説明

毛根採集用治具

【課題】核酸の分離および精製などの前処理を必要とせず、簡易に高感度で毛根における特定遺伝子を検出し得る方法に適用するための毛根を採集するために好適に用いられ得る治具を提供する。
【解決手段】ポリメラーゼ連鎖反応、LAMP法、鎖置換増幅、逆転写酵素鎖置換増幅、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応、逆転写LAMP法、核酸配列に基づく増幅、転写媒介性増幅およびローリングサークル型増幅法から選ばれる方法を利用した特定遺伝子の検出に供するための毛根を採集するために用いられる治具であって、体毛の毛根以外の一部を固定するための体毛固定部を備える、毛根採集用治具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛根に含まれる特定遺伝子を検出する目的で、毛根を採集するために用いられる治具に関する。
【背景技術】
【0002】
生物の個体間では、野生型とは異なる塩基配列を有する遺伝子多型(SNP)が存在する。この遺伝子多型は、個体の基礎代謝、性質、疾患等の差異を生じさせることが知られている。したがって、個体のDNAの特定遺伝子において変異が生じているか否かを検査することについて、PCR法などを利用した様々な研究が進められている(たとえば特開2005−245272号公報(特許文献1)を参照)。生物における遺伝子多型を検査することは、将来生じうる疾患などを予測することが臨床的にも重要視されている。しかしながら、特許文献1に記載の方法は、PCR法に利用するためのDNAの精製などの操作が煩雑であり、より簡便な方法が求められている。
【0003】
また生体から少量の血液などを採取し、その血液を直接利用して特定遺伝子を増幅して検出するための簡便なPCR法などが開発されている(たとえば特表2008−531039号公報(特許文献2)を参照)。しかし、特許文献2に記載の方法においては、血液を採取する際に痛みが伴い、血液を輸送する際には低温に保持する必要があり、さらに、PCR法等に使われなかった余った血液などの生体試料の保存および処分には細心の留意を払う必要がある。
【0004】
また、PCR法などを利用した特開2006−187270号公報(特許文献3)、特開2006−322739号公報(特許文献4)およびKinoshita, K. et al., Nucleic Acids Res. 35:e3 (2007)(非特許文献1)には、ホスホリルコリン基を有する第一単位と電子求引性の置換基がカルボニル基に結合してなるカルボン酸誘導基を有する第二単位とを含む高分子物質を表面にDNA鎖を固定化した不溶性担体に検出対象遺伝子のDNA断片またはRNA断片を含有する溶液を添加し、該DNA鎖とハイブリダイズさせ、溶液中の遺伝子断片の含有状況を判定することを特徴とする遺伝子の検出方法が開示されている。しかしながら、特許文献3、4に記載された方法においても、同様にPCR法に利用するためのDNAの精製などの操作が煩雑であり、より簡便な方法が求められている。
【0005】
近年、臨床での応用が期待される薬物代謝関連酵素遺伝子のSNPも多く見出されており、多くの薬物代謝に関与するチトクロームP450(CYP)のファミリーや抗結核薬イソニアジドの代謝に関与するN−acetyltransferase 2(NAT−2)、経口抗凝固剤ワーファリンの効果の強さに大きく影響するCYP2C9とVKORC1などがそれである。これらの遺伝子にその酵素活性を低下させるようなSNPがあると、薬剤の血中濃度が長時間に渡って高く保たれた結果、効果が強く発現したり、有毒な中間代謝産物が蓄積されたりする副作用がある。また、代謝速度の高い遺伝子多型が見出されたならば、薬剤の血中濃度を維持するために投薬量を増やすなどの処置が必要となる。そこで、投薬前にこのような遺伝子のSNPを検査し、その遺伝子の型から判断して適切な薬剤の投薬量を決定するなどして、副作用を回避し、効率的な治療効果を得ようとする医療、すなわち、「テーラーメイド医療」、「オーダメイド医療」、あるいは「個別化医療」と呼ばれている患者個々の体質に応じたより適切な医療の実現が可能となり、無用な副作用への対処や不適切な投薬を減らすことによって医療費削減への効果も期待できる。このように、SNPを利用した診断の実用化と普及が大いに期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−245272号公報
