説明

気体透過性チューブ及び脱気モジュール

【課題】低流量あるいは低流速においても高脱気性能を有する気体透過性チューブ及び該チューブを備えた脱気モジュールを提供すること。
【解決手段】気体透過性チューブ10は、当該チューブ断面形状が少なくとも1つ以上の凹部11を有する異形に形成されている。これにより、気体透過性チューブの一部に単純な凹みが形成されるのみであるため、従来のようにチューブ全体を偏平させる場合と比べて気体透過性チューブのキンクが起こり難くなる。このため、気体透過性チューブ内部の液体に溶存する気体成分が気体透過性チューブの内壁に到達する距離を従来よりも小さくすることができるので、気体成分が気体透過性チューブの内壁に吸着する機会が増え、低流量あるいは低流速で気体成分の拡散が起き難い場合においても効率良い脱気が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部を流れる液体に溶存する気体成分の透過が可能な気体透過性チューブ及び脱気装置の減圧チャンバ内に収納される脱気モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体分野や分析用途においては、使用される液体に溶存する気体成分が製造の歩留まりや分析結果に悪影響を及ぼすため、脱気装置により気体成分を除去する必要がある。脱気装置は、細管状に成形したチューブの内部に液体を流し、その外部を減圧することによって、上記気体成分を選択的除去するようになっている。すなわち、気体成分がチューブの内壁に吸着し、チューブを透過することにより脱気が達成される。よって、気体成分がチューブの内壁に吸着する機会が多いほど、効率良い脱気が可能となる。
【0003】
しかしながら、例えば低流量あるいは低流速で液体を流す場合には、チューブ内部の液体に溶存する気体成分の拡散が十分ではないため、効率良い脱気が行われ難いという問題があった。この問題に対して特許文献1には、チューブ全体を偏平させることでチューブ断面積/チューブ周長を小さくし、低流量で気体成分の拡散が起き難い場合においても、結果として効率良い脱気が可能であることが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−275229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記技術では、大きな脱気効率を得るためにチューブを過度に偏平させた場合、チューブのキンクが起こり易くなる。このため、得られる脱気効率には限界があり、特に、高精度で脱気された液体を必要とする装置、例えば、半導体ウエハへのフォトレジスト等の塗布装置や現像装置、液晶製造装置等の脱気装置には適用困難となるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記のような種々の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、低流量あるいは低流速においても高脱気性能を有する気体透過性チューブ及び該チューブを備えた脱気モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的達成のため、本発明の気体透過性チューブでは、内部を流れる液体に溶存する気体の透過が可能な気体透過性チューブであって、当該チューブ断面形状が少なくとも1つ以上の凹部を有する異形に形成されていることを特徴としている。
これにより、気体透過性チューブの一部に単純な凹みが形成されるのみであるため、従来のようにチューブ全体を偏平させる場合と比べて気体透過性チューブのキンクが起こり難くなる。このため、気体透過性チューブ内部の液体に溶存する気体成分が気体透過性チューブの内壁に到達する距離を従来よりも小さくすることができるので、気体成分が気体透過性チューブの内壁に吸着する機会が増え、低流量あるいは低流速で気体成分の拡散が起き難い場合においても効率良い脱気が可能となる。特に、前記チューブ断面形状を、2つの対向する凹部を有する亜鈴状に形成することが好ましい。
【0008】
上記目的達成のため、本発明の脱気モジュールでは、脱気装置の減圧チャンバ内に収納される脱気モジュールであって、上記各気体透過性チューブを螺旋状に周回させて構成したことを特徴としている。これにより、低流量あるいは低流速においても高脱気性能を有すると共にコンパクトな脱気装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。尚、以下に説明する実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の成立に必須であるとは限らない。
【0010】
図1は、本発明の気体透過性チューブの実施形態を示す斜視図、図2は、図1の気体透過性チューブと従来のチューブの作用効果を比較説明するための図である。
図1に示すように、気体透過性チューブ10は、チューブ断面形状が凹部11を有する異形となるように形成されている。すなわち、チューブ断面形状が2つの対向する凹部11を有する亜鈴状に形成されている。この気体透過性チューブ10は、脱気装置の減圧チャンバ内に収納されてチューブ内部を流れる液体の脱気用のチューブとして使用される。すなわち、減圧チャンバ内の減圧により液体に溶存している気体成分を内壁に吸着させ該壁を透過させて外部へ除去する。
