説明

気体分離膜およびその製造方法

【課題】 混合気体を効率よく分離するために気体透過性、気体選択性にすぐれた気体分離膜を提供すること。
【解決手段】 DNA組成物を自己支持性膜あるいは他の担体に担持させ、平膜、管状膜、中空糸などの形態で気体分離膜として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二種類以上の気体を含有する混合気体から各気体成分を分離するために用いる、DNA組成物からなる気体分離膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ある気体混合物から特定の気体を分離又は富化することはしばしば必要である。例えば、燃焼用、医療用、廃水処理用などの用途における酸素富化空気の製造、天然ガス中の各種ガスの分離又は回収、石炭熱分解法における混合ガスからの水素の分離などが挙げられる。
【0003】
特に、二種類以上の気体を含む混合気体から各気体成分に分離するための気体分離膜の技術は多くの分野で利用されている。空気中の酸素、窒素の分離、酸素富化、燃焼排ガスから二酸化炭素の分離、天然ガスの精製、半導体製造用ガスの精製などへの利用が一例として挙げられる。
【0004】
気体分離膜のうちで酸素を選択的に透過させる酸素富化膜についての研究は盛んに行われてきた。燃焼にかかわる分野への応用や、人工肺などの医療用分離膜への応用などがその一例である。
【0005】
従来、すでに各種高分子材料からなる膜によるガス分離の試みは多くなされている。しかしながらこれらの高分子材料からなる膜はガス透過率、および選択性において充分ではないことや、気体分離膜として用いたとき受ける機械的応力、使用雰囲気による劣化がおこるなどで実用に供し得なかった。
【0006】
改善策の一例として、特許文献1には、ポリイミド類をはじめとする各種高分子材料で構成された気体分離膜にイオン衝撃を加え改質することが開示されている。本法は技術的に高度な装置であるイオン注入装置を使用するため簡便に気体分離膜を作成できない。特許文献2にはポリビニルピリジンを主成分とする気体透過膜の技術が開示されており、該気体透過膜が選択性にすぐれていることが示されている。しかしながら、該膜は硬く、気体分離膜として使用した場合機械的応力を受けて疲労しやすく、又使用雰囲気中の酸素により劣化を受けやすく透過性能が経時的に劣化する。
【特許文献1】特開2003−062422号公報
【特許文献2】特開昭51−072976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、これまでに採用されたことのない新規な材料を使用することにより、高い気体透過性と高い気体選択性を有する新規な気体分離膜およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはこれらの問題点を解決すべく鋭意研究の結果、DNAが選択的透過性および耐久性にすぐれていることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明にかかる気体分離膜は、DNA組成物を含み構成されることを特徴とする。DNA組成物が、DNAナトリウム塩、DNA−脂質複合体、架橋DNA、電解重合可能なモノマーを、電解質としてDNAを用いて電解重合することで得られたDNAとポリマーとの複合体、導電性高分子とDNA又はDNA−脂質複合体の混合物、の中から選択されるいずれかであると好ましい。
【0010】
また、気体分離膜が酸素富化膜であると好ましい。
【0011】
また、本発明は、該気体分離膜の製造方法をも提供する。
【0012】
すなわち、本発明にかかる気体分離膜の製造方法は、基材にDNA組成物を付与することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
DNA組成物を構成成分とすることにより、優れた気体透過性および気体選択性を有する気体分離膜を提供することができる。さらに抗血栓性などの生体適合性を有するので、人工臓器特に酸素富化膜としての人工心肺への適用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明で使用されるDNAは、その由来はいずれでもよく、特に制約されることはない。例えば、鮭精子由来、牛胸腺由来などの動物から抽出したもの、合成手法によるものなどが挙げられる。本発明で用いられるDNAの分子量としては、通常10万〜1000万、好ましくは10万〜700万、より好ましくは10万〜500万である。