【特許文献2】特表2008−531039号公報
【特許文献3】特開2006−187270号公報
【特許文献4】特開2006−322739号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kinoshita, K. et al., Nucleic Acids Res. 35:e3 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、生体試料中に特定遺伝子が含まれるかを特異的に検出できる特定遺伝子の検出において、さまざまな問題が未だ解決されていない。
【0009】
また、試料中の微量の核酸を増幅するためにはPCR法が広く普及している。しかしながら、PCR法では試料中に含まれる夾雑物により遺伝子の増幅反応を阻害してしまう場合があるため、上述のように増幅反応の前に分離および精製などの煩雑な前処理を行なう必要がある。
【0010】
このような背景から、本発明者は、固形被検試料を採取し、直接固形被検試料に含まれる特定遺伝子を増幅し、簡便かつ短時間に検出できる検査法の開発を行なってきた。その中で、毛根は、根元から抜くことで比較的痛みを伴わずに採集することが可能であり、上記検査法に適用する固形被検試料として好適であることを本発明者は見出した。
【0011】
したがって、本発明の目的は、核酸の分離および精製などの前処理を必要とせず、簡易に高感度で毛根における特定遺伝子を検出し得る方法に適用するための毛根を採集するために好適に用いられ得る治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の毛根採集用治具は、ポリメラーゼ連鎖反応、LAMP法、鎖置換増幅、逆転写酵素鎖置換増幅、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応、逆転写LAMP法、核酸配列に基づく増幅、転写媒介性増幅およびローリングサークル型増幅法から選ばれる方法を利用した特定遺伝子の検出に供するための毛根を採集するために用いられる治具であって、体毛の毛根以外の一部を固定するための体毛固定部を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の毛根採集用治具は、体毛の毛根を含む部分を袋状物に収納した状態で、体毛ごと袋状物の開口を密封することで体毛固定部が形成されることが、好ましい(以下、この態様の毛根採集用治具を「第1の態様の毛根採集用治具」と呼称する)。
【0014】
本発明の第1の態様の毛根採集用治具は、体毛の一部を固定した状態の体毛固定部を袋状物から取り出し、毛根を、バッファーとDNAポリメラーゼとを含む溶液、および毛根に含まれる特定遺伝子を増幅するためのプライマーDNAに直接接触させることで、特定遺伝子の検出に供するように構成されていることが、好ましい。
【0015】
本発明の毛根採集用治具はまた、平板状の基板の長手方向の略中央部に体毛の毛根以外の一部を粘着して固定するための体毛固定部が設けられているように構成されてもよい(以下、この態様の毛根採集用治具を「第2の態様の毛根採集用治具」と呼称する)。
【0016】
本発明の第2の態様の毛根採集用治具は、体毛の一部を固定した状態の体毛固定部に装着するための保護部材を備え、毛根を、バッファーとDNAポリメラーゼとを含む溶液、および毛根に含まれる特定遺伝子を増幅するためのプライマーDNAに直接接触させるために、保護部材を装着した状態で体毛固定部が基板から取り外し可能に構成されていることが、好ましい。
【0017】
本発明の第2の態様の毛根採集用治具は、基板上の長手方向一方側にレンズが設けられていることが、好ましい。
【0018】
本発明の第2の態様の毛根採集用治具はまた、保護部材が体毛を切断できる切断部を有することが好ましい。
【0019】
本発明の第1の態様の毛根採集用治具、第2の態様の毛根採集用治具のいずれにおいても、体毛は毛髪であることが、好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、核酸の分離および精製などの前処理を必要とせず、簡易に高感度で毛根における特定遺伝子を検出し得る方法に好適に適用し得る毛根を効率的に採集することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の態様の毛根採集用治具1を用いた毛根の採集を段階的に示す図である。
