説明

毛髪処理剤及び毛髪処理剤用原料

【課題】損傷した毛髪の初期弾性率及び破断強度の向上、又は、毛髪の初期弾性率及び破断強度の悪化を抑制できる毛髪処理剤の提供。
【解決手段】下記式(I)で表される単位を有する基を側鎖基として備え、且つ、分子量範囲が40000未満のペプチドを配合した毛髪処理剤。
−S−S−(CHCOO− (I)
(式(I)中、nは1又は2である。)
前記ペプチドは毛髪浸透性を有するものが好ましい。前記ペプチドにおける側鎖基は、カルボキシメチルジスルフィド基、カルボキシメチルジスルフィド基の塩、カルボキシエチルジスルフィド基及びカルボキシエチルジスルフィド基の塩から選択された一種又は二種以上であると良い。前記ペプチドの分子量範囲は20000以下が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪のヘアケア処理、パーマ処理、カラーリング処理、ブリーチ処理等で用いられる毛髪処理剤、及びこの毛髪処理剤の製造に用いられる毛髪処理剤用原料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブラッシング、ハンドドライヤー、熱アイロンなどによる物理的処理、及びカラーリング処理、パーマ処理などの化学的処理は、毛髪に損傷を与える。損傷した毛髪は、損傷を受ける前に比して、毛髪の感触(例えば、はり、こし、柔らかさ)、外観(例えば、艶、まとまり)、強度(例えば、引張り強度)などの毛髪特性が悪化したものとなる。毛髪特性の向上又は毛髪特性の悪化抑制のためには、天然物由来のペプチド及びエステル基等の変性基を導入した変性ペプチドから適宜選定したものを毛髪処理剤に配合することが知られている。
【0003】
上述の通り、適宜に選定した変性ペプチドを毛髪処理剤に配合すれば、毛髪特性の向上又は毛髪特性の悪化抑制が可能なことが知られており、その配合に適した変性ペプチドの探求が続けられている。
【0004】
なお、特開平7−126296号公報には変性ペプチドの一種が開示されており、その変性ペプチドは、蛋白質のジスルフィド基(−S−S−)をカルボキシメチルジスルフィド基(−S−S−CH2COOH)に変換して得られる水溶性のものである。そして、特開平7−126296号公報には、その変性ペプチドの具体的利用態様として、この変性ペプチドからフィルムを形成することが開示されているが、毛髪処理剤については意図されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−126296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、損傷した毛髪の初期弾性率及び破断強度の向上、又は、毛髪の初期弾性率及び破断強度の悪化を抑制できる毛髪処理剤及びその原料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、毛髪の初期弾性率及び破断強度に着目しつつ毛髪処理剤の検討を重ねた結果、所定の側鎖基を備えるペプチドを配合した水で毛髪を処理すれば、毛髪の初期弾性率が向上する知見を得た。また、そのペプチドの分子量が小さいほど、毛髪の破断強度の向上に適している知見も得た。これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る毛髪処理剤は、下記式(I)で表される単位を有する基を側鎖基として備え、且つ、分子量範囲が40000未満のペプチドを配合したことを特徴とする。
−S−S−(CHCOO− (I)
(式(I)中、nは1又は2である。)
【0009】
ここで、本発明における「ペプチド」とは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合したものであり、ケラチン蛋白質やコラーゲン蛋白質などの蛋白質もペプチドに該当する。
【0010】
前記ペプチドは、毛髪浸透性を有するものが好ましい。この毛髪浸透性を有しているペプチドであれば、毛髪の初期弾性率及び破断強度の向上又は悪化抑制作用がより良好になる。
【0011】
前記ペプチドにおける側鎖基は、カルボキシメチルジスルフィド基、カルボキシメチルジスルフィド基の塩、カルボキシエチルジスルフィド基及びカルボキシエチルジスルフィド基の塩から選択された一種又は二種以上であると良い。
【0012】
前記ペプチドの分子量範囲は20000以下が好ましい。本発明におけるペプチドは、分子量が小さいほど毛髪内部に浸透し易く、このような浸透は、毛髪の初期弾性率及び破断強度の向上又は悪化抑制に有利となる。
【0013】
本発明に係る毛髪処理剤は、ヘアケア剤、パーマ剤、カラーリング剤、ブリーチ剤又はスタイリング剤として用いられる。
【0014】
本発明に係る毛髪処理剤は、例えば、下記式(I)で表される単位を有する基を側鎖基として備え、且つ、分子量範囲が40000未満のペプチドを水等の溶媒に溶解させた毛髪処理剤用原料を用いて製造される。
−S−S−(CHCOO− (I)
(式(I)中、nは1又は2である。)
【発明の効果】
【0015】
所定のペプチドを配合した本発明に係る毛髪処理剤によれば、毛髪の初期弾性率及び破断強度の向上又は悪化抑制を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ペプチドが内部に浸透した毛髪の蛍光顕微鏡観察写真。
【図2】ペプチドが内部に浸透しなかった毛髪の蛍光顕微鏡観察写真。
【図3】実施例の毛髪処理剤に配合したCADペプチド(1a)のMALDI−TOFMS分析チャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施形態に基づき以下に説明する。
本実施形態に係る毛髪処理剤は、所定の側鎖基を備えるペプチド(以下、「所定の側鎖基を備えるペプチド」を「CADペプチド」と称する。)を配合したものである。
【0018】
(CADペプチド)
CADペプチドは、複数のアミノ酸のペプチド結合によって形成された主鎖と、この主鎖に結合する側鎖基を有する。
【0019】
CADペプチドの主鎖は、特に限定されない。この主鎖の例としては、システインを構成アミノ酸の一種としているペプチドの主鎖と同じものが挙げられる。また、システインを構成アミノ酸の一種としているペプチドの例としては、ケラチン、カゼインが挙げられる。このケラチンは、天然物由来のペプチドの中でもシステイン比率が高いものとして知られており、当該CADペプチドが効率よく得られる原料となる。かかる観点から、CADペプチドの主鎖はケラチンの主鎖と同じものが好適である。
【0020】
CADペプチドの側鎖基は下記式(I)で表される単位を有する基であり、この側鎖基において、ジスルフィド基はCADペプチドの主鎖側に配置する。この側鎖基は、CADペプチドに複数存在することが好ましい。なお、下記式(I)で表される基は、解離(イオン化)してカルボキシラートアニオンとなった場合には、カルボキシラトアルキルジスルフィド基と称される。
−S−S−(CHCOO− (I)
(式(I)中、nは1又は2である。)
【0021】
上記側鎖基が有する化学構造単位として好適なものは、下記式(IA)で表されるカルボキシメチルジスルフィド基、下記式(IB)又は(IC)で表されるカルボキシメチルジスルフィド基の塩、下記式(IIA)で表されるカルボキシエチルジスルフィド基、及び、下記式(IIB)又は(IIC)で表されるカルボキシエチルジスルフィド基の塩から選択された一種又は二種以上である。