【0011】
このように、気体透過性チューブ10の一部に単純な凹みが形成されるのみであるため、従来のようにチューブ全体を偏平させる場合と比べて気体透過性チューブ10のキンクが起こり難くなる。このため、偏平チューブのチューブ断面形状である楕円の短径よりもさらに短い内壁間距離を有するチューブ断面形状の気体透過性チューブ10とすることができる。このような気体透過性チューブ10としては、液体に対して不活性であって気体成分の透過性を有する材質、例えばフッ素系の樹脂で形成されている。
【0012】
図2には、本実施形態の気体透過性チューブ10の断面(図示実線)と、従来の偏平チューブ1の断面(図示破線)と、従来の円形チューブ2の断面(図示一点鎖線)を合わせて示す。気体透過性チューブ10の空間部の長径をE、同じく凹部11間の距離をa、同じく凹部11両側の凸部12間の距離をbとし、偏平チューブ1の空間部の長径をE、同じく短径をcとし、円形チューブ2の空間部の直径をDとする。なお、気体透過性チューブ10、偏平チューブ1及び円形チューブ2の外周長は同一としている。
【0013】
各チューブ10,1,2の内部には液体が流れているとして、例えば中心点zに液体に溶存している気体成分が位置しているときを考える。この場合、該気体成分が気体透過性チューブ10の内壁に吸着する最長距離は、気体透過性チューブ10及び偏平チューブ1は共にE/2となり同一であるが、円形チューブ2はD/2となり、E/2>D/2であることから、該気体成分が気体透過性チューブ10及び偏平チューブ1の内壁に吸着する距離E/2が最長となる。一方、該気体成分が気体透過性チューブ10の内壁に吸着する最短距離はa/2、偏平チューブ1の内壁に吸着する最短距離はb/2、円形チューブ2の内壁に吸着する最短距離はD/2となり、a/2<b/2<D/2であることから該気体成分が気体透過性チューブ10の内壁に吸着する距離a/2が最短となる。
【0014】
このように、気体透過性チューブ10のチューブ断面形状が凹部11を有する異形となるように形成することにより、チューブ内部の液体に溶存する気体成分が気体透過性チューブ10の内壁に到達する距離を従来のチューブ1,2よりも小さくすることができ、さらに気体透過性チューブ10の内壁の面積は変わらず断面積は小さくなるので、気体成分が気体透過性チューブ10の内壁に吸着する機会が増えることになる。このため、例えば低流量で液体を流す場合であっても効率良い脱気が可能となる。特に、半導体分野や分析用途において使用される液体に溶存する気体成分を効果的に脱気できるため製造の歩留まりや分析結果を良好なものとすることができる。
【0015】
このような凹部11を有する異形の断面形状の気体透過性チューブ10は、該異形の押出し口を有する押出し成形用金型により熱間押出し成形することができる。また、通常の円形の押出し口を有する押出し成形用金型の先方にローラや爪を配置し凹部を形成しながら、ヒートセット等の工程を経ることにより、円形断面に熱間押出し成形しながら凹部11断面も成形することができる。
【0016】
図3は、本実施形態の気体透過性チューブと、従来の偏平チューブ及び円形チューブを作製して行った脱気性能評価試験装置を示す図、図4は、その脱気性能評価試験結果を示す図である。
ここで、各チューブ10,1,2の材質は、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール共重合体(型番AF1600、デュポン社製)である。まず、比較例として、円形チューブ2を溶融成形(ダイ温度300°C)により内径0.45mm、外径0.60mm、肉厚0.075mmとなるように成形した。次に、他の比較例として、偏平チューブ1を成形する際、上記した円形チューブ2を上下方向から一対のローラで挟んで変形させると共に、この変形チューブを80°C〜160°Cでヒートセットすることにより、変形チューブ両端側に半径0.1mmのRを有する偏平チューブを成形した。次に、本発明の実施例として、気体透過性チューブ10を成形するにあたり、上述した偏平チューブ1を、略その中央部にて、上下方向から少なくとも一つのローラで押圧して偏平チューブ1の中央部にて凹部を形成し、この凹部が形成されたチューブを80°C〜160°Cでヒートセットすることにより、このチューブの両端側に半径0.1mmのRを有する気体透過性チューブ10を成形した。
【0017】
なお、試験に用いた気体透過性チューブ10の長径Eは0.60mm、凹部11間の距離aは0.04mm、凸部12間の距離bは0.17mm、偏平チューブ1の長径Eは0.60mm、短径cは0.25mm、円形チューブ2の直径Dは0.45mmである。
【0018】
上記3種類のチューブ10,1,2を長さ350mmに切断し、両端にコネクタを接続した。そして、チューブ10,1又は2を真空容器21内に設置し、真空容器21内を真空ポンプ22により50Torrまで減圧しながら、バブリング装置23により8.1mg/l(25°C)の飽和溶存酸素量にした水槽24内の精製水を0.2ml/min、0.5ml/min、1.0ml/min、1.5ml/min、2.Oml/minの流速で定量ポンプ25によりチューブ10,1又は2内に流し脱気を行った。そして、脱気後の精製水の溶存酸素量を蛍光式酸素計(型番FO−960、株式会社オートマチックシステムリサーチ社製)26で測定した。