【0016】
本発明で用いられるDNA−脂質複合体は容易に作成できる。一例を挙げれば、鮭精子由来のDNA(10万〜100万)を適当量の水に溶解し、次いでこの溶液に脂質である長鎖アルキル基を有する第四級アンモニウム塩、例えばセチルトリメチルアンモニウムクロリドを一気に加えると、直ちにイオン交換が起こりDNAと脂質の複合体が沈澱する。この沈澱を遠心分離等で単離し、乾燥すればDNA−脂質複合体が得られる。
【0017】
本発明で用いられるDNA−脂質複合体における脂質としては、例えば長鎖アルキル基を有する第四級アンモニウム塩等が挙げられる。本発明で用いられる長鎖アルキル基を有する第四級アンモニウム塩における長鎖アルキル基としては、通常炭素数12から18の直鎖状又は分枝状のアルキル基が挙げられ、このような長鎖アルキル基を有する第四級アンモニウム塩の具体例としては、例えば、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルピリジニウムクロリド、ベンジルジメチルヘキサデシルアンモニウムクロリド、ジメチルピリジニウムヘキサメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0018】
本発明で用いられる架橋DNAの作成法としては以下のような手法が一例として挙げられる。
【0019】
DNAに紫外光照射し光化学変化によりDNA鎖間に架橋を起こさせることができる。
【0020】
さらに詳しくは、DNA鎖中のチミンが紫外線の効果で光二量化反応を生じシクロブタン環が形成され、ラセミ体を溶解している溶媒に不溶なDNA組成物を形成することができる。
【0021】
またトリメチルソラレンなどのソラレン(psoralen)誘導体とDNA中のチミン残基の光付加反応により、溶媒に不溶なDNA組成物を形成することができる。
【0022】
またラジカル発生剤により架橋DNAを形成することも可能である。
【0023】
別の手法としては、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化チタンなどの多価イオンを用いDNAを架橋することが挙げられる。
【0024】
本発明で用いられるDNAとポリマーとの複合体は、電解重合可能なモノマーを、DNAを電解質に用いて電解重合することで得られる。
【0025】
ポリマーとしてはポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンなどが一例として挙げられる。
【0026】
DNAと電解重合可能なモノマーを溶解した水溶液に、金蒸着したメンブレンフィルターを入れて定電流電解重合を行い、メンブレンフィルター上に複合体を形成する方法が一例として挙げられる。
【0027】
本発明で用いられる導電性高分子とDNA又はDNA−脂質複合体の混合物は、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンなどの導電性高分子の溶液とDNA又はDNA−脂質複合体の溶液とを、混合攪拌し均一な溶液とし、これを適宜の方法で膜あるいは粉体とすることにより得られる。
【0028】
本発明における気体分離膜は、DNA組成物それ自体で限外ろ過膜、精密ろ過膜、多孔膜、非対称膜等を形成している状態、基材に物理的、化学的に固着されて膜状に形成されている状態、膜状の基材にDNA組成物が分散配置されている状態、などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
膜は平膜状、管状膜状、中空糸などいかなる形態でも良い。
【0030】
又、膜状基材の構造としては、限外ろ過膜、精密ろ過膜、多孔膜、非対称膜などが挙げられる。
【0031】