【0022】
−S−S−CHCOOH (IA)
−S−S−CHCOOR (IB)
(Rは、NHなどのアンモニウムを表す。)
−S−S−CHCOOM (IC)
(Mは、Na、Kなどの金属原子を表す。)
−S−S−CHCHCOOH (IIA)
−S−S−CHCHCOOR (IIB)
(Rは、NHなどのアンモニウムを表す。)
−S−S−CHCHCOOM (IIC)
(Mは、Na、Kなどの金属原子を表す。)
【0023】
上記側鎖基として好ましい基は、下記式(Ia)、(Ib)、(Ic)、(IIa)、(IIb)、及び(IIc)から選択された一種又は二種以上である(下記式におけるR、M、R、Mは、上記と同じである。)。
【0024】
−CH−S−S−CHCOOH (Ia)
−CH−S−S−CHCOOR (Ib)
−CH−S−S−CHCOOM (Ic)
−CH−S−S−CHCHCOOH (IIa)
−CH−S−S−CHCHCOOR (IIb)
−CH−S−S−CHCHCOOM (IIc)
【0025】
上記側鎖基を2以上有するCADペプチドを配合した毛髪処理剤で毛髪を処理すれば、毛髪を構成しているメルカプト基間がCADペプチドを介して架橋されると考えられる。また、その架橋以外に、CADペプチドにおける1個の側鎖基のみが毛髪のメルカプト基と反応することや、この1個の側鎖基のみが毛髪のメルカプト基と反応したCADペプチドと他のCADペプチドとの重合反応及び毛髪内でのCADペプチド同士の重合反応も考えられる。これらの架橋、反応は、いずれも毛髪の初期弾性率及び破断強度の向上又は悪化抑制を実現するものと推測されるから、CADペプチドを配合した毛髪処理剤は、損傷を受けることでメルカプト基が増加した毛髪に対して用いられることが好適である。
【0026】
以下、一対のメルカプト基間のCADペプチドを介した架橋機構を詳説する。
【0027】
毛髪におけるメルカプト基間のCADペプチドを介した架橋機構を、2個の−CH−S−S−CHCOOHを側鎖基として有するCADペプチドを例にして表せば、次の通りである。
【0028】
【化1】

【0029】
また、毛髪における一対のメルカプト基間のCADペプチドを介した架橋機構を、2個の−CH−S−S−CHCHCOOHを側鎖基として有するCADペプチドを例にして表せば、次の通りである。
【0030】
【化2】

【0031】
本実施形態におけるCADペプチドの分子量範囲は、40000未満である。この分子量範囲のCADペプチドを配合した毛髪処理剤であれば、損傷した毛髪の初期弾性率及び破断強度の向上又は悪化抑制を行える。CADペプチドの分子量が小さいほど、毛髪の初期弾性率及び破断強度の向上又は悪化抑制に有利なので、本実施形態におけるCADペプチドの分子量範囲は、20000以下が好ましく、10000以下がより好ましく、5000以下が更に好ましい。CADペプチドの分子量範囲の下限値は、特に限定されないが、例えば500である。
【0032】
CADペプチドの分子量範囲が40000未満であることは、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI法)を採用した飛行時間型質量分析(TOFMS)によるm/zピークをCADペプチドの分子量とみなし、この分子量範囲から確認できる。
【0033】
本実施形態に係るCADペプチドは、上記TOFMSの結果において最も高い強度のピークがm/z20000以下で確認されるものが好ましく、m/z10000以下で確認されるものがより好ましく、m/z5000以下で確認されるものが特に好ましい。最も高い強度のピークの下限値は、特に限定されないが、例えばm/z500である。
【0034】
CADペプチドが毛髪浸透性(毛髪内部への浸透性)を有していれば、毛髪内部への上記架橋等の作用を奏することになるから、本実施形態におけるCADペプチドは、毛髪浸透性を有するものが好適である。
【0035】
CADペプチドが毛髪浸透性を有していることは、次の(1)〜(4)の手順に従って確認することができる。(1)CADペプチド水溶液に、FTSC−MESを添加する。そのFTSC−MESは、次の通り調製する。1.065質量部の2−(N−Morpholino)ethanesulfonic Acid(MES)を40質量部の水に溶解させた液に、0.2M−NaOH水溶液を滴下することにより、pH5.5のMES水溶液を調製し、MES水溶液中に、0.00042質量部の蛍光色素Fluorescein−5−thiosemicarbazide(FTSC)を溶解させ、水を加えて全量約50質量部とすることでFTSC−MESが調製される。(2)FTSC−MES添加後のCADペプチド水溶液にバージン毛髪を10分間浸漬後、その毛髪を水洗し、室温で乾燥させる。(3)乾燥後の毛髪をミクロトームで切断する。(4)毛髪の切断面を蛍光顕微鏡観察(励起光波長:340nm)する。前記(4)の手順の蛍光顕微鏡観察においてキューティクルよりも内側に蛍光を確認できれば、CADペプチドの毛髪浸透性を確認できたことになる。図1は、上記(1)〜(4)の手順に従った蛍光顕微鏡観察写真であり、毛髪内部での蛍光、つまりCADペプチドの毛髪浸透性を確認できる。一方、図2は、CADペプチドを配合せずに上記(1)〜(4)の手順を行った蛍光顕微鏡観察写真を示し、毛髪の表層にのみ蛍光、つまりCADペプチドが配合されないために毛髪浸透性を有しないことを確認できる。これは、図2の蛍光顕微鏡観察写真が毛髪内部の蛍光を確認できなかったのは、蛍光物質だけをバージン毛髪の内部に浸透させても、バージン毛髪の内部には化学的損傷が無いがために、後の水洗において蛍光物質がバージン毛髪外部に流出するからである。
【0036】
本実施形態に係る毛髪処理剤におけるCADペプチド配合量の下限は、特に限定されないが、0.01質量%が良く、0.05質量%が好ましく、0.10質量%がより好ましい。一方のCADペプチド配合量の上限も、特に限定されないが、多量配合によるコスト上昇を抑制する観点から、15質量%が良く、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましく、3質量%が更に好ましい。
【0037】
なお、毛髪処理剤に分子量範囲が40000未満のCADペプチドを配合するのであれば、分子量範囲が40000未満のCADペプチド以外のCADペプチド、例えば40000以上67000以下のCADペプチドを更に配合しても良い。
【0038】
(CADペプチドの製造方法)
分子量範囲40000未満のCADペプチドを製造するための方法としては、例えば、以下に説明する製造方法(A)、(B)及び(C)が挙げられる。
【0039】
[製造方法(A)]
製造方法(A)は、蛋白質のジスルフィド基をメルカプト基にする還元工程;その還元工程で蛋白質分子に生じたメルカプト基と、メルカプトアルキルカルボン酸のメルカプト基及び/又はメルカプトアルキルカルボン酸塩のメルカプト基とで、上記式(I)で表される単位を形成させる変性工程;変性工程での処理で得られた上記式(I)で表される単位が導入された蛋白質を加水分解する加水分解工程;を備える。
【0040】
還元工程では、蛋白質を含む製造原料、水及び還元剤を混合することにより、蛋白質が有するジスルフィド基(−S−S−)を2つのメルカプト基(−SH HS−)に還元する。
【0041】
