測定装置40で測定した比誘電率εr’、導電率σ’に関する測定結果について図3〜図6に基づいて説明する。被測定物46として、ジオキサン(dioxane:C482)と、塩化カリウム(KCl)とを対象として測定した。
【0037】
図3は、ジオキサンの比誘電率εr’と減衰変化量Δα/kとの関係を示す図であり、図4は、ジオキサンの比誘電率εr’と速度変化量ΔV/Vとの関係を示す図であり、図5は、塩化カリウムの導電率σ’と減衰変化量Δα/kとの関係を示す図であり、図6は、塩化カリウムの導電率σ’と速度変化量ΔV/Vとの関係を示す図である。図3〜図6には、図1に示す短絡伝搬路16と開放伝搬路36との組み合わせ、短絡伝搬路16と格子状伝搬路26との組み合わせについての測定結果及び理論値が示されている。
【0038】
図3では、短絡伝搬路16と格子状伝搬路26との組み合わせは、比誘電率εr’の全範囲において、短絡伝搬路16と開放伝搬路36との組み合わせよりも減衰変化量Δα/kが抑制されている。また、図4では、短絡伝搬路16と格子状伝搬路26との組み合わせは、比誘電率εr’の全範囲において、短絡伝搬路16と開放伝搬路36との組み合わせと同様に理論値に近い値となっている。従って、図3、図4より総合的に勘案して、ジオキサンの比誘電率εr’の測定では、短絡伝搬路16と格子状伝搬路26との組み合わせは、短絡伝搬路16と開放伝搬路36との組み合わせよりも減衰変化量Δα/kを抑制することができるために、正確に比誘電率εr’を測定することができる。
【0039】
図5、図6では、短絡伝搬路16と格子状伝搬路26との組み合わせは、導電率σ’の全範囲において、短絡伝搬路16と開放伝搬路36との組み合わせよりも、理論値に近い値となっている。従って、図5、図6より、塩化カリウムの導電率σ’の測定では、短絡伝搬路16と格子状伝搬路26との組み合わせは、短絡伝搬路16と開放伝搬路36との組み合わせよりも正確に導電率σ’を測定することができる。
【0040】
以上説明したように、比誘電率・導電率測定装置40は、入力電極12と出力電極14との間に電気的に短絡した短絡伝搬路16を有する第1弾性表面波素子10と、入力電極22と出力電極24との間に凸部分が電気的に分離した格子状の凹凸構造29が形成された格子状伝搬路26を有する第2弾性表面波素子20と、入力電極32と出力電極34との間に電気的に開放した開放伝搬路36を有する第3弾性表面波素子30とを備え、第1弾性表面波素子10と第2弾性表面波素子20と第3弾性表面波素子30とは互いに並列に配されている。比誘電率・導電率測定装置40において、短絡伝搬路16と格子状伝搬路26と開放伝搬路36に被測定物46を負荷し、入力電極12、入力電極22に同一の信号を入力し、出力電極14、出力電極24から出力された各出力信号の振幅比及び位相差から、又は、入力電極12、入力電極32に同一の信号を入力し、出力電極14、出力電極34から出力された各出力信号の振幅比及び位相差から、被測定物46の比誘電率、導電率を正確に測定することができる。
【0041】
次に、本発明の第2実施形態について図面を参照して説明する。図7は、本発明の第2実施形態に係る比誘電率・導電率測定装置40Aの構成の説明図である。比誘電率・導電率測定装置40Aは、比誘電率・導電率測定装置40を構成する第2弾性表面波素子20を備え、入力電極22に発振器48が接続され、出力電極24に振幅・位相検出器60が接続され、前記振幅・位相検出器60には被測定物46の温度を検出するための温度センサ64が接続されている。なお、図1に示した比誘電率・導電率測定装置40と同一の構成要素には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0042】
次に、比誘電率・導電率測定装置40Aを用いた被測定物46の比誘電率、導電率の測定について説明する。
【0043】
まず、特定の温度t0に対して比誘電率εr0、導電率σ0が既知である被測定物46を標準溶液として格子状伝搬路26に負荷する。格子状伝搬路26では、凸部27及び凹部28から構成される凹凸構造29が形成されているために、被測定物46は主として凹部28に負荷される(図2E参照)。
【0044】
次いで、発振器48より電気信号を入力電極22へ入力すると弾性表面波が励振され、格子状伝搬路26上を伝搬して、出力電極24で受信される。出力電極24で受信した弾性表面波から取り出した出力信号から振幅・位相検出器60で振幅及び位相を検出し、当該検出した振幅、位相を振幅・位相検出器60内のメモリ62に記憶させる。