また、気体分離膜の製造方法としては、基材にDNA組成物を付与する方法が挙げられる。付与する方法としては、膜状基材に対して上記のようなDNA組成物を含む溶液を塗布した後に乾燥させる方法が好ましいが、これに限らず、DNA組成物を含む溶液中に基材を浸漬させた後、該基材を乾燥させる方法等でもよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)
DNA(日本化学飼料製、分子量460万)20gを、純水1000mlに溶かした。この溶液をメンブレンフィルター(製品名ミリポア ナイロンメンブレンフィルターGNWP025)表面に乾燥厚さ50μmとなるよう塗布した。この膜の気体透過係数を測定した。気体透過測定は加圧−真空法で行った。
気体透過係数 (25℃)
5.1×10−8cm(stp)・cm/cm・sec・cmHg
2.3(上記と同じ)
分離係数 α O/N 2.2
この結果、優れた気体分離膜であることが判った。
【0034】
(実施例2)
DNA−脂質複合体の製法
鮭精子由来の分子量約660万のDNA−Na0.5gを純水100mlに溶解させた。このDNA水溶液中に第四級アンモニウム塩であるヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド10gを純水90mlに溶解したものを攪拌しながら加えた。イオン交換が生じDNAと脂質の複合体が沈澱した。これを遠心分離後乾燥しDNA−脂質複合体を得た。
【0035】
上記DNA−脂質複合体3gをエタノール100mlに溶解した。この溶液を多孔質ポリエチレンフィルム(日東電工サンマップ)上に乾燥時厚さ10μmとなるよう塗布した。
【0036】
この複合膜の気体透過係数を測定した。
気体透過係数 (30℃)
6.5×10−8cm(stp)・cm/cm・sec・cmHg
2.9(上記と同じ)
分離係数 α O/N 2.2
この結果、優れた気体分離膜であることが判った。
【0037】
(実施例3)
DNA−ポリピロール複合膜の製造
鮭精子由来の分子量50万のDNAを2重量%になるように水に溶かし、これにピロールを0.3mol/lになるように加えた。この水溶液を用い、金蒸着したメンブレンフィルター(製品名ミリポアHNWP04700、直径47mm、孔径0.45μm)上に、8mAの定電流で10分間電解重合を行い、DNA−ポリピロール複合膜を作成した。この複合膜の気体透過係数を測定した。
気体透過係数 (30℃)
8.2×10−8cm(stp)・cm/cm・sec・cmHg
3.1(上記と同じ)
分離係数 α O/N 2.6
この結果、優れた気体分離膜であることが判った。
【0038】
(実施例4)
DNA(日本化学飼料製、分子量300万)25gを、純水1000mlに溶かした。この溶液をメンブレンフィルター(製品名ミリポア ナイロンメンブレンフィルターGNWP025)表面に乾燥厚さ50μmとなるよう塗布した。この試料に100W高圧水銀ランプよりの紫外光を距離30cmの位置で15分間照射した。この膜の気体透過係数を測定した。気体透過測定は加圧−真空法で行った。
気体透過係数 (25℃)
7.3×10−8cm(stp)・cm/cm・sec・cmHg
2.3(上記と同じ)
分離係数 α O/N 3.2
この結果、優れた気体分離膜であることが判った。
【0039】
(実施例5)
鮭精子由来DNA(分子量50万)10gを純水190gに溶解した。ソラレン(psoralen)1.86gをエタノール100mlに溶解した。DNA溶液200gに上記ソラレンのエタノール溶液10mlを加えた。充分攪拌後、メンブレンフイルター(ミリポア ナイロンメンブレンフィルターGNWP025)表面に塗布乾燥しフイルムを形成した。これに100W高圧水銀ランプよりの紫外光を距離30cmの位置で10分間照射した。この膜の気体透過係数を測定した。気体透過測定は加圧−真空法で行った。
気体透過係数 (25℃)
6.5×10−8cm(stp)・cm/cm・sec・cmHg
2.7(上記と同じ)
分離係数 α O/N 2.4
この結果、優れた気体分離膜であることが判った。
【0040】
(実施例6)
ポリ(ピロール)1gをN−メチルピロリドン100mlに分散させた。別に、鮭精子由来の分子量50万のDNA1gを純水100mlに溶解させた。このDNA水溶液中に第四級アンモニウム塩であるセチルトリメチルアンモニウムクロリド(脂質)5gを加え攪拌した。イオン交換が生じDNAと脂質の複合体が沈澱した。これを遠心分離後乾燥しDNA−脂質複合体を得た。