製造原料としては、ケラチンを構成蛋白質として含む羊毛(メリノ種羊毛、リンカーン種羊毛等)、人毛、獣毛、羽毛、爪などが挙げられる。中でも、安価かつ安定的に入手するために、羊毛を原料とすることが好ましい。製造原料については、殺菌、脱脂、洗浄、切断、粉砕及び乾燥を適宜に組み合わせて、予め処理すると良い。
【0042】
水の量は、特に限定されないが、例えば、製造原料1質量部に対して、20質量部以上200質量部以下であるとよい。水の量を上記範囲とすることにより、還元反応が良好に行われる。
【0043】
本還元における蛋白質の還元では、アルカリ性液中で、蛋白質におけるジスルフィド結合を一種又は二種以上の還元剤により還元することでメルカプト基を生成させる。
【0044】
このようなジスルフィド結合の還元における反応系をアルカリ性にするための化合物(アルカリ性化合物)は、水に添加することで、その水をアルカリ性にするものである。このアルカリ性化合物としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア等が挙げられ、その他にモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸や、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム等も挙げられる。中でも、蛋白質の還元を安価かつ効率良く行う観点から、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。アルカリ性化合物は、一種又は二種以上が用いられる。
【0045】
前記アルカリ性化合物の混合量は、特に限定はされないが、還元反応系のpHを下記範囲に調整するよう配合するとよい。そのpHの下限としては、9が好ましく、10が特に好ましい。一方、pHの上限としては、13が良く、12が好ましく、11が特に好ましい。pHが上記下限以上となるように調整することで、蛋白質の還元を効率良く行える。一方、pHが上記の上限以下となるように調整することで、蛋白質分子の主鎖切断を抑制できる。
【0046】
還元剤としては、メルカプトアルキルカルボン酸及び/又はその塩が用いられる。また還元剤として、メルカプトアルキルカルボン酸及び/又はその塩に加え、他の任意の化合物を用いてもよい。そのような任意の還元剤の例としては、チオ乳酸及び/又はその塩、ジチオスレイトール、2−メルカプトエタノール、グルタチオン、チオ尿素等が挙げられる。これらの任意の還元剤は、一種又は二種以上のものを使用することができる。
【0047】
前記メルカプトアルキルカルボン酸及び/又はその塩は、変性工程において上記式(I)で表される単位を形成させる変性剤にもなる。このメルカプトアルキルカルボン酸及び/又はその塩としては、チオグリコール酸、チオグリコール酸塩、3−メルカプトプロピオン酸、及び3−メルカプトプロピオン酸塩から選択される一種又は二種以上が使用される。チオグリコール酸塩としては、例えばチオグリコール酸ナトリウム、チオグリコール酸カリウム、チオグリコール酸リチウム、チオグリコール酸アンモニウムが挙げられる。中でも、カルボキシラトメチルジスルフィド基の形成を効率良く行える点から、チオグリコール酸ナトリウム及びチオグリコール酸カリウムが好ましく、チオグリコール酸ナトリウムがより好ましい。また、3−メルカプトプロピオン酸塩としては、例えば、3−メルカプトプロピオン酸ナトリウム、3−メルカプトプロピオン酸カリウム、3−メルカプトプロピオン酸リチウム、3−メルカプトプロピオン酸アンモニウムが挙げられる。中でも、カルボキシラトエチルジスルフィド基の形成を効率良く行える点から、3−メルカプトプロピオン酸ナトリウム及び3−メルカプトプロピオン酸カリウムが好ましく、3−メルカプトプロピオン酸ナトリウムがより好ましい。
【0048】
前記メルカプトアルキルカルボン酸及びその塩の使用量としては、製造原料1gを基準として、0.0050モル以上0.02モル以下が好ましく、0.0075モル以上0.01モル以下が特に好ましい。また、その使用量は、製造原料、水及び還元剤の合計容量を基準として、0.10mol/L以上0.40mol/L以下が好ましく、0.15mol/L以上0.25mol/L以下が特に好ましい。かかるメルカプトアルキルカルボン酸及びその塩の使用量を上記範囲とすることにより、蛋白質の還元反応の進行が良好になる。
【0049】
還元工程における反応系の温度下限としては、20℃が好ましく、30℃がより好ましく、40℃がさらに好ましい。一方、上記温度上限としては、60℃が好ましい。上記温度下限より低いと、蛋白質のジスルフィド基をメルカプト基に変換するための還元の時間が長くなり、十分な還元を実行できない虞がある。一方、上記温度上限を超えると、蛋白質分子の主鎖が切断されることがある。還元反応系の設定時間は、その温度が低いほど長時間に設定され、同温度が高いほど短時間に設定される。その設定時間としては、例えば20分以上120分以下である。
【0050】
変性工程では、還元工程で得られた液に酸及び酸化剤を混合することにより、蛋白質に上記式(I)で表される単位を導入する。なお、酸の混合は、酸化剤の混合前、酸化剤の混合後及び酸化剤の混合と同時のいずれであっても良い。
【0051】
酸は、変性工程における反応系のpHを低下させ、蛋白質に上記式(I)で表される単位を十分に導入させるために使用される。この酸は、一種又は二種以上のものが使用される。
【0052】
酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、コハク酸、酢酸等の有機酸;塩酸等の無機酸が挙げられる。酢酸を用いれば、CADペプチドからの特異臭が問題になることがあるが、クエン酸等を用いれば、その特異臭を抑制することができる。
【0053】
酸の混合量としては、特に限定されないが、変性工程における反応系のpHを下記範囲に調整するよう配合するとよい。最終的なpHとしては、5以上9以下が好ましく、6以上8以下が特に好ましい。このようにケラチン混合液の最終的なpHを前記範囲に調整することで、蛋白質への上記式(I)で表される単位の導入を促進できると同時に、蛋白質のメルカプト基同士によるジスルフィド基生成を抑制できる。なお、反応系におけるpHが局所的に低下すると、蛋白質のメルカプト基同士がジスルフィド基になるおそれが大きくなるため、反応系に酸を徐々に混合することが好ましい。
【0054】
酸を混合するときの反応系における温度としては、10℃以上60℃以下が好ましく、20℃以上40℃以下が特に好ましい。この温度範囲に制御することで、副生成物であるシスチンモノオキシド等の生成を抑制できる。酸の混合が終了した後の放置時間は、例えば1時間以上48時間以内である。この放置時間であれば、上記式(I)で表される単位の導入が十分となる。
【0055】
前記酸化剤は、蛋白質への上記式(I)で表される単位の導入を促進するために使用される。一種又は二種以上の酸化剤を使用すると良く、酸化剤の水溶液及び/又はガス状の酸化剤を使用すると良い。
【0056】
酸化剤としては、例えば、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、過ホウ酸ナトリウム、過酸化水素等が挙げられる。また、ガス状の酸化剤としては、酸素などが挙げられる。ガス状酸化剤を使用するときには、バブリングにより蛋白質含有液に供給すると良い。
【0057】