【図2】本発明の第1の態様の毛根採集用治具1を用いて採集した毛根からの特定遺伝子の検出を段階的に示す図である。
【図3】本発明の第2の態様の毛根採集用治具11を模式的に示す平面図である。
【図4】図3に示す例の毛根採集用治具11を用いた毛根の採集を段階的に示す図である。
【図5】本発明の第2の態様の毛根採集用治具11における保護部材13の好ましい一例を模式的に示す図であり、図5(a)は平面図、図5(b)は側面図である。
【図6】本発明の第2の態様の毛根採集用治具11を用いて採集した毛根からの特定遺伝子の検出を段階的に示す図である。
【図7】本発明の毛根採集用治具11を密封材22に封入した状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の毛根採集用治具は、ポリメラーゼ連鎖反応、LAMP法、鎖置換増幅、逆転写酵素鎖置換増幅、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応、逆転写LAMP法、核酸配列に基づく増幅、転写媒介性増幅およびローリングサークル型増幅法から選ばれる方法を利用した特定遺伝子の検出に供するための毛根を採集するために用いられる治具であって、体毛の毛根以外の一部を固定するための体毛固定部を備えることを特徴とする。本発明の毛根採集用治具によれば、このように体毛固定部で体毛の毛根以外の一部を固定するように構成することで、核酸の分離および精製などの前処理を必要とせず、簡易に高感度で毛根における特定遺伝子を検出し得る方法に好適に適用し得る毛根を効率的に採集することができる。
【0023】
本発明において、毛根は、毛髪、眉毛、鼻毛、ひげ、陰毛、腋毛を含む全ての体毛由来のものであれば特に限定されない。毛根は、根元から毛を抜くことで得られるため、比較的痛みを伴わない採取が可能である。
【0024】
また本発明において、特定遺伝子とは、毛根の遺伝子に含まれる遺伝子多型(SNP)、マイクロサテライト、STR(Short Tandem Repeat)などと呼ばれるDNA多型などを指す。特定遺伝子の長さとしては、通常20〜数十万塩基程度まで適用できるが、50〜3000塩基であることが好ましい。
【0025】
本発明の毛根採集用治具を用いて採集した毛根は、バッファーとDNAポリメラーゼとを含む溶液、および毛根に含まれる特定遺伝子を増幅するためのプライマーDNAに直接接触され、ポリメラーゼ連鎖反応、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、鎖置換増幅、逆転写酵素鎖置換増幅、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応、逆転写LAMP法、核酸配列に基づく増幅、転写媒介性増幅およびローリングサークル型増幅法から選ばれる方法が施される。
【0026】
特定遺伝子の増幅に用いられるDNAポリメラーゼはTaq DNA ポリメラーゼに代表される耐熱性DNAポリメラーゼのものであれば特に制限されないが、KOD DNAポリメラーゼを用いることが好ましい。バッファーは固形被検試料中に含まれるPCR反応を阻害する物質存在下でもDNA増幅可能なものであれば、特に制限されないが、EzWay(商標)(KOMA Biotechnology)、Ampdirect(登録商標)(島津製作所)、Phusion(登録商標)Blood Direct PCR kitバッファー(New ENGLAND Bio−Labs)、KOD FXバッファー(東洋紡績)などを用いることが好ましく、KOD DNAポリメラーゼ用に開発されたKOD FXバッファー(東洋紡績)を用いることが特に好ましい。DNAプライマーは、特定遺伝子を決定した時点で、適宜公知の方法で設計することができる。
【0027】
上述のようにして増幅したDNAを解析することで、毛根中の特定遺伝子の存在の有無を判定することができる。解析法は、増幅された特定遺伝子の検出または定量が可能なものであれば特に制限されず、DNAシーケンス法、ゲル電気泳動法、平板状のDNAチップまたはビーズによるハイブリダイゼーション、リアルタイムPCR法、およびプローブDNAを利用した伸張反応またはハイブリダイゼーションによる遺伝子検出法から選ばれるいずれかの方法が挙げられる。ゲル電気泳動法によれば、増幅したDNAの量、およびその大きさを評価することができる。また、リアルタイムPCR法によれば、迅速に増幅したDNAの定量を行なうことができる。