【0019】
この結果、図4に示されるように、精製水内の溶存酸素量を8.1mg/lから2.5mg/lに脱気することができる最大流量は、円形チューブ2では0.5ml/min、偏平チューブ1では0.8ml/minに対し、気体透過性チューブ(異形チューブ)10では1.4ml/minと2倍から3倍に増大した。このことにより、同じ流速で必要とされるチューブ長は円形チューブ2や偏平チューブ1と比べて気体透過性チューブ10では大幅に短くなり、気体透過性チューブ10が適用される脱気装置を小型化させることが可能となる。
【0020】
図5は、本実施形態の気体透過性チューブが適用される脱気装置の概略断面図である。
この脱気装置100は、減圧チャンバ101及び多数本の気体透過性チューブが束ねられて構成される脱気モジュール102を備えている。減圧チャンバ101は、真空引き口103、液体流入口104、液体排出口105を有しており、さらに、脱気モジュール102を液体流入口104、液体排出口105に接続するための袋ナット106、Oリング107が取り付けられている。そして、脱気モジュール102は、減圧チャンバ101内部に螺旋状に周回(コイル形状に巻回)された状態で収納されている。
【0021】
脱気モジュール102は、単位容積当たりの膜面積を広くするために多数本の気体透過性チューブ10の集合体であり、当該集合体の両端部に当たるモジュール端部102aでは、多数本の気体透過性チューブ10を熱溶着によって溶着している。そして、脱気モジュール102は、両端部では溶着されて位置が変更されない態様となっており、その他の部分では自由に移動することが可能な態様となっている。これにより、低流量あるいは低流速においても高脱気性能を有する脱気装置100を構成することができる。
【0022】
以上のように、本実施形態の気体透過性チューブ10によれば、当該チューブの一部に単純な凹みを形成した亜鈴状に形成されているので、従来のようにチューブ全体を偏平させる場合と比べてキンクが起こり難くなり、チューブ内部の液体に溶存する気体成分がチューブ内壁に到達する距離を従来よりも小さくすることができる。このため、気体成分が気体透過性チューブ10の内壁に吸着する機会が増え、低流量あるいは低流速で気体成分の拡散が起き難い場合においても効率良い脱気が可能となる。
【0023】
なお、上述した実施形態では、気体透過性チューブ10のチューブ断面形状が2つの対向する凹部11を有する亜鈴状となるように形成したが、これに限定されるものではなく、少なくとも1つ以上の凹部を有する異形に形成すれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の気体透過性チューブは、脱気された液体を必要とする機器であれば、どのような機器でも適用可能である。例えば、半導体ウエハへのフォトレジスト等の塗布装置や現像装置、液晶製造装置に使用される液体の脱気装置にも適用可能である。特に、高精度の脱気性能を必要とする機器に適用した場合に大きな効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の気体透過性チューブの実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1の気体透過性チューブと従来のチューブの作用効果を比較説明するための図である。
【図3】本実施形態の気体透過性チューブと、従来の偏平チューブ及び円形チューブを作製して行った脱気性能評価試験装置を示す図である。
【図4】脱気性能評価試験結果を示す図である。
【図5】本実施形態の気体透過性チューブが適用される脱気装置の概略断面図である。
【符号の説明】
【0026】
10 気体透過性チューブ、11 凹部、21 真空容器、22 真空ポンプ、23 バブリング装置、24 水槽、25 定量ポンプ、
26 蛍光式酸素計、100 脱気装置、102 脱気モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を流れる液体に溶存する気体成分の透過が可能な気体透過性チューブであって、
当該チューブ断面形状が少なくとも1つ以上の凹部を有する異形に形成されていることを特徴とする気体透過性チューブ。
【請求項2】
前記チューブ断面形状が、2つの対向する凹部を有する亜鈴状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の気体透過性チューブ。
【請求項3】
脱気装置の減圧チャンバ内に収納される脱気モジュールであって、
請求項1又は2に記載の気体透過性チューブを螺旋状に周回させて構成したことを特徴とする脱気モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−195833(P2009−195833A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40547(P2008−40547)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000145530)株式会社潤工社 (71)
【Fターム(参考)】