非ガス状の酸化剤の使用量は、特に限定されないが、製造原料1gを基準として、0.001モル以上0.02モル以下が好ましく、酸化剤が混合される液の容量を基準として、0.02mol/L以上1mol/L以下が好ましい。酸化剤の使用量が上記上限よりも多いと、副生成物であるシスチンモノオキシド、シスチンジオキシド、システイン酸が生成するおそれがある。一方、酸化剤の使用量が上記下限よりも少ないと、上記式(I)で表される単位の導入が不十分となるおそれがある。非ガス状酸化剤の混合では、液中の酸化剤濃度が局所的に高くなることを避けるため、1mol/L以上5mol/L以下程度の酸化剤水溶液を、例えば30分以上6時間以内かけて徐々に混合すると良い。
【0058】
酸化剤を混合する際の温度は、特に限定されないが、例えば還元工程での温度以下に設定される。
【0059】
変性工程を経ることで、蛋白質に上記式(I)で表される単位が導入される。例えば、製造原料として羊毛を使用し、還元剤としてチオグリコール酸を使用した場合、上記式(I)で表される単位の一種であるカルボキシメチルジスルフィド基が蛋白質分子に導入される機構は、次の通りである。
【0060】
【化3】

【0061】
また、製造原料として羊毛を使用し、還元剤として3−メルカプトプロピオン酸を使用した場合、上記式(I)で表される単位の一種であるカルボキシエチルジスルフィド基が蛋白質分子に導入される機構は、次の通りである。
【0062】
【化4】

【0063】
変性工程での処理により上記式(I)で表される単位が導入された蛋白質は、水に溶解する蛋白質と水に不溶の蛋白質とを含む。これら蛋白質を含む液については、必要に応じてイオン交換や電気透析等による脱塩等を行うと良い。
【0064】
加水分解工程では、変性工程での処理で得られた上記式(I)で表される単位が導入された水に溶解する蛋白質及び水に不溶の蛋白質を加水分解する。その加水分解には、(a1)酵素による加水分解、(a2)酸による加水分解、(a3)アルカリによる加水分解等の公知の加水分解方法がある。アルカリによる加水分解方法(a3)では、蛋白質に導入した上記式(I)で表される単位のβ脱離反応が進行する虞があるので、加水分解方法(a1)〜(a3)のうち、酵素又は酸による加水分解が好ましく、酵素による方法がより好ましい。
【0065】
(a1)酵素による加水分解
酵素としては、例えば、ペプシン、プロテアーゼA、プロテアーゼBなどの酸性蛋白質分解酵素;パパイン、プロメライン、サーモライシン、プロナーゼ、トリプシン、キモトリプシンなどの中性蛋白質分解酵素等が挙げられる。また、市販されている蛋白質分解酵素としては、大和化学工業社製の「プロテライザーA」が酵素による加水分解において好適に使用される。加水分解時のpHは、酸性蛋白質分解酵素の場合には1以上3以下に調整すると良く、中性蛋白質分解酵素の場合には5以上9以下に調整すると良い。加水分解時の反応温度は30℃以上60℃以下が良く、反応時間は10分以上24時間以内が良い(反応時間を長くするほど、より低分子のCADペプチドを製造できる。)。加水分解を停止させるには、温度を70℃以上にして酵素を失活させると良い。
【0066】
(a2)酸による加水分解
酸としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、臭化水素酸等の無機酸;及び蟻酸、シュウ酸等の有機酸が挙げられる。この加水分解の条件は、例えば、pH4以下、反応温度40℃以上100℃以下、反応時間2時間以上24時間以内である(反応時間を長くするほど、より低分子のCADペプチドを製造できる。)。
【0067】
(a3)アルカリによる加水分解
アルカリとしては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム等が挙げられる。この加水分解の条件は、例えば、反応系の全質量に対して、アルカリ1質量%以上20質量%以下、反応温度15℃以上100℃以下、反応時間30分以上24時間以内である(反応時間を長くするほど、より低分子のCADペプチドを製造できる。)。
【0068】
加水分解工程での処理により、分子量範囲40000未満のCADペプチドが溶解した液が得られる。この液に含まれている固形分を分離する必要があるときには、濾過、遠心分離、圧搾分離、沈降分離、浮上分離等公知の固液分離手段で分離すると良い。また、分子量範囲40000未満のCADペプチドを固形状にする必要がある場合には、(1)CADペプチド溶液の凍結乾燥、(2)CADペプチド溶液の噴霧乾燥、(3)CADペプチド溶液がpHを2.5から4.0程度になるように酸を添加することによるCADペプチド沈殿物生成、などの方法を採用すると良い(CADペプチドの分子量が小さくなる程、前記(3)の方法ではCADペプチド沈殿物が生成し難くなる。)。回収した固形状のCADペプチドについては、水や酸性水溶液による洗浄、乾燥等を、必要に応じて行うと良い。
【0069】
[製造方法(B)]
製造方法(B)は、製造方法(A)と同様の還元工程及び変性工程で得られた水に不溶の蛋白質を、分離し、加水分解工程で処理する方法である。水に不溶の蛋白質は、公知の固液分離手段で回収でき、製造方法(B)における加水分解工程は、製造方法(A)における加水分解工程と同じである。また、固形状のCADペプチドを得る手段は、製造方法(A)の手段を採用すると良い。
【0070】
なお、ミクロフィブリルとこれよりも硫黄含量が多いマトリックスとが羊毛の構成ケラチンとなっているところ、製造方法(B)における加水分解工程では、ミクロフィブリル由来の水溶性蛋白質を主たる加水分解対象としておらず、マトリックス由来の不溶性蛋白質を主たる加水分解対象とする。すなわち、製造方法(B)は、硫黄含量が多いCADペプチドの製造に適する。
【0071】
[製造方法(C)]
製造方法(C)は、製造方法(A)と同様の還元工程及び変性工程で得られた水に溶解する蛋白質を、分離し、加水分解工程で処理する方法である。水に溶解する蛋白質は、公知の固液分離手段で回収でき、製造方法(C)における加水分解工程は、製造方法(A)における加水分解工程と同じである。また、固形状のCADペプチドを得る手段は、製造方法(A)の手段を採用すると良い。
【0072】
(毛髪処理剤)
本実施形態に係る毛髪処理剤は、特に限定されず、ヘアケア剤、パーマ剤、カラーリング剤、ブリーチ剤、スタイリング剤等である。
【0073】
「ヘアケア剤」とは、毛髪の手入れ、手当て等を行うために用いられる毛髪処理剤である。ヘアケア剤としては、例えばシャンプー、リンス、コンディショナー、トリートメント(例えば、洗い流さないトリートメント、洗い流すトリートメント、整髪兼用トリートメント、多剤式トリートメントの一構成剤、パーマの前処理のためのトリートメント、パーマの後処理のためのトリートメント、カラーリングの前処理のためのトリートメント、カラーリングの後処理のためのトリートメント、ブリーチの前処理のためのトリートメント、ブリーチの後処理のためのトリートメント)が挙げられる。「パーマ剤」とは、還元反応、酸化反応等の化学反応を利用して毛髪形状を変化させるために用いられる毛髪処理剤である。パーマ剤としては、例えば、毛髪をウェーブ状に形成するためのウェーブ剤、ウェーブ状等の毛髪を直毛に近づけるためのストレート剤が挙げられ、1剤式パーマ剤、2剤式パーマ剤の還元剤が配合された第1剤及び2剤式パーマ剤の酸化剤が配合された第2剤のいずれも本実施形態に係る毛髪処理剤に該当する。「カラーリング剤」とは、毛髪を着色するために用いられる毛髪処理剤である。カラーリング剤としては、例えば、直接染料が配合された染毛料、毛髪の染毛時に反応が必要になる反応型染料が配合された染毛剤、毛髪への着色を一時的に施す毛髪着色料が挙げられる。「ブリーチ剤」とは、毛髪の色素を脱色させるために用いられる毛髪処理剤である。「スタイリング剤」とは、髪型を一時的に保持するために用いられる毛髪処理剤である。