【0028】
本発明の毛根採集用治具は、2つの態様に大きく分けられる。以下、それぞれの態様の毛根採集用治具について詳細に説明する。
【0029】
<第1の態様の毛根採集用治具>
図1は、本発明の第1の態様の毛根採集用治具1を用いた毛根の採集を段階的に示す図である。図1に示す例の毛根採集用治具1は、体毛の毛根を含む部分を袋状物2に収納した状態で、体毛ごと袋状物2の開口を密封することで体毛固定部6が形成されてなることを特徴とする。具体的には、まず、図1(a)に示すように、袋状物2の開口から、毛根5側から体毛4を挿入する。なお、毛根に付着した脂質などを除去する観点からは、毛根5は、挿入前にウェットティシューなどで予め拭いておくことが好ましい。毛根5を含む体毛4の一部が袋状物2内に収容された状態(図1(b))で、開口から飛び出した体毛4の一部ごと、開口をシールして体毛を固定し、体毛固定部6を形成する(図1(c))。開口からはみ出した体毛4が長すぎる場合には、鋏などを用いて適当な長さに切断すればよい。
【0030】
袋状物2は、シート状物を丸めてシールして筒状物を形成し、筒状物の一方の開口をシールして密封部3を形成することで作製できる。シート状物は、その形成材料については特に制限されるものではないが、密封部3、体毛固定部6などを容易に形成できる観点からは、熱シールなどで融着可能なたとえばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)などの材料で形成されることが好ましい。またPETとPEとが貼り合わされた厚み50μmの特殊PET/PEシートを好適に用いることができる。
【0031】
また図2は、本発明の第1の態様の毛根採集用治具1を用いて採集した毛根からの特定遺伝子の検出を段階的に示す図である。まず、図2(a)に示すように、袋状物2を切断する。袋状物2は、手で切断することも可能であるが、袋状物を切断する際に誤って毛根を損傷したりなどすることを防止し、確実に毛根を取り出せることから、鋏などで一度切れ目を入れ、切れ目に沿って切断するようにすることが好ましい。このようにして、図2(b)に示すように体毛4の毛根5以外の一部を固定した体毛固定部6を、毛根5ごと取り出す。
【0032】
図2(b)に示すように、取り出した体毛固定部6とは別に、担体(図2に示す例ではチューブ状の担体8)に、バッファーとDNAポリメラーゼとを含む溶液、および前記特定遺伝子を増幅するためのプライマーDNAを含む反応液9を担持させておく。そして、毛根5を、担体に担持された反応液9に直接的に接触させる。図2(c)に示す例では、たとえば、反応液9を収容したチューブ状の担体8内に、取り出した体毛固定部6を入れ、毛根5が反応液9に浸漬されるようにする。
【0033】
なお、本発明の第1の態様の毛根採集用治具1は、袋状物2内で、体毛4の一部を体毛固定部6に固定した状態(図1(c)に示した状態)で、将来的な特定遺伝子の検出に備えて保存するようにしてもよい。
【0034】
<第2の態様の毛根採集用治具>
図3は、本発明の第2の態様の毛根採集用治具11を模式的に示す平面図である。図3に示す例の毛根採集用治具11は、体毛の毛根以外の一部を固定するための体毛固定部を備えることは上述した第1の態様の毛根採集用治具と同様であるが、当該態様においては、平板状の基板16の長手方向の略中央部に体毛の毛根以外の一部を粘着して固定するための体毛固定部12が設けられてなる。
【0035】
図3に示す例の毛根採集用治具11における体毛固定部12は、たとえば、枠体14と、枠体14内に粘着剤で形成された粘着剤層15とを有する。粘着剤層15は、市販の粘着剤を適宜塗布、乾燥させて形成することもできるし、市販の粘着テープを用いることもできる。なお、粘着剤層15は、通常、予め保護フィルム(図示せず)で覆われ、用事、保護フィルムを剥がして露出するように構成される。
【0036】
図3に示す例の毛根採集用治具11は、体毛の一部を固定した状態の体毛固定部12に装着するための保護部材13をさらに備える。保護部材13は、たとえばその一部が体毛固定部12の枠体14内に嵌り込む構造などによって、体毛固定部12に装着可能に構成された部材である。上述のように保護部材13は、体毛固定部12に体毛を固定した状態で、体毛固定部12に装着される。これによって、粘着により体毛固定部12に固定された体毛を、体毛固定部12および保護部材13で挟み込み、確実に固定することができる。保護部材13の材質は特に制限されるものではなく、たとえばポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)などが挙げられるが、中でも耐熱性の観点から、PP、PCが好ましい。