【0045】
次に、前記標準溶液と同種で温度tの被測定物46を格子状伝搬路26に負荷し、前記標準溶液と同様に振幅、位相を振幅・位相検出器60で検出する。検出した振幅、位相とメモリ62に記憶した前記標準溶液の振幅、位相との差分を振幅比、位相差として求める。この求めた振幅比、位相差は、温度差Δt=t−t0に対する振幅比Δamp、位相差Δφとなる。次いで、位相差Δφを式(6)に、振幅比Δampを式(7)に代入して、速度変化量ΔV/V、減衰変化量Δα/kを求め、さらに求めた速度変化量ΔV/Vを式(4)に、減衰変化量Δα/kを式(5)に代入する。式(4)、(5)の連立方程式から測定対象である被測定物46の温度t0から温度tへの温度変化に対応する比誘電率の変化量Δεr、導電率の変化量Δσが算出される。従って、求める温度tの比誘電率εrt’、導電率σt’は、比誘電率εrt’=εr0+Δεr、導電率σt’=σ0+Δσとして求めることができる。
【0046】
比誘電率・導電率測定装置40では、短絡伝搬路16と格子状伝搬路26又は短絡伝搬路16と開放伝搬路36とを組み合わせて、力学的相互作用の相殺をして、電気的相互作用から被測定物46の比誘電率、導電率を算出している。これに対して、比誘電率・導電率測定装置40Aでは、特定の温度に対して比誘電率、導電率が既知である被測定物46を標準溶液として、異なる温度で同種の被測定物46と標準溶液との差分として、振幅比、位相差を求めることにより、結果として力学的相互作用の相殺をして抽出した電気的相互作用の成分に基づいて、被測定物46の比誘電率、導電率を算出している。
【0047】
なお、被測定物46の対象をジオキサンとした場合には、図3、図4における短絡伝搬路16と格子状伝搬路26との組み合わせで得られる結果と同様の結果が得られる。また、第2実施形態では、被測定物46は、力学的相互作用を相殺する必要性から温度変化に対して密度、粘性が変化しないものとしているがこの場合に限定されるものでなく、温度変化に対する密度、粘性が既知の溶液を被測定物46の対象とすることもできる。かかる場合には、標準溶液とした温度t0の被測定物46の密度、粘性に基づいて、温度tの被測定物46の密度、粘性を補正することにより力学的相互作用を相殺することができる。
【0048】
以上説明したように、比誘電率・導電率測定装置40Aは、入力電極22と出力電極24との間に凸部27が電気的に分離した格子状の凹凸構造29が形成された格子状伝搬路26を有する第2弾性表面波素子20(弾性表面波素子)とを備え、格子状伝搬路26に液体状の被測定物46を負荷した状態において、入力電極22に信号を入力し、出力電極24から出力された出力信号の振幅及び位相から、被測定物46の比誘電率、導電率を正確に測定することできる。
【0049】
次に、開放伝搬路が形成された圧電基板42の基板の厚さと粒子変位との関係について説明する。図8は、比誘電率が異なる被測定物46において、単位波長当たりの圧電基板の厚さに対する単位波長当たりの粒子変位について示した図である。図8に示す測定では、発振器48から入力される入力信号の周波数を30MHzとした。
【0050】
図8から、比誘電率が5以上の被測定物46においては、単位波長当たりの圧電基板42の厚さが、圧電基板42上を伝搬する弾性表面波の波長λに対して5λ以下である場合には、単位波長当たりの粒子変位を0.1以下が抑えられることがわかる。さらに好ましくは、単位波長当たりの圧電基板42の厚さは、4λ以下である。
【0051】
圧電基板42上を伝搬する弾性表面波のうち、弾性表面波素子として利用するすべり弾性表面波は、伝搬方向と直交する方向に変位する。この変位が圧電基板42の厚さよりも大きい場合には、減衰変化量Δα/kも大きくなり、被測定物46の比誘電率、導電率の測定精度も低下する。従って、単位波長当たりの粒子変位は、所定値以下、好ましくは0.1以下に抑えることにより、被測定物46の比誘電率、導電率の測定精度を向上することができる。
【0052】
また、測定対象の液体状の被測定物は、特に限定されるものではなく、純液、混合液のいずれであってもよく、メタノール、エタノール等のアルコールの比誘電率、導電率を測定する場合に特に有効である。
【0053】
また、本発明は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1実施形態に係る比誘電率・導電率測定装置の構成の説明図である。