【0074】
毛髪処理剤の使用時の剤型は、特に限定されず、例えば液状、乳液状、ローション状、クリーム状、ワックス状、ゲル状、固形状、フォーム状(泡状)、霧状が挙げられる。
【0075】
分子量範囲40000未満のCADペプチドが配合されていれば、本実施形態の毛髪処理剤に該当する。例えば、公知の毛髪処理剤の追加配合原料として分子量範囲40000未満のCADペプチドを配合した毛髪処理剤、公知の毛髪処理剤の配合原料の代替原料として分子量範囲40000未満のCADペプチドを配合した毛髪処理剤は、本実施形態の毛髪処理剤に該当する。
【0076】
当該毛髪処理剤に配合される上記ペプチド以外の原料としては、毛髪処理剤の用途に応じて適宜に選定される公知の原料を採用することができる。その公知の毛髪処理剤原料としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤、アルコール、多価アルコール、糖類、油脂、エステル油、脂肪酸、炭化水素、ロウ、シリコーン、合成高分子化合物、半合成高分子化合物、天然高分子化合物がある。また、他の公知の毛髪処理剤原料としては、蛋白、アミノ酸、動植物抽出物、微生物由来物、無機化合物、香料、防腐剤、金属イオン封鎖剤、紫外線吸収剤、色素、還元剤、酸化剤、染料、顔料などである。
【0077】
アニオン界面活性剤としては、例えば脂肪酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、脂肪酸アミドエーテルカルボン酸塩、脂肪酸アミドエーテルカルボン酸、アシル乳酸塩、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸メチルエステル塩、アシルイセチオン酸塩、アルキルグリシジルエーテルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルスルホ酢酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルアリールエーテル硫酸塩、脂肪酸アルカノールアミド硫酸塩、脂肪酸モノグリセリド硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、アルキルアリールエーテルリン酸塩、脂肪酸アミドエーテルリン酸塩が挙げられる。アニオン界面活性剤の配合濃度は、毛髪処理剤の用途に応じて適宜設定されるものであるが、例えば0.1質量%以上20質量%以下である。
【0078】
カチオン界面活性剤としては、例えばアルキルアミン塩、脂肪酸アミドアミン塩、エステル含有3級アミン塩、アーコベル型3級アミン塩、長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジ長鎖アルキルジメチルアンモニウム塩、トリ長鎖アルキルモノメチルアンモニウム塩、ベンザルコニウム型4級アンモニウム塩、モノアルキルエーテル型4級アンモニウム塩が挙げられる。カチオン界面活性剤の配合濃度は、毛髪処理剤の用途に応じて適宜設定されるものであるが、例えば0.1質量%以上20質量%以下である。
【0079】
両性界面活性剤としては、例えばアルキルグリシン塩、カルボキシメチルグリシン塩、N−アシルアミノエチル−N−2−ヒドロキシエチルグリシン塩、アルキルポリアミノポリカルボキシグリシン塩、アルキルアミノプロピオン酸塩、アルキルイミノジプロピオン酸塩、N−アシルアミノエチル−N−2−ヒドロキシエチルプロピオン酸塩、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジヒドロキシエチルアミノ酢酸ベタイン、N−アルキル−N,N−ジメチルアンモニウム−N−プロピルスルホン酸塩、N−アルキル−N,N−ジメチルアンモニウム−N−(2−ヒドロキシプロピル)スルホン酸塩、N−脂肪酸アミドプロピル−N,N−ジメチルアンモニウム−N−(2−ヒドロキシプロピル)スルホン酸塩が挙げられる。両性界面活性剤の配合濃度は、毛髪処理剤の用途に応じて適宜設定されるものであるが、例えば0.1質量%以上10質量%以下である。
【0080】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトールテトラ脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルが挙げられる。ノニオン界面活性剤の配合濃度は、毛髪処理剤の用途に応じて適宜設定されるものであるが、例えば0.1質量%以上20質量%以下である。
【0081】
アルコールとしては、例えば、ブチルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オレイルアルコール、イソプロパノール、オクチルドデカノール、イソステアリルアルコール、ヘキシルデカノール、ベンジルアルコール、コレステロール、フィトステロールが挙げられる。アルコールの配合濃度は、毛髪処理剤の用途に応じて適宜設定されるものであるが、例えば1質量%以上50質量%以下である。
【0082】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ブチレングリコールが挙げられる。多価アルコールの配合濃度は、毛髪処理剤の用途に応じて適宜設定されるものであるが、例えば1質量%以上50質量%以下である。
【0083】
糖類としては、例えばソルビトール、マンニトール、グルコース、フルクトース、キシリトール、ラクトース、マルトース、マルチトール、トレハロースが挙げられる。糖類の配合濃度は、毛髪処理剤の用途に応じて適宜設定されるものであるが、例えば0.1質量%以上10質量%以下である。
【0084】
油脂としては、例えばアーモンド油、アボガド油、オリーブ油、シア脂油、月見草油、ツバキ油、ピーナッツ油、ローズヒップ油が挙げられる。油脂の配合濃度は、毛髪処理剤の用途に応じて適宜設定されるものであるが、例えば0.1質量%以上10質量%以下である。
【0085】
エステル油としては、例えば、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソステアリン酸イソプロピル、イソステアリン酸エチル、2−エチルヘキサン酸セチル、イソステアリン酸ヘキシル、ジ2−エチルヘキサン酸エチレングリコール、ジオレイン酸エチレングリコール、ジ(カプリル・カプリン酸)プロピレングリコール、ジオレイン酸プロピレングリコール、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリトール、イソステアリン酸イソセチル、ジメチルオクタン酸2−オクチルドデシル、乳酸ミリスチル、クエン酸トリオクチルドデシル、リンゴ酸ジイソステアリル、コハク酸ジ2−エチルヘキシル、アジピン酸ジイソブチル、ステアリン酸コレステリルが挙げられる。エステル油の配合濃度は、毛髪処理剤の用途に応じて適宜設定されるものであるが、例えば0.1質量%以上10質量%以下である。
【0086】