【0037】
基板16の材質は特に制限されるものではなく、たとえばポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)などが挙げられるが、中でも加工性の観点から、PEが好ましい。
【0038】
ここで、図4は、図3に示す毛根採集用治具11を用いた毛根の採集を段階的に示す図である。まず、図4(a)に示すように、毛根18を含む体毛17を、基板16の長手方向に概ね沿って、毛根18が基板16の長手方向の一方側の端部近傍に配置され、体毛17の中途の一部が体毛固定部12上となるように載置する。そして、図4(b)に示すように、体毛17の体毛固定部12で粘着させ固定した部分を、体毛固定部12と保護部材13とで挟み込むようにして、保護部材13を装着する。このようにして、毛根18が好適に採集される。
【0039】
図5は、本発明の第2の態様の毛根採集用治具11における保護部材13の好ましい一例を模式的に示す図であり、図5(a)は平面図、図5(b)は側面図である。本発明における保護部材13は、体毛17を切断するための切断部19を有していることが好ましい。保護部材13は、体毛固定部12に装着する側の、毛根18が配置される側とは反対側に、このような切断部19を有していることが好ましい。これによって、図4(b)に示すように基板16の長手方向に概ね沿って載置された体毛17を、毛根18から体毛固定部12に粘着された部分だけを残して切断して、体毛17の毛根18を含む部分だけを簡便に目的遺伝子の検出に供することができるという利点がある。
【0040】
本発明の第2の態様の毛根採集用治具11における体毛固定部12は、基板16から取り外し可能に構成されていることが好ましい。これによって、体毛17を粘着し固定させた体毛固定部12を、保護部材13を装着した状態で基板16から取り外し、これを特定遺伝子の検出に供することができる。さらに、体毛を固定し、保護部材13を装着した状態で基板16から取り外された体毛固定部12は、毛根を、バッファーとDNAポリメラーゼとを含む溶液、および毛根に含まれる特定遺伝子を増幅するためのプライマーDNAに直接接触させるために用いられることが、より好ましい。
【0041】
図6は、本発明の第2の態様の毛根採集用治具11を用いて採集した毛根からの特定遺伝子の検出を段階的に示す図である。まず、図6(a)に示すように、毛根18を含む体毛17の一部を粘着し固定させ、さらに保護部材13を装着した状態の体毛固定部12を、基板16から取り外す。これとは別に、担体(図6に示す例ではチューブ状の担体20)に、バッファーとDNAポリメラーゼとを含む溶液、および前記特定遺伝子を増幅するためのプライマーDNAを含む反応液21を担持させておく。そして、毛根18を、担体に担持された反応液21に直接的に接触させる。図6(b)に示す例では、たとえば、反応液21を収容したチューブ状の担体20内に保護部材13を装着した状態の体毛固定部12を入れ、毛根18が反応液21に浸漬されるようにする。
【0042】
また本発明の第2の態様の毛根採集用治具11は、体毛17の一部を体毛固定部12に粘着し固定して、保護部材13を装着した状態(図4(b)に示した状態)で、基板16ごと、将来的な特定遺伝子の検出に備えて保存するようにしてもよい。図7は、本発明の毛根採集用治具11を密封材22に封入した状態を模式的に示す図である。密封材22としては、たとえば気密に密封可能な部分22aが設けられた袋状物(具体的には、ジップロック(登録商標)(旭化成株式会社など)を好適に用いることができる。また、毛根採集用治具11を封入した密封材22中には、たとえばシリカゲルなどの乾燥剤23を共に封入させることが好ましい。このようにすることで、毛根の採集の時期と、毛根に含まれる特定遺伝子の検出の時期とが地離れていても、検出に影響しない状態で毛根を保存することが可能となる。また、図7に示したように密封体22に封入した状態で、特定遺伝子の検出を行う設備を備えた機関に郵送したりすることも可能となる。
【0043】