【0041】
この沈澱をエタノール100mlに溶解した。得られたDNA−脂質複合体エタノール溶液を、ポリ(ピロール)のN−メチルピロリドン分散液中に攪拌しながら加え、均一な溶液とした。この溶液を多孔質ポリエチレンフィルム(日東電工サンマップ)上に乾燥時厚さ10μとなるよう塗布した。
【0042】
この膜の気体透過係数を測定した。気体透過測定は加圧−真空法で行った。
気体透過係数 (25℃)
3.5×10−8cm(stp)・cm/cm・sec・cmHg
2.2(上記と同じ)
分離係数 α O/N 1.6
この結果、優れた気体分離膜であることが判った。
【0043】
(実施例7)
鮭精子由来の分子量約50万のDNA1gを純水100mlに溶解させた。このDNA水溶液中に第四級アンモニウム塩であるセチルトリメチルアンモニウムクロリド5gを純水95mlに溶解したものを攪拌しながら加えた。イオン交換が生じDNAと脂質の複合体が沈澱した。これを遠心分離後乾燥しDNA−脂質複合体を得た。
【0044】
上記DNA−脂質複合体3gをエタノール100mlに溶解した。この溶液を多孔質ポリエチレンフィルム(日東電工サンマップ)上に乾燥時厚さ10μmとなるよう塗布した。この複合膜の気体透過係数を測定した。
気体透過係数 (30℃)
8.5×10−8cm(stp)・cm/cm・sec・cmHg
NO 1.6(上記と同じ)
分離係数 α O/NO 5.3
この結果、NOについても優れた気体分離膜であることが判った。
【0045】
(実施例8)
鮭精子由来の分子量約200万のDNA1gを純水100mlに溶解させた。このDNA水溶液中に第四級アンモニウム塩であるセチルトリメチルアンモニウムクロリド5gを純水95mlに溶解したものを攪拌しながら加えた。イオン交換が生じDNAと脂質の複合体が沈澱した。これを遠心分離後乾燥しDNA−脂質複合体を得た。
【0046】
上記DNA−脂質複合体3gをエタノール100mlに溶解した。この溶液を多孔質ポリエチレンフィルム(日東電工サンマップ)上に乾燥時厚さ10μmとなるよう塗布した。
この複合膜の気体透過係数を測定した。
気体透過係数 (30℃)
7.2×10−8cm(stp)・cm/cm・sec・cmHg
SO 2.6(上記と同じ)
分離係数 α O/SO 2.8
この結果、SOについても優れた気体分離膜であることが判った。
【0047】
(実施例9)
DNA(日本化学飼料製、分子量550万)20gを、純水1000mlに溶かした。この溶液をメンブレンフィルター(製品名ミリポア ナイロンメンブレンフィルターGNWP025)表面に乾燥厚さ50μmとなるよう塗布した。
【0048】
塩化カルシウムの0.5mol/l水溶液を調製し、これに上記DNA膜を25℃、10分間浸漬した。
乾燥後この膜の気体透過係数を測定した。気体透過係数測定は加圧−真空法で行った。
気体透過係数 (25℃)
6.3×10−8cm(stp)・cm/cm・sec・cmHg
2.9(上記と同じ)
分離係数 α O/N 2.2
であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA組成物を含み構成される気体分離膜。
【請求項2】
DNA組成物が、DNAナトリウム塩、DNA−脂質複合体、架橋DNA、電解重合可能なモノマーを、電解質としてDNAを用いて電解重合することで得られたDNAとポリマーとの複合体、導電性高分子とDNA又はDNA−脂質複合体の混合物の中から選択されるいずれかである請求項1に記載の気体分離膜。
【請求項3】
気体分離膜が酸素富化膜である、請求項1の気体分離膜。
【請求項4】
基材にDNA組成物を付与することを特徴とする気体分離膜の製造方法。

【公開番号】特開2006−35134(P2006−35134A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220384(P2004−220384)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】