脂肪酸としては、例えばイソステアリン酸、オレイン酸、カプリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、ラノリン脂肪酸、リノール酸が挙げられる。脂肪酸の配合濃度は、毛髪処理剤の用途に応じて適宜設定されるものであるが、例えば0.1質量%以上10質量%以下である。
【0087】
炭化水素としては、例えば流動パラフィン、スクワラン、プリスタン、オゾケライト、パラフィン、セレシン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックスが挙げられる。炭化水素の配合濃度は、毛髪処理剤の用途に応じて適宜設定されるものであるが、例えば0.1質量%以上20質量%以下である。
【0088】
ロウとしては、例えばミツロウ、モクロウ、キャンデリラロウ、カルナウバロウが挙げられる。ロウの配合濃度は、毛髪処理剤の用途に応じて適宜設定されるものであるが、例えば0.1質量%以上20質量%以下である。
【0089】
シリコーンとしては、例えばジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、環状ジメチルシリコーン、アルコール変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アミノ変性シリコーンが挙げられる。シリコーンの配合濃度は、毛髪処理剤の用途に応じて適宜設定されるものであるが、例えば0.1質量%以上50質量%以下である。
【0090】
合成高分子化合物としては、例えば、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、メタクリロイルエチルベタイン・メタクリル酸エステル共重合体が挙げられる。半合成高分子化合物としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、可溶性デンプン等が挙げられる。また、天然高分子としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、グアーガム、グルカン、セルロース、ヒアルロン酸ナトリウムが挙げられる。合成高分子化合物、半合成高分子化合物及び天然高分子化合物の配合濃度は、毛髪処理剤の用途に応じて適宜設定されるものであるが、例えば0.1質量%以上15質量%以下である。
【0091】
上記の通り、本実施形態の毛髪処理剤には、分子量範囲40000未満のCADペプチドと適宜に選定される公知の毛髪処理剤原料を配合できる。分子量範囲40000未満のCADペプチドと配合される配合原料の組合せ例を挙げれば、次の通りである。ヘアケア剤の配合原料の組合せとしては、例えば界面活性剤、シリコーン、高分子化合物(合成高分子化合物、半合成高分子化合物又は天然高分子化合物)、アルコール、金属イオン封鎖剤及び水である。パーマ剤の配合原料の組合せとしては、例えば、パーマ用第1剤に配合される還元剤(チオグリコール酸、システイン、アセチルシステイン、システアミン等)、アルカリ剤(アンモニア、モノエタノールアミン、炭酸水素アンモニウム、アルギニン等)及び水と、パーマ用第2剤として配合される酸化剤(臭素酸塩、過酸化水素等)及び水である。カラーリング剤の配合原料の組合せとしては、例えば染料、アルコール、高分子化合物(合成高分子化合物、半合成高分子化合物又は天然高分子化合物)及び水である。ブリーチ剤の配合原料の組合せとしては、例えば、過酸化水素、界面活性剤、アルカリ剤及び水である。スタイリング剤の配合原料の組合せとしては、例えば、スタイリング原料(油脂、エステル油、炭化水素、ロウ、合成高分子化合物、半合成高分子化合物、天然高分子化合物等)、界面活性剤、アルコールである。
【0092】
本実施形態の毛髪処理剤に配合される原料としては、下記式(I)で表される単位を有する基を側鎖基として備え、且つ、分子量範囲が40000未満のペプチドを溶媒に溶解させたものが好適に使用される。
−S−S−(CHCOO− (I)
(式(I)中、nは1又は2である。)
【0093】
この溶媒としては、特に限定されるものではなく、例えば水、エタノール等が使用される。また、当該毛髪処理剤用原料における上記ペプチドの含有量としては、特に限定されないが、例えば0.1質量%以上10.0質量%以下である。
【実施例】
【0094】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱することがない限り、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0095】
実施例の毛髪処理剤に使用した分子量範囲40000未満のCADペプチド(1a)、(1b)、(2a)及び(2b)、並びに比較例の毛髪処理剤に使用したCADペプチド(当該CADペプチドを「比較ペプチド」と称することがある。)は以下の通りである。なお、CADペプチド(1a)、(1b)、(2a)及び(2b)は、毛髪浸透性を有するが、比較ペプチドは、毛髪浸透性を有さないものと考えられる。
【0096】
(CADペプチド(1a))
以下に示す還元工程、変性工程、加水分解工程に従ってCADペプチド(1a)を製造した。
【0097】
[還元工程]
中性洗剤で洗浄、乾燥させたメリノ種羊毛を、約5mmに切断した。この羊毛5.0質量部、30質量%チオグリコール酸ナトリウム水溶液15.4質量部及び6mol/L水酸化ナトリウム水溶液8.5質量部を混合し、さらに水を混合して全量150質量部、pH11の混合液を調製した。この混合液を、45℃、1時間の条件で攪拌した。次いで、さらに水を混合して全量を200質量部とし、45℃、2時間の条件で放置し、その後、液温が常温になるまで自然冷却した。
【0098】
[変性工程]
還元工程後の混合液を攪拌しながら、当該混合液に、臭素酸ナトリウム2.05質量部を配合した水溶液25質量部を約60分かけて混合した。その後、混合液の攪拌を終始継続し、この混合液に、クエン酸7.08質量部を配合した水溶液100質量部を約85分かけて混合した。クエン酸混合後の液のpHは7であった。
【0099】
[加水分解工程]
変性工程での処理後の混合液からろ過分離した固体部100質量部、3質量%蛋白質分解酵素水溶液(大和化学社製「プロテライザーA」)1質量部、pHを8.0〜8.5に設定する量の炭酸水素ナトリウム及び水を混合し、50℃の水中で加水分解反応を20分間進行させた。その後、80℃、5分の条件で蛋白質分解酵素を失活させた。その失活後、ろ過によりCADペプチド(1a)の水溶液を得た。
【0100】
CADペプチド(1a)の分子量を分析した結果、概ね1000から3600(1kDaから3.6kDa)の範囲内であった。なお、CADペプチド(1a)の分子量分析においては、レーザーイオン化飛行時間型質量分析装置(MALDI−TOFMS)として島津製作所社製「AXIMA Performance」を使用し、分析条件の引き出し電圧を20kV、飛行モードをLinear、検出イオンをPositive、とした。また、マトリックスは、テトラフルオロ酢酸0.1質量%及びアセトニトリル50質量%の水溶液1mLに、α−シアノ−4−ヒドロキシけい皮酸(CHCA)を5mg添加したものとした。図3は、CADペプチド(1a)のMALDI−TOFMS分析結果を表すチャートであり、上段がマトリックスのみのチャートで有り、下段がマトリックスにCADペプチド(1a)を含ませたときのチャートである。CADペプチド(1a)の分子量は、図3に示す通り、概ね1000から3600(1kDaから3.6kDa)の範囲内であったことを確認できる。
【0101】