【図2】図2A、図2Dは、図1のIIA−IIA端面図であって、図2Aは、被測定物を負荷する前の状態を示す図であり、図2Dは、被測定物を負荷した後の状態を示す図であり、図2B、図2Eは、図1のIIB−IIB端面図であって、図2Bは、被測定物を負荷する前の状態を示す図であり、図2Eは、被測定物を負荷した後の状態を示す図であり、図2C、図2Fは、図1のIIC−IIC端面図であって、図2Cは、被測定物を負荷する前の状態を示す図であり、図2Fは、被測定物を負荷した後の状態を示す図である。
【図3】ジオキサンの比誘電率εr’と減衰変化量Δα/kとの関係を示す図である。
【図4】ジオキサンの比誘電率εr’と速度変化量ΔV/Vとの関係を示す図である。
【図5】塩化カリウムの導電率σ’と減衰変化量Δα/kとの関係を示す図である。
【図6】塩化カリウムの導電率σ’と速度変化量ΔV/Vとの関係を示す図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る比誘電率・導電率測定装置の構成の説明図である。
【図8】単位波長当たりの圧電基板の厚さに対する単位波長当たりの粒子変位について示した図である。
【符号の説明】
【0055】
10…第1弾性表面波素子 12、22、32…入力電極
14、24、34…出力電極 16…短絡伝搬路
20…第2弾性表面波素子 26…格子状伝搬路
27…凸部 28…凹部
29…凹凸構造 30…第3弾性表面波素子
36…開放伝搬路 38…開放領域
40、40A…比誘電率・導電率測定装置 42…圧電基板
44…金属膜 46…被測定物
48…発振器 50…分配器
52、54…切替器 56…振幅比位相差検出器
60…振幅・位相検出器 62…メモリ
64…温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電極と出力電極との間に電気的に短絡した短絡伝搬路を有する第1弾性表面波素子と、
入力電極と出力電極との間に凸部分が電気的に分離した格子状の凹凸構造が形成された格子状伝搬路を有する第2弾性表面波素子とを備え、
前記短絡伝搬路及び前記格子状伝搬路に液体状の被測定物を負荷した状態において、
前記各入力電極から同一の信号を入力し、前記各出力電極から出力された各出力信号の振幅比及び位相差から、前記被測定物の比誘電率又は導電率の少なくとも一方を求める
ことを特徴とする比誘電率・導電率測定装置。
【請求項2】
入力電極と出力電極との間に電気的に短絡した短絡伝搬路を有する第1弾性表面波素子と、
入力電極と出力電極との間に凸部分が電気的に分離した格子状の凹凸構造が形成された格子状伝搬路を有する第2弾性表面波素子と、
入力電極と出力電極との間に電気的に開放した開放伝搬路を有する第3弾性表面波素子とを備え、
前記短絡伝搬路と前記格子状伝搬路と前記開放伝搬路に液体状の被測定物を負荷した状態において、
前記第1弾性表面波素子と前記第2弾性表面波素子の前記各入力電極に同一の信号を入力し、前記第1弾性表面波素子と前記第2弾性表面波素子の前記各出力電極から出力された各出力信号の振幅比及び位相差から、
又は、前記第1弾性表面波素子と前記第3弾性表面波素子の前記各入力電極に同一の信号を入力し、前記第1弾性表面波素子と前記第3弾性表面波素子の前記各出力電極から出力された各出力信号の振幅比及び位相差から、前記被測定物の比誘電率又は導電率の少なくとも一方を求める
ことを特徴とする比誘電率・導電率測定装置。
【請求項3】
入力電極と出力電極との間に凸部分が電気的に分離した格子状の凹凸構造が形成された格子状伝搬路を有する弾性表面波素子とを備え、
前記格子状伝搬路に液体状の被測定物を負荷した状態において、
前記入力電極に信号を入力し、前記出力電極から出力された出力信号の振幅及び位相から、前記被測定物の比誘電率又は導電率の少なくとも一方を求める
ことを特徴とする比誘電率・導電率測定装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の比誘電率・導電率測定装置において、
前記各弾性表面波素子が形成されている圧電基板の厚さが、前記圧電基板上を伝搬する弾性表面波の波長をλとして4λ以下である
ことを特徴とする比誘電率・導電率測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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