本発明の第2の態様の毛根採集用治具11は、図3に示すように、基板上の長手方向一方側にレンズ24が設けられていることが、好ましい。このようなレンズ24は、たとえば基板16を成形樹脂で実現する場合には、基板16の長手方向一方側の特定部分を凸状または凹状に成形することで形成できる。このようなレンズ24を有する場合、図4に示したように、体毛17を体毛固定部12で粘着し固定する際に、毛根18がレンズ24上となるように配置することが好ましい。このようにすることで、レンズ24にて毛根18を拡大させて観察し、毛根の有無を容易に確認できるというような利点がある。
【0044】
本発明の第2の態様の毛根採集用治具11において、保護部材13には、図3〜図7に示したようにチップ25が埋め込まれていてもよい。このチップ25は、たとえば検体の氏名、生年月日などの個人情報などの情報を格納したICチップが用いられ、このようなチップ25を保護部材13に埋め込んでおくことで、物理的、化学的にチップを保護することができるというような利点がある。
【0045】
また、本発明の第2の態様の毛根採集用治具11において、基板16には、図3、4、7に示したように、たとえばバーコードなどの情報を表示する標識26が設けられていてもよい。この標識26によって、たとえばたとえば上述したチップと同様検体の氏名、生年月日などの個人情報などの情報を表示しておくことができる。なお、チップ、標識は、そのいずれか一方のみが用いられても勿論よい。
【0046】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0047】
1 毛根採集用治具、2 袋状物、3 シール部、4 体毛、5 毛根、6 体毛固定部、8 反応液、9 担体、11 毛根採集用治具、12 体毛固定部、13 保護部材、14 枠体、15 粘着剤層、16 基板、17 体毛、18 毛根、19 切断部、20 担体、21 反応液、22 密封材、23 乾燥剤、24 レンズ、25 チップ、26 標識。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリメラーゼ連鎖反応、LAMP法、鎖置換増幅、逆転写酵素鎖置換増幅、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応、逆転写LAMP法、核酸配列に基づく増幅、転写媒介性増幅およびローリングサークル型増幅法から選ばれる方法を利用した特定遺伝子の検出に供するための毛根を採集するために用いられる治具であって、
体毛の毛根以外の一部を固定するための体毛固定部を備える、毛根採集用治具。
【請求項2】
体毛の毛根を含む部分を袋状物に収納した状態で、体毛ごと袋状物の開口を密封することで体毛固定部が形成される、請求項1に記載の毛根採集用治具。
【請求項3】
体毛の一部を固定した状態の体毛固定部を袋状物から取り出し、毛根を、バッファーとDNAポリメラーゼとを含む溶液、および毛根に含まれる特定遺伝子を増幅するためのプライマーDNAに直接接触させることで、特定遺伝子の検出に供するように構成されている、請求項2に記載の毛根採集用治具。
【請求項4】
平板状の基板の長手方向の略中央部に体毛の毛根以外の一部を粘着して固定するための体毛固定部が設けられている、請求項1に記載の毛根採集用治具。
【請求項5】
体毛の一部を固定した状態の体毛固定部に装着するための保護部材を備え、毛根を、バッファーとDNAポリメラーゼとを含む溶液、および毛根に含まれる特定遺伝子を増幅するためのプライマーDNAに直接接触させるために、保護部材を装着した状態で体毛固定部が基板から取り外し可能に構成されている、請求項4に記載の毛根採集用治具。
【請求項6】
基板上の長手方向一方側にレンズが設けられている、請求項4または5に記載の毛根採集用治具。
【請求項7】
保護部材が体毛を切断できる切断部を有する、請求項5または6に記載の毛根採集用治具。
【請求項8】
体毛が毛髪である、請求項1〜7のいずれかに記載の毛根採集用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−27617(P2011−27617A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175324(P2009−175324)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(599125249)学校法人武庫川学院 (24)
【Fターム(参考)】