(CADペプチド(1b))
加水分解工程を変更した以外はCADペプチド(1a)の製造と同様にして、CADペプチド(1a)よりも分子量が小さいCADペプチド(1b)を製造した。CADペプチド(1b)の製造における加水分解工程は、次の通りとした。
【0102】
[加水分解工程]
変性工程での処理後の混合液からろ過分離した固体部100質量部、3質量%蛋白質分解酵素水溶液(大和化学社製「プロテライザーA」)1質量部、pHを8.0〜8.5に設定する量の炭酸水素ナトリウム及び水を混合し、50℃の水中で加水分解反応を20分間進行させた。その後、80℃、5分の条件で蛋白質分解酵素を失活させた。次に、3質量%蛋白質分解酵素水溶液(大和化学社製「プロテライザーA」)1質量部を混合し、50℃、20分の条件で加水分解反応をさせた後、80℃、5分の条件で蛋白質分解酵素を失活させた。その後、ろ過によりCADペプチド(1b)の水溶液を得た。
【0103】
(CADペプチド(2a))
変性工程を変更した以外はCADペプチド(1a)の製造と同様にして、分子量がCADペプチド(1a)と同等のCADペプチド(2a)を製造した。CADペプチド(2a)の製造における変性工程は、次の通りとした。
【0104】
[変性工程]
還元工程後の混合液を攪拌しながら、酢酸水溶液(酢酸を7質量部配合した165質量部の水溶液)を混合することでケラチン混合液のpHが漸次11から10になるように調整した。過酸化水素の混合については、35質量%過酸化水素水を3質量部配合した水溶液36質量部を攪拌しながら約30分かけて行った。過酸化水素の混合開始後、混合液を常時攪拌すると共に、pHが10以上11以下に保持されるように、酢酸水溶液を混合した。また、過酸化水素の混合終了後、酢酸水溶液約10質量部を約5分にわたって徐々に混合して、混合液のpHが漸次10から7になるように調整した。
【0105】
(CADペプチド(2b))
変性工程としてCADペプチド(2a)の製造における変性工程を採用した以外はCADペプチド(1b)と同様にして、CADペプチド水溶液を得た。そして、この水溶液を半透膜を使用して、分子量範囲1000以下のCADペプチド(2b)の水溶液を得た。なお、CADペプチド(2b)を得るために使用した半透膜は、分画分子量1000、平面幅10mm、直径6.4mmのspectrum社製「spectra/por」である。
【0106】
(比較ペプチド)
CADペプチド(1a)製造における変性工程処理後の混合液からろ過分離した液体部を、比較ペプチドの水溶液として得た。この比較ペプチドの分子量を、タカラバイオ社製「Protein Molecular Weight Marker(Low)」を分子量マーカーとし、Sodium Dodecyl Sulfate−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)法により確認した結果、比較ペプチドの分子量範囲は、40000から67000(40kDaから67kDa)であると確認された。
【0107】
上記CADペプチド(1a)、CADペプチド(1b)、CADペプチド(2a)、CADペプチド(2b)又は比較ペプチドを使用し、下記の通り、実施例及び比較例の各毛髪処理剤を調製した。
【0108】
(実施例1)
CADペプチド(1a)の3質量%水溶液を、実施例1の毛髪処理剤として調製した。
【0109】
(比較例1)
比較ペプチドの3質量%水溶液を、比較例1の毛髪処理剤として調製した。
【0110】
実施例1の毛髪処理剤又は比較例1の毛髪処理剤を使用し、後記毛髪処理1に従って毛髪を処理した。また、未処理毛髪と処理後の毛髪について、初期弾性率と破断強度を測定した。
【0111】
(毛髪処理1)
後記の損傷を大きく受けた毛髪を毛髪試料1とし、実施例1又は比較例1の毛髪処理剤に毛髪試料1を10分間浸漬し、水洗後、温風乾燥させた。
【0112】
本毛髪処理1での毛髪試料1は、直毛黒髪を次の通り処理したものである。直毛黒髪を、ブリーチ処理、パーマ処理、カラー処理、洗髪処理、カラー処理、洗髪処理、パーマ処理、カラー処理、洗髪処理、カラー処理、洗髪処理、乾燥処理の手順で処理した。
【0113】
上記ブリーチ処理では、ミルボン社製「プロマティス フレーブ−アド」の第1剤と第2剤を1質量部:2質量部程度の割合で混合し、これを毛髪に塗布した。塗布量は、毛髪質量の2倍とした。塗布後の毛髪をフィルムで覆い、15分経過後にシャンプーで洗い、温風で乾燥させた。
【0114】
上記パーマ処理では、直径12mmのパーマ用ロッドに巻き付けた毛髪を、ミルボン社製「プレジュームC/T」の第1剤に10分間浸漬し、水洗後、「プレジュームC/T」の第2剤に10分間浸漬し、水洗した。その後、毛髪を温風で乾燥させた。
【0115】
上記カラー処理では、ミルボン社製「オルディーブ」の第1剤と第2剤を1質量部:1質量部程度の割合で混合し、これを毛髪に塗布した。塗布量は、毛髪質量の10倍とし、塗布後、10分間放置した。
【0116】
上記洗髪処理では、毛髪に対するシャンプー、トリートメント及び温風乾燥を1サイクルとし、この60サイクルを行った。シャンプーでは、毛髪試料1の5倍質量のシャンプー(ユニリーバ社製「ラックス・スーパーリッチシャイン」)を毛髪に塗布し、3分間放置した後に水洗した。トリートメントでは、毛髪試料1の5倍質量のトリートメント(ユニリーバ社製「ラックス・スーパーリッチシャイン」)を毛髪に塗布し、3分間放置した後に水洗した。
【0117】
(初期弾性率、破断強度)
オリエンテック社製「TENSILON UTM−II−20」を使用し、単位断面積当たりの初期弾性率と破断強度を測定した。測定条件は、測定前に毛髪試料1を水に24時間浸漬、測定時に毛髪試料1を水中浸漬、温度25℃、引張り速度2mm/分、毛髪試料1の引張り間隔20mmとした。
【0118】
次表1に、毛髪処理1に従って処理した毛髪及び未処理毛髪についての初期弾性率と破断強度結果を示す。表1において、「測定平均値」は測定回数5回の平均値であり、「変化率」は未処理毛髪を基準としたものである。
【0119】
【表1】

【0120】
上記表1に示す通り、分子量範囲が1000から3600のCADペプチド(1a)を配合した実施例1は、初期弾性率及び破断強度の変化率が正の値を示しており、分子量範囲が40000から67000の比較ペプチドを配合した比較例1は、初期弾性率の変化率が正の値を示しているものの、破断強度の変化率が負の値を示している。これらのことから、CADペプチドにおいては、分子量範囲が40000未満のものが、大きく損傷を受けた毛髪の破断強度改善に適当であることを確認できる。
【0121】
(実施例2a)
CADペプチド(2a)の5質量%水溶液を、実施例2aの毛髪処理剤として調製した。
【0122】
(実施例2b)
CADペプチド(2b)の5質量%水溶液を、実施例2bの毛髪処理剤として調製した。
【0123】
実施例2aの毛髪処理剤又は実施例2bの毛髪処理剤を使用し、後記毛髪処理2aに従って毛髪を処理した。また、未処理毛髪と処理後の毛髪について、初期弾性率、破断強度及び伸度を測定し、ミクロフィブリル(IF:intermediate filament)間距離についても算出した。
【0124】
(毛髪処理2a)
20代女性から黒髪を採取し、3質量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液に3分間浸漬後、水洗し、水分を拭き取り、乾燥させたものを、毛髪試料2とした。毛髪試料2の1質量部を、以下の還元処理、カチオン処理、実施例2a又は実施例2bの毛髪処理剤による処理、及び酸化処理を続けて行った。還元処理では、1質量部の毛髪試料2を、30質量部の3質量%チオグリコール酸水溶液(モノエタノールアミンでpH9.3に調整したもの)に45℃、10分間の条件で浸漬した後、温水で1分間洗浄し、水分を拭き取った。カチオン処理では、1質量部の毛髪試料2を、30質量部の塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体(ナルコジャパン社製「MERQUAT 550」)0.1質量%水溶液に10分間浸漬した後、毛髪試料2の表面水分を拭き取った。実施例2a又は実施例2bの毛髪処理剤による処理では、1質量部の毛髪試料2を、30質量部の実施例2aの毛髪処理剤又は実施例2bの毛髪処理剤に10分間浸漬した後、毛髪試料2の表面水分を拭き取った。また、酸化処理では、1質量部の毛髪試料2を、30質量部の臭素酸ナトリウム7質量%水溶液(リン酸系緩衝液でpH7.2に調整したもの)に10分間浸漬した後、毛髪試料2を水洗し、水分を拭き取り、乾燥させた。
【0125】
(初期弾性率、破断強度、伸度)
初期弾性率及び破断強度の測定は、上記と同様にして行った。また、伸度については、破断強度の測定と同時に測定した。
【0126】
(IF間距離)
大型放射光施設SPring−8のビームラインBL40XUを使用し、毛髪試料2の軸に垂直にX線マイクロビームを照射し、毛髪試料2外周部から半径方向にステップさせ、約9nm付近の赤道反射強度を相対湿度60%雰囲気で測定し、直接IF間距離を求めた。測定条件の詳細は、次の通りである。
X線波長:0.083nm(E=15keV)
カメラ長:約2000mm
検出器ピクセルサイズ:140.8μm/ピクセル×140.8μm/ピクセル
画像サイズ:1344ピクセル×1024ピクセル
ベヘン酸銀周期:5.838nm(1次)でキャリブレーションを行なった。
ビームサイズ:約5μm
1stピンホール:5μm
2ndピンホール:200μm
ビームストップ:φ8mm
検出器:イメージインテンシファイア
毛髪処理2aの処理後の毛髪の初期弾性率等を表2aに示す。表2aにおいて、「測定平均値」は測定回数10回の平均値であり、「変化率」は未処理毛髪を基準としたものである。また、表2aにおける「未処理」とは、カチオン処理と、実施例2a又は実施例2bの毛髪処理剤による処理を省略したことを意味する。そして、「IF間距離」は、800サンプルの平均値である。
【0127】
【表2a】

【0128】
表2aにおいて、実施例2a及び実施例2b共に、初期弾性率及び破断強度が未処理に比して優れたものであったことを確認できる。また、実施例2aのIF間距離は、未処理のIF間距離よりも長くなっており、毛髪処理後2a後の毛髪内部にはCADペプチド(2a)が沈着していたことが予想される。
【0129】
実施例2a又は実施例2bの毛髪処理剤を使用し、後記毛髪処理2bに従って毛髪を処理した。また、未処理毛髪と処理後の毛髪について、初期弾性率、破断強度及び伸度を測定した。
【0130】
(毛髪処理2b)
毛髪処理2aの還元処理のみが以下の点で異なる以外は毛髪処理2aと同じ処理を、毛髪処理2bとした。毛髪処理2bの還元処理では、3質量%チオグリコール酸水溶液に換えて、チオグリコール酸9質量%及びジチオグリコール酸2質量%を含む水溶液(モノエタノールアミンでpH9.3に調整したもの)を使用した。
【0131】
毛髪処理2bの処理後の毛髪の初期弾性率等を表2bに示す。表2bにおける「測定平均値」、「変化率」、「未処理」は、表2aにおける記載と同じ意味である。
【0132】
【表2b】

【0133】
以下の通り、実施例3及び比較例3のシャンプーを準備し、毛髪処理3に従って毛髪を処理した。
【0134】
(実施例3)
ミルボン社製「ディーセスシャンプーS」にCADペプチド(1a)を2質量%となるように配合したものを、実施例3の毛髪処理剤とした。
【0135】
(比較例3)
ミルボン社製「ディーセスシャンプーS」を、比較例3の毛髪処理剤とした。
【0136】
(毛髪処理3)
実施例3又は比較例3の毛髪処理剤により、毛束をシャンプー処理した。続けて、ミルボン社製「ディーセストリートメントSF」により毛束をトリートメント処理し、毛束を温風乾燥させた。
【0137】
毛髪処理3に従って処理された毛束の感触を、専門の評価者が評価した。評価結果は、比較例3の毛髪処理剤で処理した毛束より、実施例3の毛髪処理剤で処理した毛束の方が滑らかで柔らかいものであった。
【0138】
以下の通り、実施例4a、実施例4b及び比較例4の毛髪処理剤を準備し、毛髪処理4に従って毛髪を処理した。
【0139】
(実施例4a)
CADペプチド(1a)の0.2質量%水溶液を、実施例4aの毛髪処理剤として調製した。
【0140】
(実施例4b)
CADペプチド(1b)の0.2質量%水溶液を、実施例4aの毛髪処理剤として調製した。
【0141】
(比較例4)
比較ペプチドの0.2質量%水溶液を、実施例4aの毛髪処理剤として調製した。
【0142】
(毛髪処理4)
実施例4a若しくは実施例4bの毛髪処理剤、又は比較例4の毛髪処理剤を毛束に噴霧し、毛束を温風乾燥させた。
【0143】
毛髪処理4に従って処理された毛束の感触を、専門の評価者が評価した。評価結果は、比較例4の毛髪処理剤で処理した毛束より、実施例4a及び実施例4bの毛髪処理剤で処理した毛束の方が滑らかで柔らかいものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される単位を有する基を側鎖基として備え、且つ、分子量範囲が40000未満のペプチドを配合したことを特徴とする毛髪処理剤。
−S−S−(CHCOO− (I)
(式(I)中、nは1又は2である。)
【請求項2】
前記ペプチドが、毛髪浸透性を有する請求項1に記載の毛髪処理剤。
【請求項3】
前記側鎖基が、カルボキシメチルジスルフィド基、カルボキシメチルジスルフィド基の塩、カルボキシエチルジスルフィド基及びカルボキシエチルジスルフィド基の塩から選択された一種又は二種以上である請求項1又は請求項2に記載の毛髪処理剤。
【請求項4】
前記ペプチドの分子量範囲が、20000以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の毛髪処理剤。
【請求項5】
ヘアケア剤、パーマ剤、カラーリング剤、ブリーチ剤又はスタイリング剤である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の毛髪処理剤。
【請求項6】
下記式(I)で表される単位を有する基を側鎖基として備え、且つ、分子量範囲が40000未満のペプチドを溶媒に溶解させた毛髪処理剤用原料。
−S−S−(CHCOO− (I)
(式(I)中、nは1又は2である。)


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−144126(P2011−144126A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5356(P2010−5356)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(592255176)株式会社ミルボン (138)
【Fターム(参考)】